説明

高い機械的品質係数を有する低振動数折り畳み振り子及びそのような折り畳み振り子を用いた地震センサ

本発明は、支持体(F)と、試験質量(PM)と、単振り子(SP)と、倒立振り子(IP)とを備えた折り畳み振り子に関する。4つの対応するジョイントシステム(G)によって、単振り子及び倒立振り子の一方の端部は試験質量(PM)に接続され、他方の端部は支持体(F)に接続される。試験質量は支持体に接続されておらず自由に振動する。単振り子(SP)に関する各ジョイントシステムは、一以上の引張ジョイントを備える、本折り畳み振り子は、倒立振り子(IP)に関する各ジョイントシステム(が)が一以上の圧縮ジョイントを備えることを特徴とする。更に、本発明は、本発明に係る折り畳み振り子を用いた地震センサに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い機械的品質係数を有する低振動数折り畳み振り子及びそのような折り畳み振り子を用いた地震センサに関する。
【0002】
より正確には、本発明は、その特定の構造のおかげで最高の機械的品質係数を保証することができる折り畳み振り子、特に一体構造振り子に関する。本発明は、振り子の試験質量及び振り子の支持体の相互変位を測定することによるこのような振り子を用いた地震センサにも関する。
【背景技術】
【0003】
絶対水平変位の測定用に今日用いられている大部分の機械システムが基にしている原理は、理想的な慣性質量に対する相対変位の測定によるものであり、異なる(例えば光学又は電磁気)性質の読み出し方法を用いたものである。
【0004】
現実の慣性質量を自由に使えるという仮定においては、このような測定は、質量の熱ノイズ、並びに存在している読み出しセンサノイズ及び環境ノイズによって制限された測定に繋がる。実際には、このようなシステムの実際の制限は、参照慣性質量の実現の質によって正確に制定される。
【0005】
水平変位測定の場合、このようなシステムは、一般的に、振動システム(例えば振り子)を用い、その振動質量は、実際に慣性質量である。従って、低振動数での良好な感度の測定の実現は、機械振動システムが、良好な機械的品質係数と共に、非常に低い共振振動数を有することを意味する。実際、これは、慣性質量の見掛けの運動がこのような質量を保持する機械システムの固定部分の運動によって影響を受けないようにするために必要である。
【0006】
例えば、地震波の測定の場合、理論的には、無限に大きな機械的品質係数は、振動質量の運動を中断するのに適した粘性力の欠如を意味し、慣性質量と地球との間の相対変位の完璧な測定を可能にする。
【0007】
しかしながら、非常に低い共振振動数を有する機械システムは、一般的に、非常に大きな寸法を有し、実現するのが非常に複雑である。
【0008】
しかしながら、特定の原理構造、文献公知のワット振り子(折り畳み振り子)が存在し、古典振り子と倒立振り子との組み合わせが、従来のシステムに対して相対的に減じられた寸法を維持しながら非常に低い振動数を得ることを可能にし、更に、機械システムの共振振動数の調整を行うことを可能にする(非特許文献1)。
【0009】
このような構造は、非常に小型の実施形態でのこうしたタイプの測定用に多く用いられてきた。文献公知のこうしたタイプの全ての実施形態の問題は、これまでワット振り子が実現されてきた方法に関係するシステムの非対称性、及び実験的に得ることができる低い機械的品質係数に起因して、真空中及び空気中の両方において略100mHz以下の振動数に低下させることができないことである。
【0010】
例として、共振振動数が0.5Hzである単振り子で実現される水平機械センサを考えてみると、このようなシステムの共振振動数は、
【数1】

であり、これから、このような振り子の振動アームの寸法が略1mであるとわかる。0.05Hzの振動数に対しては略100メートルの寸法に振動アームの寸法を伸ばさなければならない。
【0011】
折り畳み振り子の解決策(非特許文献1)は、小さな寸法で理論的には0に等しい共振振動数を提供することであるが、実際の実現では、小さな寸法のセンサに対して広く文献(非特許文献2、非特許文献3、非特許文献4、非特許文献5、非特許文献6、非特許文献7、非特許文献8)で認識されているように、共振振動数に対して下限を課す機械的因子が存在し、実際のところ、140×134×40mmの寸法の機械的実施形態に対して、その下限を略70mHzに制限する。更に、環境気圧の条件では、70mHzの最小共振振動数において、機械的品質係数は、略Q=10に等しい値となり、700mHzに等しい振動数の値に対しては略Q=140に達する。
【0012】
