説明

駆動装置および光ディスク装置

【課題】電気−機械変換素子で駆動部材を移動し、この駆動部材に係合している被駆動体を移動位置決めする駆動装置において、被駆動体を正確に移動位置決めする。
【解決手段】ベース部材31Bに移動自在に設けられた駆動部材5Dと、駆動部材5Dを移動するために設けられた圧電素子5Cと、第1の係合部5Aと第2の係合部5Bとを備え各係合部5A、5Bで係合することにより駆動部材5Dに支持され移動自在になっている被駆動体31Aとを有し、圧電素子5Cによって駆動部材5Dが移動するときの速度を変化させることにより、駆動部材5Dの移動量に対する被駆動体31Aの移動量が変化するように構成されている駆動装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体の駆動装置および光ディスク装置に関し、特に、電気−機械変換素子を用いて、被駆動体を移動するものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光学素子を駆動する機構として、駆動軸を結合した電気−機械変換素子(圧電素子)に鋸歯状波駆動パルスを供給して駆動軸を軸方向に変位させ、この駆動軸に摩擦結合させた被駆動部材を軸方向に移動させる圧電型アクチユエータ(駆動装置)が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
図5は、このような公知の圧電型アクチュエータを適用したレンズ駆動装置の一例を示すもので、図6は図5のVI−VI断面図である。また、図7は、類似のレンス駆動装置の構成の一部を切り欠いた斜視図である。
【0004】
図5、図6を参照してその構成を説明する。
【0005】
41はレンズ外筒で、その左端には第1レンズL1の保持枠42が固定的に取り付けられ、その右端は第3レンズL3の保持枠を形成している。レンズ外筒41の内部には、第2レンズL2の保持枠43が、後述するように光軸方向に移動可能に配置されている。
【0006】
44は第2レンズL2の保持枠43を光軸方向に駆動する駆動軸で、その形状は丸形シャフトではなく図5で示すように丸形シャフトの下部を平面に削った平坦面44aを有する形状(Dカット形状)をなしている。これにより廻り止めの効果があり、図7のような廻り止め用のシャフト61が不要になっている。駆動軸44は、レンズ外筒41の第1のフランジ部41bと保持枠42のフランジ部42bとにより光軸方向に移動自在に支持され、その一端は電気−機械変換素子45の1つの面に接着固定されている。
【0007】
45は厚み方向(図の左右方向)に厚さが変化して駆動軸44を軸方向に変位させる電気−機械変換素子で、その一端面は駆動軸44に接着固定され、他の端面はレンズ外筒41の第2のフランジ部41cに接着固定されている。
【0008】
第2レンズL2の保持枠43は、その下方に延びた接触部材43bを備えており、接触部材43bには駆動軸44が貫通している。また、接触部材43bの下面には切り欠き溝が形成されている。接触部材43bと駆動軸44とは、切り欠き溝と接触部材43bの上面との間に嵌入された圧接バネ43cにより圧接され、適当な摩擦力で摩擦結合している。
【0009】
以上の構成において、図4に示すような緩やかな立ち上がり部E1とこれに続く急速な立ち下がり部E2とからなる波形の駆動パルスを電気−機械変換素子45に印加すると、駆動パルスの緩やかな立ち上がり部E1では、電気−機械変換素子45が緩やかに厚み方向の伸び変位を生じ、駆動軸44は軸方向に矢印a方向へ変位する。このため、駆動軸44に圧接バネ43cにより圧接して摩擦結合しているレンズ保持枠43の接触部材43bも矢印a方向へ移動するので、レンズ保持枠43を矢印a方向へ移動させることができる。
【0010】
駆動パルスの急速な立ち下がり部E2では、電気−機械変換素子45が急速に厚み方向の縮み変位を生じ、駆動軸44も軸方向に矢印aと反対方向で変位する。このとき、駆動軸44に圧接バネ43cにより圧接しているレンズ保持枠43の接触部材43bはその慣性力により駆動軸44との間の摩擦力に打ち勝って実質的にその位置に留まるので、レンズ保持枠43は移動しない。
【0011】
なお、ここでいう実質的とは、矢印a方向と、これと反対方向のいずれにおいてもレンズ保持枠43の接触部材43bと駆動軸44との間に滑りを生じつつ追動し、駆動時間の差によって全体として矢印a方向に移動するものも含むことを意味している。どのような移動形態になるかは、与えられた摩擦条件に応じて決定される。
【0012】
上記波形の駆動パルスを連続して電気−機械変換素子45に印加することにより、レンズ保持枠43を矢印aで示す方向へ連続して移動させることができる。
【0013】
レンズ保持枠43を矢印aと反対方向へ移動させるときは、急速な立ち上がり部とこれに続く緩やかな立ち下がり部からなる波形の駆動パルスを電気−機械変換素子45に印加することで達成できる。
【0014】
この駆動装置によれば、断面がDカット形状の駆動軸44にレンズ保持枠43の接触部材43bが嵌合して摩擦結合するとともに、駆動軸44の下面の平坦面44aを案内面として接触部材43bを案内するから、レンズ保持枠43を回転させることなく軸方向に移動することができ、駆動軸の他に案内軸を設ける必要がない。
【特許文献1】特開平08−29658号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
従来の図5に示すような圧電型アクチュエータでは、被駆動部材であるレンズ保持枠43は駆動軸44により支持されており、図7に示すような被駆動部材の回転を防止するための別な案内軸61を必要としない。なお、図7の部品の番号は図5と同じであるが、駆動軸44bの形状は円柱状になっている。
【0016】
しかしながら図5において、レンズ保持枠43を光軸に沿って正確に移動させるには、駆動軸44に嵌合する接触部材43bの長さを十分に長くとって構成することが必要で、いわゆる軸受けに相当する接触部材43bの長さを十分に長くとっていないと、レンズ保持枠43を移動させたときレンズ保持枠43の下部が軸方向に対して前後に振れるピッチングを起こし、レンズ保持枠43を光軸に沿って正確に移動し位置決めさせることができないという問題が発生する。
【0017】
なお、前記問題は、レンズ保持枠等の光学素子を移動し位置決めする場合だけでなく、光学素子以外の被駆動体を移動し位置決めする場合にも同様に発生する問題である。
【0018】
