説明

骨溶解治療

インターロイキン−1レセプターアンタゴニスト(IL−1ra)を使用する骨溶解に対する方法および治療。インターロイキン−1レセプターアンタゴニスト生産の活性化は、インターロイキン−1レセプターアンタゴニストに富む溶液を生産するために、脂肪組織、脂肪細胞、全血、多血小板血漿、および/または分離白血球をポリアクリルアミドビーズとともにインキュベートすることを含む。インターロイキン−1レセプターアンタゴニスト生産の活性化は、脂肪組織、脂肪細胞、全血、多血小板血漿、および/または分離白血球が装入された植込み型装置を使用することを含む。患者において人工関節の部位における骨溶解を治療するための方法は、インターロイキン−1レセプターアンタゴニストに富む溶液および/または植込み型装置それぞれを投与することおよび/または挿入することを含む。

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
緒言
発明の分野
本技術は、患者の人工関節インプラントから生じる摩耗破片(wear debris)に関連している骨溶解を含む骨溶解の治療に関するものである。
【0002】
発明の背景
骨溶解は、骨の溶解、特に、骨からのカルシウムの除去または喪失を伴う。人工関節からの摩耗破片、例えば、チタンおよびポリエチレンの微粒子などは、罹患関節において炎症カスケードを起こす可能性がある。例えば、Raderら, Cytokine response of human macrophage-like cells after contact with polyethylene and pure titanium particles, J. Arthroplasty: vol. 14, no. 7 (1999)、 Kaufmanら, Human macrophage response to UHMWPE, TiAlV, CoCr, and alumina particles: analysis of multiple cytokines using protein assays, J. Biomed. Mat. Res. A: DOI 10.1002/jbm.a.、 およびMatthewsら, Comparison of the response of primary human peripheral blood mononuclear phagocytes from different donors to challenge with model polyethylene particles of known size dose, Biomaterials: vol. 21 (2000)において記載されているように、ヒトマクロファージは、様々な種類の摩耗破片に反応する可能性がある。続いて起こる炎症によってインプラント(implant)を再置換することになる場合がある。
【0003】
サイトカイン、例えば、インターロイキン−1などは、炎症カスケードに関与し、幅広い種類の細胞に作用し、例えば、発熱、サイトカイン生産、内皮遺伝子調節、走化性、白血球付着、および繊維芽細胞活性化などの多くの炎症反応を誘導することができる。骨溶解に関連する炎症カスケードにおけるサイトカインの役割に影響を与えるための方法および治療は有益なものとなる。そのような治療は、再置換が必要になるまでの時間を延長し、またはカルシウム喪失を防いで再置換を不要にする可能性がある。
【発明の概要】
【0004】
本技術は、骨溶解を治療するための、インターロイキン−1レセプターアンタゴニスト(IL−1ra)に富む溶液およびIL−1raを生産するための植込み型装置(implantable device)を使用する治療およびその方法を提供する。その溶液および/または装置は、人工関節の摩耗からの破片が炎症を起こす、または炎症を引き起こし始めているヒトまたは動物の対象の人工関節インプラント部位に投与される。本治療および方法は、摩耗破片から生じる炎症の軽減において有用である。よって、本治療および方法は、骨溶解の進行を軽減することができ、また、本治療および方法は、骨溶解を予防するためにも使用可能である。
【0005】
インターロイキン−1レセプターアンタゴニストは、ポリアクリルアミドビーズで脂肪組織、脂肪細胞、全血、多血小板血漿、および/または白血球を活性化することによって、またはIL−1raをin vivoで生産するためにこれらの材料を植込み型装置に装入する(loading)ことによって、生産することができる。自家移植治療を提供するためには、脂肪組織、脂肪細胞、全血、多血小板血漿、および/または白血球をその対象から得ればよい。
【図面の簡単な説明】
【0006】
本技術は、詳細な説明および添付の図面からより十分に理解されるようになる。
【図1】本技術による、IL−1ra溶液を生産するための方法の概略図である。
【図2】本技術の実施形態による、IL−1raを送達するための方法の概略図である。
【図3】本技術の一つの実施形態による、IL−1raを送達するための典型的装置の部分断面図である。
【図4】本技術の実施形態による、植込み型装置の膝関節への投与の例示である。
【0007】
本明細書において示された図は、ある特定の実施形態を説明するために、本技術のものの間で材料および方法の一般的特徴を例示することを目的としていることに留意すべきである。これらの図は、いかなる所定の実施形態の特徴をも正確に反映することはできず、必ずしも特定の実施形態をこの技術の範囲内で定義し、または限定するものではない。
【発明の具体的説明】
【0008】
次の技術の説明は、1以上の発明の対象、製造、および使用の性質を単に例示するものであり、この出願においてあるいはこの出願の優先権を主張して提出された他の出願またはそれらの出願から発行される特許において特許請求された任意の特定発明の範囲、用途、または使用を限定するものではない。本明細書において示された技術の説明の概説では、次の定義と限定されないガイドラインを考慮しなければならない。
【0009】
本明細書において用いられる見出し(「緒言」および「発明の概要」など)および小見出しは、開示の範囲内での主題の一般的構成だけを目的としており、技術またはその任意の態様の開示を限定するものではない。特に、「緒言」において開示される内容は新規技術を含むものであり、先行技術を引用するという性質のものはない。「発明の概要」において開示される内容は、技術またはその任意の実施形態の全範囲を網羅的にまたは完全に開示するものではない。便宜上、この明細書の項中で材料を特定の有用性があるとして分類しまたは論じるが、その材料が任意の所定の組成物において使用される場合に、その材料が本明細書におけるその分類に従って必ずまたは単独で作用するに違いないと断定するべきではない。
【0010】
本明細書における参考文献の引用は、それらの参考文献が、先行技術であり、または本明細書において開示される技術の特許性に関連していることを認めるという性質のものではない。この明細書の「発明の具体的説明」項において引用される総ての参考文献は、これらを全体として引用することにより本明細書の開示の一部とされる。
【0011】
技術の実施形態を示しているが、説明および具体例は、例示のみを目的としたものであり、技術の範囲を限定するものではない。さらに、記述された特徴を有する多数の実施形態の引用は、追加の特徴を有する他の実施形態、または記述された特徴の異なる組合せを組み込んだ他の実施形態を除外するものではない。具体例は、この技術の装置およびシステムの製造および使用の方法の例示のために提供され、特に明記されない限り、この技術の所定の実施形態が製造されたまたは検証されたこと、あるいは製造されていないまたは検証されていないことを意味するものではない。
