説明

食品品質検査試薬、食品品質の検査方法及び食品品質検査キット

【課題】 本発明は、食品工場や食品倉庫等でも迅速・簡便に食品の熟成度や初期腐敗度等の食品の品質を検査するための、食品品質検査試薬、食品品質の検査方法及び食品品質検査キットの提供を課題とする。
【解決手段】 食品中に含有されるタンパク質分解酵素及び/又はペプチド分解酵素と反応することにより蛍光強度、紫外線吸光度又は呈色強度が変化する標識基が結合されたペプチド、ペプチド誘導体又は前記標識基が結合されたアミノ酸誘導体を含有することを特徴とする食品品質検査試薬を用いて蛍光強度の変化をモニターすることによる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品の熟成度や初期腐敗度等、食品の品質を迅速・簡便に検査するための食品品質検査試薬、食品品質の検査方法及び食品品質検査キットに関する。
【背景技術】
【0002】
嗜好の多様化により食品分野においては旨みを高めた食品の提供が求められており、近年、食品の旨みを定量化する方法が研究されている。
【0003】
例えば、食肉分野においては、食肉の熟成による旨みの増加についての研究が進められている。従来から食肉は、解体後数日間経過したものが肉の熟成が進み、旨みが増すため食べ頃であると知られており、食肉工場では、数日間冷蔵保存した後に出荷されている。
【0004】
食肉の熟成度の判断については経験によるところが多く、食肉毎に食べ頃を確認して出荷することは行なわれていない。また、食肉の熟成度を肉の破断強度又はアミノ酸の含有量で判断することは可能ではあるが、装置コストが高かったり、測定時間が長すぎることから現実にはそのような検査をすることは困難であった。
【0005】
食肉の熟成、発酵、初期腐敗に関しては、各種酵素が関与していることが知られており、例えば、非特許文献1及び非特許文献2には食肉の熟成過程においては、カルパイン、カテプシン等複数種の食肉内在性タンパク質分解酵素が働くことにより、旨みに関係するペプチド、アミノ酸が生成することが報告されている。
【0006】
しかしながら、非特許文献1及び非特許文献2に開示された技術のように、旨みに関係するペプチド、アミノ酸を定量するためには液体クロマトグラフィーが用いられているが、測定装置が高価であり、また、測定時間もかかるため、食品工場や食品倉庫において迅速・簡便に検査するには適当ではなかった。そのため、食品工場等においても、食品の熟成度を容易に検査する方法が求められている。
【0007】
一方、近年、食品に関する問題が多発し、食品に対する安全性についての関心が高まっている。従って、初期腐敗による事故を防止する等の対策が求められている。現在、出荷時には、衛生管理、温度管理等は行なわれているが、さらに、安全性を高めるべく、食品の品質を個別に簡易にモニターする方法が求められている。
【0008】
新鮮さの判定も外観や臭いなどの官能的方法や経験によるところが多い。一般に、食肉の生菌数が1×10cfu/g以上であれば初期腐敗、1×107cfu/g以上であれば食用不適(腐敗)とみなされているが、生菌数の測定結果が得られるには最低48時間必要であり、迅速に判定するための方法が求められている。そこで、食肉が初期腐敗していく過程において生成するプトレシン,カダベリン等のポリアミンを食肉の鮮度判定指標として高速液体クロマトグラフィーを用いて定量する方法や固定化ポリアミンオキシダーゼと酸素電極や過酸化水素電極を組み合わせたセンサーが提案されている(特許文献1)。
【0009】
しかし、食品の熟成が完了していることを簡易に判定すると共に初期腐敗に至っていないことを簡易に判定する、即ち食品の品質、より詳細には、食品の食用適期を簡易に判定する手段は開発されていなかった。また、食品の熟成と初期腐敗を同時に判定する手段も開発されていなかった。
【特許文献1】特開平09−059176号公報
