説明

飲酒状態検知装置

【課題】車両内に容易に設置可能な装置で、より簡便に運転者の飲酒状態を検出できるようにする。
【解決手段】受光部102は、エタノールの指紋波長である3.367μmまたは9.524μm付近の赤外光を選択的に検出して光電変換する信号光受光部121と、エタノールの指紋波長近傍のエタノールに吸収されない波長の赤外光を選択的に検出して光電変換する参照光受光部122とを備える。また、増幅処理部103は、信号光受光部121で光電変換された信号光受光信号を増幅する信号光信号増幅部131と、参照光受光部122で光電変換された参照光受光信号を増幅する参照光信号増幅部132と、信号光信号増幅部131で増幅された信号及び参照光信号増幅部132で増幅された信号を差動増幅する差動増幅部133とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、呼気中に含まれているアルコールを検出する飲酒状態検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
酒気帯び及び飲酒状態の運転は、悲惨な交通死亡事故を引き起こす原因となり、これを防止及び抑止する目的で、例えば半導体式ガスセンサを用いたアルコール検知器が製造・販売され、バス,トラック,及びタクシーなどの営業運転手の業務管理に使用され、ある程度の効果を上げている。また、半導体式ガスセンサよりは高価になるが、電気化学式ガスセンサを利用したアルコール検知器も、同様に使用されている。
【0003】
また、アメリカ合衆国の一部の州では、飲酒運転違反歴のある運転者に対して、車両運転時に定期的にアルコール検知装置に呼気を吹き込むように義務づけ、違反時にはインターロックが掛かってエンジンが起動しないように車両を改造し、無線通信などで定期的に監視する制度がある。さらに、スウェーデンでは、2012年から、全ての新規登録車両に対し、上記同様のアルコール検知器の装着が義務づけられている。
【0004】
一方、ガスセンサの分野では、赤外線の吸収を利用してガスの分析・測定を行うガスセンサが開発されて利用されている(特許文献1〜3参照)。例えば、NDIR(non-dispersive-infrared-absorption)式二酸化炭素センサや、「レーザメタン」と呼ばれるガス濃度測定装置がある。
【0005】
【特許文献1】特開2005−091240号公報
【特許文献2】特開2000−230900号公報
【特許文献3】特開平5−079976号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、アルコール検知器は、主に、バス,トラック,タクシーなどの業務運転手が始業点呼時や、休憩時などに使用している。しかしながら、実際には、この点呼や検査時を避けて飲酒して乗務することは可能である。また、検査自体が煩わしく、時間と労力とを必要とするものであり、これらの効率化が模索されているところである。また、従来のアルコール検知器では、車両内に設置して用いることができなかった。
【0007】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、車両内に容易に設置可能な装置で、より簡便に運転者の飲酒状態を検出できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る飲酒状態検知装置は、呼気中のエタノールを検出することで呼気を吐出した人間の飲酒状態を検知する飲酒状態検知装置において、少なくともエタノールが吸収する波長を含む赤外線を出射する光源と、光源の赤外線を出射する出射部に対向して受光部が配置され、エタノールが吸収する波長の赤外線を検出して光電変換する第1受光手段と、光源の赤外線を出射する出射部に対向して受光部が配置され、エタノールが吸収しない波長の赤外線を検出して光電変換する第2受光手段と、第1受光手段で光電変換されて出力された第1信号及び第2受光手段で光電変換されて出力された第2信号を差動増幅する増幅手段と、増幅手段から出力された信号の変化を元に呼気中のエタノールの存在を判定する信号処理手段とを少なくとも備えるものである。
【0009】
また、本発明に係る飲酒状態検知装置は、呼気中のエタノールを検出することで呼気を吐出した人間の飲酒状態を検知する飲酒状態検知装置において、少なくともエタノールが吸収する波長を含む赤外線を出射する光源と、光源が出射する赤外線の強度を所定の周波数で変調させる強度変調手段と、エタノールが吸収する波長の赤外線を検出して光電変換する受光手段と、受光手段で光電変換されて出力された信号を増幅し、強度変調手段による変調に同期した信号を取り出す増幅手段と、増幅手段から出力された信号の変化を元に呼気中のエタノールの存在を判定する信号処理手段とを少なくとも備えるものである。
【0010】