その特徴によって、このタイプのセンサは、低振動数での地面の運動の測定が必要とされる全ての応用において使用可能であり、例えば、地震の危険性の分析、地震の早期警戒用等のための地震計や加速度計の製造等が挙げられ、それ自体を、低振動数帯をカバーする更なるセンサにして、調査用の更なるツールを提供し、実際に振動数範囲を広げる。その特に小型の寸法によって、そのようなセンサは、容易な持ち運び性及び設置性を享受して、従来のセンサに対してより良いオンフィールド統合を可能にする。更に、1キログラム以下のその非常に限られた重量は、振動構造、更には、特に複雑な構造(例えば、重力波の検出用の干渉計を構成するミラーの安定化用に用いられる倒立振り子等)の安定化用のセンサとしての使用を可能にする。
【0013】
折り畳み振り子の基本設計は、単振り子と、倒立振り子と、このような振り子の振動端部を接続するバーとの使用によって構築される(非特許文献1)。
【0014】
図1には、折り畳み振り子の一般的設計が示されていて、図2には、文献において今日存在している実現設計が示されている(より詳しくは非特許文献2、非特許文献3、非特許文献4、非特許文献5、非特許文献6、非特許文献7、非特許文献8を参照)。
【0015】
参照符号Fは、支持体又は“フレーム”を指称して、参照符号PMは、試験質量を指称して、参照符号IPは倒立振り子を指称して、参照符号SPは、単振り子を指称して、Gは、一般的なジョイントを指称する。試験質量PMに、更なる質量CMを加えることもできて、これは、同じモノリシックブロックから生成されたものではなく、較正質量と指称されて、振動数(固有共振振動数の変動)に対するシステムの較正用に使用される(非特許文献2、非特許文献3、非特許文献4、非特許文献5、非特許文献6、非特許文献7、非特許文献8)。
【0016】
これらの参照符号は、図3及び図4においても同様に使用されている。
【0017】
このように構成されたシステムは、四つのフレキシブルなジョイントを必要とする。各ジョイントは、そのジョイントのねじれ効果を制限するために対で実現され(全部で8つのジョイント)、縦方向自由度と横方向自由度の結合を最小化する。図1及び図2には、4つのジョイント(各対の一方)の配置を見て取ることができる側面図が与えられている。このようなジョイントは、それぞれ、
‐ 単振り子の端部と、それを支持する構造とを接続し、
‐ 単振り子の端部と、振り子を接続するバーの端部を接続し、
‐ 接続バーの他端と、倒立振り子の振動端部を接続し、
‐ 倒立振り子の端部と、折り畳み振り子を支持する構造とを接続する。
【0018】
特に低振動数における熱ノイズを低減するため(非特許文献9)、このようなセンサの実現は、モノリシックタイプのものとなる。従って、ジョイントは、他の部分が構成されるのと同じ物質によって構成されて、その全体(ジョイント及び振動部分)は、一つの物質ブロックの電食切断工程で作製される。
【0019】
振り子のアームの回転を保証しなければならないので、このようなジョイントは必ずフレキシブルでなければならない。このため、ジョイントは、非常小さな厚さを有し、振動によって生じるそのジョイントの変形に起因する弾性型の小さな復元力を誘起する(非特許文献10、非特許文献11)。
【0020】
従って、共振振動数が、ジョイントの厚さに依存するジョイントの復元力の低下によって、弱まるので(非特許文献11)、可能な限り小さな厚さのジョイントを実現することが適切である。
【0021】
今日の文献によると、このようなジョイントは、折り畳み振り子を構成する部品間の素子、及び、システムの懸架素子の両方として機能する。従って、接続部分(フレキシブルジョイント)が、そのジョイントが専ら引張動作するものであるように設計されることがわかる。このようなシステムの実施形態は、Liu‐Blair(非特許文献1)、Bertolini等(非特許文献2)、Barone等(非特許文献3、非特許文献4、非特許文献5、非特許文献6、非特許文献7、非特許文献8)によって提案されたものであり得る。
【0022】
