説明

駆動装置、及び、駆動方法

【課題】 圧電アクチュエーターを用いた駆動装置の起動時において、起動時間のばらつきの少ない安定した起動を実現する。
【解決手段】 信号が印加されることによって振動する素子を有する振動部と、前記素子の振動により駆動される被駆動体と、前記素子を振動させる第1の信号、及び、前記第1の信号よりも高い周波数を有する第2の信号を生成する信号生成部と、を備える駆動装置であって、前記被駆動体と前記振動部とが接触した状態において、前記第1の信号を前記素子に印加することと、前記第2の信号を所定時間だけ前記素子に印加することと、によって、前記被駆動体の駆動を開始する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動装置、及び、駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
小型化に適する定常波方式の圧電アクチュエーターにおいて、圧電素子へ単相の駆動信号を印加することによって、縦振動と屈曲振動との混合モードで該圧電素子を略楕円運動させることができる。そして、圧電素子の略楕円運動により、ローターなどの被駆動体を高効率で駆動させる駆動方法が一般に知られている。
【0003】
このような圧電アクチュエーターを駆動させる際に、圧電素子の共振周波数に近い周波数を有する駆動信号を該圧電素子に印加することによって、アクチュエーターの駆動を開始する方法が知られている。(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−166816号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
圧電アクチュエーターの起動時において、圧電素子とローターとは接触した状態にある場合が多いが、駆動開始時点における圧電素子の振幅は小さいため、ローターとの接触部の変異が弾性変形量を超えるまでの間は、該接触部がローターと固着した状態となっている。そのため、該接触部は「固定端」または「支持端」のように振る舞う。その後、圧電素子の振幅が大きくなると、ローターとの接触部がローター面から離れ、該接触部は「自由端」と見なせるようになる。しかし、「固定端」と「自由端」とでは圧電素子の振動モードが異なるため、振幅の大きな固有振動を生じさせる共振周波数も異なる。したがって、圧電素子とローターとが接触した状態と離れた状態とでは、同じ周波数の駆動信号を印加した場合でも圧電素子の振動の仕方が異なる。
【0006】
そのため、このような圧電アクチュエーターを起動させる際には、圧電素子とローターとの接触部の状態によって起動するまでの時間にばらつきが生じ、安定した起動をすることが困難であった。
【0007】
本発明では、圧電アクチュエーターを用いた駆動装置の起動時において、起動時間のばらつきの少ない安定した起動を実現することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための主たる発明は、信号が印加されることによって振動する素子を有する振動部と、前記素子の振動により駆動される被駆動体と、前記素子を振動させる第1の信号、及び、前記第1の信号よりも高い周波数を有する第2の信号を生成する信号生成部と、を備える駆動装置であって、前記被駆動体と前記振動部とが接触した状態において、前記第1の信号を前記素子に印加することと、前記第2の信号を所定時間だけ前記素子に印加することと、によって、前記被駆動体の駆動を開始することを特徴とする駆動装置である。
【0009】
本発明の他の特徴については、本明細書及び添付図面の記載により明らかにする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本実施形態における圧電アクチュエーターを用いた駆動ユニットの構成を表す概略図である。
【図2】図2Aは、駆動ユニットにおける振動部とローターとの関係を示す平面図である。図2Bは、図2Aの側面図である。
【図3】振動部20を振動させる際に印加される駆動信号の一例を示す図である。
【図4】図4Aは、第1実施例における第1の信号を表す図である。図4Bは、第1実施例における第2の信号を表す図である。図4Cは、第1実施例において第1の信号及び第2の信号を印加することによって駆動ユニットが起動するまでに要する時間について説明する図である。
【図5】図5Aは、第2実施例における第1の信号を表す図である。図5Bは、第2実施例における第2の信号を表す図である。図5Cは、第2実施例において第1の信号及び第2の信号を印加することによって駆動ユニットが起動するまでに要する時間について説明する図である。
