説明

骨インプラント基材及びその調製方法

本発明は、骨インプラント基材に関し、少なくとも1種のポリマーを含有する補強用混合物で処理された又は処理されてよいベース基材を含む。上記の骨インプラント基材は、骨再建手術一般、整形外科、特に口腔外科手術、顎顔面及び歯科のインプラントの分野に特に適している。更に、骨インプラント基材の調製方法を記載する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨再建手術の分野、整形外科で一般的に用いられ、特に口腔外科、歯及び顎顔面のインプラントの分野において用いられるインプラント基材に関する。
【背景技術】
【0002】
骨構造の脆弱化は、整形外科分野、特に、顎顔面、口腔及び歯の分野における全ての外科医にとって周知の症状である。原因は何種類か挙げられるが、いずれも極めてよく知られており、またよく解明されている。骨の症状を改善し、または強化するために実施し得る手段については、多種多様な解決法が提案されてきたと言える。実際、当業者によって、多くの技術が実施されており、簡潔には以下のタイプに分類することができる:a)目的とする骨への注射又は骨セメント又は他の混合物;b)骨の傍に付与される人工支持体を備える補強材であって、支持体が金属性又はポリマー性又はセラミックであるもの;c)脱灰処理された(脱灰骨基質、DBMとも称される)か、若しくは無細胞化処理されたもの(移植骨とも称される、例えば、ガイストリッヒSA社(スイス)及びRTIバイオロジックス社(米国)などにより製造されるもの)の、ヒト由来の自家での使用(自家移植)又はヒト若しくは動物の死骸(ウシの例が多い)による異種間での使用;d)組織工学、すなわち、骨伝導性及び骨誘導性の材料、例えば、何らかのバイオガラスでできた移植片を用いる方法;f)人工又は半人工の基材が、生存細胞を内包して、標的領域に運搬するために用いられ、それにより新たな強度のある骨の形成を促進する、再生医療。
【0003】
新規のインプラント材料の導入により、ここ数十年、骨修復及び骨再建手術に、著しい発展がもたらされた。
【0004】
インプラント材料の選択は、その材料の骨形成、骨誘導及び骨伝導の特性に基づいて行われる。
【0005】
現在実施されている解決法の中で最も効果的なものは、自家骨をインプラント材料として用いることであるが、いくらかの欠点及びリスクが示唆されている。
【0006】
インプラントを調製するために使用される材料の量は制限され、また、患者が、二重の処置、すなわち、自家骨を採取するための第1の処置、及びその後の移植のための第2の処置を受けなければならない。
【0007】
現在実施されている技術によれば、代替の方法としては、類似の組織の使用、すなわち脱灰骨基質(DBM)の使用が代表として挙げられる。
【0008】
DBMは、生存中のドナー、死亡したドナー、又は動物より入手できる。しかし、ヒトの皮質由来のDBMは、自家骨と同じ欠点を有する。すなわち、使用できる材料の量が制限されると思われる。そして、移植される材料が異種性の性質であるため、感染症、特にウィルス感染症罹患の可能性、及び潜在的な生体適合性の問題に関連する更なるリスクが存在する。更に、移植患者にとっての心理面は、とりわけ材料が死体由来であるときに、看過できない致命的な要因となる。
【0009】
当業者にとって公知であるように、他の方法として、動物由来のDBM、特にウシ由来のものを使用できる。しかし、後者の場合、顕微鏡観察によると、ウシDBMの多孔率は、ヒトの皮膚由来のDBMよりも高く、結果として、新たに結合した機能性組織の、細胞の定着(cell rooting)及び成長に対する、適合性が僅少となり、また減少する傾向があることを示している。
【0010】
出願人は、ウシDBMの、より高い多孔率及び化学構造が、機械的強度の低減を生じさせ、結果的にその脆弱性を高めることを見出した。かかる脆弱性により、移植前の工程において、インプラント材自体を受け入れる骨空洞の形状に従って、所望の精密さでインプラント材を成形することが容易ではなくなるために、また、インプラントの生体内(in situ)での配置の工程において、インプラント材自体の硬さが乏しく、しばしば固定の段階で脆弱な破壊を生じさせるため、両方の工程において特に不利となる。
