説明

骨コンポーネント成型ユニット

【課題】耐熱性が良好で、成型中の変形が生じにくく、蒸気滅菌を行う場合でも繰り返し使用が可能で低コストで環境への配慮にも優れ、成型中に生じる熱による影響を受けることなく成型後の離型作業まで円滑に行える骨コンポーネント成型ユニットを提供する。
【解決手段】人工関節置換術が施術された部位に感染症が発症した際の治療のための手術において用いられ、抜去された人工関節が配置されていた部位に配置されるとともに薬剤が混入された骨コンポーネント101を成型する。別体に設けられた一対の金属材料(13、14)で形成され、これらが重ね合わされるように組み合わされることで内部に骨コンポーネント101の成型用空間15を形成する成型器11を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工関節置換術が施術された部位に感染症が発症した際の治療のための手術において用いられ、前記部位から抜去された人工関節が配置されていた当該部位に配置されるとともに薬剤が混入されている骨コンポーネントを成型する骨コンポーネント成型ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、変形性股関節症やリウマチなど股関節に疼痛を生じる症状を持つ患者に対して、人工股関節置換術(THA)が行われている。この場合、発生確率はかなり低いものの人工股関節置換術が施術された部位において感染による炎症が発症することがある。その際、感染症が発症した部位の治療のために、置換した人工股関節を抜去し、その人工股関節が抜去された部位に人工股関節と同等形状に成型されているとともに抗生剤が混入された骨コンポーネントを配置して発生した炎症を抑えるための手術が行われる。感染症が発症した部位に配置された骨コンポーネントは、所定の期間その部位に留置されることになる。
【0003】
人工股関節置換術等のような人工関節置換術手術が行われた部位に感染症が発症した際の治療のために上述のような手術が行われる際、術者若しくはその助手は、清潔域内において前述の骨コンポーネントを成型することになる。この場合、抗生剤が混入された二液性のセメントを所定時間混ぜ合わせた後に、術者や助手が手によりセメントを成型して所定の形状の骨コンポーネントを形成すると、時間がかかり手術時間が延びてしまうとともに一定の形状の骨コンポーネントを成型することに関して高い熟練が必要となるといった問題がある。このため、高い熟練を要することなく短時間で一定の形状の骨コンポーネントを形成できるようにするために用いられる骨コンポーネント成型用の成型器として、シリコンゴム製のセメント・スペーサー・モールドが知られている(非特許文献1参照)。
【0004】
【非特許文献1】製品カタログ「Knee&Hip − CEMENT SPACER MOLDS」、バイオメット・ジャパン株式会社
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1に記載されたシリコンゴム製の成型器では、シリコンゴムが熱可塑性樹脂であることに起因する問題が発生する。まず第1に、シリコンゴム製の成型器に注入されるセメントは、二液が混合されて発熱しながら硬化するものであるため、成型中に成型器が変形し易く、注入されたセメントがその変形した部分から流出してしまい易いという問題がある。また、第2の問題として、近年では病院にて行われる手術用器具等の洗浄滅菌は環境問題への配慮から蒸気滅菌であることが多いが、シリコンゴム製の成型器に蒸気滅菌を施すと、成型器の変形を招いてしまうために、1回の使用で廃棄されてしまうということがある。このため、高コストになるとともに、医療用具であることから産業廃棄物が多く発生することになり、さらに産業廃棄物としての処理も必要になってしまうため、環境への配慮の観点からはあまり望ましくない。また、第3の問題として、シリコンゴム製の成型器で骨コンポーネントを成型した後の離型作業を円滑に行えるようにするためにはシリコンゴムの硬度を低くする必要があるが、前述のように成型時にセメントが発する熱によって加熱されることにより、成型中のシリコンゴムの硬度がさらに低下してしまうことがある。そのため、成型中に、シリコンゴム製の成型器の形状を人の手や治具によって保持することが必要になってしまい、成型中に生じる熱による影響を受けることなく成型後の円滑な離型作業まで行えるようにすることが困難である。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みることにより、耐熱性が良好で、成型中の変形が生じにくく、蒸気滅菌を行う場合でも繰り返し使用が可能であって低コストで環境への配慮にも優れ、成型中に生じる熱による影響を受けることなく成型後の離型作業まで円滑に行うことができる骨コンポーネント成型ユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0007】
