駆動装置
【課題】駆動部材を黒鉛複合体で構成することによって、駆動部材と被駆動部材との摩擦を軽減且つ安定させ、被駆動部材の移動を正確且つ迅速に行うことのできる駆動装置を提供する。
【解決手段】駆動装置100は、電気信号の入力により伸縮可能な電気機械変換素子12と、この電気機械変換素子12の伸縮方向の一方側の端部に取り付けられた駆動部材14と、この駆動部材14に摩擦係合される被駆動部材16と、を備え、駆動部材14を、例えばカーボングラファイト等の黒鉛複合体によって形成する。
【解決手段】駆動装置100は、電気信号の入力により伸縮可能な電気機械変換素子12と、この電気機械変換素子12の伸縮方向の一方側の端部に取り付けられた駆動部材14と、この駆動部材14に摩擦係合される被駆動部材16と、を備え、駆動部材14を、例えばカーボングラファイト等の黒鉛複合体によって形成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は駆動装置に関し、特に小型デジタルカメラやウェブカメラ又はカメラ付き携帯電話機等に搭載する比較的小型のレンズなど光学部材を駆動する駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルカメラ等のレンズの駆動装置として、圧電素子などの電気機械変換素子を用いたアクチュエータが知られている。例えば特許文献2又は特許文献3の実施例に示されるように、アクチュエータは電気機械変換素子、駆動部材で構成され、電気機械変換素子の伸縮一方向の端面で筐体(又は支持部材)に固定されるのが一般的である。電気機械変換素子の伸縮他方向の端面には駆動部材が固着され、この駆動部材に被駆動部材が摩擦係合される。このような構成で電気機械変換素子にパルス状の電圧が印加されると、電気機械変換素子の伸び方向と縮み方向との動きが駆動部材に伝達される。電気機械変換素子が遅い速度で変形した場合には、被駆動部材が駆動部材とともに移動し、電気機械変換素子が速い速度で変形した場合には、被駆動部材がその質量の慣性によって同じ位置に停まる。したがって、往復で異なるパルス状の電圧の印加を繰り返すことによって、被駆動部材を細かなピッチで間欠的に移動させることができるというものである。
【0003】
このような構成のアクチュエータは、電気機械変換素子の伸縮一方向の端面で筐体(又は支持部材)に固定されているため、電気機械変換素子の振動に起因して駆動部材を含むアクチュエータに発生する振動が筐体に直接伝わり、アクチュエータと筐体との間で共振するという問題を発生する。
【0004】
特許文献1には、電気機械変換素子と筐体の間に台座を設け、電気機関変換素子の伸縮一方向の端面を台座に固定し、前記台座を筐体に対して弾性的に保持することにより、台座と筐体の間の振動伝達を低減又は遮断して、共振の影響を回避しようとする装置が提案されている。
【0005】
また、特許文献2には、電気機械変換素子に印加する充電時間を電気機械変換素子の共振周波数の約1周期分とし、放電時間を1/2周期分とする、すなわち共振を積極的に利用することによって、電気機械変換素子の伸縮量を増大し、アクチュエータの駆動効率を向上させようとする装置が提案されている。
【0006】
このような問題を少しでも改善するには、駆動部材として高剛性の金属材を用いることが好ましい。しかし、駆動部材を金属材にすると、駆動部材の重量が大きくなるため、圧電素子を高速で伸縮した際に応答性が悪くなり、被駆動部材を正確に移動させることができないという問題が発生する。
【0007】
そこで、特許文献3のアクチュエータは、強化繊維複合体から成る駆動部材を用いるものが提案されている。強化繊維複合体は金属材と比較して、軽量な割にはある程度剛性を確保できるので、駆動部材の応答遅れを小さくすることができ、被駆動部材を高速で移動させることができるというものである。
【特許文献1】特開2002−142470号公報
【特許文献2】特許第3171187号公報
【特許文献3】特許第3180557号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献3のアクチュエータは駆動部材が繊維樹脂から成るため、駆動部材と被駆動部材との摩擦が不安定であり、被駆動部材を精度良く移動させることができないという問題があった。また、特許文献3のアクチュエータは、駆動部材が変形し易いため、被駆動部材を正確に移動させることができないという問題があった。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みて成されたもので、駆動部材と被駆動部材との摩擦を軽減且つ安定させることによって、被駆動部材の移動を正確且つ迅速に行うことのできる駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の発明は前記目的を達成するために、電気機械変換素子と、この電気機械変換素子の伸縮に応じて動く駆動部材とから成り、駆動部材に摩擦係合された被駆動部材を駆動部材に沿って移動させるアクチュエータを備え、駆動部材は黒鉛複合体であることを特徴とする。
【0011】
駆動部材の材質としては、軽く高剛性のものが適しており、その条件を満たすものとしてはベリリウムが理想的であるが、この材料は稀少金属であるため高価で且つ加工性が悪いという欠点を持っている。そこで本実施形態においては、黒鉛結晶を強固に複合させた黒鉛複合体、例えばカーボングラファイトが用いられる。(ここで、黒鉛複合体とは炭素の六角板状結晶体であるグラファイトとグラファイト以外の物質との複合体を意味し、カーボングラファイトとはグラファイトと無定形炭素からなる物質を意味する。また、グラファイトは黒鉛とも言われる。)黒鉛複合体からなる駆動部材を特徴とする請求項1の発明によれば、駆動部材が軽量になり、電気機械変換素子の負荷を軽減することができる。また、請求項1の発明によれば、駆動部材が硬いので、駆動部材の変形を防止することができ、高い周波数で駆動した場合にも、被駆動部材を正確に移動させることができる。
【0012】
また、黒鉛複合体は、ベリリウムと似た特性を有しながら(ベリリウムの比重は約1.85、カーボングラファイトの比重は約1.8である)、ベリリウムと異なって比較的安価であり加工しやすいという特性を有しているので、請求項1の発明によれば、アクチュエータのコストを削減することができる。さらに、黒鉛複合体は、その成分として無定形炭素と黒鉛を含んでいるので、摩擦係数が非常に小さく、且つ、安定しており、被駆動部材との摺動性が良い。従って、被駆動部材を駆動部材に対して精度良く移動させることができ、安定した駆動制御を行うことができる。
【0013】
請求項2に記載の発明は請求項1の発明において、黒鉛複合体はカーボングラファイトであることを特徴とする。
【0014】
請求項3に記載の発明は請求項1又は2の発明において、電気機械変換素子に対して駆動部材と反対側に駆動部材よりも質量の大きい錘部材を設けたことを特徴とする。
【0015】
請求項3に記載の発明によれば、駆動部材よりも質量の大きい錘部材を設けることによって、電気機械変換素子の伸縮を効率よく駆動部材側に伝えることが可能である。
【0016】
請求項4に記載の発明は請求項1〜3の何れか一の発明において、錘部材は共振周波数低減部材であることを特徴とする。例えば図17(A)、図17(B)に示すように、共振の影響によって圧電素子1の伸縮による駆動力が被駆動部材3に正確に伝わらずに駆動部材2が電気機械変換素子1の伸縮方向以外に変位してしまう場合がある。そこで、このように錘部材を共振周波数低減部材とすることで、電気機械変換素子、駆動部材、及び、錘部材から成る系の共振周波数が低くなり、共振による影響が殆どない範囲で電気機械変換素子を駆動させることができ、被駆動部材を電気機械変換素子の伸縮方向に正確に駆動制御することが可能となる。
【0017】
請求項5に記載の発明は請求項3又は4の発明において、アクチュエータを駆動するための駆動回路を有し、この駆動回路は、電気機械変換素子と駆動部材とを質量として、錘部材をばねとした1自由系の共振周波数をf0、電気機械変換素子の駆動周波数をfとした際、f≧21/2・f0、となる駆動周波数fで電気機械変換素子を駆動することを特徴とする。
【0018】
請求項6に記載の発明は請求項1〜5の何れか一の発明において、駆動部材は、先端側及び/又は基端側で電気機械変換素子の伸縮方向に移動可能に支持されていることを特徴とする。
【0019】
請求項7に記載の発明は請求項1〜6の何れか一の発明において、アクチュエータは、電気機械変換素子の伸縮方向に対して側方から筐体に支持されていることを特徴とする。
【0020】
請求項8に記載の発明は請求項1〜7の何れか一の発明において、電気機械変換素子を駆動するために伸びと縮み方向において非対称の信号を発生させる駆動手段を有していることを特徴とする。
【0021】
請求項9に記載の発明は請求項1〜8の何れか一の発明において、被駆動部材は、駆動部材に対し面接触していることを特徴とする。
【0022】
請求項10に記載の発明は請求項1〜9の何れか一の発明において、被駆動部材の移動位置を検出する検出手段を備えたことを特徴とする。
【0023】
請求項11に記載の発明は請求項1〜10の何れか一の発明において、電気機械変換素子は可聴周波数を超える駆動周波数で駆動されることを特徴とする。この場合、電気機械変換素子の可聴領域における作動音を低減することができる。
【0024】
請求項12に記載の発明は請求項1〜11の何れか一の発明において、被駆動部材は光学部材に連結されており、撮影光学系に用いられることを特徴とする。
【0025】
請求項13に記載の発明は請求項1〜12の何れか一の発明において、アクチュエータは携帯電話に搭載される撮影光学系に用いられることを特徴とする。この場合、光学部材とはレンズのみに限られず、被駆動部材は絞りやシャッター又はNDフィルターなどにも用いられる。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係る駆動装置によれば、駆動部材を黒鉛複合体によって構成したので、駆動部材を軽量で高剛性にすることができ、駆動部材と被駆動部材との摩擦を軽減して安定した駆動制御を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下添付図面に従って本発明に係る駆動装置の好ましい実施の形態について詳述する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0028】
図1は本発明の第一実施形態に係る駆動装置100のアクチュエータ10を示す平面図である。図1に示すように、アクチュエータ10は、圧電素子(電気機械変換素子に相当)12、駆動部材14、及び、錘部材18で構成される。圧電素子12は矢印方向に積層されて構成されており、電圧を印加することによって積層方向に変形(伸縮)するように構成される。したがって、圧電素子12は、長手方向の端面12A、12Bが変位するようになっている。
【0029】
圧電素子12の端面12A、12Bのうち、一方の端面12Aには、駆動部材14の基端が固着される。駆動部材14は例えば円柱状に形成されており、その軸が矢印方向(すなわち、圧電素子の伸縮方向)に配置されている。駆動部材14の材質は、黒鉛結晶を強固に複合させた黒鉛結晶複合体、例えばカーボングラファイトが用いられる。この黒鉛複合体であるカーボングラファイトは、理想的な材料であるベリリウムと似た特性を有しながら、ベリリウムと異なって比較的安価で加工しやすいという特性を有しているので、アクチュエータ10のコストを削減することができる。なお、駆動部材14の形状は円柱状に限定されるものではなく、角柱状でもよい。
【0030】
被駆動部材16は駆動部材14に所定の摩擦力で係合されており、駆動部材14に沿ってスライド自在に支持される。被駆動部材16と駆動部材14との摩擦力は、圧電素子12に緩やかな変化の電圧を印加した際に、その駆動力よりも静摩擦力が大きくなるように、且つ、圧電素子12に急激な変化の電圧を印加した際に、その駆動力よりも静摩擦力が小さくなるように設定される。なお、駆動部材14と被駆動部材16の摺動接触部分には動作を安定させ、且つ繰り返し駆動した時の耐久性を向上させるために潤滑剤が塗布される。この潤滑剤は低温下でも駆動部材14と被駆動部材16の摺動駆動抵抗が増加しないように、温度によって性能が変化し難いものが好ましい。また、光学部品や機構部品に悪影響を与える塵埃を発生させないタイプのものがよい。
【0031】
錘部材18は、圧電素子12の端面12Bに固着される。この錘部材18は圧電素子12の端面12Bに負荷を与えることによって、端面12Bが端面12Aよりも大きく変位することを防止するものであり、駆動部材14よりも重量の大きいものが好ましい。また駆動部材14よりも質量の大きい錘部材18を設けることによって、圧電素子12の伸縮を効率よく駆動部材14側に伝えることが可能である。例えば、駆動部材14が8mg、圧電素子12が32mgの場合に、32mgの錘部材18が用いられる。
【0032】
また、錘部材18は、軟性材料によって形成されている。錘部材18の材質は、圧電素子12及び駆動部材14よりもヤング率の小さい材料のものが用いられる。錘部材18のヤング率としては、1GPa以下が好ましく、300MPa以下がより好ましい。このような錘部材18は、ゴム等の弾性体に比重の大きい金属粉を混ぜ合わせることによって形成され、例えばウレタンゴムやウレタン樹脂にタングステンの粉末を混合することによって製造される。錘部材18の比重は、装置の小型化のためにできるだけ高いことが好ましく、例えば8〜12程度に設定される。また、ウレタンゴムやウレタン樹脂にタングステンの粉末を混合することによって製造される錘部材18のヤング率は60MPa程度、比重は11.7程度となる。したがって、錘部材18を出来るだけ小さい体積で設計する場合は、出来るだけ比重が大きく且つヤング率の小さい組み合わせが最適となるが、錘部材18は駆動部材14の比重より大きく(比重1.8以上)、且つヤング率が1GPa以下のものであれば利用可能である。すなわち、比重をヤング率で除した数値(比重/ヤング率)が1.8×10−9 以上であれば錘部材18として適している。
