説明

骨髄異形性症候群及び急性骨髄性白血病の治療のための組成物及び方法

骨髄異形成症候群及び急性骨髄性白血病を治療するための方法及び組成物であって、該組成物が少なくとも一の式Iで表される化合物(式中、R1は、−NH2、−NH−CH2−CO2H、−NH−CH(CH3)−CO2H及び−NH−C(CH3)2−CO2Hよりなる群から選択される)、又はかかる化合物の製薬上許容しうる塩;及びDNAメチルトランスフェラーゼインヒビター、又はその製薬上許容しうる塩を含む、当該方法及び組成物を提供する。
【化1】


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、白血病及び前白血病性血液異常を、薬剤の組合せの投与によって治療する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
癌の治療は、有意に進歩してきている。多くの増殖性疾患が、今や、天然物、天然物誘導体、及び合成化合物を包含する治療剤の投与によって有効に治療されうる。増殖性疾患特に癌の治療法特に化学療法は、薬剤の組合せの投与を含むことができる。
【0003】
I.骨髄異形性症候群及び骨髄性白血病
多分化能の造血幹細胞に由来する骨髄異形性症候群(MDS)は、臨床的には、増殖亢進性の骨髄、無効な造血の反映によって特徴付けられ、末梢血の少なくとも一種の血球減少を伴う。骨髄の機能不全は、大多数において出血及び感染症から死へと導く結果となり、患者の最大40%において、急性白血病への変換が起きる。急性白血病への高率の変換の故に、骨髄異形性症候群は、「前白血病」とも呼ばれてきた。この病気の臨床面は、L.R. Silverman (Cancer Medicine, David W. Kufe等編、第6版、B.C. Decker, 2003, the entire disclosure of which is incorporated herein by reference)に総説されている(その全開示を、参考として、本明細書中に援用する)。P.L. Greenberg, N.S. Young,及び N. Gattermann, 「Myelodysplastic Syndromes」、Hematology, 2002, 136-61も参照されたい。
【0004】
骨髄異形性症候群の発病率の見積もりは、1年間に、100,000人当たり1症例から、急性骨髄性白血病(AML)のそれにほぼ等しい頻度か又はそれを超え、又は米国において、1年間に、約14,000の新たな症例を生じる。この発病率は、増加しつつあるように見えるが、これは、おそらく、高い意識性、高い診断の正確性及び集団の加齢を含む幾つかの因子によるものであろう。
【0005】
仏米英(FAB)研究グループは、骨髄異形性症候群の5つのカテゴリーを、形態的特徴並びに骨髄及び末梢血中の芽細胞のパーセンテージに基いて認識した:
無反応性貧血症(RA):患者は、鉄及び/又はビタミンによる治療に抵抗性又は無反応性の貧血症を患っており、骨髄中には5%未満の芽細胞がある。WBC及び血小板の軽度から中程度の低下もありうる。
環状鉄芽球を有する無反応性貧血症(RARS):患者は、無反応性の貧血症を有しており、加えて、環状鉄芽球と呼ばれる核の周りに環状の形態に付着した鉄を含む赤血球細胞の異常な前駆細胞が、骨髄細胞の15%より多くを占める。芽細胞は、骨髄の5%未満を構成する。
過剰な芽細胞を伴う無反応性貧血症(RAEB):このカテゴリーでは、無反応性貧血症の患者は又、1〜5%の循環性芽細胞を末梢血中に有するか、5〜20%の芽細胞を骨髄中に有する。
変換中の過剰の芽細胞を伴う無反応性貧血症(RAEB−t):循環芽細胞のパーセンテージが5%を超えるか、又は骨髄中に20〜30%の芽細胞があるならば、それらの患者は、急性白血病に向けて変換されていると考えられる。
慢性骨髄性単球性白血病(CMML):骨髄は他の型の骨髄異形成症候群に多少類似して見えるが、血中と骨髄の両方における単核細胞の増加があり、全WBC計数も又、増大しうる。芽細胞は、骨髄において5〜20%である。
【0006】
分類体系は又、世界保健機関によっても開発されていて、それは、表1に示したようにFABの分類と結びつけることができる。
【0007】
【表1】

【0008】
血液の細胞性成分は、多能性の造血幹細胞に由来する。幹細胞は、広範な再生能及び分化能を有しており、リンパ前駆細胞及び骨髄前駆細胞を生成し、これらは、次いで、リンパ球、好中球、好酸球、好塩基球、赤血球、及び血小板を生成する。骨髄異形成症候群においては、分化過程の調整異常が起きているようである。骨髄異形成症候群における死亡率は、出血、感染症の再発、及び白血病への変換に関係する。治療しない場合には、骨髄異形成症候群は、急性骨髄性白血病への変換があってもなくても、急速に死に至る病気でありうる。骨髄異形成症候群の成人の20〜40%が白血病を発症し、30〜40%の患者が感染症、出血又はこれら両方によって死亡すると見積もられている。
【0009】
予後評価システムのInternational Prognostic Scoring System(IPSS)は、骨髄異形成症候群の患者のために開発された。このIPSSは、7つの大きなリスクに基く研究(各々、予後システムを生成した)からの、細胞遺伝学的、形態学的及び臨床的データに基く、統一的予後評価システムである。P. Greenber,等、「International Scoring System for, Evaluation Prognosis in Myelodysplastic Syndromes」、Blood, 1997, 89(6) 2079-88。このIPSSは、従来のリスクベースの分類と比較して、MDSにおける予後の評価のための改良された方法を提供する。一変量分析に基いて、急性骨髄性白血病への進展に関して病気の結果に影響を有する主たる変数は、細胞遺伝学的異常、骨髄の骨髄芽細胞のパーセンテージ、及び血球減少であることが見出された。上記の変数に加えて、生存のための因子には、年齢及び性別も又、含まれた。
【0010】
この結果の細胞遺伝学的亜群を次のように分類した:
「良好な」結果は、正常、iYのみ、del(5q)のみ、del(20q)のみであった;
「不良の」結果は、複雑(即ち、o(チルダ付き)3異常)又は第7染色体異常であった;
「中間の」結果は、他の異常であった。
【0011】
多変量解析は、これらの細胞遺伝学的亜群を、骨髄芽細胞のパーセンテージ及び血球減少数と合わせて、予後モデルを生成した。これらの変数の統計的能力による重み付けは、患者を、25%の急性骨髄性白血病への進展につき、異なるリスク亜群に分けた:
低、9.4年;
中間−1(INT−1)、3.3年;
中間−2(INT−2)、1.1年;及び
高、0.2年
【0012】
これらの同じ特徴は又、患者を、似ているが異なる、メジアン生存率のリスク群に分けた:
低、5.7年;
INT−1、3.5年;
INT−2、1.2年;及び
高、0.4年。
【0013】
この骨髄異形成症候群についてのIPSS評価システムを、表2にまとめた。IPSS評価とメジアン生存率及び急性骨髄性白血病への進行との間の相関は、表3にまとめたが、これは、IPSS評価の年齢についての層化が生存率の分析を更に改善することをも示している。
【0014】
【表2】

【0015】
【表3】

【0016】
急性骨髄性白血病は、最も一般的な、成人に起きる異形の急性白血病であって、20歳より高齢の個人で診断された急性白血病の症例の約80〜85%を構成している。骨髄の造血幹細胞の急性白血病の不均一な群は、急性骨髄性(myelogenous)白血病、急性骨髄球白血病、急性骨髄性(myeloid)白血病、急性骨髄芽球性白血病、急性顆粒球性白血病、及び急性非リンパ球性白血病を含む様々な名称で呼ばれてきた。これらの悪性の芽細胞の骨髄性は、形態的特徴及び免疫学的所見の検出により決定することができる。国立癌研究所(National Cancer Institute)後援の研究会は、急性骨髄性(myeloid)白血病という用語が好ましいことを示唆してきた。この病気の臨床面は、C.A. Schiffer及びR.M. Stoneにより、Cancer Medicine, David W. Kufe等編、第6版、B.C. Decker, 2003に総説されている(その全開示を、参考として、本明細書中に援用する)。
【0017】
この仏米英(FAB)式分類は、急性骨髄性白血病を診断して分類するために開発された。この急性骨髄性白血病の診断は、骨髄芽細胞が骨髄細胞又は循環する白血球細胞の30%以上(又は、最近の世界保健機関(WHO)の分類体系によれば20%)を構成することを必要とする。この病気の血液学的特徴は、下記の様々な亜種を規定する。このFAB式命名法(M1からM7まで)は、急性骨髄性白血病の亜種を、芽細胞が最も似ている正常骨髄成分によって分類する。表4は、FAB式分類法並びにWHOにより承認された追加のクラスの両方を含んでいる。
【0018】
【表4】