本発明の骨コンポーネント成型ユニットは、人工関節置換術が施術された部位に感染症が発症した際の治療のための手術において用いられ、前記部位から抜去された人工関節が配置されていた当該部位に配置されるとともに薬剤が混入されている骨コンポーネントを成型する骨コンポーネント成型ユニットに関する。
そして、本発明は、上記目的を達成するために以下のようないくつかの特徴を有している。即ち、本発明は、以下の特徴を単独で、若しくは、適宜組み合わせて備えている。
【0008】
上記目的を達成するための本発明に係る骨コンポーネント成型ユニットにおける第1の特徴は、別体に設けられた一対の金属材料で形成され、当該一対の金属材料が重ね合わされるように組み合わされることで内部に前記骨コンポーネントの成型用空間を形成する成型器を備えていることである。
【0009】
この構成によると、一対の金属材料が重ね合わされるように組み合わされることで内部に骨コンポーネントの成型用空間が形成されることになる。この成型用空間に薬剤が混入されたセメント等が注入されて硬化することで、骨コンポーネントが成型されることになる。この成型器は、金属材料で形成されているため、耐熱性が良好であり、成型中のセメントの発熱により変形して注入されたセメントが流出してしまうようなことがない。そして、1回の蒸気滅菌を施すことで成型器の変形を招いてしまうこともなく、繰り返し蒸気滅菌を施して使用することができるため、低コストであるとともに、産業廃棄物の発生を抑制できて環境への配慮の観点においても優れた効果を発揮することができる。なお、成型器を構成する金属材料としては、医療器材料として滅菌できる金属として、例えばステンレスやチタン合金などを用いることができる。
また、別体に設けられた一対の金属材料として成型器が形成されているため、重ね合わせた一対の金属材料を引き離すだけで成型後の離型作業を容易に行うことができる。なお、成型中にセメントが発する熱によって加熱されることにより硬度低下に伴って形状維持が必要となるといった問題はそもそも生じないことになる。
したがって、本発明の構成によると、耐熱性が良好で、成型中の変形が生じにくく、蒸気滅菌を行う場合でも繰り返し使用が可能であって低コストで環境への配慮にも優れ、成型中に生じる熱による影響を受けることなく成型後の離型作業まで円滑に行うことができる骨コンポーネント成型ユニットを得ることができる。
【0010】
本発明に係る骨コンポーネント成型ユニットにおける第2の特徴は、組み合わされることで前記成型用空間を形成する前記一対の金属材料における一方の重ね合わせ面には凸部が形成され、当該一対の金属材料における他方の重ね合わせ面には前記凸部の形状に対応する凹部が形成されていることである。
【0011】
この構成によると、一対の金属材料の一方の重ね合わせ面には凸部が形成されており、他方の重ね合わせ面にはその凸部の形状に対応する凹部が形成されているため、凸部と凹部とを嵌め合わせることで、一対の金属材料の重ね合わせ面同士を所定の位置で容易に位置決めすることができる。また、ねじや蝶番等の入り組んだ形状の組み合わせ機構を設けなくてもよいため、洗浄性に優れた組み合わせ機構を簡易に実現できる。
【0012】
本発明に係る骨コンポーネント成型ユニットにおける第3の特徴は、組み合わされた状態の前記成型器の一端側が挿入されるとともに、当該一端側の外形に対応して形成されている開口部を有するケースを更に備えていることである。
【0013】
この構成によると、組み合わされた状態の成型器の一端側の外形に対応して形成されている開口部を有するケースにこの一端側が挿入されることになる。これにより、骨コンポーネントの成型中において、組み合わされた状態の一対の金属材料同士が分離してしまうことを防止する機構を簡易な構造で実現できる。
【0014】
本発明に係る骨コンポーネント成型ユニットにおける第4の特徴は、前記成型器には、前記ケースに挿入される部分において、当該成型器が当該ケースに挿入される方向に沿って延びる溝が形成されていることである。
【0015】
