説明

高ガスバリヤー性を有する松食い虫燻蒸用シート

【課題】 松食い虫燻蒸用の樹脂シートとして、極めて高いガスバリヤー性を有し、かつ、シートとして充分な物性、成形性を有する生分解性樹脂製シートを提供すること。
【解決手段】 脂肪族芳香族ポリエステル10〜89重量部、ポリエチレンサクシネート10〜89重量部および長鎖分岐を有する脂肪族ポリエステル1〜80重量部の組成比で配合した生分解性樹脂からなり、メチルイソチオシアネート(MITC)ガスの透過度が0.8以下であることを特徴とする高ガスバリヤー性を有する生分解性松食い虫燻蒸用シートである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性の樹脂を使用し、高ガスバリヤー性を有する、松食い虫などの害虫燻蒸用のカバーシートとして好ましく使用される生分解性樹脂製シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、マツキボシゾウムシ、マツノキクイムシ、マツノマダラカミキリ等の甲虫である松喰い虫による松林等の森林の枯損被害が拡大し、松の生育に対して多大な被害を与えている。
また、各種大型製品等の輸出入の運搬に際して、フォークリフトによる運搬では木材パレットが使用されているが、この木材パレット中に有害な害虫が潜んでいる場合が多く、そのまま木材パレットを諸外国へ搬送すると、かかる害虫を諸外国へ移住させる結果となり、その国の自然環境の破壊につながる問題を抱えている。殊に日本およびアメリカから搬送される輸入製品用の木材パレットには、このような害虫として松喰い虫が混在していることが多いと、世界各国から問題提起されており、その木材の消毒が望まれている。
【0003】
このような松食い虫の被害を防止するために、松食い虫により被害のあった松の枯木をプラスチック製のバリヤーシートで被覆密閉包囲し、燻蒸用活性成分であるメチルイソチオシアネート(MITC)による燻蒸剤で処理することが行われている。また、木材の消毒にあっても、多くの場合、切出した直後の木材を野外に積み上げ、プラスチック製のバリヤーシートを被せて密閉包囲し、MITCを燻蒸することにより行われている。
【0004】
このような燻蒸用のバリヤーシートとしてポリエチレンフィルムやポリ塩化ビニルフィルムが使用されている。ところで、松食い虫等の害虫の燻蒸は、1ヶ月間以上とある程度長期間にわたるものであり、薬剤燻蒸が終了した時点で、燻蒸用のバリヤーシートは廃棄処分されている。薬剤燻蒸は多くの場合、松の枯木のある山林、あるいは木材を伐採した山林等で行われることより、使用済みの燻蒸用シートはその場で焼却処分されているが、今日の環境問題の要請を考慮すると、焼却処分は好ましいものではなく、したがって生分解性樹脂を用いた燻蒸用シートが採用されつつある。
【0005】
例えば、生分解性樹脂単体フィルムでは燻蒸剤に対するガスバリヤー性が乏しいため、その不足を補うべく、セルロース成分からなる透気度が一定以上の値を有する基紙を用い、これに生分解性熱可塑性樹脂層を積層させた燻蒸消毒用被覆シートが提案されている(特許文献1)。しかしながら、この紙と生分解性樹脂を積層させたシートは、ガスバリヤー性が高いものの、木の枝などに引っかかると破れ易く、そのうえシート自体が透明でないため、被覆した内部が確認できないという不便さがある。
【0006】
そこで、かかる点を改良するものとして、基紙を用いず、生分解樹脂のみによるフィルムが提案されている(特許文献2)。生分解樹脂フィルムとして、脂肪族芳香族ポリエステルと脂肪族ポリエステルとの組み合わせにより、ガスバリヤー性の高い生分解性樹脂フィルムが記載されているが、実際に検討されている脂肪族芳香族ポリエステルとしては、1,4−ブタンジオールとアジピン酸とテレフタル酸の共重合体であるポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)を使用し、脂肪族ポリエステルとしてポリブチレンサクシネート(PBS)の組み合わせからなるもののみであり、他の生分解性樹脂の組み合わせによる生分解性樹脂フィルムについては一切検討されておらず、具体的ガスバリヤー性についての比較は何らなされていない。生分解性を有する脂肪族ポリエステルでも、樹脂によってそのガスバリヤー性は異なっており、全てが優れたものではない。
【0007】
特許文献2では、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)とポリブチレンサクシネート(PBS)との組み合わせによる生分解性樹脂フィルムについて、そのガスバリヤー性をポリ塩化ビニル(PVC)フィルムと比較して行っているが、燻蒸用フィルムのように可塑剤を多く添加する軟質PVCフィルムは一般的にガスバリヤー性が低いものであることは周知であり、広く使用されているポリエチレンフィルムと比較した場合、ガスバリヤー性が必ずしも高いものではなく、充分なガスバリヤー性を有したものではない。