【0033】
圧電素子12には駆動パルス供給装置(駆動回路)26(図4参照)が電気的に接続されており、この駆動パルス供給装置によって、図2(A)、図2(B)に示す波形の電圧が印加される。この図2の(A)、(B)の出力信号、すなわち圧電素子12を作動させる電気信号は、可聴周波数を超える周波数の信号が用いられる。このようは周波数の信号を用いることにより、圧電素子12の可聴領域における作動音を低減することができる。なお、この可聴周波数を超える周波数の信号は、後述の実施形態でも同様に用いられる。
【0034】
図2(A)、図2(B)は圧電素子12に印加するパルス波形の一例を示したものである。図2(A)は、図1の被駆動部材16を矢印の左方向に移動させる際のパルス波形であり、図2(B)は図1の被駆動部材16を矢印の右方向に移動させる際のパルス波形である。
【0035】
図2(A)の場合、圧電素子12には、時刻α1から時刻α2にかけて緩やかに立ち上がり、時刻α3で急激に立ち下がる略鋸歯状の駆動パルスを印加している。したがって、時刻α1から時刻α2では、圧電素子12が緩やかに伸長する。その際、駆動部材14が緩やかな速度で移動するので、被駆動部材16は駆動部材14とともに移動する。これにより、被駆動部材16を図1の左方向に移動させることができる。時刻α3では、圧電素子12が急激に縮まるので、駆動部材14は図1の右方向に移動する。その際、駆動部材14が急激に移動するので、被駆動部材16は慣性によってその位置に停止したまま、駆動部材14だけが移動する。したがって、図2(A)に示した鋸歯状の駆動パルスを繰り返し印加することによって、図1の被駆動部材16は左方向への移動と停止を繰り返すので、左方向へ移動させることができる。
【0036】
図2(B)の場合、圧電素子12には、時刻β1で急激に立ち上がり、時刻β2から時刻β3にかけて緩やかに立ち下がる略鋸歯状の駆動パルスを印加している。したがって、時刻β1では圧電素子12が急激に伸長し、駆動部材14は図1の左方向に移動する。その際、駆動部材14が急激に移動するので、被駆動部材16は慣性によってその位置に停止したまま、駆動部材14だけが移動する。時刻β2から時刻β3では、圧電素子12が緩やかに縮まる。その際、駆動部材14が緩やかに変位するので、被駆動部材16は駆動部材14とともに移動する。これにより、被駆動部材16を図1の右方向に移動させることができる。したがって、図2(B)に示した鋸歯状の駆動パルスを繰り返し印加することによって、図1の被駆動部材16は右方向への移動と停止を繰り返すので、右方向へ移動させることができる。なお、鋸状の駆動パルスは説明のために模式的に用いられるものであって、実際には図13のような回路によって図14、図15に示す信号が入出力される。その出力信号は鋸状の駆動パルスと等価のものとなる。また、使用される駆動周波数としては、駆動周波数が異音として認識される可聴周波数域を避け、且つ電力消費量が少ないことを考慮して選定すれば20〜200kHz程度が好ましく、より好ましくは50〜100kHzが用いられる。
【0037】
次に上記の如く構成されたアクチュエータ10の作用について説明する。
【0038】
本実施の形態では、駆動部材14が黒鉛結晶複合体、例えばカーボングラファイトによって構成されている。このカーボングラファイトは、炭素の六角板状結晶体であるグラファイト無定形炭素からなる物質であり、ベリリウムに似た性質を有し、軽量且つ高剛性であるという特性を有している。したがって、カーボングラファイトから成る駆動部材14を圧電素子12によって駆動すると、駆動部材14を正確に移動させることができる。また、駆動部材14が硬くて変形しにくいため、例えば100kHz以上の高周波での駆動制御が可能となる。
【0039】
さらに、カーボングラファイトはその成分として無定形炭素と黒鉛を有しているため、摺動性が良く、摺動時の摩擦が非常に小さく、且つ安定しているという特性を備えている。したがって、カーボングラファイトから成る駆動部材14を用いることによって、被駆動部材16との摩擦を減少させ、且つ、安定させることができる。これにより、被駆動部材16の移動を常に安定して正確に行うことができる。
【0040】
また、カーボングラファイトは内部損失も非常に小さいので、カーボングラファイトから成る駆動部材14は後述の共振を生じにくいという特徴がある。したがって、共振によって被駆動部材16の移動量にムラが発生することを防止できる。
【0041】
このように本実施の形態によれば、駆動部材14をカーボングラファイトによって構成したので、被駆動部材16の移動を正確に安定して行うことができる。本発明は特にアクチュエータ10を高周波で駆動させた場合に有効であり、従来装置を高周波で駆動させた場合には駆動部材14が変形して歪んだりして被駆動部材16を正確に移動させることができない場合にも、本発明のように駆動部材14をカーボングラファイトで構成することによって被駆動部材16を精度良く移動させることができる。
【0042】
また、本実施の形態のアクチュエータ10は、圧電素子12の端面12Bに固着された錘部材18が、ヤング率の小さい軟性材料で形成されている。このような錘部材18を用いることによって、圧電素子12と駆動部材14とを質量として、錘部材18を弾性体とした等価1自由系の共振周波数f0を大幅に下げることができる、換言すると、錘部材18は、共振周波数を低減させる共振周波数低減部材として機能する。また、ヤング率の小さい軟性材料で形成された錘部材18を用いることによって、剛性材料から成る錘部材を設ける場合よりも、アクチュエータ10の共振周波数が低いものとなる。このことは、その共振周波数f0を求めるための下式からも明らかである。この式において、Eは錘部材18のヤング率、Aは錘部材18の圧電素子12側の面積、hは錘部材18の厚さ、Maは圧電素子12の質量、Mbは駆動部材14の質量、Mcは錘部材18の質量を示す。
【0043】
【数1】
この式から明らかなように、錘部材18のヤング率Eを小さくすると、等価1自由系の共振周波数f0は小さくなる。本実施の形態では、錘部材18のヤング率を1GPa以下としたことによって、共振周波数f0を約70kHz以下にすることができる。また、本実施の形態において、錘部材18のヤング率を300MPa以下とすれば、共振周波数f0を35kHz以下にすることができる。さらに、本実施の形態において、錘部材18をヤング率が60MPa程度のウレタンゴムにタングステン粉末を混合したものを使用した場合は、共振周波数f0は15kHz程度となる。(図16中の番号1参照。但し、E+07は×107を意味する)。
【0044】
これに対して、錘に相当する部材がヤング率の大きい硬質材料で形成されると、前記共振周波数f0が大きくなる。例えば、本実施の形態において、錘部材18の材質をヤング率が200〜400GPaのステンレスとした場合は、共振周波数f0は1GHz以上となる。また、金属の中でも比較的ヤング率の小さいアルミニウム(ヤング率は120GPa程度)を使用した場合であっても共振周波数f0は約700kHzとなる(図16中の番号5参照)。
【0045】
前述したように本実施の形態のアクチュエータ10は、錘部材18が共振周波数低減部材により形成されているので、前記等価1自由系の共振周波数f0を著しく低下させることができる。なお、錘部材18を弾性体や粘弾性材料とした場合も同様な作用(詳しくは後述)を奏する。
【0046】
ここで一般に、振動する機械や構造物から、それを支える基礎や床に振動が伝わらないようにするためには、振動伝達率(Vibration Transmissibility)が小さいほうが良く、等価1自由系においては、振動伝達率λは下記2式で示される。
【数2】
但し、
λ :等価1自由系の振動伝達率、
f :使用される駆動周波数、
f0:等価1自由系の共振周波数、
ζ :等価1自由系の減衰比
【0047】
そして、等価1自由系では、この振動伝達率λが1以下の場合には、ζの値に無関係に、機械の振動が基礎や床に伝わりにくいとされる。従って、下記3式、及び3式を式変形した下記4式で示されるように、振動伝達率λが1以下の範囲、すなわちf≧21/2・f0を満たす範囲(図6(A)の範囲P)は、圧電素子12の振動がアクチュエータ10の支持部材(例えば図4の本体20)に伝わりにくく、共振による影響が非常に小さい防振領域である。したがって、発明を実施するための最良の実施形態である周波数の組み合わせ、すなわちアクチュエータの共振周波数が70kHz以下、駆動周波数が50〜100kHzとするものはこの防振領域を満たすことになる。なお、防振領域については、例えば、「モード解析入門、長松昭男著、コロナ社」に記載されている。因みに、f≧21/2・f0の関係は、他の実施形態に対しても勿論適用可能である。
【数3】
【数4】
【0048】
したがって、本実施の形態によれば、駆動部材14よりも質量の大きい錘部材18を設けることによって、電気機械変換素子の伸縮を効率よく駆動部材側に伝えることが可能となる。又、錘部材18として共振周波数低減部材を用いることによって、圧電素子12、駆動部材14、及び、錘部材18で構成されるアクチュエータ自体の共振周波数を低くすることができるため、共振によって駆動部材14が圧電素子12の伸縮方向以外に振れることを防止することができる。これにより、駆動部材14が圧電素子12の伸縮方向に変位するので、圧電素子12の伸縮による駆動力が被駆動部材16に正確に、且つ安定して伝わるため、被駆動部材16を圧電素子12の伸縮方向に正確に、且つ安定して駆動制御することができる。なお、本実施の形態では、被駆動部材16を圧電素子12の伸縮方向に正確に駆動できる反面、共振を利用して被駆動部材16を移動した場合に比べて、一回当たりの被駆動部材16の移動量は低下するが、圧電素子12の積層数を増やしたり駆動条件を適切に設定することにより、実用上充分な被駆動部材16の移動量を確保することができる。
【0049】
また、従来のアクチュエータでは、例えば文献(特許第3171022号公報)に示されている条件式のように、駆動周波数として設定し得る範囲が比較的狭い(図6(B)のQの範囲)ため、装置の品質にばらつきや故障が生じた際に共振周波数が低下して条件をはずれ、共振の影響を受けてしまう。そこで、本実施の形態によれば、共振周波数f0を下げることによって、f≧21/2・f0、となる広い範囲でアクチュエータ10の駆動周波数fを設定することができ、これにより、温度変化等の環境負荷や製品のばらつき等によって前記共振周波数f0が変化した場合にも駆動周波数fの設定を変更する必要がなく、アクチュエータ10毎の設定変更が不要になる。
【0050】
また、本実施の形態によれば、軟性の錘部材18を用いたことによって共振周波数f0を大きく低下させたので、駆動周波数fが低い範囲でもf≧21/2・f0の関係が満たされるようになる。したがって、駆動周波数fとして比較的低い周波数で使用することができ、高い周波数で使用した場合に比べて消費電力を削減することができる。すなわち、硬質の錘部材を用いた場合にf≧21/2・f0の関係を満たすには、駆動周波数fを高周波にしなければならず、消費電力が大きくなるという問題を生じるが、本実施の形態によれば、共振周波数f0を大きく低下させたので、低い周波域の駆動周波数fを用いることができ、消費電力を削減することができる。
【0051】
さらに、本実施の形態によれば、圧電素子12、駆動部材14、錘部材18で構成されるアクチュエータ自体の共振周波数f0そのものを小さくして、共振による悪影響を取り除くことができるので、アクチュエータの構成部品の部品としてのばらつきよる影響を少なくすることができる他、アクチュエータをどのように筐体に取り付けても共振の影響を受けにくくなるため、アクチュエータを取り付けるときの設計的及び製造的な自由度が増すことになる。すなわち、図3(A)に示すように圧電素子12の端面12Aを支持部材23で支持するようにしてもよいし、図3(B)に示すように圧電素子12の側面を支持部材23で支持するようにしてもよい。さらには、駆動部材14の先端面や側面、先端側及び/又は基端側、或いは錘部材18の側面や後端面を支持するようにしてもよい。
【0052】
次に、本発明の第一実施形態に係る駆動装置100について、図4に基づいて説明する。この駆動装置100は、本発明に係るアクチュエータ10をカメラ付き携帯電話機等に搭載したものであり、アクチュエータ10はズームレンズやフォーカスレンズ等の移動レンズ(不図示)を移動させる。
【0053】
図4に示すアクチュエータ10は、図3(A)に示した場合と同様に、圧電素子12の端面12Aで支持されている。すなわち、圧電素子12の端面12Aは、本体(筐体)20に形成された支持部20Aに接着されて固定されている。
【0054】
本体20には、孔20Bが形成されている。孔20Bは駆動部材14の外径よりも若干大きい径で形成されており、この孔20Bに駆動部材14の先端が挿通されて支持される。
【0055】
被駆動部材16は、図5に示すように、V状の溝16Aを有し、この溝16Aに駆動部材14が係合される。また、被駆動部材16は、板バネ22を有しており、この板バネ22によって駆動部材14が被駆動部材16側に付勢される。このように、被駆動部材16は、駆動部材14に3箇所で線接触しており、実質的な面接触となっている。これにより、被駆動部材16が駆動部材14に摩擦係合される。被駆動部材16の下方には、移動レンズを保持する保持枠(不図示)が連結される。
