説明

高い絶縁破壊電圧性を有するプラスチックフィルム

【課題】高い絶縁破壊電圧を有するプラスチックフィルムおよびその製造方法、プラスチックフィルムの絶縁破壊電圧を、フィルムのモルフォロジーを変化させることで向上させる方法、ならびに当該プラスチックフィルムの、コンデンサーの誘電体フィルムとしての使用を提供する。
【解決手段】本発明にかかる延伸フィルムは、少なくとも1種のポリエステルおよび/またはポリカーボネートを含む分散相が、この分散相の少なくとも1種のポリエステルおよび/またはポリカーボネートとは異なる少なくとも1種のポリエステルおよび/またはポリカーボネートを含むマトリックス相中にプレートレットの形態で分散しており、かつ、その分散相のポリエステルおよび/またはポリカーボネートの含有率が、50重量%未満に設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンデンサーの誘電体フィルムとして使用可能なプラスチックフィルムに関する。また、本発明は、このようなプラスチックフィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、コンデンサーは、電気エネルギーを貯蔵可能な絶縁媒体(誘電体フィルム)と、この絶縁媒体によって隔離された2枚の導電性の金属製板材とによって構成される。すなわち、コンデンサーは、2枚の導電性の金属製板材の間に誘電体フィルムが挟まれて形成されている。フィルムは絶縁体として働き、コンデンサーの一方の板材から他方の板材に電子が移動するのを妨げる。特定のコンデンサーにおいて安全に貯蔵可能とされる最大エネルギーは、コンデンサーに使用される誘電体が破壊されずに耐えることのできる最大の電界強度によって決まる。
【0003】
フィルムが貯蔵可能なエネルギーは、フィルムの誘電率と、以下の式で表される誘電体の電気的破壊(絶縁破壊電圧)とに比例する。
エネルギー密度E=0.5×ε×ε×BDV
(式中、BDVは絶縁破壊電圧(V/μm)を表し、εはフィルムの理論的な比誘電率(単純に「誘電率」とも称される)を表し、εは絶対誘電率を表す。)
【0004】
プラスチックフィルムを備えるコンデンサーのエネルギー密度は、前記比誘電率の増加により向上させることができる。比誘電率の増加は、極性を有するポリマー材料を使用したり、極性ポリマーなどの極性を有する成分やセラミック粒子などの添加剤をポリマーフィルムに添加したりすることで達成できる。
【0005】
当該技術分野では、高い比誘電率を有するプラスチックフィルムを誘電体フィルムとして使用したコンデンサーが知られている。例えば、特許文献1には、フッ化ビニリデン系ポリマーと、ポリカーボネートおよび/または熱可塑性ポリエステルとを含む誘電体フィルムを使用したコンデンサーが開示されている。
【0006】
特許文献2には、高いエネルギー密度を有するプラスチックフィルムが開示されている。このフィルムは、少なくとも1種の非極性のホモポリマーに、少なくとも1種の極性又は非極性のホモポリマーを加えた均質な混合物で構成される。非極性のホモポリマーとして、例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)などが挙げられる。極性ポリマーとして、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)が挙げられる。これらのホモポリマーが均質状態で混合かつ共押出されることにより、溶融流延によるハイブリッドコポリマーの誘電体フィルムが形成される。当該特許文献には、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)とポリプロピレン(PP)とによるハイブリッドコポリマーが開示されている。また、当該特許文献には、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)およびポリプロピレン(PP)を含むコポリマーを第一成分とし、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)又はポリエチレンナフタレート(PEN)を第二成分としたフィルムも開示されている。当該特許文献に開示されているフィルムは、均質な固液混合物から形成される。
【0007】
プラスチックフィルムを備えるコンデンサーのエネルギー密度は、フィルムの絶縁破壊電圧の増加により向上させることができる。
【0008】
特許文献3には、フィルムコンデンサーとして好適な二軸配向フィルムが開示されている。この二軸配向フィルムは、芳香族ポリエステル(a)と、230〜280℃の融点を有するポリオレフィン(b)とからなり、当該ポリオレフィン(b)の占める割合が、フィルムの全重量を基準として2〜60重量%の範囲にある。前記ポリオレフィン(b)は、シンジオタクチック構造のスチレン系重合体であるのが好ましい。また、このフィルムはボイドを有さないのが好ましい。当該特許文献におけるボイドとは、マトリックス相を形成する芳香族ポリエステル(a)と島相を形成するポリオレフィン(b)との界面に生じる空洞を指す。ボイドが存在すると、フィルムの延伸工程においてフィルムが破断しやすくなることがある。また、フィルム厚みが薄くなるに従い、ボイドの部分が欠陥となって、力学的特性が低下したり耐電圧特性が低下したりすることがある。相溶化剤を含有させることによってボイドをなくすことも可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】欧州特許出願公開第0039214号明細書
【特許文献2】米国特許第6426861号明細書
【特許文献3】欧州特許出願公開第1712592号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、高い絶縁破壊電圧性を有するプラスチックフィルムに関する。このフィルムは、コンデンサーの誘電体フィルムとして使用可能であり、高いエネルギー密度をコンデンサーに付与する。
【0011】
また、本発明は、フィルムのモルフォロジーを変化させることで、プラスチックフィルムの絶縁破壊電圧を向上させる方法にも関する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、少なくとも1種のポリエステルおよび/またはポリカーボネートを含む分散相が、前記分散相の少なくとも1種のポリエステルおよび/またはポリカーボネートとは異なる少なくとも1種のポリエステルおよび/またはポリカーボネートを含むマトリックス相中にプレートレットの形態で分散しており、前記分散相のポリエステルおよび/またはポリカーボネートの含有率が、50重量%未満である延伸フィルムに関する。
【0013】
一実施形態では、延伸フィルムは、フィルム厚みが0.3〜25μm、好ましくは0.9〜6μm、より好ましくは2〜4μmである。
【0014】
一実施形態では、前記プレートレットの最大寸法が、10μm未満、好ましくは5μm未満、より好ましくは1μm未満である。
【0015】
また、本発明は、
−少なくとも1種のポリエステルおよび/またはポリカーボネートを含むマトリックス相を少なくとも50重量%と、
−前記マトリックス相を構成する少なくとも1種のポリエステルおよび/またはポリカーボネートと混和可能かつ相溶可能であり、マトリックス相中に相分離構造を形成している、少なくとも1種のポリエステルおよび/またはポリカーボネートと、
を有する混合物で構成され、前記混合物は相溶剤を有していない延伸フィルムに関する。
【0016】
一実施形態では、少なくとも1種のポリエステルおよび/またはポリカーボネートを含むマトリックス相において、ポリエステルが、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンイソフタレート、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリブチレンイソフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリトリメチレンイソフタレート、ポリトリメチレンナフタレート、ポリ(シクロへキシレン−ジメタノール−テレフタレート)(PCT)、ポリ(メチレン−1,3−プロピレン−テレフタレート)、ポリへキサメチレンテレフタレート、ポリイソソルビドテレフタレート、ポリヘキサメチレンナフタレート、ポリアリレート(Par)、これらの共重合体、これらの混合物、および液晶ポリエステルで構成された群から選択される。
【0017】
一実施形態では、少なくとも1種のポリエステルおよび/またはポリカーボネートを含むマトリックス相において、ポリカーボネートが、ポリプロピレンカーボネート(PPC)、ポリフタレートカーボネート、ジフェニルポリカーボネート(DPC)、ポリエチレンテレフタレートカーボネート、ポリエチレンカーボネート、これらの共重合体、およびこれらの混合物で構成された群から選択される。
【0018】
