説明

高せん断加工機の回転速度制御装置と回転速度制御方法

【課題】高せん断加工へ移行するに際し、回転数が上昇しても材料の圧力の上昇を抑制して材料に急激なせん断応力がかかって材料の物性が下がることを防止する。
【解決手段】高せん断加工機1の回転速度制御装置17は、樹脂供給工程で加熱筒5内で内部帰還型スクリュー6を低速回転させて材料を周面クリアランス11に供給する低速回転手段26と、内部帰還型スクリュー6を高速回転させて樹脂をクリアランス及び帰還穴14に循環させて高せん断加工する高速回転手段27と、樹脂供給後に高せん断加工工程に移行する際、内部帰還型スクリュー6の回転速度を低速回転数から高せん断加工の高速回転数まで複数の分割時間毎に階段状に上昇させる回転速度移行手段28とを備えた。移行工程において所定時間で階段状に増大させる各回転数は、入力手段24から制御手段23に予め入力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子材料等の各種材料を高せん断加工することによって、高分子材料等の各種材料を微細レベルに分散・混合するための高せん断加工機における回転速度制御装置と回転速度制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、静置場では相互に溶け合わない(非相溶性)ブレンド系の材料において、相溶化剤等の余分な添加物を加えることなく、例えば数十ナノメーターサイズの分散相を有する高分子ブレンド押出し物を製造するための高せん断加工機が知られている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0003】
特許文献1や特許文献2に記載された高せん断加工機は、内部帰還型の高せん断スクリューである内部帰還型スクリューを回転可能に収容した加熱筒を有している。内部帰還型スクリューは螺旋状のスクリュー羽根を有する外周面と先端面の中央からその内部を基部側に延びて外周面に開口する帰還穴とが形成され、加熱筒は略有底円筒状に形成されている。
そして、内部帰還型スクリューの外周面と加熱筒の内周面との間の周面クリアランス内に例えば2〜5gの溶融状態の高分子微量材料を供給して、内部帰還型スクリューを例えば500〜3000min−1の回転数で高速回転させて高せん断加工を行う。
【0004】
高せん断加工の一連のサイクルは、概略で、例えば溶融樹脂を注入する樹脂注入工程と、内部帰還型スクリューを高速回転させることでスクリュー羽根によって樹脂を高せん断加工する高せん断加工工程と、高せん断加工終了後に樹脂を排出する樹脂排出工程の順で行われる。それぞれの工程における内部帰還型スクリューの回転数は投入される材料や得るべき特性等に応じて任意に設定可能であるが、高分子樹脂材料では樹脂注入工程と樹脂排出工程は500min―1程度の低速回転に、高せん断加工工程では最大3000min―1程度の高速回転に設定される。
【0005】
樹脂注入工程から高せん断加工工程に移行する際、駆動モータによって駆動される内部帰還型スクリューの回転数が上述した500min―1程度の低速回転数から3000min―1程度の高速回転数に切り換えられるため、図9に示すように、回転数の上昇に伴い内部帰還型スクリューのトルクと樹脂圧が急激に上昇することになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−313608号公報
【特許文献2】国際公開第2010/089997号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した従来の高せん断加工機においては、樹脂注入工程から高せん断加工への切り換えによって内部帰還型スクリューの回転数が急激に上昇してトルクと樹脂圧が急激に上昇すると樹脂に大きなせん断応力がかかることになる。そして、せん断応力によって大きなエネルギーが樹脂に加わると樹脂温度が上昇して樹脂の成分が分解し、物性が低下するという不具合が発生する。
【0008】
