説明

食酢の製造方法及び該方法により製造された食酢

【課題】 糠を含有する原料を使用した食酢における独特のクセのある不快臭を緩和し、飲用、調理用等の広範な用途に利用することができる食酢の製造方法、及び該方法により製造された食酢を提供すること。
【解決手段】 糠を含有する原料を使用する食酢の製造方法であって、アンモニアを40〜250mg/100ml、より好ましくは100〜200mg/100ml、及び糖分を5〜50g/100mlとなるように食酢中に含有させることにより、独特のクセのある不快臭が緩和された食酢の製造方法、該方法により製造された食酢及びそれを含有する飲食品を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は食酢の製造方法、及び該方法により製造された食酢に関し、詳しくは糠を含有する原料を使用する食酢、例えば玄米を用いて製造される黒酢や玄米酢などに対して、アンモニアを含有させることにより、糠を含有する食酢に特有の不快なクセのある香りを緩和させながら、アンモニアに起因するえぐみ、雑味を感じないようにする方法と、該方法により製造される食酢に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食酢を飲用として摂取することが広まっており、なかでも玄米を原料として製造される黒酢には種々の健康機能が認められていることから、黒酢を飲用として摂取することがもてはやされ、さらに黒酢を使用したぽん酢醤油などの本来の酸味調味料としても人気が高まっている。
しかし、玄米を原料とする黒酢などは、食酢中の酢酸に起因するツンとする刺激に加えて、糠を含有する食酢独特のクセのある不快臭があり、利用が限られるなどの問題があった。
【0003】
このような、玄米を使用した食酢における独特のクセのある不快臭を緩和する方法としては、例えば、黒酢と醤油を含有するぽん酢醤油に対して昆布のだし汁を加える方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
しかしながら、このように昆布のだし汁を添加した場合は、飲用としての適性が低下したり、調味料としては昆布風味が強調されすぎてしまうなどの問題が生じることなどから、玄米を使用した食酢独特のクセのある不快臭を緩和することができ、かつ、広範な用途に適用可能な方法を開発することが望まれていた。
【0004】
なお、食酢の香味を改善する方法としては、黒酢にスクラロースを添加する方法(例えば、特許文献2参照)や、ソトロンおよびフルフラールを含有させる方法(例えば、特許文献3参照)などが開示されているが、いずれも食酢中の主要な有機酸である酢酸に由来する刺激的な酸味や酸臭を緩和する方法であって、黒酢などにおける独特のクセのある不快臭を緩和するものではなかった。
【0005】
また、本発明で着目しているアンモニアは強い臭気を持つため、食品中の含有量が少ないほど好ましいと従来考えられており、アンモニアを特定の濃度で含有させることにより黒酢独特のクセのある不快臭を緩和するなどの影響は、従来全く知られていなかった。
【0006】
一方、糖分を食酢に含有させることについては、従来から、酸味の緩和のために食酢にハチミツ等の糖分を添加して飲用する方法がよく知られている。さらに、酢酸発酵前の含アルコール原料液の糖分をあらかじめ10〜30%に調整し、次いで酢酸発酵を行って、酸度2%以上、糖分10〜30%、エキス分16〜40%としたことを特徴とする、玄米などを原料とした糖分濃度を従来よりも高めた飲用酢を製造する方法(例えば、特許文献4参照)が開示されている。
【0007】
しかしながら、このような甘味成分を添加する方法にあっては、酸味の刺激を和らげることができても、黒酢独特のクセのある香りは解消されないと言う問題があった。
すなわち、黒酢特有のクセのある香りが緩和された、より飲みやすい黒酢を製造する方法を開発することが求められていた。
【0008】
【特許文献1】特開2004−49104号公報
【特許文献2】特開2002−335924号公報
【特許文献3】特開2001−69940号公報