一実施形態では、マトリックス相中に分散している(分散相の)少なくとも1種のポリエステル、またはマトリックス相と混和可能かつ相溶可能な少なくとも1種のポリエステルが、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンイソフタレート、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリブチレンイソフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリトリメチレンイソフタレート、ポリトリメチレンナフタレート、ポリ(シクロへキシレン−ジメタノール−テレフタレート)(PCT)、ポリ(メチレン−1,3−プロピレン−テレフタレート)、ポリへキサメチレンテレフタレート、ポリイソソルビドテレフタレート、ポリヘキサメチレンナフタレート、ポリアリレート(Par)、これらの共重合体、これらの混合物、および液晶ポリエステルで構成された群から選択される。
【0019】
一実施形態では、マトリックス相中に分散している(分散相の)少なくとも1種のポリカーボネート、またはマトリックス相と混和可能かつ相溶可能な少なくとも1種のポリカーボネートが、ポリプロピレンカーボネート(PPC)、ポリフタレートカーボネート、ジフェニルポリカーボネート(DPC)、ポリエチレンテレフタレートカーボネート、ポリエチレンカーボネート、これらの共重合体、およびこれらの混合物で構成された群から選択される。
【0020】
一実施形態では、マトリックス相中に分散している(分散相の)少なくとも1種のポリエステルおよび/またはポリカーボネート、またはマトリックス相と混和可能かつ相溶可能な少なくとも1種のポリエステルおよび/またはポリカーボネートが、比誘電率が1〜6未満、好ましくは1〜4、より好ましくは2〜4、さらに好ましくは2.5〜3.5のポリマーから選択される。
【0021】
一実施形態において、延伸フィルムは二軸延伸フィルムである。
【0022】
一実施形態において、延伸フィルムは、面積5cm×5cmで測定された絶縁破壊電圧が、370V/μmを超えており、好ましくは、440〜550V/μmである。
【0023】
一実施形態において、延伸フィルムは、エネルギー密度が2.0J/cmを超えており、好ましくは2.5〜3.5J/cmであり、より好ましくは3.5〜4.5J/cmである。
【0024】
一実施形態において、延伸フィルムは、フィラー粒子を60,000ppm以下含む。
【0025】
一実施形態において、延伸フィルムは、フィラーを含まない。
【0026】
一実施形態において、延伸フィルムは、機械軸方向(縦方向)(MD)またはこれに直交する方向(横方向)(TD)の弾性率が、1000N/mmを超えており、好ましくは2500〜4000N/mmである。
【0027】
一実施形態において、延伸フィルムは、機械軸方向(MD)の収縮率およびこれに直交する方向(TD)の収縮率が、150℃で5%未満であり、かつ、200℃で15%未満である。
【0028】
一実施形態では、分散相が、ポリエステルおよびポリカーボネートからなる群から選択される少なくとも2種のポリマーで構成され、マトリックス相が、ポリエチレンテレフタレート(PET)およびポリエチレンナフタレート(PEN)からなる群から選択されるポリエステルで構成され、前記分散相はプレートレット(platelets)を形成しており、マトリックス相のポリエステルのガラス転移温度をTgmとして、分散相の各ポリマーのガラス転移温度がTgm+10℃からTgm+40℃である。一実施形態では、分散相がポリカーボネートとポリエステルとの混合物であり、かつ、マトリックス相のポリエステルがポリエチレンテレフタレート(PET)である。一実施形態では、分散相に含まれるポリエステルは、ポリエチレンテレフタレート(PET)またはポリブチレンテレフタレート(PBT)である。
【0029】
一実施形態では、分散相または分離相が、ポリシクロヘキサン−ジメタノール−テレフタレート(PCT)の共重合体で構成されており、かつ、マトリックス相に含まれるポリエステルがポリエチレンテレフタレート(PET)である。
【0030】
上述の直前2つの段落において製造されるフィルムは、200Vを超える電圧および120℃を超える温度で動作する電力用コンデンサーの絶縁フィルムとして使用することができる。
【0031】
一実施形態では、分散相または分離相が、ポリカーボネート(PC)で構成されており、かつ、マトリックス相に含まれるポリエステルがポリエチレンナフタレート(PEN)である。
【0032】
また、本発明は、上述の延伸フィルムを誘電体フィルムとして備えるコンデンサーにも関する。
【0033】
また、本発明は、延伸フィルムの、酸素バリア(酸素遮断材)としての使用にも関する。
【0034】
また、本発明は、延伸フィルムの、絶縁フィルムとしての使用にも関する。
【0035】
また、本発明は、延伸フィルムの製造方法に関し、当該製造方法は、
a)混和可能かつ相溶可能なポリエステルおよび/またはポリカーボネートの混合物であって、少なくとも1種のポリマーの含有率が少なくとも50重量%である混合物を用意する工程と、
b)少なくとも1種のポリマーがノジュール(島状)の形態で分散するようにフィルムを形成する工程と、
c)前記分散した少なくとも1種のポリマーがプレートレットの形態になるようにフィルムを延伸する工程と、
d)フィルムを加熱する工程と、
を含む。
【0036】
一実施形態において、フィルムは二軸延伸される。
【0037】
一実施形態において、フィルムは同時延伸される。
【0038】
一実施形態において、延伸比は2〜7倍、好ましくは3.5〜4.5倍である。
【0039】
一実施形態において、工程c)は、混合物に含まれるポリマーの最も高いガラス転移温度をTgとして、Tg+5℃からTg+30℃の温度で行われる。
【0040】
一実施形態において、工程d)は、混合物に含まれるポリマーの最も高い融点をTmとして、Tm−80℃からTm−10℃の温度、好ましくはTm−70℃からTm−20℃の温度で行われる。
【0041】
一実施形態において、混合物を構成するポリエステルの溶融粘度は、混合物に含まれるポリマーの最も高い融点をTmとして、温度Tmで50Pa・sから5000Pa・sである。
【0042】
また、本発明は、少なくとも1種のポリマーを含む分散相を、少なくとも1種の異なるポリマーを含むマトリックス相中に有する延伸フィルムの、コンデンサーフィルムの絶縁破壊電圧を増加させる使用に関し、前記分散相のポリマーは、比誘電率が6未満であり、かつ、前記延伸フィルムにプレートレットの形態で50重量%未満含まれている。
【0043】
一実施形態において、分散相を構成する各ポリマーの比誘電率とマトリックス相の平均比誘電率との差の絶対値は2未満、好ましくは1未満である。2種以上のポリマーを含むマトリックス相の平均比誘電率は、以下の式から導き出す。この式は、マトリックス相の「平均」比誘電率εを求める式である:
1/ε=Σ/εmi
(式中、εはマトリックス相の「平均」比誘電率を表し、wはマトリックス相に含まれるi種類目のポリマーの重量百分率を表し、εmiはマトリックス相に含まれるi種類目のポリマーの比誘電率を表す。)
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】ポリエチレンナフタレート(PEN)のマトリックス相中に、分散相としてのポリカーボネート(PC)を30%含んだ未延伸の混合物を、拡大比10,000倍で示した電子顕微鏡像である。
【図2】ポリエチレンナフタレート(PEN)およびポリエチレンテレフタレート(PET)で構成されるマトリックス相中に、分散相としてのポリカーボネート(PC)を20%含んだ未延伸の混合物を、拡大比10,000倍で示した電子顕微鏡像である。
【図3】ポリエチレンナフタレート(PEN)のマトリックス相中に、分散相としてのポリカーボネート(PC)を30%含んだ3.5×3.5倍延伸の延伸フィルムを、拡大比5,000倍で示した電子顕微鏡像である。延伸フィルムの分散相とマトリックス相との界面にボイド(間隙など)は見られない。
【図4】ポリエチレンナフタレート(PEN)およびポリエチレンテレフタレート(PET)で構成されるマトリックス相中に、分散相としてのポリカーボネート(PC)を20%含んだ3.5×3.5倍延伸の延伸フィルムを、拡大比5,000倍で示した電子顕微鏡像である。延伸フィルムの分散相とマトリックス相との界面にボイドは見られない。
【図5】実験例および比較実験例で作製される様々なフィルムについて、その分散相の重量%と絶縁破壊電圧(V/μm)との関係を示したグラフであり、図中の各データ点に付された数字は、実験例および比較実験例の番号を指している。
【発明を実施するための形態】
【0045】
本発明は、ポリマー混合物から得られる延伸フィルムに関し、そのポリマー混合物は、少なくとも1種のポリマーを含む分散相を、少なくとも1種の異なるポリマーを含むマトリックス相中に有する。本発明の最も好ましい実施形態において、前記ポリマー混合物は、少なくとも1種のポリエステルおよび/またはポリカーボネートを含む第1のポリマーからなる分散相を、少なくとも1種のポリエステルおよび/またはポリカーボネートを含む第2のポリマーからなるマトリックス相中に有するポリマー混合物であって、前記第1のポリマーと第2のポリマーとは異なるポリマーである。しかしながら、当業者であれば、本発明は、ポリエステルやポリカーボネート以外の種類のポリマーの組合せにも適用できる。
【0046】
前記ポリマー混合物は、一次フィルムに加工され、その後、延伸にかけられる。得られたフィルムは、高い絶縁破壊電圧、高いエネルギー密度および高い使用温度範囲を有することを特徴とする。
