説明

駆動装置

【課題】インバータが低温状態で素子の耐圧が低下している場合であっても素子耐圧を超える電圧が作用するのを抑制する。
【解決手段】電池温度Tbが閾値T1未満かインバータ冷却水温Tinvが閾値T2未満かのいずれか又は両方が成立しているときには(S110,S120)、電池温度Tbに基づいて第1の仮基本値Wbtmp1を設定すると共に(S160)インバータ冷却水温Tinvに基づいて第2の仮基本値Wbtmp2を設定し(S170)、二つの仮基本値Wbtmp1,Wbtmp2のうち小さい方に基づいてバッテリ50の出力制限Woutを設定する(S180,S140,S150)。これにより、インバータ冷却水温Tinvが閾値T2未満であっても、サージ電圧により高電圧系電力ラインに素子耐圧を超える電圧が作用するのを抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交流負荷と、該交流負荷を駆動するインバータと、バッテリと、該バッテリの電力を昇圧して前記インバータに供給する昇圧コンバータと、前記バッテリの出力制限を設定すると共に該設定した出力制限の範囲内で前記交流負荷が駆動されるよう前記インバータを制御する制御手段と、を備える駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の駆動装置としては、エンジンと、エンジンによって駆動される発電機と、走行のための動力を出力する電動機と、スイッチング素子のスイッチングにより発電機および電動機を駆動するインバータと、発電機および電動機と電力をやり取りする二次電池(リチウムイオン電池)とを備えるハイブリッド自動車に搭載されたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この装置では、電池温度に基づいて充放電電力の制限値である入出力制限を設定し、設定した入出力制限の範囲内でエンジンや発電機,電動機を制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−125210号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述した駆動装置に二次電池の電力を昇圧してインバータに供給する昇圧コンバータが付加された装置では、昇圧コンバータの制御に伴ってサージ電圧が発生する。インバータの低温時には、スイッチング素子の耐圧が低下するため、サージ電圧が発生すると、一時的にスイッチング素子に耐圧を超える電圧が作用する場合が生じる。スイッチング素子を保護するために、インバータの低温時にはスイッチング速度を低下させることも考えられるが、ノイズが増大するなどの不都合が生じる。
【0005】
本発明の駆動装置は、インバータが低温状態であってもスイッチング素子に耐圧を超える電圧が作用しないようにすることを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の駆動装置は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明の駆動装置は、
交流負荷と、該交流負荷を駆動するインバータと、バッテリと、該バッテリの電力を昇圧して前記インバータに供給する昇圧コンバータと、前記バッテリの出力制限を設定すると共に該設定した出力制限の範囲内で前記交流負荷が駆動されるよう前記インバータを制御する制御手段と、を備える駆動装置において、
前記制御手段は、前記バッテリの温度が第1の閾値未満か前記インバータを冷却する冷却媒体の温度が第2の閾値未満かのいずれか又は両方が成立するときには、前記バッテリの温度に基づいて第1の仮出力制限を設定すると共に前記冷却媒体の温度に基づいて第2の仮出力制限を設定し、両仮出力制限のうち小さい方に基づいて前記出力制限を設定する手段である
ことを要旨とする。
【0008】
この本発明の駆動装置では、バッテリの温度が第1の閾値未満かインバータを冷却する冷却媒体の温度が第2の閾値未満かのいずれか又は両方が成立するときには、バッテリの温度に基づいて第1の仮出力制限を設定すると共に冷却媒体の温度に基づいて第1の仮出力制限を設定し、両仮出力制限のうち小さい方に基づいて出力制限を設定する。こうして設定した出力制限の範囲内で交流負荷が駆動されるようインバータを制御することにより、インバータが低温状態であってもインバータの耐圧を超える電圧が作用しないようにすることができる。
【0009】