本発明は、前記問題点に鑑みてなされたものであり、電気−機械変換素子で駆動部材を移動し、この駆動部材に係合している被駆動体を移動位置決めする駆動装置において、前記被駆動体を正確に移動位置決めすることができる駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
請求項1に記載の発明は、ベース部材に、一軸方向に移動自在に設けられた駆動部材と、前記駆動部材を移動するために、前記ベース部材に設けられた電気−機械変換素子と、前記駆動部材に係合する第1の係合部とこの第1の係合部から離れて前記駆動部材に係合する第2の係合部とを備え、前記各係合部で係合することにより前記駆動部材に支持され前記駆動部材に対し、前記一軸方向に移動自在になっている被駆動体とを有し、前記電気−機械変換素子によって前記駆動部材が移動するときの移動速度を変化させることにより、前記駆動部材の移動量に対する前記被駆動体の移動量が変化するように構成されている駆動装置である。
【0020】
請求項2に記載の発明は、長手方向に対して直交する平面による断面が非円形状に形成され、前記長手方向で移動自在なように、ベース部材に設けられた駆動部材と、伸縮方向が前記駆動部材の長手方向と平行になるようにして、伸縮方向の一端部が前記ベース部材に一体的に設けられ、伸縮方向の他端部が前記駆動部材に一体的に設けられた電気−機械変換素子と、前記駆動部材に第1の所定の摩擦力で係合する第1の係合部と、この第1の係合部から離れ前記駆動部材に第2の所定の摩擦力で係合する第2の係合部とを備えており、前記各係合部で係合することにより前記駆動部材に支持され前記駆動部材の長手方向で前記駆動部材に対し移動自在になっていると共に、電圧を印加したときの前記電気−機械変換素子の伸縮による前記駆動部材の移動速度が小さい場合、前記駆動部材の移動に応じて移動し、前記移動速度が大きい場合、前記駆動部材の移動によっても移動しないようになっている被駆動体とを有する駆動装置である。
【0021】
請求項3に記載の発明は、光ディスクの中央部分を保持して前記光ディスクを回転駆動するスピンドルと、前記スピンドルに保持されている光ディスクに記録されている情報の読み取り、前記光ディスクへの情報の記録、前記光ディスクに記録されている情報の消去、前記光ディスクに記録されている情報の書き換えのうちの少なくともいずれかを行うためのレーザ光を発生するレーザ発生装置と、この発生したレーザ光を光ディスクに導くための光路とが設けられているピックアップ機構と、前記ピックアップ機構をこのピックアップ機構が設けられている筐体と共に、前記スピンドルに保持された前記光ディスクの径方向に移動位置決め自在なトラック移動手段と、前記ピックアップ機構が設けられている筐体に、一体的に設けられた枠体と、長手方向に対して直交する平面による断面が非円形状に形成され、前記長手方向が、前記スピンドルに保持された光ディスクの径方向と交差する方向であって前記スピンドルに保持された光ディスクの厚さ方向と直交する方向になるようにして、前記長手方向で移動自在なように、前記枠体に設けられた駆動部材と、伸縮方向が前記駆動部材の長手方向と平行になるようにして、伸縮方向の一端部が前記枠体に一体的に設けられ、伸縮方向の他端部が前記駆動部材に一体的に設けられた電気−機械変換素子と、前記駆動部材に係合する第1の係合部と、この第1の係合部から離れ前記駆動部材に係合する第2の係合部とを備えており、前記各係合部で係合することにより前記駆動部材に支持されると共に、前記駆動部材の移動に伴い前記駆動部材の長手方向に移動する保持ベースと、前記保持ベースに設けられ、前記保持ベースがその移動方向の一端部側に位置した際に前記ピックアップ機構の光路を通ってきたレーザ光を、前記スピンドルに保持された光ディスクに照射する第1の対物レンズと、前記保持ベースに設けられ、前記保持ベースがその移動方向の他端部側に位置した際に、前記ピックアップ機構の光路を通ってきたレーザ光を、前記スピンドルに保持された光ディスクに照射する第2の対物レンズとを有する光ディスク装置である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、電気−機械変換素子で駆動部材を移動し、この駆動部材に係合している被駆動体を移動位置決めする駆動装置において、前記被駆動対を正確に移動し位置決めすることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
駆動装置は、駆動部材と電気−機械変換素子と被駆動体とを備えて構成されている。
【0024】
前記駆動部材は、この長手方向に対して直交する平面による断面が非円形状(たとえば、正方形状)に形成されている。また、前記駆動部材はこの長手方向でのみ移動自在なように、ベース部材に設けられている。
【0025】
前記電気−機械変換素子は、この伸縮方向が前記駆動部材の長手方向と平行になるようにして、伸縮方向の一端部が前記ベース部材に一体的に設けられ、伸縮方向の他端部が前記駆動部材の長手方向のたとえば一端部に一体的に設けられている。
【0026】
前記被駆動体は、第1の係合部と第2の係合部とを備えており、前記各係合部で係合することにより前記駆動部材に支持され前記駆動部材の長手方向で前記駆動部材に対し移動自在になっている。また、前記被駆動体は、前記各係合部の係合形態により、前記従来の駆動装置と同様に、電圧を印加したときの前記電気−機械変換素子の伸縮による前記駆動部材の移動速度が小さい場合、前記駆動部材の移動に応じて前記ベース部材に対し前記駆動部材の移動方向に移動し、前記移動速度が大きい場合、前記駆動部材の移動によっても前記ベース部材に対して移動しないようになっている。
【0027】
前記第1の係合部は、前記駆動部材の長手方向の一方の側で、前記駆動部材に第1の所定の摩擦力で滑り対偶をなして係合しており、前記第2の係合部は、前記駆動部材の長手方向の他方の側で、第1の係合部から離れ、前記駆動部材に第2の所定の摩擦力で滑り対偶をなして係合している。
【0028】
なお、たとえば、前記被駆動体における前記第2の係合部は、前記第1の係合部よりも十分小さい微摩擦力で前記駆動部材に係合している。
【0029】
また、前記駆動装置には、電気−機械変換素子駆動手段が設けられている。この電気−機械変換素子駆動手段は、前記被駆動体を一方向もしくは前記一方向とは逆の方向である他方向に移動すべく、前記電気−機械変換素子が繰り返して伸縮するように前記電気−機械変換素子へ電圧を印加するものである。
【実施例】
【0030】
ここで、前記駆動装置の例として、光ディスク装置1を掲げて説明する。
【0031】
図1は、本発明の実施例に係る光ディスク装置1の概略構成を示す図であり、図2(a)は、図1におけるIIA−IIA矢視を示す図であり、図2(b)は、図1におけるIIB−IIB矢視を示す図であり、図3は、図1におけるIII矢視図である。