【0011】
更に、基材の脆弱性によってのみ、かかる基材中における固定部材(例えばネジ)の配置及び挿入が困難になり、また十分に精密とならず、先述のように、しばしば基材の破壊が生ずる。
【0012】
更に、当該技術の水準において現在使用されている基材、例えば、脱灰骨基質(DBM)、無細胞化基質(移植骨)、バイオガラス、バイオセラミクスなどの成形工程中に、不都合なことに、望ましくない粉末が形成される。例えば、歯科医学で、移植の直前に成形工程が行われ、生じた粉末が移植される基材上をも覆ってしまうことがある。
【0013】
別の提案された解決法は、米国特許出願2008/0063684号明細書に記載される複合骨インプラントである。かかる骨インプラントは、ポリマー及び骨由来の粒子を含む。複合材料は、移植中又は直前に成形できるように、そして最終的な手術上の配置の後に固められるように、適合させて作製する。
【0014】
米国特許第7,270,813号明細書は、骨由来の複合材料の調製方法を開示し、ここでは、骨の無機質の部分が、生体適合性のポリマー性基材に導入される前にカップリング剤で処理される。得られた複合材料は、骨インプラントを形成させるために、そのまま又は更に処理して、用いることができる。
【0015】
従って、骨再生外科手術の分野において、三次元的な処理に対する機械的強度及び柔軟性について申し分のない特性を有する、新たな骨インプラント基材を見つける必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】米国特許出願2008/0063684号明細書
【特許文献2】米国特許第7,270,813号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の目的は、少なくとも1種のポリマーを含有する混合物で処理された又は処理可能なベース基材を含む、骨インプラント用の基材にある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
骨インプラント基材の好適な実施形態は、請求項2〜16に定められる。
【0019】
本発明の目的である骨インプラント基材は、骨再建手術の分野一般、整形外科、特に口腔外科手術、顎顔面及び歯のインプラントの分野において用いられるのに適している。
【0020】
請求項17による骨インプラント基材の使用、及び請求項18〜23によるその特定の実施形態は、本発明の更なる目的である。
【0021】
請求項24による骨インプラント基材の調製方法、並びに請求項25及び26によるその好適な実施形態は、本発明の更なる目的である。
【0022】
本発明の具体的な実施形態は、非限定的な例示として、添付図面を参照して以下に詳細に記載される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】ヒトの骨の皮質層の光学顕微鏡画像である。
【図2】ウシ由来の精製された骨組織の光学顕微鏡画像である。
【図3】本発明の好適な実施形態に従って補強された、ウシ由来の骨の光学顕微鏡画像である。
【図4】本発明の好適な実施形態に従って作製され、後に、軟骨型細胞を用いて、マイクロシーディングにより細胞播種がなされた骨インプラント基材の一部の走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。画像は、播種後3日目に撮影された。
【図5】ウシ由来の無細胞化した基質(未処理)及び本発明の実施例に従って処理した類似の基質の、一軸機械的破砕強度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の実施形態によれば、骨インプラント基材は、:
a)下記b)の補強用混合物を用いて処理された又は処理可能なベース基材
b)少なくとも1種のポリマーを含有する補強用混合物
を含む。
【0025】
「ベース基材」という表現は、実質的に固体の三次元物体を意味し、主に、多孔性で、以下に記載の処置後に骨空洞中に移植されるものを指す。
【0026】
ベース基材は、合成物又は天然物とすることができる。合成物のベース基材は、例えば、ポリマー性、金属性、セラミック、バイオセラミック、バイオガラス基材が使用できる。一方、天然物のベース基材は、例えば、脱灰骨、非脱灰骨、無細胞化骨、天然ポリマー、無機質の基材から選択することができる。公知の通り、無細胞化骨基質とは、ドナーの細胞物質を完全に(又は実質的に)無くした非脱灰の基質である。
