説明

高分子固体電解質膜積層体

【課題】 輸送時や保存時における、高分子固体電解質膜のシワ、凹凸、キズ、及び剥離などの発生を防ぎ形態安定性に優れると共に、高分子固体電解質膜の加工時における、高分子固体電解質膜の変形や損壊を防ぎ、取り扱い性にも優れた高分子固体電解質膜積層体の提供。
【解決手段】 高分子固体電解質膜と、高分子固体電解質膜の少なくとも一方の面に粘着層を付与されたポリエステル系高分子フィルムが積層された高分子固体電解質膜積層体において、(a)該高分子固体電解質膜と該粘着層付与ポリエステル系高分子フィルムの剥離強度が1N/cm以下であり、かつ(b)該粘着層付与ポリエステル系高分子フィルムの引張弾性率が1GPa以上であることを特徴とする高分子固体電解質膜積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子固体電解質膜と非電解質フィルムとの積層体であり、輸送時や保存時における、高分子固体電解質膜のシワ、凹凸、キズ、及び剥離などの発生を防ぎ形態安定性に優れると共に、高分子固体電解質膜の加工時における、高分子固体電解質膜の変形や損壊を防ぎ、取り扱い性にも優れた高分子固体電解質膜積層体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギー効率や環境性に優れた新しい発電技術が注目を集めている。中でも高分子固体電解質膜を使用した固体高分子形燃料電池はエネルギー密度が高く、また、他の方式の燃料電池に比べて運転温度が低いため起動、停止が容易であるなどの特徴を有するため、電気自動車や分散発電などの電源装置としての開発が進んできている。
【0003】
高分子固体電解質膜には通常プロトン伝導性のイオン交換膜が使用される。高分子固体電解質膜にはプロトン伝導性以外にも、燃料の水素などの透過を防ぐ燃料透過抑止性や機械的強度などの特性が必要である。これら特性を支配する要因として電解質膜のシワ、凹凸が影響することがわかっている。
【0004】
従来、輸送時や保存時の電解質膜のシワや凹凸の発生を防止する手段として、電解質膜をカバーシートとフィルムの間に挟みこむ方法が知られているが、この方法では、吸湿や温度などの環境変化による電解質膜の寸法変化が主な原因となる、シワ、凹凸、カールなどの発生を十分に抑制できない問題があった。
【0005】
特許文献1には、固体高分子固体電解質膜上に電極触媒層を形成させる燃料電池用電極構造体の製造に際し、粘着シート上に固体高分子固体電解質膜を設置、固定して、ペーストに含まれる溶媒による膨潤に起因するシワ発生を防止する方法が報告されているが、高分子固体電解質膜の輸送、保存時における形態安定化及び加工時の損壊の防止についてはなんら記載がない。
【0006】
また、特許文献2には、高分子固体電解質膜を加工する際に、粘着性を有するマスキング部材を積層することで、膨潤による電解質膜の変形を抑制することが記載されているが、高分子固体電解質膜の輸送、保存時における形態安定化及び加工時の損壊の防止についてはなんら記載がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−339062号公報
【特許文献2】特開2005−063780号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる従来技術の課題を背景になされたものである。すなわち、本発明の目的は、輸送時や保存時における、高分子固体電解質膜のシワ、凹凸、キズ、及び剥離などの発生を防ぎ形態安定性に優れると共に、高分子固体電解質膜の加工時における、高分子固体電解質膜の変形や損壊を防ぎ、取り扱い性にも優れた高分子固体電解質膜積層体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討した結果、以下に示す手段により、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、以下の構成からなる。
