説明

食用粉の混練方法および混練装置

【課題】 食用粉と水を容器の公転および自転により発生する合成遠心力を容器の自転により周期的に変動させることで、短時間で均一に混練する。
【解決手段】 駆動手段4を備えた枠体1と、枠体1の上面に固定された支持体6と、支持体6に軸支され駆動手段4により駆動される回転体11と、回転体11の回転中心から半径方向に距離を置いた位置に傾斜配置され回転体の回転中心方向に傾斜した回転中心を中心に自転自在に軸支された回転部材13と、回転部材13に支持された容器21とを有し、水および食用粉の順に公転および自転する容器21に入れ、食用粉と水を容器21の公転および自転により発生する合成遠心力で混練する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、食用粉と水を容器の公転および自転の合成遠心力を利用して均一に混練する食用粉の混練方法および混練装置に関する。
【0002】
【従来の技術】日本そばやうどんを作る方式には、原料粉と水の混練から製麺までの工程を手作業で行なう手打ち方式と、原料粉と水の混練から製麺までの工程を機械で行なう機械方式とがある。
【0003】日本そばを手打ち方式で作る場合、水まわしと称されるそば粉全体に水を分散してそば粉と水を混練する作業が重要であるが、そば打ち職人による混練作業は、熟練度と相当な時間とを必要とする。特に、混練作業の初期段階であるそば粉全体に水が分散する撹拌作業が適切に行なわれないと、その後にそば粉と水を練り固める作業が適切に行われても手打ち独特の日本そばにならないことは経験的に知られている。
【0004】特開平9−299054号公報には、日本そばを手打ちで作る際に、そば粉と割り粉とを配合した原料粉に所定量の水を加え、原料粉と水を1kg/cm2程度の圧力を加えて練り固めるようにしたそば粉の加水方法が記載されている。
【0005】また、うどんを手打ち方式で作る場合、小麦粉と水を柔らかい粘土状に練り固め、練り固めた生地を生地全体に水分が均一に回るように足踏み等により加圧し、その後、練り固めた生地を所定時間熟成することが必要であることは経験的に知られている。
【0006】円筒形容器の内部に撹拌部材および回転棒を配置し、撹拌部材を円筒形容器の内周面に沿って回転かつ自転させ、回転棒を円筒形容器の中心軸線を中心として円筒形容器の内周面に沿って回転かつ昇降させることで原料粉と水の混練を機械方式で行う撹拌装置は、特開昭60−19438号公報に記載されている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】上記そば粉の加水方法は、そば打ち職人による手のひらの加圧力で原料粉を水を混練するので、加えられる圧力も1kg/cm2 程度に限られ、また、加圧の反復度も1秒/1回程度であるから、原料粉と水を短時間で均一に混練することができない。
【0008】うどんを手打ち方式で作る場合、小麦粉への水の浸透を促進しグルテンの組織展開を強化するために、大きい加圧力を短い周期で加えることが必要であるが、足踏み等による加圧力は職人の体重で基本的に決まるので加圧力および反復度に限界がある。
【0009】上記粘性物の撹拌装置は、円筒形容器に入れた小麦粉と水とを撹拌部材と回転棒により混ぜ合わせるので、高い加圧力を加えて小麦粉と水を均一に混練することができない。
【0010】本発明は上記した点に鑑みてなされたもので、食用粉と水を短時間で均一に混練することができる食用粉の混練方法および混練装置を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】本発明の食用粉の混練方法は、所定重量比の食用粉と水を準備し、水平面内で回転する回転体の回転中心線から半径方向外方に距離を置いた位置に回転体の回転軸線の方向に傾斜した回転軸線を中心に自転する容器を準備し、所定重量の水を容器内に入れ、これに続いて所定重量の食用粉を容器内に入れ、食用粉を回転体の回転に伴う容器の公転により発生する遠心力で容器の回転体の回転中心線に対して傾斜した壁面を介して水に混入し、食用粉と水を容器の公転および自転の合成遠心力および重力を加えながら容器の底面に沿って移動させることで短時間で均一に混練することができる。
【0012】本発明の食用粉の混練装置は、駆動手段を備えた枠体と、この枠体の上面に固定された支持体と、この支持体に軸支され駆動手段により水平面内で回転する回転体と、この回転体の回転中心から半径方向に距離を置いた位置に傾斜配置され回転体の回転中心方向に傾斜した回転中心を中心に自転する回転部材と、この回転部材に支持された容器とを備え、食用粉と水を容器の公転および自転の合成遠心力および重力を利用して容器の内底面に沿って移動させることで短時間で均一に混練することができる。
【0013】
【発明の実施の形態】以下本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。図1において符号1は本発明による食用粉混練装置の枠体を示し、この枠体1は、全体形状がほぼ箱形で、上板2に開口3が形成されている。また、枠体1の内部には、駆動手段である電動モータ4が配置されている。電動モータ4の回転速度を変速自在とするために、電動モータ4にギヤ装置やインバータ装置のような変速手段を付設することができる。電動モータ4は駆動軸5が垂直方向に上方に延びるように配置されており、駆動軸5は枠体1の開口3を通して上板2より突出している。枠体1の上板2には上板2の開口3および駆動軸5の突出部を囲むように固定円板6が配置されている。
【0014】上記固定円板6は、ナイロン樹脂成形品であり、中央開口部7と上端部外面に上端側を大径とした傾斜面8を有する。固定円板6は、中央開口部7の中心線が電動モータ4の駆動軸5の回転軸線5aに一致するように上板2の上に配置され、固定ねじ9を介して上板2に固定される。固定円板6の中央開口部7には軸受10を介して回転アーム11が軸支されている。
【0015】上記回転アーム11は、アルミニウム製であり、軸部11aと円板部12と円板部12の周縁部から外方に延びる3つのアーム部13を有する。軸部11aは円板部12の中心部から下方に延びている。軸部11aは、軸受10を介して固定円板6軸支されている。回転アーム11の軸部11aは、枠体1の上板2の開口3を通して上方に延びる電動モータ4の駆動軸5にキイ5bを介して連結されている。
【0016】上記回転アーム11の3つのアーム部13は、円板部12から周方向に互いに120度の間隔で半径方向外方に延びるように配置されている。各アーム部13は、円板部12の水平面に対して斜め上方に45度の角度で延びている。各アーム部13には、円板部12の水平面に対して45度の面に直交する方向に延びる開口部14が形成されている。各アーム部13の開口部14には軸受15を介して回転部材である自転プーリ18が自転自在に装着されている。
【0017】なお、各アーム部13は、図1では傾斜角度が45度になっているが、この傾斜角度は30度から60度の範囲内であればよく、また、アーム部13の数は、周方向に等間隔であれば2つであっても4つ以上であってもよい。
【0018】上記自転プーリ18は、アルミニウム製で断面皿状をなし、アーム部13の水平面に対する45度の傾斜面に対して直交する回転軸線、すなわち、回転アーム11の回転軸線に対して45度の回転軸線を中心に回転するように軸受15を介してアーム部13に軸支されている。自転プーリ18の上端面20は固定円板6の傾斜面8にに対応する面をなしており、自転プーリ18は、固定円板6に摩擦係合し、回転アーム11の回転に伴って回転すると同時に自転する。
【0019】自転プーリ18は,図1に示す実施の形態では、回転アーム11の回転方向と同じ方向に回転しているが、自転プーリ18と回転アーム11は、互いに反対方向に回転するようにしてもよい。
【0020】上記自転プーリ18の内部には、自転プーリ18の回転軸線と同心に上端開口の容器ホルダー19が取付けられている。この容器ホルダー19に容器21が固定される。
【0021】すなわち、容器21は、水平面内で回転する回転アーム11の回転軸線5aから半径方向外方に距離を置いた位置に内側に傾斜するように配置され、回転アーム11の回転軸線5aの方向に傾斜した回転軸線を中心に自転する.上記容器21は、上端開口の円筒形をなし、開口端にキャップ22が取付けられる。容器21には混練しようとする食用粉と水が収容される。
【0022】ここで、食用粉とは、日本そばに用いられるそば粉、うどんに用いられる小麦粉(中力粉)ぱんに用いられる小麦粉(強力粉)、菓子に用いられる小麦粉(薄力粉)、スパゲッティに用いられるセモリナ粉、白玉粉に用いられるもち米粉、だんごに用いられる米粉を含む食用に供される粉をいう。