【0032】
なお、本件明細書では、説明の便宜のために、スピンドル4に保持された光ディスク6の径方向のうちの1方向をX軸方向といい、X軸方向に直交する方向であってスピンドル4に保持された光ディスク6の周方向に接する方向をY軸方向といい、X軸方向およびY軸方向に直交する方向(スピンドル4に保持された光ディスク6の厚さ方向)をZ軸方向という場合がある。
【0033】
光ディスク装置1は、出力波長の異なる3個の半導体レーザ発生装置(図1では1個の半導体レーザ発生装置1Aの他は省略してある)や、開口数の異なる2個の対物レンズ2A、2Bを備えている。そして、光ディスク装置1は、これらの半導体レーザ発生装置(半導体レーザ)や対物レンズ2A、2Bを適宜切り換えて使用することで、CDやDVDに加えてブルーレイ(blu−ray)ディスク等の多種の光ディスク6に記録されている情報の読み取り、光ディスク6への情報の記録、光ディスク6に記録されている情報の消去、光ディスク6に記録されている情報の書き換えのうちの少なくともいずれかを行えるようになっている。
【0034】
光ディスク装置1は、図示しない本体部筐体を備えており、前記本体部筐体には、図示しないディスクトレイが出入り自在に設けられていると共に、スピンドル4が設けられている。スピンドル4は、薄い円板状の光ディスク6の中央部分を保持して光ディスク6を回転駆動するものである。
【0035】
また、光ディスク装置1には、ピックアップ機構3とトラック移動手段101とが設けられている。ピックアップ機構3には、前述した半導体レーザ発生装置1A等と、この半導体レーザ発生装置1A等で発生したレーザ光を、対物レンズ2Aまたは対物レンズ2Bを介して光ディスク(スピンドル4に保持されている光ディスク)6に導くための光路(図示せず)とが設けられている。
【0036】
トラック移動手段101は、スピンドル4に保持された光ディスク6への情報の記録等の位置に合わせて、ピックアップ機構3を、このピックアップ機構3が設けられている筐体3Aと共に、スピンドル4に保持された光ディスク6の径方向(X軸方向)に移動位置決めするためのものである。トラック移動手段101は、詳しくは後述するが、たとえば、スレッドモータ103やリードスクリュー40(図8参照)によって構成されている。
【0037】
ピックアップ機構3には、対物レンズ2A、2BをY軸方向に移動して、光ディスク6に照射するレーザ光を通過させる対物レンズ2A、2Bの切り換えを行うためのレンズ切り換え駆動部(スライド駆動手段)5が設けられている。
【0038】
レンズ切り換え駆動部5は、ベース部材の例である枠体31Bと、駆動部材5Dと、電気−機械変換素子(圧電素子)5Cと、被駆動体の例である保持ベース31Aとを備えて構成されている。枠体31Bは、ピックアップ機構3が設けられている筐体3Aに、ボルト等の締結具を用いて一体的に設けられている。
【0039】
駆動部材5Dは、この長手方向がY軸方向になるようにして、枠体31Bに設けられている。また、駆動部材5Dは、この長手方向に対して直交する平面による断面がたとえば正方形状に形成されている。さらに、駆動部材5Dは、この長手方向の両端部もしくはこの近傍で枠体31Bに支持され、駆動部材5Dの長手方向(Y軸方向)でのみ、枠体31Bに対して移動できるようになっている。
【0040】
圧電素子5Cは、この伸縮方向が駆動部材5Dの長手方向(Y軸方向)と平行になるようにして、前記伸縮方向の一端部が枠体31Bに一体的に取り付けられ、前記伸縮方向の他端部には、駆動部材5Dの長手方向の一端部が一体的に取り付けられている。なお、圧電素子5Cの伸縮方向(Y軸方向)に延びる圧電素子5Cの中心軸と、駆動部材5Dの長手方向(Y軸方向)に伸びる中心軸とは互いに一致していることが望ましい。
【0041】
保持ベース31Aは、第1の係合部5Aと第2の係合部5Bとを備えており、各係合部5A、5Bに駆動部材5Dが係合することによってその駆動部材5Dに支持されている。そして、駆動部材5Dの長手方向(Y軸方向)でのみ駆動部材5Dに対し移動自在になっている。
【0042】
第1の係合部5Aは、駆動部材5Dの長手方向の一方の側で、駆動部材5Dに滑り対偶をなして第1の所定の摩擦力で係合しており、第2の係合部5Bは、駆動部材5Dの長手方向の他方の側で、第1の係合部5Aから離れ駆動部材5Dに滑り対偶をなして第2の所定の摩擦力で係合している。
【0043】
なお、後述するように、第2の係合部5Bは、第1の係合部5Aよりも十分小さく無視することができる程度の微摩擦力で駆動部材5Dに係合しているものであることが望ましいが、各摩擦力の差の有無の程度は、上述したものに限定されるものではなく、たとえば、第2の係合部5Bが、第1の係合部5Aと同様の摩擦力で駆動部材5Dに係合している構成であってもよい。
【0044】
各係合部5A、5B(特に、第1の係合部5A)が前述したようにして駆動部材5Dに係合していることにより、電圧を印加したときの圧電素子5Cの伸縮による駆動部材5Dの移動速度が小さい場合には、駆動部材5Dの移動に応じて、保持ベース31Aが、枠体31Bに対し駆動部材5Dの移動方向に移動するようになっている。また、電圧を印加したときの圧電素子5Cの伸縮による駆動部材5Dの移動速度が大きい場合には、駆動部材5Dの移動によっても、保持ベース31Aは、枠体31Bに対し移動しないようになっている。
【0045】
そして、詳しくは後述するが、駆動部材5Dを適宜の速度で正逆方向に繰り返し移動すると、保持ベース31Aが適宜の方向に移動し、保持ベース31A等と共に対物レンズ2A、2Bを適宜の方向に移動することができ、対物レンズ2A、2Bの切り換えを行うことができるようになっている。
【0046】
ところで、既に理解されるように、駆動部材5Dは、2個の対物レンズ2A、2Bとこれを補正駆動する2組のレンズアクチュエータ(レンズ駆動手段)21A、21B(詳しくは後述する)が載置保持される保持ベース31Aとを使用位置に駆動する部材であり、その断面形状が正方形状をなしているので、これは廻り止めの効果があり、保持ベース31Aの廻り止め用の手段が不要になっている。
【0047】
さらに、駆動部材5Dの断面が正方形状に形成されているので、駆動部材5Dを設置する際、駆動部材5Dの方向性を考慮する必要がなく、装置の組み立てが容易になっている。また、駆動部材5Dの断面が正方形状に形成されているので、少ない素材で駆動部材5Dの軽量化をはかりつつ、駆動部材5Dの捻り(長手方向であるY軸方向に延びた中心軸を中心とした捻り)に対する剛性を向上させることができる。なお、駆動部材5Dの断面は、非円形であればよいが、このように正方形状であることが最も好ましい。