【0027】
本発明を実施するために用いることができる天然物のベース基材の中で、ヒトの死体由来の骨基材が好ましく、また動物由来の、特に好適にはウシの、脱灰、非脱灰又は無細胞の骨基質が特に好ましい。
【0028】
更に、ポリマータイプの合成物のベース基材、特に生体適合性ポリマーが好ましい。
【0029】
骨インプラント基材は、この基材を移植することができる骨空洞の形状及び大きさに従って適合させられるように、異なった形状及び大きさとしてもよい。
【0030】
例えば、かかる骨基材は、平行六面体形状、特に立方体形状としてよい。
【0031】
骨インプラント基材の大きさは、例えば、その最大長を数mmから数dmとすることができる。
【0032】
ベース基材は、通常、多孔性である。
【0033】
補強用混合物のベース基材及びポリマーは、生体適合性であればより有利である。
【0034】
更に、補強用混合物のベース基材及び/又はポリマーは、好適には生体結合性とすることで、周囲の組織と一体化した新たな骨の成長を十分に補助することができる。
【0035】
更に、「補強用混合物」という表現は、少なくとも1種のポリマー、すなわち、1種類のみのポリマーを含む混合物、又は他の構成として、多ポリマー性の、すなわち二種類以上のポリマーを同時に含み得るものを意味する。
【0036】
特に、補強用混合物という表現は、合成物又は天然物の、かつ好適には生体適合性の、ポリマー又はポリマー類が良好に分散された混合物を意味する。
【0037】
溶媒をエバポレーションする工程の間に、多孔性の骨基材の全表面上に細かく分散された、すなわち、内部空洞内にもそれを閉じることなくコーティングされた、均一なコーティングを作り出す、細かくかつ均一な構成成分の分子分散体を得るために;二種類の溶液から出発して得られる補強用混合物であって、その各々が、可溶性ポリマー、細胞の生着、成長及び増殖並びに組織結合を促進する薬剤からなり、それぞれ互いにミセル化することはできないが、アルコール又は別の適当な溶媒を加えることによって、それぞれの中に部分的にミセル化させることができるものが、特に好ましい。
【0038】
補強用混合物のポリマーは、例えば、生分解性ポリマー、非生分解性ポリマー、生分解性ポリマーのコポリマー、非生分解性ポリマーのコポリマー、生分解性及び非生分解性ポリマーのコポリマーからなる群から選択することができる。
【0039】
特に、生分解性ポリマーは、ポリ(アリーレート)、ポリ(アクリレート)、ポリ(アンヒドリド)、ポリ(ヒドロキシ酸)、ポリエステル、ポリ(オルトエステル)、ポリカーボネート、ポリ(プロリレンフマレート)、ポリ(アミドエステル)、ポリ(アミドカーボネート)、ポリアミド、ポリアミノ酸、ポリアセタール、ポリラクチド、ポリグリコライド、ポリ(ジオキサノン)、ポリヒドロキシブチレート、ポリヒドロキシバレレート、ポリビニルピロリドン、ポリシアノアクリレート、ポリウレタン、ポリアルキレンオキシド、ポリアミノカーボネート、ポリエステルアミド、ポリエステルイミド、アミノ酸ポリアリーレート、アミノ酸ポリカーボネート、多糖類、ポリエチレングリコール、並びにポリアリレート、ポリアクリレート及びポリカーボネートを含むチロシンベースのポリマーから選択される。
【0040】
生分解性ポリマーの中で、特に、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリカプロラクトン(PCL)、及びそのコポリマー、例えば、ポリカプロラクトン−ポリ乳酸(PLA/PCL)コポリマー、ポリ(L−ラクチド−CO−ε−カプロラクトン)コポリマーなどの、ポリエステルが好ましい。
【0041】
非生分解性ポリマーに関しては、これらは、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェン及びその誘導体、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリ尿素、ポリ(エチレンビニルアセテート)、ポリプロピレン、ポリメタクリレート、ポリエチレン、ポリ(エチレンオキシド)から選択することができる。更に、このポリマーは、デンプン、ポリ(カプロラクトン)、ポリ(L−ラクチド)、ポリ(D,L−ラクチド−コ−グリコリド)、ポリ(L−ラクチド−コ−D,L−ラクチド)、それらのエナンチオマー、それらのコポリマー、及びそれらの混合物からなる群から選択することができる。
