説明

飲食物用容器

【課題】蓋内部の断熱室の内圧上昇による蓋カバーの浮きや外れの発生を防止する。
【解決手段】蓋本体の中凹部11の内周と、中凹部11を覆う蓋カバー20の外周とに無理嵌め部12、21を設け、中凹部11と蓋カバー20とにより断熱室40を形成し、蓋カバー20と中凹部11とに、前記無理嵌めで互いに掛かり合う位置に達する係合突部22、16を設け、断熱室40の内圧上昇によって両無理嵌め部12、21に加わる負荷が両係合突部22、16に分散されるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、保温弁当箱、水筒といった飲食物用容器に関する。
【背景技術】
【0002】
飲食物用容器では、収容物を保温するため、蓋の内部に断熱室を設けることがある。断熱室は空気断熱層を形成し、必要に応じて断熱材を収容し、断熱性を高めるようになっている。従来、図5、図6に示すように、蓋本体51と、蓋カバー52とを組み合わせることにより、断熱材入りの断熱室53を形成する蓋がある。蓋本体51の中凹部54は、周囲部55から凹入する内壁面で形成されている。蓋カバー52の蓋本体51に対する固定手段として、蓋カバー52の外周と中凹部54の内周とにおける無理嵌めが採用されている。この固定手段を採用する蓋は、蓋の掴み部、容器体への着脱構造も蓋本体に設けられる。これは、蓋着脱時や蓋把持時、蓋カバーに反無理嵌め方向の荷重が与えられると、繰り返されるうちに無理嵌めが次第に緩み、断熱室の空気断熱性が低下するためである。図示例では、周囲部55に掴み部が設けられ、中凹部54を形成する壁部の外周には、容器体への着脱構造56が設けられている。蓋カバー52の無理嵌め部57と、蓋本体51の無理嵌め部58とは、それぞれ円周状になっている。したがって、蓋本体51と蓋カバー52の無理嵌め自体に円周方向の方向性はない。図示例では、蓋カバー52の表示部(図示省略)と、蓋本体51との間に円周方向の位置合わせをするため、中凹部54の内周の無理嵌め部58よりも図中下方にリブ59が複数箇所に設け、蓋カバー52の無理嵌め部57よりも図中下方にスリット部60が設けられている。したがって、図7に示すように、リブ59がスリット部60に入り込む円周方向位置で前記の位置が確実に定まってから、無理嵌めを行うことができる(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−313229号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のように蓋カバーに反無理嵌め方向の直接負荷を考慮する必要がないので、蓋カバーの固定は前記の無理嵌めで十分と考えられていた。しかしながら、近年、食器洗い機の普及に伴い、蓋が繰り返し温水洗浄される可能性がある。蓋だけなら洗浄槽内に配置することが容易なためである。食器洗い機による洗浄では、個別手洗いと比して、洗浄槽内に入れたもの全部の汚れ落としを目的とするため、温水により長時間に亘って加熱されるという特徴がある。断熱室を形成する中凹部と蓋カバーの無理嵌め部なので、断熱室と外気との間の通気を防止する必要があり、無理嵌め部にガタツキを許容する寸法設定にできない。このため、断熱室の内圧が上昇して無理嵌め部に負担がかかり、これが繰り返されるうちに無理嵌め部が緩くなり、蓋カバーの浮きや外れが発生する可能性がある。また、無理嵌め部が緩くなると、断熱性能が低下したり、上記の洗浄中に水が断熱室内に入ったりする恐れもある。
【0005】
そこで、この発明の課題は、断熱室の内圧上昇による蓋カバーの浮きや外れの発生を防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、この発明は、中凹部が設けられた蓋本体と、前記中凹部を覆う蓋カバーとを有し、前記蓋カバーの外周と前記中凹部の内周とに無理嵌め部が設けられており、前記中凹部と前記蓋カバーとにより蓋の内部に断熱室が形成される飲食物用容器において、前記蓋カバーと前記中凹部とは、前記無理嵌めで互いに掛かり合う位置に達する係合突部を有し、前記断熱室の内圧上昇によって両無理嵌め部に加わる負荷が両係合突部に分散される構成を採用した。
【0007】
