説明

食品の内部品質判定方法

【課題】分光学的手法により、青果物を含む食品の内部品質を精度高く検査できる判定方法の提供。
【解決手段】検査対象品である食品の良品と不良品に光を照射したときに得られるその透過分光スペクトルの波形データの傾向の違いを利用し、検査対象品に同じ光を照射したときに得られるその透過分光スペクトルが良品の波形データの傾向を備えているか否かで、良品か不良品かの判定を行う。例えば、波形データが良品については2つのピーク波長が存在する二コブ状になっており、不良品については短波長側のコブが低くなるか無くなっているが、良品については短波長側のコブがある程度の高さで存在していることを利用して、コブの高さの差が一定以下か否かで良品か否かの判定を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は食品の内部品質判定方法に係り、特に食品に光を照射してその透過光を測定することでその食品の内部品質を検査する食品の内部品質判定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、玉ねぎ、ジャガイモ、りんご、梨等の青果物の内部品質は、形状や色合い等の外見や、抜き取ったサンプルを切断して目視検査により判定していた。しかしながら、内部品質の腐れは外見からは判定が困難な場合が多く、また、抜き取り検査された青果物は商品価値がなくなる上、残りの青果物の内部品質は抜き取り検査結果から推定するしかなかった。
そこで、近年、特許文献1のように、分光学的手法を用いて青果物の内部品質を判定する技術が提案されている。
また、引用文献2では、植物の水ストレス等を分光学的手法で測定し、その結果を重回帰分析により解析することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−232742号公報
【特許文献2】特開2009−109363号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記では青果物に着目して内部品質の判定方法の問題を取り上げているが、青果物に限らず、魚、肉等の食品全体についても従来から内部品質を被破壊検査法により精度高く判定できる手法が求められていることは言うまでもない。
本発明は上記従来の問題点に着目してなされたものであり、分光学的手法により、青果物を含む食品の内部品質を精度高く検査できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記目的を達成するためになされたものであり、請求項1の発明は、検査対象品である食品の良品と不良品に光を照射したときに得られるその透過分光スペクトルの波形データの傾向の違いを利用し、検査対象品に同じ光を照射したときに得られるその透過分光スペクトルが良品の波形データの傾向を備えているか否かで、良品か不良品かの判定を行うことを特徴とする食品の内部品質判定方法である。
【0006】
請求項2の発明は、請求項1に記載した食品の内部品質判定方法において、食品として近赤外線を照射したときに得られる波形データが良品については2つのピーク波長が存在する二コブ状になっていることを利用して、短波長側のピーク波長と長波長側のピーク波長の差が一定以下であるか否かで良品か不良品かの判定を行うことを特徴とする食品の内部品質判定方法である。
【0007】
請求項3の発明は、請求項2に記載した食品の内部品質判定方法において、長波長側のピーク波長が一定以下であるものを判定対象から除外することを特徴とする食品の内部品質判定方法である。
【0008】
請求項4の発明は、請求項2または3に記載した食品の内部品質判定方法において、1つの検査対象品に対して複数の波形データを取得し、長波長側のピーク波長の光強度が最大の波形データに合わせて、その余の波形データの光強度の最大値を比例増幅させて補正し、その余の波形データについては補正したものに基づいて判定することを特徴とする食品の内部品質判定方法である。
【0009】
請求項5の発明は、請求項4に記載した食品の内部品質判定方法において、1つの検査対象品について取得された複数の波形データのうち光の回り込みの影響が出たものは判定対象から除外することを特徴とする食品の内部品質判定方法である。
【0010】
請求項6の発明は、請求項2に記載した食品の内部品質判定方法において、検査対象品の良品と不良品について予めサンプリングして、それぞれの波形データについてその特定波長のn点(n≧2)を選択し、その光強度を説明変数とし、人為的な判定結果を目的変数として、重回帰分析により重回帰式を作成し、その重回帰式に検査対象品の波形データのn点を代入して、判定結果を数値的に得ることを特徴とする食品の内部品質判定方法である。
【0011】
請求項7の発明は、請求項6に記載した食品の内部品質判定方法において、対照品について適宜な時間間隔をおいて波形データを取得し、両方の波形データを比較してn点における増加減率を求め、その増加減率を検査対象品の波形データのn点に掛け合わせて補正することを特徴とする食品の内部品質判定方法である。
【0012】
請求項8の発明は、請求項1から7のいずれかに記載した食品の内部品質判定方法において、1つの検査対象品について複数の角度から照射された複数の波形データを取得し、各波形データについて判定することを特徴とする食品の内部品質判定方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の判定方法によれば、分光学的手法により、青果物を含む食品の内部品質を精度高く検査できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】玉ねぎの透過分光スペクトルの波形線図である。