【非特許文献1】T. Nishimura: Food Sci. Technol. Int. Tokyo, 4 (4), 241-249 (1998)
【非特許文献2】西村 敏英: 栄養と健康のライフサイエンス, 3(2)778-788(1998)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、前記背景技術に鑑みて、食品工場や食品倉庫等においても食品の熟成度や初期腐敗度等の食品の品質を迅速・簡便に検査することができる食品品質検査試薬、食品品質の検査方法及び食品品質検査キットの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、食品中に含有されるタンパク質分解酵素及び/又はペプチド分解酵素(以下タンパク質分解酵素等ともいう)と反応することにより蛍光強度、紫外線吸光度又は呈色強度が変化するペプチド、ペプチド誘導体又はアミノ酸誘導体を含有することを特徴とする食品品質検査試薬と食品等とを反応させることにより食品の品質を迅速・簡便に検査する方法を見出した。
【0012】
すなわち、請求項1の発明は食品中に含有されるタンパク質分解酵素等と反応することにより蛍光強度、紫外線吸光度又は呈色強度が変化するペプチド、ペプチド誘導体又はアミノ酸誘導体を含有することを特徴とする食品品質検査試薬である。
【0013】
また、前記ペプチド誘導体又はアミノ酸誘導体が前記タンパク質分解酵素等と反応することにより蛍光強度、紫外線吸光度又は呈色強度が変化する標識基が結合されたものであることが好ましい(請求項2)。
【0014】
さらに、前記標識基が結合されたペプチド誘導体はそのN末端が保護基と結合されており、そのC末端に前記標識基がペプチド結合されていることが好ましい(請求項3)。
【0015】
また、請求項4の発明は前記食品品質検査試薬が食肉品質検査試薬である食品品質検査試薬である。
【0016】
さらに、請求項5の発明は前記アミノ酸誘導体がアラニン、メチオニン、セリン、トレオニンから選ばれる少なくとも1種のアミノ酸の誘導体である食肉品質検査用の食品品質検査試薬である。
【0017】
また、請求項6の発明は前記ペプチド誘導体は、そのC末端のアミノ酸がリジンであり、前記リジンに前記標識基がペプチド結合されたものである食肉品質検査用の食品品質検査試薬である。
【0018】
さらに、請求項7の発明は前記食品品質検査試薬と食品又は食品抽出物とを反応させた後、蛍光強度、紫外線吸光度又は呈色強度を測定する食品品質の検査方法である。
【0019】
また、請求項8の発明は複数の異なる種類の前記食品品質検査試薬と前記食品又は食品抽出物とを反応させて得られる蛍光強度、紫外線吸光度又は呈色強度のパターンを判定することにより食品品質を検査する食品品質の検査方法である。
【0020】
そして、請求項9の発明は異なる種類の複数の食品品質検査試薬からなる食品品質検査キットである。
【発明の効果】
【0021】
請求項1に係る食品品質検査試薬は食品中に含有されるタンパク質分解酵素等と反応することにより蛍光強度、紫外線吸光度又は呈色強度が変化し、その強度変化をモニターすることにより従来よりも迅速・簡便に食品の品質を検査することができる。
【0022】
また、前記ペプチド誘導体又はアミノ酸誘導体が前記タンパク質分解酵素等と反応することにより蛍光強度、紫外線吸光度又は呈色強度が変化する標識基が結合されたものは標識基を選択することにより検出条件、感度を調整することができる(請求項2)。
【0023】
さらに、N末端が保護基と結合されており、C末端がペプチド結合により前記標識基が結合されているペプチド誘導体を用いた場合には、N末端が保護されているためにC末端にペプチド結合された標識基が食品成分に含有される酵素により選択的に切断されるため、食品成分に含まれる酵素活性をより感度よく検査することができる(請求項3)。
【0024】
また、前記食品品質検査試薬が食肉品質検査試薬である場合には、食肉の熟成度や初期腐敗度を迅速・簡便且つ定量的に検査することができる(請求項4)。
