説明

食用油再生用濾過剤

【課題】 天ぷら、フライ等の揚げ物惣菜、ドーナツその他揚げ菓子類、諸々の揚げ物などの調理に使用された使用済み食用油の酸価値及び色相等を簡便な手段により改善し、再使用可能に処理するための食用油の再生用濾過剤を提供する。
【解決手段】 特定の酸塩基度及び比表面積を有する複数種のフィラーからなる食用油再生用濾過剤であって、使用済み食用油を濾過処理し、食用油の酸価値、色相などを再利用可能な状態に改善する食用油の再生用濾過剤であり、特に微粒子を含む無機フィラーを選択し、かつ濾過剤と濾紙の間に特定の目開きを有する多孔夾雑シートを存在させることにより濾過処理速度の改善が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温で使用中に酸価値の上昇、ゲル化による粘度の増加、さらには色相の劣化等により再使用に適さない使用済み食用油を、濾過処理することにより再使用可能な食用油を回収することを目的とする使用済みの食用油再生用濾過剤に関する。本発明に係る食用油再生用濾過剤によって濾過処理を行うことにより、使用可能期間が大幅に延長されると同時に、新品の食用油の配合量が低減され、廃油廃棄処理に関わるエネルギーなどの環境ライフアセスメント(LCA)の低減をもたらすことができる。
【背景技術】
【0002】
天ぷら、フライ等の揚げ物惣菜、ドーナツその他揚げ菓子類等各種の揚げ物用調理に使用される主たる植物油は、大豆油、パーム油、なたね油、ひまわり油、落花生油、綿実油、椰子油、パーム核油、オリーブ油、紅花油、ゴマ油、米油などであり、調理対象食材の種類や調理人の好みに合わせて適宜選択され調理に利用されている。これらは、例えばオレイン酸、リノール酸、リノレン酸など炭素数12ないし22の飽和脂肪酸または二重結合を分子内に1乃至3有する不飽和脂肪酸とグリセリンとのエステル結合を生成してなるトリグリセリド体である。
【0003】
エステル化合物は水分の存在下で、さらに高温に曝されると可逆反応によりフリーの脂肪酸が遊離されることはよく知られている。また微量の触媒作用で著しく分解反応が進行することもよく知られている。また、触媒作用は食材に含有されている成分などにも影響を受ける。これら遊離脂肪酸は分解の連鎖反応により炭素数がさらに低いカルボン酸、ケトン類まで生成することがあり、150〜200℃近傍の調理温度では発煙の原因にもなることから好ましくない。
【0004】
また、不飽和酸は二重結合のα、β位にある水素、アルキル基が酸素により酸化し、カルボニル、過酸化物を生成し、それ自身発色する原因にもなり、さらには過酸化物の分解により発生した活性ラジカルが隣接するトリグリセリドの分子の水素を引き抜き、その結果両分子間で架橋することも起こり得る。これが結果として粘凋な油となることから、調理中に泡が発生し易くなり、かつ消泡し難くなるため、揚げ物の油切れが悪くなり、味、食感を低下せしめる原因となる。以上のように遊離脂肪酸により酸価値を上昇、二重結合部の酸化劣化による色相悪化、過酸化物による架橋反応を通じた粘度の上昇や発煙など何れも植物油を長く使用する際の障害となっている。厚生労働省による総菜調理時の酸価値ガイドライン2.5、菓子類の場合のガイドライン値3を超えると使用できず食品加工業界では廃棄せざるをえない状況にある。その一方で、調理後フライヤーの加熱を停止しても、高温を維持したまま空気や蛍光灯から発する紫外線の影響によっても劣化は進行することが多く、酸価値3を超えて極端には6付近まで上昇することがある。
【0005】
しかしながら、廃棄された油の使途は限定されている。近年、地球温暖化防止対策の一環として、廃油からバイオディーゼル燃料を生成する試みもなされてはいるが、反応系に過剰のアルコールを必要とする一方で、副反応生成物のエチレングリコールの利用価値が小さいため新たな問題を引き起こしている。エチレングリコールを副生成しないプロセスの研究もなされてはいるが、たとえ完成したとしても日本の現状では廃油の供給量とバイオディーゼル燃料を必要としている需要との圧倒的なギャップが当面継続されるものと予想される。結局は燃料ないし燃焼助剤として利用する以外になく、この場合も炭酸ガス排出を伴うことは不可避であるなど環境面からも好ましくない。
【0006】
また、大型の油製造業と異なり、1日の使用量が5リットルから5000リットル程度である中小規模のコンビニ、ファミーレストラン、レストラン、ホテル、製麺工場、製菓工場等にあっては使用量に対応する廃油貯蔵スペースすら無いことも珍しくない。したがって、廃油回収まで貯蔵しておくことすら困難が伴うばかりでなく回収費用の負担、廃油回収ならびに輸送も含めたLCA問題などにも配慮する必要がある。一方で、人口増加による調理用植物油の消費量拡大に応じてプランテーション面積の拡大も必須となり、動植物などの生態系のバランスを破壊する一因ともなっている。このことから、食用油を使用する調理現場において使用済み調理油の簡便な再生処理手段が資源の有効利用及び環境保護の観点から強く求められている。
【0007】
上記のような背景に基づき、中小規模の厨房において要求される使用済み食用油処理の主な問題点としては、
1.調理段階において油脂から遊離した脂肪酸の削減が可能であること、
2.油脂自体の劣化による発色、さらに食材から移行した色素による色悪化が改善できること、
3.油脂の架橋により高粘度となった油脂の粘度低下が可能であること、
4.再生された食用油が繰り返し使用に耐えること、
5.厨房規模に応じた簡便な装置によって上記1〜3が可能であること、
6.処理時間が短いこと、
等が挙げられる。
【0008】
