説明

骨芽細胞の発生及び使用

【課題】 本発明は、脂肪組織からの間質細胞を、骨芽細胞特性を有する細胞に分化させる方法および組成物、ならびに被験対象の骨構造を改善する方法を提供する。
【解決手段】 本方法は、脂肪組織からの間質細胞を、上記細胞を骨芽細胞に分化させるのに十分な時間、βグルセロリン酸およびアスコルビン酸またはアスコルビン酸2リン酸、あるいはそれらの両方中で培養する工程を含む。このような方法および組成物は、手術部位または障害における骨に自家移植するための骨芽細胞の産生に有用である。この組成物は、脂肪間質細胞、線維芽細胞の成長を支持することができる培地、ならびに上記間質細胞を骨芽細胞に分化させるのに十分な量のβグリセロリン酸およびアスコルビン酸またはアスコルビン酸2リン酸、あるいはそれらの両方を含む。さらに本発明は、骨芽細胞分化に影響を及ぼす化合物を同定する方法を提供する。このような化合物は、骨発生の研究、ならびに骨折および骨粗鬆症を含む骨障害の治療に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[発明の分野]
本発明は、脂肪組織から骨芽細胞への間質細胞の分化のための方法および組成、ならびにその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
[発明の背景]
骨粗鬆症は、毎年アメリカ合衆国内における約150万件の骨折の原因であり、そのうち約300,000件は股関節部骨折である。股関節部骨折患者の50〜75%は自立して生活することができず、その結果、介護の費用が増大する。骨粗鬆症は、加齢による正常を上回る骨密度の損失を特徴とする。この疾患は、西欧およびアジア文化圏において高頻度(60才を超える女性の30%以上)で発生する。これらの骨修復障害の正確な原因は不明であるが、骨改造作用の動的過程が、骨芽細胞(骨産生細胞)活性の低下および破骨(骨分解細胞)活性の増進を特徴とする過程によって中断されることは明白である(Parfitt(1992)Triangle31:99−110,Parfitt(1992)In Bone, volume 1,B.K.Hall ed. Teleford Press and CRC Press,Boca Raton,FL,p.351−429)。
【0003】
骨移植片の使用は、成形外科、神経外科および歯科、形成または再建外科において伝統的に実施されており、この使用は過去20年にわたって頻度が増加している。血液を除いて、骨は最も頻繁に移植される組織であり、アメリカ合衆国内で年間に推定500,000の骨移植片が使用される。骨移植片の一般的な成形外科的使用としては、癒着不能骨折および急性長骨骨折の管理、関節再建ならびに様々な脊椎障害の治療における椎骨運動セグメントの融合を促進することなどが挙げられる(Lane(1987)Ortho Clin N Amer 18:213−225)。
【0004】
現在、臨床的に最も無難な移植材料は自己骨である。いわゆる自家移植片は、多くの場合二次手術部位から得られる。自家移植片に関連する重大な問題がある。その中には、大きな創傷または欠損がある供給物がないことが含まれる。骨粗鬆症または骨減少症に罹患した高齢者における自家移植片の使用には問題がある。手術と関連した二次罹病率は高い。これらの合併症としては、感染症、骨盤不安定(多くの場合、骨が腸骨稜から摘出される)、血腫および骨盤骨折などが挙げられる(Laurie et al.(1984)Plas Rec Surg 73:933−938、Summers et al.(1989)J Bone Joint Surg 71B:677−680、Younger et al.(1989)J Orthop Trauma.3:192−195、Kurz et al.(1989)Spine 14:1324−1331)。さらに、供与部位における慢性疼痛が2番目に頻繁に報告される合併症である(Turner et al.(1992) JAMA 268:907−911)。最後に、材料が堅いため自家移植片を欠損または創傷部位に合わせて形作る能力が限られている。
【0005】
最近の研究は、ヒドロキシアパタイト等の無機物(Flatley et al.(1983)Clin Orthop Rel Res 179:246−252、Shima et al.(1979)J Neurosurg 51:533−538、Whitehill et al.(1985)Spine 10:32−41、Herron et al.(1989) Spine 14:496−500、Cook et al.(1986)Spine 14:496−500、Cook et al.(1986)Spine 11:305−309(引用により本明細書の一部をなすものとする))または無機物質除去骨基質(DBM)等の有機物(Ashay et al.(1995)Am J Orthop 24:752−761(引用により本明細書の一部をなすものとする)で再検討されている)のいずれかの、様々な材料の使用に集中している。これらの材料は、骨伝導性(不活性基質における骨形成細胞の侵入を促進する)であるか、または骨誘導性(補充された前駆細胞の骨芽細胞への変換を誘導する)であると考えられる。食品医薬品局(FDA)により臨床使用が認可されたこれらの製品の幾つかを用いて、成功を収めた多数の臨床結果が確認されている。これらの成功にもかかわらず、これらの基質の有用性に関する多数の問題が残っている。第1は被験対象のDBMに対する応答が変わりやすいことである。また、これらの基質は本質的な構造上の完全性を持ち、且つ効果的に重みを支えるようになるのに、自己骨移植よりはるかに長時間を要することである。
【0006】
移植および単なる基質の使用に代わるものは、骨髄または骨髄間質細胞とDBMとの混合である。理想的には、細胞およびDBMは同じ被験対象に由来するが、同種異系DBMが既に臨床使用され、最初の成功をおさめている(Mulliken et al.(1981)Ann Surg 194:366−372、Kaban et al.(1982)J Oral Maxillofac Surg 40:623−626)。自家骨髄細胞と同種異系DBMを使用した移植方法は、良好な結果をもたらした(Connolly(1995)Clin Orthop 313:8−18)。しかし、これらの技術の広範囲におよぶ使用に影響を与える可能性のある問題としては、自己のものでない材料による汚染の可能性、供与される骨髄に対する患者の許容性、供与源からの骨髄吸引および骨髄枯渇に起因する潜在的合併症が挙げられる。