【図6】図6Aは、第3実施例における第1の信号を表す図である。図6Bは、第3実施例における第2の信号を表す図である。図6Cは、第3実施例において第1の信号及び第2の信号を印加することによって駆動ユニットが起動するまでに要する時間について説明する図である。
【図7】図7Aは、振動部20に設けられる各電極の配置について説明する平面である。図7Bは、図7Aの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書及び添付図面の記載により、少なくとも、以下の事項が明らかとなる。
信号が印加されることによって振動する素子を有する振動部と、前記素子の振動により、駆動される被駆動体と、前記素子を振動させる第1の信号、及び、前記第1の信号よりも高い周波数を有する第2の信号を生成する信号生成部と、を備える駆動装置であることを前提とする。前記被駆動体と前記振動部とが接触した状態において、前記第1の信号を前記素子に印加することと、前記第2の信号を所定時間だけ前記素子に印加することと、によって、前記被駆動体の駆動を開始することを特徴とする駆動装置。
このような駆動装置によれば、圧電アクチュエーターを用いた駆動装置の起動時において、起動時間のばらつきの少ない安定した起動を実現することができる。
【0012】
かかる駆動装置であって、前記第1の信号を前記素子に印加開始する前に、前記第2の信号を前記素子に印加開始することが望ましい。
このような駆動装置によれば、振動部と被駆動体との固着状態をより早く開放することができるようになり、第1の信号の印加開始後、速やかに通常の駆動を開始させることが出来る。
【0013】
かかる駆動装置であって、前記第1の信号及び前記第2の信号を所定のサイクル数分前記素子に印加することによって、前記被駆動体の駆動が開始される場合に、前記所定のサイクル数分の前記第1の信号が前記素子に印加されるのよりも先に、前記所定のサイクル数分の前記第2の信号が前記素子に印加されることが望ましい。
このような駆動装置によれば、短い時間で駆動ユニットを起動させることができ、さらに、第2の信号の印加を開始するタイミングの条件がゆるくなるため、信号印加の制御が容易になる。
【0014】
かかる駆動装置であって、前記第1の信号及び前記第2の信号を合成した信号が、前記素子に印加されることが望ましい。
このような駆動装置によれば、駆動信号を印加するための電極を各素子について一つずつ設ければよいので、装置の構成が単純になり、また、装置の製造コストを安くすることができる。
【0015】
かかる駆動装置であって、前記素子は第1の素子と、第2の素子とを有し前記第1の信号が前記第1の素子に印加され、前記第2の信号が前記第2の素子に印加されることが望ましい。
このような駆動装置によれば、第2の電極の位置・大きさ等を調整する事により、素子の振動方向や振幅を自由に変化させることができるため、駆動ユニットを効率的に起動させることができる。
【0016】
かかる駆動装置であって、前記第2の素子は圧電素子であり、前記第2の素子に対する前記第2の信号の印加を停止した後に、前記第2の素子を用いて前記振動部の振動を検出することが望ましい。
このような駆動装置によれば、振動検出電極を別途設ける必要がなくなるため、装置の構成が単純になる。
【0017】
また、信号を印加することによって、振動部に設けられた素子を振動させることと、前記素子の振動により被駆動体を駆動させることと、前記素子を振動させる第1の信号、及び、前記第1の信号よりも高い周波数を有する第2の信号を生成し、前記被駆動体と前記振動部とが接触した状態を前提にする。前記第1の信号を前記素子に印加することと、前記第2の信号を所定時間だけ前記素子に印加することと、によって、前記被駆動体の駆動を開始することと、を有する駆動方法が明らかになる。
【0018】
===第1実施形態===
<駆動ユニットの構成について>
図1は、本実施形態おける圧電アクチュエーターを用いた駆動ユニット(駆動装置)の構成を表す概略図である。また、図2Aは、駆動ユニットにおける振動部とローターとの関係を示す平面図であり、図2Bは、図2Aの側面図である。なお、本実施形態の駆動ユニットは、携帯型機器などを駆動するためのユニットである。
【0019】
図1に示すように、本実施形態の駆動ユニットは、駆動信号生成部10と、振動部20と、ローター30とを備えている。
駆動信号生成部10は、振動部20を振動させる所定周波数の信号(駆動信号)を生成し、当該駆動信号を振動部20に供給する信号生成部である。駆動信号の詳細については後述する。
振動部20は圧電アクチュエーターに相当し、駆動信号生成部10で生成された駆動信号に基づいて振動する。そして、その振動によってローター30を回転させる。振動部20の構成の詳細については後述する。
