説明

香味劣化防止剤

【課題】 乳類入り飲食品の熱による香味劣化を効果的に防止することにより、密封容器入りコーヒー又は紅茶飲料のような保存期間の長い飲食品の場合の保存中の品質劣化を防止する。
【解決手段】 茶葉を水で抽出処理して抽出液を得、次いでその抽出液を吸着剤で精製処理して得られる精製物からなることを特徴とする乳類含有飲食品の加熱による香味劣化防止剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱に起因して生じる乳類(いわゆる乳等省令で規定される乳及び乳製品を指す)を含有する飲食品(以下、乳類含有飲食品という)の香味劣化に対し、広く適用できる香味劣化防止剤に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、食品の味と香りや匂いは食欲の増進や減退に大きく影響するため、その香味は種々の栄養成分と同様に食生活において重要な要素と考えられる。
食品の香味は製造、流通、保存等の各段階で経時的に劣化し、特に、缶、ガラス瓶、PETボトル等の密封容器入り飲料のような保存期間が長い飲食品の場合は、保存中に食品本来の香味が消失したり、食品成分の劣化により異味異臭が発生する等の問題が生じやすい。
最近の研究によれば、香味成分の劣化は、酸素のみならず、外部からの光照射や加熱、或いは食品中に微量に含まれている鉄等の金属成分などによって分解されて芳香や美味が消失し、更にその分解物が劣化臭や変色の発生の要因となることが明らかとなってきた。
【0003】
特に乳類は、蛋白、脂肪、糖質、ビタミン、ミネラル等の多種多様の乳成分から構成され、熱や光による影響を受けやすい。このため、自動販売機や店頭で加温販売される缶コーヒーや缶紅茶等の牛乳(ミルク)入り缶飲料のように、高温で長期間保存される商品では、乳成分に起因する香味劣化をいかに防止するかが問題となる。
【0004】
ここで、本発明における乳類とは、いわゆる乳等省令(「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令」、昭和26年12月27日厚生省令第52号)によって定義されるところの、乳(生乳、牛乳、特別牛乳、生山羊乳、殺菌山羊乳、生めん羊乳、部分脱脂乳、脱脂乳及び加工乳)、並びに乳製品(クリーム、バター、バターオイル、チーズ、濃縮ホエイ、アイスクリーム類、濃縮乳、脱脂濃縮乳、無糖れん乳、無糖脱脂れん乳、加糖れん乳、加糖脱脂れん乳、全粉乳、脱脂粉乳、クリームパウダー、ホエイパウダー、たんぱく質濃縮ホエイパウダー、バターミルクパウダー、加糖粉乳、調整粉乳、はつ酵乳、乳酸菌飲料及び乳飲料)が含まれるものとする。
【0005】
長期間にわたる加熱による飲食品の香味の劣化、特に乳類含有飲食品の加熱による劣化を防止するために、これまでに以下に述べるような幾つかの方法が提案されている。
例えば、L−アスコルビン酸を牛乳入り紅茶飲料に10〜500ppm添加することによる牛乳入り紅茶飲料の品質劣化を防止する方法(特許文献1参照)、シトラス系果実の果皮から得られるクマリン類縁体混合物を有効成分とする乳含有食品用劣化防止剤(特許文献2参照)、セルロース及び2種類以上の乳化剤を組み合わせて含むことを特徴とする乳飲料用安定剤(特許文献3参照)等である。
また、本発明者らもこれまでに飲食品等の光や熱による劣化を抑える方法を提案してきた(特許文献4〜21参照)。
しかしながら、これら従来技術は必ずしも熱による乳成分の分解等に起因する劣化臭を防止するのに適した方法とはいえず、乳類含有飲食品の熱による劣化臭を防止できる優れた技術は未だ確立されていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平1−199542号公報
【特許文献2】特開2002−272366号公報
【特許文献3】特開2006−20579号公報
【特許文献4】特開平10−42787号公報
【特許文献5】特開平11−137224号公報
【特許文献6】特開2001−346558号公報
【特許文献7】特開2002−244号公報
【特許文献8】特開2002−330741号公報
【特許文献9】特開2002−291406号公報
【特許文献10】特開2003−79335号公報
【特許文献11】特開2004−16056号公報
【特許文献12】特開2004−16057号公報
【特許文献13】特開2004−18611号公報
【特許文献14】特開2004−18612号公報
【特許文献15】特開2004−16058号公報
【特許文献16】特開2004−16059号公報