【0007】
骨髄間質細胞およびそれらから誘導される細胞系は、生化学的および形態学的に骨芽細胞に類似した細胞に分化できることが、多数のグループによって証明されている(Dorheim et al.(1993)J Cell Physiol 154:317−328、Grigoriadis et al.(1988)J Cell Biol 106:2139−2151、Benayahu et al.(1991)Calcif Tiss Int.49:202−207(引用により本明細書の一部をなすものとする))。大抵の場合、ヒトまたは動物の骨髄から骨芽細胞様細胞を単離し、標準組織培養器で平板培養した。一般に、これらの細胞を富化するために、10〜20%のウシ胎仔血清および抗生物質を加えたDulbeccoの改良イーグル培地(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium(DMEM)等の標準培地配合物を選択して使用する(Ashton et al.(1980)Clin Orthop 151:294−307、Sonis et al.(1983)J Oral Med 3:117−120)。次いで、培地を、5〜20%のウシ胎仔血清、2〜20mMのβグリセロリン酸および20〜75μMのアスコルビン酸またはアスコルビン酸2リン酸を含むものに変えることにより、細胞を刺激して骨芽細胞に分化させる(Asahina et al.(1996)Exp cell Res 222:38−47、Yamaguchi et al.(1991)Calcif Tissue Int49:221−225(引用により本明細書の一部をなすものとする))。培養して14〜21日後に、これらの細胞型および細胞系の多くは、von Kossa染色が陽性であることによって立証される通り、培養器上のマトリクスを無機物化する。骨芽細胞系のその他の表現型指標としては、高い分泌アルカリホスファターゼ活性、分泌オステオカルシンが培地中に存在すること、およびオステオカルシン、オステオポンチン(osteopontin)および骨シアロタンパク質を含む骨芽細胞に特異的に発現すると考えられる幾つかの遺伝子の高い発現などがある(Stein et al.(1990)FASEB J 4:3111−3123、Dorheim et al.(1993)J Cell Physiol 154:317−328、Asahina et al.(1996) Exp Cell Res 222:38−47、Yamaguchi et al.(1991)Calcif Tissue Int 49:221−225)。
【0008】
移植された骨髄間質細胞が異所性骨を形成できることを示す多数の詳細な試験が、幾つかの研究所で実施されている(Gundl et al.(1995)Bone 16:597−603、Haynesworth et al.(1992)Bone 13:81−89、Boynton et al.(1996)Bone 18:321−329)。たとえば、ヒトおよびネズミの骨髄間質線維芽細胞が、免疫不全SCIDマウスに移植されている(Krebsbach et al.(1997)Transplantation 63:1059−1069、Kuznetsov et al.(1997)J Bone Min Res 12:1335−1347)。供与骨髄間質細胞が、誘導性基質の存在下で異所性骨形成部位にて新たに発生する骨芽細胞の原因であることが、抗体および組織化学マーカーを使用して証明された。ハイドロキシアパタイト/リン酸三カルシウム粒子(HA/TCP)、ゼラチン、ポリLリシン、およびコラーゲンの存在下で、ネズミ細胞は骨を形成した。対照的に、ヒトの間質細胞は、HA/TCPの存在下に限って骨を効率よく形成した。
【0009】
骨髄形成は骨格に限定されない。たとえばセラミックまたは無機物質除去骨基質を筋肉内、腎下嚢、皮下部位に導入すると、その領域が骨形態発生タンパク質を同時に発現していれば、骨形成を来す(Urist(1965)Science 150:893−899)。以上の結果から、これらの組織に存在する細胞は、適当な環境条件で骨前駆細胞を形成する能力を有することが示唆される。
【0010】
脂肪等の軟組織における異所性骨形成は、遺伝病であるFibrosis Ossificans Progressivaを有する患者で見られる稀な病的状態である。この疾患の病因は完全に理解されていないが、ある程度は、軟組織損傷部位に集中するリンパ球によるBMPの発現異常に起因する(Kaplan et al.(1997)J Bone Min Res 12:855、Shafritz et al.(1996)N Engl J Med 335:555−561)。脂肪腫でも、稀に骨形成が見られる(Katzer(1989)Path Res Pract 184:437−443)。
【0011】
コラゲナーゼ処理後に脂肪組織から単離された間質血管分画は、大量の前脂肪細胞、すなわち脂肪細胞に分化されやすい細胞を含むことが証明されている(Hauner et al.(1989)J Clin Invest 34:1663−1670)。これらの細胞は比較的低い頻度で脂肪細胞に自然に分化することができるか、あるいは、はるかに高い分化頻度まで、チアゾリジンジオン類等の脂質生成アゴニストに応答することができる(Halvorsen(1997)Strategies 11:58−60、Digby(1997)Diabetes 4:138−141)。間質細胞は、これらの系の間で相互分化パターンを示すことを示唆する証拠がある(Gimble et al.(1996)Bone 19:421−428、Bennett et al.(1991)J Cell Sci 99:131−139、Beresford et al.(1992)J Cell Sci 102:341−351)。
【0012】