ローター30は、円筒形状の回転体であり、被駆動体に相当する。ローター30の中央には回転軸31が設けられている。後述するつつき部24が振動部20の振動に応じてローター30と接触し押すことによって、ローター30は回転軸31を中心として回転(駆動)する。
【0020】
<振動部20の構成>
振動部20は、圧電素子21、22、補強板23、つつき部24、及び固定部材25を有している(図1、図2参照)。
補強板23は、例えばアルミニウムなどの金属によって形成された矩形状の板部材であり、金属板に相当する。なお、補強版の形状は矩形には限られない。補強板23のローター30側の短辺にはつつき部24が設けられている。また、補強板23は接地されている。
【0021】
圧電素子21、22は、例えばチタン酸ジルコン酸鉛によって形成されたものであり、それぞれ補強板23と同様の形状である。圧電素子21は、補強板23の一方の面の側に配置され、圧電素子22は、補強板23の他方の面の側に配置されている。すなわち、圧電素子21と圧電素子22によって補強板23を挟んだ構成となっている(図1参照)。また、圧電素子21及び圧電素子22の全面には電極が設けられている。そして圧電素子21の外側の電極部分、及び、圧電素子22の外側の電極部分に、駆動信号生成部10で生成された駆動信号がそれぞれ供給される。また、圧電素子21及び圧電素子22には不図示の振動検出電極が設けられ、振動部20の振動を振幅を表す信号としてモニターすることができる。これによって、駆動ユニットの駆動時において振動部20の振動状態を確認することができる。
【0022】
なお、圧電素子21、22及び補強板23は、駆動信号が供給されることによって振動する。よって、以下の説明において圧電素子21、22及び補強板23のことを振動体ともいう。本実施形態では、振動体における矩形の長辺方向の長さはXであり、短辺方向の長さはYである(図2A参照)。
【0023】
つつき部24は、前述したように補強板23の一方(ローター30側)の短辺における幅方向の端部に設けられており、振動体の振動に応じてローター30と接触して長手方向(及び幅方向)に押すことによって、該ローラー30を回転させる。なお、もし仮に、つつき部24が幅方向の中央部に設けられていると、後述する駆動信号によって振動体を振動させる際に、幅方向の変位量が小さくなり、ローター30を回転させにくくなる。そこで本実施形態では、幅方向の端部につつき部24を設けている。こうすることにより、つつき部24の幅方向の変位量を大きくすることができ、安定してローター30を回転させることができる。
【0024】
固定部材25は、補強板23における長手方向の中央部に設けられており、螺子等によって不図示の基台に固定される。これにより、固定部材25は、補強板23を含めた振動体を支持する。
【0025】
<駆動信号について>
本実施形態では、駆動信号生成部10で生成された駆動信号を、電極を介して圧電素子21及び22に印加するとによって振動体を振動させ、被駆動体を駆動させる。すなわち、駆動信号によって、被駆動体の駆動動作を制御する。
【0026】
図3は、振動部20を振動させる際に印加される駆動信号の一例を示す図である。図の横軸は時間を示し、縦軸は電圧を示している。本実施形態において用いられる駆動信号は図3に示されるように、所定の周期、振幅を有する正弦波形状の電圧波形である。当該駆動信号によって、振動体を長手方向(長辺方向)に伸縮させる振動(縦振動とも呼ぶ)が励起される。以下、この信号を駆動信号Aと呼ぶ。
【0027】
なお、駆動信号Aは、振動体を縦振動させる際に固有振動に近い振動を生じさせる波形である。言い換えると、駆動信号Aは振動体を長手方向に縦振動させる際の共振周波数に相当する周波数を有する電圧波形である。当該電圧波形を印加することによって、振動体が縦振動を行なう際に長手方向の振幅を最大にすることができる。
【0028】
このような駆動信号が駆動信号生成部10で生成され、圧電素子21及び圧電素子22に印加されると、振動体において長手方向の縦振動が開始される。振動体は、はじめは小さい振幅で振動しながら時間の経過とともに徐々に振幅が大きくなっていく。そして、振動体の縦振動が固有振動に近い振動状態(定常状態)となったときに、駆動ユニットが「起動」したものとする。
【0029】
<比較例>
まず、比較例として、従来の駆動ユニットの起動時の動作、例えば、上述の駆動信号A(図3)を印加することによって駆動ユニットを起動させる際の動作について説明する。
【0030】
駆動ユニットの起動時において、振動部20に対して駆動信号Aの印加が開始された時点では、図2Aで示されるようにつつき部24とローター30とが接触し、固着した状態となっている。すなわち、つつき部24とローター30との接触部によって振動部20が「固定端」で支持されている状態となる。
