説明

食材の殺菌又は保存方法

【課題】安全性が高く、且つ優れた抗菌作用を示す食品の殺菌又は保存方法を提供すること。
【解決手段】塩化カリウム、塩化マグネシウム及びカテキン類から選ばれる1種以上を食品に添加し、塩化カリウム及び/又は塩化マグネシウムが0.5〜30質量%並びにカテキン類が0.001〜0.5質量%になるようにすることを特徴とする食品の殺菌又は保存方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食材の殺菌又は保存方法、及び抗菌組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
抗菌性物質は、微生物による製品の汚染や変質の防止又は感染症の予防、除菌等のため、化粧品、医薬品、食品、日用品等の製品に広く配合されている。
抗菌性物質は抗菌作用が強いものが望ましいが、特に抗菌性物質を野菜等の食材に使用する場合には、長期的に抗菌性物質を経口摂取する点から、湿疹、アレルギー反応等を急性的又は慢性的に発症し、健康を害するおそれがあるため、安全性の高いものが望まれている。
【0003】
例えば、食塩(塩化ナトリウム)は、海水や岩塩等から大量に入手することができ、化学的にも安定し安全性が高いので食品分野で多用されている。ところが、塩化ナトリウムの多用は過剰摂取の原因となり、近年、塩化ナトリウムの過剰摂取は高血圧や腎不全等を発症するとして問題視されるようになり、塩化ナトリウムに代わる抗菌性物質が望まれている。
【0004】
また、茶葉から抽出することのできるカテキン類に抗菌作用があることが報告されている(特許文献1〜3、非特許文献1)。このカテキン類は、経験的に安全性が高いが、合成系食品添加物と比べ、少量では抗菌力が十分に発揮されず、多量では食材の風味や色合いを損なってしまう。
【0005】
更に、塩化マグネシウム及び塩化カリウムを含むにがり、カテキン類並びに食塩50質量%以上含有する食塩組成物(特許文献4)が健康食品又は美容食品として報告され、当該作用として抗菌作用や腐敗防止作用等が挙げられているが、この食塩組成物を食材に用いた場合には、塩化ナトリウムの過剰摂取となってしまうので好ましくない。
従って、幅広い分野で使用することができる、安全性の高い新たな食材の殺菌又は保存方法や抗菌組成物などが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平2−276562号公報
【特許文献2】特開平2−117608号公報
【特許文献3】特開平3−246227号公報
【特許文献4】特開2005−312301号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】現場必携 微生物殺菌実用データ集 山本茂貴監修 サイエンスフォーラム (2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、安全性が高く、且つ優れた抗菌効果を発揮する食材の殺菌又は保存方法、及び抗菌組成物などを提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、食品に対して殺菌又は保存効果のある物質について検討した結果、塩化ナトリウムよりも抗菌作用が弱いことが知られている塩化カリウムや塩化マグネシウムをカテキン類と併用した場合、塩化ナトリウムとカテキン類を併用した場合に比し、微生物に対して優れた抗菌作用を発揮することを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(3)に係る発明に関するものである。
(1) 塩化カリウム、塩化マグネシウム及びカテキン類から選ばれる1種以上を食材に添加し、塩化カリウム及び/又は塩化マグネシウムが0.5〜30質量%且つカテキン類が0.001〜0.5質量%になるようにすることを特徴とする食材の殺菌又は保存方法。
(2) 塩化カリウム及び/又は塩化マグネシウム並びにカテキン類を添加する請求項1記載の食材の殺菌又は保存方法。
(3) 塩化カリウム及び/又は塩化マグネシウム並びにカテキン類を質量比で塩化カリウム及び/又は塩化マグネシウム:カテキン類=1:1〜30000:1で含有する抗菌組成物。