【0047】
分散した少なくとも1種のポリマーが形成する第一の相は、第二の相を形成するマトリックス相とは相分離している。分散した少なくとも1種のポリマーは、ポリマーのマトリックス相中にノジュール(島)を形成する。本発明において、「ノジュール」とは、所定の寸法比を特徴とする、略丸形状の部分のことをいう。当該所定の寸法比は、ノジュールの最小寸法に対する最大寸法の比を指す。前記所定の寸法比は、2未満、好ましくは1.5未満である。ノジュールの最小寸法および最大寸法は、一次フィルムの鉛直断面(水平断面ではない)を切り取り、その断面の電子顕微鏡像を分析することによって測定する。
【0048】
相分離およびノジュールの存在は、電子顕微鏡を用いて確認することができる。図1は、ポリエチレンナフタレート(PEN)のマトリックス相中にポリカーボネート(PC)の分散相を含んだ混合物の電子顕微鏡像である。図2は、PENおよびPETで構成されるマトリックス相中に、分散相としてのポリカーボネート(PC)を20%含んだ未延伸の混合物の電子顕微鏡像である。画像においてノジュールは、不規則な形状の丸い複数の塊として見える。その直径は、典型的に、20nmから1000nmである。
【0049】
混合物中に分散した少なくとも1種のポリマーの、当該混合物における含有率は50重量%未満である。
【0050】
好ましくは、混合物中に分散した少なくとも1種のポリマーの、当該混合物における含有率は少なくとも5重量%であり、より好ましくは少なくとも10重量%であり、さらに好ましくは少なくとも25重量%である。
【0051】
好ましい一実施形態において、相分離は、互いに相溶可能なポリマーを選択することで形成させることができる。2種類の互いに相溶可能なポリマーとは、以下の条件を満たすポリマーのことをいう:
a)2種類のポリマーが、互いに相溶可能であり、かつ、二相系へ加工することが可能である。
b)2種類のポリマー間の相溶および共重合が、二相間の界面でのみ生じる。
c)界面での相溶および共重合により、一次フィルムの形成工程及び後続の延伸工程において二相間にボイドが生じない。
【0052】
ポリマーが互いに相溶可能であるとは、分散相がマトリックス相に密着することを意味する。高い絶縁破壊電圧を得るには、欠損がないことに加えて、分散相とマトリックス相との間の良好な密着性が要求される。分散相の少なくとも1種のポリマーとマトリックス相の少なくとも1種のポリマーとが互いに相溶可能である場合、欠損のない界面を得ることができる。しかも、分散相とマトリックス相との間で剥離が生じない。「界面」とは、分散相とマトリックス相との間の境界であると定義する。界面の幅は、一般的に、約10nmから約100nmである。
【0053】
ポリマーが互いに相溶可能である場合、混合物の相(混合状態の相)に相溶化剤を添加しなくてもよいことに留意されたい。すなわち、分散相とマトリックス相との間の界面を安定化させる必要がないのである。よって、本発明にかかるフィルムを得るための混合物は、好ましくは相溶化剤を含まない。
【0054】
この好ましい実施形態において、混合物には互いに相溶可能なポリマーのみが含まれ、極性基を有するポリマー、すなわち、比誘電率が6を超えるポリマーは含まれない。
【0055】
好ましい一実施形態において、混合物は、カルボン酸エステル基R−CO−O−R’(式中、R及びR’はアルキル基またはアリール基を表す)を有するポリエステルを含む。当該混合物は、さらに、カーボネート基R−O−COO−R’(式中、R及びR’はアルキル基、アリール基、アミド基、エーテル基、アリールエーテル基、イミド基またはエステル基を表す)を有するポリカーボネートを含む。
【0056】
マトリックス相を構成する少なくとも1種のポリマーがポリエステルの場合、当該ポリエステルは、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンイソフタレート、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリブチレンイソフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリトリメチレンイソフタレート、ポリトリメチレンナフタレート、ポリ(シクロヘキサン−ジメタノール−テレフタレート)(PCT)、ポリ(メチレン−1,3−プロピレン−テレフタレート)、ポリヘキサメチレンテレフタレート、ポリイソソルビドテレフタレート、ポリヘキサメチレンナフタレート、ポリアリレート(Par)、これらの共重合体、これらの混合物、および液晶ポリエステルで構成された群から選択されてもよい。
【0057】
マトリックス相を構成する少なくとも1種のポリマーがポリカーボネートの場合、当該ポリカーボネートは、ポリプロピレンカーボネート(PPC)、ポリフタレートカーボネート、ジフェニルポリカーボネート(DPC)、ポリエチレンテレフタレートカーボネート、ポリエチレンカーボネート、これらの共重合体、およびこれらの混合物で構成された群から選択されてもよい。
【0058】
分散相に含まれる少なくとも1種のポリマーがポリエステルの場合、当該ポリエステルは、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンイソフタレート、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリブチレンイソフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリトリメチレンイソフタレート、ポリトリメチレンナフタレート、ポリ(シクロヘキサン−ジメタノール−テレフタレート)(PCT)、ポリ(メチレン−1,3−プロピレン−テレフタレート)、ポリヘキサメチレンテレフタレート、ポリイソソルビドテレフタレート、ポリヘキサメチレンナフタレート、ポリアリレート(Par)、これらの共重合体、これらの混合物、および液晶ポリエステルで構成された群から選択されてもよい。
【0059】
分散相に含まれる少なくとも1種のポリマーがポリカーボネートの場合、当該ポリカーボネートは、ポリプロピレンカーボネート(PPC)、ポリフタレートカーボネート、ジフェニルポリカーボネート(DPC)、ポリエチレンテレフタレートカーボネート、ポリエチレンカーボネート、これらの共重合体、およびこれらの混合物で構成された群から選択されてもよい。
【0060】
好適な種類のポリカーボネートとして、Bayer社のMAKROLON(登録商標)、General Electric社のLEXAN(登録商標)、Teijin社のPANLITE(登録商標)、DSM社のXANTAR(登録商標)、Mitsubishi社のIUPILON(登録商標)、Dow社のCALIBER(登録商標)などの上市されている銘柄のポリカーボネートが挙げられる。好適な種類のポリカーボネート系の混合物として、Bayer社のMAKROBLEND(登録商標)、General Electric社のXENOY(登録商標)、Ticona社のVANDAR(登録商標)、Dow社のSABRE(登録商標)、DSM社のSTAPRON(登録商標)E、BASF社のULTRABLEND(登録商標)などの上市されている銘柄の混合物が挙げられる。以上のリストは例示に過ぎず、他を排除するわけではない。
【0061】
好適な種類のポリエステルとして、Eastman社のTRISTAN(登録商標)、EASTMAN(登録商標)、EKTAR(登録商標)、EASTAR(登録商標)、KODAR(登録商標)、SK Chemicals社のSKYGREEN(登録商標)などの上市されている銘柄のポリエステルが挙げられる。好適な種類の液晶ポリエステルとして、Ticona社のVECTRA(登録商標)、Solvay社のXydar(登録商標)、DuPont社のZENITE(登録商標)などの銘柄の液晶ポリエステルが挙げられる。以上のリストは例示に過ぎず、他を排除するわけではない。
【0062】
一実施形態(上述の実施形態のほうが好適ではあるが)において、混合物は、互いに相溶可能でないポリマーと相溶化剤とを含む。相溶化剤が添加されることで、一次フィルムの形成工程及び後続の延伸工程において二相間にボイドが生じることを防ぐことができる。
【0063】
一実施形態において、混合物は、分散相としてのポリカーボネートを、ポリエチレンナフタレートおよび/またはポリエチレンテレフタレートを含むマトリックス相中に有している。好ましい一実施形態において、混合物は、分散相としてのポリカーボネート(PC)を5〜15%含み、マトリックス相としてのポリエチレンナフタレート(PEN)を85〜95%含む。好ましい別の実施形態において、混合物は、分散相としてのポリカーボネート(PC)を25〜35%含み、マトリックス相としてのポリエチレンナフタレート(PEN)および/またはポリエチレンテレフタレート(PET)を65〜75%含む。好ましい別の実施形態において、混合物は、分散相としてのポリカーボネート(PC)を35〜45%含み、マトリックス相としてのポリエチレンナフタレート(PEN)を55〜65%含む。
【0064】