【0048】
ここで、トラック移動手段101やスライド駆動手段5等についてさらに詳しく説明する。
【0049】
ピックアップ機構3の筐体3Aは、スピンドル4側の部位105の幅(Y軸方向の長さ)が広く、反スピンドル側の部位107の幅が狭い「T」字状に形成されており、スピンドル側の部位105の幅方向の両側で、ガイド部材109に係合して支持され、X軸方向に移動自在になっている。そして、前述したように図8に示すスレッドモータ103で駆動され、ピックアップ機構3、枠体31B、駆動部材5D、保持ベース31Aや各対物レンズ2A、2B等がX軸方向で移動位置決めされるようになっている。
【0050】
枠体31Bは、Y軸方向に長く延びてピックアップ機構3の筐体3Aに設けられている。また、枠体31Bは、Z軸方向では、スピンドル4に保持される光ディスク6とピックアップ機構3の筐体3Aとの間に設けられており、X軸方向では、ピックアップ機構3の筐体3Aのスピンドル4側の部位105のうちで、反スピンドル側の部位107の近くに設けられている。
【0051】
枠体31Bの長手方向(Y軸方向)の一端部には、圧電素子5Cの一端部を固定するためのフランジ部31Cが設けられている。フランジ部31Cの近くには、駆動部材5DをY軸方向に移動自在に支持するための第1のガイド部31Eが設けられており、枠体31Bの長手方向の他端部には、駆動部材5DをY軸方向に移動自在に支持するための第2のガイド部31Dが設けられている。なお、フランジ部31Cと各ガイド部31D、31Eとは、Y軸方向で1直線上に並んで設けられていると共に、Z軸方向ではピックアップ機構3の筐体3Aとは離れた側に設けられている。
【0052】
また、Y軸方向から眺めた場合、各ガイド部31D、31Eには、正方形状の貫通孔が設けられている。この正方形状の貫通孔は、駆動部材5Dの正方形状の断面と同じ大きさかごく僅かに大きく形成されており、各ガイド部31D、31Eの各貫通孔に駆動部材5Dが入り込んで、駆動部材5Dと各ガイド部31D、31Eとが小さな摩擦力で滑り対偶をなして係合することにより、駆動部材5Dが枠体31Bに対して、駆動部材5Dの長手方向(Y軸方向)にのみ容易に移動することができるようになっている。
【0053】
なお、圧電素子5Cが、フランジ部31Cと駆動部材5Dの一端部との間に設けられているので、駆動部材5Dは、圧電素子5Cの伸縮量のぶんだけ、枠体31Bに対して相対的に移動するようになっている。駆動部材5Dの長さは、枠体31Bの各ガイド部31D、31E間の距離よりも僅かに長くなっている。そして、圧電素子5Cが伸縮し駆動部材5Dが移動しても、駆動部材5Dは各ガイド部31D、31Eと係合し続けるようになっている。
【0054】
保持ベース31Aは、Z軸方向では、ピックアップ機構3の筐体3Aとスピンドル4に保持される光ディスク6との間に設けられ、X軸方向では、ピックアップ機構3のスピンドル4側の部位105に設けられている。また、保持ベース31Aは、本体部111と、各係合部5A、5Bとを備えて構成されている。本体部111は板状に形成され、本体部111の長さ(Y軸方向の長さ)は、駆動部材5Dよりも短い所定の長さになっている。各係合部5A、5Bは、本体部111の幅方向(X軸方向)の一端部側(スピンドル4から離れた側)で、本体部111に一体的に設けられている。
【0055】
第1の係合部5Aには、図2(a)に示すように、正方形状の貫通孔が設けられている。第1の係合部5Aの貫通孔113の大きさは、駆動部材5Dの正方形状の断面よりも大きく形成されており、第1の係合部5Aに駆動部材5Dが入り込んだ状態では、第1の係合部5Aの貫通孔113の2面(互いが直交して隣接している2面)115、117は、駆動部材5Dの2面(互いが直交して隣接している2面)119、121と接触して滑り対偶をなしている。また、第1の係合部5Aの貫通孔113の他の2面(互いが直交して隣接している2面)123、125は、駆動部材5Dの他の2面(互いが直交して隣接している2面)127、129と所定の距離をおいて離れ対向している。
【0056】
第1の係合部5Aの貫通孔113の面123と、この面123から離れて対向している駆動部材5Dの面127との間には、弾性体5E(131)が設けられており、また、第1の係合部5Aの貫通孔113の面125と、この他方の面125から離れて対向している駆動部材5Dの面129との間にも、弾性体5E(133)が設けられている。
【0057】
そして、弾性体5E(131)により、駆動部材5Dの面119が貫通孔113の面115に押圧され、弾性体5E(133)により、駆動部材5Dの面121が貫通孔113の面117に押圧され、第1の係合部5Aと駆動部材5Dとの間には所定の大きさの摩擦力が働くようになっている。
【0058】
また、第2の係合部5Bには、図2(b)に示すように、正方形状の貫通孔135が設けられている。第2の係合部5Bの貫通孔135の大きさは、駆動部材5Dの正方形状の断面と同じ大きさかごく僅かに大きく形成されており、第2の係合部5Bの貫通孔135に駆動部材5Dが入り込んだ状態では、第2の係合部5Bの貫通孔135の4つの面と駆動部材の4つの面とが小さな摩擦力で滑り対偶をなして係合している。このようにして、第2の係合部5Bと駆動部材5Dとの間には、無視することができる程度のごく小さな摩擦力(微摩擦力)しか働かないようになっている。
【0059】
ここで、弾性体5Eの設置状態について、図2(a)を参照して詳しく説明する。
【0060】
まず、第1の係合部5Aの貫通孔113の一つの面123と、この面123から離れて対向している駆動部材5Dの面127との間に設けられている弾性体131の設置状態について説明する。弾性体131は、たとえば、バネ用ステンレス鋼等の金属製の矩形な薄い板状の部材で構成されている。
【0061】
Y軸方向から眺めた場合、第1の係合部5Aの貫通孔113の1つの面123の両端部には、溝137、139がY軸方向に貫通して形成されている。各溝137、139のうちの一方の溝137に薄い板状の弾性体131の一端部がたとえば圧入されて入り込み、各溝137、139のうちの他方の溝139に薄い板状の弾性体131の他端部がたとえば圧入されて入り込み、薄い板状の弾性体131が第1の係合部5Aに、Y軸方向には動かないように固定されている。このように固定されている薄い板状の弾性体131の中間部は、駆動部材5D側に撓み、薄い板状の弾性体131のほぼ中央部が、所定の圧力で駆動部材5Dに接している。なお、薄い板状の弾性体131のY軸方向における長さは、第1の係合部5AのY軸方向の長さとほぼ等しくなっており、薄い板状の弾性体131は、第1の係合部5Aの貫通孔113内におさまっている。