本発明は、このような課題に鑑みて、高せん断加工へ移行するに際し、内部帰還型スクリューの回転数が上昇しても材料の圧力の上昇を抑制して材料に急激なせん断応力がかかって物性が下がることを防止するようにした高せん断加工機の回転速度制御装置と制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る高せん断加工機の回転速度制御装置は、せん断応力を付与しつつ混練することで材料を分散及び混合するための高せん断加工機において、内部に材料が導入される加熱筒と、加熱筒内に回転可能に配設されていて内部に帰還穴を連通させた内部帰還型スクリューと、加熱筒及び内部帰還型スクリューの間の周面及び端部に形成されていて材料を流動させるクリアランスと、材料の導入時に内部帰還型スクリューを低速回転させて材料をクリアランスに供給する低速回転手段と、材料の導入終了後に内部帰還型スクリューを高速回転させて材料をクリアランス及び帰還穴に循環させて高せん断加工する高速回転手段と、材料の導入完了後に内部帰還型スクリューの回転速度を低速回転から高速回転まで所定時間かけて上昇させる回転速度移行手段と、を備えたことを特徴とする。
本発明による高せん断加工機の回転速度制御装置によれば、材料供給工程において低速回転手段によって内部帰還型スクリューを低速回転させて材料を加熱筒と内部帰還型スクリューとの間のクリアランスに導入し、材料の供給完了後に内部帰還型スクリューを高速回転させる高せん断加工工程に移行する際、内部帰還型スクリューの回転数を低速回転数から高せん断のための高速回転数に切り換えることなく、回転速度移行手段によって内部帰還型スクリューの回転速度を低速回転数から高速回転数に到達するまで所定時間かけて上昇させる。これによって、材料にかかるせん断応力の急激な上昇を抑えてトルクと材料温度の上昇を抑制することができて材料の物性低下を防止できる。
【0010】
また、回転速度移行手段では、複数の分割時間毎に回転速度を段階的に上昇させることが好ましい。
材料供給工程から高せん断加工工程に移行するまで複数の分割時間単位毎に内部帰還型スクリューの回転数を段階的に上昇させて高速回転数に到達させることで、回転数の急激な上昇を抑えることができるから、せん断応力の急激な上昇を抑えて材料温度の上昇を抑制できる。
【0011】
また、回転速度移行手段では、内部帰還型スクリューの回転速度の上昇速度を一定または変化させて所定時間で低速回転から高速回転に到達するよう制御するようにしてもよい。
内部帰還型スクリューの回転速度の上昇速度を一定にした場合、回転速度が比例的に上昇して所定時間で材料供給工程の低速回転から高せん断加工工程の高速回転になだらかに移行する。また、内部帰還型スクリューの回転速度の上昇速度を変化させた場合、折れ線状や曲線状に回転速度が上昇して所定時間で材料供給工程の低速回転から高せん断加工工程の高速回転に移行できる。
【0012】
本発明に係る高せん断加工機の回転速度制御方法は、せん断応力を付与しつつ混練することで材料を分散及び混合するための高せん断加工方法において、内部に材料が導入される加熱筒と、加熱筒内に回転可能に配設されていて内部に帰還穴を連通させた内部帰還型スクリューと、加熱筒及び内部帰還型スクリューの間の周面及び端部に形成されていて材料を流動させるクリアランスとを備え、材料の導入時に内部帰還型スクリューを低速回転数で回転させて材料をクリアランスに供給する材料供給工程と、クリアランスへの材料の導入完了後に内部帰還型スクリューの回転速度を低速回転数から所定時間かけて予め設定した高速回転数まで上昇させる移行工程と、内部帰還型スクリューを高速回転数で高速回転させて材料をクリアランスと帰還穴との間で循環させて高せん断加工する高せん断加工工程と、を備えたことを特徴とする。
【0013】
また、移行工程では、複数の分割時間毎に内部帰還型スクリューの回転数を低速回転数から高速回転数まで段階的に上昇させることが好ましい。
【0014】
また、移行工程では、内部帰還型スクリューの回転速度の上昇速度を一定または変化させて次第に低速回転数から高速回転数に到達するよう制御してもよい。
内部帰還型スクリューの回転速度の上昇速度を一定にした場合には、低速回転数から高速回転数まで所定時間かけて比例的に回転数が上昇する。
