説明

高い活性酸素含有率を有する貯蔵安定かつ安全な過酸化物乳剤

水相中に分散した油相を含む乳剤であって、油相が、少なくとも53重量%の1種または複数の有機過酸化物を含み、該有機過酸化物の50重量%超が、少なくとも7.005重量%の分子内活性酸素含有率を有し、乳剤が有機過酸化物タイプFの分類試験を満足させる乳剤。この乳剤は、輸送タンクおよび貯蔵タンクのより大きなベント口、またはより高い設計圧力の必要性なしに、活性酸素含有率が高い有機過酸化物乳剤の安全な輸送および安全な貯蔵を可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1種または複数の有機過酸化物を含む貯蔵に安定で安全な乳剤に関し、乳剤は高い活性酸素含有率を有する。本発明はさらに、重合反応におけるこのような乳剤の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
相対的に高い濃度の有機過酸化物を含有する有機過酸化物の水性乳剤は、従来技術から知られている。このような従来技術文献の例として、EP 0 032 757、WO 99/005101、US 3,988,261およびWO 2003/095500がある。
【0003】
これら文献に例示された乳剤はすべて、相対的に低い、すなわち7.00重量%未満の分子内活性酸素含有率を有する有機過酸化物から専ら成る油相を含有する。これらの文献は、安定した乳剤の調製に適しているとして、高い分子内活性酸素含有率を有する過酸化物を含めて、様々な他の有機過酸化物を提案しているが、そのような乳剤が、実際に調製され、かつ国連規則に従って安全性が確かに試験されたようには思えない。
【0004】
分子内活性酸素含有率を約7.00重量%以上有する過酸化物を含む乳剤に伴う問題は、熱暴走に伴う危険性の増大である。それゆえに、高い分子内活性酸素含有率を有する過酸化物を含有する乳剤には、一般に、国連輸送分類の要件(UN transport classification requirements)を満たすために鈍感剤が必要である。この鈍感剤の目的は、熱安定性を増大させること、および熱暴走が発生した場合、その影響を低減させることである。典型的な鈍感剤は、イソドデカンおよび無臭ミネラルスピリット(OMS)のような本質的に非水溶性の溶剤である。
【0005】
例えば、9.18重量%の分子内活性酸素含有率を有するジイソブチリルペルオキシドの現在の市販乳剤は、26重量%を超える過酸化物を含有していない。油相は、ジイソブチリルペルオキシドの1kg当たり1kgの量で溶剤であるイソドデカンを含有している。この乳剤は、タイプF液体(危険物輸送に関する国連専門家委員会(United Nations Committee of Experts on the Transport of Dangerous Goods)による勧告中に記載の分類原則に従う)として分類され、この液体は、形状寸法に関する一定の要件を条件として、相対的に大きな輸送容器および貯蔵タンク内で貯蔵し、輸送することができることを意味する。これらの要件には、非常用ベント口の直径およびタンク自体の設計圧力が含まれる。特定の過酸化物配合物に対してこれらの要件をぎりぎり満たすタンクを考えるなら、そのタンクは、一般には、同じ過酸化物のより濃厚な配合物の貯蔵および/または輸送に必要な要件を満たさないであろう。その理由は、熱発生およびそのための圧力の影響が、一般的には、タンク内の過酸化物の濃度および量とともに拡大すると見込まれるからである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
とはいえ、より濃厚な乳剤の使用は、例えば、貯蔵および輸送の経済性を改善するために望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
驚くべきことに、予想に反して、相対的に高い分子内活性酸素含有率を有する有機過酸化物の乳剤について、有機過酸化物によって鈍感剤の一部を置き換えると、乳剤の安全特性を改善できることが、今や見出された。これは、輸送タンクおよび貯蔵タンクのより大きなベント口、またはより高い設計圧力の必要性なしに、活性酸素含有率が高い有機過酸化物乳剤を安全に輸送および貯蔵することを可能にする。