【特許文献4】特開昭61−96981号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、糠を含有する原料を使用した食酢における独特のクセのある不快臭を緩和し、飲用、調理用等の広範な用途に利用することができる食酢の製造方法、及び該方法により製造された食酢を提供することである。また、そのような食酢を使用することにより、独特のクセのある不快臭を緩和した飲食品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、驚くべきことに、糠を含有する原料を使用する食酢に対して、アンモニア及び糖分を一定濃度範囲で含有させることにより、糠を含有する食酢独特のクセのある不快臭を緩和させることができ、その結果、当該食酢の品質が顕著に向上し、官能的に優れたものになるという知見を得た。本発明は、これらの知見に基いて完成されたものである。
【0011】
すなわち、請求項1に記載の本発明は、糠を含有する原料を使用し、食酢中にアンモニアを40〜250mg/100ml、及び、糖分を5〜50g/100mlとなるように含有させることを特徴とする食酢の製造方法に関する。
次に、請求項2に記載の本発明は、食酢中にアンモニアを100〜200mg/100mlとなるように含有させることを特徴とする請求項1に記載の食酢の製造方法に関する。
また、請求項3に記載の本発明は、請求項1又は請求項2に記載の方法で製造された食酢に関する。
さらに、請求項4に記載の本発明は、請求項3に記載の食酢を含有する飲食品に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、糠を含有する原料を使用する食酢において、糠を含有する食酢独特の不快なクセのある香りを緩和することができ、該食酢の飲用や調味用等を含めた広範な用途での利用を可能とすることができる。また、そのような食酢を使用した、独特のクセのある不快臭を緩和した飲食品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
請求項1に記載の本発明は、糠を含有する原料を使用する食酢の製造方法であって、食酢中にアンモニアを40〜250mg/100ml、及び、糖分を5〜50g/100mlとなるように含有させることを特徴とする食酢の製造方法である。
また、請求項2に記載の本発明は、食酢中にアンモニアを100〜200mg/100mlとなるように含有させることを特徴とする請求項1に記載の食酢の製造方法である。
【0014】
食酢は醸造酢と合成酢に大別され、本発明の食酢としては、原料を酢酸発酵させて得られる醸造酢が好ましい。醸造酢としては米黒酢、玄米酢、大麦黒酢、米酢、穀物酢などが挙げられ、中でも米黒酢、玄米酢が好ましい。
【0015】
なお、米黒酢は、食酢品質表示基準(農林水産省告示第1821号平成16年10月7日改正)により、「穀物酢のうち、原材料として米(玄米の糠層の全部を取り除いて精白したものを除く)又はこれに小麦若しくは大麦を加えたもののみを使用したもので、米の使用量が穀物酢1Lにつき180g以上であって、かつ、発酵および熟成によって褐色又は黒褐色に着色したもの」と定義されている。また、大麦黒酢は、「穀物酢のうち、原材料として大麦のみを使用したもので、大麦の使用量が穀物酢1Lにつき180g以上であって、かつ、発酵および熟成によって褐色又は黒褐色に着色したもの」と定義されている。
【0016】
本発明において糠とは、穀類を精白する過程で発生する外側部分(糠層)を指す。好ましくは、穀類が米であるときは、穀類表面を削る度合(以下、精白度と称する場合もある)が約6%未満の場合に発生するものを言い、穀類が大麦であるときは、精白度が約30%未満の場合に発生するものを言う。
【0017】
本発明の「糠を含有する原料」には、いわゆる米糠や赤糠、麦糠などの糠だけでなく、玄米や玄麦、糠層の全部を除去していない部分的に精白した穀類など、糠層の少なくとも一部を有する穀類も包含される。中でも、玄米、部分精白米が好適に用いられ、特に玄米の使用が好ましい。
【0018】
糠には、タンパク質、ミネラル、食物繊維、油分等の栄養成分が豊富に含有され、さらに、ヘキサナール等のアルデヒド成分やヘキサノール等のアルコール成分をはじめとする香り成分も多く含有される。
糠を含有する原料を使用した食酢における独特のクセのある不快臭の原因物質は、はっきりとは解明されていないが、上記の香り成分がアルコール発酵や酢酸発酵により変化を受けて生じた物質などが複雑に関与しているものと推定される。
【0019】
