説明

骨髄由来の生殖細胞系列幹細胞から生殖細胞を産生するための方法及び組成物

本発明は、骨髄由来の生殖細胞系列幹細胞及びその前駆細胞の使用、それを単離する方法及びそれを使用する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願/特許及び参照による取り込み)
本出願は、代理人整理番号第910000−3073号として2004年5月17日に出願された米国特許出願第60/572,222号、代理人整理番号第910000−3074号として2004年5月24日に出願された米国特許出願第60/574,187号及び代理人整理番号第910000−3076号として2004年7月9日に出願された米国特許出願第60/586,641号に係る優先権を主張する。これら出願のそれぞれの内容を参照して本明細書に取り込む。
本明細書中に引用された出願及び特許;またその各々(特許された出願の係属中に「本出願で引用された文献」として引用された文献も含む)で引用した文献又は参照;これらの出願及び特許の何れかに対応するPCT及び外国出願又は特許、及び/又はこれらの出願及び特許の何れかの優先権を主張する出願及び特許;及び、特許出願に於いて引用された文献中で引用又は参照された文献はそれぞれ、参照して本明細書に取り込み、本発明の実施に用いてもよい。より一般的には、本明細書中に引用される文献又は参照は、明細書の末尾に参考文献リストとして又は明細書中の何れかに引用される。そして、これらの文献又は参照(「本明細書で引用された文献」)のそれぞれは、及び本明細書で引用された各々の文献で引用された文献及び参照(製造者の仕様書、説明書等の何れをも含む)と同様に、参照して本明細書に取り込むものとする。
【0002】
(政府が保有する利益に関する記載)
米国政府は、アメリカ国立衛生研究所(National Institutes of Health)の加齢医学研究所(National Institutes on Aging)から出されたグラント番号R01−AG12279及びR01−AG24999に基づいて、この発明に関する特定の権利を有するものである。
【背景技術】
【0003】
哺乳動物のメスが胎生期に生殖細胞の再生をする能力を失うという生殖生物学の基本的な学説は、JohnsonらのNature428:145(2004)により、最近検証されたばかりである。Johnsonらは、幼惹なマウス及び成体マウスの卵巣が、卵母細胞の変性とクリアランスの割合に基づいて、出生後の哺乳動物の卵巣内に卵母細胞と卵胞の産生を維持するといった有糸分裂的に活性な生殖細胞を持つことを確証的に示した最初のグループである。しかしながら、生殖細胞前駆細胞の存在が卵巣のみ又は生殖細胞を形成し得る前駆体を持つ体内の卵巣以外の場所のみに限定されるか否かははっきりしないままである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これまで、グリーンとバーンスタイン(1970)Int.J.Radiat.Biol.Vol.17(1):87,が一連の骨髄接種実験に於いて生殖器官由来でない細胞が精巣生殖上皮に再構築(repopulation)することを明らかにしようと試みてきた。これらの実験では、全身を放射線照射殺菌された雄の試験ラットに、精巣特異的な放射線照射殺菌をされたドナーラットからの骨髄液を注射した。これらの実験は、ドナーラットより得られた骨髄細胞を注射した際、精子形成再開のための試験ラットの生殖上皮の再構築を証明できなかった。従って、骨髄由来の細胞が哺乳類の生殖腺の生殖細胞系列で成功裏に再構築したとは考えられなかった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(発明の要約)
骨髄に由来する生殖系列幹細胞が生殖器官の生殖細胞系列で再構築し、それにより生殖腺機能を回復させるということが明らかになっている。本発明の方法は、特に、精巣及び卵巣に於いて生殖細胞の貯蔵を補充する又は増大(expand)させるために、受精率を増加又は回復させるために、そして雌性に於いては更年期の徴候及び影響を改善するために、末梢血由来の生殖細胞系列幹細胞及びそれらの前駆細胞の使用することに関する。
一態様に於いては、本発明は、骨髄に由来する雌性の生殖細胞系列幹細胞を含んで成る組成物を提供する。
【0006】
ある態様では、本発明は、有糸分裂能を有し、Oct4、Vasa、Dazl、Stella、Fragilis並びに任意にNobox、c−Kit及びSca−1を発現する、骨髄に由来する雌性の生殖細胞系列幹細胞を含んで成る組成物を提供する。本発明の骨髄に由来する雌性の生殖細胞系列幹細胞は、それらの有糸分裂能の表現型と一致して、成長/分化因子9(GDF−9)、透明帯タンパク質(例えば、透明帯タンパク質3(ZP3))、ヒストン脱アセチル化酵素6(HDAC6)及びシナプトネマ複合体タンパク質(SCP3)を発現しない。宿主に移植されると、本発明の骨髄に由来する雌性の生殖細胞系列幹細胞は、移植後少なくとも1週、より好ましくは1〜約2週、約2〜約3週、約3〜約4週又は約5週以上の期間の後、卵母細胞を産生する。
【0007】
別の態様では、本発明は、骨髄に由来する雌性の生殖細胞系列幹細胞から派生した前駆細胞を含む組成物を提供する。一態様では、本発明は、Oct−4、Vasa、Dazl、Stella、Fragilis並びに任意にNobox、c−Kit及びSca−1を発現するが、GDF−9、透明帯タンパク質、HDAC6及びSCP3は発現しない、骨髄に由来する雌性の生殖細胞系列幹細胞の前駆細胞を含む組成物を提供する。本発明の、骨髄に由来する雌性の生殖細胞系列幹細胞の前駆細胞は、宿主に移植されると、移植後1週より短い期間で、好ましくは約24〜48時間で卵母細胞を産生する。
【0008】
一態様では、本発明は、有糸分裂能があり、Oct−4、Vasa、Dazl、Stella、Fragilis並びに任意にNobox、c−Kit及びSca−1を発現する、単離された骨髄細胞を提供する。好ましくは、細胞は、骨髄に由来する雌性の生殖細胞系列幹細胞又はその前駆細胞であり、XXの核型を有する。好ましくは、骨髄に由来する雌性の生殖細胞系列幹細胞又はその前駆細胞は、非胚性(non-embryonic)の、哺乳動物の、そしてより好ましくはヒトのものである。
【0009】
別の態様では、本発明は、精製された骨髄に由来する雌性の生殖細胞系列幹細胞集団及び/又はその前駆細胞集団を提供する。特定の態様では、精製された細胞集団は、組成物中に約50〜約55%、約55〜約60%、約65〜約70%、約70〜約75%、約75〜約80%、約80〜約85%、約85〜約90%、約90〜約95%又は約95〜約100%の細胞が存在する。
【0010】
さらに別の態様では、本発明は、骨髄に由来する雌性の生殖細胞系列幹細胞及び/又はそれらの前駆細胞並びに薬学的に許容される担体を含む医薬組成物を提供する。医薬組成物は、精製された骨髄に由来する雌性の生殖細胞系列幹細胞集団及び/又はその前駆細胞集団を含んでいてもよい。
【0011】
本発明の骨髄由来の雌性の生殖細胞系列幹細胞を含む組成物は、卵巣組織に直接投与することによって、又は、例えば対象の循環器系に(例えば、卵巣外循環に)間接的に投与することによって提供することができる。
さらに別の態様では、本発明は、本明細書で以下に記載されるように、インビボ、エクスビボ又はインビトロで骨髄由来の生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞を操作する方法を提供する。
【0012】
ある態様では、本発明は、骨髄に由来する雌性の生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞を、細胞の増殖又は生存を促進させる薬剤と接触させることによりそれらの量を増加させることを含む、骨髄に由来する雌性の生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞をインビボ、エクスビボ又はインビトロで増大(expand)させる方法を提供する。好ましい態様では、薬剤は、ホルモン若しくは成長因子(例えば、インスリン様成長因子(IGF)、)形質転換増殖因子(TGF)、骨形成タンパク質(BMP)、Wntタンパク質若しくは線維芽細胞成長因子(FGF))、細胞情報伝達分子(例えば、スフィンゴシン−1−リン酸(S1P)若しくはレチノイン酸 (RA))、又は、薬理学若しくは医薬品化合物(例えば、グリコーゲン合成酵素キナーゼ−3(GSK−3)阻害剤、Bax阻害剤若しくはカスパーゼ阻害剤等のアポトーシス阻害剤、一酸化窒素産生の阻害剤、又はHDAC活性阻害剤)を含むが、それらに限定されるものではない。
【0013】
別の態様では、本発明は、骨髄に由来する雌性の生殖細胞系列幹細胞又はその前駆細胞を試験する薬剤と接触させ、骨髄に由来する雌性の生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞の数の増加を検出し、それにより、骨髄に由来する雌性の生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞の増殖又は生存を促進する薬剤を同定することを含む、骨髄に由来する雌性の生殖細胞系列幹細胞又はその前駆細胞の増殖又は生存を促進する薬剤を同定する方法を提供する。
【0014】
さらに別の態様では、対象となる集団から骨髄に由来する雌性の生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞を単離し、複数の培養細胞を確立するために培養液中で当該細胞を増大(expand)させること、任意で当該細胞を望ましい系統に分化させること、細胞培養物を1つ又はそれ以上の生物学的又は薬理学的な薬剤に接触させること、1つ又はそれ以上の生物学的又は薬理学的な薬剤に対して1つ又はそれ以上の細胞応答を同定すること、及び、異なる対象由来の細胞培養物の細胞応答を比較することを含む、生物学的又は薬理学的な薬剤に対する薬理学的な細胞応答を特徴付けるために、雌性の生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞を使用する方法を提供する。
【0015】
さらに別の態様では、本発明は、骨髄に由来する雌性の生殖細胞系列幹細胞又はその前駆細胞を卵母細胞へ分化させる薬剤の存在下で、骨髄に由来する雌性の生殖細胞系列幹細胞又はその前駆細胞を培養し、それにより卵母細胞を産生することを含む、卵母細胞を産生するための方法を提供する。好ましい態様では、薬剤は、ホルモン若しくは成長因子(例えば、TGF、BMP若しくはWntファミリータンパク質、kit−リガンド(SCF)若しくは白血病抑制因子(LIF))、情報伝達分子(例えば、減数分裂活性化ステロール(FF−MAS))、又は、薬理学若しくは医薬品化合物(例えば、Idタンパク質の機能若しくはSnail/Slug転写因子の機能の調節因子)を含むが、それらに限定されるものではない。
【0016】
さらに別の態様では、本発明は、対象となる雌をインビトロで受精させる方法を提供し、当該方法は、以下の工程を含む:
a)骨髄に由来する雌性の生殖細胞系列幹細胞又はその前駆細胞を、卵母細胞に分化させる薬剤の存在下で培養することにより、卵母細胞を産生すること
b)卵母細胞をインビトロで受精させて接合体を形成すること、及び、
c)接合体を対象である雌の子宮に移植すること。
【0017】
さらに別の態様では、本発明は、対象である雌をインビトロで受精させる方法を提供し、当該方法は、以下の工程を含む:
a)骨髄に由来する雌性の生殖細胞系列幹細胞又はその前駆細胞を、当該細胞を卵母細胞に分化させる薬剤と接触させることによって、卵母細胞を産生すること、
b)卵母細胞をインビトロで受精させて接合体を形成すること、及び、
c)接合体を対象である雌の子宮に移植すること。
【0018】
さらに別の態様では、本発明は、骨髄に由来する雌性の生殖細胞系列幹細胞又はその前駆細胞を試験される薬剤と接触させること、及び、卵母細胞の数の増加を検出し、それにより、骨髄に由来する雌性の生殖細胞系列幹細胞又はその前駆細胞の分化を誘導する薬剤を同定することを含む、骨髄に由来する雌性の生殖細胞系列幹細胞又はその前駆細胞の卵母細胞への分化を誘導する薬剤を同定する方法を提供する。
【0019】
さらに別の態様では、本発明は、骨髄に由来する雌性の生殖細胞系列幹細胞又はその前駆細胞を、組織、好ましくは卵巣に提供することを含む、卵母細胞を産生する方法を提供し、そこでは、細胞は組織に生着し卵母細胞に分化し、それにより卵母細胞を産生する。
さらに別の態様では、本発明は、骨髄に由来する雌性の生殖細胞系列幹細胞又はその前駆細胞を、組織、好ましくは卵巣に提供することを含む、卵胞形成を誘導する方法を提供し、そこでは、細胞は組織に生着し卵胞内で卵母細胞に分化し、それにより卵胞形成を誘導する。
【0020】
さらに別の態様では、本発明は、骨髄に由来する雌性の生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞を含む組成物の治療有効量を対象に投与することを含む、不妊治療を必要としている対象の雌の不妊を治療する方法を提供し、そこでは、細胞は、組織、好ましくは卵巣に生着し卵母細胞に分化し、それにより不妊を治療する。本明細書で特に言及しない限り、不妊治療を必要とする雌の対象とは、以前に化学療法又は放射線治療を受けていない対象である。
【0021】
さらに別の態様では、本発明は、骨髄に由来する雌性の生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞の治療有効量を対象に投与することを含む、既に化学療法若しくは放射線治療(又は両方の治療)を受けており、受精率の回復を望む対象の雌の受精率を回復させる方法を提供し、そこでは、細胞は組織、好ましくは卵巣に生着し卵母細胞に分化し、それにより対象の受精率を回復させる。好ましくは、骨髄に由来する雌性の生殖細胞系列幹細胞は、骨髄から得られる精製された細胞の亜母集団を含む。化学療法剤は、特に、ブスルファン、シクロホスファミド、5−FU、ビンブラスチン、アクチノマイシンD、エトポシド、シスプラチン、メトトレキセート、ドキソルビシンを含むが、それらに限定されるものではない。放射線治療は、電離放射線、紫外線照射、X線等を含むが、それらに限定されるものではない。
【0022】
さらに別の態様では、本発明は、化学療法若しくは放射線治療(又は両方の治療)より前に又は同時に、生殖機能の傷害を保護する薬剤を提供すること、及び、骨髄に由来する雌性の生殖細胞系列幹細胞又はその前駆細胞を対象に提供することを含む、化学療法若しくは放射線治療(又は両方の治療)を受けている又は受けることが予定されている対象の雌において受胎能力を保護するための方法を提供し、そこでは、細胞は、組織、好ましくは卵巣組織に生着し卵母細胞に分化し、それにより対象の受胎能力を保護する。保護剤は、S1P、Bax拮抗剤又はSDF−1活性を増加させるいずれの薬剤でもよい。
【0023】
さらに別の態様では、本発明は、骨髄に由来する雌性の生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞を含む組成物の治療有効量を組織に提供することを含む、損傷を受けた卵巣組織を修復するための方法を提供し、そこでは、細胞は組織に生着し卵母細胞に分化し、それにより損傷を受けた組織を修復する。損傷は、例えば、細胞傷害性因子への曝露、ホルモンの欠乏、成長因子の欠乏、サイトカインの欠乏、細胞レセプター抗体等によって、引き起こされるかもしれない。本明細書で特に言及する場合を除き、損傷は、以前に受けた化学療法又は放射線治療によるものではない。損傷は、また、癌、多嚢胞性卵巣疾患、遺伝性疾患、免疫障害、代謝性疾患等の卵巣機能に影響を与える疾患によっても引き起こされるかもしれないがそれらに限定はされない。
【0024】
さらに別の態様では、本発明は、骨髄に由来する雌性の生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞の治療有効量を対象の卵巣に投与することを含む、化学療法若しくは放射線治療(又は両方の治療)を受けたことがあり、卵巣機能の回復を望む対象の雌の卵巣機能を回復するための方法を提供し、そこでは、細胞は卵巣に生着し卵巣内で卵母細胞に分化し、それにより対象の卵巣機能を回復する。
【0025】
さらに別の態様では、本発明は、骨髄に由来する雌性の生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞を含む組成物の治療有効量を対象に投与することを含む、閉経期にある対象の雌の卵巣機能を回復するための方法を提供し、そこでは、細胞は卵巣に生着し卵母細胞に分化し、それにより卵巣機能を回復する。閉経期にある雌の対象は、閉経前又は閉経後の段階であってもよく、当該閉経は正常(例えば、加齢)又は病理学的過程(例えば、手術、疾患、卵巣損傷)により引き起こされるものである。
【0026】
卵巣機能の回復は、これらに限定はされないが、骨粗鬆症、循環器系の疾患、体細胞性の性機能障害、のぼせ、膣部の乾燥、睡眠障害、うつ病、刺激過敏症、性欲の喪失、ホルモンのアンバランス等の体細胞性の疾患、同様に記憶の喪失、情緒障害、うつ病等の認知性疾患を含む更年期障害に伴う有害な症状及び合併症を軽減することができる。
【0027】
本発明の方法は、他の生殖細胞種を産生するのに使用できる。従って、さらに別の態様では、本発明は、骨髄に由来する雄性の生殖細胞系列幹細胞を含む組成物を提供し、そこでは、骨髄に由来する雄性の生殖細胞系列幹細胞は、有糸分裂能があり、Vasa及びDazlを発現する。本発明の骨髄に由来する雌性の生殖細胞系列幹細胞はXX核型を有する一方、本発明の骨髄に由来する雄性の生殖細胞系列幹細胞はXY核型を有する。好ましくは、骨髄に由来する雄性の生殖細胞系列幹細胞は、非胚性の、哺乳動物の、そしてより好ましくはヒトのものである。
【0028】
ある態様では、本発明は、有糸分裂の能力があり、XY核型を有し、Vasa及びDazlを発現する、単離された骨髄細胞を提供する。
さらに別の態様では、本発明は、対象である雄の精巣に骨髄に由来する雄性の生殖細胞系列幹細胞又はその前駆細胞を提供することを含む、精子形成を回復又は増強するための方法を提供し、そこでは、細胞は精上皮に生着し精細胞に分化し、それにより精子形成を回復又は増強する。
【0029】
さらに別の態様では、本発明は、骨髄に由来する雄性の生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞の治療有効量を対象に投与することを含む、化学療法若しくは放射線治療(又は両方の治療)を受けたことがあり、受精率の回復を望む対象である雄の受精率を回復する方法を提供し、そこでは、細胞は精上皮に生着し精細胞に分化し、それにより受精率を回復する。
【0030】
さらに別の態様では、本発明は、骨髄由来の生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞をを、細胞増殖を減少させる薬剤と接触させ、それにより骨髄由来の生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞の量を減少させることを含む、骨髄由来の生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞の量をインビボ、エクスビボ又はインビトロで減少させる方法を提供する。好ましい態様では、薬剤は、ホルモン若しくは成長因子(例えば、TGF−β)、分裂促進的なホルモン若しくは成長因子のペプチドアンタゴニスト(例えば、BMPアンタゴニスト、DAN及びCerberus関連タンパク質(PRDC)並びにGremlin)、又は、薬理学若しくは医薬品化合物(例えば、細胞周期阻害剤若しくは成長因子情報伝達の阻害剤)を含むが、それらに限定されるものではない。
【0031】
さらに別の態様では、本発明は、骨髄由来の生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞を、細胞の生存を阻害する又は細胞死を促進させる薬剤と接触させ、それにより骨髄由来の生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞の量を減少させることを含む、骨髄由来の生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞をインビボ、エクスビボ又はインビトロで減少させるための方法を提供する。好ましい態様では、細胞の生存を阻害する薬剤は、ホルモン、成長因子若しくはサイトカイン(例えば、TNF−α、Fasリガンド(FasL)及びTRAIL等のアポトーシス促進性の腫瘍壊死因子(TNF)スーパーファミリーのメンバー)、 生存促進性のBcl−2ファミリーメンバーの機能のアンタゴニスト、情報伝達分子(例えば、セラミド)、又は、薬理学若しくは医薬品化合物(例えば、成長因子情報伝達の阻害剤)を含むが、それらに限定されるものではない。好ましい態様では、細胞死を促進させる薬剤は、アポトーシス促進性の腫瘍壊死因子(TNF)スーパーファミリーのメンバー(例えば、TNF−α、FasL及びTRAIL)、生存促進性のBcl−2ファミリーメンバーの機能のアゴニスト及びセラミドを含むが、それらに限定されるものではない。
【0032】
さらに別の態様では、本発明は、骨髄由来の生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞を試験する薬剤と接触させること、及び、骨髄由来の生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞の数の減少を検出し、それにより雌性の生殖細胞系列幹細胞又はその前駆細胞の増殖又は生存を減少させる又は細胞死を促進させる薬剤を同定することを含む、骨髄由来の生殖細胞系列幹細胞又はその前駆細胞の増殖又は生存を減少させる又は細胞死を促進させる薬剤を同定する方法を提供する。
【0033】
さらに別の態様では、本発明は、対象の骨髄由来の生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞を、骨髄由来の生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞の増殖、機能又は生存を減少させる、又は、当該細胞の新たに卵母細胞、精細胞又は受精に必要とされる他の体細胞性の細胞種を産生する能力を減少させる薬剤と接触させ、それにより対象に避妊を提供することを含む、対象である雄又は雌において避妊するための方法を提供する。
さらに別の態様では、本発明は、本発明の様々な薬剤を利用する際に使用するためのキットを提供する。
【0034】
