説明

高分子アクチュエータ素子の電解液充填方法、高分子アクチュエータ素子の弾性率制御方法、および高分子アクチュエータ素子の製造方法

【課題】高分子アクチュエータ素子に、常温常圧下で液状の非イオン性化合物を含む電解液を容易に充填することができる高分子アクチュエータ素子の電解液充填方法を提供する。また、常温常圧下で液状の非イオン性化合物を含む電解液を有する高分子アクチュエータ素子の弾性率を容易に調整することができる高分子アクチュエータ素子の弾性率制御方法を提供する。さらに、常温常圧下で液状の非イオン性化合物を含む電解液を有する高分子アクチュエータ素子の簡便な製造方法を提供する。
【解決手段】高分子電解質上に金属電極を備えた高分子複合体を含む高分子アクチュエータ素子の電解液充填方法であって、前記高分子複合体を、常温常圧下で液状の非イオン性化合物を含む溶液に浸漬する第一工程、および、前記高分子複合体を、前記溶液にさらに電解質を加えた溶液に浸漬する第二工程、を含むことを特徴とする高分子アクチュエータ素子の電解液充填方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子アクチュエータ素子の電解液充填方法、高分子アクチュエータ素子の弾性率制御方法、および高分子アクチュエータ素子の製造方法に関する。より詳細には、本発明は、イオン交換樹脂を含む電解質と接するように形成された対の金属電極に電圧を印加することにより変位ないし変形させることによりアクチュエータ素子として機能する高分子アクチュエータ素子の電解液充填方法、高分子アクチュエータ素子の弾性率制御方法、および高分子アクチュエータ素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の高分子アクチュエータ素子としては、イオン交換樹脂成形品と上記イオン交換樹脂成形品の表面に相互に絶縁状態で形成された金属電極とを備え、上記イオン交換樹脂成形品の含水状態において、上記金属電極間に電位差をかけて、イオン交換樹脂成形品に変位ないし変形を生じさせることによりアクチュエータ素子として機能する高分子アクチュエータ素子が提供されている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
これらの高分子アクチュエータ素子は軽量であってかつ柔軟であることから、カテーテル等の医療用デバイスの導入部等として好適に用いることが期待されている。また、上記高分子アクチュエータ素子は軽量でかつ構成が簡単であることから、種々の駆動装置や押圧装置としての応用が期待される。
【0004】
上記高分子アクチュエータ素子は、ナトリウムイオンや4級アンモニウムイオンなどのイオンを含む水溶液中では、一対の金属電極に電圧を印加することにより大きな変位ないし変位を長期間駆動することも可能である。しかし、水溶液中から上記高分子アクチュエータ素子を取り出し空気中に上記高分子アクチュエータ素子を設置した状態では、電解質媒体としての水が経時で蒸発してしまうため、経時的に電荷のキャリアであるイオンの移動を生じなくなってしまう。このように、水や水溶液を電解質媒として用いている上記高分子アクチュエータ素子では、被覆無しに空気に曝した状態では初期の駆動(変位量)を1時間も維持することができないことが判明した。
【0005】
また、上記高分子アクチュエータ素子は、屈曲ないし変位をするために各種機器における駆動装置に用いることが期待されている。しかしながら、上述のように上記高分子アクチュエータ素子では初期の変位量(駆動性能)を1時間も維持することができないために、水溶液中以外での環境下での駆動は実質的にいまだ困難である。このため、上記高分子アクチュエータ素子を各種機器の駆動装置に用いる場合においては、いまだ用途に制限がある。
【0006】
さらに、上記高分子アクチュエータ素子を可撓性を有する高分子で被覆して素子からの水の蒸発を防止した場合であっても、上記高分子アクチュエータ素子の駆動などにより被覆層にひびやワレなどが生じると、水が上記高分子アクチュエータ素子から経時で蒸発してしまう。そのため、上記高分子アクチュエータ素子は、被覆層を設けない場合には常温常圧の開放系では20分程度しか初期の駆動性能を維持することができず、被覆層を設けた場合であっても反復駆動させることなどにより被覆層のひびやワレの発生により数時間程度で初期の駆動性能から大きく低下してしまうことが判明した。このため、上記高分子アクチュエータ素子を被覆した場合であっても、駆動に際しては被覆樹脂のひびやワレが無いことを確認しながら駆動させなければならず、特に長期間用いる用途には特に大きな問題となる。
【0007】
一方、上記高分子アクチュエータ素子の高分子複合体には一般にイオン交換樹脂が用いられるが、イオン交換作用により共存する非イオン性化合物(非イオン性有機化合物)に優先してカチオン化合物等のイオン化合物が高分子複合体内に取り込まれやすく、また、あらかじめカチオン化合物等を吸着した高分子複合体はその後の他の溶媒との親和性、なかでも非イオン性成分の充填が著しく阻害され、その結果、素子膜に可撓性が欠乏してしまい、実用的な電圧応答もしくは環境応答が著しく不足してしまうという問題が判明した。
【0008】
他方、上記高分子アクチュエータ素子は上述のように軽量であってかつ柔軟であることが求められることに加え、さらに実用にあたり十分な材料硬さ(弾性率)と応答性も求められている。しかしながら、上記高分子アクチュエータ素子は弾性率を向上させると一般に応答性が劣ることが問題となっている。このため、アクチュエータ素子の実用化にむけて、より広い弾性率範囲において応答性を損なうことなく、任意の材料硬さに制御する手法が求められている。
【0009】
【特許文献1】特許第2961125号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明の目的は、高分子アクチュエータ素子に、常温常圧下で液状の非イオン性有機化合物を含む電解液を容易に充填することができる高分子アクチュエータ素子の電解液充填方法を提供することである。
【0011】
また、本発明の目的は、常温常圧下で液状の非イオン性有機化合物を含む電解液を有する高分子アクチュエータ素子の弾性率を容易に調整することができる高分子アクチュエータ素子の弾性率制御方法を提供することである。
【0012】
さらに、本発明の目的は、常温常圧下で液状の非イオン性有機化合物を含む電解液を有する高分子アクチュエータ素子の簡易な製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記の目的を達成するため、高分子アクチュエータ素子の電解液充填工程について鋭意検討した結果、下記の高分子アクチュエータ素子の電解液充填方法を用いることにより上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明の高分子アクチュエータ素子の電解液充填方法は、高分子電解質上に金属電極を備えた高分子複合体を含む高分子アクチュエータ素子の電解液充填方法であって、
前記高分子複合体を、常温常圧下で液状の非イオン性有機化合物を含む溶液に浸漬する第一工程、および、
前記高分子複合体を、前記溶液にさらに電解質を加えた溶液に浸漬する第二工程、
を含むことを特徴とする。
【0015】
本発明によると、実施例の結果に示すように、上記第一工程および第二工程を含む充填方法を用いることにより、上記高分子アクチュエータ素子に、常温常圧下で液状の非イオン性有機化合物を含む電解液を容易に充填することができる。上記充填方法がかかる効果を発現する理由の詳細は明らかではないが、上記第一工程および第二工程を含む充填方法を用いることにより、上記液状の非イオン性化合物などの非イオン成分と母体樹脂(被メッキ母体樹脂)である高分子電解質(または高分子複合体)との親和性、拡散性などがバランスよく作用し、その結果上記液状の非イオン性化合物などの非イオン成分の充填の阻害が低減できるためと推測される。
【0016】