また、本発明に係る飲酒状態検知装置は、呼気中のエタノールを検出することで呼気を吐出した人間の飲酒状態を検知する飲酒状態検知装置において、少なくともエタノールが吸収する波長を含む赤外線を出射する光源と、光源が出射する赤外線の波長をエタノールが吸収する赤外線の波長の範囲で変調させる周波数変調手段と、エタノールが吸収する波長の赤外線を検出して光電変換する受光手段と、受光手段で光電変換されて出力された信号を増幅し、周波数変調手段による変調の周期の2倍の周期及び4倍の周期の少なくとも1つに同期した信号を取り出す増幅手段と、増幅手段から出力された信号の変化を元に呼気中のエタノールの存在を判定する信号処理手段とを少なくとも備えるものである。例えば、光源としては、半導体レーザを用いることができる。
【0011】
また、上記飲酒状態検知装置において、増幅手段が出力した信号より、呼吸動作に起因する周期に対応する周期信号成分を取り出す呼気周波数取出手段を備えるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように、本発明によれば、第1受光手段で光電変換されて出力された第1信号及び第2受光手段で光電変換されて出力された第2信号を差動増幅するようにしたので、車両内に容易に設置可能な装置で、より簡便に運転者の飲酒状態を検出できるようになる。また、本発明によれば、光源が出射する赤外線の強度を所定の周波数で変調させ、受光手段で光電変換されて出力された信号を増幅し、強度の変調に同期した信号を取り出すようにしたので、車両内に容易に設置可能な装置で、より簡便に運転者の飲酒状態を検出できるようになる。また、本発明によれば、光源が出射する赤外線の波長をエタノールが吸収する赤外線の波長の範囲で変調させ、受光手段で光電変換されて出力された信号を、変調の周期の2倍の周期及び4倍の周期の少なくとも1つに同期した信号を取り出すようにしたので、車両内に容易に設置可能な装置で、より簡便に運転者の飲酒状態を検出できるようになる。また、本発明によれば、呼吸動作に起因する周期に対応する周期信号成分を取り出すようにしたので、車両内に容易に設置可能な装置で、より簡便に運転者の飲酒状態を検出できるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
【0014】
[実施の形態1]
始めに、本発明の実施の形態1について説明する。図1は、本発明の実施の形態1における飲酒状態検知装置の構成例を示す構成図である。本装置は、まず、赤外線を放射する例えば赤外線ランプなどから構成された光源101と、光源101に対向配置されて光源101より放射された赤外線を受光する受光部102とを備えている。光源101は、エタノールに特有の吸収波長(指紋波長)である3.367μmまたは9.524μm付近の波長を含む広い周波数成分の赤外光を放射する。
【0015】
また、受光部102は、エタノールの指紋波長である3.367μmまたは9.524μm付近の赤外光を選択的に検出して光電変換する信号光受光部(第1受光手段)121と、エタノールの指紋波長近傍のエタノールに吸収されない波長の赤外光を選択的に検出して光電変換する参照光受光部122とを備えている。例えば、信号光受光部121は、例えば、エタノールの指紋波長付近の赤外光を透過する信号光透過フィルターを備え、参照光受光部122は、例えば、エタノールの指紋波長近傍のエタノールに吸収されない波長の赤外光を選択的に透過する参照光透過フィルターを備えている。また、例えば、受光部102は、信号光受光部121となる受光素子及び参照光受光部122となる受光素子の、2つの受光素子から構成されている。
【0016】
また、本実施の形態における飲酒状態検知装置は、受光部102で光電変換されて出力された信号を増幅処理する増幅処理部(増幅手段)103を備えている。増幅処理部103は、信号光受光部121で光電変換された信号光受光信号(第1信号)を増幅する信号光信号増幅部131と、参照光受光部122で光電変換された参照光受光信号(第2信号)を増幅する参照光信号増幅部132と、信号光信号増幅部131で増幅された信号及び参照光信号増幅部132で増幅された信号を差動増幅する差動増幅部133とを備えている。このように、波長が異なる2系統の赤外線を利用してこれらの差信号を取得することで、光源101の出力変動や雰囲気に存在する埃などによる光強度の変動などによるエタノールの有無にかかわらない赤外光の変動の影響を除去・低減させることができる。
【0017】
また、本実施の形態の飲酒状態検知装置では、増幅処理部103(差動増幅部133)の出力信号より、呼吸動作に起因する周期に対応する周期信号成分を取り出す呼気周波数取出部104と、呼気周波数取出部104で取り出した信号に対して例えばA/D変換するなどの処理をし、信号の変化の状態よりエタノールの検出を判定する信号処理部105とを備えている。
【0018】
これらを備えた本実施の形態における飲酒状態検知装置は、例えば、車両内の運転席の上部,運転者が運転席に着座した際の額部直上に配置されていればよい。運転者により吐出されて上昇した呼気111が、光源101と受光部102との間を通過することで、呼気111に含まれているアルコールが、飲酒状態検知装置により検出される。呼気111にアルコールが含まれていれば、受光部102の信号光受光部121に受光される信号光が減衰することになり、この状態が、増幅処理部103で増幅され、呼気周波数取出部104により選択され(取り出され)、信号処理部105により酒気帯び状態や飲酒状態であるものとして検出される。