ある一定の条件で、骨髄間質細胞を脂肪細胞に分化させることができる。事実、幾つかの骨間質細胞系は、この能力に関して、広範囲に特性化されている(Gimble et al.(1990)Eur J Immunol 20:379−387、Gimble et al.(1992)J Cell Biochem 50:73−82、Gimble et al.(1996) Bone 19:421−428)。しかし本発明以前には、脂肪組織から単離された間質細胞を骨芽細胞に分化させることができることは知られていなかった。
【発明の開示】
【0013】
[発明の概要]
本発明は、脂肪組織からの間質細胞を、骨芽細胞特性を有する細胞に分化させる方法および組成物、ならびに被験対象の骨組織を改善する方法を提供する。本方法は、脂肪組織からの間質細胞を上記細胞を骨芽細胞に分化させるのに十分な時間、βグルセロリン酸およびアスコルビン酸またはアスコルビン酸2リン酸あるいはそれらの両方中で培養する工程を含む。このような方法および組成物は、手術部位または障害における骨に自家移植するための骨芽細胞の産生に有用である。この組成物は、脂肪間質細胞、線維芽細胞の成長を支持することができる培地ならびに分化を誘導する量のβグリセロリン酸およびアスコルビン酸またはアスコルビン酸2リン酸、あるいはそれらの両方を含む。
【0014】
さらに、本発明は、骨芽細胞分化に影響を及ぼす化合物を同定する方法を提供する。このような化合物は、骨発生の研究、ならびに骨折および骨粗鬆症を含む骨障害の治療に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
[発明の詳細な説明]
本発明は、脂肪間質細胞を骨芽細胞に分化させる方法を提供する。本発明の方法によって産生される骨芽細胞は、手術部位または骨折部位における研究または被験対象の骨に移植するための、もとの骨芽細胞を提供するのに有用である。したがって1つの態様において、本発明は脂肪間質細胞を骨芽細胞に分化させる方法であって、線維芽細胞の成長を支持することができる培地と、分化を誘導する量のβグリセロリン酸およびアスコルビン酸またはアスコルビン酸2リン酸、あるいはそれらの両方とを含む組成物中で、上記細胞を培養する工程を含む方法を提供する。
【0016】
別の態様において、本発明は脂肪間質細胞を骨芽細胞に分化させるための組成物を提供する。このような組成物は、脂肪間質細胞、線維芽細胞の成長を支持することができる培地、ならびに分化を誘導する量のβグリセロリン酸およびアスコルビン酸またはアスコルビン酸2リン酸、あるいはこれらの両方を含む。
【0017】
「脂肪間質細胞」は、脂肪組織に由来する間質細胞を指す。「脂肪(adipose)」は、あらゆる脂肪組織(fat tissue)を意味する。この脂肪組織は、褐色脂肪組織であってもよく、白色脂肪組織であってもよい。このような細胞は、一次細胞培養体または不滅化細胞系を含んでもよい。脂肪組織は、脂肪組織を有する任意の器官からのものであってもよい。脂肪組織は哺乳動物であることが好ましく、脂肪組織はヒトであることが最も好ましい。ヒト脂肪組織の便利な供与源は脂肪吸引手術からのものであるが、脂肪組織の供与源または脂肪組織の単離方法は本発明に重要ではない。骨芽細胞が被験対象への自家移植に望ましい場合、その被験対象から脂肪組織を単離する。
【0018】
「分化を誘導する量のβグリセロリン酸およびアスコルビン酸またはアスコルビン酸2リン酸、あるいはそれらの両方」は、線維芽細胞(たとえば、NIH−3T3細胞、ヒト脂肪間質細胞等々)の成長を支持することができる培地に加えたとき、約5日〜8週間にわたって上記間質細胞を骨芽細胞に分化させることができるβグリセロリン酸および(アスコルビン酸またはアスコルビン酸2リン酸、あるいはそれらの両方)の濃度を指す。処理の最適濃度および程度は、分化骨芽細胞用の既知のアッセイを使用して専門家により決定される。このようなアッセイとしては、形態学的な特徴または生化学的な特徴(たとえば、分泌オステオカルシンあるいはその他の骨芽細胞特異的タンパク質またはDNA)を評価するものがあるが、その限りではない。
【0019】
アスコルビン酸またはアスコルビン酸2リン酸あるいはそれらの両方の濃度は、これらの化合物の合わせた濃度であり、合計すると規定された濃度になる。たとえば、「50μMのアスコルビン酸またはアスコルビン酸2リン酸あるいはそれらの両方」は、50μMのアスコルビン酸、50μMのアスコルビン酸2リン酸、10μMのアスコルビン酸と40μMのアスコルビン酸2リン酸、または40μMのアスコルビン酸と10μMのアスコルビン酸2リン酸のような変形を含むが、その限りではない。
【0020】
この培地は、約2〜20mMのβグリセロリン酸および約20〜75μMのアスコルビン酸またはアスコルビン酸2リン酸あるいはそれらの両方を含むことが好ましい。さらに好ましくは、この培地は、5〜15mMのβグリセロリン酸および約40〜60μMのアスコルビン酸またはアスコルビン酸2リン酸あるいはそれらの両方を含む。最も好ましくは、この培地は、約10mMのβグリセロリン酸および約50μMのアスコルビン酸またはアスコルビン酸2リン酸あるいはそれらの両方を含む。
【0021】
細胞培養中で線維芽細胞を支持することができる培地を使用してもよい。線維芽細胞の成長を支持する培地配合物としては、Dulbeccoの改良イーグル培地(DMEM)、α改良最小必須培地(alpha modified Minimum Essential)(αMEM)、および基本必須培地(Basal Medium Essential)(BME)等が挙げられるが、その限りではない。一般に、線維芽細胞の成長を支持するために5〜20%のウシ胎仔血清(FCS)を上記材料に加える。しかし、線維芽細胞の成長に必要なFSC中の因子が同定されて成長培地に提供されるのであれば、規定の培地を使用することも可能である。
【0022】
本発明の方法に有用な培地は、抗生物質、骨誘導性であるか、骨伝導性であるか、または分化の成長を促進する化合物,たとえば、骨形態発生タンパク質または他の成長因子等の、関係のある1種または複数の化合物を含んでもよいが、その限りではない。骨形態発生タンパク質の例としては、骨形成タンパク質1、BMP5、オステオゲニン、骨誘導性および骨形態発生タンパク質4(Asahina et al.(1996)Exp Cell Res 222:38−47、Takuwa(1991)Biochem Biophys Res Com 174:96−101.Chen(1991)J Bone Min Res 6:1387−1390、Sampath(1992)J Biol Chem 267:20352−20362、Wozney et al.1988 Science 242:1528−1534(引用により本明細書の一部をなすものとする))等々が挙げられるが、その限りではない。