【0042】
本発明の別の実施形態によれば、補強用混合物は、ポリマー他に、細胞栄養物、細胞成長促進剤、細胞接着促進剤、骨誘導剤、骨結合剤、細胞親和性物質(friendliness to cell)から選択される追加的な構成成分の少なくとも1種を含んでよい。
【0043】
細胞親和性物質という表現は、細胞増殖及び組織結合を促進することによって、細胞の定着及び細胞の成長を促進することができる物質を意味する。
【0044】
本発明の好適な実施形態によれば、細胞親和性物質は、グリコサミノグリカン;アガロース、デキストラン、キトサンを含む多糖類;フィブリン、フィブリノーゲン及びその誘導体;あらゆる種類のコラーゲン及びその誘導体;ヒアルロン酸及びその誘導体;ビタミンDなどのビタミン類;ゲニステインを含む大豆イソフラボン;骨破壊を低減し、また骨再建を刺激する薬剤、例えば、ラネリック酸ストロンチウムを含む、骨粗鬆症を治療する際に使用される薬剤からなる群から選択されてよく、またゼラチン、特に加水分解されたものを細胞親和性物質として使用することが特に好ましい。少なくとも1種の、細胞親和性物質の使用は、細胞増殖及び組織結合を促進するため、細胞の定着及び成長を支援する。そして、この点が従来技術に対する重要な効果である。
【0045】
補強用混合物を調製するために用いられる溶媒は、当業者に一般的に知られている、例えば、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、イソプロパノールなどであってよく、周知の化学の法則に従って、用いられるポリマーの種類からその用途が定まる。
【0046】
骨インプラント基材の特に好適な実施形態は、例えば、ポリカプロラクトン−ポリ乳酸コポリマー(PLA/PCL)などの生物分解性のポリエステルベースのコポリマー、及び好適には加水分解されたゼラチンを含む補強用混合物で処理された、ウシの脱灰骨基質のベース基材を含む。
【0047】
更に特に好適な実施形態によれば、骨インプラント基材は、例えば、ポリ(L−ラクチド−コ−ε−カプロラクトン)などの生分解性のポリエステルベースのコポリマー、及び好適には加水分解されたゼラチンを含む補強用混合物で処理されたウシの非脱灰の、無細胞化骨基質を備えるベース基材を含む。
【0048】
別の好適な実施形態では、補強用混合物は少なくとも1種の生分解性ポリエステル、及び少なくとも1種の細胞親和性物質を含む。
【0049】
具体的な実施形態にして、更に、適切な別々の容器中に補強用混合物及び被処理ベース基材を備えるキットとしてもよい。
【0050】
上述の骨インプラント基材は、整形外科、口腔外科、骨再建の手術及び移植において用いることができる。
【0051】
先述の骨インプラント基材は、口腔外科、顎顔面及び歯の再建手術において用いられ、特に、歯インプラントの挿入を行う前に骨構造を再建し、そして固定するのに特に適している。
【0052】
好適な用法として、先述の骨インプラント基材は、骨粗鬆症を患っている患者における骨量の減少の後の、骨再建手術に特に適している。
【0053】
加えて、先述の骨インプラント基材はまた、口腔及び歯への応用に、歯科に、骨「チップ」として、細胞ハウジング用及び細胞療法の支援基材として、用いることができる。
【0054】
骨インプラント基材は、ヒト及び獣医科使用の両方に用いることができる。
【0055】
骨インプラント基材の調製方法は、以下に記載する通りであり、以下の工程:
a)少なくとも1種のポリマーを含有する補強用混合物の溶液を調製する工程と、
b)ベース基材を、工程a)に従って作製された補強用混合物に浸漬する工程と、
c)(例えば、大気中で、好適には真空炉中で)残留溶媒を除去するために、工程b)に従って作製された基材を、好適には真空炉中で37°C(±2°C)で24時間、乾燥させかつ脱気する工程と、を備える。
【0056】
骨インプラント基材の乾燥及び脱気は、通常同時に行う。
【0057】
