説明

食器洗浄用液状組成物および洗浄方法

【課題】 カットグラス・クリスタルガラス等の高級ガラス食器やアルミ食器等の食器に対しても、損傷や変色等も無く洗浄可能で、高い洗浄力を発揮し、かつ人体や自然環境に対してより安全性を高めるため界面活性剤を不要とし、加えて安価な食器洗浄用液状組成物、および自動食器洗浄機におけるすすぎ水の量を削減するための洗浄方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 陽イオン交換によって水道水や井戸水などの原水中に含まれるアルカリ土類金属イオンをアルカリ金属イオンに置換した軟水と、汚染物分解酵素と、硫酸ナトリウムから成り、前記軟水中のアルカリ金属イオンの濃度が35ppm以上であり、かつpHが7.4〜8.0であることを特徴とするものである

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は食器洗浄に使用される液状組成物および洗浄方法に関する。
【0002】
【従来の技術】食器残渣で汚れた食器の洗浄には、個別の手洗いによる方法の他、自動食器洗浄機が一般に使用されているが、従来の自動食器洗浄機は、水道水に代表される水源から給水用ホースで直接供給された洗浄用水と食器洗浄用洗剤を混合した水溶液を常温で、または加温しながら、スプレーノズルにより食器に噴射して洗浄を行う。洗浄工程が終了すると、直ちに排水用ホースで排水を行い、その後洗浄工程同様の手段で給排水を繰り返して洗剤を含まない水の噴射により数回のすすぎを行い、乾燥工程に入る。
【0003】以上の一連の工程における排水は、下水道が普及している地域では下水処理場においてある程度浄化された後、近隣の河川や海に放出される。下水道が普及していない地域においては、上記の排水は浄化処理されずにそのまま河川等に放出される。
【0004】従来の食器洗浄用洗剤は、炭酸塩、珪酸塩、ホウ酸等のアルカリ剤を主成分とし、これに洗浄用水中の硬度成分によるスケールの食器或いは洗浄機内への付着を防止する目的でトリポリリン酸塩、オルトリン酸塩、ピロリン酸塩、エチレンジアミン四酢酸塩、ニトリロ三酢酸塩等のキレート剤が配合されている。
【0005】また油汚れを洗浄する目的で界面活性剤が配合される。界面活性剤は、洗浄時に発泡し、洗浄機の運転に支障をきたすことのない様に、低泡性の非イオン性界面活性剤が少量配合されているものが多い。
【0006】以上のような洗浄剤水溶液の液性は、前記アルカリ剤の添加によって強アルカリ性のものが多い。
【0007】一方、澱粉質の汚れに対しては澱粉加水分解酵素が有効であるとされ、一般的には澱粉分子のα-1,4-グリコシド結合に作用するα-アミラーゼが使用される。
【0008】同様に蛋白質汚れに対しては蛋白質加水分解酵素、すなわちプロテアーゼが有効であるとされ使用される。その中においても、プロテアーゼはアミラーゼと比較してpHへの依存が強いため、通常アルカリプロテアーゼが使用される。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】上記の食器洗浄用洗剤は、食器の汚れを洗浄するのが最大の目的であるが、食器に対して傷つける、変色させる等の影響を与えることなく食器に付着した汚れを落とさねばならない。
【0010】しかしながら従来の洗剤では、洗浄される食器の材質への影響について十分考慮されているとは言い難いのが現状である。すなわち、洗浄剤水溶液が強アルカリ性であるため、カットグラス・クリスタルガラス等の高級ガラス食器やアルミ食器等の食器の変色、くもり、破損の要因となり、これらの洗浄には適さないため、食器洗浄機で洗うことを避けなければならないという欠点がある。
【0011】また上記の食器洗浄用洗剤は、人体や自然環境への影響についても留意が必要である。すなわち界面活性剤は、人体の皮膚へ障害を与えたり、地下水、河川水に対する土壌による自然濾過機能を損なったり、生態系を破壊したり、河川水を浄化する際に発泡したり、濾過障害を起こす等の影響をおよぼす可能性があり、特に脂肪酸ナトリウムと脂肪酸カリウムを除いた大部分の界面活性剤は一般的に生分解性が低いため、生態系に与える影響も無視し得ない。
【0012】また上記の理由から洗浄後の食器において界面活性剤が残存していてはならない。そのため現在の自動食器洗浄機はすすぎの工程において多量の水を必用としている。
【0013】また上記のアルカリプロテアーゼの開発は、供給源である微生物の探索・選択や、さらには遺伝子組換え微生物による新規酵素の開発等いずれも困難な技術から成っているため、アルカリプロテアーゼの必要性は食器洗浄用洗剤のコストを上昇させることにもなっている。
【0014】本発明は、カットグラス・クリスタルガラス等の高級ガラス食器やアルミ食器等の食器に対しても、損傷や変色等も無く洗浄可能で、高い洗浄力を発揮し、かつ人体や自然環境に対してより安全性を高めるため界面活性剤を不要とし、加えて安価な食器洗浄用液状組成物、および自動食器洗浄機におけるすすぎ水の量を削減するための洗浄方法を提供することを目的とする。
【0015】
