説明

養液栽培装置

【課題】予め調整されて供給された培養液の濃度、温度等の最適な培養液条件の栽培槽内での維持と均一な供給を可能とし、栽培作物に対する適正な養分提供、酸素提供、環境提供を安定して行うことが可能な養液栽培装置の提供を課題とする。
【解決手段】栽培槽10と栽培床20とを少なくとも備え、調整された培養液を栽培槽10内に供給し、培養液を常に流動状態に循環させると共に培養液の水位を調節可能とした養液栽培装置であって、栽培槽10内への培養液の給液口31を、栽培槽10の長手方向に沿う一側に間隔をもって複数配置すると共に、栽培槽10内からの培養液の排液口41を、栽培槽10の長手方向に沿う他側に間隔を持って複数配置し、これにより栽培槽10内を流れる培養液の流れ方向を短手方向になるように構成し、加えて栽培槽10内の培養液の入れ替わり回数を1時間当たり1〜10回の範囲となるように調節する構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は養液栽培装置に関し、より詳しくは、栽培槽に作物栽培用の培養液を流し、培養液中の栄養を根に与えることで作物を生育させるようにした養液栽培装置に関する。
【背景技術】
【0002】
栽培槽内に培養液を供給、循環させながら作物の栽培を行う養液栽培装置では、栽培槽の長手方向に培養液を流して、作物に栄養を与えている。
この場合、養液栽培の規模が大きくなるにつれ、栽培槽も長尺となり、栽培槽内を長手方向に流れる培養液の流路が長くなる。
このような状況では、栽培槽内を流れる培養液の停滞がおこりやすく、また均一な流れが十分に保障できなくなる上、循環量や交換回数(入れ替わり回数)も少なくなる。このため、例え培養液が適正に調整された状態で栽培槽内に供給されたとしても、その後における経時的な培養液の養分濃度、溶存酸素濃度、養液温度の変化、変動が大きくなり、根に対する養分供給環境、酸素供給環境、液温環境が十分に安定しない問題、更には環境悪化が大きいことに起因する根の成長、作物の生育に大きな支障をきたす原因となっていた。
また養液栽培装置においては、根が培養液に浸された状態になる場合が多いが、植物の根の呼吸量は大きく、培養液中の溶存酸素ではどうしても不足となり、酸素欠乏状態となりやすい。
このような点を考慮して、栽培槽内において、作物の根の一部が培養液層上の空気層に露出するようにして、作物の根が空気層から直接的に酸素を吸収できるようにしたものも提供されている。
しかしながら、従来において前記栽培槽内に形成される空気層は外気と通気状態にあるものが多く、空気層における湿度維持の考え方が不十分であった。
即ち、作物の根が培養液層から空気層に露出した状態において、空気層の湿度が低下した場合には、根表面からの水分蒸発による潜熱冷却が生じ、根に大きなダメージを与える結果となる。従来は、そのような露出空気層の湿度管理に関しての考慮が十分にはなされておらず、酸素吸収不足の解消が実際には十分にはなされていなかった。
特開平10−248416号公報(特許文献1)には、養液面と定植板7との間に空気層Rを存在させることで、湿気中根を発育させるようにした渟水式養液栽培方法及び栽培装置が開示されている。
また特開2007−89489号公報(特許文献2)には、二方向に傾斜面のある栽培ベッド(3)を用い、培養液を長手方向の他、その栽培ベッド(3)の短手方向にも、フィルム状に薄く流すようにした水耕栽培装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−248416号公報
【特許文献2】特開2007−89489号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1の渟水式養液栽培方法及び栽培装置によれば、空気層(R)を設けることで湿気中根を発達させ、これによって給水シートを使用しなくても作物が枯れなくてすむ渟水式栽培が実現される。しかし、あくまで渟水式栽培を前提としたものであり、調整タンクで養分濃度や酸素濃度、温度等が調整された培養液を栽培槽内に供給する方式の養液栽培装置にはそのまま当てはまらない。一方、空気層(R)の構成に関しても、実際には、定植板(7)や定植孔(8)等の隙間からの通気が見込まれ、空気層(R)における湿度環境が考慮された構成にはなっていない。このため空気層(R)に露出する根が潜熱冷却によるダメージを受けるのを十分には防ぐことができないという問題が残っている。
