説明

高パワーパルス光発生装置

【課題】マスタクロックジェネレータと、光発振器と、光増幅器と、前記光増幅器に光学的に接続された励起半導体レーザと、前記励起半導体レーザの駆動部と、制御部が備えられた高パワーパルス光発生装置において、出力パルス光の安定化を図る。特にOFF状態からON状態に切り替えた直後の出力パルス光のパルスパワーの変動を防ぐ。
【解決手段】前記駆動部を駆動するためのパルス状駆動電流のパルス幅を変化させて、励起半導体レーザから出力される励起用パルス光のパルス幅を変化させ、これにより前記光増幅器のパルスごとの利得を制御する。特に、出力パルス光出射直前の光増幅器の利得を、ON状態の定常時における光増幅器の最大利得に近づけるように制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光増幅器の励起光源として半導体レーザを用い、パルス光源からのパルス光を前記光増幅器内で増幅して出射する高パワーパルス光発生装置、特にレーザ加工に適した高パワーパルス光発生装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般にパルス光増幅機能を有する高パワーパルス光発生装置としては、パルス光源としての光発振器と、光増幅器とを備え、光増幅器励起用の光源としてファイバ出力の半導体レーザ(Laser Diode:LD)を用いたものが多い。また光増幅器励起用のLD(以下、励起LDと記す)には、多くの場合、抵抗値が小さく、高精度な抵抗器であるシャント型定電流駆動回路が備えられ、励起LDの出力が一定になるように付属のドライバにより制御されるのが通常である。しかしながら、このような励起LD駆動回路では、出力電流を1sec−1hrの期間、一定値に安定化させるために、応答時間は1msec以上となるため、出力光を高速でON−OFFさせることは困難である。
【0003】
一方で、定電圧回路を用いた電源回路や電力供給回路のデバイスにおける低損失化を容易にするために、励起LDのパルス駆動を可能とするスイッチング素子を応用した定電圧回路も使用されるようになってきた。先行技術文献に記載されているように、駆動電流をパルス駆動させることにより、励起LDの出力をパルス状に制御する方法も知られている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0004】
さらに高パワーパルス光発生装置において、光発振器からのパルス光(以下、発振パルス光)を高効率に増幅するために、励起LDをパルス駆動する技術がいくつかの先行技術文献(例えば、特許文献3〜特許文献5参照)に開示されている。また、励起LDの駆動電流値をパルス状に変化させ、パルスレーザ光源の信号周波数と励起LDのパルス出力の周波数とを同期させて利得を高める技術も、既に知られている。
【0005】
ところで実際のレーザ加工においては、高パワーパルス光発生装置から出力される加工用のパルス光(以下出力パルス光という)の出射をある時間だけ継続させ、その後一旦停止させた後に、再び出射させるという動作が頻繁に繰り返されるのが通常である。
【0006】
ここで、高パワーパルス光発生装置から出力パルス光の出射を継続させている状態をON状態、高パワーパルス光発生装置から出力パルス光の出射を停止させている状態をOFF状態と称する。このような高パワーパルス光発生装置のON状態とOFF状態との切り替えは、光増幅器を励起するためのパルス光(以下、励起用パルス光と記す)を発生する励起部(励起LD)のパルス状駆動電流をON−OFFすることによって行なわれるのが通常である。したがって、励起部にパルス状駆動電流が流れていない状態では、高パワーパルス光発生装置はOFF状態となり、励起部にパルス状駆動電流が流れれば、高パワーパルス光発生装置はON状態となる。なお励起用パルス光はパルス状駆動電流と同期しており、一般にそのパルス状駆動電流の各パルスのパルス幅は一定とされ、またそのパルス幅は出力パルス光のパルス幅と比較して十分に長く設定されるのが通常である。
【0007】