【特許文献17】特開2004−16061号公報
【特許文献18】特開2004−292778号公報
【特許文献19】特開2005−171116号公報
【特許文献20】特開2005−269908号公報
【特許文献21】特開2006−340639号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、乳類含有飲食品が加熱されて起こる香りや味の劣化を効果的に防止でき、古来より飲食され人体への安全性が十分に実証されている天然物由来の香味劣化防止剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは乳類含有飲食品の加熱による劣化を詳細に検討した結果、香味劣化が加熱によるカルボン酸類の増加など、香気成分のバランスの変化に起因し、乳類として全粉乳を用いた場合に香味劣化が特に著しくなることを見出し、さらに水を用い茶葉から抽出して得られた抽出液を吸着剤で精製処理して得られた精製物が、乳類、特に全粉乳入り飲食品の加熱による香味劣化を防止する効果があることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は以下の(1)〜(3)の香味劣化防止剤である。
(1)茶葉、特に紅茶葉を水で抽出処理して抽出液を得、次いでその抽出液を吸着剤で精製処理して得られる精製物からなることを特徴とする乳類、特に牛乳又は全粉乳を含有する飲食品の加熱による香味劣化防止剤。
(2)茶葉、特に紅茶葉を水で抽出処理して抽出液を得、次いでその抽出液を吸着剤で精製処理して精製物を得、さらにその精製物を、分離膜による処理、有機溶媒添加による不溶物処理及び陽イオン交換樹脂による処理から選択される1又は2以上の精製方法で処理して得られる再精製物からなることを特徴とする乳類、特に牛乳又は全粉乳を含有する飲食品の加熱による香味劣化防止剤。
(3)紅茶葉を水で抽出処理して抽出液を得、次いでその抽出液を吸着剤で精製処理して精製物を得、さらにその精製物を陽イオン交換樹脂によって精製処理して得られる再精製物からなり、当該再精製物中にキナ酸15〜25%、糖類20〜50%及びテアニン0.1〜8%を含むことを特徴とする、乳類含有飲食品の加熱による香味劣化防止剤。
【0010】
また、本発明は、上記香味劣化防止剤を含有することを特徴とする乳類含有飲食品用の香料組成物であり、また、上記香味劣化防止剤を含有することを特徴とする乳類含有飲食品であり、さらに、上記香味劣化防止剤を乳類含有飲食品に0.01〜20ppm添加することを特徴とする乳類含有飲食品の加熱による香味の劣化を防止する方法、である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の香味劣化防止剤を乳類含有飲食品に添加すると、熱に起因する香味劣化が防止され、加温販売されることが多い乳類入りのコーヒー飲料や紅茶飲料等では特に高い効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
(1)香味劣化防止剤の原材料
原材料である茶葉は、ツバキ科茶の樹(Camellia sinensis var.)の芽、葉、茎であり、品種、産地を問わず使用することができ、また、生であっても、前処理を施したものであってもよい。茶の前処理方法としては不醗酵、半醗酵、醗酵があるが、いずれの処理方法によるものであってもよい。
不醗酵茶としては緑茶(煎茶、玉露、かぶせ茶、番茶、玉緑茶、抹茶、ほうじ茶等)、半醗酵茶としてはウーロン茶、包種茶等が、醗酵茶としては紅茶が挙げられるが、本発明では香味劣化防止効果の高さから紅茶が好ましい。
紅茶葉は、産地、種類や等級を問わず、一般に飲用に市販されている乾燥茶葉を使用することができる。茶葉の種類としてはセイロン、ウバ、アッサム、ニルギリ、ケニアが好ましい。
【0013】
(2)香味劣化防止剤の製造方法
(2.1)抽出処理
本発明では、水を使用して茶葉を抽出処理する。抽出に用いる水の量は任意に選択できるが、一般には茶葉の1〜30倍量(質量)が用いられ、好ましくは5〜20倍量が用いられる。
抽出の温度及び時間は任意に定めることができ、特に限定されるものではないが、10〜100℃にて0.5〜12時間、特に0.5〜2時間が好適である。
得られた抽出液は、下記の精製処理に付するが、その精製処理前に抽出液に含まれる紅茶葉を除去した後、減圧濃縮しておくことが好ましい。
【0014】
(2.2)精製処理
前記抽出工程で得られた抽出液あるいはその濃縮液を、活性炭、シリカゲル、ゼオライト、合成吸着剤に例示される吸着剤に接触させて夾雑物を除去するための精製処理を行うことにより、本発明の香味劣化防止剤を得ることができる。
