説明

食肉用品質改良剤、食肉用カード抑制剤、冷凍食品およびレトルト食品

【課題】食肉の過加熱や凍結食肉の緩慢加熱によるカードの発生を抑制することができる食肉用品質改良剤、食肉用カード抑制剤、冷凍食品およびレトルト食品を提供する。
【解決手段】食肉用品質改良剤は、pHが10.3乃至11.5で、2.3乃至2.6質量%のアルカリ剤と、0.05乃至0.10質量%のペプチドとを含んでいる。アルカリ剤は、畜肉や魚肉などの食肉の身質改善効果を有する、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、クエン酸三ナトリウムを含んでいる。食肉用品質改良剤は、食肉を冷凍したり、レトルトの容器に密封したりする前の前処理剤として使用される。冷凍食品およびレトルト食品は、食肉用品質改良剤を含む溶液に所定時間浸漬した食肉を、冷凍または容器に密封して製造されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食肉用品質改良剤、食肉用カード抑制剤、冷凍食品およびレトルト食品に関する。
【背景技術】
【0002】
肉や魚介類を加熱したときには、カードが発生する。カードとは、溶け出した水溶性のタンパク質が熱変性により凝固した、アミノ酸や脂質を含む浮遊物である。カードには旨味成分や栄養学上有用な栄養素が含まれるが、その見た目の悪さから商品価値や人の食欲を低下させる要因となっている。従来、このようなカードを抑制する方法として、アルカリ剤(リン酸塩)と緩衝剤とを含むカード抑制剤をレトルト食品や缶詰食品の内部溶液に充填するものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−61059号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のような従来のカード抑制方法では、過加熱や凍結品の緩慢加熱によるカードの発生を抑制することはできないという課題があった。
【0005】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、食肉の過加熱や凍結食肉の緩慢加熱によるカードの発生を抑制することができる食肉用品質改良剤、食肉用カード抑制剤、冷凍食品およびレトルト食品を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る食肉用品質改良剤は、アルカリ剤とペプチドとを含むことを、特徴とする。
【0007】
本発明に係る食肉用カード抑制剤は、アルカリ剤とペプチドとを含むことを、特徴とする。
【0008】
本発明に係る食肉用品質改良剤および食肉用カード抑制剤は、アルカリ剤を含むため、畜肉や魚肉などの食肉に添加されたとき、食肉のpHをアルカリ側に遷移させて蛋白を変性させることができる。このため、食肉からの可溶性蛋白の溶出を抑えて、カードの生成を抑制することができる。また、食肉の過加熱や凍結食肉の緩慢加熱によるカードの発生を抑制することもできる。ペプチドを含むため、食肉をアルカリ性にしても苦みが生じず、食感を改善することができる。カードを抑制するため、食肉の歩留まりを向上させることもできる。また、使用した食品の添加物表示として、pH調製剤の表示のみでよく、使用者に安心感を与えることができる。
【0009】
アルカリ剤としては、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸三カリウム、水酸化ナトリウム、貝殻焼成カルシウム、クエン酸三ナトリウム、または、これらの2以上の組合せを用いることができる。アルカリ剤としては、特に、炭酸ナトリウムと炭酸水素ナトリウムとクエン酸三ナトリウムとを含むものが好ましい。
【0010】
本発明に係る食肉用品質改良剤は、pHが10.3乃至11.5であることが好ましい。この場合、特にカード抑制効果が高い。また、ペプチドを含むため、このpHの範囲であっても、苦みが生じず食感がよい。
【0011】
本発明に係る食肉用品質改良剤は、前記アルカリ剤を2.3乃至2.6質量%、前記ペプチドを0.05乃至0.10質量%含むことが好ましい。この場合、特にカード抑制効果および食感の改善効果が高い。
【0012】
本発明に係る冷凍食品は、本発明に係る食品用品質改良剤を含む溶液に所定時間浸漬した食肉を、冷凍して成ることを、特徴とする。
【0013】
本発明に係る冷凍食品は、冷凍する食肉を、本発明に係る食品用品質改良剤を含む溶液に所定時間浸漬するため、解凍後のカードの生成を抑制することができる。また、凍結食肉の緩慢加熱によるカードの発生を抑制することもできる。解凍後の食肉に苦みがなく、食感がよい。また、解凍後の食肉の歩留まりを向上させることもできる。
【0014】
本発明に係るレトルト食品は、本発明に係る食品用品質改良剤を含む溶液に所定時間浸漬した食肉を、容器に密封して成ることを、特徴とする。
【0015】
本発明に係るレトルト食品は、パウチなどの容器に密封する食肉を、本発明に係る食品用品質改良剤を含む溶液に所定時間浸漬するため、レトルト加熱処理後のカードの生成を抑制することができる。また、レトルト加熱のときに食肉を過加熱しても、カードの発生を抑制することができる。レトルト加熱処理後の食肉に苦みがなく、食感がよい。また、レトルト加熱処理後の食肉の歩留まりを向上させることもできる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、食肉の過加熱や凍結食肉の緩慢加熱によるカードの発生を抑制することができる食肉用品質改良剤、食肉用カード抑制剤、冷凍食品およびレトルト食品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施の形態の食肉用品質改良剤は、アルカリ剤とペプチドとを含んでいる。アルカリ剤は、畜肉や魚肉などの食肉の身質改善効果を有する、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、クエン酸三ナトリウムを含んでいる。
【0018】
また、本発明の実施の形態の食肉用品質改良剤は、食肉を冷凍したり、レトルトの容器に密封したりする前の前処理剤として使用される。本発明の実施の形態の冷凍食品およびレトルト食品は、本発明の実施の形態の食肉用品質改良剤を含む溶液に所定時間浸漬した食肉を、冷凍または容器に密封して製造されている。
【0019】
[アルカリ剤のpHによるカード抑制効果]
アルカリ剤のpHにより、カード抑制効果がどのように変化するのかを調べるために、試験を行った。試験は、まず、表1に示す配合で、pHが9.0、10.0、10.5、11.0の試験溶液をそれぞれ作製した。凍結した鮭のスライス品を解凍した後、前処理で各試験溶液に30分浸漬処理を行った。浸漬処理後、鮭のスライス品を再凍結し、200℃で25分間、オーブン加熱した。
【0020】
加熱後の鮭のスライス品のカードの有無、食感、歩留まりを調べ、その結果を表1に示す。なお、カードの有無は、観察結果を、「◎:非常に良好、○:良好、△:普通、不良:×」の4段階で評価した。また、食感は、官能評価にて、「◎:しっとりして非常に良好、○:良好、△:普通、パサパサして不良:×」の4段階で評価した。なお、カードの有無および食感の評価基準は、以下の試験でも同様である。
【0021】
【表1】