【0008】
したがって、本発明は、水相中に分散した油相を含む乳剤であって、油相が、少なくとも53重量%の1種または複数の有機過酸化物を含み、該有機過酸化物の50重量%超が、少なくとも7.00重量%の分子内活性酸素含有率を有し、乳剤が有機過酸化物タイプFの分類試験を満足させる乳剤に関する。
【0009】
油相
本発明による乳剤の油相は、少なくとも53重量%、好ましくは少なくとも55重量%、より好ましくは少なくとも60重量%、最も好ましくは少なくとも68重量%の1種または複数の有機過酸化物を含み、50重量%を超える有機過酸化物が少なくとも7.00重量%の分子内活性酸素含有率を有する。油相中の有機過酸化物の含有率は、好ましくは85重量%以下、最も好ましくは77重量%以下であり、このことは、油相中の他の成分が好ましくは少なくとも15重量%、最も好ましくは23重量%になり得る。他の成分は、好ましくは1重量%未満の分子内活性酸素含有率を有する成分である。好ましい他の成分は鈍感剤、すなわち、危険物の輸送に関する国連勧告を満足させる有機溶剤であり、これは1体積%を超えて水中で溶解しないことが好ましい。適切な鈍感剤の例としては、イソドデカン、無臭ミネラルスピリット(OMS)、揮発油タイプの脂肪族溶剤およびPVC中で可塑剤として使用される溶剤(例えば、アジピン酸ジイソデシルのようなアジピン酸エステル)がある。油相の鈍感剤含有率は、好ましくは少なくとも15重量%、より好ましくは少なくとも23重量%である。油相の鈍感剤含有率は、47%未満、より好ましくは45%未満、さらにより好ましくは40%未満、最も好ましくは32%未満である。
【0010】
油相中に存在する過半量、すなわち50重量%を超える有機過酸化物は、少なくとも7.00重量%、好ましくは少なくとも8.00重量%、さらに最も好ましくは9.00重量%の分子内活性酸素含有率を有する。油相中の過半の有機過酸化物(50重量%を超える)の分子内活性酸素含有率は、好ましくは15重量%未満、最も好ましくは12重量%未満である。
【0011】
好ましい実施形態では、油相中に存在する60重量%を超える、より好ましくは70重量%を超える、さらにより好ましくは80重量%を超える、さらにより好ましくは90重量%を超える、最も好ましくは100重量%の有機過酸化物は、少なくとも7.00重量%の分子内活性酸素含有率を有する。
【0012】
この分子内活性酸素含有率は、分子の重量を基にした活性酸素原子の重量%(1過酸化物官能基(peroxide functionality)当たり1酸素原子)として定義される。言い換えると、分子内活性酸素含有率は、16p/Mwとして計算でき、式中、pは分子中の過酸化物(−O−O−)官能基の数であり、Mwは分子の分子量である。
【0013】
乳剤の活性酸素含有率は、次に、過酸化物の分子内活性酸素含有率および乳剤中の過酸化物濃度から得られる。
【0014】
少なくとも7.00重量%の分子内活性酸素(AO)含有率を有する有機過酸化物の例としては、ジイソブチリルペルオキシド(AO=9.18重量%)、1−(2−エチルヘキサノイルペルオキシ)−1,3−ジメチルブチルペルオキシピバレート(AO=8.88重量%)、tert−ブチルペルオキシネオヘプタノエート(AO=7.91重量%)、tert−アミルペルオキシピバレート(AO=8.50重量%)、tert−ブチルペルオキシピバレート(AO=9.18重量%)、2,5−ジメチル−2,5−ジ(2−エチルヘキサノイルペルオキシ)ヘキサン(AO=7.43)、tert−ブチルペルオキシジエチルアセテート(AO=8.50重量%)、tert−ブチルペルオキシイソブチレート(AO=9.99重量%)、1,1−ジ−tert−ブチルペルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン(AO=10.58重量%)、1,1−ジ(tert−ブチルペルオキシ)シクロヘキサン(AO=12.29重量%)、2,2−ジ(tert−ブチルペルオキシ)ブタン(AO=13.66重量%)、tert−ブチルペルオキシイソプロピルカーボネート(AO=9.08重量%)、ジエチルペルオキシジカーボネート(AO=8.98重量%)、tert−ブチルペルオキシアセテート(AO=12.11重量%)、tert−ブチルペルオキシベンゾエート(AO=8.24重量%)、ジ−tert−アミルペルオキシド(AO=9.18重量%)、2,2−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルペルオキシ)ヘキサン(AO=11.02重量%)、tert−ブチルクミルペルオキシド(AO=7.68重量%)、および2,2−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルペルオキシ)ヘキシン−3(AO=11.17重量%)がある。
【0015】
有機過酸化物の水溶解度は、+5℃で1体積%未満であることが好ましい。有機過酸化物は、好ましくは、0℃で液体である。有機過酸化物は、好ましくは、モノクロロベンゼン中の半減期が70℃で1時間未満である。
【0016】
油相中に存在する好ましい有機過酸化物は、ジイソブチリルペルオキシドである。より好ましくは、この過酸化物は、本発明の乳剤中に存在する有機過酸化物の全量の50重量%超、より好ましくは少なくとも75重量%、さらにより好ましくは少なくとも90重量%、および最も好ましくは少なくとも95重量%を構成する。
【0017】
水相
水相は、好ましくは、少なくとも50重量%の水を含む。
【0018】
水相中に存在してもよい他の成分は、乳剤を安定させ、乳剤が凍結するのを防止する通常の添加物である。水相は、−10℃、より好ましくは−20℃、最も好ましくは−25℃を超える温度で凍結しないことが好ましい。
【0019】
このような他の成分の例としては、保護コロイド、界面活性剤、不凍剤および増粘剤がある。
【0020】
適切な保護コロイドの例としては、セルロースおよび部分加水分解ポリビニルアセテートがある。部分加水分解ポリビニルアセテート(PVA)は、水相中に存在するのに好ましい保護コロイドである。好ましくは、PVAの加水分解度は、少なくとも45%、より好ましくは少なくとも48%、最も好ましくは少なくとも50%、および好ましくは多くて80%、より好ましくは多くて70%である。PVAは、濃淡のむらがある加水分解ではなく、ランダムに加水分解されていることが好ましい。
【0021】
1種類だけのPVAを使用する代わりに、2つ以上のPVAのブレンドを使用することもできる。この場合、ブレンドは1つだけのPVAとして見なすことができ、このブレンドの加水分解度は、PVAの加水分解度の重量平均である。PVAのこのようなブレンドは、加水分解度が45%より低いまたは80%より高いPVAを、0.2%を超えて含まないことが好ましい。
【0022】
本発明による乳剤中に使用されたPVAの量は、使用した過酸化物および界面活性剤の濃度およびタイプ、ならびに最終乳剤の所望の粘度に左右されよう。典型的には、最終乳剤中のPVAの量は、少なくとも0.01重量%、好ましくは少なくとも0.1重量%、最も好ましくは少なくとも0.5重量%、および多くても5%重量%、より好ましくは多くても3.0重量%、さらにより好ましくは多くても2.5重量%、より好ましくは多くても2.0重量%、最も好ましくは多くても1.5重量%となろう。
【0023】
界面活性剤は、水相と油相との間の界面張力に影響を及ぼす界面活性化学物質である。このような化合物は、「乳化剤」としても知られている。本発明による乳剤は、HLB値が15以上の界面活性剤を含有することが好ましい。より好ましくは、HLB値が少なくとも16の界面活性剤であり、最も好ましくは、HLB値が少なくとも17の界面活性剤である。所望であれば、界面活性剤の混合物を使用してもよい。HLB値は、「The Atlas HLB-System, a time saving guide to emulsifier selection」、Atlas Chemical Industries Inc.刊、1963年の中で説明されるように親水親油バランスを表す。
【0024】