特に、システムの制限されたサイズと共に低い共振振動数、及び機械的品質係数の個々の高い値に関する最良の結果は、楕円型のジョイントを導入したBarone等(非特許文献3、非特許文献4、非特許文献5、非特許文献6、非特許文献7、非特許文献8)によって得られている。このようなジョイントは、ε=3.2の離心率を有し互いに0.1mm間隔の開けられた二つの楕円によって画定される切断であって、システムを構成するブロックに対する切断を行うことによる電食工程法で作製される。こうした方法において、ジョイントの厚さは、楕円プロファイルに従う垂直方向に沿って徐々に薄くなり、0.1mmの最小厚さが得られる。円形型の他のタイプのジョイント(つまり、周囲に沿った切断を行うことによって得られるようなもの)は、明らかに低いロバスト性を示していて、これが、ジョイントの曲げ点に対する応力が楕円の場合よりもはるかに大きなことに因るのは明らかである。いずれにしろ、ひずみは、弾性限度内に落とし込まれるが(アルミニウム等の物質において)、使い過ぎると、おそらくはシステムが晒される特に高い加速に起因して、このような円形ジョイントの破壊につながる。他方、楕円ジョイントの場合、ジョイントが非弾性型の変形に晒された場合であっても、ジョイントの破壊は観測されない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0023】
【非特許文献1】J.Liu、L.Ju、D.G.Blair、1997年、“Vibration isolation performance of an ultra‐low frequency folded pendulum resonator”、Physics Letters A、Elsevier、第228巻、(1997年4月14日)、pp.243−349
【非特許文献2】A.Bertolini等、2006年、“Mechanical design of a single‐axis monolithic accelerometer for advanced seismic attenuation systems”、Nuclear Instrument and Method、第556巻、p.616
【非特許文献3】F.Acernese、R.De Rosa、G.Giordano、R.Romano、F.Barone、2009年、“Tunable mechanical monolithic horizontal accelerometer for low frequency seismic noise measurement”、Proc.SPIE、第7292巻、pp.72922J−1−72922J−12、doi:10.1117/12.814106
【非特許文献4】F.Acernese、R.De Rosa、G.Giordano、R.Romano、F.Barone、2008年、“Mechanical monolithic horizontal sensor for low frequency seismic noise measurement”、Review of Scientific Instruments、第79巻、pp.074501−1−074501−8、ISSN:0034−6748、doi:10.1063/1.2943415
【非特許文献5】F.Acernese、G.Giordano、R.Romano、R.De Rosa、F.Barone、2008年、“Mechanical monolithic accelerometer for suspension inertial damping and low frequency seismic noise measurement”、Journal of Physics,Conference Series(オンライン)、第122巻、pp.012012−1−012012−6、ISSN:1742−6596、doi:10.1088/1742−6596/122/1/012012
【非特許文献6】F.Acernese、R.De Rosa、G.Giordano、R.Romano、F.Barone、2008年、“Tunable mechanical monolithic accelerometer for low frequency seismic noise measurement”、Proc.SPIE、第7110巻、pp.711011−1−711011−12、doi:10.1117/12.800429
【非特許文献7】F.Acernese、R.De Rosa、G.Giordano、R.Romano、F.Barone、2008年、“Tunable mechanical monolithic sensor with interferometric readout for low frequency seismic noise measurement”、Proc.SPIE、第6932巻、pp.69320K−1−69320K−12、doi:10.1117/12.772196