なお、従来の高分子電解質においては、電解質の媒体として非イオン性化合物、特に非イオン性高分子化合物が用いられることは皆無であった。これは非イオン性化合物を媒体(電解質媒体)として用いることにより、イオン交換樹脂である高分子電解質やカチオン化合物等を吸着した高分子複合体との親和性が低いことや、さらには高分子化合物の分子鎖が高分子電解質(イオン交換樹脂)に絡まってしまうことや、媒体が高分子量体にすることによりイオンの動きを阻害してしまうことなどのためである。しかしながら、本発明の電解液充填方法を用いることにより、高分子アクチュエータ素子に、非イオン性化合物を含む電解液を容易に充填することができる。
【0017】
また、本発明においては、前記第一工程の前工程として、有機イオン化合物を含む金属錯体液を用いてメッキを行う工程を含むことが好ましい。かかる前工程を含むことにより、上記第二工程における電解質の充填をより効果的に行うことができる場合がある。なお、上記前工程と上記第一工程との間にさらに複数の処理工程があってもよい。
【0018】
また、本発明においては、上記非イオン性有機化合物が、沸点もしくは分解温度が180℃以上である有機化合物であることが好ましい。かかる有機化合物を用いることにより、応答性の経時的劣化をより効果的に抑えた高分子アクチュエータ素子とすることができる。
【0019】
さらに、本発明においては、上記非イオン性有機化合物が、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、および/またはそれらの類縁化合物などであるポリエーテル化合物であることが好ましい。これらの非イオン性有機化合物、特にポリエーテル化合物を用いることにより、特に外気の湿度に大きな影響を受けることなく長期間、初期の屈曲量または変位量を維持することができるものとなる。これは、上記ポリエーテル化合物の有する吸水性が何らかの好適な寄与をしているものと推測している。
【0020】
一方、本発明の高分子アクチュエータ素子の弾性率制御方法は、高分子電解質上に金属電極を備えた高分子複合体を含む高分子アクチュエータ素子の弾性率制御方法であって、
前記高分子複合体を、常温常圧下で液状の非イオン性有機化合物を含む溶液に浸漬する第一工程、および、
前記高分子複合体を前記溶液にさらに電解質を加えた溶液に浸漬し、前記高分子複合体中に含まれる電解質量および電解液量を調製する第二工程、
を含むことを特徴とする。
【0021】
本発明によると、実施例の結果に示すように、上記第一工程および第二工程を含む充填方法を用いることにより、上記高分子アクチュエータ素の弾性率を容易に制御することができる。これは、上記第二工程を含む充填方法を用いることにより、上記高分子複合体(高分子アクチュエータ素子)中に含まれる電解質量および電解液量を容易に調製することが可能となり、その結果、高分子アクチュエータ素子の弾性率の制御が可能となるためと推測される。
【0022】
他方、本発明の高分子アクチュエータ素子の製造方法は、高分子電解質上に金属電極を備えた高分子複合体を含む高分子アクチュエータ素子の製造方法であって、
前記高分子複合体を、常温常圧下で液状の非イオン性有機化合物を含む溶液に浸漬する第一工程、および、
前記高分子複合体を、前記溶液にさらに電解質を加えた溶液に浸漬する第二工程、
を含むことを特徴とする。
【0023】
なお、上記高分子アクチュエータ素子の製造方法の第二工程においては、前記高分子複合体を前記溶液にさらに電解質を加えた溶液に浸漬する際に、前記高分子複合体中に含まれる電解質量および電解液量を調製してもよい。
【0024】
本発明の高分子アクチュエータ素子の製造方法は上述のような工程を有するため常温常圧下で液状の非イオン性有機化合物を含む電解液を有する高分子アクチュエータ素子を簡便に製造することができる。また、弾性率を制御した高分子アクチュエータ素子を簡便に製造することができる。
【0025】
上記製造方法により得られる高分子アクチュエータ素子は、変位もしくは屈曲の変位を生じるアクチュエータ素子として、多種多様の実用的用途に容易に用いることができる。特に、上記高分子アクチュエータ素子は長期間の駆動を必要とする用途に好適である。また、上記高分子アクチュエータ素子を、屈曲運動を直線的な運動に変換する装置と組合せることにより、直線的が変位を生じるアクチュエータとすることもできる。直線的な変位もしくは屈曲の変位を生じるアクチュエータは、直線的な駆動力を発生する駆動部、または円弧部からなるトラック型の軌道を移動するための駆動力を発生する駆動部として用いることができる。さらに、上記アクチュエータは、直線的な動作をする押圧部として用いることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0027】
本発明の高分子アクチュエータ素子の電解液充填方法は、高分子電解質上に金属電極を備えた高分子複合体を含む高分子アクチュエータ素子の電解液充填方法であって、
前記高分子複合体を、常温常圧下で液状の非イオン性有機化合物を含む溶液に浸漬する第一工程、および、
前記高分子複合体を、前記溶液にさらに電解質を加えた溶液に浸漬する第二工程、
を含むことを特徴とする。
【0028】
また、本発明の高分子アクチュエータ素子の弾性率制御方法は、高分子電解質上に金属電極を備えた高分子複合体を含む高分子アクチュエータ素子の弾性率制御方法であって、
前記高分子複合体を、常温常圧下で液状の非イオン性有機化合物を含む溶液に浸漬する第一工程、および、
前記高分子複合体を前記溶液にさらに電解質を加えた溶液に浸漬し、前記高分子複合体中に含まれる電解質量および電解液量を調製する第二工程、
を含むことを特徴とする。
【0029】
本発明における高分子アクチュエータ素子は、高分子電解質上に金属電極を備えた高分子複合体を含む高分子アクチュエータ素子である。
【0030】
より詳細には、金属電極と高分子電解質を含む電解質とを含む高分子アクチュエータ素子であって、上記金属電極が対を形成することができるように形成され、上記金属電極が上記電解質と接し、常温常圧下で液状の非イオン性有機化合物、なかでも沸点もしくは分解温度が180℃以上であり常温常圧下で液状の有機化合物やポリエーテル化合物を含み、上記電解質が上記有機化合物またはポリエーテル化合物によりイオン交換樹脂が膨潤した状態であるものが好ましい。
【0031】
上記高分子アクチュエータ素子は、上記電解質中に常温常圧下で液状の非イオン性有機化合物、なかでも沸点もしくは分解温度が180℃以上であり常温常圧下で液状の有機化合物やポリエーテル化合物を含むことによって、常温常圧の開放系であってもアクチュエータ素子の屈曲量または変位量の経時による変化が生じにくい。そのため、上記高分子アクチュエータ素子は、溶液の外部、すなわち開放系である空気中での駆動も可能であり、しかも電解質の媒体溶液の蒸発がほとんど無いので長期間の駆動に好適である。
【0032】
上記非イオン性有機化合物は、イオン性官能基やイオン性部位を分子構造中に有していないものであれば特に限定されず適宜用いることができる。上記有機化合物としては、電荷のキャリアとなるイオンを含む塩の溶媒となることができる有機化合物、または電荷のキャリアとなることができる有機化合物であればよい。
【0033】
上記非イオン性有機化合物は、180℃以上の沸点または分解温度を有し、常温常圧下で液状であることが好ましく、さらに溶媒としての機能も有することが好ましい。また、245℃以上の沸点を有する有機溶媒であることがより好ましい。これらの化合物は単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよい。
【0034】
上記非イオン性有機化合物としては、たとえば、ジエチレングリコール、グリセリン、グリセリンカーボネート、スルホラン、プロピレンカーボネート、ブチロラクトン、ポリエーテル化合物などをあげることができる。なかでも、たとえば、ジエチレングリコール、グリセリンカーボネート、スルホラン、ポリエーテル化合物などが好ましく、さらにはポリエーテル化合物を用いることが特に好ましい。
【0035】