【0023】
好ましくは、間質細胞を互いに且つ他の細胞型から分離するように脂肪組織を処理し、沈殿した血液細胞を除去する。一般に1つの生育可能な細胞への分離は、コラゲナーゼまたはトリプシンあるいはそれらの両方等のタンパク分解酵素ならびにCa2+とキレートを作る薬剤で脂肪組織を処理することによって、達成される。次いで、分画遠心分離、蛍光活性化細胞検索(fluorescence-activated cell sorting)、アフィニティクロマトグラフィ等々の、当業者に周知の様々な方法で、間質細胞をある程度または完全に精製する。ある程度または完全に単離された間質細胞を、次に、線維芽細胞の成長を支持する培地中で、8時間から5細胞継代までの期間培養してから、βグリセロリン酸ならびにアスコルビン酸またはアスコルビン酸2リン酸、あるいはそれらの両方を含む培地で処理する。
【0024】
この間質細胞を、βグリセロリン酸ならびにアスコルビン酸またはアスコルビン酸2リン酸あるいはそれらの両方を含む培地中で、骨芽細胞に分化させるのに十分な期間培養する。間質細胞を骨芽細胞に分化させるのに必要なβグリセロリン酸ならびにアスコルビン酸またはアスコルビン酸2リン酸あるいはそれらの両方での処理の程度は、多数の因子によって異なる。このような因子としては、βグリセロリン酸ならびにアスコルビン酸またはアスコルビン酸2リン酸あるいはそれらの両方の濃度、使用する培地、脂肪組織または間質細胞の起源、平板培養の初期密度、成長因子または骨形態発生タンパク質の有無等々が挙げられるが、その限りではない。βグリセロリン酸ならびにアスコルビン酸またはアスコルビン酸2リン酸あるいはそれらの両方の濃度、およびその他の条件および因子は、専門家により最適化することができる。骨芽細胞に分化した細胞のパーセンテージを測定することによって、最適濃度および処理時間を決定することができる。形態学的なアッセイおよび生化学的なアッセイならびに当業者に周知の指標によって、このパーセンテージをモニタリングすることができる。このようなアッセイおよび指標としては、カルシウム析出物や骨芽細胞特異的タンパク質またはRNAの有無、von Kossa染色、オステオカルシン分泌、アルカリホスファターゼ分泌等の、形態学的特徴、生化学的特徴を評価するものが挙げられるが、その限りではない。
【0025】
脂肪組織間質細胞から誘導された骨芽細胞を、ヒトまたは動物被験対象の手術部位または骨折部位の骨に導入することができる。骨芽細胞を骨に導入することは、骨折ならびに骨粗鬆症を含む骨障害の治療に有用である。したがって、別の態様において、本発明はa)脂肪組織からの間質細胞を、線維芽細胞の成長を支持することができる培地ならびに分化を誘導する量のβグリセロリン酸およびアスコルビン酸またはアスコルビン酸2リン酸あるいはそれらの両方を含む組成物中で培養する工程と、b)上記骨芽細胞を、上記被験対象の手術部位または骨折部位に導入する工程とを含む被験対象の骨構造を改善する方法に関する。
【0026】
好ましくは、間質細胞は分化した骨芽細胞が導入される被験対象の脂肪組織から単離された物である。しかし、被験対象と同種または異種の生物から間質細胞を単離することもできる。被験対象は、骨組織を有する任意の生物であってもよい。被験対象は哺乳動物であることが好ましく、被験対象はヒトであることが最も好ましい。
【0027】
被験対象の手術部位または骨折部位に導入する前に、間質細胞または骨芽細胞を、所望のあるいは必要な核酸によって永続的にまたは一時的に形質転換することが可能である。このような核酸の配列としては、骨芽細胞の成長、分化または無機物化を増進する遺伝子産物をコードするものが挙げられるが、その限りではない。たとえば、非治癒骨折または骨粗鬆症の治療する目的で、骨形態発生タンパク質4の発現系を、永続的な様式もしくは一時的様式で、前脂肪細胞に導入することができる。間質細胞および骨芽細胞を形質転換する方法は、骨芽細胞を手術部位または骨折部位の骨に導入する方法と同様、当業者に周知である。
【0028】
骨芽細胞は、単独で導入してもよく、骨創傷および欠損の修復に有用な組成物と混合して導入してもよい。このような組成物としては、骨形態発生タンパク質、ハイドロキシアパタイト/リン酸三カルシウム粒子(HA/TCP)、ゼラチン、ポリLリシン、およびコラーゲンなどが挙げられるが、その限りではない。たとえば、脂肪間質細胞から分化した骨芽細胞を、DBMまたは他の基質と配合して複合物を骨形成(それ自体で骨形成)ならびに骨誘導性にすることができる。自家骨髄細胞と同種異系DBMを使用した類似した方法で、良好な結果が得られた(Connolly(1995)Clin Orthop 313:8−18)。
【0029】
本発明のさらなる目的は、間質細胞の骨芽細胞への分化を増進する化合物を同定する方法および試験する方法を提供することである。骨芽細胞の分化を増進する化合物は、骨折および骨粗鬆症を含む様々な骨障害の治療において、ある役割を果たす。さらに、骨芽細胞分化を誘導することが判明している化合物は、in vitroまたはin vivoで、細胞を分化させるのに有用である。反対に、骨芽細胞分化を妨げることが判明している化合物は、何らかの疾患状態に有用な可能性がある。パジエット病または骨軟骨芽細胞の変質形成等の特異体質骨産生を、このような化合物で治療することが可能である。したがって、別の態様において、本発明は骨芽細胞分化に影響を及ぼす化合物を同定する方法であって、a)骨芽細胞分化に対する影響について試験すべき化合物の存在下および非存在下で、線維芽細胞の成長を支持することができる培地と、分化を誘導する量のβグリセロリン酸およびアスコルビン酸またはアスコルビン酸2リン酸、あるいはそれらの両方とを含む組成物中で、脂肪間質細胞を培養する工程と、b)上記化合物の存在下における骨芽細胞分化を、上記化合物の非存在下における上記細胞のそれとを比較する工程とを含む方法に関する。