【0025】
さらに、前記アミノ酸誘導体がアラニン、メチオニン、セリン、トレオニンから選ばれる少なくとも1種のアミノ酸の誘導体である場合には、特に食肉の熟成度や初期腐敗度を迅速・簡便かつ感度よく検査することができ、さらに、食品品質検査試薬の製造コストが安価である(請求項5)。
【0026】
また、前記ペプチド誘導体がC末端のアミノ酸がリジンであり、前記リジンのアミノ基に前記標識基が結合されたものである場合には食肉の熟成度や初期腐敗度を迅速・簡便且つ感度よく検査することができる(請求項6)。
【0027】
さらに、前記食品品質検査試薬と食品又は食品抽出物とを反応させた後、蛍光強度、紫外線吸光度又は呈色強度を測定する食品品質の検査方法は、迅速・簡便な食品品質の検査方法である(請求項7)。
【0028】
また、食品又は食品抽出物を複数の異なる種類の前記食品品質検査試薬と反応させて得られる蛍光強度、紫外線吸光度又は呈色強度のパターンを判定することにより食品品質の変化を生じている複数の要因を同時に検査することができる(請求項8)。
【0029】
そして、異なる種類の複数の食品品質検査試薬からなる食品品質検査キットを用いた場合には、迅速・簡便に食品の品質検査ができる(請求項9)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明は食品中に含有されるタンパク質分解酵素等と反応することにより蛍光強度、紫外線吸光度又は呈色強度が変化するペプチド、ペプチド誘導体又はアミノ酸誘導体(以下、標識ペプチド等ともいう)を含有することを特徴とする食品品質検査試薬であり、また、その食品品質検査試薬と食品又は食品抽出物とを反応させた後、蛍光強度、紫外線吸光度又は呈色強度を測定することにより食品品質を検査する方法及びその食品品質検査キットに関する。
【0031】
本発明の食品品質検査試薬はタンパク質分解酵素等を含有する食品又は食品抽出物と反応させて、反応後の蛍光強度、紫外線吸光度又は呈色強度の変化を測定することにより、食品品質を迅速・簡便に検査することができる。
【0032】
前記標識ペプチド等とは、後述する標識基がペプチド結合されたアミノ酸誘導体、ペプチド及びペプチドに後述する標識基及び/又は保護基がペプチド結合されたものである。
【0033】
ペプチドは前記各種アミノ酸のカルボキシル基末端(以下、C末端ともいう)を基板上に固定しペプチドをC末端から伸長していく固相法等の通常のペプチド合成法を用いて合成することができる。また、目的とするアミノ酸配列のC末端側からN末端側へ逐次伸長していく逐次伸長法や、複数の短いペプチド断片を合成しペプチド断片間のカップリングにより伸長させる断片縮合法等を用いることができる。さらに、プロテアーゼを用いてペプチド結合を生成したり、遺伝子工学を利用して合成することもできる。
【0034】
ペプチドとしては2〜4量体、更には2〜3量体であるのが入手が容易で、低コストである点から好ましい。また、その構成アミノ酸としては、天然のL−アミノ酸の他、人工的に修飾されたアミノ酸、例えば、ベンゼン環の4位がニトロ基で置換されたフェニルアラニンとフェニルアラニンの結合物等が挙げられる。前記修飾されたフェニルアラニンは、フェニルアラニンから遊離することにより紫外線吸収、例えば300nmにおける吸収が減少するため、紫外線吸光度の変化により酵素活性をモニターすることができる。
【0035】
前記標識基は、アミノ酸又はペプチドのN末端或いはC末端にペプチド結合により結合され、ペプチド結合が切断されて遊離されることにより蛍光強度、紫外線吸光度又は呈色強度に変化を生じる基である。
【0036】
