説明

風香味改善コーヒー豆及びコーヒー生豆の改善方法

【課題】低品質のコーヒー品種を原料としてもレギュラーコーヒーとしての要求品質を満足し、また、高品質種の原料については明確な品質の向上が実感できるように品質改善されたコーヒー豆及びその改善方法を提供する。
【解決手段】コーヒー生豆あるいは加圧処理をした焙煎前のコーヒー豆に、アミノ酸、アミノ酸塩又はその両者の混合物の水溶液を吸収させることにより、該アミノ酸、アミノ酸塩又はその両者の混合物を該コーヒー豆に含有させ、顕著な風香味改善効果を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコーヒーの風味及び香味(以降風香味と称する)が改善される焙煎前のコーヒー豆に関し、さらに風香味の優れるコーヒーを得るためのコーヒー生豆の改善方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コーヒー及び各種コーヒー飲料(以降コーヒー飲料と総称する)は、コーヒーノキから採取されるコーヒー生豆を焙煎及び粉砕し、該粉砕された焙煎豆から熱水(湯)又は水で、いわゆるドリップ等によりコーヒー成分を抽出した飲料及びそれを加工した飲料であり、独特の芳醇な香りと味を有している。これらコーヒー飲料は日本及び世界各地で多くの人に愛飲されている嗜好飲料である。
【0003】
ところで、これらコーヒー飲料の風香味は、原料となるコーヒー生豆(コーヒーノキ)の産地及び品種に大きく影響を受ける。ここでコーヒー生豆とは、コーヒーの果実(コーヒーチェリー)から果肉と内果皮を取り除いた、いわゆる生の状態の(焙煎前の)コーヒー豆のことをいう。なお、以降単に生豆ということもある。コーヒーの品種には、3原種と呼ばれるアラビカ種、ロブスタ種及びリベリカ種があるが、世界で栽培されている約8割がアラビカ種、約2割がロブスタ種である。アラビカ種は風香味に優れる高品質の品種であるが、ロブスタ種は独特の不快な苦味と渋みを有する風香味に劣る品種である。
【0004】
しかし、ロブスタ種は病虫害に強く、また安価であることから、生豆の段階での処理又は焙煎方法の工夫等様々な品質改善が試みられている。又、アラビカ種についてもさらに風香味を向上させるための様々な品質改善が試みられている。例えば、コーヒー生豆を単に水に浸漬させて処理する方法(特許文献1)、コーヒー生豆を加熱と高圧蒸気により処理する方法(特許文献2)、コーヒー生豆に風味調整物質を担持させて焙煎する方法(特許文献3)が報告されている。また、コーヒー生豆を糖溶液に含浸させた後、蒸気で蒸煮し、さらに真空冷却乾燥処理する方法(特許文献4)も報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−9767号公報
【特許文献2】特開平6−303905号公報
【特許文献3】特開2000−50800号公報
【特許文献4】特開2000−342182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来技術はいずれも品質改善効果が不十分であり、ロブスタ種がアラビカ種並みの風香味を有するレベルまでには到達していない。したがって、ロブスタ種が単独でいわゆるレギュラーコーヒーの原料として広く採用されるまでには至っていない。また、アラビカ種の風香味改善についても、それが明確に実感できるレベルまでに到達していない。以上のことから、実効のある風香味改善が望まれているという課題が依然として存在している。
【0007】
そこで、本発明の目的は、低品質のコーヒー品種を原料としてもレギュラーコーヒーとしての要求品質を満足し、また、高品質種の原料については明確な品質の向上が実感できるように品質改善されたコーヒー豆及びその改善方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、コーヒー生豆に特定の飲食可能な有機化合物を吸収させることにより、又は所定の条件下でコーヒー生豆を高圧力の加圧処理を行うことにより顕著な風香味改善効果が得られることを見い出し、本発明を完成した。さらに、より一層優れた風香味改善効果を目指し、本目的を達成するために前記両者を組み合わせるというさらなる発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、コーヒー生豆に、アミノ酸、アミノ酸塩又はその両者の混合物の水溶液を吸収させることにより、該アミノ酸、アミノ酸塩又はその両者の混合物を該コーヒー生豆に含有させた、焙煎前のコーヒー豆が提供される。