こうした本発明の駆動装置において、バッテリの温度が低いほど小さくなる傾向に前記第1の仮出力制限を設定するものとすることもできるし、インバータの冷却媒体の温度が低いほど小さくなる傾向に前記第2の仮出力制限を設定するものとすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施例としてのハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。
【図2】昇圧コンバータ56の構成の概略を示す構成図である。
【図3】高電圧系電圧VHとモータトルクTm1と回転数Nm1との関係を説明する説明図である。
【図4】高電圧系電圧VHが高電圧の状態から低電圧の状態に変化した際のプラネタリギヤ30の各回転要素のトルクおよび回転数の力学的な関係を示す共線図である。
【図5】バッテリECU52により実行される出力制限設定処理ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図6】蓄電割合SOCと補正係数kとの関係の一例を示すマップである。
【図7】電池温度Tbと第1の仮基本値Wbtmp1との関係の一例を示すマップである。
【図8】インバータ水温Tinvと第2の仮基本値Wbtmp2との関係の一例を示すマップである。
【図9】バッテリ電流とサージ電圧との関係を説明する説明図である。
【図10】変形例のハイブリッド自動車120の構成の概略を示す構成図である。
【図11】変形例のハイブリッド自動車220の構成の概略を示す構成図である。
【図12】変形例のハイブリッド自動車320の構成の概略を示す構成図である。
【図13】変形例の自動車420の構成の概略を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0012】
図1は、本発明の一実施例としてのハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。実施例のハイブリッド自動車20は、図示するように、エンジン22と、エンジン22を駆動制御するエンジン用電子制御ユニット(以下、「エンジンECU」という。)24と、エンジン22のクランクシャフト26にキャリアが接続されると共に駆動輪39a,39bにデファレンシャルギヤ38を介して連結された駆動軸32にリングギヤが接続されたプラネタリギヤ30と、例えば同期発電電動機として構成されて回転子がプラネタリギヤ30のサンギヤに接続されたモータMG1と、例えば同期発電電動機として構成されて回転子が駆動軸32に接続されたモータMG2と、モータMG1,MG2を駆動するためのインバータ41,42と、インバータ41,42の図示しないスイッチング素子をスイッチング制御することによってモータMG1,MG2を駆動制御するモータ用電子制御ユニット(以下、「モータECU」という。)40と、例えばリチウムイオン二次電池として構成されたバッテリ50と、バッテリ50を管理するバッテリ用電子制御ユニット(以下、「バッテリECU」という。)52と、インバータ41,42に接続された電力ライン(以下、「高電圧系電力ライン」という。)54aとバッテリ50にシステムメインリレー55を介して接続された電力ライン(以下、「低電圧系電力ライン」という。)54bとに接続され低電圧系電力ライン54bの電力を昇圧して高電圧系電力ライン54aに供給する昇圧コンバータ56と、モータMG1,MG2やインバータ41,42,昇圧コンバータ56を冷却水の循環により冷却する冷却装置60と、車両の駆動系全体を制御するハイブリッド用電子制御ユニット70と、を備える。
【0013】
昇圧コンバータ56は、図2に示すように、2つのトランジスタT1,T2とトランジスタT1,T2に逆方向に並列接続された2つのダイオードD1,D2とリアクトルLとにより構成されている。2つのトランジスタT1,T2は、それぞれインバータ41,42の正極母線と負極母線とに接続されており、その接続点にリアクトルLが接続されている。また、リアクトルLと負極母線とにはそれぞれシステムメインリレー55を介してバッテリ50の正極端子と負極端子とが接続されている。したがって、トランジスタT1,T2をオンオフ制御することによりバッテリ50の直流電力をその電圧を昇圧してインバータ41,42に供給したりインバータ41,42の正極母線と負極母線とに作用している直流電圧を降圧してバッテリ50を充電したりすることができる。なお、高電圧系電力ライン54aおよび低電圧系電力ライン54bの正極母線と負極母線には、それぞれ平滑用のコンデンサ57a,57bが接続されている。
