説明

高分子化合物の製造方法

【課題】シアノ基を有する高分子化合物の収率を向上させる。
【解決手段】下記式(I)で表される構造単位を有する高分子化合物と、下記式(II)で表される化合物又は他の特定のシアノ基含有不飽和化合物とを、マイクロ波照射下で反応させて、下記式(I)で表される構造単位を有する高分子化合物の変性体を製造する、高分子化合物の製造方法。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シアノ基を有する高分子化合物は、長波長領域に吸収を有し、有機太陽電池等に用いられる半導体材料として期待されている。シアノ基を有する高分子化合物の製造方法としては、アルキン構造を有する高分子化合物とシアノ基を有する化合物とを、加熱して付加反応する方法が開示されている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】マクロモレキュールズ(Macromolecules)、2009年、第42巻、p.5903−5905
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記高分子化合物の製造方法は、シアノ基を有する高分子化合物の収率が十分でないという課題がある。
【0005】
そこで、本発明は、シアノ基を有する高分子化合物の収率が高い製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
即ち、本発明は第1に、下記式(I)で表される構造単位を有する高分子化合物と、下記式(II)で表される化合物又は下記式(III)で表される化合物とを、マイクロ波照射下で反応させて、下記式(IV)で表される構造単位を有する高分子化合物を製造する、高分子化合物の製造方法を提供する。
【0007】
【化1】

【0008】
【化2】

【0009】
【化3】

【0010】
式(III)中、Arは、4価の有機基を表す。
【0011】
【化4】

【0012】
式(IV)中、A及びAは、それぞれ独立に、=C(CN)で表される基又は下記式(V)で表される基を表す。
【0013】
【化5】

【0014】
式(V)中、Arは、4価の有機基を表す。
【0015】
本発明は第2に、下記式(VI)で表される構造単位を含む高分子化合物を提供する。
【0016】
【化6】

【0017】
式(VI)中、Ar及びArは、それぞれ独立に、2価の複素環基を表す。A11及びA22は、それぞれ独立に、=C(CN)で表される基又は下記式(VII)で表される基を表す。
【0018】
【化7】

【0019】
式(VII)中、Ar33は、4価の有機基を表す。
【0020】
本発明は第3に、陽極と、陰極と、陽極と陰極との間に設けられる活性層とを有し、活性層中に電子供与性化合物と電子受容性化合物とを有し、電子供与性化合物と電子受容性化合物とのうちの少なくとも一方が、高分子化合物である光電変換素子を提供する。
【0021】
本発明は第4に、光電変換素子を含む太陽電池モジュールを提供する。
【0022】
本発明は第5に、光電変換素子を含むイメージセンサーを提供する。
【発明の効果】
【0023】
本発明の高分子化合物の製造方法は、高分子化合物の収率が高く、本発明は極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(高分子化合物の製造方法)
本発明は、下記式(I)で表される構造単位を有する高分子化合物と、下記式(II)で表される化合物又は下記式(III)で表される化合物とを、マイクロ波照射下で反応させて、下記式(IV)で表される構造単位を有する高分子化合物を製造する、高分子化合物の製造方法である。
【0025】
【化8】

【0026】
【化9】

【0027】
【化10】

【0028】
式(III)中、Arは、4価の有機基を表す。
【0029】
【化11】

【0030】
式(IV)中、A及びAは、それぞれ独立に、=C(CN)で表される基又は下記式(V)で表される基を表す。
【0031】
【化12】

【0032】
式(V)中、Arは、4価の有機基を表す。
【0033】
上記の高分子化合物の製造方法において、上記式(II)で表される化合物を用いる場合に得られる高分子化合物は、A及びAがいずれも=C(CN)で表される基である、上記式(IV)で表される構造単位を有する高分子化合物である。
上記の高分子化合物の製造方法において、上記式(III)で表される化合物を用いる場合に得られる高分子化合物は、A及びAのうちのいずれか一方が=C(CN)で表される基であり、かつA及びAのうちの他方が上記式(V)で表される基である、上記式(IV)で表される構造単位を有する高分子化合物である。
【0034】
Arで表される4価の有機基は、通常、その炭素原子数が6〜50である。4価の有機基としては、キノイド構造を有する基が好ましく、キノイド構造を有する基の例としては、式(Ar3−1)で表される基、式(Ar3−2)で表される基、式(Ar3−3)で表される基が挙げられる。
【0035】
【化13】

【0036】
式(Ar3−1)〜(Ar3−3)中、R10、R11及びR12は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、フッ素原子で置換されていてもよいアルキル基又はフッ素原子で置換されていてもよいアルコキシ基を表す。4個あるR10は、同一でも相異なってもよい。6個あるR11は、同一でも相異なってもよい。6個あるR12は、同一でも相異なってもよい。
【0037】
10〜R12で表されるハロゲン原子の具体例としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
【0038】
10〜R12で表されるアルキル基は、通常、その炭素原子数が1〜20である。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘプチル基、ヘキシル基、オクチル基が挙げられる。アルキル基中の水素原子は、フッ素原子で置換されていてもよい。
【0039】
10〜R12で表されるアルコキシ基は、通常、その炭素原子数が1〜20である。アルコキシ基の具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ヘプチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基が挙げられる。アルコキシ基中の水素原子は、フッ素原子で置換されていてもよい。
【0040】
式(III)で表される化合物の例としては、下記式(III−1)で表される化合物、下記式(III−2)で表される化合物、下記式(III−3)で表される化合物が挙げられる。
【0041】
【化14】