【0030】
いずれの化合物も、間質細胞の骨芽細胞への分化に影響を及ぼす能力について試験することが可能である。試験すべき化合物と相溶性がある適切な媒体は、当業者に周知であり、Remington’s Pharmaceutical Sciences(引用により本明細書の一部をなすものとする)の最新版に記載されている。
【0031】
試験の結果を、骨芽細胞機能の最も確実なマーカーであるオステオカルシン等の(Celeste(1986)Proc Natl Acad Sci 87:9843−9872、Stein et al.(1990) FASEB J 4:3111−3123)、骨芽細胞の発現を増進することによって骨芽細胞の分化を促進することが知られている、骨形成タンパク質1および骨形態発生タンパク質4等(Asahina et al.(1996)Exp Cell Res 222:38−47、Takawa(1991)前掲、Chen(1991)前掲、Sampath(1992)前掲、Wozney et al.(1988)Science 242:1528−1534)の、既知の分化促進剤を使用した結果と比較することができる。また、このような試験の結果を、TNF−α等の、間質細胞の骨芽細胞への変換を完全にまたは部分的に妨害する既知の骨芽細胞分化阻害剤と比較することが可能である。
【0032】
本発明を制限するものと考えるべきではない以下の実施例を参照することにより、本発明の特徴および利点がさらに明らかに理解されるであろう。
【実施例1】
【0033】
[ヒト脂肪組織からの間質細胞の単離]
Rodbell(1964)J Bioll Chem 239:375およびHaunerら(1989)J Clin Invest 84:1663−1670に記載の方法に従って、ヒトの間質細胞を脂肪組織から単離した。簡潔に記載すると、脂肪吸引手術によって皮下貯留物からヒト脂肪組織を取り出した。ついで、この脂肪組織を脂肪吸引カップから500mlの滅菌ビーカーに移し、約10分間静置した。沈殿した血液を吸引により除去した。容量125ml(以下)の組織を250mlの遠心管に移し、次いでこの遠心管にクレブスリンゲル緩衝液(Krebs−Ringer Buffer)を満たした。組織および緩衝液を約3分間または明らかに分離するまで静置し、吸引によって緩衝液を除去した。組織をクレブスリンゲル緩衝液で洗浄し、さらに4、5回または組織が黄橙色になり且つ緩衝液が淡い黄褐色になるまで、洗浄した。
【0034】
脂肪組織の細胞を、コラゲナーゼ処理によって解離した。簡潔に記載すると、組織から緩衝液を除去し、1mlのKrebs Buffer(Worthington社製,MA、USA,タイプI)あたり2mgのコラゲナーゼを含む溶液を、1mlの組織あたり1mlのコラゲナーゼ溶液の比率で補充した。断続的に30〜35分間振とうしながら、37℃の水浴中で遠心管をインキュベートした。
【0035】
室温で、500×gにて5分間遠心分離することにより、間質細胞を脂肪組織の他の成分から単離した。油および脂肪細胞層を吸引によって除去した。残っている間質血管分画を、勢いよくボルテックス攪拌することによって、約100mlのリン酸緩衝食塩水(PBS)に再懸濁し、50mlの遠心管に分け、500×gにて5分間遠心分離した。緩衝液を吸引により注意深く除去して、間質細胞を残した。次いで、間質細胞培地(DMEM(Morton(1970)In Vitro 6:89−108、Dulbecco(1959)Virology 8:396)/Ham’sF−10培地(Ham(1963)Exp Cell Res29:515)(1:1、v/v)、10%(v/v)のウシ胎仔血清、15mMのHEPES(pH7.4)、60U/mlのペニシリン、60U/mlのストレプトマイシン、15μg/mlのアンホテリシンB)に間質細胞を再懸濁し、適当な細胞密度で平板培養し、5%CO2中、37℃で一晩インキュベートした。いったん組織培養皿またはフラスコに付着させた後、培養間質細胞を直ちに使用してもよく、最高5継代まで培養中で維持してから実施例2に記載されているように骨芽細胞に分化させてもよい。
【実施例2】
【0036】
[脂肪間質細胞の骨芽細胞への分化]
実施例1に記載の通りに脂肪間質細胞を単離し、下記の通りに処理して、骨芽細胞に分化させる。1cm2あたり約22,000細胞の密度で間質細胞培地(上記参照)に懸濁した間質細胞を、24ウェルまたは6ウェル、あるいはそれらの両方の組織培養プレートで平板培養した。24時間後、間質細胞培地に骨芽細胞分化培地(10%のウシ胎仔血清(v/v)を添加したDMEM、10mMのβグリセロリン酸、50μg/mlのアスコルビン酸2リン酸、60U/mlのペニシリン、60U/mlのストレプトマイシン、15μg/mlのアンホテリシンB)と交換した。3日ごとに3週間、骨芽細胞分化培地を新たな培地と交換した。培地を変えるとき、1mlの馴化培地を採取し、分泌された因子を後で分析するために、−80℃で保存した。あるいは、脂肪組織から単離された間質細胞を、Hauner et al. (1989 J Clin Invest 34:1663−1667)の方法に従って、脂肪細胞分化培地で処理することにより分化させた。
【0037】
上記の通りに骨芽細胞培地で処理した細胞の顕微鏡による検査の結果、骨芽細胞の外観と一致した形態学的変化が明らかにされた(図1)。長期培養(21〜28日)後、各培養ウェル内に、幾つかの多細胞小節(multi-cellular nodule)が生じた。骨芽細胞培養の粒状の外観から、リン酸カルシウム沈着物および前骨構造の存在がわかる。脂肪組織から単離された間質細胞は、脂肪細胞分化培地で処理すると脂肪細胞に分化する可能性もあるため、骨芽細胞培地で処理した細胞を、脂肪細胞の存在についても試験した。細胞質中に出現する油滴がないこと、および独特の丸い脂肪細胞形態学を有する細胞がないことによってわかるように、骨芽細胞培地で処理された培養に明瞭な脂肪細胞はなかった。
【0038】