【0014】
冷却装置60は、図1に示すように、熱交換器としてのラジエータ62と、ラジエータ62とモータMG1,MG2とインバータ41,42と昇圧コンバータ56とに接続された循環管路64と、循環管路64内の冷却水を循環させるウォーターポンプ(W/P)66と、を備える。この冷却装置60では、ウォーターポンプ66を駆動して循環管路64内の冷却水を循環させることにより、冷却水との熱交換によりモータMG1,MG2とインバータ41,42と昇圧コンバータ56とを冷却する。また、冷却装置60は、図示しないが、ラジエータ62を流れる冷却水を送風された空気との熱交換により冷却する冷却ファンを備える。
【0015】
モータEUC40は、モータMG1,MG2を駆動制御するために必要な信号、例えばモータMG1,MG2の回転子の回転位置を検出する回転位置検出センサからの信号や電流センサにより検出されるモータMG1,MG2に印加される相電流Iv,Iwなどが入力されており、モータECU40からは、インバータ41,42へのスイッチング制御信号が出力されている。モータMG1,MG2の駆動制御は、高電圧系電圧VHに基づいて決定される動作領域(トルク,回転数)の範囲内で行なわれる。図3にモータMG1の動作領域の一例を示す。モータMG1の動作領域は、図示するように、高電圧系電圧VHが低くなるほど、回転数Nm1が低くなり、出力(パワー)の絶対値が小さくなるように定められている。モータECU40は、ハイブリッド用電子制御ユニット70と通信しており、ハイブリッド用電子制御ユニット70からの制御信号によってモータMG1,MG2を駆動制御すると共に必要に応じてモータMG1,MG2の運転状態に関するデータをハイブリッド用電子制御ユニット70に出力する。なお、モータECU40は、回転位置検出センサからの信号に基づいてモータMG1,MG2の回転数Nm1,Nm2も演算している。
【0016】
バッテリECU52は、図示しないCPUを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他にROMやRAM,入出力ポート,通信ポートを備える。バッテリECU52には、バッテリ50を管理するのに必要な信号、例えば、バッテリ50の端子間に設置された電圧センサ51aからの端子間電圧Vb,バッテリ50の出力端子に接続された電流センサ51bからの充放電電流Ib,バッテリ50に取り付けられた温度センサ51cからの電池温度Tbなどが入力されており、必要に応じてバッテリ50の状態に関するデータを通信によりハイブリッド用電子制御ユニット70に出力する。また、バッテリECU52は、バッテリ50を管理するために電流センサ51bにより検出された充放電電流Ibの積算値に基づいて蓄電量の全容量(蓄電容量)に対する割合である蓄電割合SOCを演算したり、演算した蓄電割合SOCと電池温度Tbとに基づいてバッテリ50を充放電してもよい最大許容電力である入出力制限Win,Woutを演算している。
【0017】
ハイブリッド用電子制御ユニット70は、CPU72を中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPU72の他に処理プログラムを記憶するROM74と、データを一時的に記憶するRAM76と、図示しない入出力ポートおよび通信ポートとを備える。ハイブリッド用電子制御ユニット70には、パワースイッチ80からのプッシュ信号やシフトレバー81の操作位置を検出するシフトポジションセンサ82からのシフトポジションSP,アクセルペダル83の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Acc,ブレーキペダル85の踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ86からのブレーキペダルポジションBP,車速センサ88からの車速V,循環管路64に取り付けられた温度センサ68からの冷却水温(インバータ冷却水温Tinv)などが入力ポートを介して入力されている。また、ハイブリッド用電子制御ユニット70からは、システムメインリレー55への駆動信号やウォーターポンプ66への駆動信号などが出力ポートを介して出力されている。このハイブリッド用電子制御ユニット70では、システム停止中にブレーキオンの状態でパワースイッチ80からプッシュ信号を入力したときにシステムメインリレー55をオンとし、システムメインリレー55をオンしている状態でパワースイッチ80からプッシュ信号を入力したときにシステムメインリレー55をオフとする。システムメインリレー55がオンされると、エンジンECU24やモータECU40,バッテリECU52,ハイブリッド用電子制御ユニット70などの各ECUに給電が開始されシステム起動される。
