説明

飛翔昆虫用捕獲器

【課題】飛翔昆虫用捕獲器の色によって飛翔昆虫の誘引効果を向上させる。
【解決手段】飛翔昆虫用捕獲器1は、下部容器2及び上部容器3内に飛翔昆虫を捕獲する。下部容器2は、黒色に着色されており、上部容器3は、緑色に着色されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飛翔昆虫を捕獲する飛翔昆虫用捕獲器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、ハエ類等の飛翔昆虫を捕獲するための飛翔昆虫用捕獲器の開発が盛んに行われている。このような飛翔昆虫用捕獲器においては、飛翔昆虫を捕獲器へ如何に誘引するかが重要となる。飛翔昆虫の誘引効果を向上させるために、飛翔昆虫の嗅覚に訴求すべく、誘引剤に工夫を施すことがよく行われる。近年、嗅覚による誘引とは別の方法として、捕獲器を構成する容器の色を工夫することも行われている(例えば、特許文献1)。
【0003】
特許文献1に係る飛翔昆虫用捕獲器においては、容器を緑に着色している。これにより、飛翔昆虫の視覚による誘引性が向上することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−153645号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、飛翔昆虫の色選好性については解明されていないことも多い。そのため、視覚による誘引効果については、まだまだ開発途中であり、さらなる改良の余地がある。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、飛翔昆虫用捕獲器の色によって飛翔昆虫の誘引効果を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、飛翔昆虫を捕獲する飛翔昆虫用捕獲器が対象である。そして、飛翔昆虫用捕獲器は、緑色又は青色の部分と黒色の部分とを含む捕獲器本体を備えているものとする。
【0008】
前記の構成によれば、捕獲器本体が緑色や青色や黒色の単色に着色されている場合と比較して、より多くの飛翔昆虫を捕獲器本体まで誘引することができる。
【0009】
また、前記捕獲器本体は、内部への入口が形成された容器であってもよい。
【0010】
さらに、前記入口の周辺部分は、緑色若しくは青色並びに黒色の少なくとも1つに着色されていることが好ましい。
【0011】
前記の構成によれば、容器を緑色又は青色の部分と黒色の部分とを含んで構成することによって容器まで誘引した飛翔昆虫を、さらに容器の入口まで誘引して、飛翔昆虫に入口から容器内への侵入を促すことができる。
【0012】
さらに、前記捕獲器本体は、緑色又は青色の部分と黒色の部分とで形成される境界線を有していることが好ましい。
【0013】
前記捕獲器本体において、緑色又は青色の部分と黒色の部分とが、離れて存在するよりも、互いに隣接して存在する方が、高い誘引効果を発揮することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、捕獲器本体を緑色又は青色の部分と黒色の部分とを含んで構成することによって、飛翔昆虫の誘引効果を飛躍的に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態1に係る飛翔昆虫用捕獲器の斜視図である。
【図2】飛翔昆虫用捕獲器の正面図である。
【図3】飛翔昆虫用捕獲器の平面図である。
【図4】図3のIV−IV線における断面図である。
【図5】図4のV−V線における断面図である。
【図6】変形例に係る飛翔昆虫用捕獲器の斜視図である。
【図7】変形例に係る飛翔昆虫用捕獲器の縦断面図である。
【図8】実施形態2に係る飛翔昆虫用捕獲器の正面図である。
【図9】別の色模様を有する実施形態2に係る飛翔昆虫用捕獲器の正面図である。
【図10】変形例に係る飛翔昆虫用捕獲器の斜視図である。
【図11】試験1の試験条件を示す説明図である。
【図12】キイロショウジョウバエの色選好性を示すグラフである。
【図13】試験2に用いた試験片を示す斜視図である。
【図14】試験片の側面図である。
【図15】試験2の試験条件を示す説明図である。
【図16】試験2の試験結果を示すグラフである。
【図17】試験3の試験結果を示すグラフである。
【図18】試験4の試験結果を示すグラフである。
【図19】試験5の試験結果を示すグラフである。
【図20】試験6の試験結果を示すグラフである。
【図21】試験7の試験結果を示すグラフである。
【図22】試験8に用いた試験片を示す平面図であり、(A)は全面黒色の試験片を、(B)は黒色と緑色とに半々に色分けした試験片を、(C)は黒色の部分と緑色の部分との間に白色の帯状部分が形成された試験片を示す。
【図23】試験8の試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0017】
《発明の実施形態1》
図1に本発明の例示的な実施形態1に係る飛翔昆虫用捕獲器1の斜視図を、図2に飛翔昆虫用捕獲器1の正面図を、図3に飛翔昆虫用捕獲器1の平面図を、図4に図3のIV−IV線における断面図を、図5に図4のV−V線における断面図を示す。
【0018】
飛翔昆虫用捕獲器(以下、単に「捕獲器」ともいう)1は、下部容器2と、該下部容器2に取り付けられる上部容器3とを備えている。これら下部容器2及び上部容器3が容器、即ち、捕獲器本体を構成する。
【0019】