かかる方法において、任意選択的に後処理を実施してもよく、該後処理としては、例えば、加熱すること、骨インプラント基材を不活性雰囲気条件下におくこと、及び調製工程中で用いられる溶媒の可能性のある残留物を完全に除去するために脱気することが挙げられる。
【0058】
更に、骨インプラント基材の調製工程の後、下記工程を有する包装方法を実施してもよい:
d)無菌かつ不活性雰囲気下での包装工程、
e)殺菌工程(好適には、ガンマ線又はベータ線照射による)。
【0059】
当業者にとって公知であり、整形手術において一般的に用いられる基材は、機械的強度、固定強度に乏しく、脆弱であり、柔軟性に乏しいという特性がある。
【0060】
出願人は、予測に反して、上述のように、ベース基材を少なくとも1種のポリマーを含有する補強用混合物で処理することによって、移植前の段階で、骨インプラント基材自体を受け入れる骨空洞との関係において、所望の精密性で、骨インプラント基材を容易に成形させられるような柔軟性を有する骨インプラント基材を得ることができることを発見した。更に、上記実施形態に従って得られる、骨インプラント基材の機械的強度は、基材自体の脆弱な破壊の傾向を低減するが、これは、基材の生体内(in situ)の配置段階、及び固定部材(例えば、ねじ)の配置及び挿入段階の両方において、かかる基材の特に有利な点となる。
【0061】
図5は、一軸破砕強度の2つのグラフを示す:「未処理」の曲線は、ウシ由来の無細胞化した基質を指し、「処理」の曲線は、同様に無細胞化した基質を、上述の少なくとも1種のポリマーを含有する補強用混合物で処理したものを指す。明確な対比が、上述の処理により、どれだけ基剤が強固となり(弾性係数、又はヤング率の増大)、また負荷抵抗が高まるか(最大圧力、MPaで示す)が、明確な対比によって示されている。
【0062】
骨インプラント基材は、移植前の工程の間、可能な細胞播種工程を受けてもよい。
【0063】
細胞は、当業者にとって公知の細胞播種技術を用いて、好適には、基材を(好適には、培養器中で)37℃の温度にした後に、好適にはマイクロシーディング技術を用いて播種することができる。細胞を播種された骨インプラント基材は、使用される細胞種により一般的に必要とされる手法に従って、その後適当な培養培地で覆い、培養器内に入れられる。
【0064】
骨インプラント基材1センチメートルあたりの細胞の最適な添加量は、約300000−500000細胞/cmである。
【0065】
図4は、本発明の1つの実施形態の骨インプラント基材が、その体積と有効な空洞の両方に係る、その多孔質特性によって、どのように細胞を定着させるのかを示す図である。
【0066】
基材の多孔質空間内部に、軟骨細胞により形成された格子状構造の存在を、確かに認めることができる。
【0067】
以下の非限定的な実施例は、本発明の実施形態を開示するものである。
【実施例】
【0068】
(実施例1)骨インプラント基材の調製方法
20mLのジクロロメタン中に1gのポリマーを加えて溶液を調製した。
【0069】
加水分解されたブタゼラチンの1.5%溶液を20mL調製した。
【0070】
10mLのイソプロパノールを、調製したポリマー溶液に加えた。
【0071】
得られたポリマー溶液を、15分間撹拌し続けた。
【0072】
調製したブタゼラチン溶液を、ポリマー溶液に加えた。
【0073】
このようにして得られたポリマー溶液を、少なくとも5分間よく撹拌した。
【0074】
ベース基材をポリマー溶液中に浸漬し、少なくとも30分間浸漬し続けた。
【0075】
最後に、生成物を大気中で少なくとも24時間、乾燥させた。
【0076】
任意選択的に、骨インプラント基材から残留溶媒を除去するために、次いで真空炉中で処理し(T<40°C)、骨インプランと基材から残留溶媒を除去した。
【0077】
(実施例2A)骨インプラント基材の調製方法
20mLのジクロロメタンに1gのPLA/PCLコポリマーを加えて、溶液を調製した。マグネティックスターラーを用いて、約100rpmの撹拌速度で、室温で少なくとも45分間撹拌し続けた。
【0078】
加水分解されたブタゼラチンの1.5%溶液を20mL調製した。好適には注入により水を注ぎ、そして穏やかに撹拌しながら加水分解されたブタゼラチンを加えた。約100rpmの撹拌速度で、37°C(±2°C)で少なくとも1時間撹拌し続けた。