水相中で使用できる界面活性剤の例としては、アルキレンオキシドブロック共重合体、エトキシ化脂肪アルコールおよびエトキシ化脂肪酸がある。好ましい界面活性剤は、HLB値が15より大きいエトキシ化脂肪アルコールおよびエトキシ化脂肪酸である。最も好ましくは、そのようなエトキシ化脂肪アルコールである。適切なエトキシ化脂肪アルコールの例として、例えばエトキシ化度が23であり、HLB値が16.9であり、ICIからBrij(登録商標)35として入手できるエトキシ化ラウリルアルコール(ethoxylated lauryl alcohol)、Remcopal(登録商標)20のようなエトキシ化ドデシルアルコール、エトキシ化ミリスチルアルコール、エトキシ化セチルアルコール、エトキシ化オレイルアルコール、パルミチン酸アルコール(palmitic alcohol)とオレイルアルコールとの混合物のエトキシ化製品であるEthylan(登録商標)CO35のようなアルコールのエトキシ化混合物、ヤシ油、パルミチン酸および/または獣脂に由来するエトキシ化アルコール、ならびに例えばエトキシ化度が80であり、HLB値が18.5であり、Akzo NobelからBerol(登録商標)08として入手できるエトキシ化ステアリルアルコールが挙げられる。
【0025】
界面活性剤の量は、1.0重量%未満であることが好ましい。
【0026】
適切な不凍剤は、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、グリコール、プロパンジオールおよびグリセロールであり、この理由は、このような化合物は、過酸化物乳剤が使用される重合プロセスにほとんど影響を与えないと見込まれることが知られているためである。不凍剤としてメタノールを使用することが最も好ましい。2つ以上の不凍剤の組合せも、本発明による乳剤において使用できる。例えば、水とメタノールとの混合物に相対的に少量のエチレングリコールを加えると、混合物全体の同じ温度における引火性が低下することになるので、引火性に正の影響が及ぼされよう。
【0027】
不凍剤の量は、好ましくは、乳剤が−10℃の温度で凍結しないように選ばれる。乳剤は−15℃の温度で凍結しないことがより好ましく、乳剤が−20℃の温度で凍結しないことが最も好ましい。
【0028】
増粘剤は、組成物の粘度を管理するために、好ましくは(乳剤の重量に基づいて)2重量%を超えない、好ましくは1重量%未満、最も好ましくは0.3重量%未満の濃度で存在することができる。配合物中で有用な増粘剤の非限定的例としては、キサンタンガム、アラビアゴムおよびアルギネート(alginate)がある。しかしながら、増粘剤は、乳剤から除外されることが好ましい。
【0029】
1種または複数の有機酸化物は、少量、好ましくは2重量%未満、より好ましくは1重量%未満で水相中に存在することができる。
【0030】
水相中に存在してもよい他の添加物としては、酸化カルシウムまたはリン酸緩衝液などのpH調製剤、金属イオン封鎖剤、およびもし所望なら殺生物剤、例えば殺真菌剤がある。これらの添加物の濃度は、所望の効果および乳剤中の他の成分に左右されよう。
【0031】
乳剤
本発明による乳剤は、水中油型乳剤である。これは、このような乳剤を調製する任意の従来方法で調製できる。
【0032】
乳剤は、油相を好ましくは35〜75体積%、より好ましくは45〜70体積%、および最も好ましくは50〜65体積%含有し、100体積%までの残余は水相である。
【0033】
乳剤の活性酸素含有率は、少なくとも2.60重量%であることが好ましく、より好ましくは少なくとも3.10重量%、最も好ましくは少なくとも3.50重量%である。乳剤の活性酸素含有率は、4.60重量%未満が好ましく、最も好ましくは4.20重量%未満である。
【0034】
本発明による乳剤の自己促進分解温度(Self-Accelerating Decomposition Temperature)(SADT)は、50kgの包装サイズについて好ましくは+20℃未満、より好ましくは+10℃未満、および最も好ましくは+5℃未満である。SADTは、包装された物質について自己促進分解が発生し得る最も低い温度であり、UN試験H.4に従って測定される。
【0035】
乳剤は、危険物の輸送に関する国連勧告のPart II、Division 5.2、試験および判定基準の手引き(改訂第4版)の「有機過酸化物タイプF」の分類試験を満足し、その結果、分類UN 3109および/またはUN 3119にならなければならない。