ある態様では、本発明は、骨髄に由来する雌性の生殖細胞系列幹細胞又はその前駆細胞の細胞増殖又は生存を促進する薬剤と、骨髄に由来する雌性の生殖細胞系列幹細胞又はその前駆細胞の細胞増殖又は生存を促進する薬剤の使用に関する説明書を含み、それにより本発明の方法に従って雌性の生殖細胞系列幹細胞又はその前駆細胞を増大(expand)させる、骨髄に由来する雌性の生殖細胞系列幹細胞又はその前駆細胞をインビボ、エクスビボ又はインビトロで増加させるキットを提供する。
【0035】
別の態様では、本発明は骨髄に由来する雌性の生殖細胞系列幹細胞又はその前駆細胞を卵母細胞へ分化させる薬剤と、本発明の方法に従って骨髄に由来する雌性の生殖細胞系列幹細胞又はその前駆細胞を卵母細胞へ分化させる薬剤の使用に関する説明書を含む、卵母細胞を産生するキットを提供する。
【0036】
さらに別の態様では、本発明は、増殖又は生存を促進することにより骨髄に由来する雌性の生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞の量を増加させる薬剤と、骨髄に由来する雌性の生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞の量を増加させる薬剤の使用に関する説明書を含み、それにより本発明の方法に従って卵母細胞を産生する、卵母細胞を産生するためのキットを提供する。
【0037】
さらに別の態様では、本発明は、骨髄に由来する雌性の生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞を卵母細胞に分化させる薬剤と、骨髄に由来する雌性の生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞を卵母細胞に分化させる薬剤の使用に関する説明書を含み、それにより本発明の方法に従って卵母細胞を産生する、卵母細胞を産生するためのキットを提供する。
【0038】
さらに別の態様では、本発明は、増殖又は生存を促進することによって、骨髄に由来する雌性の生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞の量を増加させる薬剤と、骨髄に由来する雌性の生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞の量を増加させる薬剤の使用に関する説明書を含み、それにより本発明の方法に従って対象の不妊を治療する、不妊治療を必要としている対象の雌の不妊を治療するためのキットを提供する。
【0039】
さらに別の態様では、本発明は、骨髄に由来する雌性の生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞を卵母細胞に分化させる薬剤と、骨髄に由来する雌性の生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞を卵母細胞に分化させる薬剤の使用に関する説明書を含み、それにより本発明の方法に従って対象の不妊を治療する、不妊治療を必要としている対象の雌の不妊を治療するためのキットを提供する。
【0040】
さらに別の態様では、本発明は、生殖機能の傷害に対して骨髄に由来する雌性の生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞を保護する薬剤と、生殖機能の傷害に対して骨髄に由来する雌性の生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞を保護する薬剤の使用に関する説明書を含み、それにより本発明の方法に従って対象である雌に於いて受胎能力を保護する、化学療法若しくは放射線治療(又は両方の治療)を受けている又は受けることが予定されている対象である雌の受胎能力を保護するためのキットを提供する。
【0041】
さらに別の態様では、本発明は、増殖又は生存を促進することによって、骨髄に由来する雌性の生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞の量を増加させる薬剤と、骨髄に由来する雌性の生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞の量を増加させる薬剤の使用に関する説明書を含み、それにより本発明の方法に従って対象の卵巣機能を回復する、対象となる閉経後の雌において卵巣機能を回復するためのキットを提供する。
【0042】
さらに別の態様では、本発明は、骨髄に由来する雌性の生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞を卵母細胞に分化させる薬剤と、骨髄に由来する雌性の生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞を卵母細胞に分化させる薬剤の使用に関する説明書を含み、それにより本発明の方法に従って対象の卵巣機能を回復する、対象となる閉経後の雌において卵巣機能を回復するためのキットを提供する。
【0043】
別の態様では、本発明は、細胞の生存を阻害する又は細胞死を促進させる薬剤と、骨髄由来の生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞の細胞の生存を阻害する又は細胞死を促進させる薬剤の使用に関する説明書を含み、それにより本発明の方法に従って骨髄由来の生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞の量を減少させる、骨髄由来の生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞の量をインビボ、エクスビボ又はインビトロで減少させるためのキットを提供する。
【0044】
さらに別の態様では、本発明は、骨髄由来の生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞の増殖、機能又は生存を減少させる、又は、当該細胞の新たに卵母細胞又は受精に必要とされる他の体細胞性の細胞種を産生する能力を減少させる薬剤と、骨髄由来の生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞の増殖、機能又は生存を減少させる、又は、当該細胞の新たに卵母細胞、精細胞又は受精に必要とされる他の体細胞性の細胞種を産生する能力を減少させる薬剤の使用に関する説明書を含み、それにより本発明の方法に従って対象に避妊を提供する、対象である雄又は雌において避妊するためのキットを提供する。
【0045】
(発明の詳細な説明)
定義
「骨髄由来の生殖細胞系列幹細胞」は、雌性又は雄性の生殖細胞系列幹細胞の集団を含む骨髄から得られる多分化能の細胞である。
「増大(expansion)」は、最終的な分化をすることなく、1つ又は複数の細胞が増殖することを示す。「単離表現型」は、単離された骨髄由来の生殖細胞系列幹細胞の構造的及び機能的な特徴を示す。「増大(expansion)表現型」は、増大中(during expansion)の骨髄由来の生殖細胞系列幹細胞の構造的及び機能的な特徴を示す。増大(expansion)表現型は単離表現型と同一であってもよいし、あるいは、増大(expansion)表現型は単離表現型と比べてより分化したものであってもよい。
【0046】
「分化」は、細胞系列に関係付けられた分化過程を示す。「細胞系列」は、細胞の発生経路を示し、細胞の発生においては、前駆体(precursor)すなわち「前駆(progenitor)」細胞は、進行性の生理学的な変化を経て独特の機能を有する特定の細胞種(例えば、神経細胞、筋細胞又は内皮細胞)に分化していく。分化はいくつかの段階で起こり、「最終的な分化」とも呼ばれる十分な成熟に達するまで、細胞は段階をへて次第により特異的となっていく。「最終的に分化した細胞」は、特異的な細胞系列に関係付けられた細胞であり、分化の最後の段階(すなわち、十分に成熟した細胞)に達している。卵母細胞は、最終的に分化した細胞種の一例である。
【0047】
本明細書で使用される「単離された」という用語は、天然には生じない状態の(例えば、生体からの骨髄のような生体又は生物学的なサンプルから単離された)骨髄に由来する生殖細胞系列幹細胞又はその前駆細胞を表す。
本明細書で使用される「前駆細胞」は、1)一連の共通マーカー遺伝子を備え、本発明の生殖細胞系列幹細胞から子孫(progeny)として派生した、2)分化の初期段階にあり、3)有糸分裂能を保持している、生殖細胞系列の細胞である。
本明細書で使用される「子孫細胞(progeny)」は、前駆細胞、分化した細胞及び最終的に分化した細胞を含む、本発明の骨髄由来の生殖細胞系列幹細胞から派生した全ての細胞である。
本明細書で使用される「由来の/から派生した(derived from)」は、娘細胞を得る過程を示す。
「生着する」は、細胞間接触の過程及びインビボで目的の既存組織(例えば、卵巣)への細胞の取り込みの過程を示す。
【0048】
「薬剤」は、細胞の(生物学的な)及び医薬品としての因子、好ましくは成長因子、サイトカイン、ホルモン若しくは小分子を示し、又は、細胞機能を調節する(例えば、細胞系列への関係づけを誘導する、増大(expansion)を増加させる、細胞の成長及び生存を阻害若しくは促進する)遺伝的にコードされた産生物を示す。例えば、「増大剤(expansion agents)」は、骨髄由来の生殖細胞系列幹細胞の増殖及び/又は生存を増加させる薬剤である。「分化剤」は、骨髄由来の生殖細胞系列幹細胞を誘導して、卵母細胞又は精細胞等のように関係づけられた細胞系列に分化させる薬剤である。
【0049】
「卵胞」は、体細胞(卵胞膜間質のない又は卵胞膜間質を伴う顆粒膜)によって囲まれた単一の卵母細胞からなる卵巣構造を示す。生殖腺の体細胞は、個々の卵母細胞を包み込み卵胞を形成する。十分に形成されたそれぞれの卵胞は完全な基底膜に包まれる。新たに形成されたこれらの卵胞のいくつかは、ほぼ即時に成長を開始するが、それらの殆どは、退化するか又は何らかのシグナルがそれらを活性化し成長過程へ導くまで休止期の状態を保っている。卵巣の構造、機能及び生理学についての概説としては、Gougeon,A.,(1996)Endocr Rev.17:121−55、Anderson,L.D.,and Hirshfield,A.N.(1992)Md Med J.41:614−20、及び、Hirshfield,A.N.(1991)Int Rev Cytol.124:43−101を参照されたい。
【0050】
「精(精子)細胞」は、十分に成熟した精子を含む、発生過程の減数分裂前(すなわち、有糸分裂の能力のある)又は減数分裂後、何れかの状態にある、雄性の生殖細胞を示す。「精子形成」は、精細胞が形成される発生過程である。
「有糸分裂能がある」とは、1つの細胞が分裂し1つの親細胞から2つの娘細胞を生じる過程である、有糸分裂が可能である細胞を示す。
「非胚性の」細胞は、出生後の源(post-natal source)(例えば、乳児、小児及び成体組織)から得た細胞を示す。
【0051】
「対象(subject)」は、脊椎動物、好ましくは哺乳動物、より好ましくは霊長類、そしてより一層好ましくはヒトである。哺乳動物は、霊長類、ヒト、家畜、競技用動物及びペットを含むが、それらに限定されるものではない。
「薬剤を得る」といった「得ること」という用語は、購入すること、合成すること、又は、他の方法で薬剤(又は指示された物質又は材料)を取得することを含むことを意図している。
「含む(comprises)」及び「含んでいる(comprising)」という用語は、米国特許法で規定されているように広い意味を持つよう意図されており、「含む(includes)」「含んでいる(including)」等を意味する。
【0052】
発明の態様
I.骨髄由来の生殖細胞系列幹細胞
本発明の方法は、生殖細胞の産生を回復又は増加させるための、骨髄由来の生殖細胞系列幹細胞、又は、骨髄由来の生殖細胞系列幹細胞の前駆細胞の使用に関する。本発明の方法は、特に、受精率を上昇させる又は回復させるため、及び、雌性に於いては更年期の徴候及び影響を改善するために使用することができる。
【0053】
理論に拘束されることは望まないが、1つ又はそれ以上のメカニズムが、骨髄由来の生殖細胞系列幹細胞が生殖器官を再構築(repolupate)する能力に関与しているものと理解される。雌性の生殖細胞系列幹細胞は骨髄中で検出されているが、それらは生殖器官における生殖細胞の供給を再構築する及び/又は増大(expand)させる能力を有している幹細胞の貯蔵場所として機能しているとみられる。雄性の生殖細胞系列幹細胞も、対象となる雄の骨髄中に存在する。造血幹細胞等の骨髄中に存在するその他の細胞亜集団も同様に(Herzog,E.L.,etal.,(2004)Blood 102(10):3483)、例えば、多分化能の前駆細胞に脱分化し(米国特許第6,090,625号参照)、次いでその前駆細胞が末梢血を通じて生殖系に移動し、生殖細胞系列幹細胞又は生殖細胞系列幹細胞の前駆細胞として器官(例えば、卵巣又は精巣)に生着し卵母細胞(卵巣)又は精子(精巣)に分化するといった、生殖器官における生殖細胞の供給を再構築する及び/又は増大(expand)させる能力を有しているかもしれない。
【0054】
本明細書に記載のように、生殖細胞系列幹細胞は、対象である雄及び雌の骨髄中に検出されている。骨髄由来の雌性の生殖細胞系列幹細胞は、Oct−4、Vasa、Dazl、Stella、Fragilis並びに任意にNobox、c−Kit及びSca−1を含むマーカーを発現する。骨髄由来の雌性の生殖細胞系列幹細胞は有糸分裂能を持ち(すなわち、有糸分裂できる)、従ってGDF−9、透明帯タンパク質(例えば、ZP3)、HDAC6又はSCP3を発現しない。
【0055】
本発明は、また、骨髄由来の雌性の生殖細胞系列幹細胞前駆体も提供する。本発明の骨髄由来の雌性の生殖細胞系列幹細胞前駆体は、体内を循環することができ、より好ましくは骨髄、末梢血及び卵巣に局在することができる。本発明の前駆細胞は、Oct−4、Vasa、Dazl、Stella、Fragilis並びに任意にNobox、c−Kit及びSca−1を発現するが、GDF−9、透明帯タンパク質(例えば、ZP3)、HDAC6又はSCP3を発現しない。
【0056】
骨髄由来の雌性の生殖細胞系列幹細胞及びそれらの前駆細胞は、機能的な差異を有する。宿主へ移植されると、本発明の骨髄由来の雌性の生殖細胞系列幹細胞は、移植後少なくとも1週、より好ましくは1〜約2週、約2〜約3週、約3〜約4週又は約5週以上経過した後に、卵母細胞を産生することが可能である。骨髄由来の雌性の生殖細胞系列幹細胞前駆体は、骨髄由来の雌性の生殖細胞系列幹細胞よりも急速に卵母細胞を生じる能力を有する。宿主へ移植されると、本発明の骨髄由来の雌性の生殖細胞系列幹細胞前駆体は、移植後1週間未満で、好ましくは約24〜約48時間で、卵母細胞を産生することが可能である。
【0057】
Oct−4は、骨髄由来の雌性の生殖細胞系列幹細胞及びそれらの前駆細胞で発現する遺伝子である。Oct−4遺伝子は、哺乳類の生殖細胞系列の構築に関わり、初期の生殖細胞の分化に於いて重要な役割を果たす転写因子をコードしている(Scholer(1991),Trends Genet.7(10):323−329に概説されている)。発達中の哺乳類の胚に於いて、胚盤葉上層の分化中にOct−4はダウンレギュレートし、最終的に生殖細胞系統に閉じ込められていく。生殖細胞系列に於いては、Oct−4の発現は胚盤葉上層の発現とは別に制御されている。Oct−4の発現は全能性の表現型のマーカーである(Yeomら(1996)Development 122:881−888)。
【0058】
Stellaは、骨髄由来の雌性の生殖細胞系列幹細胞及びそれらの前駆細胞で発現する遺伝子である。Stellaは、卵母細胞(Bortvinら(2004)BMC Developmental Biology 4(2):1−5)を含む原始(Primordial)生殖細胞及びそれらの子孫で特異的に発現する新規の遺伝子である。Stellaは、SAP様ドメイン及びスプライシング因子モチーフ様構造を有するタンパク質をコードする。Stellaの発現を欠く胚は、着床前の発生に欠陥があり、殆ど胚盤胞期に達しない。このように、Stellaは初期胚発生に関係する母系性の因子である。
【0059】
Dazlは、骨髄由来の雌性の生殖細胞系列幹細胞及びそれらの前駆細胞で発現する遺伝子である。常染色体の遺伝子Dazlは、RNA結合ドメイン共通配列を含む遺伝子ファミリーのメンバーであり、生殖細胞で発現する。マウスでの無傷のDazlタンパク質の発現欠失は、生殖細胞における減数分裂前期の完了の失敗に関連している。特に、Dazl遺伝子を持たない雌マウスでは、胎生期に、生殖細胞が減数分裂前期へ進行するのと同じ時期に、生殖細胞の消失が起こる。Dazl遺伝子を持たない雄マウスでは、生殖細胞は、減数分裂前期Iの細糸期(レプトテン期)を越えて進行できなかった。このように、Dazlの不在では、減数分裂前期への進行が中断される(Saundersら(2003),Reproduction,126:589−597)。
【0060】
Vasaは、骨髄由来の雌性の生殖細胞系列幹細胞及びそれらの前駆細胞で発現する遺伝子である。Vasaは、DEADファミリーのATP依存性RNAヘリカーゼをコードする、生殖質の構成成分である(Liangら(1994)Development,120:1201−1211、Laskoら(1988)Nature,335:611−167)。Vasaの分子機能は、生殖細胞の確立(例えば、Oskar and Nanos)、卵形成(例えば、Gruken)及び翻訳開始(Gavisら(1996)Development,110:521−528)に関与する標的mRNAへの結合を指向している。Vasaは極細胞の形成に必要とされ、発生全体を通じてもっぱら生殖細胞系列に限定的なものとなっている。このように、Vasaはほとんどの動物種において生殖細胞系列についての分子マーカーである(Toshiakiら(2001)Cell Structure and Function 26:131−136)。Vasaは細胞移動の阻害に関連しているので、本発明の前駆細胞におけるVasaの発現は、前駆体の遊走過程に依存して、差別化されて制御されるであろう。例えば、骨髄に存在する時は前駆体はVasaを発現するが、生殖系へ移動した時には前駆体は発現をダウンレギュレートする、といった具合にである。
【0061】
Fragilisは、骨髄由来の雌性の生殖細胞系列幹細胞及びそれらの前駆細胞で発現する遺伝子である。Fragilisは、胚盤葉上層細胞による生殖細胞能力の獲得に関する膜貫通タンパク質をコードする、インターフェロン誘導性と推定される遺伝子である(Saitou, M. et al. (2002) Nature 418:293-300)。胚体外の外胚葉は、胚盤葉上層組織にfragilisの発現を誘導することができる。Fragilisは、クローン解析によると原始生殖細胞(PGC)としての能力を持つ細胞が存在する領域である近位胚盤葉上層に発現する(Lawson, KA et al. (1994) In Wiley, Chichester (Ciba Foundation Symposium 182):68-91)。これらの近傍の細胞が原腸胚形成の間に後部の近位領域へ移動する時、初期の尿膜芽の基部の細胞群内でfragilisの発現が増加する。Fragiliaを最も発現した細胞は、生殖細胞に特徴的なTNAP及びstella/PGC−7の発現を開始し(Ginsburg, M. et al. (1990) Development 110:521-528; Sato, M. et al. (2002) Mech Dev 113:91-94)、Hox遺伝子の抑制を示す。
【0062】
Noboxは、骨髄由来の雌性生殖細胞系列幹細胞及びその前駆細胞に選択的に発現する遺伝子である。Nobox(Newborn Ovary Homeobox)は、卵巣及び精巣に於いて原始生殖細胞の初期卵胞への転換を制御する遺伝子である。Nobox遺伝子欠失雌性マウスは、生誕6週までにそのすべての卵胞を失い、その時までに原則的に閉経期となる;雄性マウスは正常の精巣を持っているが、繁殖力が30%低い(Rajkovic, A. et al. (2004) Science 305 (5687): 1157-1159)。Noboxは、未成熟の卵細胞又は卵母細胞を保持する卵胞の発達にとって不可欠な遺伝子活性を統括するようである。これらの卵胞はマウスが発育するにつれて厚みを増すが、Noboxの非存在下では卵胞は発達せずに卵母細胞は退廃する。
【0063】
c−Kitは、骨髄由来の雌性生殖細胞系列幹細胞及びその前駆細胞に選択的に発現する遺伝子である。c−Kitは、コロニー刺激因子−1(CSF−1)及び血小板由来増殖因子に対する受容体に構造的に類似している膜貫通型タンパク質チロシンキナーゼ受容体をコードする、がん原遺伝子である。c−Kitは、胚性メラニン芽細胞腫の正常増殖及び分化に重要な役割を果たすことが見出されてきた。c−Kit及びそのリガンドはげっ歯類に於ける生殖細胞の移動、増殖及び生存の過程に必須であることが証明されてきた。c−Kit mRNA及びタンパク質の発現は、ヒト幼児生殖腺に特異的な生殖細胞であり、発達中のヒト生殖腺に於ける生殖細胞の増殖及び生存のc−kit/kitリガンド情報伝達システムに重要な役割と一致している(Robinson, L.L., et al. (2001) Mol Hum Reprod 7(9):845-52)。
【0064】
Sca−1は、骨髄由来の雌性生殖細胞系列幹細胞及びその前駆細胞に選択的に発現する遺伝子である。Sca−1(幹細胞抗原1、Ly−6A/E)は、18kDaのホスファチジルイノシトールアンカー蛋白質であり、Ly−6抗原ファミリーのメンバーである。Sca−1は、マウス骨髄由来の造血幹細胞の単離(同種のものへの精製)に用いられている(Van de Rijn, M. et al. (1989) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86:4634; Spangrude, G.I. et al. (1988( Science 241:58)。Sca−1HSCsは、成体骨髄、胎児肝臓並びに成体動物の非固定化された末梢血中及び脾臓内に見出される(Morrison, S. J. et al. (1997) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94:1908)。さらに、Sca−1は、B細胞及びT細胞の両方の活性化の調節に関わっているかもしれない(Codias, E.K. et al. (1990) J. Immunol. 145:1407)。
【0065】