従来から調理過程において発生する揚げカス、焦げに伴う生成物など介在物を油漉し器や活性炭と混抄された濾紙により濾過・除去することが現場でなされてきた。しかしながら、このような単純な濾過処理では上述の問題点1〜3を解決することはできない。特許文献1は、天然ゼオライトの粉体とカキ殼等のカルシウムを多量に含んだ粉体とを混合して球状体を形成し、これを電気炉で焼成したセラミックボールを調理中の食用油に入れることにより酸化防止を目的とする内容を提案するものであるが、上記問題点2の発色変化の色改良はできず、上記問題点1、3および4に該当する酸価値、粘度および有効寿命等において欠点がある。また、特許文献2は、同じく調理中の油中に少なくとも一対の交流電極を設け、高圧交流電流により油中の水を電気分解させ、発生した水素で脂肪酸を還元する方法を提案している。これは装置費用対効果の面、作業安全性の面などで問題があり、かつ油の有効寿命の延長も困難である。
【0009】
特許文献3は、油槽内に静電場を確実に形成する静電場フライヤーを開示している。この装置は、遊離酸の発生を抑制するものと思われるが、油の有効寿命が同様に短いことが指摘されている。またフライヤーが必然的に大きくなり、揚げ滓などの固形物の除去作業、フライヤーの清掃作業も困難である。これ対して吸着剤の利用が広く提案されている。食用油を工業的規模にて製造する場合、原料由来の着色、臭気を除去するプロセスとして従来活性白土を3〜5重量%配合して不活性ガスの中若しくは減圧下で混合させ、次に活性炭が充填されているタンクに移送して濾過する手段が開示され、遊離脂肪酸や不純物を除去するために水蒸気と共沸蒸溜がなされる構成が開示されている。
【0010】
特許文献4には、比較的中規模の再生プラントのようであるが、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、合成フィロケイ酸マグネシウム、シリカ、マグネシア、二酸化ケイ素及び活性白土からなる群から選択される食用油の脱酸剤において、粒径が50〜200μmに造粒されてなることを特徴とする食用油の脱酸剤が提案されている。しかしながら、粒径が大きいため濾過速度では有利であること以外の効果については詳述されていない。また、活性白土は空気中において酸化値が極端に悪化することが知られており、食用油処理上は好ましくないものと解される。その他の金属酸化物、金属水酸化物の中には一時的に酸価値を低下させることはあるものの、翌日の調理中に急激に酸価値が上昇するような不具合が確認されている。また調理中における泡の発生も観察されていることから金属石鹸が生成しているものと解され、好ましくない。
【0011】
特許文献5には、油脂類若しくは鉱油類の脱色剤としてジオクタヘドラル型スメクタイト粘土鉱物の酸処理により得られた特定の粒子径ならびに嵩密度を有する活性白土からなる油脂類若しくは鉱油類の脱色剤が開示されている。しかしながら、活性白土については上述のごとき不具合があるので好ましくない。
【0012】
特許文献6では、最適な吸着剤としては使用後の食用油中に下記A,B,C群から選択された吸着剤を分散させ、次に該当する吸着剤を濾過除去するプロセスが提案されている。
A群:セピオライト、酸化カルシウム、珪酸カルシウム、水酸化カルシウム、キチン、キトサン、ジエチルアミノエチルセルロース、水酸化アルミニウム
B群:活性白土、活性アルミナ、珪藻土、シリカゲル、ゼオライト、アルギン酸、酸化セルロース、カルボキシメチルセルロース、シリカアルミナゲル
C群:活性炭、活性炭素繊維、セルロース微粉末、ナイロン極細繊維、オリエステル極細繊維、グルコマンナン微粉末
この特許文献6は前記問題点3で指摘の粘度調整に言及したものであり、確かに濾液の透明性向上に関する効果が期待されるものの、系統的な整理がなされていない。したがって、A群、B群、C群の中には群の中、及び他群との非合理的組みあわせにより酸価値の改悪が懸念され、そして色相改良に関する大きな効果は期待できない。さらに、油中の分散性を確保するための攪拌装置が必要であること、またこの特許文献においても中小食品調理業界で最も要求される濾過処理時間に関する対策がなされていない。
【0013】
特許文献7は、古くからその吸着能に着目し現在でも工業的吸着剤や脱臭剤として使用されているセピオライトの利用を開示するもので、充填剤が酸化カルシウムCaOと酸化マグネシウムMgOの合量が2%から12%であるセピオライトを含むことを特徴とする食用油再生用濾過材を利用して、酸価値、色相の改良が図れることを開示している。針状セピオライトの凝集体である針状フィラーの絡みで生ずる空隙に劣化油脂がトラップされるメカニズムである。しかしながら、アスペクト比の高い針状フィラーを濾過剤に用いた場合、使用後の廃棄物処理段階ならびにその後における危害予防に関する制限の増大が懸念される。
【0014】
特許文献8には、シリカ成分とマグネシア成分とを、式:R=Sw/Mw式中、Swは、SiO換算でのシリカ成分の含有量であり、Mwは、MgO換算でのマグネシア成分の含有量、で表される重量比(R)が10≦R≦20の範囲となる割合で含有し、粉末法X線回折像においてケイ酸マグネシウムに由来する回折ピークを示さず、且つシリカ成分層がマグネシア成分層をサンドイッチ構造の三層部分をシリカの微粒子からなるマトリックス相が包含した状態を形成しており、0.15mmol/g以上のメチレンブルー吸着能、且つ窒素原子(N)換算で3.6mg/g以上の揮発性塩基吸着能を有していることを特徴とする、繰り返し使用された食用油の再生に用いるシリカマグネシア系製剤を提案している。酸化マグネシウムの強い塩基性を制御することで金属石鹸の生成を抑えることができる点では有意な技術である。しかしながら、この技術をもってしても調理後にも酸価値が悪化して3以上にもなってしまった油の酸価値を低下させることは困難であり、調理終了後で新油の継ぎ足し量を増加させる必要がある。
【0015】