この構成によると、成型器にはケース挿入方向に沿って延びる溝が設けられているため、成型器の表面に水分等が付着した状態でケース内に挿入されていた場合であっても、ケース内面と成型器表面とが密着して成型器がケースから抜けにくくなってしまうことを防止できる。
【0016】
本発明に係る骨コンポーネント成型ユニットにおける第5の特徴は、組み合わされた状態の前記成型器において、前記成型用空間に連通するとともに前記骨コンポーネントを形成するためのセメントが注入される注入口と、前記成型用空間に連通するとともに前記注入口から注入された前記セメントが漏出可能な漏出孔とが形成されていることである。
【0017】
この構成によると、注入口からセメントを注入するとまず成型用空間に充満し、成型用空間にて充満した後に溢れたセメントが漏出孔から排出されることになる。したがって、成型用空間にセメントを注入する際に、成型用空間内に空気が閉じ込められてしまうことを抑制できる。
【0018】
本発明に係る骨コンポーネント成型ユニットにおける第6の特徴は、組み合わされることで前記成型用空間を形成する前記一対の金属材料において、前記成型用空間と前記注入口および前記漏出孔とが半割状態で前記各金属材料にそれぞれ形成されていることである。
【0019】
この構成によると、注入口と漏出孔とが半割状態で各金属材料に形成されているため、各金属材料において注入口および漏出孔を形成している部分の洗浄をし易くすることができる。
【0020】
本発明に係る骨コンポーネント成型ユニットにおける第7の特徴は、前記漏出孔は、前記注入口から注入された前記セメントが複数の漏出経路を経て漏出可能なように複数の位置に設けられていることである。
【0021】
この構成によると、注入口から注入されたセメントが漏出する漏出孔が複数の位置に設けられているため、成型用空間にて充満した後に溢れたセメントをより効率よく漏出孔から排出し易くなり、セメント注入時に成型用空間内に空気が閉じ込められてしまうことをより抑制できる。
【0022】
本発明に係る骨コンポーネント成型ユニットにおける第8の特徴は、前記注入孔は組み合わされた状態の前記成型器の長手方向における中央部分に設けられ、前記漏出孔は当該成型器の両端部分にそれぞれ設けられていることである。
【0023】
この構成によると、成型器における長手方向中央部分に設けられた注入口から注入されたセメントは、成型器における長手方向両端部分に設けられた漏出孔へと分流されるように誘導されながら成型用空間内で充満され、その充満後に2つの漏出孔から排出されることになる。このため、成型用空間に充満後にセメントを2つの漏出孔から効率よく排出することができ、セメント注入時に成型用空間内に空気が閉じ込められてしまうことをより抑制できる。
【0024】
本発明に係る骨コンポーネント成型ユニットにおける第9の特徴は、前記成型器において、前記成型用空間を形成する部分の内側露出面には表面粗度を低下させる平滑化処理が施されていることである。
【0025】
この構成によると、成型用空間の内側露出面には表面祖度を低下させる平滑化処理が施されているため、骨コンポーネントと内側露出面との密着が生じにくくなる。このため、骨コンポーネントの成型の際に生じるセメントの収縮に伴って骨コンポーネントの表面を内側露出面から自然に剥離させることができ、成型後の離型作業をより容易に行うことができる。
【0026】
本発明に係る骨コンポーネント成型ユニットにおける第10の特徴は、前記平滑化処理は、鏡面加工、チタンコーティング、およびセラミックコーティングのうちの少なくともいずれかの処理であることである。
【0027】
この構成によると、内側露出面に対して鏡面加工、チタンコーティング、およびセラミックコーティングのうちの少なくともいずれかの処理を行うことで、離型作業を容易に行うことができるだけの十分な平滑化処理を施すことができる。
【0028】
本発明に係る骨コンポーネント成型ユニットにおける第11の特徴は、組み合わされることで前記成型用空間を形成する前記一対の金属材料における一方には貫通孔が設けられ、当該貫通孔は組み合わされた状態の当該一対の金属材料における他方の重ね合わせ面に向かって開口するように形成されており、先端側が前記他方の重ね合わせ面に当接可能なように前記貫通孔を貫通させることが可能な軸部を有する離型用部材を更に備えていることである。
【0029】
この構成によると、貫通孔に離型用部材を挿通させて他方の重ね合わせ面に当接させることで、成型時に骨コンポーネントの表面と成型用空間の内側露出面とが固着してしまったような場合であっても、容易に離型作業を行うことができる。