【0010】
第2の発明によれば、コーヒー生豆に、アミノ酸、アミノ酸塩又はその両者の混合物、及び糖類の水溶液を吸収させることにより、該アミノ酸、アミノ酸塩又はその両者の混合物、及び糖類を該コーヒー生豆に含有させること、すなわち第1の発明にさらに糖類が含有されることが好適である。
【0011】
第3の発明によれば、コーヒー生豆を真空下に50MPa〜500MPaの加圧処理をした、焙煎前のコーヒー豆が提供される。
【0012】
第4の発明によれば、コーヒー生豆を水に浸漬させて50MPa〜500MPaの加圧処理をした、焙煎前のコーヒー豆が提供される。
【0013】
第5の発明によれば、前記第1の発明又は第2の発明によって、前記所定の処理をした焙煎前のコーヒー豆を、さらに真空下に又は水に浸漬させて50MPa〜500MPaの加圧処理をした、焙煎前のコーヒー豆が提供される。
【0014】
第6の発明によれば、前記第3の発明又は第4の発明によって、前記加圧処理をした焙煎前のコーヒー豆に、アミノ酸、アミノ酸塩又はその両者の混合物の水溶液を吸収させることにより、該アミノ酸、アミノ酸塩又はその両者の混合物を該コーヒー豆に含有させた、焙煎前のコーヒー豆が提供される。
【0015】
第7の発明によれば、前記第3の発明又は第4の発明によって、前記加圧処理をした焙煎前のコーヒー豆に、アミノ酸、アミノ酸塩又はその両者の混合物、及び糖類の水溶液を吸収させることにより、該アミノ酸、アミノ酸塩又はその両者の混合物、及び糖類を該コーヒー豆に含有させた、焙煎前のコーヒー豆が提供される。すなわち第6の発明にさらに糖類が含有されることが好適である。
【0016】
本発明の第8の発明として、前記第1〜第7の発明である焙煎前のコーヒー豆を、焙煎したコーヒー焙煎豆が提供される。該コーヒー焙煎豆は、前記焙煎前のコーヒー豆のいずれを焙煎したものであってもよい。
【0017】
第9の発明によれば、コーヒー生豆に、前記アミノ酸、アミノ酸塩若しくはその両者の混合物の水溶液、又は前記アミノ酸、アミノ酸塩若しくはその両者の混合物及び糖類の水溶液を吸収させる工程と、該吸収後に、該水溶液を吸収させたコーヒー生豆を乾燥させる工程とを有する、コーヒー生豆の改善方法が提供される。
【0018】
第10の発明によれば、コーヒー生豆に、前記アミノ酸、アミノ酸塩若しくはその両者の混合物の水溶液、又は前記アミノ酸、アミノ酸塩若しくはその両者の混合物及び糖類の水溶液を吸収させる工程と、該吸収後に、該水溶液を吸収させたコーヒー生豆を乾燥させる工程と、該乾燥後に、該乾燥後のコーヒー生豆を真空下に、又は水に浸漬させて50MPa〜500MPaの加圧処理をする工程とを有する、コーヒー生豆の改善方法が提供される。
【0019】
第11の発明によれば、コーヒー生豆を真空下に、又は水に浸漬させて50MPa〜500MPaの加圧処理をする工程と、該加圧処理後のコーヒー生豆に、前記アミノ酸、アミノ酸塩若しくはその両者の混合物の水溶液、又は前記アミノ酸、アミノ酸塩若しくはその両者の混合物及び糖類の水溶液を吸収させる工程と、該吸収後に、該水溶液を吸収させたコーヒー生豆を乾燥させる工程とを有する、コーヒー生豆の改善方法が提供される。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ロブスタ種のような低品質のコーヒー品種を原料としてもレギュラーコーヒーとしての要求品質を満足することができ、良好な風香味改善の効果を奏する。また、高品質種の原料についても、明確なさらなる品質の向上が実感できる効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明のコーヒー生豆に加圧処理を施す加圧処理装置の一例の全体概略を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明について、その具体的態様を以下に詳述する。本発明において風香味を改善できるコーヒー品種及び銘柄には特に制限は無く、インドネシア産等のロブスタ種、モカ、ブラジル、キリマンジャロ等のアラビカ種、リベリカ種、あるいはロブスタ種とアラビカ種の交雑種、いずれであっても、良好な風香味改善効果が得られる。風香味改善効果が顕著に感知できる点及び付加価値向上の点で、ロブスタ種が特に好ましい。