標識基の具体例としては、標識基とアミノ酸又はペプチドとがペプチド結合しているときは特定波長領域において非蛍光物質又は非呈色物質であり、ペプチド結合が切断されて標識基が遊離したときに該特定波長領域において蛍光を発する或いは可視光領域で呈色反応を示す標識基、例えば、4−メチルクマリル−7−アミド(MCA)、7−アミノ−4−カルボキシメチルクマリン(ACC)、p−ニトロアニリド、α−ナフチルアミド、α−ナフチルエステル等が好ましく用いられる。これらの標識基のアミノ酸又はペプチドへの結合は公知の有機化学反応を用いることができる。
【0037】
標識基はアミノ酸のカルボキシル基、又はペプチドのC末端のカルボキシル基にペプチド結合されていることが好ましい。
【0038】
本発明におけるペプチドは、酵素反応によるランダムな切断を抑制し、C末端の標識基が結合されたペプチド結合を選択的に切断させるために、そのN末端のアミノ基が保護基により保護されていることが好ましい。
【0039】
前記保護基としては、例えば、アシル基、ベンジルオキシカルボニル基、ベンジル基、第三ブチルオキシカルボニル基、スクシニル基、9−フルオレニルメチルオキシカルボニル基等、通常のペプチドのアミノ保護基を用いることができる。
【0040】
前記保護基の結合方法としては、ペプチド合成機を用いたペプチド合成の際に結合しても、また、予め合成されたN末端が保護されていないペプチドに公知の有機化学反応により結合する等、特に限定されない。
【0041】
さらに、本発明における標識ペプチド等は前記保護基で保護する代わりに、そのN末端がビーズ状担持体等の公知のペプチド固定化用基材に固定化されていてもよい。
【0042】
食品品質検査試薬は、標識ペプチド等が特定のpHの緩衝液に溶解されて得られるもの又は前記担持体に固定化されたものであり、食品中に含有されるタンパク質分解酵素等と反応することにより標識基を遊離させる等により、蛍光強度、紫外線吸光度又は呈色強度を変化させることにより食品の品質を示す試薬である。
【0043】
前記標識化ペプチドがpHの緩衝液に溶解される際の濃度としては、食品中に含有されるタンパク質分解酵素等と反応することにより感度よくその反応を検出できる程度であれば特に限定されない。
【0044】
また、前記緩衝液のpHとしては、ターゲットとする酵素の至適pHに調整することが好ましく、その標識ペプチド等の種類に応じて選ばれる。
【0045】
また、前記緩衝液には、金属イオンを含んでいてもよく、ターゲットとする酵素の指摘活性を誘引するイオン、たとえばカルシウムイオンを含んでいてもよい。
【0046】
本発明における食品中に含有されるタンパク質分解酵素及び/又はペプチド分解酵素とは、食品中に含まれる食品自身に由来するタンパク質分解酵素等の他、食品と共存する微生物等に由来するタンパク質分解酵素等が挙げられる。
【0047】
本発明の食品品質の検査方法は前記食品品質検査試薬と食品又は食品抽出物とを反応させた後、蛍光強度、紫外線吸光度又は呈色強度を測定する方法である。
【0048】
食品抽出物の調整方法は特に限られないが、内在する酵素の失活やアミノ酸及びペプチド成分の分解を防止するためには熱抽出は好ましくない。
【0049】
食肉抽出液を調整する場合には、牛、豚、鳥、魚等の食肉を細切りし、ミンチ状態にした後、緩衝液に入れて混合液にし、前記混合液を遠心分離した後、固形分を濾去することにより得られる。また、食肉の保存期間中に遊離してくる液体(ドリップ)を食肉抽出液として用いることも出来る。
【0050】
なお、食肉抽出液中には、カテプシンB、カテプシンD、カテプシンH、カテプシンL、(μ-、 m-)カルパイン、プロテアソーム、キマーゼなどプロテアーゼやペプチターゼの他、食肉と共存する微生物が含む酵素、オルニチン脱炭酸酵素、リジン脱炭酸酵素等の酵素、その他、アミノ酸、ペプチド、タンパク質等が含まれる。
【0051】
検査目的に応じた食品品質検査試薬は、例えば、予め用意した複数の食品品質検査試薬を複数の凹部を有する基板上の凹部に別々に配し、食品中に含有されるタンパク質分解酵素等と反応させ、蛍光強度変化等を示すものをスクリーニングすることにより選ばれる。
【0052】
一例として、食肉の熟成、初期腐敗等の品質を検査する食品品質検査試薬のスクリーニングを以下に具体的に説明する。
