説明

骨セメント注入装置

【課題】 血液の混入および脊柱管内への漏出を防止しながら脊椎損傷部位に骨セメントを注入することができる装置を提供すること。
【解決手段】 本発明は、注入管と、該注入管の一方の端に脱着可能なように取り付けられたバルーンとを備え、該バルーンは生体吸収性材料から形成されていることを特徴とする、骨セメント注入装置を提供する。本発明の骨セメント注入装置を用いて、治療すべき脊椎損傷部位にバルーンを挿入し、次にこのバルーン内に骨セメントを注入する。このことにより、血液が骨セメントに混入すること、および骨セメントが脊柱管内へ漏出することを防ぎながら、脊椎損傷部位の椎体に骨セメントを注入することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脊椎損傷を治療するための骨セメント注入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
骨粗鬆症による椎体の圧迫骨折や骨折後の偽関節に対する治療方法として、リン酸カルシウムなどの骨セメントを用いた椎体再建術が広く用いられるようになってきた。この方法では、流動可能な骨セメントを椎体に注射すると、骨セメントは椎体内で硬化して強度を持ち、椎体を内側から支えて椎体の崩壊を防ぐことができる。この術式の目的は、比較的小さい侵襲で椎体を安定化させ、早期リハビリを可能とすることである。このような椎体再建術において用いるための各種の骨セメント注入装置が開発されている(例えば、特許文献1および2を参照)。
【0003】
さらに、最近では、圧迫骨折セメント固定法(Kyphoplasty)が臨床応用されている。この方法では、まず、骨折した椎体内にバルーンを挿入し、空気などでバルーンを膨らませることにより海綿状組織中に空隙を生じさせると同時に、椎体のひびや変形を修復する。次にバルーンを回収した後に、この空隙に骨セメントを注入して硬化させる。
【0004】
しかし、実際に手術を行う際には、骨セメントを損傷部位に注入するときに血液がセメント内に混入するために、骨セメントの力学的強度が低下し、このことにより経時的に椎体高が減少するという問題点があった。また、骨セメントを注入するとき、または注入した後に、骨セメントが脊柱管内に漏出し神経障害を生じたり、脆弱化した椎体前壁を破り前方に漏出し血管損傷を生じる危険性があった。
【特許文献1】特開2003−235858
【特許文献2】特開2004−313738
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、血液の混入および脊柱管内や椎体前方への漏出を防止しながら脊椎損傷部位に骨セメントを注入することができる装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、注入管と、該注入管の一方の端に脱着可能なように取り付けられたバルーンとを備え、該バルーンは生体吸収性材料から形成されていることを特徴とする、骨セメント注入装置を提供する。本発明の骨セメント注入装置を用いて、治療すべき脊椎損傷部位に経椎弓根的に椎体内にバルーンを挿入し、次にこの骨セメント注入装置の注入管の他方の端に、骨セメント注入用シリンジを取り付けて、バルーン内に骨セメントを注入する。このことにより、血液が骨セメントに混入すること、および骨セメントが脊柱管内へ漏出することを防ぎながら、損傷した椎体に骨セメントを導入することができる。さらに本発明においては生体吸収性材料のバルーンを用いるため、治療に必要な量の骨セメントを損傷部位に注入した後、バルーンを損傷部位に留置することができる。
【0007】
本発明の好ましい態様においては、本発明の骨セメント注入装置のバルーンは、骨セメントを注入したときに、注入管の軸方向と比較して半径方向により大きく膨張する皮膜から形成されている。このことにより、脊椎損傷部位に挿入されたバルーンは、椎体前・後壁に過剰な圧がかかることを防止し、かつ頭尾側方向、つまり骨折を整復する方向に圧が加わるように、椎体内に骨セメントを注入することができる。
【0008】
本発明のさらに別の好ましい態様においては、本発明の骨セメント注入装置の注入管は、外管と、外管に対して軸方向および回転方向に可動の内管とから構成され、内管にはバルーンが取り付けられている。このことにより、バルーンの挿入位置やバルーンの膨張の方向および程度を微調整することが容易になる。
【0009】
本発明の骨セメント注入装置を用いることにより、血液の混入を防止しながら脊椎損傷部位に骨セメントを注入することができる。
【0010】
本発明の骨セメント注入装置はさらに、骨の欠損部、例えば、大腿骨頭部下部や癌を切除した後の空洞部、歯槽骨の欠損部、歯槽膿漏によって生じた骨欠損部などに対する骨充填剤として骨セメントを注入する際にも使用することができる。このことにより、血液、体液、漏出液などとセメントが混合することによる硬化時間の長期化や硬化強度の低下を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の好ましい実施の形態を説明する。
【0012】
図1は、本発明の骨セメント注入装置の構造を示す。骨セメント注入装置10は、注入管20と、バルーン30とを備え、バルーン30は、注入管20の一方の端に脱着可能なように取り付けられている。本発明の骨セメント注入装置10を用いて骨セメントを脊椎損傷部位に注入するには、治療すべき脊椎損傷部位にバルーンが位置するように、骨セメント注入装置を患者の体内に挿入する。次に、注入管20の他方の端に骨セメントを入れたシリンジ40を装着して、注入管20を通してバルーン30内に骨セメントを注入する。