下部容器2は、有底筒状の容器であって、円形の底壁21と、底壁21の周縁に立設する円筒状の内壁22と、内壁22の上端部から下方に向かって広がる円錐台の側周面状の外壁23と、底壁21の中心に立設する円柱状の支柱24とを有している。下部容器2は、内壁22の上端において上方に開口している。外壁23の外周面には、円錐台の母線に沿って延びる複数の縦溝23a,23a,…が周方向に連続的に形成されている。支柱24の先端部には、それ以外の部分と比べて外径が小さくなった縮径部24aが設けられている。下部容器2内には、円環状の薬剤含浸マット25が収容されている。薬剤含浸マット25は、中央の開口に支柱24が層通された状態で底壁21上に載置されている。薬剤含浸マット25は、例えば、不織布であって、誘引剤と殺虫剤とが含浸されている。
【0020】
上部容器3は、概ね円筒状の周壁31と、周壁31の上端縁に連結された上壁32とを有している。上部容器3は、周壁31の下端において下方に開口している。周壁31は、下方に向かって緩やかに広がっている。周壁31の下端縁の内径は、下部容器2の上端縁の外径よりも大きくなっている。上壁32は、すり鉢状又は漏斗状に形成されており、周壁31の上端縁から中央に向かって下方に窪んでいる。上壁32には、互いに間隔を空けて周方向に並んだ複数の上部入口32a,32a,…が貫通形成されている。また、上壁32の中央部32bは、窪みながら下方に向かって延びて、略円筒状に形成されている。この中央部32bの下端を下部容器2の支柱24の縮径部24aに嵌め込むことによって、上部容器3が下部容器2に取り付けられている。
【0021】
上部容器3を下部容器2に取り付けた状態においては、上部容器3の周壁31の下端縁と、下部容器2の外壁23の上端縁との間に隙間が形成されている。この隙間は、下部容器2及び上部容器3の全周に亘って形成されている。この隙間によって下部入口33が構成されている。すなわち、捕獲器1は、上部容器3の上壁32に設けられた上部入口32a,32a,…と、上部容器3の下端縁と下部容器2との間に形成される下部入口33との2種類の入口を有している。つまり、飛翔昆虫は、上部容器3の上壁32に留まった後、上壁32の上部入口32aから捕獲器1内へ侵入するか、あるいは、下部容器2の外壁23に止まった後、該外壁23を這い上がり下部入口33から捕獲器1内へ侵入する。捕獲器1内においては、飛翔昆虫は薬剤含浸マット25に引き寄せられるか、捕獲器1内を飛び回る。これら上部入口32aと下部入口33が入口を構成する。
【0022】
尚、下部入口33の寸法は、捕獲する飛翔昆虫によって異なる。例えば、ハエ類、コバエ類であれば、3mm以上10mm以下が好ましく、ハチ類であれば、10mm以上20mm以下が好ましい。下部入口33をこのような寸法にすることによって、飛翔昆虫が下部容器2の外壁23を這い上がって、下部入口33から捕獲器1内に容易に侵入することができる。一方、捕獲器1内を飛び回る飛翔昆虫にとっては、下部入口33の寸法は、捕獲器1内に飛び出ていくには小さすぎる。つまり、飛翔昆虫によって入りやすくて、出にくい下部入口33とすることができる。
【0023】
このように構成された捕獲器1において、下部容器2が黒色に、上部容器3が緑色に着色されている。ここで、緑とは、マンセルシステムの色相において1GY〜10BGに相当する色を意味する。
【0024】
こうして、捕獲器1を黒色と緑色とに着色することによって、飛翔昆虫の視覚による誘引性を向上させることができる。そもそも、黒色及び緑色はそれぞれ、単色でも高い誘引性を有する。ところが、これらを組み合わせることによって、単色の場合に比べて、誘引性を飛躍的に向上させることができる。
【0025】
また、上部入口32a,32a,…の周辺部分は、緑色に着色されていると共に、下部入口33の周辺部分は、黒色(下部容器2)と緑色(上部容器3)とに着色されている。上部入口32a,32a,…の周辺部分及び下部入口33の周辺部分を、黒色及び緑色の少なくとも1つで着色することによって、捕獲器1に飛来した飛翔昆虫を上部入口32a,32a,…及び下部入口33まで誘引して、捕獲器1内への侵入を促すことができる。すなわち、前述の如く、捕獲器1から離れた位置に存在する飛翔昆虫を、捕獲器1を緑色と黒色とに着色することによって捕獲器1まで誘引し、それに加えて、捕獲器1の入口を黒色及び緑色の少なくとも1つで着色することによって捕獲器1の入口まで、さらに誘引することができる。これにより、捕獲器1の捕獲率をさらに向上させることができる。
【0026】
さらに、捕獲器1は、黒色の部分と緑色の部分とで形成される境界線を有する。この境界線、即ち、黒色と緑色とが切り換わる部分が存在することによって、飛翔昆虫の誘引性をさらに向上させることができる。
【0027】
−変形例−
続いて、捕獲器の変形例について図6,7を参照しながら説明する。図6に変形例に係る飛翔昆虫用捕獲器の斜視図を、図7に変形例に係る飛翔昆虫用捕獲器の縦断面図を示す。
【0028】
変形例に係る捕獲器201は、下部容器202と、該下部容器202に取り付けられる上部容器203とを備えている。これら下部容器202と上部容器203とが容器、即ち、捕獲器本体を構成する。
【0029】
下部容器202は、有底筒状の容器であって、円形の底壁221と、底壁221の周縁に立設する円筒状の周壁222とを有している。下部容器202は、周壁222に上端において上方に開口している。下部容器202の底壁221上には、円盤状の薬剤含浸マット225が載置されている。薬剤含浸マット225は、例えば、不織布であって、誘引剤と殺虫剤とが含浸されている。
【0030】
上部容器203は、平面視円形の蓋状の部材であって、短い円筒状の周壁231と、周壁231の上端縁に連結された上壁232とを有している。上部容器203は、周壁231の下端において下方に開口している。周壁231の下端縁は、下部容器202の周壁222の上端縁に嵌り込むようになっている。つまり、周壁231の下端縁が下部容器202の周壁222の上端縁に嵌り込むことによって、上部容器203が下部容器202に取り付けられる。上壁232の中央には、下部容器202側に陥没する陥没部233が形成されている。陥没部233は、底部233aと、底部233aと上壁232とを連結する周壁部233bと有している。底部233aは、その中央部が高く且つその周縁部が低い略球面形状をしている。また、底部233aには、7つの入口233c,233c,…が貫通形成されている。詳しくは、相対的に大径の1つの入口233cが底部233aの中央に形成され、相対的に小径の6つの入口233c,233c,…が該大径の入口233cを囲むようにして形成されている。周壁部233bには、上部容器203の径方向内側に突出する凸部233dと該径方向外側に陥没する凹部233eとが上部容器203の周方向に交互に形成されている。また、凸部233d及び凹部233eを含む周壁部233bは、上側ほど外側に開くように傾斜している。
【0031】
このように構成された捕獲器201において、下部容器202が緑色に、上部容器203が黒色に着色されている。ここで、緑は、マンセルシステムの色相において1GY〜10BGに相当する色を含む。
【0032】
こうして、捕獲器201を黒色と緑色とに着色することによって、飛翔昆虫の視覚による誘引性を飛躍的に向上させることができる。
【0033】
つまり、捕獲器201から離れた場所にいる飛翔昆虫が、捕獲器201を視認すると黒色と緑色との2色に誘引されて捕獲器201まで飛来してくる。捕獲器201に留まった飛翔昆虫は、薬剤含浸マット225に誘引されて上部容器203の入口233cへと進んでいく。このとき、上部容器203の入口233cの周囲の部分が黒色に着色されているため、捕獲器201に留まった飛翔昆虫を入口233cまでスムーズに誘導することができる。それに加えて、上部容器203の周壁部233bは、上側ほど外側に開くように傾斜しているため、飛翔昆虫が陥没部233に入り込み易くなっている。上部容器203の陥没部233に入り込んだ飛翔昆虫は、その陥没部233内で動き回り、やがて、薬剤含浸マット225により誘引されて入口233cから捕獲器201内に侵入する。捕獲器201内においては、飛翔昆虫は薬剤含浸マット225に引き寄せられるか、捕獲器201内を飛び回る。
【0034】
尚、前記捕獲器1では、下部容器2が黒色に、上部容器3が緑色に着色されているが、これに限られるものではない。同様に、捕獲器201では、下部容器202が緑色に、上部容器203が黒色に着色されているが、これに限られるものではない。すなわち、捕獲器1,201の一部に黒色に着色された部分が存在し、別の一部に緑色に着色された部分があればよい。例えば、下部容器2,202と上部容器3,203とで色分けするものに限られず、下部容器2,202を黒色と緑色とに着色し、上部容器3,203を黒色と緑色とに着色してもよい。つまり、捕獲器1,201を黒色と緑色とに着色する構成においては、別部材に分かれる下部容器2,202と上部容器3,203とをそれぞれ黒色又は緑色の一色で着色することが、製造コストを削減する上で好ましいが、これに限られるものではない。さらには、下部容器2,202が任意の一色又は複数色に着色され、上部容器3,203が黒色と緑色とに着色されていてもよい。このように、捕獲器1,201に黒色の部分と緑色の部分とが含まれる限り、任意の配色パターンを採用することができる。
【0035】
また、黒色の部分と緑色の部分の形状も、任意の形状とすることができる。例えば、黒色又は緑色の部分をストライプ状に形成したり、斑点状に形成してもよい。
【0036】
さらには、捕獲器1,201の緑色に着色された部分は、青色に着色されていてもよい。ここで、青には、マンセルシステムの色相において1BG〜5PBに相当する色を含む。さらには、マンセルシステムの色相において1B〜10Bの範囲の色に着色することが好ましい。つまり、上部容器3は、緑色〜青色(マンセルシステムの色相で表せば、1GY〜5PB(より好ましくは、1GY〜10B))に着色されていればよい。
【0037】
尚、本実施形態では、飛翔昆虫として、昼行性の飛翔昆虫を対象としており、具体的には、ハチ類や、ハエ類(イエバエ、ニクバエ類、キンバエ類等)、コバエ類(ショウジョウバエ類、キノコバエ類、ノミバエ類等)等を含む。
【0038】
《発明の実施形態2》
続いて、本発明の例示的な実施形態2について図8を参照しながら説明する。図8は、実施形態2に係る捕獲器301の正面図である。捕獲器301は、粘着層によって飛翔昆虫を捕獲する点で実施形態1に係る捕獲器1,201と異なる。
【0039】
詳しくは、捕獲器301は、可撓性を有するリボン状の粘着シート302を備えている。この粘着シート302が捕獲器本体を構成する。この捕獲器301は、例えば、温室や工場内において吊り下げた状態で設置される。
【0040】
粘着シート302は、長方形状に形成されている。粘着シート302の長手方向一端には、紐掛け用の補強部材303が設けられている。補強部材303には、粘着シート302の短手方向中央位置に、紐掛け用の貫通孔が形成されている。この貫通孔に紐304が掛けられている。尚、補強部材303は、補強の必要がなければ、省略してもよい。その場合には、粘着シート302に貫通孔が形成され、その貫通孔に紐が掛けられる。
【0041】
粘着シート302の表面及び裏面には、黒と緑との縞模様が描かれている。詳しくは、粘着シート302の表裏面には、黒色の部分305と緑色の部分306とが、粘着シート302の長手方向に対して傾斜したストライプ状に交互に描かれている。また、粘着シート302の表裏面の表層には透明の粘着層が設けられている。
【0042】