【0053】
予め用意した複数種の標識ペプチド等を複数種のpHに調製された緩衝液に溶解させ食品品質検査試薬を調製し、それぞれの食品品質検査試薬を食品又は食品抽出物と接触させる。
【0054】
前記接触方法としては面上に複数の凹部が設けられた基板上の凹部に複数種の標識ペプチド等をそれぞれ別々に配し、さらに、食品又は食品抽出物を添加する方法や、前記標識ペプチド等を担持体等に固定化したものをカラム等に充填した後、前記カラム等に食品又は食品抽出物を通過させることによるフローインジェクション分析法等が挙げられる。なお、前記面上に複数の凹部が設けられた基板としては、ガラス、セラミックス、プラスチック等からなる多穴プレート、具体的には市販されている蛍光測定用の多穴のマイクロプレート等が挙げられる。また、酵素チップ用基材も用いることができる。
【0055】
前記複数種のpHに調製された緩衝液に溶解するのは、酵素により至適pHが異なるためである。例えば、食肉中に存在する酵素及びその至適pHの具体例としては、カテプシンB(pH6.5)、カテプシンD(pH3〜4.5)、カテプシンH(pH6.6〜7.0)、カテプシンL(pH4.1)、(μ-、 m-)カルパイン(pH7.5〜8.0)、プロテアソーム(pH8〜9)、キマーゼ(pH9〜10)等である。
【0056】
そして、前記食品品質検査試薬が配された凹部にタンパク質分解酵素等を含有する食品抽出液を注入し、反応させた後、蛍光強度、紫外線吸光度又は呈色強度を測定する。
【0057】
前記反応は食品品質検査試薬を注入し、更に食品又は食品抽出物を注入した後、酵素反応性の高い28〜37℃程度で、10分間〜4時間程度、より好ましくは10分間〜2時間程度、最も好ましくは20〜40分間程度反応させることが好ましい。そして、反応前後の蛍光強度、紫外線吸光度又は呈色強度を測定することにより食品品質を検査することができる。
【0058】
蛍光強度又は呈色強度は公知のプレートリーダー等により測定よりことができる。さらに、遊離するアミノ酸をニンヒドリン反応等の呈色反応をさせ、その呈色強度により反応をモニターしてもよい。
【0059】
食肉抽出液等と反応させる前後で、蛍光強度等の変化の大きかった標識ペプチド等とpHの組合せが、食肉に対する食品品質検査試薬として選ばれる。また、例えば熟成度を検査する場合においては、予め、食肉抽出液に含有される旨み成分であるアミノ酸、ペプチドを液体クロマトグラフィー等の手段により定量・定性しておき、前記定量・定性データと相関を有する配列等を選択したり、官能検査の結果と相関付けることにより、熟成度の検査に適した食品品質検査試薬を得ることができる。
【0060】
本発明者らは、前記のようなスクリーニングの結果、前記標識基が結合されたアミノ酸誘導体がアラニン、メチオニン、セリン、トレオニンから選ばれる少なくとも1種のアミノ酸誘導体のアミノ基に標識基が結合されたアミノ酸誘導体である食品品質検査試薬又は、前記標識基が結合されたペプチドがN末端がリジンであり、前記リジンのアミノ基に標識基が結合されたペプチドである食品品質検査試薬は特に、食肉の熟成度を迅速・簡便且つ感度よく検査することができることを見出している。
【0061】
本発明の検査方法は食品品質検査試薬と食品又は食品抽出物とを反応させた後、蛍光強度、紫外線吸光度又は呈色強度を測定することにより検査され、蛍光強度、紫外線吸光度又は呈色強度により酵素活性をモニターし、食肉の熟成度や初期腐敗度を判断することができる。
【0062】
また、本発明の検査方法においては食品又は食品抽出物を複数の異なる種類の前記食品品質検査試薬と反応させて得られる蛍光強度、紫外線吸光度又は呈色強度のパターンを判定することにより食品品質の変化を生じている複数の要因を同時に判断することもできる。
【0063】
前記のようにして選ばれた食品品質検査試薬を複数の凹部を有する基板上の凹部に配することにより本発明の食品品質検査キットが得られる。