【0042】
式(III−1)〜式(III−3)中、R311、R321、R331は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、フッ素原子で置換されていてもよいアルコキシ基又はフッ素原子で置換されていてもよいアルキル基を表す。4個あるR311は、同一でも相異なってもよい。8個あるR321は、同一でも相異なってもよい。6個あるR331は、同一でも相異なってもよい。
【0043】
311、R321、R331で表されるハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基の具体例としては、R10で表されるハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基の炭素原子数及び具体例と同じである。また、R311、R321、R331で表されるアルキル基中及びアルコキシ基中の水素原子はフッ素原子で置換されていてもよい。
【0044】
式(I)で表される構造単位を有する高分子化合物は、主鎖に式(I)で表される構造単位を有する高分子化合物であり、式(IV)で表される構造単位を有する高分子化合物は、主鎖に式(IV)で表される構造単位を有する高分子化合物であることが好ましい。
【0045】
式(I)で表される構造単位を有する高分子化合物は、更に、アリーレン基、2価の複素環基、ビニレン基及び金属原子を含む2価の基からなる群から選ばれる1種以上の基を有する高分子化合物であることが好ましい。アリーレン基、2価の複素環基、金属原子を含む2価の基の定義、具体例は、以下に詳述するアリーレン基、2価の複素環基、金属原子を含む2価の基の定義、具体例と同じである。アリーレン基、2価の複素環基、ビニレン基、金属原子を含む2価の基の中でも、アリーレン基、2価の複素環基がより好ましく、2価の複素環基がより好ましい。
【0046】
本発明の製造方法の好ましい態様は、式(I)で表される構造単位を有する高分子化合物が、下記式(I−2)で表される構造単位を有する高分子化合物であり、式(IV)で表される構造単位を有する高分子化合物が、下記式(IV−2)で表される構造単位を有する高分子化合物である。すなわち、本発明の製造方法の好ましい態様は、下記式(I−2)で表される構造単位を有する高分子化合物と、式(II)で表される化合物又は式(III)で表される化合物とを、マイクロ波照射下で反応させて、下記式(IV−2)で表される構造単位を有する高分子化合物を製造する、高分子化合物の製造方法である。
【0047】
【化15】

【0048】
式(I−2)中、Ar及びArは、それぞれ独立に、アリーレン基、2価の複素環基、ビニレン基又は金属原子を含む2価の基を表す。式(IV−2)中、Ar及びArは、それぞれ独立に、アリーレン基、2価の複素環基、ビニレン基又は金属原子を含む2価の基を表す。A及びAは、前述のA及びAと同じ意味を表す。
【0049】
Ar、Ar、Ar及びArで表されるアリーレン基とは、置換基を有していてもよい芳香族炭素環化合物から芳香環に結合している水素原子を2個取り除いた原子団を意味する。アリーレン基の炭素原子数は、通常6〜60である。アリーレン基の例としては、フェニレン基、ナフタレンジイル基、フルオレンジイル基が挙げられる。
Ar、Ar、Ar及びArで表されるアリーレン基が有し得る置換基の例としては、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、フッ素原子で置換されていてもよいアルキル基及びフッ素原子で置換されていてもよいアルコキシ基が挙げられる。アルキル基及びアルコキシ基の炭素原子数及び具体例は、R10で表されるアルキル基及びアルコキシ基の炭素原子数及び具体例と同じである。
【0050】
Ar、Ar、Ar及びArで表される2価の複素環基とは、置換基を有していてもよい複素環式化合物から複素環の水素原子を2個取り除いた原子団を意味する。複素環基の炭素原子数は、通常2〜50である。2価の複素環基の具体例としては、カルバゾールジイル基、チオフェンジイル基、チアゾールジイル基、ピロールジイル基、ピリジンジイル基が挙げられる。2価の複素環基としては、芳香族複素環基が好ましく、チオフェンジイル基がより好ましい。
Ar、Ar、Ar及びArで表される2価の複素環基が有し得る置換基の例としては、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、フッ素原子で置換されていてもよいアルキル基及びフッ素原子で置換されていてもよいアルコキシ基が挙げられる。アルキル基及びアルコキシ基の炭素原子数及び具体例は、R10で表されるアルキル基及びアルコキシ基の炭素原子数及び具体例と同じである。
【0051】
Ar、Ar、Ar及びArで表される金属原子を含む2価の基としては、下記式(IX)で表される基が挙げられる。
【0052】
【化16】

【0053】
式(IX)中、Mは金属原子を表す。Rはフッ素原子で置換されていてもよいアルキル基を表す。6個あるRは、同一でも相異なってもよい。
【0054】
金属原子を含む2価の基は、遷移金属原子を含む2価の基であることが好ましく、遷移金属原子が、白金原子、金原子、パラジウム原子、水銀原子であることがより好ましい。
で表されるアルキル基の炭素原子数及び具体例は、R10で表されるアルキル基の炭素原子数及び具体例と同じである。
【0055】
金属原子を含む2価の基の好ましい一態様は、下記式(IX-2)で表される基である。
【0056】
【化17】

【0057】
式(IX−2)中、Rはフッ素原子で置換されていてもよいアルキル基を表す。6個あるRは、同一でも相異なってもよい。
【0058】
で表されるアルキル基は、通常、その炭素原子数が1〜20である。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘプチル基、ヘキシル基、オクチル基が挙げられる。アルキル基中の水素原子は、フッ素原子で置換されていてもよい。
【0059】
Ar、Ar、Ar及びArは、アリーレン基、2価の複素環基が好ましく、2価の複素環基が更に好ましい。
【0060】
式(I−2)で表される構造単位を有する高分子化合物は、さらに、他の繰り返し単位を有していてもよい。他の繰り返し単位(2価の基)の例としては、下記式(B−1)〜下記式(B−15)で表される繰り返し単位が挙げられる。
【0061】
【化18】