本発明の食酢の製造方法における原料としては、上記の糠を含有する原料と共に、精白した米や小麦、大麦、コーンなど、糠を含まない他の穀物原料を併用してもよい。
本発明において、糠を含有する原料を含めたこれら原料の使用量は、1リッターの食酢に対して40〜1200g、好ましくは180〜1200gとすることができる。その内、糠を含有する原料の使用量は、1リッターの食酢に対して40〜700g、好ましくは180〜700gである。
【0020】
本発明の食酢の製造方法は、上記の「糠を含有する原料」を原料として使用し、アンモニアおよび糖分を特定濃度含有させること以外は特に限定されず、一般的な食酢の製造方法を採用できる。
【0021】
一般的な食酢の製造方法の一例を以下に示す。
まず、麹や糖化酵素を用いて、糠を含有する原料中の糖質を糖化した後、ろ過などにより糖化粕などを除去した糖化液を調製する。次に、該糖化液を酵母により酒精発酵させた後、酒粕などの固形物をろ過などにより除去して、酒精発酵液を得る。さらに、得られた該酒精発酵液を含アルコール原料液として種酢と混合したものを酢酸菌により酢酸発酵させる。酢酸発酵が終了した発酵液を適宜熟成させた後、ろ過、殺菌し、壜などの容器に充填して最終製品とする。
【0022】
なお、壷などの中で、上記の糖化、酒精発酵、酢酸発酵の各工程を同時並行して行わせて製造する方法も知られている。
また、本発明の食酢の製造方法として、糠を含有する原料を上記と同様に糖化させて得られる糖化液に、アルコールを加えて酢酸発酵させる方法を採用してもよい。
本発明における酢酸発酵の方法は、酢酸菌を静置した発酵液表面に繁殖させて行ういわゆる静置発酵法や、通気攪拌発酵槽を用いて行う深部発酵法でもかまわない。
【0023】
このような一般的な方法で食酢の製造を行うと、原料である米や大麦などに由来する糖分の殆どが酒精発酵工程においてアルコールに消費されてしまうため、食酢中の糖分濃度は一般に低く、例えば5重量/容量%以上の糖分濃度の食酢は製造されないのが一般的である。
【0024】
本発明の食酢の製造方法においては、このようにして製造される食酢中にアンモニアを40〜250mg/100mlの濃度となるように含有させることが必要である。
アンモニアは従来の通常の食酢中にも存在していたが、その含有量は多くとも25mg/100ml程度であった。また、従来アンモニアは調味料の風味を悪化させる要因と考えられていたため含有量を多くすることは通常考えられていなかった。
【0025】
本発明の食酢の製造方法においては、食酢中にアンモニアを最終濃度40〜250mg/100ml、好ましくは100〜200mg/100mlとなるように含有させる。アンモニアの含有量が下限未満であると、独特のクセのある不快臭が軽減されず好ましくない。また、含有量が上限を超えるとアンモニア臭が強くなり過ぎて好ましくない。
【0026】
本発明において、食酢中のアンモニアの含有量が上記範囲になるように調整する方法としては、食酢中のアンモニアの最終濃度が上記範囲になるように調整することができればよく、特に限定はない。また、その調整は食酢の製造工程におけるいずれの段階で行っても良い。
なお、請求項3に記載したような食酢を含む飲食品を製造する場合は、当該飲食品の製造工程においてアンモニアを含有させることもできる。
【0027】
本発明において、食酢中にアンモニアおよび糖分を含有させる方法としては、製造工程においてアンモニアおよび糖分を含有する素材を添加する方法、製造工程において発酵により醸成させる方法、あるいはこれらを組み合わせた方法等が挙げられる。
【0028】
本発明において、アンモニアを含有する素材を添加することにより食酢中にアンモニアを含有させる場合は、食酢の製造工程のいずれの段階においても添加することができる。たとえば、酢酸発酵終了後の食酢や、含アルコール原料液、糖化液などに対して添加することができる。
【0029】
なお、アンモニアを含有する素材としては、食品に使用できるものであればよく、例えば、アンモニア、塩化アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、クエン酸鉄アンモニウム、硫酸アルミニウムアンモニウム、グルタミン酸アンモニウム等が挙げられる。また、魚醤、魚介類エキス等のアンモニアを高濃度に含有する食品を使用することもできる。
【0030】