【課題を解決するための手段】このような課題を解決するために本発明は、陽イオン交換によって水道水や井戸水などの原水中に含まれるアルカリ土類金属イオンをアルカリ金属イオンに置換した軟水と、汚染物分解酵素と、硫酸ナトリウムから成り、前記軟水中のアルカリ金属イオンの濃度が35ppm以上であり、かつpHが7.4〜8.0であることを特徴とするものである。
【0016】また本発明は、前記汚染物分解酵素の濃度を1mg/l以上としたことを特徴とするものである。
【0017】また本発明は、前記汚染物分解酵素が少なくとも中性プロテアーゼからなることを特徴とするものである。
【0018】また本発明は、前記硫酸ナトリウムの濃度を4g/l以上としたことを特徴とするものである。
【0019】また本発明は、自動食器洗浄機において、少なくとも洗浄工程の初期となる予洗および/または本洗の工程において、前記食器洗浄用組成物を使用することを特徴とする洗浄方法である。
【0020】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0021】本発明における軟水はいかなる方法によって調製されても良いが、例えば、水道水あるいは井戸水を陽イオン交換樹脂の中を通過させることによって得られる。使用する陽イオン交換樹脂はアルカリ金属イオン型であればよく、ナトリウム型、カリウム型等、いずれの場合においても同様の洗浄効果が得られるが、陽イオン交換樹脂通過後における軟水のアルカリ金属イオンの濃度は、充分な洗浄力を発揮するためには35ppm以上であることが必用となる。
【0022】このような金属イオンの濃度変化は水中における水素イオンの減少と水酸化イオンの増加を導く。その結果調整された軟水のpHは、食器のアルカリによる損傷を生じず充分な洗浄能力を発揮するためには、7.4〜8.0の範囲が望ましい。
【0023】こうした金属イオンの濃度変化およびこれによってもたらされるpHの変化は、油脂汚れや蛋白質汚れに対する洗浄効果を示す。
【0024】陽イオン交換樹脂通過後における軟水中のアルカリ金属イオンの濃度が35ppm未満、あるいはpHが7.4未満であると上記の油脂汚れや蛋白質汚れに対する洗浄効果が低下し、洗浄後においても金属食器等に白いくもりが残る。原水の硬度が低すぎるために、樹脂通過後における水中のアルカリ金属イオンの濃度が35ppm以上とならない場合においては、あらかじめ原水に適当量の硬度成分を添加しておけばよい。
【0025】また、本発明の食器洗浄用液状組成物における酵素は、その種類や製造方法などによって特に限定されるものではないが、食器に残留する主な汚れが油脂汚れ、蛋白質汚れ、澱粉質汚れであることを考えるとアミラーゼ、イソアミラーゼ、プルラナーゼ、イソプルラナーゼ、プロテアーゼ、リパーゼ等が挙げられる。
【0026】しかしこれらの中においても、少なくとも、澱粉質汚れおよび蛋白質汚れに対してそれぞれ特に強い洗浄効果を持つアミラーゼおよびプロテアーゼから成ることが好ましい。また上記の軟水がほぼ中性であることから、プロテアーゼはその中でも中性プロテアーゼが最も効果的である。
【0027】酵素成分の配合量は、充分な洗浄効果を得るためには組成物中1mg/l以上である必用がある。また、これ以上配合量を増やしても洗浄効果の更なる顕著な向上が認められない一方で、組成物のコストが著しく上昇するという経済的不利が生じる。
【0028】また、上記の軟水および酵素に加えて硫酸ナトリウムを混合することにより、洗浄力が著しく上昇する。その配合量は、組成物中0.4g/l以上でないと油汚れに対して充分な洗浄効果が得られない。
【0029】上記の軟水と酵素と硫酸ナトリウムを混合することによって、アルカリ剤や界面活性剤を全く含まない本発明の食器洗浄用液状組成物が実現できる。このような食器洗浄用液状組成物は、通常洗浄強化のために使用されるアルカリ剤や界面活性剤を全く含まなくとも、従来の洗剤と同様な洗浄性能を示すだけでなく、アルカリ剤を含まないのでガラス食器へのダメージが軽減される。
【0030】さらに、界面活性剤を含まないのですすぎに要する水の使用量を減少できるだけでなく環境汚染の低減に大いに効果がある。
【0031】また、本発明の食器洗浄用液状組成物には、従来から使用されてきた他の添加物を本発明の効果を損なわない範囲で、任意に組み合わせて使用しても良い。配合可能な添加成分としては、着色剤、酸化防止剤、殺菌剤、香料等の通常用いられる物質が挙げられる。
【0032】
【実施例】次に、本発明の具体例を説明する。
【0033】本実施例において用いた軟水の調製方法を以下に示す。
【0034】水道水を、500mlの容器中に充填された450gのナトリウム型陽イオン交換樹脂(三菱化学(株)製、DIAION SK1B)中を1.0/minの空間速度にて通過させた。
【0035】(表1)に示すように、得られた軟水(以下「軟水1」とする)中の陰イオン濃度は、原水である水道水中の陰イオン濃度とほとんど変わらなかった。
【0036】一方、陽イオン濃度は、カルシウムイオンおよびマグネシウムイオンの濃度がそれぞれ、0.05ppm未満、0.02ppm未満であり、ナトリウムイオンの濃度が42ppmであった。またpHは7.80であった。
【0037】
【表1】