このようなパルス駆動の高パワーパルス光発生装置を使用した場合、OFF状態からON状態に切り替えたときには、その高パワーパルス光発生装置内の光増幅器のパルス毎の利得が、切り替え直後は小さく、その後、パルス毎に徐々に大きくなってから、定常状態の利得に達する現象が生じる。またここで、定常状態の利得に達するまでの期間を短くするために、ON状態への切り替え直後のパルスについての光増幅器の利得を高めようとすれば、切り替え直後のパルスについての利得が過大となってオーバーシュートしてしまうことがある。
以上のように、高パワーパルス光発生装置のOFF状態からON状態への切り替え直後では、光増幅器のパルスごとの利得が安定せず、高パワーパルス光発生装置の出力パルス光のパルス毎のパワーが安定しないという問題があった。
【0008】
なお以上のように、高パワーパルス光発生装置のOFF状態からON状態への切り替え後において、出力パルス光のパワーが安定化するまでの期間を、この明細書では過渡期間と称し、その期間内で出力パルス光のパルスごとにパワーの変動が生じる現象を過渡現象と称することにする。
【0009】
特に高パワーパルス光発生装置をレーザ加工装置の光源として使用した場合、前述のような過渡期間内の出力パルス光のパワー変動は、レーザ加工における加工品質や加工度などの加工特性のばらつきを大きくする要因になる。このため、過渡期間内は、レーザ加工を行なわず、装置を待機させる事が必要となり、このような待機時間がレーザ加工装置の稼動効率の低下を招いている。
【0010】
しかるに、上述のいずれの特許文献の技術においても、高パワーパルス光発生装置のOFF状態からON状態への切り替えの際に、過渡現象による出力パルス光のパルスパワーの変動を抑えることは全く考慮されていなかった。したがって、従来の高パワーパルス光発生装置においては、OFF状態からON状態へ切り替わる場合に、切り替え直後からパルスパワーが揃った出力パルス光を得ることは困難であり、そのため前述のような待機期間により、高パワーパルス光発生装置の稼動効率が低下してしまうことを避け得なかったのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第5325383号明細書
【特許文献2】米国特許第5283794号明細書
【特許文献3】米国特許第5867305号明細書
【特許文献4】米国特許第5933271号明細書
【特許文献5】米国特許第6081369号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
図7に、従来の高パワーパルス光発生装置において、出力パルス光出射の開始信号が入力された状態における光増幅器の励起LDからのパルス出力(励起用パルス光)と、光増幅器からの出力パルス光と、光増幅器の利得変化と、マスタクロックとについて、時間に依存した相互の関係を示す。
図7に示すように、光増幅器の利得は、高パワーパルス光発生装置をOFF状態からON状態に切り替えた直後の出力パルス光の第1パルスは、そのパルスパワー(パルス高)がON状態の定常時よりも小さく、その後パルス出射ごとに徐々に大きくなり、数パルス分の出射後に定常時のパルスパワーに達する。このように、高パワーパルス光発生装置をOFF状態からON状態に切り替えた直後は、定常時に出射される出力パルス光のパルスパワーよりも小さいパワーのパルスが出射されて、その後、定常状態に達するまで、パルスごとのパワーが変動してしまう。
【0013】
このような現象が発生する原因は、次のように考えられる。すなわち、OFF状態では、光増幅器の利得がON状態の定常時(以下、定常時)における最低利得より低くなっていることに加え、励起LDに対するパルス状駆動電流のパルス幅を常に一定として、励起LDから出力される励起用パルス光のパルス幅が一定となるように制御しているためと考えられる。なお図7のケースでは、上述のように励起LDから出力される励起用パルス光のパルス幅が一定となるように制御してはいるものの、高パワーパルス光発生装置をOFF状態からON状態に切り替えるタイミング(出力開始トリガのタイミング)が、マスタクロックのパルスの立ち上がりタイミングとずれているため、ON状態に切り替えた直後の励起用パルス光の第1パルスの幅が小さくなり、そのため光増幅器の利得も、第1パルスでは極端に小さくなってしまっている。
【0014】