【0031】
これに対して、駆動信号Aは、つつき部24とローター30とが離れた状態、すなわち振動部20が「自由端」の状態にある時の振動モードに対応した共振周波数の波形である。そのため、駆動信号Aを印加開始した直後(駆動開始直後)において当該接触部が「固定端」の状態にある時には、「自由端」の時の振動モードに対応した振動を生じさせることができない。したがって、駆動ユニットの駆動開始時において、振動体は固有振動を生じるのではなく、小さな振幅の振動を行なう。
【0032】
振幅が小さいということは、つつき部24の長手方向の変異量も小さいということなので、つつき部24とローター30との接触部は離れにくい。つまり、駆動信号Aの印加を開始した後、速やかに振動体の振幅が大きくなり、該接触部の固着状態が開放されるというわけではない。言い換えると、駆動信号Aを用いて駆動ユニットを起動する際に、つつき部24とローター30との接触部が離れて振動体が固有振動に近い大きな振幅の振動を行なうようになるまで(駆動ユニットが「起動」するまで)には、所定の時間を要する。
【0033】
また、つつき部24とローター30との接触部の固着の状態によって、振幅が大きくなるまでに要する時間が異なる。例えば、ローター30の表面に凹凸があると仮定したとき、つつき部24の先端部分がローター30の表面の凹部に嵌っているような場合には、固着状態が強く両者が離れにくくなることが考えられる。このようなときには「固定端」の状態が長く続くため、振幅は大きくなりにくい。逆に、つつき部24の先端部分がローター30の表面の凸部に接触しているような場合には、固着状態が弱く両者は離れやすくなるので、すぐに「自由端」の状態となり振幅が大きくなりやすいと考えられる。
【0034】
つまり、駆動ユニットが「起動」するまでに要する時間(以下、起動時間とも言う)は、つつき部24とローター30との初期の固着状態に影響され、起動時間にはばらつきが生じる。起動時間が一定でない場合、例えば早く起動した時と遅く起動した時とでは、実際に印加される駆動信号の波の数が異なるため、被駆動体の駆動量に差が生じ、安定した駆動が実現できなくなるおそれがある。
【0035】
図3の波形で、横軸のa〜bの区間で表される領域Sが起動時間のばらつきを表している。つまり、図3の例では、駆動信号Aの印加を開始した後、時間aから時間bの間に駆動ユニットを起動させることができる可能性が高いことを示している。本実施形態では、時間aから時間bの間に95%以上の確率で駆動ユニットが起動される。この起動時間のばらつきSは、あらかじめ実験的に調べておくことができる。
【0036】
なお、実際に駆動ユニットの起動時間を決めるのは、印加される駆動信号Aのサイクル数(印加される波の数)による影響が大きい。すなわち、駆動を開始してからの経過時間aにおいてmサイクル分の駆動信号が印加されたときから、駆動開始後の経過時間bにおいてnサイクル分の駆動信号が印加されるときまでの間に、該駆動ユニットが起動される可能性が高い。
【0037】
<第1実施例>
比較例の場合(例えば駆動信号Aを用いて駆動ユニットを駆動させる場合)、駆動ユニットの起動を完了させるまでには所定の時間を要し、また、駆動を開始する時点における振動部と被駆動体との固着条件によって起動時間にばらつきを生じていた。そのため、駆動ユニットを安定して起動させることが難しかった。そこで、第1実施例では、駆動ユニットを速やかに起動させることができる駆動信号を生成し、振動部20に印加することによって、駆動ユニットの安定した起動を実現する。
【0038】
第1実施例では、第1の信号及び第2の信号の2つの信号(電圧波形)を用いて駆動ユニットの起動を行なう。図4Aは第1実施例における第1の信号を表し、図4Bは第1実施例における第2の信号を表す。また、図4Cは第1実施例において第1の信号及び第2の信号を印加することによって駆動ユニットが起動するまでに要する時間について説明する図である。図4Aおよび図4Bで、横軸は時間を表し、縦軸は電圧を表す。本実施形態では、第1の信号及び第2の信号を合成した信号(不図示)を振動部20に印加することによって、駆動ユニットを起動させる。第1の信号及び第2の信号を合成した信号を用いるので、第1の信号が印加される電極と第2の信号が印加される電極を共通化することができる。つまり、各素子(図1において圧電素子21及び22)について電極が一つあれればよいので、装置の構成が単純になり、また、製造コストを安くすることができる。
【0039】
第1の信号(図4A)は、上述の図3で説明した駆動信号Aと同様の電圧波形であり、振動体を長手方向(長辺方向)に縦振動させる信号である。
【0040】