【0012】
本明細書において言及されるように、総ての組成百分率は、特に断りのない限り、全組成の重量基準による。本明細書において用いられるように、「含む(include)」という単語およびその変形は非限定的であることが意図されており、リストにおける項目の引用により、この技術の材料、組成物、装置、および方法において同様に有用であり得る他の類似の項目は排除されない。同様に、「できる(can)」および「してよい(may)」という用語およびそれらの変形は非限定的であることが意図されており、ある実施形態がある特定の要素または特徴を含んでなることができるまたは含んでいてもよいという引用により、それらの要素または特徴を含まない本技術の他の実施形態は排除されない。
【0013】
本明細書において用いられる「一つの(a)」および「一つの(an)」は、「少なくとも一つの(at least one)」項目が存在すること、可能な場合には、複数の同様の項目が存在し得ることを示している。値に付けられる場合の「約(about)」は、計算または測定では値の多少の不正確さを許容する(値の正確さにいくらか近づいており、その値におおよそまたは合理的に近く、近似的である)ことを示している。いくつかの理由で、「約(about)」によってもたらされる不正確さが当技術分野でこのような通常の意味で理解されない場合には、本明細書において用いられる「約(about)」は、そのようなパラメーターを測定するまたは使用する通常の方法によって起こる可能性がある変動を少なくとも示している。加えて、範囲の開示は、全範囲内での総ての個別値および細分された範囲の開示を含む。
【0014】
本技術は、患者において人工関節の部位における摩耗破片から生じる骨溶解および炎症の治療に関する。インターロイキン−1レセプターアンタゴニスト(IL−1ra)を使用する治療方法が含まれ、その方法には、治療のためのIL−1raを生産する方法、そのような方法によって生産されるIL−1raを含んでなる組成物、および治療方法におけるIL−1raの生成、単離、および投与のための装置が含まれる。患者において人工関節インプラントの部位における摩耗破片による骨溶解を治療するための方法は、インターロイキン−1レセプターアンタゴニストに富む溶液を、人工関節インプラントの部位の摩耗破片にまたは該摩耗破片に近接して(proximate to)投与することを含む。
【0015】
本方法および治療は、インターロイキン−1の作用および炎症カスケードにおけるその役割に影響を与えるものである。インターロイキン−1(IL−1)には、リンパ球およびマクロファージを刺激し、食細胞を活性化し、プロスタグランジン生産を増加させ、骨関節の変性に寄与し、骨髄細胞増殖を増加させることができ、多くの慢性炎症の病態に関与するサイトカインのファミリーが含まれる。IL−1は、マクロファージ、単球、および樹状細胞によって生成され、感染に対する炎症応答の一部である。
【0016】
IL−1の作用様式は、インターロイキン−1レセプターアンタゴニストタンパク質(IL−1ra、「IRAP」としても知られる)によって影響を与えることができる。IL−1raは、IL−1と、細胞表面上の同じレセプターと結合し、それによってIL−1がその細胞にシグナルを送るのを妨げる。IL−1raは、単球、マクロファージ、好中球、多形核細胞(PMN)、および他の細胞を含む白血球から分泌され、Arend WP, Malyak M, Guthridge CJ, Gabay C (1998) " Interleukin-1 receptor antagonist: role in biology" Annu. Rev. Immunol. 16: 27-55によって記載されているように、種々のIL−1関連の免疫応答および炎症応答を調整することができる。IL−1raの生産は、付着免疫グロブリンG(IgG)、他のサイトカインおよび細菌成分またはウイルス成分を含むいくつかの物質によって刺激を受ける。IL−1raは、関節炎、大腸炎および肉芽腫性肺疾患において重要な天然の抗炎症性タンパク質である。
【0017】
IL−1raは、IL−1が重要な役割を果たす自己免疫疾患である関節リウマチの治療において使用することができ、その疾患と関連がある炎症および軟骨破壊を低減させる。例えば、Kineret(商標)(アナキンラ)は、IL−1raの組換え非グリコシル化型(Amgen Manufacturing, Ltd., Thousand Oaks, California)である。様々な組換え型インターロイキン−1阻害薬および治療の方法は、2003年7月29日発行の米国特許第6,599,873号公報、Sommerら、1991年12月24日発行の米国特許第5,075,222号公報、Hannumら、および2005年9月8日公開の米国出願公開第2005/0197293号公報、Mellisらに記載されている。加えて、体液からIL−1raを生産するための方法は、自己体液の使用を含み、そのような方法は、2003年9月23日発行の米国特許第6,623,472号公報、Reinckeら、2004年3月30日発行の米国特許第6,713,246号公報、Reineckeら、および2004年7月6日発行の米国特許第6,759,188号公報、Reineckeらに記載されている。また、IL−1raは、2000年8月1日発行の米国特許第6,096,728号公報、Collinsらに記載されているように、ヒアルロン酸を含む組成物の一部としても送達された。
【0018】
本方法および治療は、患者の脂肪組織、脂肪細胞、全血、多血小板血漿、および/または白血球から生産することができるIL−1raに富む溶液を使用し、それによって、自己由来IL−1ra源を提供する。IL−1raに富む溶液は、人工関節の部位の摩耗破片にまたは該摩耗破片に近接して投与される。IL−1raは、炎症性サイトカイン(例えば、IL−1)のインターロイキン−1レセプターとの結合を遮断するように作用し、それによって、その部位での炎症の進行を遅らせる。例えば、自己由来IL−1raに富んだ溶液は患者自身の脂肪組織および/または白血球を用いて生産することができ、その溶液を罹患人工関節に注射して、骨溶解を治療し、人工関節インプラントの再置換の必要性を遅らせまたはその必要性がないようにすることができる。
【0019】
インターロイキン−1レセプターアンタゴニストに富む溶液は、2009年2月27日提出のPCT出願第PCT/US2009/035541号公報、2009年8月27日提出の米国出願第12/549,015号公報、および2009年8月27日提出の米国仮出願第61/237,484号公報に記載されているように生産することができる。
【0020】
図1に関し、骨溶解の治療方法100は、概略図で示される態様を含むことができる。脂肪組織は、工程105において患者から分離される。この脂肪組織は、図のように、工程130で直接使用してよく、工程110で示されるように、その脂肪組織を処理して脂肪細胞を準備してもよい。脂肪組織とは、任意の脂肪組織、白色脂肪組織、または褐色脂肪組織のいずれかを意味し、その脂肪組織は、皮下、大網/内臓、乳房、生殖腺の脂肪組織または他の脂肪組織の部位から得られるものでよい。いくつかの実施形態では、脂肪組織は、吸引脂肪組織切除術または脂肪吸引術によって分離されたヒト皮下脂肪から得られるものである。脂肪細胞は、任意の好適な方法を用いて脂肪組織および/または組織部分から分離されたおよび/または遊離されたものでよく、そのような方法には、機械による破壊遠心分離などの当技術分野で公知の方法が含まれる。脂肪細胞はまた、酵素消化を用いて分離することもできる。例えば、脂肪細胞は、脂肪吸引物から分離し、音波処理および/または酵素消化によって処理し、遠心分離によって濃縮することができる。脂肪組織から分離された脂肪細胞は、洗浄し、ペレット化してよい。