【0030】
本発明に係る骨コンポーネント成型ユニットにおける第12の特徴は、前記貫通孔の内周には雌ねじ部が形成されており、前記軸部の外周には前記雌ねじ部と螺合可能な雄ねじ部が形成されていることである。
【0031】
この構成によると、貫通孔内周の雌ねじ部に離型用部材の雄ねじ部を螺合させることで容易に離型作業を行うことができる。
【0032】
本発明に係る骨コンポーネント成型ユニットにおける第13の特徴は、前記成型用空間は、ステム部と骨頭部とを有する人工股関節用の骨コンポーネントの形状に対応した空間であって、前記成型器は、前記ステム部を形成するステム部用空間と前記骨頭部を形成する骨頭部用空間とにそれぞれ対応した矩形状部分を有し、前記成型器を構成する一対の前記各金属材料はいずれとも、半割状態の前記ステム部用空間と前記骨頭部用空間とを形成しており、前記各金属材料における前記ステム部用空間に対応した矩形状部分は平板状に形成されていることである。
【0033】
この構成によると、ステム部と骨頭部とを有する人工股関節用骨コンポーネント用の成型ユニットに関し、成型用空間のうちのステム用部空間に対応した矩形条部分が平板状に形成されているため、薄肉化による軽量化を図ることができるとともに、セメント固化時に発生する熱の発散効果を促進でき、さらに、成型作業時におけるハンドリング性の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しつつ説明する。本発明は、人工関節置換術が施術された部位に感染症が発症した際の治療のための手術において用いられ、その部位から抜去された人工関節が配置されていたその箇所に配置されるとともに薬剤が混入されている骨コンポーネントを成型する骨コンポーネント成型ユニットとして広く適用することができる。例えば、ステム部と骨頭部とを有する人工股関節用の骨コンポーネントの成型ユニットとして用いることができるが、その用途に限らず、より広範な用途に対して適用でき、多くの異なる環境および各種の目的に適用することができる。なお、本実施形態では、人工股関節用の骨コンポーネントの成型ユニットに適用される場合を例にとって説明する。
【0035】
図1は、本発明の一実施の形態に係る骨コンポーネント成型ユニット1(以下、単に、成型ユニット1という)を例示した斜視図であり、図2は成型ユニット1の分解斜視図である。図1および図2に示すように、成型ユニット1は、成型器11とケース12とを備えて構成されている。
【0036】
成型器11は、図2によく示すように、別体に設けられた一対の金属材料である第1成型器13および第2成型器14で形成され、これらの第1および第2成型器(13、14)が重ね合わされるように組み合わされることで内部に骨コンポーネントの成型用空間15を形成するようになっている。成型器11(第1成型器13、第2成型器14)を構成する金属材料としては、医療器材料として滅菌できる金属として、例えばステンレスやチタン合金などを用いることができる。
【0037】
成型用空間15は、図5に示すような骨頭部101aとステム部101bとを有する人工股関節用の骨コンポーネント101の形状に対応した空間を形成するようになっている。そして、成型器11は、骨頭部101aを形成する骨頭部15aに対応した矩形状部分(13a、14a)と、ステム部101bを形成するステム部用空間15bに対応した矩形状部分(13b、14b)とを有している(図2参照)。すなわち、成型器11を構成する一対の金属材料である第1成型器13および第2成型器14はいずれとも、半割状態のステム部用空間15aと骨頭部用空間15bとを形成している。また、第1および第2成型器(13、14)におけるステム部用空間15bに対応した矩形状部分(13b、14b)は、平板状に形成されている。なお、成型器11において、成型用空間15を形成する部分の内側露出面には表面粗度を低下させる平滑化処理が施されている。この平滑化処理としては、例えば、鏡面加工、チタンコーティング、およびセラミックコーティングのうちの少なくともいずれかの処理を施すことができる。
【0038】
図3は、第1成型器13の矩形状部分13bおよび第2成型器14の矩形状部分14bの一部を拡大して示す断面図である。図2および図3に示すように、組み合わされることで成型用空間15を形成する成型器11の一方である第2成型器14の重ね合わせ面16には凸部18が形成されており、成型器11の他方である第1成型器13の重ね合わせ面17には凸部18の形状に対応する凹部19が形成されている。なお、本実施形態では、凸部18および凹部19が台形形状で対応している場合を例示している。