【0023】
本発明において、コーヒー生豆に含有させるアミノ酸は、飲食可能なものであれば特に制限は無く、例えばアスパラギン酸、グルタミン酸、リシン、アルギニン、チロシン、スレオニン、及びシステイン等を使用することができる。又、これらのアミノ酸の一部または全部がナトリウム塩等であるアミノ酸塩も好適に使用することができる。なお、以降特に断り無くアミノ酸と称した場合、その一部または全部がアミノ酸塩である場合も含むものとする。
【0024】
本発明において、コーヒー生豆にアミノ酸のみではなく、さらに糖類を含有させるのが好ましい。その理由は、後述のコーヒーの風香味に関係する焙煎時のメイラード反応において、良好な影響を及ぼすと考えられるからである。使用できる糖類としては、特に制限は無く、グルコース、マンノース、ガラクトース、フルクトース等の単糖類、マルトース(麦芽糖)、スクロース(ショ糖)、ラクトース(乳糖)等の二糖類、およびデンプン等の多糖類を使用することができる。コーヒー生豆中への良好な吸収性の点で、単糖類及び二糖類が好ましい。
【0025】
コーヒー生豆に含有させるアミノ酸及び糖類の量は、いずれも生豆1g当たり1mg〜200mgが好ましい。この範囲であれば風香味改善の実感が得られ、含有量過剰による負の影響も認められないからである。この含有させる量は、当然のことながら、原料コーヒー生豆の品種、銘柄及び収穫時期等の違いによる品質の振れに合わせて調整する。
【0026】
アミノ酸又はアミノ酸及び糖類を、これらの水溶液としてコーヒー生豆に吸収させ、該アミノ酸又はアミノ酸及び糖類をコーヒー生豆中に含有させる。その吸収させる方法は、濃度0.01mol/L以上及び1mol/L以下の前記水溶液に浸漬させて吸収させることが好ましい。この範囲の濃度であれば、風香味改善効果に有効な量のアミノ酸量をコーヒー生豆に含有させる点において、コントロールしやすいからである。0.1mol/L以上及び0.5mol/L以下がより好ましい。なお、アミノ酸あるいは糖類の種類によっては、水への飽和溶解度が1mol/L未満の場合もあるが、その場合の上限は当該飽和溶解度濃度でよい。なお、アミノ酸と糖類を含有させるときには、アミノ酸と糖類の混合水溶液を調製し、該混合水溶液を生豆に吸収させてもよく、アミノ酸水溶液と糖類の水溶液を別々に用意して順次吸収させてもよい。工程を簡略できる点で前記混合水溶液を使用することが好ましい。
【0027】
ここで浸漬とは、液体に浸すことを言うが、本発明においてはコーヒー生豆の全てがアミノ酸等の水溶液に完全に浸かっている場合だけでなく、生豆の一部が該水溶液と接触している場合も意味するものとする。なぜなら、単に静置によってアミノ酸水溶液等を吸収させる場合だけでなく、撹拌あるいは振り混ぜ等の生豆と該水溶液の混合操作を行いながら該水溶液を生豆に吸収させてもよいからである。なお、生豆への該水溶液の吸収量は均一であることが望ましいが、処理した生豆全体として風香味が改善されるのであれば不均一であってもよい。したがって、処理した生豆全体として風香味が改善されるのであれば、生豆にアミノ酸等を含有させる方法は、該水溶液への浸漬に限らず、該水溶液を生豆に噴霧あるいは塗布する方法を採用してもよい。
【0028】
効率良くアミノ酸又はアミノ酸及び糖類の水溶液を生豆に吸収させる点においては、やはり該水溶液に生豆を浸漬させることが好ましい。このとき、生豆に含有させたいアミノ酸又はアミノ酸及び糖類の量により、該水溶液の濃度及び吸収量をコントロールする。また、コーヒー生豆に吸収させる前記各水溶液の温度は、凝固点より高くかつ沸点より低ければ特に制限は無いが、実用上の点では10℃以上60℃以下程度が好ましい。経済性の点では、特に加熱処理等を必要としない常温付近の温度が好ましい。なお、該水溶液への生豆の浸漬時間は、コーヒーの品種、アミノ酸等の希望含有量、水溶液濃度及び温度等、上記述べてきた各条件により異なり、10分〜5時間の間で調整される。