【非特許文献8】G.Giordano、2008年、“Development and test of tunable mechanical monolithic horizontal accelerometer for low frequency seismic noise measurement”、Tesi di Dottorato in “Rischio Sismico”、Universita degli Studi di Napoli Federico II
【非特許文献9】P.R.Saulson、1990年、“Thermal noise in mechanical experiments”、Physical Review D‐Particles and Fields、3rd series、第42巻、第8号、1990年10月15日、pp.2437−2445
【非特許文献10】T.Stuart等、1997年、“Elliptical flexure hinges”、Review of Scientific Instruments、第68巻、p.3
【非特許文献11】Y.M.Tseytlin、2002年、“Notch flexure hinges:an effective theory”、Rev.Sci.Instrum.、第73巻、第9号、2002年9月、pp.3363−3368
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
本発明の課題は、従来技術の問題を解決しその欠点を克服する折り畳み振り子を提供することである。
【0025】
本発明の更なる特定の課題は、従来技術の問題を解決しその欠点を克服する本発明に係る折り畳み振り子に基づいた地震センサを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明の対象は、
‐ 支持体と、
‐ 試験質量と、
‐ 単振り子と、
‐ 倒立振り子とを備えた折り畳み振り子であって、
4つの対応するジョイントシステムによって、単振り子及び倒立振り子の端部の一方は試験質量に接続されていて、他方の端部は支持体に接続されていて、試験質量が支持体に接続されておらず自由に振動し、単振り子に関する各ジョイントシステムが一以上の引張ジョイントを備え、
その折り畳み振り子が、
‐ 倒立振り子に関する各ジョイントシステムが一以上の圧縮ジョイントを備えることを特徴とする折り畳み振り子である。
【0027】
好ましくは、本発明によると、折り畳み振り子は、適切な機械加工物質のモノリシックブロック製である。
【0028】
好ましくは、本発明によると、モノリシックブロックは、電食によって切断機械加工される。
【0029】
好ましくは、本発明によると、各ジョイントシステムは二つのジョイントを備える。
【0030】
好ましくは、本発明によると、一以上のジョイントは楕円ジョイントである。
【0031】
好ましくは、本発明によると、ジョイントシステムは、ε>3.2の離心率とd>10マイクロメートルの相互距離を有する二つの楕円の除去によって形成された二つのジョイントを備える。
【0032】
好ましくは、本発明によると、試験質量は、その質量を減少させるために中心に開口を備えた実質的に平行六面体の形状を有する。
【0033】
好ましくは、本発明によると、単振り子又は倒立振り子の各場合における試験質量又は支持体の向き合う面の間の距離は、少なくとも250μmである。
【0034】
本発明の更なる特定の対象は、
‐ 試験質量及び支持体を備えた折り畳み振り子と、
‐ 支持体に対する試験質量の見掛けの変位を検出するシステムとを備えた地震センサであって、その折り畳み振り子が、本発明の対象である折り畳み振り子であることを特徴とする地震センサである。
【0035】
好ましくは、本発明によると、試験質量の見掛けの変位を検出するシステムは、光学システムであり、
‐ その試験質量上に正確に光ビームを送信する光源と、
‐ その試験質量(PM)と一体のミラーと、
‐ そのミラーによって反射された光を検出するシステムと、
‐ その見掛けの変位を計算するコンピュータデバイスとを備える。
【0036】
以下、特に添付図面を参照しながら、本発明を、例示的であって限定的ではなく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】(a)に周知の折り畳み振り子の原理的設計を示し、(b)に引張ジョイント(全部で8つのジョイントのうち4つが見える)を備えた従来のモノリシック折り畳み振り子の側面図を示す。
【図2】従来のモノリシック折り畳み振り子の特定の実施形態の側面図を示す。
【図3】本発明に係る折り畳み振り子の設計の側面図を示す(全部で8つのジョイントのうち4つが見える)。
【図4】本発明に係る折り畳み振り子の特定の実施形態を示す。