(1) 高分子固体電解質膜と、高分子固体電解質膜の少なくとも一方の面に粘着層を付与されたポリエステル系高分子フィルムが積層された高分子固体電解質膜積層体において、(a)該高分子固体電解質膜と該粘着層付与ポリエステル系高分子フィルムの剥離強度が1N/cm以下であり、かつ(b)該粘着層付与ポリエステル系高分子フィルムの引張弾性率が1GPa以上であることを特徴とする高分子固体電解質膜積層体。
(2) 非電解質フィルムの粘着層が、アクリル樹脂系粘着剤からなることを特徴とする(1)に記載の高分子固体電解質膜積層体。
(3) 非電解質フィルムの粘着層が、ポリオレフィン系粘着剤からなることを特徴とする(1)に記載の高分子固体電解質膜積層体。
(4) 粘着層を付与されたポリエステル系高分子フィルムが高分子固体電解質膜の一方の面のみに積層されていることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の高分子固体電解質膜積層体。
(5) 高分子固体電解質膜の一方の面に、粘着層を付与されたポリエステル系高分子フィルムが積層されており、かつ、もう一方の面に粘着剤を有さない高分子フィルムが積層されていることを特徴とする(4)に記載の高分子固体電解質膜積層体。
(6) 高分子固体電解質膜の、粘着剤を有さない高分子フィルムが積層された面とは反対の面には、何も積層されていないことを特徴とする(4)に記載の高分子固体電解質膜積層体。
(7) 高分子固体電解質膜が、主として芳香族基から構成されている主鎖骨格を有する芳香族系高分子電解質からなることを特徴とする(1)〜(7)のいずれかに記載の高分子固体電解質膜積層体。
(8) 前記高分子固体電解質膜が1GPa以上の引張弾性率(JIS−K7127に準拠)を有する非フッ素系高分子固体電解質膜である(8)に記載の高分子固体電解質膜積層体。
(9) ロール状に巻き取られていることを特徴とする(1)〜(8)に記載の高分子固体電解質膜積層体。
【発明の効果】
【0010】
本発明の高分子固体電解質膜積層体は、輸送時や保存時における、高分子固体電解質膜のシワ、凹凸、キズ、及び剥離などの発生を防ぐことができ形態安定性に優れている。また、高分子固体電解質膜の加工時における、高分子固体電解質膜の変形や損壊を防ぐことができ、取り扱い性にも優れている。特に高分子固体電解質膜と積層する非電解質フィルムが、粘着層を有するポリエステル系樹脂フィルムであると、さらに効果が増大する。また、本発明の高分子固体電解質膜積層体は、上記の問題が発生しやすい、主として芳香族基から構成されている主鎖骨格を有する芳香族系高分子電解質からなる高分子固体電解質膜に対して特に有効である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の高分子固体電解質膜積層体の実施の形態を説明する。
本発明で用いる粘着層付与ポリエステル系樹脂フィルムは、ポリエステル系樹脂からなるフィルムに粘着剤からなる粘着層を付与したフィルムである。粘着層付与ポリエステル系樹脂フィルムは、引張弾性率が1GPa以上であることを要件とする。弾性率が1GPa未満であると、積層体が充分に形態安定化されない場合があり好ましくない。弾性率が3GPa以上であるとより好ましい。また、弾性率は10GPa以下であることが好ましい。弾性率が10GPa以上であると、積層体の巻取りが困難となる場合があるため好ましくない。粘着層付与ポリエステル系樹脂フィルムにおけるポリエステル系樹脂フィルムの厚みは、1〜500μmの範囲であることが好ましく、10〜300μmの範囲であることがより好ましい。1μm未満であると形態安定化効果や取扱い性向上効果が充分に得られない場合があり好ましくない。また500μmを超えると、巻取りや加工が困難になるなどの問題が生じる場合があるため好ましくない。また、高分子固体電解質膜積層体において、粘着層付与ポリエステル系樹脂フィルムは、高分子固体電解質膜の全面を覆っていることが好ましい。粘着層付与ポリエステル系樹脂フィルムの面積は、高分子固体電解質膜と同じか、それよりも大きいことが好ましく、高分子固体電解質膜の片面にのみ、粘着層付与ポリエステル系樹脂フィルムを貼り付ける場合には、面積が同じであることがより好ましい。大きくなりすぎると、巻き出しが困難になるなどの問題が発生しやすくなるため、粘着層付与ポリエステル系樹脂フィルムの面積は、高分子固体電解質膜の面積に対して150%以下であることが好ましい。