また、上記ポリエーテル化合物は、常温常圧下で液状であれば、特に限定されるものではない。上記ポリエーテル化合物は、溶媒としての機能も有することが好ましい。上記ポリエーテル化合物としては、電荷のキャリアとなるイオンを含む塩の溶媒となることができるポリエーテル化合物、または電荷のキャリアとなることができるポリエーテル化合物であればよい。これらのポリエーテル化合物は単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよい。
【0036】
上記ポリエーテル化合物は、アルキレンオキシド(オキシアルキレン)ユニットなどのエーテル構造を繰り返し単位として有する化合物であれば、特に限定されるものではないが、なかでも、エチレンオキシド(オキシエチレン)ユニットやプロピレンオキシド(オキシプロピレン)などを繰り返し単位として有する化合物であることがより好ましい。
【0037】
上記ポリエーテル化合物としては、アルキレンオキシド(オキシアルキレン)ユニットなどのオキシアルキレン単位の付加モル数(繰り返し単位数)を3単位以上繰り返す構造を有するものがあげられ、これらを直線状または分岐状に高分子量化したホモポリマーおよびコポリマー、ならびにこれらの高分子構造を含む化合物およびこれらの類縁体やエーテル型界面活性剤、エーテル型可塑剤があげられる。
【0038】
より具体的には、上記ポリエーテル化合物としては、たとえば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールの共重合体(ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール)などのポリアルキレングリコール、ポリオキシエチレンラウリル硫酸トリエタノールアミン、ポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンメチルグルコシド、ポリエーテルオールのエステル、およびこれらの類縁体があげられる。なかでも特に、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、および/またはそれらの類縁化合物などを用いることが好ましい。
【0039】
上記ポリアルキレングリコールとしては、より具体的には、たとえば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコールの共重合体(ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール)としては、たとえば、ポリプロピレングリコール−ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールのブロック共重合体、ポリプロピレングリコール−ポリエチレングリコールのブロック共重合体、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール−ポリエチレングリコールのブロック共重合体、ポリプロピレングリコール−ポリエチレングリコールのランダム共重合体などをあげることができる。また、グリコール鎖の末端は、水酸基のままであっても、アルキル基、フェニル基などで置換されていてもよい。これらの化合物は単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよい。
【0040】
上記エーテル型界面活性剤としては、たとえば、ポリオキシエチレンラウリル硫酸トリエタノールアミン、ポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウムなどのポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル塩類などをあげることができる。これらの化合物は単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよい。
【0041】
上記ポリエーテル化合物のオキシアルキレン単位の付加モル数(繰り返し単位数)としては、イオンとの相互作用の観点から、3〜100が好ましく、3〜30がより好ましく、3〜10がより好ましい。オキシアルキレン単位の付加モル数が3未満であると、電解質中の媒体の揮発性が大きくなることや吸湿性が低下することなどから経時による駆動性能の維持が困難となる場合がある。
【0042】
上記ポリエーテル化合物含有化合物の分子量としては、常温常圧下で液状であれば特に限定されないが、数平均分子量が1000以下のものが好適に用いられ、200〜800のものがより好適に用いられ、300〜600のものがさらに好適に用いられる。数平均分子量が1000を超えると、常温常圧下で固化してしまう場合があり好ましくない。数平均分子量はGPC(ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー)により測定して得られたものをいう。
【0043】
上記非イオン性有機化合物は単独で用いてもよいし、また2種以上を混合して使用してもよいが、配合量としては、ベースポリマー100重量部に対して、0.01〜10重量部であることが好ましく、0.05〜5重量部であることがより好ましく、0.1〜1重量部であることがさらに好ましい。0.01重量部未満であると十分な経時的耐久性が得られない場合があり、10重量部を超えると非イオン性有機化合物がブリードする場合がある。上記有機化合物を電解質中に含むことにより、上記高分子アクチュエータ素子を密閉しない状態であっても、1日後に(変位・角度)50°以上の屈曲を行うことができる。
【0044】
また、特に上記ポリエーテル化合物を用いる場合には、上記ポリエーテル化合物は単独で用いてもよいし、また2種以上を混合して使用してもよいが、配合量としては、ベースポリマー100重量部に対して、0.01〜10重量部であることが好ましく、0.05〜5重量部であることがより好ましく、0.1〜1重量部であることがさらに好ましい。0.01重量部未満であると十分な耐久性が得られず、10重量部を超えるとポリエーテル化合物がブリードする場合がある。上記ポリエーテル化合物を電解質中に含むことにより、上記高分子アクチュエータ素子を密閉しない状態であっても、1日後に(変位・角度)180°以上の屈曲を行うことができる。
【0045】
また、従来の高分子アクチュエータ素子は、比較的低い電圧である1.2Vの印加電圧では、たとえば角度が270°以上の屈曲を生じさせようとすると、イオン交換樹脂との界面における金属電極の表面積を大きくするため、製造時に複雑な前処理を施す必要がある。しかし、本発明の高分子アクチュエータ素子は、3.0Vより大きい特定の電圧を印加しても水の電気分解による気体の発生が一定時間ほとんど無い場合がある。このような条件において用いる場合には、本発明の高分子アクチュエータ素子は、より簡単に電極を形成することができるので、製造が容易である。なお、本願において、屈曲ないし変位の程度を表す角度(°)は、高分子アクチュエータ素子の先端における屈曲ないし変位凸面の接線方向と重力方向とのなす角(変位角)を測定することにより求められるものである。
【0046】
また、本発明における高分子アクチュエータ素子は、金属電極と高分子電解質とを含み、上記金属電極が対を形成することができるように形成され、上記金属電極が電解質と接する高分子アクチュエータ素子であって、上記金属電極を複数備えた構造を有している。また、上記アクチュエータ素子は、イオン交換樹脂層を挟んで両側に電極層を1つずつ備えても良く、両側もしくは片側に電極層を複数備えていてもよい。上記アクチュエータ素子の具体的な構造としては、たとえば、一対の電極層がイオン交換樹脂層を挟んで電極対を形成したアクチュエータ素子を用いることもできるし、管状のイオン交換樹脂の外側面および/または内側面の表面上に複数の金属電極を備えていてもよい。
【0047】