【0021】
脂肪組織および脂肪細胞を分離するための方法は、次の態様を含むことができる。脂肪組織は、吸引による脂肪吸引チューメセント法によって、吸引ホースおよび脂肪吸引カニューレに取り付けられている専用の収集容器内に収集される。収集容器は、ガーゼタイプのグリッドフィルターを備えていてよく、そのフィルターはチューメセント液を通過させ、固形脂肪組織を保持する。脂肪組織収集後、収集容器は吸引装置から外され、遠心分離装置に再び取り付けられる。フィルターユニットは、およそ100マイクロメートルの孔径を有するフィルターをさらに備えていてよい。一度、脂肪組織が収容されている収集容器が遠心分離装置に取り付けられたら、脂肪組織は音波処理される。音波処理後、装置全体が遠心バケットに挿入され、例えば、300×gで5分間遠心分離機にかけられる。遠心分離後、収集容器はフィルターユニットとともに取り外され、廃棄することができる。脂肪細胞を含有するペレットは、その後、生体適合性溶液、例えば、自己血漿、血漿濃縮物、および多血小板血漿などに再懸濁することができる。
【0022】
脂肪組織はまた、消化酵素や、隣接する細胞間の結合を弱めるキレート化剤で処理してよく、目に見えるほどの細胞破砕なしに、脂肪組織を、脂肪細胞を含む単一細胞の懸濁液に分散させることが可能である。解離後、細胞と解離組織の懸濁液から脂肪細胞を分離することができる。
【0023】
脂肪組織および脂肪細胞の分離および/または分画のための様々な方法および装置には、Leachらの米国特許第7,374,678号公報および同第7,179,391号公報、およびLeachらの米国出願公開第2009/0014391号公報、同第2008/0283474号公報および同第2007/0208321号公報によって記載されているものが含まれる。脂肪細胞を分離するために、GPS(商標)Platelet Concentrate System(Biomet, Warsaw, IN)などの装置を使用してよい。これらの方法は、脂肪組織を得るために患者において脂肪吸引を行うことにより脂肪細胞を得ること、その脂肪組織を酵素によって消化すること、およびこれらの装置を使用して脂肪細胞を分離しことおよび/または洗浄することを含み得る。
【0024】
全血は、医学的技術において公知の方法を使用して、工程115において示されるように、患者から分離される。その全血は、工程130で直接使用してよい。加えて、その全血は、120において示されるように、処理して多血小板血漿(PRP)を得てもよく、125において示されるように、処理して白血球を分離してもよい。例えば、PRPは、白血球および血小板を含有しており、白血球および血小板は、全血の沈降分離後バフィーコート層に存在する。
【0025】
工程120において多血小板血漿を分離するために使用し得る装置も、例えば、2002年6月4日発行の米国特許第6,398,972号公報、Blasettiら、2003年11月18日発行の米国特許第6,649,072号公報、Brandtら、2004年9月14日発行の米国特許第6,790,371号公報、Dolocek、2006年3月14日発行の米国特許第7,011,852号公報、Sukavaneshvarら、2004年12月16日公開の米国出願公開第2004/0251217号公報、Leachら(引用することにより本明細書の開示の一部とされる)、2005年5月26日公開の米国出願公開第2005/0109716号公報、Leachら(引用することにより本明細書の開示の一部とされる)、2005年9月8日公開の米国出願公開第2005/0196874号公報、Dorianら(引用することにより本明細書の開示の一部とされる)、および2006年8月10日公開の米国出願公開第2006/0175242号公報、Dorianら(引用することにより本明細書の開示の一部とされる)に記載されている。
【0026】
他の方法を使用して、多血小板血漿を分離してもよい。例えば、全血は、ブイシステム(buoy system)を使用せずに遠心分離機に適用することができ、全血を多段階で遠心分離機にかけてもよく、連続フロー式遠心分離法を用いることもでき、また濾過も用いることができる。加えて、血小板のペレット化を妨げるために低速遠心分離工程を用いて赤血球から血漿を分離することによって、多血小板血漿を含む血液成分を生産することができる。他の実施形態では、血液の遠心分離により生じるバフィーコート画分を、残留血漿から分離し、再懸濁して多血小板血漿を形成することができる。
【0027】
GPS(商標)Platelet Concentrate and Separation Systemsに加えて、他の市販装置も、工程120において多血小板血漿を分離するために使用してよく、そのような装置には、Medtronic, Inc. (Minneapolis, Minnesota, USA)から市販されているMagellan(商標)Autologous Platelet Separator System; Harvest Technologies Corporation (Plymouth, Massachusetts, USA)から市販されているSmartPReP(商標)、 DePuy (Warsaw, Indiana, USA); Cytomedix, Inc. (Rockville, Maryland, USA)から市販されているAutoloGel(商標)Process; EmCyte Corporation (Fort Myers, Florida, USA)から市販されているGenesisCS System、 およびBiomet 3i, Inc. (Palm Beach Gardens, Florida, USA)から市販されているPCCS Systemが挙げられる。
【0028】
患者から採取された血液は抗凝固薬と混合してよい。好適な抗凝固薬としては、ヘパリン、クエン酸リン酸デキストロース(CPD)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、抗凝固クエン酸デキストロース溶液(ACD)、およびそれらの混合物が挙げられる。抗凝固薬は、対象からの採血に使用されるシリンジに入れてよく、または採血後に血液と混合してもよい。
【0029】
白血球は、当技術分野で公知の方法を用いて、工程125で示されるように、調製してよい。例えば、全血から、赤血球を溶解することによってまたは密度勾配を利用した全血の遠心分離によって(この場合、白血球は遠心管の底に沈降する)白血球を調製してよい。密度遠心分離の例としては、Ficoll-Paque(商標)Plus(GE Healthcare Bio-Sciences, Piscataway, New Jersey, USA)が挙げられる。場合によって、単核および多形核細胞をさらに分離するために、密度勾配を使用してよい。また、全血から濾過を用いて白血球を調製してもよい、例としては、Acelere(商標)MNC Harvest System (Pall Life Sciences, Ann Arbor, Michigan, USA)が挙げられる。白血球は骨髄から得ることもできる。