ただし、高分子固体電解質膜の面積よりも大きい粘着層付与ポリエステル系樹脂フィルムを、高分子固体電解質膜の片面に貼り付け、もう一方の面に、粘着層を有さない樹脂フィルムを、粘着層付与ポリエステル系樹脂フィルムが露出した部分の粘着性を用いて貼り付けることもできる。積層体をロールで巻き取る場合には、粘着層付与ポリエステル系樹脂フィルムの幅を調整することによって、高分子固体電解質膜との面積比を調整することができる。ポリエステル系樹脂とは、エステル結合を繰り返し単位中に有する高分子からなる樹脂を表し、繰り返し単位中に芳香族系構造単位を有することが好ましい。芳香族系構造単位とは、フェニレン基、ナフチレン基、複素芳香族環状基などの芳香族環を有する構造単位である。ポリエステル系樹脂として例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ(ヒドロキシ安息香酸)などを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。より好ましい樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートを挙げることができる。
【0012】
本発明に用いる粘着層付与ポリエステル系樹脂フィルムは、粘着層付与ポリエステル系樹脂フィルムと高分子固体電解質膜との剥離強度が1N/cm以下であるものを用いる。剥離強度が1N/cmを超えると、粘着剤の移行や、高分子固体電解質膜から剥離する際に、高分子固体電解質膜にシワやキズが発生したり、高分子固体電解質膜が損壊したりするなどの問題が生じる場合があるため好ましくない。剥離強度が0.005N/cm以下であると、積層後の剥離やシワが生じる場合があるため好ましくない。剥離強度の好ましい範囲は0.005〜1N/cmであり、より好ましい範囲は0.01〜0.5N/cmである。剥離強度は、粘着層の成分及び厚みによって制御することができる。粘着層付与ポリエステル系樹脂フィルムにおける粘着層の厚みは、0.1〜20μmであることが好ましく、1〜15μmの範囲であることがより好ましい。粘着層の厚みが0.1μm未満であると、積層後の剥離が生じるなどの問題が発生する場合があり好ましくない。粘着層の厚みが20μmを超えると、剥離が困難になる場合があるので好ましくない。1N/cm以下であること粘着層は、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアルキレンオキシド樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、及びそれらの変性樹脂などからなり、常温で粘着性を有し、ガラス転移温度が常温以下であるものを用いることができる。粘着性樹脂は、ポリエステル系樹脂フィルムから、高分子固体電解質膜に移行しにくいものが好ましい。中でも、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、及びそれらの変性樹脂が好ましく、ポリオレフィン樹脂、及びその変性樹脂がより好ましい。ポリオレフィン系粘着樹脂は、低結晶性、もしくは非晶性であるか、非晶性重合体を30質量%以上含んでいる事が好ましい。非晶性重合体としては、例えば、住友化学(株)製「タフセレンH3522A」、三井化学(株)製「ノティオTX1236A」などを例示することができる。また、非晶性重合体と混合するオレフィン系重合体としては、特に限定されるものではないが、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−1−ブテン共重合体、エチレン−1−ヘキセン共重合体、エチレン−1−オクテン共重合体、エチレン−4−メチル−1−ペンテン共重合体、エチレン−プロピレン−1−ブテン共重合体、エチレン−プロピレン−1−ヘキセン共重合体、エチレン−1−ブテン−1−ヘキセン共重合体、プロピレン−1−ブテン共重合体、プロピレン−1−ヘキセン共重合体、プロピレン−1−オクテン共重合体、プロピレン−4−メチル−1−ペンテン共重合体、プロピレン−1−ブテン−1−ヘキセン共重合体、プロピレン−1−ブテン−4−メチル−1−ペンテン共重合体等を挙げることができる。また、これらの重合体のメルトフローレートは1〜10g/10分の範囲のものが好ましく、さらに2〜5g/10分の範囲のものが好ましい。