上述の電極層がイオン交換樹脂を挟んで電極対を形成した高分子アクチュエータ素子としては、公知の方法により得ることができる。たとえば、膜状、板状、もしくは管状の形状を有するイオン交換樹脂有体物に無電解メッキをすることによって、イオン交換樹脂有体物表面またはイオン交換樹脂有体物表面から内側の範囲に金属層を形成させ、上記金属層金属を電極層として用いることで、上記高分子複合体(金属−イオン交換樹脂接合体)を得ることもできる。
【0048】
上記無電解メッキとしては、たとえば、以下にあげる無電解メッキ方法を好適に用いることができる。粗面化処理を行った後、イオン交換樹脂を水中に浸漬して膨潤させた状態で、イオン交換樹脂に白金錯体や金錯体等の金属錯体を吸着させる吸着工程を行う。次いで吸着された金属錯体を還元剤により還元させ金属を析出させる還元工程を行い、さらに上記還元工程後に必要に応じて還元剤を洗浄除去する洗浄工程を行ってもよい。
【0049】
上述の無電解メッキでは、電極である金属層を通電や屈曲ないし変位に充分な厚さとするために、吸着工程、還元工程および洗浄工程を1サイクルとして繰り返し行うことができる。このようにして得られた高分子アクチュエータ素子は、イオン交換樹脂の内部方向に電極層が成長して電極が形成され、イオン交換樹脂と電極層との界面において、電極層の断面がフラクタル状の構造を形成しているので、上記電極層と上記イオン交換樹脂層との界面で大きな電気二重層を持つことができる。さらに、上記電極層がイオン交換樹脂層の内部方向にフラクタル状の構造を形成していることによりアンカー効果が働くため、上記イオン交換樹脂接合体は繰り返し曲げることに対する耐久性を有する。
【0050】
本発明における高分子アクチュエータ素子の電解質に含まれるイオン交換樹脂は、特に限定されるものではなく、公知のイオン交換樹脂を用いることができる。たとえば、上記イオン交換樹脂として陽イオン交換樹脂を用いる場合には、ポリエチレン、ポリスチレン、フッ素樹脂などにスルホン酸基、カルボキシル基などの親水性官能基を導入したものを用いることができる。このような樹脂としては.たとえばパーフルオロスルホン酸樹脂(商品名「Nafion」、DuPont社製)、パーフルオロカルボン酸樹脂(商品名「フレミオン」、旭硝子社製)、ACIPLEX(旭化成工業社製)、NEOSEPTA(トクヤマ社製)などを用いることができる。これらのイオン交換樹脂は単独で使用してもよく、また2種以上を併せて使用してもよい。
【0051】
また、上記イオン交換樹脂の厚み(膨潤時)は、通常0.01〜10mmで用いられるが、0.02〜5mmであることが好ましく、0.05〜1mmであることがより好ましく、0.05〜0.5mmであることがさらに好ましい。上記イオン交換樹脂の厚みが10mm以上となると電極間の距離が広がりすぎてしまう場合があり好ましくない。
【0052】
また、上述の無電解メッキの吸着工程に用いられる金属錯体溶液は、還元により形成される金属層が電極層として機能することができる金属の錯体を含むものであれば、特に限定されない。
【0053】
上記金属錯体としては、イオン化傾向の小さい金属が電気化学的に安定であることから、金錯体、白金錯体、パラジウム錯体、ロジウム錯体、またはルテニウム錯体等の金属錯体を使用することが好ましい。また、析出した金属が電極として使用されるため、通電性が良好で電気化学的な安定性に富んだ貴金属からなる金属錯体が好ましく、さらに電気分解が比較的起こりにくい金からなる金錯体がより好ましい。
【0054】
また、上記金属錯体溶液に用いられる溶媒は特に限定されるものではないが、金属塩(金属錯体)の溶解が容易であってかつ取り扱いが容易であることから、上記溶媒として水を主成分とすることが好ましい。より具体的には、上記金属錯体溶液としては、金属錯体水溶液であることが好ましく、特に金錯体水溶液または白金錯体水溶液であることがより好ましく、金錯体水溶液がさらに好ましい。
【0055】
上述の無電解メッキの還元工程に用いられる還元剤としては、イオン交換樹脂に吸着される金属錯体溶液に使用される金属錯体の種類に応じて、その種類を適宜選択して使用することができる。上記還元剤としては、たとえば、亜硫酸ナトリウム、ヒドラジン、水素化ホウ素ナトリウム、亜リン酸、次亜リン酸ナトリウム等を用いることができる。これらの還元剤は単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよい。
【0056】
また、上記還元剤は析出させる金属種によって、適宜選択することもできる。還元により析出させる金属がニッケルまたはコバルトの場合には、還元剤として、たとえば、ホスフィン酸ナトリウム、ジメチルアミノボラン、ヒドラジン、テトラヒドロホウ酸カリウムなどを用いることができる。還元により析出させる金属がパラジウムの場合には、還元剤として、たとえば、ホスフィン酸ナトリウム、ホスホン酸ナトリウム、テトラヒドロホウ酸カリウムなどを用いることができる。還元により析出させる金属が銅の場合には、還元剤として、たとえば、ホルマリン、ホスホン酸ナトリウム、テトラヒドロホウ酸カリウムなどを用いることができる。還元により析出させる金属が銀または金の場合には、還元剤として、たとえば、ジメチルアミノボラン、テトラヒドロホウ酸カリウムなどを用いることができる。還元により析出させる金属が白金の場合には、還元剤として、たとえば、ヒドラジン、テトラヒドロホウ酸ナトリウムなどを用いることができる。還元により析出させる金属が錫の場合には、還元剤として、たとえば、三塩化チタンを用いることができる。さらに、還元剤は、上記の種類に限られるものではなく、白金黒などの触媒と共に用いられる水素、HgS、HIやIなどの非金属の酸またはイオン、Na(HPO)やNaなどの低級酸素酸塩、COやSOなどの低級酸化物、Li、Na、Cu、Mg、Zn、Fe、Fe(II)、Sn(II)、Ti(III)、Cr(II)などのイオン化傾向の大きい金属またはそれらのアマルガムおよび低原子価金属塩、AlH〔(CHCHCHや水素化リチウムアルミニウムなどの水素化物、ジイミド、ギ酸、アルデヒド、糖類およびL−アスコルビン酸などを適宜用いることもできる。
【0057】
上記還元剤は、上述のように還元される金属種に応じて適宜選択することもできるが、さらにはメッキの成長速度、析出した金属の粒子サイズ、フラクタル構造の金属電極とイオン交換樹脂の接触面積、電極構造ならびにメッキ後の樹脂の可撓性を調製するために、適宜還元剤の種類を選択して用いることができる。また、還元工程における還元浴を好ましいpHとするために、上記還元剤の種類を適宜選択してもよい。
【0058】
また、上記還元剤溶液の濃度は、金属錯体の還元により析出させる金属量を得ることができるのに十分な量の還元剤を含んでいれば特に限定されるものではないが、通常の無電解メッキにより電極を形成する場合に用いられる金属塩溶液と同等の濃度を用いることも可能である。また、還元剤溶液中にはイオン交換樹脂の良溶媒を含むことができる。さらには、金属錯体を還元する際に、必要に応じて酸またはアルカリを添加してもよい。
【0059】
さらに、上記金属錯体液として、有機イオン化合物を含む金属錯体液を用いることが好ましい。かかる金属錯体を用いることにより、上記第二工程における電解質の充填をより効果的に行うことができる場合がある。
【0060】
上記有機イオン化合物としては、たとえば、テトラエチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウム酢酸塩、テトラエチルアンモニウムパークロレート、エチルメチルイミダゾールテトラフルオロボラート、エチルメチルイミダゾールヘキサフルオロリン酸、エチルメチルイミダゾールフルオロメタンスルホイミドなどをあげることができる。
【0061】
上記有機イオン化合物は単独で用いてもよいし、また2種以上を混合して使用してもよいが、配合量としては、上記溶液中において金属溶液100重量部中、上記有機イオン化合物が0.1〜50重量%であることが好ましく、1〜30重量%含まれることがより好ましく、2〜20重量%含まれることがさらに好ましい。0.1重量%未満であると添加効果が十分には選られない場合があり、50重量%を超えるとブリードアウトする場合がある。
【0062】
