説明

高乳分含有乳飲料、その製造方法、及び性状安定化方法

【課題】 乳成分の分離及び凝集を抑制することによって性状を安定させ、且つ、色調等の総合評価が良好である高乳分含有乳飲料を提供する。
【解決手段】 乳分50重量%以上の高乳分含有乳飲料において、ナトリウム濃度を35mg/100g以上100mg/100g以下とし、且つ、粒度分布における累積体積%が90%のときの粒子径を3.1μm以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高乳分含有乳飲料、その製造方法、及び、高乳分含有乳飲料の性状安定化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乳成分を多く含む乳飲料は、安定性が悪く、製造工程における加熱殺菌後に乳成分の分離や凝集を生じることがあった。乳成分の分離や凝集が生じた場合、商品の安全性は全く問題が無くても、商品価値が大きく損われることが問題であった。
【0003】
これらの問題を防ぐ手段として、特許文献1には、乳飲料中にポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、及び増粘多糖類を含有させることが開示されている。また、特許文献2には、乳成分含有コーヒー飲料に、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、乳酸、グルコン酸、コハク酸、アジピン酸、フマル酸、乳酸、イタコン酸、α−ケトグルタル酸、フィチン酸及びリン酸から選ばれる1種又は2種以上を0.005〜0.2重量%、及び炭酸水素ナトリウムを0.075〜0.25重量%含有させることにより、ゲル状沈殿の発生を防止することが開示されている。また、特許文献3では、コーヒー分に、強塩基性物質および/または塩基性アミノ酸を添加し、乳分と混合した後に加熱殺菌することにより、乳分混合時および加熱殺菌後の沈殿物の発生を防止することが開示されている。
【0004】
しかしながら、従来の方法では、乳成分の分離及び凝集を防止する効果が不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−305223号公報
【特許文献2】特開2005−192402号公報
【特許文献3】特開2002−186425号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、乳成分の分離及び凝集を抑制することによって、性状が安定であり、且つ、色調を含む総合評価が良好である高乳分含有乳飲料、及びその製造方法、並びに高乳分含有乳飲料における性状安定化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1実施形態において、乳分50重量%以上の高乳分含有乳飲料であって、ナトリウム濃度が、35mg/100g以上100mg/100g以下であり、且つ、粒度分布90%Dが3.1μm以下である高乳分含有乳飲料が提供される。
【0008】
本発明の第2実施形態において、乳分を50重量%以上含む調製液に、ナトリウム塩を添加して該調製液のナトリウム濃度を35mg/100g以上100mg/100g以下の範囲に調整する工程と、前記調製液をホモジナイズ処理及び加熱殺菌して、粒度分布90%Dを3.1μm以下に調整する工程とを含む高乳分含有乳飲料の製造方法が提供される。
【0009】
本発明の第3実施形態において、乳分を50重量%以上含む調製液に、ナトリウム塩を添加して該調製液のナトリウム濃度を35mg/100g以上100mg/100g以下の範囲に調整する工程と、前記調製液をホモジナイズ処理及び加熱殺菌して、粒度分布90%Dを3.1μm以下に調整する工程とを含む高乳分含有乳飲料の性状安定化方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、乳成分の分離及び凝集を抑制することによって性状を安定させ、且つ、色調等の総合評価が良好である高乳分含有乳飲料、及びその製造方法、並びに高乳分含有乳飲料における性状安定化方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1実施形態)
本発明の第1の実施形態において、乳分50重量%以上の高乳分含有乳飲料であって、ナトリウム濃度が、35mg/100g以上100mg/100g以下であり、粒度分布90%Dが3.1μm以下である高乳分含有乳飲料が提供される。
【0012】
乳飲料とは、乳等省令第2条第40項に規定する乳飲料であって、重量百分率で乳固形分3.0%以上の成分を含有するものをいう。本実施形態においては、乳分を50重量%以上含む乳飲料、具体的には、乳脂肪分を1.5%以上3.5%未満、無脂乳固形分を4.0%以上8.5%未満含む飲料を、高乳分含有乳飲料とする。
【0013】
本実施形態における高乳分含有乳飲料は、ナトリウム濃度が、乳飲料100g中に35mg以上100mg以下であり、粒度分布90%Dが3.1μm以下である。
【0014】
