説明

高分子化合物を含有する組成物、画像形成方法及び装置

【課題】色材が分散ポリマー中の架橋された疎水性ブロックセグメントによって内包された分散体により、分散性および堅牢性が向上し、分散安定性、再溶解性の優れたインク組成物を提供する。
【解決手段】色材を内包した両親媒性ブロックポリマー化合物と、溶媒とを含有するインク組成物において、色材を内包した両親媒性ブロックポリマー化合物が疎水性ブロックセグメントを内部のコア部とする分散体を形成しており、該疎水性ブロックセグメントが架橋されていることを特徴とするインク組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブロックポリマー化合物を含有する、例えば、各種インクジェットインクとして有用な組成物、および画像形成方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、デジタル印刷技術は非常な勢いで進歩している。このデジタル印刷技術は、電子写真技術、インクジェット技術と言われるものがその代表例であるが、近年オフィス、家庭等における画像形成技術としてその存在感をますます高めてきている。
【0003】
インクジェット技術はその中でも直接記録方法として、コンパクト、低消費電力という大きな特徴がある。また、ノズルの微細化等により急速に高画質化が進んでいる。インクジェット技術の一例は、インクタンクから供給されたインクをノズル中のヒーターで加熱することで蒸発発泡し、インクを吐出させて記録媒体に画像を形成させるという方法である。他の例はピエゾ素子を振動させることでノズルからインクを吐出させる方法である。
【0004】
これらの方法に使用されるインクは通常染料水溶液が用いられるため、色の重ね合わせ時ににじみが生じたり、記録媒体上の記録箇所に紙の繊維方向にフェザリングと言われる現象が現れたりする場合があった。これらを改善するために、顔料分散インクを使用することが検討されており(特許文献1参照)、現在は実際に顔料インクを用いたインクジェットインクも普及している。
【0005】
インクジェット記録用インクや筆記具用インク等の着色剤として、優れた耐水性や耐光性等の堅牢性のため、顔料が多数利用されている。顔料は水への溶解性がないため、インク組成物に使用する際には顔料を水中に微粒子で安定に分散することが重要である。顔料を着色剤とするインク組成物は一般に、顔料を水に濡れやすくし、顔料の沈降を防止する等の観点から、顔料と液媒体と分散剤からなる混合物を分散機等で分散処理を行って顔料分散液を調製し、該顔料分散液に必要に応じて各種添加剤を添加して製造している。このように、インク組成物を製造するに際して、顔料は、顔料分散液の状態として用いられることが多く、特にインク組成物とした際の特性に影響を与えることから、顔料分散液に関する種々の技術が開発されている。
【0006】
しかしながら、有機顔料やカーボンブラックを顔料インクとして用いた場合、顔料が非常に細かく分散安定化されていないと、インクとして高精細度と高度な演色性を得られない。さらに、顔料の分散安定性が優れていないとノズル詰まりを起こしやすくなる場合がある。そのため、インクジェット記録方式の中でも、特にサーマル方式は高速・高画質の印刷物が得られる反面、インクの一部に熱がかかるために分散安定性、再溶解性の優れたインクであることが好ましい。
【0007】
それに加えて、これまでの顔料分散液では、インク組成物として調製した際に、それによって形成されるカラー画像の光沢性、ブロンズ防止、及びインク組成物の保存安定性の同時成立を実現できていない。すなわち、これまでの顔料分散液を調製して得られるインク組成物では、カラー画像の光沢性が十分ではない。また、吐出された顔料の粒度分布により、見る角度によって記録表面がブロンズ色に呈色する、いわゆるブロンズ化と呼ばれる現象が発生して高画質が実現できず、さらに、インク組成物の保存安定性も十分ではなかった。
【0008】
そこで、近年、特許文献2に記されているように顔料の周りを架橋性樹脂で架橋することにより、物理的に分散安定性を高める方法も用いられてきている。
【特許文献1】米国特許第5085698号明細書
【特許文献2】特開2004−27156号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
この分散樹脂の架橋化は、顔料への分散樹脂の固定およびメディア上での堅牢性、光沢性の向上を目的としてなされているものであるが、一方で、粘度の上昇や目詰まりによる吐出不良といった現象を起こすもととなっていた。図6は、上記文献2で生じていると思われる架橋構成を示すモデル図である。図6では、顔料1が分散樹脂2によって包摂された分散体同士が架橋結合部3によって結合した様子を示している。図6では、架橋されて結合した分散体は二つであったが、この分散体同士の架橋結合が多数に及ぶ場合には、粗大粒子を形成し、上記現象を引き起こすものと考えられる。
【0010】
そこで、従来は、この背反する性能を使いこなすには、いずれの性能も妥協するバランスで用いるか、もしくは、ろ過等の方法で精製して用いるといった方法がとられていたため、架橋による十分な効果が得られなかったり、性能のばらつきが見受けられた。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、光沢性および堅牢性に優れるとともに、優れた分散安定性を兼ね備えた組成物を提供することを目的とする。
また、本発明は、インク組成物を用いた画像形成方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そして、本発明者らは、これらの事態に鑑み、まったく新しいアプローチで分散樹脂の架橋を使いこなすことを考えた。すなわち、分散樹脂として両親媒ブロックポリマー分散体を用いることにより、疎水性物質である色材の周りに立体障害を形成するとともに、この立体障害の内側の部分のみで架橋が行われる系を見出したのである。
【0013】
すなわち、本発明は、疎水ブロックセグメントと親水ブロックセグメントとを備えるブロックポリマー化合物と、該ブロックポリマー化合物により内包された疎水性物質と、水性溶媒と、を有し、前記ブロックポリマー化合物は、前記水性溶媒内で前記疎水ブロックセグメントが前記疎水性物質に吸着することによりミセルを形成している組成物であって、該ミセル内の疎水性ブロックセグメントのみが架橋されていることを特徴とする組成物である。
【0014】
また、本発明は、前記組成物がインク組成物であることを特徴とする組成物である。
また、本発明は前記のインク組成物がインクジェット用組成物である事を特徴とするインク組成物である。
【0015】
また、本発明は前記のインク組成物を媒体に付与することにより、画像を記録する工程を有することを特徴とする画像形成方法である。
また、本発明は前記のインク組成物を媒体に付与することにより、画像を記録させるための手段を有することを特徴とする画像形成装置である。
本発明者らは、この架橋形態をミセル内架橋と称し、従来の架橋形態と区別する。
本発明のようなミセル内架橋構造を採用することにより、実質的にミセル間の架橋は、ほぼ無視することができ、従来の架橋なしのミセル構造とほぼ同様の分子量、粘度で、架橋形態を達成することができるものである。
さらには、架橋形態をとっているため、従来の両親媒性ブロックポリマーに求められていた疎水部分の吸着性能もそれほど高めなくても用いることができる形態が期待できる。この場合には、ポリマーの疎水/親水バランスを従来と変えることもできるようになるため、吸着以外の性能を従来よりも向上させることもできる。
【発明の効果】
【0016】
以上のような本発明によれば、光沢性および堅牢性に優れるとともに、優れた分散安定性を兼ね備えた、組成物を提供することができる。
また、本発明は、上記のインク組成物を使用した画像形成方法および装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
以下、図面を用いて、本発明を詳細に説明する。
図1は、本発明の組成物を示す模式図であり、図2は図1のミセル構造の一例を示す模式図である。
【0018】
図1において、40は容器であり、この容器40内には水性溶媒30が入っているとともに該水性溶媒30中に分散体10が分散されている状態を示している。
分散体10は、疎水性物質14と分散樹脂200とからなっており、疎水性物質14の周りに疎水性物質14を内包するように分散樹脂200が配されることにより、水性溶媒30中で疎水性物質14が分散状態を保持しているものである。
【0019】
この分散体10をさらに詳しく説明するために、図3を用いて説明する。図3は分散樹脂として、両親媒性トリブロックポリマーを用いた例で示している。
図3において、14は疎水性物質である顔料、20は分散樹脂となる両親媒性ブロックポリマー化合物である。この両親媒性ブロックポリマー化合物20は、疎水ブロックセグメント21と、親水ブロックセグメント22と、を有している。また、親水ブロックセグメントは、非イオン性のブロックセグメント22aと、イオン性のブロックセグメント22bと、からなっている。水性溶媒中では、この両親媒性ブロックポリマー20は疎水ブロックセグメント21が内側となるように配向し、ミセル状態を形成している。そして、このミセルのコア部には、顔料14が両親媒性ブロックポリマー20に包摂されるように内包されており、疎水ブロックセグメント21が顔料14に吸着している。さらに疎水ブロックセグメント21には、架橋性置換基が設けられており(不図示)、この架橋性置換基が他の疎水ブロックセグメントの架橋性置換基と結合した架橋結合部15を有している。
【0020】
本発明では、この架橋結合部15が実質的に疎水ブロックセグメント21にのみ発現する構成となっており、この構成によりミセル内架橋構造を形成している。両親媒性ブロックポリマー20の疎水ブロックセグメント21のみに架橋性置換基を設けることにより、同一ミセル内のポリマー同士の架橋を許容するとともに、他のミセル同士の架橋は親水ブロックセグメント22が水性溶媒中で立体障害となり、その結合を阻害することとなる。
【0021】
したがって、本発明の構成においては、従来のデメリットであった、ミセル同士の結合から生じる粘度の増加や架橋状態のばらつきを防止するとともに、架橋結合によってもたらされるメリットである、分散樹脂の顔料への強固な固定が得られるものである。これにより、たとえば、強い衝撃を受けたり、サーマルインクジェットのように、その組成物が高熱雰囲気に晒されたりした場合であっても、その分散状態は良好なものとすることができ、また、各種吐出性能を良好なものとすることも可能である。
【0022】
さらに、この架橋結合によって、メディア上においても分散樹脂が脱離することもないため、従来に比べ顔料がメディア表面に露出する機会を大幅に低減し、光沢性や堅牢性の向上にも寄与すると考えられる。
【0023】
上述の例では、分散樹脂に内包される疎水性物質として、色材である顔料を挙げて説明したが、本発明はこれに限られることはない。そして、苛酷環境化における疎水性物質の確実な包摂によって効果が得られる場合や、ミセル内架橋により分散体の特性の向上を図れる場合であれば、いずれの疎水性物質も包含するものである。