上述のように、従来の高パワーパルス光発生装置においては、高パワーパルス光発生装置をOFF状態からON状態に切り替えた際に、出力パルス光のパルスパワーが変動する。したがって従来の高パワーパルス光発生装置をレーザ加工に用いた場合には、OFF状態からON状態に切り替えた際のパルスパワー変動期間(過渡期間)を、レーザ加工を行わない待機期間とせざるを得ず、そのため作業効率の低下を引き起こしていた。
【0015】
本発明は、上述の事情を背景としてなされたもので、高パワーパルス光発生装置の出力パルス光のパワー変動を抑え、例えば高パワーパルス光発生装置をOFF状態からON状態へ切り替えた際においても、早期に出力パルス光の各パルスのパワーを安定化させて、前述のような過渡現象の発生を防止することができる高パワーパルス光発生装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、基本的には、励起LDのパルス状駆動電流のパルス幅を制御することにより、励起LDのパルス出力(励起用パルス光)のパルス幅を変化させて、光増幅器の利得をパルスごとに制御できるように構成することにより、前記課題を解決することとした。
【0017】
具体的には、本発明の第1の態様の高パワーパルス光発生装置は、マスタクロックを発生するマスタクロックジェネレータと、前記マスタクロックに同期してパルス光を発生する光発振器と、前記光発振器からのパルス光を増幅して高パワーパルス光を出力する光増幅器と、前記光増幅器を励起するための励起用パルス光を発生する励起半導体レーザと、前記励起半導体レーザを前記マスタクロックに同期するパルス状の駆動電流により駆動するための駆動部と、前記駆動部を制御するための制御部とを有し、
前記制御部は、前記パルス状の駆動電流のパルス幅を変化させて、前記励起用パルス光のパルス幅を変化させ、これにより前記光増幅器のパルスごとの利得を制御する構成とされていることを特徴とするものである。
【0018】
上述の第1の態様の高パワーパルス光発生装置によれば、光増幅器のパルスごとの利得を制御することができるため、高パワーパルス光発生装置の出力パルス光のパルスパワーを安定化させることができる。また、上述のように光増幅器のパルスごとの利得を制御することができるため、レーザ加工の自由度を飛躍的に拡げることもできる。さらに、励起LDのパルス状駆動電流および励起用パルス光をマスタクロックに同期させ、パルス幅変調(Pulse Width Modulation:PWM)を行うことにより、出力パルス光の立ち上がりを簡易かつ高速にすることができる。
【0019】
第2の態様の高パワーパルス光発生装置は、第1の態様の高パワーパルス光発生装置において、前記励起半導体レーザの駆動が停止されて光増幅器からの高パワーパルス光の出力が停止されているOFF状態から、励起半導体レーザの駆動が開始されて光増幅器から高パワーパルス光が出力されるON状態に切り替えた直後の励起用パルス光のパルス幅を調整することによって、出力パルス光出射直前の光増幅器の利得を、光増幅器のON状態の定常時における最大利得に近づけるように制御する構成としたことを特徴とするものである。
【0020】
上述の第2の態様の高パワーパルス光発生装置によれば、高パワーパルス光発生装置をOFF状態からON状態に切り替えた直後の励起用パルス光のパルス幅を調整して、出力パルス光出射直前の光増幅器の利得を、ON状態の定常時における最大利得に近づけるように制御することによって、ON状態に切り替えた直後の出力パルス光の第1パルスのパワーを、定常時における出力パルス光のパルスパワーとほぼ同等に揃えることができる。そのため、前記切り替え直後の1パルス目からパワー変動の少ない出力パルス光が得られて、前述のような過渡現象が抑制されることから、例えばレーザ加工においては、待機期間を不要とするか、又は少なくとも待機期間を短くすることができる。
【0021】
第3の態様の高パワーパルス光発生装置は、第1の態様の高パワーパルス光発生装置において、前記ON状態に切り替えた直後の励起用パルス光のパルス幅と、前記ON状態の定常時におけるパルス幅との差を調整幅と定義し、その調整幅の絶対値が、ON状態に切り替えた直後から次第に減少するように制御する構成としたことを特徴とするものである。