【0019】
信号処理部105では、例えば、検出された信号の変化が予め設定されている基準値を超えた場合、エタノールが検出されたものと判断し、対応する信号を出力する。このようにエタノールが検出されたことが判明すれば、測定の対象となった呼気を吐出した運転手が、酒気帯び状態もしくは飲酒状態と判断することができる。このように、信号処理部105では、増幅処理部103から出力された信号の変化を元に呼気中のエタノールの存在を判定する。
【0020】
次に、本実施の形態における飲酒状態検知装置について、図2を用いてより詳細に説明する。まず、図2に例示すように、信号光信号増幅部131及び参照光信号増幅部132は、対数増幅器であればよい。
【0021】
まず、光源101より放射された赤外線の中の、例えば、波長3.367μmの成分が信号光として受光部102の信号光受光部121に受光され、アルコールに吸収されない成分の赤外光が受光部102の参照光受光部122に受光され、各々、信号光信号増幅部131及び参照光信号増幅部132で増幅される。これらの増幅された信号は、差動増幅部133に入力され、2つの信号の差に応じた信号が出力される。
【0022】
この中で、呼気111にアルコールが含まれていると、光源101より放射された赤外線の中の、例えば、波長3.367μmの成分が含まれているアルコールに吸収されて減衰する。従って、信号光受光部121で受光される光量が減少する。これに対し、呼気111にアルコールが含まれていても、アルコールに吸収されない成分の赤外光は減衰せず、参照光受光部122で受光される光量が減少することはない。
【0023】
これらの結果、呼気111にアルコールが含まれている場合、信号光信号増幅部131からの出力と参照光信号増幅部132からの出力とが異なることになり、差動増幅部133から2つの入力信号の差に対応する信号が出力される。このように、差動増幅部133から出力された信号の中の、呼吸動作に起因する周期に対応する周期信号成分(例えば0.2〜0.3Hz)が、呼気周波数取出部104により選択的に取り出される。
【0024】
このようにして呼気周波数取出部104により取り出された信号は、信号処理部105において、例えば、A/D変換され、変換されたデジタル信号がプロセッサにより処理され、信号の変化が予め設定されている基準値を超えた場合、エタノールが検出されたものと判断される。この判断結果は、例えば、信号処理部105に接続されている赤色ランプなどの表示手段により表示される。また、信号処理部105に接続されている無線通信手段により、所定の送信先に送信される。
【0025】
上述したように、本実施の形態によれば、エタノールの指紋波長である3.367μmまたは9.524μm付近の赤外光を信号光として用いるようにしたので、これらの波長は吸収しないエタノール以外の有機溶剤などの蒸気や水蒸気は、検出されない。また、本実施の形態では、信号光と参照光との差に応じた信号を処理する(用いる)ようにしたので、光源101の変動や呼気111を測定する環境に存在する埃による影響を除去・低減した状態で、エタノールの存在を検出できるようになる。このように、本実施の形態によれば、車両内に容易に設置可能な装置でエタノールを定性的に検出できるので、より簡便に運転者の飲酒状態を検出できるようになる。
【0026】
また、例えば、自動車の車内には、芳香剤などが存在している場合があり、芳香剤に含まれているエタノールが存在している場合がある。この芳香剤に由来するエタノールも、検出対象として検出されることになる。これに対し、呼気は、呼吸の動作に対応して放出されるため、呼気中のエタノールの濃度の検出結果は、図2(b)に示すように、呼吸の周期に対応して変化する。
【0027】
従って、呼気周波数取出部104により、呼吸動作に起因する周期に対応する周期信号成分を選択的に取り出すことで、芳香剤に由来するエタノールの検出信号と、酒気帯び状態や飲酒状態の人体より放出される呼気中に含まれるエタノールの検出信号とを区別することができる。なお、ここでは、赤外線によりアルコールを検出する場合に、呼気周波数取出部104を用いるようにしたが、これに限るものではなく、他の手法によりアルコールを検出する手段に、呼気周波数取出部104を組み合わせるようにしても良い。例えば、半導体式ガスセンサにより検出された信号より、呼気周波数取出部104を用い、酒気帯び状態や飲酒状態の人体より放出される呼気中に含まれるエタノールの検出信号を選択的に取り出すようにしても良い。このように、呼気周波数取出部を用いることで、車両内に容易に設置可能な装置で、より簡便に運転者の飲酒状態を検出できるようになる。
【0028】
[実施の形態2]