このように、捕獲器301を黒色と緑色とに着色することによって、飛翔昆虫の視覚による誘引性を飛躍的に向上させることができる。つまり、捕獲器301から離れた場所に存在する飛翔昆虫が、捕獲器301の粘着シート302を視認すると黒色と緑色との2色に誘引されて捕獲器301まで飛来し、粘着シート302に留まる。粘着シート302の表層には粘着層が設けられているため、飛翔昆虫は粘着層により捕獲される。
【0043】
尚、粘着シート302は、板状の部材であってもよい。また、粘着シート302は、長方形状に限られるものではなく、任意の形状を採用することができる。また、粘着シート302の配色パターン、即ち、色模様は、上記の構成に限られるものではない。例えば、図9に示すように、粘着シート302を、黒地305に緑の水玉模様306を形成してもよい。さらに、粘着シート302は、黒の部分と緑の部分とを含む限り、それ以外の色を含んでいてもよい。
【0044】
−変形例−
次に、実施形態2の変形例について図10を参照しながら説明する。実施形態2の変形例に係る捕獲器401は、吊り下げタイプではなく、載置タイプである点で捕獲器301と異なる。
【0045】
詳しくは、捕獲器401は、板状の粘着シート402を備えている。この粘着シート402が捕獲器本体を構成する。この捕獲器401は、例えば、温室や工場内において、台や床の上に載置される。
【0046】
粘着シート402は、長方形状に形成されている。粘着シート402の表面(載置されたときに上(外方)を向く面)は、長手方向一方側の領域が黒色の部分403で、長手方向他方側の領域が緑色の部分404で構成されている。また、粘着シート402の表面の表層には透明の粘着層が設けられている。
【0047】
このように、捕獲器401を黒色と緑色とに着色することによって、飛翔昆虫の視覚による誘引性を飛躍的に向上させることができる。つまり、捕獲器401から離れた場所に存在する飛翔昆虫が、捕獲器401の粘着シート402を視認すると黒色と緑色との2色に誘引されて捕獲器401まで飛来し、粘着シート402に留まる。粘着シート402の表層には粘着層が設けられているため、飛翔昆虫は粘着層により捕獲される。
【0048】
尚、粘着シート402は、板状ではなく、可撓性を有するリボン状(テープ状)の部材であってもよい。粘着シート402の形状は、長方形状に限られるものではなく、任意の形状に形成することができる。また、粘着シート402の配色パターン、即ち、色模様は、上記の構成に限られるものではない。例えば、図8,9に示す粘着シート302のような配色パターンにしてもよく、任意の配色パターンを採用することができる。さらに、粘着シート402は、黒の部分と緑の部分とを含む限り、それ以外の色を含んでいてもよい。
【0049】
尚、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
<実施例>
続いて、実施例について説明する。
【0050】
−試験1−
まず、飛翔昆虫の色選好性を様々な照度条件下で調査した。詳しくは、図11に示すような、幅3.7m×奥行き3.7m×高さ2.5mの試験室100に高さ70cmの机110を置き、様々な色に着色した試験片4,4,…をその机110の上に設置した。試験室100の一の側壁には2つの窓ガラス120,120が設けられている。試験室100内には、この窓ガラス120,120を介して太陽光が入射している。机110は、窓ガラス120,120が設けられた側壁に寄せて配置されている。試験片4は、透明のプラスチック板と、該プラスチック板に垂直に立てられた10cm×10cmの色画用紙(ニューカラーR(リンテック社製))と、誘引剤を含浸してプラスチック板の上に載置された脱脂綿(図示省略)とで構成されている。青(4NCR−239[10B])、オレンジ(4NCR−213[5YR])、赤(4NCR−317[5R])、黄(4NCR−108[5Y])、緑(4NCR−321[5G])、黒(4NCR−418)の6種類の色画用紙を用いて、6種類の試験片4,4,…を作製した。尚、()内の記号は、ニューカラーRの型番であり、[]内の記号はマンセルシステムの色相を表す。脱脂綿は、1.0gのリンゴ酢(オタフク社製)を誘引剤として含浸しており、平面視で1.5cm×1.5cmの大きさを有する。
【0051】
飛翔昆虫としては、キイロショウジョウバエの成虫を用いた。キイロショウジョウバエは、2008年に広島県廿日市市で採取し、ウンシュウミカンを餌として累代飼育している系統を用いた。飼育及び放飼試験は、25℃条件の室内で行った。
【0052】
試験室100の2箇所から50匹ずつ合計100匹のキイロショウジョウバエを同時に放して、開始30分後に試験片4,4,…上に定着しているキイロショウジョウバエの数(即ち、誘引数)をカウントした。また、このときの試験室100内の照度を測定した。試験中は、照明は点灯せず、自然光のままとした。そして、机110上において、デジタル照度計(LX1102、東京硝子器械社製)を使用して照度を測定した。照度測定は、試験開始直前と開始30分後との2回を行い、その平均値を各試験における照度として算出した。
【0053】
このような試験を複数回行った。試験ごとに、各試験片4の誘引剤を新しいものに取り替えると共に、試験片4,4,…の設置位置をランダムに並び替えた。500ルクスごとに誘引数を合計し、各照度グループ間でPearsonのカイ2乗法を用いて、各色への寄りつき数の同等性の検定を行った。全ての統計解析にはSPSS 11.0 for Windows(SPSS Inc.,Cary,NC,USA)を使用した。
【0054】
