説明

飛しょう体の誘導方法

【課題】従来のセミアクティブ方式、あるいはアクティブ方式の飛しょう体誘導システムでは、地上局からのコマンド誘導で目標近傍まで移動は可能なものの、地上レーダからの送信波が見通し外となり目標からの反射波が得られなくなると、終末誘導ができないという課題があった。本発明では、目標が見通し外エリアに入る場合であっても目標の捕捉、追尾を可能にして、目標への誘導精度を高める誘導方法を提供する。
【解決手段】送信機を搭載した第1の飛しょう体9を発射して高出力かつ太ビーム幅の送信波110で見通し外を捜索し、送信機飛しょう体9が見通し外の目標5を捕捉できた場合に、コマンド誘導用の送受信機能を持つ第2の飛しょう体2の発射を許可する。第2の飛しょう体2は第1の飛しょう体9が取得する目標情報に基づき、見通し外の目標5に向けて誘導される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は飛しょう体の誘導方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
代表的な飛しょう体の誘導方式として(1)アクティブ誘導方式、(2)セミアクティブ誘導方式、(3)コマンド誘導方式が知られている。目標付近までの誘導は(1)〜(3)のいずれの場合も同じであり、地上に設置されレーダを備えた基地局との通信により目標に向けて誘導される。目標に十分接近してからの終末誘導では(1)アクティブ誘導方式は飛しょう体自身の送信波を目標に照射し、その反射波により目標を追尾する、(2)セミアクティブ誘導方式は基地局等の送信波が目標に反射した反射波を用いて目標を追尾する、(3)コマンド誘導方式は基地局等の通信により指定位置に誘導される、という違いがある。
従来、誘導精度を高める方法として、複数の飛しょう体を空間に向けて放射し、放射した飛しょう体間の通信を用いることで誘導精度を高める方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4−208400号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
地上から空間に向けて放射される飛しょう体(以下では、単に、飛しょう体という)の場合は、終末誘導にセミアクティブ方式、あるいはアクティブ方式を用いるものが一般的である。
セミアクティブ方式、あるいはアクティブ方式の誘導方式では基地局が地上にあるため、山等が障害物となって目標への送信波や地上局から飛しょう体への通信を遮ることで目標の探知等ができないエリア、いわゆる見通し外エリアが存在する。この見通し外エリアに目標が入ったときには、飛しょう体から目標への送信波や、基地局と飛しょう体との間の通信が行えなくなり、結果として目標への誘導が行えない、あるいは目標への誘導精度が劣化するという課題があった。
【0005】
この発明は係る課題を解決するためになされたものであり、目標が見通し外エリアに入る場合であっても目標の捕捉、追尾を可能にして、目標への誘導精度を高める誘導方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る飛しょう体の誘導方法は、目標を捕捉、追尾する地上の基地局から送信される電波が届きにくい見通し外エリアを飛しょうする目標を捕捉、追尾可能な第1の飛しょう体が取得する前記目標の位置情報に基づき、第2の飛しょう体を前記目標に向けて誘導する。
【発明の効果】
【0007】
この発明の飛しょう体の誘導方法によれば、見通し外エリアの目標の捕捉、追尾を可能として、見通し外エリアの目標へ誘導可能な誘導方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施の形態1に係るセミアクティブ飛しょう体システムの構成図である。
【図2】実施の形態1に係る送信機飛しょう体の構成図である。
【図3】実施の形態1に係るアクティブ飛しょう体システムの動作フローを説明する図である。
【図4】実施の形態1に係るアクティブ飛しょう体システムの動作フローを説明する図である。
【図5】実施の形態1に係るアクティブ飛しょう体システムの動作フローを説明する図である。
【図6】実施の形態1に係るアクティブ飛しょう体システムの動作フローを説明する図である。
【図7】従来のセミアクティブ誘導方式のシステム構成の一例である。
【図8】従来のアクティブ飛しょう体システムでの見通し外の目標への誘導を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下では、まず図7、図8を用いて従来のセミアクティブ誘導方式、アクティブ誘導方式について説明し、次に、本発明に係る飛しょう体の誘導方式について説明する。