次に、本発明の実施の形態2について説明する。図3は、本発明の実施の形態2における飲酒状態検知装置の構成例を示す構成図である。本装置は、まず、赤外線を放射する例えば赤外線ランプなどから構成された光源301と、光源301より放射された赤外線を受光する受光部102とを備えている。光源301は、エタノールの指紋波長である3.367μmまたは9.524μm付近の波長と、エタノールの指紋波長近傍のエタノールに吸収されない波長との赤外光を放射する。なお、光源301は、例えば、波長が変調可能な半導体レーザから構成することも可能である。また、光源301は、エタノールの指紋波長の赤外光を発光する半導体レーザと、エタノールに吸収されない波長の赤外光を発光する半導体レーザとから構成することも可能である。
【0029】
また、本実施の形態では、光源301を駆動する駆動回路302と、周波数F(例えば1〜2Hz)でオン・オフをする強度変調を行うための変調信号を出力する強度変調部(強度変調手段)303とを備えている。駆動回路302は、強度変調部303から出力された変調信号に同期して、光源301の駆動を制御する。この制御により、光源301は、周波数Fによる周期で赤外光の出射をオン・オフする。
【0030】
また、本実施の形態における飲酒状態検知装置は、受光部102で光電変換されて出力された信号を増幅処理し、かつ上記変調信号で同期検波するロックインアンプ304と、ロックインアンプ304より出力された信号に対して例えばA/D変換するなどの処理をし、信号の変化の状態よりエタノールの検出を判定する信号処理部305とを備えている。ロックインアンプ304は、前述した増幅処理部103と同様の構成を備え、加えて、強度変調部303からの変調信号に同期し、増幅された信号を同期検波する。
【0031】
ロックインアンプ304についてより詳しく説明すると、図3(b)に示すように、信号光受光部121で光電変換された信号光受光信号(第1信号)を増幅する信号光信号増幅部341と、参照光受光部122で光電変換された参照光受光信号(第2信号)を増幅する参照光信号増幅部342と、信号光信号増幅部341で増幅された信号及び参照光信号増幅部342で増幅された信号を差動増幅する差動増幅部343とを備えている。
【0032】
加えて、ロックインアンプ304は、入力される周期Fの変調信号に同期して差動増幅部343から出力された信号を制御して出力する同期制御部344と、同期制御部344から出力された信号を例えば積分するなどにより平均化する平均化部345とを備えている。同期制御部344は、例えば、変調信号に同期して信号をオン・オフするスイッチであればよい。
【0033】
ロックインアンプ304では、変調信号に同期した信号が取り出されて出力されるので、変調信号に同期してオン・オフされる光源301からの出射光に起因して受光部102に受光される赤外光の強度変化が取捨選択されることになる。なお、これらのように、所定の周波数で光源から出射される光の強度を変調し、これに同期して、受光部で受光されて光電変換された信号を同期検波する構成は、前述した実施の形態1の飲酒状態検知装置に組み合わせるようにしても良い。
【0034】
なお、受光部102は、前述同様に、エタノールの指紋波長である3.367μmまたは9.524μm付近の赤外光を選択的に透過する信号光透過フィルターを備えた信号光受光部121と、エタノールの指紋波長近傍のエタノールに吸収されない波長の赤外光を選択的に透過する参照光透過フィルターを備えた参照光受光部122とを備えている。
【0035】
本実施の形態では、光源301より出射され、出射方向に存在する対象物で反射した赤外光が、受光部102で受光される。例えば、本装置は、車両内の運転席の上部,運転者が運転席に着座した際の額部直上に配置され、光源301より出射された赤外光は、運転者の口前部近傍を通過するように構成されていればよい。光源301より出射された赤外光は、運転者の口前部近傍を通過し、出射先に存在している運転者脚部の衣服の布地表面,座席シート布地表面,及びハンドルの表面などの赤外線反射物312の表面に到達して散乱反射する。このようにして散乱反射した赤外光の一部が、受光部102により受光されることになる。
【0036】
このようにして光源301より放射された赤外線の中の、例えば、波長3.367μmの成分が信号光として受光部102の信号光受光部121に受光され、アルコールに吸収されない成分の赤外光が受光部102の参照光受光部122に受光され、各々、信号光信号増幅部341及び参照光信号増幅部342で増幅される。これらの増幅された信号は、差動増幅部343に入力され、2つの信号の差に応じた信号が出力される。次いで、同期制御部344が、上記信号より変調信号に同期する部分を取り出し、取り出された信号が平均化部345により平均化されて出力される。
【0037】
このようにして光源301より出射されて受光部102に受光された赤外線の光路の途中に、運転者により吐出された呼気311が存在し、呼気311にアルコールが含まれていれば、受光部102に受光されるエタノールの指紋波長の赤外光は、この波長以外の赤外光に比較して強度が減衰する。従って、信号光受光部121で受光される光量が減少する。これに対し、呼気311にアルコールが含まれていても、アルコールに吸収されない成分の赤外光は減衰せず、参照光受光部122で受光される光量が減少することはない。