【0019】
世界的に、急性骨髄性白血病患者の完全緩解(CR)率が徐々に改善されてきているにもかかわらず、これは、特に高齢の患者については改善された結果に転化されていない。低下した罹患率及び死亡率は、新規な治療法よりも、一層広く利用可能な洗練された支持療法に帰せられうる。ダウノルビシン及びシトシンアラビノシドとの組合せ療法の導入の故に、比較的僅かの変化が治療において為されてきた。新たな治療剤を発見する試みは、期待はずれであった。選択肢の一つのアンスラサイクリン又は他の薬剤例えばルビジゾン、アクラシノマイシン、アムサクリン、ミトキサントロン及びインダルビシンとの組合せは、幾つかの試みにおいて利用されたが、これらの研究の何れも、生存率又は無病生存率の利点を、これらの種々の薬剤を用いて示さなかった。全体として、治療された患者についての完全緩解率は、約50〜75%である。しかしながら、60歳を超えた急性骨髄性白血病患者においては、完全緩解率は、約50%でしかなく、失敗は、薬物耐性白血病と骨髄形成不全における死(低下した末端器官の耐性の結果)との間で等しく分割される。完全緩解は、他の癌のための治療に従った白血病患者の約20〜30%においてのみ達成されうる。しかしながら、たとえ緩解が達成されたとしても、通常、幾つかの白血病細胞が残っているので、ある形態の治療は、完全緩解後に、長期間の無病の生存を達成することを必要とする。攻撃的な治療にもかかわらず、全体的に、患者の20〜30%しか、長期の無病の生存を享受することができない。
【0020】
骨髄異形成症候群及び急性骨髄性白血病の治療において生じた進歩にもかかわらず、治癒した患者の割合を増すためには、新たなアプローチが必要とされていることは明白である。
【0021】
II.アザシチジン及び他のDNAメチルトランスフェラーゼインヒビター
DNAメチルトランスフェラーゼインヒビター
DNAのメチル化は、遺伝子発現において、鍵となる役割を演じていると考えられている。DNAは、DNAメチルトランスフェラーゼによって、シトシン環の5位において、殆ど専らCpG部位でメチル化される。CpG部位は、塩基の直鎖状配列において、シトシンヌクレオチドがグアニンヌクレオチドの次に現れるDNA領域である。「CpG」は、DNAにおいて2つのヌクレオシドを一緒に結合するリン酸によって分離されたシトシンとグアニンを表している。(この「CpG」なる表記法は、グアニンが後に続くシトシンを、グアニンと対合したシトシンから区別するために用いられる。) このCpG配列は、真核生物のゲノムにおいては、これらCpG部位を認識してそのシトシンをメチル化する(それは、5−メチルシトシンになる)DNAメチルトランスフェラーゼの作用のために、比較的稀である。自然な脱アミノ化の後で、この5−メチルシトシンは、チミンに変換される。
【0022】
しかしながら、高濃度のCpG部位を有するDNAの領域がある。これらの領域(CpGアイランドとして知られる)は、真核生物遺伝子のプロモーターに見出される。これらのCpG部位は、通常、低メチル化である。プロモーター部位の近くのメチル化は、遺伝子の発現を阻害する。
【0023】
遺伝子のプロモーター領域の近くのCpGアイランドでのDNAの過メチル化は、DNAのメチル化は、遺伝子の発現を阻害することのできる機構であるので、骨髄異形成症候群、急性骨髄性白血病、及び他の悪性疾患などの病気における鍵となる因子と考えられている。従って、かかる病気の治療への一つのアプローチは、DNAメチルトランスフェラーゼインヒビターの利用であった。DNAのメチル化は、可逆的であるので、DNAメチルトランスフェラーゼインヒビターは、正常なDNAメチル化パターンを回復し、それにより、有益な細胞機能例えば細胞増殖、分化、アポトーシス及び他のホメオスタシス機構の制御に関与する遺伝子を再活性化するために利用することができる。かかる遺伝子の例には、サイクリン依存性キナーゼ2a(p16)、mutL同族体1及び網膜芽細胞腫が含まれる。このアプローチの科学的基礎は、C.B. Yoo及びP.A. Jones, Nature Rev., Discovery, 2006, 5, 37-50(その全開示を、参考として本明細書中に援用する)に、詳細に論じられている。
【0024】
詳細に特性決定された4つの公知のDNAメチルトランスフェラーゼ酵素、即ち、DNMT1、DNMT2、DNMT3a及びDNMT3bがある。これらのDNAメチルトランスフェラーゼにおいては、C末端触媒ドメインが高度に保存されている。B. Brueckner及びF. Lyko, Trends Pharmacol. Sci., 2004, 25, 551-54参照。
【0025】
ヌクレオシド類似体と非ヌクレオシドの、DNAメチルトランスフェラーゼインヒビターの2つのクラスがある。ヌクレオシド類似体は、リボース又はデオキシリボース部分に結合された修飾されたシトシン環を有する。かかる類似体による阻害は、そのヌクレオシド類似体がDNAに組み込まれた場合に起きると考えられている。他のDNAメチルトランスフェラーゼインヒビターは、非ヌクレオシド類似体である。ヌクレオシド類似体であるDNAメチルトランスフェラーゼインヒビターには、アザシチジン(5−アザシチジン)、デシタビン(5−アザ−2’−デオキシシチジン)、5−フルオロ−2’−デオキシシチジン、5,6−ジヒドロ−5−アザシチジン(DHAC)、ゼブラリン(2’−O−t−ブチルジメチルシリル−3’−O−[(ジイソプロピルアミノ)(2−シアノエトキシ)ホスフィノ]−5’−O−(4,4’−ジメトキシトリチル)−2(1H)−ピリミジノン−1−β−D−リボシド)、ファザラビン(1−β−D−アラビノフラノシル−5−アザシトシン)が含まれる。これらの内で、アザシチジン及びデシタビンが、血液学的悪性疾患例えば急性骨髄性白血病の治療における臨床的効力が示されているので、特に有用であると考えられている。非ヌクレオシドDNAメチルトランスフェラーゼインヒビターの例には、ヒドラリジン、プロカイン、プロカインアミド、エピガロカテキン没食子酸、プサマプリンA、及びRG108((S)−2−(1,3−ジオキソ−1,3−ジヒドロ−イソインドール−2−イル)−3−(1H−インドール−3−イル)−プロピオン酸)が含まれる。
【0026】
アザシチジン
アザシチジンは、下記の構造を有する5−アザシチジン、ヌクレオシド類似体である:
【化1】

この化合物は、固形腫瘍及び白血病の治療のための多くの臨床的試みにおいて研究されてきた。詳細な議論は、J. Goffin及びE. Eisnhauer, Annals of Oncology, 2002, 13, 1699(この全開示を参考として、本明細書中に援用する)を参照されたい。アザシチジンは、米国食品医薬品局により、骨髄異形成症候群の治療のための薬物として認可されている。骨髄異形成症候群の患者に対して、75mg/m2/日の皮下投与量で、4週ごとに7日間与えたアザシチジンのフェーズ3の臨床試験において、15%の応答率(5%の患者は、完全に応答し、10%の患者は、部分的に応答した)は、対照群で見られた改善の完全な欠如よりは良いが、ささやかなものであった。この研究の詳細は、Pharmion社から、2004年8月31日に公開されたVidaza(商標)(アザシチジン)についての処方情報中に与えられている(その全開示を、参考として、本明細書中に援用する)。この薬物には、吐き気、貧血、血小板減少症、嘔吐、発熱、白血球減少症、下痢、疲労、注射部位の紅斑、便秘、好中球減少症及び斑状出血を含む有意の副作用が見られる。これらの臨床試験において、白血球減少症、血小板減少症及び好中球減少症は、幾つかの症例において、投与量の低減又は治療の中止を正当化するだけ十分に重大なことであった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
骨髄異形成症候群及び急性骨髄性白血病に対する利用可能な治療剤の欠如、並びに薬剤の存在に伴う毒性及び副作用の故に、これらの病気の治療における新規な治療法、特に一層大きい有効性と一層低い毒性及び/又は一層広い細胞型のスペクトルを横切る活性を有する治療法に対する要求が存在している。一つの解決は、上記の治療剤を含む組成物又は該剤を利用する方法であり、その効力は、例えば、他の化合物との相乗的組合せによって改善される。かかる組成物又は方法は、骨髄異形成症候群及び急性骨髄性白血病の治療において非常に大切でありうる。骨髄異形成症候群又は急性骨髄性白血病の治療における、かかる組成物又は方法の利用は、一層大きい効力又は有効性を与えることができ、上記の化学療法剤の単独使用と比較して、改善された治療応答、減少した副作用、又はこれらの両方を生じる。
【課題を解決するための手段】
【0028】
それ故、我々は、増殖抑制剤の組合せを含む新規な組成物、及びそれらの増殖抑制剤を組み合わせて投与することを含む骨髄異形成症候群及び急性骨髄性白血病を治療する方法を発明した。
【0029】
この発明の一つの面において、下記式Iで表される少なくとも一の化合物:
【化2】

(式中、R1は、−NH2、−NH−CH2−CO2H、−NH−CH(CH3)−CO2H、及び−NH−C(CH3)2−CO2Hよりなる群から選択する)、又はかかる化合物の製薬上許容しうる塩、及び少なくとも一種のDNAメチルトランスフェラーゼインヒビター、又は製薬上許容しうるそれらの塩を含む組成物を提供する。
【0030】
この発明の好適な具体例は、インヒビターが、DNMT1、DNMT2、DNMT3a、及びDNMT3b亜種の少なくとも一つを含むヒトのDNAメチルトランスフェラーゼ酵素を阻害するものである。
【0031】
この発明の一具体例において、DNAメチルトランスフェラーゼインヒビターは、ヌクレオシド類似体、又はその製薬上許容しうる塩である。
【0032】
この発明の他の具体例において、DNAメチルトランスフェラーゼインヒビターは、アザシチジン、デシタビン、5,6−ジヒドロ−5−アザシチジン、ファザラビン、5−フルオロ−2’−デオキシシチジン、ゼブラリン、ヒドラリジン、プロカイン、プロカインアミド、エピガロカテキン没食子酸、プサマプリンA、又は(S)−2−(1,3−ジオキソ−1,3−ジヒドロ−イソインドール−2−イル)−3−(1H−インドール−3−イル)−プロピオン酸、又は製薬上許容しうるそれらの塩よりなる群から、好ましくは、アザシチジン、デシタビン、5,6−ジヒドロ−5−アザシチジン、ファザラビン、5−フルオロ−2’−デオキシシチジン、又はゼブラリン、又は製薬上許容しうるこれらの塩から、一層好ましくは、アザシチジン又はデシタビン、又は製薬上許容しうるこれらの塩から、最も好ましくは、アザシチジン又は製薬上許容しうるその塩から選択する。
【0033】
この発明の好適具体例において、式Iで表される化合物は、(E)−2−(5−((2,4,6−トリメトキシスチリルスルホニル)メチル)−2−メトキシフェニルアミノ)酢酸、又は製薬上許容しうるその塩、好ましくは、(E)−2−(5−((2,4,6−トリメトキシスチリルスルホニル)メチル)−2−メトキシフェニルアミノ)酢酸のナトリウム塩(「化合物A」)である。
【化3】