【0023】しかして、自転プーリ18に取付けた容器21は、回転アーム11が水平面内で高速回転すると、回転アーム11に軸支された自転プーリ18も固定円板6の傾斜面8に摩擦係合して自転するので、高速回転(公転)すると同時に回転アーム11の回転軸線に対して傾斜した回転軸線を中心に自転する。
【0024】なお、上記実施の形態では、回転アーム11の駆動手段として電動モータのような電気手段を用いたが、回転アーム11の駆動手段は、空気圧を利用した機械的手段であっても、手動による駆動手段であってもよい。
【0025】また、自転プーリ18は、摩擦係合手段で回転アーム11の回転(公転)に伴って自転するようにしたが、ベルトや歯車のような駆動手段で自転するようにすることもできる。
【0026】つぎに、食用粉としてそば粉を例として作用を説明する。まず、そば粉と水の重量比表を参照して、そば粉の量とそば粉との混練に要する水量を計量する。
【0027】つぎに、計量した水を自転プーリ18にセットされた容器21内に入れ、これに続いて計量したそば粉を入れる。そして、容器21の開口端をキャップ22で密封する。これにより、食用粉と水の混練準備が終了する。
【0028】ついで、電動モータ4を図示しない制御装置により起動すると、電動モータ4の駆動軸5が回転し、この駆動軸5に連結された回転アーム11が水平面内で高速回転する。
【0029】回転アーム11が高速回転すると、回転アーム11に取付けられた自転プーリ18も回転アーム11と同速で回転(公転)する。自転プーリ18は、公転にともなって摩擦係合手段を介して自転するので、自転プーリ18にセットされた容器21は、公転および自転する。
【0030】容器21が公転および自転すると、容器21内のそば粉と水は、容器21が高速回転する容器21により発生する遠心力を受けるが、容器内のそば粉は水に浮いた状態にあるので、水に浮いたそば粉は、この遠心力により半径方向外方に動き、回転体の水平面に対して傾斜した容器21の壁面に当たり、この壁面で向きを変えて水の中に突き刺さるように入り込む。これにより、そば粉に水が均一に分布される。
【0031】さらに、容器21が公転および自転を続けると、容器21内のそば粉と水は、容器21の公転による遠心力と容器21の自転による遠心力との合成遠心力を受ける。この合成遠心力は、水平面内における楕円上において、最大合成遠心力と最小合成遠心力との間で変動する。すなわち、容器21内のそば粉と水は、最大合成遠心力と最小合成遠心力との間の遠心力差を容器21の自転に伴う周期的な変動として受け、きわめて短時間(20秒ないし2分)で均一に混練される。
【0032】図6に本発明による食用粉混練装置の他の実施の形態を示す。図6に示す食用粉混練装置は、容器21の構造が相違するだけで、その他の部材は同じであるから図1に示す食用粉混練装置と同一部材については同一符号を付す。
【0033】上記容器21は、内底部に撹拌棒30を有する。この撹拌棒30は、たとえば、3角錐体または4角錐体であり、内底部の中心部に固定配置されている。この撹拌棒30は遠心力により流動する食用粉と水の混合体を効率よく撹拌するために作用する。撹拌棒30は、断面角形でなく断面ひょうたん形であってもよい。
【0034】
【実施例】本発明による食用粉混練装置の具体的寸法を図3に示す。ここで、容器21の自転中心Aから回転アーム11の回転中心までの距離は110mm、回転アーム11の回転数は1600rpm±25%、容器21の自転回数数は400rpm±25%である。容器21は円筒体であり、直径が110mmで底面積が95cm2で、底面が回転アーム11の水平面に対して45度の傾斜角度をなしている。回転アーム11の回転数は、駆動手段に付設された変速手段により可変される。
【0035】回転アーム11が1600rpmで回転した時における容器21の底部に働く遠心力は、図4に示すように、A点で83.5kg、B点で54.1kg、C点で113.8kgである。また、容器21が400rpmで自転した時の容器21の底部に働く遠心力は、2,6kgである。
【0036】容器21の各底部に働く公転遠心力と自転遠心力の合成遠心力は、図5に示すように、最大117.7kgと最小52.3kgの間である。したがって、1600rpmで公転し400rpmで自転する容器21に収容された食用粉と水は、0.14秒の周期で1.23kg/cm2と0.55kg/cm2の間で変動する力を受け、回転アーム11の回転中心線に対して傾斜した容器21の底壁面または側壁面に沿って移動しながら互いに混練される。