骨髄由来の雌性の生殖細胞系列幹細胞及びそれらの前駆細胞は、既に卵母細胞へと分化を開始した細胞で発現する遺伝子GDF−9を発現しない。成長/分化因子9(GDF−9)は、形質転換増殖因子βスーパーファミリーのメンバーで、卵巣で特異的に発現する。GDF−9のmRNAは、一層の一次卵胞期から排卵後まで、成人及び新生児の卵母細胞で見出すことができる(Dong,J.ら(1996)Nature 383:531−5)。GDF−9欠損マウスの解析により、原始(primordial)及び一層の一次卵胞のみ形成され、卵胞の発生に於いて一層の一次卵胞期より先に進行することができず、完全に不妊という結果となることが明らかになった。
【0066】
骨髄由来の雌性の生殖細胞系列幹細胞及びそれらの前駆細胞は、卵母細胞の透明帯を構成する遺伝子産物であるZP3、ZP1、ZP2及びZP3を発現しない。それらの発現は、ベーシックへリックス−ループ−へリックス(bHLH)転写因子FIGαによって制御されている。FIGα遺伝子を持たないマウスは、Zp遺伝子を発現せず、原始卵胞を形成しない(Soyal,S.M.ら(2000)Development 127:4645−4654)。ZP遺伝子を個別にノックアウトすると、透明帯の異常又は欠損となり、受精率の減少(Zpl;Rankin T.ら(1999)Development 126:3847−55)又は不妊(Zp2;Rankin TL.ら(2001)Development 128:1119−26、Zp3;Rankin T.ら(1996)Development 122:2903−10)となる。ZPタンパク質産物はグリコシル化され、その後分泌されて、インビボでの受精及び着床前の発生のために重要な細胞外マトリックスを形成する。ZPタンパク質の発現は正確に制御されており、卵形成に於ける成長期の2週間に限定されている。ZpのmRNA転写物は、休止期の卵母細胞では発現しないが、ひとたび卵母細胞が成長を開始すると、3つ全てのZp転写物の蓄積が開始される。
【0067】
骨髄由来の雌性の生殖細胞系列幹細胞及びそれらの前駆細胞は、HDAC6を発現しない。HDAC、すなわちヒストン脱アセチル化酵素は卵巣での卵胞の発生に関与している。特にHDAC6は、休止している胚胞期(原始)卵母細胞で検出される(Verdel,A.ら(2003)Zygote 11:323−8;図16)。HDAC6は、クラスIIのヒストン脱アセチル化酵素で、微小管に関連した脱アセチル化酵素とされている(Hubbert,C.ら,(2002)Nature 417:455−8)。ヒストン脱アセチル化酵素は、トリコスタチンA及びトラポキシンには限定はされないが、それら阻害剤の標的であり、両阻害剤は、細胞分化、細胞周期停止及び形質転換された細胞形態の回復を誘導する微生物代謝産物である。
【0068】
骨髄由来の雌性の生殖細胞系列幹細胞及びそれらの前駆細胞は、それらの細胞が減数分裂前の幹細胞である(すなわち、二倍体)という観察に一致して、SCP3を発現しない。シナプトネマ複合体タンパク質SCP3は、相同染色体のシナプシスにとって重要であり減数分裂に特異的なタンパク質構造である、シナプトネマ複合体の側方要素の一部である。シナプトネマ複合体は、相同染色体の対合と分離を促進し、クロスオーバーの数と相対的な分布に影響を与え、クロスオーバーをキアズマに変換する。SCP3は減数分裂に特異的であり、多重鎖で交差した筋のある繊維を形成することができ、側方要素に秩序ある繊維性のコアを形成する(Yuan,L.ら,(1998)J.Cell.Biol.142:331−339)。マウスにおけるSCP3の欠損は、雌性の生殖細胞での異数性及び細胞死を引き起こすが、恐らくそれは減数分裂している染色体の構造的な整合性が欠けることによるものである(Yuan,L.ら,(2002)Science 296:1115−8)。
【0069】
骨髄由来の雌性の生殖細胞系列幹細胞及びそれらの前駆細胞は、骨髄から幹細胞を分離する、当該技術分野公知の標準的な方法(例えば、セルソーティング)で単離される。好ましくは、単離プロトコールは、造血性細胞が枯渇した、kit/lin分画の生成を包含する。遺伝子発現(例えば、Vasa、Oct−4、Dazl、Stella及びFragilis)の特徴的なプロファイルに基づくさらなる選別手段は、骨髄由来の雌性の生殖細胞系列幹細胞及びそれらの前駆細胞を含む細胞集団の精製に利用できる。骨髄由来の雌性の生殖細胞系列幹細胞及びそれらの前駆細胞を含む組成物は、単離され、引き続いて、それらが得られた生物学的サンプル(例えば、骨髄)が実質的に取り除かれる程度まで精製される。
骨髄由来の雌性の生殖細胞系列幹細胞前駆体は、雌性の生殖細胞系列幹細胞から、例えば培地で増大(expand)させることにより、得ることができる。このように、前駆細胞は、「増大(expansion)表現型」を有する細胞であってもよい。
【0070】
II.投与
骨髄由来の生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆体を含む組成物は、目的の生殖器官(例えば、卵巣又は精巣)に直接的に供与できる。あるいは、骨髄由来の生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆体を含む組成物は、例えば、循環系に(例えば、卵巣外循環へ)投与することによって、目的の生殖器官に間接的に供与することができる。移植又は着床に続いて、細胞は生着し生殖細胞(例えば、卵母細胞又は精細胞)へ分化できる。「生着(engraft)」は、細胞間接触の過程及びインビボで目的の既存組織(例えば、卵巣)への細胞の取り込みの過程を示す。増大剤(expansion agnets)及び分化剤は、投与の前、間及び後に、インビボで生殖細胞の産生を増加させるために供与することができる。
【0071】
本発明の組成物は、骨髄由来の生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞を含む医薬組成物と薬学的に許容される担体を含む。自己のもの又は異種のものを投与してもよい。例えば、骨髄由来の生殖細胞系列幹細胞、又は、それらの前駆細胞は、対象の一つから得たものを、同じ対象又は適合性のある異なる対象に投与することができる。
本発明の骨髄由来の生殖細胞系列幹細胞又はその子孫細胞(例えば、前駆細胞、分化した子孫細胞及び終末的に分化した子孫細胞)は、カテーテル投与、全身注入、局所的な注入、静脈内注入、子宮内注入又は非経口の投与を含む、局所的な注入を介して投与することができる。本発明の治療用組成物(例えば、医薬組成物)を投与するときは、一般的に、注入可能な単位用量の形態(溶液、懸濁液、エマルジョン)で処方されるであろう。
【0072】
本発明の組成物は、例えば、水性等張液、懸濁液、エマルジョン、分散液又は粘性の組成物等の、選択されたpHの緩衝液である無菌の液体調製物として簡便に提供される。液体調製物は、通常、ゲル、他の粘性組成物及び固体組成物と比べて調製するのがより容易である。さらに、液体組成物は、投与、特に注入による投与において、多少は、より簡便である。一方で、特定の組織でより長い接触期間を提供するために、粘性組成物を適切な粘性範囲内で処方することもできる。液体又は粘性組成物は、例えば、水、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、液状のポリエチレングリコール等)及びそれらの適した混合物を含有する、溶媒又は分散培地であってもよい担体を含むことが可能である。
【0073】
無菌の注入可能な溶液は、必要に応じて他の成分を様々な量で含有する、必要とされる量の適した溶媒に、本発明を実施するのに利用される細胞を取り込んで調製することができる。このような組成物は、滅菌水、生理食塩水、グルコース、デキストロース等の適した担体、希釈液又は賦形剤との混合物であってもよい。組成物は、また、凍結乾燥することもできる。組成物は、望ましい投与経路及び調製物によって、湿潤剤、分散剤又は乳化剤(例えば、メチルセルロース)、pH緩衝剤、ゲル又は粘性促進添加剤、保存剤、香料、色素等の補助的な物質を含むことができる。「REMINGTON’S PHARMACEUTICAL SCIENCE」第17版1985年等の標準的なテキストは、参照して本明細書に取り込むが、過度の実験なしに適した調製物を調製する助けとなるであろう。
【0074】
抗菌性保存剤(antimicrobial)、抗酸化剤、キレート剤及び緩衝剤を含む、組成物の安定性と無菌状態を促進する様々な添加剤を添加することができる。例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸等の様々な抗菌剤(antibacterial)及び抗真菌剤によって、微生物の活動の防止を確実なものとすることができる。注入可能な医薬品形態の吸収を延長することは、例えば、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンのような吸収を遅らせる薬剤の使用によって達成できる。しかしながら、本発明に従って使用される担体、希釈剤又は添加剤はいずれも、骨髄由来の生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆体に適合性を有するものでなければならない。
【0075】
組成物は、等張、すなわち、それらが血液及び涙液と同じ浸透圧を有していてもよい。本発明の組成物に望まれる等張性は、塩化ナトリウム又はその他に、デキストロース、ホウ酸、酒石酸ナトリウム、プロピレングリコール又はその他の無機又は有機溶質等の薬学的に許容される薬剤を使用することにより達成できるであろう。塩化ナトリウムは、ナトリウムイオンを含む緩衝液として特に好まれる。
【0076】
組成物の粘性は、必要に応じて、薬学的に許容される肥厚剤を使用することにより、選択されたレベルで維持可能である。メチルセルロースは、容易且つ経済的に入手可能であり、取り扱いが容易であるので好まれる。その他の好適な肥厚剤として、例えば、キサンタンガム、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボマー等が挙げられる。肥厚剤の好ましい濃度は、選んだ薬剤によるであろう。重要な点は、選択した粘性が達成できる量で使用することである。好適な担体及びその他の添加剤の選択は、実際の投与経路と特定の剤形の性質、例えば、液体製剤の形態(例えば、組成物が溶液、懸濁液、ゲル、又は、時間により放出される形態又は液体で満たされた形態等のその他の液状形態で処方されるかどうか)に依存するのは明らかである。
【0077】
細胞の導入を必要とする対象に細胞を導入する際に、細胞の生存を潜在的に増加させる方法は、目的の骨髄に由来する生殖細胞系列幹細胞又はそれらの子孫細胞(例えば、インビボ、エクスビボ又はインビトロで派生された)を、生体高分子又は合成ポリマーに取り込むことである。対象の症状によっては、傷跡又はその他の障害により、注入部位が細胞を蒔いたり成長させたりするのに適していないかもしれない。生体高分子としては、限定はされないが例えば、フィブロネクチン、フィブリン、フィブリノーゲン、トロンビン、コラーゲン及びプロテオグリカンの何れかと混合した細胞が挙げられる。これは増大因子(exponsion factors)又は分化因子を含んで又は含まずに構築してもよい。さらに、これらは懸濁液の状態であってもよいが、流出までの各部位での滞在時間は、通常の範囲が好ましい。別の代替物としては、細胞と生体高分子の混合物の間隙に封入した、細胞を含んだ三次元ゲルが挙げられる。さらに、増大因子(exponsion factors)又は分化因子を細胞とともに含んでいてもよい。これらは本明細書に記載の多様な経路を通して注入により配備される。
【0078】
組成物の構成成分として、本発明に記載のように、骨髄に由来する生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆体細胞の生存性又は有効性に影響しないように、化学的に不活性なもの選択すべきであることは、当業者には認識されているところである。これは、化学及び医薬の原理に精通した者にとって問題とはならないだろうし、また、問題が起きたとしても、標準のテキストを参照することにより又は簡便な実験により(過度の実験を要することなく)、当該明細書の開示及び引用文献から容易に回避できるであろう。
【0079】
骨髄に由来する生殖細胞系列幹細胞及びその子孫細胞の治療用途に関して考慮すべきことの一つは、最適な効果を達成するために必要な細胞の量である。自己の単核骨髄細胞に関するヒトに於ける最近の研究では、経験的な用量である細胞数1〜4×10個の範囲で使用した場合に有望な結果が得られた。しかしながら、筋書き如何によっては、目的組織に注入する細胞量の最適化が求められるかもしれない。このように、細胞の投与量は、治療される対象によって変化する。好ましい態様では、本発明の幹細胞10〜10個、より好ましくは10〜10個、そして更に好ましくは3×10個を、ヒト対象に投与することができる。
【0080】
より少数の細胞を卵巣又は精巣に直接的に投与することもできる。好ましくは10〜10、より好ましくは10〜10、そしてさらにより好ましくは10個の骨髄に由来する生殖細胞系列幹細胞を、ヒト対象に投与することができる。しかしながら、効果的とみなされる正確な用量は、身長、年齢、性別、体重及び症状を含むそれぞれの患者に個別の因子に依存して決定されるものである。特定の望ましい適用として選択された患者に100〜1000個といった少ない数の細胞を投与してもよい。従って、当業者であれば、当該明細書の開示と当該技術分野における知識から用量を確認するのは容易であろう。
【0081】
本発明の骨髄由来の生殖細胞系列幹細胞は、雌性の生殖細胞系列幹細胞又はその子孫細胞の精製された母集団を含むことができる。当業者は、蛍光標示式細胞分取器(FACS)等の様々な周知の方法を使用して、母集団に含まれる細胞の割合を容易に決定することができる。雌性の生殖細胞系列幹細胞又はその子孫細胞を含む母集団に於いて好ましい純度の範囲は、約50〜約55%、約55〜約60%及び約65〜約70%である。より好ましくは、純度は、約70〜約75%、約75〜約0%、約80〜約85%であり、より一層好ましくは、純度は、約85〜約90%、約90〜約95%及び約95〜約100%である。雌性の生殖細胞系列幹細胞又はその子孫細胞の純度は、母集団中の細胞表面マーカーのプロファイルに従って決定することができる。当業者であれば、用量を容易に調整することができる(例えば、純度が低ければ用量を増やす必要がある)。
【0082】
当業者であれば、本発明の方法で投与される、本発明の組成物中の細胞及び任意の添加剤、賦形剤及び/又は担体の量を容易に決定することができる。一般的に、どのような添加剤(活性化された幹細胞及び/又は薬剤に加えて)も、リン酸緩衝生理食塩水中に0.001〜50%(重量)の量で存在し、有効成分は、約0.0001〜約5重量%、好ましくは約0.0001〜約1重量%、より一層好ましくは約0.0001〜約0.05重量%、又は、約0.001〜約20重量%、好ましくは約0.01〜約10重量%、そしてより一層好ましくは約0.05〜約5重量%等のマイクログラムからミリグラムのオーダーで存在する。当然ながら、動物又はヒトに投与される如何なる組成物に対しても、如何なる特定の投与方法に対しても、適するモデル動物、例えばマウス等の齧歯類における致死量(LD)及びLD50を決定すること等によって毒性を決定し、また、適した応答を誘導する、組成物の用量、組成物含まれる構成成分の濃度及び組成物を投与する時期を決定するのがよしとされる。このような決定には、当業者の知識、当該明細書に於ける開示及びその引用文献に鑑みて過度の実験を要しない。また、逐次投与の時期の決定も過度の実験を要することなく確認できる。
【0083】
III.卵母細胞の産生
ある態様では、本発明は、骨髄由来の雌性の生殖細胞系列幹細胞又はその前駆細胞を、対象である雌、より好ましくは当該対象の卵巣に提供することを含む、卵母細胞産生のための方法を提供し、そこでは、細胞は卵巣に生着し卵母細胞に分化する。
【0084】
好ましくは、生着した細胞は卵胞を形成し、当該細胞は卵母細胞へと分化して卵胞に包まれ始める。好ましくは、生着した細胞は卵巣の卵胞内で卵母細胞へと分化する。卵胞形成は、単一の卵母細胞からなる卵巣構造が体細胞(卵胞膜間質のない又はそれを伴う顆粒膜)によって囲まれる過程である。生殖腺の体細胞は、個々の卵母細胞を囲い込み卵胞を形成する。それぞれの十分に形成された卵胞は完全な基底膜に包まれる。これらの新たに形成された卵胞のいくつかはほぼ即時に成長を開始するが、それらのほとんどは、退化するか又は何らかのシグナルがそれらを活性化して成長期に入るまで休止状態を保持している。本発明の方法は、いくつかの投与経路のうちの何れかで骨髄由来の雌性の生殖細胞系列幹細胞又はその前駆体を組織(例えば、卵巣組織)に提供することにより、卵胞形成を誘導することができる。骨髄由来の雌性の生殖細胞系列幹細胞又はその前駆細胞は、当該組織に生着し、卵胞内で卵母細胞に分化できる。
【0085】
骨髄由来の雌性の生殖細胞系列幹細胞又はそれら前駆細胞の数は、現存する骨髄由来の雌性の生殖細胞系列幹細胞又はそれら前駆細胞の生存又は増殖を促進することによって増加させることができる。
骨髄由来の雌性の生殖細胞系列幹細胞、又は、その前駆細胞の増殖と生存を増加させる薬剤(例えば、拡大剤)は、ホルモン若しくは成長因子(例えば、IGF、TGF、BMP、Wntタンパク質若しくはFGF)、細胞情報伝達分子(例えば、S1P若しくはRA)、又は、薬理学若しくは医薬品化合物(例えば、GSK−3阻害剤、Bax阻害剤若しくはカスパーゼ阻害剤等のアポトーシス阻害剤、一酸化窒素産生の阻害剤、又は、HDAC活性阻害剤)を含むが、それらに限定されるものではない。
【0086】
成長因子を含む薬剤が、幹細胞の増殖又は生存を増加させることは当該技術分野公知である。例えば、米国特許第5,750,376号及び第5,851,832号は、TGFを使用した、神経性幹細胞のインビトロでの培養と増殖のための方法を記載している。幹細胞の増大(expansion)と増殖における能動的な役割は、BMP(Zhu,G.ら,(1999)Dev.Biol.215:118−29、Kawase,E.ら,(2001)Development 131:1365)及び、Wntタンパク質(Pazianos,G.ら,(2003)Biotechniques 35:1240、Constantinescu,S.(2003)J.Cell Mol.Med.7:103)についても記載されている。米国特許第5,453,357号及び第5,851,832号は、FGFを利用した増殖性の幹細胞培養システムを記載している。特にこれら参考文献それぞれの内容について、当該技術分野公知の増大剤(expansion agents)についての記載を参照して、本明細書に取り込む。
【0087】
細胞情報伝達分子を含む薬剤も、幹細胞の増殖又は生存を増加させることは当該技術分野では公知である。例えば、スフィンゴシン−1−リン酸は、神経性の前駆細胞の増殖を誘導することが知られている(Harada,J.ら,(2004)J.Neurochem.88:1026)。米国特許出願第20030113913号は、培地中での幹細胞の自己再生におけるレチノイン酸の使用を記載している。特にこれら参考文献それぞれの内容について、当該技術分野公知の増大剤(expansion agents)についての記載を参照して、本明細書に取り込む。
【0088】
薬理学又は医薬品化合物を含む薬剤も、幹細胞の増殖又は生存を増加させることは当該技術分野では公知である。例えば、グリコーゲン合成酵素キナーゼ−阻害剤は、Wntシグナル伝達による活性化を介して胚性幹細胞の多分化能を維持する(Sato,N.ら,(2004)Nat.Med.10:55−63)。アポトーシス阻害剤(Wang,Y.ら,(2004)Mol.Cell.Endocrinol.218:165)、一酸化窒素/一酸化窒素合成酵素の阻害剤(Matarredona,E.R.ら,(2004)Brain Res.995:274)及びヒストン脱アセチル化酵素阻害剤(Lee,J.H.ら,(2004)Genesis38:32−8)は、増殖及び/又は多分化能を増加させることが知られている。例えば、ヒューマニンペプチドは、アポトーシスを抑制するBax機能の阻害剤である(Guo,B.ら,(2003)Nature 423:456−461)。特にこれら参考文献それぞれの内容について、当該技術分野公知の増大剤(expansion agents)についての記載を参照して、本明細書に取り込む。
【0089】
骨髄由来の雌性の生殖細胞系列幹細胞、又は、その前駆細胞を、骨髄由来の雌性の生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞を卵母細胞へ分化させる薬剤(例えば、分化剤)と接触させることによって、卵母細胞の産生をさらに増加させることができる。このような分化剤は、ホルモン若しくは成長因子(例えば、TGF、BMP、Wntタンパク質、SCF又はLIF)、情報伝達分子(例えば、減数分裂活性化ステロール(FF−MAS))、又は、薬理学若しくは医薬品製剤(例えば、Idタンパク質の機能若しくはSnail/Slug転写制御因子の機能の調節因子)を含むが、それらに限定されるものではない。
【0090】
成長因子を含む薬剤が幹細胞の分化を誘発することは、当該技術分野では公知である。例えば、TGF−βは、造血性幹細胞の分化を誘導できる(Ruscetti,F.W.ら,(2001)Int.J.Hematol.74:18)。米国特許出願第2002142457号には、BMPを使用して心筋細胞を分化させるための方法が記載されている。Peraらには、BMP−2を使用したヒト胚性幹細胞の分化が記載されている(Pera,M.F.ら,(2004)J.Cell Sci.117:1269)。米国特許出願第20040014210号及び米国特許第6,586,243号には、SCFの存在下、樹状細胞の分化が記載されている。米国特許第6,395,546号には、LIFを使用した胚性及び成体中枢神経系細胞からインビトロでドーパミン作動性ニューロンを発生させるための方法が記載されている。これら参考文献それぞれの内容は、当該技術分野公知の分化剤についての記述に関する参考文献として、本明細書に特に取り込まれる。
【0091】
情報伝達分子を含む薬剤は卵母細胞の分化を誘発することも、当該技術分野公知である。FF−Masは、卵母細胞の成熟を促進することが知られる(Marin Bivens,C.L.ら,(2004)BOR papers 印刷中)。特にこれら参考文献それぞれの内容について、当該技術分野公知の分化剤についての記載を参照して、本明細書に取り込む。
【0092】
薬理学又は医薬品化合物を含む薬剤が、幹細胞を分化を誘導することも当該技術分野では公知である。例えば、Idの調節因子は、造血系の分化に関与しているし(Nogueria,M.M.ら,(2000)276:803)、Snail/Slugの調節因子は、幹細胞の分化を誘導することが知られている(Le Douarin,N.M.ら,(1994)Curr.Opin.Genet.Dev.4:685−695、Plescia,C.ら,(2001)Differentiation 68:254)。特にこれら参考文献それぞれの内容について、当該技術分野公知の分化剤についての記載を参照して、本明細書に取り込む。