【図5】本発明に係るセンサ(08G‐100‐AL02、黒線、より高いQ値)と、文献記載のセンサ(08F‐100‐AL01、カラー線)との間の機械的品質係数Qの比較を、システムの共振振動数の関数として示す。
【図6】本発明に係るセンサ(08G‐100‐AL02、連続線)と、文献記載のセンサ(08F‐100‐AL01、不連続線)との間の機械的品質係数Qの比較を、周囲気圧の関数として示す。
【発明を実施するための形態】
【0038】
折り畳み振り子の構成を利用することの選択は、実際には、システムが理論的には0に等しい共振振動数を示すようにするものである。
【0039】
実際、図1(a)を参照して、適切な計算を行い、ジョイントの弾性復元力が0に等しいとすると、重力型の復元力のみを有するような方法において、パルスω=2πfに関して表されるシステムの共振振動数は、
【数2】

に等しくなり、これから、共振振動数が、システムの幾何学的形状(振り子のアームの長さ)、及び質量(アーム及び振動バーの質量)の分布の両方に依存することがわかる。特に、両方の振り子の質量及び長さを等しい値に選択することによって、上記表現の分子が消えて、f=0Hzに等しい共振振動数を有することには留意されたい(非特許文献8)。
【0040】
このようなシステムは、振り子を構成する質量、及び振り子を接続する中心バーの適切な選択で安定性を保証することに留意されたい。
【0041】
しかしながら、実際の実現では、システムの対称性が破られていること、特に、ジョイントの変形によって加えられる復元力に対する更なる弾性寄与を考慮しなければならない。
【0042】
第一の点に関して、ジョイントが引張動作するように、振り子の懸架の設計について単純な設計を有し(このような振り子の質量が懸架されるおかげで)、並びに、振り子及び倒立振り子を接続するバーにこのような振り子を接続するジョイントについて単純な設計を有する。他方、倒立振り子の懸架について、ジョイントが引張動作するような構造を保証したいと願う場合には、構成が非常に複雑になる。そこで、本発明で導入されるのは、引張応力のみに晒されるジョイントを有することの制約を無視して、倒立振り子に対して圧縮動作するジョイントを使用するという選択に基づくものである。一般的設計は図3に示されていて、図4の特定の実施形態は、提案している新規設計を示す。
【0043】
このような選択は、楕円型のジョイントが円形ジョイントを採用した以前の解決策に対抗するものである点に基づく。実験的な実現は、特に高い圧縮負荷(全体として最大で略1kgであり、倒立振り子に関する各ジョイントに対して略250gの圧縮負荷)の存在下においても、ジョイントが、破壊に繋がるような応力を受けていないことを明らかに示していて、このような設計の有効性を実証している。
【0044】
更に、このような設計に従うことによって、構造が明らかに単純になり、低振動数安定性(略100mHz)及び機械的品質係数Qの両方に関して明らかな改善が得られる。特に、Qについて、以前のバージョンを用いて得られた値に対して新たな値を確定するための異なる複数の測定を行った。Q値の測定について、振動質量を支持する構造に対するその振動質量の相対的なシフトを適切な較正で測定することができる光学型の読み取りシステムを用いた(非特許文献8)。機械的品質係数Qの値の測定の手順は、折り畳み振り子の平衡位置が力学的ポテンシャルの最小値に対応するように折り畳み振り子を適切にレベリングした後に、振動質量をその位置の一方の端部にシフトして、その後振動質量を自由することに依るものであり、質量は平衡位置に戻る傾向があり、振動が発生する。このような振動は、時間と共に指数関数的に減衰する振幅の正弦曲線を用いて解析的に記述可能である(臨界減衰よりも低い減衰係数を有する振動型のシステムにおいて)。値を時間と共にデジタルに入手して、指数関数の特性定数の値を探すためにフィッティングを行うと、機械的品質係数Qの値が導出される。Q値は、機械システムの共振振動数に依存することに留意されたい。特に、振動数の関数としてのQの発展は、高い振動数値に対しては線形(単調増加)のものとなり(外部散逸の場合、全ての測定振動数値に対して)、低い振動数値に対しては二次型のものとなる(内部散逸の場合)。
【0045】
折り畳み振り子の共振振動数の解析表現の分析から、振動数が質量の分布に依存することがわかり、較正質量を用いて振動質量の質量中心の位置を変更することによって、共振振動数の調整を行うことができる。一連の提案された測定では、異なる値(略100gから略1kgの質量範囲の等の値)の較正質量の追加によって質量中心を変更して、[180,680]mHzの範囲内において機械的品質係数Qの異なる測定値を得た。
【0046】