【0062】
第1の係合部5Aの貫通孔113の他の1つの面125と、この面125から離れて対向している駆動部材5Dの面129との間にも、薄い板状の弾性体133が同様に設けられている。
【0063】
このようにして、各弾性体131、133が設けられているので、前述したように、第1の係合部5Aが所定の摩擦力で駆動部材5Dに係合しているのである。
【0064】
なお、各係合部5A、5Bが駆動部材5Dに係合し、保持ベース31Aが駆動部材5Dに支持されている状態では、各係合部5A、5BがY軸方向において枠体31Bの各ガイド部31D、31Eの内側に位置している。
【0065】
ところで、保持ベース31Aの本体部111には、図1に示すように、第1の対物レンズ用筐体(ホルダ)141と、第2の対物レンズ用筐体(ホルダ)143とが設けられている。第1の対物レンズ用筐体141には、第1の対物レンズ2Aと、この第1の対物レンズ2Aを補正駆動するための第1のレンズ駆動手段21Aとが設けられており、第2の対物レンズ用筐体143には、第2の対物レンズ2Bと、この第2の対物レンズ2Bを補正駆動するための第2のレンズ駆動手段21Bとが設けられている。
【0066】
第1の対物レンズ2Aは、ピックアップ機構3の光路を通ってきたレーザ光を、スピンドル4に保持された光ディスク6に照射するためのレンズであり、第1の対物レンズ用筐体141や第1のレンズ駆動手段21Aと共にY軸方向の一端部側で保持ベース31Aに設けられている。また、第2の対物レンズ2Bも、ピックアップ機構3の光路を通ってきたレーザ光を、スピンドル4に保持された光ディスク6に照射するためのレンズであり、第2の対物レンズ用筐体143や第2のレンズ駆動手段21Bと共にY軸方向の他端部側で保持ベース31Aに設けられている。
【0067】
なお、各対物レンズ用筐体141、143は、Z軸方向では、保持ベース31Aの本体部111とスピンドル4に保持される光ディスク6との間に配置されており、X軸方向では、各対物レンズ用筐体141、143と各対物レンズ2A、2Bとは、保持ベース31Aの本体部111のところで、ほぼ同じ位置に配置されている。
【0068】
保持ベース31Aの各係合部5A、5B間の距離(Y軸方向における第1の係合部5Aの中心と、第2の係合部5Bの中心との間の距離)SAは、図3(a)に示すように、各対物レンズ2A、2B間の距離(Y軸方向における各対物レンズ2A、2Bの中心間の距離)SBとほぼ等しいか、それよりも大きくなっている。また、保持ベース31Aの各係合部5A、5B間の距離SAは、各対物レンズ(対物レンズの中心)2A、2Bと保持ベース31Aの各係合部(係合部の中心)5A、5Bとの間のX軸方向における距離SCとほぼ等しいか、それよりも大きくなっている。なお、前記距離SAに代えて、第1の係合部5Aの端部(第2の係合部5Bとは反対側の端部)と第2の係合部5Bの端部(第1の係合部5Aとは反対側の端部)との間の距離SDを採用してもよい。
【0069】
また、距離SBと距離SCとが大きく異なっている場合には、前記距離SAが、前記各距離SB、SCのうちの大きい方の距離とほぼ等しいか、前記大きい方の距離よりも大きくなっていることが望ましい。
【0070】
また、駆動部材5Dが移動して、保持ベース31A(各対物レンズ2A、2B)がY軸方向に移動するのであるが、枠体31Bの各ガイド部31D、31Eに保持ベース31Aの各係合部5A、5Bが当接することによって、保持ベース31Aの移動ストロークが規制されるようになっている。
【0071】
すなわち、図3(a)に示すように、保持ベース31AがY軸方向の一方の側に位置している状態では、保持ベース31Aの係合部5Aと、枠体31Bのガイド部31Eとが互いに当接し、保持ベース31Aが位置決めされており、このように位置決めされている状態では、スピンドル4の中心と一方の対物レンズ2Aの中心とのY軸方向の位置がほぼ一致している。また、図3(b)に示すように、保持ベース31AがY軸方向の他方の側に位置している状態では、保持ベース31Aの係合部5Bと、枠体31Bのガイド部31Dとが互いに当接し、保持ベース31Aが位置決めされており、このように位置決めされている状態では、スピンドル4の中心と、他方の対物レンズ2Bの中心とのY軸方向の位置がほぼ一致している。
【0072】
なお、Z軸方向から眺めると、枠体31Bや保持ベース31A等は、ピックアップ機構3の筐体3Aを構成している部位(スピンドル4側の部位)25の内側に収まるように配置されている(図3参照)。
【0073】
また、第1の係合部5AをY軸方向の一方の側、第2の係合部5Bを他方の側に配置しているが、Y軸方向において、第1の係合部5Aの位置と第2の係合部5Bの位置とを入れ換えてもよい。また、たとえば、第2の係合部(微摩擦力の係合部)5BをY軸方向の両端に配置し、中間部に第1の係合部(所定の摩擦力の係合部)5Aを配置した構成であってもよい。
【0074】
ここで、レンズアクチュエータ21A、21Bについて説明する。
【0075】
レンズアクチュエータ21Aは、図9に示すように複数のワイヤ211で微小変位可能な状態に固定されたレンズホルダ212に対物レンズ2Aを保持するとともに、このレンズホルダ212の側面に設けられたコイル(図示略)と対向配置された磁石213とにより発生される力、或いは、レンズホルダ212に設けられた図示しない磁石とそれに対向配置されたコイルにより発生する力によってレンズホルダ212を変位させて対物レンズ2Aの微小な位置補正を行うものである。
【0076】
このレンズアクチュエータ21Aによる対物レンズ2Aの駆動方向は、対物レンズ2Aの光の焦点方向、光ディスクの半径方向と同一のトラッキング方向、光ディスクの半径方向の傾きに対応したチルト角方向の3軸方向である。これらの駆動方式としては種々の提案が従来なされており、種々の駆動方式をこのレンズアクチュエータに適用することが可能である。もう一方のレンズアクチュエータ21Bも同様の構成である。
【0077】
次に、光ディスク装置1の制御部について説明する。
【0078】
図8は、光ディスク装置1の制御部の概略構成を示すブロック図である。
【0079】
図8において、半導体レーザ1Aから放出されたレーザ光は対物レンズ2Aを介して光ディスク6に集光され、記録溝や案内溝により反射される。この光はハーフミラー7を介して、受光部8に入射・集光される。アナログ信号処理回路9は、ピックアップ機構3で光電変換された信号よりトラッキングエラー信号TE、フォーカスエラー信号FE、および総和信号PEを検出して出力する。