【特許文献1】特許第3557370号公報
【特許文献2】特開2003−284478号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の問題点に鑑み、松食い虫燻蒸用の樹脂シートとして、極めて高いガスバリヤー性を有し、かつ、シートとして充分な物性、成形性を有する生分解性樹脂製シートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる課題を解決するために、本発明者は鋭意検討を行った結果、生分解性樹脂として、脂肪族芳香族ポリエステル、脂肪族ポリエステルとしてのポリエチレンサクシネート、および長鎖分岐を有する脂肪族ポリエステルを組み合わせることにより、松食い虫の燻蒸剤であるメチルイソチオシアネート(MITC)ガスの透過度を低いものとすることができ、極めて良好なガスバリヤー性を有する生分解性樹脂フィルムを得ることができること、また燻蒸用シートとしての成形性も良好であり、得られた燻蒸用シートとして充分な物性を有するシートとなることを確認し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
したがって本発明は、その基本的態様として、脂肪族芳香族ポリエステル10〜89重量部、ポリエチレンサクシネート10〜89重量部および長鎖分岐を有する脂肪族ポリエステル1〜80重量部の組成比で配合した生分解性樹脂からなり、メチルイソチオシアネート(MITC)ガスの透過度が0.8以下であることを特徴とする高ガスバリヤー性を有する生分解性松食い虫燻蒸用シートである。
【0011】
すなわち本発明は、脂肪族ジカルボン酸と芳香族ジカルボン酸からなるジカルボン酸成分と脂肪族ジオールからなるジオール成分との重縮合物である脂肪族芳香族ポリエステルと、脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとの溶融重合によって製造される脂肪族ポリエステルのなかでも、ポリエチレンサクシネート(PES)、さらに長鎖分岐を有する脂肪族ポリエステルを組み合わせて混合し、かかる混合樹脂を製膜して得た生分解性樹脂フィルムであり、極めて良好なガスバリヤー性を有し、成形性も良好なものであり、燻蒸用シートとしての物性も充分満足し得る生分解性樹脂フィルムとなる点に特徴を有するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明が提供する松食い虫燻蒸用シートは、木材にシートを被せた際に破けたりすることが無く、また、生分解性樹脂フィルムを使用したことにより、燻蒸処理後においてシートの回収の手間を省き、さらには回収したシートの処理費用の削減をすることができる。
また、従来のガスバリヤー性に乏しい生分解性樹脂シートと比較して、そのガスバリヤー性は極めて高いものであり、燻蒸時において薬剤の昇華、逃散を防止し得る点で、極めて優れた効果を発揮する。したがって、薬剤燻蒸作業が効率良く行われ、松食い虫の被害を最小限に抑えることができる。
さらに、その生分解性も良好なものであり、焼却処分による有害ガスの発生がない、地球環境に優しい燻蒸用樹脂シートが提供される利点を有している。
さらにまた、本発明の生分解性樹脂シートは極めて成形性がよいものであり、例えば、従来のインフレーション成形機により容易にシート状に加工し得るものであり、その加工速度を上げることができることから、効率的な生産が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明が提供する松食い虫燻蒸用の生分解性樹脂シートにおいて使用される生分解性樹脂としては、脂肪族芳香族ポリエステル、および脂肪族ポリエステルとしてポリエチレンサクシネート、および長鎖分岐を有する脂肪族ポリエステルを、一定の組成比で組み合わせた生分解性樹脂の混合物である。
【0014】
脂肪族芳香族ポリエステルとしては、脂肪族ジカルボン酸と芳香族ジカルボン酸からなるジカルボン酸成分と脂肪族ジオールからなるジオール成分との重合縮合物である脂肪族芳香族ポリエステルであり、具体的には、例えば、アジピン酸およびテレフタル酸からなるジカルボン酸成分と、1,4−ブタンジオールからなるジオール成分との重縮合物を、多官能性イソシアネートで高分子化した脂肪族芳香族ポリエステルが好ましい。その他のジオール成分としては、2,3−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,4−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール等を挙げることができる。