データの分析から、図5に示されるように、システムの異なる共振振動数において機械的品質係数の明確な改善が導かれる。この図においては、1kgの較正質量を搭載した圧縮ジョイントを備えた新規システムに対して測定された機械的品質係数の発展が黒色で示されていて(参照符号08G‐100‐AL02で示す)、引張ジョイントを備えた従来のシステムで実施された測定が他の色で示されている(参照符号08F‐100‐AL01)。如何にして、提案されたシステムが全ての測定された振動数に対してほぼ一桁のQの改善を有することにつながるのかについて言及する。このような測定を、環境圧力で実施した。圧縮ジョイントを備えた新規システムは、振動部分と固定構造との間の幅広の隙間である幅広の側部ギャップを有し、第一に、その改善が振動中のギャップからの空気のより良い下降流に依存すると考えられる。このような下降流は、振動中の隙間の体積の変動によるものである。しかしながら、図6に示される真空中での更なる一連の測定で実証されるように、品質係数の改善は、真空中(最大略10−4barの圧力値)においても特筆すべきものであり、その改善が、より良い空気の下降流だけではなくて、特定の本発明の設計によるものであると導かれる。
【0047】
更に、機械的品質を評価して、応用に応じた特性を選択するために、楕円ジョイントに対して試験を行った。0.1mmに等しい厚さのジョイントに対する楕円率の関数としてのジョイントの機械的特性の発展は、非特許文献4において報告されている。
【0048】
上記の点に基づいて、振動数の較正を、ジョイントの厚さに影響を与えること(システムの実現段階において)及び較正質量に影響を与えること(設定段階)によって、行うことができる。特に、振動数についてシステムを較正するためのジョイントの厚さの変更は、基本設計を修正せずに共振振動数を低下させることを可能にする。低振動数において、システムの機械的対称性が、そのシステムの機械的安定性に対する基本的なプロジェクト仕様の一つとなるということを考慮すれば、このような方法の重要性は明らかである。従って、システムの対称性を修正せずにジョイントの機械的厚さを減じることによるシステムの共振振動数の低下は、低振動数におけるシステムの機械的安定性をあまり致命的ではないものとする。他方、較正質量の変位によるシステムの共振振動数の変動は、特に最低振動数近傍におけるシステムの対称性の喪失(従って、多様なジョイントに対する負荷の分布の変動)に起因して、より致命的なものとなる。
【0049】
ジョイントの厚さの下限は、塑性変形せずにジョイントが支持することのできる最大負荷によって与えられる。このようなジョイントの実現は、ジョイントを電食によって予め実現して、電解研磨法によって事後的に影響を与えることによって実施可能である。このようにして、140×134×40mmに等しいサイズの機械的実現(非特許文献2、非特許文献3、非特許文献4、非特許文献5、非特許文献6、非特許文献7、非特許文献8)に依然として適している30マイクロメートルのオーダの厚さのジョイントを得ることもできる。より小さな値は、可能ではあるが、最も一般的な使用におけるシステムの適切なロバスト性を保証するものではない。実際のところ、小さ過ぎる厚さは、振り子のアームの回転によって誘起される曲げ応力、及び、構造の振動質量の重量に起因する引張応力(ジョイントに完全にかかる)の両方が原因となって、ジョイントの破壊を生じさせ得る。これが、厚さに対する下限が存在する理由である。
【0050】
上述のことが広く一般に有効であることは明らかである。何故ならば、本発明のシステムは、あらゆる応用における寸法及び共振振動数に関して広く拡張可能で適用可能であるからである。従って、ジョイントの厚さは、システムの物理的寸法及びプロジェクト共振振動数の両方の関数である。これは、システムの実現及び設計段階において、応用の仕様に基づいて、このような厚さを毎回決めなければならないことを意味する。
【0051】
まとめると、本発明に係る低振動数振動機械システムは、ワット振り子の新規設計及び実現に基づくものであり、楕円ジョイントが用いられていて、ジョイントの半分が新規方法で動作する(文献記載の全ての実施形態のような引張性ではなくて圧縮性)。
【0052】
このような本発明の技術的解決策は、システムの完璧な対称性を保証することによって、低振動数における振り子の機能を改善し、また、同一のロバスト性及び信頼性の特性を保ちながら今日実現されているシステム(初の実験的実現によって得られたようなもの)の少なくとも10倍機械的品質係数を改善することを可能にする重要な要素である。
【0053】