(4) 塩化カリウム及び/又は塩化マグネシウム0.5〜30質量%、カテキン類0.001〜0.5質量%、並びに食塩50質量%未満を含有する調味料組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明の食材の殺菌又は保存方法及び殺菌又は抗菌組成物は、食経験が豊富で副作用が少ないカテキン類並びに塩化カリウム及び/又は塩化マグネシウムの成分を使用しているので、長期間摂取しても安全性が高い。これら成分を用いることにより、塩化ナトリウムを必要以上に用いることなく食品中の微生物増殖を有効に防止でき、食品の保存性を向上することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の食材の殺菌又は保存方法は、塩化カリウム、塩化マグネシウム及びカテキン類から選ばれる1種以上を食材に添加し、塩化カリウム及び/又は塩化マグネシウムが0.5〜30質量%且つカテキン類が0.001〜0.5質量%になるようにするものである。
【0013】
後記実施例に示すとおり、塩化カリウム又は塩化マグネシウムとカテキン類とを併用すると、塩化カリウムや塩化マグネシウム単独では塩化ナトリウムよりも抗菌作用が弱いにも拘らず、いずれか一方又は両方とカテキン類とを併用することによって塩化ナトリウムとカテキン類を併用した場合に比し優れた抗菌作用を発揮する。しかも、それぞれ単独では効果が認められなかった低濃度でも抗菌作用が認められたので当該効果は相乗効果であると云える。
従って、本発明の方法を用いれば、食品を汚染する微生物に対して優れた抗菌力を示すことから、食中毒や食品の腐敗等につながる食品の微生物汚染を有効に防止し、食品を安定的に長期間保存することができる。
【0014】
本発明において「食材」には、畜肉、淡産又は海産魚介類、野菜、果物等をそのまま又はそれをカッティング(例えば、ラウンド、ピース、ブロック、ミンチ等)した未加工品やこれを加熱処理した加工品(加工食品ともいう)、これらを混和した未加熱又は加熱処理した加工品等が包含される。加工品としては、乾燥品、塩蔵品、レトルト品や冷凍冷蔵品等が挙げられる。 食材中には塩化ナトリウム(NaCl)を含んでいても良いが、食塩過剰摂取抑制の観点から、食材中の塩化ナトリウム(NaCl)の含有量は50質量%未満であることが好ましい。
【0015】
「塩化カリウム、塩化マグネシウム及びカテキン類から選ばれる1種以上を食材に添加する」とは、当該各成分を同時又は別々に食材(表面及び/又は内部)に接触させること等をいう。
具体的には、これら各成分を粉末状、顆粒状等の固形状、水溶液や懸濁液などの液状又はペースト状等の形態で、食材の表面や内部に撒布、塗布また注入したり若しくは付着させたり又は食材を浸漬したりする方法等が挙げられる。
【0016】
「塩化カリウム及び/又は塩化マグネシウムが0.5〜30質量%且つカテキン類が0.001〜0.5質量%となるようにする」とは、上各成分すべて又は一部を添加し食材における塩化カリウム、塩化マグネシウム及びカテキン類が当該濃度となるように調整することをいう。
この場合、食材に塩化カリウム及び/又は塩化マグネシウム並びにカテキン類が存在する際には、塩化カリウム、塩化マグネシウム及びカテキン類から選ばれる1種以上を適宜選択して食材に同時又は別々に添加しつつ、塩化カリウム及び/又は塩化マグネシウム並びにカテキン類が上記各特定の濃度となるように調整すればよい。また、これら成分のいずれも含まない食材については塩化カリウム及び/又は塩化マグネシウム並びにカテキン類を又は当該成分を特定の配合割合で含有する組成物に調製したものを食材に添加し、当該成分が上記各特定の濃度となるようにすればよい。
【0017】
塩化カリウム(KCl)及び/又は塩化マグネシウム(MgCl2)の、カテキン類と共に食材(表面及び/又は内部)に接触させた際の濃度は、0.5〜30質量%であるが、風味及び抗菌作用の点から、1.0〜6.0質量%、より1.0〜4.0質量%であるのが好ましい。
【0018】
一方、カテキン類の、塩化カリウム(KCl)及び/又は塩化マグネシウム(MgCl2)と共に食材(表面及び/又は内部)に接触させた際の濃度は、0.001〜0.5質量%であるが、風味及び抗菌作用の点から、0.002〜0.1質量%、より0.003〜0.02質量%であるのが好ましい。