【0039】
また、成型器11には、組み合わされた状態において、注入口20と漏出孔21とが形成されている(図1、図2参照)。注入口20は、成型用空間15に連通するとともに骨コンポーネント101を形成するためのセメントが注入されるように形成されている。この注入口20は、組み合わされた状態の成型器11の長手方向における中央部分に設けられている。一方、漏出孔21は、成型用空間15に連通するとともに注入口20から注入されたセメントが漏出可能なように形成されている。この漏出孔21は、注入口20から注入されたセメントが複数の漏出経路を経て漏出可能なように複数の位置に設けられている。具体的には、漏出孔21としては、成型器11の両端部分にそれぞれ設けられており、矩形状部分(13a、14a)に設けられた漏出孔21aと、矩形状部分(13b、14b)に設けられた漏出孔21bとが備えられている。そして、成型空間15と注入口20および漏出孔21とは、半割状態で第1成型器13および第2成型器14にそれぞれ形成されている。
【0040】
また、ケース12は、図2によく示すように、組み合わされた状態の成型器11の一端側が挿入されるとともに、その一端側の外形(略長方形)に対応して形成されている開口部22を有するように形成されている。このケース12は、成型器11の一端側が挿入される側とは反対側も開口した状態となった筒状に形成されている。なお、成型器11には、ケース12に挿入される部分において、その成型器11がケース12に挿入される方向に沿って延びる複数の溝23が形成されている。
【0041】
また、成型器11の一方である第2成型器14には貫通孔24が複数設けられている。この貫通孔24は、組み合わされた状態の成型器11での他方の第1成型器13における重ね合せ面17に向かって開口するように形成されている。そして、本実施形態の成型ユニット1は、図4に示す離型用部材25をさらに備えている。この離型用部材25は、その先端側が第1成型器13の重ね合せ面17に当接可能なように各貫通孔24を貫通させることが可能な軸部26と、軸部26が突設されるとともに指でのつまみ操作部になる頭部27とを有している。なお、各貫通孔24の内周には雌ねじ部が形成されており、軸部26の外周にはその雌ねじ部と螺合可能な雄ねじ部が形成されている。
【0042】
次に、成型ユニット1を用いて骨コンポーネント101を作成する方法について説明する。成型ユニット1は、人工股関節置換術(THA)が施された部位に感染症が発症した際の治療のための手術において、人工股関節が抜去された部位(感染症が発症した患部)に埋入するための骨コンポーネントを成型する際に用いられる。
【0043】
上記手術においては、組み立てられていない状態の成型ユニット1が、蒸気滅菌により滅菌された状態で手術室に準備される。そして、術者若しくはその助手(以下、術者等という)は、滅菌された成型ユニット1を手術室内にて組み立てる。この場合、術者等は、第1成型器13の凹部19と第2成型器14の凸部18とを嵌め合わせるようにして位置決めし、第1成型器13および第2成型器14を重ね合わせる。重ね合わされるように組み合わされた成型器11(第1成型器13、第2成型器14)は、ケース12の開口部22に挿入される。これにより、成型ユニット1の組立が完了する。
【0044】
組立が完了した成型ユニット1に対して、術者等は、抗生剤(薬剤)が混入された二液性のセメントであって所定時間混ぜ合わされた状態のものをセメントガン等を用いて注入口20から成型ユニット1内に圧入するように注入していく。注入口20から注入されたセメントは、まず成型用空間15内にて充填されていき、成型用空間15内にて充満すると漏出孔21(21a、21b)から漏出し始めることになる。この時点で、術者等はセメントガンの操作を中止し、成型用空間15内へのセメントの圧入作業を完了させる。
【0045】