【0029】
アミノ酸又はアミノ酸及び糖類の水溶液の生豆への吸収量は、上記の通り各種条件によって異なるが、当然のことながら、生豆が該水溶液を無制限に吸収できるわけではなく、多くても、当該生豆と同量程度までと考えられる。したがって、実用的な条件においては、アミノ酸又はアミノ酸及び糖類の水溶液の吸収後のコーヒー生豆の重量が吸収前のコーヒー生豆の重量の110〜200%となるまで吸収させるのが好ましい。該水溶液吸収後の乾燥時間の点で、150%以下であることがより好ましい。
【0030】
なお、アミノ酸又はアミノ酸及び糖類の水溶液を吸収させた後、特にその他の処理をせず当該処理コーヒー豆を焙煎しても良いが、風香味を最良に引き出すためには、焙煎前に乾燥させることが好ましい。乾燥の程度としては、前記水溶液吸収前のコーヒー生豆の重量の100〜120%まで乾燥させるのがより好ましい。乾燥方法は特に制限がなく、通常水洗後等にコーヒー生豆に施される加熱乾燥、温(熱)風乾燥、あるいは風乾等の自然乾燥、いずれであってもよい。
【0031】
本発明の、コーヒー生豆にアミノ酸又はアミノ酸及び糖類を含有させたコーヒー豆が風香味の良いコーヒー飲料を提供できる顕著な効果を有する理由は、次のように考えられる。コーヒー飲料の独特の芳醇な風香味は、コーヒー生豆を焙煎することにより得られることは周知である。この焙煎で生じる味と香りの成分は、メイラード反応により生成してくる反応生成物によるものと考えられており、その全容については十分には解明されていないが、該反応にはアミノ化合物と糖類が関与していることはほぼ明らかとなっている。したがって、本発明の風香味改善の効果も、その全容は不明であるが、生豆に含有させたアミノ酸等が焙煎時のメイラード反応において、良好な効果を奏するものと考えられる。
【0032】
メイラード反応は非常に多くの素反応からなることが知られており、低品質品種と高品質品種の風香味の差異が、メイラード反応の違いによるものなのか、あるいは低品質品種に含まれるいわゆる不快成分によるものなのか、は明確に解明されているわけではない。おそらくその両者によるものと思われ、本発明の内のアミノ酸又はアミノ酸及び糖類を生豆に含有させる処理は、メイラード反応に関わる化合物を生豆に補充することにより、風香味向上に資するメイラード反応を促進するものと考えられる。したがって、低品質品種のコーヒーのみならず高品質品種のコーヒーについても、風香味の改善に有効であるのではないかと考えられる。
【0033】
コーヒー飲料の風香味改善の本発明のもう一つの発明は、コーヒー生豆へ加圧処理及びそれにより得られる加圧処理コーヒー豆である。この発明は、上記したコーヒー生豆中に含まれる不快成分の除去に着目して完成させたものである。以下に加圧処理の具体的方法について詳述する。
【0034】
まず、コーヒー生豆の適量を外部からの圧力を内部の物質に伝達できる材質の容器又は袋内に入れる。これらの容器又は袋の例として、例えばポリエチレン製又はポリ塩化ビニール性等の、いわゆるポリ袋あるいはビニール袋を挙げることができる。以降ポリ袋を例として説明するが、当該容器又は袋はポリ袋に限られるわけではない。
【0035】
加圧処理の第1の方法では、ポリ袋にコーヒー生豆を封入して、袋内を真空状態にする。すなわち、お茶やコーヒー粉が真空パックされているのと同様な状態である。このようにしてコーヒー生豆を真空パック状態にした後、所定の圧力を付与(加圧)する。当該加圧方法は本発明の所定の圧力を生豆に付与することができれば特に制限は無いが、例えば図1のような方法で加圧する。
【0036】
コーヒー生豆が真空パックされたポリ袋を、図1に示す加圧処理装置1の加圧容器2の中に入れ、圧力媒体としての水を加圧容器2内に充填する。温度制御用の循環水供給装置3から加圧容器2のジャケットに水を循環させて、加圧処理による昇温を制御しながら、加圧器4により50MPa〜500MPaの圧力を付与し、加圧容器2内を当該圧力で保持する。加圧時間は数分から1時間程度で十分である。加圧時の温度は、不快成分の除去の点で0℃より高い温度が好ましく、10℃以上がより好ましい。また、コーヒー生豆の変質が少ない点で60℃以下が好ましく、50℃以下がより好ましい。コーヒー生豆の当該加圧処理後大気圧に戻して加圧処理コーヒー豆を取り出した後は、通常の焙煎工程を実施すればよい。なお、焙煎前に、必要であれば水洗してもよい。