【0019】
なお、塩化ナトリウム(NaCl)の、食材に上記これら成分を接触させた際の濃度は、食塩過剰摂取抑制の観点から、50質量%未満が好ましく、40質量%以下がより好ましく、10質量%以下が更に好ましく、4質量%以下がより更に好ましい。
【0020】
本発明の抗菌組成物は、塩化カリウム及び/又は塩化マグネシウム並びにカテキン類を質量比で〔塩化カリウム及び/又は塩化マグネシウム〕:〔カテキン類〕=1:1〜30000:1で含有するものである。当該抗菌組成物を食品に添加することによってそれらに抗菌性を付与することができる。
本発明の抗菌組成物における〔塩化カリウム及び/又は塩化マグネシウム〕:〔カテキン類〕の配合質量比は、風味及び抗菌作用の点から、10:1〜12000:1、より200:1〜12000:1であるのが好ましい。
また塩化カリウム:塩化マグネシウムの配合質量比は、特に限定されないが、風味及び抗菌作用の点から、1:0.1〜0.1:1であるのが好ましい。
【0021】
ここで、「食品」としては、特に限定されないが、例えば、上記食材や加工食品、後記調味料等が挙げられる。また食品の形態としては、特に限定されず、例えば、未カット、ピース、ブロック、粉末、顆粒等の固形状;ペースト状等の半固形状;溶液、乳化液、懸濁液、分散液等の液状等が挙げられる。
【0022】
本発明の抗菌組成物における〔塩化カリウム(KCl)及び/又は塩化マグネシウム(MgCl2)〕の含有量は、組成物中、0.5〜30質量%、より1.0〜6.0質量%、更に1.0〜4.0質量%であるのが好ましい。
また、カテキン類の含有量は、組成物中、0.001〜0.5質量%、より0.002〜0.1質量%、更に0.003〜0.02質量%であるのが好ましい。
【0023】
本発明の抗菌組成物は、一般的な食品の製造方法に準じて、上記塩化カリウム及び/又は塩化マグネシウム並びにカテキン類の必須成分と本発明の効果を阻害しない範囲内で必須成分以外の任意成分を適宜配合し、攪拌混合、乾燥、加水、濃縮等の常法に従って製造することができる。例えば、当該抗菌組成物を調味料組成物として製造する場合には、上記必須成分と調味料等の任意成分とを適宜配合して粉末状、顆粒状、ペースト状、液状等の調味料組成物を得ることができる。
上記任意成分としては、その形態及び用途に応じて、本発明の効果を阻害しない範囲内での成分、例えば、水の他、砂糖、塩、醤油、酢、みそ、みりん、たれ、つゆ等;コショウ、ショウガ、トウガラシ等の香辛料;昆布だし、鰹だし等のエキス成分;イノシン酸もしくはその塩、グルタミン酸もしくはその塩、グアニン酸若しくはその塩等のアミノ酸系・核酸系調味成分及び調味液等から選ばれる1種以上の一般的に料理の味付けに用いる調味料、酸化防止剤、香料、無機酸類、無機酸塩類、無機塩類、色素類、乳化剤、保存料、甘味料、酸味料、pH調整剤、品質安定剤、多糖増粘剤等が挙げられる。
【0024】
なお、本発明の抗菌組成物に他の成分として塩化ナトリウムを含んでいてもよいが、塩化ナトリウムの含有量は、食塩過剰摂取抑制の観点から、組成物中、50質量%未満、より40質量%以下、更に10質量%以下、より更に4質量%以下であることが好ましい。
【0025】
また、本発明の抗菌組成物の形態は、特に制限されず、顆粒、粉末や氷等の固形状;ペースト状等の半固形状、乳化物、可溶化物、分散物、ジェル、溶液、調味料や浸漬液等の液状等であってもよい。
【0026】
また、一般的な食品の製造方法に準じて、上記必須成分を食品中に特定量含有させるようにして食品を製造してもよい。具体的には、これら各必須成分を加工前又は加工中の食品に配合するか、或いはこれら各溶液若しくは混合溶液等の液状に食品を浸漬すること等により、上記必須成分を食品に特定量含有させることができる。得られた食品は、抗菌性が付与され、保存性が向上すると共に、得られた食品を他の食品に用いれば他の食品に抗菌性を付与させることもできる。なお、「食品」については上述と同義である。
【0027】
塩化カリウム(KCl)及び/又は塩化マグネシウム(MgCl2)の含有量は、食品中、0.5〜30質量%であるが、より1.0〜6.0質量%、更に1.0〜4.0質量%であるのが好ましい。
一方、カテキン類の含有量は、組成物中、0.001〜0.5質量%、より0.002〜0.1質量%、更に0.003〜0.02質量%であるのが好ましい。