【0015】
その他のジカルボン酸成分としては、コハク酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン酸、無水コハク酸、無水アジピン酸などを挙げることができる。なお、これらのジカルボン酸は2種以上併用してもよい。
【0016】
より具体的には、脂肪族芳香族ポリエステルとしてポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)、ポリブチレンサクシネートアジペートテレフタレート、ポリテトラメチレンアジペートテレフタレート等を挙げることができ、なかでもポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)を好適に使用することができる。
【0017】
一方、本発明で使用するポリエチレンサクシネートは、コハク酸を過剰のエチレングリコールとエステル化反応させた後、高温下で重縮合して得られる高分子量のポリエチレンサクシネートである。
【0018】
具体的には、最初にコハク酸とエチレングリコールとをエステル化反応させる。当該反応に使用するコハク酸としては、無水コハク酸やコハク酸ジアルキルエステルのようなエステル形成性誘導体も包含され、得られるポリエチレンサクシネートの物性を損なわない範囲で、他のジカルボン酸類、例えば、シュウ酸、アジピン酸、グルタル酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン酸およびその酸無水物、ジアルキルエステル等のようなエステル形成性誘導体を併用することもできる。
【0019】
また、生分解性を損なわない範囲内であれば、テレフタル酸、イソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸を併用することも可能である。
【0020】
エチレングリコールとしては、エチレンオキサイド等のようなエステル形成性誘導体も含まれ、得られるポリエチレンサクシネートの物性を損なわない範囲で、他のジオール類、例えば、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、トリエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、またはそれらのエステル形成性誘導体を併用することもできる。さらに、オキシカルボン酸、多価カルボン酸、多価アルコール等の併用することができる。
【0021】
本発明で使用するポリエチレンサクシネートの調製にあっては、コハク酸とエチレングリコールとの仕込み比率が、コハク酸1モルに対してエチレングリコールが2モル以上であることが必要である。好ましくは、コハク酸1モルに対してエチレングリコールが2〜5モルである。エチレングリコールの仕込み比率が2モルより少ないと、高分子量のポリエチレンサクシネートが得られなくなり、また5モルを超えてもその効果は変わることがないが、エチレングリコールの回収分が多くなり、好ましいものではない。
【0022】
当該エステル化の条件としては、120〜250℃で1〜10時間の範囲が好ましく、特に、180〜240℃で、2〜5時間の範囲で、大気圧下、不活性ガス気流下、特に窒素ガス気流下に反応させるのがよい。
【0023】
エステル化反応が終了した後、次いで、得られた生成物を少なくとも280℃の高温下で重縮合反応させることが必要であり、特に280〜350℃が好ましい。このときの温度が280℃未満であると、重縮合にかかる時間が長くなり、重縮合が十分に進行しないため、高分子量のポリエチレンサクシネートが得られなくなる。
【0024】
重縮合反応を行うときの条件としては、0.01〜10mmHgの減圧下で1〜10時間行うのが好ましく、0.1〜1mmHgの減圧下で1〜5時間行うのがより好ましい。
【0025】
重縮合反応の際にはリン化合物を添加してもよく、リン化合物としては、例えば、リン酸、無水リン酸、ポリリン酸、メタリン酸、ピロリン酸、亜リン酸、次亜リン酸、トリポリリン酸等あるいはそれらの金属塩、アンモニウム塩、塩化物、エステル化合物等を挙げることができる。また、ビス(2,4−ジブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスフェートに代表されるスピロリン酸化合物を用いることもできる。特に好ましいものは、リン酸、ポリリン酸、メタリン酸、ビス(2,4−ジブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスフェート、ピロリン酸であり、これらは1種または2種以上を混合して使用することもできる。なお、リン酸化合物の添加量は、生成するポリエチレンサクシネート100重量部当たり0.001〜1重量部が好ましく、より好ましくは0.01〜1重量部である。