上記特許文献2の水耕栽培装置によれば、培養液が栽培ベッド(3)上を短手方向に流れることで培養液の流下距離を短くすることができ、培養液の濃度差による育成速度差を解消できるメリットがある。しかし、あくまで栽培ベッド(3)上に培養液をドリップ的に薄層状態に流す方式の水耕栽培装置を前提としたものである。即ち、培養液を栽培槽内に所定の深さに張った状態で循環させ、作物の根を栽培槽内に張った培養液に浸漬させて養分を吸収させる方式の養液栽培装置には、そのまま当てはまらない。またこの文献2の水耕栽培装置では、培養液を栽培ベッド(3)上にごく薄いフィルム状に流す方式であることから、栽培槽内に培養液を流し込んで循環させる方式の栽培装置とは異なり、適用される作物の種類がある程度限定される栽培装置である。またフィルム状の培養液層の上に生じる空気層には根の多くが露出することになるが、その空気層の気密性等に関しては、該空気層の湿度環境を考慮した構成は開示されておらず、根表面での水分蒸発に伴う潜熱冷却によって受ける根のダメージを十分には防ぐことができないという問題が残っている。更に特許文献2の水耕栽培装置では、栽培ベッド(3)を傾斜させる必要があることから、作物の植付けがどうしても傾斜した状態になるという問題がある。
【0005】
そこで本発明は上記従来における養液栽培の問題点を解決し、培養液を栽培槽内に所定の深さに供給して循環させる方式の養液栽培装置において、栽培槽が一方向に長尺となる場合に特に効果を発揮し、予め調整されて供給された培養液の濃度、温度等の最適な培養液条件の栽培槽内での維持と、栽培槽内に提供された調整済み培養液の各栽培作物への偏りのない均一な供給を可能とし、よって栽培作物に対する適正な養分提供、酸素提供、環境提供を安定して行うことが可能な養液栽培装置の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の養液栽培装置は、作物栽培用の培養液を流すための栽培槽と該栽培槽に配置される栽培床とを少なくとも備え、調整タンクで調整された培養液を栽培槽内に供給し、培養液を常に流動状態に循環させると共に培養液の水位を調節可能とした養液栽培装置であって、栽培槽内への培養液の給液口を、栽培槽の長手方向に沿う一側に間隔をもって複数配置すると共に、栽培槽内からの培養液の排液口を、前記栽培槽の長手方向に沿う他側に間隔を持って複数配置し、これによって前記栽培槽内を流れる培養液の流れ方向を前記栽培槽の短手方向になるように構成し、加えて前記栽培槽内の培養液の入れ替わり回数を1時間当たり1〜10回の範囲となるように調節する構成としたことを第1の特徴としている。
また本発明の養液栽培装置は、上記第1の特徴に加えて、栽培槽の内部において、作物の根の一部が培養液層から上方の空気層に露出する状態となるように、培養液の水位を調節する構成とすると共に、前記空気層の湿度が常に90%以上になるように構成することを第2の特徴としている。
また本発明の養液栽培装置は、上記第1又は第2の特徴に加えて、仕切板を着脱自在に設けることで、前記栽培槽内の培養液層を長手方向に対して直角方向に複数の領域に仕切る構成としたことを第3の特徴としている。
また本発明の養液栽培装置は、上記第3の特徴に加えて、仕切板で仕切られる領域毎に培養液の水位調節を自在とする構成としたことを第4の特徴としている。
また本発明の養液栽培装置は、上記第1〜第4の何れかに記載の特徴に加えて、栽培槽内の培養液の温度変化が設定温度の±1℃以内、電気伝導度が設定値に対して−0.1mS/cm以内に維持されるように構成されていることを第5の特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
請求項1に記載の養液栽培装置によれば、栽培槽内を培養液が連続して循環する装置において、栽培槽内への培養液の給液口を、栽培槽の長手方向に沿う一側に間隔をもって複数配置すると共に、栽培槽内からの培養液の排液口を、前記栽培槽の長手方向に沿う他側に間隔を持って複数配置し、これによって前記栽培槽内を流れる培養液の流れ方向を前記栽培槽の短手方向になるように構成したので、
栽培槽内に給液された培養液の流れが短手方向となり、よって長手方向に長い道程を流れる場合に培養液の一部に生じる長期の滞留をなくすことができる。よって栽培槽内に給液された新鮮な培養液の全体を劣化なく、またバラツキなく均質な状態で、全体の作物に供給することができる。
加えて、特に栽培槽内の培養液の入れ替わり回数を1時間当たり1〜10回の範囲となるように調節する構成としたことで、栽培槽内での培養液の滞留時間を十分に規制することができ、例えば栽培槽内での培養液の温度変化を±1℃以下、養分の電気伝導度の変化を設定値に対して−0.1mS/cm以内の安定した状態に維持することが可能となり、調整された培養液の適正条件をそのまま栽培槽内で安定して保持することが現に可能となる。よって栽培作物の良好且つ均質で安定した成長を実現できる。
【0008】