【0034】
この発明の最も好適な具体例において、式Iで表される化合物は、(E)−2−(5−((2,4,6−トリメトキシスチリルスルホニル)メチル)−2−メトキシフェニルアミノ)酢酸のナトリウム塩であり、DNAメチルトランスフェラーゼインヒビターは、アザシチジンである。
【0035】
この発明の他の面において、この発明の上記の組成物(その具体例の何れかを含む)を、医薬における使用のために提供する。
【0036】
この発明の他の面において、この発明の上記の組成物(その具体例の何れかを含む)の、骨髄異形成症候群又は急性骨髄性白血病の治療のための医薬の製造における利用を提供する。
【0037】
この発明の他の面において、骨髄異形成症候群又は急性骨髄性白血病に関して、個人を治療する方法を提供する。
【0038】
この発明のこの面の一具体例において、骨髄異形成症候群又は急性骨髄性白血病に関して、個人を治療する方法であって、かかる治療を必要とする個人に、有効量のこの発明の組成物を投与することを含む当該方法を提供する。この発明のこの面の特に好適な具体例において、この組成物は、この発明の組成物の上記の特定の又は好適な具体例の何れか一つである。
【0039】
この発明の他の面において、骨髄異形成症候群又は急性骨髄性白血病に関して、個人を治療するための方法であって、かかる治療を必要とする個人に、有効量の少なくとも一種の、上記の式Iで表される化合物、又はかかる化合物の製薬上許容しうる塩、及び少なくとも一種のDNAメチルトランスフェラーゼインヒビター又は製薬上許容しうるその塩を投与することを含む当該方法を提供する。
【0040】
この発明のこの面の好適具体例は、インヒビターが、DNMT1、DNMT2、DNMT3a及びDNMT3b亜種を含むヒトのDNAメチルトランスフェラーゼ酵素を阻害するものである。
【0041】
この発明のこの面の特定の具体例において、DNAメチルトランスフェラーゼインヒビターは、アザシチジン、デシタビン、5,6−ジヒドロ−5−アザシチジン、ファザラビン、5−フルオロ−2’−デオキシシチジン、ゼブラリン、ヒドラリジン、プロカイン、プロカインアミド、エピガロカテキン没食子酸、プサマプリンA、又は(S)−2−(1,3−ジオキソ−1,3−ジヒドロ−イソインドリル−2−イル)−3−(1H−インドール−3−イル)−プロピオン酸、又は製薬上許容しうるその塩、好ましくは、アザシチジン、デシタビン、5,6−ジヒドロ−5−アザシチジン、ファザラビン、5−フルオロ−2’−デオキシシチジン、又はゼブラリン、又は製薬上許容しうるその塩、一層好ましくは、アザシチジン又はデシタビン、又は製薬上許容しうるその塩、最も好ましくは、アザシチジン又は製薬上許容しうるその塩よりなる群から選択することができる。
【0042】
この発明のこの面の特定の具体例において、式Iの化合物は、(E)−2−(5−((2,4,6−トリメトキシシリルスルホニル)メチル)−2−メトキシ−フェニルアミノ)酢酸、又は製薬上許容しうるその塩、好ましくは、(E)−2−(5−((2,4,6−トリメトキシスチリルスルホニル)メチル)−2−メトキシフェニルアミノ)酢酸のナトリウム塩である。
【0043】
この発明のこの面の最も好適な具体例において、式Iで表される化合物は、(E)−2−(5−((2,4,6−トリメトキシスチリルスルホニル)メチル)−2−メトキシフェニルアミノ)酢酸のナトリウム塩であり、DNAメチルトランスフェラーゼインヒビターは、アザシチジンである。
【0044】
この発明の他の面において、第一の区画に、上記の式Iで表される化合物又はかかる化合物の製薬上許容しうる塩を含み、第二の区画に、DNAメチルトランスフェラーゼインヒビター、又はその製薬上許容しうる塩を含むキットを提供する。
【0045】
この発明のこの面の好適具体例は、インヒビターが、DNMT1、DNMT2、DNMT3a及びDNMT3b亜種の少なくとも一つを含む、ヒトのDNAメチルトランスフェラーゼ酵素を阻害するものである。
【0046】
この発明のこの面の特定の具体例において、DNAメチルトランスフェラーゼインヒビターは、アザシチジン、デシタビン、5,6−ジヒドロ−5−アザシチジン、ファザラビン、5−フルオロ−2’−デオキシシチジン、ゼブラリン、ヒドラリジン、プロカイン、プロカインアミド、エピガロカテキン没食子酸、プサマプリンA、又は(S)−2−(1,3−ジオキソ−1,3−ジヒドロ−イソインドール−2−イル)−3−(1H−インドール−3−イル)−プロピオン酸、又はこれらの製薬上許容しうる塩、好ましくはアザシチジン、デシタビン、5,6−ジヒドロ−5−アザシチジン、ファザラビン、5−フルオロ−2’−デオキシシチジン、又はゼブラリン、又はこれらの製薬上許容しうる塩、一層好ましくは、アザシチジン又はデシタビン、又はこれらの製薬上許容しうる塩、最も好ましくはアザシチジン、又はその製薬上許容しうる塩よりなる群から選択する。
【0047】
この発明のこの面の特定の具体例において、式Iの化合物は、(E)−2−(5−((2,4,6−トリメトキシスチリルスルホニル)メチル)−2−メトキシフェニルアミノ)酢酸、又は製薬上許容しうるその塩、好ましくは、(E)−2−(5−((2,4,6−トリメトキシスチリルスルホニル)メチル)−2−メトキシフェニルアミノ)酢酸のナトリウム塩である。
【0048】
この発明のこの面の最も好適な具体例において、式Iで表される化合物は、(E)−2−(5−((2,4,6−トリメトキシスチリルスルホニル)メチル)−2−メトキシフェニルアミノ)酢酸のナトリウム塩であり、DNAメチルトランスフェラーゼインヒビターは、アザシチジンである。
【0049】
この発明の他の面において、上記の式Iで表される少なくとも一の化合物の、好ましくは、(E)−2−(5−((2,4,6−トリメトキシスチリルスルホニル)メチル)−2−メトキシフェニルアミノ)酢酸、又は製薬上許容しうるその塩の、最も好ましくは、(E)−2−(5−((2,4,6−トリメトキシスチリルスルホニル)メチル)−2−メトキシフェニルアミノ)酢酸のナトリウム塩の、少なくとも一種のDNAメチルトランスフェラーゼインヒビター、好ましくはアザシチジン、デシタビン、5−フルオロ−2’−デオキシシチジン、5,6−ジヒドロ−5−アザシチジン、ゼブラリン、ファザラビン、ヒドラリジン、プロカイン、プロカインアミド、エピガロカテキン没食子酸、プサマプリンA、又は(S)−2−(1,3−ジオキソ−1,3−ジヒドロ−イソインドール−2−イル)−3−(1H−インドール−3−イル)−プロピオン酸、又はこれらの製薬上許容しうる塩と、好ましくは、アザシチジン、デシタビン、ファザラビン、5−フルオロ−2’−デオキシシチジン、5,6−ジヒドロ−5−アザシチジン、又はゼブラリン、又はこれらの製薬上許容しうる塩と、一層好ましくは、アザシチジン、又はデシタビン、又はこれらの製薬上許容しうる塩と、最も好ましくは、アザシチジン又は製薬上許容しうるその塩と同時に又は順次的に投与するための医薬であって、骨髄異形成症候群又は急性骨髄性白血病の治療のための医薬の製造における利用を提供する。
【0050】
この発明の他の特定の具体例及び好適具体例は、上に明示的に記載した特定の及び好適な具体例の特徴を合わせ持つであろうということは、理解されるべきである。かかる組合せにより限定される具体例は、この発明の特定の具体例として企図される。
【0051】
前述の一般的記載及び下記の詳細な説明は、典型例であり、説明のためのものであり、請求項に記載した発明の更なる説明を与えることを意図したものであるということは、理解されるべきである。
【0052】
定義
本明細書及び請求の範囲内で用いる場合、文脈上明らかに異なる場合を除いて、単数形は、複数形を包含する。
【0053】
ここで用いる場合、用語「治療する」及び「治療」は、交換可能に用いられ、異常の進展の先送り及び/又は進展すると予想される症状の重さの低減を示すことを意味する。これらの用語は、更に、現在の症状の改善、更なる症状の予防、及び症状の基となる代謝的原因の改善又は予防を含む。
【0054】
ここで用いる場合、「個体」(治療の主題において)は、ヒト又は非ヒト動物(哺乳動物及び非哺乳動物の両方を含む)である。哺乳動物には、例えば、ヒト;非ヒト霊長類、例えば無尾猿及び尾のあるサル;家畜;ウマ;ヒツジ;及びヤギが含まれる。非哺乳動物には、例えば、魚及び鳥類が含まれる。
【0055】
骨髄異形成症候群又は急性骨髄性白血病の患者の治療に関しての、表現「有効量」は、この発明の組成物の又は各活性剤の量であって、異常に高速で増殖しつつある細胞の生長を阻止し、又はかかる細胞のアポトーシスを誘導し、異常細胞の割合を減じる量、又は病気の完全緩解又は部分的緩解の状態に維持し、又は病気の進行を遅くさせる量を指す。
【0056】
式Iで表される化合物又はDNAメチルトランスフェラーゼインヒビターの幾つかは、キラル中心の存在から生じる異性により特徴付けることができる。これらのキラル中心の存在から生じる異性体は、「鏡像異性体」と呼ばれる重ね合わせることのできない対を含む。純粋化合物の単一の鏡像異性体は、光学活性であり、即ち、それらは、偏光面を回転させることができる。単一の鏡像異性体は、Cahn-Ingold-Prelog系によって指定される。Advanced Organic Chemistry, Jerry March, John 第4版(Wiley 1992), p. 109。一度、4つの原子団の優先順位ランキングが決定されたならば、その分子を、最も低ランキングの原子団が観察者から遠い位置に来るように方向付ける。そして、他の原子団の降順のランク順位が時計回りであれば、その分子は、(R)と示され、反時計回りであれば、(S)と示される。以下のスキーム1に示した例において、Cahn-Ingold-Prelogのランキング順序は、A>B>C>Dである。最低のランキングの原子Dは、観察者から遠方に方向付けられている。
【化4】