一実施形態において、混合物は、ポリシクロへキサン−ジメタノール−テレフタレート(PCT)またはポリシクロへキサン−ジメタノール−テレフタレート(PCT)の共重合体を含む分散相を、ポリエチレンナフタレート(PEN)および/またはポリエチレンテレフタレート(PET)を含むマトリックス相中に有する。好ましい一実施形態において、混合物は、分散相としてのポリシクロへキサン−ジメタノール−テレフタレート(PCT)を35〜45%含み、マトリックス相としてのポリエチレンナフタレート(PEN)および/またはポリエチレンテレフタレート(PET)を55〜65%含む。
【0065】
一実施形態において、混合物は、ポリシクロへキサン−ジメタノール−テレフタレート(PCT)またはポリシクロへキサン−ジメタノール−テレフタレート(PCT)の共重合体とポリカーボネートとを含む分散相を、ポリエチレンナフタレート(PEN)および/またはポリエチレンテレフタレート(PET)を含むマトリックス相中に有する。
【0066】
一実施形態において、混合物は、ポリカーボネート(PC)および/またはポリブチレンテレフタレート(PBT)および/またはポリエチレンテレフタレート(PET)および/またはこれらの共重合体を含む分散相を、ポリエチレンナフタレート(PEN)および/またはポリエチレンテレフタレート(PET)および/またはポリカーボネート(PC)および/またはこれらの共重合体を含むマトリックス相中に有する。
【0067】
好ましい一実施形態において、混合物は、分散相として、
a)ポリエチレンテレフタレート(PET)およびポリカーボネート(PC)、または
b)ポリブチレンテレフタレート(PBT)およびポリカーボネート(PC)
を含むブレンドを15〜45%含み、マトリックス相として、ポリエチレンテレフタレート(PET)を55〜85%含む。本明細書における百分率(%)は、基本的に、混合物の重量に対する重量%とする。
【0068】
一実施形態において、混合物は、ポリカーボネート(PC)およびポリブチレンテレフタレート(PBT)およびこれらの共重合体を含む分散相を、ポリエチレンナフタレート(PEN)および/またはポリエチレンテレフタレート(PET)および/またはポリカーボネート(PC)および/またはこれらの共重合体を含むマトリックス相中に有する。
【0069】
一実施形態において、混合物は、ポリカーボネート(PC)およびポリエチレンテレフタレート(PET)およびこれらの共重合体を含む分散相を、ポリエチレンナフタレート(PEN)および/またはポリエチレンテレフタレート(PET)および/またはポリカーボネート(PC)および/またはこれらの共重合体を含むマトリックス相中に有する。
【0070】
一実施形態において、混合物は、ポリエチレンテレフタレート(PET)およびポリブチレンテレフタレート(PBT)およびこれらの共重合体を含む分散相を、ポリエチレンナフタレート(PEN)および/またはポリエチレンテレフタレート(PET)および/またはポリカーボネート(PC)および/またはこれらの共重合体を含むマトリックス相中に有する。
【0071】
一実施形態において、混合物は、ポリエチレンテレフタレート(PET)を含む分散相を、ポリシクロへキサン−ジメタノール−テレフタレート(PCT)を含むマトリックス相に有する。好ましい一実施形態において、混合物は、分散相としてのポリエチレンテレフタレート(PET)を35〜45%含み、マトリックス相としてのポリシクロへキサン−ジメタノール−テレフタレート(PCT)を55〜65%含む。
【0072】
一実施形態において、混合物は、ポリエチレンナフタレート(PEN)、および/またはポリシクロへキサン−ジメタノール−テレフタレート(PCT)の単独重合体もしくは共重合体、および/またはポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、および/またはポリトリメチレンイソフタレート、および/またはポリエチレンテレフタレート(PET)の単独重合体もしくは共重合体、および/またはポリブチレンテレフタレート(PBT)の単独重合体もしくは共重合体を含む分散相を、ポリカーボネート(PC)および/またはポリカーボネート(PC)の共重合体および/またはポリエチレンカーボネートを含むマトリックス相中に有する。
【0073】
一実施形態において、混合物は、ポリシクロへキサン−ジメタノール−テレフタレート(PCT)の単独重合体もしくは共重合体、および/またはポリブチレンテレフタレート(PBT)の単独重合体もしくは共重合体、および/またはポリトリメチレンテレフタレート(PTT)の単独重合体もしくは共重合体を含む分散相を、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンナフタレート(PEN)またはポリエチレンテレフタレート(PET)を含むマトリックス相中に有する。
【0074】
一実施形態において、混合物は、ポリブチレンテレフタレート(PBT)を含む分散相を、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリシクロへキサン−ジメタノール−テレフタレート(PCT)またはポリシクロへキサン−ジメタノール−テレフタレート(PCT)の共重合体を含むマトリックス相中に有する。
【0075】
一実施形態において、混合物は、Bayer社のMAKROBLEND(登録商標)、General Electric社のXENOY(登録商標)、Ticona社のVANDAR(登録商標)、Dow社のSABRE(登録商標)、DSM社のSTAPRON(登録商標)E、BASF社のULTRABLEND(登録商標)などの上市されているブレンドで構成されたものであってもよい。以上のリストは例示に過ぎず、他を排除するわけではない。
【0076】
一実施形態において、混合物は、Eastman社のTRISTAN(登録商標)、EASTMAN(登録商標)、EKTAR(登録商標)、EASTAR(登録商標)、KODAR(登録商標)、SK Chemicals社のSKYGREEN(登録商標)などの上市されているブレンドで構成されたものであってもよい。以上のリストは例示に過ぎず、他を排除するわけではない。
【0077】
混合物として、ポリエチレンテレフタレート/ポリエチレンナフタレート共重合体を含む分散相を、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンナフタレート(PEN)またはポリエチレンテレフタレート(PET)を含むマトリックス相中に有する混合物も考えられる。
【0078】
好ましい一実施形態において、混合物は、分散相としてのポリカーボネート(PC)を15〜45%含み、マトリックス相としてのポリエチレンナフタレート(PEN)を55〜85%含む。
【0079】
好ましい一実施形態において、混合物は、分散相とマトリックス相とを有し、
−前記分散相は、ポリエステルおよびポリカーボネートからなる群から選択される少なくとも2種のポリマーを含み、
−前記マトリックス相は、ポリエチレンテレフタレート(PET)およびポリエチレンナフタレート(PEN)からなる群から選択されるポリエステルを含み、かつ、
マトリックス相に含まれるポリエステルのガラス転移温度をTgmとして、分散相に含まれる各ポリマーのガラス転移温度がTgm+10℃からTgm+40℃である。PETのガラス転移温度は約75℃である。PENのガラス転移温度は約125℃である。特に好ましい混合物は、マトリックス相としてポリエチレンテレフタレート(PET)を有する。
【0080】
マトリックス相に含まれるポリエステルのガラス転移温度をTgmとして、分散相はガラス転移温度がTgm+10℃からTgm+40℃であるポリマーを含むのが有利である。この構成は次の利点を有する:延伸フィルムにおいてプレートレットが楕円形状を示し、この楕円形状のプレートレットが、電子の運動を抑制するブレーキのように作用することで、電子の運動エネルギーを減少することができる。
【0081】
極めて優れた混和性は、特に、分散相がポリカーボネートとポリエステルの混合物を含み、かつ、マトリックス相に含まれるポリエステルがポリエチレンテレフタレート(PET)またはポリブチレンテレフタレート(PBT)である場合に得られる。好ましくは、分散相に含まれるポリエステルは、ポリエチレンテレフタレート(PET)である。
【0082】
一実施形態において、混合物は、Bayer社のMAKROBLEND(登録商標)、General Electric社のXENOY(登録商標)、Ticona社のVANDAR(登録商標)、Dow社のSABRE(登録商標)、DSM社のSTAPRON(登録商標)E、BASF社のULTRABLEND(登録商標)などの上市されているブレンドで構成される。以上のリストは例示に過ぎず、他を排除するわけではない。
【0083】
優れた混和性および楕円形状のプレートレットにより、高い絶縁破壊電圧が得られる。
【0084】
好ましい一実施形態において、混合物は、ポリシクロへキサン−ジメタノール−テレフタレート(PCT)の単独重合体または共重合体で構成された分散相を有し、かつ、マトリックス相は、ポリエチレンテレフタレート(PET)で構成されている。
【0085】
混合物は、フィルムの取り扱い性および巻き取り性を向上させるために、無機フィラー粒子を含んでいてもよい。好ましくは、混合物は、無機フィラー粒子を含む。好ましくは、混合物は、フィラー粒子を60,000ppm以下含む。好ましい一実施形態において、延伸フィルムは、フィラー粒子を10,000ppm以下含む。
【0086】