その結果(キイロショウジョウバエの寄りつき比)を、図12に示す。各照度下において、有意に差があった(グラフの右側の異なるアルファベットは、有意に差があることを示している)。尚、各グラフの右側の数字のうち、nの値は、試験の回数を示し、分数の分母は試験に供したキイロショウジョウバエの総数を示し、分数の分子は何れかの試験片4に寄りついたキイロショウジョウバエの総数を示す。図12からわかるように、黒は、どの照度条件においても、高い誘引効果を発揮している。特に、高い照度においては、多くのキイロショウジョウバエが誘引されている。また、緑も、どの照度条件においても、或る程度の誘引効果を発揮している。1500ルクス以上においては、ほとんどのキイロショウジョウバエが黒か緑の試験片4,4に寄りついている。オレンジ、黄、赤は、1500ルクス未満の環境下では、或る程度の誘引効果を示すものの、1500ルクス以上の環境下においては、誘引効果をほとんど示さない。青は、1500ルクス未満の環境下で、或る程度の誘引効果を示し、1500ルクス以上2000ルクス未満の環境下でも、少しではあるが、誘引効果を示している。これらを総合すると、黒と緑は、広い照度範囲において、キイロショウジョウバエの誘引効果を発揮するものと考えられる。さらには、青も、オレンジ、黄、赤に比べて、広い照度範囲において、キイロショウジョウバエの誘引効果を発揮するものと考えられる。
【0055】
−試験2−
続いて、誘引効果が高い黒に別の色を組み合わせた場合の飛翔昆虫の誘引効果を調査した。詳しくは、試験室100の机110の上に、図15に示すような、55cm×28cmの白色の障子紙130を載置し、その障子紙130の上に、2つの試験片5a,5b(2つの試験片を区別しないときには、単に「試験片5」と称する。)を載置した。試験片5は、図13,14に示すように、半径5cmの円形の台座51と、台座51の中心を通る位置に立設された、半径5cmの半円の縦壁52と、誘引剤を含浸して台座51上に載置された脱脂綿53とを有している。脱脂綿53は、試験1と同様に、1.0gのリンゴ酢(オタフク社製)を誘引剤として含浸しており、平面視で1.5cm×1.5cmの大きさを有している。試験片5は、試験1と同様の色画用紙で作製した。一方の試験片5aは、黒の色画用紙で作製されたものとし、他方の試験片5bは、緑等の色画用紙で作製されたものを用いた。そして、他方の試験片5bの色のパターンを、種々変えて試験を行った。具体的には、試験片5bとしては、白、黄、赤、青、及び緑の各一色の色画用紙だけで作製したもの、並びに、白、黄、赤、青及び緑の各一色と黒とを組み合わせたものとの計10種類を作製した。白、黄、赤、青及び緑の各一色と黒とを組み合わせた試験片5bは、台座51のうち縦壁52で区切られた一方の半円部分が黒の色画用紙で形成され、他方の半円部分が白、黄、赤、青及び緑の何れかの色画用紙で形成されている。さらに、縦壁52のうち台座51の黒の部分に隣接する面は、黒の色画用紙で形成され、縦壁52のうち台座51の白、黄、赤、青及び緑の何れか一色の部分に隣接する面は、該台座51と同じ色の色画用紙で形成されている。つまり、縦壁52は、黒の色画用紙と、白、黄、赤、青及び緑の何れかの色画用紙とを貼り合わせて形成されている。このように構成された試験片5a,5bを、障子紙130の略中央において、40cmの間隔を空けて載置している。
【0056】
飛翔昆虫としては、試験1と同様のキイロショウジョウバエの成虫を用いた。そして、試験室100の2箇所から50匹ずつ合計100匹のキイロショウジョウバエを同時に放して、開始30分後に試験片5a,5b上に定着しているキイロショウジョウバエの数(即ち、誘引数)をカウントした。また、このときの試験室100内の照度は約2000ルクスで一定とした。照度の測定は、試験1と同様である。
【0057】
このような試験を試験片5aを固定とし、試験片5bの種類を変えて行った。試験ごとに試験片5a,5bの誘引剤を新しいものに取り替えて試験を行った。各試験において、黒の試験片5aに寄りついたキイロショウジョウバエの数を100として、それに対する他方の試験片5bに寄りついたキイロショウジョウバエの数の比率を算出した。試験片5bごとに6回、試験を行い、それらを平均することによって、該試験片5bの誘引数比とした。
【0058】
その結果を図16に示す。図16からわかるように、単色の試験片においては、白、黄、赤、青又は緑に比べて、黒の試験片の方が高い誘引効果を奏することがわかる。
【0059】
そして、黒とそれ以外の色とを組み合わせた試験片においては、黒と白、黒と黄、黒と赤の組み合わせについては、白、黄、赤の単色の試験片の場合に比べて、誘引効果が向上するものの、黒の単色の試験片に比べると、誘引効果は低下している。つまり、黒と、白、黄又は赤とを組み合わせると、黒一色の試験片の誘引効果と、白、黄又は赤一色の試験片の誘引効果との間の誘引効果を発揮することがわかる。
【0060】
それに対して、黒と緑、黒と青の組み合わせについては、緑、青の単色の試験の場合に比べて、誘引効果が向上し、黒一色の試験片に比べても、格段に誘引効果が向上している。つまり、白、黄、赤の結果からすると、黒と緑又は青とを組み合わせると、黒一色の試験片と、緑又は青一色の試験片との間の誘引効果を奏するものと予想される。しかしながら、予想に反し、黒と緑又は青とを組み合わせると、黒一色の試験片の誘引効果を超えて、さらに高い誘引効果を発揮するようになった。
【0061】
−試験3−