【0079】
10mLのイソプロパノールを調製したジクロロメタンのPLA/PCLコポリマー溶液に加えた。
【0080】
このように得られたコポリマー溶液を、20分間撹拌し続けた。
【0081】
調製したゼラチン溶液を、コポリマー溶液に加えた。
【0082】
このようにして得られたポリマー溶液を、約180rpmの撹拌速度で、室温で10分間よく撹拌し続けた。
【0083】
脱灰骨基質をポリマー溶液中に浸漬し、撹拌しながら(約200rpm)少なくとも30分間浸漬し続けた。
【0084】
最後に、生成物を真空炉中で37°C(±2°C)で少なくとも24時間乾燥させた。
【0085】
(実施例2B)骨インプラント基材の調製方法
20mLのジクロロメタンに1gのPLA/PCLコポリマーを加えて、溶液を調製した。十分に均一分散した溶液を得るために、室温で少なくとも45分間撹拌し続けた。
【0086】
加水分解されたブタゼラチンの1.5%溶液を20mL調製した。好適には注入により水を注ぎ、そして穏やかに撹拌しながら加水分解されたブタゼラチンを加えた。十分に均一分散した溶液を得るために、37°C(±2°C)で少なくとも1時間撹拌し続けた。
【0087】
10mLのイソプロパノールを調製したジクロロメタンのPLA/PCLコポリマー溶液に加えた。
【0088】
このようにして得られたコポリマー溶液を、20分間撹拌し続けた。
【0089】
前に調製したゼラチン溶液を、コポリマー溶液に加えた。
【0090】
使用する全化合物の、安定で、十分に均一な、ナノ分散の溶液を得るために、このようにして得られたポリマー溶液を、室温で10分間よく撹拌し続けた。
【0091】
ウシの、非脱灰の無細胞化骨基質をポリマー溶液中に浸漬し、撹拌しながら少なくとも30分間浸漬し続けた。
【0092】
最後に、生成物を真空炉中で37°C(±2°C)で24時間乾燥させ、溶媒を除去した。
【0093】
(実施例2C)骨インプラント基材の調製方法
20mLのジクロロメタンに1gのP(L,DL)LAコポリマーを加えて溶液を調製した。十分に均一分散した溶液を得るために、室温で少なくとも45分間撹拌し続けた。
【0094】
ウシの骨基材をポリマー溶液中に浸漬し、撹拌しながら少なくとも30分間浸漬し続けた。
【0095】
溶媒を除去するために、生成物を真空炉中に入れ、37°C(±2°C)で24時間乾燥させた。
【0096】
処理した基材を、再びポリマー溶液中に浸漬し、撹拌しながら少なくとも30分間浸漬し続けた。
【0097】
溶媒を除去するために、生成物を真空炉中に入れ、37°C(±2°C)で24時間乾燥させた。
【0098】
の加水分解されたブタゼラチンの1.5%溶液を20mL調製した。好適には注入により水を注ぎ、そして穏やかに撹拌しながら加水分解されたブタゼラチンを加えた。非常に均一な分散体であることを特徴とする溶液を得るために、37°C(±2°C)で少なくとも1時間撹拌し続けた。
【0099】
10mLのイソプロパノールを調製したジクロロメタンのP(L,DL)LAコポリマー溶液に加えた。
【0100】
このようにして得られたコポリマー溶液を、20分間撹拌し続けた。
【0101】
調製したゼラチン溶液を、コポリマー溶液に加えた。
【0102】
使用する全化合物の、安定で、十分に均一な、ナノ分散の溶液を得るために、このようにして得られたポリマー溶液を、室温で10分間よく撹拌し続けた。
【0103】
既に二度処理したウシの、脱灰の無細胞化骨基質を、最終ポリマー溶液中に浸漬し、撹拌しながら少なくとも30分間浸漬し続けた。
【0104】
最後に、溶媒を除去するために、生成物を真空炉中で37°C(±2°C)で24時間乾燥させた。
【0105】
(実施例3)観察試験
いくつかの基質の光学顕微鏡検査を、ツァイス−ケンブリッジインストルメンツ社(ドイツ)のESEMsystemEvo50EPを用いて行った。
【0106】
全ての画像を、同じ倍率:30×で得た。
【0107】
更に、全ての画像を、同じ比率で規格化した。
【0108】
図1は、光学顕微鏡により得た、ヒトの骨の皮質層の画像を表し、望ましい多孔性及び機械的強度の特性を示す。
【0109】