内部帰還型スクリューの回転数の上昇速度を変化させた場合、複数の分割時間毎に回転数上昇の傾きを折れ線状に違えて低速回転数から高速回転数に到達するようにしてもよいし、回転数の上昇割合が連続して変化する場合には回転数の上昇速度が曲線的または直線と複合して変化して低速回転数から高速回転数に到達することになる。
【発明の効果】
【0015】
本発明による高せん断加工機の回転速度制御装置及び回転速度制御方法によれば、材料注入工程から高せん断加工工程に移行する際、内部帰還型スクリューの回転数を低速回転から高速回転まで所定時間かけて上昇させることで、材料にかかるせん断応力の上昇を抑えてトルクと材料温度の上昇を抑制することができるから、材料の分解を抑えて物性の低下を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態による高せん断加工機の回転速度制御装置の概略構成を示す断面図である。
【図2】樹脂注入工程から高せん断加工工程へ移行する移行工程における回転数とトルクの変化を示す図である。
【図3】図1に示す高せん断加工機による高せん断加工工程を示すフローチャートである。
【図4】移行工程における内部帰還型スクリューの回転数の段階立ち上げ処理を示すフローチャートである。
【図5】実施例による高せん断加工機の移行工程における段階立ち上げ処理による樹脂圧の変化を示すグラフである。
【図6】従来の高せん断加工機の樹脂注入工程から高せん断加工工程への回転数切り換えによる樹脂圧の変化を示すグラフである。
【図7】本発明の第一変形例による樹脂注入工程から高せん断加工工程への移行工程における回転数とトルクの変化を示す図である。
【図8】本発明の第二変形例による樹脂注入工程から高せん断加工工程への移行工程における回転数とトルクの変化を示す図である。
【図9】従来の高せん断加工機による樹脂注入工程から高せん断加工工程へ移行する際の回転数とトルクの変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態による高せん断加工機の回転速度制御装置について、図1乃至図6に基づいて説明する。
図1に示す本発明の実施形態による高せん断加工機1は、例えば高分子材料を溶融状態にして高せん断応力を与えつつ混練することで、樹脂の内部構造をナノレベル等の微細レベルまで分散して混合するものである。
【0018】
高せん断加工機1で使用される高分子材料として、例えば非相溶性ポリマーブレンド系、ポリマー/フィラー系、ポリマーブレンド/フィラー系の樹脂材料等のブレンド材料が挙げられる。非相溶性ポリマーブレンド系として、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)とポリアミド11(PA11)の組み合わせや、ポリカーボネート(PC)とポリメチルメタクリレート(PMMA)の組み合わせがある。ポリマー/フィラー系としては、例えばポリ乳酸とカーボンナノチューブ(CNT)の組み合わせがあり、ポリマーブレンド/フィラー系として、例えばPVDFとポリアミド6とCNTとの組み合わせなどがある。
なお、本発明では高分子系材料として高分子ブレンド材料に限定されることなく、他のブレンド材料や、ブレンドしない単一の分子材料等を高せん断加工してナノ分散化することもできる。或いは高分子材料以外の適宜材料を用いてもよく、材料は溶融樹脂等の流体に限らず、粉体や粒体等、適宜の形状のものを採用できる。
【0019】
本実施形態による高せん断加工機1は、例えばペレット形状をなす固体状の高分子ブレンド系の樹脂(以下、「固体状樹脂」という)を投入して可塑化する可塑化ユニット2を付加している。可塑化ユニット2で可塑化された溶融樹脂は、可塑化ユニット2の射出ノズル3によって高せん断加工機1における注入口に設けた注入バルブ4から加熱筒5内に注入されてナノ分散化させることになる。
図1に示す高せん断加工機1は、本実施形態による高せん断加工機の基本構成を示しており、加熱筒5内に高せん断スクリューである内部帰還型スクリュー6が回転可能に挿入されて概略構成されている。
【0020】