吸着剤の性状としては、比表面積が300〜600m2/g、細孔径が50〜300Åの多孔質体が好適である。活性炭、シリカゲル、ゼオライト、合成吸着剤等の種類に限定されず使用することができる。
【0015】
特に、活性炭と合成吸着剤の使用が好ましい。
活性炭は、木材、木炭、ヤシ殻、石炭類を原材料として炭化し、水蒸気等で賦活化して得られるもので、大きな比表面積と吸着能をもつ多孔質の炭素質物質であり、粉末状や粒状体のものがある。
合成吸着剤の例としては、多孔質構造のスチレン−ジビニルベンゼン共重合体系樹脂からなる合成吸着剤「ダイヤイオン(登録商標)HP」(三菱化学株式会社製)、アクリル酸エステル系樹脂の合成吸着剤「アンバーライト(登録商標)XAD−7」(ローム・アンド・ハース社製)などを挙げることができる。
これら吸着剤に接触させる方法は、バッチ式、カラム式のいずれでも良いが、香味劣化防止剤の生産を商業的規模で行う場合は、カラム方式の方が有利であり、好ましい処理条件は、空間速度(SV)が1〜2h-1である。
【0016】
抽出液を吸着剤により精製処理して得られた抽出液精製物はそのままで、或いは濃縮して本発明の香味劣化防止剤として使用できるが、取扱性や作業性のよさを考慮すると、減圧濃縮や凍結乾燥などにより溶媒を除去し、粉末状として使用するのが好ましい。
【0017】
(2.3)再精製処理
上記の精製処理して得られた抽出液の精製物あるいはその濃縮液に、さらに以下に述べる再度の精製処理を適用することによって、着色物質、カフェイン、ポリフェノール類、多糖類、たんぱく質、カルシウム、カリウム、ナトリウム等のミネラル成分、アミノ酸類などの前記吸着剤では除去できなかった夾雑物が除去されるため、有効成分の純度が高まり、より効果の高い香味劣化防止剤を得ることができる。
再精製処理は、以下に述べる(a)分離膜による処理、(b)有機溶媒添加による不溶物処理、及び(c)陽イオン交換樹脂による処理、から選択される精製方法のいずれか1つを適用するか、或いは2以上を適宜組み合わせて適用することにより行う。
【0018】
(a)分離膜による処理
膜(濾過)処理によって高分子である多糖類およびたんぱく質を除去して精製する方法である。膜の種類としては限外濾過膜、逆浸透膜、透析膜を利用できる。
【0019】
(b)有機溶媒添加による不溶物処理
抽出液の精製物またはその濃縮液に有機溶媒を添加して、析出する不溶物を濾過して除去することによって精製する方法である。
添加する有機溶媒としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、プロピレングリコール、グリセリン、アセトン等が例示され、これらの中でも安全性と取扱性の点からプロピレングリコールやエタノールが好適である。添加量は特に限定されるものではないが抽出液の精製物または濃縮液に対して0.1〜10質量部が好適である。
【0020】
(c)陽イオン交換樹脂による処理
抽出液の精製物またはその濃縮液を陽イオン交換樹脂に接触させることによって精製する方法である。
本発明で使用する陽イオン交換樹脂の種類は、特に限定されるものではないが、例えば、スチレン系樹脂の担体からなり、スルホン酸基を交換基としこれにナトリウムイオン等の陽イオンが配位する「ダイヤイオン(登録商標)SK1B」(三菱化学株式会社製)や「アンバーライト(登録商標)IR120B」(ローム・アンド・ハース社製)などが好適なものとして挙げられる。
【0021】
上述した再度の精製工程で得られた再精製物は、そのままで香味劣化防止剤として使用できるが、取扱性や作業性のよさを考慮すると減圧濃縮や凍結乾燥などにより溶媒を除去し、粉末状として使用するのが好ましい。
【0022】
なお、こうした粉末状の茶葉抽出物からなる本発明の香味劣化防止剤には、クエン酸、リンゴ酸、キナ酸等の有機酸、グルコース、フルクトース等の単糖類、スクロース等の二糖類、オリゴ糖類、テアニンなどの紅茶葉由来の成分が含まれている。
本発明者らは、種々の条件下で紅茶葉を抽出・精製して収集した多数の実験データを比較検討した結果、本発明の抽出・精製方法で得られた香味劣化防止剤は、精製物又は再精製物中に、下記構造式(1)のキナ酸(別名:1,3,4,5-テトラヒドロキシシクロヘキサンカルボン酸)、上記糖類および下記構造式(2)のテアニンが残存する程度、好ましくはキナ酸が15〜25%、糖類が20〜50%およびテアニンが0.1〜8%の含有量で残存する程度に精製された場合に、最も加熱劣化の防止に優れた効果を発揮することを見い出した。
【化1】