一方、第2の信号(図4B)は、第1の駆動信号よりも高い周波数を有する電圧波形であり、振動体を幅方向(短辺方向)に縦振動させる信号である。以下、第2の信号のことを起動信号Bとも呼ぶ。起動信号Bの周波数は、振動体を幅方向に縦振動させる際の共振周波数に対応する周波数である。ここで、振動体を長手方向及び幅方向に振動させる際の共振周波数は、それぞれ振動体の長手方向の長さ及び幅方向の長さに反比例する。したがって、図2Aに示されるように振動体の長手方向の長さがX、幅方向の長さがYである場合、起動信号Bの周波数(幅方向の共振周波数)は、駆動信号Aの周波数(長手方向の共振周波数)のX/Yとなる。なお、これは1次モードの固有振動に対応する共振周波数であるので、2次モード、3次モードの固有振動に対応する共振周波数はそれぞれ2倍、3倍の大きさとなる。
【0041】
また、起動信号Bを用いて駆動ユニットを起動する場合、前述の駆動信号Aの場合と同様に起動時間にばらつきが生じる。すなわち、図4Bに示されるように、起動信号Bにおいて時刻c〜dの区間で起動時間のばらつきを表す領域T(図3及び図4Aにおける駆動信号Aの領域Sに相当)を有する。
【0042】
なお、起動信号Bは振動体を幅方向に縦振動させる信号であるが、振動の方向や振動の種類はこれに限られない。ただし、本実施形態のように、振動体が矩形形状である場合、振動体を幅方向に縦振動させることにより振幅の大きな振動を生じさせやすくなるため、ローター30を効率よく駆動させることが可能になる。
【0043】
第1実施例では、駆動ユニットの駆動開始と共に、駆動信号A(第1の信号)及び起動信号(第2の信号)を同時のタイミングで振動部20に印加する。なお、本実施形態において、実際には第1の信号(駆動信号A)と第2の信号(起動信号B)とを合成した電圧波形(不図示)を振動部20に印加することにより、駆動ユニットの起動を行なうが、説明のため、第1の信号と第2の信号を分けて考えるものとする。駆動信号A及び起動信号Bを同時に振動部20に印加開始することによって、振動体は長手方向の振動(駆動信号Aによる振動)と、幅方向の振動(起動信号Bによる振動)とを行なう。
【0044】
駆動ユニットの起動時間は、前述のように振動部20に印加される駆動信号のサイクル数(印加される波の数)によって決まるので、駆動信号の印加を開始してからある程度の時間は該駆動信号の印加を続ける必要がある。例えば、駆動信号Aを用いて駆動ユニットを起動させる場合は、駆動信号Aの印加を開始してから領域Sで表される期間を経過するまで、すなわち時間bまで印加を続ければ駆動ユニットを起動させることができる可能性が高い。また、起動信号Bを用いて駆動ユニットを起動させる場合は、起動信号Bの印加開始から領域Tの期間を経過するまで、すなわち時間dまで印加を続ければ駆動ユニットを起動させることができる可能性が高い。
【0045】
ここで、起動信号Bは駆動信号Aよりも周波数が高いため、起動信号Bの方が駆動ユニットを起動させるために必要なサイクル数を早く印加することができる。すなわち、起動信号Bを用いた場合の方が駆動信号Aを用いる場合よりも駆動ユニットの起動時間を短くすることができる。
【0046】
例えば、駆動信号Aと起動信号Bとを同時のタイミングで振動部20に印加開始した場合、図4Cに示されるように起動信号Bによる起動時間d(起動信号Bによって駆動ユニットを起動させることができるタイミング)の方が、駆動信号Aによる起動時間b(駆動信号Aによって駆動ユニットを起動させることができるタイミング)よりも早い。そのため、駆動信号A及び起動信号Bを用いることによって、起動信号Aだけを用いる場合よりも駆動ユニットを早く起動させることができる。
【0047】
第1実施例の場合、振動体は遅くとも起動時間dまでに幅方向の固有振動を開始する(図4C参照)。そして、振動部20の端部に設けられたつつき部24が幅方向に大きな振幅の振動を行うことにより、該つつき部24とローター30との接触部が離れ、「自由端」の状態になる。これにより、該接触部の固着状態が開放されるため、駆動信号Aによる長手方向の固有振動がスムーズに励起され、ローター30が駆動される。
【0048】
なお、本実施形態において、起動信号Bは駆動ユニットを起動させる段階で用いられる信号であるため、駆動ユニットが起動した後(図4Cにおいて時間d以後)は起動信号Bを印加し続ける必要がない。そこで、駆動ユニットが起動した後、すなわち時間dを経過した後は、起動信号Bの印加が停止される。これにより、駆動ユニットの実際の動作(駆動信号Aによる振動体の縦振動動作)に影響を与えないようにする。
【0049】