アンモニア含有量は、例えば、アルカリ性下で水蒸気蒸留にて得られる留液を中和滴定することにより測定することができる。すなわち、サンプル1mlを蒸留水で100mlに希釈し、40%水酸化ナトリウム溶液25mlを添加し蒸留を行い、留液を0.1N 硫酸20mlに吸収させ、0.1N水酸化ナトリウム溶液で中和滴定して定量することができる。滴定値からアンモニア量への換算は、以下の式1で計算することができる。
【0031】
(式1)
アンモニア量(mg/100ml)=(V2−V1)×F×170
【0032】
上記式1中、V2は、留液吸収前の0.1N硫酸20mlを滴定するのに要した0.1N水酸化ナトリウム溶液の量(ml)を示し、V1は留液吸収後の0.1N硫酸20mlを滴定するのに要した0.1N水酸化ナトリウム溶液の量(ml)を示す。
また、Fは、0.1N水酸化ナトリウム溶液のファクターである。
【0033】
さらに、本発明の食酢の製造方法においては、食酢中に糖分を最終濃度5〜50g/100mlとなるように含有させる。糖分の含有量が下限未満であると、アンモニアに由来するえぐみや雑味が強調される悪影響があるためである。また、糖分の含有量が上限を超える場合は甘味が強すぎて飲用調味用に好ましくない味となる上、酢酸菌が生育しにくくなるので酢酸発酵がうまく実施できないので好ましくない。
【0034】
本発明において、食酢中の糖分含有量が上記範囲になるように調整する方法としては、食酢中の糖分の最終濃度が上記範囲になるように調整することができればよく、特に限定はない。また、その調整は、食酢の製造工程におけるいずれの段階で行っても良い。
なお、請求項3に記載したような食酢を含む飲食品を製造する場合は、当該飲食品の製造工程において糖分を含有させることもできる。
【0035】
本発明において、食酢中に糖分を含有させる方法としては、製造工程において糖分を含有する素材を添加する方法、製造工程において発酵により醸成させる方法、あるいはこれらを組み合わせた方法等が挙げられる。
【0036】
本発明において、糖分を含有する素材を添加することにより食酢中に糖分を含有させる場合は、食酢の製造工程のいずれの段階においても添加することができる。たとえば、酢酸発酵終了後の食酢や、含アルコール原料液、糖化液などに対して、糖分を含有する素材を添加することができる。
本発明における糖分を含有する素材とは、甘みを有する糖質を含有するものであればその種類に特に指定はなく、代表的には、グルコース、フルクトース、マルトース、スクロース、ソルビトール等の糖質を含有する素材である。また、糖分を含有する素材として、上記のような糖質を含有する食品を使用することもでき、例えば、砂糖、穀物の糖化液、はちみつ、液糖、水あめ、果汁等を使用することができる。黒酢を製造する場合には、原料、すなわち「米(玄米の糠層の全部を取り除いて精白したものを除く)又はこれに小麦若しくは大麦を加えたもの」の糖化液を使用することができる。
【0037】
なお、本発明における糖分とは、甘みを有する糖質、すなわちグルコース、マルトース、フルクトース、シュクロース、ソルビトール、グリセロールの総称である。
本発明において糖分の濃度(g/100ml)は、上記した糖質単体の濃度を合計して求めることができる。糖質単体の濃度の測定は、例えば糖分析用の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用い、下記のHPLC条件で実施することができる。
【0038】
<HPLC条件>
カラム:Shodex Asahipak NH2P−50 4E(4.6mmID×250mm)(昭和電工社製)
溶離液:CHCN/HO=75/25
検出:RI検出器
流速:1.0mL/min
カラム温度:30℃
【0039】
また、本発明の方法により製造される食酢における酢酸等の有機酸の濃度については特に制限はないが、水で希釈するだけでおいしく飲用できるという観点からは、酸度2〜6%程度であることが好ましい。なお、酸度(%)は、酢酸等の有機酸を水酸化ナトリウム溶液を用いて中和滴定し、酢酸濃度に換算して求めることができる。
【0040】
本発明においては、上記のように、アンモニアを含有させることにより、糠を含有する食酢に特有のクセのある不快臭を緩和することができる。さらに糖分を含有させることにより、アンモニアの味覚への悪影響を緩和することができる。
【0041】