【0056】
上記の如く構成された場合にも、駆動部材14を黒鉛結晶複合体で形成することによって、被駆動部材16を安定して移動させることができる。
【0057】
次に、本発明の第二実施形態に係る駆動装置200について図7及び図8に基づいて説明する。ここで、第一実施形態と同一の説明を省略し、異なる点についてのみ説明する。
【0058】
図7及び図8に示すように、この駆動装置200では、被駆動部材216は、移動レンズ211のレンズ枠221と一体的に形成される。レンズ枠221は、駆動部材14と平行に配置されたガイド棒(不図示)によってガイドされ、駆動部材14周りの回転が防止される。また、被駆動部材216には、U状の溝216Bが形成され、この溝216Bに駆動部材14が係合される。被駆動部材216の四つの各コーナー部には上方に突出した突出部224,224…が設けられ、この突出部224,224…に囲まれた領域内に摩擦板226が設けられる。摩擦板226は、駆動部材14の側面形状に合わせて円弧状に湾曲して形成される。したがって、被駆動部材216は駆動部材14と面接触することになる。また、摩擦板226の各コーナー部は被駆動部材216の突出部224,224…に合わせて切り欠かれている。したがって、摩擦板226を突出部224,224…で囲まれた領域内に配置した際に、摩擦板226が脱落することが防止される。
【0059】
被駆動部材216には押えばね228が取り付けられる。押えばね228は、摩擦板226を被駆動部材216側に付勢するように構成されている。したがって、被駆動部材216のU状の溝216Bに駆動部材14を配置し、その上に摩擦板226を配置すると、摩擦板226が押えばね228によって駆動部材14に押しつけられ、摩擦板226と被駆動部材216とで駆動部材14を挟持して、被駆動部材216を駆動部材14に摩擦係合させることができる。
【0060】
圧電素子12の後端の端面12Bには軟性の錘部材218が接着されて固定される。錘部材218の比重は、小型化のためにできるだけ高いことが好ましく、例えばステンレスと同程度(7.7〜8.0)に設定される。錘部材218は、圧電素子12が取り付けられた面と反対側に取付金具230が接着され、この取付金具230を介して錘部材218が本体20に支持される。取付金具230は金属板を屈曲させることによってコ状に形成されており、その両端の屈曲部分が本体20に嵌合固定される。圧電素子12は、駆動パルス供給装置215(図8参照)に電気的に接続されており、この駆動パルス供給装置215によって圧電素子12に電圧が印加される。
【0061】
このように本実施の形態では、圧電素子12の後端の端面12Bを軟性の錘部材218により自由端に近い状態で支持しており、これによって共振周波数f0を20〜30kHzまで低下させている。このため、通常使用される50〜100kHzの駆動周波数fは、f≧21/2・f0、を満たすようになる。f≧21/2・f0、を満たす範囲は、力の伝達率が1以下となる防振領域であり、大きな共振が発生しない。したがって、本実施の形態によれば、圧電素子12の後端の端面12Bを軟性の錘部材218により自由端に近い状態で支持したことによって、駆動周波数での共振を防止することができ、常に安定した駆動量を確保することができる。また、本実施形態では、錘部材218は取付金具230によって本体20に固定されているが、錘部材218は本体20に直接取り付けられても同様の効果を奏する。
【0062】
また、本実施の形態によれば、共振周波数f0を下げたことによって、f≧21/2・f0、となる広い範囲で駆動周波数fを設定することができる。したがって、環境負荷や製品ばらつき等の影響を受けず、安定した駆動が可能となる。
【0063】
さらに、このような本実施形態においても、駆動部材14がカーボングラファイトによって構成されているため、上記実施形態と同様な効果、すなわち被駆動部材の移動を正確に安定して行うことができるという効果を奏する。
【0064】
次に、本発明の第三実施形態に係る駆動装置300について図9に基づいて説明する。
【0065】
図9に示すように、この駆動装置300が駆動装置200と違う点は、圧電素子12の後端側の端面12Bにゴム等の弾性体より成る錘部材332が接着固定され、この錘部材332は、圧電素子12の反対側の面が本体20に接着固定されている点である。このようにしても、上記実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0066】
次に、本発明の第四実施形態に係る駆動装置400について図10に基づいて説明する。
【0067】
図10に示すように、この駆動装置400が駆動装置200と違う点は、軟性材料より成る錘部材418は、圧電素子12の端面12Bよりも大きい面を有する薄板状に形成されており、この錘部材418の中央位置に圧電素子12が接着固定され、錘部材418の両端部が本体20に接着固定されている点である。このような本実施形態においても、駆動部材14がカーボングラファイトによって構成されているため、上記実施形態と同様な効果、すなわち被駆動部材の移動を正確に安定して行うことができるという効果を奏する。さらに、このように構成された本実施形態の駆動装置によれば、圧電素子12の後端の端面12Bが薄板状の錘部材418によって本体20に支持されているので、錘部材418が撓んで変形することによって圧電素子12の後端の端面12Bが変位する。さらに、錘部材418のヤング率が小さいので、圧電素子12の後端の端面12Bは、錘部材418自身の弾性変形により自由端に近い状態で支持される。したがって、共振周波数f0を下げることができ、駆動周波数fを、防振領域となるf≧21/2・f0、の広い範囲で使用することができる。よって、装置構成系の共振を防止することができ、常に安定した駆動量を確保することができる。
【0068】
次に、本発明の第五実施形態に係る駆動装置500について説明する。
【0069】
図11は本発明の第六実施形態に係るアクチュエータ510を搭載した駆動装置500の断面図である。図11に示すように、本実施形態に係る駆動装置500は、移動レンズ70を移動対象物として移動レンズ70の駆動を行うものであり、圧電素子12及び駆動部材14を有するアクチュエータ510と、そのアクチュエータ510を支持する支持部材60と、被駆動部材516とを備えて構成されている。圧電素子12は、電気信号の入力により伸縮可能な電気機械変換素子であり、所定の方向へ伸長及び収縮可能となっている。この圧電素子12は、制御部71に接続され、その制御部71により電気信号を入力されることにより伸縮する。例えば、圧電素子12には、二つの入力端子72A、72Bが設置される。この入力端子72A、72Bに印加される電圧を繰り返して増減させることにより、圧電素子12が伸長及び収縮を繰り返すこととなる。
【0070】
駆動部材14は、圧電素子12の伸縮方向に長手方向を向けて圧電素子12に取り付けられている。例えば、駆動部材14の一端が圧電素子12に当接され接着剤27を用いて接着されている。この駆動部材14は、長尺状の部材であり、例えば円柱状のものが用いられる。駆動部材14の材質には、黒鉛結晶を強固に複合させた黒鉛結晶複合体、例えばカーボングラファイトが用いられる。この黒鉛結晶複合体であるカーボングラファイトは、ベリリウムと似た特性を有しながら、ベリリウムと異なって加工しやすいという特性を有しているので、アクチュエータ510のコストを削減することができる。駆動部材14は、本体24から内側へ延びる仕切り部24B、仕切り部24Cにより長手方向に沿って移動可能に支持されている。仕切り部24B、仕切り部24Cは、被駆動部材516の移動領域を仕切るための部材であり、駆動部材14の支持部材としても機能している。
【0071】
仕切り部24B、仕切り部24Cには、駆動部材14を貫通させる貫通孔24Aがそれぞれ形成されている。仕切り部24Bは、駆動部材14の圧電素子12取付部分の近傍箇所、すなわち駆動部材14の基端箇所を支持している。仕切り部24Cは、駆動部材14の先端箇所を支持している。本体24は、アクチュエータ510を組み付けるための枠体若しくはフレーム部材として機能するものである。駆動部材14は、圧電素子12に取り付けられることにより、圧電素子12の伸長及び収縮の繰り返し動作に応じて、その長手方向に沿って往復移動する。
【0072】
なお、図11では、駆動部材14を仕切り部24B、24Cによりその先端側と基端側の二箇所で支持する場合を示しているが、駆動部材14をその先端側又は基端側の一方で支持する場合もある。例えば、仕切り部24Bの貫通孔24Aを駆動部材14の外径より大きく形成することにより、駆動部材14が仕切り部24Cにより先端箇所のみで支持されることとなる。また、仕切り部24Cの貫通孔24Aを駆動部材14の外径より大きく形成することにより、駆動部材14が仕切り部24Bにより基端箇所のみで支持されることとなる。また、図11では、駆動軸14を支持する仕切り部24B、24Cが本体24と一体になっている場合について示したが、これらの仕切り部24B、24cは本体24と別体のものを本体24に取り付けて設けてもよい。別体の場合であっても、一体となっている場合と同様な機能、効果が得られる。
【0073】
被駆動部材516は、駆動部材14に移動可能に取り付けられている。この被駆動部材516は、駆動部材14に対し摩擦係合されて取り付けられ、その長手方向に沿って移動可能となっている。例えば、被駆動部材516は、駆動部材14に対し所定の摩擦係数で係合しており、一定の押圧力で駆動部材14に押し付けられることによってその移動の際に一定の摩擦力が生ずるように取り付けられている。被駆動部材516にこの摩擦力を超える移動力が付与されることにより、摩擦力に抗して被駆動部材516が駆動部材14に沿って移動する。
【0074】
アクチュエータ510は、支持部材60により本体24に支持されている。支持部材60は、アクチュエータ510を圧電素子12の伸縮方向と直交する方向から支持するものであり、アクチュエータ510を収容する本体24と圧電素子12と間に配設されている。
【0075】
支持部材60は、所定以上の弾性特性を有する弾性体により形成され、例えばシリコーン樹脂により形成される。支持部材60は、圧電素子12を挿通させる挿通孔60Aを形成して構成され、その挿通孔60Aに圧電素子12を挿通させた状態で本体24に組み付けられている。支持部材60の本体24への固着は、接着剤61による接着により行われる。また、支持部材60と圧電素子12の間の固着も、接着剤による接着により行われる。この支持部材60を弾性体によって構成することにより、アクチュエータ510を圧電素子12の伸縮方向に移動可能に支持することができる。図11において、支持部材60が圧電素子12の両側に二つ図示されているが、この支持部材60、60は一つの連続する支持部材60の断面をとることによって二つに図示されたものである。
【0076】
なお、支持部材60の本体24への固着及び圧電素子12への固着は、本体24と圧電素子12の間に支持部材60を圧入し、支持部材60の押圧によって行ってもよい。例えば、支持部材60を弾性体により構成し、かつ、本体24と圧電素子12の間より大きく形成して、その間に圧入して設置する。これにより、支持部材60は、本体24及び圧電素子12に密着して配設される。この場合、圧電素子12は、支持部材60により伸縮方向に直交する方向の両側から押圧される。これによって、アクチュエータ510が支持される。
【0077】
また、ここでは支持部材60をシリコーン樹脂で形成する場合について説明したが、支持部材60をバネ部材により構成してもよい。例えば、本体24と圧電素子12の間にバネ部材を配置し、このバネ部材によってアクチュエータ510を本体24に対し支持してもよい。
【0078】
被駆動部材516には、レンズ枠68を介して移動レンズ70が取り付けられている。移動レンズ70は、カメラの撮影光学系を構成するものであり、駆動装置の移動対象物となるものである。この移動レンズ70は、被駆動部材516と一体的に結合され、被駆動部材516と共に移動するように設けられている。移動レンズ70の光軸O上には、図示しない固定レンズなどが配設され、カメラの撮影光学系を構成している。また、光軸O上には、撮像素子65が配設されている。撮像素子65は、撮影光学系により結像された画像を電気信号に変換する撮像手段であり、例えばCCDにより構成される。撮像素子65は、制御部71と接続されており、画像信号を制御部71に出力する。
【0079】
圧電素子12の端部には、錘部材518が取り付けられている。錘部材518は、圧電素子12の伸縮力を駆動部材14側へ伝達させるための部材であって、圧電素子12の駆動部材14が取り付けられる端部と反対側の端部に取り付けられている。錘部材518としては、駆動部材14より重いものが用いられる。また、錘部材518として、弾性変形可能な部材に金属粉を混入させたものを用いることが好ましい。金属粉を混入させることにより重量を大きくすることができ、弾性変形可能な部材を用いることにより圧電素子12の作動時における不要な共振を減衰させることができる。また、錘部材518を軟性部材により構成することにより、アクチュエータ510における共振周波数を圧電素子12の駆動周波数に対し十分に小さくすることができ、共振の影響を低減できる。
【0080】
また、錘部材518は、本体24に対し支持固定されない状態で設けられている。すなわち、錘部材518は、本体24に対し直接支持されたり固定されておらず、また接着剤や樹脂材を介して本体24に対し動きを拘束されるように支持されたり固定されていない状態で設けられている。
【0081】