また、上記特許文献8と同一の発明者等にかかる特許文献9に記載の構成は、シリカ成分Swとマグネシア成分Mwの重量比(R)が0.2≦R≦1.3の範囲で含有し、シリカ成分層とマグネシア成分層が並行に接合した層構造を形成しており、0.20乃至0.25mmol/gの脂肪酸吸着能を有している食用油の精製処理に使用するシリカ・マグネシア系製剤である。この製剤を使用することにより、回収油の色相が改良されることを開示している。油の着色が揚げ玉由来成分とのメイノーラ反応に基づくとの知見を基礎として開発されたものである。よく研究された技術ではあるものの、当該式Rは酸価値、色相の双方をカバーしてはいないことは明白であり、その後も両方同時に満足する濾過剤の出現が待たれていた。さらには、当該発明者等のシリカ/マグネシア系製剤の製造にはシリカ成分と酸化マグネシア成分を温水中において長時間攪拌の後、スラリーを粗大粒子化する工程が開示されている。スプレードライ等による脱水・造粒の工程はコストがかかる上、循環濾過、自然濾過方式程度の濾過圧では濾過速度が遅い欠点があることから、粒子径を粗大化する工程が必要であるため、設備コスト、能力の制限等のために、より大きな市場が予測される中での対応は容易ではない。したがって、粒子径が粗大でなく、多数の店舗等に供給できる粒子径でも濾過可能な濾過装置の工夫が必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開平5−330951号公報
【0017】
【特許文献2】特開2006−124461号公報
【0018】
【特許文献3】特開2000−271018号公報
【0019】
【特許文献4】特開2001−335793号公報
【0020】
【特許文献5】特開2008−31411号公報
【0021】
【特許文献6】特開2005−213309号公報
【0022】
【特許文献7】特開平8−239686号公報
【0023】
【特許文献8】特許第4503244号公報
【0024】
【特許文献9】特許第4669212号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
本発明は、上記従来技術における諸問題点を考慮して、使用済み調理油を吸引循環型濾過装置及び自然流下方式濾過装置を利用して濾過処理を実施する際に、酸価値の低下、高粘度架橋体並びに着色物質の吸着分離を図ることにより、調理後における使用済み食用油の濾過処理時間の短縮を可能とし、従事者の作業時間短縮を通じて経済的かつ合理的業態を可能にし、結果的に廃棄油量の削減を可能とすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0026】
請求項1に記載の発明は、昇温脱離測定法による炭酸ガス吸着量が300μmol/g以上、アンモニア吸着量が500μmol/g以上であり、かつBET比表面積が150m/g以上である単独若しくは複数の無機フィラーないし有機フィラーの組み合わせから構成される組成物による食用油の再生用濾過剤であることを特徴とする。
【0027】
請求項2に記載の発明は、前記無機フィラーがシリカ、シリカマグネシア及びハイドロタルサイト類化合物の単独若しくは2以上の組み合わせからなる乾式混合物、または2以上の組み合わせからなる湿式混合物、活性炭とシリカマグネシアとの湿式混合物、活性炭とハイドロタルサイトとの湿式混合物から選ばれる単独若しくは2つ以上の組み合わせであり、前記有機フィラーが食物繊維である食用油の再生用濾過剤であることを特徴とする。
【0028】
請求項3に記載の発明は、濾過材と濾紙又は濾布間に目開き0.01mm〜30mmの多孔夾雑シートを挿入してなる食用油の再生用濾過剤であることを特徴とする。
【0029】
請求項4に記載の発明は、無機フィラー及び食物繊維からなる濾過剤の200℃における脱離水分量が調理済み食用油の1リットル当たり3g以下である食用油の再生用濾過剤であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0030】
本発明に係る食用油の再生用濾過剤は、総じて遊離酸と反応する機能並びに着色物質と反応する機能があり、油中にそれらの反応生成物が遊離した場合にあっても補助的に吸着する機能を備えている。また、濾過工程の一面は、濾過剤と廃油との界面に作用する剪断速度に対して流速分布を与えることであり、それぞれの流速にあった濾過物が分離される工程であると解釈することができる。この濾過剤の表面では、廃油の高粘度成分は剪断速度が極めてゼロに近い界面においてさらなる高粘度物となり、それ以上流動することがなくなって捕捉される。濾過が単なる遊離酸や着色物質の吸着だけではなく、調理中に発生した、例えば架橋による高分子量劣化物も除去できる理由と考えられる。
【0031】
これらの作用は、当然のことながら、濾過剤の粒径が細かいか又は比表面積が大きければ大きい程有効ではあるが、反面濾過速度の低下を招来する二律背反の関係となる。この二律背反の関係を破って双方共に達成する一つの方法が濾過剤と濾紙との間に目開き0.1mm〜30mmである織物夾雑シートの挿入である。このような夾雑シートを挿入することにより、微粉末を有する濾過剤であっても濾過速度が著しく改善されることになる。単純な原理ではあるが、本発明以前において当業者の知見等の開示はなかったものと解される。
【0032】
本発明は特許請求の範囲に記載した通りの各種食品加工用食用油の濾過による酸価値の低下、色相の改良及び架橋による高粘度劣化油の除去方法、さらには濾過速度の改善を志向したものである。即ち、使用済み油を吸着層で濾過処理するにあたり、濾過剤が特定の測定法による炭酸ガス吸着量が300μmol/g以上、アンモニア吸着量が500μmol/g以上でありBET比表面積が150m/g以上である単独若しくは複数の無機フィラー、有機フィラーの組みあわせから構成される組成物において、構成成分の炭酸ガス吸着量及びアンモニア吸着量の加重平均値が当該範囲である使用済み調理用油の再生用濾過剤であり、これを特定の形状を有する夾雑シートを濾紙との間に挿入することにより濾過速度が大幅に向上しかつ持続するものである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
次に本発明の実施の形態について説明する。先ずここで昇温脱離測定法について詳述すると、本発明では無機フィラーおよび有機フィラーからなる濾過剤は、アンモニア吸収量及び炭酸ガス吸収量が最適範囲内にあることが極めて重要である。この測定原理は無機フィラー・有機フィラー試料をTPD−MS(昇温熱脱離・熱分解―質量分析)装置内に設置し、前処理としてヘリウム(He)ガスを60cc/minで流しながら室温から100℃まで5分で昇温し、100℃において15分間保持する。次いで100℃に保持しながら真空排気し、5%NH/Heを60cc/minの速度で流通させ、15分間アンモニアを吸着させる。その後真空排気しながら30℃まで冷却し、真空中で15分放置し、物理吸着したNH