【0024】
本発明のインク組成物に含まれるポリマー化合物は両親媒性ブロックポリマー化合物である。両親媒性とは親媒性と疎媒性の両方の性質を持つことを表しており、両親媒性ブロックポリマー化合物とは親媒性と疎媒性のブロックセグメントをそれぞれ少なくとも一つ以上有するポリマー化合物である。前記の親媒性とは、後述するポリマー含有組成物などで用いられる主たる溶媒に対して親和性が大きいという性質を表しており、疎媒性とは溶媒に対して親和性が小さい性質である。本発明のインク組成物の溶媒は水性溶媒であるため、本発明のブロックポリマー化合物中には親水性と疎水性のブロックセグメントをそれぞれ少なくとも一つ以上有するということになる。
【0025】
そして、本発明のブロックポリマー化合物は、重合性不飽和基からなる架橋性置換基を有しており、該架橋性置換基が前記疎水ブロックセグメントのみに設けられていることを特徴とするものである。
【0026】
本発明のミセルとは、親水性ブロックセグメント、疎水性ブロックセグメントを共に有する両親媒性ブロックポリマーを水性溶媒中に分散させることで得られるコア−シェル型のミセルの事を指す。
【0027】
このとき、本発明のミセル構造は、疎水性ブロックセグメントが内側、親水性ブロックセグメントが外側に向いた構造を示す。
なお、前記のように疎水部がコアであり、親水部がシェルとなるコア−シェル型ミセルは疎水性コアが親水性シェル部に覆われており、外部の溶媒環境へと内部の疎水性コアの影響が現れにくい構造である、と一般的に考えられているが、詳細は明らかではない。
【0028】
本発明のミセル構造は、疎水性物質を内包した分散体を形成するものであるが、この疎水性物質を内包した分散体は高分子ミクロスフィアであることが好ましい。高分子ミクロスフィアとは、高分子を分散剤として形成しているマイクロメートル、サブミクロン、ナノメートルオーダーの微粒子の総称であり、高分子のみで形成している高分子ミセルや、内部に不溶性または内側のコア部の高分子に可溶であるような機能物質等を含んでいる高分子分散体、高分子コロイドなどが挙げられる。
【0029】
また、疎水性物質が内包されていることを確認する手段のとしては、例えばブロックポリマーのブロックセグメントに温度によって溶媒への溶解性が変化するような構造を導入し、そのポリマーで色材を内包させて温度により分散状態の変化を調べる方法、またはインク組成物を電子顕微鏡観察することで、内包されている事が確認できる。
【0030】
疎水性ブロックセグメント部で架橋されることにより、内部の疎水性物質がミセル外部に流失しづらくなるという特徴がある。
また、疎水性ブロックセグメント中に架橋性官能基を有する両親媒性ブロックポリマーを分散剤として使用することで、疎水性物質に疎水性セグメントが吸着し、その周囲を親水性ブロックセグメントが覆う形となる。この親水性ブロックセグメントにより、架橋性官能基を架橋した場合にも分散体間の架橋を防ぐことができ、従来の分散体の架橋方法で生じていた、粗大粒子または粘度の増加という現象が起こりにくくなる点に、本発明の特徴がある。
【0031】
本発明の組成物に含まれる前記分散体の好ましい架橋構造としては、図4のような構造をあげることができる。
この構造は疎水性物質へ吸着する吸着部、その外側に架橋性官能基を有する架橋部、そして分散性を有する親水性ブロックセグメント、という機能分離構造である。この構造は、吸着部を架橋部のコア側に別途配することにより、吸着部の自由度が確保され、疎水性物質への吸着能を損なうことがなく、また、架橋部の運動性も良好で効率の良い架橋反応を行うことができるため、より好ましい構造であるといえる。
【0032】
このような構成はブロックポリマー化合物の構造を図5に示したような構成にすることにより達成することもできる。
また、本発明の分散樹脂であるブロックポリマー化合物の分散体間の架橋防止効果をより確保したい場合には、ブロックポリマー化合物中の疎水ブロックセグメント中の繰返し単位数が親水ブロックセグメント中の単位数よりも少ないようにすることは好ましいものである。
【0033】
本発明において、架橋されているとは、疎水性ブロックセグメント中に含まれている架橋性の置換基が架橋反応によって架橋結合していることを表す。架橋性を示す置換基としては、架橋剤と反応して架橋結合を形成しうる架橋性官能基、さらに架橋剤なしに架橋結合を形成しうる自己架橋性官能基とが挙げられる。
【0034】
架橋性官能基としては、例えば、カルボキシル基、水酸基、第3級アミノ基、ブロック化イソシアネート基、エポキシ基、1,3−ジオキソラン−2−オン−4−イル基などが挙げられる。これらの中で、カルボキシル基、水酸基、エポキシ基が反応性が高く、樹脂に導入し易いことから好ましい。
【0035】
次に、架橋性官能基と架橋剤との組み合わせの代表的なものの例を以下に掲げる。
架橋性官能基がカルボキシル基の場合、架橋剤としては、アミノ樹脂、1分子中にエポキシ基を2個以上有する化合物、1分子中に1,3−ジオキソラン−2−オン−4−イル基(シクロカーボネート基とも称する。)を2個以上有する化合物等が挙げられる。
【0036】
架橋性官能基が水酸基の場合、架橋剤としては、アミノ樹脂、ポリイソシアネート化合物、ブロック化ポリイソシアネート化合物等が挙げられる。
架橋性官能基が第3級アミノ基の場合、架橋剤としては、1分子中にエポキシ基を2個以上有する化合物、1分子中に1,3−ジオキソラン−2−オン−4−イル基を2個以上有する化合物等が挙げられる。
【0037】
架橋性官能基がブロック化イソシアネート基の場合、架橋剤としては、1分子中に水酸基を2個以上有する化合物等が挙げられる。
架橋性官能基がエポキシ基または1,3−ジオキソラン−2−オン−4−イル基の場合、架橋剤としては、1分子中にカルボキシル基を2個以上有する化合物、ポリアミン化合物、ポリメルカプト化合物等が挙げられる。
【0038】
自己架橋性官能基としては、例えば、ラジカル重合性不飽和基、加水分解性アルコキシシラン基などが挙げられる。自己架橋性を補強する目的でもって、ラジカル重合性不飽和基を2個以上有する化合物および加水分解性アルコキシシラン基を2個以上有する化合物を各々一部併用することもできる。
【0039】
加水分解性アルコシラン基としては、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン等が挙げられる。
【0040】
本発明のブロックポリマーの疎水性ブロックセグメントに含まれる架橋性の置換基は、疎水性ブロックセグメントの疎水性を阻害しないことが好ましい。具体的な置換基としてはイソシアネート、エポキシ、等の重合性不飽和基などが挙げられる。
【0041】
本発明のインク組成物に含まれるブロックポリマー化合物は、少なくとも一つのブロックセグメントが疎水性で、少なくとも一つのブロックセグメントが親水性である両親媒性ブロックポリマー化合物である。なお、親水性とは水に対する親和性が大きく水に溶解しやすい性質であり、疎水性とは水に対して親和性が小さく水に溶解しにくい性質である。
【0042】
例えば、親水性ブロックとしては、カルボン酸、カルボン酸塩、あるいは親水性オキシエチレンユニットを多く含む構造、さらにヒドロキシル基などを有する構造などの親水性ユニットを持つ繰り返し単位構造を含有するブロックセグメントが挙げられる。具体的な例でいえば、アクリル酸やメタクリル酸、あるいはその無機塩や有機塩などのカルボン酸塩、またポリエチレングリコールマクロモノマー、またはビニルアルコールや2−ヒドロキシエチルメタクリレートなどの親水性モノマーで表される繰り返し単位構造を有するブロックセグメントである。ただし、本発明のインク組成物に含まれるブロックポリマー化合物における親水性ブロックはこれらに限定されない。
【0043】
また、疎水性ブロックとしては、例えばイソブチル基、t−ブチル基、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基などの疎水性ユニットを持つ繰り返し単位構造を含有するブロックセグメントが挙げられる。具体的な例でいえば、スチレンやt−ブチルメタクリレートなどの疎水性モノマーを繰り返し単位として有するブロックセグメントであるが、本発明のインク組成物に含まれるブロックポリマー化合物における疎水性ブロックはこれらに限定されない。
【0044】
また、本発明のインク組成物に含まれる両親媒性ブロックポリマー化合物の好ましい形態について述べる。本発明の両親媒性ブロックポリマー化合物は2つ以上のブロックセグメントを有しており、主鎖構造がポリアルケニルエーテル構造であることが好ましい。ビニルエーテル繰り返し単位構造を有することで粘性が低く、分散性の良い高分子材料を提供できる点で極めて有用である。
【0045】
さらに好ましくは、1つ以上の親水性ブロックセグメント中に非イオン性親水基、およびイオン性親水基を含有する場合である。非イオン性親水ブロックセグメントを有することで、温度やpHなどの環境変化が起こっても分散安定性が損なわれず、特にサーマルインクジェット方式での吐出性能が優れたインク組成物が得られる。
【0046】
本発明のインク組成物に含まれる両親媒性ブロックポリマー化合物の各ブロックセグメントは、単一のモノマー由来の繰り返し単位からなるものでもよく、複数のモノマー由来の繰り返し単位を有する構造でもよい。複数のモノマー由来の繰り返し単位を有するブロックセグメントの例としては、ランダム共重合体や徐々に組成比が変化する傾斜型共重合体がある。また、本発明のブロックポリマー化合物は、上述のようなブロックポリマーが他のポリマーにグラフト結合したポリマーであっても良い。
【0047】
また、2つ以上のブロックセグメントを有することで2つ以上の機能を発揮することが可能である。このため、2つ以下のブロックセグメントからなる高分子化合物に比べより高次で精緻な構造体を形成することも可能である。また、複数のブロックセグメントに似た性質を保持させることにより、その性質をより安定なものとすることも可能である。
【0048】
すなわち、本発明のインク組成物に含まれるブロックポリマー化合物は、主鎖構造がポリアルケニルエーテル構造であり、3つ以上のブロックセグメントを有するブロックポリマーであることがより好ましく、3つ以上のブロックセグメントを有することでより多くの機能分離が可能となる。
【0049】
前記の本発明のインク組成物に含まれるブロックポリマー化合物の好ましい例として、異なる3つのブロックセグメントABCのうち、Aブロックに疎水性ブロックセグメント、Bブロックに非イオン性親水ブロックセグメント、Cブロックにイオン性親水ブロックセグメントというABC型トリブロックポリマーである両親媒性ブロックポリマー化合物を以下に説明する。
【0050】
Aブロックに該当する疎水性ブロックセグメントは、疎水性の架橋性置換基を有する繰り返し単位構造のみでも構わないが、より好ましくは架橋性置換基を有する繰り返し単位構造と、疎水性を示し架橋性置換基を有さない繰り返し単位構造の共重合体である。さらに好ましくは、架橋性置換基を有さない繰り返し単位構造は色材に対して強い相互作用を持つものである。上記の共重合体としては例えばランダム共重合体やブロック共重合体、さらに傾斜型共重合体などがある。