【0062】
【化19】

【0063】
式(B−1)〜(B−15)中、R21、R22、R23、R24、R25、R26、R27、R28、R29、R30、R31、R32、R33、及びR34は、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。6個あるR21は、同一でも相異なってもよい。5個あるR22は、同一でも相異なってもよい。6個あるR23は、同一でも相異なってもよい。4個あるR24は、同一でも相異なってもよい。2個あるR25は、同一でも相異なってもよい。4個あるR27は、同一でも相異なってもよい。3個あるR28は、同一でも相異なってもよい。4個あるR29は、同一でも相異なってもよい。2個あるR30は、同一でも相異なってもよい。4個あるR31は、同一でも相異なってもよい。2個あるR32は、同一でも相異なってもよい。2個あるR33は、同一でも相異なってもよい。2個あるR34は、同一でも相異なってもよい。
21〜R34で表される置換基の例としては、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、フッ素原子で置換されていてもよいアルキル基及びフッ素原子で置換されていてもよいアルコキシ基が挙げられる。アルキル基及びアルコキシ基の炭素原子数及び具体例は、既に説明したR10で表されるアルキル基及びアルコキシ基の炭素原子数及び具体例と同じである。
【0064】
式(I)で表される構造単位を有する高分子化合物は、ポリスチレン換算の数平均分子量が、10〜10であることが好ましく、10〜107であることがより好ましい。
【0065】
マイクロ波を用いた反応を行う場合の条件について、以下に説明する。
式(I)で表される構造単位を有する高分子化合物と、式(II)で表される化合物又は式(III)で表される化合物と、溶媒とを混合する。溶媒は、反応に用いる化合物の全量を溶解しうる溶媒であっても、反応に用いる化合物それぞれの一部の量を溶解しうる溶媒であってもよい。得られた溶液を、マイクロ波を照射しながら、式(IV)で表される構造単位を有する高分子化合物の熱分解温度以下の範囲で加熱してもよい。
【0066】
反応に用いるマイクロ波の周波数は、特に制限がなく、通常、1000MHz〜5000MHzであり、好ましくは、2000MHz〜4000MHzである。マイクロ波は、連続波であってもパルス波であってもよい。また、マイクロ波は、シングルモードであっても、マルチモードであってもよい。必要に応じて、外部から加熱又は冷却しながら反応を行ってもよい。その際、反応容器に還流管を取り付け、溶媒を沸騰させつつ反応させることもできる。また、加圧下で反応を行ってもよい。
【0067】
反応時間は、通常、1分間〜7日間である。反応は、大気下で実施しても不活性雰囲気下で実施してもよい。反応は、好ましくはNガス、アルゴンガスなどの不活性雰囲気下で実施する。式(I)で表される構造単位1モル部に対し、反応に用いる式(II)で表される化合物又は式(III)で表される化合物の比率は、0.1モル部以上である。これらの化合物を1モル部以上用いる場合、過剰量の式(II)で表される化合物又は式(III)で表される化合物は、式(IV)で表される構造単位を有する高分子化合物から昇華、再沈澱、クロマトグラフィーなどの手法を用いて分離することができる。
【0068】
本発明の製造方法は、反応性に優れており、式(I)で表される構造単位を有する高分子化合物が立体障害の大きい置換基を有していても、式(IV)で表される構造単位を有する高分子化合物を高収率で製造することができる。
【0069】
本発明の製造方法の好ましい態様は、下記式(VI)で表される構造単位を含む高分子化合物の製造方法である。すなわち、本発明の製造方法の好ましい態様は、式(I)で表される構造単位を有する高分子化合物と、式(II)で表される化合物又は式(III)で表される化合物とを、マイクロ波照射下で反応させて、下記式(VI)で表される構造単位を有する高分子化合物を製造する、高分子化合物の製造方法である。
本発明の下記式(VI)で表される構造単位を含む高分子化合物は、既に説明した式(IV)で表される構造単位を有する高分子化合物の製造方法と同様の製造方法により高収率で製造することができる。
【0070】
【化20】

【0071】
式(VI)中、Ar及びArは、それぞれ独立に、2価の複素環基を表す。A11及びA22は、それぞれ独立に、=C(CN)で表される基又は下記式(VII)で表される基を表す。
【0072】
【化21】

【0073】
式(VII)中、Ar33は、4価の有機基を表す。
【0074】
Ar及びArで表される2価の複素環基とは、置換基を有していてもよい複素環式化合物から複素環の水素原子を2個取り除いた原子団を意味する。複素環基の炭素原子数は、通常2〜50である。2価の複素環基の具体例としては、カルバゾールジイル基、チオフェンジイル基、チアゾールジイル基、ピロールジイル基、ピリジンジイル基が挙げられる。Ar及びArで表される2価の複素環基としては、芳香族複素環基が好ましく、チオフェンジイル基がより好ましい。
【0075】
Ar及びArで表される2価の複素環基が有し得る置換基の例としては、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、フッ素原子で置換されていてもよいアルキル基及びフッ素原子で置換されていてもよいアルコキシ基が挙げられる。アルキル基及びアルコキシ基の炭素原子数及び具体例は、R10で表されるアルキル基及びアルコキシ基の炭素原子数及び具体例と同じである。
【0076】
Ar33で表される4価の有機基は、既に説明したArで表される4価の有機基と同じである。
【0077】
本発明の高分子化合物において、式(VI)で表される構造単位の好ましい一態様は、A11及びA22が式(VII)で表される基である構造単位である。Ar33の具体例としては、前述のArで表される4価の有機基として例示された基が挙げられる。Ar33で表される4価の有機基としては、中でも、キノイド構造を有する基であることが好ましい。
【0078】
本発明の高分子化合物は、下記式(I)で表される構造単位をさらに含んでいてもよい。
【0079】
【化22】