【0080】
トラッキングエラー信号TEはアナログデジタル変換器10Aでアナログデジタル変換されてマイクロコンピュータ11に取り込まれる。同様にフォーカスエラー信号FEはアナログデジタル変換器10Bでアナログデジタル変換されてマイクロコンピュータ11に取り込まれる。また、総和信号PEはアナログデジタル変換器10Cでアナログデジタル変換されてマイクロコンピュータ11に取り込まれる。
【0081】
マイクロコンピュータ11にはROM12が接続されており、ここにはプログラムや固定データが記憶されている。また、マイクロコンピュータ11にはRAM13が接続されており、ここには変数値等が記憶される。
【0082】
マイクロコンピュータ11にはデジタルアナログ変換器14Aが接続されており、ここではトラッキング制御駆動信号を演算したデータを出力し、この値で駆動回路15Aを介してトラッキング制御用コイル16を駆動する。
【0083】
さらに、マイクロコンピュータ11にはデジタルアナログ変換器14Bが接続されており、ここではフォーカス制御駆動信号を演算したデータを出力し、この値で駆動回路15Bを介してフォーカス制御用コイル17を駆動する。また、図示していないが同様にチルト制御コイルを有しチルト制御を行っている。
【0084】
なお、本実施形態のピックアップ機構3は可動部18を2系統有しており、2種類以上の規格の光ディスクに対応できるようになっている。一方の可動部21Aが対応する規格と異なる規格の光ディスク6が装着された場合には、これをマイクロコンピュータ11が判別して、他方の可動部21Bを使用するようになっている。すなわち、図示しない素子駆動手段を用いて、圧電素子5Cが繰り返して伸縮するように圧電素子5Cへ適宜の電圧を印加し、駆動部材5Dを適宜駆動(移動)して保持ベース31Aを移動し、図3(a)または図3(b)に示す状態に、各対物レンズ2A、2Bを位置決めする。また、これに合わせて電気系も切り換えられるようになっている。
【0085】
ピックアップ機構3は、図1と図8に示すようにまた前述したように、2個の対物レンズ2A、2Bやこれら対物レンズ2A、2Bの微小な位置補正をそれぞれ行う2組のレンズアクチュエータ(レンズ駆動手段)21A、21Bを備えて構成されている。
【0086】
なお、前記2個の対物レンズ2A、2Bは、たとえば、DVD、CD用の互換対物レンズとBD用対物レンズ、とそれぞれ異なるものである。すなわち、CD(光ディスク)から情報を読み出す等の場合には、レーザ発生装置1Aと対物レンズ2Aとが使用され(図3(a)参照)、レーザ発生装置1Aで生成されたレーザ光が対物レンズ2Aを介して、CDに照射されるようになっている。同様にして、DVDから情報を読み出す等の場合には、レーザ発生装置1A以外の2つのレーザ発生装置のうちの一方のレーザ発生装置と対物レンズ2Aとが使用され(図3(a)参照)、ブルーレイディスク(BD)から情報を読み出す等の場合には、レーザ発生装置1A以外の2つのレーザ発生装置のうちの他方のレーザ発生装置と対物レンズ2Bとが使用されるようになっている(図3(b)参照)。
【0087】
ところで、以上の構成において、図4に示すような緩やかな立ち上がり部E1とこれに続く急速な立ち下がり部E2からなる波形の駆動パルスを圧電素子5Cに印加すると、駆動パルスの緩やかな立ち上がり部E1では、圧電素子5Cが緩やかに(遅い速度で)厚み方向の伸び変位を生じ、駆動軸(駆動部材)5DはY軸方向で矢印AR1(図1参照)の方向へ変位する。このため、駆動軸5Dに圧接バネ(弾性体)5Eにより圧接して摩擦結合しているレンズ切り換え駆動部5の保持ベース31Aも矢印AR1の方向へ移動するので、各対物レンズ2A、2Bを矢印AR1の方向へ移動させることができる。
【0088】
駆動パルスの急速な立ち下がり部E2では、圧電素子5Cが急速に(速い速度で)厚み方向の縮み変位を生じ、駆動軸5Dも軸方向に矢印AR1と反対方向(矢印AR2の方向)へ変位する。このとき、駆動軸5Dに圧接バネ5Eにより圧接しているレンズ切り換え駆動部5の保持ベース31Aその慣性力により駆動軸5Dとの間の摩擦力に打ち勝って実質的にその位置に留まるので、レンズ切り換え駆動部5は移動しない。
【0089】
なお、ここでいう実質的とは、矢印AR1方向と、これと反対方向(矢印AR2の方向)のいずれにおいてもレンズ切り換え駆動部5の保持ベース31A駆動軸5Dとの間に滑りを生じつつ追動し、駆動時間の差によって全体として矢印AR1方向に移動するものも含むことを意味している。どのような移動形態になるかは、与えられた摩擦条件に応じて決定される。
【0090】
上記波形の駆動パルスを連続して圧電素子5Cに印加することにより、図3(a)に示す状態まで、レンズ切り換え駆動部5を矢印AR2で示す方向へ連続して移動させることができる。
【0091】
レンズ切り換え駆動部5(保持ベース31A)を、図3(b)に示す状態まで、矢印AR2と反対方向(矢印AR1の方向)へ移動させるときは、急速な立ち上がり部とこれに続く緩やかな立ち下がり部からなる波形の駆動パルスを圧電素子5Cに印加することで達成できる。
【0092】
ここで、駆動部材5Dの移動速度と、被駆動体(保持ベース31A)の移動との関係についてより詳しく説明する。
【0093】
まず、圧電素子5Cが伸びて保持ベース31Aが矢印AR1の方向に移動する場合について説明する。
【0094】
圧電素子5Cの伸びの速度を変えることにより、圧電素子5Cに一体的に設けられている駆動部材5Dにおける矢印AR1方向の速度は変化する。ここで、駆動部材5Dにおける矢印AR1方向の速度の値を、第1の所定の速度(正の値)v1、第2の所定の速度(正の値)v2というように小さい順に表すことにする(第1の所定の速度v1<第2の所定の速度v2)。
【0095】
駆動部材5Dの速度が、前記第1の所定の速度v1よりも小さい場合、駆動部材5Dと保持ベース31Aの第1の係合部5Aとの間の静摩擦力(駆動部材5Dに対して保持ベース31Aが相対的に移動していないときにおける駆動部材5Dと第1の係合部5Aとの間の摩擦力)により、駆動部材5Dと保持ベース31Aの第1の係合部5Aとの間では滑りが発生せず、圧電素子5Cの1回の伸びによる駆動部材5Dの矢印AR1方向への1回分の移動量と同じ量だけ、保持ベース31Aが矢印AR1の方向に移動するようになっている。
【0096】