そして、術者等は、所定の時間が経過して成型ユニット1内に充填されたセメントが固化するのを待って、成型器11をケース12から引き抜き、さらに第1成型器13と第2成型器14とを分離する。この成型器11の分離動作にともなって、成型用空間15内に形成されている骨コンポーネント101が成型器11から分離する離型作業も行われることになる。なお、第1成型器13の重ね合わせ面17と第2成型器14の重ね合わせ面16とが固着して分離しにくい場合には、術者等は、離型用部材25の頭部27を指でつまんで回しながら軸部26の雄ねじ部を第2成型器14の貫通孔24の雌ねじ部に螺合させていくことで、第1成型器13と第2成型器14とを分離させることができる。また、離型用部材25の軸部26を複数の貫通孔24に対して順番に又は繰り返しながら適宜螺合することにより、局部的に過大な集中荷重を発生させることを抑制しながら無理なく第1成型器13と第2成型器14とを分離させることができる。
【0046】
上記離型作業の後、成型ユニット1から取り出された骨コンポーネント101は、人工股関節が抜去された部位に埋入されることになる。なお、埋入された骨コンポーネント101は、所定の期間経過後に行われる手術により抜去されて、人工股関節と置換されることになる。
【0047】
以上説明した成型ユニット1によると、一対の金属材料である第1成型器13および第2成型器14が重ね合わされるように組み合わされることで内部に骨コンポーネント101の成型用空間15が形成されることになる。この成型用空間15に抗生剤が混入されたセメントが注入されて硬化することで、骨コンポーネント101が成型されることになる。第1成型器13および第2成型器14からなる成型器11は、金属材料で形成されているため、耐熱性が良好であり、成型中のセメントの発熱により変形して注入されたセメントが流出してしまうようなことがない。そして、1回の蒸気滅菌を施すことで成型器11の変形を招いてしまうこともなく、繰り返し蒸気滅菌を施して使用することができるため、低コストであるとともに、産業廃棄物の発生を抑制できて環境への配慮の観点においても優れた効果を発揮することができる。
また、別体に設けられた一対の金属材料として成型器11が形成されているため、重ね合わせた一対の金属材料(第1成型器13、第2成型器14)を引き離すだけで成型後の離型作業を容易に行うことができる。なお、成型中にセメントが発する熱によって加熱されることにより硬度低下に伴って形状維持が必要となるといった問題はそもそも生じないことになる。
【0048】
したがって、成型ユニット1によると、耐熱性が良好で、成型中の変形が生じにくく、蒸気滅菌を行う場合でも繰り返し使用が可能であって低コストで環境への配慮にも優れ、成型中に生じる熱による影響を受けることなく成型後の離型作業まで円滑に行うことができる骨コンポーネント成型ユニットを得ることができる。
【0049】
また、成型ユニット1によると、第2成型器14の重ね合わせ面16には凸部18が形成されており、第1成型器13の重ね合わせ面17には凸部18の形状に対応する凹部19が形成されているため、凸部18と凹部19とを嵌め合わせることで、第1および第2成型器(13、14)の重ね合わせ面同士を所定の位置で容易に位置決めすることができる。また、ねじや蝶番等の入り組んだ形状の組み合わせ機構を設けなくてもよいため、洗浄性に優れた組み合わせ機構を簡易に実現できる。
【0050】
また、成型ユニット1によると、組み合わされた状態の成型器11の一端側の外形に対応して形成されている開口部22を有するケース12にこの一端側が挿入されることになる。これにより、骨コンポーネント101の成型中において、組み合わされた状態の第1成型器13および第2成型器14が分離してしまうことを防止する機構を簡易な構造で実現できる。
【0051】
また、成型ユニット1によると、成型器11にはケース挿入方向に沿って延びる溝23が設けられているため、成型器11の表面に水分等が付着した状態でケース12内に挿入されていた場合であっても、ケース12の内面と成型器11の表面とが密着して成型器11がケース12から抜けにくくなってしまうことを防止できる。
【0052】
また、成型ユニット1によると、注入口20からセメントを注入するとまず成型用空間15に充満し、成型用空間15にて充満した後に溢れたセメントが漏出孔21から排出されることになる。したがって、成型用空間15にセメントを注入する際に、成型用空間15内に空気が閉じ込められてしまうことを抑制できる。
【0053】
また、成型ユニット1によると、注入口20と漏出孔21とが半割状態で第1成型器13および第2成型器14に形成されているため、第1成型器13および第2成型器14において注入口20および漏出孔21を形成している部分の洗浄をし易くすることができる。
【0054】