【化2】

【0023】
(3)香味劣化防止剤を含有する牛乳類含有飲食品
上記抽出処理で得られた精製物は、加熱による香味劣化防止剤として牛乳類含有飲食品の加工段階で適宜添加することができる。
本発明における乳類含有飲食品とは、先述のとおり、乳等省令によって定義されるところの、乳(生乳、牛乳、特別牛乳、生山羊乳、殺菌山羊乳、生めん羊乳、部分脱脂乳、脱脂乳及び加工乳)、並びに乳製品(クリーム、バター、バターオイル、チーズ、濃縮ホエイ、アイスクリーム類、濃縮乳、脱脂濃縮乳、無糖れん乳、無糖脱脂れん乳、加糖れん乳、加糖脱脂れん乳、全粉乳、脱脂粉乳、クリームパウダー、ホエイパウダー、たんぱく質濃縮ホエイパウダー、バターミルクパウダー、加糖粉乳、調整粉乳、はつ酵乳、乳酸菌飲料及び乳飲料)を含有する飲食品全般を意味する。
香味劣化防止剤を乳類含有飲食品に添加する場合は、一般に0.01〜20ppmが適当であり、好ましくは0.1〜5ppmである。
【0024】
乳類含有飲食品の加熱による香味劣化の詳細なメカニズムは明らかではないが、乳類として牛乳又は全粉乳を使用した場合に香味劣化が特に著しく、本発明の香味劣化防止剤はこのような全粉乳使用時の香味劣化にも高い効果を示す。なお、牛乳は直接飲用に供する牛の乳、全粉乳は牛乳を濃縮乾燥し、粉末にしたものである。
【0025】
本発明の香味劣化防止剤は、加熱又は加温条件下で保管、販売される乳類含有飲食品全般に使用できるが、自動販売機や店頭で加温販売されることが多い牛乳類含有コーヒー飲料、紅茶飲料への使用に適しており、特に乳類含有コーヒー飲料に対しては高い効果を示す。
なお、本発明におけるコーヒー飲料は公正取引委員会により昭和52年12月22日に認定された公正取引規約に定義されたコーヒー飲料等(コーヒー、コーヒー飲料、コーヒー入り清涼飲料)全般を含む他、乳固形分を3%以上含有し乳等省令で乳飲料と定義されるカフェ・オ・レ、カフェ・ラテ、コーヒー牛乳等も含まれる。
【0026】
(4)香味劣化防止剤を含有する牛乳類含有飲食品用の香料組成物
本発明の香味劣化防止剤は、乳類含有飲食品に使用される香料素材(精油、エッセンス、コンクリート、アブソリュート、エキストラクト、オレオレジン、レジノイド、回収フレーバー、炭酸ガス抽出物、合成香料等)と適宜組み合わせて乳類含有飲食品用香料組成物とすることができる。
本発明の香味劣化防止剤と組み合わせる香料素材としては、オクタノール、ヘプタノール、フェニルエタノールなどのアルコール類;ヘキサナール、ヘプタナール、バニリンなどのアルデヒド類;アセトイン、ジアセチル、2−ペンタノン、3−ヘキサノン、2−ヘプタノン、2−オクタノン、2−ノナノン、2−ウンデカノン、2−トリデカノンなどのケトン類;酢酸、酪酸、5−デセン酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸などの酸類;エチルヘキサノエート、エチルブチレート、レブリン酸エチル、ブチルブチリルラクテート、フェニルエチルアセテート、エチルミリステートなどのエステル類;γ−デカラクトン、γ−ウンデカラクトン、γ−ドデカラクトン、δ−オクタラクトン、δ−デカラクトン、δ−ウンデカラクトン、δ−ドデカラクトン、δ−トリデカラクトン、γ−ノナラクトンなどのラクトン類;メチルメルカプタンなどのチオール類;ジメチルスルフィド、ジメチルジスルフィドなどのチオエーテル類やメチオナールなどの硫黄化合物など公知の合成香料化合物及び乳製品の溶剤抽出、水蒸気蒸留品、リパーゼ、プロテアーゼ、ラクターゼ等による乳製品の酵素処理、アミノ酸・タンパク質と糖の加熱反応を利用した香料素材を挙げることができる。
また、本発明の香味劣化防止剤は、乳類含有飲食品にコーヒー、ココア、果実等の風味を付与する目的で使用される香料素材と組み合わせた香料組成物とすることもできる。このような香料素材として、コーヒー、ココア、果実等のエキストラクト、オレオレジン、精油、回収フレーバー等の他、コーヒー、ココア、果実等の香料素材として使用される合成香料化合物を特に制限なく使用することができる。
本発明の香味劣化防止剤を乳類含有飲食品用香料組成物に添加する場合は一般に0.1〜10質量%が適当であり、好ましくは0.1〜5質量%である。
【実施例】
【0027】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例の記載に限定されるものではない。
【0028】
〔製造例1〕<紅茶葉抽出物1の製造>
乾燥した紅茶葉(セイロン産)100gに蒸留水1000gを加え、それを1時間、加熱還流した。液を冷却した後、遠心濾過器で固液分離し、濾液940gを得た。
その濾液に活性炭(商品名「太閤S」(二村化学株式会社製)、粒度分布:粒径46μm以下の粒子55%以上、平均粒径:35μm、細孔容積:1.3ml/g、比表面積:1250m2 /g)10gを加え、室温で1時間撹拌した後、5℃まで冷却し、さらにセライトで濾過した。
得られた濾液890gを凍結乾燥することにより、紅茶葉抽出物(以下「紅茶葉抽出物1」と記す)19.5gを得た。
【0029】
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で測定した結果、紅茶葉抽出物1の成分質量比は以下のとおりであった。
【0030】
【表1】

【0031】
〔製造例2〕<紅茶葉抽出物2の製造>
製造例1と同様の紅茶葉100gに蒸留水2000gを加え、それを1時間、加熱還流した。液を冷却後、遠心濾過器で固液分離し、濾液1855gを得た。
その濾液に合成吸着剤(商品名「ダイヤイオンHP−20」、見掛密度:685g/l−R、粒度分布:粒径250μm以上の粒子90%以上、細孔容積:1.3ml/g、比表面積:590m2 /g、最頻度半径:260Å)500mlを添加し、1時間撹拌した。その後、濾過により合成吸着剤を除去し、濾液1765gを得た。
得られた濾液1765gを凍結乾燥することにより、紅茶葉抽出物(以下「紅茶葉抽出物2」と記す)11.34gを得た。
【0032】
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で測定した結果、紅茶葉抽出物2の成分質量比は以下のとおりであった。
【0033】
【表2】