本発明における高分子アクチュエータ素子は、対を形成することができるように形成された金属電極と接する電解質の内部に溶媒と塩とを含むものである。上記高分子アクチュエータ素子が屈曲ないし変位をすることができるように、上記高分子アクチュエータ素子は柔軟性が有ることが好ましい。本発明においては、上記柔軟性を得るために、上記イオン交換樹脂が常温常圧で液状の非イオン性有機化合物により膨潤した状態であることが必要である。
【0063】
上記膨潤の程度(膨潤度)については、特に限定されるものではないが、上記高分子アクチュエータ素子の膨潤度は、3〜200%であることが好ましく、5〜100%であることがより好ましく、10〜60%であることがさらに好ましい。上記膨潤度が3%未満である場合には、変位屈曲性能が劣る場合がある。一方、上記膨潤度が200%よりも大きい場合にも、変位屈曲性能が劣り、さらには大きく引張り強度が低下する場合がある。なお、上記有機化合物は電解質中に含まれるが、電極層が多孔性の電極である場合には、上記溶媒の一部が塩とともに、上記金属電極層に含まれてもよい。
【0064】
本発明においては、上記電解質は上記第一工程および第二工程を含む充填方法を用いることにより得ることができる。
【0065】
本発明の高分子アクチュエータ素子の電解液充填方法は、
前記高分子複合体を、常温常圧で液状の非イオン性有機化合物を含む溶液に浸漬する第一工程、および、
前記高分子複合体を、前記溶液にさらに電解質を加えた溶液に浸漬する第二工程、
を含むものである。
【0066】
上記第一工程は、前記高分子複合体を、常温常圧で液状の非イオン性有機化合物を含む溶液(非イオン性有機化合物含有溶液)に浸漬する工程である。
【0067】
上記第一工程において、イオン交換樹脂層(または高分子電解質)を上記非イオン性有機化合物または上記非イオン性有機化合物含有溶液の液中に浸漬することにより、イオン交換樹脂が上記非イオン性有機化合物等により膨潤した状態とすることができる。
【0068】
上記非イオン性有機化合物含有溶液としては、上記非イオン性有機化合物をその他の有機溶媒または水等と適宜混合したものがあげられる。上記非イオン性有機化合物と混合する溶媒は特に限定されないが、そのまま実用に用いるのであれば常温常圧下で経時的に揮発しにくい溶媒が好ましい。一方、たとえば、水等の常温常圧下で経時的に揮発しやすい溶媒を混合溶媒として用いた場合であっても、上記水等の溶媒が揮発後も上記有機化合物が電解質中の溶媒として残存して電解質媒として機能しうることから、常温常圧の開放系に長時間放置してもその後の初期の屈曲量または変位量とほぼ同等を示すことができると推測される。
【0069】
上記非イオン性有機化合物含有溶液を用いる場合には、上記溶液中において上記非イオン性有機化合物が1〜100重量%であることが好ましく、10〜100重量%含まれることがより好ましく、30〜100重量%含まれることがさらに好ましい。
【0070】
特に上記ポリエーテル化合物含有溶液を用いる場合には、上記溶液中において上記ポリエーテル化合物が1〜100重量%であることが好ましく、10〜100重量%含まれることがより好ましく、30〜100重量%含まれることがさらに好ましい。
【0071】
また、上記非イオン性有機化合物含有溶液(または上記ポリエーテル化合物含有溶液)を用いる際に上記非イオン性有機化合物(または上記ポリエーテル化合物)と混合する溶媒(以下、混合溶媒と称す)は、上記非イオン性有機化合物(または上記ポリエーテル化合物)と混合可能であれば特に限定されないが、上記非イオン性有機化合物(または上記ポリエーテル化合物)とともに高分子電解質内に充填後、加熱等により選択的に揮発可能な溶媒が好ましい。
【0072】
上記混合溶媒としては、たとえば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、グリセリンカーボネート、アルコール類、および水などをあげることができる。これらの混合溶媒は単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよい。
【0073】
また、上記第二工程は、上記第一工程を行った後、前記高分子複合体を、前記溶液にさらに電解質を加えた溶液に浸漬する工程である。
【0074】
上記第二工程において、イオン交換樹脂層(または高分子電解質)を上記第一工程の溶液にさらに電解質を加えた溶液の液中に浸漬することにより、イオン交換樹脂が上記非イオン性有機化合物等とイオン性の電解質により膨潤した状態とすることができる。特に上記非イオン性化合物を用いる場合には、イオン交換樹脂層に非イオン性の有機化合物とイオン性の電解質を併せて簡便かつ速やかに充填することが非常に困難であったが、上述の電解液充填方法を用いることにより、容易に充填することができる。
【0075】
上記高分子複合体(または高分子電解質)の内部に含まれる塩(電解質)は、上記非イオン性有機化合物(または非イオン性有機化合物含有溶液)に溶解できるものであれば特に限定されるものではない。上記高分子電解質がカチオンと対イオンを形成する場合には、1〜3価のカチオンの塩を用いることができ、なかでも、Na、K、Li等の1価のカチオンを用いることが大きな屈曲もしくは変位をすることができるため好ましい。また、特に上記カチオンの塩を用いる場合、イオン半径の大きなアルキルアンモニウムイオンを用いることが、より大きな屈曲もしくは変位を可能としうるため、より好ましい。
【0076】
なお、上記塩(電解質)は主として上記第二工程における電解質として用いて高分子複合体内に充填することが一般的であるが、その他の工程で上記塩を適宜高分子複合体内に含ませてもよい。
【0077】
上記アルキルアンモニウムイオンとしては、CHCH、C、(CH、(C、(CHH、(CH、(CH、(C、(C、(C、H(CH、CH=CHCHHCH、H(CH(CH、CH≡CCH、CHCH(OH)CH、H(CHOH、HCH(CHOH)、(HOCHC(CH、COCHCH、およびその他脂肪族炭化水素を置換基として備えるアンモニウムイオン、ならびに脂環式の環状炭化水素をも有するアンモニウムイオン等をあげることができる。これらのイオンは単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよい。
【0078】
また、上記塩の含有濃度としては、イオン交換樹脂の官能基と等量以上の濃度として含まれていれば特に限定されないが、より十分な屈曲ないし変位を得るためには、0.01〜10mol/lであることが好ましく、0.1〜1.0mol/lであることがより好ましく、0.2〜1.0mol/lであることがさらに好ましい。なお、イオン性液体を用いる場合には、上記塩を用いなくてもよい。
【0079】
また、本発明における電解液中にはさらにイオン性液体を上記第二工程の電解質として含むことができる。
【0080】
上記イオン性液体は、特に限定されないで用いることができる。なかでも、上記イオン性液体が、テトラアルキルアンモニウムイオン、ジアルキルイミダゾリウムイオン、トリアルキルイミダゾリウムイオンなどのイミダゾリウムイオン、ピラゾリウムイオン、ピロリウムイオン、ピロリニウムイオン、ピロリジニウムイオン、およびピペリジニウムイオンからなる群より少なくとも一種選ばれたカチオンと、PF、BF、AlCl、ClO、および下記式(I)で示されるスルホニウムイミドアニオンからなる群より少なくとも一種選ばれたアニオンとの組合せからなる塩を含むことが好ましい。これらのイオン性液体は単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよい。
(C(2n+1)SO)(C(2m+1)SO)N (I)
[上記式(I)において、nおよびmは任意の整数である。]。
【0081】
上記テトラアルキルアンモニウムイオンとしては、たとえば、トリメチルプロピルアンモニウム、トリメチルヘキシルアンモニウム、テトラペンチルアンモニウムなどをあげることができる。
【0082】