【0022】
上述の第3の態様の高パワーパルス光発生装置によれば、パルス毎の励起LDの励起用パルス光のパルス幅の調整幅が、その直前のパルスの調整幅より短くなるように制御しているため、短時間で調整幅が0(ゼロ)に収束され、その結果、短時間でパルスパワーを安定化させることができる。また、過渡期間中のパルス毎の調整幅をデータテーブルとして予め制御部に入力しておくことができ、その場合には、前記励起LDのパルス出力のパルス幅が、データテーブルをもとに自動的に設定されるため、励起LDのパルス状駆動電流の自動制御が容易になる。
【0023】
第4の態様の高パワーパルス光発生装置は、第2の態様の高パワーパルス光発生装置において、前記光増幅器の出射側に出力パルス光を監視するモニタが設けられており、前記光増幅器からのパルス出射毎に前記モニタでの受光量が前記制御部に入力されて、その受光量の変化に応じて前記励起用パルス光のパルス幅を制御する構成としたことを特徴とするものである。
【0024】
上述の第4の態様の高パワーパルス光発生装置によれば、モニタにより出力パルス光のパルス毎の出射パワーを監視することができ、出射パワーの変化に応じて、出力パルス光のパルスパワーを短時間で安定化させることができる。
【0025】
第5の態様の高パワーパルス光発生装置は、第3の態様の高パワーパルス光発生装置において、前記光増幅器の出射側に出力パルス光を監視するモニタが設けられており、前記光増幅器からのパルス出射毎に前記モニタでの受光量が前記制御部に入力されて、その受光量の変化に応じて前記調整幅を制御する構成としたことを特徴とするものである。
【0026】
上述の第5の態様の高パワーパルス光発生装置によれば、モニタにより出力パルス光のパルス毎の出射パワーを監視することができ、出射パワーの変化に応じて、前記調整幅を正確かつ短時間で0に収束させ、出力パルス光のパルスパワーを、より短時間で安定化させることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明の高パワーパルス光発生装置によれば、その装置内の光増幅器の励起LDの駆動電流を制御し、励起LDのパルス出力(励起用パルス光)のパルス幅を変化させて、出力パルス光のパルスごとのパワーを制御することができるため、出力パルス光のパルスパワーの変動を抑えて、出力パルス光を安定化させることができる。そのため、例えばレーザ加工用の光源として用いれば、加工特性を安定化させることができ、また、光増幅器のパルスごとの利得を制御することができることから、レーザ加工の自由度を飛躍的に拡げることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の高パワーパルス光発生装置の基本構成を示すための略解図である。
【図2】本発明の高パワーパルス光発生装置における出力パルス光と、光増幅器の励起LDの励起用パルス光のパルス幅と、光増幅器の利得と、マスタクロックとの関係を示すための図である。
【図3】本発明の第1の実施形態による高パワーパルス光発生装置の全体構成を示す略解図である。
【図4】本発明の第1の実施形態による高パワーパルス光発生装置のPWMドライバとして機能するシャント型定電流回路の基本構成を示す略解図である。
【図5】本発明の第1の実施形態による高パワーパルス光発生装置のON状態とOFF状態との切り替え時における励起LDのパルス状の駆動電流の制御方法を説明するための図である。
【図6】本発明の第1の実施形態による高パワーパルス光発生装置における励起LDのパルス出力のパルス幅と調整幅の増減との関係を示すための図である。
【図7】従来の高パワーパルス光発生装置における出力パルス光と、光増幅器の励起LDの励起用パルス光のパルス幅と、光増幅器の利得と、マスタクロックとの関係を示すための図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の基本的な原理を図1、図2を参照して説明する。
【0030】