図7は従来のセミアクティブ誘導方式のシステム構成の一例である。図7において、従来のセミアクティブ誘導方式の誘導システムは、基地局4とコマンド誘導が可能な電波を用いるセミアクティブ飛しょう体2とからなる。
基地局4はセミアクティブ飛しょう体発射機1とレーダ3からなる。
レーダ3は、空間に電波を放射し、目標5およびクラッタからの反射波を受信する機能と、セミアクティブ飛しょう体2をコマンド誘導する機能と、セミアクティブ飛しょう体2に基準信号を供給する機能を有する。
図7の例では、セミアクティブ飛しょう体2は基地局4からのコマンド誘導102で目標5近傍まで移動可能なものの、目標5が山などの電波を遮る障害物6の後方のいわゆる見通し外エリアに移動すると、基地局4からの送信波120が目標5に届かなくなった時点で目標5の反射波が得られなくなり、終末誘導が不可能となる。
【0010】
図8は、従来のアクティブ飛しょう体システムでの見通し外の目標への誘導を説明する図である。図8はアクティブ飛しょう体発射機7からアクティブ飛しょう体8が放射される例であり、図7と同一の構成には同一番号を付している。
図8の例では、アクティブ飛しょう体8は基地局4からのコマンド誘導102により目標近傍まで移動するが、目標5が見通し外エリアに移動することで基地局4からのコマンド誘導が不可能になると、自ら目標5に向けて電波122の送信を開始する。
この場合、目標5の予想現在位置に向けて電波122を送信することで目標を捕捉し、追尾できる可能性はある。しかしながらアクティブ飛しょう体8の送信波は、もともと基地局からのコマンド誘導によってビーム内にいる目標5を精度良く追尾するためのものであり、電力密度を上げるために狭ビーム幅となっているため、ビーム内に目標を捕捉できる可能性は低い。アクティブ飛しょう体8自身での目標の捕捉に失敗した場合には、見通し外エリアのため基地局からのコマンド誘導もできず目標5への誘導ができないことになる。
【0011】
実施の形態1.
以下、実施の形態1に係る飛しょう体の誘導方法について、図を用いて説明する。
図1は、実施の形態1に係るセミアクティブ飛しょう体システムの構成図である。
図2は、セミアクティブ飛しょう体システムの一構成である送信機飛しょう体の構成ブロック図である。
図3〜図6は、実施の形態1に係る飛しょう体の誘導方法の動作フローを時系列に分割し、順に示したものである。
なお、図2の送信機飛しょう体のブロック図では、送受信切替部やフロントエンドは太ビームアンテナ部13に含まれるものとし、レドーム等の一般に飛しょう体に要求されるその他構成品については省略している。
【0012】
図1、図2において、送信機飛しょう体9は、レーダ3からの基準信号101を受信、増幅して太ビーム30の電波(送信波)110を放射し、目標5からの反射波111を受信する機能と、レーダ3からのコマンド誘導102に従い飛しょうする機能と、レーダ3とセミアクティブ飛しょう体2の間の基準信号やコマンド誘導を中継する機能を備えた送信機飛しょう体である。
基地局4は、送信機飛しょう体発射機10と、セミアクティブ飛しょう体発射機1と、レーダ3と、判定器11からなる。
送信機飛しょう体9は自らが目標5に誘導されるものではなく、レーダ3からのコマンド誘導102に従って目標5付近を飛しょうするものである。このため信管などは搭載せず、その余剰スペースと余剰質量を用いて送信機や電源部を高出力化している。これにより目標5の捜索に適した太ビームで高電力密度の電波送信が可能となっている。
【0013】
送信機飛しょう体発射機10は、送信機飛しょう体9の発射機である。
判定器11は、レーダ3が目標5を捕捉し、あるいは送信機飛しょう体9が目標5を捕捉しレーダ3から目標捕捉フラグ130を受け取った場合に、セミアクティブ飛しょう体発射機1対してセミアクティブ飛しょう体2の発射許可131を与える判定器である。
誘導装置12は、送信機飛しょう体9に搭載される誘導装置である。
太ビームアンテナ部13は、太ビームの電波(太ビーム30)を放射し、目標5からの反射波を受信する太ビームアンテナ部である。
高出力送信機14は、基準信号を増幅して太ビームアンテナ部13に対して送信波を供給する高出力送信機である。
高出力電源部15は、高出力送信機14に送信用電力を供給する機能及び送信機飛しょう体9の構成品に電力を供給する機能を備えた高出力電源部である。
受信機16は、太ビームアンテナ部13より供給される目標5の反射波を基準信号を用いてビデオ信号にダウンコンバートする受信機である。