【0051】
本発明のインク組成物において、ブロックポリマー化合物の疎水性ブロックセグメント中に含有される架橋性置換基を有する繰り返し単位構造の含有量は、疎水性ブロックセグメント全体に対して1mol%以上90mol%以下、好ましくは5mol%以上80mol%以下の範囲が望ましい。1mol%未満では架橋が不十分となり、堅牢性が悪くなったりする場合があり、90mol%を越えると色材との相互作用が起こりにくく、架橋反応前に色材を内包しにくくなる場合があるので好ましくない。
【0052】
本発明に用いられる架橋性置換基を有する繰り返し単位構造としては、例えば下記の構造が挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。
【0053】
【化1】

【0054】
疎水性ブロックセグメントとして、好ましくはポリアルケニルエーテル構造からなる繰り返し単位構造を有するブロックセグメントであり、具体的には下記一般式(1)、または下記一般式(2)で表されるような繰り返し単位構造が挙げられるが、本発明のブロックポリマー化合物における疎水性ブロックはこれらに限定されない。
【0055】
【化2】

【0056】
一般式(1)中、Aは置換されていても良いポリアルケニルエーテル基を表す。該ポリアルケニルエーテル基は炭素原子数1から5までの直鎖状または分岐状のアルキル基、またはハロゲン原子で置換されていても良い。
【0057】
Bは炭素原子数1から15までの直鎖状または分岐状の置換されていても良いアルキレン基を表す。該アルキレン基の置換基としては、例えばエチレン、プロピレン、ブチレン等が挙げられる。
【0058】
mは0から30まで、好ましくは1から10までの整数を表す。mが複数のときはそれぞれのBは異なっていても良い。
Dは単結合または炭素原子数1から10までの直鎖状または分岐状の置換されていても良いアルキレン基を表す。アルキレン基としてはメチレン、エチレン、プロピレン、ブチレン、ペンチレン、へキシレン、へプチレン、オクチレン等が例として挙げられる。
【0059】
Eは置換されていても良い芳香族環、または置換されていても良い縮環、または置換されていても良い芳香族環が単結合で3つまで結合した構造、またはメチレン基のいずれかを表す。芳香環構造としては、例えば、フェニル、ピリジレン、ピリミジル、ナフチル、アントラニル、フェナントラニル、チオフェニル、フラニル等が挙げられる。
【0060】
1は炭素原子数1から5までの直鎖状、または分岐状の置換されていても良いアルキル基、または置換されていても良い芳香族環を表す。芳香族環構造としては例えばフェニル基、ピリジル基、ビフェニル基等が挙げられる。置換基としては、アルキル基、アルコキシ基等が挙げられる。
【0061】
また、該芳香族環またはメチレン基のいずれかにおいてR1に置換されていない水素原子は置換されていても良い。置換基としては例えばアルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子などが挙げられる。
【0062】
【化3】

【0063】
一般式(2)中、Aは置換されていても良いポリアルケニルエーテル基を表す。ポリアルケニルエーテル基を構成するアルキレン基は炭素原子数1から5までの直鎖状または分岐状のアルキレン基、またはハロゲン原子で置換されていても良い。
【0064】
1は炭素原子数1から15までの直鎖状または分岐状の置換されていても良いアルキレン基を表す。該アルキレン基の置換基としては、例えばエチレン、プロピレン、ブチレン等が挙げられる。
【0065】
mは0から30まで、好ましくは1から10までの整数を表す。mが複数のときはそれぞれのBは異なっていても良い。
Jは炭素原子数3から15までの置換されていても良い直鎖状、または分岐状のアルキル基、または置換されていても良い芳香族環、置換されていても良い縮環、置換されていても良い芳香族環が単結合で3つまで結合した構造のいずれかを表す。アルキル基としては、例えばプロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基などが挙げられる。芳香族環構造としては例えばフェニル基、ナフチル基、ピリジル基、ビフェニル基等が挙げられる。置換基としては、アルキル基、アルコキシ基等が挙げられる。
【0066】
疎水性ブロックとなる繰り返し単位構造の具体例として、例えば
【0067】
【化4】

【0068】
などが挙げられるが、これらに限定されない。
また、非イオン性親水ブロックセグメントであるBブロックとしては、例えばヒドロキシル基、ポリオキシエチレン鎖などを置換基または側鎖として有する繰り返し単位構造を含有するブロックセグメントが挙げられる。具体的な例でいえば、ポリビニルアルコールなどのモノマーを繰り返し単位として有するブロックセグメントであるが、好ましくはポリアルケニルエーテル構造からなる繰り返し単位構造を有するブロックセグメントである。具体的には下記一般式(3)で表されるような繰り返し単位構造が挙げられるが、本発明の高分子化合物における非イオン性親水ブロックはこれらに限定されない。
【0069】
【化5】

【0070】
一般式(3)中、Aは置換されていても良いポリアルケニルエーテル基を表す。ポリアルケニルエーテル基を構成するアルケニル基は炭素原子数1から5までの直鎖状または分岐状のアルキル基、またはハロゲン原子で置換されていても良い。
【0071】
B’は炭素原子数1から5までの直鎖状または分岐状の置換されていても良いアルキレン基を表す。好ましくは炭素原子数1から2までの直鎖状アルキレン基である。該アルキレン基の置換基としては、例えばメチレン、エチレン、プロピレン等が挙げられる。
【0072】
mは0から30まで、好ましくは1から10までの整数を表す。mが複数のときはそれぞれのB’は異なっていても良い。
D’は単結合または炭素原子数1から5までの直鎖状または分岐状の置換されていても良いアルキレン基を表す。アルキレン基としてはメチレン、エチレン、プロピレン等が例として挙げられる。
【0073】
Kは炭素原子数1から3までの置換されていても良い直鎖状、または分岐状のアルキル基、またはヒドロキシル基のいずれかを表す。アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基などが挙げられる。
【0074】
一般式(3)で表される繰り返し単位構造は親水性を示す。従って、上記の構造はユニット単体ではオキシエチレン基やヒドロキシル基のように親水性の場合や、オキシプロピレン基やエチル基、プロピル基のように疎水性の場合が含まれる。この場合は、全体で親水性とならなければならず、例えば、Kがプロピル基の場合(B’O)mがある程度長いオキシエチレン基で、Kがヒドロキシル基の場合は(B’O)mがオキシプロピレン基となる。非イオン性親水ブロックとなる繰り返し単位構造の具体例として、例えば
【0075】
【化6】

【0076】
などが挙げられるが、これらに限定されない。
また、イオン性親水ブロックセグメントであるCブロックとしては、例えばカルボン酸、カルボン酸塩などを有する繰り返し単位構造を含有するブロックセグメントが挙げられる。好ましくはポリアルケニルエーテル構造からなる繰り返し単位構造を有するブロックセグメントである。具体的には下記一般式(4)で表されるような繰り返し単位構造が挙げられるが、本発明の高分子化合物におけるイオン性親水ブロックはこれらに限定されない。
【0077】
【化7】

【0078】
一般式(4)中、Aは置換されていても良いポリアルケニルエーテル基を表す。該ポリアルケニルエーテル基は炭素原子数1から5までの直鎖状または分岐状のアルキル基、またはハロゲン原子で置換されていても良い。
【0079】
B”は炭素原子数1から15までの直鎖状または分岐状の置換されていても良いアルキレン基を表す。該アルキレン基の置換基としては、例えばエチレン、プロピレン、ブチレン等が挙げられる。
【0080】
mは0から30まで、好ましくは1から10までの整数を表す。mが複数のときはそれぞれのB”は異なっていても良い。
D”は単結合または炭素原子数1から10までの直鎖状または分岐状の置換されていても良いアルキレン基を表す。アルキレン基としてはメチレン、エチレン、プロピレン、ブチレン、ペンチレン、へキシレン、へプチレン、オクチレン等が例として挙げられる。
【0081】
E”は置換されていても良い芳香族環、または置換されていても良い縮環、または置換されていても良い芳香族環が単結合で3つまで結合した構造、またはメチレン基のいずれかを表す。芳香環構造としては、例えば、フェニル、ピリジレン、ピリミジル、ナフチル、アントラニル、フェナントラニル、チオフェニル、フラニル等が挙げられる。
【0082】
2は−COO-Mの構造を表す。Mは1価または多価の金属カチオンを表す。Mの具体例としては、例えば一価の金属カチオンとしてはナトリウム、カリウム、リチウム等が、多価の金属カチオンとしてはマグネシウム、カルシウム、ニッケル、鉄等が挙げられる。Mが多価の金属カチオンの場合には、MはアニオンCOO-の2個以上と対イオンを形成している。
【0083】
また、該芳香族環またはメチレン基のいずれかにおいてR2に置換されていない水素原子は置換されていても良い。置換基としては例えばアルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子などが挙げられる。
【0084】
好ましくは、カルボン酸基が芳香族炭素と結合した芳香族カルボン酸誘導体をCセグメントの側鎖に有する。
イオン性親水ブロックとなる繰り返し単位構造の具体例として、例えば
【0085】
【化8】

【0086】
などが挙げられるが、これらに限定されない。
本発明における両親媒性ブロックポリマー化合物に含有される疎水性ブロックセグメントの含有量は5質量%以上95質量%以下、好ましくは10質量%以上90質量%以下の範囲であり、また、親水性ブロックセグメントの含有量は5質量%以上95質量%以下、好ましくは10質量%以上90質量%以下の範囲である。
【0087】
前記ブロックポリマー化合物がABC型トリブロックポリマー化合物である場合、ブロックセグメントABCにおいて重合性置換基を有する疎水性ブロックセグメントAの含有量は5質量%以上95質量%以下、好ましくは5質量%以上90質量%以下の範囲である。非イオン性親水ブロックセグメントBの含有量は5質量%以上95質量%以下、好ましくは10質量%以上90質量%以下の範囲である。イオン性親水ブロックセグメントCの含有量は1質量%以上90質量%以下、好ましくは1質量%以上80質量%以下の範囲である。
【0088】
また、本発明のインク組成物に含まれるポリマー化合物の数平均分子量(Mn)は、500以上10000000以下であり、好ましく用いられる範囲としては1000以上1000000以下である。10000000を越えると高分子鎖内、高分子鎖間の絡まりあいが多くなりすぎ、溶剤に分散しにくかったりする。500未満である場合、分子量が小さく高分子としての立体効果が出にくかったりする場合がある。各ブロックセグメントの好ましい重合度はそれぞれ独立して3以上10000以下である。さらに好ましくは3以上5000以下である。さらに好ましくは3以上4000以下である。