図1は本発明の高パワーパルス光発生装置の基本構成を示している。図1において高パワーパルス光発生装置の光発振器1から出射されたパルス光(以下、発振パルス光と記す)は光増幅器31に導かれる。光増幅器31には、励起LD3からの励起用パルス光が与えられ、前記発振パルス光により図示しない増幅媒体内の励起物質が励起されて、誘導放出により増幅された出力パルス光を出射する。
制御部40は光発振器1と励起LD3とに接続されており、光発振器1にはON状態とOFF状態との切り替えの出力制御信号を出力し、励起LD3には、励起LDから出力される励起用パルス光のパルス幅に関する制御信号を出力する。
【0031】
図2は高パワーパルス光発生装置に出力開始トリガーが入力された状態、すなわちOFF状態からON状態に切り替えられたときにおける光増幅器の励起LDからの励起用パルス光と、光増幅器からの出力パルス光と、光増幅器の利得変化と、マスタクロックについて、時間に依存した相互の出力のタイミングを模式的に示している。なお、励起LDからの励起用パルス光はパルス状駆動電流と同期して、この駆動電流が制御部により制御される。図2では、出力開始トリガーが制御部に入力された直後の、出力パルス光の第1パルスにおける励起用パルス光のパルス幅を最大とする一方、第2パルスにおける励起用パルス光のパルス幅は、第1パルスにおける利得の若干のオーバーシュート分だけ短くしている。さらに、第2パルスにおける光増幅器の利得の若干のアンダーシュート分だけ、第3パルスの励起用パルス光のパルス幅を長くしている。このように励起用パルス光のパルス幅を変化させて、ON状態での定常パルス幅に次第に近づけることにより、第1パルスからパワーの揃った出力パルス光を出射させることが可能となる。すなわち、励起LDを励起するためのパルス状駆動電流のパルス幅の制御を通じて、励起LDからの励起用パルス光のパルス幅を制御することにより、従来の高パワーパルス光発生装置で生じていた過渡現象の発生が防止される。
以上の理由から、本発明では図2に示す状態を生じさせるべく、光増幅器の励起LDを駆動させるためのパルス状駆動電流のパルス幅を制御することとしている。
なお、図2の励起LDのパルス駆動においては、励起LDの駆動開始のトリガーと同時にあらかじめ定められたフローにしたがって、制御部により励起LDの駆動電流および励起用パルス光のパルス幅が制御される。
【0032】
次に、本発明の具体的な実施の形態について、図3、図4を参照し、以下に説明する。
【0033】
本発明の高パワーパルス光発生装置の一実施形態を図3に示す。この高パワーパルス光発生装置には、光ファイバ10と、光発振器1と、光増幅器31と、制御部40と、出力パルス光モニタ50とが設けられている。光増幅器31は、増幅媒体であるYb添加ダブルクラッドファイバ(DCF)2と、Yb添加DCF2に励起LD結合器8で光学的に接続された励起LD3と、励起LD3を駆動するための駆動部としてのPWMドライバ4(後に改めて図4を参照して説明する)とを有している。また、光発振器1と励起LD3のドライバ4は、ON状態とOFF状態との切り替えやパルス状駆動電流のパルス幅に関する制御信号を受取るために、制御部40と接続されている。制御部40はマスタクロックとユーザからの指示に関する信号を受取るために、マスタクロックジェネレータ9および、外部コントローラ45に接続されている。さらに、光増幅器31からの出力パルス光のパルス毎のパワーを測定するための出力パルス光モニタ50は、ファイバカプラ49を介してYb添加DCFに接続されている。
【0034】
次に、図3に示した高パワーパルス光発生装置の基本動作および機能を説明する。
光発振器1から生成された発振パルス光は光増幅器31のYb添加DCF2に入射する。この発振パルス光とPWMドライバ4から出力される励起LD3のパルス状駆動電流はマスタクロックジェネレータ9からのマスタクロックに同期するように、制御部40により制御される。前記のパルス変調された駆動電流が励起LD3に印加され、励起LD3から励起光が出射される。Yb添加DCF2に、励起LD3からの励起光が入射されれば、Yb添加DCF2のYb元素が励起され、Yb添加DCF2の利得が増えて反転分布率が高くなる。この状態で、前述のように光発振器1からの発振パルス光が入射すると誘導放出が発生し、Yb添加DCF2から増幅されたパルス光が出射され、高パワーパルス光発生装置から前記出力パルス光として出射される。