信号処理器17は受信機16から供給されるビデオ信号を処理し、目標5の追尾に必要な目標情報を制御装置19に供給する機能及び誘導装置12を制御する機能を備えた信号処理機である。
基準信号送受信装置18は、レーダ3から基準信号を受信し、高出力送信機14と受信機16と信号処理器17に供給すると共に、セミアクティブ飛しょう体2に基準信号を送信する基準信号送受信装置である。
制御装置19は、送信機飛しょう体9を制御し、制御コマンドに従い飛しょうさせ、電波の送受信を行う制御装置である。
コマンド送受信装置20は、レーダ3からのコマンド誘導を受信し制御装置19に供給する機能と、レーダ3に自機情報等を送信する機能と、レーダ3からの誘導コマンドをセミアクティブ飛しょう体2に中継する機能を備えたコマンド送受信装置である。
推進装置21は制御装置19の制御に従って送信機飛しょう体9を加速する推進装置である。
【0014】
次に、実施の形態1に係る飛しょう体の誘導方法の動作について、図3〜図6を用いて説明する。
図3は、飛しょう体を誘導する動作フローを説明する図である。
まず、レーダ3が目標5を捜索し捕捉する。捕捉した際、目標5に誘導可能な状況であればレーダ3は判定器11に対して目標捕捉フラグ105を送信し、判定器11はセミアクティブ飛しょう体2に対して発射許可131を与える。セミアクティブ飛しょう体2は、従来通り、基地局4からのコマンド誘導102に従い、目標5に誘導される。
【0015】
次に、レーダ3が目標5をレーダ3で捜索し捕捉したものの、近々に目標5が障害物6の陰に入る等して見通し外エリアに移動する場合、あるいは目標5が既に見通し外エリアに入ってしまった場合、送信機飛しょう体発射機10は送信機飛しょう体9を発射する。
送信機飛しょう体9は、レーダ3のコマンド誘導102により目標の現在位置に向け飛しょうする。目標5が既に見通し外エリアに入っている場合には、送信機飛しょう体9は予測現在位置に向けて、見通し外にならない航路で飛しょうする。
【0016】
送信機飛しょう体9のレーダレンジに目標の現在位置、あるいは予測現在位置が入った時点で、レーダ3は送信機飛しょう体9に基準信号101を送信開始する。送信機飛しょう体9は基準信号送受信装置18で基準信号101を受信し、基準信号送受信装置18は得られた基準信号を高出力送信機14と受信機16と信号処理器17に供給する。
高出力送信機14は、高出力電源部15から電力供給を受け、送信波を太ビームアンテナ部13に供給する。
太ビームアンテナ部13は、目標5の目標の現在位置あるいは予測現在位置に向かって太ビームの電波110を送信する。
なお、送信開始のトリガーとしては基準信号の受信開始や、レーダ3からのコマンド誘導の信号、またはその他基地局からの信号が挙げられる。
【0017】
送信機飛しょう体9が送信開始し、電波送信の持続時間中に見通し外の目標を捕捉できなかった場合には、送信機飛しょう体9を安全な場所にコマンド誘導して落下させる。
【0018】
送信機飛しょう体9が目標5を捕捉できた場合には、目標5の位置情報をコマンド送受信装置20を通じてレーダ3に送信する。レーダ3は判定器11に目標捕捉フラグ105を送信する。判定器11は発射許可の信号をセミアクティブ飛しょう体発射機1に送信する。
【0019】
次に、図4を用いて飛しょう体誘導の動作フローを説明する。
判定器11から発射許可の信号を受信したセミアクティブ飛しょう体発射機1はセミアクティブ飛しょう体2を発射する。セミアクティブ飛しょう体2はレーダ3のコマンド誘導109に従い、送信機飛しょう体9の捕捉している目標5の位置に向かってレーダ3の見通し外に進入するまで飛しょうする。
飛しょう中のセミアクティブ飛しょう体2はレーダ3からの基準信号108の供給を受け、目標5の反射波があれば受信できる状態とする。
なお、セミアクティブ飛しょう体2は送信機飛しょう体9と比較して十分高速とし、レーダ3の見通し外エリアに進入するまでに送信機飛しょう体9を追い越す形にする。その際、要すれば送信機飛しょう体9は推進装置21の推力を制限し、上記位置関係になるよう推力を制限する。
【0020】
次に、図5を用いて動作フローを説明する。
セミアクティブ飛しょう体2がレーダ3の見通し外エリアに進入し、セミアクティブ飛しょう体2とレーダ3の直接通信ができなくなる時点で、セミアクティブ飛しょう体2はコマンド誘導と基準信号を送信機飛しょう体9のコマンド送受信装置20、基準信号送受信装置18経由に切り替える。
切替えのトリガーとしてはセミアクティブ飛しょう体2とレーダ3の直接通信の途絶やレーダ3からのコマンド誘導の信号、またはその他基地局からの信号が挙げられる。
【0021】
次に、図6を用いて動作フローを説明する。