【0093】
本発明は、骨髄由来の雌性の生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞を、細胞増殖を減少させる、細胞の生存を阻害する又は細胞死を促進させる薬剤と接触させることを含む、骨髄由来の雌性の生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞をインビボ、エクスビボ又はインビトロで減少させる方法も提供する。本発明の細胞の望まれない増殖とは、癌性及び前癌性の表現型(例えば、生殖細胞腫瘍、卵巣癌)を生じることである。このような方法は、生殖細胞系列幹細胞及び任意でそれらの前駆細胞若しくは卵母細胞の数を減少させることにより、望まれない増殖(例えば、癌)を制御するために又は避妊処置のために使用することができる。
【0094】
細胞増殖を減少させる薬剤は、ホルモン若しくは成長因子(例えば、TGF−β)、分裂促進ホルモン若しくは成長因子のペプチドアンタゴニスト(例えば、BMPアンタゴニスト、PRDC及びGremlin)、又は、薬理学若しくは医薬品化合物(例えば、細胞周期阻害剤若しくは成長因子情報伝達の阻害剤)を含むが、それらに限定されるものではない。
【0095】
細胞の生存を阻害する薬剤は、ホルモン、成長因子若しくはサイトカイン(例えば、TNF−α、FasL及びTRAIL等のアポトーシス促進性のTNFスーパーファミリーメンバー)、生存促進性のBcl−2ファミリーメンバーの機能のアンタゴニスト、情報伝達分子(例えば、セラミド)、又は、薬理学若しくは医薬品化合物(例えば、成長因子情報伝達の阻害剤)を含むが、それらに限定されるものではない。生存促進性のBcl−2ファミリーのメンバーは、Bcl−2、Bcl−xl(Cory,S.and Adams,J.M.(2000)Nat Rev Cancer 2(9):647−656、Lutz,R.J.(2000)Cell Survival Apoptosis 28:51−56)、Bcl−W(Gibson,L.ら,(1996)Oncogene 13 665−675、Cory,S.and Adams,J.M.(2000)Nat Rev Cancer 2(9):647−656)、Mcl−1(Kozopas,K.M.ら(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.90:3516−3520、Reynolds,J.E.ら(1994)Cancer Res.54:6348−6352、Cory,S.and Adams,J.M.(2000)Nat Rev Cancer 2(9):647−656)及びA1(Cory,S.and Adams,J.M.(2000)Nat Rev Cancer 2(9):647−656、Gonzales,J.ら(2003)Blood 101(7):2679−2685、Reed,J.C.(1997)Nature 387:773−776)を含む。
【0096】
細胞死を促進させる薬剤は、アポトーシス促進性の腫瘍壊死因子スーパーファミリーのメンバー(例えば、TNF−α、FasL及びTRAIL)、アポトーシス促進性のBcl−2ファミリーメンバーの機能のアゴニスト及びセラミドを含むが、それらに限定されるものではない。アポトーシス促進性のBcl−2ファミリーメンバーは、Bax(Oltvai,ZN.ら(1993)Cell 74:609−619)、Bak(Chittenden,T.ら(1995)Nature 374:733−736)、Bid(Luo,X.,ら(1998)Cell 94:481−490)、Hrk(Inohara,N.ら(1997)EMBO J 16(7):1686−1694)、Bod(Hsuら(1998)Mol Endocrinol.12(9):1432−1440)、Bim(O’Connor,L.ら(1998)EMBO J.17(2):385−395)、Noxa(Oda,E.ら(2000)Science 288,1053−1058、Yakovlev,A.G.ら(2004)J Biol Chem 279(27):28367−28374)、puma(Nakano,K.and Vousden,K.H.(2001)Mol Cell 7(3):683−694)、Bok(Yakovlev,A.G.ら(2004)J Biol Chem 279(27):28367−28374、Hsu SY.ら(1997)Proc Natl Acad Sci USA.94(23):12401−6)及びBcl−xs(Boise,L.H.ら(1993)Cell 74:597−608)を含む。
【0097】
PRDC(Sudoら,(2004)J.Biol.Chem.,出版進行中)、TNF(Wong,G.ら,(2004)Exp.Neurol.187:171)、FasL(Sakata,S.etal,(2003)Cell Death Differ.10:676)、TRAIL(Pitti,RMら(1996)J Biol Chem 271:12687−12690、Wiley,SR.ら(1995)Immunity 3:673−682)を含む、いくつかの薬剤が、細胞増殖若しくは生存を阻害する又は細胞死を促進させることは当該技術分野では公知である。セラミドは、原始的なヒト造血性細胞に対する腫瘍壊死因子の機能を仲介する(Maguer−Satta,V.ら,(2000)Blood 96:4118−23)。Bcl−2、Bcl−XL、Bcl−W、Mcl−1、A1、Bax、Bak、Bid、Hrk、Bod、Bim、Noxa、Puma、Bok及びBcl−xs等のBcl−2ファミリーメンバーのアゴニスト/アンタゴニストは、幹細胞の生存を阻害することが知られる(Lindsten,T.ら,(2003)J.Neurosci.23:11112−9)。薬理学又は医薬品化合物を含む薬剤は細胞の生存を阻害することも、当該技術分野では公知である。例えば、繊維芽細胞成長因子の情報伝達を阻害するヘパラン硫酸6−O−エンドスルファターゼ、QSulfl等の成長因子情報伝達の阻害剤は、幹細胞の生存を阻害できる(Wang,S.ら,(2004)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 101:4833)。特にこれら参考文献それぞれの内容について、細胞の生存を阻害することが当該技術分野で公知となっている薬剤についての記載を参照して、本明細書に取り込む。
【0098】
薬剤は、目的の生殖器官へ直接的に提供することができる。あるいは、薬剤は、例えば循環系に投与することによって、間接的に目的の生殖器官へ提供することができる。
薬剤は、多様な投与経路によりそれを必要とする対象に投与できる。投与方法は、一般に、医学的に許容できる何れの投与形態、すなわち臨床上許容できない副作用を有することなく効果的なレベルの活性な化合物を生じる如何なる形態、で実施されてもよい。このような投与形態は、経口の、直腸の、局所的な、眼内の、頬側の、膣内の、大槽内の、脳室内の、気管内の、経鼻の、経皮の(例えば、コラーゲン等の繊維、浸透圧ポンプ若しくは適切に形質転換された細胞を含んだ移植片等の移植物(implants)内/上の)又は非経口の経路を含む。「非経口の」という用語は、皮下、静脈内、筋肉内、腹腔内、生殖腺内への注入を含む。静脈内又は筋肉内の経路は、長期の治療及び予防法として特に適しているわけではない。特定の投与方法は、コラーゲン繊維、タンパク質ポリマー等の治療用タンパク質とともに被覆した、包埋した又は誘導体化した繊維を含む。他の有用なアプローチは、Otto,D.ら.,J.Neurosci.Res.22:83及びOtto,D.and Unsicker,K.,J.Neurosci.10:1912に記載されている。
【0099】
インビトロ及びエクスビボでの適用は、望ましい結果を達成するために、選択された薬剤とともに、骨髄由来の生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞を培養することを含んでいてもよい。細胞(同じ個体由来及び異なる個体由来)の培養を、例えば、卵母細胞又は精(子)細胞の産生を刺激する目的の薬剤とともに行うことができ、その後、卵母細胞は多様な治療上の応用(例えば、インビトロでの受精)のために使用することができる。
【0100】
本発明の培養物から派生する分化した細胞は、宿主に着床することができる。移植は、器官又は器官ユニットを派生する幹細胞のドナーが、操作される組織を有するレシピエントであるような自家移植であってもよい。移植は、器官又は器官ユニットを派生する幹細胞のドナーが、操作される組織を有するレシピエントでないような異種移植であってもよい。ひとたび宿主へ移植されると、分化した細胞は、生来の宿主組織の機能と構造を有する。
【0101】
骨髄由来の生殖細胞系列幹細胞及びそれらの子孫細胞は、ポリマー骨格の存在下で培養し、薬剤で処理し及び/又は投与することができる。ポリマー骨格は、拡散によりガス、栄養分及び廃棄物の交換を最適化するよう設計される。ポリマー骨格は、例えば、繊維からなる多孔質で不織のアレイを含んでいてもよい。当該ポリマー骨格は、表面領域が最大となり、細胞へ栄養分と成長因子の適切な拡散が可能となるよう成型することができる。これらのパラメーターを考慮に入れて、当業者であれば、当該技術分野公知の方法を使用して、操作された組織(engineered-tissue)が移植され新たな血管と互いに嵌合するまでの間、細胞が拡散により栄養を得るのに十分な表面領域を有するポリマー骨格を形成することができる。ポリマー骨格は、原繊維の構造を含んでいてもよい。繊維は、円形、扇形、平形、星形、単一のもの又は他の繊維と絡み合わせたものであってもよい。体積に比例して表面領域が増加するように、分岐している繊維を使用してもよい。
【0102】
他に特定されない限り、「ポリマー」という用語には、重合し又は接着して完全なユニットを形成するモノマー及びポリマーが含まれる。当該ポリマーは、非生分解性又は、通常、加水分解若しくは酵素的な切断を介する生分解性であってもよい。「生分解性」という用語は、要求される構造的な完全性を維持しながら、数分から3年、好ましくは1年より短い期間をかけて、生理学的な環境で相互作用により代謝可能な又は排出可能な構成成分に機械的に分解されることにより、生吸収性及び/又は分解性及び/又は破壊される物質を示す。ポリマーについての言及で使用されるとき、「分解する」という用語は、分子量がオリゴマーレベルでほぼ一定であり、ポリマー粒子が分解後にも残るようなポリマー鎖の切断を示す。
【0103】
ポリマー骨格の製作に適する材料は、ポリ乳酸(PLA)、ポリ−L−乳酸(PLLA)、ポリ−D−乳酸(PDLA)、ポリグリコリド、ポリグリコール酸(PGA)、ポリラクチドコグリコリド(PLGA)、ポリジオキサノン、ポリグルコン酸、ポリ乳酸−酸化ポリエチレンコポリマー、修飾セルロース、コラーゲン、ポリヒドロキシ酪酸、ポリヒドロキシプリオピオン酸、ポリホスホエステル、ポリ(α−ヒドロキシ酸)、ポリカプロラクトン、ポリ炭酸、ポリアミド、ポリ無水物、ポリアミノ酸、ポリオルトエステル、ポリアセタール、ポリシアノアクリル酸、分解性ウレタン、アリファト酸ポリエステルポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、アシル置換酢酸セルロース、非分解性ポリウレタン、ポリスチレン、塩化ポリビニル、フッ化ポリビニル、ポリビニルイミダゾール、クロロスルホン酸化ポリオリフィン、酸化ポリエチレン、ポリビニルアルコール、テフロンRTM、ナイロンシリコン、及び、ポリ(スチレンブロックブタジエン)、ポリノルボルネン、ヒドロゲル、金属合金及び切り替え区域としてのオリゴ(ε−カプロラクトン)ジオール/物理的な架橋としてのオリゴ(p−ジオキサノン)ジオール等の形状記憶物質を含む。他の適するポリマーは、The Polymer Handbook第3版(Wiley,N.Y.,1989)を参照することにより得ることができる。
【0104】
栄養分、成長因子、分化又は脱分化の誘導因子、分泌生産物、免疫調節物質、炎症阻害剤、退化因子、ホルモン又は他の生物学的に活性な化合物を含むが、それらには限定されない因子が、ポリマー骨格に取り込まれるか、又は、ポリマー骨格と結合して提供されてもよい。
【0105】
本発明の薬剤は、キット中のさらなる試薬とともに提供されてもよい。当該キットは、治療計画又はアッセイに関する説明書、試薬、器具(試験管、反応容器、針、シリンジ等)及びキャリブレーションのための、又は治療若しくはアッセイを指示するための標準試薬を含むことができる。本発明に従ってキット中に提供される説明書は、操作上の適当なパラメーターとしてラベル又は別添の挿入物の形態で提供されてもよい。当該キットは、さらに標準すなわち対照となる情報を含んでいてもよく、それにより検査サンプルは一貫性のある結果が得られたか否かを調べるため、標準となる対照の情報と比較することができる。
【0106】
IV.精子形成
本発明の方法は、他の生殖系の細胞種の産生にも使用することができる。従って、ある態様では、本発明は、骨髄由来の雄性の生殖細胞系列幹細胞又はその前駆細胞を雄の対象の精巣に提供することを含む、精子形成を回復又は増強する方法を提供し、そこでは、当該細胞は精上皮に生着し、精細胞へ分化する。骨髄由来の雄性の生殖細胞系列幹細胞又はその前駆体を精巣へ投与することは、好ましくは精巣への注入により実施される。精巣への直接的な注入は、血液による障壁を有利に回避し、細胞を精上皮等の適した場所へ提供する。
【0107】
精子形成は、さらに、骨髄由来の雄性の生殖細胞系列幹細胞、又は、その前駆細胞を含む組成物を、骨髄由来の雄性の生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞を精(子)細胞へ分化させる薬剤(すなわち、分化剤)と接触させることによって、増加させることができる。このような分化剤は、本明細書に記載されるものであってもよいが、それらに限定されるものではない。
【0108】
精子形成、すなわち、精原細胞からの精母細胞の形成は、多数の因子で制御することができる。Bax、BclXLファミリーメンバー及びカスパーゼファミリーメンバーを含むアポトーシス制御因子は、精子形成を調節し、雄性の受精率に影響を与えることができる(Said,T.M.ら,(2004)Hum.Reprod.Update 10:39−51、Yan,W.ら,(2003)Mol.Endocrinol.17:1868)。カスパーゼは、特に、精子形成障害、精子運動性の減少及び精子DNA断片化レベルの増加等の複数の男性病学の病理の原因と結びつけられてきた。サバイビン及びFLIP等のカスパーゼ阻害剤は、精子形成時のアポトーシス現象を制御するために使用することができる(Weikert S.,(2004)Int.J.Androl.27:161、Giampietri,C.ら,(2003)Cell Death Differ.10:175)。同様に、ヒューマニンらのBax阻害剤も精子形成のアポトーシスに関係付けられている(Guo,B.ら,(2003)Nature423:456)。
【0109】
線維芽細胞成長因子−4(Hirai,K.ら,(2004)Exp.CellRes.294:77)等の成長因子も、精子形成に影響を与えることができる。FGF−4は、アポトーシスから生殖細胞を保護することによりそれらの生存因子として決定的な役割を果たすことができる。FGF−4でセルトリ細胞を刺激すると、生殖細胞の生存に不可欠な乳酸の生産が誘導された。FGF−4刺激は、セルトリ細胞でDNAの断片化を減少させることもできる。
【0110】
骨形成タンパク質(BMP)シグナル伝達経路も、ショウジョウバエで生殖細胞系列幹細胞の維持に関係づけられてきた(Kawase,E.ら,(2004)Development 131:1365−75、Pellegrini,M.ら,(2003)J.Cell Sci.116:3363)。培養された精原細胞のBMP−4刺激は、c−kit遺伝子を介する分化と同様に、Smadが仲介する増殖を誘導することができる。さらに、体細胞からのBMPシグナルは、bam発現の抑止を介した生殖細胞系列幹細胞の維持に必須であることが示され、体細胞からのBmpシグナルは、精巣でbamの発現を抑止することにより、少なくとも部分的に生殖細胞系列幹細胞を維持していることが指示された。
【0111】
形質転換増殖因子(TGF)も精巣でbamの発現を抑止できる。生殖細胞系列幹細胞及びそれらの子孫細胞の維持と増殖は、これらの細胞が有する、BMP5/8のオーソログ(相同分子種)であるGlass Bottom Boatとしてショウジョウバエで知られる、体細胞性に発現するTGF−βリガンドの活性を伝達する能力に依存している(Shivdasani,A.A.and Ingham,P.W.(2003)Curr.Biol.13:2065)。TGF−βのシグナル伝達は、生殖細胞の分化に必要かつ十分であるbamの発現を抑止し、これにより、生殖細胞系列幹細胞とそれらの増殖状態にある精原細胞が維持される。
【0112】
スフィンゴシン−1−リン酸(S1P)も、生殖細胞系列幹細胞及び精原細胞の生存と増殖に影響を与えることが知られている。照射された精巣組織をS1Pで処理するという研究では、一次精母細胞及び精原細胞の数が未処理の組織より高くなり、S1P処理が放射線照射により誘導される細胞死から生殖細胞系列幹細胞を保護できることを指示した(Otala,M.ら(2004)Biol Reprod. Mar;70(3):759−67)。
グリアから誘導される神経栄養因子はマウス精巣で生殖細胞系列幹細胞を顕著に増幅することが見出された(Kubota,H.ら,(2004)Biol.Reprod.71(3):722−31)。移植による解析は、生殖細胞系列幹細胞の濃縮のみならず、幹細胞から精子への分化も示した(Yomogida,K.ら,(2003)Biol.Reprod.69:1303)。
【0113】
本発明は、また、骨髄に由来する雄性の生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞を、細胞増殖を減少させる、細胞の生存を阻害する又は細胞死を促進させる薬剤と接触させることを含む、インビボ、エクスビボ又はインビトロで骨髄に由来する雄性の生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞を減少させるための方法も提供する。本発明の細胞にとって望まれない増殖とは、癌性及び前癌性の表現型(例えば、生殖細胞腫瘍、精巣癌)を生じることである。このような方法は、望まれない増殖(例えば、癌)を支配するために、又は、生殖細胞系列幹細胞及び任意でそれらの前駆細胞若しくは精細胞の数を減少することによる避妊の手段として使用することができる。
【0114】
細胞増殖を減少する薬剤は、ホルモン又は成長因子(例えば、TGF−β)、分裂促進的なホルモン又は成長因子のペプチドアンタゴニスト(例えば、BMPアンタゴニスト、PRDC及びGremlin)、又は薬理学又は医薬品化合物(例えば、細胞周期阻害剤又は成長因子情報伝達の阻害剤)を含むが、それらに限定されるものではない。
細胞の生存を阻害する薬剤は、ホルモン、成長因子又はサイトカイン(例えば、TNF−α、FasL及びTRAIL等のアポトーシス促進性のTNFスーパーファミリーのメンバー)、アポトーシス促進性のBcl−2ファミリーメンバーの機能のアンタゴニスト、情報伝達分子(例えば、セラミド)、又は薬理学又は医薬品化合物(例えば、成長増殖因子情報伝達の阻害剤)を含むが、それらに限定されるものではない。
【0115】
細胞死を促進させる薬剤は、アポトーシス促進性の腫瘍壊死因子スーパーファミリーのメンバー(例えば、TNF−α、FasL及びTRAIL)、アポトーシス促進性のBcl−2ファミリーメンバーの機能のアゴニスト及びセラミドを含むが、それらに限定されるものではない。
【0116】
V.スクリーニング、アッセイ
本発明は、骨髄由来の生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞を調節する調節因子、すなわち、候補物又はテスト化合物又は薬剤(例えば、タンパク質、ペプチド、ペプチド模倣物、peptoids、小分子又は他の薬剤)の同定のための方法を提供する。このように、薬剤は、例えば治療上のプロトコールにおいて、骨髄に由来する生殖細胞系列幹細胞又はその前駆細胞の、例えば、増殖、生存及び分化を調節するために使用することができる。
【0117】
本発明のテスト薬剤は、単独で得られるか、又は、当該技術分野公知のコンビナトリアルライブラリー法による多数のアプローチの何れかを使用して得ることができる。当該技術分野公知のコンビナトリアルライブラリー法は、生物学的ライブラリー、ペプチドライブラリー(ペプチドの機能性は有するが、酵素消化に抵抗性であり、それにもかかわらず生物活性を保持している新規な非ペプチド骨格を有する分子からなるライブラリー、例えば、Zuckermann,R.N.(1994)ら,J.Med.Chem.37:2678−85参照)、空間的に位置づけできる平行固相又は液層ライブラリー、逆重畳が要求される合成ライブラリー法、「1粒子1化合物」ライブラリー法、及び、アフィニティークロマトグラフィー選択を使用した合成ライブラリー法を含む。生物学的ライブラリー及びペプチドライブラリーアプローチは、ペプチドライブラリーに制限される一方、他の4つのアプローチは、ペプチド、非ペプチドオリゴマー又は化合物からなる小分子ライブラリーに適用できる(Lam(1997)Anticancer Drug Des.12:145)。
【0118】
分子ライブラリーの合成に関する方法の例は、当該技術分野で見出すことができる。例えば、DeWittら(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.90:6909、Erbら(1994)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91:11422、Zuckermannら(1994)J.Med.Chem.37:2678、Choら(1993)Science 261:1303、Carrellら(1994)Angew.Chem.Int.Ed.Engl.33:2059、Carellら(1994)Angew.Chem.Int.Ed.Engl.33:2061、及びGallopら(1994)J.Med.Chem.37:1233。
【0119】