【0080】
本発明の高分子化合物のポリスチレン換算の数平均分子量は、10〜10であることが好ましい。式(VI)で表される構造単位を有する高分子化合物は、主鎖に式(VI)で表される構造単位を有する高分子化合物であることが好ましい。
【0081】
(光電変換素子)
本発明の製造方法で製造された高分子化合物は、光電変換素子用の活性層の材料として有用である。本発明の光電変換素子は、陽極と、陰極と、陽極と陰極との間に設けられる活性層とを有し、活性層中に電子供与性化合物と電子受容性化合物とを有し、電子供与性化合物と電子受容性化合物とのうちの少なくとも一方が、式(VI)で表される繰り返し単位を含む。
【0082】
本発明の光電変換素子において、式(VI)で表される構造単位の好ましい態様は、A11及びA22が=C(CN)で表される基である構造単位、並びにA11及びA22が式(VII)で表される基である構造単位である。
【0083】
光電変換素子を構成する、陽極、活性層、活性層を構成する電子供与性化合物及び電子受容性化合物、陰極、及び必要に応じて形成される他の構成要素について、以下に詳しく説明する。
【0084】
(光電変換素子の基本的形態)
光電変換素子の基本的形態としては、少なくとも一方が透明又は半透明である一対の電極と、電子供与性化合物(p型の有機半導体)と電子受容性化合物(n型の有機半導体など)との有機組成物から形成されるバルクへテロ型活性層もしくはp/n積層型活性層を有する。
【0085】
(光電変換素子の基本動作)
透明又は半透明の電極から入射した光エネルギーが電子受容性化合物及び/又は電子供与性化合物で吸収され、電子と正孔とがクーロン結合してなる励起子を生成する。生成した励起子が移動して、電子受容性化合物と電子供与性化合物が隣接しているヘテロ接合界面に達すると、界面でのそれぞれの最高占有分子軌道(HOMO)エネルギー及び最低空分子軌道(LUMO)エネルギーの違いにより電子と正孔とが分離し、独立に動くことができる電荷(電子及び正孔)が発生する。
【0086】
発生した電子及び正孔は、それぞれ電極へ移動することにより外部へ電気エネルギー(電流)として取り出すことができる。
【0087】
本発明の製造方法で製造された高分子化合物を用いた光電変換素子では、長波長域に吸収を持ち広範囲の波長を光電変換できるため、光電変換効率が高くなる。
【0088】
(基板)
光電変換素子は、通常、基板上に形成される。この基板は、電極を形成し、有機物の層を形成する際に化学的に変化しないものであればよい。基板の材料としては、例えば、ガラス、プラスチック、高分子フィルム、シリコン等が挙げられる。不透明な基板の場合には、反対の電極(即ち、基板から遠い方の電極)が透明又は半透明であることが好ましい。
【0089】
(電極)
透明又は半透明の電極材料としては、導電性の金属酸化物膜、半透明の金属薄膜等が挙げられる。具体的には、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、及びそれらの複合体であるインジウム・スズ・オキサイド(ITO)、インジウム・亜鉛・オキサイド(IZO)、NESA等の導電性材料を用いて形成された膜、金、白金、銀、銅等を用いて形成された膜が用いられ、ITO、IZO、酸化スズを用いて形成された膜が好ましい。電極の形成方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、メッキ法等が挙げられる。また、電極材料として、ポリアニリン及びその誘導体、ポリチオフェン及びその誘導体等の有機の透明導電膜を用いてもよい。透明又は半透明の電極は、陽極であっても陰極であってもよい。
【0090】
他方の電極は透明でなくてもよく、透明ではない電極の電極材料としては、金属、導電性高分子等を用いることができる。電極材料の具体例としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、アルミニウム、スカンジウム、バナジウム、亜鉛、イットリウム、インジウム、セリウム、サマリウム、ユーロピウム、テルビウム、イッテルビウム等の金属、及びそれらのうち2つ以上の合金、又は、1種以上の金属と、金、銀、白金、銅、マンガン、チタン、コバルト、ニッケル、タングステン及び錫からなる群から選ばれる1種以上の金属との合金、グラファイト、グラファイト層間化合物、ポリアニリン及びその誘導体、ポリチオフェン及びその誘導体が挙げられる。合金としては、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、マグネシウム−アルミニウム合金、インジウム−銀合金、リチウム−アルミニウム合金、リチウム−マグネシウム合金、リチウム−インジウム合金、カルシウム−アルミニウム合金等が挙げられる。
【0091】
(バッファー層)
光電変換効率を向上させるための手段として活性層以外の付加的な中間層(電荷輸送層など)を使用してもよい。中間層に用いられる材料としては、フッ化リチウム等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属のハロゲン化物又は酸化物等が挙げられ、具体的にはフッ化リチウムが挙げられる。
また、酸化チタン等の無機半導体の微粒子、PEDOT(ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン))とPSS(ポリ(4−スチレンスルホネート))との混合物(PEDOT:PSS)などを中間層に用いられる材料として用いてもよい。
【0092】
(活性層)
光電変換素子に含まれる活性層は、電子供与性化合物若しくは電子受容性化合物の少なくとも一方として、式(VI)で表される構造単位を含む高分子化合物を含むことができる。なお、電子供与性化合物、電子受容性化合物は、これらの化合物のHOMOまたはLUMOのエネルギー準位から相対的に決定される。
【0093】
(電子供与性化合物)
電子供与性化合物は、低分子化合物であっても高分子化合物であってもよい。電子供与性化合物は、高分子化合物が好ましい。電子供与性化合物としては、例えば、ピラゾリン誘導体、アリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、トリフェニルジアミン誘導体、オリゴチオフェン及びその誘導体、ポリビニルカルバゾール及びその誘導体、ポリシラン及びその誘導体、側鎖又は主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体、ポリアニリン及びその誘導体、ポリチオフェン及びその誘導体、チオフェンを部分骨格として持つ高分子化合物、ポリピロール及びその誘導体、ポリフェニレンビニレン及びその誘導体、ポリチエニレンビニレン及びその誘導体が挙げられる。
【0094】
電子供与性化合物としては、置換基を有していてもよいポリチオフェン(ポリチオフェン及びその誘導体)、チオフェンの2量体〜5量体を含む構造又はチオフェンの誘導体の2量体〜5量体を含む構造を有する高分子化合物、およびチオフェンを部分骨格として持つ高分子化合物が好ましく、ポリチオフェン及びその誘導体がより好ましい。ここで、ポリチオフェン誘導体とは、置換基を有するチオフェンジイル基を有する高分子化合物である。
【0095】
ポリチオフェン及びその誘導体としては、ホモポリマーであることが好ましい。ホモポリマーとは、チオフェンジイル基及び置換基を有するチオフェンジイル基からなる群から選ばれる基のみが複数個結合してなるポリマーである。チオフェンジイル基としては、チオフェン−2,5−ジイル基が好ましく、置換基を有するチオフェンジイル基としては、アルキルチオフェン−2、5−ジイル基が好ましい。ホモポリマーであるポリチオフェン及びその誘導体の具体例としては、ポリ(3−ヘキシルチオフェン−2,5−ジイル)(P3HT)、ポリ(3−オクチルチオフェン−2,5−ジイル)、ポリ(3−ドデシルチオフェン−2,5−ジイル)、ポリ(3−オクタデシルチオフェン−2,5−ジイル)が挙げられる。ホモポリマーであるポリチオフェン及びその誘導体の中では、炭素原子数が6〜30のアルキル基で置換されたチオフェンジイル基からなるポリチオフェンホモポリマーが好ましい。
【0096】
チオフェンを部分骨格として持つ高分子化合物としては、下記式(2)で表される高分子化合物が挙げられる。式(2)中、nは繰り返しの数を表す。
【0097】
【化23】

【0098】
式(2)中、R71及びR72は、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。2個あるR71は、同一でも相異なってもよい。6個あるR72は、同一でも相異なってもよい。
【0099】
71、R72で表される置換基としては、炭素原子数が1〜20のアルコキシ基、炭素原子数が1〜20のアルキル基が好ましい。
【0100】
式(2)で表される高分子化合物は、R71がアルキル基であり、R72が水素原子である高分子化合物が好ましい。式(2)で表される高分子化合物の具体例としては、下記式(2−1)で表される高分子化合物が挙げられる。
【0101】
【化24】