また、ユーザからの高パワーパルス光発生装置のON状態とOFF状態との切り替えなどの指示は、外部コントローラ45に入力され、制御部40に伝達される。
【0035】
続いて、励起LD3の駆動部であるPWMドライバ4として機能するシャント型定電流回路のPWM動作について図4を参照し、説明する。
【0036】
図4に示すシャント型定電流回路は、シャント抵抗52と、比較器53と、トランジスタ54から構成されている。定電流回路の設定電流を定める比較器53への電圧入力を、パルス幅変調した電圧パルス信号51にすることによって、励起LDのパルス状駆動電流にPWMをかけることができる。
そして、PWMドライバ4は制御部40からの制御信号に従い、マスタクロックジェネレータ9からのマスタクロックパターンに対してパルス幅の調整を加えた電圧パルス信号51を生成し、前記シャント型定電流回路で構成されるPWMドライバ4に電圧パルス信号51を入力する。PWMドライバ4はパルス幅変調された電圧パルス信号51に応じたパルス状駆動電流を励起LDに印加する。
【0037】
ここで、PWMドライバ4のシャント電圧を参照電圧とし、前記PWMのスイッチングの状態が励起LD3の発光閾値電流をシャント電圧によって定まるようにすることが望ましい。このような制御を行うことにより、スイッチングによるオーバーシュートを抑圧し、励起LD3の負担を軽減することができる。
また、出力電圧の温度補償デバイスを励起LD3と直列に接続することにより、前記出力電圧が簡易な電圧制御で励起LD3の温度特性の影響を受けないようにすることもできる。
従来のシャント型定電流回路をPWMで高速にON−OFFを切り替えられるように時定数を短くすると、一般的に電流の安定化は悪化する傾向があるが、本提案では1sec以上の時間定電流を流すことは無いので問題とはならない。
【0038】
以上をふまえ、上述の高パワーパルス光発生装置の出力パルス光出射中に、ユーザから出力パルス光停止信号(以降、停止信号)が外部コントローラ45に入力され、その後出力パルス光開始信号(以降、開始信号)が入力された場合の詳細な動作について、図5を参照し、説明する。なお、図5の励起LD3のパルス状駆動電流は、マスタクロックと同じ周波数でパルス変調されている例として示しているが、マスタクロックと同期がとられていればよいため、前記パルス状駆動電流がマスタクロックの2倍波、3倍波、となっても同様の制御方法で励起LDの駆動電流のパルス幅を制御することができる。
【0039】
ここで、
T2:外部コントローラ45から、制御部40に停止信号が入力されたタイミング、
T4:外部コントローラ45から、制御部40に開始信号が入力されたタイミング、
T20:T2から、Yb添加DCF2の利得保持時間t10だけ経過したタイミング、
t10:Yb添加DCF2の利得保持時間、
tt:T2からT4までの時間差、
とする。
【0040】
外部コントローラ45から停止信号が制御部40に入力されると、制御部40により、励起LD3の励起用パルス光は小さくなり、次に開始信号が制御部40に入力されるまでその状態を保持する。マスタクロックは停止信号や開始信号の外部コントローラ45への入力に関係なく、定常時と同じ矩形パルスパターンの出力を継続する。
Yb添加DCF2の利得は、T2からT20まではT2の時点での利得を保持し、その後、T4までの間に低下する。t10は極めて短時間であるため、T4の時点でYb添加DCF2の利得は、前記定常時における最低利得よりも低くなるのが通常である。
【0041】
外部コントローラ45から開始信号が制御部40に入力されると、制御部40から光発振器1とPWMドライバ4に向けて開始信号が発信される。制御部40では、T20でのYb添加DCF2の利得と定常時の最低利得との差、すなわちT20からT4までのYb添加DCF2の利得の低下量DAを回復するのに必要な励起LD3への駆動電流印加時間(パルス幅)dtがPWMドライバ4に与えられる。
【0042】