化合物ライブラリーは、溶液中に(例えば、Houghten(1992),Biotechniques 13:412−421)、又は粒子上に(Lam(1991),Nature 354:82−84)、チップに(Fodor(1993)Nature 364:555−556)、細菌に(Ladner,米国特許第5,223,409号)、胞子に(Ladner,米国特許第5,223,409号)、プラスミドに(Cull ら(1992)Proc Natl Acad Sci USA 89:1865−1869)又はファージ上に(Scott and Smith(1990)Science 249:386−390、Devlin(1990)Science249:404−406、Cwirlaら(1990)Proc.Natl.Acad.Sci.87:6378−6382、Felici(1991)J.Mol.Biol.222:301−310、Ladner 上記.)提示されるかもしれない。
【0120】
テスト薬剤として使用される化学的な化合物(すなわち、潜在的な阻害剤、アンタゴニスト、アゴニスト)は、商業的な供給源から得ることもできるし、簡単に入手できる出発物質から標準的な合成手法及び当業者に公知の方法論を用いて合成することもできる。本明細書に記載の方法によって同定される化合物を合成する際に有用な合成化学での変換及び保護基の方法論(保護及び脱保護)は、当該技術分野公知であり、例えば、R.Larock(1989)Comprehensive Organic Transformations,VCH Publishers、T.W.Greene and P.G.M.Wuts,Protective Groups in Organic Synthesis,2nd ed.,John Wiley and Sons(1991)、L.Fieser and M.Fieser,Fieser and Fieser’s Reagents for Organic Synthesis,John Wiley and Sons(1994)、及びL.Paquette,ed.,Encyclopedia of Reagents for Organic Synthesis,John Wiley and Sons(1995),及びそれらの続版に記載されるような方法論を含む。
【0121】
ある側面では、化合物は、有機的な小分子、すなわち、1,000amuより少ないか、あるいは350−750amuの間である分子量有する化合物である。他の側面では、化合物は、(i)非ペプチド性の化合物であり、(ii)さらなる置換基を有してもよい、ヘテロシクリル、ヘテロアリール環基を含めた1から5の間の官能基を有する化合物であり、(iii)それらそれぞれの薬学的に許容される塩形態である化合物、又は(iv)ペプチド性の化合物である。
【0122】
「ヘテロシクリル」という用語は、単環ならば1−3ヘテロ原子、二環なら1−6ヘテロ原子、又は三環なら1−9ヘテロ原子を有する、非芳香族の3−8員からなる単環性の、8−12員からなる二環性の、又は11−14員からなる三環性の環状系を示し、当該ヘテロ原子は、O、N又はSから選択され(例えば、単環、二環又は三環ならば、それぞれ炭素原子及び1−3、1−6又は1−9のO、N又はSヘテロ原子)、そこでは、それぞれの環で0、1、2又は3原子が置換基によって置換されていてもよい。
【0123】
「ヘテロアリール」という用語は、単環ならば1−3ヘテロ原子、二環なら1−6ヘテロ原子、又は三環なら1−9ヘテロ原子を有する、芳香族の5−8員からなる単環性の、8−12員からなる二環性の、又は11−14員からなる三環性の環状系を示し、当該ヘテロ原子は、O、N又はSから選択され(例えば、単環、二環又は三環ならば、それぞれ炭素原子及び1−3、1−6又は1−9のO、N又はSヘテロ原子)、そこでは、それぞれの環で0、1、2、3又は4原子が置換基によって置換されていてもよい。
【0124】
「置換基」という用語は、アルキル、シクロアルキル、アリール、ヘテロシクリル又はヘテロアリール基上の何れかの原子で「置換された」官能基を示す。適した置換基は、限定されることなく、アルキル、アルケニル、アルキニル、アルコキシ、ハロ、ヒドロキシ、シアノ、ニトロ、アミノ、SOH、ペルフルオロアルキル、ペルフルオロアルコキシ、メチレンジオキシ、エチレンジオキシ、カルボキシル、オキソ、チオキソ、イミノ(アルキル、アリール、アラルキル)、S(O)アルキル(n=0−2)、S(O)アリール(n=0−2)、S(O)ヘテロアリール(n=0−2)、S(O)ヘテロシクリル(n=0−2)、アミン(モノ−、ジ−、アルキル−、シクロアルキル−、アラルキル−、ヘテロアラルキル−、及びそれらの組合せ)、エステル(アルキル−、アラルキル−、ヘテロアラルキル−)、アミド(モノ−、ジ−、アルキル−、アラルキル−、ヘテロアラルキル−、及びそれらの組合せ)、スルホンアミド(モノ−、ジ−、アルキル−、アラルキル−、ヘテロアラルキル−、及びそれらの組合せ)、置換されていないアリール、置換されていないヘテロアリール、置換されていないヘテロシクリル、置換されていないシクロアルキルを含む。ある側面では、官能基の置換は、独立して、上述の置換基のうち何れか1つ又は何れかのサブセットである。
【0125】
本発明として思い描かれる化合物において置換基とその数の組合せは、安定な化合物の形成に帰するもののみである。本明細書で使用されるように「安定な」という用語は、製造することができる程に十分な安定性を有し、本明細書で述べる目的(輸送、貯蔵、アッセイ、対象への治療上の投与)に対して有用である十分な期間、化合物の完全性が維持される化合物を示す。
【0126】
本明細書に記載の化合物は、1つ又はそれ以上の不斉中心を有していてもよく、これによりラセミ体、及び、ラセミ混合物、単一の鏡像異性体、個々のジアステレオマー及びジアステレオマー混合物として生じる。これらの化合物のこのような全ての異性体は、特に本発明に包含される。本明細書に記載の化合物は、複数の互変異体で表すこともでき、互変異体の全ては本明細書に包含される。化合物は、シス−又はトランス−、又は、E−又はZ−二重結合異性体も生じることができる。このような化合物のこのような全ての異性体は、特に本発明に包含される。
本発明のテスト薬剤は、ペプチドであってもよい(例えば、成長因子、サイトカイン、レセプターリガンド)。
【0127】
本発明のスクリーニング方法は、骨髄に由来する生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞の増殖又は生存を増加させる薬剤の同定を包含することができる。このような方法は、通常、骨髄に由来する生殖細胞系列幹細胞又は前駆細胞を培養中でテスト薬剤と接触させ、結果として産生された新たな骨髄由来の幹細胞又は前駆細胞の数を定量化することを含むだろう。未処理のコントロールとの比較が、同時に評価されてもよい。幹細胞又は前駆細胞の数の増加がコントロ−ルと比較して検出される場合には、テスト薬剤は望ましい活性を有すると判定される。
【0128】
本発明の方法を実施する際に、骨髄に由来する生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞の精製された集団が使用されることが望まれるかもしれない。骨髄に由来する生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞の精製された集団は、約50〜55%、55〜60%、60〜65%及び約65〜70%の純度を有する。より好ましくは、純度は約70〜75%、75〜80%、80〜85%、そしてより一層好ましくは、純度は約85〜90%、90〜95%及び約95〜100%である。
【0129】
骨髄に由来する生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞の増加した量は、Oct−4、Dazl、Stella、Vasa、Fragilis、Nobox及びc−Kitを含む遺伝的マーカーの遺伝子発現の増加によって検出することもできる。発現レベルは、遺伝的マーカーによってコードされるmRNAを測定すること、遺伝的マーカーによってコードされるタンパク質の量を測定すること、又は、遺伝的マーカーによってコードされるタンパク質の活性を測定することを含み、それらに限定されるものではないが、多くの方法で測定することができる。
【0130】
遺伝的マーカに対応するmRNAのレベルは、in situで及びインビトロで測定することができる。単離されたmRNAは、サザン分析又はノーザン分析、ポリメラーゼ連鎖反応及びプローブアレイを含み、それらに限定はされないが、ハイブリダイゼーション又は増幅アッセイで使用することができる。mRNAレベルの検出に関する診断方法の1つは、単離されたmRNAを、検出すべき遺伝子によりコードされるmRNAとハイブリダイズ可能な核酸分子(プローブ)と接触させることを包含する。核酸プローブは、ストリンジェントな条件下で十分に、mRNA又はゲノムDNAに特異的にハイブリダイズする。プローブは、アレイ、例えば以下に記載するアレイの、ある位置に置くことができる。診断アッセイに使用するその他の好適なプローブも、本明細書に記載する。
【0131】
ある形式では、例えば、単離されたmRNAをアガロースゲル上で泳動し、ゲルからニトロセルロース等の膜へmRNAを転写することによって、mRNA(又はcDNA)が、表面に固定化され、プローブと接触される。それに代わる形式、例えば、以下に記載される二次元遺伝子チップアレイでは、プローブを表面に固定化し、mRNA(又はcDNA)をプローブと接触させる。当業者であれば、公知のmRNA検出方法を応用して、本明細書に記載の遺伝的マーカーによってコードされるmRNAレベルを検出することができる。
【0132】
サンプル中のmRNAレベルは、例えば、rtPCR(Mullis(1987)米国特許第4,683,202号)、リガーゼ連鎖反応(Barany(1991)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:189−193)、self sustainedsequence replication(Guatelliら(1990)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:1874−1878)、transcriptionalamplificationsystem(Kwohら(1989)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:1173−1177)、Q−βレプリカーゼ(Lizardiら(1988)Bio/Technology 6:1197)、rolling circle replication(Lizardiら米国特許第5,854,033号)又はその他の何れかの核酸増幅法により核酸を増幅し、当該技術分野公知の手法を用いて増幅した分子を検出することによって、評価することができる。本明細書で使用されるように、増幅プライマーは、遺伝子の5’又は3’領域にアニールでき(+鎖及び−鎖それぞれに、又は逆も同じ)、その間に短い領域を含む、一組の核酸分子であるとして定義される。一般に、増幅プライマーは、約10〜30ヌクレオチド長であり、約50〜200ヌクレオチド長の領域の両端に隣接する。適した条件下及び適した試薬を用いて、このようなプライマーは、プライマーによって隣接されるヌクレオチド配列を含む核酸分子の増幅をすることができる。
【0133】
in situでの方法用に、細胞又は組織サンプルを、調製/処理し、支持体、典型的にはスライドガラス上に固相化し、次いで、解析すべき遺伝的マーカーをコードするmRNAにハイブリダイズすることが可能なプローブと接触させる。
【0134】
本発明のスクリーニング方法は、骨髄に由来する生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞を卵母細胞又は精子細胞へと分化させることを増進する薬剤の同定を包含する。このような方法は、通常、骨髄由来の幹細胞又は前駆細胞を培養中にテスト試薬と接触させること、及び、結果として産生された新たな卵母細胞又は精子細胞の数を定量化すること、を包含する。未処理のコントロールとの比較評価を同時に行ってもよい。コントロールと較べて、卵母細胞の数の増加が検出されれば、テスト薬剤は、望ましい活性を有していると判定される。テスト薬剤は、生物学的なサンプル(例えば、卵巣組織)を使用して試験(assay)してもよいし、試験の結果があいまいな場合には、幹細胞又は前駆細胞の集団を使用して、引き続き、薬剤の機能的な活性(例えば、増殖又は生存の増加よりむしろ分化)を識別する試験を行ってもよい。
【0135】
卵母細胞の増加量は、Oct−4,Dazl、Stella、Vasa、Fragilis,Nobox及びc−Kitを含む骨髄由来の雌性生殖細胞系列若しくは前駆細胞の遺伝的マーカーの遺伝子発現の減少、又は、HDAC6、GDF9及びZP3等の卵母細胞マーカーの増加によって検出される。
【0136】
VI.治療の方法
本発明の骨髄に由来する生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞は、さまざまな治療上の応用に使用することができる(例えば、インビトロ受精を含むインビボでの治療のための精子細胞/卵母細胞の産生又はエクスビボでの操作)。従って、本発明の方法は、特に、生殖器官の障害の治療において生殖細胞を提供するために、骨髄に由来する生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞の使用に関する。
【0137】
骨髄由来の生殖細胞系列幹細胞又はその前駆細胞を包含する組成物は、直接的に目的の生殖器官(例えば、卵巣又は精巣)に提供される。或いは、骨髄由来の生殖細胞系列幹細胞又はその前駆細胞を包含する組成物は、例えば、循環系により(例えば、卵巣以外の循環)、間接的に目的の生殖器官に提供される。
【0138】
このように、本発明は、骨髄由来の雌性の生殖細胞系列幹細胞又はその前駆細胞を、必要に応じて対象である雌に提供することを含む、不妊治療のための方法を提供し、そこでは、当該細胞は組織(好ましくは、卵巣組織)に生着し、後に受精のために提供することができる対象の排卵に続いて卵母細胞へ分化する。また、生着した卵母細胞を対象から回収し、インビトロ受精又は体細胞の核移植のために提供することができる。本明細書で特に言及する場合を除いて、不妊治療を必要としている対象の雌は化学療法又は放射線治療を受けた対象ではない。
【0139】
本発明は、骨髄由来の雌性の生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞の産生又は生存を増加させる薬剤を投与することを含む、不妊治療のための方法も提供する。このような薬剤は、細胞の増殖又は生存を促進し、それにより卵母細胞の産生を増強する可能性がある。
薬剤は、目的の生殖器官へ直接的に提供することができる。あるいは、薬剤は、目的の生殖器官へ、例えば循環系に投与することにより、間接的に提供することができる。
【0140】
本発明は、骨髄由来の雌性の生殖細胞系列幹細胞又はその前駆細胞を卵巣組織に提供することを含む、損傷を受けた卵巣組織を修復するための方法も提供し、そこでは、当該細胞は組織に生着し、卵母細胞へ分化する。本明細書で特に言及する場合を除いて、卵巣組織は化学療法又は放射線治療によって過去に損傷を受けていないものとする。損傷は、例えば、細胞傷害性因子への曝露、ホルモンの欠乏、成長因子の欠乏、サイトカインの欠乏、細胞レセプター抗体等によって、引き起こされる可能性がある。
【0141】
損傷が、化学療法及び/又は放射線治療の予測される過程で引き起こされる可能性がある場合には、生殖障害を保護する薬剤を化学療法及び/若しくは放射線治療の前に又は同時に投与することにより受胎能力を保護し、本明細書に記載の修復するための方法をより優れたものにする。保護剤は、S1P、Bax又はSDF−1活性を増加させるいずれかの薬剤(すなわち、SDF−1は幹細胞の移動とホーミングを仲介する)をも含むが、それらに限定されるものではない。生殖系を保護する際のS1Pの使用に関する記載としては、2002年8月12日出願、2003年8月21日公開(第20030157086号公報)の米国特許出願第10/217,259号を参照されたい。その内容は参照して本明細書に取り込むものとする。
【0142】
本発明は、骨髄由来の雌性の生殖細胞系列幹細胞又はその前駆細胞を対象に投与することにより、細胞を卵巣に生着させて卵母細胞に分化させることを含む、閉経期の雌性の対象に於いて卵巣機能を回復させる方法を提供する。閉経期の雌性の対象は、閉経の前又は後のどちらであってもよく、当該閉経は正常に(例えば、加齢)又は病理学的過程(例えば、手術、疾患、卵巣損傷)により引き起こされたものであってもよい。
【0143】
閉経後の雌の卵巣機能は、(例えば、骨髄由来の雌性の生殖細胞系列幹細胞の数や寿命を増加させることにより、又は、骨髄由来の雌性の生殖細胞系列幹細胞が卵母細胞へ分化するのを増加させることにより)骨髄由来の雌性の生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞の量を増加させる薬剤を投与することによって修復可能である。
【0144】
卵巣機能の回復により、骨粗鬆症、循環器系の疾患、体細胞性の性機能障害、のぼせ、膣部の乾燥、睡眠障害、うつ病、刺激過敏症、性欲の喪失、ホルモンのアンバランス等の体細胞性の疾患を含むがそれらには限定されない更年期障害に伴う有害な症状及び合併症、更に記憶の喪失、情緒障害、うつ病等の認知性疾患も軽減することができる。
【0145】
本発明の骨髄に由来する生殖細胞系列幹細胞、それらの前駆細胞又はそれらの子孫細胞は、上記のように投与可能であり、当該技術分野公知のあらゆる方法により取得可能である。
本発明の骨髄由来の生殖細胞系列幹細胞は、自己の(対象から得た)又は異種の(例えば、ドナーから得た)ものであってよい。異種の細胞は、細胞の免疫拒絶を避けるために当該技術分野で公知の免疫抑制療法とともに提供できる。
【0146】
本発明の骨髄由来の生殖細胞系列幹細胞は、骨髄の吸引によって単離できる。雌のドナーからの収率の増大のため、実施例1に記載の様に、骨髄中の雌性生殖細胞系列幹細胞がより高いレベルを示す雌性生殖周期の適切な段階で単離するように調整するのが望ましい。本明細書に、参照して取り込まれている米国特許第4,481,946号には、採取する部位に1組の吸引針を挿入することによりドナーからの骨髄の効果的な回収を可能とする骨髄吸引方法及び装置が記載されている。一組のシリンジを連結させて、吸引針から骨髄及び洞様血を選択的に採取するようにできるように圧力を調節し、もう一方の吸引針から静脈注射用溶液を、取り除かれた骨髄に置き換わるように挿入する。その骨髄及び洞様血を、チャンバー内に引き込み、別の静脈注射用溶液と混合し、その後回収バッグに注入する。異種細胞の集団はさらに、細胞表面マーカーの同定により精製して目的の生殖器官に投与するための骨髄由来の生殖細胞系列幹細胞を得る。
【0147】
米国特許第4,486,188号には、骨髄の吸引方法及びチャンバー部分から静脈注射用溶液源、吸引針、静脈注射用溶液の二次供給源及び適切な分離又は回収源へと導かれる一連のラインを備える装置が開示されている。チャンバー部分は静脈注射用溶液から通じる溶液ラインに同時に陰圧を加え、ラインに溶液を注入して空気を取り除くことが可能である。次に溶液ラインを閉じて陽圧を加え、静脈注射用溶液をドナー側に向け、一方で陰圧をかけて骨髄物質をチャンバー部分へ引き込み静脈注射用溶液と混ぜ合わせる。その後、陽圧を加えて静脈注射用溶液と骨髄物質の混合液を分離又は回収源へ移す。
【0148】
本発明の方法に於いては、生涯にわたって対象から末梢血を回収することが可能であるが、閉経前のものを回収するのが推奨される。さらに、病気(例えば、癌)に罹患する前のものを回収するのが望ましく、細胞傷害性の手段(例えば、放射線又は化学療法)で治療する前のものを回収する方が収量が向上するので望ましい。
【0149】
米国特許第5,806,529号には、、適切な処方計画に基づいて患者のコンディションを整えた後に、非常に大用量の幹細胞(T細胞欠失骨髄移植に用いられる通常用量より少なくとも約3倍を超える)を移植することを含む、HLA−不適合ドナーから患者への骨髄移植する方法が記載されている。患者は、悪性疾患又は非悪性疾患の治療のために致死量若しくは致死量を超えて、又は悪性でない疾患の治療には致死量未満で調整される。移植組織は、HLA−不適合ドナーからのT細胞欠失骨髄幹細胞及びT細胞欠失幹細胞を多く含む末梢血液細胞から成るものである。ドナーは、患者の親類であって、事前に薬剤、例えば顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)のようなサイトカインで治療を受けていることが望ましい。
【0150】
投与に先立って放射線又は化学療法を実施する場合、本発明の骨髄由来の生殖細胞系列幹細胞、それらの前駆細胞又は子孫細胞を治療の停止からおよそ一月以内に与えなければならないが、治療を停止してから後の遅れた時点での移植は、予想される臨床転帰を鑑みてなされる。
本明細書に記載のように、生殖細胞系列幹細胞は骨髄から検出されている。従って、本発明の方法に於いて使用できる骨髄由来の幹細胞及びその前駆細胞は、雄性及び雌性の生殖細胞系列幹細胞を含む細胞の精製された亜母集団を含むが、それらには限定されない。
【0151】
精製された骨髄由来の生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞は、FACsによるセルソーティングを含む、当該技術分野公知の標準的な方法で取得可能である。(Shenら,(2001)J.Immunol.166,5027−5033)、(Calvi etal.,(2003)Nature 425 841−846)に記載のように、細胞系列マーカーが枯渇した(lin−)細胞を得るために(Spangrudeら,(1988)Science 241,58−62)、(Spangrude and Scollay,(1990)Exp.Hematol.18 920−926)最初に行う免疫磁性粒子カラムに基づく分画工程に続いて、当該技術分野公知のフローサイトメーター(例えば、BD Biosciences FACScalibur cytometer)を使用して、Sca−1(van de Rijnら,(1989)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86,4634−4638)及び/又はc−Kit(Okadaら,(1991)Blood 78,1706−1712)、(Okadaら,(1992)Blood 80,3044−3050)の細胞表面での発現に基づいて、単離された骨髄を選別することができる。
【0152】