【0037】
加圧処理の第2の方法では、ポリ袋の中に生豆と適量の水を入れた後、ポリ袋内に空気が残らないよう空気を排出してから密封する。生豆と共存させる水の量は、生豆中の不快な苦味及び渋み成分を効率よく当該水中に溶出させる点において、重量として生豆の0.5〜10倍量が好ましい。当該密封後の処理は、上記真空パックの場合と同様である。
なお、加圧処理後、不快成分が溶出されていると考えられる水を除去した後、そのまま焙煎してもよく、又は当該処理コーヒー豆を水洗、乾燥、若しくは水洗及び乾燥処理してから焙煎してもよい。該乾燥は、上記したアミノ酸又はアミノ酸及び糖類の水溶液での処理後の乾燥の場合と同様な方法でよい。
【0038】
当該加圧処理によって風香味が改善される理由は、上記したようにコーヒー生豆中に含まれる不快な苦味及び渋み成分等が生豆中から浸出して除去されるからであると考えられる。しかしながら、該不快成分が溶出されて溶解していると思われる前記加圧処理後の水を分析したが、該不快成分を同定するまでには至らなかった。
【0039】
本発明の別のもう一つの発明は、上記の、アミノ酸又はアミノ酸及び糖類の水溶液をコーヒー生豆に吸収させて、当該成分を生豆中に含有させる処理と加圧処理を組み合わせた方法であり、風香味改善に効果のある成分を含有させることと風香味に有害な不快成分を除去することを組み合わせたものである。したがって、これらの処理の順番については、どちらが先であっても構わない。なお、アミノ酸又はアミノ酸及び糖類を生豆に含有させる処理を先に行った場合において、当該処理後、上記方法により乾燥させてから加圧処理を行ってもよく、乾燥せずに加圧処理を行ってもよい。乾燥せずに加圧処理を行った場合は、加圧処理後に乾燥させることが好ましい。
【0040】
上記した、アミノ酸等の風香味改善成分の含有処理、加圧処理、又はこの両者の処理を施したコーヒー豆についての、焙煎以降の加工工程については、常法に従って処理すればよい。
【0041】
以下、実施例を用いて本発明についてさらに詳しく説明するが、本発明の範囲は本実施例に限られるわけではない。
【実施例1】
【0042】
1.実験例1
(1)グルタミン酸ナトリウム水溶液処理
プラスチック製の蓋付き1Lガラスビンに、ジャワロブスタWIP生豆100g、及び0.2mol/Lグルタミン酸ナトリウム水溶液50mLを入れ、全ての生豆がグルタミン酸ナトリウム水溶液で濡れるまでよく振り混ぜてから静置した。その後、3時間に渡って、10分毎に振り混ぜと静置を繰り返した。その結果、グルタミン酸ナトリウム水溶液のほぼ全量が生豆に吸収されて膨潤し、該生豆の重量は149.9gとなった。その後、室温で65時間風乾し、該生豆重量が107.5gになった時点で、密封して冷暗所に保存した。
【0043】
(2)グルタミン酸ナトリウム含有量測定
前記グルタミン酸ナトリウム水溶液による処理及び風乾後の生豆約10gをコーヒーミルで粉砕し、その1.0gを正確に秤量して10mLの目盛り付き遠沈管に入れ、精製水4mLを加えてよく混和し、さらにボルテックスミキサーでよく撹拌した。次に、該遠沈管を約90℃の温浴に浸し、時々混和しながら30分間静置した。室温まで冷却後、3000rpmで10分間遠心分離して上澄み液500μLを分取し、1.5mLの蓋付きサンプル管に入れた。内部標準物質として11.6mmol/Lに調整したTSP−d重水溶液50μLを該サンプル管に加えてボルテックスミキサーで3秒間撹拌した後、その全量をNMR測定管に入れ、600MHzのNMR装置Avance 600(Bruker Biospin, Rheinstetten, Germany)を用いて、NOESY法でNMRスペクトルを測定した。その結果、グルタミン酸ナトリウム水溶液処理前の生豆では検出されないグルタミン酸ナトリウムが、該処理後の生豆では14.0mg/g(生豆1g当たりグルタミン酸ナトリウム14.0mg)検出され、当該量のグルタミン酸ナトリウムが生豆に含有されたことを示した。