このようにして製造されたアンモニアおよび糖分を含有する食酢を提供するのが、本願請求項3に係る発明である。本発明の食酢は、それ自体で調味料として利用することが可能であり、糠を含有する食酢独特のクセのある不快臭が緩和されている。
【0042】
さらに、請求項4に記載したように、本発明の食酢は飲食品の製造にも利用可能である。本発明の食酢を含有する飲食品としては、例えば、清涼飲料水などの飲料、ポン酢、ドレッシング、つゆ、たれなどの調味料や、寿司、酢のもの、サラダなどの食品等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0043】
これらの飲食品は通常行われる方法で製造することができ、本発明の食酢を含有する清涼飲料水の場合は、たとえば本発明の食酢に果汁やハチミツなどを加え、適宜希釈することにより製造することができる。また、本発明の食酢を含有するポン酢、ドレッシング、つゆ、たれの場合は、たとえば本発明の食酢に砂糖、塩、醤油、だし、油、香辛料などを加えることにより製造することができる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を試験例、実施例により更に詳細に説明するが、これらの実施例により本発明が限定されるものではない。
【0045】
(試験例1) アンモニアによるクセのある不快臭の緩和
(1)酒精発酵液の調製
まず、玄米を定法に従い常圧で蒸煮後冷却し、種麹菌アスペルギルス・オリゼーを接種後、30℃で3日間培養し、乾燥させて米麹とした。
粉砕した玄米6Kg、粉砕した上記米麹1Kg、液化型アミラーゼ製剤(クライスターゼT−5:大和化成社製)20g、糖化型アミラーゼ製剤(スミチーム:新日本化学社製)20g、及びプロテアーゼ製剤(スミチームLP−50:新日本化学社製)40gを、全容量20リッターになるように水に懸濁し、酵母(サッカロミセス・セレビシエ、オリエンタル酵母工業社製)25gを添加して、30℃で5日間酒精発酵を行った。その後、ろ過して、アルコール濃度15容量%の酒精発酵液16リッターを得た。
【0046】
(2)食酢の調製
上記(1)で調製した酒精発酵液を水で2倍に希釈し、酢酸菌アセトバクター・アセチを含む種菌液を接種して、深部発酵層で、30℃、500rpm、0.2vvmの条件で酢酸発酵させ、酸度7.0重量/容量%の発酵液を得た。この発酵液をろ過後、水で希釈して酸度4.5重量/容量%の食酢を得た。
なお、上記の種菌液(種酢)としては、深部発酵槽で、上記(1)の米酒精発酵液を用いて、30℃、500rpm、0.2vvm、酸度7.5重量/容量%及びアルコール濃度0.4容量/容量%の条件で、旺盛に連続酢酸発酵を継続している酢酸菌アセトバクター・アセチを含む発酵液を使用した。
【0047】
(3)アンモニア含有量の異なる食酢の調製および官能検査
上記(2)で得られた食酢(試験区a)にはアンモニアが13mg/100ml含有され、糖分は含有されていなかった。そこで、上記(2)で得られた食酢に対して、炭酸水素アンモニウムを添加し、アンモニアを総計で33〜300mg/100mlとなるように添加した食酢(試験区b〜g)を得た。
以上の食酢をよく訓練された官能検査員15名による官能検査に供し、食酢の香り、味を評価し、結果を表1に示した。
【0048】
なお、糠を含む原料を使用した食酢独特のクセのある不快臭の評価は、1:クセのある不快臭が感じられる、2:クセのある不快臭がほとんど感じられない、3:クセのある不快臭が全く感じられない、の3段階で行った。
また、アンモニア臭についての評価も同様に、1:アンモニア臭が感じられる、2:アンモニア臭がほとんど感じられない、3:アンモニア臭が感じられない、の3段階で行った。
さらに、アンモニアのえぐみ、雑味についての評価も同様に、1:えぐみ、雑味が感じられる、2:えぐみ、雑味がほとんど感じられない、3:えぐみ、雑味が感じられない、の3段階で行った。
それぞれ、各官能検査員の評価を平均した平均値を評価値とした。
【0049】
【表1】

【0050】
表1から明らかなように、アンモニアを40mg/100ml以上含有する食酢(試験区c〜g)は、クセのある不快臭が、試験区a及びbの食酢に比べて、顕著に緩和されていることが確認された。特に、アンモニア含有量が100mg/100ml以上の場合にクセのある不快臭の緩和効果が顕著であった。