比較例の場合、駆動信号Aのみを用いて駆動ユニットの起動を行うため、駆動ユニットを確実に起動させる(本実施形態において95%以上の確率で起動させる)ためには、印加開始から少なくとも時間bまで駆動信号Aを印加し続ける必要があった(図3)。一方、本実施例では、起動信号Bを同時に印加することによって、時間bよりも短い時間dにて駆動ユニットを起動させることが可能となる(図4C参照)。また、起動時間のばらつき自体も比較例の場合よりも小さくなるため(図4Aの領域S及び図4Bの領域T参照)、被駆動体の駆動量に差が生じにくくなり、安定した起動を実現することができる。
【0050】
<第2実施例>
第2実施例では、駆動信号A(第1の信号)を振動部20に印加するよりも先に起動信号B(第2の信号)の印加を開始し、後から駆動信号A(第1の信号)の印加を開始する
。図5Aは第2実施例における第1の信号を表し、図5Bは第2実施例における第2の信号を表す。また、図5Cは第2実施例において第1の信号及び第2の信号を印加することによって駆動ユニットが起動するまでに要する時間について説明する図である。なお、駆動信号A及び起動信号Bの波形自体は第1実施例と同様であり、それぞれの信号を印加するタイミングが異なる。また、実際には第1の信号(駆動信号A)と第2の信号(起動信号B)とを合成した電圧波形(不図示)が振動部20に印加されるが、説明のため、第1の信号と第2の信号とを分けて考えるものとする。
【0051】
はじめに振動部20に対して起動信号Bの印加を開始して、時間dになるまで印加を続ける。遅くとも時間dの時点で振動体は幅方向の固有振動を行なう状態となる可能性が高く、振動部20の端部に設けられたつつき部24はローター30との固着状態から開放される。続いて、時間dのタイミングで駆動信号Aの印加を開始する。つつき部24とローター30とが既に離れた状態にあるため、駆動信号Aに応じて振動体は速やかに長手方向の固有振動を開始することができる。つまり、駆動ユニットの起動時間を比較例の場合よりも短くしつつ、駆動信号Aの印加を開始してから駆動ユニットが正常に動作するまでの時間のロスを少なくすることができる。
【0052】
なお、第2実施例でも駆動ユニットが起動した後(図5Cにおいて時間dの後)は起動信号Bの印加が停止される。これにより、駆動ユニットを実際に駆動させる際の動作(駆動信号Aによる振動体の縦振動動作)に影響を与えないようにする。
【0053】
また、駆動信号Aを印加するタイミングは、必ずしも起動信号Bによって駆動ユニットが起動される時間(図5Cの時間d)に合わせる必要はない。例えば、図5Bにおいて、時間cとdとの間に駆動信号Aの印加を開始するような波形としてもよい。このような場合でも、駆動信号Aの印加を開始してから駆動ユニットが正常に動作するまでに要する時間は比較例の場合よりも短くなり、安定した起動を実現することができる。
【0054】
<第3実施例>
第3実施例では、起動信号B(第2の信号)を振動部20に印加するよりも先に駆動信号A(第1の信号)の印加を開始し、後から起動信号B(第2の信号)の印加を開始する。図6Aは第3実施例における第1の信号を表し、図6Bは第3実施例における第2の信号を表す。また、図6Cは第3実施例において第1の信号及び第2の信号を印加することによって駆動ユニットが起動するまでに要する時間について説明する図である。なお、駆動信号A及び起動信号Bの波形自体は第1実施例と同様であり、それぞれの信号を印加するタイミングが異なる。また、実際には第1の信号(駆動信号A)と第2の信号(起動信号B)とを合成した電圧波形(不図示)が振動部20に印加されるが、説明のため、第1の信号と第2の信号とを分けて考えるものとする。
【0055】
本実施例では、振動部20に対してまず駆動信号Aの印加を開始し、所定の時間経過後に起動信号Bの印加を開始する。なお、ここで言う「所定の時間」は、起動信号Bの印加によって駆動ユニットを起動させることができる時間(図6Bの時間dに相当)の方が、起動信号Aの印加によって駆動ユニットを起動させることができる時間(図6Aの時間dに相当)よりも早くなるように調整される。すなわち、本実施例では、駆動ユニットを起動させることができるサイクル数の駆動信号Aが印加されるより、駆動ユニットを起動させることができるサイクル数の駆動信号Bが先に印加される。
【0056】
駆動信号Aの印加を開始した時点ではつつき部24とローター30とが固着した状態であるため、振動体は長手方向に振幅の小さな縦振動をするのみである。その後、(例えば、時間aにおいて)起動信号Bの印加が開始され(図6C)、振動部20は幅方向の縦振動を開始する。さらに時間a+dを経過することにより、幅方向の振動は固有振動となり、つつき部24はローター30との固着状態から開放される。これにより、駆動信号Aに応じて振動体は速やかに長手方向の固有振動を開始する。この場合、駆動信号Aの印加を開始してから起動信号Bの印加を開始するまでの時間aの間は、つつき部24とローター30とが固着しているため、駆動ユニットを起動させることはできない。しかし、駆動信号Aよりも周波数の高い起動信号Bを印加することによって、比較例の場合よりも短い時間で駆動ユニットの起動を完了することができる(図6C)。さらに、起動信号Bを印加するタイミングは図6Cにおいて(a+d)<bとなるように調整すればよいため、印加タイミングの制御も容易である。