【0102】
(電子受容性化合物)
電子受容性化合物としては、例えば、オキサジアゾール誘導体、アントラキノジメタン及びその誘導体、ベンゾキノン及びその誘導体、ナフトキノン及びその誘導体、アントラキノン及びその誘導体、テトラシアノアントラキノジメタン及びその誘導体、フルオレノン誘導体、ジフェニルジシアノエチレン及びその誘導体、ジフェノキノン誘導体、8−ヒドロキシキノリン及びその誘導体の金属錯体、ポリキノリン及びその誘導体、ポリキノキサリン及びその誘導体、ポリフルオレン及びその誘導体、C60フラーレン(ここで、C60とは炭素原子数が60であることを意味し、下付で付された数字は炭素原子数を表す。以下同じ。)等のフラーレン及びその誘導体、バソクプロイン等のフェナントレン誘導体、酸化チタンなどの金属酸化物、カーボンナノチューブが挙げられる。電子受容性化合物としては、好ましくは、ベンゾチアジアゾール構造を含む化合物、繰り返し単位にベンゾチアジアゾール構造を含む高分子化合物、キノキサリン構造を含む化合物、繰り返し単位にキノキサリン構造を含む高分子化合物、酸化チタン、カーボンナノチューブ、フラーレン、フラーレン誘導体であり、より好ましくは、フラーレン、フラーレン誘導体、ベンゾチアジアゾール構造を含む化合物、繰り返し単位にベンゾチアジアゾール構造を含む高分子化合物、キノキサリン構造を含む化合物、繰り返し単位にキノキサリン構造を含む高分子化合物であり、さらに好ましくは、ベンゾチアジアゾール構造を含む化合物、繰り返し単位にベンゾチアジアゾール構造を含む高分子化合物、キノキサリン構造を含む化合物、繰り返し単位にキノキサリン構造を含む高分子化合物であり、特に好ましくは、繰り返し単位にベンゾチアジアゾール構造を含む高分子化合物、繰り返し単位にキノキサリン構造を含む高分子化合物である。
n型半導体としては、フラーレンおよびフラーレン誘導体が好ましい。ここでフラーレン誘導体とは、フラーレンの少なくとも一部が修飾された化合物である。
【0103】
繰り返し単位にベンゾチアジアゾール構造を含む高分子化合物の例としては、下記式(2)で表される高分子化合物が挙げられる。式(2)中、nは繰り返しの数を表す。
【0104】
【化25】

【0105】
式(2)中、R71及びR72は、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。2個あるR71は、同一でも相異なってもよい。6個あるR72は、同一でも相異なってもよい。
【0106】
71、R72で表される置換基としては、炭素原子数が1〜20のアルコキシ基、炭素原子数が1〜20のアルキル基が好ましい。
【0107】
式(2)で表される高分子化合物は、R71がアルキル基であり、R72が水素原子である高分子化合物が好ましい。式(2)で表される高分子化合物の具体例としては、下記式(2−1)で表される高分子化合物が挙げられる。
【0108】
【化26】

【0109】
フラーレンの例としては、C60フラーレン、C70フラーレン、C76フラーレン、C78フラーレン、C84フラーレンが挙げられる。
フラーレン誘導体としては、C60フラーレンの誘導体、C70フラーレンの誘導体、C76フラーレンの誘導体、C78フラーレンの誘導体、C84フラーレンの誘導体が挙げられる。
【0110】
60フラーレンの誘導体の具体例としては、以下の化合物が挙げられる。
【0111】
【化27】