【0013】
注入管20は生体内に挿入しうる中空の管であって、金属製でもプラスチック、シリコン等の非金属製でもよく、適用する施術法によって剛性または弾性のいずれの管も用いることができる。一般に注射針やカテーテルとして医療用に用いられているものであれば、いずれの管も用いることができる。注入管20の好ましい大きさは、内径が約5〜40mmであり、外径は内径より約2〜5mm太く、長さは1〜30cmである。また、歯槽骨などのより小さい部位において用いる場合には、その部位に適合した大きさの注入管を用いることができる。
【0014】
バルーン30は、内部に圧力を加えると膨張することができる皮膜からなり、この皮膜は生体吸収性材料から形成されている。生体吸収性材料とは、生体内で加水分解および酸素分解により分解されるか、あるいは、生体のもつ生理活性物質、例えば酵素等の働きによって加水分解される高分子材料である。具体的にはキチン、キトサン、ヒアルロン酸、アルギン酸、デンプン、ペクチン等の多糖類、ゼラチン、コラーゲン、フィブリン、アルブミン等のタンパク質、ポリ乳酸、ポリ−γ−グルタミン酸、およびこれらの共重合体、ポリ−L−リジン、ポリアルギニンなどのポリアミノ酸、乳酸、グリコール酸などからなる生体吸収性のオリゴマー、またはポリエチレングリコール、そのプロピレングリコールとの共重合体などの水溶性のオリゴマー、ならびにそれらの各種の誘導体が挙げられる。生体吸収性材料のバルーンを用いることにより、治療に必要な量の骨セメントを損傷部位に注入した後、バルーンをその部位に留置することができる。バルーンは、骨セメントが硬化した後、体内で分解吸収されて消失する。バルーンの好ましい大きさとしては、長径(頭尾側方向)30〜40mm、短経(前後方向)20〜25mmの範囲であり、厚さは1〜250μmの範囲である。厚さはバルーンが分解吸収されるまでの所望の時間に応じて、適宜選択することができる。また、バルーンの部分によって厚みを変えることもできる。また、歯槽骨などのより小さい部位において用いる場合には、その部位に適合した大きさのバルーンを用いることができる。
【0015】
本明細書において用いる場合、骨セメントとは患者の骨の損傷を修復して治療するために用いることができる医療用のセメントをいう。一般に、骨セメントは、セメント材料と硬化剤とを混合することにより調製し、混合直後は流動性があり、患部に注入するとその部位で硬化する性質を有する。骨セメントの好ましい例としては、リン酸カルシウム、ヒドロキシアパタイト、メタクリル酸樹脂等が挙げられる。例えば、市販のBIOPEX−Rを好適に用いることができるが、硬化型の骨セメント材料であればあらゆる材料を本発明の目的に利用することができる。
【0016】
シリンジ40としては、市販の20−30cc程度の大きさのシリンジを用いることができ、例えば、Pallax社製加圧注入器を用いることができる。シリンジ40は注入管20と一体となっていてもよく、あるいは、注入管20とバルーン30とを体内に挿入した後に注入管20の他方の端に取り付けてもよい。一般には骨セメントは材料を混合してから短時間で硬化するため、患者体内でのバルーンの位置を定めた後に、シリンジを装着して速やかに骨セメントを注入することが好ましい。
【0017】
図2は、本発明の骨セメント注入装置を用いて脊椎損傷部位の椎体100に骨セメント50を注入する施術の模式図を示す。図2aおよび図2bは、それぞれ骨セメント注入の前後の椎体の様子を表す。骨セメントを注入することにより、バルーンが膨張し、椎体が内側から押し広げられて損傷箇所が修復される。次に、注入管20をバルーン30からとりはずして、バルーン30を体内に留置する。その後、骨セメントは硬化して強度をもち、椎体を支持することができる。さらに時間が経過すると、バルーン30は生体内で分解吸収されて消失する。施術においては、バルーンまたは骨セメントを放射線造影剤などで標識し、医師がバルーンや骨セメントの注入の状況をモニターしながら施術を行うことができる。
【0018】
本発明においては、従来のように椎体に直接骨セメントを注入するのではなく、バルーン内に骨セメントを注入するため、脊椎損傷部位で血液が骨セメントに混入することを防ぐことができ、したがって、混入した血液による骨セメントの強度の低下を防止することができる。さらに、本発明にしたがってバルーン内に骨セメントを注入することにより、骨セメントが脊柱管内へ漏出して、神経障害を引き起こすリスクを低下させることができる。
【0019】
図3は本発明の1つの好ましい態様を示す。この態様においては、本発明の骨セメント注入装置のバルーン30は、注入管の軸方向と比較して半径方向により大きく膨張することができる。このことにより、脊椎損傷部位に挿入されたバルーンが脊椎後部の神経を過度に圧迫することなく、椎体内に骨セメントを注入することができる。特定の方向に向かってより大きく膨張するバルーンを作製する技術は当該技術分野においてよく知られており、例えば、より大きく膨張させたい部分の皮膜の肉厚をそうでない部分の肉厚より薄く形成することにより作製することができる。このような皮膜の肉厚の異なるバルーンは、所望の肉厚が得られるように成形型を設計することにより、あるいは溶解または溶融した材料に型を浸漬した後に引き上げ、硬化または乾燥させる際に重力を利用して下部の厚みを大きくすることにより、容易に形成することができる。また、複数の材料を組み合わせることにより、または高分子の硬化度を変化させることによっても、肉厚の異なる皮膜を形成することができる。例えば、熱可塑性樹脂のインジェクション成形とブロー成形とを適宜組み合わせることにより、皮膜の厚みを変化させる方法が知られている(例えば特開2000−175938)。