なお、塩化ナトリウム(NaCl)の含有量は、食塩過剰摂取抑制の観点から、食品中、50質量%未満、より40質量%以下、更に10質量%以下、より更に4質量%以下であるのが好ましい。
【0028】
本発明の方法及び組成物は、食品(表面及び/又は内部)に存在する又は食品を汚染する微生物に対して有効であり、当該微生物は特に限定されないが、このうち細菌及び真菌に対して有効であり、好ましくは細菌に有効であり、グラム陽性菌又はグラム陰性菌に対しても有効で、これら菌の状態が芽細胞及び/又は栄養細胞であっても有効である。このうち、よりブドウ球菌属(Staphylococcus)細菌に対して有効である。
【0029】
例えば、グラム陰性菌としては、S. dysenteria(赤痢菌A亜群),S. flexneri(赤痢菌B亜群),S. boydii(赤痢菌C亜群),S. sonnei(赤痢菌D亜群)等の赤痢属(Shigella)細菌:ブルセラ属(Brucella)細菌:E. coli.O157等の大腸菌群(Escherichia coli):S. typhi(チフス菌),S. paratyphi A(パラチフスA菌),S. paratyphi B(パラチフスB菌),S. Typhimurium (ネズミチフス菌)S. Enteritidis(ゲルトネル菌)等のサルモネラ属(Salmonella)細菌:V. cholerae(コレラ菌),V. parahaemolyticus(腸炎ビブリオ)等のビブリオ属(Vibrio)細菌:緑膿菌(P. aeruginosa)等のシュードモナス属(Pseudomonas)細菌;A. hidrophila(エロモナス・ヒドロフィア)、A.sobria(エロモナス・ソブリア)、A.caviae(エロモナス・キャビエ)、A.salmonicida(エロモナス・サルモニサイダ)等のエロモナス(Aeromonas)属細菌、C. jejuniC. coli等のカンピロバクター属(Campylobacter)細菌等が挙げられる。
また、例えば、グラム陽性菌としては、枯草菌(B. subtilis)、炭疽菌(B. anthracis)、セレウス菌(B. cereus)等のバシラス属(Bacillus)細菌:リステリア・モノサイトゲネス菌(L. monocytogenes)リステリア・イバノヴィ菌(L. ivanovii)、リステリア・シーリゲリー菌(L. seeligeri)等のリステリア属(Listeria)細菌:Al. acidoterrestris(旧B. acidoterrestris)等のアリシクロバチルス属(Alicyclobacillus)細菌:S. aureus(黄色ブドウ球菌),S. pyogenes等のブドウ球菌属(Staphylococcus)細菌:C. botulinum(ボツリヌス菌),C. perfringens(ウェルシュ菌),C. difficile, C. sporogens等のクロストリジウム属(Clostridium)細菌:Leuconostoc mesenteroides等のリューコノストック属(Leuconostoc)細菌をはじめとする乳酸球菌:Lactobacillus plantarum等のラクトバチルス属(Lactobacillu)細菌をはじめとする乳酸桿菌::Desulfotomaculum nigrificans等のデスルフォマクルム属(Desulfotomaculum)細菌:Enterococcus faecalis等のエンテロコッカス(Enterococcus)細菌;Y. enterocolitica(エルシニア・エンテロコリチカ)等のエルシニア属(Yersinia)細菌等が挙げられる。
【0030】
本発明に使用する塩化カリウム及び/又は塩化マグネシウムは、通常食品に用いられるものであればよく、また公知の製造方法で得たものでもよく市販で入手したものでもよい。
【0031】
本発明に使用するカテキン類とは、カテキン、カテキンガレート、ガロカテキン及びガロカテキンガレート等の非エピ体カテキン類、並びにエピカテキン、エピガロカテキン、エピカテキンガレート及びエピガロカテキンガレート等のエピ体カテキン類の総称であり、これらの一種以上を含有するのが好ましい。また、カテキン類は、非重合体であるのが好ましい。