請求項2に記載の養液栽培装置によれば、上記請求項1の構成による作用効果に加えて、栽培槽の内部において、作物の根の一部が培養液層から上方の空気層に露出する状態となるように、培養液の水位を調節する構成とすると共に、前記空気層の湿度が常に90%以上になるように構成したので、
培養液中に浸った根からだけの吸収では不十分となりやすい酸素の吸収を、空気層に露出した根から十分に吸収することができる。根の一部を空気中に露出させるという考え方は従来からあるが、空気層に露出した根が根表面からの水分蒸発によってダメージを受けることに関する考慮が十分になされていなかった。
本発明では空気層の湿度が常に90%以上になるようにして、湿度環境を十分に考慮した構成としたので、空気層に露出した根の表面からの水分蒸発を防止することができ、よって根のダメージを十分に防止して、空気層からの酸素吸収能力を十分に安定して確保できるようになった。よって作物の良好で安定した呼吸を確保して、良好な生育を実現することが可能となった。
【0009】
請求項3に記載の養液栽培装置によれば、上記請求項1又は2の構成による作用効果に加えて、仕切板を着脱自在に設けることで、前記栽培槽内の培養液層を長手方向に対して直角方向に複数の領域に仕切る構成としたので、
栽培槽の短手方向に且つ仕切板で仕切られた領域毎に、培養液を流すことができるので、個々の領域毎に培養液の入れ替わりを、部分的に滞ったりすることなく、より均一な状態で且つ速やかに行うことができる。よって栽培槽の全体としてもバラツキがなく、均質で良好な流れと、速やかなる培養液の入れ替わりを実現することができる。これにより新鮮な培養液を、温度条件の劣化や濃度条件の劣化なく、安定した環境下で作物に提供することができる。
【0010】
請求項4に記載の養液栽培装置によれば、上記請求項3の構成による作用効果に加えて、仕切板で仕切られる領域毎に培養液の水位調節を自在とする構成としたので、
培養液の水位を各仕切板で仕切られた領域毎に調整することができる。よって作物や根の生育状態に応じて、領域毎に水位を調節し、培養液層と空気層とのバランスを変更調整することができる。また領域毎に水位を調節することで、複数種類の作物を同時に、しかも各種類毎に最適な水位、空気層の環境に調整しながら栽培することができる。
【0011】
請求項5に記載の養液栽培装置によれば、上記請求項1〜4の何れかの構成による作用効果に加えて、栽培槽内の培養液の温度変化が設定温度の±1℃以内、電気伝導度が設定値に対して−0.1mS/cm以内に維持されるように構成されていることにより、
所定の温度、養分濃度、溶存酸素濃度に調整されて栽培槽内に供給された培養液を、その温度、養分濃度をほとんどそのまま変動することなく作物に与えることができる。よって作物への培養液の提供を常に良好な状態で行い、良好で安定した生育を図ることができる。なお、この様な培養液の温度、電気伝導度の維持は、培養液が栽培槽内に滞在する時間を短く制限する手段を講じると共に、栽培槽の断熱性やその他の環境条件を整える手段を講じることで可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態に係る養液栽培装置の全体概略構成図である。
【図2】本発明の実施形態に係る養液栽培装置の栽培槽を示し、(A)は平面図、(B)は断面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る養液栽培装置の栽培槽の他の例をし、(A)は平面図、(B)は断面図である。
【図4】本発明の実施形態に係る養液栽培装置の栽培床と栽培槽との構造を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、各図面を参照して、本発明の実施形態に係る養液栽培装置を説明し、本発明の理解に供する。しかし、以下の説明は本発明の特許請求の範囲に記載の発明を限定するものではない。
【0014】
先ず図1を参照して、本発明の実施形態に係る養液栽培装置は、栽培槽10と該栽培槽10に配置される栽培床20とを有し、その他に給液管路30、排液管路40、調整タンク50、追肥タンク60、温度調整手段70、中央制御部80等を有する。
【0015】
前記栽培槽10は、作物栽培用の培養液を流すための槽で、本発明に係る実施形態では所定の幅、長さ、深さを有し、全体として一方向に長く延長された長方形の槽からなる。
栽培槽10の上に組み合わされる栽培床20は、マルチパネル21と栽培鉢22とを備え、栽培鉢22床に植えられた作物の根が前記栽培槽10内に伸びることで、栽培槽10内を循環して流れる培養液から栄養を吸収し、生育できるようになっている。
【0016】
栽培槽10は、当然ながら水密性を備え、また断熱性、遮光性を備えた材料で構成することができる。本実施形態ではプラスチック製としている。栽培槽10は十分な断熱性を確保するため、必要に応じて断熱手段を槽周囲に施すことができる。