【0018】
こうして構成された実施例のハイブリッド自動車20は、基本的には、ハイブリッド用電子制御ユニット70によって実行される以下に説明する駆動制御によって走行する。ハイブリッド用電子制御ユニット70は、エンジン22を運転しながら走行するときには、まず、アクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Accと車速センサ88からの車速Vとに応じて走行のために駆動軸32に要求される要求トルクTr*を設定し、要求トルクTr*に駆動軸32の回転数Nr(例えば、モータMG2の回転数や車速Vに換算係数を乗じて得られる回転数)を乗じて走行に要求される走行用パワーPdrvを計算する。次に、バッテリ50の蓄電割合SOCに基づいてバッテリ50を充放電するための充放電要求パワーPb*と走行用パワーPdrvと損失Lossとの和としてエンジン22から出力すべき要求パワーPe*を計算すると共にエンジン22を効率よく運転することができるエンジン22の回転数NeとトルクTeとの関係としての動作ライン(例えば燃費最適動作ライン)と計算した要求パワーPe*とを用いてエンジン22の目標回転数Ne*と目標トルクTe*とを設定する。そして、エンジン22の目標回転数Ne*と車速Vとプラネタリギヤ30のギヤ比とに基づいてモータMG1の目標回転数Nm1*を設定し、モータMG1の回転数Nm1が目標回転数Nm1*となるようにするための回転数フィードバック制御によりモータMG1から出力すべきトルクとしてのトルク指令Tm1*を設定すると共にモータMG1をトルク指令Tm1*で駆動したときにプラネタリギヤ30を介して駆動軸32に作用するトルクを要求トルクTr*から減じたトルクをバッテリ50の入出力制限Win,Woutの範囲内で制限してモータMG2のトルク指令Tm2*として設定する。ここで、目標回転数Nm1*(エンジン22の目標回転数Ne*)とトルク指令Tm1*,Tm2*は、前述したように、動作領域(図3参照)の範囲内で設定されるため、高電圧系電圧VHが低電圧の状態にあると、モータMG1の目標回転数Nm1*(エンジン22の目標回転数Ne*)が低下し、エンジン22から出力されるパワーが制限される。この状態におけるプラネタリギヤ30の各回転要素のトルクおよび回転数の力学的な関係を図4に示す。こうして設定したエンジン22の目標回転数Ne*と目標トルクTe*についてはエンジンECU24に送信すると共にモータMG1,MG2のトルク指令Tm1*,Tm2*についてはモータECU40に送信する。目標回転数Ne*と目標トルクTe*とを受信したエンジンECU24は、目標回転数Ne*と目標トルクTe*とによってエンジン22が運転されるようエンジン22の吸入空気量制御や燃料噴射制御,点火制御などを実行し、モータMG1,MG2のトルク指令Tm1*,Tm2*を受信したモータECU40は、モータMG1,MG2がトルク指令Tm1*,Tm2*で駆動されるようインバータ41,42のスイッチング素子をスイッチング制御する。以下、こうした走行をハイブリッド走行という。このハイブリッド走行の際には、ハイブリッド用電子制御ユニット70は、モータMG1,MG2のトルク指令Tm1*,Tm2*とモータMG1,MG2の回転数Nm1,Nm2とに基づいてモータMG1,MG2を駆動するのに必要な電圧を求めて目標電圧指令VH*を設定し、高電圧系電圧VHが設定した目標電圧指令VH*となるよう昇圧コンバータ60の2つのトランジスタT1,T2をスイッチング制御する。
【0019】
また、ハイブリッド用電子制御ユニット70は、エンジン22の運転を停止した状態で走行するときには、アクセル開度Accと車速Vとに応じて駆動軸32に要求される要求トルクTr*を設定し、バッテリ50の入出力制限Win,Woutの範囲内で、モータMG1のトルク指令Tm1*に値0を設定すると共にモータMG2のトルク指令Tm2*に要求トルクTr*を設定する。そして、設定したトルク指令Tm1*,Tm2*についてはモータECU40に送信する。トルク指令Tm1*,Tm2*を受信したモータECU40は、モータMG1,MG2がトルク指令Tm1*,Tm2*で駆動されるようインバータ41,42のスイッチング素子をスイッチング制御する。以下、こうした走行を電動走行という。この電動走行の際には、ハイブリッド用電子制御ユニット70は、モータMG2のトルク指令Tm2*とモータMG2の回転数Nm2とに基づいてモータMG2を駆動するのに必要な電圧を求めて目標電圧指令VH*を設定し、高電圧系電圧VHが設定した目標電圧指令VH*となるよう昇圧コンバータ60の2つのトランジスタT1,T2をスイッチング制御する。