【0038】
これらの結果、呼気311にアルコールが含まれている場合、信号光信号増幅部341からの出力と参照光信号増幅部342からの出力とが異なることになり、差動増幅部343から2つの入力信号の差に対応する信号が出力される。この信号は、周波数Fの周期信号に同期してオン・オフされている光源301からの赤外光に対応するものであり、同期制御部344に取り出されて、平均化部345に平均化されて出力されため、信号処理部305において、予め設定されている基準値を越えた変化の信号として検出され、エタノールが検出されたものと判断される。このように、信号処理部305では、ロックインアンプ(増幅手段)304から出力された信号の変化を元に呼気中のエタノールの存在を判定する。この結果、信号処理部305より、エタノールが検出されたことに対応する信号が出力される。このようにエタノールが検出されたことが判明すれば、測定の対象となった呼気を吐出した運転手が、酒気帯び状態もしくは飲酒状態と判断することができる。
【0039】
ここで、本実施の形態では、上述したように同期検波しているので、光源301より出射された赤外光以外の赤外光の影響が、抑制除去できる。このように、本実施の形態によれば、車両内に容易に設置可能な装置で、より簡便に運転者の飲酒状態を検出できるようになる。また、本実施の形態では、光源301より出射する信号光として、エタノールの指紋波長の赤外光を用いるようにしたので、周囲に存在している水蒸気による影響を抑制除去できる。
【0040】
[実施の形態3]
次に、本発明の実施の形態3について説明する。図4(a)は、本発明の実施の形態3における飲酒状態検知装置の構成例を示す構成図である。本装置は、まず、エタノールの指紋波長近傍の赤外線を発光する例えば半導体レーザよりなる光源401と、光源401より放射された赤外線を受光する受光部402とを備えている。光源401は、エタノールの吸収波長特性の幅である例えば3.290〜3.560μmの範囲で、波長を変調して出射することができる半導体レーザから構成されていればよい。
【0041】
また、本実施の形態では、光源401を駆動する駆動回路403と、周波数f(数百Hz〜数kHz)でエタノールの吸収波長特性の幅(3.290〜3.560μm)で発振波長の変調を行うための変調信号,及び周波数2fの同期信号を出力する発振波長変調部404とを備えている。駆動回路403は、発振波長変調部404から出力された周波数fの変調信号に同期して、光源401の駆動を制御する。この駆動により、光源401は、周波数fによる周期の半分の周期で3.290μmから3.560μmまで発振波長を掃引して出力し、引き続いて、周波数fによる周期の半分の周期で3.560μmから3.290μmまで発振波長を掃引して出力する。
【0042】
また、本実施の形態における飲酒状態検知装置は、受光部402で光電変換されて出力された信号を増幅処理するロックインアンプ405を備えている。ロックインアンプ405は、発振波長変調部404からの周波数2fの同期信号に同期し、受光部402からの信号を同期検波する。例えば、ロックインアンプ405は、受光部402からの信号を対数増幅した後、増幅された信号を周期2fの同期信号に同期してオン・オフし、この結果得られた信号を例えば積分するなどにより平均化して出力する。
【0043】
本実施の形態では、前述した実施の形態2と同様に、光源401より出射され、出射方向に存在する対象物で反射した赤外光を受光部402で受光することで、運転者より吐出された呼気411中のアルコールを検出するようにしたものである。加えて、本実施の形態では、光源401より出射される赤外光の周波数が、エタノールの吸収波長特性の幅で、変調(周波数f)されているようにしたところに特徴がある。
【0044】
光源401より出射された赤外光は、運転者の口前部近傍を通過し、出射先に存在している運転者脚部の衣服の布地表面,座席シート布地表面,及びハンドルの表面などの赤外線反射物412の表面に到達して散乱反射する。このようにして散乱反射した赤外光の一部が、受光部402により受光されることになる。
【0045】
このようにして光源401より放射された3.290〜3.560μmの範囲で波長が変調されている赤外光が、受光部402に受光されて光電変換される。受光部402では、入射した赤外線の光強度に対応して光電変換した信号を出力するため、出力される信号の強度は、受光した赤外線の波長に依存しない。従って、光源401より出射されて受光部402に受光された赤外線の光路の途中に、エタノールが存在していない場合、受光部402からは一定の状態で信号が出力されることになる。このため、光源401から受光部402にかけての光路中にエタノールが存在しない場合、受光部402から出力される信号においては、何ら変化(ピーク)は発現しない。このため、ロックインアンプ405において、周波数2fの同期信号でオンオフされて平均化された出力信号においても、何ら変化(ピーク)は発現しない。