を取り除く。この後、Heガスを流通し(60cc/分)、質量分析装置MS(m/z=15)が安定するのを待つ(60分以上)。MSが安定後He流通中(60cc/分)で30℃から600℃(昇温速度:5℃/分)まで昇温したときに出てくるNHガスを質量分析計により観察する。
【0034】
同様に炭酸ガスCOについても測定する。MS(m/z=44)の安定後、He流通中(60cc/分)で30℃から600℃(昇温速度:5℃/分)まで昇温したときに出てくるCOガスを質量分析計により観察する。
【0035】
今回の測定には、Quantachrome社製の下記測定装置を使用した。
「高性能全自動ガス吸着量測定装置(AS−1−C/VP/TCD/MS)」
検出方法; 質量分析計
型式;プリズマQMS200F2型
検出方法;ファラデー
検出限界;2×10−13kPa
検出器条件 質量分析計
測定モード:MID(多重イオン検出)測定
測定質量数 NH;15,16
CO:44
使用セル; 化学吸着量測定用セル(12φ)
【0036】
この時の濾過剤単体及び組成物の場合の加重平均としてのNH量が他ガス成分由来のピークを除外して500μmol/g以上が色相改良の面で特に好ましく、さらに好ましくは5000μmol/g以上である。一方、濾過剤単体及び組成物の場合の加重平均としてのCO量が300μmol/g以上が好ましく、さらに好ましくは400μmol/g以上である。
【0037】
無機フィラーおよび有機フィラーのそれぞれの固体表面酸塩基度について固有の値があり、上述の最適酸塩基度の両方を満足する範囲に入る物質は極めて少ないが、固有の酸塩基度のそれぞれの重量加重平均則にて求められた値が当該範囲に入れば使用することができる。また、濾過直前にドライブレンドでも当該範囲に入る以外に、例えば湿式処理により相方成分以上の特性を発揮することも利用できる。いずれにしても、非常に有意義な指標が本発明により判明したことは、従来の事例にみられるように一部の経験に基づいて普遍化しえなかった故に列挙された濾過剤の中には不適切なものが含まれる混乱もあった点に鑑みると工業的な意味は非常に重要である。
【0038】
対象となる無機フィラーおよび有機フィラーとしては好ましいのは合成非晶珪酸塩及び又はハイドロタルサイト類化合物が基本配合の無機、有機フィラーである。ここで合成珪酸塩の出発物質のシリカについて詳述する。合成非晶シリカは、各種天然シリカを出発として、珪酸ナトリウム、四塩化ケイ素、ケイ酸エステル等を軽油して、シリカゾル、湿式シリカ、乾式シリカ、ゾルゲルシリカなどが合成されている。本発明では特に湿式法シリカが好ましい。沈降法シリカは比較的高温のアルカリ性の領域で反応させる。
NaO・SiO+HSO→nSiOO+NaSO
この結果、一次粒子がフロック状に凝集し沈降することから沈降法シリカと呼ばれている。反応条件などにより比表面積の異なるグレードを得ることができる。また、比較的中性領域で低温、高い塩濃度の条件下で反応させることにより、一次粒子の成長を抑えながら凝集を起こさせた後、凝集した状態で一次粒子を成長させるような合成方法もある。この方法によれば比表面積、細孔容積を飛躍的に高くすることができる。この沈降法シリカは、日本シリカ工業(株)、EVONIK社、水澤化学工業(株)、(株)トクヤマ等から市販されており容易に入手可能である。
【0039】
また、ゲル法合成シリカはケイ酸ナトリウムと硫酸の中和反応を酸性のpH領域で進行させることにより、一次粒子は成長なしに凝集を起こす。この時、凝集体が形成する3次元的網目構造により反応液全体が一塊のゲルとなる。細孔容積や細孔分布の制御は反応熟成、水洗の工程を経たシリカヒドロゲルの乾燥を、水蒸発時の表面張力による収縮力を変化させるように水蒸気分圧を調整するか、シリカヒドロゲルの残留水分を調整することにより得られる。このゲル法シリカは富士シリシア(株)、水澤化学工業(株)、日本シリカ(株)、WRグレイス社、SCM社から入手可能である。
【0040】
かかるシリカ成分と酸化マグネシウムを温水中で攪拌することでシリカ/マグネシウム・多層構造体からなる合成珪酸塩が生成されることが報告されているが、当該化合物も利用できる。これらの化合物は合成珪酸塩の具体例としては、合成珪酸マグネシウムでMgO/SiO比が10〜25/90〜75の範囲にあるもので富田製薬(株)トミタAD600、協和化学工業(株)からキョーワード600、水澤化学工業(株)からはミズカライフP−1Gなどが挙げられるがこれらに限定されるものではない。また、合成珪酸アルミニウムとしてはAl/SiO比10〜25/90〜75の範囲にあるもので、富田製薬(株)トミタAD700、協和化学工業(株)キョーワード700、触媒化成工業(株)シリカアルミナが挙げられる。また、MgOをCaCOに置き換えた合成珪酸カルシウムの富田製薬(株)トミタAD850Hなども挙げられる。
【0041】
しかしながら、所望するNH3、COの双方を満足するものは少ないが、その他の無機化合物を配合し調整することで補完できる。例えば、シリカマグネシアの場合はタルク(含水珪酸マグネシウム)、クレー、カオリン、珪酸カルシウム、珪酸カルシウムウイスカー、塩基性硫酸マグネシウムウイスカ、セピオライト、チタン酸カリウム、チタン酸カリウムウィスカー、天然スメクタイト、合成スメクタイト、ワラストナイト、雲母、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸カルシウムウイスカー、酸化亜鉛ウィスカー、多孔質リン酸カルシウムなどとの併用が可能ではあるが、食品添加物の制約、廃棄物としての制約など勘案して選択される。ここでは、
アンモニアガス量=Σn成分アンモニアガス量×重量%/n