【0112】
70フラーレンの誘導体の具体例としては、以下の化合物が挙げられる。
【0113】
【化28】

【0114】
また、フラーレン誘導体の例としては、[6,6]フェニル−C61酪酸メチルエステル(C60PCBM、[6,6]-Phenyl C61 butyric acid methyl ester)、[6,6]フェニル−C71酪酸メチルエステル(C70PCBM、[6,6]-Phenyl C71 butyric acid methyl ester)、[6,6]フェニル−C85酪酸メチルエステル(C84PCBM、[6,6]-Phenyl C85 butyric acid methyl ester)、[6,6]チエニル−C61酪酸メチルエステル([6,6]-Thienyl C61 butyric acid methyl ester)が挙げられる。
【0115】
活性層において、電子供与性化合物に対する電子受容性化合物の使用割合は、電子供与性化合物100重量部に対して、10重量部〜1000重量部であることが好ましく、20重量部〜500重量部であることがより好ましい。
【0116】
活性層の厚さは、通常、1nm〜100μmが好ましく、より好ましくは2nm〜1000nmであり、さらに好ましくは5nm〜500nmであり、特に好ましくは20nm〜200nmである。
【0117】
本発明の光電変換素子の好ましい一態様は、活性層にフラーレン誘導体を含む光電変換素子である。
【0118】
本発明の光電変換素子の他の好ましい態様は、電子供与性化合物と電子受容性化合物とが、ともに高分子化合物である光電変換素子である。
電子供与性化合物が、置換基を有していてもよいポリチオフェンであってもよい。
電子受容性化合物が、ベンゾチアジアゾール構造、又は、キノキサリン構造を有する高分子化合物であってもよい。
【0119】
(その他の成分)
活性層には、種々の機能を発現させるために、必要に応じて他の成分を含有させてもよい。活性層が含有していてもよい他の成分としては、例えば、紫外線吸収剤、酸化防止剤、吸収した光により電荷を発生させる機能を増感するためのため増感剤、紫外線からの安定性を増すための光安定剤が挙げられる。
【0120】
活性層を構成する電子供与性化合物及び電子受容性化合物以外の成分は、電子供与性化合物及び電子受容性化合物の合計量100重量部に対し、それぞれ5重量部以下、特に、0.01重量部〜3重量部の割合で配合するのが効果的である。
【0121】
また、活性層は、機械的特性を高めるため、電子供与性化合物及び電子受容性化合物以外の高分子化合物を高分子バインダーとして含んでいてもよい。高分子バインダーとしては、電子輸送性又はホール輸送性を阻害しないものが好ましく、また可視光に対する吸収が強くないものが好ましく用いられる。高分子バインダーとしては、ポリ(N-ビニルカルバゾール)、ポリアニリン及びその誘導体、ポリチオフェン及びその誘導体、ポリ(p-フェニレンビニレン)及びその誘導体、ポリ(2,5-チエニレンビニレン)及びその誘導体、ポリカーポネート、ポリアクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリシロキサン等が挙げられる。
【0122】
(活性層の製造方法)
光電変換素子が有する活性層は、バルクへテロ型の場合、上記電子供与性化合物、電子受容性化合物、及び必要に応じて配合される他の成分を含む溶液を塗布成膜することにより形成することができる。活性層は、例えば、該溶液を陽極又は陰極上に塗布し、活性層を形成することができる。その後、活性層上に他の電極を形成し、光電変換素子を製造することができる。
【0123】
溶液からの成膜に用いる溶媒は、上述の電子供与性化合物及び電子受容性化合物を溶解させるものであれば、特に制限はない。溶媒としては、複数種類の溶媒を混合して用いてもよい。かかる溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、メシチレン、テトラリン、デカリン、ビシクロヘキシル、ブチルベンゼン、sec−ブチルベンゼン、tert−ブチルベンゼン等の不飽和炭化水素溶媒、四塩化炭素、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、ジクロロプロパン、クロロブタン、ブロモブタン、クロロペンタン、ブロモペンタン、クロロヘキサン、ブロモヘキサン、クロロシクロヘキサン、ブロモシクロヘキサン等のハロゲン化飽和炭化水素溶媒、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン等のハロゲン化不飽和炭化水素溶媒、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン等のエーテル溶媒等が挙げられる。活性層を構成する有機材料は、通常、上述した溶媒に0.1重量%以上溶解させることができる。
【0124】
成膜には、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェット印刷法、ディスペンサー印刷法、ノズルコート法、キャピラリーコート法等の塗布法を用いることができ、スピンコート法、フレキソ印刷法、グラビア印刷法、インクジェット印刷法、ディスペンサー印刷法が好ましい。
【0125】
(素子の用途)
光電変換素子は、透明又は半透明の電極から太陽光等の光を入射させることにより、電極間に光起電力を発生させ、有機薄膜太陽電池として動作させることができる。有機薄膜太陽電池を複数集積することにより有機薄膜太陽電池モジュールとして用いることもできる。
【0126】
また、電極間に電圧を印加した状態、あるいは無印加の状態で、透明又は半透明の電極から光を入射させることにより、光電流が流れ、有機光センサーとして動作させることができる。有機光センサーを複数集積することにより有機イメージセンサーとして用いることもできる。
【0127】
(太陽電池モジュール)
有機薄膜太陽電池は、従来の太陽電池モジュールと基本的には同様のモジュール構造をとりうる。太陽電池モジュールは、一般的には金属、セラミック等の支持基板の上にセルが構成され、その上を充填樹脂、保護ガラス等で覆い、支持基板の反対側から光を入射させる構造をとるが、支持基板に強化ガラス等の透明材料を用い、その上にセルを構成してその透明の支持基板側から光を入射させる構造とすることも可能である。太陽電池モジュールの構造として、具体的には、スーパーストレートタイプ、サブストレートタイプ、ポッティングタイプと呼ばれるモジュール構造、アモルファスシリコン太陽電池などで用いられる基板一体型モジュール構造等が知られている。有機光電変換素子を適用した有機薄膜太陽電池においても、使用目的、使用場所及び環境により、適宜これらのモジュール構造を選択できる。
【0128】
代表的なスーパーストレートタイプあるいはサブストレートタイプのモジュールは、片側又は両側が透明で反射防止処理を施された支持基板の間に一定間隔にセルが配置され、隣り合うセル同士が金属リード又はフレキシブル配線等によって接続され、外縁部に集電電極が配置されており、発生した電力を外部に取り出す構造となっている。基板とセルとの間には、セルの保護、集電効率向上のため、目的に応じエチレンビニルアセテート(EVA)等様々な種類のプラスチック材料をフィルム又は充填樹脂の形で用いてもよい。また、外部からの衝撃が少ないところなど表面を硬い素材で覆う必要のない場所において使用する場合には、表面保護層を透明プラスチックフィルムで構成し、又は上記充填樹脂を硬化させることによって保護機能を付与し、片側の支持基板をなくすことができる。支持基板の周囲は、内部の密封及びモジュールの剛性を確保するため金属製のフレームでサンドイッチ状に固定し、支持基板とフレームの間は封止材料で密封シールする。また、セル自体、支持基板、充填材料及び封止材料に可撓性の素材を用いれば、曲面の上に太陽電池を構成することもできる。
【0129】
ポリマーフィルム等のフレキシブル支持体を用いた太陽電池の場合、ロール状の支持体を送り出しながら順次セルを形成し、所望のサイズに切断した後、周縁部をフレキシブルで防湿性のある素材でシールすることにより太陽電池本体を作製できる。また、Solar Energy Materials and Solar Cells, 48,p383-391記載の「SCAF」とよばれるモジュール構造とすることもできる。更に、フレキシブル支持体を用いた太陽電池は曲面ガラス等に接着固定して使用することもできる。
【実施例】
【0130】
以下、本発明の実施例を説明する。以下に示す実施例は、本発明を説明するための好適な例示であり、本発明を限定するものではない。
【0131】
合成例1
(高分子化合物P1(ポリ(3−ヘキシル-チエニレンエチニレン)の合成)
モノマーである2−ブロモ−5−エチニル−3−ヘキシルチオフェンの合成は、H. Higuchi、T. Ishikura、K. Mori、Y. Takayama、K. Yamamoto、K. Tani、K. Miyabayashi、M. Miyake、Bull. Chem. Soc. Jpn.、2001年、第74巻、p.889に記載の方法で行った。薗頭反応を用いた高分子化合物の合成、及び、アクセプター分子の高分子化合物への付加反応を以下に示す。
【0132】
容量50mLのナシ型フラスコに2−ブロモ−5−エチニル−3−ヘキシルチオフェンを0.53g(2.0mmol)仕込み、ジイソプロピルアミンとテトラヒドロフラン(THF)とを1:1(容積比)で混合した混合溶液24mLに溶解させた。フラスコ内に30分間アルゴンガスを通して脱気した後、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム30mg(0.026mmol)とヨウ化銅(I)4.9mg(0.0026mmol)とを不活性雰囲気下でフラスコ内に加えた。反応溶液を70℃に加熱して24時間攪拌した。反応溶液を室温(25℃)に冷却し、冷却したメタノールに注いで沈澱を生じさせ、高分子化合物P1を0.25g得た。高分子化合物P1の収率は47%であった。ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)は2000であり、ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)/Mn、すなわち分子量分布は1.6であった。
【0133】
【化29】