【0057】
別途指示しない限り、両方の絶対配置及びそれらの混合物は、キラル中心を含む式Iの化合物の範囲に含まれる。
【0058】
式Iで表される光学活性な化合物への(R)−又は(S)−としての参照は、その化合物が、(R)−又は(S)−鏡像異性体を含み、実質的に他の鏡像異性体を含まないことを意味する。
【0059】
表現他の鏡像異性体を「実質的に含まない」は、式Iの化合物の(R)−及び(S)−鏡像異性体が、その組成物が80重量%以上の一方の鏡像異性体を含むように分離されていることを意味する。好ましくは、この組成物は、90重量%以上の単一の鏡像異性体を含む。一層好ましくは、この組成物は、95重量%以上の単一の鏡像異性体を含む。最も好ましくは、この組成物は、99重量%以上の単一の鏡像異性体を含む。
【0060】
従って、式Iで表される化合物の(R)−鏡像異性体とは、実質的に(S)−鏡像異性体を含まない化合物を意味し、それにより、この化合物は、80重量%以上の(R)−鏡像異性体を含み、同様に、20重量%以下の(S)−鏡像異性体を夾雑物として含むことを意味する。
【0061】
単離された光学異性体は、ラセミ体混合物から、周知のキラル分離技術によって精製することができる。一つのかかる技術によって、式Iの構造を有する化合物のラセミ体混合物が、適当なキラルカラム例えばDAICEL(商標)CHIRALPAK(商標)カラムのファミリーのシリーズの一つ(Daicel Chemical Industries, Ltd., 日本国、Tokyo)を用いるHPLCによって、99%の純度の光学異性体に分離される。このカラムは、製造業者の指示に従って操作される。
【0062】
ここで開示した化合物に系統的名称を与えるためにここで採用した命名法は、コンピュータープログラムパッケージCHEMDRAW(商標)、CambridgeSoft Corporation, マサチューセッツ、Cambridge, 02140を利用して引き出すことができる。
【発明を実施するための形態】
【0063】
I.骨髄異形成症候群及び急性骨髄性白血病の治療
本発明によれば、式Iで表される化合物又は製薬上許容しうるその塩、及びDNAメチルトランスフェラーゼインヒビター例えばアザシチジン又は製薬上許容しうるその塩を、組み合わせて投与して、骨髄異形成症候群又は急性骨髄性白血病を治療する。
【0064】
A.骨髄異形成症候群の治療
この発明によるこれらの組成物及び方法は、骨髄異形成症候群を患っている個体(ヒトを含む哺乳動物を含む動物)への治療に採用することができる。
【0065】
この発明によるこれらの組成物及び方法は、骨髄異形成症候群に対して、この病気の如何なる段階においても有効であり、急性骨髄性白血病への進行を含むこの病気の進行を遅らせると考えられる。この発明によるこれらの組成物及び方法は、完全緩解又は部分的緩解を達成するのに有効であった治療例えば骨髄移植又は化学療法の後に、かかる緩解を維持するのに有効であろうとも考えられている。
【0066】
従って、この発明のこれらの組成物及び方法は、この症候群の、環状鉄芽球を伴うか又は伴わない無反応性貧血症、環状鉄芽球を伴うか又は伴わない5q−症候群、環状鉄芽球を伴うか又は伴わない多系統異形成症を伴う無反応性貧血症、過剰の芽細胞I及びIIを伴う無反応性貧血症、形質転換における過剰の芽細胞を伴う無反応性貧血症、及び分類不能な骨髄異形成症候群を含むFAB又はWHO分類により規定されたサブクラスの何れかに対して有効であると考えられる。
【0067】
この発明のこれらの組成物及び方法は、国際予後評価システムにより規定された分類(低リスク、中−1リスク、中−2リスク及び高リスク)の何れかに入る患者の治療にも有益であると考えられている。この発明のこれらの組成物及び方法は、中及び高リスク分類ないの患者であって、死の危険が増大し又は病気が急性骨髄性白血病へ進行中の患者の治療において特に有益であると期待されている。
【0068】
B.急性骨髄性白血病の治療
この発明によるこれらの組成物及び方法は又、急性骨髄性白血病を患っている個体(ヒトを含む哺乳動物を含む動物)の治療においても用いることができる。
【0069】
この発明の組成物及び方法は、急性骨髄性白血病に対して有効であると考えられる。この発明の組成物及び方法は、活性な病気の治療、並びに病気の完全緩解又は部分的緩解を達成するのに有効であった治療後にかかる緩解を維持することの両方に有効であろうということも考えられる。
【0070】
この発明の組成物及び方法は、最少分化型骨髄性白血病(MO)、成熟を伴わない急性骨髄性白血病(M1)、成熟を伴う急性骨髄性白血病(M2)、t(8;21)を伴う成熟を伴う急性骨髄性白血病、急性前骨髄性白血病(M3)、顆粒過剰型急性骨髄性白血病、小顆粒型急性骨髄性白血病、急性骨髄性単球性白血病(M4)、増大した骨髄好酸球を伴う急性骨髄性単球性白血病(M4EO)、急性単球性白血病(M5)、急性単芽球性白血病(M5a)、成熟を伴う急性単球性白血病(M5b)、赤白血病、赤血球/骨髄性白血病(M6a)、純粋な赤血球系白血病(M6b)、急性巨核芽球性白血病(M7)、t(1;22)を伴う急性巨核芽球性白血病、急性好塩基球性白血病、急性骨髄繊維症(骨髄繊維症を伴う急性脊髄形成異常症)、ダウン症候群における急性白血病及び一過性骨髄増殖異常、低細胞性急性骨髄性白血病、及び骨髄性肉腫を含む、FAB又はWHO分類の何れかによって規定される急性骨髄性白血病の何れかの亜類に対して有効であると考えられる。
【0071】
II.この発明の利点
我々は、式Iの化合物を、DNAメチルトランスフェラーゼインヒビターと組み合わせると、HL60ヒト前骨髄細胞性白血病細胞系統の細胞に対する細胞障害性に関して、相乗効果が見られることを発見した。特に、この相乗効果は、後記の実施例6で詳述する実験で、(E)−2−(5−((2,4,6−トリメトキシスチリルスルホニル)メチル)−2−メトキシフェニルアミノ)酢酸のナトリウム塩をアザシチジンと組み合わせた場合に認められた。薬物の組合せの効果の分析方法は、T.-C. Chou 及び P. Talalay, Trends Pharmacol. Sci., 1983, 4, 450-54に記載されている。1.0の組合せインデックスは、純粋に、薬物の相加効果を示し、1.0より大きい組合せインデックスは、その組合せの拮抗性効果をしめすが、1.0より小さい組合せインデックスは、相乗効果を示す。驚くべきことに、これらの化合物の細胞障害性効果と個々に比較して、様々な比での、(E)−2−(5−((2,4,6−トリメトキシスチリルスルホニル)メチル)−2−メトキシフェニルアミノ)酢酸のナトリウム塩とアザシチジンとの組合せは、0.3〜0.75の組合せインデックスを示し、これは、強い相乗作用に適している。
【0072】
HL-60細胞系統に対して認められた効果は、HL−60細胞系統は急性前骨髄性白血病の患者に由来したものであるので、骨髄異形成症候群及び急性骨髄性白血病における治療的効力の予想に関して、特に適したものである。S.J. Collins, Blood, 1987, 70(5), 1233-44参照。アザシチジンは、HL−60細胞系統において、アポトーシスを誘導する。その後、アザシチジンは、骨髄異形成症候群の治療に関して臨床的に有効であることが示されており、FDAに承認された骨髄異形成症候群の治療剤である。この(E)−2−(5−((2,4,6−トリメトキシスチリルスルホニル)メチル)−2−メトキシフェニルアミノ)酢酸のナトリウム塩とアザシチジンとの組合せで認められた驚くべき相乗作用は、同組合せが、骨髄異形成症候群の臨床的治療において、単独で使用する薬剤と比較して、増大された効能又は効力を有することを予言するものと考えられる。
【0073】
上記の実験で認められた驚くべき結果に照らして、DNAメチルトランスフェラーゼインヒビターを式Iの化合物と組み合わせて骨髄異形成症候群又は急性骨髄性白血病の治療に用いた場合に、有益な相乗効果が期待される。この発明は、理論には拘束されないが、アザシチジンの作用機作はDNAメチルトランスフェラーゼの阻害によるものという科学的な総意の故に、アザシチジンを用いて見られたこの相乗効果は、この組合せにおいて、他のDNAメチルトランスフェラーゼインヒビターをアザシチジンの代わりに用いた場合に認められるであろうと考えられる。加えて、上記の式Iは、限られた数の構造上非常に類似した化合物を規定しているということが注意され、式Iの他の化合物は、式Iの代表的化合物(E)−2−(5−((2,4,6−トリメトキシスチリルスルホニル)メチル)−2−メトキシフェニルアミノ)酢酸のナトリウム塩について認められるような類似の効果を類似の分子的機構により示すであろうと考えられる。それ故、この(E)−2−(5−((2,4,6−トリメトキシスチリルスルホニル)メチル)−2−メトキシフェニルアミノ)酢酸のナトリウム塩を用いて認められた驚くべき効果は、式Iの他の化合物をDNAメチルトランスフェラーゼインヒビターと組み合わせて用いて骨髄異形成症候群又は急性骨髄性白血病を治療した場合にも認められるであろうということが予想される。最後に、骨髄異形成症候群と急性骨髄性白血病との間の密接な関係についての強い科学的な総意は、これらの化合物が、骨髄異形成症候群と急性骨髄性白血病の両方の症状発現のスペクトルを横切って効能があることが期待されることを示している。
【0074】
III.式Iで表される化合物の製造
式Iで表される(E)−α,β−不飽和スルホンは、例えば、2,4,6−トリメトキシベンズアルデヒド[830−79−5](Aldrich Chemical, カタログ番号13,871−1)の適当に置換された2−(ベンジルスルホニル)酢酸とのクネーベナーゲル縮合によって製造することができる(スキーム2)。
【0075】
スチリルスルホンの合成についての手順は、Reddy等、Acta.Chim.Hung., 1984, 115, 269-71; Reddy等、Sulfur Lett., 1991, 13, 83-90; Reddy等、Synthesis, 1984, (4), 322-23; 及びReddy等、Sulfur Lett., 1987, 7, 43-48, 並びに国際特許出願公開WO03/072062及びWO05/089269に記載されており、それらの全開示を参考として本明細書中に援用する。クネーベナーゲル縮合に従う一般的合成を、下記のスキーム2に描いた。
【化5】