本実施形態による高せん断加工機1は、以下の説明では、内部帰還型スクリュー6の中心軸線O方向でこのスクリュー6による送り方向前方を「前方」、「先端」、「前端」とし、その反対側を「後方」、「後端」、「基端」として統一して用いる。
高せん断加工機1は、略水平方向に配設された有底の略中空円筒形状の加熱筒5と、この加熱筒5内に挿通された状態で中心軸線O回りに回転可能な略円柱形状の内部帰還型スクリュー6と、この内部帰還型スクリュー6の基端部側に連結された例えばサーボモータからなる駆動モータ8とを略同軸に形成している。
【0021】
高せん断加工機1の加熱筒5は、例えば長手方向を略水平方向に向けた状態で保持され、外周面が図示しないヒーターによって覆われている。加熱筒5の肉厚の先端部には高せん断された溶融樹脂を排出するための排出口に排出バルブ7が設けられている。
注入バルブ4は予め設定された時間等に応じて射出ノズル3から注入される溶融樹脂の注入量を制御することが可能な自動開閉式とされ、本実施形態では排出バルブ7の開閉動作に連動しているものとする。なお、樹脂注入量の計測は射出バルブ3内に設けた射出スクリューの進出位置によって規定される。
【0022】
次に、内部帰還型スクリュー6について説明する。
内部帰還型スクリュー6は駆動モータ8により、例えば100〜3300min−1の回転数で高速回転させられて溶融樹脂を混練しつつ高せん断加工することができる。内部帰還型スクリュー6は略円柱状に形成され、その外周面には螺旋状にスクリュー羽根9が突出して形成されている。
【0023】
加熱筒5の内周面と内部帰還型スクリュー6の外周面との間の略円筒状をなす空間は周面クリアランス11であり、スクリュー羽根9と加熱筒5の内周面との間に略一定幅の間隙S1を有している。射出ノズル3から射出された溶融樹脂を注入バルブ4を通して加熱筒5内の周面クリアランス11に流入させることができる。内部帰還型スクリュー6の先端面と加熱筒5の内奧部の底面との空間は先端クリアランス12とされ、略一定幅の間隙S2を有している。
そのため、外周クリアランス11と先端クリアランス12、即ち間隙S1と間隙S2とで高せん断領域Kのクリアランスが形成されている。そして、内部帰還型スクリュー6が高速回転することで高せん断領域Kの溶融樹脂をスクリュー羽根9で高速せん断しつつスクリュー羽根9間の溝面9aに保持して前方に移送するようになっている。
【0024】
内部帰還型スクリュー6の内部には、その回転中心である中心軸線Oに沿って先端面の流入口14aから後方に向かって帰還穴14が穿孔されており、そして帰還穴14は溶融樹脂の注入バルブ4よりも後側また略同一位置において中心軸線O上から径方向外側に延びて外周面の吐出口14bで周面クリアランス11に連通している。即ち、帰還穴14は内部帰還型スクリュー6の中心軸線O上を流入口14aから後方に延びて吐出口14b近傍の位置で滑らかに湾曲して中心軸線Oから外れて外周面に向けて略径方向外側に延びて吐出口14bに連通する流路を形成している。
これにより、帰還穴14は流入口14aと吐出口14bとで高せん断領域Kに連通している。
【0025】
加熱筒5の注入バルブ4から高せん断領域Kの周面クリアランス11に注入された溶融樹脂は、内部帰還型スクリュー6の回転とともに溝面9aに沿って先端側に送られ、先端クリアランス12において流入口14aより帰還穴14に流入して後方へ流れて吐出口14bより周面クリアランス11へ吐出され、再び内部帰還型スクリュー6の回転とともに先端側へ送られる循環がなされる。
そのため、内部帰還型スクリュー6は加熱筒5との間で、混練に必要な溶融樹脂の循環がスムーズとなり、高せん断効率を高めることができる。
【0026】
また、内部帰還型スクリュー6の基端部15は、スクリュー羽根9が形成されていない外周クリアランス11の範囲外の位置に設けられていて、スクリュー羽根9より大径に形成された円柱状領域を有する。この基端部15は加熱筒5の内周面に対して液密に摺動可能となっている。
【0027】
次に、高せん断加工機1に設けられた回転速度制御装置17について説明する。