前記マルチパネル21は断熱性、遮光性、気密性を供えた発砲樹脂を用いるが、断熱性、遮光性、気密性を備えた樹脂、その他の材料を用いることも可能である。
【0017】
図2も参照して、栽培槽10の長手方向に沿う一側、即ち、長手方向の両側壁11、12のうちの一側の側壁11の内側に沿って、一定間隔で複数の給液口31、31・・・を配置している。この給液口31の取り付けピッチは、例えば30cm〜5mの範囲とすることができる。
図2には給液口31を6箇所に設けている。が、この給液口31の数、及び各給液口31間の間隔は栽培槽10の長さ、栽培作物の種類、培養液の種類、その他の条件に応じて自由に変更することができる。
給液管路30を調整タンク50から栽培槽10に導き、更に栽培槽10の内に導くと共に、前記一側の側壁11の内側に沿って長手方向に延長して設け、その途中に複数の給液口31を配置している。
給液口31は、栽培槽10内の培養液の水位L(液面)よりも下の位置となるように配置するのが好ましい。こうすることで、液面に位置する後述の排液口41との上下方向の位置的バランスが良くなり、栽培槽10内の低位置に給液された培養液が栽培槽10内の上位位置方から排液されることになって、栽培槽10内での培養液の移動バランスがよくなる。
【0018】
また給液管路30も、栽培槽10内において、培養液の水位Lよりも下に配管することで、給液管路30を流れる培養液と栽培槽10内の培養液の温度を同じにするのが好ましい。
培養液は、調整タンク50から給液ポンプ32で栽培槽10まで供給される。栽培槽10の外にある給液管路30は、調整タンク50で調整された培養液の温度を維持させるため、断熱手段等により外部から断熱されるのが好ましい。
【0019】
栽培槽10の長手方向両側壁11、12のうちの他側12、即ち前記一側11とは反対側に沿って、一定の間隔で複数の排液口41、41・・・を配置している。この排液口41の取り付けピッチは、例えば給液口31の場合と同様に、30cm〜5mの範囲とすることができる。
図2では、排液口41を前記給液口31の数より1つ多い7箇所に設けている。また各排液口41の位置は前記給液口31の位置から半ピッチ程度ずれた位置に設けている。
本実施形態の場合は、排液口41の数は給液口31に数より1個多くなるが、数そのものは、前記7箇所に限定されるものではなく、給液口31との関係において、自由に変更することができる。
【0020】
給液口31や排液口41の数及び間隔は、栽培槽10の長さ、栽培作物の種類、培養液の種類、その他の条件に応じて自由に変更することができる。
給液口31と排液口41とは、相互に対向した位置に設けることもできる。この場合は給液口31と排液口41は同数、同ピッチとなる。
また給液口31と排液口41の数は2つ以上異なる場合も可能である。栽培槽10に供給された培養液が栽培槽10を短手方向に流れて循環するのを条件として、給液口31と排液口41の数は適当に相異してもよい。
短手方向とは栽培槽10の長手方向に対して直角となる方向であるが、前記培養液が流れる方向としての短手方向は必ずしも丁度90度である必要はない。好ましくは長手方向に対して90度の前後45度の角度範囲内で流れるのが良いが、90度の前後60度の角度範囲であっても、長手方向に平行に流れる場合と比べて、十分に短期間での培養液の入れ替えが期待されるので、可能である。前記培養液が流れる方向としての短手方向は、長手方向に直角な方向の他、前記したような斜めの角度範囲も含むものとする。
【0021】
各給液口31から栽培槽10内に流入した培養液は、給液口31とは反対側である他側12の排液口41のうち、主として給液口31に近い排液口41に向かって流れて、その排液口41から流出、即ち栽培槽10外に排出される。
よって、栽培槽10の長手方向の各給液口31から栽培槽10内に流入した培養液は、栽培槽10の長手方向に略直角方向である短手方向に、それぞれ短い距離をもって流れ、近くの排液口41に入って排出されることになる。このため、給液された全ての培養液或いは一部の培養液が栽培槽10内で長時間滞留するのを防止し、培養液の濃度、温度、溶存酸素量、更には水位等が、栽培槽10内の長手方向に、不本意に大きく変化、変動するのを防止できる。その結果、栽培槽10の全域で新鮮な培養液を入れ替わりよく、均質に供給することができる。よって、作物を良好な生育で且つ場所的なバラツキなく、均質に生育させることができる。
【0022】
本発明では、栽培槽10内を流れる培養液の流れ方向が栽培槽10の短手方向になるように構成するのに加えて、栽培槽10内の培養液の入れ替わり回数を1時間当たり1〜10回の範囲となるように調節している。