続いて、黒と緑、黒と青の組み合わせについて、緑又は青の色相を変化させた場合の、飛翔昆虫の誘引効果を調べた。詳しくは、試験2と同様に、図13,14に示すような試験片5を複数種類作製した。試験片は、黒一色の試験片5aと、緑又は青と黒とを組み合わせた試験片5bとを作製した。試験片5bは、試験片2と同様に台座51の半分を黒で残りの半分を緑又は青で構成すると共に、縦壁52の一方の面を黒で他方の面を緑又は青で構成している。また、試験片5bは、緑又は青の色相が異なる様々な試験片を作製した。具体的には、試験片の半分を、黄(5Y)、黄緑(1GY)、緑(5G)、青緑(10BG)、青(5B)、青(10B)、青紫(10PB)の色画用紙で作製した試験片5bを用意した。尚、括弧内の記号はマンセルシステムの色相を表している。試験片5には、試験2と同様に、1.0gのリンゴ酢(オタフク社製)を含浸させた脱脂綿を載置している。そして、試験2と同様に、試験室100の机110の上に、図15に示すような、55cm×28cmの白色の障子紙130を載置し、その障子紙130の上に、2つの試験片を載置した。一方の試験片を、黒一色で構成された試験片5aで固定し、他方の試験片を、黄(5Y)、黄緑(1GY)、青緑(10BG)、青(5B)、青(10B)、青紫(10PB)の何れか1つと黒とを組み合わせた試験片5bを種々変えて試験を行った。試験ごとに試験片の誘引剤を新しいものに取り替えて試験を行った。
【0062】
飛翔昆虫としては、試験1と同様のキイロショウジョウバエの成虫を用いた。そして、試験室100の2箇所から50匹ずつ合計100匹のキイロショウジョウバエを同時に放して、開始30分後に試験片5a,5b上に定着しているキイロショウジョウバエの数(即ち、誘引数)をカウントした。また、このときの試験室100内の照度は約550ルクスで一定とした。照度の測定は、試験1と同様である。
【0063】
各試験において、黒一色の試験片5aに寄りついたキイロショウジョウバエの数を100として、それに対する他方の試験片5bに寄りついたキイロショウジョウバエの数の比率を算出した。試験片5bごとに6回、試験を行い、それらを平均することによって、該試験片5bの誘引数比とした。
【0064】
その結果を図17に示す。図17では、色相名と共にそれに対応するマンセルシステムの色相を示している。図17からわかるように、5Gや10Bに限られず、1GY(黄緑)、10BG(青緑)又は5B(青)と黒との組み合わせであっても、黒一色の試験片に比べて、高い誘引効果を発揮することがわかる。つまり、1GY〜10BGを含む緑(別の言い方をすれば、緑系)の色又は1B〜10B(好ましくは、5B〜10B)を含む青(別の言い方をすれば、青系)の色と黒色とを組み合わせることによって、飛翔昆虫の誘引効果を飛躍的に向上させることができる。マンセルシステムにおいては、緑と青とは隣接し、色相が連続的に変化している。そのため、緑から青の範囲、即ち、1GY〜10Bの任意の色と黒色とを組み合わせることによって、飛翔昆虫の誘引効果を飛躍的に向上させることができる。
【0065】
−試験4−
そこで、試験片ではなく、捕獲器1を着色して、飛翔昆虫の誘引効果を調べた。詳しくは、上部容器3を黒に着色し、下部容器2を、白、緑(5GY)、オレンジ(5YR)、赤(5R)及び黒のそれぞれに着色した5種類の捕獲器1を用意して、キイロショウジョウバエの誘引試験を行った。()内の記号は、マンセルシステムの色相を表す。薬剤含浸マット25には、18.5gの赤酢(オタフク社製)を含浸させた。試験1と同様の試験室100の机110の上に、2つの捕獲器1,1を載置して試験を行った。一方の捕獲器1は、上部容器3を黒に、下部容器2を白に着色したもので固定し、他方の捕獲器1は、上部容器3を黒に、下部容器2を緑、オレンジ、赤、黒のそれぞれに着色したもので変えて試験を行った。照度は、約2000ルクスとした。照度の測定方法は試験1と同様である。
【0066】
飛翔昆虫としては、試験1と同様のキイロショウジョウバエの成虫を用いた。そして、試験室100の2箇所から50匹ずつ合計100匹のキイロショウジョウバエを同時に放して、開始30分後に捕獲器1,1に捕獲されたキイロショウジョウバエの数(即ち、捕獲数)をカウントした。
【0067】
このような試験を他方の捕獲器の種類を変えて行った。試験ごとに捕獲器1,1の薬剤含浸マット25を新しいものに取り替えて試験を行った。各試験において、黒と白の捕獲器1に捕獲されたキイロショウジョウバエの数を100として、それに対する他方の捕獲器1に捕獲されたキイロショウジョウバエの数の比率を算出した。黒と緑の捕獲器は8回、黒とオレンジの捕獲器は4回、黒と赤の捕獲器は2回、黒と黒の捕獲器は2回、試験を行った。各試験結果を、平均することによって、黒と白の捕獲器に対する各捕獲器の捕獲数比とした。
【0068】
その結果を図18に示す。図18からわかるように、黒と黒の捕獲器、即ち、黒一色の捕獲器よりも捕獲数比が高いのは、黒と緑の捕獲器だけである。このように、試験片ではなく、実際の捕獲器においても、試験片と同様の結果が得られた。
【0069】
−試験5−
次に、捕獲器1の下部容器2と上部容器3との何れを黒又は緑に着色することが好ましいのかを調べた。詳しくは、下部容器2及び上部容器3の両方が黒の捕獲器1と、下部容器2が緑(5GY)で上部容器3が黒の捕獲器1、下部容器2が黒で上部容器3が緑(5GY)の捕獲器1を用意した。()内の記号は、マンセルシステムの色相を表す。薬剤含浸マット25には、18.5gの赤酢(オタフク社製)を含浸させた。試験1と同様の試験室100の机110の上に、2つの捕獲器1,1を載置して試験を行った。一方の捕獲器1は、下部容器2及び上部容器3の両方が黒のもので固定し、他方の捕獲器1は、下部容器2が緑で上部容器3が黒のものと下部容器2が黒で上部容器3が緑のもので変えて試験を行った。照度は、約550ルクスとした。照度の測定方法は試験1と同様である。
【0070】
飛翔昆虫としては、試験1と同様のキイロショウジョウバエの成虫を用いた。そして、試験室100の2箇所から50匹ずつ合計100匹のキイロショウジョウバエを同時に放して、開始30分後に捕獲器1,1に捕獲されたキイロショウジョウバエの数(即ち、捕獲数)をカウントした。