【0013】
本発明で用いる粘着層付与ポリエステル系樹脂フィルムは、公知の添加剤を必要に応じて含有させたり、フィルム表面にコートしたりすることが出来る。例えば、滑剤、ブロッキング防止剤、熱安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、耐光剤、耐衝撃改良剤などを含有させたり、表面にコートしたりしても良い。
【0014】
本発明で用いる粘着層付与ポリエステル系樹脂フィルムの製造方法は、特に限定されるものではないが、インフレーションフィルム製造装置やTダイフィルム製造装置を用いてポリエステル樹脂層、粘着層をそれぞれ成形後、押出ラミネート法により貼り合せたり、最初から共押出により多層フィルムを形成したり、予め作製したポリエステル系樹脂フィルムに粘着層をコーティングして作製しても良い。
【0015】
本発明で用いる粘着層付与ポリエステル系樹脂フィルムは、粘着層の反対面に離形層を形成してもよく、例えば、シリコーン樹脂やフッ素樹脂からなる層や、プロピレンエチレンブロック共重合体からなる樹脂とポリエチレン樹脂を混合することによって得られるマット状表面層を積層することが出来る。マット状の表面を得るのに好適な樹脂としては、具体的にはサンアロマー(株)製「PC523D」や「PC523A」などのプロピレン−エチレンブロックコポリマーを例示することが出来る。
【0016】
本発明で用いる高分子固体電解質膜は、目的に応じて任意の膜厚にすることができるが、プロトン伝導性の面からはできるだけ薄いことが好ましい。具体的には3〜200μmであることが好ましく、5〜150μmであることがさらに好ましく、特に好ましくは5〜100μmである。高分子固体電解質膜の厚みが3μmより薄いと高分子固体電解質膜の取扱が困難となり燃料電池を作製した場合に短絡等が起こる傾向にあり、200μmよりも厚いと高分子固体電解質膜が頑丈となりすぎ、ハンドリングが難しくなる傾向にある。
【0017】
本発明における高分子固体電解質膜を形成するポリマーは任意の高分子固体電解質を用いることができる。一般に、主として芳香族基から構成されている主鎖骨格を有する芳香族系高分子電解質を用いる場合、輸送、保管、加工時における膜の変形や損壊の問題が起こりやすいが、本発明の高分子固体電解質膜積層体とすることでそれらの問題を解消することができる。
【0018】
主として芳香族基から構成されている主鎖骨格を有する芳香族系高分子電解質としては、イオン性基を有する芳香族炭化水素系ポリマーを例として挙げることができる。そのようなポリマーとしては、ポリマー主鎖に芳香族あるいは芳香環とエーテル結合、スルホン結合、イミド結合、エステル結合、アミド結合、ウレタン結合、スルフィド結合、カーボネート結合及びケトン結合から選択される少なくとも1種以上の結合基を有する構造を持つ非フッ素系あるいは部分フッ素系のイオン伝導性ポリマーであり、例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリパラフェニレン、ポリアリーレン系ポリマー、ポリフェニルキノキサリン、ポリアリールケトン、ポリエーテルケトン、ポリベンズオキサゾール、ポリベンズチアゾール、ポリベンズイミダゾール、ポリイミド等の構成成分の少なくとも1種を含むポリマーに、イオン性基が導入されているポリマーを挙げることができる。イオン性基としては、スルホン酸基、ホスホン酸基、カルボキシル基、スルホンアミド基、スルホンイミド基、及びそれらの誘導体の少なくとも1種を挙げることができるが、スルホン酸基、あるいはホスホン酸基が好ましい。また、ここでいうポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン等は、その分子鎖にスルホン結合、エーテル結合、ケトン結合を有しているポリマーの総称であり、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトンケトン、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン、ポリエーテルケトンスルホンなどを含むとともに、特定のポリマー構造に限定されるものではない。