骨髄に由来する雌性の生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞を、インビトロで連続継代により増やすために(Meirelles and Nardi,(2003)Br.J.Haematol.123 702−711)(Tropelら,(2004)Exp.Cell Res.295 395−406)、単離した骨髄を、10%ウシ胎児血清(Hyclone,Logan,UT)、ペニシリン、ストレプトマイシン、L−グルタミン及びアムホテリシンBを含むダルベッコ変法イーグル培地(Fisher Scientific,Pittsburgh,PA)が入ったプラスチック上に蒔くことができる。最初に細胞を蒔いてから約48時間後、非付着性の細胞を含む上清を取り除き、穏やかに洗浄した後、新鮮な培養培地で置換してもよい。その後も培養を維持し、ひとたびコンフルエントに達すると(例えば、約6週の期間で全部で約3回継代してもよいが、)接着性の細胞を収集して解析するために、培養を終了させてもよい。
【0153】
本明細書に記載の骨髄由来の生殖細胞系列幹細胞、それらの前駆細胞又はそれらの子孫細胞を、投与する前に、当業者には公知の様々な組換え法を用いて、細胞に異種のDNA又はRNA又はタンパク質を導入することにより、任意にインビトロ、インビボ又はエクスビボで遺伝的に修飾することもできる。これらの方法は、一般に4つの主なカテゴリーに分類される。(1)例えば、レトロウイルス(レンチウイルスを含む)、サルウイルス40(SV40)、アデノウイルス、シンドビスウイルス及びウシパピローマウイルス等のDNA又はRNAウイルスベクターの使用を含む、ウイルスによる移入、(2)カルシウムリン酸トランスフェクション法及びDEAEデキストラントランスフェクション法を含む、化学的な移入、(3)例えば、リポソーム、赤血球ゴースト及びプロトプラスト等のDNAが負荷された膜状担体を使用する、膜融合による移入、及び(4)マイクロインジェクション、エレクトロポレーション又は直接「裸の」DNAを移入する等の物理的な移入手法、である。
【0154】
本発明の骨髄由来の生殖細胞系列幹細胞、それらの前駆細胞又はそれらの子孫細胞は、あらかじめ選択して単離したDNAの挿入により、あらかじめ選択して単離したDNAで細胞のゲノムの一部を置換することにより、又は、細胞のゲノムの少なくとも一部を欠失又は不活化させることにより、遺伝的に改変することができる。細胞のゲノムの少なくとも一部を欠失又は不活化させるのは、例えば、アンチセンス手法(ペプチド核酸、すなわちPNAsの使用を含むことができる)又はリボザイム手法による遺伝的な組換えを含むがそれに限定されない様々な手段により可能となる。改変されたゲノムは、選択可能な又はスクリーニング可能なマーカー遺伝子の遺伝的な配列を有し、その発現により、ゲノムが改変された細胞又はその子孫細胞を、ゲノムが改変されていない細胞から識別することができる。例えば、このようなマーカーは、緑色、赤色、黄色蛍光タンパク質、β−ガラクトシダーゼ、ネオマイシン耐性遺伝子、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)又はハイグロマイシンであってもよいが、これらの例に限定されるものではない。
【0155】
病理状態の根底にある欠陥は、代謝系タンパク質等のタンパク質をコードするDNAの変異である場合がある。異種のDNAによってコードされるポリペプチドは、病理状態に関連する変異がないものが好ましい。病理状態がタンパク質発現の減少に関連している場合もある。遺伝的に改変された骨髄由来の生殖細胞系列幹細胞又はその子孫細胞は、組換えタンパク質の強力な発現を司るプロモーターにより、このようなタンパク質をコードするDNAを含んでいるかもしれない。あるいは、タンパク質、酵素又は他の細胞産生物の発現の制御又は時期を高度に制御する必要がある場合には、細胞は、誘導性のプロモーター又はその他の制御機構により調節可能な遺伝子を発現する場合がある。このような幹細胞を、タンパク質の発現が異常に低い対象に移植すると、タンパク質が高レベルで産生されるので、治療上有効である。
【0156】
例えば、本発明の骨髄由来の生殖細胞系列幹細胞、その前駆細胞又はその子孫細胞は、例えば遺伝子治療に於いて発現する遺伝子をコードする異種のDNAを含むことができる。本発明の骨髄由来の生殖細胞系列幹細胞、それらの前駆細胞又はそれらの子孫細胞は、受胎能力を低下させるヒトの疾患である毛細血管拡張性運動失調症に関与する遺伝子、Atmをコードする異種のDNAを含むことができる。骨髄由来の雌性生殖細胞系列幹細胞、それらの前駆細胞又はそれらの子孫細胞を介してAtmを提供することにより、卵巣機能の欠陥をさらに軽減することができる。骨髄由来の生殖細胞系列幹細胞の機能を改変するような遺伝子産物をコードするDNAで疾患状態のまったくないものも想定されている。例えば、アポトーシスを阻害したり、分化を抑制する遺伝子の送達は有益であろう。
【0157】
相同組換え又はウイルスによる組込みにより、宿主となる細胞のゲノムへ、1つ又はそれ以上のあらかじめ選択されたDNA配列を挿入することが可能である。望ましい遺伝子配列は、プラスミド発現ベクター及び核移行配列を使用することによって、細胞、特にその核へ取り込ませることができる。ポリヌクレオチド配列を核へ方向付ける方法は、当該技術分野では公知である。遺伝的な物質は、ある化学物質/薬剤を使用して目的の遺伝子を積極的に又は消極的に誘導可能なプロモーター、又は、与えられた薬剤/化学物質の投与後に目的の遺伝子を排除可能なプロモーターを使用して導入することもできるし、特定の細胞区画(細胞膜を含むがそれに限定されない)で化学物質(タモキシフェン応答性の変異を有するエストロゲンレセプターを含むがそれに限定されない)による発現を誘導できるようにタグを付けることもできる。
【0158】
カルシウムリン酸トランスフェクションは、単離された又は培養された骨髄由来の生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞に、標的の遺伝子又はポリヌクレオチドを含むプラスミドDNAを導入するのに使用することができ、これは当業者には、DNA移入の標準的な方法である。DEAEデキストラントランスフェクションは、これも当業者には公知であるが、一過性の移入が望まれる場合には、効率的である場合が多いので、カルシウムリン酸トランスフェクションに較べて好まれるであろう。本発明の細胞は単離された細胞であるので、マイクロインジェクションは細胞へ遺伝的な物質を移入するために特に効果的であるかもしれない。この方法は、注入するポリペプチドの細胞質及びリソソームの分解を回避して、望ましい遺伝物質を核に直接送達できるため好都合である。この手法は、トランスジェニック動物に於ける骨髄由来の修飾に効果的に使用されてきた。本発明の細胞は、エレクトロポレーションを使用して遺伝的に修飾することも可能である。
【0159】
細胞を遺伝的に修飾するための、リポソームによるDNA又はRNAの送達は、ポリヌクレオチドと安定な複合体を形成する陽イオン性のリポソームを用いて実施することができる。リポソーム複合体の安定化のために、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)又はジオレオイルホスファチジルコリン(DOPQ)を添加することができる。リポソームによる移入のために商業的に入手可能な試薬には、リポフェクチン(Life Technologies)が含まれる。例えば、リポフェクチンは、陽イオン性の脂質N−[1−(2,3−ジオレイルオキシ)プロピル]−N−N−N−トリメチルアンモニアクロリドとDOPEの混合物である。リポソームはより大きなDNA断片を運ぶことができ、一般的にポリヌクレオチドが分解するのを防止し、特定の細胞又は組織へ標的化することができる。陽イオン性の脂質で仲介される遺伝子の移入効率は、精製された水庖性口内炎ウイルスエンベロープのG糖タンパク質(VSV−G)等の精製されたウイルス又は細胞性のエンベロープ構成要素を取り込むことで増強される。リポポリアミン被覆DNAを使用することによって初代又は確立された哺乳動物の培養細胞株へDNAを送達することに関して効果が示されてきた遺伝子移入の手法を用いて、本明細書に記載の骨髄由来の生殖細胞系列幹細胞に標的のDNAを導入することができる。
【0160】
裸のプラスミドDNAは、単離された骨髄由来の生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞から分化した細胞で形成された組織(tissue mass)へ直接的に注入することができる。1回の筋肉内注入でマウス骨格筋に於ける発現が19ヶ月間以上観察されていることから、骨格筋組織へプラスミドDNAを移入する場合にこの手法が効果的であることはすでに明らかである。より急速に分裂する細胞は、より効果的に裸のプラスミドDNAを取り込む。それゆえに、プラスミドDNAで処理する前に、細胞分裂を刺激することは好都合である。微粒子銃による遺伝子移入も、インビトロ又はインビボ何れにおいても幹細胞へ遺伝子を移入するのに使用することができる。微粒子銃による遺伝子移入に関する基本的な手順は、J.Wolff in Gene Therapeutics(1994),p.195に記載されている。同様に、微粒子を注入する手法は、既に開示されており、方法は当業者には公知である。シグナルペプチドをプラスミドDNAに付加してDNAを核に方向付けることにより、更に効率的な発現が可能となる。
【0161】
本発明の骨髄由来の生殖細胞系列幹細胞及びそれらの子孫細胞を遺伝的に改変するためにウイルスベクターが用いられる。ウイルスベクターを用いて、上記の物理的な方法による場合と同様に、例えば、1つ又はそれ以上の標的遺伝子、ポリヌクレオチド、アンチセンス分子又はリボザイム配列を細胞へ送達する。ウイルスベクター及び細胞へDNAを送達するためにそれらを使用する方法は、当業者には周知である。本発明の細胞を遺伝的に改変するのに使用可能なウイルスベクターの例として、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター(レンチウイルスベクターを含む)、アルファウイルスベクター(例えば、シンドビスベクター)及びヘルペスウイルスベクターが挙げられるが、それらに限定されるものではない。
【0162】
本発明の骨髄由来の生殖細胞系列幹細胞、及びそれらの子孫細胞を遺伝的に改変するためのその他の方法として、ペプチド又はタンパク質のトランスフェクションが用いられる。限定はされないが、Pep−1(ChariotTMとして商業的に入手可能)及びMPGを含むペプチドは、約60%から約95%の効率で生物学的に活性なタンパク質、ペプチド、抗体及び核酸を細胞に直接、迅速かつ効率的に輸送することができる(Morris,M.C.ら,(2001)Nat.Biotech.19:1173−1176)。理論に縛られることを望むものではないが、ペプチドは、目的の巨大分子(すなわち、タンパク質、核酸)と非共有結合を形成する。結合反応はタンパク質を安定化させ、その分解を防止する。本発明の幹細胞等の目的の細胞へ送達されると、ペプチド−巨大分子複合体は解離し、巨大分子は生物学的に活性な状態を維持して標的のオルガネラへ進む。送達は、血清の存在下又は非存在下で行われる。取り込み及び送達を4℃で行うことにより、侵入してくる巨大分子に対するエンドゾームでのプロセッシングを排除できる。エンドゾーム経路を介した巨大分子の移動は、取り込み時の巨大分子を修飾できる。Pep−1等のペプチドは、目的のタンパク質、抗体又はペプチドを直接送達することにより、転写−翻訳過程を回避する。
【0163】
本発明の方法は、体細胞核移植等のエクスビボ手順で使用する卵母細胞の貯蔵を提供する。核移植前に、組換え手法を使用すれば、カスタマイズされた卵母細胞の設計が可能となり、最終的に胚性幹細胞を派生することが可能な胚を産生する。さらに、核移植前にドナーDNAを遺伝的に操作すれば、望ましい修飾又は遺伝的な形質を有する胚を生じさせることが可能である。
【0164】
体細胞核移植の方法は、当該技術分野に於いては周知である。2004年3月24日に出願され、第20050064586号公報が発行された、米国特許出願第10/494074号、Wilmutら(1997)Nature,385,810−813、Wakayamaら(1998)Nature 394:369−374及びTeruhikoら,(1999)PNAS 96:14984−14989を参照されたい。核移植は、ドナー細胞又は細胞核を、除核された卵母細胞へ移植することを含む。卵母細胞の除核は、当業者に周知の多数の方法で実施することができる。再構成(reconstituted)された細胞を形成するために、除核された卵母細胞へのドナー細胞又は核の挿入は、通常、融合する前に透明帯の下にドナー細胞をマイクロインジェクションすることによる。融合は、接触/融合面を超えてDC電気的なパルスを適用すること(電気融合)により、ポリエチレングリコール等の融合を促進する化学物質に細胞を曝すことにより、又は、センダイウイルス等の不活性なウイルスの方法により誘導してもよい。再構成された細胞は、通常、核ドナーとレシピエント卵母細胞の融合前、融合中及び/又は融合後に電気的な及び/又は非電気的な手段で活性化される。活性化の方法は、電気的なパルス、化学的に誘導された衝撃、精子の侵入、卵母細胞内の二価陽イオンレベルの上昇及び卵母細胞内に存在する細胞タンパク質のリン酸化の減少(キナーゼ阻害剤の方法によるように)を含む。活性化された再構成された細胞又は胚は、通常、当業者に周知の培地で培養し、その後動物胎内へ移入する。
【0165】
胚から胚性幹細胞を生成することに関する方法も、当該技術分野で周知である。Evansら(1981)Nature,29:154−156、Martinら(1981)PNAS,78:7634−7638、Smithら(1987)Development Biology,121:1−9、Notarianniら(1991)J.Reprod.Fert.,Suppl.43:255−260、ChenRLら(1997)Biology of Reproduction,57(4):756−764、Wiannyら(1999)Theriogenology,52(2):195−212、Stekelenburg−Hamersら(1995)Mol.Reprod.40:444−454、Thomsonら(1995)PNAS,92(17):7844−8及びThomson(1998)Science,282(6):1145−1147を参照のこと。従って、望ましい遺伝的形質を有する胚を産生するために、受精前にインビトロで卵母細胞の操作をするか、あるいは、除核された卵母細胞へ核移入する前にドナーDNAを操作することにより、本発明の卵母細胞から産生された胚を遺伝的に修飾することができる。
【0166】
VII.インビトロ受精
本明細書に記載されるように、本発明の骨髄に由来する雌性の生殖細胞系列幹細胞から、又は、それらの前駆細胞から生じる卵母細胞も、インビトロ受精の方法に使用することができる。従って、本発明は、以下の工程
a)卵母細胞への分化剤の存在下で、骨髄に由来する雌性の生殖細胞系列幹細胞又はその前駆細胞を培養することによって卵母細胞を産生すること、
b)インビトロで卵母細胞を受精させて接合体を形成すること、及び
c)対象となる雌の子宮に接合体を移植すること、
を含む、対象である雌のインビトロ受精に関する方法を提供する。
【0167】
インビトロ受精の方法は、当該技術分野で周知であり、今や急激に一般的なことになりつつある。男女のカップルは、彼らに特有の不妊の原因を診断するために、通常先ず検査される。これらは、パートナー両者に関する説明がつかない不妊から女性側(例えば、不規則な月経周期を伴う卵管閉塞を生じる子宮内膜症又は多嚢胞性の卵巣疾患)又は男性側(例えば、形態学的な異常を伴う精子数の低下、又は、脊髄損傷、逆行性射精又は精管切除後再疎通を伴うことによる正常な射精が不可能であること)の重篤な問題にまで及ぶかもしれない。これらの検査結果からも、カップル毎に特異的な施術手順が決定される。
【0168】
手順は、しばしば、視床下部/下垂体系を負に制御する薬剤(LHRHアゴニスト)の投与から始められる。この工程はゴナドトロピンの血清濃度を減少させるので、発生している卵巣の卵胞が退化し、それにより発生のより初期の段階に一組の新しい卵胞を提供する。これは、視床下部−下垂体軸による影響の非存在下で外因性のゴナドトロピンを投与することによって、新たな卵胞の成熟をより的確にコントロールできる。成熟の進行と成長過程の卵胞の数(通常卵巣当たり4から10個刺激される)は、超音波及び血清エストラジオールの測定を用いた日々の観察によってモニターされる。当該卵胞が排卵前の大きさ(18−21mm)に達し、エストラジオール濃度の直線的な上昇が継続している時に、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)を外部から投与することによって排卵性の応答が開始される。
【0169】
本明細書で上に記載したように、卵母細胞は、骨髄に由来する雌性の生殖細胞系列幹細胞から、又は、それらの前駆細胞から得ることができる。骨髄に由来する雌性の生殖細胞系列幹細胞、又は、それらの前駆細胞は、卵母細胞への分化を誘導する卵母細胞分化剤の存在下で、培養することができる。分化剤は、外因的に(例えば、培養培地に添加することで)、あるいは、自系の又は異種の卵巣組織と共培養中に内因性の供給源から供給することができる。本発明の骨髄に由来する雌性の生殖細胞系列幹細胞、又はそれらの前駆細胞は、分化剤が外因性又は内因性に供給され、組織操作された構造体とともに培養され、卵母細胞を得る。
【0170】
個々の卵母細胞を、形態学的に評価し、培養培地及び熱で不活化された血清を含むペトリ皿へ移す。精液サンプルは、雄のパートナーから提供され、最も活発な、運動性の精子が精子注入のために得られるように「swim up」手順を使用して処理する。雌に卵管が存在するならば、GIFT(配偶子卵管内移入)と呼ばれる手順をこの段階で実施することができる。このアプローチにより、精子で囲まれた卵母細胞−卵丘複合体が腹腔鏡手術により直接、卵管に置かれる。この手順は、正常な一連の現象を最も活性化させるものであり、卵管内での受精を可能にする。驚く程のことではないが、GIFTは、1990年に卵細胞回収(ova retrieval)により出産した3750患者のうち22%という最も高い成功率を有している。代替法としてのZIFT(接合体卵管内移入)は、卵細胞回収(ova retrieval)の翌日に、インビトロで受精させた接合体のうち選択されたものを、卵管へ移植する。余分な接合体は、将来の移植のため又は雌性の配偶子を持てないカップルに提供するためにこの段階で凍結保存することができる。しかしながら、より深刻な不妊の問題を抱える多くの患者は、初期の卵割期にある前胚を子宮への移入のために選択することができるように、培養中でさらに1日から2日のインキュベーションする必要がある。このIVF−UT(インビトロ受精子宮移入)は、2〜6細胞(2日目)又は8〜16細胞(3日目)のいくつかの前胚を子宮の基底へ経頸管的に移入することを必要とする(4〜5前胚が最適な成功を提供する)。
【0171】
インビトロ受精のための手順は、米国特許第6,610,543号、第6,585,982号、第6,544,166号、第6,352,997号、第6,281,013号、第6,196,965号、第6,130,086号、第6,110,741号、第6,040,340号、第6,011,015号、第6,010,448号、第5,961,444号、第5,882,928号、第5,827,174号、第5,760,024号、第5,744,366号、第5,635,366号、第5,691,194号、第5,627,066号、第5,563,059号、第5,541,081号、第5,538,948号、第5,532,155号、第5,512,476号、第5,360,389号、第5,296,375号、第5,160,312号、第5,147,315号、第5,084,004号、第4,902,286号、第4,865,589号、第4,846,785号、第4,845,077号、第4,832,681号、第4,790,814号、第4,725,579号、第4,701,161号、第4,654,025号、第4,642,094号、第4,589,402号、第4,339,434号、第4,326,505号、第4,193,392号、第4,062,942号及び第3,854,470号にも記載されているが、これらの手順に関する記載を参照してその内容を特に本明細書に取り込む。
以下の例は、説明の目的にのみ記載されており、発明者等が発明とみなしている範囲を何ら制限するものではない。
実施例
【実施例1】
【0172】
卵巣外雌性生殖細胞系列前駆体細胞の蓄積
成熟マウス卵巣におけるSSEA1発現の制限されたパターン(図1a、b)は、生殖細胞系列幹細胞/その前駆細胞の数が比較的少ないことを示唆した。しかしながら、このことは、卵胞を含む何百もの新しい原始卵母細胞を迅速に産生する成体マウスの卵巣の能力はいうまでもなく、生殖細胞系列幹細胞は、その生殖腺が生殖可能な期間を通して機能することで、極めて着実に死に至る卵母細胞の死亡率の埋め合わせをしなければならないとする最近の研究(Johnson, J. et al (2004) Nature 428, 145-150)に於ける指摘とも矛盾するものである。詳細は、代理人整理番号第51588−62054として2005年5月17日に出願された米国特許出願第 ______号を参照されたい。また、その参照したものを本明細書に取り込む。結果的に、生殖細胞系列幹細胞のより大きな蓄積が卵巣外の何処かに存在する可能性が考えられた。この観点での先ず最初の手がかりは、雌性生殖腺を供給する主要な血管の主たる入口であり出口である卵巣の髄質領域にSSEA1細胞が位置することである。SSEA1細胞とは、生殖細胞系列幹細胞/その前駆細胞のうち卵巣に常在しているものよりもむしろ卵巣へ移行中のものを表しているようである。
【0173】
胚発生の期間、原始生殖細胞(PGCs)及び造血幹細胞(HSCs)は、胚盤葉上層に近接する同じ領域から派生することが知られている(Lawson and Hage (1994), Ciba Found. Symp. 182, 68-84, 84-91)。PGCsが胚の同じ領域に入り、胎児の生殖腺にコロニーを作る(McLaren, (2003) Dev. Bio. 262, 1-15); Molyneaux and Wylie, (2004) Int. J. Dev. Biol. 48, 537-544)のとほぼ同時期に、早期HSCsは、胎児肝臓への移動する前に発達中の胚の大動脈・性腺・中腎領域にコロニーを形成する(Medvinsky and Dzierzak, (1996) Cell 86, 897-906)。生後、造血系は、最終的には骨髄に帰着して常在する幹細胞によって維持される(Morrison et al., (1995) Annu. Rev. Cell Dev. Biol. 11, 35-71); Attar and Scadden, (2004) Leukemia 18, 1760-1768)。この情報は、初期のHSCsをインビトロで産生すると報告されているPGCsの能力(Rich, (1995) Blood 86, 463-472)及び成熟骨髄由来細胞の多様な系統の可能性を説明する研究の増加(Herzog et al., (2003) Blood 102, 3483-3493); (Grove et al., (2004) Stem Cells 22, 487-500); (Heike and Nakahata, (2004) Int. J. Hematol. 79, 7-14)とともに、生殖細胞の存在と一致する分子の特徴が成熟雌性骨髄中に同定されるかどうかに関する研究を促した。