【0089】
本発明のインク組成物に含まれるポリマー化合物の重合は主にカチオン重合で行なわれることが多い。開始剤としては、塩酸、硫酸、メタンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸、過塩素酸等のプロトン酸や、BF3、AlCl3、TiCl4、SnCl4、FeCl3、RAlCl2、R1.5AlCl1.5(Rはアルキルを示す)等のルイス酸とカチオン源の組み合わせ(カチオン源としてはプロトン酸や水、アルコール、ビニルエーテルとカルボン酸の付加体などが挙げられる。)が例として挙げられる。これらの開始剤を重合性化合物(モノマー)と共存させることにより重合反応が進行し、高分子化合物を合成することができる。
【0090】
本発明にさらに好ましく用いられる重合方法について説明する。ポリビニルエーテル構造を含むポリマーの合成法は多数報告されているが(例えば特開平11−080221号公報)、青島らによるカチオンリビング重合による方法(ポリマーブレタン誌15巻、1986年417頁、特開平11−322942号公報、特開平11−322866号公報)が代表的である。カチオンリビング重合でポリマー合成を行うことにより、ホモポリマーや2成分以上のモノマーからなる共重合体、さらにはブロックポリマー、グラフトポリマー、グラジェントポリマー等の様々なポリマーを、長さ(分子量)を正確に揃えて合成することができる。また、他にHI/I2系、HCl/SnCl4系等でリビング重合を行うこともできる。
【0091】
本発明のインク組成物に含有される前記高分子化合物の含有量は、0.1質量%以上90質量%以下の範囲で用いられる。好ましくは1質量%以上80質量%以下である。インクジェットプリンタ用としては、好ましくは1質量%以上30質量%以下で用いられる。
【0092】
次に本発明のインク組成物に含まれる、疎水性物質について詳細に説明する。
本発明のインク組成物に含まれる疎水性物質とは、水に対して不溶な物質である。水に対して不溶とは水に溶解、あるいは分散しない性質のことである。具体的にいうと、該化合物の水に対する溶解度が1g/l以下であること、あるいは水に対して安定な分散体を形成しないことを表す。
【0093】
本発明で用いられる疎水性物質としては、例えば顔料、金属粒子、有機微粒子、無機微粒子、磁性体粒子、有機半導体、導電性材料、光学材料、非線形光学材料などといったものが挙げられるが、分散樹脂によって包摂されていても機能を発揮するものであればこれらに限定されない。
【0094】
本発明のインク組成物に含まれる疎水性物質として好ましくは、顔料および染料等の色材であるが、より好ましくは顔料である。
以下にインク組成物に使用する顔料および染料の具体例を示す。
【0095】
顔料は、有機顔料および無機顔料のいずれでもよく、インクに用いられる顔料は、好ましくは黒色顔料と、シアン、マゼンタ、イエローの3原色顔料を用いることができる。なお、上記に記した以外の色顔料や、無色または淡色の顔料、金属光沢顔料等を使用してもよい。また、本発明のために、新規に合成した顔料を用いてもよい。
【0096】
以下に、黒、シアン、マゼンタ、イエローにおいて、市販されている顔料を例示する。
黒色の顔料としては、Raven1060、(コロンビアン・カーボン社製)、MOGUL−L、(キャボット社製)、Color Black FW1(デグッサ社製)、MA100(三菱化学社製)等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0097】
シアン色の顔料としては、C.I.Pigment Blue−15:3、C.I.Pigment Blue−15:4、C.I.Pigment Blue−16、等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0098】
マゼンタ色の顔料としては、C.I.Pigment Red−122、C.I.Pigment Red−123、C.I.Pigment Red−146、等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0099】
イエローの顔料としては、C.I.Pigment Yellow−74、C.I.Pigment Yellow−128、C.I.Pigment Yellow−129、等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0100】
本発明のインク組成物に用いられる顔料は、インク組成物の重量に対して、0.1質量%以上50質量%以下が好ましい。顔料の量が、0.1質量%以上であれば、好ましい画像濃度が得られ、50質量%以下であれば、顔料が好ましい分散性を示す。さらに好ましい範囲としては0.5質量%以上30質量%以下の範囲である。
【0101】
また、本発明のインク組成物では染料も使用することができる。以下に述べるような油溶性染料、又は分散染料の不溶性色素を用いることができる。
油溶性染料として、以下に、各色の市販品を例示する。
【0102】
黒色の油溶性染料としては、C.I.Solvent Black−3,−22:1,−50等が挙げられるが、これらに限定されない。
イエローの油溶性染料としては、C.I.Solvent Yellow−1,−25:1,−172等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0103】
オレンジの油溶性染料としては、C.I.Solvent Orange−1,−40:1,−99等が挙げられるが、これらに限定されない。
レッドの油溶性染料としては、C.I.Solvent Red−1,−111,−229等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0104】
バイオレットの油溶性染料としては、C.I.Solvent Violet−2,−11,−47等が挙げられるが、これらに限定されない。
ブルーの油溶性染料としては、C.I.Solvent Blue−2,−43,−134等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0105】
グリーンの油溶性染料としては、C.I.Solvent Green−1,−20,−33等が挙げられるが、これらに限定されない。
ブラウンの油溶性染料としては、C.I.Solvent Brown−1,−12,−58等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0106】
なお、これら上記の色材の例は、本発明のインク組成物に対して好ましいものであるが、本発明のインク組成物に使用する色材は上記色材に特に限定されるものではない。本発明のインク組成物に用いられる染料は、インクの重量に対して、0.1質量%以上50質量%以下が好ましい。
【0107】
以下、本発明のインク組成物についてさらに詳細に説明する。
本発明の組成物に含有される高分子化合物、疎水性物質以外の他の成分について詳しく説明する。他の成分には、水性溶媒、添加剤等が含まれる。
【0108】
[水性溶媒]
本発明でいう水性溶媒とは、水を主体とするものであり、上記高分子化合物、疎水性物質がミセル状態で分散されるものであれば、水以外に有機溶剤や水性溶剤を含んでいてもかまわないものである。
【0109】
本発明に含まれる水としては、金属イオン等を除去したイオン交換水、純水、超純水が好ましい。
有機溶剤としては、炭化水素系溶剤、芳香族系溶剤、エーテル系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、アミド系溶剤等が挙げられる。
【0110】
水性溶剤としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロビレングリコール、グリセリン等の多価アルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等の多価アルコールエーテル類、N−メチル−2−ピロリドン、置換ピロリドン、トリエタノールアミン等の含窒素溶媒等を用いることができる。また、水性分散物の記録媒体上での乾燥を速めることを目的として、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等の一価アルコール類を用いることもできる。
【0111】
[添加剤]
本発明の組成物には、必要に応じて、種々の添加剤、助剤等を添加することができる。添加剤の一つとして、顔料を溶媒中で安定に分散させる分散安定剤がある。本発明の組成物は、ポリビニルエーテル構造を含むポリマーにより、顔料のような粒状固体を分散させる機能を有しているが、分散が不十分である場合には、他の分散安定剤を添加してもよい。
【0112】
他の分散安定剤として、親水性疎水性両部を持つ樹脂あるいは界面活性剤を使用することが可能である。親水性疎水性両部を持つ樹脂としては、例えば、親水性モノマーと疎水性モノマーの共重合体が挙げられる。
【0113】
親水性モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、または前記カルボン酸モノエステル類、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルアルコール、アクリルアミド、メタクリロキシエチルホスフェート等、疎水性モノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン等のスチレン誘導体、ビニルシクロヘキサン、ビニルナフタレン誘導体、アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類等が挙げられる。共重合体は、ランダム、ブロック、およびグラフト共重合体等の様々な構成のものが使用できる。もちろん、親水性、疎水性モノマーとも、前記に示したものに限定されない。
【0114】
界面活性剤としては、アニオン性、非イオン性、カチオン性、両イオン性活性剤を用いることができる。アニオン性活性剤としては、脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルアリールスルホン酸塩、アルキルジアリールエーテルジスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルリン酸塩、ナフタレンスルホン酸フォルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル塩、グリセロールボレイト脂肪酸エステル等が挙げられる。非イオン性活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンオキシプロピレンブロックコポリマー、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、フッ素系、シリコン系等が挙げられる。カチオン性活性剤としては、アルキルアミン塩、第4級アンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩、アルキルイミダゾリウム塩等が挙げられる。両イオン性活性剤としては、アルキルベタイン、アルキルアミンオキサイド、ホスファジルコリン等が挙げられる。なお、界面活性剤についても同様、前記に限定されるものではない。