【図2】第1の実施の形態に係る食品の内部品質判定方法における判定基準の説明図である。
【図3】最大値補正前と後の透過分光スペクトルの比較波形データである。
【図4】良品と不良品との透過分光スペクトルの比較波形データである。
【図5】第1の実施の形態の判定方法の実施に利用する検査装置の概略的上面図である。
【図6】本発明の第2の実施の形態に係る判定方法の説明図である。
【図7】図6の判定方法を実施する際に行う補正の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の第1の実施の形態に係る食品の内部品質判定方法について説明する。
食品として、玉ねぎ、ジャガイモ、りんご、梨等の青果物を検査対象品としている。これらの青果物は、良品については、近赤外線を照射した場合に得られる透過分光スペクトルは2つのピーク波長が存在する二コブ状になっている。短波長側のコブ頂部(=光強度の最大値)が長波長側のコブ頂部(=光強度の最大値)より低くなっていることが特徴となっており、不良品の場合には、短波長側の低い方のコブが更に低くなるか無くなっていることが波形の特徴となっている。図1は玉ねぎの場合の一例である。
この実施の形態では、上記した波形の特徴的傾向を抽出して判定する。
【0016】
A.判定に利用する検査装置及び検査方法
本出願人が出願した特願2008−232777号に記載の検査装置1(図5参照)を使用する。この検査装置1では、検知部A,B(発光部3と受光部5)が搬送コンベア7に沿って上流側と下流側の2か所に配置されており、しかも、検査対象品Wは搬送途中で載置姿勢が変えられるようになっている。
1つの検査対象品(=玉ねぎ)について、1つの検知部から時間差をおいて複数回光を照射してその都度波形データを取得すると共に、上流側と下流側のそれぞれの検知部で波形データを取得する。したがって、検査対象品Wに対して相対的に種々の角度から光が照射されることになり、その検査対象品Wを確実に全方位的に検査することになる。
【0017】
次に、上記した検査装置1を利用した検査方法について説明する。
各検知部は適宜な検出センサーからの検査対象品が照射位置まで搬送されてきた情報を受けて開始するが、光のパルス照射は一律に所定の回数だけ行うのではなく、透過率が一定以上に上昇するまで継続するので、例えば玉ねぎが2つ連なって搬送されてきた場合にも、その2つの玉ねぎについて確実に検査されることになる。2つの玉ねぎの間では透過率が上昇するので1つではなく2つの玉ねぎが搬送されてきていることが確実に認識されることになるからである。
検知部はパーソナルコンピュータに接続されており、検知部で取得された波形データは逐次当該コンピュータに送られるようになっている。コンピュータ内では以下の判定方法に基づいて判定を行う。そして、適宜な振り分け手段(図示省略)により、搬送コンベア7の終端で良品か不良品かにより振り分け処理される。
【0018】
B.判定方法
(1)有効波形データの取得
上記のようにして1つの検査対象品について種々の方向から光を照射して複数の波形データを取得する。
先ず、検査対象品に対する光の照射方向によっては光の回り込みが生じて波形の特徴が現われ難くなるので、この部分の照射で得られた波形データは判定対象から除外する。回り込みが生じている場合には透過率が全体として総じて異常に高くなっているので、例えば、短波長域の690nmでの光強度が20000以上の(いずれも設定変更可値)場合には光の回り込みが生じているとして除外する。
【0019】
(2)判定基準への適用(図2)
先ず、上記で除外されずに残った有効波形データについて、短波長側のピーク波長(=コブ頂部)と長波長側のピーク波長(=コブ頂部)をそれぞれのピーク波長が存在すると推定される波長範囲、例えば短波長側では690〜730nm(設定変更可値)、長波長側では790〜830nm(設定変更可値)からピーク波長を探索しておく。
そして、有効波形データについて下記の判定基準にしたがって判定していく。
【0020】
(I)第1基準
長波長側のピーク波長(=コブ頂部)における光強度の最大値(=コブ頂部)hに着目し、その最大値hが30000以上(設定変更可値)の場合にはOK、その他をNGとする。
検査対象品の芯のような厚い部分に光を照射した場合には、透過率が総じて極端に低くなり、波形の特徴は殆ど現われないからである。
【0021】
(II)第2基準
一つの検査対象品について複数の波形データを取得するので、それぞれの波形データの長波長側のピーク波長の光強度の最大値(=コブ頂部)を比較し、その中で最大のものにその余の波形データの最大値を比例増幅させて合わせることにより当該その余の波形データを補正する。補正前と補正後では、図3のように波形データが変わる。
検査対象品は厚みがある部分も薄い部分もあるので、絶対値ではなく補正値を判定基準に採用することとした。
次に、各波形データについて、長波長側のピーク波長(=コブ頂部)の光強度の最大値(b)と短波長側のピーク波長(=コブ頂部)の光波長の最大値(a)との差に着目し、その差(=b−a)が30000以下(設定変更可値)の場合をOK、その他をNGとする。なお、補正していない場合には、h=bである。
これにより、図4に示すように、不良品の場合はかなりの精度でNGと判定されることになる。
【0022】
(3)1つの検査対象品の判定手順
1つの検査対象品から1つの検知部から取得した複数の波形データについて上記の判定基準にしたがって判定してデータを蓄積していく。
【0023】
【表1】