ここで、粒度分布90%Dが3.1μm以下であるとは、飲料中の分散する乳脂肪、たんぱく質など乳由来成分の粒子の分布において、粒子径の小さい粒子から分布%を算出する場合、全体の90%が分布する値が、3.1μm以下の範囲であることを意味する。
【0015】
本実施形態における高乳分含有乳飲料において、ナトリウム濃度が35mg/100g未満であると、製品の保管時に乳成分の分離凝集が発生しやすくなる。一方、ナトリウム濃度が100mg/100gを超えると、液色の褐変が強くなり、牛乳由来の白い色合いが損なわれ好ましくない。また、粒度分布90%Dが3.1μmを超えると、乳成分の分離凝集が発生しやすくなる。
【0016】
本実施形態に従って、ナトリウム濃度及び粒度分布90%Dを上記範囲内にすることにより、高乳分含有乳飲料における乳成分の分離及び凝集が抑制され、性状が安定すると共に、色調が良好であり、総合評価が良好である乳高含有飲料を提供することが可能である。
【0017】
(第2実施形態)
本発明の第2の実施形態において、乳成分の分離及び凝集が抑制され、性状が安定であると共に、色調が良好であり、総合評価が良好である乳高含有飲料の製造方法が提供される。
【0018】
該方法においては、乳分を50重量%以上含む調製液に、ナトリウム塩を添加して該調製液のナトリウム濃度を調製液100gあたり35mg以上100mg以下の範囲に調整する。ナトリウム塩の添加は乳分の凝固を防ぐ効果を有する。また、ナトリウム塩の一種である重曹は無色無臭であり、味への影響が少ないため好適に用いられる。
【0019】
調製液には、乳成分及び他の成分に由来するナトリウムが含まれる。よって、添加するナトリウム塩は、添加前の調製液のナトリウム濃度に依存して変化するが、35〜100mg/100gの範囲であることが好ましい。
【0020】
また、調製液をホモジナイズ処理して加熱殺菌することにより、該製品の粒度分布90%Dを3.1μm以下に調整する。なお、ホモジナイズ処理は、該調合液を60〜80℃で200kg/cm2の条件によって行うことができ、加熱処理は中性飲料や弱酸性飲料の場合には、115〜130℃、5〜40分でレトルト殺菌、若しくは、115〜150℃、30秒〜90秒でUHT殺菌することができる。
【0021】
なお、本実施形態において調製液とは、製造途中の飲料を指し、50重量%以上の乳分と、果汁、野菜汁、コーヒー飲料及び茶飲料のような他の成分を含む液である。
【0022】
上記の調製液は、ナトリウム濃度の調整が終了した段階でホモジナイズ処理を行う。なお、調製液には、例えばpHを調整するためのさらなる成分を添加してもよく、また、味、香り、栄養機能成分等を調整するために、他の成分を添加してもよい。例えば、ビタミンC、クエン酸、各種ビタミン類や香料等を添加することができる。
【0023】
以上のように、本実施形態に従って、ナトリウム塩を添加してナトリウム濃度を上記の範囲内に調整し、また、ホモジナイズ処理を行い、加熱殺菌することで粒子径を上記の範囲内に調整することにより、乳成分の分離及び凝集が抑制され、性状が安定であると共に、色調が良好であり、総合評価が良好である乳高含有飲料を製造することが可能である。
【0024】
(第3実施形態)
本発明の第3の実施形態において、高乳分含有乳飲料の性状安定化方法が提供される。上記第2の実施形態における製造方法と同様に、乳分を50重量%以上含む調製液にナトリウム塩を添加して、該調製液のナトリウム濃度を35〜100mg/100gの範囲に調整し、また、該調製液をホモジナイズ処理して加熱殺菌することで、該製品の粒度分布90%Dを3.1μm以下に調整することができ、高乳分含有乳飲料の性状を安定化させることができる。
【0025】
上記ナトリウム塩は、例えば、炭酸水素ナトリウム、塩化ナトリウム、クエン酸ナトリウム、リンゴ酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、コハク酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウム、フマル酸ナトリウム、及びアスコルビン酸ナトリウムから選択することができ、単独でまたは組み合わせて用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【実施例】
【0026】
高乳分含有乳飲料を調製し、分離凝集、色調及び総合評価について試験した。
【0027】
(実施例1) 生乳7000gに予めイオン交換水で溶解した乳化剤18gを加え、さらに、イオン交換水で溶解したグラニュー糖550gとトレハロース(林原製)300gを混合した後、バナナ果汁100gにビタミンC5gを混合した溶液を加え、さらに、イオン交換水を加えながら重曹を2.4g添加した。この調製液に適量の香料を添加して10000gまでメスアップして高乳分含有乳飲料を得た。
【0028】
次いで、該調製液を濾過した後、ホモジナイズ処理した。ホモジナイズ処理は、三和機械(株)製ホモジナイザーを用いて、該調製液を65℃まで昇温させた後、200kg/cm2の条件で均質化した。さらに、その後85℃まで昇温させ190g缶に充填して124℃20分の条件でレトルト殺菌を行い、冷却させることにより、高乳分含有乳飲料を作成した。なお、この製品における粒度分布90%Dは3.1μmであった。