【0115】
さらに、本発明の組成物には、必要に応じて水性溶剤を添加することができる。特にインクジェット用インクに用いる場合、水性溶剤は、インクのノズル部分での乾燥、インクの固化を防止するために用いられ、単独または混合して用いることができる。水性溶剤は、上述のものがそのまま当てはまる。その含有量としては、インクの場合、インクの全重量の0.1質量%以上60質量%以下、好ましくは1質量%以上40質量%以下の範囲である。
【0116】
その他の添加剤としては、例えばインクとしての用途の場合、インクの安定化と記録装置中のインクの配管との安定性を得るためのpH調整剤、記録媒体へのインクの浸透を早め、見掛けの乾燥を早くする浸透剤、インク内での黴の発生を防止する防黴剤、インク中の金属イオンを封鎖し、ノズル部での金属の析出やインク中で不溶解性物の析出等を防止するキレート化剤、記録液の循環、移動、あるいは記録液製造時の泡の発生を防止する消泡剤、酸化防止剤、防カビ剤、粘度調整剤、導電剤、紫外線吸収剤等も添加することができる。
【0117】
[架橋剤]
本発明のインク組成物には前述の架橋性官能基と架橋剤との組み合わせによって選ばれた架橋剤を、使用する架橋性置換基の種類に応じて添加することができる。インク組成物作成時には、架橋剤は顔料の分散前あるいは分散後に添加する。その時期は、顔料の表面に架橋剤が存在する確率が高いことから分散前がより好ましい。
【0118】
本発明におけるポリマー化合物の架橋は、水、さらに必要により水溶性有機溶剤等からなる水性溶媒中へのポリマー化合物と顔料の分散を行い、分散体として高分子ミクロスフィアを形成させた後、常圧下あるいは加圧下での加熱やエネルギー線の照射等により行う。この場合、触媒や重合開始剤の存在下で架橋させても良い。
【0119】
架橋を行う場合の分散体中の固形分濃度に関しては、分散液中の固形分濃度が高い場合、分散された顔料間の距離が短く架橋により顔料同士を凝集させることがあるため、予め水等を加えることにより濃度を調製し、20質量%以下の範囲としておくことが好ましく、0.1質量%以上10質量%以下の範囲がより好ましい。
【0120】
カルボキシル基とエポキシ基による自己架橋、水酸基とN−アルコキシメチルアミド基による自己架橋、加水分解性アルコキシシラン基による自己架橋は、例えば、常圧下あるいは加圧下で50℃以上150℃以下での加熱による架橋が挙げられる。この際、触媒を使用することも推奨できる。
【0121】
ラジカル重合性不飽和基による自己架橋の場合は、過硫酸カリ、過硫酸アンモニアなどの水溶性の重合開始剤を添加して、さらには、重合をレドックス系にして、50℃から90℃程度の温度で架橋することができる。
【0122】
一方、架橋剤を使用しての架橋は、常圧下50℃以上100℃以下での加熱による架橋が好ましいが、場合により、加圧下100℃から150℃程度で架橋することもできる。この際に触媒を使用することも推奨できる。
【0123】
本発明の組成物に添加しうる架橋剤は疎水性化合物であることを特徴とする。本発明の組成物に用いられる架橋剤は、ポリマー化合物の架橋性置換基が疎水性ブロックセグメントに含有されるため、疎水性のものが好ましいが、水溶性若しくは水分散性のものを使用することもできる。
【0124】
また、本発明の組成物に含まれる架橋剤はポリマー化合物であることが好ましい。
ポリマー化合物と架橋剤との配合割合は、固形分重量比でもって、概ね、30:70から95:5の範囲が好ましく、40:60から90:10の範囲が特に好ましい。
【0125】
本発明のインク組成物を調製するには、上記構成成分を混合し、均一に溶解又は分散することにより調製することができる。たとえば、構成成分の複数を混合し、サンドミルやボールミル、ホモジナイザー、ナノマーザー等により破砕、分散しインク母液を作成し、これに溶媒や添加剤を加え物性を調整することにより調整することができる。
【0126】
次に、本発明の組成物の製造方法の詳細説明を行う。
本発明の組成物製造方法は、前記分散体が、疎水性ブロックセグメントに重合性置換基を置換した両親媒性マクロモノマーの重合反応により製造されることを特徴とする、組成物製造方法である。
【0127】
本発明の組成物の製造方法として、例えば以下の方法が挙げられるが、これらに限定されない。
本発明の組成物を調製するには、前記構成成分である、両親媒性ブロックポリマー、疎水性物質、架橋剤、溶剤、添加剤などを混合し、均一に溶解又は分散することにより調製することができる。たとえば、構成成分の複数を混合し、サンドミルやボールミル、ホモジナイザー、ナノマーザー等の分散機により破砕、分散しインク母液を作成し、これに溶媒や添加剤を加え物性を調整することにより調整することができる。均一な組成物を作成するためには、好ましくは乳化転相法が用いられる。
【0128】
この際、架橋剤は分散前に加えても構わないし、分散後、添加剤として加えても構わない。また、架橋剤を加えずに自己架橋性官能基を有する両親媒性ポリマーを使用しても構わない。
【0129】
また、架橋剤として架橋性官能基を有するポリマーを使用する場合、分散前に添加することが好ましい。
次いで、この分散体を常圧下あるいは加圧下での加熱やエネルギー線の照射、または特定条件下での反応等により、架橋性官能基を架橋反応させ、架橋結合を形成させ得ることができる。
【0130】
本発明の組成物は溶剤を含有する水性組成物である。水性組成物とは主溶剤が水である組成物のことである。本発明の組成物は、インク組成物であることが好ましい。より好ましくはインクジェット用組成物である。インクジェット用組成物とは、後述するインクジェット法を用いるインク吐出方法により吐出しうる組成物のことである。
【0131】
一般的に、インクジェット用組成物は、インク組成物に比べて粘度や分散微粒子の大きさ、保存安定性などの、組成物特性の条件が厳しい場合がある。インクジェット法による吐出方法では、微細ノズルを通して組成物の吐出を行うため、特に組成物の粘度が低いこと、組成物中の微粒子の大きさは小さく、さらに保存安定性が優れていることが好ましい。
【0132】
一般的に吐出悪化要因の一つとして、例えば粗大粒子の存在が挙げられる。
本発明は前記吐出悪化要因の一つである粗大粒子の少ない組成物、およびその製造方法を提供することができる点で極めて有用であるといえる。
【0133】
次に、本発明の組成物を用いる画像形成方法、液体付与方法および画像形成装置について説明する。
[画像形成方法、液体付与方法および装置]
本発明の組成物は、各種印刷法、インクジェット法、電子写真法等の様々な画像形成方法および装置に使用でき、この装置を用いた画像形成方法により描画することができる。また、液体組成物を用いる場合、インクジェット法等では微細パターンを形成したり、薬物の投与を行ったりするための液体付与方法に使用することができる。
【0134】
本発明の画像形成方法は、本発明の組成物により優れた画像形成を行う方法である。本発明の画像形成方法は、好ましくは、インク吐出部から本発明のインク組成物を吐出して被記録媒体上に付与することで記録を行う画像形成方法である。画像形成はインクに熱エネルギーを作用させてインクを吐出するインクジェット法を用いる方法が好ましく用いられる。
【0135】
本発明のインクジェット用インク組成物を用いるインクジェットプリンタとしては、圧電素子を用いたピエゾインクジェット方式や、熱エネルギーを作用させて発泡し記録を行うバブルジェット(登録商標)方式等、様々なインクジェット記録装置に適用できる。
【0136】
本発明は、インクジェット用インクの吐出を行わせるために利用されるエネルギーとして熱エネルギーを発生する手段(例えば電気熱変換体やレーザ光等)を備え、上記熱エネルギーによりインクジェット用インクを吐出させるヘッドが優れた効果をもたらす。かかる方式によれば描画の高精細化が達成できる。本発明のインクジェット用インク組成物を使用することにより、更に優れた描画を行うことができる。
【0137】
上記の熱エネルギーを発生する手段を備えた装置の代表的な構成や原理については、例えば、米国特許第4723129号明細書,同第4740796号明細書に開示されている基本的な原理を用いて行うものが好ましい。この方式は所謂オンデマンド型,コンティニュアス型のいずれにも適用可能であるが、特に、オンデマンド型の場合には、液体が保持され、流路に対応して配置されている電気熱変換体に、吐出情報に対応していて核沸騰を越える急速な温度上昇を与える少なくとも1つの駆動信号を印加する。このことによって、電気熱変換体に熱エネルギーを発生せしめ、ヘッドの熱作用面に膜沸騰を生じさせて、結果的にこの駆動信号に一対一で対応した液体内の気泡を形成できるので有効である。この気泡の成長および収縮により吐出用開口を介して液体を吐出させて、少なくとも1つの滴を形成する。この駆動信号をパルス形状とすると、即時適切に気泡の成長収縮が行われるので、特に応答性に優れた液体の吐出が達成でき、より好ましい。このパルス形状の駆動信号としては、米国特許第4463359号明細書,同第4345262号明細書に記載されているようなものが適している。なお、上記熱作用面の温度上昇率に関する発明の米国特許第4313124号明細書に記載されている条件を採用すると、さらに優れた吐出を行うことができる。
【0138】
ヘッドの構成としては、上述の各明細書に開示されているような吐出口、液路、電気熱変換体の組合せ構成(直線状液流路または直角液流路)がある。その他に熱作用部が屈曲する領域に配置されている構成を開示する米国特許第4558333号明細書,米国特許第4459600号明細書を用いた構成も本発明に含まれるものである。加えて、複数の電気熱変換体に対して、共通するスリットを電気熱変換体の吐出部とする構成の特開昭59−123670号公報や熱エネルギーの圧力波を吸収する開孔を吐出部に対応させる構成の特開昭59−138461号公報がある。これに基づいた構成としても本発明の効果は有効である。すなわち、ヘッドの形態がどのようなものであっても、本発明によればインクジェット用インクの吐出を確実に効率よく行うことができる。
【0139】
さらに、本発明の画像形成装置で被記録媒体の最大幅に対応した長さを有するフルラインタイプのヘッドに対しても本発明は有効に適用できる。そのようなヘッドとしては、複数のヘッドの組合せによってその長さを満たす構成や、一体的に形成された1個のヘッドとしての構成のいずれでもよい。
【0140】
加えて、シリアルタイプのものでも、装置本体に固定されたヘッド、または、装置本体に装着されることで装置本体との電気的な接続や装置本体からのインクの供給が可能になる交換自在のチップタイプのヘッドを用いた場合にも本発明は有効である。
【0141】
さらに、本発明の装置は、液滴除去手段を更に有していてもよい。このような手段を付与した場合、更に優れた吐出効果を実現できる。