特記すべきことは、培養液の流れ方向を短手方向にすることで、栽培槽10内に供給する培養液の供給速度乃至勢いを、それほど極端に速く乃至強くすることなく、上記のような入れ替わり回数を達成することが可能となることである。もし培養液をこれまで通り栽培槽10の長手方向に流しながら、且つ培養液の入れ替わり回数を上記のように多くする場合には、栽培槽10への培養液供給の初期速度乃至勢いを非常に速く乃至強くする必要が生じ、このため作物の根には過酷な環境を生じさせると共に、それでも尚且つ培養液の流下途中での一部乃至全部の滞りが避けられない状況となる。
前記培養液の入れ替わり回数を1時間当たり1〜10回の範囲とすることは、調整された培養液を連続して栽培槽10に供給す際における1時間当たりの総供給量を、栽培槽10に貯液される培養液の体積の1〜10倍とすればよい。この場合において、排液口41の排液能力は当然ながら給液口31から供給される培養液の流量を上回っていることが必要である。
以上のようにして、栽培槽10内の培養液の入れ替わり回数を1時間当たり1〜10回の範囲となるように調節することで、栽培槽内での培養液の滞留時間を十分に短くすることができ、その滞留時間の短さゆえに、例えば栽培槽内にある培養液の温度変化や電気伝導度の変化を、勿論、栽培槽の断熱環境等の他の条件にも影響は受けるが、温度変化を±1℃以下、養分の電気伝導度の変化を設定値に対して−0.1mS/cm以内に維持することが可能となり、調整された培養液の最適状態をほぼそのままの状態で、且つ均質で安定して全作物に提供することが現に可能になるのである。因みに、培養液中の溶存酸素濃度を7ppm以上に維持することが可能となる。
【0023】
前記各排液口41の栽培槽10内での高さ位置は、前記培養液の水位Lと一致する。即ち、各排液口41の高さで培養液の水位Lが決まる。
各排液口41は、栽培槽10の底壁から栽培槽10外に導出され、排液管路40に接続される。排液管路40内の培養液は調整タンク50に戻る。
前記排液口41は、その全てが水位Lの位置にある必要はない。排液口41の一部は水位Lより下にあって、培養液の液面下からも排液がなされるようにし、培養液の入れ替わりがよりバランスよく行えるようにすることも可能である。この場合、液面下での排液の量は、培養液の水位Lに影響がない程度に抑制することになる。
【0024】
前記排液口41の位置は上下に移動調節できるように構成している。排液口41を上下方向に移動調節する機構は、例えば排液口41を構成する上下二重管の上管が下管に対して所望の寸法だけ移動させることができる機構とすればよい。このような機構は従来周知の種々の方法を用いて構成することができる。
また排液口41の上下位置の調節は、栽培槽10の外からの操作で行えるように構成することができる。例えば栽培槽10の外に操作部を設け、操作部を操作することで、排液口41の実際の位置が目標の表示水位まで移動する機構とすればよい。このような機構は、他の周知の種々の方法で構成することができる。
排液口41の上下位置の調節は、手動の他、作物の種類や生育の状況、即ち生育日数、根の伸び具合、丈の高さ等に応じて、自動制御するようにしてもよい。
前記栽培槽10内を流れる培養液の水位は、例えば栽培槽10の深さを50〜120mmの範囲とする場合、培養液の水位を20〜70mmの範囲で任意に設定調整できるように構成する。
【0025】
排液口41の上下調節により、培養液層の水位調節が行える他、栽培槽10の内部の培養液層の上方に空気層Sを容易に構成することができる。空気層Sを栽培槽10内に構成することで、栽培作物の根の一部を培養液の上に露出させることができる。これによって作物の根が空気層Sから直接的に酸素を取り入れることが可能となり、作物が酸欠状態となるのを回避できる第1の条件が整う。
しかし、空気層Sが構成されるだけでは十分ではない。作物の根が空気層Sに露出した状態において、本発明では空気層Sの湿度が常に90%以上になるように構成している。
前記栽培槽10内の空気層Sの湿度を90%以上に保持するためには、栽培槽10の気密化が重要となる。
【0026】
図4を参照して、前記栽培槽10の気密化は、栽培槽10の上部開口が栽培床20によって気密状態に封止することで達成できる。
栽培槽10の上部開口縁の全周に、床受レール23を設ける。床受レール23は、栽培槽10の上部開口縁に被さるように嵌合する嵌合部23aと、栽培槽10の上部内壁から水平に突出する床受部23bとを備える。そしてこの床受部23bに対して栽培床20の底部周縁部を接面状態となるように配置する。
より具体的には、栽培床20のマルチパネル21が前記床受レール23の床受部23bの上に接面状態に配置される。これによって、栽培槽10の上部開口縁からの通気が阻止される。また光の侵入も防止できる。