無機フィラー粒子として、炭酸カルシウム、クレイ、シリカ、ゼオライト、シリコーンビーズ(官能基が導入されたポリジメチルシロキサン)、リン酸二カルシウム(DPC)、リン酸三カルシウム(TPC)、セノスフェア、ゼオスフェア(zeeosphere)、タルク、二酸化チタン、硫酸バリウム、チタン酸バリウムなどが挙げられるが、これらに限定されない。フィラー粒子の粒径分布は、一峰性、二峰性または三峰性であってもよい。好ましくは、一峰性分布、二峰性分布または三峰性分布での平均粒径は0.1〜10μmである。
【0087】
互いに異なる種類の成分の混合物を加熱および攪拌することにより、以下に説明するようなポリマーマトリックス相中に分散相を有する構造を得ることができる。本発明の最も好ましい実施形態において、ポリマー混合物は、少なくとも1種のポリエステルおよび/またはポリカーボネートを含む第1のポリマーからなる分散相が、前記第1のポリマーとは異なる、少なくとも1種のポリエステルおよび/またはポリカーボネートを含む第2のポリマーからなるマトリックス相中に分散したものである。
【0088】
重要なのは、分散相に含まれる少なくとも1種のポリマーが、マトリックス相に含まれ、且つ前記分散相に含まれるポリマーとは異なる少なくとも1種のポリマーと、マトリックス相と分散相との間の界面のみで共重合することである。よって、互いに相溶可能なポリマーのブレンドを得るように、プロセス条件を選択する必要がある。上記好ましい実施形態において、ポリマー混合物は、少なくとも1種のポリエステルおよび/またはポリカーボネートを含む分散相が、少なくとも1種の異なるポリエステルおよび/またはポリカーボネートを含むマトリックス相中に分散したものであるが、このとき、好適なフィルムは、ポリエステル同士、ポリカーボネート同士、またはポリエステルとポリカーボネートとの間の全体的な共重合を招くようなプロセス条件では得られないことに留意されたい。したがって、温度や混合時間などのプロセス条件は、ポリエステル同士、ポリカーボネート同士、またはポリエステルとポリカーボネートとの間の共重合の程度を最小限に抑えるような条件に選択する必要がある。例えば、以下の構造が可能である:
−少なくとも1種のポリエステルの分散相が、分散相とは異なる少なくとも1種のポリエステルを含むマトリックス相中に分散した構造、
−少なくとも1種のポリカーボネートの分散相が、分散相とは異なる少なくとも1種のポリカーボネートを含むマトリックス相中に分散した構造、
−少なくとも1種のポリエステルの分散相が、少なくとも1種のポリカーボネートを含むマトリックス相中に分散した構造、または
−少なくとも1種のポリカーボネートの分散相が、少なくとも1種のポリエステルを含むマトリックス相中に分散した構造。
【0089】
2種類のポリエステル間の相溶性は、これらポリエステル間の界面における混和性およびエステル−エステル交換によって獲得される。
【0090】
2種類のポリカーボネート間の相溶性は、これらポリカーボネート間の界面における混和性およびカーボネート−カーボネート交換によって獲得される。
【0091】
ポリエステルとポリカーボネートとの間の相溶性は、これらポリエステルとポリカーボネートとの間の界面における混和性およびエステル−カーボネート交換によって獲得される。
【0092】
分散相とマトリックス相との相溶性により、特に、プレートレットに対する高い負荷下での、フィルムの二軸延伸が可能になる。
【0093】
共重合反応の発生は、示差走査熱量(DSC)測定によって検出することができる。
【0094】
初めに、混合物は、各々のガラス転移温度を特徴とする、少なくとも2種類の異なるポリマーを含んでいる。少なくとも2種類の異なるポリマーが混合物に含まれているか否かは、示差走査熱量(DSC)測定によって確認することができる。事実、示差走査熱量(DSC)測定法では、混合物に含まれるポリマーの種類に対応する数だけの、各々異なるガラス転移温度を検出することができる。
【0095】
混合物に含まれる各種ポリマーの量は、混合工程及び加熱工程の際のポリマー間の共重合反応の発生により減少する。ポリマー間で共重合反応が生じると、互いに異なるガラス転移温度が消失し、共重合体の形成に対応した固有のガラス転移温度が現れる。共重合反応の完了後、混合物に1種類の共重合体しか含まれない場合、示差走査熱量(DSC)測定法を用いると、その共重合体に対応したガラス転移温度のピークだけが現れる。
【0096】
ポリエステル間の共重合反応を抑制するには、混合時間を短く設定するのが望ましい。一般的に、混合時間は、約5分間から約40分間とされる。
【0097】
好適な温度条件の一例として、混合物の加熱温度Tは、混合物中に複数の互いに異なるガラス転移温度が存在する場合、当該混合物を構成する各ポリマーの中の最も高い融点よりも少なくとも5℃高い温度に設定してもよい。
【0098】
好ましくは、温度および混合時間は、当該混合物が複数の互いに異なるガラス転移温度を有するように選択される。好ましい一実施形態では、このようなプロセス条件により、ポリエステルおよびポリカーボネートを含む群から選択される少なくとも2種類の異なるポリマーが、全体的に共重合ポリエステルを形成することなく、ポリエステルおよび/またはポリカーボネートのブレンドを生じる。
【0099】
好ましくは、ブレンドを構成するポリマーの溶融粘度は、混合物に含まれるポリマーの最も高い融点Tmにおいて、50Pa・sから5000Pa・sである。
【0100】
次いで、ポリマー混合物は、溶融システムおよび押出機から押し出される。スリットダイから一次フィルムが形成され、急冷ドラム上で冷却される。
【0101】
次に、一次フィルムを延伸フィルムに加工する。延伸工程により、分散相の形状が変化する。ポリエステルのノジュール(島相)の形状が、初めの略丸形状から、楕円形状(いわゆるプレートレット様の形状)に変化する。プレートレットとは、所定の寸法比を特徴とする、略楕円形状の部分のことをいう。当該所定の寸法比は、プレートレットの最小寸法に対する最大寸法の比を指す。前記所定の寸法比は、少なくとも2、好ましくは少なくとも3、より好ましくは少なくとも10である。プレートレットの最小寸法および最大寸法は、フィルムの鉛直断面(水平断面ではない)を切り取り、その断面の電子顕微鏡像を分析することによって測定する。好ましくは、プレートレットの最大寸法は、10μm未満、好ましくは5μm未満、より好ましくは1μm未満である。
【0102】
図3は、ポリエチレンナフタレート(PEN)のマトリックス相中に、分散相としてのポリカーボネート(PC)を30%含んだ延伸フィルムを示す電子顕微鏡像である。図4は、PENおよびPETで構成されるマトリックス相中に、分散相としてのポリカーボネート(PC)を20%含んだ延伸フィルムを示す電子顕微鏡像である。図3および図4のいずれの延伸フィルムにおいても、分散相とマトリックス相との界面にボイドは見られない。
【0103】
図5は、ポリマー混合物における分散相の重量%と絶縁破壊電圧(V/μm)との関係を示したグラフである。分散相の重量%が増加すると、絶縁破壊電圧が増加する。延伸フィルムの高い絶縁破壊電圧は、電子がプレートレットの周りを移動しなければならないことに起因する。また、図5に示されているように、高い絶縁破壊電圧、詳細には、400V/μmを超える絶縁破壊電圧が得られる。すなわち、本発明は、プレートレットの存在によりフィルムに高い絶縁破壊電圧をもたらすことができ、その結果高いエネルギー電圧を有するフィルムが得られるという研究結果に基づいている。図5から、マトリックス相に含まれるプレートレットの割合が高いほど、絶縁破壊電圧も高くなることが分かる。そただし、図5には、ポリマーの混合物を共重合反応させ、均質な構造を有するように作製される比較実験例14のフィルムも示されているが、このフィルムの絶縁破壊電圧は低い。
【0104】
分散相のプレートレット様の形状は電子に対するバリア(障害物)を形成し、かつ、このようなプレートレット様の分散ポリマー相が存在することにより、プラスチックフィルムの幅方向(水平方向)に電子が横切るのを防ぐことができる。また、プレートレットの存在は、電子の動きを遅くする。つまり、プレートレットが、電子の運動を抑制するブレーキのように作用することで、電子の運動エネルギーを減少させることができる。電子は、分散したプレートレットの界面に位置する電荷の斥力により、プレートレットの周りを移動せざるを得ない。図5に示されているようにプレートレットの割合が増加すると、電子の移動距離も増加する。また、プレートレットの最小寸法に対する最大寸法の比が増加することによっても、絶縁破壊電圧は増加する。本発明は、フィルム中にプレートレットが存在することでフィルムを横切る電子の速度が低下し、これにより、プラスチックフィルムの絶縁破壊電圧が向上するという研究結果に基づいている。プレートレットの有無は、電子の移動距離の増加の原因となる迷路度(tortuosity)に影響する。迷路度とは、プラスチックフィルムの幅に対する電子の移動距離の比率のことをいう。
【0105】
好ましい一実施形態において、高い絶縁破壊電圧を付与するモルフォロジーは、ポリエステルおよび/またはポリカーボネートなどの互いに相溶可能なポリマーの混合物を用いることで得られる。しかしながら、当業者であれば、相溶化剤を添加することにより、互いに相溶可能でないポリマーの混合物であっても、同様のモルフォロジーを形成することができる。
【0106】