また、本発明の装置の構成として、予備的な補助手段等を付加することは本発明の効果を一層安定化できるので好ましい。これらを具体的に挙げれば、ヘッドに対してのキャッピング手段、加圧または吸引手段、電気熱変換体またはこれとは別の加熱素子、または、これらの組合せを用いて加熱を行う予備加熱手段、インクの吐出とは別の、吐出を行うための予備吐出手段などを挙げることができる。
【0142】
本発明に対して最も有効なものは、上述した膜沸騰方式を実行するものである。
本発明の装置では、インクジェット用インクの吐出ヘッドの各吐出口から吐出されるインクの量が、0.1ピコリットルから100ピコリットルの範囲であることが好ましい。
【0143】
また、本発明のインク組成物は、中間転写体にインクを印字した後、紙等の記録媒体に転写する記録方式等を用いた間接記録装置にも用いることができる。また、直接記録方式による中間転写体を利用した装置にも適用することができる。
【実施例】
【0144】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
合成例1
<ブロックポリマー1の合成> ABCD型
公知のリビングカチオン重合によって次のように重合を行った。
三方活栓を取り付けたガラス容器内を窒素置換した後、窒素ガス雰囲気下250℃に加熱し吸着水を除去した。系を室温に戻した後、4−メチルベンゼンオキシエチルビニルエーテル(TolOVE)25mmol(ミリモル)、酢酸エチル160mmol、1−イソブトキシエチルアセテート0.5mmol、及びトルエン110mlを加え、反応系を冷却した。系内温度が0℃に達したところでエチルアルミニウムセスキクロリド(ジエチルアルミニウムクロリドとエチルアルミニウムジクロリドとの等モル混合物)を2.0mmol加え重合を開始した。重合反応はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いてモニタリングし、Aブロックの重合の完了を確認した。この段階でのMn=7000、Mw/Mn=1.10であった。
【0145】
次いで、Bブロックのモノマーである2−ビニロキシエチルメタクリレート(VEMA)25mmolを添加し、重合を続行した。GPCを用いるモニタリングによって、Bブロックの重合の完了を確認した後(この段階でのMn=14400、Mw/Mn=1.18)、次いでCブロックのモノマーであるメトキシエトキシエチルビニルエーテル(MOEOVE)を50mmol添加し、重合を続行した。GPCを用いるモニタリングによって、Cブロックの重合の完了を確認した後(この段階でのMn=28100、Mw/Mn=1.19)、Dブロックのモノマーである4−{(ビニルオキシ)エトキシ}安息香酸(t−ブチルジメチルシリル)エステル(VEEtPhCOOTBDMSi)を10mmol添加して、重合を続行した。GPCを用いるモニタリングによって、Dブロックの重合の完了を確認した後、重合反応を停止した。重合反応の停止は、系内に0.3質量%のアンモニア/メタノール水溶液を加えて行った。反応混合物溶液をジクロロメタンにて希釈し、0.6M塩酸で3回、次いで蒸留水で3回洗浄した。得られた有機相をエバポレーターで濃縮・乾固し、真空乾燥させたものより、目的物であるブロックポリマーを単離した。このブロックポリマーの同定は、NMRおよびGPCを用いて行った。Mn=34400、Mw/Mn=1.17であった。重合度比はA:B:C:D=50:50:100:20であった。
【0146】
次いで、得られたブロックポリマー1gをTHF45mlに溶解させ、3規定HCl/エタノール溶液5mlを加え、室温(23℃)で3時間撹拌し、その後エタノールを20ml加えてさらに3時間攪拌した。反応はNMRによってモニタリングし、加水分解が100%完了してから炭酸ナトリウムで中和し、反応を終了した。反応液はフィルター後、エバポレーターで濃縮し、塩化メチレンで抽出、乾燥した後、溶媒を留去し、Dブロックの側鎖がフリーのカルボン酸ポリマーであるブロックポリマーを得た。また、VEMAの二重結合はほぼ全て残っていることをNMRより確認した。
【0147】
さらに、等量の1規定水酸化ナトリウムで中和し、水を留去することでDブロックの側鎖がカルボン酸ナトリウム塩であるブロックポリマー1を得た。
以上の実験操作において、VEMAの不飽和結合の反応を抑えるためエバポレーターによる濃縮、水の留去は40℃以下の低温で行った。
【0148】
合成例2
<ブロックポリマー2の合成> ABC型
合成例1と同様の手法により、各成分のモノマーを以下のように変更して同様に合成した。AブロックのモノマーとしてはTolOVE50mmol、VEMA50mmolを添加した。Bブロックのモノマーであるメトキシエトキシエチルビニルエーテル(MOEOVE)を50mmol添加した。Cブロックのモノマーである4−{(ビニルオキシ)エトキシ}安息香酸(t−ブチルジメチルシリル)エステル(VEEtPhCOOTBDMSi)を10mmol添加した。その他の操作は実施例1と同じである。このブロックポリマーの同定は、NMRおよびGPCを用いて行った。Mn=43700、Mw/Mn=1.17であった。重合度比はA:B:C=100:100:20、Aセグメント中の組成比はTolOVE:VEMA=5:5であった。
【0149】
得られたブロックポリマーは合成例1と同様に後処理を行い、Cブロックの側鎖がカルボン酸ナトリウム塩であるブロックポリマー2を得た。また、VEMAの二重結合はほぼ全て残っていることをNMRより確認した。
【0150】
合成例3
<ブロックポリマー3の合成>
合成例1と同様の手法により各ブロック成分のモノマーを変更して重合を行った。まず、A成分のモノマーはTolOVE35mmol、VEMA15mmolとし、B成分はMOEOVEを50mmol、VEEtPhCOOTBDMSiを10mmolのトルエン希釈溶液を添加した。その他の操作は実施例1と同じである。このブロックポリマーの同定は、NMRおよびGPCを用いて行った。Mn=33900、Mw/Mn=1.19であった。重合度比はA:B=100:120、Aセグメント中の組成比はTolOVE:VEMA=7:3、Bセグメント中の組成比はMOEOVE:VEEtPhCOOTBDMSi=5:1であった。
【0151】
得られたブロックポリマーは合成例1と同様に後処理を行い、Bブロック中の側鎖がカルボン酸ナトリウム塩であるブロックポリマー3を得た。また、VEMAの二重結合はほぼ全て残っていることをNMRより確認した。
【0152】
合成例4
<ポリマー1(疎水性ポリマーユニット前駆体)の合成>
4−メチルベンゼンオキシエチルビニルエーテル(TolOVE)と2−ビニロキシエチルメタクリレート(VEMA)とのランダムポリマーの合成
合成例1と同様の手法により、モノマーとして4−メチルベンゼンオキシエチルビニルエーテル(TolOVE)15mmol(ミリモル)、2−ビニロキシエチルメタクリレート(VEMA)15mmolを加え、重合を行った。その他の条件は全て合成例1と同様である。GPCを用いたモニタリングにより、Mnが7000の段階で重合反応を停止した。反応停止後の操作についても合成例1と同様で、目的物である疎水性ポリマーユニットの前駆体を得た。得られた化合物の同定は、NMRおよびGPCを用いて行った。Mn=7000、Mw/Mn=1.20であった。重合比はA:B=1:1であった。
【0153】
合成例5
ブロックポリマー4(片末端に重合性不飽和着を有する両親媒性ブロックポリマー)の合成
<重合開始種の合成>
予め45から50℃/0mmHgの条件での減圧蒸留にて精製しておいたVEMAと、酢酸10モル当量を混合し、1日室温にて攪拌した。得られた反応終了液をヘキサンに溶解し、アルカリ水溶液にて洗浄し、未反応酢酸を除去した。次いで、得られた溶液エバポレーターにてヘキサンを留去した後、減圧乾燥を1日以上行い、目的とするカチオンリビング重合開始剤(VEM−OAc)を得た。合成した化合物の同定はNMRにで行った。
【0154】
【化9】

【0155】
<片末端に重合性不飽和着を有する、4−メチルベンゼンオキシエチルビニルエーテル(TolOVE)[Aブロック]と、メトキシエトキシエチルビニルエーテル(MOEOVE)[Bブロック]と、4−{(ビニルオキシ)エトキシ}安息香酸(t−ブチルジメチルシリル)エステル(VEEtPhCOOTBDMSi)[Cブロック]とからなるブロックポリマーの合成>
合成例2と同様の手法で、Aブロックの組成を4−メチルベンゼンオキシエチルビニルエーテル(TolOVE)を50mmol(ミリモル)に変え、1−イソブトキシエチルアセテートを先に合成したVEM−OAcに変えて重合を行った。このブロックポリマーの同定は、NMRおよびGPCを用いて行った。Mn=30200、Mw/Mn=1.24であった。重合度比はA:B:C=100:100:20であった。
【0156】
合成例1と同様の後処理により、Cブロックの側鎖がカルボン酸ナトリウム塩であるブロックポリマー4を得た。
【0157】
実施例1
合成例1のブロックポリマー1を10質量部と色材としてカーボンブラックであるモナーク880(キャボット社製)10質量部、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を0.05質量部をジメチルフォルムアミド200質量部に共溶解し、蒸留水400質量部を用いて水相へ変換し組成物を得た。さらに超音波ホモジナイザーに10分間かけて分散した後、蒸留水を加え、固形分濃度が1%となるようにした。この操作中、溶液を冷却しながら操作を行い、常に40℃以下となるようにした。この後、架橋反応を温度60℃で48時間行った。
【0158】
次いで、透析膜(SPECTRUM Laboratories社製、molecular porous membrane tubing(MWCO:3500))でジメチルフォルムアミドを除去した組成物を得た。この組成物の水を留去して固形分濃度が20%となるように調製し、水性顔料分散体とした。この分散体を用いて下記の組成となるように、インク組成物1を調整した。組成は水性顔料分散体25質量部、グリセリン8質量部、エチレングリコール5質量部、エタノール5質量部、エマルゲン120(花王(株)製)0.05質量部、水57質量部である。
【0159】
前記水性顔料分散体5質量部に水50質量部を加え、均一にかくはんした後、後述の酸析を行った。前記の希釈した水性顔料分散体に0.1NHCl水溶液をpHが3になるまで徐々に滴下し、生じた沈殿物をろ過し、水洗する事で黒色のウェットケーキが得られた(酸析)。このウェットケーキに重水50質量部と、重水酸化ナトリウムをポリマー中のイオン性基に対して等量加え、超音波ホモジナイザーに30分間かけて再分散させた。その後、再度酸析を行い、同様に重水、重水酸化ナトリウムを加えて分散させた後、固形分濃度が1%になるように重水を加えた。この水溶液をNMR測定したところ、疎水性セグメントに由来するピークはみられず、親水性セグメントに由来するピークのみがみられ、分散体のコア部に疎水性セグメントがあることを確認した。
【0160】
実施例2