勿論、より気密性を確実にするために、床受レール23とマルチパネル21との隙間を更に目張りテープ等の目張り手段を用いて目張りしてもよい。
【0027】
マルチパネル21と、それに設置される栽培鉢22との間における通気も遮断する。
栽培鉢22は根が自由に伸びることができるように、籠状にされると共に、蓋22aが設けられている。この蓋22aは周囲が鍔22bとなって水平方向に張り出した状態に構成されている。また蓋22aの中央部は栽培作物を植えつけるために凹部に構成されており、その中心部に作物の株元部分を貫通させるための穴22cが、唯一構成されている。
マルチパネル21には栽培鉢22を設置する開口部21aが構成されている。この開口部21aの内側周には段部21bが構成されている。前記開口部21aの大きさは前記栽培鉢22の蓋22aが丁度入る大きさとしている。
栽培鉢22をマルチパネル21の開口部21aに嵌め込み、栽培鉢22の蓋22aの鍔22bを前記開口部21aの段部21bに接面状態に配置する。これによって、栽培鉢22の嵌め込み周縁とマルチパネル21の開口部との間が閉塞され、通気が阻止される。また光の侵入も防止できる。
勿論、より気密性を確実にするために、マルチパネル21の開口部21a上に配置された栽培鉢22の蓋22aの鍔22bと前記開口部21aとの隙間を更に目張りテープ等の目張り手段を用いて目張りしてもよい。
【0028】
前記栽培鉢22の蓋22aの穴22cは、作物を植えつけるのに必要な穴である。勿論、作物を植えつけるのに必要最小限の寸法とするが、通気の遮断及び遮光をより確実にするために、作物を貫通させた状態で更に確実に穴22cの通気を阻止する通気阻止を施すようにしてもよい。
なお、栽培鉢22の中には籠から脱落しないような培地を充填することができる。この培地の側からも前記作物が貫通した状態での前記穴22cを介する通気を阻止する通気阻止手段を更に施すようにしてもよい。
【0029】
前記マルチパネル21は、必要に応じて、1枚ではなく複数を相互に組み合わせる必要が生じる。
マルチパネル21同士を組み合わせる場合、一方のマルチパネル21には、上向きの嵌合段部21cを構成し、これに対応する他方のマルチパネル21には下向きの嵌合段部21dを構成する。これによって、マルチパネル21同士を組み合わせる場合には、一方のマルチパネル21の上向きの嵌合段部21cに対して他方のマルチパネル21の下向きの嵌合段部21dが接面状態になるよう配置することで、マルチパネル21、21を組み合わせる場合においても、それらの隙間からの通気を防止することができる。勿論、マルチパネル21、21間の隙間を更に目張りテープ等の目張り手段を用いて目張りしてもよい。
【0030】
以上のようにして、栽培槽10とマルチパネル21との間、マルチパネル21と栽培鉢22との間、栽培鉢22の穴22cと作物との間、マルチパネル21とマルチパネル21との間における通気を阻止することで、栽培槽10内の空気層Sへの外気の侵入を確実に防止し、気密性を保持することができる。
前記空気層Sの気密性が保持されることで、培養液層上にある空気層Sの湿度をほぼ100%に保持でき、少なくとも90%以上に保持することができる。
空気層Sの湿度が常に90%以上に保持されることで、培養液層から空気層Sに露出した作物の根からの水分の蒸発を十分に抑制し、潜熱冷却によって根がダメージを受けるのを十分に防止することができる。よって、空気層Sに露出した根は健全性を保持しながら十分なる呼吸を行い、作物の良好な生育に寄与する。
【0031】
図3に、本発明の実施形態に係る養液栽培装置の栽培槽10の他の例を示す。
この例では、仕切板13を栽培槽10に対して着脱自在に設ける構成としている。
仕切板13は栽培槽10内の培養液層を長手方向に対して直角方向に複数の領域に仕切るものである。培養液層は仕切板13で仕切られるが、培養液層の上の空気層Sについては仕切板13で仕切られる必要はなく、仕切板13の上で連続した状態であってもよい。
仕切板13で仕切られる領域には、少なくとも1つ以上の給液口31及び排液口41が配備されるようにする。
仕切板13で培養液層を複数の領域に分けることで、領域毎に培養液が確実に独立した状態に仕切られ、遠くまで流れてしまうことがない。即ち、全ての培養液が短手方向に確実に流れる。また培養液の入れ替わりが短時間で確実に行われる。また培養液の流れがより均一となり、部分的な不均一、滞りがより少なくなる。特に、栽培槽10が仕切られることで、この領域内を短手方向に流れる培養液の距離が短くなり、よって栽培槽10内に供給する培養液の初期供給速度を、それほど極端に速くしなくても、培養液の速やかな入れ替わりを達成することできる。
【0032】
