説明

高分子アクチュエータおよび多関節ハンドロボット

【課題】 小形軽量で、限られた空間に収納でき、変形量の大きな高分子アクチュエータと、小形軽量で、形状自由度が高く、柔軟で器用な動作が可能な多関節ハンドロボットを提供する。
【解決手段】 高分子アクチュエータ1は、例えば高分子膜11の一端を巻き取る、および/または、つづら折りや蛇腹状に折るなどして、収納空間4の長さよりも長い高分子膜11を納めることにより、変形量を大きくする。多関節ハンドロボットは、指や掌部に高分子アクチュエータを収納でき、小形軽量でありながら、関節部の折り曲げ角を大きくでき、柔軟で器用な動作が可能となり、生活支援ロボットやエンターテイメントロボットなどのハンドへの適用が特に有効である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電圧の印加によって機能する高分子アクチュエータおよびそれを備えた多関節ハンドロボットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の電圧印加により機能するアクチュエータとしては、電磁式のほかにも、静電式、圧電式、超音波式、形状記憶合金式、高分子伸縮式などがあるが、高分子伸縮式は柔軟かつ軽量という特長がある。
高分子アクチュエータは、電極を備えた高分子膜に電圧を印加することにより、膜体を伸縮させることができ、アクチュエータとして使用できる。
この高分子アクチュエータの構造および動作原理について、図4を用い説明する。図4において、111は高分子膜、112は制御部である。制御部112にて電極を備えた高分子膜111に電圧を印加することにより、高分子膜111が伸縮し、高分子アクチュエータとなる。
従来の高分子アクチュエータは、例えば金属膜上に導電性ポリマ(高分子)膜と電解質膜を積層してなり、電圧の印加により生じる導電性ポリマ膜と電解質膜との間でのイオンの授受により、導電性ポリマ膜が体積変化し、その体積変化により金属膜が導電性ポリマ膜とともにたわみ変形するので、そのたわみ変形力を他の物体の駆動などに利用することができる(例えば、特許文献1参照)。
この従来の高分子アクチュエータの構造を図5に示す。図5において、211は金属膜、212は導電性ポリマ膜、213は電解質膜、214は電極である。制御部215にて金属膜211と電極214の間に電圧を印加することにより、導電性ポリマ膜212と電解質膜213との間でイオンの授受が生じ、導電性ポリマ膜212が体積変化し、その体積変化により金属膜211が導電性ポリマ膜212とともにたわみ変形する。従来の高分子アクチュエータは、このたわみ変形を他の物質の駆動などに利用するものである。
また、高分子膜を長手方向に直列に接続した一対の高分子アクチュエータを並列に配置し、各々の両端部を絶縁状態で接続させ、長手方向に対して屈曲する高分子アクチュエータがある(例えば、特許文献2参照)。
この高分子アクチュエータを図6に示す。図6において、302は高分子膜(特許文献2ではエレメント)、303は接合のための柔軟材、304は接合のための絶縁部材である。図示していない制御部にて高分子膜302に電圧を印可することにより、各高分子膜がたわみ変形し、図6のように全体として伸縮変形する。
また、表面に金属電極を有する複合成型品が2個以上連結することにより、変位量を大きくした高分子アクチュエータがある(例えば、特許文献3参照)。
この高分子アクチュエータを図7に示す。図7)において、421は金属表面、451は金属電極、497は制御部である。イオン交換樹脂成型品の表面に、相互に絶縁状態で形成された金属電極451を備え、制御部497にてその金属電極に電圧を印加することにより、湾曲や変位を得ることができる。
このように、従来の高分子アクチュエータは、高分子膜に電圧を印加すると、圧電効果により、たわみ変形するのでアクチュエータとして利用できる。
また、従来の多関節ハンドロボットの駆動源としては、電磁モータが用いられていた。各関節に電磁モータを配置し、回転角度を制御することで、対象物の把持動作などを行っていた。
【特許文献1】特開平09−293913号公報(第2−4頁、図1)
【特許文献2】特開2004−314219号公報(第5−8頁、図1)
【特許文献3】特開2004−289994号公報(第4−5頁、図9)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、従来の高分子アクチュエータは、高分子膜の伸縮率が十分に大きくないので、必要な変形量を確保するために高分子膜を十分に長くする必要があった。しかし、限られた空間に収納する必要がある場合には、高分子膜を長くすることができず、十分な変形量を有する高分子アクチュエータを得ることができないという問題があった。