駆動装置500には、被駆動部材516の移動位置を検出する検出器75が設けられている。検出器75としては、例えば光学式の検出器が用いられ、フォトリフレクタ、フォトインタラプタなどが用いられる。具体的には、検出器75としてリフレクタ75A、検出部75Bを備えたものを用いる場合、被駆動部材516と一体に形成されるレンズ枠68にリフレクタ75Aを取り付け、検出部75Bからリフレクタ75A側へ検出光を出射し、リフレクタ75A側で反射してくる反射光を検出部75Bで検出することにより被駆動部材516及び移動レンズ70の移動位置を検出する。
【0082】
検出器75は、制御部71に接続されている。検出器75の出力信号は制御部71に入力される。制御部71は、駆動装置全体の制御を行うものであり、例えばCPU、ROM、RAM、入力信号回路、出力信号回路などにより構成される。また、制御部71は、圧電素子12を作動させるための駆動回路を備えており、圧電素子12に対し駆動のための電気信号を出力する。
【0083】
図12は、図11のXII−XIIにおける被駆動部材516の断面図である。図12に示すように、被駆動部材516は、例えば、本体部516A、押圧部516B及び摺動部516Cを備えて構成される。本体部516Aは、押圧部516Bにより駆動部材14に一定の力で押圧されている。本体部516Aには、V字状の溝516Dが形成されている。この溝516Dの内には、二つの摺動部516C、516Cに挟持された状態で駆動部材14が収容されている。摺動部516C、516Cは、断面V字状の板体であり、互いに凹部側を向き合わせて配置され、駆動部材14を挟んで設けられている。このようにV字状の溝516D内に駆動部材14を収容することにより、被駆動部材516を安定して駆動部材14に取り付けることができる。
【0084】
押圧部516Bとしては、例えば、断面L字状の板バネ材が用いられる。押圧部516Bの一辺を本体部516Aに掛止させ、他の一辺を溝516Dの対向位置に配することにより、他の一辺により溝516Dに収容される駆動部材14を本体部516A及び摺動部516Cと共に挟み込むことができる。これにより、本体部516Aを駆動部材14側へ押圧することができる。
【0085】
このように、被駆動部材516は、押圧部516Bにより本体部516Aを駆動部材14側に一定の力で押圧して取り付けられることにより、駆動部材14に対し摩擦係合される。すなわち、被駆動部材516は、駆動部材14に対し本体部516A及び押圧部516Bが一定の押圧力で押し付けられ、その移動に際し一定の摩擦力が生ずるように取り付けられる。
【0086】
また、断面V字状の摺動部516C、516Cにより駆動部材14を挟み込むことにより、被駆動部材516が駆動部材14に4箇所で線接触、すなわち実質的に面接触することになり、駆動部材14に対し安定して摩擦係合させることができる。
【0087】
図13は、圧電素子12を作動させる駆動回路の回路図である。図13に示すように、駆動回路77は、制御部71内に配置されて設けられている。この駆動回路77は、圧電素子12のドライブ回路として機能するものであり、圧電素子12に対し駆動用の電気信号を出力する。駆動回路77は、制御部71の制御信号生成部(図示なし)から制御信号を入力し、その制御信号を電圧増幅又は電流増幅して圧電素子12の駆動用電気信号を出力する。駆動回路77は、例えば入力段を論理回路U1〜U3により構成し、出力段に電界効果型のトランジスタ(FET)Q1、Q2を備えたものが用いられる。トランジスタQ1、Q2は、出力信号として、H出力(高電位出力)、L出力(低電位出力)及びOFF出力(オープン出力)を出力可能に構成されている。
【0088】
図14に駆動回路77に入力される入力信号、図15に駆動回路77から出力される出力信号を示す。図14(A)は、被駆動部材516を圧電素子12に接近させる方向(図11において右方向)に移動させる際に入力される入力信号であり、図14(B)は、被駆動部材516を圧電素子12から離間させる方向(図11において左方向)に移動させる際に入力される入力信号である。また、図15(A)は、被駆動部材516を圧電素子12に接近させる方向(図11において右方向)に移動させる際に出力される出力信号であり、図15(B)は、被駆動部材516を圧電素子12から離間させる方向(図11において左方向)に移動させる際に出力される出力信号である。
【0089】
図15(A)、(B)の出力信号は、図14(A)、(B)の入力信号と同一タイミングでオンオフするパルス信号となっている。図15(A)、(B)における二つの信号は、圧電素子12の入力端子72A、72Bに入力される。この入力端子72A、72Bには、図2に示すような台形波形からなる信号を入力してもよいが、図15に示す矩形状のパルス信号を入力して圧電素子12を作動させることができる。この場合、圧電素子12の駆動信号が矩形状のパルス信号でよいため、信号生成が容易となる。
【0090】
図15(A)、(B)の出力信号は、同一周波数となる二つの矩形状のパルス信号により構成されている。この二つのパルス信号は、互いの位相を異ならせることにより、互いの信号の電位差が段階的に大きくなり急激に小さくなる信号又は電位差が急激に大きくなって段階的に小さくなる信号となっている。このような二つの信号を入力することにより、圧電素子12の伸長速度と収縮速度を異ならせることができ、被駆動部材516を移動させることができる。
【0091】
例えば、図15(A)、(B)において、一方の信号がH(ハイ)となりL(ロー)に低下した後に他方の信号がHとなるように設定されている。それらの信号において、一方の信号がLになった際に一定のタイムラグtOFFの経過後、他方の信号がHとなるように設定される。また、二つの信号が両方ともLの場合には、出力としてはオフ状態(オープン状態)とされる。
【0092】
この図15の(A)、(B)の出力信号、すなわち圧電素子12を作動させる電気信号は、可聴周波数を超える周波数の信号が用いられる。図15(A)、(B)において、二つの信号の周波数は、可聴周波数を超える周波数信号とされ、例えば、30〜80kHzの周波数信号とされ、より好ましくは40〜60kHzとされる。このようは周波数の信号を用いることにより、圧電素子12の可聴領域における作動音を低減することができる。
【0093】
次に、本実施形態に係る駆動装置の動作について説明する。
【0094】
図11において、圧電素子12に電気信号が入力され、その電気信号の入力により圧電素子12が伸長及び収縮を繰り返す。この伸長及び収縮に応じて駆動部材14が往復運動する。このとき、圧電素子12の伸長速度と収縮速度を異ならせることにより、駆動部材14が一定の方向へ移動する速度とその逆方向へ移動する速度が異なることとなる。これにより、被駆動部材516及び移動レンズ70を所望の方向へ移動させることができる。
【0095】
圧電素子12が伸縮する際に、その伸縮による振動が生ずるが、圧電素子12を含むアクチュエータ510が支持部材60によってその伸縮方向と直交する方向から支持されているため、圧電素子12の伸縮により生ずる振動がアクチュエータ510の外部へ伝達されにくい。このため、アクチュエータ510が本体24などの外部の部材と共振することが抑制され、その共振の影響を低減することができる。従って、被駆動部材516及び移動レンズ70を正確に移動させることができる。
【0096】
以上のように、本実施形態に係る駆動装置においても、駆動部材14がカーボングラファイトによって構成されているため、上記実施形態と同様な効果、すなわち被駆動部材の移動を正確に安定して行うことができるという効果を奏する。また、アクチュエータ510を圧電素子12の伸縮方向と直交する方向から支持することにより、アクチュエータ510と外部の部材との間で振動が伝達しにくくなり、共振の影響を低減することができる。従って、被駆動部材516及び移動レンズ70を正確に移動させることができる。因みに、被駆動部材の移動位置を検出する検出器75は、他の実施形態にも勿論適用できる。
【0097】
なお、上述した各実施形態は本発明に係る駆動装置の一例を示すものである。本発明に係る駆動装置は、これらの実施形態に係る駆動装置に限られるものではなく、各請求項に記載した要旨を変更しない範囲で、実施形態に係る駆動装置を変形し、又は他のものに適用したものであってもよい。
【0098】
本発明に係るアクチュエータの用途としては、例えばデジタルカメラや携帯電話機等の小型精密機器に適用することができる。特に携帯電話機は、本発明のアクチュエータを用いることによって、被駆動部材を2mm/s以上の高速度で移動させることができる。よって、10mm程度の移動が必要となるズームレンズであっても、迅速に移動させることができる。また、本発明に係るアクチュエータの用途としてはフォーカスレンズやズームレンズ等の移動レンズを移動する用途に限定されず、CCDを移動する用途等に用いても良い。
【0099】
また、本発明は、圧電素子の前端の変位面に取り付けられる駆動部材を黒鉛結晶複合体で構成していればよく、駆動部材の形状や大きさは特に限定するものではない。
【0100】
また、本発明では、上述したように軟性の錘部材を用いることが好ましいが、硬性の錘部材を用いた場合にも、駆動部材を黒鉛複合体とすることによって、被駆動部材の移動を安定化させる効果が得られる。
【0101】
また、例えば、第五実施形態では、移動レンズ70を駆動する駆動装置に適用した装置について説明したが、移動レンズ70以外の物を駆動する駆動装置に適用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】本発明の第一実施形態に係る駆動装置のアクチュエータを示す平面図である。
【図2】圧電素子に印加される駆動パルスの波形図である。
【図3】図1のアクチュエータの支持位置を示す模式図である。
【図4】本発明の第一実施形態に係る駆動装置を示す平面図である。
【図5】図4のV−V線に沿う断面図である。
【図6】共振周波数に対する駆動周波数域を説明する図である。
【図7】本発明の第二実施形態に係る駆動装置を示す斜視図である。
【図8】図7の駆動装置を示す平面図である。
【図9】本発明の第三実施形態に係る駆動装置を示す平面図である。
【図10】本発明の第四実施形態に係る駆動装置を示す平面図である。
【図11】本発明の第五実施形態に係る駆動装置を示す平面図である。
【図12】図11のXII−XII線に沿う断面図である。
【図13】図11のアクチュエータに対する駆動回路を示す回路図である。
【図14】図13の駆動回路に入力される入力信号の波形図である。
【図15】図13の駆動回路から出力される出力信号の波形図である。
【図16】共振周波数の計算例を示す図である。
【図17】従来のアクチュエータの不具合を説明する説明図である。
【符号の説明】
【0103】
1,12…圧電素子(電気機械変換素子)、2,14…駆動部材、3,16,216,516…被駆動部材、10,210,310,410,510…アクチュエータ、18,218,332,418,518…錘部材、20,24,610…本体(筐体)、26,215…駆動パルス供給装置(駆動回路)、68,221…レンズ枠、77…駆動回路、100,200,300,400,500…駆動装置。
【技術分野】
【0001】
本発明は駆動装置に関し、特に小型デジタルカメラやウェブカメラ又はカメラ付き携帯電話機等に搭載する比較的小型のレンズなど光学部材を駆動する駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルカメラ等のレンズの駆動装置として、圧電素子などの電気機械変換素子を用いたアクチュエータが知られている。例えば特許文献2又は特許文献3の実施例に示されるように、アクチュエータは電気機械変換素子、駆動部材で構成され、電気機械変換素子の伸縮一方向の端面で筐体(又は支持部材)に固定されるのが一般的である。電気機械変換素子の伸縮他方向の端面には駆動部材が固着され、この駆動部材に被駆動部材が摩擦係合される。このような構成で電気機械変換素子にパルス状の電圧が印加されると、電気機械変換素子の伸び方向と縮み方向との動きが駆動部材に伝達される。電気機械変換素子が遅い速度で変形した場合には、被駆動部材が駆動部材とともに移動し、電気機械変換素子が速い速度で変形した場合には、被駆動部材がその質量の慣性によって同じ位置に停まる。したがって、往復で異なるパルス状の電圧の印加を繰り返すことによって、被駆動部材を細かなピッチで間欠的に移動させることができるというものである。
【0003】
このような構成のアクチュエータは、電気機械変換素子の伸縮一方向の端面で筐体(又は支持部材)に固定されているため、電気機械変換素子の振動に起因して駆動部材を含むアクチュエータに発生する振動が筐体に直接伝わり、アクチュエータと筐体との間で共振するという問題を発生する。
【0004】
特許文献1には、電気機械変換素子と筐体の間に台座を設け、電気機関変換素子の伸縮一方向の端面を台座に固定し、前記台座を筐体に対して弾性的に保持することにより、台座と筐体の間の振動伝達を低減又は遮断して、共振の影響を回避しようとする装置が提案されている。
【0005】
また、特許文献2には、電気機械変換素子に印加する充電時間を電気機械変換素子の共振周波数の約1周期分とし、放電時間を1/2周期分とする、すなわち共振を積極的に利用することによって、電気機械変換素子の伸縮量を増大し、アクチュエータの駆動効率を向上させようとする装置が提案されている。
【0006】
このような問題を少しでも改善するには、駆動部材として高剛性の金属材を用いることが好ましい。しかし、駆動部材を金属材にすると、駆動部材の重量が大きくなるため、圧電素子を高速で伸縮した際に応答性が悪くなり、被駆動部材を正確に移動させることができないという問題が発生する。
【0007】