【0037】しかして、そば粉と水を上記食用粉混練装置を用いて混練した場合、そば粉に高い加圧力を短い周期で加えることができるので、グルテニンやグルアミンを含まないそば粉に水分が均一に行き渡り、そば粉に加えられるつなぎを少なくまたはなくしても切れにくく腰のあるそばを作ることができる。
【0038】また、小麦粉と水を上記食用粉混練装置を用いて混練した場合、小麦粉に高い加圧力を短い周期で加えることができるので、低粘度から高粘度までの混練が可能になり、しかも小麦粉に対する加水率を任意に変更することができる。特に、うどんを作る場合には、小麦粉に高い加圧力を短い周期で加えることで、小麦粉に水分が均一に加えられ、過度の力を加えられることなく、小麦粉に含まれる弾性の強いグルテニンと進展性のあるグルアミンでグルテンが形成されので、従来のうどんで必要の熟成時間を省くことができる、さらに、セモリナ粉、もち米粉、米粉も、高い加圧力を短い周期で加えることができるので、水分が均一に行き渡ることになり、混練時間を短縮することができる。
【0039】
【発明の効果】以上述べたように本発明によれば、食用粉と水を容器の公転および自転により発生する合成遠心力を容器の自転により周期的に変動させることで、短時間で均一に混練することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による食用粉混練装置の一部を断面で示す正面図。
【図2】本発明による食用粉混練装置の上面図。
【図3】本発明による食用粉混練装置の概略構成図。
【図4】容器の公転に発生する遠心力を示す図。
【図5】容器の公転および自転に発生する遠心力の合成遠心力を示す図。
【図6】本発明による食用粉混練装置の他の実施の形態を示す図。
【符号の説明】
1 枠体
4 電動モータ
6 固定円板
11 回転アーム
13 アーム部
18 自転プーリ
21 容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】所定重量比の食用粉と水を準備し、水平面内で回転する回転体の回転中心線から半径方向外方に距離を置いた位置に回転体の回転軸線の方向に傾斜した回転軸線を中心に自転する容器を準備し、所定重量の水を容器内に入れ、これに続いて所定重量の食用粉を容器内に入れ、食用粉を回転体の回転に伴う容器の公転により発生する遠心力で容器の回転体の回転中心線に対して傾斜した壁面を介して水に混入し、食用粉と水を容器の公転および自転の合成遠心力および重力を加えながら容器の底面に沿って移動させることにより混練することを特徴とする食用粉の混練方法。
【請求項2】容器の公転および自転の合成遠心力は、1.2kg/cm2±25%程度であることを特徴とする請求項1に記載の食用粉の混練方法。
【請求項3】駆動手段を備えた枠体と、この枠体の上面に固定された支持体と、この支持体に軸支され駆動手段により水平面内で回転する回転体と、この回転体の回転中心から半径方向に距離を置いた位置に傾斜配置され回転体の回転中心方向に傾斜した回転中心を中心に自転する回転部材と、この回転部材に支持された容器とを備えた食用粉の混練装置。
【請求項4】回転部材は、支持体に摩擦接触して自転することを特徴とする請求項5に記載の食用粉の混練装置。
【請求項5】容器は円筒形であり、容器の内部に撹拌手段を配置したことを特徴とする請求項3または4に記載の食用粉の混練装置。

【図1】
image rotate


【図2】
image rotate


【図3】
image rotate


【図4】
image rotate


【図5】
image rotate


【図6】
image rotate


【公開番号】特開2001−299191(P2001−299191A)
【公開日】平成13年10月30日(2001.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−122560(P2000−122560)
【出願日】平成12年4月24日(2000.4.24)
【出願人】(000107402)ジャパンホームサプライ株式会社 (3)
【出願人】(000120755)永田精機株式会社 (12)
【Fターム(参考)】