【0046】
以上のことに対し、光源401から受光部402にかけての光路中に、運転者により吐出された呼気411が存在し、呼気411にアルコールが含まれていれば、受光部402に受光される赤外光は、変調されている波長の変化に対応した状態で強度が変化する。
【0047】
ここで、エタノールの赤外線波長変化による赤外線吸収量(吸光度)の変化は、エタノール蒸気のフーリエ変換赤外分光分析の結果より、図4(b)に示すように、全体として1つの大きなピークを備えた周波数特性を備え、この大きな1つのピークのピーク波長はおおよそ3.425μmであることが判明している。従って、受光部402に受光される赤外光の強度(絶対値)は、図4(b)に示すピークの一部の変化を、変調周波数fの2倍の周波数2f(変調信号の半分の周期)に同期して起こすことになる。
【0048】
従って、呼気411にアルコールが含まれている場合、ロックインアンプ405には、上述したピークに対応する受光部402からの変調周波数fの2倍の周波数2fに同期して変化する信号が入力されることになる。ロックインアンプ405では、入力した信号より周波数2fの同期信号に同期する信号が取り出されるので、呼気411にアルコールが含まれている場合には、ロックインアンプ405から出力される信号には、上述したピークに対応する変化が出現することになる。
【0049】
このようなロックインアンプ405から出力される信号の変化が、信号処理部405において、予め設定されている基準値を越えた変化の信号として検出され、エタノールが検出されたものと判断される。このように、信号処理部405では、ロックインアンプ(増幅手段)404から出力された信号の変化を元に呼気中のエタノールの存在を判定する。この結果、信号処理部405より、エタノールが検出されたことに対応する信号が出力される。このようにエタノールが検出されたことが判明すれば、測定の対象となった呼気を吐出した運転手が、酒気帯び状態もしくは飲酒状態と判断することができる。
【0050】
本実施の形態では、エタノールが吸収する範囲の波長幅で光源401から出射される赤外線の波長を所定の周波数(変調周波数)で変調し、受光部402で受光されて光電変換された信号より、ロックインアンプ405で変調周波数の2倍の周波数に同期する成分を取り出すようにしたので、受光部402に受光される赤外線の光源401の出力変動や外乱などによる変化は、ロックインアンプ405より出力されないものとなる。この結果、本実施の形態によれば、エタノールの存在により吸収された赤外線の変化が選択的に検出されるようになり、エタノールを定性的に検出できるようになる。
【0051】
このように、本実施の形態によれば、エタノールの存在を定性的に検出することができるようになり、車両内に容易に設置可能な装置で、より簡便に運転者の飲酒状態を検出できるようになる。また、本実施の形態においても、光源401より出射する信号光として、エタノールの指紋波長の赤外光を用いるようにしたので、周囲に存在している水蒸気による影響を抑制除去できる。
【0052】
[実施の形態4]
次に、本発明の実施の形態4について説明する。図5(a)は、本発明の実施の形態4における飲酒状態検知装置の構成例を示す構成図である。本装置は、まず、エタノールの指紋波長近傍の赤外線を発光する例えば半導体レーザよりなる光源501と、光源501より放射された赤外線を受光する受光部502とを備えている。光源501は、エタノールの吸収波長特性の幅である例えば3.290〜3.560μmの範囲で、波長を変調して出射することができる半導体レーザから構成されていればよい。
【0053】
また、本実施の形態では、光源501を駆動する駆動回路503と、周波数f(数百Hz〜数kHz)でエタノールの吸収波長特性の幅(3.290〜3.560μm)で発振波長の変調を行うための変調信号,及び周波数2f,4fの2つの同期信号を出力する発振波長変調部504とを備えている。駆動回路503は、発振波長変調部504から出力された周波数fの変調信号に同期して、光源501の駆動を制御する。この駆動により、光源501は、周波数fによる周期の半分の周期で3.290μmから3.560μmまで発振波長を掃引して出力し、引き続いて、周波数fによる周期の半分の周期で3.560μmから3.290μmまで発振波長を掃引して出力する。
【0054】
また、本実施の形態における飲酒状態検知装置は、受光部502で光電変換されて出力された信号を増幅処理するロックインアンプ505を備えている。ロックインアンプ505は、発振波長変調部504からの周波数2f,4fの2つの同期信号に同期し、受光部502からの信号を同期検波する。例えば、ロックインアンプ505は、樹工具502からの信号を対数増幅した後、増幅された信号を周期2f,4fの同期信号に同期してオン・オフし、この結果得られた信号を例えば積分するなどにより平均化して出力する。
【0055】