【0038】また、比較実験として上記のナトリウム型陽イオン交換樹脂中を通過させる空間速度を調節することによって、(表2)に示すように通過後のナトリウムイオンの濃度およびpHがそれぞれ異なる六種類の軟水(以下それぞれ「軟水2」、「軟水3」、「軟水4」、「軟水5」、「軟水6」とする)を得た。
【0039】
【表2】


【0040】上記の六種類の軟水および(表3)に示された成分を用いて、サンプルA〜Hを調製し、下記の試験方法により性状を評価した。
【0041】アミラーゼとしてはNOVO社製“デュラミル60T”を、中性プロテアーゼとしては合同酒精社製“GODO-BNP”を用いた。
【0042】
【表3】


【0043】洗浄試験は、基本的に社団法人日本電機工業会によって定められた「自主基準JEMA-HD 84 食器洗い乾燥機の性能測定方法」に従った。すなわち、(表4)に示した内容の汚染食器を作成し、適当時間(上記の自主基準では1時間に定められている)放置後、それらの汚染食器を松下電器産業(株)製全自動食器洗浄機(機種NP−33S1)にセットし、標準コース洗浄を行った。
【0044】上記の軟水は、洗浄工程時に給水用ホースによって通常水道水が供給されるところを、代わりに供給され、また(表3)中の軟水以外の成分は洗浄工程前に洗浄室に直接投入された。
【0045】
【表4】


【0046】洗浄試験評価方法は、基本的に社団法人日本電機工業会によって定められた「自主基準 JEMA-HD 84 食器洗い乾燥機の性能測定方法」に従った。すなわち、(表5)に示した判定基準に基づいて官能評価を行い、その官能評価をもとに(数1)により求まる値を洗浄率とした。通常、洗浄剤として使用されるには、この洗浄率の値が90を越える必要がある。
【0047】
【数1】