蓋カバーと蓋本体の無理嵌め部を強制的に嵌める際に、互いに掛かり合う位置に達する係合突部を前記蓋カバーと前記中凹部に追加すれば、断熱室の内部に蓋カバーと蓋本体の係合構造を追加することができる。断熱室の内圧上昇によって両無理嵌め部に加わる負荷が掛り合う両係合突部に分散されるようにしておけば、誤って繰り返し温水洗浄されて断熱室の内圧が上昇した際の無理嵌め部の負担が軽減される。したがって、蓋カバーの浮きや外れの発生が防止される。
【0008】
例えば、前記蓋カバー側の係合突部は、前記無理嵌めで前記蓋カバーと前記中凹部とを正対接近させる方向に突き出た爪部からなり、前記中凹部側の係合突部に対して正対方向に当った前記蓋カバー側の係合突部が弾性的に傾くことで当該中凹部側の係合突部を乗り越えて弾性回復することにより互いに正対方向に掛かり合う位置に達するように構成することができる。
【0009】
蓋カバーの外周と中凹部の内周との隙間に道具を差し込んで蓋カバーを強制的に起こすと、無理嵌め部を外すことができる。この際、道具を前記蓋カバー側の係合突部の傾き方向に対応する位置から差し込むと、蓋カバー側の係合突部が中凹部側の係合突部に押し付けられて傾き、互いに掛かり合う位置から外れるので、蓋カバーを強制的に外すことができる。したがって、蓋を廃棄するとき、蓋カバーと蓋本体の分離することができる。また、断熱材を断熱室に収容しても、その分別処理に困らない。
【0010】
特に、前記中凹部側の係合突部は、前記中凹部の凹底から部分的に正対方向に突出するように設けられていることが好ましい。
【0011】
中凹部を凹底で凹ませて中凹部側の係合突部を設けるため、蓋を容器内側に出張らすことがなく、係合突部を追加しても容器体の容量に影響することがない。
【0012】
例えば、前記中凹部と前記蓋カバーの無理嵌め部が円周状に形成されており、前記蓋カバーを無理嵌め可能な円周方向の向きは、前記中凹部と前記蓋カバーの係合突部の形状に与えられた円周方向の方向性により制限されている構成にすることができる。
【0013】
前記蓋カバーを無理嵌め可能な円周方向の向きは、前記中凹部と前記蓋カバーの係合突部の形状に与えられた円周方向の方向性により制限されているので、図7の例のように、リブとスリット部とで蓋カバーの円周方向の位置決めを行う必要がない。したがって、リブとスリット部の入り込み長さを円周の中心軸方向に確保する必要がなく、蓋のコンパクト化を図ることができる。
【発明の効果】
【0014】
上述のように、この発明は、上記構成の採用により、断熱室の内圧上昇によって両無理嵌め部に加わる負荷が掛り合った両係合突部に分散されるようにしたので、断熱室の内圧上昇による蓋カバーの浮きや外れの発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】この発明の実施形態に係る飲食物用容器の全体構成を示す縦断正面図
【図2】図1の蓋の分解斜視図
【図3】(a)は、図2の蓋カバーと蓋本体を正対させて無理嵌めする前の段階を示す縦断正面図、(b)は、前記(a)の状態から蓋カバー側の係合突部が中凹部側の係合突部に当った時点を示す縦断正面図、(c)は、前記(b)の状態から蓋カバー側の係合突部が中凹部側の係合突部を乗り越えた時点を示す縦断正面図
【図4】(a)は、図1の蓋カバーを外す道具を差し込んで蓋カバーを起こす途中を示す縦断正面図、(b)は、前記(a)の状態から蓋カバー側の係合突部が外れた状態を示す縦断正面図
【図5】従来例の飲食物用容器の蓋を示す縦断正面図
【図6】図5の蓋の分解斜視図
【図7】(a)は、図6の蓋カバーと蓋本体を正対させて無理嵌めする前の段階を示す縦断正面図、(b)は、前記(a)の状態からリブがスリット部に入り込む様子を示す縦断正面図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、この発明に係る実施形態を添付図面に基いて説明する。図1、図2に示すように、実施形態は、弁当箱からなる飲食物用容器の蓋にこの発明を適用した一例である。蓋は、中凹部11が設けられた蓋本体10と、中凹部11を覆う蓋カバー20とを有する。蓋カバー20の外周と中凹部11の内周とに無理嵌め部21、12が設けられている。中凹部11と蓋カバー20とにより内部に断熱室40が形成される。断熱室40に断熱材41が収容されている。
【0017】