【0034】
〔製造例3〕<紅茶葉抽出物3の製造>
製造例1と同様の紅茶葉100gに蒸留水2000gを加え、それを1時間、加熱還流した。液を室温まで冷却した後、遠心濾過器で固液分離後50℃にて1000gまで減圧濃縮した。その溶液に活性炭100gを加え30分間撹拌した。
その後、セライト濾過により活性炭を濾別し、濾液750gを得た。
さらに陽イオン交換樹脂(商品名「アンバーライトIRA−400」、平均粒径0.55〜0.75mm)1000mlを充填したカラムに供し、空間速度SV=1h-1で送液した。
得られた通過液1000gにエタノール1000gを加え、析出した沈殿物を濾別して濾液1900gを得た。
その濾液は、減圧濃縮によりエタノールを除去した後、凍結乾燥することにより紅茶葉抽出物(以下「紅茶葉抽出物3」と記す)6.4gを得た。
【0035】
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で測定した結果、紅茶葉抽出物3の成分質量比は以下のとおりであった。
【0036】
【表3】

【0037】
〔製造例4〕<紅茶葉抽出物4の製造>
製造例1と同様の紅茶葉100gに蒸留水2000gを加え、それを1時間、加熱還流した。液を冷却後、遠心濾過器で固液分離し、濾液1820gを得た。
その濾液に合成吸着剤(ダイヤイオンHP−20)20gを加え、1時間撹拌した。
その後、濾過により合成吸着剤を除去し、濾液1700gを得た。
濾液1700gを、陽イオン交換樹脂(商品名「ダイヤイオンSK1B」、見掛密度:830g/l−R、粒度分布:1180μm以上の粒子5%以下、300μm以下の粒子1%以下、架橋度:8%)1000mlを充填したカラムに供し、空間速度SV=1h-1で送液した。
通過液は限外濾過膜(NTU−2120 日東電工社製)により濾過した。
得られた濾液1510gを凍結乾燥することにより、紅茶葉抽出物(以下「紅茶葉抽出物4」と記す)5.9gを得た。
【0038】
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で測定した結果、紅茶葉抽出物4の成分質量比は以下のとおりであった。
【0039】
【表4】

【0040】
〔製造例5〕<紅茶葉抽出物5の製造>
製造例1と同様の紅茶葉100gに蒸留水1000gを加え、それを30分間、常温(15〜30℃)で抽出した。抽出液を遠心濾過器で固液分離し、濾液900gを得た。
その濾液に製造例1と同様の活性炭30gを加え、1時間撹拌した。
その後、活性炭を除去し、濃縮後、濃縮液140gを得た。濃縮液を、陽イオン交換樹脂(ダイヤイオンSK1B)100mlを充填したカラムに供し、空間速度SV=2h-1で送液した。
通過液を濃縮し約40gにした後、95%エタノール52.5g、上記と同様の活性炭2gを加え、撹拌及び冷却後、不溶物を濾過した。
得られた濾液78gを凍結乾燥することにより、紅茶葉抽出物(以下「紅茶葉抽出物5」と記す)4.7gを得た。
【0041】
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で測定した結果、紅茶葉抽出物5の成分質量比は以下のとおりであった。
【0042】
【表5】