励起LD3への駆動電流印加時間dtがPWMドライバ4に与えられると、PWMドライバ4から、定常時の駆動電流の印加時間にdtが付加されたパルス幅の駆動電流のパルスが励起LD3に印加される。その結果、図5に示すように、T4以降で最初に励起LD3の駆動電流のパルスが立ち上がる(すなわち、励起LD3の励起用パルス光が大きくなる)タイミングは、T3からdtだけ早いタイミング(図5のT3´)となる。励起LD3からは定常時の励起用パルス光のパルス幅すなわち定常パルス幅に、dtに相当する調整幅が付加された合計パルス幅のパルスが出力される。
このような動作により、開始信号が制御部40に入力された直後の出力パルス光のパルスパワーが、定常時における出力パルス光のパルスパワーと略等しくなる。
【0043】
ここで、
t0:定常時における励起LD3の励起用パルス光のパルス幅、
tm:高パワーパルス光発生装置がOFF状態からON状態に切り替わった後、出力パルス光のm番目のパルス(以降、第mパルス)が出射されたときの励起LD3の励起用パルス光のパルス幅、
Δtm:第mパルスが出射されたときの励起LD3の励起用パルス光の調整幅、
とする。このとき、第mパルスが出射されるための励起LD3の励起用パルス光のパルス幅tmは
tm=t0+Δtm
で表される。
【0044】
そして、第1パルス(m=1)については
t1=t0+Δt1
となる。T4の時点でYb添加DCF2の利得は定常時における最低利得よりも低くなっていることから、第1パルス出射直前のYb添加DCF2の利得を定常時におけるYb添加DCF2の最大利得に近づけるために、Δt1>0とする。
続いて第2パルス(m=2)については
t2=t0+Δt2
となる。第1パルスが出射された直後にYb添加DCF2の利得が定常時における最低利得よりも高くなる場合には、Δt2=0とすると第2パルスの出射直前におけるYb添加DCF2の利得が前記定常時のYb添加DCF2の最大利得より高くなる。この場合には図6の(a)に示すように、Δt2<0とすることで第2パルスの出射直前におけるYb添加DCF2の利得が前記定常時のYb添加DCF2の利得に近づく。
図6(a)の場合に対し、第1パルスの出射直後のYb添加DCF2の利得が定常時における最低利得よりも低くなる場合には、Δt2=0とすると前記第2パルスの出射直前のYb添加DCF2の利得が前記定常時のYb添加DCF2の最低利得より低くなる。この場合には図6(b)に示すように、Δt2>0とすることで第2パルスの出射直前におけるYb添加DCF2の利得が定常時のYb添加DCF2の利得に近づく。
同様に、第3パルス以降の第mパルスを出射するための励起LD3の励起用パルス光のパルス幅tmが制御部によりPWMドライバ4を介して制御される。
つまり、この励起LD3の励起用パルス光のパルス幅の制御方法では、図6の(a)または(b)のいずれかのようにΔtm(m=1〜n)を決定し、
|Δt1|>|Δt2|>|Δt3|>・・・|Δt(n−1)|>|Δtn|=0
となるように励起LD3の励起用パルス光のパルス幅の制御を行う。その結果、高パワーパルス光発生装置をOFF状態からON状態に切り替えた直後から、定常時と同じパワーの出力パルス光のパルス出射が行われる。
前述の制御はフィードフォワードで行われるため、Δt1〜Δtnまでのn個の調整幅の値をデータテーブルとして、高パワーパルス光発生装置の使用前に、予め制御部に入力しておく必要がある。出力パルス光の第(n+1)パルス以降の出射については、定常時と同様の励起LD3のパルス状駆動電流の制御を行う。
【0045】
さらに、この実施形態の高パワーパルス光発生装置には、図3に示すようにYb添加DCF2の出射部にファイバカプラ49を介して出力パルス光モニタ50が接続されている。出力パルス光モニタ50にはフォトディテクタなどを適用することができる。高パワーパルス光発生装置をOFF状態からON状態に切り替えた直後に、この出力パルス光モニタ50を用いて出力パルス光のパルス毎のパワーを測定し、その受光量を制御部にパルス毎に入力する。次いで、制御部は前記受光量から出力パルス光の第mパルスの出射を行うための励起LD3の調整幅Δtmの値を決める。その値をPWMドライバ4に出力し、PWMドライバ4で励起LD3の励起用パルス光のパルス幅を調整することにより、Δtmを正確かつ短時間内に0に収束させる。このような制御を行うことにより、高パワーパルス光発生装置からパワー変動の少ない出力パルス光を得ることができる。