上記イミダゾリウムカチオンとしては、たとえば、ジアルキルイミダゾリウムイオンおよび/またはトリアルキルイミダゾリウムイオンなどをあげることができる。より具体的には、上記イミダゾリウムカチオンとしては、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムイオン、1−プロピル−3−メチルイミダゾリウムイオン、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムイオン、1−へキシル−3−メチルイミダゾリウムイオン、1,3−ジメチルイミダゾリウムイオン、1−メチル−3−エチルイミダゾリウムイオン、1,2,3−トリメチルイミダゾリウムイオン、1,2−ジメチル−3−エチルイミダゾリウムイオン、1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムイオン、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムイオンなどをあげることができる。
【0083】
上記アルキルピリジニウムイオンとしては、たとえば、N−メチルピリジニウムイオン、N−エチルピリジニウムイオン、N−プロピルピリジニウムイオン、N−ブチルピリジニウムイオン、1−エチル−2−メチルピリジニウムイオン、1−ブチル−4−メチルピリジニウムイオン、1−ブチル−2,4−ジメチルビリジニウムイオンなどをあげることができる。
【0084】
上記ピロリウムカチオンとしては、たとえば、1,1−ジメチルピロリウムイオン、1−エチル−1−メチルピロリウムイオン、1−メチル−1−プロピルピロリウムイオン、1−ブチル−1−メチルピロリウムイオンなどをあげることができる。
【0085】
上記ピラゾリウムカチオンとしては、たとえば、1,2−ジメチルピラゾリウムイオン、1−エチル−2−メチルピラゾリウムイオン、1−プロピル−2−メチルピラゾリウムイオン、1−ブチル−2−メチルピラゾリウムイオンなどをあげることができる。
【0086】
上記ピロリニウムカチオンとしては、たとえば、1,2−ジメチルピロリニウムイオン、1−エチル−2−メチルピロリニウムイオン、1−プロピル−2−メチルピロリニウムイオン、1−ブチル−2−メチルピロリニウムイオンなどをあげることができる。
【0087】
上記ピロリジニウムカチオンとしては、たとえば、1,1−ジメチルピロリジニウムイオン、1−エチル−1−メチルピロリジニウムイオン、1−メチル−1−プロピルピロリジニウムイオン、1−ブチル−1−メチルピロリジニウムイオンなどをあげることができる。
【0088】
上記ピベリジニウムカチオンとしては、たとえば、1,1−ジメチルピペリジニウムイオン、1−エチル−1−メチルピペリジニウムイオン、1−メチル−1−プロピルピペリジニウムイオン、1−ブチル−1−メチルピペリジニウムイオンなどをあげることができる。
【0089】
上記イオン性液体は、上記アニオンと上記カチオンとの組み合わせが特に限定されるものではないが、たとえば、1−メチル−3−エチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホイミド(EMITFSI)、1−メチル−3−イミダゾリウムテトラフルオロボレート(EMIBF)、1−メチル−3−イミダゾリウムヘキサフルオロリン酸(EMIPF)、トリメチルプロピルアンモニウムトリフルオロメタンスルホイミド、1−へキシル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1−へキシル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロリン酸、1−へキシル−3−メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホイミドなどを用いることができる。
【0090】
本発明における高分子アクチュエータ素子は、上記高分子電解質が上記非イオン性有機化合物および上記イオン性液体を含むことにより、上記高分子電解質が上記非イオン性有機化合物および上記イオン性液体で膨潤した状態となったゲル電解質とすることができる。特に上記非イオン性有機化合物として沸点もしくは分解温度が180℃以上であり常温常圧下で液状の有機化合物またはポリエーテル化合物を含む場合など、上記高分子電解質を用いることにより、大気圧下(常温常圧下)で1ヶ月程度放置しても上記高分子アクチュエータ素子は駆動することができる。さらに、上記非イオン性有機化合物および上記イオン性液体を含むゲル電解質は可撓性があり高濃度の電解質を保持することが可能であることから、アクチュエータ素子およびキャパシタの電解質として好適である。
【0091】
上記イオン交換樹脂と上記非イオン性有機化合物(および上記イオン性液体)とを含む高分子電解質(または高分子複合体)は、その製造方法は特に限定されるものではないが、たとえば、上記非イオン性有機化合物(もしくは非イオン性有機化合物含有溶液)中に上記イオン性液体を5〜50重量%の混合溶液にイオン交換樹脂を浸漬し、室温にて、寸法もしくは重量の変化がなくなるまで放置することにより、容易に得ることができる。
【0092】
また、本発明の高分子アクチュエータ素子は、上記非イオン性有機化合物として沸点もしくは分解温度が180℃以上であり常温常圧下で液状の有機化合物またはポリエーテル化合物を含む場合、樹脂等による被覆なしに長期間駆動することができるが、さらに可撓性を有する樹脂で電解質等が被覆されてもよい。
【0093】
上記可撓性を有する樹脂としては、特に限定されるものではないが、たとえば、ポリウレタン樹脂および/またはシリコーン樹脂をあげることができる。
【0094】
上記ポリウレタン樹脂としては、たとえば、柔軟度が大きく密着性が良好であるため、柔軟性(柔軟度)の高い熱可塑性ポリウレタンが特に好ましい。上記熱可塑性ポリウレタンとしては、商品名「アサフレックス825」(柔軟度200%、旭化成社製)、商品名「ペレセン 2363−80A」(柔軟度550%)、「ペレセン 2363−80AE」(柔軟度650%)、「ペレセン 2363−90A」(柔軟度500%)、「ペレセン 2363−90AE」(柔軟度550%)(以上、ダウ・ケミカル社製)を用いることができる。
【0095】
上記シリコーン樹脂は、たとえば、柔軟度が50%以上である樹脂が、柔軟度が大きいので密着性が良好であり特に好ましい。上記シリコーン樹脂としては、たとえば、「シラシール3FW」、「シラシールDC738RTV」、「DC3145」、および「DC3140」(以上、ダウコーニング社製)などを用いることができる。
【0096】
なお、本発明における柔軟度とは、ASTM D412に準拠して測定された引張破断伸び(Ultimate Elongation%)をいう。
【0097】
また、上記アクチュエータ素子の膨潤時の厚みは、通常0.01〜5.0mmで用いられるが、0.02〜2.0mmであることが好ましく、0.03〜1.0mmであることがより好ましく、0.05〜0.5mmであることがさらに好ましい。上記アクチュエータ素子の厚みが10mm以上となると電極間の電界強度が不足して屈曲性が消失してしまう場合があり好ましくない。
【0098】
一方、本発明の高分子アクチュエータ素子の弾性率制御方法は、高分子電解質上に金属電極を備えた高分子複合体を含む高分子アクチュエータ素子の弾性率制御方法であって、
前記高分子複合体を、常温常圧下で液状の非イオン性有機化合物を含む溶液に浸漬する第一工程、および、
前記高分子複合体を前記溶液にさらに電解質を加えた溶液に浸漬し、前記高分子複合体中に含まれる電解質量および電解液量を調製する第二工程、
を含むものである。
【0099】
上記第一工程は、前記高分子複合体を、常温常圧下で液状の非イオン性有機化合物を含む溶液(有機化合物含有溶液)に浸漬する工程である。
【0100】
上記第一工程において、イオン交換樹脂層(または高分子電解質)を上記非イオン性有機化合物または上記非イオン性有機化合物含有溶液の液中に浸漬することにより、イオン交換樹脂が上記非イオン性有機化合物等により膨潤した状態とすることができる。
【0101】