合成例2のブロックポリマー2を用いて実施例1と同様の手法によりインク組成物を得た。
【0161】
実施例3
合成例3のブロックポリマー3を用いて実施例1と同様の手法によりインク組成物を得た。
【0162】
実施例4
合成例4の疎水性ポリマーユニット前駆体であるポリマー1を1質量部、合成例5のブロックポリマー4を10質量部用い、架橋反応を温度80℃で48時間行ったこと以外は実施例1と同様の手法によりインク組成物を得た。
【0163】
実施例5
合成例1のブロックポリマー1、および色材としてシアン顔料であるC.I.ピグメントブルー15:3を10質量部を用いて実施例1と同様の手法によりインク組成物を得た。
【0164】
合成例6
攪拌装置、滴下装置、温度センサー、および上部に窒素導入装置を有する環流装置を取り付けた反応容器を有する自動重合反応装置(重合試験機DSL−2AS型、轟産業(株)製)の反応容器にメチルエチルケトン1,400部を仕込み、攪拌しながら反応容器内を窒素置換した。反応容器内を窒素雰囲気に保ちながら80℃に昇温させた後、滴下装置よりメタアクリル酸ブチル106部、アクリル酸n−ブチル312部、メタアクリル酸2−ヒドロキシエチル75部、メタアクリル酸307部、スチレン200部、およびパーブチル O(有効成分ペルオキシ2−エチルヘキサン酸t−ブチル、日本油脂(株)製)140部の混合液を4時間かけて滴下した。滴下終了後、さらに同温度で15時間反応を継続させて、酸価200、重量平均分子量48,000のアニオン性基含有有機高分子化合物(A)の溶液を得た。
【0165】
合成例7
合成例6で使用した自動重合反応装置の反応容器にメチルエチルケトン940部を仕込み、攪拌しながら反応容器内を窒素置換した。反応容器内を窒素雰囲気に保ちながら80℃に昇温させた後、滴下装置よりアクリル酸ブチル500部、スチレン200部、メタアクリル酸2,3−エポキシプロピル300部、およびV59(有効成分2、2‘−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、和光純薬製)60部をメチルエチルケトン150部に溶解した溶液との混合液を4時間かけて滴下した。滴下終了後、さらに同温度で15時間反応を継続させて、重量平均分子量21,000のグリシジル基含有有機高分子化合物(B)の溶液を得た。
【0166】
調製例1
まず、合成例6で得た高分子化合物(A)と、合成例9で得た高分子化合物(B)を質量換算の固形分でA:B=9:1となる量で分散直前に配合する。この分散架橋前の混合物1000g中のグリシジル基のモル当量は、約0.09であった。
【0167】
冷却用ジャケットを備えた混合槽に、この配合した高分子化合物混合物、20%水酸化ナトリウム水溶液、水およびカーボンブラック(#960、三菱化学(株)社製)を仕込み、攪拌、混合した。ここでそれぞれの仕込み量は、カーボンブラックが1,000部、配合ポリマーはカーボンブラックに対して固形分濃度で40質量%の比率となる量、20%水酸化ナトリウム水溶液はアニオン性基含有有機高分子化合物の酸価が100%中和される量、水は混合液の固形分濃度を30%とするのに必要な量である。
【0168】
混合液を直径0.3mmのジルコニアビーズを充填した分散装置(SCミル SC100/32型、三井鉱山(株)製)に通し、循環方式により4時間分散した。分散装置の回転数は2700回転/分とし、冷却用ジャケットには冷水を通して分散液温度が40℃以下に保たれるようにした。
【0169】
分散終了後、混合槽より分散原液を抜き採り、次いで水10,000部で混合槽および分散装置流路を洗浄し、分散原液と合わせて希釈分散液を得た。希釈分散液をガラス製蒸留装置に入れ、メチルエチルケトンの全量と水の一部を常圧蒸留で除いた。
【0170】
メチルエチルケトンの除かれた分散液を冷却し、その後、攪拌しながら10%塩酸を滴下してpH4.5に調整したのち、固形分をろ過装置でろ過、水洗した。ケーキを容器に採り、アニオン性基含有有機高分子化合物の酸価が90%中和される量の20%水酸化カリウム水溶液と水を加え、分散攪拌機(TKホモディスパ20型、特殊機化工業(株)製)にて再度分散し、純水を加えて固形分濃度を23%に調整した。この分散液を、遠心分離により粗大粒子を除去したのち、純水を加えて不揮発分を調整し、固形分濃度20%の水性ブラック顔料分散体を得た。
【0171】
合成例8
公知のグループトランスファー重合を用いて、次のように重合を行った。
1リットルフラスコに、機械的攪拌機、温度計、N2注入管、乾燥管付出口および滴下ロートを装備した。テトラヒドロフラン(THF)940gとメシチレン0.1gを上記フラスコに入れた。次いで、触媒であるテトラブチルアンモニウムm−クロロベンゾエートの1.0モルTHF溶液230μlを添加した。開始剤である1−メトキシ−1−トリメチルシロキシ−2−メチルプロペン1.5g(0.00862mol)を注入した。
【0172】
次いで、テトラブチルアンモニウムm−クロロベンゾエートの1.0モルTHF溶液230μlを130分間かけて添加した。
その後、Aブロックとしてベンジルメタクリレート(BZMA)151.74g(0.862モル)60分間かけて添加した。重合が進み、モノマーの99%以上が反応した後30分後、BブロックとしてBブロックとしてエトキシトリエチレングリコールメタクリレート(ETEGMA)212.07g(0.862モル)を60分間かけて添加した。重合が進み、モノマーの99%以上が反応した後1時間後、Cブロックとしてトリメチルシリルメタクリル酸(TMS−MAA)27.24g(0.172モル)を60分間かけて添加した。重合が進み、モノマーの99%以上が反応した後、溶液の一部をとり、 1H NMRによる溶液のアリコートの分析を行い、残留モノマーが存在しないことを確認した。その後、メタノールを50mL添加し、16時間還流してメタクリル酸からトリメチルシリル保護基を除去した。
【0173】
その後、ヘキサンによる再沈操作によりポリマーを単離し、真空乾燥機を用いて乾燥させた。NMRによる分析の結果、トリメチルシリル保護基を完全に除去したことを確認した。
このブロックポリマーの同定は、NMRおよびGPCを用いて行った。Mn=43800、Mw/Mn=1.18であった。重合度比はA:B:C=100:100:20であった。
【0174】
さらに、等量の1規定水酸化ナトリウムで中和し、水を留去することでCブロックの側鎖がカルボン酸ナトリウム塩であるブロックポリマー5を得た。
【0175】
合成例9
THF 900mL中1−(2−ジメチルアミノエトキシ)−1−トリメチル−シロキシ−2−メチル−1−プロペン2.16g(2.46mL,0.00862モル)、テトラブチルアンモニウムビアセテートヘキサハイドレート(THF中0.04M)0.5mL及びビス(ジメチルアミノ)−メチルシラン0.8g(1.0mL,6ミリモル)の溶液を10分間放置した。Aブロックとしてベンジルメタクリレート(BZMA)75.87g(0.431モル)及びビス(ジメチルアミノ)メチルシラン0.4g(0.5mL,3ミリモル)の混合物を添加ろうとからゆっくり添加した。重合が進み、モノマーの99%以上が反応した後30分後、BブロックとしてBブロックとしてエトキシトリエチレングリコールメタクリレート(ETEGMA)212.07g(0.862モル)とビス(ジメチルアミノ)−メチルシラン0.4g(0.5mL,3ミリモル)の混合物を60分間かけて添加した。重合が進み、モノマーの99%以上が反応した後1時間後、Cブロックとしてトリメチルシリルメタクリル酸(TMS−MAA)27.24g(0.172モル)とビス(ジメチルアミノ)−メチルシラン0.4g(0.5mL,3ミリモル)の混合物を60分間かけて添加した。重合が進み、モノマーの99%以上が反応した後に 1H NMRによるこの溶液の試料の分析を行ったが、残留モノマーが存在しないことを示した。その後、ヘキサンによる再沈操作によりポリマーを単離し、真空乾燥機を用いて乾燥させることで、ブロックポリマー6前駆体を得た。このブロックポリマー6前駆体の半分を取り、再度THFに溶解させ、メタクリル酸クロライドを過剰量加え、一晩攪拌した。その後、再びヘキサンによる再沈操作によりポリマーを単離し、真空乾燥機を用いて乾燥させた。
【0176】
次いで、トリメチルシリル保護基の脱保護を行うため、得られたブロックポリマー1gをTHF45mlに溶解させ、3規定HCl/エタノール溶液5mlを加え、室温(23℃)で3時間撹拌し、その後エタノールを20ml加えてさらに3時間攪拌した。反応はNMRによってモニタリングし、加水分解が100%完了してから炭酸ナトリウムで中和し、反応を終了した。反応液はフィルター後、エバポレーターで濃縮し、塩化メチレンで抽出、乾燥した後、溶媒を留去し、Cブロックの側鎖がフリーのカルボン酸ポリマーであるブロックポリマーを得た。また、末端のビニル基の二重結合はほぼ全て残っていることをNMRより確認した。
【0177】
さらに、等量の1規定水酸化ナトリウムで中和し、水を留去することでCブロックの側鎖がカルボン酸ナトリウム塩であり、末端に二重結合を有するブロックポリマー7を得た。
【0178】
以上の実験操作において、末端ビニル基の不飽和結合の反応を抑えるためエバポレーターによる濃縮、水の留去は40℃以下の低温で行った。
このブロックポリマーの同定は、NMRおよびGPCを用いて行った。Mn=36700、Mw/Mn=1.20であった。重合度比はA:B:C=50:100:20であった。
【0179】
また、前記ブロックポリマー6前駆体について前記の中和操作、乾燥を行い、Cブロックの側鎖がカルボン酸ナトリウム塩であるブロックポリマー6を得た。
このブロックポリマーの同定は、NMRおよびGPCを用いて行った。Mn=36700、Mw/Mn=1.20であった。重合度比はA:B:C=50:100:20であった。
【0180】
比較例1
実施例1の手法を用いて、前記調製例1で得られた水性ブラック顔料分散体からインク組成物を調製した。インク組成は、水性顔料分散体25質量部、グリセリン8質量部、エチレングリコール5質量部、
エタノール5部、エマルゲン120(花王(株)製)0.05部、水57部である。
【0181】
比較例2
合成例8のブロックポリマー5を10質量部と色材としてカーボンブラックであるモナーク880(キャボット社製)10質量部をジメチルフォルムアミド200質量部に共溶解し、蒸留水400質量部を用いて水相へ変換し組成物を得た。さらに超音波ホモジナイザーに10分間かけて分散した後、蒸留水を加え、固形分濃度が1%となるようにした。
【0182】
次いで、透析膜(SPECTRUM Laboratories社製、molecular porous membrane tubing(MWCO:3500))でジメチルフォルムアミドを除去した組成物を得た。この組成物の水を留去して固形分濃度が20%となるように調製し、水性顔料分散体とした。この分散体を用いて下記の組成となるように、インク組成物を調整した。組成は水性顔料分散体25質量部、グリセリン8質量部、エチレングリコール5質量部、エタノール5質量部、エマルゲン120(花王(株)製)0.05質量部、水57質量部である。
【0183】
比較例3