プレートレットの形状は、分散相を構成するポリマーのガラス転移温度に応じて変化させることができる。
【0107】
好ましくは、フィルムは、二軸延伸フィルムである。流延フィルムとも称される一次フィルムを、縦方向(機械軸方向)(MD)および横方向(機械軸方向と直交する方向)(TD)の方向に逐次二軸延伸または同時二軸延伸してもよい。
【0108】
好ましい一実施形態において、各方向の延伸比は2〜5倍、好ましくは3〜4.5倍である。
【0109】
同時延伸の場合、混合物を構成するポリマーの最も高いガラス転移温度をTgとして、フィルムは、Tg+5℃からTg+30℃の温度で延伸される。得られるフィルム厚みは、一般的に、0.5〜20μm、好ましくは1.4〜5μmである。逐次延伸の場合、当業者であれば、延伸温度を適宜採用することができる。
【0110】
次いで、フィルムには、フィルムに寸法安定性を付与する熱処理が施される。混合物に含まれるポリマーの最も高い融点をTmとして、フィルムは、Tm−80℃からTm−10℃、好ましくはTm−70℃からTm−20℃の高温度で加熱される。
【0111】
本発明にかかるフィルムは、高い使用温度を有する。本発明にかかるフィルムは、100℃から130℃でも使用可能である。したがって、ハイブリッドカー用のコンデンサーフィルムなどの高温度用途や高エネルギー貯蔵用途においても使用することができる。
【0112】
有利なことに、本発明にかかるフィルムは、酸素バリア(酸素遮断材)としても使用可能である。
【0113】
有利なことに、本発明にかかるフィルムは、絶縁フィルムとしても使用可能である。
【0114】
以下の実施例は、例示に過ぎず、本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0115】
以下の実験例は、例示に過ぎず、本発明を限定するものではない。
【0116】
表1に示すフィルムサンプルの特性は、以下のようにして測定または算出される:
【0117】
−フィルム厚みは、Mahr Feinpruf社(Militron)またはHeidenhain社製のデジタル式のポイント測定型厚み計によって測定した。5cm×5cmの正方形フィルム片の厚みを、そのフィルム片上の5つの測定ポイントの平均によって決定する。なお、表1において、サンプルのフィルム厚みの単位はμmである。
【0118】
絶縁破壊電圧(BDV)はV/μm単位で表す。絶縁破壊電圧は、アルミニウム箔と電極を用いて、フィルムサンプルの表面25cm(5cm×5cm)で測定した。ランプ波形の電圧を、フィルムに対して市販の電源(UN Geratebau社製)で印加する。フィルムの絶縁破壊電圧は、フィルムサンプルに5mAを超える電流が流れた際に測定された最大電圧とする。単位フィルム厚みあたりの絶縁破壊電圧は、最大測定電圧を、フィルム厚みで割ったものである。表1には、5回の絶縁破壊電圧(V/μm)の測定値の平均を示す。
【0119】
融点(℃)は、TA Instrument社製の器具(型番:TA DSC 2920)を用いて、示差走差熱量測定法で測定した。この融点は、最初の加熱走差で測定した温度とする。昇温走差速度は20(℃/分)である。
【0120】
ガラス転移点(ガラス転移温度)(℃)は、TA Instrument社製の器具(型番:TA DSC 2920)を用いて、示差走差熱量測定法で測定した。このガラス転移温度は、急冷後の第2の加熱サイクルで測定される。昇温走差速度は20(℃/分)である。
【0121】
1%伸張時の応力を表す弾性率は、ASTM D−882−80規格に準拠して測定した。
【0122】
寸法安定性は、フィルムサンプルを150℃および200℃の温度に30分間曝した際の熱収縮率で測定した。このサンプルは、長さ0.5インチ(約1.3センチ)の正方形フィルム片とした。収縮率は、以下の式で算出される:
[(加熱前の長さ−加熱後の長さ)/加熱前の長さ]×100
【0123】
エネルギー密度(J/cm)は、誘電体フィルムのサンプルが単位体積あたりに貯蔵可能なエネルギーを表す。エネルギー密度は、以下の式で算出される:
エネルギー密度E=0.5×ε×ε×BDV
(式中、BDVは絶縁破壊電圧(V/μm)を表し、εは、ブレンドの組成に基づいた、当該ブレンドの理論的な比誘電率を表す。)
【0124】
理論的な比誘電率は、以下の式で算出される:
1/ε=Σ/ε
(式中、εはフィルムの比誘電率を表し、wはフィルムのi種類目の成分の重量%を表し、εは、分散相に含まれるi種類目の成分の、温度25℃および周波数1kHzでの比誘電率を表す。
【0125】
−εは絶対誘電率を表す。
【0126】
まず、絶縁破壊電圧を測定してから、エネルギー密度を、その測定された絶縁破壊電圧から算出した。
【0127】
以下に示す全ての実験例および比較実験例は、粒径2〜10μmのフィラー粒子を含む。
【0128】
[比較実験例1]
50%ジクロロエタン(DCE)/トリフルオロ酢酸溶液中の固有粘度が0.63dl/gのポリエチレンナフタレート(PEN)ポリマーを、二軸押出機で押し出し、スロットダイでポリマーを流延して急冷ドラム上で冷却することにより、流延フィルムを得る。この流延フィルムを、実験室レベルの延伸機(Brueckner社製、T.M Long社製、Inventure laboratory社製などから購入可能)を用いて同時二軸延伸する。このとき、フィルムはクリップによって把持され、当該クリップは機械軸方向またはこれに直交する方向に同時にまたは段階的に移動する。この延伸は、145〜155℃の温度範囲で、延伸比3.5×3.5倍で行う。
【0129】
このようにして得られる二軸フィルムのフィルム厚みは、6〜15μmとされる。表1に、このフィルムの一般的な特性を示す。
【0130】
[実験例2]
50%ジクロロエタン(DCE)/トリフルオロ酢酸溶液中の固有粘度が0.63dl/gのポリエチレンナフタレート(PEN)と、ポリカーボネート(PC)「Makrolon(登録商標)2408」とを、これらポリマーの混合物の総重量を基準として90重量%/10重量%の量で、二軸押出機を用いて混合する。
【0131】
延伸条件は、延伸温度を150〜170℃とし、延伸比を3.5×4倍とする以外は、比較実験例1と同じである。
【0132】
このようにして得られる二軸延伸フィルムのフィルム厚みは、6〜15μmとされる。表1に、このフィルムの一般的な特性を示す。
【0133】
[実験例3]
50%ジクロロエタン(DCE)/トリフルオロ酢酸溶液中の固有粘度が0.63dl/gのポリエチレンナフタレート(PEN)と、ポリカーボネート(PC)「Makrolon(登録商標)2408」とを、これらポリマーの混合物の総重量を基準として70重量%/30重量%の量で、二軸押出機を用いて混合する。延伸条件は実験例2と同様の内容である。
【0134】
このようにして得られる二軸延伸フィルムのフィルム厚みは、6〜15μmとされる。表1に、このフィルムの一般的な特性を示す。
【0135】
[実験例4]
50%ジクロロエタン(DCE)/トリフルオロ酢酸溶液中の固有粘度が0.63dl/gのポリエチレンナフタレート(PEN)と、ポリカーボネート(PC)「Makrolon(登録商標)3108」とを、これらポリマーの混合物の総重量を基準として90重量%/10重量%の量で、二軸押出機を用いて混合する。延伸条件は実験例2と同様の内容である。
【0136】
このようにして得られる二軸延伸フィルムのフィルム厚みは、6〜15μmとされる。表1に、このフィルムの一般的な特性を示す。
【0137】
[実験例5]
50%ジクロロエタン(DCE)/トリフルオロ酢酸溶液中の固有粘度が0.63dl/gのポリエチレンナフタレート(PEN)と、ポリカーボネート(PC)「Makrolon(登録商標)3108」とを、これらポリマーの混合物の総重量を基準として70重量%/30重量%の量で、二軸押出機を用いて混合する。延伸条件は実験例2と同様の内容である。
【0138】
このようにして得られる二軸延伸フィルムのフィルム厚みは、6〜15μmとされる。表1に、このフィルムの一般的な特性を示す。
【0139】
[実験例6]
50%ジクロロエタン(DCE)/トリフルオロ酢酸溶液中の固有粘度が0.63dl/gのポリエチレンナフタレート(PEN)と、ポリカーボネート(PC)「Makrolon(登録商標)3108」と、ポリカーボネート(PC)「Makrolon(登録商標)2408」とを、これらポリマーの混合物の総重量を基準として70重量%/15重量%/15重量%の量で、二軸押出機を用いて混合する。延伸条件は実験例2と同様の内容である。
【0140】
このようにして得られる二軸延伸フィルムのフィルム厚みは、6〜15μmとされる。表1に、このフィルムの一般的な特性を示す。
【0141】
[実験例7]
50%ジクロロエタン(DCE)/トリフルオロ酢酸溶液中の固有粘度が0.63dl/gのポリエチレンナフタレート(PEN)と、ポリカーボネート(PC)「Makrolon(登録商標)2408」と、ポリエチレンテレフタレート(PET)とを、これらポリマーの混合物の総重量を基準として70重量%/20重量%/10重量%の量で、二軸押出機を用いて混合する。延伸条件は、延伸温度を150〜160℃とする点以外は、実験例2と同じである。
【0142】
このようにして得られる二軸延伸フィルムのフィルム厚みは、6〜15μmとされる。表1に、このフィルムの一般的な特性を示す。
【0143】