そこで、特許文献3のアクチュエータは、強化繊維複合体から成る駆動部材を用いるものが提案されている。強化繊維複合体は金属材と比較して、軽量な割にはある程度剛性を確保できるので、駆動部材の応答遅れを小さくすることができ、被駆動部材を高速で移動させることができるというものである。
【特許文献1】特開2002−142470号公報
【特許文献2】特許第3171187号公報
【特許文献3】特許第3180557号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献3のアクチュエータは駆動部材が繊維樹脂から成るため、駆動部材と被駆動部材との摩擦が不安定であり、被駆動部材を精度良く移動させることができないという問題があった。また、特許文献3のアクチュエータは、駆動部材が変形し易いため、被駆動部材を正確に移動させることができないという問題があった。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みて成されたもので、駆動部材と被駆動部材との摩擦を軽減且つ安定させることによって、被駆動部材の移動を正確且つ迅速に行うことのできる駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の発明は前記目的を達成するために、電気機械変換素子と、この電気機械変換素子の伸縮に応じて動く駆動部材とから成り、駆動部材に摩擦係合された被駆動部材を駆動部材に沿って移動させるアクチュエータを備え、駆動部材は黒鉛複合体であることを特徴とする。
【0011】
駆動部材の材質としては、軽く高剛性のものが適しており、その条件を満たすものとしてはベリリウムが理想的であるが、この材料は稀少金属であるため高価で且つ加工性が悪いという欠点を持っている。そこで本実施形態においては、黒鉛結晶を強固に複合させた黒鉛複合体、例えばカーボングラファイトが用いられる。(ここで、黒鉛複合体とは炭素の六角板状結晶体であるグラファイトとグラファイト以外の物質との複合体を意味し、カーボングラファイトとはグラファイトと無定形炭素からなる物質を意味する。また、グラファイトは黒鉛とも言われる。)黒鉛複合体からなる駆動部材を特徴とする請求項1の発明によれば、駆動部材が軽量になり、電気機械変換素子の負荷を軽減することができる。また、請求項1の発明によれば、駆動部材が硬いので、駆動部材の変形を防止することができ、高い周波数で駆動した場合にも、被駆動部材を正確に移動させることができる。
【0012】
また、黒鉛複合体は、ベリリウムと似た特性を有しながら(ベリリウムの比重は約1.85、カーボングラファイトの比重は約1.8である)、ベリリウムと異なって比較的安価であり加工しやすいという特性を有しているので、請求項1の発明によれば、アクチュエータのコストを削減することができる。さらに、黒鉛複合体は、その成分として無定形炭素と黒鉛を含んでいるので、摩擦係数が非常に小さく、且つ、安定しており、被駆動部材との摺動性が良い。従って、被駆動部材を駆動部材に対して精度良く移動させることができ、安定した駆動制御を行うことができる。
【0013】
請求項2に記載の発明は請求項1の発明において、黒鉛複合体はカーボングラファイトであることを特徴とする。
【0014】
請求項3に記載の発明は請求項1又は2の発明において、電気機械変換素子に対して駆動部材と反対側に駆動部材よりも質量の大きい錘部材を設けたことを特徴とする。
【0015】
請求項3に記載の発明によれば、駆動部材よりも質量の大きい錘部材を設けることによって、電気機械変換素子の伸縮を効率よく駆動部材側に伝えることが可能である。
【0016】
請求項4に記載の発明は請求項1〜3の何れか一の発明において、錘部材は共振周波数低減部材であることを特徴とする。例えば図17(A)、図17(B)に示すように、共振の影響によって圧電素子1の伸縮による駆動力が被駆動部材3に正確に伝わらずに駆動部材2が電気機械変換素子1の伸縮方向以外に変位してしまう場合がある。そこで、このように錘部材を共振周波数低減部材とすることで、電気機械変換素子、駆動部材、及び、錘部材から成る系の共振周波数が低くなり、共振による影響が殆どない範囲で電気機械変換素子を駆動させることができ、被駆動部材を電気機械変換素子の伸縮方向に正確に駆動制御することが可能となる。
【0017】
請求項5に記載の発明は請求項3又は4の発明において、アクチュエータを駆動するための駆動回路を有し、この駆動回路は、電気機械変換素子と駆動部材とを質量として、錘部材をばねとした1自由系の共振周波数をf0、電気機械変換素子の駆動周波数をfとした際、f≧21/2・f0、となる駆動周波数fで電気機械変換素子を駆動することを特徴とする。
【0018】
請求項6に記載の発明は請求項1〜5の何れか一の発明において、駆動部材は、先端側及び/又は基端側で電気機械変換素子の伸縮方向に移動可能に支持されていることを特徴とする。
【0019】
請求項7に記載の発明は請求項1〜6の何れか一の発明において、アクチュエータは、電気機械変換素子の伸縮方向に対して側方から筐体に支持されていることを特徴とする。
【0020】
請求項8に記載の発明は請求項1〜7の何れか一の発明において、電気機械変換素子を駆動するために伸びと縮み方向において非対称の信号を発生させる駆動手段を有していることを特徴とする。
【0021】
請求項9に記載の発明は請求項1〜8の何れか一の発明において、被駆動部材は、駆動部材に対し面接触していることを特徴とする。
【0022】
請求項10に記載の発明は請求項1〜9の何れか一の発明において、被駆動部材の移動位置を検出する検出手段を備えたことを特徴とする。
【0023】
請求項11に記載の発明は請求項1〜10の何れか一の発明において、電気機械変換素子は可聴周波数を超える駆動周波数で駆動されることを特徴とする。この場合、電気機械変換素子の可聴領域における作動音を低減することができる。
【0024】
請求項12に記載の発明は請求項1〜11の何れか一の発明において、被駆動部材は光学部材に連結されており、撮影光学系に用いられることを特徴とする。
【0025】
請求項13に記載の発明は請求項1〜12の何れか一の発明において、アクチュエータは携帯電話に搭載される撮影光学系に用いられることを特徴とする。この場合、光学部材とはレンズのみに限られず、被駆動部材は絞りやシャッター又はNDフィルターなどにも用いられる。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係る駆動装置によれば、駆動部材を黒鉛複合体によって構成したので、駆動部材を軽量で高剛性にすることができ、駆動部材と被駆動部材との摩擦を軽減して安定した駆動制御を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下添付図面に従って本発明に係る駆動装置の好ましい実施の形態について詳述する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0028】
図1は本発明の第一実施形態に係る駆動装置100のアクチュエータ10を示す平面図である。図1に示すように、アクチュエータ10は、圧電素子(電気機械変換素子に相当)12、駆動部材14、及び、錘部材18で構成される。圧電素子12は矢印方向に積層されて構成されており、電圧を印加することによって積層方向に変形(伸縮)するように構成される。したがって、圧電素子12は、長手方向の端面12A、12Bが変位するようになっている。
【0029】
圧電素子12の端面12A、12Bのうち、一方の端面12Aには、駆動部材14の基端が固着される。駆動部材14は例えば円柱状に形成されており、その軸が矢印方向(すなわち、圧電素子の伸縮方向)に配置されている。駆動部材14の材質は、黒鉛結晶を強固に複合させた黒鉛結晶複合体、例えばカーボングラファイトが用いられる。この黒鉛複合体であるカーボングラファイトは、理想的な材料であるベリリウムと似た特性を有しながら、ベリリウムと異なって比較的安価で加工しやすいという特性を有しているので、アクチュエータ10のコストを削減することができる。なお、駆動部材14の形状は円柱状に限定されるものではなく、角柱状でもよい。
【0030】
被駆動部材16は駆動部材14に所定の摩擦力で係合されており、駆動部材14に沿ってスライド自在に支持される。被駆動部材16と駆動部材14との摩擦力は、圧電素子12に緩やかな変化の電圧を印加した際に、その駆動力よりも静摩擦力が大きくなるように、且つ、圧電素子12に急激な変化の電圧を印加した際に、その駆動力よりも静摩擦力が小さくなるように設定される。なお、駆動部材14と被駆動部材16の摺動接触部分には動作を安定させ、且つ繰り返し駆動した時の耐久性を向上させるために潤滑剤が塗布される。この潤滑剤は低温下でも駆動部材14と被駆動部材16の摺動駆動抵抗が増加しないように、温度によって性能が変化し難いものが好ましい。また、光学部品や機構部品に悪影響を与える塵埃を発生させないタイプのものがよい。
【0031】
錘部材18は、圧電素子12の端面12Bに固着される。この錘部材18は圧電素子12の端面12Bに負荷を与えることによって、端面12Bが端面12Aよりも大きく変位することを防止するものであり、駆動部材14よりも重量の大きいものが好ましい。また駆動部材14よりも質量の大きい錘部材18を設けることによって、圧電素子12の伸縮を効率よく駆動部材14側に伝えることが可能である。例えば、駆動部材14が8mg、圧電素子12が32mgの場合に、32mgの錘部材18が用いられる。
【0032】
また、錘部材18は、軟性材料によって形成されている。錘部材18の材質は、圧電素子12及び駆動部材14よりもヤング率の小さい材料のものが用いられる。錘部材18のヤング率としては、1GPa以下が好ましく、300MPa以下がより好ましい。このような錘部材18は、ゴム等の弾性体に比重の大きい金属粉を混ぜ合わせることによって形成され、例えばウレタンゴムやウレタン樹脂にタングステンの粉末を混合することによって製造される。錘部材18の比重は、装置の小型化のためにできるだけ高いことが好ましく、例えば8〜12程度に設定される。また、ウレタンゴムやウレタン樹脂にタングステンの粉末を混合することによって製造される錘部材18のヤング率は60MPa程度、比重は11.7程度となる。したがって、錘部材18を出来るだけ小さい体積で設計する場合は、出来るだけ比重が大きく且つヤング率の小さい組み合わせが最適となるが、錘部材18は駆動部材14の比重より大きく(比重1.8以上)、且つヤング率が1GPa以下のものであれば利用可能である。すなわち、比重をヤング率で除した数値(比重/ヤング率)が1.8×10−9 以上であれば錘部材18として適している。
【0033】
圧電素子12には駆動パルス供給装置(駆動回路)26(図4参照)が電気的に接続されており、この駆動パルス供給装置によって、図2(A)、図2(B)に示す波形の電圧が印加される。この図2の(A)、(B)の出力信号、すなわち圧電素子12を作動させる電気信号は、可聴周波数を超える周波数の信号が用いられる。このようは周波数の信号を用いることにより、圧電素子12の可聴領域における作動音を低減することができる。なお、この可聴周波数を超える周波数の信号は、後述の実施形態でも同様に用いられる。
【0034】
図2(A)、図2(B)は圧電素子12に印加するパルス波形の一例を示したものである。図2(A)は、図1の被駆動部材16を矢印の左方向に移動させる際のパルス波形であり、図2(B)は図1の被駆動部材16を矢印の右方向に移動させる際のパルス波形である。
【0035】
図2(A)の場合、圧電素子12には、時刻α1から時刻α2にかけて緩やかに立ち上がり、時刻α3で急激に立ち下がる略鋸歯状の駆動パルスを印加している。したがって、時刻α1から時刻α2では、圧電素子12が緩やかに伸長する。その際、駆動部材14が緩やかな速度で移動するので、被駆動部材16は駆動部材14とともに移動する。これにより、被駆動部材16を図1の左方向に移動させることができる。時刻α3では、圧電素子12が急激に縮まるので、駆動部材14は図1の右方向に移動する。その際、駆動部材14が急激に移動するので、被駆動部材16は慣性によってその位置に停止したまま、駆動部材14だけが移動する。したがって、図2(A)に示した鋸歯状の駆動パルスを繰り返し印加することによって、図1の被駆動部材16は左方向への移動と停止を繰り返すので、左方向へ移動させることができる。
【0036】
図2(B)の場合、圧電素子12には、時刻β1で急激に立ち上がり、時刻β2から時刻β3にかけて緩やかに立ち下がる略鋸歯状の駆動パルスを印加している。したがって、時刻β1では圧電素子12が急激に伸長し、駆動部材14は図1の左方向に移動する。その際、駆動部材14が急激に移動するので、被駆動部材16は慣性によってその位置に停止したまま、駆動部材14だけが移動する。時刻β2から時刻β3では、圧電素子12が緩やかに縮まる。その際、駆動部材14が緩やかに変位するので、被駆動部材16は駆動部材14とともに移動する。これにより、被駆動部材16を図1の右方向に移動させることができる。したがって、図2(B)に示した鋸歯状の駆動パルスを繰り返し印加することによって、図1の被駆動部材16は右方向への移動と停止を繰り返すので、右方向へ移動させることができる。なお、鋸状の駆動パルスは説明のために模式的に用いられるものであって、実際には図13のような回路によって図14、図15に示す信号が入出力される。その出力信号は鋸状の駆動パルスと等価のものとなる。また、使用される駆動周波数としては、駆動周波数が異音として認識される可聴周波数域を避け、且つ電力消費量が少ないことを考慮して選定すれば20〜200kHz程度が好ましく、より好ましくは50〜100kHzが用いられる。
【0037】