中凹部11を形成する壁部の外周には、容器体31への着脱構造13が設けられている。容器体31は、二重断熱容器32に収められる。中凹部11は、蓋本体10の周囲部14から凹入する内壁面で形成されている。中凹部11は、周囲部14と別部品化することもできる。着脱構造13は螺合になっている。周囲部14は、蓋及び容器体31の掴み部を兼ねるため、二重断熱容器32の外周端縁に覆い重なるように設けられている。中凹部11を形成する壁部の外周には、二重断熱容器32の内周との間を密封するパッキン15が嵌着されている。パッキン15は、二重断熱容器32と容器体31間の空間と外気の流通を防止し、保温性を高めるために設けられている。
【0018】
無理嵌め部12、21は、それぞれ円周状に形成されている。中凹部11側の無理嵌め部12は、円周方向に亘る凹溝部からなり、蓋カバー20側の無理嵌め部21は、円周方向に亘る突条部からなる。凹溝部を蓋カバー20側とし、突条部を中凹部11側とすることもできる。中凹部11の内周と蓋カバー20の外周とは、円周状の半径方向に対向する全域で円周状になっている。したがって、図3(a)〜(b)に示すように、蓋カバー20と中凹部11とを円周状の中心軸方向に正対接近させることにより、無理嵌め部12、21を強制的に嵌合することができる。
【0019】
また、蓋カバー20と中凹部11とは、図3(a)〜(b)に示す前記無理嵌めの工程実施により、互いに掛かり合う位置に達する係合突部22、16を有する。断熱室40の内圧上昇によって両無理嵌め部12、21に加わる負荷が掛り合った両係合突部16、22に分散される。
【0020】
具体的には、蓋カバー20側の係合突部22は、前記正対接近させる方向に突き出た爪部からなる。係合突部22は、二箇所にあり、それぞれ概ね前記円周状の中心部に位置している。各係合突部22は、前記円周状の直径方向に撓んで互いの自由端側が円周中心側に傾けるようになっている。蓋カバー20の外周と中凹部11の内周の円周性から、両係合突部16、22は、円周状の中心部に位置させると、可及的に少ない係合突部16、22の配置数で前記の両係合突部16、22への負荷分散の均等化を周方向に図ることができる。
【0021】
係合突部22は、部品数を増加させないため、蓋カバー20と一体に射出成形されている。
【0022】
中凹部11側の係合突部16は、中凹部11の凹底から部分的に正対方向に突出するように設けられている。係合突部16は、橋桁をもった橋状部からなる。
【0023】
係合突部16は、部品数を増加させないため、中凹部11と一体に射出成形されている。
【0024】
図2、図3(a)から明らかなように、蓋カバー20側の二箇所の係合突部22は、中凹部11側の係合突部16の橋部貫通孔に正対方向に挿入される。係合突部16の橋部貫通孔が矩形状とされ、二箇所の係合突部22が一対を成す対向方向は、係合突部16の橋部貫通孔の短手方向に対応している。このため、二箇所の係合突部22の対向方向と、係合突部16の橋部貫通孔の短手方向とが一致しているときのみ、前記の挿入が可能である。したがって、蓋カバー20を中凹部11に対して無理嵌め可能な円周方向の向きは、係合突部16、22の形状に与えられた円周方向の方向性により制限されている。図7のスリット部60やリブ59を形成するための壁面が正対方向に不要なので、蓋をコンパクトにすることができる。
【0025】
図3(a)の状態からさらに蓋カバー20と中凹部11とを正対方向に接近させると、図3(b)に示すように、中凹部11側の係合突部16に対して正対方向に当った蓋カバー20側の係合突部22が弾性的に傾く。図3(b)の状態から、さらに接近させると、やがて係合突部22が中凹部11側の係合突部16を乗り越えて弾性回復することにより、図3(c)に示すように、無理嵌め部12、21が嵌り合うのと略同時に、係合突部22、16が互いに正対方向に掛かり合う位置に達する。
【0026】
図1に示すように、設計上、無理嵌め部12、21が完全に嵌り合った状態で、係合突部22と係合突部16間に若干の正対方向隙間が設定されている。これは、成形誤差を見越し、無理嵌め部12、21が完全に嵌り合った状態で、確実に係合突部22と係合突部16とが掛かり合う位置に達するよう、係合突部22を係合突部16に対して余分に正対方向に押し込むようにするためである。無理嵌め部12、21が完全に嵌り合った状態で、係合突部22と係合突部16とが掛かり合う位置に達する限り、実際には、前記の正対方向隙間が生じてなくともよい。前記の正対方向隙間が存在しても、断熱室40の内圧上昇によって蓋カバー20と中凹部11の凹底とが外側に膨張するため、両係合突部22、16が所定の内圧以上では確実に掛かり合っており、両無理嵌め部12、21に加わる負荷が分散される。