しかし、アンモニア臭は、250mg/100ml以下(試験区a〜f)ではほとんど感じられず問題がないが、300mg/100mlでは感じられるようになり、好ましくないことが分かった。
一方、味においては、アンモニア濃度が40mg/100ml以上になるとアンモニアのえぐみ、雑味が感じられるので、アンモニアを含有させるだけでは好ましくないことが分かった。
【0051】
(試験例2) 糖分によるアンモニアのえぐみ、雑味の緩和
上記試験例1の(2)で得られた酸度7.0%の食酢のろ液57mlに対して、炭酸水素アンモニウム465mg、および砂糖を0、3、5、10、20、50g加え、水で100mlにフィルアップして試験区h〜mの食酢を得た。これらの食酢のアンモニア含有量は110mg/100mlであった。
以上の食酢をよく訓練された官能検査員15名による官能検査に供し、食酢の香り、味を評価し、結果を表2に示した。
【0052】
なお、糠を含む食酢独特のクセのある不快臭の評価は、1:クセのある不快臭が感じられる、2:クセのある不快臭がほとんど感じられない、3:クセのある不快臭が全く感じられない、の3段階で行った。
また、アンモニア臭についての評価も、1:アンモニア臭が感じられる、2:アンモニア臭がほとんど感じられない、3:アンモニア臭が感じられない、の3段階で行った。
さらに、アンモニアのえぐみ、雑味についての評価も、1:えぐみ、雑味が感じられる、2:えぐみ、雑味がほとんど感じられない、3:えぐみ、雑味が感じられない、の3段階で行った。
それぞれ、各官能検査員の評価を平均した平均値を評価値とした。
【0053】
【表2】

【0054】
表2から明らかなように、アンモニアを含有する食酢のえぐみ、雑味は、糖分を5g/100ml以上含有させることにより顕著に緩和されることが確認された。
【0055】
(実施例1、比較例1) 糖分を含有する玄米黒酢にアンモニアを添加した場合の効果
(1)糖化液の調製
粉砕した玄米6Kgを全容量20リッターになるように水に懸濁させ、液化型アミラーゼ製剤(クライスターゼT−5:大和化成社製)20gを加え、攪拌しながら90℃で90分間保持して液化させた。これを、120℃で20分間加熱して液化酵素を失活させ、さらに58℃に冷却した後、糖化型アミラーゼ製剤(スミチーム:新日本化学社製)40g及びプロテアーゼ製剤(スミチームLP−50:新日本化学社製)10gを加えて、さらに58℃で18時間糖化処理を行った。その後、圧搾ろ過して玄米糖化液15リッターを得た。
【0056】
(2)酒精発酵液の調製
まず、玄米を定法に従い常圧で蒸煮後冷却し、種麹菌アスペルギルス・オリゼーを接種後、30℃で3日間培養し、乾燥させて米麹とした。
粉砕した玄米6Kg、粉砕した上記米麹1Kg、液化型アミラーゼ製剤(クライスターゼT−5:大和化成社製)20g、糖化型アミラーゼ製剤(スミチーム:新日本化学社製)20g、及びプロテアーゼ製剤(スミチームLP−50:新日本化学社製)40gを、全容量20リッターになるように水に懸濁し、酵母(サッカロミセス・セレビシエ、オリエンタル酵母工業社製)25gを添加して、30℃で5日間酒精発酵を行った。その後、ろ過して、アルコール濃度15容量%の酒精発酵液16リッターを得た。
【0057】
(3)食酢の調製
上記(1)で調製した糖化液8容量部と、上記(2)で調製した酒精発酵液14容量部、及び水48容量部を混合したものを、深部発酵装置中の種菌液(種酢)30容量部に添加し、酢酸発酵を行った後、ろ過して米黒酢を得た。
なお、種菌液(種酢)としては、深部発酵層で、上記(2)の米酒精発酵液を用いて、30℃、500rpm、0.2vvm、酸度7.5重量/容量%及びアルコール濃度0.4容量/容量%の条件で旺盛に連続酢酸発酵を継続している、酢酸菌アセトバクター・アセチを含む発酵液を用いた。
【0058】
(4)アンモニア含有量の異なる食酢の調製および官能検査
上記(3)で得られた食酢(比較例1)は、アンモニアを20mg/100ml含有し、糖分を6.6g/100ml含有していた。そこで、上記(3)で得られた食酢(比較例1)に対して、炭酸水素アンモニウムをアンモニア含有量が100mg/100mlとなるように添加し、実施例1の食酢を得た。
比較例1および実施例1の食酢を、よく訓練された官能検査員15名による官能検査に供し、食酢の香り、味を評価し、結果を表3に示した。
【0059】