【0029】
実施例1の高乳分含有乳飲料の生乳含有率、粒度分布90%D及びナトリウム濃度などを表1に示し、ホモジナイズ処理や分離凝集の有無、色調及び総合評価などを表2に示した。
【0030】
(実施例2〜7)
重曹の添加量とホモジナイズ処理によって、ナトリウム濃度及び粒度分布90%Dを表1に示すようにした以外は、実施例1と同様に高乳分含有乳飲料を作製した。但し、実施例6は生乳含有率が50重量%であり、実施例7は生乳含有率が90重量%である。
【0031】
(比較例1〜3)
重曹の添加量とホモジナイズ処理によって、ナトリウム濃度及び粒度分布90%Dを表1に示すようにした以外は、実施例1と同様に高乳分含有乳飲料を作製した。但し、比較例2は、ホモジナイズ処理を行わなかった。
【0032】
(評価)
実施例1〜7及び比較例1〜3の高乳分含有乳飲料について、分離及び凝集の発生と色調を観察し、総合評価を行った。その結果を表2に示す。分離及び凝集の発生の判定は、190g缶を振とうさせた後、内容液を網に空け、分離及び凝集の発生があるかないかを目視により行った。色調は、色差計による測定結果(L,a及びb)と目視による観察から判定した。
【0033】
表1に示したように、ナトリウム濃度が35mg/100g以上100mg/100gの範囲内であり、且つ、粒度分布90%Dが3.1μm以下の範囲内である実施例1〜7は何れも、分離凝集が認められず、且つ、色調も良く、総合評価が良好であった。一方、粒度分布90%Dが3.1μmを超える比較例1は、分離凝集が発生した。また、ホモジナイズ処理を行わなかった比較例2は、粒度分布90%Dが極めて高く、分離凝集が発生した。ナトリウム濃度が100mg/100gを超える比較例3は、分離凝集は認められなかったものの、色調の評価が低かった。
【0034】
以上のことから、ナトリウム濃度が、35mg/100g以上100mg/100g以下であり、粒度分布90%Dが3.1μm以下である高乳分含有乳飲料は、乳成分の分離及び凝集が抑制されて性状が安定であり、色調が良好であり、総合評価が優れていることが示された。
【表1】

【0035】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳分50重量%以上の高乳分含有乳飲料であって、
ナトリウム濃度が、35mg/100g以上100mg/100g以下であり、且つ、
粒度分布90%Dが3.1μm以下であることを特徴とする、高乳分含有乳飲料。
【請求項2】
乳分を50重量%以上含む調製液に、ナトリウム塩を添加して該調製液のナトリウム濃度を35mg/100g以上100mg/100g以下の範囲に調整する工程と、
前記調製液をホモジナイズ処理及び加熱殺菌して、粒度分布90%Dを3.1μm以下に調整する工程とを含むことを特徴とする、高乳分含有乳飲料の製造方法。
【請求項3】
前記調製液に添加するナトリウム塩の量が、6.5mg/100g〜62mg/100gの範囲である、請求項2に記載の高乳分含有乳飲料の製造方法。
【請求項4】
前記ナトリウム塩が、炭酸水素ナトリウム、塩化ナトリウム、クエン酸ナトリウム、リンゴ酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、コハク酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウム、フマル酸ナトリウム、及びアスコルビン酸ナトリウムから成る群より選択されることを特徴とする請求項2又は3に記載の高乳分含有乳飲料の製造方法。
【請求項5】
乳分を50重量%以上含む調製液に、ナトリウム塩を添加して該調製液のナトリウム濃度を35mg/100g以上100mg/100g以下の範囲に調整する工程と、
前記調製液をホモジナイズ処理及び加熱殺菌して、粒度分布90%Dを3.1μm以下に調整する工程とを含むことを特徴とする、高乳分含有乳飲料の性状安定化方法。
【請求項6】
前記調製液に添加するナトリウム塩の量が、6.5〜62mg/100gの範囲である、請求項5に記載の高乳分含有乳飲料の性状安定化方法。
【請求項7】
前記ナトリウム塩が、炭酸水素ナトリウム、塩化ナトリウム、クエン酸ナトリウム、リンゴ酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、コハク酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウム、フマル酸ナトリウム、及びアスコルビン酸ナトリウムから成る群より選択されることを特徴とする請求項6又は7に記載の性状安定化方法。

【公開番号】特開2011−167088(P2011−167088A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−31804(P2010−31804)
【出願日】平成22年2月16日(2010.2.16)
【出願人】(591014972)株式会社 伊藤園 (213)
【Fターム(参考)】