次に上記の如く構成されたアクチュエータ10の作用について説明する。
【0038】
本実施の形態では、駆動部材14が黒鉛結晶複合体、例えばカーボングラファイトによって構成されている。このカーボングラファイトは、炭素の六角板状結晶体であるグラファイト無定形炭素からなる物質であり、ベリリウムに似た性質を有し、軽量且つ高剛性であるという特性を有している。したがって、カーボングラファイトから成る駆動部材14を圧電素子12によって駆動すると、駆動部材14を正確に移動させることができる。また、駆動部材14が硬くて変形しにくいため、例えば100kHz以上の高周波での駆動制御が可能となる。
【0039】
さらに、カーボングラファイトはその成分として無定形炭素と黒鉛を有しているため、摺動性が良く、摺動時の摩擦が非常に小さく、且つ安定しているという特性を備えている。したがって、カーボングラファイトから成る駆動部材14を用いることによって、被駆動部材16との摩擦を減少させ、且つ、安定させることができる。これにより、被駆動部材16の移動を常に安定して正確に行うことができる。
【0040】
また、カーボングラファイトは内部損失も非常に小さいので、カーボングラファイトから成る駆動部材14は後述の共振を生じにくいという特徴がある。したがって、共振によって被駆動部材16の移動量にムラが発生することを防止できる。
【0041】
このように本実施の形態によれば、駆動部材14をカーボングラファイトによって構成したので、被駆動部材16の移動を正確に安定して行うことができる。本発明は特にアクチュエータ10を高周波で駆動させた場合に有効であり、従来装置を高周波で駆動させた場合には駆動部材14が変形して歪んだりして被駆動部材16を正確に移動させることができない場合にも、本発明のように駆動部材14をカーボングラファイトで構成することによって被駆動部材16を精度良く移動させることができる。
【0042】
また、本実施の形態のアクチュエータ10は、圧電素子12の端面12Bに固着された錘部材18が、ヤング率の小さい軟性材料で形成されている。このような錘部材18を用いることによって、圧電素子12と駆動部材14とを質量として、錘部材18を弾性体とした等価1自由系の共振周波数f0を大幅に下げることができる、換言すると、錘部材18は、共振周波数を低減させる共振周波数低減部材として機能する。また、ヤング率の小さい軟性材料で形成された錘部材18を用いることによって、剛性材料から成る錘部材を設ける場合よりも、アクチュエータ10の共振周波数が低いものとなる。このことは、その共振周波数f0を求めるための下式からも明らかである。この式において、Eは錘部材18のヤング率、Aは錘部材18の圧電素子12側の面積、hは錘部材18の厚さ、Maは圧電素子12の質量、Mbは駆動部材14の質量、Mcは錘部材18の質量を示す。
【0043】
【数1】
この式から明らかなように、錘部材18のヤング率Eを小さくすると、等価1自由系の共振周波数f0は小さくなる。本実施の形態では、錘部材18のヤング率を1GPa以下としたことによって、共振周波数f0を約70kHz以下にすることができる。また、本実施の形態において、錘部材18のヤング率を300MPa以下とすれば、共振周波数f0を35kHz以下にすることができる。さらに、本実施の形態において、錘部材18をヤング率が60MPa程度のウレタンゴムにタングステン粉末を混合したものを使用した場合は、共振周波数f0は15kHz程度となる。(図16中の番号1参照。但し、E+07は×107を意味する)。
【0044】
これに対して、錘に相当する部材がヤング率の大きい硬質材料で形成されると、前記共振周波数f0が大きくなる。例えば、本実施の形態において、錘部材18の材質をヤング率が200〜400GPaのステンレスとした場合は、共振周波数f0は1GHz以上となる。また、金属の中でも比較的ヤング率の小さいアルミニウム(ヤング率は120GPa程度)を使用した場合であっても共振周波数f0は約700kHzとなる(図16中の番号5参照)。
【0045】
前述したように本実施の形態のアクチュエータ10は、錘部材18が共振周波数低減部材により形成されているので、前記等価1自由系の共振周波数f0を著しく低下させることができる。なお、錘部材18を弾性体や粘弾性材料とした場合も同様な作用(詳しくは後述)を奏する。
【0046】
ここで一般に、振動する機械や構造物から、それを支える基礎や床に振動が伝わらないようにするためには、振動伝達率(Vibration Transmissibility)が小さいほうが良く、等価1自由系においては、振動伝達率λは下記2式で示される。
【数2】
但し、
λ :等価1自由系の振動伝達率、
f :使用される駆動周波数、
f0:等価1自由系の共振周波数、
ζ :等価1自由系の減衰比
【0047】
そして、等価1自由系では、この振動伝達率λが1以下の場合には、ζの値に無関係に、機械の振動が基礎や床に伝わりにくいとされる。従って、下記3式、及び3式を式変形した下記4式で示されるように、振動伝達率λが1以下の範囲、すなわちf≧21/2・f0を満たす範囲(図6(A)の範囲P)は、圧電素子12の振動がアクチュエータ10の支持部材(例えば図4の本体20)に伝わりにくく、共振による影響が非常に小さい防振領域である。したがって、発明を実施するための最良の実施形態である周波数の組み合わせ、すなわちアクチュエータの共振周波数が70kHz以下、駆動周波数が50〜100kHzとするものはこの防振領域を満たすことになる。なお、防振領域については、例えば、「モード解析入門、長松昭男著、コロナ社」に記載されている。因みに、f≧21/2・f0の関係は、他の実施形態に対しても勿論適用可能である。
【数3】
【数4】
【0048】
したがって、本実施の形態によれば、駆動部材14よりも質量の大きい錘部材18を設けることによって、電気機械変換素子の伸縮を効率よく駆動部材側に伝えることが可能となる。又、錘部材18として共振周波数低減部材を用いることによって、圧電素子12、駆動部材14、及び、錘部材18で構成されるアクチュエータ自体の共振周波数を低くすることができるため、共振によって駆動部材14が圧電素子12の伸縮方向以外に振れることを防止することができる。これにより、駆動部材14が圧電素子12の伸縮方向に変位するので、圧電素子12の伸縮による駆動力が被駆動部材16に正確に、且つ安定して伝わるため、被駆動部材16を圧電素子12の伸縮方向に正確に、且つ安定して駆動制御することができる。なお、本実施の形態では、被駆動部材16を圧電素子12の伸縮方向に正確に駆動できる反面、共振を利用して被駆動部材16を移動した場合に比べて、一回当たりの被駆動部材16の移動量は低下するが、圧電素子12の積層数を増やしたり駆動条件を適切に設定することにより、実用上充分な被駆動部材16の移動量を確保することができる。
【0049】
また、従来のアクチュエータでは、例えば文献(特許第3171022号公報)に示されている条件式のように、駆動周波数として設定し得る範囲が比較的狭い(図6(B)のQの範囲)ため、装置の品質にばらつきや故障が生じた際に共振周波数が低下して条件をはずれ、共振の影響を受けてしまう。そこで、本実施の形態によれば、共振周波数f0を下げることによって、f≧21/2・f0、となる広い範囲でアクチュエータ10の駆動周波数fを設定することができ、これにより、温度変化等の環境負荷や製品のばらつき等によって前記共振周波数f0が変化した場合にも駆動周波数fの設定を変更する必要がなく、アクチュエータ10毎の設定変更が不要になる。
【0050】
また、本実施の形態によれば、軟性の錘部材18を用いたことによって共振周波数f0を大きく低下させたので、駆動周波数fが低い範囲でもf≧21/2・f0の関係が満たされるようになる。したがって、駆動周波数fとして比較的低い周波数で使用することができ、高い周波数で使用した場合に比べて消費電力を削減することができる。すなわち、硬質の錘部材を用いた場合にf≧21/2・f0の関係を満たすには、駆動周波数fを高周波にしなければならず、消費電力が大きくなるという問題を生じるが、本実施の形態によれば、共振周波数f0を大きく低下させたので、低い周波域の駆動周波数fを用いることができ、消費電力を削減することができる。
【0051】
さらに、本実施の形態によれば、圧電素子12、駆動部材14、錘部材18で構成されるアクチュエータ自体の共振周波数f0そのものを小さくして、共振による悪影響を取り除くことができるので、アクチュエータの構成部品の部品としてのばらつきよる影響を少なくすることができる他、アクチュエータをどのように筐体に取り付けても共振の影響を受けにくくなるため、アクチュエータを取り付けるときの設計的及び製造的な自由度が増すことになる。すなわち、図3(A)に示すように圧電素子12の端面12Aを支持部材23で支持するようにしてもよいし、図3(B)に示すように圧電素子12の側面を支持部材23で支持するようにしてもよい。さらには、駆動部材14の先端面や側面、先端側及び/又は基端側、或いは錘部材18の側面や後端面を支持するようにしてもよい。
【0052】
次に、本発明の第一実施形態に係る駆動装置100について、図4に基づいて説明する。この駆動装置100は、本発明に係るアクチュエータ10をカメラ付き携帯電話機等に搭載したものであり、アクチュエータ10はズームレンズやフォーカスレンズ等の移動レンズ(不図示)を移動させる。
【0053】
図4に示すアクチュエータ10は、図3(A)に示した場合と同様に、圧電素子12の端面12Aで支持されている。すなわち、圧電素子12の端面12Aは、本体(筐体)20に形成された支持部20Aに接着されて固定されている。
【0054】
本体20には、孔20Bが形成されている。孔20Bは駆動部材14の外径よりも若干大きい径で形成されており、この孔20Bに駆動部材14の先端が挿通されて支持される。
【0055】
被駆動部材16は、図5に示すように、V状の溝16Aを有し、この溝16Aに駆動部材14が係合される。また、被駆動部材16は、板バネ22を有しており、この板バネ22によって駆動部材14が被駆動部材16側に付勢される。このように、被駆動部材16は、駆動部材14に3箇所で線接触しており、実質的な面接触となっている。これにより、被駆動部材16が駆動部材14に摩擦係合される。被駆動部材16の下方には、移動レンズを保持する保持枠(不図示)が連結される。
【0056】
上記の如く構成された場合にも、駆動部材14を黒鉛結晶複合体で形成することによって、被駆動部材16を安定して移動させることができる。
【0057】
次に、本発明の第二実施形態に係る駆動装置200について図7及び図8に基づいて説明する。ここで、第一実施形態と同一の説明を省略し、異なる点についてのみ説明する。
【0058】
図7及び図8に示すように、この駆動装置200では、被駆動部材216は、移動レンズ211のレンズ枠221と一体的に形成される。レンズ枠221は、駆動部材14と平行に配置されたガイド棒(不図示)によってガイドされ、駆動部材14周りの回転が防止される。また、被駆動部材216には、U状の溝216Bが形成され、この溝216Bに駆動部材14が係合される。被駆動部材216の四つの各コーナー部には上方に突出した突出部224,224…が設けられ、この突出部224,224…に囲まれた領域内に摩擦板226が設けられる。摩擦板226は、駆動部材14の側面形状に合わせて円弧状に湾曲して形成される。したがって、被駆動部材216は駆動部材14と面接触することになる。また、摩擦板226の各コーナー部は被駆動部材216の突出部224,224…に合わせて切り欠かれている。したがって、摩擦板226を突出部224,224…で囲まれた領域内に配置した際に、摩擦板226が脱落することが防止される。
【0059】
被駆動部材216には押えばね228が取り付けられる。押えばね228は、摩擦板226を被駆動部材216側に付勢するように構成されている。したがって、被駆動部材216のU状の溝216Bに駆動部材14を配置し、その上に摩擦板226を配置すると、摩擦板226が押えばね228によって駆動部材14に押しつけられ、摩擦板226と被駆動部材216とで駆動部材14を挟持して、被駆動部材216を駆動部材14に摩擦係合させることができる。
【0060】
圧電素子12の後端の端面12Bには軟性の錘部材218が接着されて固定される。錘部材218の比重は、小型化のためにできるだけ高いことが好ましく、例えばステンレスと同程度(7.7〜8.0)に設定される。錘部材218は、圧電素子12が取り付けられた面と反対側に取付金具230が接着され、この取付金具230を介して錘部材218が本体20に支持される。取付金具230は金属板を屈曲させることによってコ状に形成されており、その両端の屈曲部分が本体20に嵌合固定される。圧電素子12は、駆動パルス供給装置215(図8参照)に電気的に接続されており、この駆動パルス供給装置215によって圧電素子12に電圧が印加される。
【0061】
このように本実施の形態では、圧電素子12の後端の端面12Bを軟性の錘部材218により自由端に近い状態で支持しており、これによって共振周波数f0を20〜30kHzまで低下させている。このため、通常使用される50〜100kHzの駆動周波数fは、f≧21/2・f0、を満たすようになる。f≧21/2・f0、を満たす範囲は、力の伝達率が1以下となる防振領域であり、大きな共振が発生しない。したがって、本実施の形態によれば、圧電素子12の後端の端面12Bを軟性の錘部材218により自由端に近い状態で支持したことによって、駆動周波数での共振を防止することができ、常に安定した駆動量を確保することができる。また、本実施形態では、錘部材218は取付金具230によって本体20に固定されているが、錘部材218は本体20に直接取り付けられても同様の効果を奏する。
【0062】