また仕切板13で仕切られる複数の領域は、その領域の大きさが同じである必要はない。同じ作物で同じ生育状況のもの毎に仕切板13で分けるようにすることができる。また異なる作物を同じ栽培槽10で栽培する場合に、異なる作物毎に仕切板13で分けるようにすることができる。
【0033】
前記仕切板13で仕切られた各領域については、領域毎に培養液の水位調節を自在とする構成としている。即ち、仕切板13で仕切られた領域毎に、排液口41の高さを調節できるように構成している。排液口41の位置の上下調節は、既述したように、例えば、排液口41を構成する上下二重管の上管が下管に対して上下できる機構とする等、従来周知の種々の方法を用いて構成することができる。また栽培槽10の外から各領域の排液口41の高さを操作する構成としてもよい。このような構成も従来周知の種々の方法を用いて構成することができる。また各領域での排液口41の上下位置の調節は、手動で行う構成の他、作物の種類や生育の状況、即ち生育日数、根の伸び具合、丈の高さ等に応じて、自動制御する構成とすることができる。
【0034】
培養液は調整タンク50から給液ポンプ32により給液管路30を経て栽培槽10内に供給される。また栽培槽10から排液された培養液は排液管路40を経て調整タンク50に循環する。
前記調整タンク50には、追肥タンク60から追肥ができるようになされている。追肥は、例えば濃縮された肥料液を追肥タンク60から、追肥ポンプ61により、追肥管路62を介して、調整タンク50に送られることで行われる。送られた肥料液は、図示しない撹拌手段により撹拌される。前記追肥タンク60は肥料に応じて複数とすることができる。
また前記調整タンク50内の培養液は、温度調整手段70により設定温度に調整される。温度調整は、例えば熱交換器71を調整タンク50内に配置し、調整タンク50外に冷温水熱源72、温調ポンプ73を配置し、冷温水熱源72から熱媒或いは冷媒を前記熱交換器71に循環させることで、調整タンク50内の培養液を熱交換加熱或いは熱交換冷却することで行うことができる。加熱については電気ヒータによっても行うことができる。温度調整は、温調ポンプ73の回転制御、オンオフ制御、バルブを用いた流量制御等で行うことができる。
その他、調整タンク50内の培養液の溶存酸素濃度を飽和状態にする手段として、調整タンク50内の培養液層内に空気泡をバブリングして導入するための空気バブリング手段を設ける。
【0035】
調整タンク50内の培養液の条件調整は中央制御部80で行う。
中央制御部80に情報を提供するセンサとして、調整タンク50内の培養液の温度を測定する第1液温センサ81と、培養液の養分濃度を測定する電気伝導度センサ82を設けている。また栽培槽10内にある培養液の液温を検出する第2液温センサ83と、栽培槽10の外の外気温を測定する気温センサ84を設けている。
【0036】
中央制御部80による主たる制御は、調整タンク50内にある培養液の条件を予め定めた培養液条件に調整することと、栽培槽10内を流れる培養液の状態を制御することである。
調整タンク50内での培養液条件の調整は、培養液の温度を予め定められる設定温度に調整することと、培養液の養分濃度を予め定められる設定濃度に調整することである。
調整タンク50内の培養液の設定温度調整は、前記第1液温センサ81が検出する温度が設定温度となるように、前記温度調整手段70の温調ポンプ73のオンオフ制御及び回転制御することにより行うことができる。制御はフィードフォワード制御やフィードバック制御、またPID制御等の既存の制御方法により正確に行うことができる。
調整タンク50内の培養液の養分濃度調整は、前記電気伝導度センサ82が検出する電気伝導度が設定電気伝導度となるように、追肥ポンプ61を駆動制御することにより行うことができる。この場合にも、制御はフィードフォワード制御やフィードバック制御、またPID制御等の既存の制御方法により正確に行うことができる。
なお、調整タンク50内の培養液の溶存酸素濃度は、既述した空気バブリング手段等の酸素導入手段を連続駆動或いは間欠駆動させることで、常に飽和状態にしておくことができる。
【0037】
前記栽培槽10内を流れる培養液の制御については、予め設定した培養液の1時間当たりの入れ替わり回数、即ち設定入れ替わり回数になるように、給液ポンプ32を回転させる。例えば入れ替わり回数を2回と設定した場合は、給液ポンプ32による1時間当たりの総給液量が、栽培槽10内に溜められる培養液の総量の2倍になるように給液ポンプ32を操作すればよい。栽培槽内の培養液の入れ替わり回数を1時間当たり1〜10回の範囲とすることで、勿論、栽培槽の断熱環境等の他の条件にも影響は受けるが、培養液の温度変化を±1℃以下、養分の電気伝導度の変化を設定値に対して−0.1mS/cm以内に維持することが可能となる。入れ替わり回数が1時間当たり1回未満の場合は、培養液の流れが部分的に滞る状況が生じ、栽培槽10内の培養液の状態を常に流動状態にすることができなくなるおそれがある。また入れ替わり回数が10回を超えると、栽培槽10内での培養液の流れが速くなりすぎて、好ましくない。