【0026】
一方、本発明で使用する長鎖分岐を有する脂肪族ポリエステルは、融点が70〜190℃であって、主に脂肪族グリコール(シクロ環を含む)と脂肪族ジカルボン酸(またはその無水物)を主体として得られた数平均分子量(Mn)5000以上、好ましくは10000以上のポリエステルプレポリマーに、適当な多官能カップリング剤を用いて縮合することにより合成された長鎖分岐を有する脂肪族ポリエステルである。
【0027】
そのようなグリコール類としては、例えば、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、デカメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどが挙げられる。エチレンオキサイドを用いることもできる。これらのグリコール類は2種以上を併用してもよい。
【0028】
また、脂肪族ジカルボン酸(またはその無水物)としては、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン酸、無水コハク酸、無水アジピン酸などが挙げられる。これらの脂肪族ジカルボン酸(またはその無水物)は2種以上併用してもよい。
【0029】
多官能カップリング剤としては、多官能イソシアネート、オキサゾリン、ジエポキシ化合物、酸無水物などを挙げることができる。多官能カップリング剤として多官能イソシアネートを用いた場合には、ポリエステルプレポリマーはウレタン結合を介して長鎖構造を形成するポリエステルとなる。また、多官能カップリング剤としてオキサゾリン、ジエポキシ化合物、あるいは酸無水物を用いた場合、ポリエステルプレポリマーはエステル結合を介して連鎖構造を形成するポリエステルとなる。
【0030】
多官能イソシアネートとしては、トリメチロールプロパン・ヘキサメチレンジイソシアナート・アダクト、ヘキサメチレンジイソシアナート環状トリマーまたはヘキサメチレンジイソシアナート・水・アダクトを挙げることができる。
【0031】
ポリエステルプレポリマーの調製においては、第三成分としての3官能または4官能の多価アルコールあるいは、3官能または4官能のオキシカルボン酸および/または3官能または4官能の多価カルボン酸を添加することができる。そのような3官能または4官能の多価アルコールとしては、トリメチロールプロパン、グリセリンおよびペンタエリトリット等をあげることができる。また、3官能または4官能のオキシカルボン酸および/または3官能または4官能の多価カルボン酸としては、トリメシン酸、プロパントリカルボン酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、ベンゾフェノンテロラカルボン酸無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸、リンゴ酸、クエン酸および酒石酸等をあげることができる。
【0032】
本発明で使用する長鎖分岐を有する生分解性の脂肪族ポリエステルの具体例としては、昭和高分子社製の脂肪族ポリエステル「ビオレーノ#1903」などが好適である。その他の長鎖分岐を有する生分解性の脂肪族ポリエステルとしては、ポリカプロラクトンまたはポリ乳酸などを用いることもできる。
【0033】
本発明が提供する松食い虫燻蒸用の生分解性樹脂シートにおいては、生分解性樹脂として、脂肪族芳香族ポリエステル、ポリエチレンサクシネートおよび長鎖分岐を有する脂肪族ポリエステルを、一定の組成比で組み合わせた生分解性樹脂の混合物が使用される。その組成比率は、脂肪族芳香族ポリエステル、特にポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)を10〜89重量部、ポリエチレンサクシネートを10〜89重量部、長鎖分岐を有する脂肪族ポリエステルを1〜80重量部の組成比とすることにより、松食い虫の燻蒸剤であるMITCガスの透過度を低いものとすることができ、極めて良好なガスバリヤー性を有し、燻蒸用シートとしての物性および成形性も良好な、生分解性樹脂フィルムを得ることができる。
【0034】
ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)が10重量部未満であると、得られる生分解性樹脂フィルムの引裂き物性が上がらず、破れやすいものとなってしまい、好ましいものではない。また、ポリエチレンサクシネートが10重量部未満であると、得られる生分解性樹脂フィルムのガスバリヤー性の向上がみられず、また好ましいものではない。
【0035】