【0076】
スキーム2で用いられている中間体のベンジルスルホニル酢酸は、対応するベンジルメルカプト酢酸の酸化によって製造することができる。ベンジルメルカプト酢酸は、メルカプト酢酸[68−11−1](Aldrich Chemical カタログ番号47,534−3)を、L基を有する化合物A2と反応させるか、又は中間体L−CH2−CO2H、例えば、ハロ酢酸をメルカプタンA1と反応させることによって製造することができる。
【0077】
式Iの化合物を製造するためにここに記載した反応において(スキーム2に描いた反応を含む)、存在する(そして特定の反応条件下で反応性でありうる)任意のR1基は、反応中、保護基によって保護することができる。それ故、式Iで表される化合物の、スキーム2に示した反応による製造は、幾つかの場合には、保護基を付け又は外すための追加的工程を包含しうる。従って、スキーム2における合成の目的に関して、指示R1は、前に列記した官能基−NH2、−NH−CH2−CO2H、−NH−CH(CH3)−CO2H、及び−NH−C(CH3)2−CO2Hを含み、保護基により保護された官能基をも含む。
【0078】
「保護基」は、化学的に官能性であって、多官能性化合物中の一つ以上の反応性部位を選択的にブロックし、それで、他の保護してない反応性部位における化学反応を選択的に実行することを可能にする。本発明の化合物の製造のためのある方法は、反応体中に存在する反応性の官能基をブロックする保護基に依存しうる。適当な保護基によりブロックすることのできる反応性の基の例には、存在しうる−NH2基が含まれる。もし、ある反応工程の条件下で反応性であるかかる基が反応前に適当な保護基によってブロックされなければ、望ましくない副反応が起こりうる。例えば、スキーム2に従う製法において、式A1の中間体上の−NH2基は、式A1の中間体上の−SH基に加えて、及びそれと競合してL−CH2−CO2H中間体と反応しうる。
【0079】
保護基は、望まれるもの以外の化学基に影響を及ぼしうる特定の反応を実行する前に導入することができる。この保護基は、適宜、保護基の利用を必要とした反応の後に、合成における任意の適当な点で除去される。
【0080】
保護基は、文献に記載された又は当業者に公知の、保護しなければならない官能基の保護に適した任意の保護基から選択することができる。保護基は、特定の保護基の除去に適していることが当分野で記載され又は当業者に知られた、適当な化学合成法によって導入して除去することができる。保護基を除去する方法は、好ましくは、保護基の選択的除去を、分子中の他の化学的官能基への影響を最少にして達成するように選択する。
【0081】
−NH2であるR1のための保護基には、ベンジル、2,4−ジメトキシベンジル、CBZ、p−メトキシベンジルオキシカルボニル、p−ニトロベンジルオキシカルボニル、t−BOC、トリフルオロアセチルが含まれる。ヒドロキシ及びアミノ保護基の除去のための方法には、例えば、CBZに対する酸、塩基、金属又は酵素触媒による加水分解;t−BOC基の除去のための酸又はヨードトリメチルシラン;ベンジル及びCBZのための水素化;及びo−にトロベンジルオキシカルボニルのための光分解が含まれる。
【0082】
保護基は又、化学基の種々の酸化状態を包含することもできる。かかる保護基の例は、R1の代わりの芳香族ニトロ基であり、これは、容易に−NH2基に還元されうる。
【0083】
保護基の更なる例は、Protecting Groups in Organic Synthesis, by Theodora W. Green and Peter G.M. Wuts, 第三版、Wiley & Sons, New York (1999) 及び Compendium of Synthetic Organic Methods, Harrison等著、第1-8巻、Wiley & Sons, 1971-1996に見出すことができる(これらの全開示を、参考として、本明細書中に援用する)。
【0084】
IV.この発明の方法による治療の施与
この発明に従って施与される抗増殖性治療は、少なくとも一の式Iの化合物又は製薬上許容しうるかかる化合物の塩、及び少なくとも一種のDNAメチルトランスフェラーゼインヒビター又は製薬上許容しうるその塩の組合せを投与することにより達成される。この少なくとも一の式Iの化合物又は製薬上許容しうるかかる化合物の塩、及び少なくとも一種のDNAメチルトランスフェラーゼインヒビター又は製薬上許容しうるその塩の組合せは、更に、他の薬物例えば他の抗増殖性化合物、又は副作用を制御する薬物例えば制吐剤を含むことができ、又はそれらと組み合わせて使用することができる。
【0085】
この発明の一具体例において、少なくとも式Iの化合物又は製薬上許容しうるかかる化合物の塩と、少なくとも一種のDNAメチルトランスフェラーゼインヒビター又は製薬上許容しうるその塩との組合せは、一緒に配合されて、単一の医薬組成物又は投薬形態の部分として用いられる。この発明のこの具体例によるこれらの組成物は、少なくとも一の式Iの化合物又は製薬上許容しうるかかる化合物の塩、及び少なくとも一種のDNAメチルトランスフェラーゼインヒビター又は製薬上許容しうるその塩を、製薬上許容しうるキャリアーと組み合わせて含む。かかる組成物において、式Iの化合物又は製薬上許容しうるその塩、及びDNAメチルトランスフェラーゼインヒビター又は製薬上許容しうるその塩は、一緒に、全組成物の0.1〜99.99重量パーセントを構成することができる。これらの組成物は、患者に所望の治療効果をもたらすのに十分である任意の経路によって及び任意のスケジュールに従って投与することができる。
【0086】
或は、この発明の他の具体例により、少なくとも一の式Iの化合物又は製薬上許容しうるかかる化合物の塩、及び少なくとも一種のDNAメチルトランスフェラーゼインヒビター又は製薬上許容しうるその塩の組合せは、2以上の別々の組成物として配合して投与することができ、その少なくとも一つは、少なくとも一の式Iの化合物又は製薬上許容しうるかかる化合物の塩を含み、少なくとも一つは、少なくとも一種のDNAメチルトランスフェラーゼインヒビター又は製薬上許容しうるその塩を含む。これらの別々の組成物は、同じ又は異なる経路によって投与することができ、同時に又は異なる時点で投与することができ、そして同じスケジュール又は異なるスケジュールで投与することができる(但し、投与養生法が、患者において所望の抗増殖性効果をもたらすのに十分なものであるとする)。これらの薬物は、連続的様式で投与する場合、2種の薬物の投与の間に、例えば0.1〜48時間の時間的間隔を挿入するのが実際的であることが判明しうる。
【0087】
式Iの化合物及びDNAメチルトランスフェラーゼインヒビターをこの発明の方法に従って別々の薬物として投与すべき場合、それらは、各々、活性薬剤(即ち、式Iの化合物又はDNAメチルトランスフェラーゼインヒビター剤)を製薬上許容しうるキャリアーと組み合わせて含む医薬組成物の形態で投与することができる。かかる配合物中の活性薬剤は、0.1〜99.99重量パーセントを構成することができる。
【0088】
投与経路には、腸経路(例えば、経口剤);及び非経口経路例えば静脈経路、動脈経路、筋肉経路、鼻内経路、直腸経路、腹腔内経路、皮下経路及び局所経路が含まれる。好ましくは、この発明の組成物は、非経口投与し、一層好ましくは、静脈又は皮下投与する。
【0089】
「投与する」は、薬物を、生理学的効果が実現するように患者に利用可能にする行為であるということは認められよう。従って、患者の身体に、式Iの化合物若しくはDNAメチルトランスフェラーゼインヒビター又は両者を、制御された又は遅延された放出用配合物にて点滴注入すること、及びこれらの活性薬剤の全身又は局所的放出が一層遅い時点で及び/又は長い時間間隔で起きることは、本発明の範囲に入ることが企図される。従って、第一の薬剤のデポー剤を患者に投与することができ、この第一の薬剤の全身での放出の前に、後に、又は該放出中に、他の薬剤を含む治療剤成分を投与することができる。
【0090】
「製薬上許容しうるキャリアー」とは、配合物の他の成分と適合性であって、レシピエントに無害である任意のキャリアー、希釈剤又は賦形剤を意味する。これらの活性薬剤は、別々の組成物であるか合わせた組成物であるかによらず、製薬分野における標準的実施によって、投薬形態に配合することができる。Alphonso Gennaro編、Remington's Pharmaceutical Sciences, 第18版、(1990), Mack Publishing Co., ペンシルベニア、Eastonを参照されたい。適当な投薬形態には、例えば、錠剤、カプセル、溶液、非経口溶液、トローチ、座薬、又は懸濁液が含まれる。
【0091】
非経口投与用には、これらの活性薬剤を、適当なキャリアー又は希釈剤例えば水、油(特に、植物油)、エタノール、塩溶液、水性デキストロース(グルコース)及び関連する糖溶液、グリセロール、又はグリコール例えばプロピレングリコール又はポリエチレングリコールと混合することができる。非経口投与のための溶液は、好ましくは、活性薬剤の水溶性の塩を含む。安定剤、抗酸化剤及び防腐剤も又、加えることができる。適当な抗酸化剤には、亜硫酸塩、アスコルビン酸、クエン酸及び及びその塩、並びにEDTAナトリウムが含まれる。適当な防腐剤には、塩化ベンザルコニウム、メチル又はプロピルパラベン、及びクロルブタノールが含まれる。非経口投与用組成物は、水性又は非水性溶液、分散体、懸濁液又はエマルジョンの形態をとることができる。
【0092】
経口投与のためには、これらの活性薬剤を、一種以上の固体の不活性成分と合わせて、錠剤、カプセル、丸薬、粉末、顆粒又は他の適当な経口投薬形態を製造することができる。例えば、活性薬剤を、少なくとも一種の賦形剤例えば充填剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、溶解遅延剤、吸収促進剤、湿潤剤、吸収剤又は潤滑剤と合わせることができる。一つの錠剤の具体例によれば、活性薬剤を、カルボキシメチルセルロースカルシウム、マグネシウムステアレート、マンニトール及び澱粉と合わせてから、慣用の錠剤製造法によって錠剤に成形することができる。
【0093】
DNAメチルトランスフェラーゼインヒビターの投与のためには、好適な投与経路は、静脈注射又は皮下注射である。この化合物は、好ましくは、水性溶液又は懸濁液中に配合される。溶液は、静脈注射することができ、懸濁液は、好ましくは、皮下注射する。DNAメチルトランスフェラーゼインヒビターがアザシチジンである場合には、好適な配合物は、アザシチジンとマンニトールの重量比1:1の混合物であり、滅菌水中の懸濁液により再構成される。その結果生成した懸濁液を、次いで、好ましくは再構成後1時間以内に皮下注射する。
【0094】
この発明の組成物及び方法で用いられる2種の活性薬剤の、治療の利益を得るための特定の投与量は、当然、個々の患者の特定の事情によって決定することができる。かかる事情には、患者の大きさ、体重、年齢及び性別、病気の性質及び段階、病気の侵略力、及び投与の経路が含まれる。
【0095】
DNAメチルトランスフェラーゼインヒビターのためには、適当な投与量の決定のための出発点は、DNAメチルトランスフェラーゼインヒビターが、単独で又は他の化学療法剤との組合せにおいて安全で且つ有効であることが見出された投与量である。市販されている薬物に関して、適当な投与量及び投与プロトコールは、製造業者によって推奨されており、例えば、Physician's Desk Reference, 第58版(Thomson Healthcare, 2004)、又は第60版(Thomson Healthcare, 2006)に公開されている(これらの全開示を、参考として、本明細書中に援用する)。両方の市販されている薬物及び研究中の化学療法剤について、適当な投与量は、文献中、それらの化合物の臨床試験報告中に、推奨されており、公開されている。当業者は、任意の特定の指示について、適当な投与量及び投与プロトコールを決定する際には、かかる情報源を参照するであろう。かかる確立されたプロトコールは、好適であり、特に、DNAメチルトランスフェラーゼインヒビターを式Iの化合物と別の組成物にて投与する場合には好適である。従って、好適具体例において、アザシチジンの投薬量、配合、投与経路及び投与スケジュールは、この薬物について公知のプロトコールに従って実施される。
【0096】
選択される投与量は、用いる特定の化合物並びに投与の経路及び頻度に依存するであろう。一般に、ヒトへの投与についての適当な投与量は、約5〜400mg/m2にわたり、例えば、50、100、200、又は300mg/m2、好ましくは、約10〜100mg/m2、例えば、約10、20、30、50、60、85、又は100mg/m2である。典型的には、治療は、毎週、又は2、3、若しくは4週ごとに行なうことができ、個々の治療は、一投与量以上の点滴、例えば最大で7日のボーラス投与量を含む。アザシチジンについては、例えば、推奨される投与量は、75mg/m2であり、7日間にわたって毎日皮下注射により与えられ、この治療サイクルを、4週ごとに繰り返す。かかる養生法において推奨される日々の最大投与量は、100mg/m2である。患者は又、好ましくは、嘔吐を制御するための制吐剤で前処理される。
【0097】
この発明の組成物及び方法においてDNAメチルトランスフェラーゼインヒビターを式Iの化合物と一緒に用いる場合には、用いるDNAメチルトランスフェラーゼインヒビターの投与量は、この化合物単独又は他の薬剤との他の組合せにおいて安全で且つ有効であることが見出されているものと同等にすることができると考えられる。しかしながら、一層低投与量のDNAメチルトランスフェラーゼインヒビターをこの組合せにおいて使用する能力は考えられ、この組合せにおいて認められた、このDNAメチルトランスフェラーゼインヒビターを単独で用いた場合と比べて驚くほど大きな細胞障害性の故に必要でありえ;それ故、このDNAメチルトランスフェラーゼインヒビターは、単独で使用した場合に有効である投与量より一層低投与量での組合せにて使用した場合に有効でありうる。
【0098】
式Iの化合物について、好適な日々の投与量は、約1〜10000mg/m2の、一層好ましくは、約5〜5000mg/m2の、尚一層好ましくは、約10〜3000mg/m2の、最も好ましくは、約50〜1000mg/m2の範囲にあり、例えば、100、350、500、又は750mg/m2である。式Iの化合物は、DNAメチルトランスフェラーゼインヒビターより遥かに低毒性であると考えられるので、この発明の任意の具体例において、この発明の好適な下位の具体例は、式Iの化合物の投与量がDNAメチルトランスフェラーゼインヒビターのそれを超えるものである。このDNAメチルトランスフェラーゼインヒビターの投与量の式Iの化合物の投与量に対する好適な比は、約1:1〜1:2000の、一層好ましくは、約1:5〜1:500の、最も好ましくは、約1:20〜1:300の範囲にあり、例えば、約1:30、1:65、1:100、1:125、又は1:250である。式Iの化合物の日々の投与量は、単一投与量で与えることができ、又は例えば2、3若しくは4投与量に、等しい又は等しくない量で分割することができる(但し、好ましくは、日々の投与量を含む等しい分割である)。かかる投与量は、ボーラス投与量として注射で、例えば、約1〜4時間にわたって与えることができる。或は、この投与量は、投薬期間中、連続的な静脈への点滴によって与えることができる。式Iの化合物の最適の投与量及び投与スケジュールは、化学療法剤の投与量及び投与スケジュールに依存するであろう。最適利点のためには、式Iの化合物は、少なくともDNAメチルトランスフェラーゼインヒビターを投与する頻度と等しい頻度で投与されると考えられている。しかしながら、式Iの化合物を、DNAメチルトランスフェラーゼインヒビターの投与量の間で投与し続けること、又は式Iの化合物の投与を、DNAメチルトランスフェラーゼインヒビターの投与量の投与の前に開始し及び/又は同インヒビターの投与量の投与の後、式Iの化合物を投与し続けることも又、有利でありうる(例えば、DNAメチルトランスフェラーゼインヒビターでの処理の各サイクルの1日以上前に及び/又は該サイクルの一層多くの日数の後に式Iの化合物の投与を開始することにより)。
【0099】
V.この発明の実施に用いられる化合物の塩
これらの活性薬剤即ち式Iの化合物及びDNAメチルトランスフェラーゼインヒビターは、活性薬剤の構造上可能であれば、塩の形態をとることができる。用語「塩」は、アルカリ金属塩を形成するために及び遊離酸又は遊離塩基の付加塩を形成するために一般に用いられている塩を包含する。用語「製薬上許容しうる塩」は、医薬応用において有用性を有する範囲内の毒性プロフィルを有する塩を指す。
【0100】
適当な製薬上許容しうる酸付加塩は、無機酸又は有機酸から製造することができる。かかる無機酸の例は、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、炭酸、及びリン酸である。適当な有機酸は、脂肪族、脂環式、芳香族、アリール脂肪族(araliphatic)、ヘテロ環式の有機酸、カルボン酸及びスルホン酸から選択することができ、その例は、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、コハク酸、グリコール酸、グルコン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、アスコルビン酸、グルクロン酸、マレイン酸、フマル酸、ピルビン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、安息香酸、アントラニル酸、メシリン酸、4−ヒドロキシ安息香酸、フェニル酢酸、マンデル酸、エボニック酸(パモン酸)、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、パントテン酸、2−ヒドロキシエタンスルホン酸、トルエンスルホン酸、スルファニル酸、シクロヘキシルアミノスルホン酸、ステアリン酸、アルギン酸、β−ヒドロキシ酪酸、サリチル酸、ガラクタル酸及びガラクツロン酸である。