図2は、光学顕微鏡により得た、ウシの脱灰骨基質の画像を示す。顕微鏡での構造では、ヒトの骨の皮質層(図1)に対して、特に多孔率に関して、著しい差異が目につく。後者は、多孔率が非常に高く、細胞の定着性に乏しいと見られる。
【0110】
本発明の実施形態に従う「ベース基材」を表す、図2のウシ脱灰骨基質は、少なくとも1種のポリマーを含有する、特に、ポリカプロラクトン−ポリ乳酸コポリマー(PLA/PCL)及び加水分解されたゼラチンを含有する補強用混合物による処理を受ける。
【0111】
光学顕微鏡により得られた、補填したウシの脱灰骨基質の画像を図3に示す。
【0112】
図1と図3とを比較でわかるように、本発明の1つの実施形態に従って得られた、図3の骨インプラント基材の顕微鏡下での構造は、ヒトの骨の皮質層と強い類似性を示す。特に、多孔性に関しては、細胞の定着のための、大きさ及び有効な空洞という点で、完全に匹敵しているように見える。
【0113】
予備的な、機械的試験(図5)及び移植前の試験により、図3に示す基材が、ヒト用のインプラントとしての適性を有することが確認され、かかる基材の挙動は、ヒトの骨の皮質層の挙動と比較した場合に、特に満足できるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨インプラント基材であって、
b)少なくとも1種のポリマーを含有する補強用混合物、及び
a)前記補強用混合物で処理された、又は処理可能なベース基材
を含む骨インプラント基材。
【請求項2】
ベース基材が、ポリマー性、金属性、セラミック、バイオセラミック、若しくはバイオガラスマトリックスからなる群から選択される合成物であるか、又は脱灰骨基質、非脱灰骨基質、無細胞化された骨基質、天然ポリマー性基材、無機質基材からなる群から選択される天然物である、請求項1記載の骨インプラント基質。
【請求項3】
ベース基材及び/又は補強用混合物のポリマーが生体結合性である、請求項1記載の骨インプラント基材。
【請求項4】
ベース基材が、脱灰骨若しくは非脱灰骨、又は無細胞化骨、ウシ又はヒトの死体由来の基材である、請求項2記載の骨インプラント基材。
【請求項5】
ベース基材が、生体適合性ポリマー類のポリマーである、請求項2記載の骨インプラント基材。
【請求項6】
補強用混合物のポリマーが、生分解性ポリマー、非生分解性ポリマー、生分解性ポリマーのコポリマー、非生分解性ポリマーのコポリマー、生分解性及び非生分解性ポリマーのコポリマーからなる群から選択される、請求項1記載の骨インプラント基材。
【請求項7】
生分解性ポリマーは、ポリ(アリーレート)、ポリ(アクリレート)、ポリ(アンヒドリド)、ポリ(ヒドロキシ酸)、ポリエステル、ポリ(オルトエステル)、ポリカーボネート、ポリ(プロリレンフマレート)、ポリ(アミドエステル)、ポリ(アミドカーボネート)、ポリアミド、ポリアミノ酸、ポリアセタール、ポリラクチド、ポリグリコライド、ポリ(ジオキサノン)、ポリヒドロキシブチレート、ポリヒドロキシバレレート、ポリビニルピロリドン、ポリシアノアクリレート、ポリウレタン、ポリアルキレンオキシド、ポリアミノカーボネート、ポリエステルアミド、ポリエステルイミド、アミノ酸ポリアリーレート、アミノ酸ポリカーボネート、多糖類、ポリエチレングリコール、並びに、ポリアリレート、ポリアクリレート及びポリカーボネートを含むチロシンベースのポリマーからなる群から選択される、請求項6記載の骨インプラント基材。
【請求項8】
生分解性ポリエステルが、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリカプロラクトン(PCL)、並びにポリカプロラクトン−ポリ乳酸(PLA/PCL)コポリマー及びポリ(L−ラクチド−コ−ε−カプロラクトン)コポリマーを含むそのコポリマーからなる群から選択される、請求項7記載の骨インプラント基材。
【請求項9】
非生分解性ポリマーが、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェン及びその誘導体、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリ尿素、ポリ(エチレンビニルアセテート)、ポリプロピレン、ポリメタクリレート、ポリエチレン、ポリ(エチレンオキシド)からなる群から選択される、請求項6記載の骨インプラント基材。