なお、nは、有効取得データ数に応じて、NG品の個数を任意設定する。例えば、有効取得データ数=3〜8のとき、n=2、有効取得データ数=9〜40のとき、n=3とする。
【0024】
そして、1つの検査対象品について2つの検知部(上流側、下流側)にてデータを採取した場合には、以下のように総合判定する。
【表2】

【0025】
上記の判定方法によれば、良品と不良品の波形データの傾向の違いを個別に考慮している。しかも検知部の個体差や経時変化によって波形データが変化しても対応できるようになっている。したがって、良品か不良品かを精度高く判定できる。
【0026】
本発明の第2の実施の形態に係る食品の内部品質検査方法について説明する。
この実施の形態では、青果物だけでなく、肉等の加工品や魚も広く検査対象品としており、これらに近赤外線を照射して得られた透過分光スペクトルの波形データについて、波形データの全体の傾向を重回帰分析を利用して解析して判定する。
【0027】
以下、検査対象品を玉ねぎとした場合を例として説明する。
A.判定に利用する検査装置および検査方法
上記第1の実施の形態と同様にする。
【0028】
B.判定方法
(1)有効波形データの取得
上記第1の実施の形態と同様にする。
(2)重回帰式の作成及び適用
(I)重回帰式の作成
先ず、波形の特徴が現われ易いとされている610〜850nm(設定変更可)の波長範囲において、図6に示すように、検査対象品の透過分光スペクトルの波形データ上の任意の特定波長のn点を選択し、その光強度を説明変数Xとし、判定結果(=腐り度)(0〜100%、70%以下が不良品、人為的に判定)を目的変数Yとする。
そして、検出対象品の良品・不良品の波形データをサンプリングし、重回帰分析を行うことにより、以下の重回帰式を得る。
【数1】