【0101】
この発明の組成物において有用な化合物の適当な製薬上許容しうる塩基付加塩には、例えば、カルシウム、マグネシウム、カリウム、ナトリウム及び亜鉛から作成される金属塩又はN,N’−ジベンジルエチレンジアミン、クロロプロカイン、塩素、ジエタノールアミン、エチレンジアミン、メグルミン(N−メチルグルカミン)及びプロカインが含まれる。カルボキシル基を含む式Iの化合物については、アルカリ金属又はアルカリ土類金属塩が好適である。アルカリ金属塩、特にナトリウム塩が、一層好適である。式Iで表される化合物の好適な塩基付加塩は、(E)−2−(5−((2,4,6−トリメトキシスチリルスルホニル)メチル)−2−メトキシフェニルアミノ)酢酸の、ラセミ体−(E)−2−(5−((2,4,6−トリメトキシスチリルスルホニル)メチル)−2−メトキシフェニルアミノ)プロパン酸の、(E)−(R)−2−(5−((2,4,6−トリメトキシスチリルスルホニル)メチル)−2−メトキシフェニルアミノ)プロパン酸の、(E)−(S)−2−(5−((2,4,6−トリメトキシスチリルスルホニル)メチル)−2−メトキシフェニルアミノ)プロパン酸の、及び(E)−2−(5−((2,4,6−トリメトキシスチリルスルホニル)メチル)−2−メトキシフェニルアミノ)−2−メチルプロパン酸のナトリウム塩を含む。
【0102】
これらの塩のすべては、慣用の手段によって、対応する式Iの化合物又はDNAメチルトランスフェラーゼインヒビターから製造することができ、例えば、適当な酸又は塩基をこの化合物と反応させることにより製造することができる。
この発明の実施を下記の非制限的実施例により説明する。
【実施例】
【0103】
実施例1:(E)−2−(5−((2,4,6−トリメトキシスチリルスルホニル)メチル)−2−メトキシフェニルアミノ)酢酸の合成
A.2−(5−((2,4,6−トリメトキシスチリルスルホニル)メチル)−2−メトキシフェニルアミノ)酢酸メチル
メタノール(20mL)中のメチルブロモアセテート(5ミリモル)及び酢酸ナトリウム(5ミリモル)の撹拌中の溶液に(E)−5−((2,4,6−トリメトキシスチリルスルホニル)メチル)−2−メトキシベンゼンアミン(1ミリモル)を加えた。その結果生成した混合物を還流温度まで加熱した。この加熱した混合物を還流温度で12〜15時間にわたって撹拌した。次いで、この加熱した混合物を冷却して水氷(約100g)上に注いだ。沈澱が形成された。この沈澱を、濾過によって分離して、生成物を収率85%で与えた。融点182〜185℃。
【0104】
B.(E)−2−(5−((2,4,6−トリメトキシスチリルスルホニル)メチル)−2−メトキシフェニルアミノ)酢酸
2−(5−((2,4,6−トリメトキシスチリルスルホニル)メチル)−2−メトキシフェニルアミノ)酢酸メチル(1g)を、エタノール(8mL)と4%水性水酸化ナトリウム(50mL)の混合物に溶解させた。この溶液を還流温度に加熱してその温度に10分間維持し、それにより、透明な液体を得た。次いで、この混合物を周囲温度(25℃)まで冷却して、3時間にわたって撹拌した。3時間後に、塩酸を、沈澱が形成されるまで滴下して加えた。この沈澱を濾過により分離し、水で洗って、2−プロパノールから再結晶させて、生成物の(E)−2,4,6−トリメトキシスチリル−3−(カルボキシメチルアミノ)−4−トリメトキシベンジルスルホンを収率80%で与えた。融点128〜131℃。NMR(DMSO−d6)δ3.76(s、3H)、3.80(s、6H)、3.82(s、3H)、4.23(s、2H)、6.25(s、2H)、7.06−7.09(d、1Hビニル)、6.66−6.74(m、芳香族)。
【0105】
実施例2:5−((2,4,6−トリメトキシスチリルスルホニル)メチル)−2−メトキシベンゼンアミンの合成
A.4−メトキシ−3−ニトロベンジルブロミド
四塩化炭素(100mL)中の4−メチル−2−ニトロアニソール(25ミリモル)、N−ブロモスクシンイミド(25ミリモル)及び過酸化ベンゾイル(2.5ミリモル)の溶液を還流温度にて18時間加熱した。この加熱した混合物を、次いで、水中に注いだ。固体の沈殿が形成され、それを濾過により分離した。水性の濾液を四塩化炭素(3×50mL)で抽出した。この抽出物を減圧下で濃縮して、固体生成物を生成した。これらの固体生成物(濾過で分離した沈殿と抽出物を蒸発させて得た生成物)を合わせて、酢酸エチル−ヘキサンから再結晶させて、4−メトキシ−3−ニトロベンジルブロミドを結晶性生成物として、70〜75%の収率で生成した。融点110〜112℃。
【0106】
B.4−メトキシ−3−ニトロベンジルチオ酢酸
メタノール(200mL)中の水酸化ナトリウム(9.75g、240ミリモル)の冷溶液に、チオグリコール酸(11.25g、120ミリモル)をゆっくりと30分にわたって加えた。チオグリコール酸ナトリウムが沈殿し、それを混合物の攪拌及び加熱により再溶解させた。このチオグリコール酸ナトリウム溶液を、次いで、室温まで冷却して、4−メトキシ−3−ニトロベンジルクロリド(30.0g、120ミリモル)を、発熱反応の強度を減じるために、部分にて加えた。その結果生成した混合物を、還流温度まで加熱し、還流温度に4時間維持した。この加熱した混合物を、次いで、冷却して、塩酸(50mL)を含む粉砕した氷(1kg)に注いだ。沈殿が形成された。この沈殿を、濾過により分離して、氷冷水で洗い、真空下で乾燥して30gの乾燥4−メトキシ−3−ニトロベンジルチオ酢酸生成物を生成した。融点130〜132℃。
【0107】
C.4−メトキシ−3−ニトロベンジルスルホニル酢酸
4−メトキシベンジルチオ酢酸(10g)を、氷酢酸(80mL)に溶解させた。過酸化水素(20mL、30%)を、一部分にて加え、その結果生成した混合物を室温(25℃)で10時間にわたって攪拌した。この混合物を、次いで、粉砕した氷(500g)に注いだ。黄色の沈殿が形成された。この沈殿を、濾過により分離し、冷水で洗い、乾燥させて、粗4−メトキシ−3−ニトロベンジルスルホニル酢酸生成物を55%の収率で与えた。この粗生成物の温水からの再結晶は、精製された生成物を結晶固体として生成した。融点96〜98℃。
【0108】
D.2−((E)−2−(4−メトキシ−3−ニトロベンジルスルホニル)ビニル)−1,3,5−トリメトキシベンゼン
30mLの氷酢酸中の4−メトキシ−3−ニトロベンジルスルホニル酢酸(4.5g、15.5ミリモル)の溶液に、2,4,6−トリメトキシベンズアルデヒド(3.05g、15.5ミリモル)及び触媒量のベンジルアミン(0.6mL)を加えた。その結果生成した混合物を還流温度で6時間にわたって加熱した。この反応混合物を、次いで、減圧下で濃縮してゴム状の物質を生成した。このゴム状物質を、2−プロパノールで完全に粉砕して、固体生成物を生成した。この固体生成物を、酢酸と2−プロパノールの混合物から再結晶させて、2−((E)−2−(4−メトキシ−3−ニトロベンジルスルホニル)ビニル)−1,3,5−トリメトキシベンゼン生成物を28%の収率で与えた。融点186〜187℃。
【0109】
E.(E)−5−((2,4,6−トリメトキシスチリルスルホニル)メチル)−2−メトキシベンゼンアミン
この化合物を、2−((E)−2−(4−メトキシ−3−ニトロベンジルスルホニル)ビニル)−1,3,5−トリメトキシベンゼンの還元によって製造した。この還元を達成する2つの別々の方法を与える。
【0110】
E1.(E)−5−((2,4,6−トリメトキシスチリルスルホニル)メチル)−2−メトキシベンゼンアミン(還元方法1)
2−((E)−2−(4−メトキシ−3−ニトロベンジルスルホニル)ビニル)−1,3,5−トリメトキシベンゼン(1.3ミリモル)のアセトン−水(10:5、25mL)中の溶液を50℃まで加熱した。30分後に、ヒドロ亜硫酸ナトリウム(Na224、26.3ミリモル)をゆっくりと加えて、この混合物を還流温度(50℃)で1時間加熱した。この加熱した混合物を、次いで、室温(25℃)まで冷却し、水(25mL)を加えた。固体の沈殿が形成され、それを濾過により分離した。この濾過した生成物を、重炭酸ナトリウム水溶液で洗った。この生成物を、水と酢酸エチルの間で分配した。酢酸エチル層を分離して無水硫酸ナトリウム上で乾燥させた。酢酸エチルを減圧下で除去し、それにより得られた粗生成物を、2−プロパノールから再結晶させて、所望の(E)−5−((2,4,6−トリメトキシスチリルスルホニル)メチル)−2−メトキシベンゼンアミン生成物を生成した。融点148〜150℃。
【0111】
E2.(E)−5−((2,4,6−トリメトキシスチリルスルホニル)メチル)−2−メトキシベンゼンアミン(還元方法2)
5%湿潤Pd/C(還元すべき10重量%のニトロ化合物)をフラスコに充填する。Pd/Cを、エタノールをフラスコの側方からゆっくりと加えることによりエタノールで湿らす。2−((E)−2−(4−メトキシ−3−ニトロベンジルスルホニル)ビニル)−1,3,5−トリメトキシベンゼン(10ミリモル)をこのフラスコに加えてから、エタノールを、5g/100mLの濃度の出発ニトロ化合物を生成するのに十分なだけ加える。その結果生成した混合物を、50〜60℃に加熱する。ヒドラジン水化物(26当量)を、この加熱した混合物に、15〜20分間にわたって加える。その結果生成した混合物を、次いで、還流温度で5〜6時間にわたって加熱する。この反応の進行を、薄層クロマトグラフィー(TLC)によりモニターする。この反応が完結したら、Pd/Cを反応混合物から、熱い反応混合物の濾過により分離する。濾過した固体を、熱いエタノールで洗う。エタノールの体積は、減圧下で蒸留することにより50%だけ減少した。この減少した体積の混合物を、等容積の氷冷水と合わせる。その結果生成した混合物を、30分間攪拌する。固体の沈殿が形成される。この沈殿を、濾過により分離し、減圧下で乾燥する。この分離した沈殿を、2−プロパノールから再結晶させて、(E)−5−((2,4,6−トリメトキシスチリルスルホニル)メチル)−2−メトキシベンゼンアミン生成物を得る。
【0112】
実施例3:(E)−2−(5−((2,4,6−トリメトキシスチリルスルホニル)メチル)−2−メトキシフェニルアミノ)プロパン酸の合成
A.(E)−2−(5−((2,4,6−トリメトキシスチリルスルホニル)メチル)−2−メトキシフェニルアミノ)プロパン酸メチル
酢酸ナトリウム(0.4モル)をメタノール(200mL)に溶解させた。メチル−2−ブロモプロピオネート(40ミリモル)を加えて、その結果生成した混合物を、還流温度で10分間加熱した。この加熱した混合物を室温(25℃)まで冷却して、(E)−5((2,4,6−トリメトキシスチリルスルホニル)メチル)−2−メトキシベンゼンアミン(0.1モル)を加えた。その結果生成した混合物を、還流温度で1時間加熱した。その熱い混合物を、室温(25℃)まで冷却させてから、氷水(500mL)に注いだ。固体の沈殿が形成された。この沈殿を、濾過により分離し、エタノールから再結晶させて、(E)−2−(5−((2,4,6−トリメトキシスチリルスルホニル)メチル)−2−メトキシフェニルアミノ)プロパン酸メチルを得た。
【0113】
B.(E)−2−(5−((2,4,6−トリメトキシスチリルスルホニル)メチル)−2−メトキシフェニルアミノ)プロパン酸
エタノール(200mL)中の(E)−2−(5−((2,4,6−トリメトキシスチリルスルホニル)メチル)−2−メトキシフェニルアミノ)プロパン酸メチル(0.1モル)の溶液に、水酸化ナトリウム(20%水溶液、200mL)を加えた。その結果生成した混合物を、還流温度で2.5時間加熱した。その反応をTLCによりモニターした。この反応が完結しとき、揮発性物質を真空下で除去し、その結果生成した残留物を、酢酸を加えることによりpH4まで酸性化した。固体の沈殿が形成された。この沈殿を、濾過により分離した。この濾過した固体を、アセトンから2回再結晶させて、所望の(E)−2−(5−((2,4,6−トリメトキシスチリルスルホニル)メチル)−2−メトキシフェニルアミノ)プロパン酸を与えた。融点176〜180℃。
【0114】
実施例4:(E)−2−(5−((2,4,6−トリメトキシスチリルスルホニル)メチル)−2−メトキシフェニルアミノ)酢酸のナトリウム塩
(E)−2−(5−((2,4,6−トリメトキシスチリルスルホニル)メチル)−2−メトキシフェニルアミノ)酢酸(15g、0.032モル)を、エタノール(150ml)に溶解させて、1N NaOH(水33ml中の1.28g、0.032モル)を加え、pHを7.5〜8.0に調節して、室温で1時間攪拌する。この反応を0℃まで冷却し、沈殿した固体を濾過により集め、冷エタノールで洗い、最後に、ヘキサンで洗って、真空下で乾燥させて、(E)−2−(5−((2,4,6−トリメトキシスチリルスルホニル)メチル)−2−メトキシフェニルアミノ)酢酸のナトリウム塩(13g、84%)を得る。
【0115】
実施例5:アザシチジンと組み合わせた(E)−2−(5−((2,4,6−トリメトキシスチリルスルホニル)メチル)−2−メトキシフェニルアミノ)酢酸のナトリウム塩の、HL−60細胞に対する細胞障害性効果
ヒトの前骨髄性白血病細胞系統HL−60を、American Type Culture Collectionから得た。これらの細胞を、10%FBS、ペニシリン(50U/mL)、ストレプトマイシン(50μg/mL)を補ったRPMI1640培地中に維持した。細胞培養物を、5%CO2の加湿された大気中で37℃に維持した。細胞を、血球計にて、トリパンブルー染色を生存の指標として用いて計数した。
【0116】
この試験化合物(又は、化合物の組合せ)を、50μLの容積にて、平底の96ウェルプレートに加えた。対照用培養物には、試験化合物を含まない同量の培地を与えた。HL−60細胞(1×106細胞/mL)を、成長培地中で懸濁させて、50μLアリコートにて、化合物を含むウェルに分配した。これらのプレートを、37℃(5%CO2)で72時間インキュベートした。次いで、細胞障害性を、WST−1アッセイを利用して測定した。WST−1アッセイにおいては、細胞の生存力を、それらの細胞を、テトラゾリウム塩 4−(3−(4−ヨードフェニル)−2−(4−ニトロフェニル)−2H−5−テトラゾリオ)−1,3−ベンゼンジスルホネートの存在下で、更に、0.5〜4時間インキュベートすることにより測定する。生存可能な細胞の存在下では、この化合物は、ミトコンドリアのデヒドロゲナーゼによって還元されて蛍光性生成物になる。その吸光度を、バックグラウンドの細胞を含まない対照に対して、ミクロ滴定プレートリーダー(Bio-Tek Instruments, ELx 800)にて、450nmで、参照波長630nmにて測定する。
【0117】
(E)−2−(5−((2,4,6−トリメトキシスチリルスルホニル)メチル)−2−メトキシフェニルアミノ)酢酸のナトリウム塩の、アザシチジン、シタラビン、ダウノルビシン、ジドブジン及びパクリタキセルとの組合せの、HL−60細胞の生存に対する効果を、72時間の連続的曝露の後に測定した。投与量応答曲線を、各薬物単独について、50%細胞死を生じる濃度(IC50)を測定するために生成した。平均IC50値、形状(m)、及び適合性(r)を、少なくとも3つの独立した実験に基づくメジアン効果法によって計算した。次いで、薬物の組合せを、各薬物のIC50値より低濃度及び高濃度で生成した。最初に、これらの細胞の、(E)−2−(5−((2,4,6−トリメトキシスチリルスルホニル)メチル)−2−メトキシフェニルアミノ)酢酸のナトリウム塩及び他の薬剤への72時間にわたる同時曝露の効果を調べた。次の一連の実験においては、細胞を、様々な濃度の第一の薬剤に24時間曝露し、次いで、第二の薬剤を48時間にわたって加えた。WST−1アッセイを、72時間後に行なった。
【0118】
一次曲線当てはめ(メジアン効果分析)を、CalcuSyn(商標)ソフトウェアを利用して行なって、(E)−2−(5−((2,4,6−トリメトキシスチリルスルホニル)メチル)−2−メトキシフェニルアミノ)酢酸のナトリウム塩と様々な抗癌剤を組み合わせることの効果が、拮抗的であるか、相加的であるか又は相乗的であるかを、T.-C. Chou 及びP. Talalay, Trends Pharmacol.Sci., 1983, 4, 450-454に記載された方法を利用するCalcuSyn(商標)ソフトウェアにより測定された組合せインデックスを参照することにより測定した。組合せインデックス1.0は、それらの薬物の相加的効果を示し、1.0より大きい組合せインデックスは、それらの薬物の拮抗的効果を示し、1.0より小さい組合せインデックスは、相乗効果を示す。
【0119】
結果
記載した実験においては、500nMの(E)−2−(5−((2,4,6−トリメトキシスチリルスルホニル)メチル)−2−メトキシフェニルアミノ)酢酸のナトリウム塩が、意味のある研究ができる最高濃度であった(一層高濃度では、事実上完全な細胞死を72時間で生じるので)。(E)−2−(5−((2,4,6−トリメトキシスチリルスルホニル)メチル)−2−メトキシフェニルアミノ)酢酸のナトリウム塩と、シタラビン、ダウノルビシン、ジドブジン及びパクリタキセルとの組合せの効果は、強い拮抗性からほぼ相加的に及んだ。(E)−2−(5−((2,4,6−トリメトキシスチリルスルホニル)メチル)−2−メトキシフェニルアミノ)酢酸のナトリウム塩とアザシチジンの組合せのみが、相乗効果を示した。表5に示したように、その組合せインデックス(C.I.)値は、0.3から0.75に及び、これは、強い相乗作用に適している。
【0120】
【表5】