【請求項10】
ポリマーが、デンプン、ポリ(カプロラクトン)、ポリ(L−ラクチド)、ポリ(D,L−ラクチド−コ−グリコリド)、ポリ(L−ラクチド−コ−D,L−ラクチド)、それらのエナンチオマー、それらのコポリマー、及びそれらの混合物からなる群から選択される、請求項6に記載の骨インプラント基材。
【請求項11】
補強用混合物が、細胞栄養物、細胞成長促進剤、細胞接着促進剤、骨誘導剤、骨結合剤、細胞親和性物質(friendliness to cell)から選択される添加物を含む、請求項1記載の骨インプラント基材。
【請求項12】
細胞親和性物質が、ゼラチン、加水分解されたゼラチン;グリコサミノグリカン;多糖類、アガロース、デキストラン、キトサン;フィブリン、フィブリノーゲン及びその誘導体;あらゆる種類のコラーゲン及びその誘導体;ヒアルロン酸及びその誘導体;ビタミンDを含むビタミン;ゲニステインを含む大豆イソフラボン;骨破壊を低減し、かつ骨再建を刺激する、ラネリック酸ストロンチウムを含む薬剤、からなる群から選択される、請求項11記載の骨インプラント基材。
【請求項13】
補強用混合物が、少なくとも1種の生分解性ポリエステル及び少なくとも1種の細胞親和性物質を含む、請求項1記載の骨インプラント基材。
【請求項14】
生分解性のポリエステルベースのコポリマー及び加水分解されたゼラチンを含む補強用混合物で処理されたウシ脱灰骨基質、又は
生分解性のポリエステルベースのコポリマー及び加水分解されたゼラチンを含む補強用混合物で処理された、ウシの無細胞化骨基質、
を含む、請求項1記載の骨インプラント基材。
【請求項15】
生分解性のポリエステルベースのコポリマーが、ポリカプロラクトン−ポリ乳酸コポリマー(PLA/PCL)である、請求項14記載の骨インプラント基材。
【請求項16】
生分解性のポリエステルベースのコポリマーが、ポリ(L−ラクチド−コ−ε−カプロラクトン)コポリマーである、請求項14記載の骨インプラント基材。
【請求項17】
骨再建手術に使用される、請求項1記載の骨インプラント基材。
【請求項18】
顎顔面の骨再建手術に使用される、請求項17記載の骨インプラント基材。
【請求項19】
口腔外科に使用される、請求項1記載の骨インプラント基材。
【請求項20】
ヒト又は動物に使用される、請求項1記載の骨インプラント基材。
【請求項21】
骨再建手術における、請求項1記載の骨インプラント基材の使用。
【請求項22】
顎顔面の骨再建手術における、請求項21記載の骨インプラント基材の使用。
【請求項23】
口腔外科手術における、請求項1記載の骨インプラント基材の使用。
【請求項24】
骨インプラント基材の調製方法であって:
a)少なくとも1種のポリマーを含有する補強用混合物の溶液を調製する工程と、
b)ベース基材を、前記補強用混合物溶液に浸漬する工程と、
c)残留溶媒を除去するために、基材を乾燥させ、任意選択的に脱気する工程と、
d)乾燥させ、任意選択的に脱気したものを、任意選択的に、再び補強用基質の前記溶液中に浸漬する工程と、
を含む調製方法。
【請求項25】
加熱工程、不活性雰囲気への調節工程、及び真空脱気工程から選択される後処理工程を更に含む、請求項24記載の骨インプラント基材の調製方法。
【請求項26】
d)無菌かつ不活性雰囲気下での包装工程
e)殺菌工程
を更に含む、請求項24記載の骨インプラント基材の調製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2012−512684(P2012−512684A)
【公表日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−541629(P2011−541629)
【出願日】平成21年12月15日(2009.12.15)
【国際出願番号】PCT/IB2009/007759
【国際公開番号】WO2010/070416
【国際公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(511148606)インダストリ バイオメディシェ インスブリ エスエー (1)
【氏名又は名称原語表記】INDUSTRIE BIOMEDICHE INSUBRI S/A
【Fターム(参考)】