【0032】
本発明に使用するカテキン類は、一般的には茶葉;カカオ豆;ブドウ、カキなどの果実等の植物から直接抽出すること、又はその抽出物を濃縮若しくは精製することにより得ることができる。すなわち、本発明のカテキン類として、前記植物抽出物やその抽出濃縮物若しくは精製物、他の原料由来のもの、市販品、カラム精製品及び化学合成品を使用してもよい。植物抽出物等中のカテキン類の純度は、乾燥質量換算で全量中20質量%以上であることが望ましいが、更には30質量%以上、特に30〜95質量%が好ましい。
【0033】
例えば、茶葉抽出は、Camellia属、例えばC.sinensis、C.assamica、またはそれらの雑種から得られる茶葉より製茶された茶葉に、水や熱水、場合によってはこれらに抽出助剤を添加して抽出することにより行うことができる。また、煮沸脱気や窒素ガス等の不活性ガスを通気して溶存酸素を除去しつつ、いわゆる非酸化的雰囲気下で抽出する方法を併用してもよい。
当該製茶された茶葉には、(1)煎茶、番茶、玉露、てん茶、釜煎り茶などの緑茶類;(2)総称して烏龍茶と呼ばれる鉄観音、色種、黄金桂、武夷岩茶などの半発酵茶;(3)紅茶と呼ばれるダージリン、ウバ、キーマンなどの発酵茶が含まれる。
抽出助剤としては、アスコルビン酸ナトリウム等の有機酸又はこれら有機酸塩類が挙げられる
【0034】
当該茶抽出物の濃縮は、上記抽出物を濃縮することにより行うことができ、当該茶抽出物の精製は、溶剤やカラムを用いて精製することにより行うことができる。茶抽出物の濃縮物や精製物の形態としては、固体、水溶液、スラリー状等種々のものが挙げられる。
【0035】
例えば、当該茶抽出物(茶カテキンともいう。)は、特開昭59-219384号、特開平4-20589号、特開平5-260907号、特開平5-306279号等に詳細に例示されている方法で調製することができる。また、市販品を用いることもでき、斯かる市販品としては、三井農林(株)「ポリフェノン」、(株)伊藤園「テアフラン」、太陽化学(株)「サンフェノン」、DSMニュートリショナル・プロダクツ「テアビゴ」、サントリー(株)「サンウーロン」等が挙げられる。
【0036】
当該茶抽出物中のカテキン類は、非重合体若しくは重合体で存在し、かつ液に溶解しているもの又は茶の微細粉末の懸濁物に吸着若しくは包含された固形状のものとして存在する。
【0037】
また、茶葉中のカテキン類の大部分はエピ体カテキン類として存在しており、このエピ体カテキン類を用いて熱や酸やアルカリ等の処理により立体異性体である非エピ体に変化させることができる。従って、非エピ体カテキン類を使用する場合には、緑茶類、半発酵茶類又は発酵茶類からの抽出液や茶抽出液の濃縮物を水溶液にして、例えば40〜140℃、0.1分〜120時間加熱処理して得ることができる。また非エピカテキン類含有量の高い茶抽出液の濃縮物を使用してもよい。それらは単独又は併用してもよい。
【実施例】
【0038】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明する。
【0039】
実施例1〜3:Bacillus cereus JCM 2152における抗菌試験
(1)試験菌として、Bacillus cereus JCM 2152を用いた。
当該菌株をTSB液体培地(Tryptic Soy Broth,1.7%カゼイン分解物、0.3%大豆酵素分解物、0.25%デキストロース、0.5%塩化ナトリウム、0.25%リン酸水素2カリウム、pH7、Becton Dickinson 社)にて、30℃で24時間振とう培養し、当該培養液を滅菌水で稀釈して、105〜106CFU/mLに調製した菌液を作成した。
【0040】
(2)塩化カリウム、塩化マグネシウム及び塩化ナトリウムは、市販品の試薬(ナカライテスク社製)を用いた。
基礎培地には、50%Luria Broth(LB)液体培地を用いた。50%LB液体培地の組成は、0.5質量%トリプトン、0.25質量%酵母エキスで、pH6.5に調整後メスアップし、高圧またはオートクレーブ滅菌することにより調製した。最終濃度が表1になるように塩類を添加した50%LB培地も同様に調製した。