【0121】
本明細書中で検討したすべての参照文献を、参考として本明細書中に援用する。当業者は、本発明が、言及した目的を実行し並びに目的及び利点を得るようによく改良されること、並びにその中に内在するものを容易に認めるであろう。本発明は、その精神及び本質的属性から離れることなく、他の特定の形態で具体化することができ、従って、この発明の範囲を示す際には、前述の詳細な説明よりも、添付の請求の範囲を参照すべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式Iで表される少なくとも一の化合物:
【化1】

(式中、R1は、−NH2、−NH−CH2−CO2H、−NH−CH(CH3)−CO2H、及び−NH−C(CH3)2−CO2Hよりなる群から選択する)、又はかかる化合物の製薬上許容しうる塩、及び少なくとも一種のDNAメチルトランスフェラーゼインヒビター、又はその製薬上許容しうる塩を含む組成物。
【請求項2】
少なくとも一種のDNAメチルトランスフェラーゼインヒビターが、少なくとも一種のヒトのDNAメチルトランスフェラーゼのインヒビターである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
少なくとも一種のDNAメチルトランスフェラーゼインヒビターが、ヌクレオシド類似体、又はその製薬上許容しうる塩である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
少なくとも一種のDNAメチルトランスフェラーゼインヒビターは、アザシチジン、デシタビン、5,6−ジヒドロ−5−アザシチジン、ファザラビン、5−フルオロ−2’−デオキシシチジン、ゼブラリン、ヒドラリジン、プロカイン、プロカインアミド、エピガロカテキン没食子酸塩、プサマプリンA、又は(S)−2−(1,3−ジオキソ−1,3−ジヒドロ−イソインドール−2−イル)−3−(1H−インドール−3−イル)−プロピオン酸、又は製薬上許容しうるそれらの塩よりなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
少なくとも一種のDNAメチルトランスフェラーゼインヒビターが、アザシチジン、デシタビン、5,6−ジヒドロ−5−アザシチジン、ファザラビン、5−フルオロ−2’−デオキシシチジン、若しくはゼブラリン、又は製薬上許容しうるそれらの塩である、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
少なくとも一種のDNAメチルトランスフェラーゼインヒビターが、アザシチジン若しくはデシタビン、又は製薬上許容しうるそれらの塩である、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
少なくとも一種のDNAメチルトランスフェラーゼインヒビターが、アザシチジン、又は製薬上許容しうるその塩である、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
式Iで表される化合物が、(E)−2−(5−((2,4,6−トリメトキシスチリルスルホニル)メチル)−2−メトキシフェニルアミノ)酢酸、又は製薬上許容しうるその塩である、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
式Iで表される化合物が、(E)−2−(5−((2,4,6−トリメトキシスチリルスルホニル)メチル)−2−メトキシフェニルアミノ)酢酸のナトリウム塩である、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
式Iで表される化合物が、(E)−2−(5−((2,4,6−トリメトキシスチリルスルホニル)メチル)−2−メトキシフェニルアミノ)酢酸のナトリウム塩であり、DNAメチルトランスフェラーゼインヒビターがアザシチジンである、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
骨髄異形成症候群又は急性骨髄性白血病について個体を治療する方法であって、かかる治療を必要とする個体に、有効量の請求項1に記載の組成物を投与することを含む当該方法。
【請求項12】
骨髄異形成症候群について、個体を治療するための請求項11に記載の方法。
【請求項13】
骨髄異形成症候群又は急性骨髄性白血病について個体を治療する方法であって、かかる治療を必要とする個体に、有効量の少なくとも一の式Iで表される化合物:
【化2】