また、長鎖分岐を有する脂肪族ポリエステルの添加は、生分解性樹脂の混合物をシート状物へ加工する場合の加工特性を向上する。したがって、その添加量が1重量部未満であると、シート状への加工性が改良されない。
【0036】
本発明においては、かくして得られる生分解性樹脂フィルムのガスバリヤー性は極めて良好なものであり、松食い虫の燻蒸剤であるメチルイソチオシアネート(MITC)ガスの透過度を0.8以下とすることができる。
【0037】
なお、本発明のおけるメチルイソチオシアネート(MITC)ガスの透過度とは、一方の面に通気穴を設けた箱型の容器2個を、穴の開いている面同士で連結し、その間に樹脂フィルムを挟み、一方の容器内部にメチルイソチオシアネート(MITC)を投入し、その状態で24時間放置した後、両方の容器(薬剤投入槽および薬剤透過槽)の内部のMITCガス濃度をGC−FIDで測定し、次式により得たガスの透過度をいう。
【0038】
【数1】

【0039】
本発明が提供する生分解性の松食い虫燻蒸用樹脂シートにおいては、その生分解性を損なわない範囲で種々の添加物を適宜配合することができる。そのような添加物としては、無機充填剤、有機充填剤、紫外線吸収剤、可塑剤、顔料、酸化防止剤、滑剤、防曇剤、帯電防止剤、光安定剤等をあげることができる。これらの添加剤は、目的とする樹脂シートの生分解性を損なわない範囲内で、その種類、配合量を適宜選択することができる。
【0040】
特に、本発明が提供する松食い虫燻蒸用の生分解性樹脂シートは燻蒸用シートとして野外で使用されることが多いものであることより、紫外線による分解を防止するために、紫外線吸収剤を添加しておくことが好ましい。そのような紫外線吸収剤は、一般的に農業用樹脂シートとして添加される紫外線吸収剤をあげることができる。
【0041】
また樹脂成分に配合される無機充填剤は、樹脂成分に対する溶融張力をアップさせ、シートに固さを持たせて加工性を良好ならしめるために添加されるものである。そのような無機充填剤としては、樹脂添加物として公知のものがあげられ、具体的には、炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム、マイカ、タルク、カオリン、長石、石英、クレー、シリカ、ハイドロタルサイトなどをあげることができる。これらの無機充填剤は、単独でもまた2種以上を混合して使用することもできる。添加量としては、0.1〜10部程度であり、多すぎると得られるシートの透明性が損なわれ、また、樹脂の溶融時の伸びが小さくなり、かえって延伸ができなくなる恐れがある。また、添加量が少ない場合には、目的とする効果を得ることができない。
【0042】
酸化防止剤は、加工時に熱がかかるため、その際の樹脂の分解を防止するために添加される。すなわち、加工中に熱により樹脂成分の分子切断が生じ、低分子成分が生成し、ロールへの付着するのを防止するために添加される。そのような酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン酸エステル系酸化防止剤などの一般的な酸化防止剤を使用することができる。酸化防止剤の添加量は、0.01〜3部程度である。添加量が多いと製品がブルームし、また少ないと効果が得られない。
【0043】
また、金属ロールとの樹脂シートとの離型性を向上するために、さらに一般的な滑剤を添加することもできる。そのような滑剤としては、樹脂組成物配合用として使用されているものであればいずれも使用することができ、例えば、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸マグネシウム、パルミチン酸ナトリウムなどの脂肪酸金属塩(金属石鹸)、リン酸エステル、ポリエチレンワックス、モンタン酸ワックス等のワックス、エチレンビスステアリン酸アミド、エルカ酸アミド等の脂肪酸アミド、グリセリンモノステアレート、ソルビタンモノオレート等の脂肪酸エステルなどをあげることができる。これらの滑剤は2種以上を併用してもよい。
【0044】
本発明の生分解性樹脂シートは、脂肪族芳香族ポリエステル、ポリエチレンサクシネートおよび長鎖分岐を有する脂肪族ポリエステルからなる生分解性樹脂を基本とするものであるが、所望により、他の脂肪族ポリエステルを添加してもよい。
【0045】
本発明が提供する生分解性の松食い虫燻蒸用の樹脂シートを成形するにあたっては、従来のフィルム成形機で行うことができ、例えば、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)ポリエチレンサクシネートおよび長鎖分岐を有する脂肪族ポリエステル、さらに必要により適宜樹脂添加剤をドライブレンドした後、インフレーション成形機にフィルムに成形し得ることができる。また、Tダイ押出成形機もしくはカレンダー法による成形も可能である。さらには、所望により多層押出機もしくはラミネートによる他の樹脂フィルムとの積層も可能である。