また、成型ユニット1によると、注入口20から注入されたセメントが漏出する漏出孔21が複数の位置に設けられているため、成型用空間15にて充満した後に溢れたセメントをより効率よく漏出孔21から排出し易くなり、セメント注入時に成型用空間15内に空気が閉じ込められてしまうことをより抑制できる。
【0055】
また、成型ユニット1によると、成型器11における長手方向中央部分に設けられた注入口20から注入されたセメントは、成型器11における長手方向両端部分に設けられた漏出孔(21a、21b)へと分流されるように誘導されながら成型用空間15内で充満され、その充満後に2つの漏出孔(21a、21b)から排出されることになる。このため、成型用空間15に充満後にセメントを2つの漏出孔(21a、21b)から効率よく排出することができ、セメント注入時に成型用空間15内に空気が閉じ込められてしまうことをより抑制できる。
【0056】
また、成型ユニット1によると、成型用空間15の内側露出面には表面祖度を低下させる平滑化処理が施されているため、骨コンポーネント101と内側露出面との密着が生じにくくなる。このため、骨コンポーネント101の成型の際に生じるセメントの収縮に伴って骨コンポーネント101の表面を内側露出面から自然に剥離させることができ、成型後の離型作業をより容易に行うことができる。
【0057】
また、成型ユニット1によると、貫通24に離型用部材25を挿通させて第1成型器13の重ね合わせ面17に当接させることで、成型時に骨コンポーネント101の表面と成型用空間15の内側露出面とが固着してしまったような場合であっても、容易に離型作業を行うことができる。また、貫通孔24内周の雌ねじ部に離型用部材25の雄ねじ部を螺合させることで容易に離型作業を行うことができる。
【0058】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能なものである。例えば、第1成型器13、第2成型器14、ケース12、凸部18、凹部19、貫通孔24、離型用部材25などの形状については、本実施形態において例示したものに限らず、特許請求の範囲に記載した限りにおいて広く変形して実施してもよい。また、ケース12、凸部18、凹部19、貫通孔24、離型用部材25については、必ずしもなくても実施できる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の骨コンポーネント成型ユニットは、人工関節置換術が施術された部位に感染症が発症した際の治療のための手術において用いられ、その部位から抜去された人工関節が配置されていたその箇所に配置されるとともに薬剤が混入されている骨コンポーネントを成型する骨コンポーネント成型ユニットとして広く適用することができる。例えば、ステム部と骨頭部とを有する人工股関節用の骨コンポーネントの成型ユニットとして用いることができるが、その用途に限らず、より広範な用途に対して適用でき、多くの異なる環境および各種の目的に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の一実施の形態に係る骨コンポーネント成型ユニットを例示する斜視図である。
【図2】図1に示す骨コンポーネント成型ユニットの分解斜視図である。
【図3】図2に示す骨コンポーネント成型ユニットにおける成型器の一部を拡大して示す断面図である。
【図4】図1に示す骨コンポーネント成型ユニットにさらに備えられる離型用部材を示す斜視図である。
【図5】図1に示す骨コンポーネント成型ユニットによって成型された骨コンポーネントを示す斜視図である。
【符号の説明】
【0061】
1 骨コンポーネント成型ユニット
11 成型器
12 ケース
13 第1成型器(一対の金属材料の他方)
14 第2成型器(一対の金属材料の一方)
15 成型用空間
101 骨コンポーネント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工関節置換術が施術された部位に感染症が発症した際の治療のための手術において用いられ、前記部位から抜去された人工関節が配置されていた当該部位に配置されるとともに薬剤が混入されている骨コンポーネントを成型する骨コンポーネント成型ユニットであって、
別体に設けられた一対の金属材料で形成され、当該一対の金属材料が重ね合わされるように組み合わされることで内部に前記骨コンポーネントの成型用空間を形成する成型器を備えていることを特徴とする骨コンポーネント成型ユニット。
【請求項2】