【0043】
以下の試験例においては、既存の天然物由来の香味劣化防止剤として、下記の市販の製品を使用した。
(1)茶カテキン:
三井農林株式会社製の「ポリフェノン70S(登録商標)」を使用した。当該製品は茶カテキンを有効成分とする食品用の抗酸化物質である。
(2)ブドウ種子抽出物:
キッコーマン株式会社製の「グラヴィノール−F(登録商標)」を使用した。当該製品はブドウ種子ポリフェノールを有効成分とする食品用の抗酸化物質である。
(3)ビタミンE:
エーザイフードケミカル株式会社製の「イーミックス70LF(登録商標)」を使用した。当該製品はビタミンE(トコフェロール)を有効成分とする食品用の酸化防止剤である。
(4)ルチン:
東洋精糖株式会社製の「酵素処理ルチンP」を使用した。当該製品は食品用の酸化防止剤である。
(5)さとうきび抽出物
新三井製糖株式会社製の「さとうきび抽出物MX」を使用した。当該製品はポリフェノールを有効成分とする食品用の呈味改善剤である。
(6)ローズマリー抽出物:
三菱化学フーズ株式会社製の「RMキーパーSF」を使用した。当該製品はローズマリー抽出物からなる食品用の酸化防止剤である。
【0044】
〔試験例1〕〈ミルクコーヒー〉
焙煎コーヒー豆粉砕物(コロンビア80%、ブラジル20%)50gを95℃のイオン交換水で抽出した後、20℃まで冷却し、400gの抽出液を得た。この抽出液に牛乳(市販の無調整牛乳)を230g、砂糖を50g、ショ糖脂肪酸エステルを0.3g加え、全量が1000gになるようにイオン交換水で希釈調整した。これを重曹にてpH6.8に調整した後、均一に撹拌し缶に充填、巻き締めを行い、123℃で20分間レトルト殺菌を行った。
また、乳類として、牛乳に換えて全粉乳を30g用いて牛乳類の異なるコーヒー飲料を作製した。
乳類として牛乳を用いたコーヒー飲料に、紅茶葉抽出物5、茶カテキン、ブドウ種子抽出物、ビタミンE、酵素処理ルチン、さとうきび抽出物、ローズマリー抽出物を所定の添加量加えて調製した後、各コーヒー飲料を恒温槽内で70℃にて8週間保存した。
各コーヒー飲料について訓練されたパネラー8名により、加熱保管により生成する味噌様、醗酵様、酸臭といった不快な劣化臭を評価項目とし、加熱条件下での保存を行っていない香味劣化防止剤未添加のコーヒー飲料を対照として官能評価を行った。乳類として全粉乳を用いたコーヒー飲料についても紅茶葉抽出物5及びさとうきび抽出物を所定の添加量加えて同じ条件で官能評価を行った。
【0045】
劣化臭の感じ方に応じて以下の基準にて評価(パネラー8名の平均点)を行い、結果を表6及び表7に示した。
◎:異臭(味噌様、醗酵様、酸臭)を十分に抑制している
○:異臭を軽減している
△:異臭を感じる
×:異臭を非常に感じる
【0046】
【表6】

【0047】
【表7】

【0048】
表6及び表7から明らかなように、紅茶葉抽出物5からなる香味劣化防止剤は少量の添加量で他の物質を添加した場合にはみられない顕著な香味劣化防止効果を示した。
一方、さとうきび抽出物は乳類として牛乳を用いた場合はある程度の効果を示したが、全粉乳を用いた場合は十分な効果が得られなかったのに対し、紅茶葉抽出物5は全粉乳を用いた場合も十分な香味劣化防止効果を示した。
【0049】
〔試験例2〕
試験例1で作製したコーヒー飲料(乳類として牛乳を使用)に紅茶葉抽出物5の濃度が2ppmになるように添加し、123℃で20分間レトルト殺菌した後、恒温槽内で70℃にて8週間保存した。
また、紅茶葉抽出物無添加のコーヒー飲料を同条件下で保存したものを対照とした。
加熱保存後の牛乳入りコーヒー飲料をサンプリングし、SPME法(Solid Phase Microextraction)で香気を回収し、ガスクロマトグラフィー質量分析法により、香気成分分析を実施したところ、熱虐待により、イソ吉草酸(isovaleic acid)、ヘキサン酸(hexanoic acid)、オクタン酸(octanoic acid)等のいずれも不快臭を発するカルボン酸類が増加する傾向が見られた。
これらの増加したカルボン酸類の生成量総和を測定することで、紅茶葉抽出物5の添加効果を評価した。
表8に、ガスクロマトグラム上のisovaleic acid、hexanoic acid、octanoic acidの3種のカルボン酸類のピークArea値の総和を、無添加虐待品を100とした場合の相対値で示す。
【0050】
【表8】