【0071】
このような試験を他方の捕獲器の種類を変えて行った。試験ごとに捕獲器1,1の薬剤含浸マット25を新しいものに取り替えて試験を行った。各試験において、下部容器2及び上部容器3の両方が黒の捕獲器1に捕獲されたキイロショウジョウバエの数を100として、それに対する他方の捕獲器1に捕獲されたキイロショウジョウバエの数の比率を算出した。捕獲器1ごとに8回、試験を行い、それらを平均することによって、下部容器2と上部容器3との両方が黒の捕獲器に対する各捕獲器の捕獲数比とした。
【0072】
その結果を、図19に示す。図19からわかるように、下部容器2と上部容器3との何れを黒に、何れを緑にしても、捕獲数比が変わらないことがわかる。
【0073】
−試験6−
続いて、黒及び緑に着色する部分による誘引効果の違いを調べた。詳しくは、前記捕獲器201を、黒と緑を用いて様々なパターンに着色した。具体的には、黒一色に着色した捕獲器201と、緑(5G)一色に着色した捕獲器201と、縦半分に分割したときの一方の領域を黒に他方の領域を緑(5G)に着色した捕獲器201と、下部容器202を黒に上部容器203を緑(5G)に着色した捕獲器201と、下部容器202を緑(5G)に上部容器203を黒に着色した捕獲器201との5種類の捕獲器201を用意した。()内の記号は、マンセルシステムの色相を表す。薬剤含浸マット225には、18.5gの赤酢(オタフク社製)を含浸させた。試験1と同様の試験室100の四隅の1つに机110を配置し、その机110の上に、2つの捕獲器201,201を載置して試験を行った。一方の捕獲器201は、黒一色で着色した捕獲器201で固定し、他方の捕獲器201は、残りの4種類の捕獲器201で変えて試験を行った。試験ごとに捕獲器201,201の薬剤含浸マット225を新しいものに取り替えて試験を行った。照度は、約550ルクスとした。照度の測定方法は試験1と同様である。
【0074】
飛翔昆虫としては、試験1と同様のキイロショウジョウバエの成虫を用いた。そして、試験室100の、机110を置いた隅とは対角位置の隅から100匹のキイロショウジョウバエを放して、開始30分後に捕獲器201,201に捕獲されたキイロショウジョウバエの数(即ち、捕獲数)をカウントした。
【0075】
各試験において、黒一色の捕獲器201に捕獲されたキイロショウジョウバエの数を100として、それに対する他方の捕獲器201に捕獲されたキイロショウジョウバエの数の比率を算出した。捕獲器201ごとに6回、試験を行い、それらを平均することによって、黒一色の捕獲器に対する各捕獲器の捕獲数比とした。
【0076】
その結果を図20に示す。図20からわかるように、黒と緑とで着色された捕獲器201は、その着色パターンにかかわらず、黒一色の捕獲器201よりも高い誘引効果を示すことがわかる。また、下部容器202と上部容器203とで、どちらを緑に、どちらを黒に着色しても、誘引効果が同程度であることがわかる。上部容器203には入口233c,233c,…が形成されている。つまり、捕獲器201の入口233c,233c,…の周辺部分が緑であっても、黒であっても誘引効果が略同じであることがわかる。さらには、捕獲器201を、黒と緑で上下に色分けするよりも、左右で色分けする方が誘引効果が高いことがわかる。これは、入口233c,233c,…が形成された上部容器203が黒と緑とに着色されているためであると考えられる。つまり、入口233c,233c,…の周辺部分が、黒又は緑一色で着色されているよりも、黒と緑との両方で着色されている方が、飛翔昆虫を入口233c,233c,…まで効果的に誘引することができ、捕獲率を向上させることができるものと考えられる。
【0077】
−試験7−
次に、捕獲器201を黒と緑とそれ以外の第三色とで着色した場合の誘引効果の違いについて調べた。詳しくは、黒一色の捕獲器201と、下部容器202を赤(5R)で着色し、上部容器203の縦半分に分割した一方の領域を黒に他方の領域を緑(5G)に着色した捕獲器201と、下部容器202の縦半分に分割した一方の領域を黒に他方の領域を緑(5G)に着色し、上部容器203を赤(5R)で着色した捕獲器201との3種類の捕獲器201を用意した。()内の記号は、マンセルシステムの色相を表す。薬剤含浸マット225には、18.5gの赤酢(オタフク社製)を含浸させた。試験1と同様の試験室100の四隅の1つに机110を配置し、その机110の上に、2つの捕獲器201,201を載置して試験を行った。一方の捕獲器201は、黒一色で着色した捕獲器201で固定し、他方の捕獲器201は、残りの2種類の捕獲器201で変えて試験を行った。試験ごとに捕獲器201,201の薬剤含浸マット225を新しいものに取り替えて試験を行った。照度は、約550ルクスとした。照度の測定方法は試験1と同様である。
【0078】
飛翔昆虫としては、試験1と同様のキイロショウジョウバエの成虫を用いた。そして、試験室100の、机110を置いた隅とは対角位置の隅から100匹のキイロショウジョウバエを放して、開始30分後に捕獲器201,201に捕獲されたキイロショウジョウバエの数(即ち、捕獲数)をカウントした。
【0079】
各試験において、黒一色の捕獲器201に捕獲されたキイロショウジョウバエの数を100として、それに対する他方の捕獲器201に捕獲されたキイロショウジョウバエの数の比率を算出した。捕獲器201ごとに6回、試験を行い、それらを平均することによって、黒一色の捕獲器に対する各捕獲器の捕獲数比とした。
【0080】