本実施の形態では、前述した実施の形態2,3と同様に、光源501より出射され、出射方向に存在する対象物で反射した赤外光を受光部502で受光することで、運転者により吐出された呼気511中のアルコールを検出するようにしたものである。加えて、本実施の形態でも、前述した実施の形態と同様に、光源501より出射される赤外光の周波数が、エタノールの吸収波長特性の幅で、変調(周波数f)されているようにしたところに特徴がある。
【0056】
前述した実施の形態同様に、光源501より出射されて受光部502に受光された赤外線の光路の途中に、運転者により吐出された呼気511が存在し、呼気511にアルコールが含まれていれば、受光部502に受光されるエタノールの指紋波長の赤外光は、この波長以外の赤外光に比較して強度が変化(減衰)する。このエタノールの赤外線波長変化による赤外線吸収量の変化は、図5(b)に示すように、全体として1つの大きなピークに加え、2つの小さなピークを備えた周波数特性を備え、これら2つの小さなピークの波長は、3.347μm及び3.447μmとなる。このため、受光部502に受光される赤外光の強度は、図5(b)に示すピークの変化を、変調周波数fの2倍の周波数2fと4倍の周波数4fに同期して起こすことになる。言い換えると、受光部502に受光される赤外光の強度は、変調信号の半分の周期及び1/4の周期に同期して起こすことになる。
【0057】
ロックインアンプ505では、入力した信号より周波数2f,4fの同期信号に同期する信号が取り出されるので、呼気511にアルコールが含まれている場合には、ロックインアンプ505から出力される信号には、上述したピークに対応する変化が出現することになる。このようなロックインアンプ505から出力される信号の変化が、信号処理部505において、予め設定されている基準値を越えた変化の信号として検出され、エタノールが検出されたものと判断される。このように、信号処理部505では、ロックインアンプ(増幅手段)504から出力された信号の変化を元に呼気中のエタノールの存在を判定する。この結果、信号処理部505より、エタノールが検出されたことに対応する信号が出力される。このようにエタノールが検出されたことが判明すれば、測定の対象となった呼気を吐出した運転手が、酒気帯び状態もしくは飲酒状態と判断することができる。
【0058】
本実施の形態でも、前述した実施の形態と同様に、エタノールが吸収する範囲の波長幅で光源501から出射される赤外線の波長を所定の周波数(変調周波数)で変調し、受光部502で受光されて光電変換された信号より、ロックインアンプ505で変調周波数の2倍,4倍の周波数に同期する成分を取り出すようにしたので、受光部502に受光される赤外線の光源501の出力変動や外乱などによる変化は、ロックインアンプ505より出力されないものとなる。この結果、本実施の形態においても、エタノールの存在により吸収された赤外線の変化が選択的に検出されるようになり、エタノールを定性的に検出できるようになる。
【0059】
このように、本実施の形態によれば、エタノールの存在を定性的に検出することができるようになり、車両内に容易に設置可能な装置で、より簡便に運転者の飲酒状態を検出できるようになる。また、本実施の形態においても、光源501より出射する信号光として、エタノールの指紋波長の赤外光を用いるようにしたので、周囲に存在している水蒸気による影響を抑制除去できる。
【0060】
次に、上述した本発明における飲酒状態検知装置の設置例について説明する。例えば、図6の説明図に示すように、飲酒状態検知装置601は、トラック602の運転席603の上部に設置すればよい。また、図7の説明図に示すように、飲酒状態検知装置601は、乗用車702の運転席703の上部に設置してもよい。このように設置された飲酒状態検知装置601において、アルコールが検出され酒気帯び状態などと検出されると、この状態をインターロック604に通知するようにしても良い。このように通知されたインターロック604では、トラック602のエンジンが起動しないように制御する。
【0061】
また、アルコールが検出されると、飲酒状態検知装置601は、通信装置605に通知するようにしても良い。この通知を受けた通信装置605は、予め設定されている送信先である管理センタへ酒気帯び状態もしくは飲酒状態が検出されたことを通知する。このような通知を受けた管理センタでは、担当者が、例えば携帯式のアルコール検査装置などの別の装置を用いてさらに詳細な検査を実施することを該当する運転手に指示をし、また、業務の停止を指示することができる。
【0062】