【0174】
PCR解析のため、成体雌性マウスから単離した骨髄のそれぞれの試料から全RNAを抽出し、その内1μgをオリゴdTプライマーを用いて逆転写した(Superscript II RT; Invitrogen)。その後、それぞれの遺伝子に特異的なプライマーセットとともにTaqポリメラーゼ及び緩衝液−D(Epicentre)を用いて、28〜35回のPCRサイクルで増幅した。それぞれの試料に対して、リボソーム遺伝子L7(マウスの研究)によってコードされるRNAを増幅し、負荷対照(“ハウスキーピング”遺伝子)として用いた。全てのPCR産物を単離し、サブクローン化し、配列決定して確定した。
【0175】
免疫組織化学的検出のために、卵巣、精巣及び骨(大腿部)を、4%中性パラホルムアルデヒド緩衝液中で固定し、その後骨はギ酸−EDTA中で72時間脱灰した。続いて、それぞれの供給元が推奨するように、高温で抗原の脱マスキングを行った後、MVH(T. Noce; Fujiwara et al., (1994) Cell Struct. Funct. 26, 131-136)、HDAC6(2162; Cell Signaling Technology, Beverly, Mass.)、NOBOX(A. Rajkovic; Suzumori et al., (2002) Science 305, 1157-1159)、又はGDF−9(AF739; R&D Systems, Minneapolis, Minn.)に対して特異的な抗体を用いて免疫組織化学的に解析するために、組織を切片化した。切片は、核を視覚化するためヨウ化プロピジウム(Vectashield; Vector Laboratories, Burlingame, Calif.)又はヨウ化TO−PRO−3(Molecular Probes, Eugene, Oreg.)でマウントし、Zeiss LSM 5 Pascal共焦点顕微鏡を用いて画像を捕らえた。
【0176】
これらの実験は、成体雌性マウスから単離された骨髄中のMvh、Dazl、Stella及びFragilisと称される5番目の生殖細胞系列マーカー遺伝子(Scholer et al., (1989) EMBO J. 8, 2543-2550); (Yoshimizu et al., (1999) Dev. Growth Differ. 41, 675-684)と同様に、成体マウスの生殖細胞系列に限定されているOct4の発現(Saitou et al., (2002) Nature 418, 293-300)を確定した(図2A−2D)。さらに、卵胞形成同様、原始卵母細胞に於けるOct4及びGdf9の発現の指示に重要(Rajkovic et al., 2004) Science 305, 1157-1159)である、雌性生殖細胞に特異的なホメオボックス遺伝子であるNobox(Suzumori et al., (2002) Mech. Dev. 111, 137-141)の発現もまた、成体雌性マウスの骨髄中に検出された(図2A)。
【0177】
これらの結果を考慮して、いくつかの公的なマイクロアレイデータベースを検索することにより、多数の生殖細胞系列マーカーがマウス及びヒトの骨髄中に発現しているというそれぞれの発見に於ける確証を提供した。例えば、Mvh,Dazl、Stella及びFragilisの発現は、マウス骨髄中に同定されており(Benson et al., (2004) Nucleic Acids Res. 32 Database Issue, D23-D26); (Su et al., (2004) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 101, 6062-6067)、STELLAの発現はヒト骨髄中に証明されていた(GenBank Accession CV414052 from Dias Neto et al., 2000)。Vasa遺伝子の発現が動物界全体で生殖細胞系列に限られた性質であることを証明する多くの研究があることから(Roussell and Bennett, (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90, 9300-9304); (Fujiwara et al., (1994) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91, 12258-12262); (Komiya et al., (1994) Dev. Biol. 162, 354-363); (Rongo et al., (1997) Cold Spring Harb. Symp. Quant. Biol. 62, 1-11); (Ikenishi)(1998) Growth Differ. 40, 1-10); (Braat et al., (1999) RNA. Dev. Dyn. 216, 153-167); (Castrillon et al., (2000) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 97, 9585-9590); (Noce et al., (2001) Cell Struct. Funct. 26, 131-136); (Dearden et al., (2003) Dev. Genes Evol. 212, 599-603); (Fabioux et al., (2004) Biochem. Biophys. Res. Commun. 320, 592-598)、Mvhが、雌の生殖周期中の骨髄に於ける生殖細胞系列マーカーの発現レベルの潜在的変化の定量的評価に於ける、次なる、代表的な評価項目とされた。
【0178】
それぞれの試料に於けるβアクチンのmRNAレベルに対して標準化したリアルタイムPCRを用い、成体雌性マウスの骨髄中でのMvh発現の発情周期に関連した、発情期(天底)と発情後期(頂点)の間で9.52倍の差異という顕著な変化が明らかになった(図2E)。同じ動物に於ける卵巣生殖細胞の動態の並列評価は、骨髄Mvh発現と原始卵胞数(発情後期の卵巣は発情期の卵巣よりも800以上多い原始卵胞を含んでいる)で、発情周期に関連する変化に於いて、著しい正の相関があることが明らかになった(図2F)。これらの研究結果を考慮して、発情後期に於ける成体雌性マウスの骨髄中のMvhレベルを、何千ものMvhを発現する卵母細胞を含む成体卵巣(Fujiwara et al., 1994; Noce et al., 2001;図2Dも参照)、又は成体雄性マウスの骨髄中に存在するレベルと比較した。これらの実験により、発情後期に於ける成体雌性マウス骨髄中のMvh転写レベルが、成体卵巣に於いて検出されるものの1.6%であることが証明された(表1)。
【0179】
【表1】

【0180】
興味深いことに、Mvh発現はまた、成体雄性マウス骨髄に於いて、発情後期の成体雌性マウスの骨髄に検出されたものの20%よりやや小さい発現レベルで検出された(表1)。さらに、雄性骨髄はまた、Dazlの発現が陽性であったが、Stellaの発現は検出可能な限界以下であった。
【0181】
確立された骨髄分画の手順を用いて、骨髄試料を細胞表面幹細胞マーカーに基づいて選別し、得られた細胞画分でMvhレベルを定量的に解析した。簡潔には、骨髄を成体雌性マウスから単離し、最初に免疫磁性ビーズカラムに基づく分画工程で記載の通りに(Shen et al., (2001) J. Immunol. 166, 5027-5033); (Calvi et al., (2003) Nature 425, 841-846)系列欠損(lin)細胞(Spangrude et al., (1988) Science 241, 58-62); (Spangrude and Scollay, (1990) Exp. Hematol. 18, 920-926)を得た後、Sca−1(van de Rijn et al., (1989) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86, 4634-4638)及び/またはc−Kit(Okada et al., (1991) Blood 78, 1706-1712); (Okada et al., (1992) Blood 80, 3044-3050)の細胞表面発現に基づいてBD Biosciences FACScalibur 血球計算機を用いて選別した。インビトロで骨髄由来幹細胞の連続的な継代により濃縮するために(Meirelles and Nardi, (2003) Br. J. Haematol. 123, 702-711); (Tropel et al., (2004) Exp. Cell Res. 295, 395-406)、成体雌性マウスから単離した骨髄を、10%のウシ胎児血清(Hyclone, Logan, Utah)、ペニシリン、ストレプトマイシン、L−グルタミン及びアンフォテリシン−Bを含むダルベッコ変性イーグル培地(Dulbecco’s modified Eaagle’s medium)(Fisher Scientific, Pittsburgh, PA)中でプラスティックプレートに撒いた。最初のプレーティングから48時間後、非接着細胞を含む上清を除き、穏やかに洗浄した後、新鮮な培地で置き換えた。培養物を保存し、6週間にわたり合計3回コンフルエントに達する度に継代して、接着細胞を解析のために回収して培養を終了した。
【0182】
陰性選択により血液リンパ系列に含まれることが明らかになった分化細胞の除去後、Mvh発現を骨未処理の骨髄中に観察されるのと同レベルで系列欠損(lin)細胞分画中に保持した(図3A)。引き続いての、Sca−1(van de Rijn et al., 1989)又はc−Kit(Okada et al., 1991)の細胞表面発現に基づくlin細胞の分離により、Mvh発現細胞の大部分が、Sca−1発現に対しては陰性であるが、c−Kit発現に対しては陽性(Sca−1/c−Kit)であることを更に明らかにした(図3A)。さらには、Sca−1/c−Kit細胞画分中に、Mvhとともに他の生殖細胞系列マーカーの発現を共分離した。並行実験に於いて、骨髄由来幹細胞の連続的な濃縮を可能にするために前述した条件下での、成体雌性骨髄由来細胞のプラスティック上のインビトロ培養により(Meirelles and Nardi, (2003) Br. J. Haematol. 123, 702-711); (Tropel et al., (2004) Exp. Cell Res. 295, 395-406)、新鮮単離(freshly isolated)された骨髄試料に存在する全ての生殖細胞系列マーカーが、接着細胞画分により発現し、6週間を超える多数の連続的継代を通して残ることが証明された(図3B)。
【実施例2】
【0183】
骨髄移植による病理的卵巣障害の回復
骨髄由来生殖細胞の新しい卵母細胞を産生する機能的能力を評価するために、成体野生型雌性マウスから骨髄を単離して、BMTに先立ち、シクロホスファミド及びブスルファンの併用処置により既存の減数分裂前後の生殖細胞プールを破壊して不胎化したレシピエントの雌性マウスに、標準的な手順で移植した。、
【0184】
骨髄は、成体(6〜10週齢)野生型C57BL/6雌性マウスより移植する日に採取し、2〜5×10個の細胞を標準的な手順を用いて尾静脈からレシピエントの静脈内に注入した。6週齢の雌性マウスに0.5mgの抗CD4抗体(GK1.5)(Dialynas, D. P. et al. (1984) J. Immunol. 131, 2445-2451)及び1mgの抗CD8抗体(2.43)(Sarmiento, M. et al. (1980) J. Immunol. 125, 2665-2672)を注射し、1週間後にそれぞれの2度目の抗体を120mg/kgのシクロホスファミド(Cytoxan; Bristol-Meyers Squibb)及び12mg/kgのブスルファン(Sigma)とともに注射してレシピエントを調製した。マウスをBMT前にシクロホスファミドとブスルファンで処置した。ブスルファンは、雄性及び雌性マウスの両方に於ける生殖細胞系列幹細胞の成熟性腺機能への貢献を選択的に取り除くものである。骨髄移植は1日又は7日後に実施した。動物は、BMT後、指示されたときに卵巣の回収と解析のために安楽死させた。
【0185】
シクロホスファミド又はブスルファンを単独で与えられた雌性卵巣から、存在は確認できるが非常に少ない、未熟な卵母細胞又は卵胞を2ヵ月後に検出した(図4)。しかしながら、併用化学療法後にBMTを受けたマウスの卵巣は、これらの薬物の細胞毒性に最も敏感である休止している原始段階を含む全ての発達段階の数百の卵母細胞含有の卵胞を保持していた(図4及び5C)。
【0186】
さらに組織学的評価は、化学療法計画は実質的に卵巣を破壊したことを実証し、処置後の卵巣は時折観察されるランダムな胞嚢卵胞又は古い黄体をもつストロマ及び間質性細胞に過ぎないものから構成されていた(図5)。比較として、BMTを受けたマウス卵巣は、組織へのダメージを与えた1週間後に移植がなされた時でさえ、正常の排卵周期の続行を示す黄体同様、成熟しつつある卵胞のスペクトルを保持していた(図5C)。さらに、化学療法で不胎化され、最初の移植後11ヶ月以上経過した雌性マウスの卵巣に、卵母細胞及び卵胞が見出された。そしてそれは骨髄由来生殖細胞が、長期の卵母細胞産生を維持することができることを示している。
【実施例3】
【0187】
Atm変異体における骨髄移植による卵母細胞産生の回復
Atm遺伝子の標的不活性化により作出されたAtm−/−(同種欠損)マウスは、発達遅延、Tリンパ球成熟の欠如及び不妊(Bagley et al. (2004) Blood 12: 1)を含む、ヒトに於ける血管拡張性運動失調症候群の多くの特質を示す。Atm欠損雄性及び雌性マウスは、成熟配偶子、すなわち精子及び卵母細胞、の産生の完全欠失のため、不妊となることが示されてきた(Barlow, C. et al. (1996) Cell 86: 159)。Atm欠損変異マウスに於けるこれらの配偶子形成の欠如は、レプトテン期と同じくらいに早期に検出される、減数分裂のかなり早い段階を示す、発達途中の配偶子のアポトーシス及び変性の結果として起こる(Barlow, C. et al. (1998) Development 125: 4007)。Atm欠損雌性マウス由来の卵巣は、分娩後少なくとも11日齢までに卵母細胞及び卵胞が完全に不毛であることが示された(Barlow, C. et al. (1998) Development 125: 4007)。
【0188】
これらの研究結果を確かなものとし、伸展させていくために、先ず野生型マウスの卵巣をAtm遺伝子欠損マウス由来の卵巣と比較した。分娩後4日目の野生型(図6A、Cに拡大図)及びAtm欠損(B、D)卵巣の代表的な組織を、図6に示す。成体マウス由来の成熟した野生型(E)及びAtm欠損(F)卵巣の代表的な組織もまた、図6に示す。過去の報告を踏まえると、Atm欠損動物由来の卵巣は、出生後日齢とは無関係に卵母細胞が不毛である。しかしながら、出生後のマウス卵巣内に於ける減数分裂前の生殖細胞系列幹細胞が最近検出された(Johnson et al., (2004) Nature 428: 145)を考慮すると、Atmの非存在下では、減数分裂前の生殖細胞系列幹細胞の存在及び自己再生は可能であるが、発達中の母細胞の産生は減数分裂開始不能のため不可能であった。
【0189】
Atm欠損卵巣に対する野生型対照に於ける生殖細胞系列マーカーの発現を、逆転写に続くPCR(RT−PCR)によって実施し、代表的なデータ(n=3)を図7に示す。予想されたように、多分化能マーカーOct−4(Brehm et al., (1998) APMIS 106: 114)、生殖細胞系列マーカーDazl(McNeilly et al., (2000) Endocrinology 141:4284); (Nishi et al., (1999) Mol Hum Reprod 5: 495);Stella(Bortvin et al., (2004) BMC Dev Biol 23: 2)及びマウスVasa相同種、Mvh(Fujiwara, Y. et al. (1994) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91, 12258-12262)は、いずれも出生後71日後のAtm欠損卵巣で発現している。負荷対照であるL7の分析によるこれらの遺伝子の相対レベルの半定量的比較は、予期した通り、これらの遺伝子は卵母細胞を含む野生型卵巣に於けるよりもずっと少ないレベルでの発現を示している。RT−PCR解析に用いたそれぞれの動物の対側の卵巣は組織解析のために調製し、Atm欠損マウス由来の試料調製及び組織切片の分析は、予想通り、いずれの卵母細胞又は卵胞に似た構造物も明らかにならなかった。このようにAtmの欠損は、結果として成熟期(71日目)まで残る生殖細胞系列幹細胞のプールをもたらすが、報告されているように、これらの細胞は、Atmが欠損しているときは配偶子の死をもたらす減数分裂異常のため生存能力のある卵母細胞を産生することはできない。
【0190】
卵巣外細胞が生殖細胞を形成する能力を持つか否かがさらに研究された。その表現型のために、これらの動物が遺伝的に卵母細胞を産生することができないので、評価のためにAtm欠損マウスが選択された。もし卵母細胞が移植を受けたAtm欠損マウスの卵巣に検出されたなら、それらの細胞は、宿主動物に於けるAtm欠損の性質に基づいて移植された組織(すなわち骨髄)に由来したものでなければならない。骨髄移植は、上記のように実施された。
【0191】
変異マウスは遺伝的に早期生殖細胞から卵母細胞を産生することができないが、それでもなおBMT後の卵母細胞産生に宿主生殖細胞が寄与する可能性を除くために、Atm欠損マウスをシクロホスファミド及びブスルファンで(上記参照)処置した。移植を受けなかったAtm変異体では卵母細胞が完全に欠如していたが、野生型マウスと外部から野生型骨髄を受けたAtm欠損マウスの両方は、正常にみえる卵胞の中に正常な卵母細胞を呈示した(図8)。移植を受けたAtm欠損雌性マウスに於いて最初のBMTの後の少なくとも11ヶ月間は卵胞を含む卵母細胞が見出された。
【0192】
移植細胞が機能的なAtmを含むことから、これらの結果は、野生型移植骨髄が、減数分裂を介して卵母細胞にうまく分化し続けることができる雌性生殖細胞系列幹細胞を含んでいることを示している。
臨床的な観点から、BMTがAtm欠損または化学療法により不胎化された雌性マウスに於ける卵母細胞産生を回復させるという発見は、きわめて興味深いものである。従って、癌又は他の卵巣障害の治療を受けた女性に於いても、ヒト骨髄が雌性生殖細胞系列幹細胞を含む限り同様の応答が期待できる。骨髄試料を、24歳から36歳のヒト雌性ドナーから収集した。雌性生殖細胞系列マーカーであるDazl及びStellaの発現が検出されたが、一方で、成体ヒト子宮内膜の並行分析に於いては、これらの遺伝子発現は示されず、そのことは即ち、ヒト骨髄が雌性生殖細胞系列幹細胞を含んでいることを示すものである(図9)。
【図面の簡単な説明】
【0193】
【図1】図1は、成卵巣の生殖細胞/前駆細胞の解析を表す。成体マウス卵巣(B、Aに示すステージ特異的胚抗原1(SSEA1)細胞の高倍率像;A及びC、異なるマウス由来の卵巣)に於けるSSEA1発現(赤、核をヨウ化プロピジウムにより青く強調表示)の免疫組織化学的解析を表す。抗原の細胞表面の発現を示す、成体卵巣に於ける単一のSSEA1細胞(D)。SSEA1抗体に基づく磁気ビーズ選別の後に成体マウス卵巣から調製された、単離及び残存細胞画分(residual cell fractions)の遺伝子発現プロファイル(E)。当該リボソーム遺伝子、L7は、内因性負荷対照として増幅された。どの擬似逆転写(Mock)卵巣RNA試料からも、生成物は観察されなかった。
【図2−1】図2−1は、骨髄が生殖細胞を含むことを示すものである。成体野生型雌性マウスの骨髄(BM)に於ける生殖細胞系列マーカー発現(A)。生殖細胞系列マーカー発現の陽性対照として、成体マウスの卵巣RNAを同時に解析した。L7は「ハウスキーピング」遺伝子。Mockは、擬似逆転写RNA試料(B〜C)。成体野生型雌性マウスの骨髄に於けるMVH免疫反応性(赤、核をヨウ化プロピジウムで青く強調表示;スケールバー=5mm)の解析(D)。生殖細胞(卵母細胞)に制限したMVH発現(赤)を明示する、B〜Cに表す免疫染色の陽性対照として同時に解析されたマウス卵巣。
【図2−2】図2−2は、骨髄が生殖細胞を含むことを示すものである。発情周期の指示された期間に於ける成体雌性マウスの骨髄又は末梢血のMvhレベルのリアルタイムPCR解析(E)。示されたデータは、集団当たり3〜4匹のマウスの分析の結果を、試料負荷のためのβアクチンに対して標準化後、周期の他の段階と比較し基準点として設定した発情期の平均レベルと組み合わせて表している。発情期のマウスでは、骨髄に於けるMvh発現は、分析された3試料のうちのひとつだけの線形増幅の間に検出された。発情周期の指示された段階での成体雌性マウスに於ける非閉鎖性の原始卵母細胞含有卵胞の数(平均±SEM、集団あたりn=4匹のマウス)(F)。
【図3】図3は、骨髄由来生殖細胞の特性を表す。Sca−1又はc−Kitの細胞表面発現に基づくFACSによる更なる分画の存在下及び非存在下に於ける、全体(総合)及び系統枯渇した(lin)骨髄試料に於けるMvhレベルの定量的解析(A)。Sca−1/c−Kit細胞画分に現れないすべての残存lin細胞を、プールして一緒に解析した。示されたデータは、3匹の成体雌性マウスの分析結果を、試料負荷のためのβアクチンに対して標準化後、比較のための基準点として設定した全体骨髄試料における平均Mvhレベルと組み合わせて表している。インビトロで6週間にわたる合計3回の連続した継代(P3)の後の、接着骨髄由来細胞に於ける生殖細胞系列マーカー発現。BM、新鮮単離した骨髄。βアクチン、“ハウスキーピング”遺伝子。Mock、擬似逆転写RNA試料(B)。