で計算できる。ただし、フィラーとしてシリカ、シリカゲルを追加配合することでさらなる色相の改良ができることが判明した。これは、アンモニア吸着量そのものは少ないが、比表面積などの要因も勘案して整理することを示している。
【0042】
一方、ハイドロタルサイトは高い炭酸ガス吸着能を有することから非常に有用である。日本ではハイドロタルサイトは本特許出願時点においては食品添加物として認定されてはいない。しかし、米国FDAには食品添加物に認定されているグレードがある。胃酸調整剤として広く医薬品には利用されているグレードである。米国でのフライドチキン、マクドナルド等での食品調理、即席ラーメンなどに適用されているパーム油の再生には利用が期待できる。この化合物はMg‐Al水酸化物八面体層の層状化合物で層間に陰イオンを内在している。類似構造の活性白土が層間に陽イオンを内在していることと対極にある。
【0043】
医薬品としての胃薬の制酸剤として、工業用途としてはポリオレフィン製造触媒残渣である酸性成分の中和剤として使用量が増加している。この制酸剤としての効果が油再生の遊離酸をトラップする作用に働くことが本発明者により確認されている。好ましいハイドロタルサイトの例としては、例えば、協和化学工業(株)キョーワード500、アルカマック500、MgOAl(OH)16CO4HO、キョーワード1000、MgO4.5Al(OH)13CO3.5HOなどが挙げられる。しかしながら、このハイドロタルサイトはアンモニア吸着量が少ないことから酸価値の改良には寄与するものの、色相改良には今一歩である。その他の無機フィラーと併用することで炭酸ガスの所望のゾーンに入れることができる。その場合は次式により計算が可能である。
炭酸ガス量=Σn成分CO×重量%/n
【0044】
また、単なるブレンドではなくハイドロタルサイトに合成珪酸塩、比表面積の大きなシリカ、シリカゲル、活性炭の少なくとも一成分以上を温水混合して共沈させる湿式処理により得られる生成物(略湿式処理共沈物)や活性炭とシリカマグネシアとの湿式処理共沈物などからは、単純な相互ブレンドよりもバランスのとれた濾過剤が得られることが判明した。これらの製造法を例示すれば、協和化学工業(株)ハイドロタルサイト(アルカマック500)の80重量部、水澤化学工業(株)のシリカ(C6)の20重量部を温度80度の温水2000重量部に入れ、家庭用調理器具であるバーミックス攪拌機にて15分間攪拌した後1時間放置後減圧濾過した。得られたケーキは葛餅風であり、単なる粉末の混合系ではなくハイドロタルサイトの層間とシリカとの間で何らかの化学的、物理的変化が生じていることが推察された。その後1昼夜風乾後120度真空乾燥機にて乾燥した。また、活性炭CAL(カルゴンカーボンジャパン社製)/ハイドロタルサイト系においても同様の実験をして湿式処理共沈降物を得たが、この系の温水混合攪拌停止後水と固形分とが速やかに分離したが、その固形分の外観はスピノーダル分解型模様をしており、ここでも活性炭とハイドロタルサイトと相互侵入の形態が推察された。
【0045】
上記アンモニア吸着量に炭酸ガス量に加えて比表面積も重要であるが、比表面積が不足の場合は高い比表面積を有する多孔質材料を添加することで補完することができる。かかる高い比表面積を有するものはシリカ、シリカゲル、活性炭などであり、それぞれの比表面積の合算が150m/g以上であればよい。さらに好ましくは300m/g以上である。低い比表面積のフィラーであれば濾過剤の量を増加すれば良いが、濾過剤を増量すれば濾過圧力の損失が大きくなって、濾過速度の低下、さらには濾過剤の無駄使いや油吸着後の廃棄処理問題にも影響するので適切な濾過剤量から逆算される比表面積が要求される。
【0046】
レストラン、コンビニ、料亭などの小規模調理現場でのフライヤーの規模は6リットル〜60リットル程度であり、当該調理済み油の自然流下方式濾過装置や循環濾過方式濾過装置のサイズから逆算して濾過剤の量としては約8〜30g/リットルが妥当な量である。これに合致する比表面積を算出するとBET比表面積が150m/g以上が好ましい。比表面積が150m/g未満では濾過剤量が増える。より好ましくは300m/gである。700m/gを超えると、フィラーの多くは超微粒子を有していることから、濾過装置へ調理済み油を投入した際に濾過剤内の空気に随伴して舞い上がるなど作業面での不都合があり好ましくない。
【0047】
フィラーの比表面積は前述の自動ガス吸着量測定装置(Quantachrome社製 AS-1-C/VP/TCD/MS)による窒素吸着法によるBET法で求めた。ここでフィラー単独若しくは複合組成物の比表面積は下式で算出される。
比表面積=Σn成分比表面積×重量%/n
この点を改良すべく鋭意検討した結果、かかる合成珪酸塩に比表面積の大きいシリカ、シリカゲルを配合することで更なる色相の改良ができることが判明した。これらのシリカ化合物は、水澤化学工業(株)製ミズカシルゲルタイプ(P−78D、P−78F、P−705、P−707、P−709、P−50)、ミズカソープ社(C1、C6)、富士シリシア社 サイロページ 721、720、770、760及びサイロピュートなどが例示される。また活性炭としては原料別に石炭系、ヤシガラ系、大豆殻系があるが、食品用途としてはヤシガラ系が好ましい。これらはカルゴンカーボンジャパン社、味の素ファインテクノ(株)、日本エンバイロケミカル(株)などから入手することができる。
【0048】
濾過速度を向上させるために濾過助剤が一般的に使用される。本発明でも規定のアンモニア吸着量、炭酸ガス吸着量、比表面積が阻害されない範囲で利用できる。一般的に濾過助剤は、スラリー中の固体又はコロイド状物質などを吸着又は包合させることにより、濾過抵抗を減じ、濾材の目詰りを防止し、高清澄度の濾液を得るなどの目的で使用されるものである。従来、珪藻土、パーライト、セルロースなど各種使用されている。珪藻土とは藻が水中に浮遊して繁殖する際に水に溶けているシリカを取り入れて細胞を覆う珪藻殻を作るが、その集合体は中空であり清澄な濾液を得るために利用されている。またパーライトは黒曜石と近縁の真珠岩から作られる。これら珪藻土やパーライト及びセルロースの濾過助剤としての効果は、杉本泰治著「沪過は語る 技術はいかに進むか」(1994年:地人書館出版)に詳述されている。セルロースとしては綿、木材パルプ、非木材パルプ、ケナフ、麻、及びサトウキビ、トウモロコシ由来のバガスなどが利用できる。セルロースはその原料によって繊維の密度、配向、空隙などが異なるので適宜選択される。