【0134】
1H NMR (300 MHz, CDCl3): 0.90 (s, 3n H), 1.30-1.58 (m, 8n H), 2.53-2.69 (br s, 2n H), 6.91 (s, n H) ppm。
IR (KBr): 2969, 2920, 2849, 2182, 1734, 1435, 1254, 1102, 1021, 800, 662 cm-1
【0135】
実施例1
(高分子化合物P2の合成)
容量20mLのナシ型フラスコに、高分子化合物P1を20mg(繰り返し単位の量は0.091mmol)とテトラシアノエチレン(TCNE)を11.6mg(0.0910mmol)加え、1,2−ジクロロベンゼン3mLに溶解させた。その後、マイクロ波合成装置(商品名Discover、アステック株式会社製)を用いて33Wのマイクロ波を照射しながら100℃で4時間反応させた。反応終了後、溶媒及び未反応のTCNEを減圧除去し、高分子化合物P2を24mg得た。高分子化合物P2の収率は35%であった。Mnは2000であり、Mw/Mnは1.7であった。
【0136】
【化30】

【0137】
1H NMR (300 MHz, CDCl3): 0.82 (s, 3n H), 1.19-1.24 (m, 8n H), 2.45 (s, 2n H), 6.85-7.61 (m, n H) ppm。
IR (KBr): 2954, 2926, 2854, 2220, 1601, 1496, 1456, 1440, 1392, 1169, 1121, 850, 722, 539 cm-1
元素分析: (C18H14N4S)n
高分子化合物P1が有する全てのエチニレン基がTCNEと反応した場合の計算値(%): C 67.90, H 4.43, N 17.60; 測定値(%): C 52.66, H 4.69, N 6.89。
【0138】
実施例2
(高分子化合物P3の合成)
容量20mLのナシ型フラスコに、高分子化合物P1を21.1mg(繰り返し単位の量は0.0960mmol)とテトラシアノキノジメタン(TCNQ)を19.6mg(0.096mmol)加え、1,2−ジクロロベンゼン3mLに溶解させた。その後、マイクロ波合成装置(商品名Discover、アステック株式会社製)を用いて33Wのマイクロ波を照射しながら100℃で4時間反応させた。反応終了後、反応溶液を冷却したメタノールに注ぎ、高分子化合物を沈澱させた。ろ過により高分子化合物を回収後、減圧乾燥し、高分子化合物P3を24.9mg得た。高分子化合物P3の収率は19%であった。Mnは1900であり、Mw/Mnは1.6であった。
【0139】
【化31】

【0140】
1H NMR (300 MHz, CDCl3): 0.81 (s, 3n H), 1.23-1.49 (m, 8n H), 2.46 (s, 2n H), 6.89-7.59 (m, (1+4x)n H), 7.99 ppm。
IR (KBr): 2954, 2924, 2853, 2201, 1728, 1576, 1504, 1257, 1185, 1097, 1017 cm-1
元素分析: (C24H18N4S)n
高分子化合物P2が有する全てのエチニレン基がTCNQと反応した場合の計算値(%): C 73.07, H 4.60, N 14.20; 測定値(%): C 60.20, H 5.18, N 5.21。
【0141】
比較例1
(高分子化合物P2の合成)
マイクロ波の照射を行わずに100℃で加熱した以外は実施例1と同様にして、反応を実施した。高分子化合物P2の収率は、9%であった。
【0142】
比較例2
(高分子化合物P3の合成)
マイクロ波の照射を行わずに100℃で加熱した以外は、実施例2と同様に反応を実施した。反応は全く進行せず、高分子化合物P3を得られなかった。
【0143】
実施例3
(有機薄膜太陽電池の作製、評価)
スパッタ法により150nmの厚さでITO膜が形成されたガラス基板をオゾンUV処理して表面処理を行った。ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(Poly(3,4-ethylenedioxythiophene))とポリ(4−スチレンスルホネート)(poly(4-styrenesulfonate))との混合物(PEDOT:PSS)(H.C.Starck社製、AI4093)を、約60nmの厚さになるようにITO膜上にスピンコート法により塗布成膜し、大気中、200℃のホットプレート上にて10分間加熱して、PEDOT:PSS層を形成した。
【0144】
次に、高分子化合物P2を含むオルトジクロロベンゼン溶液を、PEDOT:PSS層上にスピンコート法により塗布成膜して、活性層を形成した。活性層の厚さは約20nmであった。
その後、真空蒸着機を用いて、活性層上にC60フラーレンを20nmの厚さで蒸着し、次いで、フッ化リチウムを4nmの厚さで蒸着し、さらに、アルミニウム(Al)を100nmの厚さで蒸着して、有機薄膜太陽電池を作製した。
【0145】
得られた有機薄膜太陽電池の形状は、2mm×2mmの正方形であった。得られた有機薄膜太陽電池に、IPCE測定装置(分光計器製、商品名:CEP-2000型分光感度測定装置)を用いて波長が300〜1200nmの光を照射し、波長ごとの分光感度を測定した。その結果、波長750nmの光を照射した場合に分光感度が認められ、発電していることが確認された。
活性層の吸収度は、波長750nmにおいて0.024であった。
【0146】
測定例1
(薄膜の作製、評価)
高分子化合物P2の薄膜をガラス基板上に形成し、高分子化合物P2の薄膜の吸収スペクトルを、紫外可視近赤外分光光度計(日本分光株式会社、商品名:Jasco V−670)を用いて測定した。その結果、高分子化合物P2の薄膜の吸収スペクトルは、490nmの波長において、最も低エネルギー側の極大値を示した。
【0147】
実施例4
(有機薄膜太陽電池の作製、評価)
高分子化合物P2の代わりに高分子化合物P3を用いた以外は実施例3と同様にして、有機薄膜太陽電池を作製し、評価した。その結果、波長750nmの光を照射した場合に分光感度が認められ、発電していることが確認された。
活性層の吸収度は、波長750nmにおいて0.023であった。
【0148】
測定例2
(薄膜の作製、評価)
高分子化合物P3の薄膜をガラス基板上に形成し、高分子化合物P3の薄膜の吸収スペクトルを、紫外可視近赤外分光光度計(日本分光株式会社、商品名:Jasco V−670)を用いて測定した。その結果、高分子化合物P3の薄膜の吸収スペクトルは、745nmの波長において、最も低エネルギー側の極大値を示した。
【0149】
比較例3
(有機薄膜太陽電池の作製、評価)
高分子化合物P2の代わりに高分子化合物P1を用いた以外は実施例3と同様にして、有機薄膜太陽電池を作製し、評価した。その結果、波長750nmの光を照射した場合には分光感度が認められなかった。
活性層の吸収度は、波長750nmにおいて0.014であった。
【0150】
測定例3
(薄膜の作製、評価)
高分子化合物P1の薄膜をガラス基板上に形成し、高分子化合物P1の薄膜の吸収スペクトルを、紫外可視近赤外分光光度計(日本分光株式会社、商品名:Jasco V−670)を用いて測定した。その結果、高分子化合物P1の薄膜の吸収スペクトルは、385nmの波長において、最も低エネルギー側の極大値を示した。
【0151】
実施例5
(有機薄膜太陽電池の作製、評価)
スパッタ法により150nmの厚さでITO膜が形成されたガラス基板をオゾンUV処理して表面処理を行った。ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(Poly(3,4-ethylenedioxythiophene))とポリ(4−スチレンスルホネート)(poly(4-styrenesulfonate))との混合物(PEDOT:PSS)(H.C.Starck社製、AI4093)を約60nmの厚さとなるようにITO膜上にスピンコート法により塗布成膜し、大気中、200℃のホットプレート上にて10分間加熱して、PEDOT:PSS層を形成した。
【0152】
次に、高分子化合物P2及びフラーレン誘導体である[6,6]フェニル−C61酪酸メチルエステル(C60PCBM)(phenyl C61-butyric acid methyl ester、フロンティアカーボン社製)を含むオルトジクロロベンゼン溶液を調製した。C60PCBMに対する高分子化合物P2の重量比は、1/3であった。C60PCBMの重量と高分子化合物P2の重量との合計は、オルトジクロロベンゼン溶液の重量に対して2重量%であった。
【0153】
オルトジクロロベンゼン溶液を、PEDOT:PSS層上にスピンコート法により塗布成膜して活性層を形成した。活性層の厚さは約100nmであった。その後、真空蒸着機により活性層上にフッ化リチウムを4nmの厚さで蒸着し、次いでAlを70nmの厚さで蒸着して、有機薄膜太陽電池を作製した。
【0154】
得られた有機薄膜太陽電池の形状は、2mm×2mmの正方形であった。得られた有機薄膜太陽電池にソーラシミュレーター(分光計器株式会社、商品名:CEP-2000型分光感度測定装置、AM1.5Gフィルター、放射照度100mW/cm2)を用いて一定の光を照射したところ、発電していることが確認された。
【0155】
実施例6
(有機薄膜太陽電池の作製、評価)
高分子化合物P2の代わりに高分子化合物P3を用いた以外は実施例5と同様にして、有機薄膜太陽電池を作製し、評価した。得られた有機薄膜太陽電池にソーラシミュレーター(分光計器株式会社、商品名CEP-2000型分光感度測定装置、AM1.5Gフィルター、放射照度100mW/cm2)を用いて一定の光を照射したところ、発電していることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表される構造単位を有する高分子化合物と、下記式(II)で表される化合物又は下記式(III)で表される化合物とを、マイクロ波照射下で反応させて、下記式(IV)で表される構造単位を有する高分子化合物を製造する、高分子化合物の製造方法。
【化1】