【0064】
このような本発明の食肉品質検査キットは、目的に応じた種々の標識ペプチド等を選ぶことにより、各種食品の品質、具体的には食肉の熟成度や初期腐敗度、細菌の繁殖度、食品の品質を簡易的に検査することができる。
【0065】
本発明の食品品質検査試薬、食品品質の検査方法及び食品品質検査キットを用いると、食品工場等や食品倉庫、食品販売の店舗又は家庭等においても、迅速・簡便に食品の品質を検査することができる。
【実施例】
【0066】
以下に実施例を用いて本発明を更に詳しく説明する。なお、本発明の内容は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0067】
はじめに、実施例で用いた食肉抽出液の調製方法を示す。
(熟成検査用食肉抽出液の調製)
豚肉の解体後0℃で24時間冷蔵した豚枝肉から採取したロース肉より皮下脂肪を除去し、2mm厚にスライスし、発泡スチロール製トレイに200gずつ取り含気包装し、4℃に保管し、1日、3日、5日、7日、14日、22日、28日経過後に抽出液を調製した。なお、食肉抽出液は、前記一定時間冷蔵保管された食肉をミンチ状にした後、食肉質量の3倍量のpH6の緩衝液を入れ、3分間攪拌した。そして、得られた混合液を4℃の雰囲気下で10,000×gで15分間遠心分離することにより液成分を分離した。そして、前記液成分から浮遊した脂肪成分を濾去することにより食肉抽出液を得た。
〈評価〉
アミノ酸又はジペプチドのC末端に4−メチルクマリル−7―アミド(MCA)を結合し、N末端をアセチル基で保護した下記表1記載の96種類の標識ペプチド等をpH6緩衝液100mlに溶解した5μM標識ペプチド等溶液を調製した。
【0068】
なお、表1中Acはアシル基を示し、又アミノ酸は3文字標記で示した。
【0069】
そして、前記標識ペプチド等溶液を96穴のマイクロウェルプレートのそれぞれの凹部に、それぞれ100μlずつ配した。
【0070】
次に、前記一定時間経過した食肉抽出液を17℃の恒温槽で5分間インキュベートし、100μlずつ前記96穴のマイクロウェルプレートに注入した。
【0071】
そして、食肉抽出液の注入後37℃で30分間放置し、プレートリーダー(ARVOTM MX, Wallac 1420 Multilabel Counter, PerkinElmer社製)で蛍光強度を測定した(励起波長355nm、蛍光波長460nm)。
【0072】
そのときの各ウェルの蛍光強度を表1に示す。
【0073】
【表1】

【0074】
表1には1日経過後の蛍光強度が高かった蛍光性ペプチド等の順に並べている。表1から、No.1のTyr―Lys配列が30593で最も強い強度を示し、さらに、Phe―Lys配列(No.2)、His―Lys配列(No.3)、Trp―Lys配列(No.4)、Leu―Lys配列(No.5)、Val―Lys配列(No.6)が20000〜30000程度、Ile―Lys配列(No.7)、Ala(No.8)、Met―Lys配列(No.9)が10000〜20000程度の蛍光を示した。
【0075】
一方、経時変化を見ると、各蛍光性ペプチド等の種類において蛍光強度の変化に差があるものの、全体的に低下していくことがわかる。一例としてTyr―Lys配列(No.1)、Phe―Lys配列(No.2)及びAla(No.8)の蛍光強度の経時変化を図1のグラフに示す。
【0076】
図1のグラフから、前記それぞれの蛍光強度は14日までは急激に低くなっていることがわかる。
【0077】
前記結果より、本実施例で用いた食肉に含まれる酵素活性は14日までに大きく低下し、14日以降は大きく変化しないことがわかる。
【0078】
一方、本実施例においては、併せて、官能検査を行なった。官能検査は前記試験に供した豚肉のロース肉を健康な成人男女10人に与え、ロース肉の外観又は色調の良否、並びに腐敗臭の有無を判断させた。そして外観が正常で腐敗臭がない場合にはロース肉を焼き、ステーキとして食させた。そして、10人が以下の基準で判定し、最も多い判定基準で判断した。