【0049】
本発明では濾過助剤としてだけではなく、色相改良の効果もある植物繊維の併用が好ましく、なかでも水に不溶性の食物繊維であるセルロースが好ましい。また、キチン、キトサンなど甲殻類由来の繊維に加え、昆布由来の繊維も含まれる。特に好ましいのは乾燥オカラである。食物繊維を19〜60重量%含有しており、親油性と親水性の両方の特徴を有していることから遊離酸生成物、着色還元生成物の遊離物を吸着する機能が確認された。添加は、ボディフィードにおいても、プレコートでも少量で効果が発揮される。他の濾過助剤に比較して極微粒子をトラップする能力に優れ、清澄な濾液が得られる。乾燥オカラはみすずコーポレーションから「ビーンフラワー桜」として入手できる。濾過剤に配合する比率は濾過剤全体の0.5〜5重量%が好ましい。0.5重量%未満では効果が少なく、5重量%を超える場合は、おから成分由来の匂いが気になる場合があるので好ましくない。
【0050】
本発明の濾過剤には、本発明の目的を損なわない範囲で酸化防止剤としてトコフェロール、消泡剤としてジメチルシリコーンオイル類を配合することができる。また、本発明の濾過剤の混合については従来から公知の方法を採用することができ特に限定されない。即ちタンブラー、Vブレンダー、ヘンシェルミキサー、リボンブレンダー等で各材料を分散混合することができる。また、混合せずに各材料を積層しても効果を損なうことはない。粒径の大きな原料を上層に、下部には濾過助剤がセットされると濾過速度が向上するので好ましい。
【0051】
前記濾過剤を直接濾紙または濾布上にセットすることも可能であるが、濾過剤を布や不織布で包装することが現場での取り扱いにおいて、また濾過処理後に濾過剤を除去する場合にも容易である。ここで包装する布としては麻、さらし、シーティングなどが好ましく、不織布の場合は耐熱性の観点からポリエステル不織布が好ましい。但し、不織布の場合は目付60g/m〜100g/mの範囲にあることが好ましい。60g/m以下では無機フィラーの微粒粉が袋から漏洩する不具合があり、また100g/mを超えると油が濾過剤まで浸透するのに時間を要するので不適当である。なお、濾過剤が包装された包装体の仕上がりサイズは濾紙より大きいことが好ましい。さらに、実際の廃油投入時には包装体に内在する気泡により油中に浮き上がることもあるので、包装体を留める押さえ治具など工夫が加えられることが好ましい。
【0052】
本発明では、濾過剤包装体と濾紙若しくは濾布の間に特定の多孔夾雑シートを装備することで、濾過剤に微粉末を用いた場合でも飛躍的に濾過速度が改善されることに想到した。この多孔夾雑シートは上記濾過剤包装体内の最下層に設置してもよく、また包装体と濾紙や濾布の間に存在させても効果を発揮することが確認された。多孔夾雑シートとしては金属メッシュ、セラミックメッシュ、メッシュ織物、チュール、オーガンジー、漁網、クロスネット、押出成形ネット、及び不織布などが好ましい。なかでもナイロン製やポリエステル製のメッシュ生地、チュール等が好ましい。繊維の編み方としては本目編み、蛙又編み、無結節編み、ラッセル編み、綟子編み、織編みなどがある。これらの夾雑シートは目開き0.01mm〜30mmでシート状の多孔夾雑シートである。全体の形状は下部濾紙と同一であることが好ましいが、これに拘らず濾過面積の70〜150%であれば任意の形状を取り得る。
【0053】
網目の形状については円形、多角形の何れでも適用できるが、その場合の目開きとは、円形の場合は内径を、多角形の場合は対角最大長さを指す。また多孔夾雑シートについては複数枚適用してもよく、それぞれの目開き、及び目の形状が同一でなくても適用できる。好ましい目開きは0.05mm〜10mmである。さらに好ましくは0.2mm〜5mmである。
【0054】
上述の如く最適な無機フィラー、有機繊維及び必要に応じた濾過助剤は比表面積が大きく多層構造体をなしているものが多いことから付着水、結晶水などを含有している。当該物質の表面は特に反応性の富むことから、濾過剤の油処理温度での脱離水分量の管理は重要である。特に濾過剤の一つの役割は廃油中の遊離酸を吸着することで酸価値の低減するものであるが、その濾過剤の表面において油脂の加水分解を促進することがあってはならない。
【0055】
最適な水分量は濾過剤使用量に対する処理油の量に依存するが、濾過剤が200℃で離脱する水分は処理油1リットル当たり3g以下が好ましい。3gを超えると酸価値の改良効果は小さくなる。さらに1g以下がより好ましい。濾過再生処理直前の水分が3g以下になるように包装・物流・保管等において注意が払われる必要がある。一般に水分量の測定は加熱減量から算出するが、水分以外の成分の揮発・離散などがあり正確ではない。そこでカールフィッシャー法による所定の温度で蒸散する水分量を測定した。測定機器は「平沼産業株式会社製AQ2100及びEV−5A」であり、加熱ボートにサンプルを入れ200℃―10分間で蒸散する水分量を測定した。
【0056】
以下に好ましい実施例を開示するが、これら実施例は本発明の技術的範囲を限定するものではない。なお、以下の実施例および比較例の各特性を表す数値は添付の表1に記載している。表1中で使用された各材料ないし素材の略称と製造社名および商品名の対応は以下の通りである。
シリカマグネシア:富田製薬(株)製−トミタAD600
シリカ(A):水澤化学工業(株)製−C6
シリカ(B):富士シリシア(株)製−サイロピュート700
合成ハイドロタルサイト:協和化学工業(株)製−アルカマック500
活性炭:カルゴンカーボンジャパン社製−CAL
酸化マグネシウム:協和化学工業(株)製−食添酸化マグネシウム
乾燥おから:みすずコーポレーション社製−桜
【0057】
【表1】

【実施例1】
【0058】