一方、栽培槽10内を流れる培養液の温度制御については、更に調整タンク50内の第1の液温センサ81が検出する培養液の温度(通常は調整がなされた設定温度と一致する)と栽培槽10内の第2の液温センサ83とが検出する培養液の温度との偏差をとらえ、その偏差が大きくなると、可変インバータ85を介して給液ポンプ32の回転数を増加させて給液量を増加させる。給液量を増加させることで栽培槽10内での培養液の滞留時間を短くして、栽培槽10内での吸熱、放熱による温度変化がより少なくなるように微調整する。例えば栽培槽10内の培養液の温度が調整タンク50内の培養液の温度よりも0.1℃高くなった場合には、給液ポンプ32の回転量を10%増加させ、これによって栽培槽10内における培養液の滞留時間をその分だけ短くし、栽培槽10内の培養液の温度変化を低減させる。仮に前記10%の増加によっても、一定時間後に温度偏差が一定値以上小さくなっていない場合には、更に給液ポンプ32の回転数を一定量増加させて、偏差が小さくなる方向になるように、インバータ85を用いた比例制御を行う。以上のようにして、栽培槽10内での培養液温度は給液ポンプ32を用いた流量制御によって微調整することができる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は養液栽培を行う装置として産業上利用することができる。
【符号の説明】
【0039】
10 栽培槽
11 側壁
12 側壁
13 仕切板
20 栽培床
21 マルチパネル
21a 開口部
21b 段部
21c 上向きの嵌合段部
21d 下向きの嵌合段部
22 栽培鉢
22a 蓋
22b 鍔
22c 穴
23 床受レール
23a 嵌合部
23b 床受部
30 給液管路
31 給液口
32 給液ポンプ
40 排液管路
41 排液口
50 調整タンク
60 追肥タンク
61 追肥ポンプ
62 追肥管路
70 温度調整手段
71 熱交換器
72 冷温水熱源
73 温調ポンプ
80 中央制御部
81 第1液温センサ
82 電気伝導度センサ
83 第2液温センサ
84 気温センサ
85 インバータ
L 水位
S 空気層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作物栽培用の培養液を流すための栽培槽と該栽培槽に配置される栽培床とを少なくとも備え、調整タンクで調整された培養液を栽培槽内に供給し、培養液を常に流動状態に循環させると共に培養液の水位を調節可能とした養液栽培装置であって、栽培槽内への培養液の給液口を、栽培槽の長手方向に沿う一側に間隔をもって複数配置すると共に、栽培槽内からの培養液の排液口を、前記栽培槽の長手方向に沿う他側に間隔を持って複数配置し、これによって前記栽培槽内を流れる培養液の流れ方向を前記栽培槽の短手方向になるように構成し、加えて前記栽培槽内の培養液の入れ替わり回数を1時間当たり1〜10回の範囲となるように調節する構成としたことを特徴とする養液栽培装置。
【請求項2】
栽培槽の内部において、作物の根の一部が培養液層から上方の空気層に露出する状態となるように、培養液の水位を調節する構成とすると共に、前記空気層の湿度が常に90%以上になるように構成することを特徴とする請求項1に記載の養液栽培装置。
【請求項3】
仕切板を着脱自在に設けることで、前記栽培槽内の培養液層を長手方向に対して直角方向に複数の領域に仕切る構成としたことを特徴とする請求項1又2に記載の養液栽培装置。
【請求項4】
仕切板で仕切られる領域毎に培養液の水位調節を自在とする構成としたことを特徴とする請求項3に記載の養液栽培装置。
【請求項5】
栽培槽内の培養液の温度変化が設定温度の±1℃以内、電気伝導度が設定値に対して−0.1mS/cm以内に維持されるように構成されていることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の養液栽培装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−125160(P2012−125160A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−277284(P2010−277284)
【出願日】平成22年12月13日(2010.12.13)
【出願人】(000162515)協和株式会社 (7)
【Fターム(参考)】