その結果を図21に示す。図21からわかるように、捕獲器201を黒及び緑に加えて、それ以外の第三色で着色した場合であっても、黒一色の捕獲器201に比べて、高い誘引効果を示すことがわかる。ただし、上部容器203を第三色で着色するよりも、上部容器203を黒と緑とで着色する方が誘引効果が高いことがわかる。これは、上部容器203には入口233c,233c,…が形成されており、これら入口233c,233c,…の周辺部分を黒と緑で着色する方が誘引効果が高いためであると考えられる。あるいは、飛翔昆虫は通常、捕獲器201の上方を飛翔しており、これらの飛翔昆虫にとっては、下部容器202よりも上部容器203の方が視認し易い。そのため、上部容器203を黒と緑で着色する方が、飛翔昆虫の誘引効果が向上するものと考えられる。
【0081】
−試験8−
続いて、捕獲器の黒の部分と緑の部分との接近度合いによる誘引効果の違いについて調べた。詳しくは、図22に示すような、半径5cmの円形の試験片6A,6B,6Cを用意した。試験片6Aは、黒色の部分6aだけで構成されている。試験片6Bは、半円形の黒色の部分6aと半円形の緑色(5G)の部分6bとで構成されている。試験片6Cは、半円形の黒色の部分6aと半円形の緑色(5G)の部分6bとで形成され、黒色の部分6aと緑色の部分6bとの境界線に沿って帯状の白色の部分6dが形成されている。尚、()内の記号は、マンセルシステムの色相を表している。つまり、試験片6Bは、黒の部分6aと緑の部分6bとで形成される境界線6cが存在する(即ち、境界線6cを挟んで一方の領域には黒の部分6aが存在し、他方の領域には緑の部分6bが存在する)のに対し、試験片6Cは、黒の部分6aと緑の部分6bとで形成される境界線が存在しない(即ち、黒の部分6aと白の部分6dとで形成される境界線と、緑の部分6bと白の部分6dとで形成される境界線だけが存在する)。さらに、試験片6Cについては、帯状の白の部分6dの幅を1mm、5mm、10mmに変化させた3種類の試験片を用意した。試験片6A,6B,6Cの上には、試験2と同様の、1.0gのリンゴ酢(オタフク社製)を含浸させた脱脂綿を載置した。試験1と同様の試験室100に机110を窓ガラス120,120が設けられた側壁に寄せて配置し、その机110の上に、2つの試験片を載置して試験を行った。一方の試験片は、黒の色画用紙で作製した試験片6Aで固定し、他方の試験片は、残りの4種類の試験片6B,6Cで変えて試験を行った。試験ごとに脱脂綿を新しいものに取り替えて試験を行った。照度は、約550ルクスとした。照度の測定方法は試験1と同様である。
【0082】
飛翔昆虫としては、試験1と同様のキイロショウジョウバエの成虫を用いた。そして、試験室100の2箇所から50匹ずつ合計100匹のキイロショウジョウバエを同時に放して、開始30分後に試験片上に定着しているキイロショウジョウバエの数(即ち、誘引数)をカウントした。
【0083】
各試験において、黒一色の試験片6Aに寄りついたキイロショウジョウバエの数を100として、それに対する他方の試験片6B,6Cに寄りついたキイロショウジョウバエの数の比率を算出した。試験片6B,6Cごとに6回、試験を行い、それらを平均することによって、該試験片6B,6Cの誘引数比とした。
【0084】
その結果を図23に示す。図23からわかるように、帯状の白の部分6dが存在する(即ち、黒の部分6aと緑の部分6bとで形成される境界線が存在しない)試験片であっても、黒と緑で着色されている限り、黒一色の試験片よりは高い誘引効果を示すことがわかる。ただし、帯状の白の部分6dの幅が狭い方が誘引効果が高いことがわかる。そして、黒の部分6aと緑の部分6bとで形成される境界線6cが存在する試験片6Bが最も良好な誘引効果を示すことがわかる。
【0085】
尚、試験2,4の結果から、試験片か捕獲器1かを問わず、同様の結果が出ているため、構成の異なる捕獲器301,401であっても、試験1〜8と同様の結果になると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
以上説明したように、本発明は、飛翔昆虫を捕獲する飛翔昆虫用捕獲器について有用である。
【符号の説明】
【0087】
1,201 飛翔昆虫用捕獲器
2,202 下部容器(容器、捕獲器本体)
3,203 上部容器(容器、捕獲器本体)
32a 上部入口(入口)
33 下部入口(入口)
233c 入口
6a 黒色の部分
6b 緑色の部分
6c 境界線
302,402 粘着シート(捕獲器本体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
飛翔昆虫を捕獲する飛翔昆虫用捕獲器であって、
緑色又は青色の部分と黒色の部分とを含む捕獲器本体を備えた飛翔昆虫用捕獲器。
【請求項2】
請求項1に記載の飛翔昆虫用捕獲器において、
前記捕獲器本体は、内部への入口が形成された容器である飛翔昆虫用捕獲器。
【請求項3】
請求項2に記載の飛翔昆虫用捕獲器において、
前記入口の周辺部分は、緑色若しくは青色並びに黒色の少なくとも1つに着色されている飛翔昆虫用捕獲器。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1つに記載の飛翔昆虫用捕獲器において、
前記捕獲器本体は、緑色又は青色の部分と黒色の部分とで形成される境界線を有している飛翔昆虫用捕獲器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2011−142876(P2011−142876A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−7264(P2010−7264)
【出願日】平成22年1月15日(2010.1.15)
【出願人】(000112853)フマキラー株式会社 (155)
【Fターム(参考)】