【0030】
さらに図1に関し、工程130では、脂肪組織、脂肪細胞、全血、多血小板血漿、白血球、またはそれらの組合せにおけるIL−1raの生産が活性化される。これらの脂肪組織および/または血液材料は、2通りの方法で:(1)工程135、工程140および工程145で示されるように、ポリアクリルアミドビーズを使用して、および(2)工程150および工程155で示されるように、植込み型装置を使用して、活性化され、IL−1raを生産する。これらの2通りの活性化経路の一方だけを用いてよく、または両方を用いてもよい。場合によって、一方の活性化経路では脂肪組織、脂肪細胞、全血、多血小板血漿、および/または白血球の一部が用いられ、もう一方の活性化経路では一部が用いられる。例えば、工程150および工程155の通り、植込み型装置を使用して、脂肪細胞を活性化してIL−1raを生産してよく、工程135、工程140、および工程145の通り、ポリアクリルアミドビーズを使用して、多血小板血漿を活性化してIL−1raを生産する。その後、結果として生じるIL−1raに富んだ溶液および植込み型装置は、骨溶解を治療するために、単一骨溶解部位に一緒に使用してよく、または異なる部位もしくは近接部位に別々に使用してもよい。
【0031】
さらに図1に関し、工程140、工程145、および工程150で示されるように、IL−1raを生産する第1の方法ではポリアクリルアミドビーズを使用する。この場合、IL−1raに富む溶液は、脂肪組織、脂肪細胞、全血、多血小板血漿、白血球、およびそれらの組合せからなる群から選択される要素(member)を含んでなる液体容量を、ポリアクリルアミドビーズと接触させることによって生成される。その後、インターロイキン−1レセプターアンタゴニストに富む溶液を得るために、そのポリアクリルアミドビーズから液体容量の少なくとも一部が分離される。
【0032】
ポリアクリルアミドビーズを使用したIL−1raを生産するための活性化は、次の態様をさらに含んでよい。患者が自己産物だけを受けるように、脂肪組織、脂肪細胞、全血、多血小板血漿、および/または白血球を含んでなる液体容量は、骨溶解の治療を受けている患者から得てよい。液体容量とポリアクリルアミドビーズとの接触は、液体容量をポリアクリルアミドビーズとともに約30秒〜約24時間インキュベートすることを含み得る。また、そのポリアクリルアミドビーズからの液体容量の一部の分離は、インターロイキン−1レセプターアンタゴニストに富む溶液を含んでなる上清を得るために、液体容量とポリアクリルアミドビーズを遠心分離機に適用することを含み得る。ポリアクリルアミドビーズを使用したIL−1ra生産に関連するさらなる態様および特徴は、2009年2月27日提出のPCT出願第PCT/US2009/035541号公報および2009年8月27日提出の米国出願第12/549,015号公報に記載されている。
【0033】
図1の工程135において示されるように、脂肪組織、脂肪細胞、全血、多血小板血漿、および/または白血球は、ポリアクリルアミドビーズと接触させる。いくつかの実施形態では、脂肪組織、脂肪細胞、全血、多血小板血漿、および/または白血球は、液体容量の液体の一部を除去するのに有効な期間、ポリアクリルアミドビーズとともにインキュベートされる。インキュベーションは、約30秒〜約72時間にわたって行ってよく、約20℃〜約41℃の温度で行ってよい。例えば、インキュベーションは、約1分〜約48時間であってよく、約5分〜約12時間であってよく、または約10分〜約6時間であってよい。いくつかの実施形態では、インキュベーションは約37℃で行われる。いくつかの実施形態では、脂肪組織、脂肪細胞、全血、多血小板血漿、および/または白血球はインキュベートせず、続いて処理を行うことが必要である場合のみポリアクリルアミドビーズと接触させる。接触は、周囲条件において、例えば、約20〜25℃の温度で行ってよい。
【0034】
工程135で使用されるポリアクリルアミドビーズは、ポリアクリルアミドゲルから形成された比較的均一なビーズを生産するための、当技術分野で公知の、管理され標準化されたプロトコールを用いてアクリルアミドモノマーを重合することによって形成することができる。一般的に、ポリアクリルアミドは、好適な二官能性架橋剤、最も一般的にはN,N’−メチレンビスアクリルアミド(ビスアクリルアミド)を用いてアクリルアミドを重合することによって形成される。ゲル重合は、通常、過硫酸アンモニウムによって開始され、反応速度は、触媒(Ν,Ν,Ν’,Ν’−テトラメチルエチレンジアミン(TEMED)など)の添加によって速められる。様々な実施形態では、ポリアクリルアミドビーズは、微アニオン性(負電荷)を付与する、ビーズ1ミリリットル当たり0.5マイクロモルのカルボキシル基を含んでなる。また、ビーズは、pHの変化に対して一般に強く、多くの水性溶液および有機溶液中で安定している。ポリアクリルアミドゲルは、総アクリルアミド濃度を調整することによって、広範囲の孔径で形成することができる。さらに、ポリアクリルアミドビーズは多くのサイズで形成することができ、比較的均一なサイズ分布を有し得る。ビーズサイズは、直径数マイクロメートルから直径数ミリメートルまでに及んでよい。例えば、様々な種類のBio-Gel(商標)Pポリアクリルアミドゲルビーズ(Bio-Rad Laboratories, Hercules, California, USA)は、約45μm未満から約180μmまでに及ぶ粒径を有する。ポリアクリルアミドビーズは、SNF Floerger (Riceboro, Georgia, USA)、Pierce Biotechnology, Inc. (Rockford, Illinois, USA)およびPolymers, Inc. (Fayetteville, Arkansas, USA)からも入手可能である。
【0035】
一度、重合したら、ポリアクリルアミドビーズは、乾燥させ粉末状形態で保存することができる。乾燥ビーズは、水に不溶であるが、再水和するとかなり膨張し得る。再水和によりポリアクリルアミドビーズはゲルコンシステンシーに戻り、乾燥状態のサイズの約2〜約3倍となる。このように、乾燥ポリアクリルアミドビーズは、液体容量の一部を吸収するために使用してよく、ビーズ孔径より小さい溶質を含み、脂肪細胞および/または脂肪組織によって生産されたIL−1raを濃縮するのに役立ち得る。例えば、工程130で乾燥ポリアクリルアミドビーズを脂肪細胞および/または脂肪組織と合わせることによって、IL−1raの生産を活性化し、また、乾燥ビーズが再水和し膨張するため総液体容量が減少する。
【0036】
さらに図1に関し、工程140において示されるように、ポリアクリルアミドビーズ(the polyacrymide beads)とのインキュベーション後にIL−1raに富んだ溶液は分離される。分離は、液体容量の少なくとも一部を取り除きビーズを残すことによって行ってよい。場合によって、IL−1raに富んだ溶液を取り除く前に、遠心分離によってビーズを沈降させてよい。また、濾過によって分離を行ってもよく、その場合、例えば、遠心力を用いることによってまたは真空を用いることによって、ポリアクリルアミドビーズはフィルターに保持され、IL−1raに富んだ溶液はそのフィルターを通過する。工程135におけるポリアクリルアミドビーズとのインキュベーションで乾燥ポリアクリルアミドビーズを利用する場合、ビーズは再水和することで膨張するために液体容量が減少し得る結果、得られたIL−1raに富んだ溶液は濃縮される。濃度の上昇を維持するために、分離工程140では、ビーズに圧力がかからないようにまたは膨張したビーズから液体が流れ出ないように細心の注意を払うべきである。例えば、高遠心力または高真空では、ビーズがつぶれおよび/またはビーズの内部容量から液体が流れ出る可能性がある。