引張動作する単振り子の端部のジョイントとは異なり、倒立振り子の端部において圧縮動作するジョイント、及びシステムの対称性は、やはり特筆すべきものである。
【0054】
本発明に係るセンサは、水平方向に沿った慣性質量の使用が必要とされるあらゆる分野において使用されるものであり、例えば、水平地震センサ等が挙げられる。
【0055】
好ましい実施形態について上述してきて、本発明の修正についていくつか示唆してきたが、当業者が、添付の特許請求の範囲によって定められる保護範囲から逸脱せずに、変形及び変更を行うことができることは理解されたい。
【符号の説明】
【0056】
CM 較正質量
F フレーム(支持体)
G ジョイント
IP 倒立振り子
SP 単振り子
PM 試験質量
【図1(a)】

【図1(b)】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体(F)と、
試験質量(PM)と、
単振り子(SP)と、
倒立振り子(IP)とを備えた折り畳み振り子であって、
4つの対応するジョイントシステム(G)によって、前記単振り子及び前記倒立振り子の一方の端部が前記試験質量(PM)に接続されていて、他方の端部が前記支持体(F)に接続されていて、前記試験質量が前記支持体(F)に接続されておらず自由に振動し、前記単振り子(SP)に関する各ジョイントシステム(G)が一以上の引張ジョイントを備え、
前記倒立振り子(IP)に関する各ジョイントシステム(G)が一以上の圧縮ジョイントを備えることを特徴とする折り畳み振り子。
【請求項2】
適切な機械加工物質のモノリシックブロックによって形成されていることを特徴とする請求項1に記載の折り畳み振り子。
【請求項3】
前記モノリシックブロックが電食によって切断機械加工されていることを特徴とする請求項2に記載の折り畳み振り子。
【請求項4】
各ジョイントシステム(G)が二つのジョイントを備えることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の折り畳み振り子。
【請求項5】
前記一以上のジョイントが楕円ジョイントであることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の折り畳み振り子。
【請求項6】
前記ジョイントシステム(G)が、ε>3.2の離心率及びd>10マイクロメートルの相互距離を有する二つの楕円の除去によって形成された二つのジョイントを備えることを特徴とする請求項4に従属して請求項5に記載の折り畳み振り子。
【請求項7】
前記試験質量(PM)が、該試験質量の質量を減じるために中心に開口を備えた実質的に平行六面体の形状を有することを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の折り畳み振り子。
【請求項8】
前記単振り子(SP)又は前記倒立振り子(IP)の各場合において前記試験質量(PM)又は前記支持体(F)の向き合う面の間の距離が少なくとも250μmであることを特徴とする請求項2から7のいずれか一項に記載の折り畳み振り子。
【請求項9】
試験質量(PM)及び支持体(F)を備えた折り畳み振り子と、
前記支持体(F)に対する前記試験質量(PM)の見掛けの変位を検出するシステムとを備えた地震センサであって、
前記折り畳み振り子が請求項1から8のいずれか一項に記載の折り畳み振り子であることを特徴とする地震センサ。
【請求項10】
前記試験質量(PM)の見掛けの変位を検出するシステムが、光学システムであり、
前記試験質量(PM)上に正確に光ビームを送信する光源と、
前記試験質量(PM)と一体のミラーと、
前記ミラーによって反射された光を検出するデバイスと、
前記見掛けの変位を計算するコンピュータデバイスとを備えることを特徴とする請求項9に記載の地震センサ。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2012−533062(P2012−533062A)
【公表日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−519127(P2012−519127)
【出願日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際出願番号】PCT/IT2010/000293
【国際公開番号】WO2011/004413
【国際公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【出願人】(512005885)ウニヴェルシタ・デグリ・ストゥディ・ディ・サレルノ (1)
【Fターム(参考)】