電磁モータを用いた多関節ハンドロボットは、電磁モータの形状や配置に自由度がないため、多関節ハンドロボットの形状に制約があるという問題があった。また、動作音や振動、電磁ノイズが発生するという問題もあった。
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、高分子膜の長さが収納空間よりも長くすることにより、変形量の大きな高分子アクチュエータおよびそれを備えた多関節ハンドロボットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記問題を解決するため、本発明は、次のように構成したものである。
請求項1に記載の発明は、高分子化合物からなる高分子膜と、前記高分子膜に電圧を印加する電極と、前記高分子膜と前記電極を収納した収納空間と、前記電極への電圧を制御する制御部とを備えた高分子アクチュエータにおいて、前記収納空間の伸長方向の長さよりも長い前記高分子膜が収納部を形成したものである。
請求項2に記載の発明は、前記高分子膜の前記収納部が巻き取り機構からなるものである。
請求項3に記載の発明は、前記高分子膜の前記収納部がつづら折り状または蛇腹状に折り機構からなるものである。
請求項4に記載の発明は、折り曲げる機能を持つ関節部を有する多関節ハンドロボットにおいて、前記関節部に、収納空間の長さよりも長い収納部を形成した高分子膜と、前記高分子膜に電圧を印加する電極とからなるものである。
【発明の効果】
【0005】
請求項1に記載の発明によると、高分子膜の長さを収納空間よりも長くすることから、小さな伸縮率の高分子アクチュエータでも変形量を大きくすることができる。
また、請求項2または3に記載の発明によると、限られた空間に長さの長い高分子膜を収納できるので、高分子アクチュエータの変形量を大きくできる。
また、請求項4に記載の発明によると、変形量の大きな高分子アクチュエータを備えることにより、小形軽量の多関節ハンドロボットで関節部の折り曲げ角を大きくできる。また、動作音や振動、電磁ノイズも極めて小さくできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
【実施例1】
【0007】
図1は、本発明の実施例1を示す高分子アクチュエータの構造および動作を示す図である。図1において、1は高分子アクチュエータ、10は収納部(12は巻き取り機構)、11は高分子膜、2は制御部、4は収納空間、5は電極である。高分子アクチュエータ1は巻き取り部12と電極5を備えた高分子膜11からなっており、高分子膜11の一端を巻き取ることにより、収納空間4の長さの3倍の長さの高分子膜1を収納している。
本発明が特許文献1、2および3と異なる部分は、高分子膜11の一端を巻き取ることにより、収納空間4の長さよりも長い高分子膜を収納した部分である。
つぎに、本実施例の動作を図1を用いて説明する。
高分子膜11に備えた電極5に、制御部2により電圧を印加すると、高分子膜11に伸縮力が生じ、アクチュエータとして機能することができる。その際、高分子膜の一端を巻き取ることにより、収納空間4の長さの3倍の長さの高分子膜を収納しているため、収納空間4の長さの高分子膜の場合と比較して、約3倍の変形量を得ることができた。
【実施例2】
【0008】
図2は、本発明の実施例2を示す高分子アクチュエータの構造および動作を示す図である。図2において、1は高分子アクチュエータ、11は高分子膜、12はつづら折り機構、2は制御部、4は収納空間である。高分子アクチュエータ1はつづら折り機構13と電極5を備えた高分子膜11と制御部2からなっており、高分子膜11をつづら折りにすることにより、収納空間4の長さの4倍の長さの高分子膜11を収納している。
本発明が特許文献1、2および3と異なる部分は、高分子膜11をつづら折りにすることにより、収納空間4の長さよりも長い高分子膜を収納した部分である。
つぎに、本実施例の動作を図2を用いて説明する。
高分子膜11に備えた電極5に、制御部2により電圧を印加すると、高分子膜11に伸縮力が生じ、アクチュエータとして機能することができる。その際、つづら折りとすることにより、収納空間4の長さの4倍の長さの高分子膜を収納しているため、収納空間4の長さの高分子膜の場合と比較して、約4倍の変形量を得ることができた。
なお、ここではつづら折りの場合について図2を用い説明したが、蛇腹状に折り込むことによっても同様の効果が得られる。また、その一端の巻き取りとつづら折りや蛇腹状に折り込むことを組み合わせても本発明は有効である。すなわち、本発明は、収納空間の長さよりも長い高分子膜を納めることにより、変形量を大きくするという効果が得られるのであり、収納させるための方法に限定されるものではない。