【0051】
表8から、紅茶葉抽出物5からなる香味劣化防止剤は無添加品に比べ、加熱による不快臭の原因となるカルボン酸類の増加を抑制した。
【0052】
〔試験例3〕ミルクティー
約350gの湯(80℃)にスリランカ産のウバの紅茶葉を8g、pH調整のためL−アスコルビン酸ナトリウムを0.2g添加して、5分間撹拌抽出した。抽出後、ステンレスメッシュで濾過し、濾液を20℃以下に冷却した。この濾液に牛乳(市販の無調整牛乳)を230g、砂糖を60g、乳化剤を1.5g加えて、全量が1000gになるようにイオン交換水で希釈調整した。これを重曹にてpH6.8に調整した後、缶に充填、巻き締めを行い、123℃で20分間レトルト殺菌を行って缶入りミルクティーを得た。
乳類として牛乳の代わりに全脂粉乳を30g用いて、上記と同様の操作により、全粉乳ベースのミルクティーを得た。
これらのミルクティーに、紅茶葉抽出物5、ビタミンEを所定の添加量加え調製後、各ミルクティーを恒温槽内で70℃にて8週間保存した。
各ミルクティーについて訓練されたパネラー7名により、加熱保管により生成する味噌様、醗酵様、酸臭といった不快な劣化臭を評価項目とし、加熱条件下での保存を行っていない香味劣化防止剤未添加のミルクティーを対照として官能評価を行った。
劣化臭の感じ方に応じて以下の基準にて評価(パネラー7名の平均点)を行い、結果を表9及び表10に示した。
◎:異臭(味噌様、醗酵様、酸臭)を十分に抑制している
○:異臭を軽減している
△:異臭を感じる
×:異臭を非常に感じる
【0053】
【表9】

【0054】
【表10】

【0055】
表9及び表10から明らかなように、紅茶葉抽出物5からなる香味劣化防止剤は少量の添加量でビタミンEを添加した場合にはみられない顕著な香味劣化防止効果を示した。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の香味劣化防止剤は、乳類含有飲食品の熱に起因する香味劣化を顕著に防止することから、加温販売されることが多い牛乳類入りコーヒー飲料やミルクティー等の品質劣化防止に特に高い利用価値を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
茶葉を水で抽出処理して抽出液を得、次いでその抽出液を吸着剤で精製処理して得られる精製物からなることを特徴とする乳類含有飲食品の加熱による香味劣化防止剤。
【請求項2】
茶葉を水で抽出処理して抽出液を得、次いでその抽出液を吸着剤で精製処理して精製物を得、さらにその精製物を、分離膜による処理、有機溶媒添加による不溶物処理及び陽イオン交換樹脂による処理から選択される1又は2以上の精製方法で処理して得られる再精製物からなることを特徴とする乳類含有飲食品の加熱による香味劣化防止剤。
【請求項3】
精製物又は再精製物中に、キナ酸、糖類及びテアニンが含まれる請求項1又は2に記載の乳類含有飲食品の加熱による香味劣化防止剤。
【請求項4】
茶葉が紅茶葉である請求項1乃至3のいずれかに記載の乳類含有飲食品の加熱による香味劣化防止剤。
【請求項5】
乳類が牛乳又は全粉乳である請求項1乃至4のいずれかに記載の乳類含有飲食品の加熱による香味劣化防止剤。
【請求項6】
紅茶葉を水で抽出処理して抽出液を得、次いでその抽出液を吸着剤で精製処理して精製物を得、さらにその精製物を陽イオン交換樹脂によって精製処理して得られる再精製物からなり、当該再精製物中にキナ酸15〜25%、糖類20〜50%及びテアニン0.1〜8%を含むことを特徴とする、乳類含有飲食品の加熱による香味劣化防止剤。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載の香味劣化防止剤を含有することを特徴とする乳類含有飲食品用の香料組成物。
【請求項8】
請求項1乃至6のいずれかに記載の香味劣化防止剤を含有することを特徴とする乳類含有飲食品。
【請求項9】
乳類含有飲食品が乳類入りコーヒー飲料である請求項8記載の乳類含有飲食品。
【請求項10】
乳類含有飲食品が乳類入り紅茶飲料である請求項8記載の乳類含有飲食品。
【請求項11】
乳類が牛乳又は全粉乳である請求項8乃至10のいずれかに記載の乳類含有飲食品。
【請求項12】
請求項1乃至6のいずれかに記載の香味劣化防止剤を乳類含有飲食品に0.01〜20ppm添加することを特徴とする乳類含有飲食品の加熱による香味の劣化を防止する方法。

【公開番号】特開2010−200659(P2010−200659A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−48825(P2009−48825)
【出願日】平成21年3月3日(2009.3.3)
【出願人】(591011410)小川香料株式会社 (173)
【Fターム(参考)】