また、図8の説明図に示すように、運送業者やタクシー業者の営業所における始業点呼などを行う部屋801の天井802に、前述した本発明における飲酒状態検知装置803が設置されているようにしても良い。また、図9の説明図に示すように、運送業者やタクシー業者の営業所における始業点呼などを行う部屋の出入り口901の上部に、前述した本発明における飲酒状態検知装置902が設置されているようにしても良い。これらのようにすることで、従業員の酒気帯びや飲酒状態の第1次検査などに適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の飲酒状態検知装置は、バス,トラック,タクシーなどの業務運転手の酒気帯び管理手段として有用である。また、本発明の飲酒状態検知装置は、乗用車の運転席に設置することで、一般の運転者の飲酒運転などを防止,抑止することに適用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の実施の形態1における飲酒状態検知装置の構成例を示す構成図である。
【図2】本発明の実施の形態1における飲酒状態検知装置の構成例を示す構成図である。
【図3】本発明の実施の形態2における飲酒状態検知装置の構成例を示す構成図である。
【図4】本発明の実施の形態3における飲酒状態検知装置の構成例を示す構成図(a)及びエタノールによる吸収特性を示す特性図(b)である。
【図5】本発明の実施の形態4における飲酒状態検知装置の構成例を示す構成図(a)及びエタノールによる吸収特性を示す特性図(b)である。
【図6】本発明における飲酒状態検知装置の設置例について説明する説明図である。
【図7】本発明における飲酒状態検知装置の設置例について説明する説明図である。
【図8】本発明における飲酒状態検知装置の設置例について説明する説明図である。
【図9】本発明における飲酒状態検知装置の設置例について説明する説明図である。
【符号の説明】
【0065】
101…光源、102…受光部、103…増幅処理部、104…呼気周波数取出部、105…信号処理部、111…呼気、121…信号光受光部、122…参照光受光部、131…信号光信号増幅部、132…参照光信号増幅部、133…差動増幅部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
呼気中のエタノールを検出することで前記呼気を吐出した人間の飲酒状態を検知する飲酒状態検知装置において、
少なくともエタノールが吸収する波長を含む赤外線を出射する光源と、
前記光源の赤外線を出射する出射部に対向して受光部が配置され、エタノールが吸収する波長の赤外線を検出して光電変換する第1受光手段と、
前記光源の赤外線を出射する出射部に対向して受光部が配置され、エタノールが吸収しない波長の赤外線を検出して光電変換する第2受光手段と、
前記第1受光手段で光電変換されて出力された第1信号及び前記第2受光手段で光電変換されて出力された第2信号を差動増幅する増幅手段と、
前記増幅手段から出力された信号の変化を元に前記呼気中のエタノールの存在を判定する信号処理手段と
を少なくとも備えることを特徴とする飲酒状態検知装置。
【請求項2】
呼気中のエタノールを検出することで前記呼気を吐出した人間の飲酒状態を検知する飲酒状態検知装置において、
少なくともエタノールが吸収する波長を含む赤外線を出射する光源と、
前記光源が出射する赤外線の強度を所定の周波数で変調させる強度変調手段と、
エタノールが吸収する波長の赤外線を検出して光電変換する受光手段と、
前記受光手段で光電変換されて出力された信号を増幅し、前記強度変調手段による変調に同期した信号を取り出す増幅手段と、
前記増幅手段から出力された信号の変化を元に前記呼気中のエタノールの存在を判定する信号処理手段と
を少なくとも備えることを特徴とする飲酒状態検知装置。
【請求項3】
呼気中のエタノールを検出することで前記呼気を吐出した人間の飲酒状態を検知する飲酒状態検知装置において、
少なくともエタノールが吸収する波長を含む赤外線を出射する光源と、
前記光源が出射する赤外線の波長をエタノールが吸収する赤外線の波長の範囲で変調させる周波数変調手段と、
エタノールが吸収する波長の赤外線を検出して光電変換する受光手段と、
前記受光手段で光電変換されて出力された信号を増幅し、前記周波数変調手段による変調の周期の2倍の周期及び4倍の周期の少なくとも1つに同期した信号を取り出す増幅手段と、
前記増幅手段から出力された信号の変化を元に前記呼気中のエタノールの存在を判定する信号処理手段と
を少なくとも備えることを特徴とする飲酒状態検知装置。
【請求項4】
請求項2又は3記載の飲酒状態検知装置において、
前記光源は、半導体レーザであることを特徴とする飲酒状態検知装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の飲酒状態検知装置において、
前記増幅手段が出力した信号より、呼吸動作に起因する周期に対応する周期信号成分を取り出す呼気周波数取出手段を備える
ことを特徴とする飲酒状態検知装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−92450(P2009−92450A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−261717(P2007−261717)
【出願日】平成19年10月5日(2007.10.5)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】