【実施例3】
【0009】
図3は、本発明の実施例3を示す多関節ハンドロボットの関節の動作を説明する図である。図3において、1は高分子アクチュエータ、3は関節部である。高分子膜の一端を巻き取った高分子アクチュエータ1を多関節ハンドロボットの指の空間に収納し、もう一端を関節部3に接続している。
本発明が従来の多関節と異なる部分は、小形軽量で変形量の大きな高分子アクチュエータを指の部分に収納していることである。
つぎに、本実施例の動作を図3を用いて説明する。
高分子アクチュエータ1に備えた図示していない電極に、図示していない制御部2により電圧を印加すると、高分子膜に伸縮力が生じ、アクチュエータとして機能する。高分子アクチュエータ1の一端を関節部3に接続し、高分子アクチュエータ1の伸縮力が、関節部3の回転力に変換される。この関節部3の動きが指を動かし、その指を備えた多関節ハンドロボットが手として動作することができる。
ここでは、図3を用い、高分子膜の一端を巻き取った高分子アクチュエータを備えた多関節ハンドロボットについて説明したが、これは一例に過ぎず、実施例2のように高分子膜をつづら折りや蛇腹状に折った場合でも同様の効果が得られる。また、収納空間の長さよりも長い高分子膜を納めることにより、高分子アクチュエータの変形量が大きくできる。それを備えた多関節ハンドロボットは、指や掌部に高分子アクチュエータを収納でき、小形軽量でありながら、関節部の折り曲げ角を大きくでき、柔軟で器用な動作が可能となる。
したがって、本発明の多関節ハンドロボットは、高分子アクチュエータの本来有する柔軟かつ軽量で、形状や配置の自由度が高いといった長所と合わせると、例えば生活支援ロボットやエンターテイメントロボットのハンドなど、人と接する機会の多い部分への適用などで特に有効である。
【産業上の利用可能性】
【0010】
本発明の高分子アクチュエータは、限られた空間であっても変形量を大きくできるので、従来は困難であった超小形の機器や、収納空間が限られた機器、および、曲面や球面など平面以外の場所への設置などにも適用できる。
また、本発明の多関節ハンドロボットは、小形、軽量かつ柔軟で、形状の自由度が高いので、手としての動作に制約を与えることなく、しなやかで柔軟な動作が実現でき、産業用ロボット以外にも、生活支援ロボットやエンターテイメントロボットなどに適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施例1を示す高分子アクチュエータの構造と動作の説明図
【図2】本発明の実施例2を示す高分子アクチュエータの構造と動作の説明図
【図3】本発明の実施例3を示す多関節ロボットハンドの構造と動作の説明図
【図4】従来の高分子アクチュエータの構造と動作の説明図
【図5】従来の高分子アクチュエータの構造を示す正面図
【図6】従来の高分子アクチュエータの構造と動作の説明図
【図7】従来の高分子アクチュエータの構造を示す斜視図
【符号の説明】
【0012】
1 高分子アクチュエータ
10 収納部
11 高分子膜
12 巻き取り部
13 つづら折り部
2 制御部
3 関節部
4 収納空間
5 電極
111 高分子膜
112 制御部
211 金属膜
212 導電性ポリマ膜
213 電解質膜
214 電極
215 制御部
302 高分子膜
303 柔軟接合材
304 絶縁部材
421 金属表面
451 金属電極
497 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子化合物からなる高分子膜と、前記高分子膜に電圧を印加する電極と、前記高分子膜と前記電極を収納する収納空間と、前記電極への電圧を制御する制御部とを備えた高分子アクチュエータにおいて、
前記収納空間の伸長方向の長さよりも長い前記高分子膜が収納部を形成したことを特徴とする高分子アクチュエータ。
【請求項2】
前記高分子膜の前記収納部が巻き取り部からなることを特徴とする請求項1記載の高分子アクチュエータ。
【請求項3】
前記高分子膜の前記収納部がつづら折り状または蛇腹状に折り部からなることを特徴とする請求項1記載の高分子アクチュエータ。
【請求項4】
折り曲げる機能を持つ関節部を有する多関節ハンドロボットにおいて、
前記関節部に、収納空間の長さよりも長い収納部を形成した高分子膜と、前記高分子膜に電圧を印加する電極とからなることを特徴とする多関節ハンドロボット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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