【0046】
かくして得られる本発明の生分解性の松食い虫燻蒸用樹脂シートは、所望の厚みとして0.03〜0.3mm程度の厚みであるが、取り扱い性や生分解性を考慮すると0.05〜0.15mm程度の厚みが好ましい。かかる樹脂シートは、松食い虫駆除用の木材燻蒸用シートとして、優れたガスバリヤー性と品質を有すると共に、土壌中に存在する微生物等により短期間のうちに分解されるため、そのまま自然投棄等の廃棄処分をしたとしても、自然環境に害を与えないという優れた特性を有するものである。
【実施例】
【0047】
以下に本発明を実験例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら例に限定されるものではない。
【0048】
実施例1〜5/比較例1〜6
下記表1中に示した樹脂配合成分を用い、インフレーション成形機により、厚みが0.1mmを有する生分解性樹脂シートを得た。
【0049】
得られた各シートについて、MITCガス透過度およびフィルムの引裂き強度を評価した。それらの結果をまとめて表1中に示した。
【0050】
【表1】

【0051】
*1:ポリブチレンアジペートテレフタレート:エコフレックス(BASF社製)
*2:ポリエチレンサクシネート:ルナーレSE−P5000(日本触媒社製)
*3:長鎖分岐ポリブチレンサクシネート:ビオノーレ#1903(昭和高分子社製)
*4:ポリブチレンサクシネート(長鎖分岐でない):ビオノーレ#1001(昭和高分子社製)
*5:低密度ポリエチレン:ペトロセン176R(東ソー社製)
【0052】
*6:成形性は以下の基準により評価した。
すなわち、インフレーション成形において、バブルの安定性を目視により評価した。
○:安定している。
×:バブルがふらつき、不安定である。
【0053】
*7:MITCガス透過度は以下の方法により実施した。
一方の面に通気穴を設けた箱型の容器2個を、穴の開いている面同士で連結し、その間に樹脂フィルムを挟み、一方の容器内部にメチルイソチオシアネート(MITC)を投入しその状態で24時間放置した後、両方の容器(薬剤投入槽および薬剤透過槽)の内部のMITCガス濃度をGC−FIDで測定し、ガスの透過度を次式により求めた。
【0054】
【数2】

【0055】
*8:引裂き強度は以下の試験により評価した。
試験フィルムの縦方向に10mmの切り込みを入れ、手で引裂き、その引裂き時の状態を以下の評価項目により評価した。
○:引裂くのに力を要し、切断面が波打っている。
×:容易に引裂け、切断面が直線的である。
【0056】
表中に示した結果からも判明するように、本発明の松食い虫燻蒸用の生分解性樹脂シートは、良好な高いガスバリヤー性を示しているのが理解される。また、フィルムへの成形性が良好なものであり、その上、その引裂き強度も強いものであり、野外での使用に際して特に好ましいものであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0057】
以上記載したように、本発明が提供する松食い虫燻蒸用の生分解性樹脂シートは、従来のガスバリヤー性に乏しい生分解性樹脂シートに比較して、高いガスバリヤー性有するものであり、また、燻蒸用シートとして優れた成形性および物性を有する。したがって、木材燻蒸用の生分解性樹脂シートとして、燻蒸時における薬剤の昇華、逃散を防止し得る点で、極めて優れた効果を発揮し、松食い虫の被害を最小限に抑えることができる。
【0058】
さらに、生分解性樹脂シートからなるものである点より、燻蒸後におけるシートの回収労力を省くことができ、また、焼却処分による有害ガスの発生がない、地球環境に優しい樹脂シートが提供される利点を有している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族芳香族ポリエステル10〜89重量部、ポリエチレンサクシネート10〜89重量部および長鎖分岐を有する脂肪族ポリエステル1〜80重量部の組成比で配合した生分解性樹脂であることを特徴とする高ガスバリヤー性を有する生分解性松食い虫燻蒸用シート。
【請求項2】
メチルイソチオシアネート(MITC)ガスの透過度が0.8以下であることを特徴とする請求項1に記載の高ガスバリヤー性を有する生分解性松食い虫燻蒸用シート。

【公開番号】特開2006−246786(P2006−246786A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−67558(P2005−67558)
【出願日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【出願人】(000000077)アキレス株式会社 (402)
【Fターム(参考)】