【0044】
(3)風香味改善効果の評価
グルタミン酸ナトリウム水溶液処理前の生豆及び該処理後に風乾して冷暗所保存した処理生豆について、各30gを焙煎してフルシティ焙煎豆として各々約24gを得た。その10gをコーヒーミルで粉砕して熱湯100mLで抽出し、両者の風香味を苦味と香りの点で比較した。評価は、一般人被験者5名による官能評価で行った。未処理の生豆を使用した場合を苦味、香りとも3点として、それより風香味が改善されたと感じる場合は高い点数を、反対に風香味が劣ると感じる場合は低い点数をつけ、1〜5点で評価した。その結果を表1に示す。表1に示した通りほぼ全ての被検者が苦味及び香りが改善されたと評価した。
【0045】
【表1】

【0046】
2.実験例2
(1)グルタミン酸ナトリウム及びショ糖水溶液処理
プラスチック製の蓋付き1Lガラスビンに、ジャワロブスタWIP生豆100g、及びグルタミン酸ナトリウムとショ糖の濃度をそれぞれ0.2mol/Lに調製した、当該化合物の混合物水溶液50mLを入れ、全ての生豆が該混合物水溶液で濡れるまでよく振り混ぜてから静置した。その後、3.5時間に渡って、10分毎に振り混ぜと静置を繰り返した。その結果、該混合物水溶液のほぼ全量が生豆に吸収されて膨潤し、該生豆の重量は150.0gとなった。その後、室温で65時間風乾し、該生豆重量が108.3gになった時点で、密封して冷暗所に保存した。
【0047】
(2)グルタミン酸ナトリウム及びショ糖含有量測定
前記実験例1の場合と同様の方法でNMR測定して、各化合物の含有量を測定した。その結果、未処理生豆では、グルタミン酸ナトリウム0.0mg/g、ショ糖39.5mg/gであったものが、処理生豆では、グルタミン酸ナトリウム10.7mg/g、ショ糖52.8mg/gとなり、それぞれ、10.7mg/g及び13.3mg/gが当該処理によって生豆に含有されたことを示した。
【0048】
(3)風香味改善効果の評価
実験例1と同様にして、処理前後の生豆について風香味を評価した。その結果を表2に示す。表2に示した通りほぼ全ての被検者が苦味及び香りが改善されたと評価した。
【0049】
【表2】

【実施例2】
【0050】
3.実験例3
(1)コーヒー生豆の真空下での加圧処理
ジャワロブスタWIP生豆3gを、市販の密封及び真空引き可能な食品保存用ポリ袋に入れ、ポリ袋内を真空状態にした後ヒートシールして真空パック状態とした。当該真空パック状態としたものを複数個用意した。これらの真空パックポリ袋を図1に示す加圧処理装置1の加圧容器2の中に入れ、圧力媒体としての水を加圧容器2内に充填した。温度制御用の循環水供給装置3から加圧容器2のジャケットに水を循環させて、温度を約23℃に制御しながら、加圧器4により所定の圧力を付与し、加圧容器2内を当該圧力で保持した。付与する圧力条件としては150MPaと500MPaの2条件、及び加圧(圧力付与)時間は10分間と60分間の2条件で、実験した。
【0051】
(2)コーヒー生豆と水の共存下での加圧処理
ジャワロブスタWIP生豆3g及び水9gを食品保存用ポリ袋に入れ、ポリ袋内に空気が残らないよう空気を排出してからヒートシールして密封した。当該処理したものを複数個用意した。これらの密封ポリ袋を上記真空下での加圧処理と同様の方法及び条件で加圧処理した。
【0052】
(3)風香味改善効果の評価
上記真空中での加圧及び水との共存下での加圧処理において、それぞれ、圧力条件2水準、加圧時間2水準、計8サンプルについて風香味改善効果を評価した。さらに、比較実験例として、圧力を付与せず(大気圧下)に、同じ生豆3gを水9gと共存させて60分間23℃で静置したコーヒー豆も同様に評価した。前記加圧及び水との共存処理後、コーヒー豆表面に付着している水分を紙で拭き取り、約1日間自然乾燥させた。自然乾燥後、 該9サンプルを実験例1とほぼ同様の方法で焙煎してフルシティ焙煎豆を得た。各サンプルの焙煎豆各々10gをコーヒーミルで粉砕して熱湯200mLで抽出し、両者の風香味を総合比較した。評価は、一般人被験者8名による官能評価で行った。比較実験例のコーヒー豆を使用した場合の風香味を3点として、それより風香味が改善されたと感じる場合は高い点数を、反対に風香味が劣ると感じる場合は低い点数をつけ、1〜5点で評価した。その結果を表3に示す。表3に示した通りほぼ全ての被検者が、風香味が改善されたと評価した。水共存下での加圧処理ではどちらの圧力条件下であっても、また、真空下では400MPaの圧力条件下で、特に平均点が高かった。なお、加圧時間による差はほとんど認められなかった。