【0057】
===第2実施形態===
第2実施形態では、振動部20において第1の信号が印加される電極と第2の信号が印加される電極とが分かれていて、第1の信号と第2の信号とがそれぞれ別個に印加される。電極以外の駆動ユニットの構成や、印加される信号自体は第1実施形態と同様である。
【0058】
図7Aに、振動部20に設けられる各電極の配置について説明する平面を示す。図7Bに、図7Aの側面図を示す。本実施形態では、第1の信号(駆動信号A)が印加される電極(圧電素子21及び22の全面に設けられる電極であり、以下、第1の電極とも呼ぶ)の他に、第2の信号(起動信号B)が印加される電極27、28(以下、第2の電極とも呼ぶ)が、それぞれ圧電素子21、22上に備えられている(図7B)。第2の電極27、28は圧電素子であり、それぞれ圧電素子21、22の長手方向の端部側(つつき部24が設けられている側)の位置に、幅方向に伸びるようにして設けられる。
【0059】
<駆動時の動作>
駆動ユニットを駆動する際の動作は基本的に第1実施形態と同様である。すなわち、駆動信号Aを第1の電極に印加することによって、振動体を長手方向に振動させ、その振動に応じてつつき部24がローター30を押すことによって、ローター30を回転(駆動)させる。そして、「起動」の際には第1実施形態の場合と同様に、駆動信号Aよりも周波数の高い起動信号Bを振動部20に印加することによって、振動部20を幅方向に縦振動させ、つつき部24とローター30との接触部分の固着状態を短時間のうちに開放し、駆動ユニットの起動時間を短縮する。
【0060】
本実施形態では、第1の電極と第2の電極とが分かれているため、振動部20の起動時において起動信号B(第2の信号)を第2の電極に印加することによって、効率的に幅方向の振動を生じさせることができる。例えば、図7Aの圧電素子21上において、第2の電極27の幅方向の長さをなるべく長くすることにより、振動部20(圧電素子21)の幅方向の縦振動振幅を大きくすることができる。これにより、つつき部24とローター30との接触部の固着状態がより開放されやすくなり、駆動ユニットをより安定的に駆動させることができる。同様に、第2の電極27の長手方向の位置をなるべくつつき部24側の端部に近くすることにより、振動部20(圧電素子21)の振幅を大きくすることができる。
【0061】
また、本実施形態でも、駆動ユニットが正常に起動した後は起動信号B(第2の信号)の印加が停止されるため、第2の電極27及び28は不要になる。そこで、第2の信号停止後は、第2の電極27及び28を振動部20の振動を検出する検出電極として用いる。例えば、振動部20の振動を第2の電極27及び28で検出して電気信号に変換し、A/Dコンバーターを用いてモニターすることで、振動部20が固有振動を行なっているか否かを簡単に確認することができる。これにより、振動検出電極を別途設ける必要がなくなるため、駆動ユニットの構成を単純にすることができる。
【0062】
===その他の実施形態===
一実施形態として圧電アクチュエーターを用いた駆動装置を説明したが、上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることは言うまでもない。特に、以下に述べる実施形態であっても、本発明に含まれるものである。
【0063】
<駆動装置について>
前述した実施形態において説明される駆動装置は、様々な用途に対応することが可能であり、例えば、高速な起動を要求されるFA(Factory Automation)用アクチュエーターや、繰り返し精度の安定性を要求されるマイクロポンプ等に適用することができる。
【0064】
<振動モードについて>
前述した実施形態において、振動体の振動モードは長手方向の縦振動を行なう例について説明されていたが、この限りではない。例えば、屈曲振動やねじり振動等、振動部と非駆動体の固着を開放できるのであれば、他の振動モードを用いても良い。
【0065】
<駆動信号生成部について>
駆動信号生成部は、所定の共振周波数を与えることができて、かつ、発振の開始と停止を制御できるものであれば良く、コルピッツ発振回路、ハートレー発振回路、自励発振回路、デジタルによるフィードバック等の手段を用いることも出来る。
【0066】
<駆動対象物について>