【0020】
本発明のさらに別の好ましい態様においては、本発明の骨セメント注入装置の注入管は、外管と、外管に対して軸方向および回転方向に可動の内管とから構成され、内管にはバルーンが取り付けられている。このことにより、脊椎損傷部位にバルーンを挿入する際に、内管を外管に対して前後または回転して動かすことによりバルーンの挿入位置を微調整することができる。さらに、バルーン内に骨セメントを注入する際にも、損傷部位の状態に合わせてバルーンの膨張の方向および程度を微調整することができる。このような、二重の管からなる注入管の構成および製造方法は、例えば、カテーテルの分野でよく知られている。
【0021】
以下に実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例1】
【0022】
椎体へのバルーンの挿入およびバルーン内への骨セメントの注入
ブタ腰椎モデルを用いて、腰椎にバルーンを挿入し、骨セメントを注入する実験を行った。
【0023】
ブタの腰椎の椎骨を矢状面で縦割し、内径10mmのステンレス製円筒を椎弓根から腰椎の椎体に挿入した。次に、先端にバルーンを装着した内筒(内径3.5mm・外径3.8mm、非金属製)を円筒を通して椎体に挿入した。バルーンとしてはラテックス製コンドームを用いた。リン酸カルシウム骨セメント(BIOPEX−R)をシリンジに入れ、ピストンを押し出して骨セメントをバルーン内に注入した。バルーンは椎体内で上下方向に膨張した。バルーン内の骨セメントは約10分後に硬化し、バルーンからの骨セメントの漏出は観察されなかった。
【実施例2】
【0024】
バルーンモデルを用いて形成した骨セメントの強度の測定
血液の混入による骨セメントの強度の変化を試験した。椎体のモデルとして、直径15mm、高さ15mmの円柱穴をもつアクリル製ブロックを作製した。円柱穴には側方穴(直径10mm)よりヒト新鮮血2mlを注入し、次に注射器を用いて側方穴から骨セメントを充填した。このとき、過剰の血液は外に押し出された。骨セメントを円柱穴に直接注入することにより血液と混合するモデルと、コンドームを用いて血液と混合しないモデルを作製した。骨セメントを調製し、円柱穴に注入した後、ブロックを37℃の恒温槽に保存し、24,72および120時間後に取り出して、圧縮試験機により力学的破壊強度を計測した。
【0025】
それぞれの骨セメントの破壊強度と経過時間との関係を図4に示す。実験開始後72時間では破壊強度に大きな差は見られないが、120時間後には10MPa以上の違いが見られた。バルーンを用いない場合、硬化後の骨セメントの形状は不整であり、多数の亀裂を有していた。亀裂の箇所は応力が集中しやすい場所となるため、力学的強度が大きく低下したと考えられる。なお、バルーンを用いた場合であっても、文献値に比べ、約半分程度の破壊強度しか得られなかった。これは、この実験で作製した骨セメントが均一な材料特性を持つ理想的な試験片ではないためであると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の骨セメント注入装置は、脊椎損傷の治療に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1は、本発明の骨セメント注入装置の1つの態様を示す。
【図2】図2は、本発明の骨セメント注入装置を用いて椎体に骨セメントを注入する工程を示す。
【図3】図3は、本発明の骨セメント注入装置の別の態様を示す。
【図4】図4は、骨セメントの破壊強度を示すグラフである。
【符号の説明】
【0028】
10 骨セメント注入装置
20 注入管
30 バルーン
40 シリンジ
50 骨セメント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
注入管と、該注入管の一方の端に脱着可能なように取り付けられたバルーンとを備え、該バルーンは生体吸収性材料から形成されていることを特徴とする骨セメント注入装置。
【請求項2】
該バルーンが、バルーン内に骨セメントを注入したときに、注入管の軸方向と比較して半径方向により大きく膨張する皮膜から形成されている、請求項1記載の骨セメント注入装置。
【請求項3】
さらに該注入管の他方の端に取り付けられた骨セメント注入用シリンジを有する、請求項1または2に記載の骨セメント注入装置。
【請求項4】
該注入管が、外管と、バルーンを取り付けた内管とから構成される二重管である、請求項1−3のいずれかに記載の骨セメント注入装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−247257(P2006−247257A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−71119(P2005−71119)
【出願日】平成17年3月14日(2005.3.14)
【出願人】(503265876)株式会社メドジェル (15)
【Fターム(参考)】