【0022】
表1に示すように、試験の結果、pHが大きくなるにしたがって、カード抑制効果および歩留まりが高まり、食感が良くなっていることが確認された。特に、pH10.5以上のときカード抑制効果が高くなっている。しかし、アルカリ剤だけでは、カードを確実に抑制することはできず、pHが大きくなるにしたがって、アルカリ臭が強くなることも確認された。
【0023】
[ペプチド併用による効果]
アルカリ剤とペプチドとを併用することにより、カード抑制効果やアルカリ臭がどのように変化するのかを調べるために、試験を行った。試験は、まず、表2に示す配合で、アルカリ剤を含まずペプチドを含む試験溶液、アルカリ剤を含みペプチドを含まない試験溶液、アルカリ剤およびペプチドを含む試験溶液をそれぞれ作製した。ペプチドとしては、分子量100〜3000のポテトペプチドを使用した。
【0024】
凍結した鮭のスライス品を解凍した後、前処理で各試験溶液に30分浸漬処理を行った。浸漬処理後、鮭のスライス品を再凍結し、200℃で25分間、オーブン加熱した。加熱後の鮭のスライス品のカードの有無、食感、歩留まりを調べ、その結果を表2に示す。
【0025】
【表2】

【0026】
表2に示すように、試験の結果、ペプチド単体ではカード抑制効果は認められず、食感も悪く、歩留まりも低いことが確認された。これに対し、アルカリ剤とペプチドとを併用することにより、ペプチドを含まない場合と比べて、カード抑制効果が向上し、歩留まりも高くなることが確認された。また、ペプチドにより、アルカリ臭を防ぐことができ、アルカリ性による苦みも生じていなかった。
【0027】
[ペプチドの濃度によるカード抑制効果]
ペプチドの濃度により、カード抑制効果がどのように変化するのかを調べるために、試験を行った。試験は、まず、表3に示す配合で、ペプチドの濃度が0.04%、0.06%、0.08%の試験溶液をそれぞれ作製した。また、比較のために、アルカリ剤およびペプチドを含まない試験溶液を作製した。ペプチドとしては、分子量100〜3000のポテトペプチドを使用した。
【0028】
凍結した鮭のスライス品を解凍した後、前処理で各試験溶液に30分浸漬処理を行った。浸漬処理後、鮭のスライス品を再凍結し、200℃で25分間、オーブン加熱した。加熱後の鮭のスライス品のカードの有無、食感、歩留まりを調べ、その結果を表3に示す。
【0029】
【表3】

【0030】
表3に示すように、試験の結果、ペプチドの濃度が高くなるにしたがって、カード抑制効果および歩留まりが高まり、食感が良くなっていることが確認された。特に、ペプチドの濃度が0.06%以上のときカード抑制効果が高くなっている。
【0031】
[ペプチドの種類によるカード抑制効果]
ペプチドの種類により、カード抑制効果がどのように変化するのかを調べるために、試験を行った。試験は、まず、表4に示す配合で、ペプチドとして、ポテトペプチド、シルクペプチド、コラーゲンペプチド、大豆ペプチドを使用した試験溶液をそれぞれ作製した。また、比較のために、ペプチドを含まない試験溶液を作製した。なお、各試験溶液のpHは、10.5で統一している。
【0032】
凍結した鮭のスライス品を解凍した後、前処理で各試験溶液に30分浸漬処理を行った。浸漬処理後、鮭のスライス品を再凍結し、200℃で25分間、オーブン加熱した。加熱後の鮭のスライス品のカードの有無、食感、歩留まりを調べ、その結果を表4に示す。
【0033】
【表4】