前述した実施形態の圧電アクチュエーターでは、駆動の対象物(被駆動体)がローター30であったので、つつき部24によってローター30を回転するようにしていたが、これには限らない。例えば平板形状の被駆動体をつつき部24で押すことによって、該被駆動体を直線的に駆動するようにしてもよい。
【0067】
<振動体について>
前述した実施形態において振動体は、圧電素子21、22及び補強板23で構成されていたが、これには限らない。例えば、補強板23の一方の面に圧電素子を設けて振動体を構成してもよい。あるいは、補強板23を用いずに圧電素子だけで振動体を構成するようにしてもよい。ただし、この場合、撓みが生じやすくなるおそれがある。また、例えば、落下したときや、螺子止めの際に、割れてしまうおそれがある。本実施形態のように補強板23を圧電素子21、22で挟むような構成すると、固定を確実に行うことができるとともに、強度を高めることができ、割れの発生のおそれを軽減できる。
【0068】
また、本実施形態では補強板23にはアルミニウムが用いられていたが、アルミニウム以外の金属を用いて補強板23を形成してもよい。例えば42Niアロイを用いてもよい。
【0069】
また、本実施形態では圧電素子21、22にはチタン酸ジルコン酸鉛が用いられていたが、これには限られない。例えば、水晶、ニオブ酸リチウム、チタン酸バリウム、チタン酸鉛、メタニオブ酸鉛、ポリフッ化ビニリデン、亜鉛ニオブ酸鉛、スカンジウムニオブ酸鉛などを用いてもよい。
【0070】
<固定部材について>
前述した実施形態では、固定部材25は、補強板23の矩形の長辺(図2Aにおける下側の長辺)の中央に設けられていたが、これには限られない。例えば短辺(ローター30側とは反対側の短辺)の中央に固定部材25を設けてもよい。
【符号の説明】
【0071】
10 駆動信号生成部、
20 振動部、21,22 圧電素子、23 補強板、24 つつき部、
25 固定部材、27,28 電極、
30 ローター、31 回転軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号が印加されることによって振動する素子を有する振動部と、
前記素子の振動により駆動される被駆動体と、
前記素子を振動させる第1の信号、及び、前記第1の信号よりも高い周波数を有する第2の信号を生成する信号生成部と、
を備える駆動装置であって、
前記被駆動体と前記振動部とが接触した状態において、
前記第1の信号を前記素子に印加することと、前記第2の信号を所定時間だけ前記素子に印加することと、
によって、前記被駆動体の駆動を開始することを特徴とする駆動装置。
【請求項2】
請求項1に記載の駆動装置であって、
前記第1の信号を前記素子に印加開始する前に、
前記第2の信号を前記素子に印加開始することを特徴とする駆動装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の駆動装置であって、
前記第1の信号及び前記第2の信号を所定のサイクル数分前記素子に印加することによって、前記被駆動体の駆動が開始される場合に、
前記所定のサイクル数分の前記第1の信号が前記素子に印加されるのよりも先に、
前記所定のサイクル数分の前記第2の信号が前記素子に印加されることを特徴とする駆動装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の駆動装置であって、
前記第1の信号及び前記第2の信号を合成した信号が、前記素子に印加されることを特徴とする駆動装置。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の駆動装置であって、
前記素子は第1の素子と、第2の素子とを有し
前記第1の信号が前記第1の素子に印加され、前記第2の信号が前記第2の素子に印加されることを特徴とする駆動装置。
【請求項6】
請求項5に記載の駆動装置であって、
前記第2の素子は圧電素子であり、
前記第2の素子に対する前記第2の信号の印加を停止した後に、
前記第2の素子を用いて前記振動部の振動を検出することを特徴とする駆動装置。
【請求項7】
信号を印加することによって、振動部に設けられた素子を振動させることと、
前記素子の振動により被駆動体を駆動させることと、
前記素子を振動させる第1の信号、及び、前記第1の信号よりも高い周波数を有する第2の信号を生成し、
前記被駆動体と前記振動部とが接触した状態において、
前記第1の信号を前記素子に印加することと、前記第2の信号を所定時間だけ前記素子に印加することと、によって、前記被駆動体の駆動を開始することと、
を有する駆動方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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