濾過装置の概要は以下の通りである。内径130mm、高さ80mmのステンレス製円柱の下部にパンチングメタル及び東洋濾紙1号から直径130mmに裁断した濾紙をセットする(A)。なお、このパンチングメタルと円柱はシリコンにて封止してある。そして、頂部に24mm径のパイプでフライヤーに直結した半径65mmのステンレス製半円球逆ホッパー型(B)を被せ、上記(A)及び(B)をフランジで止めることにより得られる自然流下方式濾過装置を利用した。なお、フライヤーと本実施例にかかる濾過装置の接続パイプ途中に開閉弁を設けた。
【0059】
この濾過装置にアドバンテック社製1号濾紙、その上に目開き0.5mmの菱形孔を有する直径130mmの円形ポリエステル製メッシュ生地を置き、その上から目付70g/mのポリエステル不織布を直径200mmに裁断し円周から4mm内側を縫製した袋の中に、シリカマグネシア(富田製薬(株)製トミタAD600、アンモニア量(90℃、m/z=15、9114μmol/g、炭酸ガス量(前温度領域合計)611μmol/g、比表面積270m/g)90g、シリカA(水澤化学工業(株)製C6アンモニア量23μmol/g、炭酸ガス量
5μmol/g 比表面積400m/g)20gおよびシリカB(富士シリシア(株)製サイロピュート700アンモニア量30μmol/g、炭酸ガス量5μmol/g 比表面積700m/g)の20gを充填し、メッシュ生地及び濾紙上にセットした。そして、半円球逆ホッパー型(B)を被せ、フライヤーと接続した。なお、特許文献8に記載の富田製薬(株)AD600のR値は4である。ここに、R=Sw/Mw式中、Swは、SiO換算でのシリカ成分の含有量であり、Mwは、MgO換算でのマグネシア成分の含有量である。
【0060】
容量8リットル電熱ヒーター加熱方式のフライヤーにアドバンテック社製AVチェッカーで測定された酸価値(AV値0で)の食用菜種油(キャノーラ油さらさら;Jオイルミルズ(株)製)を投入し170℃に加熱した。次に約110g/個の豚肉片を小麦粉・水・卵からなるバッター液に浸漬した後、パン粉をまぶして8分間調理することを繰り返し50枚調理した。
【0061】
フライヤーから調理済み油をサンプリングして酸価値を測定したところ、調理済みのAV値は2.7まで上昇していた。油の色相は調理前の透明無着色から薄褐色まで変色した。この調理済み油を17mm角、高さ45mmのガラス製柱状セルに入れ、セルの後ろに白色コピー用紙を置き写真を撮影した。プリントアウトしたカラー写真をコニカミノルタ(株)製色彩計CM700DにてL値を測定したところ、L値41であった。なお、新油のL値は85であった。この調理済み油を、フライヤー下開閉弁を開け、濾過装置に注油し濾過装置から濾液が出る速度及び酸価値、色相を測定した。濾過速度は150cc/分、酸価値は1.5まで改良がなされ、同様の測定法による色相はL値55と色調が明るくなり、赤味が減少している油が得られた。特に注目されるのは濾過速度である。水澤化学(株)シリカC1の平均粒子径は10ミクロンで20gが配合されているにもかかわらず、濾過速度が大きいことは特に有用である。比較例にみるようにメッシュ生地の効果が大きい。
【実施例2】
【0062】
前記実施例1と同様の実験において、シリカマグネシア増量、シリカA,Bの量を低減した系での実験を試みた。この系のアンモニア吸着量、炭酸ガス吸着量、比表面積及び結果を表1に纏めた。本実施例より酸価値はさらに改良され、かつ色相はやや実施例1に比較すれば劣るが合格レベルにあることが判明した。
【実施例3】
【0063】
実施例1における濾過剤としてシリカ(A)の30重量部、合成ハイドロタルサイト(協和化学工業(株)製アルカマック500)の70重量%を2000重量部の70℃〜80℃の温水に入れ、バーミックスにて30分攪拌したのち30分静置後減圧濾過をし、さらにその後乾燥して得た湿式処理共沈物から130gを計り取って実施例1と同様の実験を実施した。濾過速度は160cc/分であり、酸価値は0.5であった。また、色相L値48であった。この実施例においても高い濾過速度を有しながら酸価値、色相共に優れた再生油が確保できた。
【実施例4】
【0064】
本実施例では、シリカに代えてシリカマグネシア60重量部とハイドロタルサイト;アルカマックの40重量部を、温水混合攪拌濾過乾燥工程を経て白色湿式処理共沈物を得た。この共沈物130gを用いて実施例1と同様の濾過実験を実施した。濾過速度は190cc/分であり、酸価値は0.5まで改良がなされ、色相はL値47であった。この実施例においても高い濾過速度を有しながら酸価値、色相の優れた再生油が確認できた。
【実施例5】
【0065】
実施例4において活性炭(カルゴンカーボン社製ヤシガラ活性炭CAL(アンモニア量2500μmol/g、炭酸ガス量 55μmol/g 比表面積1300)の20重量部と合成ハイドロタルサイト;アルカマックの80重量部を温水混合し、攪拌・濾過・乾燥の諸工程を経て湿式処理共沈物を得た。この130gを用いて実施例1と同様の濾過実験を行った。濾過速度は180cc/分であり、酸価値は0.5まで改良がなされ、色相はL値52となり、この実施例においても高い濾過速度を有しながら酸価値、色相の優れた再生油が確保できた。
【実施例6】
【0066】
実施例5において活性炭(カルゴンカーボン社製ヤシガラ活性炭CAL(アンモニア量2500μmol/g、炭酸ガス量 55μmol/g 比表面積1300)の20重量部とシリカマグネシアの80重量部を温水混合し、攪拌濾過乾燥工程を経て湿式処理共沈物を得た。この130gを用いて実施例1と同様の濾過実験を行った。濾過速度は180cc/分であり、酸価値は1.0まで改良がなされ、色相はL値66とこの実施例においても高い濾過速度を呈しながら酸価値、特に色相の優れた再生油が確保できた。
【実施例7】
【0067】
実施例1における系に乾燥おから(みすずコーポレーション社製フラワー桜)の5gを追加して同様の実験を実施した。濾過速度は220cc/分であり、酸価値は1.5まで改善され、色相はL値72と明るさが増していた。
【実施例8】