間質細胞が骨芽細胞に分化されたかどうかを決定するために、骨芽細胞分化培地で処理した細胞を、von Kossa法で染色した。簡潔に説明すると、培地の80%を無血清培地と数回交換することにより、培地からウシ胎仔血清を段階希釈した。5%ホルムアルデヒドで細胞を固定し、次いでPBSで数回洗浄して残留血清を除去した。固定された細胞を100%のエタノール中、4℃で10分間インキュベートした。次いで、エタノールを除去し、固定された細胞を、254nmの紫外線下、5%の硝酸銀0.5mlで10分間インキュベートした。次いで、この細胞を蒸留水で2〜3回洗浄し、5%のチオ硫酸ナトリム中で5分間インキュベートし、次いで水で洗浄した。染色された細胞は、50%のグリセロール中で無期保存することができる。図2Bおよび2Cに、von Kossa染色の結果を示す。骨芽細胞培地処理した細胞のみが陽性に染まり、暗色に変わった。
【0039】
下記の通りに、Oil Red Oによる染色を実施した。リン酸緩衝食塩水でプレートを数回すすぎ、培地中の血清またはウシ血清アルブミンを除去した。次いで、細胞をリン酸緩衝食塩水に溶解したメタノールまたは10%ホルムアルデヒドで15分〜24時間固定した。6mlの原液(イソプロパノール100mlに溶解した0.5gのOil Red O)を、4mlのdH2Oに加えることにより、Oil Red O希釈標準溶液を調製した。希釈標準溶液を室温で1時間置いた後、Whatman#1フィルターを通過させて濾過した。細胞は、約100mmのプレートあたり3ml、または6ウェルプレートのウェルあたり1mlで室温にて1時間細胞を染色し、次いで水で数回洗浄した。残りの洗浄液を全部除去した。ウェルあたり150μlのイソプロパノールを加え、そのプレートを室温で10分間インキュベートした。全てのOil Red Oが確実に溶液中にあるように、イソプロパノールをピペットで上下させた。500nMにおける光学密度を測定した。
【0040】
以下に記載するように、脂肪細胞分化培地で処理してOil Red Oで染まった細胞は独特の赤色を示し、脂質が蓄積していることがわかった。前脂肪細胞は、4週間後に培地中に蓄積している非常に小さい油滴を示した。骨芽細胞培地で処理した細胞は、幾らかの非特異的なOil Red Oのバックグラウンドを示したが、染色は細胞と関連がなかった(図2C)。以上の結果から、骨芽細胞に分化している間質細胞は、検出可能な脂肪細胞の形態を具有しないことがわかる。このような中性脂肪の蓄積が欠如していることは、脂肪細胞機能および脂肪細胞系が欠如している指標である。
【0041】
骨芽細胞分化を示す生化学的な変化も評価した。オステオカルシンは、ELISA(Intact Human Osteocalcin K EIAキット、カタログ番号BT−460、Biomedical Technologies,Inc.,Stoughton,MA)によって測定できる、骨芽細胞特異的分泌タンパク質である。骨芽細胞、前脂肪細胞、脂肪細胞から得られる培地を、分泌オステオカルシンの存在について試験した。簡潔に説明すると、馴化培地(72時間後の、40,000細胞からの2mlの培地)を採取し、各培地20μlをアッセイに使用した。図3に示すように、骨芽細胞の培地ではオステオカルシンの増加が見られるが、脂肪間質細胞および脂肪細胞では、オステオカルシンの分泌は、ほとんどまたは全く見られない。
【0042】
分泌されたレプチンペプチドを、市販のELISAキットで測定した。製造会社が勧めるプロトコルに従って、馴化培地(40,000細胞からの2mlの培地を72時間馴化した)を採取し、各培地の100μlをアッセイに使用した。予想通り、培地に分泌されるレプチンは脂肪細胞分化中に増加するが、骨芽細胞分化中には増加しない。脂肪細胞特異的分泌タンパク質であるレプチンが馴化培地中に存在することは、脂肪細胞活性の明確なマーカーである。骨芽細胞および間質細胞は、検出可能なレプチンを培地中に分泌せず、脂肪細胞系の欠如を示すが、脂肪細胞分化を遂げた細胞のみが2週間後にレプチンを分泌する。
【0043】
骨芽細胞系の別の指標は、アルカリホスファターゼを分泌する能力である。上記の通りに細胞を準備してインキュベートし、アルカリホスファターゼ・アッセイ・キット(Sigma Diagnostic Inc.製,カタログ番号104−LS、St Louis,MO)を使用して、市販の馴化培地を、アルカリホスファターゼについてアッセイした。図4からわかるように、前脂肪細胞は基本レベルの分泌アルカリホスファターゼ活性を有していた。分化すると、脂肪細胞はこの基本レベルの分泌活性を失ったが、骨芽細胞はアルカリホスファターゼのレベルの上昇を示した。
【実施例3】
【0044】
[骨芽細胞分化に影響を及ぼす化合物の同定]
実施例1に記載の方法に従って脂肪組織から単離された間質細胞の培養体を使用して、本発明の化合物が骨芽細胞分化に及ぼす作用を試験した。本発明の化合物の存在下および非存在下におくこと以外は実施例2に記載の通りに、脂肪間質細胞から骨芽細胞を分化させた。分泌したオステオカルシン用のアッセイによって、分化を測定した。この実施例の方法を使用して、骨芽細胞分化に対して陽性に影響を及ぼすことが確認された化合物としては、骨形態発生タンパク質4およびオステオポンチンIが挙げられる(データ表示せず)。以上の結果は、先のWozney et al. 1988 Science 242:1528−1534,Asahina et al. 1996 Exp Cell Res 222:38−47およびCook et al. 1996 Clin Orthop.324:29−38の結果と一致する。下記の通骨芽細胞分化を増進する化合物を使用して、被験対象の骨構造を強化することが可能である。
【実施例4】
【0045】
[骨修復における骨芽細胞の使用]
実施例1に記載の方法を使用して、非治癒性骨折または骨粗鬆症性骨折に罹っている患者からの脂肪吸引により、脂肪組織から間質細胞を単離する。実施例2に記載の方法を使用して、in vitroで、前脂肪細胞を骨芽細胞に分化させる。7〜21日後、たとえばトリプシン処理により、あるいは分化した細胞を組織培養プレートから機械的に擦り取ることにより、分化した骨芽細胞を収穫し、次いで無菌条件下で4〜20℃にて3000×gで10分間遠心分離することにより濃縮する。収穫した細胞を、コラーゲンまたはMatrigel(商標)溶液中に再懸濁し、次いで、20ゲージ以上の穿孔針を使用して、骨折部位または手術部位に直接注入する。あるいは、注入前に細胞を、DBMあるいは、ProOsteon2000(商標)(InterporeCross社製,Irvine,CA)もしくはCollgraft(商標)(ZimmerInc.製,Warsaw,IN)等のセラミックマトリックスと混合する。使用する細胞の量は、骨折の表面積および骨折の性質によって異なる。所望する骨折の回復速度に応じて、複合治療を必要とする場合もある。結果として治癒までの時間が短縮し、骨折部位の周りの骨密度が上昇した。