回転速度制御装置17において、駆動モータ8には、速度変更指令手段16と内部帰還型スクリュー6の回転数を計測する回転数センサー18とトルクを計測するトルクセンサー19とを備えたアンプ21が設けられている。また、加熱筒5には高せん断領域K、例えば周面クリアランス11内の樹脂圧を測定する樹脂圧センサー20が設けられている。
これら回転数センサー18とトルクセンサー19と樹脂圧センサー20とで測定された各測定データは、高せん断加工を制御する制御部22に設けられた制御手段23に入力される。制御手段23は、入力手段24で予め設定された入力情報に基づいて内部帰還型スクリュー6の回転数を制御する。
【0028】
高せん断加工機1による溶融樹脂の高せん断加工に際して、可塑化ユニット2の射出ノズル3から供給バルブ4を介して周面クリアランス11へ溶融樹脂を供給する樹脂供給工程と、樹脂供給完了後に溶融樹脂を高せん断加工する高せん断加工工程と、高せん断加工終了後に高せん断された溶融樹脂を排出バルブ7から排出する樹脂排出工程とを備えている。更に本実施形態では、樹脂供給工程終了後に内部帰還型スクリュー6を低速回転数から高速回転数へ段階的に上昇させる移行工程を備えている。
【0029】
そして、回転速度制御手段17において、入力手段24では、上述した各工程での内部帰還型スクリュー6の回転数と処理時間を予め設定して制御手段23に入力しておく。
制御部22では、制御手段23からの出力により、樹脂供給工程と樹脂排出工程において内部帰還型スクリュー6を低速回転させるべくそれぞれ設定された低速回転数の信号を出力する低速回転手段26と、高せん断加工時に内部帰還型スクリュー6を高速回転させるべく高速回転数の信号を出力する高速回転手段27と、樹脂供給工程から高せん断加工工程へ移行するために内部帰還型スクリュー6の回転数を所定時間かけて階段状に増大させて例えば6段目で高せん断のための高速回転数に到達するよう制御する回転速度移行手段28とを備えている。
【0030】
ここで、回転速度移行手段28において、複数の階段状に増大する各回転数の変化と処理時間は等しく設定することが、樹脂圧の急激な上昇を抑えてせん断加工制御の安定性を確保する上で好ましい。例えば、図2に示す内部帰還型スクリュー6の回転数の移行工程では、移行工程を例えば5段に等分割して各分割時間の2秒毎に400または500min−1ずつ回転数を増大させるものとする。すると、低速回転時の内部帰還型スクリュー6の回転数を500min−1として、各2秒毎に400または500min−1ずつ変化させて6段目に高せん断時の高速回転数3000min−1に到達するように制御される(下記表1参照)。
なお、分割時間とその時間毎の設定回転数は不均一であってもよい。
【0031】
また、制御部22では、予め設定された各工程の回転数の信号を、低速回転手段26,高速回転手段27,回転速度移行手段28を介して速度変更指令手段16によって駆動モータ8へ出力すると共に、各工程における樹脂圧を樹脂圧センサー20で測定して表示装置30で画像表示するように信号出力する。更に、制御手段23では、各工程における駆動モータ8の回転数に関して、回転数センサー18とトルクセンサー19と樹脂圧センサー20の測定データをフィードバック制御している。
【0032】
本実施形態による高せん断加工機1の回転速度制御装置17は上述の構成を備えており、次に例えば高分子材料の樹脂について段階立ち上げ処理による回転速度制御方法と高せん断加工方法を図3及び図4に示すフローチャートに沿って説明する。
なお、高分子材料の樹脂として、例えば非相溶性ポリマーブレンド系、ポリマー/フィラー系、ポリマーブレンド/フィラー系の固体状樹脂材料からなる高分子ブレンド系樹脂を用いるものとするが、他の材料を用いてもよい。
【0033】
次に、図1に示す高せん断加工機1において、前段階として高分子材料の樹脂ペレットを可塑化ユニット2で可塑化させる。樹脂の可塑化が完了した段階で、高せん断加工機1の注入バルブ4を開放させ、排出バルブ7を閉鎖させ(ステップ101)、制御部22の低速回転手段26によって駆動モータ8による内部帰還型スクリュー6の回転数を例えば500min−1の低速回転数に設定する(ステップ102)。