【化2】

【化3】

(式(III)中、Arは、4価の有機基を表す。)
【化4】

(式(IV)中、A及びAは、それぞれ独立に、=C(CN)で表される基又は下記式(V)で表される基を表す。)
【化5】

(式(V)中、Arは、4価の有機基を表す。)
【請求項2】
式(I)で表される構造単位を有する高分子化合物が、主鎖に式(I)で表される構造単位を有する高分子化合物であり、式(IV)で表される構造単位を有する高分子化合物が、主鎖に式(IV)で表される構造単位を有する高分子化合物である、請求項1に記載の高分子化合物の製造方法。
【請求項3】
式(I)で表される構造単位を有する高分子化合物が、更に、アリーレン基、2価の複素環基、ビニレン基及び金属原子を含む2価の基からなる群から選ばれる1種以上の基を有する高分子化合物である、請求項1又は2に記載の高分子化合物の製造方法。
【請求項4】
式(I)で表される構造単位を有する高分子化合物が、下記式(I−2)で表される構造単位を有する高分子化合物であり、式(IV)で表される構造単位を有する高分子化合物が下記式(IV−2)で表される構造単位を有する高分子化合物である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の高分子化合物の製造方法。
【化6】

(式(I−2)中、Ar及びArは、それぞれ独立に、アリーレン基、2価の複素環基、ビニレン基又は金属原子を含む2価の基を表す。式(IV−2)中、Ar及びArは、それぞれ独立に、アリーレン基、2価の複素環基、ビニレン基又は金属原子を含む2価の基を表す。A及びAは、A及びAと同じ意味を表す。)
【請求項5】
Arがキノイド構造を有する基である、請求項1に記載の高分子化合物の製造方法。
【請求項6】
下記式(VI)で表される構造単位を含む高分子化合物。
【化7】

(式(VI)中、Ar及びArは、それぞれ独立に、2価の複素環基を表す。A11及びA22は、それぞれ独立に、=C(CN)で表される基又は下記式(VII)で表される基を表す。)
【化8】

(式(VII)中、Ar33は、4価の有機基を表す。)
【請求項7】
下記式(I)で表される構造単位をさらに含む、請求項6に記載の高分子化合物。
【化9】

【請求項8】
Ar及びArが、チオフェンジイル基である、請求項6又は7に記載の高分子化合物。
【請求項9】
Ar33が、キノイド構造を有する基である、請求項6〜8のいずれか一項に記載の高分子化合物。
【請求項10】
ポリスチレン換算の数平均分子量が、10〜10である、請求項6〜9のいずれか一項に記載の高分子化合物。
【請求項11】
陽極と、陰極と、陽極と陰極との間に設けられる活性層とを有し、活性層中に電子供与性化合物と電子受容性化合物とを有し、電子供与性化合物と電子受容性化合物とのうちの少なくとも一方が、請求項6〜10のいずれか一項に記載の高分子化合物である光電変換素子。
【請求項12】
請求項11に記載の光電変換素子を含む太陽電池モジュール。
【請求項13】
請求項11に記載の光電変換素子を含むイメージセンサー。

【公開番号】特開2012−21150(P2012−21150A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−133452(P2011−133452)
【出願日】平成23年6月15日(2011.6.15)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、独立行政法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業個人型研究(さきがけ)、「クリック型反応による有機光電子機能材料の創製」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】