【0048】
【表5】


【0049】(実施例1)(表3)中のサンプルAについて上記試験方法により性状を評価した。汚染放置時間は1時間とした。結果は図1に示した。
【0050】図から明らかなようにアミラーゼの濃度が1mg/l以上でないと充分な洗浄効果が得られなかったが、それを超える範囲では界面活性剤やアルカリ剤を含まないにも関わらず洗浄率90%以上の良好な洗浄力が得られた。
【0051】(実施例2)(表3)中のサンプルBについて上記試験方法により性状を評価した。汚染放置時間は1時間とした。結果は図2に示した。
【0052】これも実施例1と同様に、中性プロテアーゼの濃度が1mg/l以上でないと充分な洗浄効果が得られなかったが、これ以上の範囲では洗浄率90%以上が確保されており、安価な中性プロテアーゼを用いても洗浄力確保が可能であることがわかる。
【0053】(実施例3)(表3)中のサンプルCについて上記試験方法により性状を評価した。汚染放置時間は1時間とした。結果は図3に示した。
【0054】硫酸ナトリウムの濃度を用いないと約55%の洗浄率しか得られないが、0.4g/l以上では洗浄率90%以上に達し、硫酸ナトリウムの添加効果が認められる。
【0055】(実施例4)(表3)中のサンプルD、E、F、G、Hについて上記試験方法により性状を評価した。汚染放置時間は1時間とした。結果は図4に示した。
【0056】図から明らかなようにF、G、Hについてのみ充分な洗浄効果が得られた。すなわち、ナトリウムイオンの濃度が35ppm以上でないと充分な洗浄効果が得られなかった。
【0057】(実施例5)(表3)中のサンプルD、E、F、G、Hについて上記試験方法により性状を評価した。汚染放置時間は2時間として、汚染物の乾燥、固化等を進行させた。結果は図5に示した。
【0058】図から明らかなようにナトリウムイオン濃度が低い領域では実施例4よりやや劣る洗浄率となっているが、ナトリウムイオンの濃度が35ppm以上になるとこの場合でも充分な洗浄効果が得られており、ナトリウムイオンの濃度の下限域を35ppmとするに妥当性がある。
【0059】(実施例6)(表3)中のサンプルD、E、F、G、Hについて上記試験方法により性状を評価した。汚染放置時間はさらに進めて3時間とした。結果は図6に示した。
【0060】汚染物は固化付着が進み汚れの程度はかなり進んでいるが、この場合でもナトリウムイオンの濃度が35ppm以上であれば洗浄率は90%以上あり、充分な洗浄効果が得られることが確認された。
【0061】以上の実施例1〜6から明らかなように、陽イオン交換によってアルカリ土類金属イオンをアルカリ金属イオンに置換した軟水と、汚染物分解酵素と、硫酸ナトリウムとから成り、上記軟水中のアルカリ金属イオンの濃度が35ppm以上であり、かつpHが7.4〜8.0である液状組成物を用いると、界面活性剤やアルカリ剤を用いなくとも充分な洗浄効果が得られることが明らかになった。
【0062】なお、この液状組成物を用いて自動食器洗浄機での洗浄を行った場合、界面活性剤を含まないため、すすぎを簡略化、省水化できる。上記松下電器産業(株)製全自動食器洗浄機の標準コース洗浄では、四回行うすすぎ工程のうち一回目および二回目の両すすぎ工程を省いても充分なすすぎが行われており、食器洗浄における節水が可能となるものである。
【0063】
【発明の効果】本発明の食器洗浄用液状組成物は、食器を傷つけることなく高い洗浄能力を有すると共に、安価であり、また人体や自然環境に対する負荷を軽減でき、かつ使用する水の量も削減できるなど、経済的で効率的な効果を発揮するものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例1おけるアミラーゼの濃度と洗浄率の関係を示す図
【図2】本発明の実施例2おける中性プロテアーゼの濃度と洗浄率の関係を示す図
【図3】本発明の実施例3おける硫酸ナトリウムの濃度と洗浄率の関係を示す図
【図4】本発明の実施例4おける軟水中のナトリウムイオン濃度と洗浄率の関係を示す図
【図5】本発明の実施例5おける軟水中のナトリウムイオン濃度と洗浄率の関係を示す図
【図6】本発明の実施例6おける軟水中のナトリウムイオン濃度と洗浄率の関係を示す図

【特許請求の範囲】
【請求項1】陽イオン交換によってアルカリ土類金属イオンをアルカリ金属イオンに置換した軟水と、汚染物分解酵素と、硫酸ナトリウムとから成り、前記軟水中のアルカリ金属イオンの濃度が35ppm以上であり、かつpHが7.4〜8.0であることを特徴とする食器洗浄用液状組成物。
【請求項2】前記汚染物分解酵素の濃度を1mg/l以上としたことを特徴とする請求項1記載の食器洗浄用液状組成物。
【請求項3】前記汚染物分解酵素が少なくとも中性プロテアーゼからなることを特徴とする請求項1および2記載の食器洗浄用液状組成物。
【請求項4】前記硫酸ナトリウムの濃度を4g/l以上としたことを特徴とする請求項1〜3記載の食器洗浄用液状組成物。
【請求項5】自動食器洗浄機において、少なくとも洗浄工程の初期となる予洗および/または本洗の工程において、請求項1〜4記載の食器洗浄用組成物を使用することを特徴とする洗浄方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2002−180096(P2002−180096A)
【公開日】平成14年6月26日(2002.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−375633(P2000−375633)
【出願日】平成12年12月11日(2000.12.11)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】