[実験例8]
50%ジクロロエタン(DCE)/トリフルオロ酢酸溶液中の固有粘度が0.63dl/gのポリエチレンナフタレート(PEN)と、ポリカーボネート(PC)「Makrolon(登録商標)3108」とを、これらポリマーの混合物の総重量を基準として65重量%/35重量%の量で、二軸押出機を用いて混合する。延伸条件は、延伸温度を150〜160℃とする点以外は実験例2と同じである。
【0144】
このようにして得られる二軸延伸フィルムのフィルム厚みは、6〜15μmとされる。表1に、このフィルムの一般的な特性を示す。
【0145】
[実験例9]
50%ジクロロエタン(DCE)/トリフルオロ酢酸溶液中の固有粘度が0.63dl/gのポリエチレンナフタレート(PEN)と、ポリカーボネート(PC)「Makrolon(登録商標)3108」とを、これらポリマーの混合物の総重量を基準として60重量%/40重量%の量で、二軸押出機を用いて混合する。延伸条件は、延伸温度を150〜160℃とする点以外は実験例2と同じである。
【0146】
このようにして得られる二軸延伸フィルムのフィルム厚みは、6〜15μmとされる。表1に、このフィルムの一般的な特性を示す。
【0147】
[実験例10]
50%ジクロロエタン(DCE)/トリフルオロ酢酸溶液中の固有粘度が0.63dl/gのポリエチレンナフタレート(PEN)と、ポリカーボネート(PC)「Makrolon(登録商標)3108」とを、これらポリマーの混合物の総重量を基準として80重量%/20重量%の量で、二軸押出機を用いて混合する。延伸条件は、延伸温度を150〜160℃とする点以外、実験例2と同じである。
【0148】
このようにして得られる二軸延伸フィルムのフィルム厚みは、6〜15μmとされる。表1に、このフィルムの一般的な特性を示す。
【0149】
[実験例11]
40%トリクロロエタン(TCE)/フェノール溶液中の固有粘度が0.59dl/gのポリエチレンテレフタレート(PET)と、ポリカーボネート(PC)およびポリエステルで構成される、単一のガラス転移温度100.8℃を有する非結晶性のブレンドとを、これらポリマーの混合物の総重量を基準として70重量%/30重量%の量で、二軸押出機を用いて混合する。延伸条件は、延伸温度を105〜115℃とする点以外は実験例2と同じである。
【0150】
このようにして得られる二軸延伸フィルムのフィルム厚みは、6〜15μmとされる。表1に、このフィルムの一般的な特性を示す。
【0151】
[実験例12]
40%トリクロロエタン(TCE)/フェノール溶液中の固有粘度が0.56dl/gのポリエチレンテレフタレート(PET)と、ポリシクロヘキサン−ジメタノール−テレフタレート(PCT)の共重合体「Eastmann A150(登録商標)」とを、これらポリマーの混合物の総重量を基準として70重量%/30重量%の量で、二軸押出機を用いて混合する。延伸条件は、延伸温度を95〜105℃とする点以外、実験例2と同じである。
【0152】
このようにして得られる二軸延伸フィルムのフィルム厚みは、6〜15μmとされる。表1に、このフィルムの一般的な特性を示す。
【0153】
実験例11および実験例12のいずれのフィルムも、電力用コンデンサーを作製するのに極めて好適であることが判明している。公知のコンデンサーは、一般にポリプロピレン(PP)製の誘電体フィルムを備えている。この型のコンデンサーは、105℃を超える温度では動作できない。しかしながら、本発明の実験例11のフィルムまたは実験例12のフィルムを備えたコンデンサーは、105℃から120℃の温度でも動作することができる。すなわち、これらのフィルムは、高温時において、ポリプロピレン(PP)製の誘電体フィルムを備えたコンデンサーよりも安定している。したがって、実験例11のフィルムまたは実験例12のフィルムを備えたコンデンサーは、ポリプロピレン(PP)製のフィルムを備えた電力用コンデンサーの代替品として使用することができる。
【0154】
[比較実験例13]
50%ジクロロエタン(DCE)/トリフルオロ酢酸溶液中の固有粘度が0.63dl/gのポリエチレンナフタレート(PEN)と、40%トリクロロエタン(TCE)/フェノール溶液中の固有粘度が0.55dl/gのポリエチレンテレフタレート(PET)とを、これらポリマーの混合物の総重量を基準として85重量%/15重量%の量で、二軸押出機を用いて混合する。
【0155】
延伸条件は、延伸温度を140〜150℃とする点以外は、実験例2とほぼ同じである。
【0156】
このようにして得られる二軸延伸フィルムのフィルム厚みは、4〜6μmとされる。表1に、このフィルムの一般的な特性を示す。
【0157】
比較実験例13のフィルムは、単一の相をなすように作製される。
【0158】
[比較実験例14]
ポリブチレンテレフタレート(PBT)47.5重量%と、イソフタレート系の共重合ポリエステル52.5重量%とを、二軸押出機を用いて混合し、ポリマー混合物を得る。この混合物を、押出機および溶融システムの両方で共重合反応を生じるように加工する。このようにして得られた流延フィルムを延伸にかける。典型的な延伸温度は、70〜100℃である。流延フィルムおよび延伸フィルムのいずれの状態においても、このフィルムは均質な構造を示す。上記の組成で構成される4μmのフィルムは、絶縁破壊電圧が356V/μmであり、エネルギー密度が1.85J/cmである。この比較実験例から、共重合ポリエステルを単一の成分として含む場合、絶縁破壊電圧およびエネルギー密度がいずれも低くなることは明白である。
【0159】
これに対して、本発明にかかる実験例2〜12は、マトリックス相中に分散相を有しており、電気特性が向上している。
【0160】
以下の表1は、上記の実験例および比較実験例で作製される延伸フィルムの一般的な特性をまとめたものである。
【0161】
【表1】

【0162】
実験例2〜12のフィルムは、全てフィルム厚みが4.5〜8.5μmの範囲にあり、複数のガラス転移温度を示し、プレートレットを含む構造を有している。これらのフィルムは、少なくとも440V/μmの絶縁破壊電圧を有する。
【0163】
対照的に、比較実験例1、13および14は、単一のガラス転移温度を示し、均質な構造である。比較実験例1、13および14のフィルムは、絶縁破壊電圧が、それぞれ368V/μm、367V/μm、356V/μmであり、いずれも、実験例2〜12の絶縁破壊電圧よりも低い。
【0164】
実験例2〜12のフィルムは、少なくとも2.6J/cmのエネルギー密度を有しており、一方、比較実験例1、13および14のフィルムのエネルギー密度は、それぞれ1.83J/cm、1.84J/cm、1.85J/cmしかなく、ポリエステルフィルムが有する典型的な数値に過ぎない。
【0165】
上記の実験例および比較実験例から、本発明にかかるフィルムが、高い絶縁破壊電圧に耐えることができ、かつ、高いエネルギー密度を有することが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種のポリエステルおよび/またはポリカーボネートを含む分散相が、前記分散相の少なくとも1種のポリエステルおよび/またはポリカーボネートとは異なる、少なくとも1種のポリエステルおよび/またはポリカーボネートを含むマトリックス相中にプレートレットの形態で分散しており、前記分散相のポリエステルおよび/またはポリカーボネートの含有率が、50重量%未満である延伸フィルム。
【請求項2】
請求項1において、フィルム厚みが、0.3〜25μm、好ましくは0.9〜6μm、より好ましくは2〜4μmである延伸フィルム。
【請求項3】
請求項1または2において、前記プレートレットの最大寸法が、10μm未満、好ましくは5μm未満、より好ましくは1μm未満である延伸フィルム。
【請求項4】
−少なくとも1種のポリエステルおよび/またはポリカーボネートを含むマトリックス相を少なくとも50重量%と、
−前記マトリックス相を構成する少なくとも1種のポリエステルおよび/またはポリカーボネートと混和可能かつ相溶可能であり、マトリックス相中に相分離構造を形成している、少なくとも1種のポリエステルおよび/またはポリカーボネートと、