【0034】
表4に示すように、試験の結果、いずれのペプチドを使用しても、カード抑制効果が高まることが確認された。特に、ポテトペプチド、コラーゲンペプチドを使用したときに、カード抑制効果が顕著に高くなった。なお、食肉として、鮭だけでなく、ブリ等の魚種に対しても同様の効果が認められた。
【実施例1】
【0035】
[レトルト畜肉製品への利用]
炭酸ナトリウム1.72質量%、炭酸水素ナトリウム0.52質量%、クエン酸三ナトリウム0.2質量%、ポテトペプチド0.08質量%から成るカード抑制剤を調製し、塩2.00質量%とともに、水95.48質量%に混合撹拌し、pH11.0の製剤溶液を調製した。次に、冷凍鶏もも肉(国産鶏)を解凍後、液温15℃程度の製剤溶液に15分〜60分浸漬させた。その後、製剤溶液から取り出し、パウチに充填後、120℃で30分間、レトルト加熱殺菌を実施した。レトルト加熱殺菌後の鶏もも肉について、カードの有無、食感、歩留まり、色調を調べ、その結果を表5に示す。なお、色調は、観察結果を、「◎:非常に良好、○:良好、△:普通、不良:×」の4段階で評価した。
【0036】
【表5】

【0037】
表5に示すように、製剤溶液への浸漬時間が15分以上で、カード抑制効果および歩留まりが高まり、食感が良くなっていることが確認された。特に、浸漬時間が30分以上のとき、カード抑制効果が高くなっている。ただし、レトルト加熱による褐変は認められないものの、浸漬時間が長くなるほど、肉の色調が悪くなっている。
【実施例2】
【0038】
[レトルト魚肉製品への利用]
炭酸ナトリウム1.72質量%、炭酸水素ナトリウム0.52質量%、クエン酸三ナトリウム0.2質量%、ポテトペプチド0.08質量%から成るカード抑制剤を調製し、塩0.75質量%とともに、水96.73質量%に混合撹拌し、pH11.0の製剤溶液を調製した。次に、冷凍されたサバの魚肉を解凍して適当な大きさにカットした後、液温15℃以下の製剤溶液に15分〜60分浸漬させた。その後、製剤溶液から取り出し、パウチに充填後、115℃で80分間、レトルト加熱殺菌を実施した。レトルト加熱殺菌後のサバの魚肉について、カードの有無、食感、歩留まりを調べ、その結果を表6に示す。
【0039】
【表6】

【0040】
表6に示すように、製剤溶液への浸漬時間が15分以上で、カード抑制効果および歩留まりが高まり、食感が良くなっていることが確認された。特に、浸漬時間が30分以上のとき、カード抑制効果が高くなっている。
【実施例3】
【0041】
[焼き魚製品への利用]
炭酸ナトリウム1.72質量%、炭酸水素ナトリウム0.52質量%、クエン酸三ナトリウム0.2質量%、ポテトペプチド0.08質量%から成るカード抑制剤を調製し、塩0.75質量%とともに、水96.73質量%に混合撹拌し、pH11.0の製剤溶液を調製した。次に、冷凍された鮭の魚肉を解凍して一定の大きさにスライスした後、液温15℃以下の製剤溶液に15分〜60分浸漬させた。その後、製剤溶液から取り出し、−18℃以下で凍結させた後、200℃で25分間、オーブン加熱を実施した。加熱後の鮭の魚肉について、カードの有無、食感、歩留まり、色調を調べ、その結果を表7に示す。
【0042】
【表7】

【0043】
表7に示すように、製剤溶液への浸漬時間が15分以上で、カード抑制効果および歩留まりが高まり、食感および色調が良くなっていることが確認された。特に、浸漬時間が30分以上のとき、カード抑制効果が高くなっている。なお、鮭だけでなく、ブリやサバ等でも同様の効果が得られた。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ剤とペプチドとを含むことを、特徴とする食肉用品質改良剤。
【請求項2】
pHが10.3乃至11.5であることを、特徴とする請求項1記載の食肉用品質改良剤。
【請求項3】
前記アルカリ剤を2.3乃至2.6質量%、前記ペプチドを0.05乃至0.10質量%含むことを、特徴とする請求項1または2記載の食肉用品質改良剤。
【請求項4】
アルカリ剤とペプチドとを含むことを、特徴とする食肉用カード抑制剤。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の食品用品質改良剤を含む溶液に所定時間浸漬した食肉を、冷凍して成ることを、特徴とする冷凍食品。
【請求項6】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の食品用品質改良剤を含む溶液に所定時間浸漬した食肉を、容器に密封して成ることを、特徴とするレトルト食品。