また、上記第二工程は、上記第一工程を行った後、前記高分子複合体を、前記溶液にさらに電解質を加えた溶液に浸漬し、前記高分子複合体中に含まれる電解質量および電解液量を調製する工程である。
【0102】
上記第二工程において、イオン交換樹脂層(または高分子電解質)を上記第一工程の溶液にさらに電解質を加えた溶液の液中に浸漬し、さらにその際に、上記高分子複合体中に含まれる電解質量および電解液量を調製することにより、イオン交換樹脂が上記非イオン性有機化合物等とイオン性の電解質のそれぞれの充填する量を制御して膨潤した状態とすることができる。これまで、イオン交換樹脂層に非イオン性の有機化合物とイオン性の電解質のそれぞれの充填する量を制御して簡便かつ速やかに充填することが非常に困難であったが、上述の工程を用いることにより各充填量を制御しつつ簡便かつ速やかに充填することが可能となり、その結果、容易に弾性率の制御を行うことができる。また、高分子アクチュエータ素子のさらなる実用化においては、トレードオフの関係にある特性である高分子アクチュエータ素子の材質固さと応答性のバランスが求められるが、本発明の弾性率制御方法を用いることにより、各用途に応じた材質固さと応答性を有する高分子アクチュエータ素子の提供を可能となる。
【0103】
なお、上記弾性率制御方法においても、上記電解液充填方法における各成分等は同様に用いることができる。
【0104】
また、上記弾性率制御方法を用いることにより、上記高分子アクチュエータ素子の弾性率は概ね5〜200MPaに制御可能となる。また、実用用途における要求特性や応答性とのバランスにも依存するが、一般に上記弾性率が10〜150MPaであることが好ましく、20〜120MPaであることがより好ましく、30〜100MPaであることがさらに好ましい。なお、高分子アクチュエータ素子の応答性とは、高分子アクチュエータ素子の変位量や変位運動の周期や応答速度などがある。
【0105】
また、上記弾性率を低下させる場合、上記非イオン性有機化合物として、エチレングリコール、ポリプロピレングリコール、および/またはそれらの類縁化合物などを用いることでも制御することができる。これはこれらのポリエーテル化合物がイオン交換樹脂全体に深く入り込みことができ、その結果イオン交換樹脂の柔軟性が増加するためと推測される。
【0106】
さらに、上記弾性率を増加させる場合、上記第二工程で加える電解質(塩)の含有量を増加させることでも制御することができる。なかでも特にLi+、Na、Ba、Al3+などはその添加量に対する弾性率増大効果が大きく、少量の添加で弾性率を大きく制御しやすいため好ましい。
【0107】
さらに、上記高分子アクチュエータ素子の変位量と弾性率について、上記弾性率制御方法を用いることにより、上記弾性率が5〜20MPaでありかつ上記変位量が0.05〜5mm/secとなるように制御可能となる。また、実用用途における要求特性や応答性とのバランスにも依存するが、一般に上記弾性率が20〜100MPaでありかつ上記変位量が0.1〜4mm/secであることが好ましく、上記弾性率が30〜70MPaでありかつ上記変位量が1.5〜3.0mm/secであることがより好ましい。ただし、変位量の測定点は電極のつかみ位置より6mmの点とする。
【0108】
他方、本発明の高分子アクチュエータ素子の製造方法は、高分子電解質上に金属電極を備えた高分子複合体を含む高分子アクチュエータ素子の製造方法であって、
前記高分子複合体を、常温常圧下で液状の非イオン性有機化合物を含む溶液に浸漬する第一工程、および、
前記高分子複合体を、前記溶液にさらに電解質を加えた溶液に浸漬する第二工程、
を含むものである。
【0109】
上記第一工程および第二工程は、上述の電解液充填方法における上記第一工程および第二工程と同様である。
【0110】
なお、上記高分子アクチュエータ素子の製造方法の第二工程においては、上記高分子複合体を上記溶液にさらに電解質を加えた溶液に浸漬する際に、上記高分子複合体中に含まれる電解質量および電解液量を調製してもよい。
【0111】
上記製造方法は上述のような工程を有するため、常温常圧下で液状の非イオン性化合物を含む電解液を有する高分子アクチュエータ素子を簡便に製造することができる。また、弾性率を制御した高分子アクチュエータ素子を簡便に製造することができる。
【0112】
また、上記高分子アクチュエータ素子の駆動方法は上述の高分子アクチュエータ素子を印加して駆動させるものである。本発明の高分子アクチュエータ素子は、上述のような構成を有するので、160°以上の屈曲ないし変位を生じさせるために3.0Vより高い電圧を印加した場合であっても気泡を発生することなく、さらには電解液(電解質溶液)をたとえば上記ポリエーテル化合物などを用いることにより、電解液の蒸発が生じにくいので、樹脂による被覆なしに1日以上、または1週間以上、初期の屈曲量または変位量とほぼ同等の駆動を可能となる。
【0113】
上記高分子アクチュエータ素子は、通常0.5〜50Vの電圧を印加することで駆動させることができるが、1〜30Vが好ましく、2〜20Vであることがより好ましく、3〜10Vであることがさらに好ましい。
【0114】
また、上記高分子アクチュエータ素子にたとえば左右に往復する等の連続的な変位運動をさせる場合には、0.01Hz〜1KHz周期で各金属電極に反対電圧が印加されるようにすることが好ましく、0.1〜200Hz周期であることがより好ましく、0.2〜100Hz周期であることがさらに好ましい。
【0115】
本発明の高分子アクチュエータ素子は、たとえば、OA機器、アンテナ、ベッドや椅子等の人を乗せる装置、医療機器、エンジン、光学機器、固定具、サイドトリマ、車両、昇降機械、食品加工装置、清掃装置、測定機器、検査機器、制御機器、工作機械、加工機械、電子機器、電子顕微鏡、電気剃刀、電動歯ブラシ、マニピュレータ、マスト、遊戯装置、アミューズメント機器、乗車用シミュレーション装置、車両乗員の押さえ装置および航空機用付属装備展張装置において、直線的な駆動力を発生する駆動部もしくは円弧部からなるトラック型の軌道を移動するための駆動力を発生する駆動部、直線的な動作もしくは曲線的な動作をする押圧部として好適に用いることができる。
【0116】
また、本発明の高分子アクチュエータ素子は、たとえば、OA機器や測定機器等の上記機器等を含む機械全般に用いられる弁、ブレーキ、またはロック装置等において、直線的な駆動力を発生する駆動部、円弧部からなるトラック型の軌道を移動するための駆動力を発生する駆動部、または直線的な動作をする押圧部などとして用いることができる。
【0117】
さらには、上記の装置、機器、器械等以外として、機械機器類全般において、位置決め装置の駆動部、姿勢制御装置の駆動部、昇降装置の駆動部、搬送装置の駆動部、移動装置の駆動部、量や方向等の調節装置の駆動部、軸等の調整装置の駆動部、誘導装置の駆動部、または押圧装置の押圧部などとして好適に用いることができる。
【0118】
また、本発明の高分子アクチュエータ素子は、回転的な運動をすることができるので、たとえば、切替え装置の駆動部、搬送物等の反転装置の駆動部、ワイヤ一等の巻取り装置の駆動部、牽引装置の駆動部、または首振り等の左右方向への旋回装置の駆動部などとしても用いることができる。
【実施例】
【0119】
以下、本発明の構成と効果を具体的に示す実施例等について説明する。
【0120】
〔実施例1〕
(イオン交換樹脂膜(a)の調製)
イオン交換樹脂膜(フッ素樹脂系イオン交換樹脂:パーフルオロカルボン酸樹脂、旭硝子社製、フレミオン、乾燥時の膜厚:0.2mm、イオン交換容量:1.4meq/g)を用いて下記(1)〜(3)の工程を6サイクル繰り返し、イオン交換樹脂を挟んで形成された一対の金属電極を備えたイオン交換樹脂膜(a)を得た。
・(1)吸着工程:ジクロロフフェナントロリン金塩化物水溶液に12時間浸漬し、上記イオン交換樹脂膜内にジクロロフェナントロリン金錯体を吸着させた。