を有する混合物で構成され、前記混合物は相溶剤を有していない、延伸フィルム。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項において、少なくとも1種のポリエステルおよび/またはポリカーボネートを含む前記マトリックス相において、ポリエステルが、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンイソフタレート、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリブチレンイソフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリトリメチレンイソフタレート、ポリトリメチレンナフタレート、ポリ(シクロへキシレン−ジメタノール−テレフタレート)(PCT)、ポリ(メチレン−1,3−プロピレン−テレフタレート)、ポリへキサメチレンテレフタレート、ポリイソソルビドテレフタレート、ポリヘキサメチレンナフタレート、ポリアリレート(Par)、これらの共重合体、これらの混合物、および液晶ポリエステルで構成された群から選択される延伸フィルム。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項において、少なくとも1種のポリエステルおよび/またはポリカーボネートを含む前記マトリックス相において、ポリカーボネートが、ポリプロピレンカーボネート(PPC)、ポリフタレートカーボネート、ジフェニルポリカーボネート(DPC)、ポリエチレンテレフタレートカーボネート、ポリエチレンカーボネート、これらの共重合体、およびこれらの混合物で構成された群から選択される延伸フィルム。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項において、マトリックス相中に分散している少なくとも1種のポリエステル、またはマトリックス相と混和可能かつ相溶可能な少なくとも1種のポリエステルが、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンイソフタレート、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリブチレンイソフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリトリメチレンイソフタレート、ポリトリメチレンナフタレート、ポリ(シクロへキシレン−ジメタノール−テレフタレート)(PCT)、ポリ(メチレン−1,3−プロピレン−テレフタレート)、ポリへキサメチレンテレフタレート、ポリイソソルビドテレフタレート、ポリヘキサメチレンナフタレート、ポリアリレート(Par)、これらの共重合体、これらの混合物、および液晶ポリエステルで構成された群から選択される延伸フィルム。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項において、マトリックス相中に分散している少なくとも1種のポリカーボネート、またはマトリックス相と混和可能かつ相溶可能な少なくとも1種のポリカーボネートが、ポリプロピレンカーボネート(PPC)、ポリフタレートカーボネート、ジフェニルポリカーボネート(DPC)、ポリエチレンテレフタレートカーボネート、ポリエチレンカーボネート、これらの共重合体、およびこれらの混合物で構成された群から選択される延伸フィルム。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項において、マトリックス相中に分散している少なくとも1種のポリエステルおよび/またはポリカーボネート、またはマトリックス相と混和可能かつ相溶可能な少なくとも1種のポリエステルおよび/またはポリカーボネートが、比誘電率が1〜6未満、好ましくは1〜4、より好ましくは2〜4、さらに好ましくは2.5〜3.5のポリマーから選択される延伸フィルム。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項において、二軸延伸フィルムである延伸フィルム。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項において、面積5cm×5cmで測定された絶縁破壊電圧が、370V/μmを超えており、好ましくは、440〜550V/μmである延伸フィルム。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項において、エネルギー密度が2.0J/cmを超えており、好ましくは2.5〜3.5J/cmであり、より好ましくは3.5〜4.5J/cmである延伸フィルム。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか一項において、フィラー粒子を60,000ppm以下含む延伸フィルム。
【請求項14】
請求項1から12のいずれか一項において、フィラーを含まない延伸フィルム。
【請求項15】
請求項1から14のいずれか一項において、機械軸方向(MD)またはこれに直交する方向(TD)の弾性率が、1000N/mmを超えており、好ましくは2500〜4000N/mmである延伸フィルム。
【請求項16】
請求項1から15のいずれか一項において、機械軸方向(MD)の収縮率およびこれに直交する方向(TD)の収縮率が、150℃で5%未満であり、かつ、200℃で15%未満である延伸フィルム。
【請求項17】
請求項1から3および請求項5から16のいずれか一項において、分散相が、ポリエステルおよびポリカーボネートからなる群から選択される少なくとも2種のポリマーで構成され、マトリックス相が、ポリエチレンテレフタレート(PET)およびポリエチレンナフタレート(PEN)からなる群から選択されるポリエステルで構成され、前記分散相はプレートレットを形成しており、マトリックス相のポリエステルのガラス転移温度をTgmとして、分散相の各ポリマーのガラス転移温度がTgm+10℃からTgm+40℃の範囲に存在する延伸フィルム。
【請求項18】
請求項17において、分散相がポリカーボネートとポリエステルとの混合物であり、かつ、マトリックス相のポリエステルがポリエチレンテレフタレート(PET)である延伸フィルム。
【請求項19】
請求項18において、分散相に含まれるポリエステルが、ポリエチレンテレフタレート(PET)またはポリブチレンテレフタレート(PBT)である延伸フィルム。
【請求項20】
請求項1から16のいずれか一項において、分散相または分離相が、ポリシクロヘキサン−ジメタノール−テレフタレート(PCT)の共重合体で構成されており、かつ、マトリックス相に含まれるポリエステルがポリエチレンテレフタレート(PET)である延伸フィルム。
【請求項21】
請求項1から16のいずれか一項において、分散相または分離相が、ポリカーボネート(PC)で構成されており、かつ、マトリックス相に含まれるポリエステルがポリエチレンナフタレート(PEN)である延伸フィルム。
【請求項22】
請求項1から21のいずれか一項に記載の延伸フィルムを誘電体フィルムとして備えるコンデンサー。
【請求項23】
請求項1から21のいずれか一項に記載の延伸フィルムの、酸素バリアとしての使用。
【請求項24】
請求項1から21のいずれか一項に記載の延伸フィルムの、絶縁フィルムとしての使用。
【請求項25】
請求項17から21のいずれか一項に記載の延伸フィルムの、200Vを超える電圧および120℃を超える温度で動作する電力用コンデンサーの絶縁フィルムとしての使用。
【請求項26】
延伸フィルムを製造する方法であって、
a)混和可能かつ相溶可能なポリエステルおよび/またはポリカーボネートの混合物であって、少なくとも1種のポリマーの含有率が少なくとも50重量%である混合物を用意する工程と、
b)少なくとも1種のポリマーがノジュールの形態で分散するようにフィルムを形成する工程と、
c)前記分散した少なくとも1種のポリマーがプレートレットの形態になるようにフィルムを延伸する工程と、
d)フィルムを加熱する工程と、
を含む、延伸フィルムの製造方法。
【請求項27】
請求項26において、フィルムが二軸延伸される、延伸フィルムの製造方法。
【請求項28】
請求項26において、フィルムが同時延伸される、延伸フィルムの製造方法。
【請求項29】
請求項26または28において、延伸比が2〜7倍、好ましくは3.5〜4.5倍である、延伸フィルムの製造方法。
【請求項30】
請求項26から29のいずれか一項において、工程c)が、混合物に含まれるポリマーの最も高いガラス転移温度をTgとして、Tg+5℃からTg+30℃の温度で行われる、延伸フィルムの製造方法。
【請求項31】
請求項26から30のいずれか一項において、工程d)が、混合物に含まれるポリマーの最も高い融点をTmとして、Tm−80℃からTm−10℃の温度、好ましくはTm−70℃からTm−20℃の温度で行われる、延伸フィルムの製造方法。
【請求項32】
請求項23から28のいずれか一項において、混合物を構成するポリエステルの溶融粘度が、混合物に含まれるポリマーの最も高い融点をTmとして、温度Tmで50Pa・sから5000Pa・sである、延伸フィルムの製造方法。
【請求項33】
少なくとも1種のポリマーを含む分散相を、少なくとも1種の異なるポリマーを含むマトリックス相中に有する延伸フィルムの、コンデンサーフィルムの絶縁破壊電圧を増加させる使用であって、
前記分散相のポリマーは、比誘電率が6未満であり、かつ、前記延伸フィルムにプレートレットの形態で50重量%未満含まれている使用。
【請求項34】
請求項33において、分散相の各ポリマーの比誘電率とマトリックス相の平均比誘電率との差の絶対値が2未満、好ましくは1未満である使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2011−516680(P2011−516680A)
【公表日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−503516(P2011−503516)
【出願日】平成21年4月10日(2009.4.10)
【国際出願番号】PCT/IB2009/005217
【国際公開番号】WO2009/125288
【国際公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【出願人】(300038826)デュポン テイジン フィルムズ ユー.エス.リミテッド パートナーシップ (36)
【Fターム(参考)】