【0020】
次に、こうして構成された実施例のハイブリッド自動車20の動作、特に、バッテリ50の出力制限Woutを設定する処理について説明する。図5は、バッテリECU52により実行される出力制限設定処理ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、所定時間毎(例えば、数msec毎)に繰り返し実行される。
【0021】
出力制限設定処理ルーチンが実行されると、バッテリECU52のCPUは、まず、温度センサ51cからの電池温度Tbやインバータ冷却水温Tinv,バッテリ50の蓄電割合SOCなどの制御に必要なデータを入力する(ステップS100)。ここで、インバータ冷却水温Tinvは、温度センサ68により検出されたものをハイブリッド用電子制御ユニット70から通信を介して入力するものとした。また、蓄電割合SOCは、電流センサ51bにより検出された充放電電流Ibの積算値に基づいて演算したものを入力するものとした。
【0022】
こうしてデータを入力すると、入力した電池温度Tbが閾値T1未満であるか否か(ステップS110)、入力したインバータ冷却水温Tinvが閾値T2未満であるか否か(ステップS120)をそれぞれ判定する。ここで、閾値T1は、バッテリ50の適正温度範囲よりも低温寄りの温度であり、例えば20℃や25℃などのように定められる。また、閾値T2は、インバータ41,42のスイッチング素子の耐圧が低下する温度であり、例えば0℃や5℃などのように定められる。電池温度Tbが閾値T1以上で且つインバータ冷却水温Tinvが閾値T2以上と判定されたときには、バッテリ50は適正温度であり且つインバータ41,42の素子耐圧も低下していないと判断して、所定値Wb1をバッテリ50の出力制限の基本値Wbに設定し(ステップS130)、入力した蓄電割合SOCに基づいて補正係数kを設定し(ステップS140)、基本値Wbに補正係数kを乗じたものをバッテリ50の出力制限Woutに設定して(ステップS150)、本ルーチンを終了する。ここで、所定値Wb1は、適正温度におけるバッテリ50の定格値である。また、補正係数kは、蓄電割合SOCと補正係数kとの関係を予め求めてマップとしてROMに記憶しておき、蓄電割合SOCが与えられるとマップから対応する補正係数kを導出するものとした。このマップの一例を図6に示す。補正係数kは、図示するように、蓄電割合SOCが所定割合Sref(例えば、40%など)以上のときには1.0であり、蓄電割合SOCが所定割合Sref未満のときには蓄電割合SOCが低いほど小さくなるよう設定される。
【0023】
一方、ステップS110で電池温度Tbが閾値T1未満と判定されたり、ステップS120でインバータ冷却水温Tinvが閾値T2未満と判定されると、電池温度Tbに基づいて出力制限の基本値の仮の値である仮基本値Wbtmp1を設定すると共に(ステップS160)、インバータ冷却水温Tinvに基づいて仮基本値Wbtmp2を設定する(ステップS170)。ここで、仮基本値Wbtmp1は、実施例では、電池温度Tbと仮基本値Wbtmp1との関係を予め求めてマップとしてROMに記憶しておき、電池温度Tbが与えられるとマップから対応する仮基本値Wbtmp1を導出するものとした。このマップの一例を図7に示す。仮基本値Wbtmp1は、図示するように、電池温度Tbが閾値T1以上のときには上述した所定値Wb1となり、電池温度Tが閾値T1未満のときには、低温になるほど小さくなるよう設定される。また、仮基本値Wbtmp2は、実施例では、インバータ冷却水温Tinvと仮基本値Wbtmp2との関係を予め求めてマップとしてROMに記憶しておき、インバータ冷却水温Tinvが与えられるとマップから対応する仮基本値Wbtmp2を導出するものとした。このマップの一例を図8に示す。仮基本値Wbtmp2は、図示するように、インバータ冷却水温Tinvが閾値T2以上のときには上述した所定値Wb1となり、インバータ冷却水温Tinvが閾値T2未満のときには、低温になるほど小さくなるよう設定される。そして、設定した二つの仮基本値Wbtmp1,Wbtmp2のうち小さい方をバッテリ50の出力制限の基本値Wbに設定し(ステップS180)、入力した蓄電割合SOCに基づいて補正係数kを設定し(ステップS140)、基本値Wbに補正係数kを乗じたものをバッテリ50の出力制限Woutに設定して(ステップS150)、本ルーチンを終了する。