【0068】
実施例1で使用した調理済み油を200℃で7時間加熱して17時間かけて室温まで放置し、次に200℃で7時間再加熱することを3回繰り返して、色黒の油を得た。この油のL値は23であった。酸価値はAVチェッカーの4以上を超えて評価できないので、新油(酸価値0)の混合割合から比例計算が成立する前提で元の酸価値を算出したところ5であった。濾過剤として実施例1で使用した系を適用したところ、濾過速度は140cc/分、酸価値は3まで改良がなされ、色相はL値44であった。
【0069】
比較例1
実施例1においてメッシュ生地を敷かないで実験したところ、平均の濾過速度50cc/分であった。平均の意味は当初は温度が高いことから、70cc/分ではあったが、濾過速度の低下と共に、油温度の低下に伴って粘度が高くなることもあって30cc/分となり、平均でみても50cc/分と極めて遅い結果となった。配合の中ではシリカ(A)の平均粒径が10ミクロンであり、濾過剤の中に10ミクロン以下のパウダーが15重量%ある系においてはメッシュ生地の有用性が極めて重要であることが分かる。
【0070】
比較例2
実施例1および2の配合比を変更し、シリカ(A)、シリカ(B)を増加したところ、炭酸ガス吸着量不足により酸価値は2.0止まりと改良効果が小さいことが分かった。なお、この系は微粉が多い系ではあるが、濾過剤と濾紙間にメッシュ生地をセットしたことにより濾過速度が110cc/分となり、比較的高くなっていることが分かる。
【0071】
比較例3
実施例1において合成ハイドロタルサイトの130gのみで実験したところ酸価値が0.5となって改良効果は大きいものの、アンモニア吸着量及び比表面積の不足により色相L値は39と濾過前後で殆ど変化がないことが分かった。
【0072】
比較例4
比較例3において色相改良として一般的に知られている活性炭を添加して同様の実験を試みた。結果は活性炭由来の気泡が多く出たが、濾液の色には変化がなかった。
【0073】
比較例5
シリカマグネシアの構成成分であるシリカと酸化マグネシウムをそれぞれ濾過剤に入れ同様の実験をしたが、アンモニア吸着量、炭酸ガス吸着量、比表面積の何れにおいても不足していることもあって、満足するものが得られなかった。既存の濾過剤の多くがシリカ、酸化マグネシウムと表示しているものの実態はシリカマグネシアであろうと推定できる。
【0074】
比較例6
実施例3と同様に湿式処理した後、乾燥処理を室温にて風乾24時間、120℃循環型加熱オーブンに4時間の条件で乾燥した。見掛け上はさらさらのパウダーであった。カーフィッシャーによる200℃における揮発水分量は16%であった。このサンプルから得られた濾過特性は、濾過速度が160cc/分、酸価値が3、色相L値48であった。この比較例では濾過速度と色相は改善されているものの、酸価値は再生前と略同等であった。実施例3と比較すれば濾過剤の水分量が影響していることは明白である。
【0075】
比較例7
実施例8で使用した劣化油(酸価値5、色相L値23)に対してシリカマグネシア130gからなる濾過処理を実施したところ、酸価値は3と同程度に改善されたが、色相はL値31であった。これは、色相が極端に悪くなった劣化油に対しては所期の色相改善が困難であることが判明し、この場合は使用済み油の一部を廃棄し、新油継ぎ足しが必要になることが分かる。色相は微妙な着色剤で強く目に映ることもあり、酸価値の調整より色相調整の新油量が多く必要となるものと解される。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明に係る使用済み食用油の再生用濾過剤は、てんぷら、フライ等の揚げ物惣菜、各種揚げ物等の調理に欠かせない食用油が所定時間ないし所定処理回数を重ねた結果、酸化値上昇、ゲル化による粘度増加、さらには色相の劣化等による変質によって使用限界に達した調理用食用油を再使用可能な状態に再生するために有用である。この食用油の再生用濾過剤を利用することにより、多量の使用済み食用油を再利用可能な性状となるように効率よく再生することが可能であり、食用油の寿命を大幅に延長し、さらに廃棄量を低減することが期待できる。その結果、無駄が排除され資源の有効利用に資することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇温脱離測定法による炭酸ガス吸着量が300μmol/g以上、アンモニア吸着量が500μmol/g以上であり、BET比表面積が150m²/g以上である単独若しくは複数のフィラーの組み合わせから成る組成物を用いることを特徴とする食用油再生用濾過剤。
【請求項2】
前記無機フィラーがシリカ、シリカマグネシア及びハイドロタルサイト類化合物の単独若しくは2以上の組み合わせからなる乾式混合物、または2以上の組み合わせからなる湿式混合物、活性炭とシリカマグネシアとの湿式混合物、活性炭とハイドロタルサイトとの湿式混合物から選ばれる単独若しくは2つ以上の組み合わせであり、前記有機フィラーが食物繊維であることを特徴とする請求項1記載の食用油再生用濾過剤。
【請求項3】
濾過材と濾紙又は濾布間に目開き0.01mm〜30mmの多孔夾雑シートを挿入してなることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の食用油再生用濾過剤。
【請求項4】
無機フィラー及び食物繊維からなる濾過剤の200℃における脱離水分量が調理済み油の1リットル当たり3g以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の食用油再生用濾過剤。

【公開番号】特開2012−251095(P2012−251095A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−125916(P2011−125916)
【出願日】平成23年6月6日(2011.6.6)
【出願人】(511092088)株式会社グリーンパックス (2)
【出願人】(511136902)ポリマーアソシエイツ合同会社 (1)
【Fターム(参考)】