そして、溶融樹脂を射出ノズル3から注入バルブ4を通して加熱筒5内に注入する(ステップ103)。例えば、射出ノズル3内の射出ストロークが規定値に達した時点で樹脂注入が完了したとして注入バルブ4を閉弁させる(ステップ105)。
【0034】
この状態で、内部帰還型スクリュー6を樹脂注入工程から高せん断加工工程に移行させる。従来の高せん断加工機では回転数を一気に高せん断加工の回転数に切り換えるが、本実施形態による高せん断加工機1では、移行工程として図2に示すように回転数を段階的に増大させる(ステップ106)。その段階立ち上げのための各分割時間と回転数の一例を下記の表1に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
表1に示す段階立ち上げ処理は、図4に示すサブルーチンに沿って行われる。
即ち、内部帰還型スクリュー6の回転数Anは樹脂注入工程で例えば500min−1の低速回転の状態にあり、これを初期値として、表1に示すn=1段目に制御手段23で設定して出力し、回転数An(=A1)=900min−1で時間Bn=2秒間、回転速度移行手段28によって駆動モータ8を駆動制御する(ステップ201)。
設定した段数nにおける回転数Anで時間Bn経過すると(ステップ202)、終了した段数nが予め設定した目標段数n(この場合には、n=5)に到達したか否かを判別する(ステップ203)。段数nが目標段数nに到達していない場合には、ポインターでn=n+1にインクリメントして(ステップ204)、ステップ201に戻り、次の段数nの回転数Anを時間Bnの間、駆動させる処理を繰り返す。
そして、目標となるn段目(n=5)の回転数2600min−1を終了させた場合には(ステップ203)移行工程を終了させ、ステップ107へ戻る。
【0037】
ここで、n=1段目の回転駆動が終了するとステップ201に戻り、n=2段目に制御手段23で設定し、内部帰還型スクリュー6を回転数An=1300min−1で時間Bn=2秒間回転駆動させる。こうして、表1に示すように、n=3段目において、An=1700min−1で時間Bn=2秒間、n=4段目において、An=2100min−1で時間Bn=2秒間、n=5段目において、An=2600min−1で時間Bn=2秒間、内部帰還型スクリュー6をそれぞれ回転駆動させる。こうして、駆動モータ8の回転数を階段状に増大させてn=5段目の終了後に、加熱筒5に対して内部帰還型スクリュー6を回転させながら、高せん断加工を行う回転数3000min−1の高速回転に上昇させる(ステップ107)。
そして、高せん断加工では、加熱筒5に対して内部帰還型スクリュー6を高速で回転させながら、溶融樹脂を加熱筒5と内部帰還型スクリュー6の間の周面クリアランス11と先端クリアランス12と帰還穴14とで循環させて、内部帰還型スクリュー6のスクリュー羽根9によって高せん断加工を例えば20秒間に亘って行う(ステップ108)。
【0038】
高せん断加工時間の経過後、内部帰還型スクリュー6の回転数を例えば500min−1の低速回転に低下させて(ステップ109) 排出バルブ7を開弁し(ステップ110)、せん断加工された溶融樹脂を排出バルブ7から排出し(ステップ111)、所定の排出時間経過後に終了する(ステップ112)。
なお、本実施形態では、移行時間だけ処理時間が長くなる。
【0039】
(実施例)
次に実施例による高せん断加工機1を用いて試験によって樹脂圧変化を測定した。
上述した第一の実施形態による高せん断加工機1を実施例とし、従来の高せん断加工機を従来例として、高せん断加工を行った。図5と図6は実施例と従来例による高せん断加工による樹脂圧を測定した試験結果を波形図で表したものである。
【0040】
実施例と従来例の高せん断加工機1は同一のものを使用するものとし、樹脂供給工程から高せん断加工工程へ移行する移行工程のみ相違するものとして試験を行った。
高せん断加工処理において、実施例と従来例は、いずれも樹脂供給工程の駆動モータ8及び内部帰還型スクリュー6の回転数を500min−1とし、可塑化ユニット2の射出スクリューのストロークにして例えば8mm移動させて樹脂を射出して供給し、高せん断加工工程を回転数3000min−1で20秒間行い、その後、回転数を500min−1に低下させて樹脂の排出を20秒間行った。