【実施例5】
【0046】
[遺伝学的に変化した骨芽細胞の骨折および骨粗鬆症への使用]
実施例1に記載の通りに間質細胞を単離し、塩化カルシウム等の標準形質導入法(Manistis et al. (1982)MolecularCloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Press,Cold Spring Harbor,NY)を使用して、遺伝物質(たとえば、プロモーターに作動可能に連結した骨形態発生タンパク質等の有用な遺伝子産物をコードするDNA)を間質細胞に導入する。Effectene試薬を使用した、このようなプロトコルが開発されており、本明細書に記載されている。微量遠心管内で、0.1〜2.0μgのpCMV−βgal(Stratagene,Inc.製,La Jolla,CA)を150μlの緩衝液EC(Qiagen Effectene(商標)キット、カタログ番号301425、QiagenCorp.製)に加える。こうすることにより、DNAを凝縮することが可能である。この凝縮したDNAに8μlのエンハンサー(QiagenEffectenキット)を加える。次いで、凝縮したDNAが入っている遠心管を1秒間ボルテックスし、室温で2〜5分間インキュベートする。この遠心管を短時間遠心分離して、遠心管の上部の滴を除去する。10μlのEffectene(商標)を加え、遠心管を10秒間ボルテックスし、室温で5〜10分間インキュベートする。5〜10分間インキュベートした後、DNA混合物に培地の1mlを加える。
【0047】
120μlの古い培地を細胞から除去し、新たな70μlの培地を加える。細胞を37℃で約5時間インキュベートする。しかし、Effecteneは有毒ではないため、細胞に何時間残っていてもよい。
【0048】
次いで、この細胞を80μlの新たな培地で1回洗浄し、感染の72時間後に、Maniatis et al.(1982)により記載されている方法を使用して、βガラクトシダーゼ活性についてアッセイする。実施例1に記載の方法に従って、このような細胞を骨芽細胞に分化させてもよい。あるいは、骨芽細胞に分化した細胞にDNAを直接導入してもよい。
【0049】
核酸配列を細胞に導入する他の方法を使用してもよい。Becker et al.(1994)Meth Cell Biol 43:161−189およびMeunier−Durmont et al(1996)Eur Biochem 237:660−667に記載されているプロトコルと同様に、たとえばアデノウイルスを使用してDNAを間質細胞に導入してもよい。次いで、上の実施例1に記載の通りに骨芽細胞に分化するように細胞を処理する。あるいは、分化した骨芽細胞はウイルス粒子に感染しやすくなる。抗生物質選択マーカーを加えて、導入された遺伝物質を担持する細胞を富化させることができる。導入された遺伝物質を担持する誘導された骨芽細胞を、実施例3に上述した通りに骨折および骨粗鬆症の骨髄に導入する。
【0050】
本明細書に記載の全ての刊行物は、当業者の水準を示す。それぞれの刊行物が具体的に且つ個別に引用されるのと同程度に、全ての刊行物を引用することにより本明細書の一部をなすものとする。
【0051】
具体的な実施形態を参照しながら本発明を説明してきたが、多数の変更、修正および実施形態が可能であり、したがって、そのような変更、修飾、および実施形態は全て、本発明の精神および範囲の中であるとみなされることが理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】骨芽細胞分化培地で処理することにより、骨芽細胞に分化させたヒト脂肪間質細胞に現れる形態学的な変化を表す図である。
【図2A】骨芽細胞分化培地または脂肪細胞分化培地で処理し、Oil Red Oで染色した脂肪間質細胞を表す図である。
【図2B】骨芽細胞分化培地または脂肪細胞分化培地で処理し、von Kossa法で染色した脂肪間質細胞を表す図である。
【図2C】骨芽細胞分化培地または脂肪細胞分化培地で処理し、Oil Red Oまたはvon Kossa法で染色した脂肪間質細胞を表す図である。
【図3】間質細胞培地(PA)、脂肪細胞培地(AD)または骨芽細胞培地(OST)で脂肪間質細胞を処理したときに分泌されたオステオカルシンおよびレプチンの濃度の時間経過を表す図である。
【図4】間質細胞培地(SC)、脂肪細胞分化培地(AD)または骨芽細胞分化培地(OST)中で21日間培養した脂肪間質細胞により分泌されたアルカリホスファターゼの濃度を表す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
線維芽細胞の成長を支持することができる培地を含み、分化を誘導する量のβグリセロリン酸およびアスコルビン酸またはアスコルビン酸2リン酸あるいはそれらの両方を含む組成物中で、脂肪間質細胞を培養する工程を含む、脂肪間質細胞を骨芽細胞に分化させる方法。
【請求項2】
前記量が、約2〜20mMのβグリセロリン酸、および約20〜75μMのアスコルビン酸またはアスコルビン酸2リン酸あるいはそれらの両方である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記量が、約5〜15mMのβグリセロリン酸、および約40〜60μMのアスコルビン酸またはアスコルビン酸2リン酸あるいはそれらの両方である請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記量が、約10mMのβグリセロリン酸、および約50μMアスコルビン酸またはアスコルビン酸2リン酸あるいはそれらの両方である請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記培地が、DMEM、αMEM、BMEからなる群から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記培地が、約5〜20%のウシ胎仔血清を更に含む請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記培地が1種または複数の骨形態発生タンパク質をさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記細胞が哺乳動物のものである請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記細胞がヒトのものである請求項8に記載の方法。