合成例4の疎水性ポリマーユニット前駆体であるポリマー1を1質量部、合成例9のブロックポリマー6を10質量部用い、比較例2と同様の手法によりインク組成物を得た。
【0184】
実施例6
合成例4の疎水性ポリマーユニット前駆体であるポリマー1を1質量部、合成例9のブロックポリマー7を10質量部用い、架橋反応を温度80℃で48時間行ったこと以外は実施例1と同様の手法によりインク組成物を得た。
【0185】
評価
実施例1から6、および比較例1から3で得られたインク組成物を用いて、以下のような評価を行った。
【0186】
(1)ろ過性評価
まず、架橋反応がミセル間では行われていないことを確認するために、以下のようなろ過性評価を行った。すなわち、各インク組成物をそれぞれ20mLずつとり、メンブランフィルター(ミリポア社、AP20)を用いて加圧ろ過を行った。その後、純水で3回ろ過を行い、フィルターを洗浄した。ろ過後のフィルター上に粗大粒子が残るかどうかについて目視で調べた。粗大粒子が残った場合には、色材がフィルタ上で目詰まりすることによる変色が生じる。したがって、フィルタが変色しなかった場合には、少なくともミセル間での架橋による粗大粒子は生じていないことが確認できる。なお、フィルタの変色は凝集により粗大粒子が生じている場合にも生じる。
【0187】
評価結果について、変色がなかったものを○、変色が見受けられたものを×として、表1に記した。
表1から明らかなように、実施例1から6、比較例2のインク組成物に関しては、フィルタの変色は見受けられず、粗大粒子を確認することはできなかった。
【0188】
一方、比較例1、3のインク組成物をろ過したフィルタには変色が見受けられた。比較例3については、架橋反応が行われていないポリマーを用いているので、凝集により粗大粒子が生じたものだと考えられる。
【0189】
(2)化合物反応性評価
次に、前記実施例1から6及び比較例1から3のインク組成物のろ過物について、NMRを用いて二重結合部の同定を行うことにより化合物の反応性を評価した。
【0190】
評価結果について、二重結合に相当するピークが見受けられなかったものを“無”、二重結合に相当するピークが見受けられたものを“有”として、表1に記した。
実施例1から6および、比較例1、2のいずれも二重結合に相当するピークが見受けられなかった。
【0191】
このことから、実施例1から6、比較例1の架橋性置換基はいずれも重合反応したものとおもわれる。
一方、比較例3は、二重結合に相当するピークが見受けられ、架橋性置換基が重合反応していないことが確認された。
【0192】
なお、比較例2のインク組成物は、もともと架橋性置換基を有さないことから二重結合に相当するピークが見受けられなかったと考えられる。
【0193】
(3)溶剤による安定性評価
次に、架橋反応が十分に進行しており、分散樹脂が固定化されているかどうかを確認するために、ろ過前の各インク組成物に対して以下のような溶剤安定性試験を行った。すなわち、各インク組成物をそれぞれ25質量部にTHF250質量部を加え、超音波ホモジナイザーに10分間かけて分散した後、透析膜(SPECTRUM Laboratories社製、molecular porous membrane tubing(MWCO:3500))でTHFを除去してから水を留去して固形分濃度を再び20%になるように調製した。この水性分散体を用いて再度溶剤等を添加し、インク組成物とした後にそれぞれテフロン(登録商標)製の容器に移し、60℃の環境下で二ヶ月保存した。その後、目視により沈殿状態を調べた。
【0194】
評価結果について、沈殿が見受けられなかったものを○、沈殿が見受けられたものを×として、表1に記した。
実施例1から6のインク組成物はいずれも沈殿が見受けられず、架橋反応が十分に進行しており、分散樹脂が固定化されていることが確認された。
【0195】
(4)電子顕微鏡観察
次に、ミセル状態を確認するために、ろ過性評価後のろ過物を60℃の環境下で二ヶ月保存した後、凍結し、それぞれ電子顕微鏡:FEI社製クライオTEMで電子顕微鏡観察したところ、実施例1から7のインク組成物においては、観察範囲ほぼ全域に略球状の構造体が観察された。
【0196】
この結果から、本発明の実施例における色材はブロックポリマー中に完全に内包されており、ミセル間架橋のない球状の高分子ミクロスフィアを形成されていると思われる。
これに対して、比較例2のインク組成物においては、実施例1から6で見受けれられた略球状の構造体よりもはるかに大きい凝集したような粒径の不ぞろいな粒子が多数観察された。
【0197】
【表1】

【0198】
表1に示すように、本発明の実施例のインク組成物はミセル内のみで選択的に架橋反応が行われており、従来のものに比べて優れたインク組成物が得られることがわかった。
【0199】
(5)印字評価
上記実施例1から6で調製したインク組成物をインクジェットプリンタBJF800(商品名、キヤノン株式会社製)に搭載し、光沢紙:プロフェッショナルフォトペーパーPR−101(商品名、キヤノン株式会社製)に全面ベタ画像のインクジェット記録を行った。印刷したベタ画像は全て色ムラ、かすれのない良好な画像であった。
【0200】
次いで、前記各印刷物について、村上色彩技術研究所社製「GP−200」を用い、12V50W、入射光束絞りφ1mm、反射光束絞りφ1.5mm、ND10フィルター、入射角度45度、煽り角度0度で、標準鏡面板を42.5として、光沢度を測定した。前記評価色について光沢度最高値の平均値を求め、これを平均光沢度とした。評価の結果、平均光沢度の値はいずれの印刷物も全て50以上となった。
【0201】
さらに実施例5のシアンインク組成物を印字して得られた前記印字物については、目視でブロンズ現象が見られるか確認したところ、ブロンズ現象が見られない良好な画像であることを確認した。
【0202】
以上に示すように、本発明の実施例におけるインク組成物による印刷物は優れた効果を示していることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0203】
本発明のインク組成物は、色材が分散ポリマー中の架橋された疎水性ブロックセグメントによって内包された分散体により、分散性が向上し、分散安定性、再溶解性に優れているので、各種インクジェットインクに利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0204】
【図1】本発明の組成物を示す模式図である。
【図2】図1のミセル構造の一例を示す模式図である。
【図3】分散樹脂として、両親媒性トリブロックポリマーを用いたミセル構造の一例を示す模式図である。
【図4】図3の部分拡大模式図である。
【図5】本発明のブロックポリマーの一例を示す模式図である。
【図6】従来技術の分散体の架橋状態を示す模式図である。
【符号の説明】
【0205】
10 分散体
14 疎水性物質
15 架橋結合部
30 水性溶媒
200 分散樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水ブロックセグメントと親水ブロックセグメントとを備えるブロックポリマー化合物と、該ブロックポリマー化合物により内包された疎水性物質と、水性溶媒と、を有し、前記ブロックポリマー化合物は、前記水性溶媒内で前記疎水ブロックセグメントが前記疎水性物質に吸着することによりミセルを形成している組成物であって、該ミセル内の疎水性ブロックセグメントのみが架橋されていることを特徴とする組成物。
【請求項2】
前記疎水ブロックセグメントは架橋性置換基を有し、前記架橋がこの架橋性置換基の部分で行われている請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記架橋性置換基は、自己架橋性官能基である請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記自己架橋性官能基はラジカル重合不飽和基もしくは加水分解性アルコキシシラン基である請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記架橋性置換基を重合反応せしめる架橋剤をさらに含有する請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記架橋剤が、疎水性化合物である請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記疎水性化合物はポリマー化合物である請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記疎水性物質が色材である請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記色材は顔料である請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記親水ブロックセグメントは、イオン性親水ブロックセグメントと非イオン性親水ブロックセグメントとを具備する請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
前記ブロックポリマー化合物は、疎水ブロックセグメント、非イオン性親水ブロックセグメント、イオン性親水ブロックセグメントの順に結合されている請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記疎水ブロックセグメントは、架橋性置換基を含むブロックセグメントと、架橋性置換基を含まないブロックセグメントと具備する請求項1に記載の組成物。
【請求項13】
前記架橋性置換基を含むブロックセグメントは、ブロックポリマー化合物の最末端以外の箇所に配されている請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
前記ブロックポリマー化合物中の前記疎水ブロックセグメント中の繰返し単位数が前記親水ブロックセグメント中の単位数よりも少ない請求項1に記載の組成物。
【請求項15】
前記各ブロックセグメントの主鎖構造がポリアルケニルエーテル構造である請求項1に記載の組成物。
【請求項16】
前記組成物がインク組成物である事を特徴とする請求項1乃至7のいずれかの項に記載の組成物。
【請求項17】
前記インク組成物がインクジェット用組成物である請求項16記載のインク組成物。
【請求項18】
請求項8記載の組成物を媒体に付与することにより、画像を記録する工程を有することを特徴とする画像形成方法。
【請求項19】
請求項8記載の組成物を媒体に付与することにより、画像を記録させるための手段を有することを特徴とする画像形成装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2006−312724(P2006−312724A)
【公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−102283(P2006−102283)
【出願日】平成18年4月3日(2006.4.3)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】