そして、周面クリアランス11内の樹脂圧の変化を樹脂圧センサー20で測定した。樹脂圧の測定位置は周面クリアランス11の先端クリアランス12との交差部であり、高せん断領域Kで最も樹脂圧の高い前部樹脂圧である。
【0041】
本実施例による高せん断加工機1の回転速度制御装置17では、樹脂供給工程の終了後に移行工程として、表1に示すように、1段目から5段目まで2秒間毎に回転数を順次増大させて、10秒かけて高せん断加工工程の3000min−1へ回転数を階段状に増大させた。
その結果は図5に示すように、ピーク樹脂圧は1段目の立ち上げ開始時では13MPa程度であり、1〜5段目の各段に切り換えた最初に最も高いピーク樹脂圧となり、その後若干樹脂圧が低下するのこぎり刃状の変化を繰り返し、のこぎり刃の繰り返し形状が得られた。最も高いピーク樹脂圧は4段目の15MPaであった。そして、高せん断加工工程では移行工程よりも更に低い樹脂圧が曲線状に低下することとなった。
【0042】
一方、従来例による高せん断加工機では、樹脂供給工程の終了後に設定回転数を500min−1から高せん断加工工程の3000min−1に切り換えて急激に増大させた。そして、周面クリアランス11内の前部樹脂圧の変化を樹脂圧センサー20で測定した。
その結果は図6に示すように、回転数を3000min−1に切り換えた直後にピーク樹脂圧が18MPaに上昇し、その後、高せん断加工工程において時間の経過と共に曲線状に樹脂圧が低下することとなった。
これらの波形図から、本実施形態による回転速度制御装置17及び制御方法によれば、樹脂圧の上昇を抑えられることを確認できた。
【0043】
上述のように、本実施形態による高せん断加工機1の回転速度制御装置17及び回転速度制御方法によれば、樹脂供給工程が終了した内部帰還型スクリュー6の低速回転状態から所定時間かけて高せん断加工工程まで駆動モータ8の回転数を階段状に上昇させることができるから、溶融樹脂に印加されるせん断応力の急激な上昇を抑えてトルクと樹脂温度の上昇を抑制することができる。
これによって、溶融樹脂のピークとなる樹脂供給工程から高せん断加工工程へ向けて移行する際の回転数立ち上げ時の樹脂圧の急激な上昇を抑制できて、高せん断加工において、溶融樹脂の分解を抑えて物性の低下を防止できる。
【0044】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜の変更が可能である。
例えば、上述の実施形態において、樹脂供給工程の終了後に高せん断加工工程に移行する間の移行工程について、階段状に駆動モータ8及び内部帰還型スクリュー6の回転数を上昇させて制御するようにしたが、本発明では、移行工程における回転数の変化は上述した階段状のものに限定されない。その変形例を図7及び図8により説明する。
例えば、図7に示す第一変形例による回転速度の移行工程では、樹脂供給工程の終了時点から高せん断加工工程に到達するまでの所定時間(例えば10〜12秒として)、同一単位時間に対して増大回転数を一定の傾きに設定して時間に対して回転数を比例的に増大するように制御してもよい。
【0045】
また、図8に示す第二変形例として、樹脂供給工程の終了時点から高せん断加工工程に到達するまでの回転数の増加割合を複数に分割して、各単位時間毎に増大する回転数の値を変化させて傾斜角を増減させて時間に対して回転数を折れ線状に変化させて(例えば10〜12秒かけて)次第に増大するように制御してもよい。
なお、回転数の増大制御は折れ線状の変化に限定されることなく曲線状に変化させるように設定してもよい。或いは曲線と直線の組み合わせによって回転数の増大を制御してもよい。
上述した図7及び図8に示す回転数増大の切換制御データは、予め入力手段24によって制御部22における制御手段23に入力しておき、回転速度移行手段28によって駆動モータ8へ出力制御される。
【0046】