【請求項10】
a)骨芽細胞分化に対する影響について試験すべき化合物の存在下および非存在下で、線維芽細胞の成長を支持することができる培地を含み、分化を誘導する量のβグリセロリン酸およびアスコルビン酸またはアスコルビン酸2リン酸あるいはそれらの両方とを含む組成物中で、脂肪間質細胞を培養する工程と、
b)前記化合物の存在下で培養した前記細胞における骨芽細胞分化を、前記化合物の非存在下で培養した前記細胞のそれとを比較する工程と
を含む骨芽細胞の分化に影響を与える化合物を同定する方法。
【請求項11】
前記量が、約2〜20mMのβグリセロリン酸、および約20〜75μMのアスコルビン酸またはアスコルビン酸2リン酸あるいはそれらの両方である請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記量が、約5〜15mMのβグリセロリン酸、および約40〜60μMのアスコルビン酸またはアスコルビン酸2リン酸あるいはそれらの両方である請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記量が、約10mMのβグリセロリン酸、および約50μMのアスコルビン酸またはアスコルビン酸2リン酸あるいはそれらの両方である請求項12に記載の方法。
【請求項14】
a)線維芽細胞の成長を支持することができる培地と、分化を誘導する量のβグリセロリン酸およびアスコルビン酸またはアスコルビン酸2リン酸あるいはそれらの両方とを含む組成物中で脂肪間質細胞を培養する工程と、
b)前記骨芽細胞を、前記被験対象の手術部位または骨折部位に導入する工程と
を含む被験対象の骨構造を改善する方法。
【請求項15】
前記量が、約2〜20mMのβグリセロリン酸、および約20〜75μMのアスコルビン酸またはアスコルビン酸2リン酸あるいはそれらの両方である請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記量が、約5〜15mMのβグリセロリン酸、および約40〜60μMのアスコルビン酸またはアスコルビン酸2リン酸あるいはそれらの両方である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記量が、約10mMのβグリセロリン酸、および約50μMのアスコルビン酸またはアスコルビン酸2リン酸あるいはそれらの両方である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記脂肪間質細胞が前記被験対象から単離される、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
前記培地が、DMEMと、αMEMと、BMEとからなる群から選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項20】
前記培地が、約5〜20%のウシ胎仔血清を更に含む請求項14に記載の方法。
【請求項21】
前記培地が、1種または複数の骨形態発生タンパク質をさらに含む請求項14に記載の方法。
【請求項22】
前記被験対象が哺乳動物である、請求項14に記載の方法。
【請求項23】
前記被験対象がヒトである請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記骨芽細胞が、骨創傷または骨欠損または骨障害あるいはそれらのすべての修復に有用な組成物と混合して導入される、請求項14に記載の方法。
【請求項25】
所望の核酸配列が前記脂肪間質細胞または骨芽細胞に導入される、請求項14に記載の方法。
【請求項26】
脂肪間質細胞と、線維芽細胞の成長を支持することができる培地と、前記間質細胞を骨芽細胞に分化させるのに十分な量のβグリセロリン酸およびアスコルビン酸またはアスコルビン酸2リン酸あるいはそれらの両方とを含む組成物。
【請求項27】
前記量が、約2〜20mMのβグリセロリン酸、および約20〜75μMのアスコルビン酸またはアスコルビン酸2リン酸あるいはそれらの両方である、請求項26に記載の組成物。
【請求項28】
前記量が、約5〜15mMのβグリセロリン酸、および約40〜60μMのアスコルビン酸またはアスコルビン酸2リン酸あるいはそれらの両方である、請求項27に記載の組成物。
【請求項29】
前記量が、約10mMのβグリセロリン酸、および約50μMのアスコルビン酸またはアスコルビン酸2リン酸あるいはそれらの両方である、請求項28に記載の組成物。
【請求項30】
前記間質細胞がヒトのものである、請求項26に記載の組成物。

【図3】
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【図4】
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【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【公開番号】特開2008−99708(P2008−99708A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−336030(P2007−336030)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【分割の表示】特願2000−523321(P2000−523321)の分割
【原出願日】平成10年12月1日(1998.12.1)
【出願人】(500389564)ゼン‐バイオ,インコーポレイテッド (2)
【Fターム(参考)】