【0027】
したがって、実施形態は、断熱室40の内圧上昇による蓋カバー20の浮きや外れの発生を防止することができる。なお、所定の内圧以上は、20℃、標準大気圧下で平衡した標準状態を基準として、食器洗い機による温水洗浄を想定して適宜に定めればよい。例えば、蓋を80℃の温水中に20分間浸けたときの内圧を採用すると、一般的な家庭用の食器洗い機に対応することができる。
【0028】
断熱材41は、係合突部22、16を設ける空間41aを確保して収容されている。断熱材41は、省略することができる。断熱材41として、発泡スチロール材が採用されている。
蓋カバー20、中凹部11は、それぞれ無理嵌め部21、12の熱膨張性を統一するため、同じ射出成形用の樹脂からなる。一般的な射出成形用の樹脂と、発泡スチロールとは、同時に資源再生処理を実施できないので、廃棄時には、蓋カバー20、中凹部11と断熱材41とを分別回収する。また、断熱材41を省略するときでも、資源再処理の粉砕工程を容易にするため、蓋カバー20と蓋本体10とを分離することが好ましい。
【0029】
図4(a)、(b)に示すように、蓋カバー20の外周と中凹部11の内周との隙間に道具を差し込んで蓋カバー20を強制的に起こすと、無理嵌め部21、12を外すことができる。この際、図示のように、道具を前記係合突部22の傾き方向に対応する位置から差し込むと、係合突部22が係合突部16の縁に押し付けられて傾き、互いに掛かり合う位置から外れるので、蓋カバー20を強制的に外すことができる。実施形態では道具を差し込む位置は、円周状の直径方向であって係合突部16の短手方向に平行な円周方向位置になる。このように、実施形態は、蓋を廃棄するとき、蓋カバー20と蓋本体10とを分離することができる。また、断熱材41を取り出して分別回収することができる。
【0030】
上記各実施形態は弁当箱への適用例であるが、この発明の技術的範囲は、上述の態様に限定されず、特許請求の範囲の記載に基く技術的思想の範囲内での全ての変更を含むものである。
【符号の説明】
【0031】
10 蓋本体
11 中凹部
12、21 無理嵌め部
13 着脱構造
14 周囲部
15 パッキン
16、22 係合突部
20 蓋カバー
31 容器体
40 断熱室
41 断熱材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中凹部が設けられた蓋本体と、前記中凹部を覆う蓋カバーとを有し、前記蓋カバーの外周と前記中凹部の内周とに無理嵌め部が設けられており、前記中凹部と前記蓋カバーとにより蓋の内部に断熱室が形成される飲食物用容器において、
前記蓋カバーと前記中凹部とは、前記無理嵌めで互いに掛かり合う位置に達する係合突部を有し、前記断熱室の内圧上昇によって両無理嵌め部に加わる負荷が両係合突部に分散されることを特徴とする飲食物用容器。
【請求項2】
前記蓋カバー側の係合突部は、前記無理嵌めで前記蓋カバーと前記中凹部とを正対接近させる方向に突き出た爪部からなり、前記中凹部側の係合突部に対して正対方向に当った前記蓋カバー側の係合突部が弾性的に傾くことで当該中凹部側の係合突部を乗り越えて弾性回復することにより互いに正対方向に掛かり合う位置に達する請求項1に記載の飲食物用容器。
【請求項3】
前記中凹部側の係合突部は、前記中凹部の凹底から部分的に正対方向に突出するように設けられている請求項2に記載の飲食物用容器。
【請求項4】
前記中凹部と前記蓋カバーの無理嵌め部が円周状に形成されており、前記蓋カバーを無理嵌め可能な円周方向の向きは、前記中凹部と前記蓋カバーの係合突部の形状に与えられた円周方向の方向性により制限されている請求項1から3のいずれか1項に記載の飲食物用容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−213410(P2011−213410A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−85733(P2010−85733)
【出願日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【出願人】(000002473)象印マホービン株式会社 (440)
【Fターム(参考)】