【0036】
乳剤の用途
本発明による乳剤は、例を挙げるとエチレン性不飽和モノマー、例えば塩化ビニルモノマーの重合反応におけて使用される。
【0037】
特に、それは、1種または複数のエチレン性不飽和モノマー、例えば塩化ビニルモノマーを懸濁重合する方法における使用に非常に適切であり、この方法は、重合反応器に本願請求項のいずれか一項に記載の乳剤を重合温度で連続的および/または断続的に添加するステップを伴う。このような方法は、WO 2000/017245、WO 2003/054040、WO 2003/087168、WO 2003/054039、WO 2004/096871、WO 2004/113392、およびWO 2005/000916に記載されている。
【実施例】
【0038】
乳剤の調製
以下の実施例では、水相に油相を加えて、乳化にUltra Turraxを使用して乳剤を調製した。温度を−10°〜0℃の間に保つためにクーリングシェルを使用した。この温度範囲内に維持する必要がある場合は、Ultra Turraxによる作用を一時的に中断した。
【0039】
以下の実施例における水相は、PVAおよび他の分散剤を水/メタノールの混合物に加えた後、1時間の撹拌時間を与えながら、各成分を室温で実験室用撹拌機つきのガラスビーカー内で混合することにより調製した。
【実施例1】
【0040】
乳剤を上記の手順に従って調製した。油相および水相は次の組成を有していた。
油相
・イソドデカン中に72重量%のジイソブチリルペルオキシド
水相
・PVA:酸性条件下で62〜68%加水分解(濃淡まだらな加水分解)、最終乳剤の1.1重量%
・エトキシ化ステアリルアルコール(HLB=18.5):最終乳剤の0.3重量%
・メタノール/水の混合物(重量比:32/68):水相が100重量%になるまでの量
【0041】
最終乳剤の過酸化物含有率は、40重量%であり、最終乳剤の活性酸素含有率は、3.67重量%であった。
【0042】
乳剤の安定性は、光散乱(Malvern(登録商標)Easy Sizer)を使用して、液滴直径を経時的に測定することで決定した。乳剤は非常に安定であることが判明した。分散相体積の99%は、十分に10ミクロン未満であり、−25℃〜−20℃の間で貯蔵すると、少なくとも3カ月間はその状態のままであった。
【0043】
35℃(過酸化物が相対的に早く分解する)に保持して、150mlの乳剤を用いた分離試験では、生成物は、液体の高さが36%の透明な上層と、液体の高さが64%の白い(乳剤の)下層に分離した。上層の活性酸素濃度は1重量%未満であった。
【0044】
過酸化物含有の油相は、水相の中で分散したままであったので、過酸化物は、水相の極めて近くで分解するであろう。したがって、分解熱は、水相を熱し、蒸発させるために最初使用されよう。そのため、温度は、水相の沸点を超えることはなく、非常に適度なままとなろう。これにより、危険な結果を伴う熱爆発に発展することのない暴走が保証されよう。言い換えれば、乳剤は、こうした暴走状件下でも、相対的に安定したままである。
【0045】
非撹拌状件下でこの乳剤10kgを用いた、大型貯蔵タンクの火炎包囲をシミュレーションする大規模暴走試験によって、暴走挙動が安全であることを確認した。この試験は、乳剤8.675kgを用いて、ベントサイズが直径13mmの9.64リットルの容器内で実施した。ベント口には、1バーグ(barg)破裂板(全体が(whole)1mmのアルミニウムディスク)が備えられていた。適用した加熱速度は0.5℃/分であった。暴走中にディスクは1.1バールで破裂し、二次的な圧力効果はなかった。
【実施例2】
【0046】
ランダムに加水分解したPVAを使用した以外、実施例1を繰り返した。得られた乳剤は非常に安定しており、分散相体積の99%は、十分に10ミクロン未満であり、−25℃〜−20℃の間で保存すると、少なくとも3カ月間はその状態のままであった。
【0047】
35℃に保持して、150mlの乳剤を用いた分離試験では、分離は発生せず、高くした温度で8時間後でも発生しなかった。乳剤は、こうした暴走状件下でも完全に安定したままであると結論付けることができる。