【図4】図4は、骨髄移植(BMT)が化学療法により誘発される卵巣障害を回復させることを示す結果を表す。分娩後42日目の野生型雌性マウスに、ブスルファン及びシクロホスファミドで処置した後BMTを施さなかった、又は処置後1日目若しくは7日目にBMTを施して、60日経過した後に卵巣に存在する非閉鎖性の未成熟卵胞の数(平均値±S.E.;集団当たりn=5匹のマウス、化学療法に曝し、続くBMTなしのマウス5匹中4匹が未成熟卵母細胞を完全に欠く)。
【図5】図5は、BMTが、化学療法により不胎化された成体野性型雌性マウスに於いて短期及び長期の卵母細胞産生を維持することを示す結果を表す。賦形剤のみ投与して、BMTを施していない(A、対照)、併用化学療法(BMTを施さず)(B)又は併用化学療法の7日後にBMT(C)、で処置して2ヶ月経過した後の成体雌性マウスにおける代表的な卵巣組織。黄体は、星印で表示されている。分娩後42日の成体野生型雌性マウスに併用化学療法(シクロホスファミド及びブスルファン)を施した後にBMTを実施して11.5ヶ月経過した成体野生型雌性マウスの卵巣組織。様々な成熟発達段階の卵胞を強調している(差込図)(D〜E)。
【図6】図6は、分娩後4日の野生型(図6A、図6Cに拡大して表示)及びAtm欠損(図6B、図6Dに拡大して表示)卵巣の組織を表す。成体マウス由来の成体野生型(図6E)及びAtm欠損(図6F)卵巣の代表的な組織もまた示す。
【図7】図7は、成体Atm欠損(−/−)雌性マウスの卵巣に於けるOct4、Mvh(Vasa)、Dazl及びStella発現のRT−PCR解析によりAtm欠損マウス卵巣の生殖細胞系列マーカー遺伝子の発現を示している。リボソーム遺伝子、L7は、内因性負荷対照として増幅された;擬似逆転写(Mock)卵巣RNA試料に於いては、いずれの産物も観察されなかった。
【図8】図8は、外因性の野生型骨髄を受けたAtm欠損マウスの化学療法(ブスルファン、シクロホスファミド)で処置済みの卵巣を示す。不胎化量の化学療法後に、外因性の野生型骨髄を移植した野生型マウス及びAtm欠損マウスの両方は、正常に見える卵胞内に正常な卵母細胞を示した。
【図9】図9は、ヒトの骨髄に於ける生殖細胞系列マーカーの解析を示す。24歳から36歳の4人の女性ドナーから収集した骨髄に於けるDAZL及びSTELLAの発現。陰性対照として並行して解析された二人の異なる成人子宮(Ut)内膜試料中には、生殖細胞系列マーカーは検出されなかった。グリセルアルデヒド3リン酸脱水素酵素(GAPDH)、ハウスキーピング遺伝子は、内因性負荷対照として増幅された。Mockは擬似逆転写RNA試料を示す。
【0194】
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
有糸分裂の能力があり、XX核型を有し、Vasa、Oct−4、Dazl、Stella、Fragilis並びに任意にNobox、c−Kit及びSca−1を発現する単離された骨髄細胞。
【請求項2】
細胞が、宿主に移植されて、少なくとも1週、1〜約2週、約2〜約3週、約3〜約4週又は約5週以上経過した後に、卵母細胞を産生することが可能である、請求項1に記載の単離された細胞。
【請求項3】
細胞が、宿主に移植された後、1週未満で卵母細胞を産生することが可能である、請求項1に記載の単離された細胞。
【請求項4】
細胞が、宿主に移植された後、約24〜約48時間未満で、卵母細胞を産生することが可能である、請求項1に記載の単離された細胞。
【請求項5】
細胞が、骨髄に由来する雌性の生殖細胞系列幹細胞である、請求項2に記載の単離された細胞。
【請求項6】
細胞が、骨髄に由来する雌性の生殖細胞系列幹細胞の前駆細胞である、請求項3に記載の単離された細胞。。
【請求項7】
細胞が、哺乳動物の細胞である、請求項1に記載の単離された細胞。
【請求項8】
細胞が、ヒトの細胞である、請求項1に記載の単離された細胞。
【請求項9】
細胞が、非胚性の細胞である、請求項1に記載の単離された細胞。
【請求項10】
細胞が、Noboxを発現する、請求項1に記載の単離された細胞。
【請求項11】
細胞が、c−Kitを発現する、請求項1に記載の単離された細胞。
【請求項12】
細胞が、Sca−1を発現する、請求項1に記載の単離された細胞。
【請求項13】
a)請求項1に記載の単離された細胞を、細胞を卵母細胞へ分化させる薬剤の存在下で培養することにより、卵母細胞を産生し、
b)インビトロで前記卵母細胞を受精させて接合体を形成し、そして
c)対象である雌の子宮に前記接合体を移植する、
工程を含む、対象である雌をインビトロで受精させる方法。
【請求項14】
請求項1に記載の単離された細胞を、細胞を卵母細胞へ分化させる薬剤の存在下で培養し、それにより卵母細胞を産生することを含む、卵母細胞を産生する方法。
【請求項15】
薬剤が、形質転換増殖因子、骨形成タンパク質、Wntファミリータンパク質、kit−リガンド、白血病抑制因子、減数分裂活性化ステロール、Idタンパク質機能の調節因子及びSnail/Slug転写因子機能の調節因子からなる群より選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
有糸分裂の能力があり、XX核型を有し、Vasa、Oct−4、Dazl、Stella、Fragilis、任意にNobox、c−Kit及びSca−1を発現する精製された細胞集団、並びに薬学的に許容される担体を含む医薬組成物。
【請求項17】
細胞が、骨髄細胞から精製される、請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項18】
細胞が、哺乳動物の細胞である、請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項19】
細胞が、ヒトの細胞である、請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項20】
精製された細胞集団が、前記組成物中に、約50〜約55%、約55〜約60%、約65〜約70%、約70〜約75%、約75〜約80%、約80〜約85%、約85〜約90%、約90〜約95%又は約95〜約100%の細胞で存在する、請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項21】
請求項16に記載の医薬組成物を、対象の組織に提供し、
前記細胞が前記組織へ生着して卵母細胞へと分化し、それにより前記対象に於いて卵母細胞を産生する、
ことを含む、対象に於いて卵母細胞を産生する方法。
【請求項22】
前記組織が、卵巣組織である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
請求項16に記載の医薬組成物を対象に提供し、
前記細胞が前記対象の組織へ生着して卵胞内で卵母細胞へと分化し、それにより前記対象に於いて卵胞形成を誘導する、
ことを含む、対象に於いて卵胞形成を誘導する方法。
【請求項24】
前記組織が、卵巣組織である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
請求項16に記載の医薬組成物の治療有効量を対象に投与し、
前記細胞が卵巣に生着して卵母細胞へ分化し、それにより不妊を治療する、
ことを含む、不妊治療を必要とする対象の雌に於いて不妊を治療する方法。
【請求項26】
請求項16に記載の医薬組成物の治療有効量を組織へ提供し、
前記細胞が前記組織へ生着し卵母細胞へと分化し、それにより対象に於いて傷害を受けた組織を修復する、
ことを含む、対象に於いて傷害を受けた卵巣組織を修復する方法。
【請求項27】
前記傷害が、化学療法剤又は放射線照射に曝露された結果である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記化学療法剤が、ブスルファン、シクロホスファミド、5−FU、ビンブラスチン、アクチノマイシンD、エトポシド、シスプラチン、メトトレキセート及びドキソルビシンからなる群より選択される、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記傷害が、癌、多嚢胞性卵巣疾患、遺伝性疾患、免疫不全又は代謝性疾患の結果である、請求項26に記載の方法。
【請求項30】
請求項16に記載の医薬組成物の治療有効量を対象へ投与し、
前記細胞が卵巣に生着して卵母細胞へと分化し、それにより対象に於いて卵巣機能を回復させる、
ことを含む、閉経期にある対象の雌において卵巣機能を回復させる方法。
【請求項31】
閉経期にある対象の雌が、閉経前又は閉経後のいずれかの段階にある、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
対象の骨髄に由来する雌性の生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞を、骨髄に由来する雌性の生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞を卵母細胞に分化させる薬剤と接触させ、それにより対象に於いて卵母細胞を産生することを含む、対象に於いて卵母細胞を産生する方法。
【請求項33】
薬剤が、形質転換増殖因子、骨形成タンパク質、Wntファミリータンパク質、kit−リガンド、白血病抑制因子、減数分裂活性化ステロール、Idタンパク質機能の調節因子及びSnail/Slug転写因子機能の調節因子からなる群より選択される、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
請求項33に記載の薬剤、及び
骨髄に由来する雌性の生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞を卵母細胞へ分化させる薬剤であって、それにより卵母細胞を産生するものである薬剤の使用に関する説明書、
を含む、卵母細胞を産生するためのキット。
【請求項35】
骨髄に由来する雌性の生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞を、骨髄に由来する雌性の生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞の量を増加させる薬剤と接触させ、それにより骨髄に由来する雌性の生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞を増大(expand)させることを含む、骨髄に由来する雌性の生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞をインビボ、エクスビボ又はインビトロで増大(expand)させる方法。
【請求項36】
骨髄に由来する雌性の生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞の量を、細胞の増殖又は生存を促進する薬剤で増加させる、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
薬剤が、インスリン様成長因子、形質転換増殖因子、骨形成タンパク質、Wntタンパク質、線維芽細胞成長因子、スフィンゴシン−1−リン酸、レチノイン酸、グリコーゲン合成酵素キナーゼ−3の阻害剤、Bax阻害剤、カスパーゼ阻害剤、一酸化窒素産生の阻害剤及びヒストン脱アセチル化酵素活性の阻害剤からなる群より選択される、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
請求項37に記載の薬剤、及び
骨髄に由来する雌性の生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞の量を増加させる薬剤であって、それにより骨髄に由来する雌性の生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞を増大(expand)させるものである薬剤の使用に関する説明書、
を含む、骨髄に由来する雌性の生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞を増大(expand)させるためのキット。
【請求項39】
対象の骨髄に由来する雌性の生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞を、骨髄に由来する雌性の生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞の量を増加させる薬剤と接触させ、それにより対象に於いて卵母細胞を産生することを含む、対象に於いて卵母細胞を産生する方法。
【請求項40】
薬剤が、細胞の生存又は増殖を増加させ、それにより細胞の量を増加させる、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
細胞の生存又は増殖を増加させる薬剤が、インスリン様成長因子、形質転換増殖因子、骨形成タンパク質、Wntタンパク質、線維芽細胞成長因子、スフィンゴシン−1−リン酸、レチノイン酸、グリコーゲン合成酵素キナーゼ−3の阻害剤、Bax阻害剤、カスパーゼ阻害剤、一酸化窒素産生の阻害剤及びヒストン脱アセチル化酵素活性の阻害剤からなる群より選択される、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
骨髄に由来する雌性の生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞の治療有効量を対象に投与して、前記細胞を組織に生着させて卵母細胞へと分化させ、それにより対象の受胎能力を回復させることを含む、受胎能力の回復を望む対象の雌に於いて受胎能力を回復させる方法。
【請求項43】
前記組織が、卵巣組織である、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
対象に、
生殖機能の傷害を保護する薬剤を、化学療法、放射線治療若しくはその両方の治療を施す前に又は同時に提供し、そして
骨髄に由来する雌性の生殖細胞系列幹細胞又はその前駆細胞を提供して、前記細胞を組織に生着させ卵母細胞へと分化させ、それにより対象の受胎能力を保護する、
こと含む、化学療法、放射線治療若しくはその両方の治療を受けているか又は受けることが予定されている対象の雌に於いて受胎能力を保護する方法。
【請求項45】
薬剤が、S1P、Baxアンタゴニスト又はSDF−1活性を増加させる何れかの薬剤からなる群より選択される、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
請求項45に記載の薬剤、及び
骨髄に由来する雌性の生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞を生殖機能の傷害から保護する薬剤であって、対象の雌に於いて受胎能力を保護するものである薬剤の使用に関する説明書、
を含む、化学療法、放射線治療若しくはその両方の治療を受けているか又は受けることが予定されている対象の雌において受胎能力を保護するためのキット。
【請求項47】
a)骨髄に由来する雌性の生殖細胞系列幹細胞又はその前駆細胞を、骨髄に由来する雌性の生殖細胞系列幹細胞又はその前駆細胞を卵母細胞へ分化させる薬剤と接触させることにより、卵母細胞を産生し、
b)インビトロで卵母細胞を受精させて接合体を形成し、そして
c)対象である雌の子宮に前記接合体を移植する、
工程を含む、対象である雌をインビトロで受精させる方法。
【請求項48】
有糸分裂の能力があり、XY核型を有し、Vasa及びDazlを発現する、単離された骨髄細胞。
【請求項49】
前記細胞が、哺乳動物の細胞である、請求項48に記載の単離された細胞。
【請求項50】
前記細胞が、ヒトの細胞である、請求項48に記載の単離された細胞。
【請求項51】
前記細胞が、非胚性の細胞である、請求項48に記載の単離された細胞。
【請求項52】
骨髄に由来する雄性の生殖細胞系列幹細胞又はその前駆細胞を、雄である対象の精巣へ提供して、前記細胞を精上皮に生着させて精細胞へと分化させ、それにより精子形成を回復又は増強させる、精子形成を回復又は増強させる方法。
【請求項53】
骨髄に由来する雄性の生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞の治療有効量を対象に投与して、前記細胞を精上皮に生着させて精細胞へと分化させ、それにより受精率を回復させる、化学療法、放射線治療又はその両方を受けたことがあり、受精率の回復を望む対象である雄に於いて受精率を回復させる方法。
【請求項54】
対象に於いて、骨髄に由来する生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞を細胞の増殖を減少させる薬剤と接触させることにより、骨髄に由来する生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞の量を減少させることを含む、骨髄に由来する生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞の量を対象に於いて減少させる方法。
【請求項55】
薬剤が、形質転換増殖因子−β、骨形成タンパク質のアンタゴニスト、DAN及びCerberus関連タンパク質並びにGremlinからなる群より選択される、請求項54に記載の方法。
【請求項56】
対象に於いて、骨髄に由来する生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞を、細胞の生存を阻害する薬剤と接触させることにより、骨髄に由来する生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞の量を減少させることを含む、骨髄に由来する生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞の量を対象に於いて減少させる方法。
【請求項57】
前記生存を阻害する薬剤が、アポトーシス促進性の腫瘍壊死因子スーパーファミリーのメンバー、 生存促進性Bcl−2ファミリーメンバーの機能のアンタゴニスト及びセラミドからなる群より選択される、請求項56に記載の方法。
【請求項58】
前記アポトーシス促進性の腫瘍壊死因子スーパーファミリーのメンバーが、腫瘍壊死因子−α、Fas−リガンド及びTRAILからなる群より選択される、請求項57に記載の方法。
【請求項59】
前記生存促進性のBcl−2ファミリーメンバーが、Bcl−2、Bcl−XL、Bcl−W、Mcl−1及びA1からなる群より選択される、請求項57に記載の方法。
【請求項60】
請求項57に記載の薬剤、及び
骨髄に由来する生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞の細胞の生存を阻害する薬剤であって、骨髄に由来する生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞の量を減少させるものである薬剤の使用に関する説明書、
を含む、骨髄に由来する雌性の生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞の量を減少させるためのキット。
【請求項61】
対象に於いて、骨髄に由来する生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞を、細胞死を促進させる薬剤と接触させることにより、骨髄に由来する生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞の量を減少させることを含む、骨髄に由来する生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞の量を対象に於いて減少させる方法。
【請求項62】
前記細胞死を促進させる薬剤が、アポトーシス促進性の腫瘍壊死因子スーパーファミリーのメンバー、 アポトーシス促進性Bcl−2ファミリーメンバーの機能のアンタゴニスト及びセラミドからなる群より選択される、請求項61に記載の方法。
【請求項63】
前記アポトーシス促進性の腫瘍壊死因子スーパーファミリーのメンバーが、TNFα、Fas−リガンド及びTRAILからなる群より選択される、請求項62に記載の方法。
【請求項64】
前記アポトーシス促進性Bcl−2ファミリーメンバーが、BAX、BAK、BID、HRK、BOD、BIM、NOXA、PUMA、BOK及びBCL−XSからなる群より選択される、請求項62に記載の方法。
【請求項65】
請求項62に記載の薬剤、及び
骨髄に由来する生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞の細胞死を促進させる薬剤であって、骨髄に由来する生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞の量を減少させるものである薬剤の使用に関する説明書、
を含む、骨髄に由来する生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞の量を減少させるためのキット。
【請求項66】
対象が、前癌性の又は癌性の症状を呈している、請求項54、56又は61に記載の方法。
【請求項67】
前記癌性の症状が、生殖細胞腫瘍、卵巣癌、精巣癌又は奇形腫である、請求項66に記載の方法。
【請求項68】
骨髄に由来する生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞を、骨髄に由来する生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞の量を減少させる薬剤と接触させて、対象に於いて避妊を提供することを含む、対象に於いて避妊を提供する方法。
【請求項69】
請求項68に記載の薬剤、及び
骨髄に由来する生殖細胞系列幹細胞又はそれらの前駆細胞の量を減少させる薬剤であって、対象に於いて避妊を提供するものである薬剤の使用に関する説明書、
を含む、対象に於いて避妊を提供するためのキット。

【図1】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2008−512990(P2008−512990A)
【公表日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−527371(P2007−527371)
【出願日】平成17年5月17日(2005.5.17)
【国際出願番号】PCT/US2005/017234
【国際公開番号】WO2006/001938
【国際公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(506286973)ザ ジェネラル ホスピタル コーポレーション (27)
【氏名又は名称原語表記】THE GENERAL HOSPITALCORPORATION
【住所又は居所原語表記】55 Fruit Street, Boston, MA02114 (US).
【Fターム(参考)】