また、カテキン類は、市販の緑茶抽出物であるPOLYPHENON 70A(三井農林(株)製)(カテキン類純度79.2質量% カテキン類比率;カテキン 0.4%、ガロカテキン 0.6%、カテキンがレート 1.1%、ガロカテキンガレート 5.0%、エピカテキン 2.3%、エピガロカテキン 2.6%、エピカテキンガレート 18.9%、エピガロカテキンガレート 69.1%)を用いた。
当該緑茶抽出物を1.0質量%となるように純水に溶解し、pHを6.5に調整し、段階希釈にて0,0.0313,0.0625,0.125,0.25,0.5質量%として、希釈後、ろ過滅菌(0.2μm、関東化学社製)し、各濃度の緑茶抽出物溶液を調製した。
最終濃度が表1になるように塩類を添加した9mLの50%LB液体培地に各濃度カテキン類溶液を1mL添加し、最終濃度が表1に示すように調製した。
塩化カリウム(KCl)、塩化マグネシウム(MgCl2)又は塩化ナトリウム(NaCl)の最終濃度:0,0.5,1.0,2.0,4.0及び6.0質量%
緑茶抽出物の最終濃度:0,0.00313,0.00625,0.0125,0.025及び0.05質量%(カテキン類濃度、それぞれ、0,0.0024789,0.0495,0.0099,0.0198,0.0396質量%)
【0041】
(3)そして、105〜106CFU/mLに調製した菌液100μLを添加(終菌数103〜105CFU/mL)、30℃で48時間静置培養(時々ボルテックス)した。
(4)培養後の生菌数は培養液を10μLのマイクロループでTSA寒天平板培地に画線し48時間、30℃で静置培養し、カテキン類未添加の場合は培養液の10倍稀釈系列を滅菌水で作成し、各稀釈液100μLをTSA寒天平板培地に塗抹して48時間、30℃で静置培養した。培養後のコロニー数から生菌濃度を算出した。
TSA(Tryptic Soy Agar)寒天平板培地:1.7%カゼイン分解物、0.3%大豆酵素分解物、0.25%デキストロース、0.5%塩化ナトリウム、1.5%寒天、pH7、Becton Dickinson 社)。
【0042】
実施例1〜3の結果を下記の表1〜3に示す。
斯様に、緑茶抽出物単体でBacillus cereus JCM2152に対する抗菌作用が認められる濃度は250ppmであったが、6.0質量%の塩化カリウムと組み合わせにより31.3ppm、2.0質量%の塩化マグネシウムと組み合わせにより31.3ppmで抗菌作用が認められ、その効果はNaClと緑茶抽出物を組み合わせた場合より強いことが明らかとなった。
上記のように塩化カリウム及び/又は塩化マグネシウムとカテキン類を組み合わせることによって食中毒菌を含む各種細菌に対するカテキン類の殺菌又は静菌作用が増大することが認められた。さらに、これらの塩類とカテキン類の組み合わせを利用することで塩化ナトリウムの使用量を低減することが可能である。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【0045】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化カリウム、塩化マグネシウム及びカテキン類から選ばれる1種以上を食材に添加し、塩化カリウム及び/又は塩化マグネシウムが0.5〜30質量%且つカテキン類が0.001〜0.5質量%になるようにすることを特徴とする食材の殺菌又は保存方法。
【請求項2】
塩化カリウム及び/又は塩化マグネシウム並びにカテキン類を添加する請求項1記載の食材の殺菌又は保存方法。
【請求項3】
塩化カリウム及び/又は塩化マグネシウム並びにカテキン類を質量比で塩化カリウム及び/又は塩化マグネシウム:カテキン類=1:1〜30000:1で含有する抗菌組成物。
【請求項4】
塩化カリウム及び/又は塩化マグネシウムが0.5〜30質量%、カテキン類が0.001〜0.5質量%、並びに食塩50質量%未満を含有する調味料組成物。

【公開番号】特開2010−259404(P2010−259404A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−114373(P2009−114373)
【出願日】平成21年5月11日(2009.5.11)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】