また、本実施の形態によれば、共振周波数f0を下げたことによって、f≧21/2・f0、となる広い範囲で駆動周波数fを設定することができる。したがって、環境負荷や製品ばらつき等の影響を受けず、安定した駆動が可能となる。
【0063】
さらに、このような本実施形態においても、駆動部材14がカーボングラファイトによって構成されているため、上記実施形態と同様な効果、すなわち被駆動部材の移動を正確に安定して行うことができるという効果を奏する。
【0064】
次に、本発明の第三実施形態に係る駆動装置300について図9に基づいて説明する。
【0065】
図9に示すように、この駆動装置300が駆動装置200と違う点は、圧電素子12の後端側の端面12Bにゴム等の弾性体より成る錘部材332が接着固定され、この錘部材332は、圧電素子12の反対側の面が本体20に接着固定されている点である。このようにしても、上記実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0066】
次に、本発明の第四実施形態に係る駆動装置400について図10に基づいて説明する。
【0067】
図10に示すように、この駆動装置400が駆動装置200と違う点は、軟性材料より成る錘部材418は、圧電素子12の端面12Bよりも大きい面を有する薄板状に形成されており、この錘部材418の中央位置に圧電素子12が接着固定され、錘部材418の両端部が本体20に接着固定されている点である。このような本実施形態においても、駆動部材14がカーボングラファイトによって構成されているため、上記実施形態と同様な効果、すなわち被駆動部材の移動を正確に安定して行うことができるという効果を奏する。さらに、このように構成された本実施形態の駆動装置によれば、圧電素子12の後端の端面12Bが薄板状の錘部材418によって本体20に支持されているので、錘部材418が撓んで変形することによって圧電素子12の後端の端面12Bが変位する。さらに、錘部材418のヤング率が小さいので、圧電素子12の後端の端面12Bは、錘部材418自身の弾性変形により自由端に近い状態で支持される。したがって、共振周波数f0を下げることができ、駆動周波数fを、防振領域となるf≧21/2・f0、の広い範囲で使用することができる。よって、装置構成系の共振を防止することができ、常に安定した駆動量を確保することができる。
【0068】
次に、本発明の第五実施形態に係る駆動装置500について説明する。
【0069】
図11は本発明の第六実施形態に係るアクチュエータ510を搭載した駆動装置500の断面図である。図11に示すように、本実施形態に係る駆動装置500は、移動レンズ70を移動対象物として移動レンズ70の駆動を行うものであり、圧電素子12及び駆動部材14を有するアクチュエータ510と、そのアクチュエータ510を支持する支持部材60と、被駆動部材516とを備えて構成されている。圧電素子12は、電気信号の入力により伸縮可能な電気機械変換素子であり、所定の方向へ伸長及び収縮可能となっている。この圧電素子12は、制御部71に接続され、その制御部71により電気信号を入力されることにより伸縮する。例えば、圧電素子12には、二つの入力端子72A、72Bが設置される。この入力端子72A、72Bに印加される電圧を繰り返して増減させることにより、圧電素子12が伸長及び収縮を繰り返すこととなる。
【0070】
駆動部材14は、圧電素子12の伸縮方向に長手方向を向けて圧電素子12に取り付けられている。例えば、駆動部材14の一端が圧電素子12に当接され接着剤27を用いて接着されている。この駆動部材14は、長尺状の部材であり、例えば円柱状のものが用いられる。駆動部材14の材質には、黒鉛結晶を強固に複合させた黒鉛結晶複合体、例えばカーボングラファイトが用いられる。この黒鉛結晶複合体であるカーボングラファイトは、ベリリウムと似た特性を有しながら、ベリリウムと異なって加工しやすいという特性を有しているので、アクチュエータ510のコストを削減することができる。駆動部材14は、本体24から内側へ延びる仕切り部24B、仕切り部24Cにより長手方向に沿って移動可能に支持されている。仕切り部24B、仕切り部24Cは、被駆動部材516の移動領域を仕切るための部材であり、駆動部材14の支持部材としても機能している。
【0071】
仕切り部24B、仕切り部24Cには、駆動部材14を貫通させる貫通孔24Aがそれぞれ形成されている。仕切り部24Bは、駆動部材14の圧電素子12取付部分の近傍箇所、すなわち駆動部材14の基端箇所を支持している。仕切り部24Cは、駆動部材14の先端箇所を支持している。本体24は、アクチュエータ510を組み付けるための枠体若しくはフレーム部材として機能するものである。駆動部材14は、圧電素子12に取り付けられることにより、圧電素子12の伸長及び収縮の繰り返し動作に応じて、その長手方向に沿って往復移動する。
【0072】
なお、図11では、駆動部材14を仕切り部24B、24Cによりその先端側と基端側の二箇所で支持する場合を示しているが、駆動部材14をその先端側又は基端側の一方で支持する場合もある。例えば、仕切り部24Bの貫通孔24Aを駆動部材14の外径より大きく形成することにより、駆動部材14が仕切り部24Cにより先端箇所のみで支持されることとなる。また、仕切り部24Cの貫通孔24Aを駆動部材14の外径より大きく形成することにより、駆動部材14が仕切り部24Bにより基端箇所のみで支持されることとなる。また、図11では、駆動軸14を支持する仕切り部24B、24Cが本体24と一体になっている場合について示したが、これらの仕切り部24B、24cは本体24と別体のものを本体24に取り付けて設けてもよい。別体の場合であっても、一体となっている場合と同様な機能、効果が得られる。
【0073】
被駆動部材516は、駆動部材14に移動可能に取り付けられている。この被駆動部材516は、駆動部材14に対し摩擦係合されて取り付けられ、その長手方向に沿って移動可能となっている。例えば、被駆動部材516は、駆動部材14に対し所定の摩擦係数で係合しており、一定の押圧力で駆動部材14に押し付けられることによってその移動の際に一定の摩擦力が生ずるように取り付けられている。被駆動部材516にこの摩擦力を超える移動力が付与されることにより、摩擦力に抗して被駆動部材516が駆動部材14に沿って移動する。
【0074】
アクチュエータ510は、支持部材60により本体24に支持されている。支持部材60は、アクチュエータ510を圧電素子12の伸縮方向と直交する方向から支持するものであり、アクチュエータ510を収容する本体24と圧電素子12と間に配設されている。
【0075】
支持部材60は、所定以上の弾性特性を有する弾性体により形成され、例えばシリコーン樹脂により形成される。支持部材60は、圧電素子12を挿通させる挿通孔60Aを形成して構成され、その挿通孔60Aに圧電素子12を挿通させた状態で本体24に組み付けられている。支持部材60の本体24への固着は、接着剤61による接着により行われる。また、支持部材60と圧電素子12の間の固着も、接着剤による接着により行われる。この支持部材60を弾性体によって構成することにより、アクチュエータ510を圧電素子12の伸縮方向に移動可能に支持することができる。図11において、支持部材60が圧電素子12の両側に二つ図示されているが、この支持部材60、60は一つの連続する支持部材60の断面をとることによって二つに図示されたものである。
【0076】
なお、支持部材60の本体24への固着及び圧電素子12への固着は、本体24と圧電素子12の間に支持部材60を圧入し、支持部材60の押圧によって行ってもよい。例えば、支持部材60を弾性体により構成し、かつ、本体24と圧電素子12の間より大きく形成して、その間に圧入して設置する。これにより、支持部材60は、本体24及び圧電素子12に密着して配設される。この場合、圧電素子12は、支持部材60により伸縮方向に直交する方向の両側から押圧される。これによって、アクチュエータ510が支持される。
【0077】
また、ここでは支持部材60をシリコーン樹脂で形成する場合について説明したが、支持部材60をバネ部材により構成してもよい。例えば、本体24と圧電素子12の間にバネ部材を配置し、このバネ部材によってアクチュエータ510を本体24に対し支持してもよい。
【0078】
被駆動部材516には、レンズ枠68を介して移動レンズ70が取り付けられている。移動レンズ70は、カメラの撮影光学系を構成するものであり、駆動装置の移動対象物となるものである。この移動レンズ70は、被駆動部材516と一体的に結合され、被駆動部材516と共に移動するように設けられている。移動レンズ70の光軸O上には、図示しない固定レンズなどが配設され、カメラの撮影光学系を構成している。また、光軸O上には、撮像素子65が配設されている。撮像素子65は、撮影光学系により結像された画像を電気信号に変換する撮像手段であり、例えばCCDにより構成される。撮像素子65は、制御部71と接続されており、画像信号を制御部71に出力する。
【0079】
圧電素子12の端部には、錘部材518が取り付けられている。錘部材518は、圧電素子12の伸縮力を駆動部材14側へ伝達させるための部材であって、圧電素子12の駆動部材14が取り付けられる端部と反対側の端部に取り付けられている。錘部材518としては、駆動部材14より重いものが用いられる。また、錘部材518として、弾性変形可能な部材に金属粉を混入させたものを用いることが好ましい。金属粉を混入させることにより重量を大きくすることができ、弾性変形可能な部材を用いることにより圧電素子12の作動時における不要な共振を減衰させることができる。また、錘部材518を軟性部材により構成することにより、アクチュエータ510における共振周波数を圧電素子12の駆動周波数に対し十分に小さくすることができ、共振の影響を低減できる。
【0080】
また、錘部材518は、本体24に対し支持固定されない状態で設けられている。すなわち、錘部材518は、本体24に対し直接支持されたり固定されておらず、また接着剤や樹脂材を介して本体24に対し動きを拘束されるように支持されたり固定されていない状態で設けられている。
【0081】
駆動装置500には、被駆動部材516の移動位置を検出する検出器75が設けられている。検出器75としては、例えば光学式の検出器が用いられ、フォトリフレクタ、フォトインタラプタなどが用いられる。具体的には、検出器75としてリフレクタ75A、検出部75Bを備えたものを用いる場合、被駆動部材516と一体に形成されるレンズ枠68にリフレクタ75Aを取り付け、検出部75Bからリフレクタ75A側へ検出光を出射し、リフレクタ75A側で反射してくる反射光を検出部75Bで検出することにより被駆動部材516及び移動レンズ70の移動位置を検出する。
【0082】
検出器75は、制御部71に接続されている。検出器75の出力信号は制御部71に入力される。制御部71は、駆動装置全体の制御を行うものであり、例えばCPU、ROM、RAM、入力信号回路、出力信号回路などにより構成される。また、制御部71は、圧電素子12を作動させるための駆動回路を備えており、圧電素子12に対し駆動のための電気信号を出力する。
【0083】
図12は、図11のXII−XIIにおける被駆動部材516の断面図である。図12に示すように、被駆動部材516は、例えば、本体部516A、押圧部516B及び摺動部516Cを備えて構成される。本体部516Aは、押圧部516Bにより駆動部材14に一定の力で押圧されている。本体部516Aには、V字状の溝516Dが形成されている。この溝516Dの内には、二つの摺動部516C、516Cに挟持された状態で駆動部材14が収容されている。摺動部516C、516Cは、断面V字状の板体であり、互いに凹部側を向き合わせて配置され、駆動部材14を挟んで設けられている。このようにV字状の溝516D内に駆動部材14を収容することにより、被駆動部材516を安定して駆動部材14に取り付けることができる。
【0084】
押圧部516Bとしては、例えば、断面L字状の板バネ材が用いられる。押圧部516Bの一辺を本体部516Aに掛止させ、他の一辺を溝516Dの対向位置に配することにより、他の一辺により溝516Dに収容される駆動部材14を本体部516A及び摺動部516Cと共に挟み込むことができる。これにより、本体部516Aを駆動部材14側へ押圧することができる。
【0085】
このように、被駆動部材516は、押圧部516Bにより本体部516Aを駆動部材14側に一定の力で押圧して取り付けられることにより、駆動部材14に対し摩擦係合される。すなわち、被駆動部材516は、駆動部材14に対し本体部516A及び押圧部516Bが一定の押圧力で押し付けられ、その移動に際し一定の摩擦力が生ずるように取り付けられる。
【0086】
また、断面V字状の摺動部516C、516Cにより駆動部材14を挟み込むことにより、被駆動部材516が駆動部材14に4箇所で線接触、すなわち実質的に面接触することになり、駆動部材14に対し安定して摩擦係合させることができる。
【0087】
図13は、圧電素子12を作動させる駆動回路の回路図である。図13に示すように、駆動回路77は、制御部71内に配置されて設けられている。この駆動回路77は、圧電素子12のドライブ回路として機能するものであり、圧電素子12に対し駆動用の電気信号を出力する。駆動回路77は、制御部71の制御信号生成部(図示なし)から制御信号を入力し、その制御信号を電圧増幅又は電流増幅して圧電素子12の駆動用電気信号を出力する。駆動回路77は、例えば入力段を論理回路U1〜U3により構成し、出力段に電界効果型のトランジスタ(FET)Q1、Q2を備えたものが用いられる。トランジスタQ1、Q2は、出力信号として、H出力(高電位出力)、L出力(低電位出力)及びOFF出力(オープン出力)を出力可能に構成されている。