・(2)還元工程:亜硫酸ナトリウムおよびエチルメチルイミダゾール(5重量%)を含む水溶液中で、吸着したジクロロフェナントロリン金錯体を還元し、上記膜状高分子電解質(イオン交換樹脂膜)に金電極を形成させた。このとき、水溶液の温度を60〜80℃とし、亜硫酸ナトリウムを徐々に添加しながら、6時間ジクロロフェナントリン金錯体の還元処理を行った。
・(3)洗浄工程:表面に金電極が形成した膜状高分子電解質(イオン交換樹脂膜)を取り出し、70℃の水で1時間洗浄した。上記無電解メッキにより一対の金属電極が形成されたイオン交換樹脂膜を長さ22mm、幅1.5mmのサイズに切断した。
【0121】
(高分子アクチュエータ素子の作製)
上記イオン交換樹脂膜(a)をグリセリンカーボネートの水混合溶液(1)(67重量%)に浸漬した。次いで、上記イオン交換樹脂膜(a)を0.01mol/lのLiTFSI(トリフルオロメタンスルホイミド)塩を含む上記混合溶液(1)に浸漬し、膨潤度が約25%となるように3時間浸漬して実施例1の高分子アクチュエータ素子を得た。
【0122】
〔実施例2〕
(高分子アクチュエータ素子の作製)
【0123】
(高分子アクチュエータ素子の作製)
上記イオン交換樹脂膜(a)をポリエチレングリコールのメタノール混合溶液(2)(80重量%)に浸漬した。次いで、上記イオン交換樹脂膜(a)を0.001mol/lのLiTFSI(トリフルオロメタンスルホイミド)塩を含む上記混合溶液(2)に浸漬し、膨潤度が約40%となるように1.5時間浸漬して実施例2の高分子アクチュエータ素子を得た。
【0124】
〔実施例3〕
(高分子アクチュエータ素子の作製)
上記イオン交換樹脂膜(a)をポリエチレングリコールモノラウレートのエタノール混合溶液(3)(80重量%)に浸漬した。次いで、上記イオン交換樹脂膜(a)を0.005mol/lの硫酸ナトリウム塩を含む上記混合溶液(3)に浸漬し、膨潤度が約20%となるように5時間浸漬して実施例3の高分子アクチュエータ素子を得た。
【0125】
〔実施例4〕
(高分子アクチュエータ素子の作製)
上記イオン交換樹脂膜(a)をポリエチレングリコールのグリセリンカーボネート混合溶液(4)(50重量%)に浸漬した。次いで、上記イオン交換樹脂膜(a)を0.1mol/lのLiTFSI(トリフルオロメタンスルホイミド)塩を含む上記混合溶液(4)に浸漬し、膨潤度が約30%となるように2時間浸漬して実施例4の高分子アクチュエータ素子を得た。
【0126】
〔比較例1〕
(高分子アクチュエータ素子の作製)
上記イオン交換樹脂膜(a)をポリエチレングリコールのメタノール混合溶液(ポリエチレングリコール:80重量%)に浸漬し、膨潤度が約20%となるように0.5時間浸漬して比較例1の高分子アクチュエータ素子を得た。
【0127】
<弾性率の測定>
作製した高分子アクチュエータ素子を用いて、以下のように弾性率(MPa)の測定を行った。
【0128】
具体的には、資料の幅と厚さを測定しておき、資料の垂直方向に加重を加えて一定重のたわみを与えるのに要した力(N/mm)を測定して弾性率を算出する。
【0129】
<応答性の評価>
作製した高分子アクチュエータ素子を用いて、以下のように単位時間当たりの変位量(mm/sec)を測定することにより応答性の評価を行った。
【0130】
具体的には、資料のつかみ(電極)位置から6mmのところにレーザー光をフォーカスさせ1secでの反射光の変位追跡から逆算した変位量を得る方法にて電圧印加して評価した(印加電圧:3Vpp、0.5Hz、矩形波にて駆動)。
【0131】
上記方法にしたがい、作製した高分子アクチュエータ素子の弾性率および応答性(変位量)の測定・評価を行った。得られた結果を表1に示す。なお、表1中の添加無機塩量は、上記各実施例に記載の添加量を「1倍」とし、また、表1中の「2倍」、「5倍」、「10倍」は、前記「1倍」の添加量を基準に、無機塩添加量をそれぞれ2倍、5倍、10倍にした場合の結果である。
【0132】
【表1】

【0133】
上記表1の結果より、本発明によって作製された高分子アクチュエータ素子を用いた場合、60MPa以上の弾性率を有し、かつ、2.0mm/secといった優れた応答性を示すことがわかった。
【0134】
これに対して、本発明の工程を含まない場合(比較例1)、60MPa以上の弾性率を有し、かつ、2.0mm/secといった優れた応答性を並立することができなかった。
【0135】
以上により、本発明の高分子アクチュエータ素子の弾性率制御方法を用いることにより、常温常圧下で液状の非イオン性化合物を含む電解液を有する高分子アクチュエータ素子の弾性率を容易に制御し調整できることが分かった。また、本発明の高分子アクチュエータ素子の製造方法を用いて常温常圧下で液状の非イオン性化合物を含む電解液を有する高分子アクチュエータ素子を簡便に得ることができることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子電解質上に金属電極を備えた高分子複合体を含む高分子アクチュエータ素子の電解液充填方法であって、
前記高分子複合体を、常温常圧下で液状の非イオン性化合物を含む溶液に浸漬する第一工程、および、
前記高分子複合体を、前記溶液にさらに電解質を加えた溶液に浸漬する第二工程、
を含むことを特徴とする高分子アクチュエータ素子の電解液充填方法。
【請求項2】
前記第一工程の前工程として、有機イオン化合物を含む金属錯体液を用いてメッキを行う工程を含む請求項1に記載の高分子アクチュエータ素子の電解液充填方法。
【請求項3】
前記非イオン性有機化合物が沸点もしくは分解温度が180℃以上でかつ凝固点が0℃以下である有機化合物である請求項1または2に記載の高分子アクチュエータ素子の電解液充填方法。
【請求項4】
前記非イオン性有機化合物がポリエーテル化合物である請求項1または2に記載の高分子アクチュエータ素子の電解液充填方法。
【請求項5】
高分子電解質上に金属電極を備えた高分子複合体を含む高分子アクチュエータ素子の弾性率制御方法であって、
前記高分子複合体を、常温常圧下で液状の非イオン性有機化合物を含む溶液に浸漬する第一工程、および、
前記高分子複合体を前記溶液にさらに電解質を加えた溶液に浸漬し、前記高分子複合体中に含まれる電解質量および電解液量を調製する第二工程、
を含むことを特徴とする高分子アクチュエータ素子の弾性率制御方法。
【請求項6】
前記第一工程の前工程として、有機イオン化合物を含む金属錯体液を用いてメッキを行う工程を含む請求項5に記載の高分子アクチュエータ素子の弾性率制御方法。
【請求項7】
前記非イオン性有機化合物が沸点もしくは分解温度が180℃以上でかつ凝固点が0℃以下である有機化合物である請求項5または6に記載の高分子アクチュエータ素子の弾性率制御方法。
【請求項8】
前記非イオン性有機化合物がポリエーテル化合物である請求項5または6に記載の高分子アクチュエータ素子の弾性率制御方法。
【請求項9】
高分子電解質上に金属電極を備えた高分子複合体を含む高分子アクチュエータ素子の製造方法であって、
前記高分子複合体を、常温常圧下で液状の非イオン性有機化合物を含む溶液に浸漬する第一工程、および、
前記高分子複合体を、前記溶液にさらに電解質を加えた溶液に浸漬する第二工程、
を含むことを特徴とする高分子アクチュエータ素子の製造方法。
【請求項10】
前記第一工程の前工程として、有機イオン化合物を含む金属錯体液を用いてメッキを行う工程を含む請求項9に記載の高分子アクチュエータ素子の製造方法。
【請求項11】
前記非イオン性有機化合物が沸点もしくは分解温度が180℃以上でかつ凝固点が0℃以下である有機化合物である請求項9または10に記載の高分子アクチュエータ素子の製造方法。
【請求項12】
前記非イオン性有機化合物がポリエーテル化合物である請求項9または10に記載の高分子アクチュエータ素子の製造方法。

【公開番号】特開2008−67444(P2008−67444A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−240431(P2006−240431)
【出願日】平成18年9月5日(2006.9.5)
【出願人】(302014860)イーメックス株式会社 (49)
【Fターム(参考)】