なお、上述した実施形態による回転速度制御装置17において、低速回転手段26で、樹脂注入工程と樹脂排出工程における駆動モータ8の回転数をそれぞれ設定するようにしたが、これに代えて、樹脂注入工程と樹脂排出工程における駆動モータ8の回転数を別個に、例えば第一低速回転手段と第二低速回転手段としてそれぞれの回転数を出力するように設定してもよい。この場合、樹脂注入工程と樹脂排出工程における駆動モータ8の回転数が異なっていても良い。
【符号の説明】
【0047】
1 高せん断加工機
5 加熱筒
6 内部帰還型スクリュー
8 駆動モータ
11 周面クリアランス
12 先端クリアランス
14 帰還穴
17 回転速度制御装置
22 制御部
23 制御手段
24 入力手段
26 低速回転手段
27 高速回転手段
28 回転速度移行手段
K 高せん断領域(クリアランス)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
せん断応力を付与しつつ混練することで材料を分散及び混合するための高せん断加工機において、
内部に材料が導入される加熱筒と、
該加熱筒内に回転可能に配設されていて内部に帰還穴を連通させた内部帰還型スクリューと、
前記加熱筒及び前記内部帰還型スクリューの間の周面及び端部に形成されていて材料を流動させるクリアランスと、
材料の導入時に前記内部帰還型スクリューを低速回転させて材料を前記クリアランスに供給する低速回転手段と、
材料の導入終了後に前記内部帰還型スクリューを高速回転させて材料を前記クリアランス及び帰還穴に循環させて高せん断加工する高速回転手段と、
材料の導入完了後に前記内部帰還型スクリューの回転速度を前記低速回転から前記高速回転まで所定時間かけて上昇させる回転速度移行手段と、
を備えたことを特徴とする高せん断加工機の回転速度制御装置。
【請求項2】
前記回転速度移行手段では、複数の分割時間毎に回転速度を段階的に上昇させるようにした請求項1に記載された高せん断加工機の回転速度制御装置。
【請求項3】
前記回転速度移行手段では、内部帰還型スクリューの回転速度の上昇速度を一定または変化させて前記所定時間で前記低速回転から前記高速回転に到達するよう制御する請求項1に記載された高せん断加工機の回転速度制御装置。
【請求項4】
せん断応力を付与しつつ混練することで材料を分散及び混合するための高せん断加工方法において、
内部に材料が導入される加熱筒と、
該加熱筒内に回転可能に配設されていて内部に帰還穴を連通させた内部帰還型スクリューと、
前記加熱筒及び前記内部帰還型スクリューの間の周面及び端部に形成されていて材料を流動させるクリアランスとを備え、
材料の導入時に前記内部帰還型スクリューを低速回転数で回転させて材料を前記クリアランスに供給する材料供給工程と、
前記クリアランスへの材料の導入完了後に前記内部帰還型スクリューの回転速度を前記低速回転数から所定時間かけて予め設定した高速回転数まで上昇させる移行工程と、
前記内部帰還型スクリューを前記高速回転数で高速回転させて材料を前記クリアランスと帰還穴との間で循環させて高せん断加工する高せん断加工工程と、
を備えたことを特徴とする高せん断加工機の回転速度制御方法。
【請求項5】
前記移行工程では、複数の分割時間毎に前記内部帰還型スクリューの回転数を前記低速回転数から前記高速回転数まで段階的に上昇させるようにした請求項4に記載された高せん断加工機の回転速度制御方法。
【請求項6】
前記移行工程では、内部帰還型スクリューの回転速度の上昇速度を一定または変化させて次第に前記低速回転数から前記高速回転数に到達するよう制御する請求項4に記載された高せん断加工機の回転速度制御方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−71429(P2013−71429A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−214363(P2011−214363)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(303024138)株式会社ニイガタマシンテクノ (78)
【Fターム(参考)】