【0048】
実施例1に記載したような大規模暴走試験によって、二次的な圧力効果のない安全な暴走挙動が確認された。
【0049】
比較例A
油相が48重量%のジイソブチリルペルオキシドを含有したこと以外、実施例2を繰り返した結果、最終乳剤中の過酸化物濃度が26重量%となり、最終乳剤の活性酸素含有率が2.39重量%となった。
得られた乳剤は非常に安定しており、分散相体積の99%は、十分に10ミクロン未満であった。
【0050】
実施例1に記載した通りであるが、異なるベントサイズ(破裂板のサイズ)を用いて実施した大規模暴走試験の結果、ディスクの破裂後に二次的な圧力効果が発生した。異なる2つの実験で使用したディスクは、9および14mmであり、二次的な圧力効果は、9mmディスクでは12.9バールおよび14mmディスクでは4.1バールもの高さになった。同じA/V(ベント口とタンクサイズとの比)を有する貯蔵タンクは、4.1バールの二次的な圧力効果に耐えるように設計することはできるが、この実施例の乳剤が、貯蔵タンクに対してより高い要件を求めることは、明らかである。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水相中に分散した油相を含む乳剤であって、前記油相が、少なくとも53重量%の1種または複数の有機過酸化物を含み、該有機過酸化物の50重量%超が、少なくとも7.00重量%の分子内活性酸素含有率を有し、前記乳剤が有機過酸化物タイプFの分類試験を満足させる乳剤。
【請求項2】
乳剤の活性酸素含有率が、少なくとも2.60、好ましくは少なくとも3.10重量%、さらに好ましくは少なくとも3.5重量%である、請求項1に記載の乳剤。
【請求項3】
乳剤の活性酸素含有率が、4.60重量%以下、好ましくは4.20重量%以下である、請求項1または請求項2に記載の乳剤。
【請求項4】
油相が、1種または複数の有機過酸化物を少なくとも55重量%、好ましくは少なくとも60重量%、最も好ましくは少なくとも68重量%含む、前記請求項のいずれか一項に記載の乳剤。
【請求項5】
油相中に存在する1種または複数の有機過酸化物の50重量%超が、少なくとも8.00重量%、好ましくは少なくとも9.00重量%の分子内活性酸素含有率を有する、前記請求項のいずれか一項に記載の乳剤。
【請求項6】
有機過酸化物が、ジイソブチリルペロキシドである、請求項5に記載の乳剤。
【請求項7】
水相が、少なくとも50重量%の水を含む、前記請求項のいずれか一項に記載の乳剤。
【請求項8】
水相が、1種または複数の不凍剤を含む、前記請求項のいずれか一項に記載の乳剤。
【請求項9】
重合反応における、前記請求項のいずれか一項に記載の過酸化物乳剤の使用。
【請求項10】
重合反応が、塩化ビニルモノマーの重合である、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
重合反応器に前記請求項のいずれか一項に記載の乳剤を重合温度で連続的および/または断続的に添加するステップを含む、1種または複数のエチレン性不飽和モノマーを懸濁重合する方法。
【請求項12】
エチレン性不飽和モノマーの少なくとも1種が塩化ビニルモノマーである、請求項11に記載の方法。


【公表番号】特表2013−501116(P2013−501116A)
【公表日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−523315(P2012−523315)
【出願日】平成22年8月3日(2010.8.3)
【国際出願番号】PCT/EP2010/061251
【国際公開番号】WO2011/015567
【国際公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(509131443)アクゾ ノーベル ケミカルズ インターナショナル ベスローテン フエンノートシャップ (26)
【氏名又は名称原語表記】Akzo Nobel Chemicals International B.V.
【住所又は居所原語表記】Stationsstraat 77, 3811 MH Amersfoort, Netherlands
【Fターム(参考)】