【0037】
本技術の機構、有用性、または機能を限定することなく、ポリアクリルアミドビーズは、脂肪組織、脂肪細胞、全血、多血小板血漿、および/または白血球によるIL−1ra生産のアクチベーターとして機能を果たす。そのため、乾燥ポリアクリルアミドビーズの場合、脂肪組織、脂肪細胞、全血、多血小板血漿、および/または白血球を含んでなる液体容量から液体を吸収し、その結果、生成されたIL−1raを濃縮するだけでなく、ビーズはさらに、IL−1ra生産を刺激するための表面として機能を果たす。IL−1ra量の増加は、サンプル容量の減少により単に濃度が上昇したことによるものではなく、IL−1raの生産および/または放出を増加させるための、ポリアクリルアミドビーズによる脂肪組織、脂肪細胞、全血、多血小板血漿、および/または白血球の活性化によるものであるように思われる。また、IL−1ra生産量と白血球濃度との間に相関があるようにも思われ、その点で脂肪組織は白血球を含んでよい。よって、本技術では、脂肪組織を使用し、脂肪組織を解離して脂肪細胞を得るが、その場合、白血球は脂肪組織およびその脂肪組織から得られる脂肪細胞の両方に存在してよい。
【0038】
IL−1ra生産の活性化は、Biomet Biologies, LLC (Warsaw, Indiana, USA)のPlasmax(商標)Plus Plasma Concentratorなどの装置の使用を含んでよく、2006年8月10日公開の米国出願公開第2006/0175268号公報、Dorianら、および2006年11月2日公開の米国出願公開第2006/0243676号公報、Swiftらに記載されているような装置および使用方法を含んでよい。
【0039】
さらに図1に関し、工程145では、IL−1raに富んだ溶液はヒトまたは動物の対象(すなわち、患者)に投与される。IL−1raに富んだ溶液を受ける患者は、工程105および/または工程115における脂肪組織、脂肪細胞、全血、多血小板血漿、および/または白血球を得た同じ患者であってよい。この場合、その方法により自己由来のIL−1ra調製物が提供される。投与は、様々な手段を用いて、例えば、シリンジを使用したIL−1raに富んだ溶液の注射、外科的適用、または別の外科的手法との併用適用によって行ってよい。しかしながら、インターロイキン−1レセプターの刺激に関連している作用(炎症および変形性関節症による炎症など)に影響を与えるためにIL−1raに富んだ溶液を部位にまたは部位に近接して植え込み、注射し、あるいは投与する任意の生物医学上許容される工程または手法を、工程145が含み得ると理解すべきである。例えば、IL−1raに富んだ溶液は、人工関節インプラントの部位における骨溶解を治療するために使用される。注射は、関節滑膜腔にまたは関節滑膜腔内に、あるいは関節にまたは関節近くに位置づけてよい。
【0040】
本技術によって生産されたIL−1raに富んだ溶液の様々な調製物は、最終分離IL−1ra産物を処理するための滅菌フィルターを含めることによって滅菌してよい。同様に、抗生物質を、インキュベーションの間にポリアクリルアミドビーズに含めてよく、または本明細書において記載される方法および治療における1以上の様々な工程で添加してもよい。
【0041】
図1の工程140で生成されたIL−1raに富む溶液は、全血において一般に見られるIL−1raの濃度と比べてIL−1raの濃度が上昇しているとみなすことができる。例えば、本方法および組成物は、約34,000pg/mL〜約108,000pg/mLのIL−1raを含み得るが、全血は約200pg/mL〜約800pg/mLを含み得る。しかしながら、任意の所定の溶液中に存在する濃度は、本方法において使用される脂肪組織、脂肪細胞、および/または白血球源中に存在する成分の初期レベルによって変化し得ることおよび濃度の上昇が初期レベルとの比較によるものであるものと理解される。一般的に、IL−1raは、本溶液中に少なくとも約10,000pg/ml、少なくとも約25,000pg/ml、または少なくとも約30,000pg/mlの濃度で存在し、最大108,000pg/mLまたはそれ以上であり得る。
【0042】
いくつかの実施形態では、本方法は、インターロイキン−1レセプターアンタゴニストに富む溶液の投与に加えて、治療部位にフィブリノーゲン、トロンビン、およびカルシウムを投与することを含む。例えば、方法は、(i)インターロイキン−1レセプターアンタゴニストおよびフィブリノーゲンを含んでなる第1の溶液と、(ii)トロンビンおよびカルシウムを含んでなる第2の溶液とを同時投与することを含んでよい。本方法において使用されるトロンビンは、全血または血漿およびカルシウム溶液を血液分離装置に装入することを含む工程によって製造し得る。全血または血漿を少なくとも約20分間、少なくとも約20℃の温度で加熱する。加熱した全血または血漿を遠心分離機に適用することによってトロンビンを分離する。全血または血漿は患者から得てよい。その後、インターロイキン−1レセプターアンタゴニストに富む溶液と凝固画分は患者における炎症部位に投与される。
【0043】
さらに図1に関し、IL−1raの生産を活性化する第2の方法では、工程150および工程155で示されるように、植込み型装置を使用する。この場合、工程150で、脂肪組織、脂肪細胞、全血、多血小板血漿、白血球および、それらの組合せからなる群の要素を含んでなる液体容量が植込み型装置に装入される。その後、155において示されるように、植込み型装置は治療部位にまたは治療部位に近接して患者に挿入される。植込み型装置は、インターロイキン−1レセプターアンタゴニストをin vivoで生産して、患者の人工関節インプラントの部位における摩耗破片による骨溶解を治療する。
【0044】
植込み型装置は、内部空間を規定している閉鎖されたまたは実質的に閉鎖された本体を備え、その本体の少なくとも一部は第1の生体吸収性材料(bioresorbable)を含んでなる。内部空間は、活性化表面を有する第2の生体吸収性材料を含み、その内部空間は1以上の空間(void)を含む。その1以上の空間内に、脂肪組織、脂肪細胞、全血、多血小板血漿、および/または白血球からなる液体容量が存在する。
【0045】
植込み型装置を使用したIL−1raを生産するための活性化は、次の態様をさらに含んでよい。脂肪組織、脂肪細胞、全血、多血小板血漿、白血球、およびそれらの組合せを含んでなる液体容量は、患者から得ることができる。第2の生体吸収性材料の活性化表面は、免疫グロブリンGを含んでなることができる。そのような植込み型装置を使用したIL−1ra生産に関連するさらなる態様および特徴は、2009年8月27日提出の米国仮出願第61/237,484号公報に記載されている。
【0046】