駆動部材5Dの速度が、第2の所定の速度v2よりも大きい場合、駆動部材5Dと保持ベース31Aの第1の係合部5Aとの間に静摩擦力や動摩擦力(駆動部材5Dに対して保持ベース31Aが相対的に移動しているときにおける駆動部材5Dと第1の係合部5Aとの間の摩擦力)が存在しているにもかかわらず、保持ベース31A等の質量による慣性力により、駆動部材5Dと保持ベース31Aの第1の係合部5Aとの間で滑りが発生し、圧電素子5Cの伸びによって駆動部材5Dが矢印AR1の方向へ移動しても、保持ベース31Aが矢印AR1の方向に移動することはなく、保持ベース31Aは枠体31Bに対して移動しないようになっている。
【0097】
駆動部材5Dの速度が、第1の所定の速度v1以上であって第2の所定の速度v2以下である場合、駆動部材5Dと保持ベース31Aの第1の係合部5Aとの間の摩擦力(動摩擦力や静摩擦力)および保持ベース31A等の質量による慣性力により、駆動部材5Dと保持ベース31Aの第1の係合部5Aとの間では、ある程度の滑りが発生し、圧電素子5Cの1回の伸びによる駆動部材5Dの矢印AR1方向への1回分の移動量よりも少ない量だけ保持ベース31Aが矢印AR1の方向に移動するようになっている。なお、駆動部材5Dの速度が、第2の所定の速度v2に近づくにしたがって、駆動部材5Dと保持ベース31Aの第1の係合部5Aとの間における滑り量は大きくなり、駆動部材5Dの移動量と保持ベース31Aの移動量との差が大きくなる。
【0098】
圧電素子5Cが縮んで駆動部材5Dが矢印AR1の方向とは逆の方向(矢印AR2の方向)に移動する場合についても、圧電素子5Cが伸びる場合と同様である。
【0099】
そして、たとえば、圧電素子5Cに印加する電圧を、図4に示すように適宜制御して、駆動部材5Dを第1の所定の速度v1よりも小さい速度で矢印AR1の方向に移動し、この後、駆動部材5Dを第2の所定の速度v2よりも大きい速度で矢印AR2の方向に移動するという動作を繰り返せば、保持ベース31Aは矢印AR1の方向に移動するようになっている。
【0100】
逆に、駆動部材5Dを第2の所定の速度v2よりも大きい速度で矢印AR1の方向に移動し、この後、駆動部材5Dを第1の所定の速度v1よりも小さい速度で矢印AR2の方向に移動するという動作を繰り返せば、保持ベース31Aは矢印AR2の方向に移動するようになっている。
【0101】
なお、保持ベース31Aの第2の係合部5Bと駆動部材5Dとの間の摩擦力はごく僅かであるので、駆動部材5Dが第1の所定の速度v1よりも小さい速度で移動しても、保持ベース31Aの第2の係合部5Bと駆動部材5Dとの間には、滑りが発生するようになっている。しかしながら、保持ベース31Aは1の係合部5Aによっても駆動部材5Dに係合しているので、駆動部材5Dの速度が第1の所定の速度v1よりも小さい場合であっても、駆動部材5Dの移動に伴って保持ベース31Aは移動するのである。
【0102】
なお、保持ベース31Aを移動する際に、圧電素子5Cの印加する電圧の波形を、図4に示すように直線部分だけで構成する必要はなく、曲線を用いた形態にしてもよい。また、駆動部材5Dの速度に代えてまたは加えて、駆動部材の加速度を適宜制御し、保持ベース31Aを移動するようにしてもよい。
【0103】
ところで、光ディスク装置1では、光ディスク6がディスクトレイ(図示せず)に挿入されてそれが検出されると、制御回路によりスクリューシャフト40が回転駆動されてピックアップ機構3が光ディスク6の最内周位置に移動を行い、ディスク判別を行う。ディスク判別時には、システムとして最良な判別を行うためにレンズ切り換え駆動部5を駆動し対物レンズ2Aまたは2Bを所定の位置に移動させ、赤色レーザまたは青色レーザが選択されるようになっている。
【0104】
光ディスク装置1によれば、互いが離れて設けられた各係合部5A、5Bで、保持ベース31Aが駆動部材5Dに支持されているので、保持ベース31Aが駆動部材5Dに対して移動する場合、保持ベース31Aの慣性力等により保持ベース31Aにモーメントが発生しても、この発生したモーメントを的確に受け止めることができ、保持ベース31Aのヨーイング(Z軸まわりの揺動)、ピッチング(X軸まわりの揺動)を小さくすることができる。さらには、保持ベース31Aのローリング(Y軸まわりの揺動)を減少することができ、保持ベース31Aが駆動部材5Dに対してスムーズに移動するようになっている。また、保持ベース31Aを、正確な位置にしかも傾いた状態ではない正しい姿勢で、位置決めすることができる。したがって、各対物レンズ2A、2Bを正確な位置に位置決めすることができる。
【0105】
さらに説明すれば、もしも、第2の係合部5Bが存在しないとすると、図3(a)に示す距離SAに相等する距離が小さくなり駆動部材5Dでの保持ベース31Aの支持が不安定になり、保持ベース31Aが駆動部材5Dに対して移動する際の保持ベース31Aの慣性力等により保持ベース31Aに発生するモーメントで、保持ベース31Aにヨーイングやピッチングが発生し、第1の係合部5Aが駆動部材5Dに対して若干斜めに傾き、第1の係合部5Aにおける摩擦力が増大し、保持ベース31Aが駆動部材5Dに対して動かなくなる等の不具合が発生するおそれがあるが、第1の係合部5Aと離れた位置に第2の係合部5Bを設けたので、前述したような若干斜め傾くという事態が回避され、駆動部材5Dによる保持ベース31Aの支持が不安定になるという事態を回避することができる。
【0106】
また、光ディスク装置1によれば、各係合部5A、5Bが、所定の摩擦力で駆動部材5Dに係合しているのではなく、第1の係合部5Aが所定の摩擦力で駆動部材5Dに係合し、第2の係合部5Bが微摩擦力で駆動部材5Dに係合しているので、換言すれば、第1の係合部5Aのみを介して駆動部材5Dから力を受け保持ベース31Aが移動するようになっているので、安定した状態で保持ベース31Aを移動させることができる。
【0107】
より詳しく説明すると、各係合部5A、5Bが微弱でない所定の摩擦力で駆動部材5Dに係合している場合において、各係合部5A、5Bが物理的に常に同一の摩擦力で駆動部材5Dに係合しているとすると、特に問題は発生しないのであるが、各係合部5A、5Bは機械部品で構成されているので、各係合部5A、5Bが物理的に同一の摩擦力で駆動部材5Dに係合していることはなく、さらに、温度変化や長年の使用により、各係合部5A、5Bの摩擦力に差が出るようになる。
【0108】
このように、各係合部5A、5Bの摩擦力の間に差が生じている状態で駆動部材5Dを移動し保持ベース31Aを移動しようとすると、同一の速度で駆動部材5Dを移動したにもかかわらず、あるときには、両方の係合部5A、5Bを介して保持ベース31Aが移動し、また、あるときは、一方の係合部5Aのみを介して保持ベース31Aが移動することになり、保持ベース31Aが不安定な状態で移動することになるものである。