(式中、R1は、−NH2、−NH−CH2−CO2H、−NH−CH(CH3)−CO2H、及び−NH−C(CH3)2−CO2Hよりなる群から選択する)、又はかかる化合物の製薬上許容しうる塩、及び少なくとも一種のDNAメチルトランスフェラーゼインヒビター、又は製薬上許容しうるそれらの塩を投与することを含む、当該方法。
【請求項14】
少なくとも一種のDNAメチルトランスフェラーゼインヒビターが、少なくとも一種のヒトのDNAメチルトランスフェラーゼのインヒビターである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
骨髄異形成症候群について、個体を治療するための請求項13に記載の方法。
【請求項16】
少なくとも一種のDNAメチルトランスフェラーゼインヒビターが、ヌクレオシド類似体、又は製薬上許容しうるその塩である、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
少なくとも一種のDNAメチルトランスフェラーゼインヒビターは、アザシチジン、デシタビン、5,6−ジヒドロ−5−アザシチジン、ファザラビン、5−フルオロ−2’−デオキシシチジン、ゼブラリン、ヒドラリジン、プロカイン、プロカインアミド、エピガロカテキン没食子酸塩、プサマプリンA、又は(S)−2−(1,3−ジオキソ−1,3−ジヒドロ−イソインドール−2−イル)−3−(1H−インドール−3−イル)−プロピオン酸、又は製薬上許容しうるそれらの塩よりなる群から選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
少なくとも一種のDNAメチルトランスフェラーゼインヒビターが、アザシチジン、デシタビン、5,6−ジヒドロ−5−アザシチジン、ファザラビン、5−フルオロ−2’−デオキシシチジン、若しくはゼブラリン、又は製薬上許容しうるそれらの塩である、請求項13に記載の方法。
【請求項19】
少なくとも一種のDNAメチルトランスフェラーゼインヒビターが、アザシチジン若しくはデシタビン、又は製薬上許容しうるそれらの塩である、請求項13に記載の方法。
【請求項20】
少なくとも一種のDNAメチルトランスフェラーゼインヒビターが、アザシチジン、又は製薬上許容しうるその塩である、請求項13に記載の方法。
【請求項21】
式Iで表される化合物が、(E)−2−(5−((2,4,6−トリメトキシスチリルスルホニル)メチル)−2−メトキシフェニルアミノ)酢酸、又は製薬上許容しうるその塩である、請求項13に記載の方法。
【請求項22】
式Iで表される化合物が、(E)−2−(5−((2,4,6−トリメトキシスチリルスルホニル)メチル)−2−メトキシフェニルアミノ)酢酸のナトリウム塩である、請求項21に記載の組成物。
【請求項23】
式Iで表される化合物が、(E)−2−(5−((2,4,6−トリメトキシスチリルスルホニル)メチル)−2−メトキシフェニルアミノ)酢酸のナトリウム塩であり、DNAメチルトランスフェラーゼインヒビターが、アザシチジンである、請求項22に記載の組成物。
【請求項24】
第一の区画に、下記式Iで表される化合物:
【化3】

(式中、R1は、−NH2、−NH−CH2−CO2H、−NH−CH(CH3)−CO2H、及び−NH−C(CH3)2−CO2Hよりなる群から選択する)、又はかかる化合物の製薬上許容しうる塩を含み、第二の区画に、DNAメチルトランスフェラーゼインヒビター、又は製薬上許容しうるその塩を含むキット。
【請求項25】
少なくとも一種のDNAメチルトランスフェラーゼインヒビターが、少なくとも一種のヒトのDNAメチルトランスフェラーゼのインヒビターである、請求項24に記載のキット。
【請求項26】
少なくとも一種のDNAメチルトランスフェラーゼインヒビターが、ヌクレオシド類似体、又は製薬上許容しうるその塩である、請求項24に記載のキット。
【請求項27】
少なくとも一種のDNAメチルトランスフェラーゼインヒビターは、アザシチジン、デシタビン、5,6−ジヒドロ−5−アザシチジン、ファザラビン、5−フルオロ−2’−デオキシシチジン、ゼブラリン、ヒドラリジン、プロカイン、プロカインアミド、エピガロカテキン没食子酸塩、プサマプリンA、又は(S)−2−(1,3−ジオキソ−1,3−ジヒドロ−イソインドール−2−イル)−3−(1H−インドール−3−イル)−プロピオン酸、又は製薬上許容しうるそれらの塩よりなる群から選択される、請求項24に記載のキット。
【請求項28】
少なくとも一種のDNAメチルトランスフェラーゼインヒビターが、アザシチジン、デシタビン、5,6−ジヒドロ−5−アザシチジン、ファザラビン、5−フルオロ−2’−デオキシシチジン、若しくはゼブラリン、又は製薬上許容しうるそれらの塩である、請求項24に記載のキット。
【請求項29】
少なくとも一種のDNAメチルトランスフェラーゼインヒビターが、アザシチジン若しくはデシタビン、又は製薬上許容しうるそれらの塩である、請求項24に記載のキット。
【請求項30】
少なくとも一種のDNAメチルトランスフェラーゼインヒビターが、アザシチジン、又は製薬上許容しうるその塩である、請求項24に記載のキット。
【請求項31】
式Iで表される化合物が、(E)−2−(5−((2,4,6−トリメトキシスチリルスルホニル)メチル)−2−メトキシフェニルアミノ)酢酸、又は製薬上許容しうるその塩である、請求項24に記載のキット。
【請求項32】
式Iで表される化合物が、(E)−2−(5−((2,4,6−トリメトキシスチリルスルホニル)メチル)−2−メトキシフェニルアミノ)酢酸のナトリウム塩である、請求項31に記載のキット。
【請求項33】
式Iで表される化合物が、(E)−2−(5−((2,4,6−トリメトキシスチリルスルホニル)メチル)−2−メトキシフェニルアミノ)酢酸のナトリウム塩であり、DNAメチルトランスフェラーゼインヒビターが、アザシチジンである、請求項32に記載のキット。

【公表番号】特表2010−502602(P2010−502602A)
【公表日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−526579(P2009−526579)
【出願日】平成18年8月30日(2006.8.30)
【国際出願番号】PCT/US2006/034093
【国際公開番号】WO2008/027049
【国際公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 
【出願人】(591135163)テンプル・ユニバーシティ−オブ・ザ・コモンウェルス・システム・オブ・ハイアー・エデュケイション (11)
【氏名又は名称原語表記】TEMPLE UNIVERSITY−OF THE COMMONWEALTH SYSTEM OF HIGHER EDUCATION
【出願人】(509059941)マウント・サイナイ・スクール・オブ・メディシン・オブ・ニューヨーク・ユニバーシティ (1)
【氏名又は名称原語表記】MOUNT SINAI SCHOOL OF MEDICINE OF NEW YORK UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】One Gustave L.Levy Place,New York,NY 10029 U.S.A.
【Fターム(参考)】