なお、糠を含む食酢独特のクセのある不快臭の評価は、1:クセのある不快臭が感じられる、2:クセのある不快臭がほとんど感じられない、3:クセのある不快臭が全く感じられない、の3段階で行った。
また、アンモニア臭についての評価も同様に、1:アンモニア臭が感じられる、2:アンモニア臭がほとんど感じられない、3:アンモニア臭が感じられない、の3段階で行った。
さらに、アンモニアのえぐみ、雑味についての評価も同様に、1:えぐみ、雑味が感じられる、2:えぐみ、雑味がほとんど感じられない、3:えぐみ、雑味が感じられない、の3段階で行った。
それぞれ、各官能検査員の評価を平均した平均値を評価値とした。
【0060】
【表3】

【0061】
表3から明らかなように、アンモニアを20mg/100ml含有する食酢(比較例1)は、クセのある不快臭が感じられるのに対して、アンモニアを100mg/100ml含有する食酢(実施例1)は、香りのクセが比較例1に比べ顕著に緩和されていることが確認された。また、これらの食酢は糖分を6.6g/100ml含有しており、アンモニアのえぐみ、雑味が全く感じられなかった。
【0062】
(実施例2、比較例2) ドレッシングの製造
上記の実施例1の食酢50重量部、塩5重量部、砂糖5重量部、白こしょう少々、及びサラダ油30重量部を混合し、実施例2のドレッシングを作製した。
また、対照として、上記の比較例1の食酢を用いたこと以外は上記と同様の割合で各調味料を混合し、比較例2のドレッシングを作製した。
実施例2および比較例2のドレッシングを官能検査員15名による官能検査に供し、ドレッシングの香りを評価して、結果を表3に示した。
なお、評価は、1:クセのある不快臭が感じられる、2:クセのある不快臭がほとんど感じられない、3:クセのある不快臭が全く感じられない、の3段階で行った。
それぞれ、各官能検査員の評価を平均した平均値を評価値とした。
【0063】
【表4】

【0064】
表4から明らかなように、アンモニアを100mg/100ml含有する食酢を用いて作製したドレッシング(実施例2)は、アンモニアを20mg/100ml含有する食酢を用いて作製したドレッシング(比較例2)に比べ、食酢のクセのある不快臭が顕著に緩和されていることが確認された。
【0065】
(実施例3、比較例3) ごまだれの製造
上記の実施例1の食酢30重量部、サラダ油25重量部、砂糖10重量部、ねりごま6重量部、醤油5重量部、ごま油3重量部、及び卵黄2重量部を高速ミキサーで乳化混合し、実施例3のごまだれを作製した。
上記の比較例1の食酢を用いたこと以外は上記と同様の割合で各調味料を乳化混合し、比較例3のごまだれを作製した。
実施例3および比較例3のごまだれを、官能検査員15名による官能検査に供し、ごまだれの香りを評価して、結果を表5に示した。
なお、評価は、1:クセのある不快臭が感じられる、2:クセのある不快臭がほとんど感じられない、3:クセのある不快臭が全く感じられない、の3段階で行い、各検査員の平均値を評価値とした。
【0066】
【表5】

【0067】
表5から明らかなように、アンモニアを100mg/100ml含有する食酢を用いて作製したごまだれ(実施例3)は、アンモニアを20mg/100ml含有する食酢を用いて作製したごまだれ(比較例3)に比べ、食酢のクセのある不快臭が顕著に緩和されていることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糠を含有する原料を使用し、食酢中にアンモニアを40〜250mg/100ml、及び、糖分を5〜50g/100mlとなるように含有させることを特徴とする食酢の製造方法。
【請求項2】
食酢中にアンモニアを100〜200mg/100mlとなるように含有させることを特徴とする請求項1に記載の食酢の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の方法で製造された食酢。
【請求項4】
請求項3に記載の食酢を含有する飲食品。

【公開番号】特開2008−237040(P2008−237040A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−78537(P2007−78537)
【出願日】平成19年3月26日(2007.3.26)
【出願人】(398065531)株式会社ミツカングループ本社 (157)
【出願人】(301058355)株式会社ミツカン (32)
【Fターム(参考)】