【0109】
しかし、光ディスク装置1では、保持ベース31Aが移動するための力を、第1の係合部5Aのみを介して受けるようになっているので、上述した問題は回避され、安定した状態で保持ベース31Aを移動させることができる。
【0110】
なお、光ディスク装置1は、ベース部材に移動自在に設けられた駆動部材と、前記駆動部材を移動するために設けられた電気−機械変換素子と、前記駆動部材に係合する第1の係合部とこの第1の係合部から離れて前記駆動部材に係合する第2の係合部とを備え前記各係合部で係合することにより前記駆動部材に支持され前記駆動部材に対し移動自在になっている被駆動体とを有し、前記電気−機械変換素子によって前記駆動部材が移動するときの速度を変化させることにより、前記駆動部材の移動量に対する前記被駆動体の移動量が変化するように構成されている駆動装置の例である。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】電気−機械変換素子を使用した位置決め機構を適用した光ディスク装置における光ピックアップ切り換え機構の構成を示した斜視図である。
【図2】図1におけるII−II矢視を示す図である。
【図3】ピックアップ機構が作動している状態を説明する平面図である。
【図4】電気−機械変換素子に印加する駆動パルスの波形の一例を示す図である。
【図5】従来の電気−機械変換素子を使用した位置決め機構を適用したレンズ組み立て体の構成を示した断面図である。
【図6】図5に示すレンズ組み立て体のVI−VI線に沿った断面図である。
【図7】従来の電気−機械変換素子を使用した位置決め機構を適用したレンズ組み立て体の構成を示した斜視図である。
【図8】光ディスク装置の制御部を説明するブロック図である。
【図9】レンズアクチュエータの構成を説明する斜視図である。
【符号の説明】
【0112】
1 光ディスク装置
1A 半導体レーザ発生装置
2A 第1の対物レンズ
2B 第2の対物レンズ
3 ピックアップ機構
3A 筐体
4 スピンドル
6 光ディスク
5A 第1の係合部
5B 第2の係合部
5C 圧電素子
5D 駆動部材
21A 第1のレンズ駆動手段
21B 第2のレンズ駆動手段
31A 保持ベース
31B 枠体
101 トラック移動手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース部材に、一軸方向に移動自在に設けられた駆動部材と;
前記駆動部材を移動するために、前記ベース部材に設けられた電気−機械変換素子と;
前記駆動部材に係合する第1の係合部とこの第1の係合部から離れて前記駆動部材に係合する第2の係合部とを備え、前記各係合部で係合することにより前記駆動部材に支持され前記駆動部材に対し、前記一軸方向に移動自在になっている被駆動体と;
を有し、前記電気−機械変換素子によって前記駆動部材が移動するときの移動速度を変化させることにより、前記駆動部材の移動量に対する前記被駆動体の移動量が変化するように構成されていることを特徴とする駆動装置。
【請求項2】
長手方向に対して直交する平面による断面が非円形状に形成され、前記長手方向で移動自在なように、ベース部材に設けられた駆動部材と;
伸縮方向が前記駆動部材の長手方向と平行になるようにして、伸縮方向の一端部が前記ベース部材に一体的に設けられ、伸縮方向の他端部が前記駆動部材に一体的に設けられた電気−機械変換素子と;
前記駆動部材に第1の所定の摩擦力で係合する第1の係合部と、この第1の係合部から離れ前記駆動部材に第2の所定の摩擦力で係合する第2の係合部とを備えており、前記各係合部で係合することにより前記駆動部材に支持され前記駆動部材の長手方向で前記駆動部材に対し移動自在になっていると共に、電圧を印加したときの前記電気−機械変換素子の伸縮による前記駆動部材の移動速度が小さい場合、前記駆動部材の移動に応じて移動し、前記移動速度が大きい場合、前記駆動部材の移動によっても移動しないようになっている被駆動体と;
を有することを特徴とする駆動装置。
【請求項3】
光ディスクの中央部分を保持して前記光ディスクを回転駆動するスピンドルと;
前記スピンドルに保持されている光ディスクに記録されている情報の読み取り、前記光ディスクへの情報の記録、前記光ディスクに記録されている情報の消去、前記光ディスクに記録されている情報の書き換えのうちの少なくともいずれかを行うためのレーザ光を発生するレーザ発生装置と、この発生したレーザ光を光ディスクに導くための光路とが設けられているピックアップ機構と;
前記ピックアップ機構をこのピックアップ機構が設けられている筐体と共に、前記スピンドルに保持された前記光ディスクの径方向に移動位置決め自在なトラック移動手段と;
前記ピックアップ機構が設けられている筐体に、一体的に設けられた枠体と;
長手方向に対して直交する平面による断面が非円形状に形成され、前記長手方向が、前記スピンドルに保持された光ディスクの径方向と交差する方向であって前記スピンドルに保持された光ディスクの厚さ方向と直交する方向になるようにして、前記長手方向で移動自在なように、前記枠体に設けられた駆動部材と;
伸縮方向が前記駆動部材の長手方向と平行になるようにして、伸縮方向の一端部が前記枠体に一体的に設けられ、伸縮方向の他端部が前記駆動部材に一体的に設けられた電気−機械変換素子と;
前記駆動部材に係合する第1の係合部と、この第1の係合部から離れ前記駆動部材に係合する第2の係合部とを備えており、前記各係合部で係合することにより前記駆動部材に支持されると共に、前記駆動部材の移動に伴い前記駆動部材の長手方向に移動する保持ベースと;
前記保持ベースに設けられ、前記保持ベースがその移動方向の一端部側に位置した際に前記ピックアップ機構の光路を通ってきたレーザ光を、前記スピンドルに保持された光ディスクに照射する第1の対物レンズと;
前記保持ベースに設けられ、前記保持ベースがその移動方向の他端部側に位置した際に、前記ピックアップ機構の光路を通ってきたレーザ光を、前記スピンドルに保持された光ディスクに照射する第2の対物レンズと;
を有することを特徴とする光ディスク装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−16079(P2008−16079A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−183073(P2006−183073)
【出願日】平成18年7月3日(2006.7.3)
【出願人】(000004329)日本ビクター株式会社 (3,896)
【Fターム(参考)】