【0088】
図14に駆動回路77に入力される入力信号、図15に駆動回路77から出力される出力信号を示す。図14(A)は、被駆動部材516を圧電素子12に接近させる方向(図11において右方向)に移動させる際に入力される入力信号であり、図14(B)は、被駆動部材516を圧電素子12から離間させる方向(図11において左方向)に移動させる際に入力される入力信号である。また、図15(A)は、被駆動部材516を圧電素子12に接近させる方向(図11において右方向)に移動させる際に出力される出力信号であり、図15(B)は、被駆動部材516を圧電素子12から離間させる方向(図11において左方向)に移動させる際に出力される出力信号である。
【0089】
図15(A)、(B)の出力信号は、図14(A)、(B)の入力信号と同一タイミングでオンオフするパルス信号となっている。図15(A)、(B)における二つの信号は、圧電素子12の入力端子72A、72Bに入力される。この入力端子72A、72Bには、図2に示すような台形波形からなる信号を入力してもよいが、図15に示す矩形状のパルス信号を入力して圧電素子12を作動させることができる。この場合、圧電素子12の駆動信号が矩形状のパルス信号でよいため、信号生成が容易となる。
【0090】
図15(A)、(B)の出力信号は、同一周波数となる二つの矩形状のパルス信号により構成されている。この二つのパルス信号は、互いの位相を異ならせることにより、互いの信号の電位差が段階的に大きくなり急激に小さくなる信号又は電位差が急激に大きくなって段階的に小さくなる信号となっている。このような二つの信号を入力することにより、圧電素子12の伸長速度と収縮速度を異ならせることができ、被駆動部材516を移動させることができる。
【0091】
例えば、図15(A)、(B)において、一方の信号がH(ハイ)となりL(ロー)に低下した後に他方の信号がHとなるように設定されている。それらの信号において、一方の信号がLになった際に一定のタイムラグtOFFの経過後、他方の信号がHとなるように設定される。また、二つの信号が両方ともLの場合には、出力としてはオフ状態(オープン状態)とされる。
【0092】
この図15の(A)、(B)の出力信号、すなわち圧電素子12を作動させる電気信号は、可聴周波数を超える周波数の信号が用いられる。図15(A)、(B)において、二つの信号の周波数は、可聴周波数を超える周波数信号とされ、例えば、30〜80kHzの周波数信号とされ、より好ましくは40〜60kHzとされる。このようは周波数の信号を用いることにより、圧電素子12の可聴領域における作動音を低減することができる。
【0093】
次に、本実施形態に係る駆動装置の動作について説明する。
【0094】
図11において、圧電素子12に電気信号が入力され、その電気信号の入力により圧電素子12が伸長及び収縮を繰り返す。この伸長及び収縮に応じて駆動部材14が往復運動する。このとき、圧電素子12の伸長速度と収縮速度を異ならせることにより、駆動部材14が一定の方向へ移動する速度とその逆方向へ移動する速度が異なることとなる。これにより、被駆動部材516及び移動レンズ70を所望の方向へ移動させることができる。
【0095】
圧電素子12が伸縮する際に、その伸縮による振動が生ずるが、圧電素子12を含むアクチュエータ510が支持部材60によってその伸縮方向と直交する方向から支持されているため、圧電素子12の伸縮により生ずる振動がアクチュエータ510の外部へ伝達されにくい。このため、アクチュエータ510が本体24などの外部の部材と共振することが抑制され、その共振の影響を低減することができる。従って、被駆動部材516及び移動レンズ70を正確に移動させることができる。
【0096】
以上のように、本実施形態に係る駆動装置においても、駆動部材14がカーボングラファイトによって構成されているため、上記実施形態と同様な効果、すなわち被駆動部材の移動を正確に安定して行うことができるという効果を奏する。また、アクチュエータ510を圧電素子12の伸縮方向と直交する方向から支持することにより、アクチュエータ510と外部の部材との間で振動が伝達しにくくなり、共振の影響を低減することができる。従って、被駆動部材516及び移動レンズ70を正確に移動させることができる。因みに、被駆動部材の移動位置を検出する検出器75は、他の実施形態にも勿論適用できる。
【0097】
なお、上述した各実施形態は本発明に係る駆動装置の一例を示すものである。本発明に係る駆動装置は、これらの実施形態に係る駆動装置に限られるものではなく、各請求項に記載した要旨を変更しない範囲で、実施形態に係る駆動装置を変形し、又は他のものに適用したものであってもよい。
【0098】
本発明に係るアクチュエータの用途としては、例えばデジタルカメラや携帯電話機等の小型精密機器に適用することができる。特に携帯電話機は、本発明のアクチュエータを用いることによって、被駆動部材を2mm/s以上の高速度で移動させることができる。よって、10mm程度の移動が必要となるズームレンズであっても、迅速に移動させることができる。また、本発明に係るアクチュエータの用途としてはフォーカスレンズやズームレンズ等の移動レンズを移動する用途に限定されず、CCDを移動する用途等に用いても良い。
【0099】
また、本発明は、圧電素子の前端の変位面に取り付けられる駆動部材を黒鉛結晶複合体で構成していればよく、駆動部材の形状や大きさは特に限定するものではない。
【0100】
また、本発明では、上述したように軟性の錘部材を用いることが好ましいが、硬性の錘部材を用いた場合にも、駆動部材を黒鉛複合体とすることによって、被駆動部材の移動を安定化させる効果が得られる。
【0101】
また、例えば、第五実施形態では、移動レンズ70を駆動する駆動装置に適用した装置について説明したが、移動レンズ70以外の物を駆動する駆動装置に適用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】本発明の第一実施形態に係る駆動装置のアクチュエータを示す平面図である。
【図2】圧電素子に印加される駆動パルスの波形図である。
【図3】図1のアクチュエータの支持位置を示す模式図である。
【図4】本発明の第一実施形態に係る駆動装置を示す平面図である。
【図5】図4のV−V線に沿う断面図である。
【図6】共振周波数に対する駆動周波数域を説明する図である。
【図7】本発明の第二実施形態に係る駆動装置を示す斜視図である。
【図8】図7の駆動装置を示す平面図である。
【図9】本発明の第三実施形態に係る駆動装置を示す平面図である。
【図10】本発明の第四実施形態に係る駆動装置を示す平面図である。
【図11】本発明の第五実施形態に係る駆動装置を示す平面図である。
【図12】図11のXII−XII線に沿う断面図である。
【図13】図11のアクチュエータに対する駆動回路を示す回路図である。
【図14】図13の駆動回路に入力される入力信号の波形図である。
【図15】図13の駆動回路から出力される出力信号の波形図である。
【図16】共振周波数の計算例を示す図である。
【図17】従来のアクチュエータの不具合を説明する説明図である。
【符号の説明】
【0103】
1,12…圧電素子(電気機械変換素子)、2,14…駆動部材、3,16,216,516…被駆動部材、10,210,310,410,510…アクチュエータ、18,218,332,418,518…錘部材、20,24,610…本体(筐体)、26,215…駆動パルス供給装置(駆動回路)、68,221…レンズ枠、77…駆動回路、100,200,300,400,500…駆動装置。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気機械変換素子と、この電気機械変換素子の伸縮に応じて動く駆動部材とから成り、前記駆動部材に摩擦係合された被駆動部材を前記駆動部材に沿って移動させるアクチュエータを備え、
前記駆動部材は黒鉛複合体であることを特徴とする駆動装置。
【請求項2】
前記黒鉛複合体は、カーボングラファイトであることを特徴とする請求項1に記載の駆動装置。
【請求項3】
前記電気機械変換素子に対して前記駆動部材と反対側に前記駆動部材よりも質量の大ききい錘部材を設けたことを特徴とする請求項1又は2に記載の駆動装置。
【請求項4】
前記錘部材は共振周波数低減部材であることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の駆動装置。
【請求項5】
前記アクチュエータを駆動するための駆動回路を有し、この前記駆動回路は、前記電気機械変換素子と前記駆動部材とを質量として、前記錘部材をばねとした1自由系の共振周波数をf0、前記電気機械変換素子の駆動周波数をfとした際、
f≧21/2・f0、
となる駆動周波数fで前記電気機械変換素子を駆動することを特徴とする請求項3又は4に記載の駆動装置。
【請求項6】
前記駆動部材は、先端側及び/又は基端側で前記電気機械変換素子の伸縮方向に移動可能に支持されていることを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載の駆動装置。
【請求項7】
前記アクチュエータは、前記電気機械変換素子の伸縮方向に対して側方から筐体に支持されていることを特徴とする請求項1〜6の何れか一項に記載の駆動装置。
【請求項8】
前記電気機械変換素子を駆動するために伸びと縮み方向において非対称の信号を発生させる駆動手段を有していることを特徴とする請求項1〜7の何れか一項に記載の駆動装置。
【請求項9】
前記被駆動部材は、前記駆動部材に対し面接触していることを特徴とする請求項1〜8の何れか一項に記載の駆動装置。
【請求項10】
前記被駆動部材の移動位置を検出する検出手段を備えたことを特徴とする請求項1〜9の何れか一項に記載の駆動装置。
【請求項11】
前記電気機械変換素子は可聴周波数を超える駆動周波数で駆動されることを特徴とする請求項1〜10の何れか一項に記載の駆動装置。
【請求項12】
前記被駆動部材は光学部材に連結されており、撮影光学系に用いられることを特徴とする請求項1〜11の何れか一項に記載の駆動装置。
【請求項13】
前記アクチュエータは携帯電話に搭載される撮影光学系に用いられることを特徴とする請求項1〜12の何れか一項に記載の駆動装置。
【請求項1】
電気機械変換素子と、この電気機械変換素子の伸縮に応じて動く駆動部材とから成り、前記駆動部材に摩擦係合された被駆動部材を前記駆動部材に沿って移動させるアクチュエータを備え、
前記駆動部材は黒鉛複合体であることを特徴とする駆動装置。
【請求項2】
前記黒鉛複合体は、カーボングラファイトであることを特徴とする請求項1に記載の駆動装置。
【請求項3】
前記電気機械変換素子に対して前記駆動部材と反対側に前記駆動部材よりも質量の大ききい錘部材を設けたことを特徴とする請求項1又は2に記載の駆動装置。
【請求項4】
前記錘部材は共振周波数低減部材であることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の駆動装置。
【請求項5】
前記アクチュエータを駆動するための駆動回路を有し、この前記駆動回路は、前記電気機械変換素子と前記駆動部材とを質量として、前記錘部材をばねとした1自由系の共振周波数をf0、前記電気機械変換素子の駆動周波数をfとした際、
f≧21/2・f0、
となる駆動周波数fで前記電気機械変換素子を駆動することを特徴とする請求項3又は4に記載の駆動装置。
【請求項6】
前記駆動部材は、先端側及び/又は基端側で前記電気機械変換素子の伸縮方向に移動可能に支持されていることを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載の駆動装置。
【請求項7】
前記アクチュエータは、前記電気機械変換素子の伸縮方向に対して側方から筐体に支持されていることを特徴とする請求項1〜6の何れか一項に記載の駆動装置。
【請求項8】
前記電気機械変換素子を駆動するために伸びと縮み方向において非対称の信号を発生させる駆動手段を有していることを特徴とする請求項1〜7の何れか一項に記載の駆動装置。
【請求項9】
前記被駆動部材は、前記駆動部材に対し面接触していることを特徴とする請求項1〜8の何れか一項に記載の駆動装置。
【請求項10】
前記被駆動部材の移動位置を検出する検出手段を備えたことを特徴とする請求項1〜9の何れか一項に記載の駆動装置。
【請求項11】
前記電気機械変換素子は可聴周波数を超える駆動周波数で駆動されることを特徴とする請求項1〜10の何れか一項に記載の駆動装置。
【請求項12】
前記被駆動部材は光学部材に連結されており、撮影光学系に用いられることを特徴とする請求項1〜11の何れか一項に記載の駆動装置。
【請求項13】
前記アクチュエータは携帯電話に搭載される撮影光学系に用いられることを特徴とする請求項1〜12の何れか一項に記載の駆動装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2007−74889(P2007−74889A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−26247(P2006−26247)
【出願日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【出願人】(000005430)フジノン株式会社 (2,231)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【出願人】(000005430)フジノン株式会社 (2,231)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]