【0046】
上述のように、制御部40によりPWMドライバ4からの励起LD3を励起するためのパルス状駆動電流のパルス幅を調整することにより、励起LD3の励起用パルス光のパルス幅が調整され、高パワーパルス光発生装置をON状態からOFF状態に切り替えた直後においても、出力パルス光のパルス毎の出射パワーの変動が抑えられる。
また、dtなどの制御パラメータを自在に操作することにより、出力パルス光の出射パワーをパルス毎に制御することも可能である。
【0047】
以上、本発明の好ましい実施形態を説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されないことはもちろんである。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。
【0048】
なお本発明の高パワーパルス光発生装置は、レーザ加工用の光源に最適であるが、それに限定されないことはもちろんであり、高パワーのパルス光が求められる用途には、すべて適用可能である。
【符号の説明】
【0049】
1…光発振器、3…励起LD、4…PWMドライバ(駆動部)、9…マスタクロックジェネレータ、31…光増幅器、40…制御部、50…出力パルス光モニタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスタクロックを発生するマスタクロックジェネレータと、前記マスタクロックに同期してパルス光を発生する光発振器と、前記光発振器からのパルス光を増幅して高パワーパルス光を出力する光増幅器と、前記光増幅器を励起するための励起用パルス光を発生する励起半導体レーザと、前記励起半導体レーザを前記マスタクロックに同期するパルス状の駆動電流により駆動するための駆動部と、前記駆動部を制御するための制御部とを有し、
前記制御部は、前記パルス状の駆動電流のパルス幅を変化させて、前記励起用パルス光のパルス幅を変化させ、これにより前記光増幅器のパルスごとの利得を制御する構成とされていることを特徴とする高パワーパルス光発生装置。
【請求項2】
請求項1に記載の高パワーパルス光発生装置において、
前記励起半導体レーザの駆動が停止されて光増幅器からの高パワーパルス光の出力が停止されているOFF状態から、励起半導体レーザの駆動が開始されて光増幅器から高パワーパルス光が出力されるON状態に切り替えた直後の励起用パルス光のパルス幅を調整することによって、出力パルス光出射直前の光増幅器の利得を、光増幅器のON状態の定常時における最大利得に近づけるように制御する構成としたことを特徴とする高パワーパルス光発生装置。
【請求項3】
請求項2に記載の高パワーパルス光発生装置において、
前記ON状態に切り替えた直後の励起用パルス光のパルス幅と、前記ON状態の定常時におけるパルス幅との差を調整幅と定義し、その調整幅の絶対値が、ON状態に切り替えた直後から次第に減少するように制御する構成としたことを特徴とする高パワーパルス光発生装置。
【請求項4】
請求項2に記載の高パワーパルス光発生装置において、
前記光増幅器の出射側に出力パルス光を監視するモニタが設けられており、
前記光増幅器からのパルス出射毎に前記モニタでの受光量が前記制御部に入力されて、その受光量の変化に応じて前記励起用パルス光のパルス幅を制御する構成としたことを特徴とする高パワーパルス光発生装置。
【請求項5】
請求項3に記載の高パワーパルス光発生装置において、
前記光増幅器の出射側に出力パルス光を監視するモニタが設けられており、
前記光増幅器からのパルス出射毎に前記モニタでの受光量が前記制御部に入力されて、その受光量の変化に応じて前記調整幅を制御する構成としたことを特徴とする高パワーパルス光発生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−26377(P2013−26377A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−158847(P2011−158847)
【出願日】平成23年7月20日(2011.7.20)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】