【0024】
いま、インバータ冷却水温Tinvが閾値T2未満の状態でインバータ41,42と昇圧コンバータ56とを制御する場合を考える。この場合、インバータ41,42のスイッチング素子の耐圧(素子耐圧)が低下するため、昇圧コンバータ56を制御する際にサージ電圧が発生すると、高電圧系電力ライン54aに作用する電圧が一時的に素子耐圧を超える場合がある。これに対して、高電圧系電圧VHが低電圧の状態となるよう昇圧コンバータ56を制御すれば、サージ電圧は低くなるから、インバータ冷却水温Tinvが閾値T2未満であっても高電圧系電力ライン54aに素子耐圧を超える電圧は作用しない。しかしながら、高電圧系電圧VHを低電圧の状態とすると、前述したように、エンジン22から出力されるパワーが制限されるため、走行用パワーPdrvに十分に対応できない場合がある。実施例では、インバータ冷却水温Tinvが閾値T2未満のときには、インバータ冷却水温Tinvが低いほどバッテリ50の出力制限Woutを小さくし、バッテリ50を流れる電流(充放電電流Ib)を小さくする。サージ電圧は図9に示すように充放電電流Ibに比例するから、出力制限Woutを小さくすることにより、サージ電圧を低くし、高電圧系電力ライン54aに作用する電圧が素子耐圧を超えないようにすることができる。この際、出力制限Woutを小さくするため、バッテリ50の放電は制限されるものの、エンジン22から出力されるパワーは制限されないから、走行用パワーPdrvに十分に対応することができる。
【0025】
以上説明した実施例のハイブリッド自動車20によれば、電池温度Tbが閾値T1未満かインバータ冷却水温Tinvが閾値T2未満かのいずれか又は両方が成立しているときには、電池温度Tbに基づいて第1の仮基本値Wbtmp1を設定すると共にインバータ冷却水温Tinvに基づいて第2の仮基本値Wbtmp2を設定し、二つの仮基本値Wbtmp1,Wbtmp2のうち小さい方に基づいてバッテリ50の出力制限Woutを設定するから、インバータ冷却水温Tinvが閾値T2未満であっても、サージ電圧により高電圧系電力ライン54aに素子耐圧を超える電圧が作用するのを抑制することができる。この際、インバータ冷却水温Tinvが低いほど出力制限Woutが小さくなるから、バッテリ50の放電は制限されるものの、エンジン22から出力されるパワーは制限されないから、走行用パワーPdrvに十分に対応することができる。
【0026】
実施例のハイブリッド自動車20では、モータMG2からの動力を駆動輪39a,39bに連結された駆動軸32に出力するものとしたが、図10の変形例のハイブリッド自動車120に例示するように、モータMG2からの動力を駆動軸32が接続された車軸(駆動輪39a,39bに接続された車軸)とは異なる車軸(図10における車輪39c,39dに接続された車軸)に出力するものとしてもよい。
【0027】
実施例のハイブリッド自動車20では、エンジン22からの動力をプラネタリギヤ30を介して駆動輪39a,39bに接続された駆動軸32に出力すると共にモータMG2からの動力を駆動軸32に出力するものとしたが、図11の変形例のハイブリッド自動車220に例示するように、駆動輪39a,39bに接続された駆動軸に変速機230を介してモータMGを取り付け、モータMGの回転軸にクラッチ229を介してエンジン22を接続する構成とし、エンジン22からの動力をモータMGの回転軸と変速機230とを介して駆動軸に出力すると共にモータMGからの動力を変速機230を介して駆動軸に出力するものとしてもよい。また、図12の変形例のハイブリッド自動車320に例示するように、エンジン22からの動力を変速機330を介して駆動輪39a,39bに接続された車軸に出力すると共にモータMGからの動力を駆動輪39a,39bに接続された車軸とは異なる車軸(図12における車輪39c,39dに接続された車軸)に出力するものとしてもよい。
【0028】
実施例では、本発明を、駆動軸32にプラネタリギヤ30を介して接続されたエンジン22およびモータMG1と、駆動軸32に接続されたモータMG2と、を備えるハイブリッド自動車20に適用するものとしたが、図13の変形例の自動車420に例示するように、走行用の動力を出力するモータMGを備える単純な電気自動車に適用するものとしてもよい。