◎:外観、食感、味とも良好、○:外観は正常だが、硬い食感、又は旨みが少ない、△:一部変色し、腐敗臭をかすかに感じる、×:全体的に変色し、明らかな腐敗臭を感じる。
【0079】
表1の結果より、前記官能検査の結果と実施例の蛍光強度の結果とは相関関係が見られることがわかる。
【0080】
すなわち、官能試験において初期腐敗と判断された冷蔵保存22日目経過後以降においては、Arg(No.60)、Gly―Lys配列(No.61)及びLeu―Val配列(No.62)等では蛍光を発するようになった。
【0081】
従って、本発明の食品品質検査キットを用いることにより食品の品質を迅速・簡便に検査することができる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】実施例における食肉抽出物に対する食品品質検査試薬の蛍光強度変化を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食品中に含有されるタンパク質分解酵素及び/又はペプチド分解酵素と反応することにより蛍光強度、紫外線吸光度又は呈色強度が変化するペプチド、ペプチド誘導体又はアミノ酸誘導体を含有することを特徴とする食品品質検査試薬。
【請求項2】
前記ペプチド誘導体又はアミノ酸誘導体が前記タンパク質分解酵素及び/又はペプチド分解酵素と反応することにより蛍光強度、紫外線吸光度又は呈色強度が変化する標識基が結合されたものである請求項1に記載の食品品質検査試薬。
【請求項3】
前記標識基が結合されたペプチド誘導体はそのN末端が保護基と結合されており、そのC末端に前記標識基がペプチド結合されているペプチド誘導体である請求項1又は請求項2に記載の食品品質検査試薬。
【請求項4】
前記食品品質検査試薬が食肉品質検査試薬である請求項1〜3の何れか1項に記載の食品品質検査試薬。
【請求項5】
前記アミノ酸誘導体がアラニン、メチオニン、セリン、トレオニンから選ばれる少なくとも1種のアミノ酸の誘導体である請求項4に記載の食品品質検査試薬。
【請求項6】
前記ペプチド誘導体のC末端のアミノ酸がリジンであり、前記標識基が前記リジンにペプチド結合されたものである請求項4に記載の食品品質検査試薬。
【請求項7】
請求項1〜6に記載の食品品質検査試薬と食品又は食品抽出物とを反応させた後、蛍光強度、紫外線吸光度又は呈色強度を測定する食品品質の検査方法。
【請求項8】
複数の異なる種類の前記請求項1〜6の何れか1項に記載の食品品質検査試薬と前記食品又は食品抽出物とを反応させて得られる蛍光強度、紫外線吸光度又は呈色強度のパターンを判定することにより食品品質を検査する食品品質の検査方法。
【請求項9】
異なる種類の複数の請求項1〜6に記載の食品品質検査試薬からなる食品品質検査キット。

【図1】
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【公開番号】特開2006−322803(P2006−322803A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−146035(P2005−146035)
【出願日】平成17年5月18日(2005.5.18)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年9月6日付けで財団法人新機能素子研究開発協会が経済産業省九州経済産業局から委託を受けた「平成16年度地域新生コンソーシアム研究開発事業(健康管理及び食品管理のための酵素活性検出システム技術の開発)」の委託研究、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000229519)日本ハム株式会社 (57)
【出願人】(504174135)国立大学法人九州工業大学 (489)
【Fターム(参考)】