図1に関し、工程140において得られたIL−1raに富んだ溶液および/または150における装入済の植込み型装置は、その後、投与され145または挿入され155、人工インプラントの部位における摩耗破片による骨溶解を治療する。IL−1raに富んだ溶液および/または植込み型装置は、IL−1の作用に影響を与えインターロイキン−1レセプターを介してシグナル伝達を減弱することができる。天然に存在するIL−1の生物活性を遮断することで、多くの組織および器官で発現されるインターロイキン−1型レセプターとのIL−1の結合を競合的に阻害することにより、骨溶解に関連する炎症および軟骨破壊を治療することができる。例えば、IL−1によるプロテオグリカン喪失の結果としての骨吸収および組織損傷(軟骨破壊など)は、IL−1raに富んだ溶液および/または植込み型装置の投与によって治療し得る。一部の患者では、滑膜および滑液において内因性IL−1raが、IL−1濃度を中和するのに有効な濃度で見られない場合があり、そのため、これらの状態およびこれらの部位を治療するために、本IL−1raに富んだ溶液および/または植込み型装置が投与され得る。投与量、投与、および治療頻度は、効果的な治療を達成するために、確立された医療行為に基づいて変更してよい。
【0047】
いくつかの実施形態では、IL−1raに富んだ溶液および植込み型装置は骨溶解部位に併用投与される。このようにして、IL−1raに富んだ溶液は、インターロイキン−1レセプターに対するIL−1結合の遮断においてより直接的な効果をもたらすことができ、骨溶解におけるIL−1の炎症カスケードおよび役割に影響を与える。一方で、植込み型装置は、IL−1raの生産のためのリザーバーを提供することができ、IL−1raは経時的によりゆっくりと放出され得る。特に、植込み型装置の生体吸収性材料は数日または1週間以上にわたって侵食しまたは分解し、この間にIL−1raの放出をもたらすことができる。例えば、IL−1raに富んだ溶液の注射により、骨溶解におけるIL−1の作用の直接的な減弱を提供することができ、植込み型装置は、骨溶解におけるIL−1の作用の持続的な減弱を提供することができる。
【0048】
本技術は、患者を治療するために、自己由来の材料を用いて自己由来のIL−1raの生産を活性化することによって改善された治療を提供する。それゆえに、非自己由来の材料または組換え材料を用いたときに起こる可能性がある免疫学的問題は軽減されおよび/または実質的に排除される。さらに、IL−1raは患者の細胞によって生産されるため、自然翻訳後修飾(グリコシル化など)はすでに存在している。これは大部分の組換えタンパク質には当てはまらず、それらのタンパク質が原核生物宿主で生産されるためである。
【0049】
IL−1raに富んだ溶液が使用される場合には、そのような溶液の投与にフィブリノーゲンを含めることができる。その場合、フィブリノーゲンは活性化されフィブリンマトリックスを形成し、フィブリンマトリックスが治療部位においてIL−1raを保護し保持する。フィブリンマトリックスは、骨溶解部位におけるまたは骨溶解部位に近接したIL−1raの送達によって、in situで形成され得る。
【0050】
フィブリノーゲンは、凝固因子およびカルシウムによる活性化によって三次元マトリックス中に架橋され得る。好適な凝固因子としては、トロンビン(例えば、ウシ、組換えヒト、混合ヒトまたは自己由来)、自己由来凝固タンパク質およびポリエチレングリコールが挙げられる。カルシウムはカルシウム塩の形態(塩化カルシウムなど)であってよい。
【0051】
いくつかの実施形態では、凝固因子は、自己由来凝固タンパク質を、治療する予定の患者から得られた血液から得られる凝固画分または組成物として含んでなる。好適な凝固画分は、全血または血漿をカルシウム溶液(例えば、エタノール中塩化カルシウム)とともに血液分離装置に装入すること、その全血または血漿を少なくとも約20℃の温度で少なくとも約20分間加熱すること、および凝固画分を分離することからなる工程によって得ることができる。分離は、加熱した全血または血漿を遠心分離機に適用することによって行ってよい。好適な分離装置は、Biomet Biologies LLC (Warsaw, Indiana, USA)のClotalyst(商標)Autologous Thrombin Collection Systemとして入手可能である。
【0052】
従って、IL−1raの投与では、治療部位においてフィブリンマトリックスを形成するために、フィブリノーゲン、トロンビン、およびカルシウムをさらに含めることができる。外因性フィブリノーゲン、例えば、ウシトロンビンなどを、好ましくは、約1,000U/mLで、IL−1raの溶液に添加してよい。また、IL−1ra溶液は、十分な量の内因性フィブリノーゲンをすでに含んでいることもある。IL−1raの溶液および/またはフィブリノーゲンまたはその調製物が抗凝固薬、例えば、ACD−A(抗凝固クエン酸デキストロース溶液)などを含む場合には、フィブリノーゲンを活性化するための(トロンビンとの)カルシウムの添加は、抗凝固薬における任意のキレート剤(例えば、EDTA)の有効量を超えるべきである。
【0053】
図2に関しては、IL−1raを送達するための概略図900を示している。工程910において、IL−1raの溶液が準備される。IL−1ra溶液は、記載されている方法および処置を用いて調製してよい。工程920ではIL−1ra溶液に外因性フィブリノーゲンが添加される。外因性フィブリノーゲンは、IL−1ra溶液とは異なる供給源(異なる患者など)から調製してよく、またはウシ由来のものでもよい。また、外因性フィブリノーゲンは、IL−1ra溶液とは異なる出発材料から調製してよいが、それでも同じ供給源または患者から調製してよい。例えば、IL−1ra溶液および外因性フィブリノーゲンは、同じ患者から採取された異なる血液サンプルから調製してよい。あるいは、工程930で示されるように、IL−1raおよびフィブリノーゲンの両方が濃縮された溶液を、例えば、記載されているように、ポリアクリルアミドビーズおよびPlasmax(商標)装置を使用することによって調製する。工程940では、トロンビンおよびカルシウムの溶液が準備され、IL−1raの溶液とともに治療部位に併用投与される。その後は、工程950で示されるように、合わせられた溶液中のフィブリンがin situで架橋し、治療部位においてマトリックスを形成し、そのマトリックスがIL−1raを保護し、保持し、持続放出する役割を果たす。
【0054】
IL−1raの送達は、IL−1raおよびフィブリノーゲンの第1の溶液と、トロンビンおよびカルシウムの第2の溶液とを対象に同時投与することを含み得る。そのような実施形態では、第1の溶液と第2の溶液は、それらの溶液が混合され治療部位に注射された後に初めてフィブリノーゲンがフィブリンマトリックスを形成するように、投与まで別々に保存される。それらの溶液は、治療部位への送達直前に混合してよく、または治療部位において混合してもよい。
【0055】
図3に関しては、医学的に適切な手順においてデュアルシリンジ装置1000が使用されている。デュアルシリンジ装置1000は、第1のバレル1005と第2のバレル1010を備え、双方のバレルが混合チャンバー1015とつながっている。第1のプランジャー1020は第1のバレル1005内に挿入され、第2のプランジャー1025は第2のバレル1010内に挿入される。第1のプランジャー1020と第2のプランジャー1025は部材1030によって連結されている。混合チャンバー1015はカニューレ1035とつながっている。デュアルシリンジ装置1000には、第1のバレル1005中にIL−1raおよびフィブリノーゲンの第1の溶液1040と、第2のバレル1010中にトロンビンおよびカルシウムの第2の溶液1045とが入っている。同時投与の間、第1のバレル1005と第2のバレル1010双方の内容物が混合チャンバー1015中に押し出されるように、部材1030は混合チャンバー1015に向かって押し進められる。混合された第1の溶液1040と第2の溶液1045は、カニューレ1035を通って移動し、患者の関節1060内の治療部位1055においてフィブリンマトリックス1050を形成する。