組み合わされることで前記成型用空間を形成する前記一対の金属材料における一方の重ね合わせ面には凸部が形成され、当該一対の金属材料における他方の重ね合わせ面には前記凸部の形状に対応する凹部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の骨コンポーネント成型ユニット。
【請求項3】
組み合わされた状態の前記成型器の一端側が挿入されるとともに、当該一端側の外形に対応して形成されている開口部を有するケースを更に備えていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の骨コンポーネント成型ユニット。
【請求項4】
前記成型器には、前記ケースに挿入される部分において、当該成型器が当該ケースに挿入される方向に沿って延びる溝が形成されていることを特徴とする請求項3に記載の骨コンポーネント成型ユニット。
【請求項5】
組み合わされた状態の前記成型器において、前記成型用空間に連通するとともに前記骨コンポーネントを形成するためのセメントが注入される注入口と、前記成型用空間に連通するとともに前記注入口から注入された前記セメントが漏出可能な漏出孔とが形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の骨コンポーネント成型ユニット。
【請求項6】
組み合わされることで前記成型用空間を形成する前記一対の金属材料において、前記成型用空間と前記注入口および前記漏出孔とが半割状態で前記各金属材料にそれぞれ形成されていることを特徴とする請求項5に記載の骨コンポーネント成型ユニット。
【請求項7】
前記漏出孔は、前記注入口から注入された前記セメントが複数の漏出経路を経て漏出可能なように複数の位置に設けられていることを特徴とする請求項6に記載の骨コンポーネント成型ユニット。
【請求項8】
前記注入孔は組み合わされた状態の前記成型器の長手方向における中央部分に設けられ、前記漏出孔は当該成型器の両端部分にそれぞれ設けられていることを特徴とする請求項7に記載の骨コンポーネント成型ユニット。
【請求項9】
前記成型器において、前記成型用空間を形成する部分の内側露出面には表面粗度を低下させる平滑化処理が施されていることを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載の骨コンポーネント成型ユニット。
【請求項10】
前記平滑化処理は、鏡面加工、チタンコーティング、およびセラミックコーティングのうちの少なくともいずれかの処理であることを特徴とする請求項9に記載の骨コンポーネント成型ユニット。
【請求項11】
組み合わされることで前記成型用空間を形成する前記一対の金属材料における一方には貫通孔が設けられ、当該貫通孔は組み合わされた状態の当該一対の金属材料における他方の重ね合わせ面に向かって開口するように形成されており、
先端側が前記他方の重ね合わせ面に当接可能なように前記貫通孔を貫通させることが可能な軸部を有する離型用部材を更に備えていることを特徴とする請求項1乃至請求項10のいずれか1項に記載の骨コンポーネント成型ユニット。
【請求項12】
前記貫通孔の内周には雌ねじ部が形成されており、前記軸部の外周には前記雌ねじ部と螺合可能な雄ねじ部が形成されていることを特徴とする請求項11に記載の骨コンポーネント成型ユニット。
【請求項13】
前記成型用空間は、ステム部と骨頭部とを有する人工股関節用の骨コンポーネントの形状に対応した空間であって、
前記成型器は、前記ステム部を形成するステム部用空間と前記骨頭部を形成する骨頭部用空間とにそれぞれ対応した矩形状部分を有し、
前記成型器を構成する一対の前記各金属材料はいずれとも、半割状態の前記ステム部用空間と前記骨頭部用空間とを形成しており、
前記各金属材料における前記ステム部用空間に対応した矩形状部分は平板状に形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項12のいずれか1項に記載の骨コンポーネント成型ユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−190059(P2007−190059A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−8400(P2006−8400)
【出願日】平成18年1月17日(2006.1.17)
【出願人】(504418084)日本メディカルマテリアル株式会社 (106)
【Fターム(参考)】