セミアクティブ飛しょう体2は送信機飛しょう体9に中継されたコマンド誘導107に従い目標5に飛しょうを続け、送信機飛しょう体9が照射する送信波110による目標5の反射波を受信した時点でセミアクティブ方式による終末誘導を開始し、目標5を追尾し誘導される。
なお、セミアクティブ方式による終末誘導は、目標5の反射波を受信できていれば、図4や図5で説明したタイミングで開始しても良い。
ただし、図4で説明したタイミングで終末誘導を開始する場合には、途中で追尾が途切れないように、見通し外エリアに進入する前からコマンド誘導と基準信号を送信機飛しょう体9経由に切り替えておく必要がある。
その場合、セミアクティブ飛しょう体2による目標5の反射波の受信が切替えのトリガーとなる。
【0022】
実施の形態1に係るアクティブ飛しょう体システムは以上のように構成されているので、見通し外エリアの目標5に到達するまでセミアクティブ飛しょう体2との通信を持続して、セミアクティブ飛しょう体2を目標5に誘導することができる。
判定器11を設けず、送信機飛しょう体9とセミアクティブ飛しょう体2を同時発射した場合と比較すると、目標5を捕捉できずに送信機飛しょう体9やセミアクティブ飛しょう体2が共に制御が不能となることがない。また、送信機飛しょう体9には信管等がないため省コストである。
なお、コマンド誘導により送信機飛しょう体9とセミアクティブ飛しょう体2が離間する航路で飛しょうさせた場合にはバイスタティックレーダとして機能するため、ステルス目標の捕捉も期待できる。また目標5に誘導される飛しょう体に、送信機や電源部の送信用部分を省くことができるセミアクティブ飛しょう体を用いることで、マスレシオの向上等による機動性の向上が見込まれ、より高速な目標への対応も期待できる。
【0023】
このように、従来の飛しょう体システムでは不可能であった見通し外エリアでの目標の捕捉や追尾が可能になる。また、目標の捕捉や追尾についても従来のアクティブ飛しょう体を発射した場合よりも高い確率で目標の捕捉、追尾が可能となる。
【符号の説明】
【0024】
1 セミアクティブ飛しょう体発射機、2 セミアクティブ飛しょう体、3 レーダ、4 基地局、5 目標、6 障害物(山等)、7 アクティブ飛しょう体発射機、8 アクティブ飛しょう体、9 送信機飛しょう体、10 送信機飛しょう体発射機、11 判定器、12 誘導装置、13 太ビームアンテナ部、14 高出力送信機、15 高出力電源部、16 受信機、17 信号処理器、18 基準信号送受信装置、19 制御装置、20 コマンド送受信装置、21 推進装置、30 太ビーム、101 基準信号、102 コマンド誘導、103 目標の位置情報、104 基準信号(中継)、105 目標捕捉フラグ 、106 目標の位置情報、107 コマンド誘導(中継)、108 基準信号、109 コマンド誘導、110 送信波、111 反射波、120 基地局の送信波、121 基地局の受信波、122 飛しょう体の送信波、130 目標捕捉フラグ、131 発射許可。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
目標を捕捉、追尾する地上の基地局から送信される電波が届きにくい見通し外エリアを飛しょうする目標を捕捉、追尾可能な第1の飛しょう体が取得する前記目標の位置情報に基づき、第2の飛しょう体を前記目標に向けて誘導することを特徴とする飛しょう体の誘導方法。
【請求項2】
前記第1の飛しょう体は、前記基地局から供給される基準信号を増幅した太ビームの電波を前記見通し外エリアの目標に向けて照射し、前記目標からの反射波により取得した前記目標の位置情報を前記基地局に対して送信し、
前記基地局は前記第1の飛しょう体から前記位置情報を取得すると、前記第2の飛しょう体を発射する発射指令を出力することを特徴とする請求項1記載の飛しょう体の誘導方法。
【請求項3】
前記基地局は前記目標の位置情報に基づき前記第2の飛しょう体を前記目標に誘導するコマンドを生成し、前記コマンドを前記第1の飛しょう体を経由して前記第2の飛しょう体に送信することを特徴とする請求項2記載の飛しょう体の誘導方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−189239(P2012−189239A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−51456(P2011−51456)
【出願日】平成23年3月9日(2011.3.9)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】