【0056】
図3で示される実施形態では、患者の関節1060に、膝関節の一部として人工関節インプラントを含む。人工関節インプラントは関節の1以上の部分を含んでなり、そのような部分には大腿骨1065、脛骨1070、腓骨1075、膝蓋骨1080、および軟骨1085が含まれる。例えば、人工膝関節の一つの実施形態では、軟骨1085の総てまたは一部が欠けていてよく、大腿骨の人工部分1065は脛骨の人工部分1070と接触していてよい。人工物の部分同士の摩擦によって摩耗破片(ポリエチレンまたはチタンの粒子など)が形成される。これらの粒子は、炎症カスケードを引き起こし人工関節インプラントにおいて骨溶解を誘導する可能性がある。図3では膝関節を例示しているが、治療部位1055は任意の人工関節であってよく、そのような人工関節には肩、肘、手首、足首、股関節、および脊椎が含まれると理解すべきである。加えて、本治療および方法は、他の組織(筋肉および腱など)内の人工インプラントにおける炎症を治療するために適用してよい。
【0057】
いくつかの実施形態では、デュアルシリンジ装置1000は、混合された第1の溶液1040と第2の溶液1045を投与するため、患者の関節1060の軟組織を突き通すために使用される。例えば、カニューレ1035は中空針(皮下注射針など)であってよい。あるいは、患者の関節1060において切開を行ってカニューレ1035の挿入が可能になるようにし、デュアルシリンジ装置800が治療部位1055に入るようにしてよい。
【0058】
いくつかの実施形態(示されていない)では、デュアルシリンジ装置1000に混合チャンバー1015がなく、その代わりとして2本のカニューレ1035が備わっている。各カニューレは各バレルから治療部位1055に通じている。この場合、第1の溶液1040と第2の溶液1045は、別々のカニューレ1035を通って移動し、治療部位1055において混ざり合い、フィブリンマトリックス1050を形成する。いくつかの実施形態では、デュアルシリンジ装置の代わりに、2つの独立したシングルバレル型シリンジ装置が使用される。
【0059】
本送達方法よりに形成されたフィブリンマトリックスは、炎症を悪化させることなく治療部位に存在し得る。フィブリンマトリックス内のIL−1raは酵素分解から保護されフィブリンマトリックスと結合し得ることから、そのマトリックスからIL−1raが経時的にゆっくりと放出される。それゆえに、そのような方法は、フィブリンマトリックス担体を含まないIL−1raの注射と比べて、IL−1raの持続的な送達を提供することができる。
【0060】
次に、図4に関しては、本植込み型装置410の実施形態を使用した治療400の実施形態を示している。植込み型装置410は、カニューレ装置420を使用して骨溶解部位において挿入される。可動要素(示されていない)は、カニューレ装置420の一部の内部に配置され、植込み型装置410は、最初は、カニューレ装置420の一部の内部に配置されている。可動要素は、カニューレ装置420から人工関節の位置または人工関節近くの位置に植込み型装置410を放出するよう機能し、図4では人工関節は膝関節として示されている。脂肪組織、脂肪細胞、全血、多血小板血漿および/または白血球が装入された植込み型装置410は、移植部位においてインターロイキン−1レセプターアンタゴニストをin vivoで生産する。図4で示されるように、移植部位は膝関節に近い患者の大腿骨の端部に近接している。
【0061】
本技術は、2008年2月27日提出の米国仮出願第61/031,803号公報、2008年11月21日提出の米国仮出願第61/116,940号公報、および2009年2月24日提出の米国仮出願第61/155,048号公報の態様を含み得るものであり、2009年2月27日提出の第PCT/US2009/035541号公報の態様を含んでいる。
【0062】
次の具体例は、この技術の組成物および方法の製造および使用の方法の例示のために提供され、特に明記されない限り、この技術の所定の実施形態が製造されたまたは検証されたこと、あるいは製造されていないまたは検証されていないことを意味するものではない。
【実施例】
【0063】
実施例1
脂肪細胞は次の通り調製する。患者から脂肪吸引術により脂肪組織を採取し、小片に細分し(約1cm)、断続的に機械撹拌しながら水浴中37℃で180分間、2mg/mL I型コラゲナーゼ(Worthington Biochemical Corp., Lakewood, N.J.)で消化する。患者から得た全血を加えることによって消化の効力を失わせる。細胞懸濁液を遠心分離機にかけ(300×g、25℃で7分間)、続いて、細胞ペレットから上清の除去を行う。次いで、そのペレットを多血小板血漿に再懸濁して、脂肪細胞および多血小板血漿を含んでなる液体容量を準備する。
【0064】
脂肪細胞および多血小板血漿をポリアクリルアミドビーズと合わせて、IL−1raの生産を活性化する。約4時間インキュベートした後、その混合物を遠心分離機にかけ、上清を分離して、IL−1raに富んだ溶液を準備する。IL−1raに富んだ溶液を、シリンジを使用した注射により患者の人工膝関節に投与する。治療により人工膝関節における骨溶解の進行を軽減しまたは排除する。
【0065】
実施例2
患者の人工関節インプラントの部位における摩耗破片による骨溶解を治療するための方法は、インターロイキン−1レセプターアンタゴニストをin vivoで生産するために植込み型装置を使用することを含む。植込み型装置は、管腔を有する閉鎖された管状本体を備え、その管状本体は第1の生体吸収性材料を含んでなる。第2の生体吸収性材料は、管状本体の管腔内に存在する。第2の生体吸収性材料は、直径約10ミクロン〜約20ミクロンの複数のゼラチンビーズを含んでなる。管状本体の一端は、1以上の針で突き通すことができる自己回復表面を含んでなり、その装置の管腔には、脂肪組織、脂肪細胞、全血、PRPおよび/または白血球が装入される。一度装入が完了し針(群)が引き抜かれたら、自己回復表面は穿刺孔を実質的に塞ぐよう機能する。このように、第2の生体吸収性材料のビーズと、装入された脂肪組織、脂肪細胞、全血、PRP、および/または白血球は装置から漏出しない。
【0066】
植込み型装置は、次いで、患者の人工股関節に近接して挿入される。植込み型装置は、IL−1raを生産し、植込み型装置の生体吸収性材料が分解するにつれて、IL−1raは1週間にわたってゆっくりと放出される。IL−1raの持続放出は骨溶解の進行を止め、人工股関節における炎症を減弱する。
【0067】
本明細書において記載される実施例および他の実施形態は、例示であり、この技術の組成物および方法の総ての範囲の説明において限定することを目的としていない。特定の実施形態、材料、組成物および方法の等価の変更、修飾および変形は、本技術の範囲内で行うことができ、実質的に同様の結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者において人工関節インプラントの部位における摩耗破片による骨溶解の治療方法であって、インターロイキン−1レセプターアンタゴニストに富む溶液を、人工関節インプラントの部位の摩耗破片にまたは該摩耗破片に近接して投与することを含んでなる、方法。
【請求項2】