【0053】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0054】
病虫害に強く、また安価でありながら、その品質が劣るためにレギュラーコーヒーとして使用することができず、インスタントコーヒー用あるいは安価なレギュラーコーヒーの増量材としての用途しかなかったロブスタ種を、レギュラーコーヒー用原料として使用することができる。また、同様に低品質のリベリカ種にも適用できる。
【符号の説明】
【0055】
1 加圧処理装置
2 加圧容器
3 循環水供給装置
4 加圧器
5 圧力表示器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーヒー生豆に、アミノ酸、アミノ酸塩又はその両者の混合物の水溶液を吸収させることにより、該アミノ酸、アミノ酸塩又はその両者の混合物を該コーヒー生豆に含有させた、焙煎前のコーヒー豆。
【請求項2】
コーヒー生豆に、アミノ酸、アミノ酸塩又はその両者の混合物、及び糖類の水溶液を吸収させることにより、該アミノ酸、アミノ酸塩又はその両者の混合物、及び糖類を該コーヒー生豆に含有させた、焙煎前のコーヒー豆。
【請求項3】
コーヒー生豆を真空下に50MPa〜500MPaの加圧処理をした、焙煎前のコーヒー豆。
【請求項4】
コーヒー生豆を水と共存させて50MPa〜500MPaの加圧処理をした、焙煎前のコーヒー豆。
【請求項5】
請求項1又は2のいずれかに記載の焙煎前のコーヒー豆を、さらに真空下に又は水と共存させて50MPa〜500MPaの加圧処理をした、焙煎前のコーヒー豆。
【請求項6】
請求項3又は4のいずれかに記載の加圧処理をした焙煎前のコーヒー豆に、アミノ酸、アミノ酸塩又はその両者の混合物の水溶液を吸収させることにより、該アミノ酸、アミノ酸塩又はその両者の混合物を該コーヒー豆に含有させた、焙煎前のコーヒー豆。
【請求項7】
請求項3又は4のいずれかに記載の加圧処理をした焙煎前のコーヒー豆に、アミノ酸、アミノ酸塩又はその両者の混合物、及び糖類の水溶液を吸収させることにより、該アミノ酸、アミノ酸塩又はその両者の混合物、及び糖類を該コーヒー豆に含有させた、焙煎前のコーヒー豆。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の焙煎前のコーヒー豆を焙煎した、コーヒー焙煎豆。
【請求項9】
コーヒー生豆に、前記アミノ酸、アミノ酸塩若しくはその両者の混合物の水溶液、又は前記アミノ酸、アミノ酸塩若しくはその両者の混合物及び糖類の水溶液を吸収させる工程と、
該吸収後に、該水溶液を吸収させたコーヒー生豆を乾燥させる工程とを有する、
コーヒー生豆の改善方法。
【請求項10】
コーヒー生豆に、前記アミノ酸、アミノ酸塩若しくはその両者の混合物の水溶液、又は前記アミノ酸、アミノ酸塩若しくはその両者の混合物及び糖類の水溶液を吸収させる工程と、
該吸収後に、該水溶液を吸収させたコーヒー生豆を乾燥させる工程と、
該乾燥後に、該乾燥後のコーヒー生豆を真空下に、又は水と共存させて50MPa〜500MPaの加圧処理をする工程とを有する、
コーヒー生豆の改善方法。
【請求項11】
コーヒー生豆を真空下に、又は水と共存させて50MPa〜500MPaの加圧処理をする工程と、
該加圧処理後のコーヒー生豆に、前記アミノ酸、アミノ酸塩若しくはその両者の混合物の水溶液、又は前記アミノ酸、アミノ酸塩若しくはその両者の混合物及び糖類の水溶液を吸収させる工程と、
該吸収後に、該水溶液を吸収させたコーヒー生豆を乾燥させる工程とを有する、
コーヒー生豆の改善方法。

【図1】
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