なお、偏回帰係数(a)の決定の際には波形の傾向を考慮することがポイントである。
【0029】
(II)重回帰式への適用
なお、2つの検知部を使う場合には、検知部A、Bどうしの間に光源の設置角度等が微妙に異なることから、1つ目の検知部Aでのサンプリングに基づいて作成した重回帰式をそのまま2つ目の検知部Bで得られた波形データにそのまま適用すると判定精度が下がる恐れがあるが、その一方、検知部毎に重回帰式を作成するのは面倒である。
そこで、均一で個体差の無いもの、例えばプラスチック製ボールを対照品として、その対照品を1つ目の検知部Aを用いて複数の波形データを取得し、その平均の波形データを算出しておく。また、その対照品を2つ目の検知部Bを用い同様にして平均の波形データを算出しておく。そして、図7に示すように、n点のそれぞれの位置における波形データの増加減比率を求める。
【0030】
上記の準備をした上で、検査対象品を搬送コンベア上に流すと、その検査対象品について得られた1つの波形データからn点が抽出され、上記(1)で作成された重回帰式に代入されて、1つの波形データに対して1つの判定結果(数値)が出されることになる。
1つ目の検知部で得られた各波形データのn点の実測値はそのまま(1)で作成された重回帰式に代入して判定結果を出し、2つ目の検知部で得られた各波形データのn点の実測値は増加減比率を掛け合わせて補正した上で同重回帰式に代入して判定結果を出すことになる。
なお、同じ検知部でも経過的に受光部の感度や光源の照度が変化することから、適度な時間間隔をおいて上記と同様に補正をすることが望ましい。
【0031】
(3)1つの検査対象品の判定手順
上記第1の実施の形態と同様に2つの検知部からの判定結果を総合判定する。
但し、判定結果は、NG、OKの代わりに点数になっており、1つの検査対象品について1つでも70点以下(判定基準の70%は設定変更可能値)の波形データが有った場合にはその検査対象品は不良品と総合判定されることになる。
【0032】
以上、本発明の実施の形態について詳述してきたが、具体的構成は、この実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計の変更などがあっても発明に含まれる。
例えば、上記の実施の形態では、玉ねぎの腐り度を判定しているが、特に第2の実施の形態は波形データの傾向を把握して重回帰分析により判定結果を数値化するものであり、酸度や糖度の判定にも利用できるものと期待される。
また、腐りにしても上記の第1の実施の形態では波形データの形状の特徴を抽出することにより不良品と判定できる。
なお、検査対象品や判定対象により照射する光の種類は異なることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の方法によれば、従来より精度高く青果物の腐り度等を光学的手法により判定できるので、選別作業の信頼性を高めることができる。
【符号の説明】
【0034】
1…検査装置 A、B‥検知部
3…発光部 5…受光部
7…搬送コンベア W…検査対象品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象品である食品の良品と不良品に光を照射したときに得られるその透過分光スペクトルの波形データの傾向の違いを利用し、検査対象品に同じ光を照射したときに得られるその透過分光スペクトルが良品の波形データの傾向を備えているか否かで、良品か不良品かの判定を行うことを特徴とする食品の内部品質判定方法。
【請求項2】
請求項1に記載した食品の内部品質判定方法において、
食品として近赤外線を照射したときに得られる波形データが良品については2つのピーク波長が存在する二コブ状になっていることを利用して、短波長側のピーク波長と長波長側のピーク波長の差が一定以下であるか否かで良品か不良品かの判定を行うことを特徴とする食品の内部品質判定方法。
【請求項3】
請求項2に記載した食品の内部品質判定方法において、
長波長側のピーク波長が一定以下であるものを判定対象から除外することを特徴とする食品の内部品質判定方法。
【請求項4】
請求項2または3に記載した食品の内部品質判定方法において、
1つの検査対象品に対して複数の波形データを取得し、
長波長側のピーク波長の光強度が最大の波形データに合わせて、その余の波形データの光強度の最大値を比例増幅させて補正し、その余の波形データについては補正したものに基づいて判定することを特徴とする食品の内部品質判定方法。
【請求項5】
請求項4に記載した食品の内部品質判定方法において、
1つの判定対象品について取得された複数の波形データのうち光の回り込みの影響が出たものは判定対象から除外することを特徴とする食品の内部品質判定方法。
【請求項6】
請求項2に記載した食品の内部品質判定方法において、
検査対象品の良品と不良品について予めサンプリングして、それぞれの波形データについてその特定波長のn点(n≧2)を選択し、その光強度を説明変数とし、人為的な判定結果を目的変数として、重回帰分析により重回帰式を作成し、その重回帰式に検査対象品の波形データのn点を代入して、判定結果を数値的に得ることを特徴とする食品の内部品質判定方法。
【請求項7】
請求項6に記載した食品の内部品質判定方法において、
対照品について適宜な時間間隔をおいて波形データを取得し、両方の波形データを比較してn点における増加減率を求め、その増加減率を検査対象品の波形データのn点に掛け合わせて補正することを特徴とする食品の内部品質判定方法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載した食品の内部品質判定方法において、
1つの検査対象品について複数の角度から照射された複数の波形データを取得し、各波形データについて判定することを特徴とする食品の内部品質判定方法。

【図2】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図1】
image rotate

【図3】
image rotate