前記インターロイキン−1レセプターアンタゴニストが患者自己由来のものである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記溶液が、インターロイキン−1レセプターアンタゴニストを少なくとも約10,000pg/mLの濃度で含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記溶液が約30,000pg/mL〜約110,000pg/mLのインターロイキン−1レセプターアンタゴニストを含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記投与が、前記インターロイキン−1レセプターアンタゴニストに富む溶液とともにフィブリノーゲン、トロンビン、およびカルシウムを投与することをさらに含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記投与が、(i)インターロイキン−1レセプターアンタゴニストおよびフィブリノーゲンを含んでなる第1の溶液と、(ii)トロンビンおよびカルシウムを含んでなる第2の溶液とを同時投与することを含んでなる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記トロンビンが、
(a)全血または血漿およびカルシウム溶液を血液分離装置に装入する工程、
(b)該全血または血漿を少なくとも約20℃の温度で少なくとも約20分間加熱する工程、および
(c)加熱した全血または血漿を遠心分離機に適用することによってトロンビンを分離する工程
を含む工程によって製造される、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
トロンビンを製造するための工程において使用される全血または血漿が患者から得られる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記投与が、前記インターロイキン−1レセプターアンタゴニストに富む溶液を、シリンジを使用して人工関節インプラントの部位の摩耗破片にまたは該摩耗破片に近接して注入することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
患者において人工関節インプラントの部位における摩耗破片による骨溶解の治療方法であって、インターロイキン−1レセプターアンタゴニストに富む溶液を、人工関節インプラントの部位の摩耗破片にまたは該摩耗破片に近接して投与することを含み、この際、該インターロイキン−1レセプターアンタゴニストに富む溶液が、
a.脂肪組織、脂肪細胞、全血、多血小板血漿、白血球、およびそれらの組合せからなる群から選択される要素を含んでなる液体容量を、ポリアクリルアミドビーズと接触させる工程、および
b.インターロイキン−1レセプターアンタゴニストに富む溶液を得るために、該ポリアクリルアミドビーズから該液体容量の少なくとも一部を分離する工程
によって生成される、方法。
【請求項11】
前記液体容量が患者から得られる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記接触が、液体容量をポリアクリルアミドビーズとともに約30秒〜約24時間インキュベートすることを含んでなる、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記分離が、インターロイキン−1レセプターアンタゴニストに富む溶液を含んでなる上清を得るために、液体容量とポリアクリルアミドビーズを遠心分離機に適用することを含んでなる、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
患者において人工関節インプラントの部位における摩耗破片による骨溶解の治療方法であって、インターロイキン−1レセプターアンタゴニストをin vivoで生産するための植込み型装置を、人工関節インプラントの部位の摩耗破片にまたは該摩耗破片に近接して投与することを含み、該植込み型装置が、
内部空間を規定している閉鎖されたまたは実質的に閉鎖された本体であって、ここで、該本体の一部または総てが第1の生体吸収性材料を含んでなる、本体と、
該内部空間内に、活性化表面を含む第2の生体吸収性材料と、
該内部空間内に1以上の空間と、
該1以上の空間内に、脂肪組織、脂肪細胞、全血、多血小板血漿、白血球、およびそれらの組合せからなる群から選択される要素を含んでなる液体容量と
を備える、方法。
【請求項15】
前記液体容量が患者から得られる、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
活性化表面が免疫グロブリンGを含んでなる、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
患者において人工関節インプラントの部位における摩耗破片による骨溶解の治療のための組成物であって、インターロイキン−1レセプターアンタゴニストに富む溶液を含んでなる、組成物。
【請求項18】
前記インターロイキン−1レセプターアンタゴニストが患者自己由来のものである、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
前記溶液がインターロイキン−1レセプターアンタゴニストを少なくとも約10,000pg/mLの濃度で含んでなる、請求項17に記載の組成物。
【請求項20】
前記溶液が、約30,000pg/mL〜約110,000pg/mLのインターロイキン−1レセプターアンタゴニストを含んでなる、請求項17に記載の組成物。
【請求項21】
前記治療が、前記インターロイキン−1レセプターアンタゴニストに富む溶液とともにフィブリノーゲン、トロンビン、およびカルシウムを投与することをさらに含んでなる、請求項17に記載の組成物。
【請求項22】
患者において人工関節インプラントの部位における摩耗破片による骨溶解の治療のための組成物であって、
a.脂肪組織、脂肪細胞、全血、多血小板血漿、白血球、およびそれらの組合せからなる群から選択される要素を含んでなる液体容量を、ポリアクリルアミドビーズと接触させる工程、および
b.インターロイキン−1レセプターアンタゴニストに富む溶液を得るために、該ポリアクリルアミドビーズから該液体容量の少なくとも一部を分離する工程
によって製造されたインターロイキン−1レセプターアンタゴニストに富む溶液を含んでなる、組成物。
【請求項23】
前記液体容量が患者から得られる、請求項22に記載の組成物。
【請求項24】
前記分離が、インターロイキン−1レセプターアンタゴニストに富む溶液を含んでなる上清を得るために、液体容量とポリアクリルアミドビーズを遠心分離機に適用することを含んでなる、請求項22に記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2013−503182(P2013−503182A)
【公表日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−526990(P2012−526990)
【出願日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際出願番号】PCT/US2010/046826
【国際公開番号】WO2011/031525
【国際公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(510206198)バイオメット、バイオロジクス、リミテッド、ライアビリティー、カンパニー (4)
【氏名又は名称原語表記】BIOMET BIOLOGICS, LLC
【Fターム(参考)】