【0029】
実施例では、本発明のハイブリッド自動車20に適用して説明したが、これに限られず、駆動装置の形態としてもよいし、駆動装置の制御方法の形態としてもよい。
【0030】
実施例では、本発明を、交流負荷としてモータMG1,MG2をインバータ41,42により駆動するものに適用するものとしたが、例えば、空気調和装置のコンプレッサをインバータにより駆動するなど、交流負荷をインバータにより駆動するものであれば如何なるものに適用するものとしてもよい。
【0031】
実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、モータMG1,MG2が「交流負荷」に相当し、インバータ41,42が「インバータ」に相当し、バッテリ50が「バッテリ」に相当し、昇圧コンバータ56が「昇圧コンバータ」に相当し、図5の出力制限設定処理ルーチンを実行するバッテリECU52と、要求パワーPe*がエンジン22から出力されると共にバッテリ50の入出力制限Win,Woutの範囲内で要求トルクTr*が駆動軸32に出力されるようエンジン22の目標回転数Ne*および目標トルクTe*とモータMG1,MG2のトルク指令Tm1*,Tm2*とを設定して対応するECUに送信するハイブリッド用電子制御ユニット70と、目標回転数Ne*および目標トルクTe*に基づいてエンジン22を運転制御するエンジンECU24と、トルク指令Tm1*,Tm2*に基づいてインバータ41,42をスイッチング制御するモータECU40とが「制御手段」に相当する。
【0032】
なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0033】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、自動車産業に利用可能である。
【符号の説明】
【0035】
20,120,220,320 ハイブリッド自動車、22 エンジン、24 エンジン用電子制御ユニット(エンジンECU)、26 クランクシャフト、30 プラネタリギヤ、32 駆動軸、38 デファレンシャルギヤ、39a,39b 駆動輪、39c,39d 車輪、40 モータ用電子制御ユニット(モータECU)、41,42 インバータ、50 バッテリ、51a 電圧センサ、51b 電流センサ、51c 温度センサ、52 バッテリ用電子制御ユニット(バッテリECU)、54a 高電圧系電力ライン、54b 低電圧系電力ライン、55 システムメインリレー、56 昇圧コンバータ、60 冷却装置、62 ラジエータ、64 循環管路、66 ウォーターポンプ、68 温度センサ、70 ハイブリッド用電子制御ユニット、72 CPU、74 ROM、76 RAM、80 パワースイッチ、81 シフトレバー、82 シフトポジションセンサ、83 アクセルペダル、84 アクセルペダルポジションセンサ、85 ブレーキペダル、86 ブレーキペダルポジションセンサ、88 車速センサ、420 自動車、MG,MG1,MG2 モータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流負荷と、該交流負荷を駆動するインバータと、バッテリと、該バッテリの電力を昇圧して前記インバータに供給する昇圧コンバータと、前記バッテリの出力制限を設定すると共に該設定した出力制限の範囲内で前記交流負荷が駆動されるよう前記インバータを制御する制御手段と、を備える駆動装置において、
前記制御手段は、前記バッテリの温度が第1の閾値未満か前記インバータを冷却する冷却媒体の温度が第2の閾値未満かのいずれか又は両方が成立するときには、前記バッテリの温度に基づいて第1の仮出力制限を設定すると共に前記冷却媒体の温度に基づいて第2の仮出力制限を設定し、両仮出力制限のうち小さい方に基づいて前記出力制限を設定する手段である
ことを特徴とする駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−55793(P2013−55793A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−192131(P2011−192131)
【出願日】平成23年9月2日(2011.9.2)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】