【0019】
上記のポリマーのうち、特に芳香環上にスルホン酸基を持つポリマーは、上記例のような骨格を持つポリマーに対して適当なスルホン化剤を反応させることにより得ることができる。このようなスルホン化剤としては、例えば、芳香族系炭化水素系ポリマーにスルホン酸基を導入する例として報告されている、濃硫酸や発煙硫酸を使用するもの(例えば、Solid State Ionics,106,P.219(1998))、クロル硫酸を使用するもの(例えば、J.Polym.Sci.,Polym.Chem.,22,P.295(1984))、無水硫酸錯体を使用するもの(例えば、J.Polym.Sci.,Polym.Chem.,22,P.721(1984)、J.Polym.Sci.,Polym.Chem.,23,P.1231(1985))等が有効である。本発明のイオン性基含有ポリマー、特にイオン伝導性がスルホン酸基であるポリマーを得るためには、これらの試薬を用い、それぞれのポリマーに応じた反応条件を選定することにより実施することができる。また、特許第2884189号に記載のスルホン化剤等を用いることも可能である。
【0020】
また、上記芳香族炭化水素系イオン性基含有ポリマーは、重合に用いるモノマーの中の少なくとも1種に酸性基を含むモノマーを用いて合成することもできる。例えば、芳香族ジアミンと芳香族テトラカルボン酸二無水物から合成されるポリイミドにおいては、芳香族ジアミンの少なくとも1種にスルホン酸基やホスホン酸基を含有するジアミンを用いて酸性基含有ポリイミドとすることが出来る。芳香族ジアミンジオールと芳香族ジカルボン酸から合成されるポリベンズオキサゾール、芳香族ジアミンジチオールと芳香族ジカルボン酸から合成されるポリベンズチアゾール、芳香族テトラミンと芳香族ジカルボン酸から合成されるポリベンズイミダゾールの場合は、芳香族ジカルボン酸の少なくとも1種にスルホン酸基含有ジカルボン酸やホスホン酸基含有ジカルボン酸を使用することにより酸性基含有ポリベンズオキサゾール、ポリベンズチアゾール、ポリベンズイミダゾールとすることが出来る。芳香族ジハライドと芳香族ジオールから合成されるポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトンなどは、モノマーの少なくとも1種にスルホン酸基含有芳香族ジハライドやスルホン酸基含有芳香族ジオールを用いることで合成することが出来る。この際、スルホン酸基含有ジオールを用いるよりも、スルホン酸基含有ジハライドを用いる方が、重合度が高くなりやすいとともに、得られた酸性基含有ポリマーの熱安定性が高くなるので好ましい。
【0021】
芳香族炭化水素系イオン性基含有ポリマーは、ホモポリマー、ランダム共重合体、セグメント化ブロック共重合体、長鎖あるいは短鎖の分岐を有する重合体、櫛型重合体、星型重合体、側鎖にイオン性基を導入した重合体などの高次構造を有していてもよい。中でも、セグメント化ブロック共重合体や側鎖にイオン性基を導入した重合体など、親水性部と疎水性部の相分離によって共連続構造を形成する重合体を用いると、耐久性や、プロトン伝導性の面でより好ましい。そのようなセグメント化ブロック共重合体としては、イオン性基を有する親水性セグメントと、イオン性基を有さない疎水性セグメントからなるセグメント化ブロック共重合体を挙げることができ、そのようなポリマーを製造する手段としては、前記のセグメントを構成するオリゴマーを、直接あるいは他の化合物を用いて反応させることによって得ることを挙げることができる。
【0022】
芳香族炭化水素系イオン性基含有ポリマーは、スルホン酸基含有ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリエーテルケトン系ポリマーなどのポリアリーレンエーテル系化合物、ポリアリーレン系化合物であることがより好ましい。
【0023】
芳香族炭化水素系イオン性基含有ポリマーの中で特に好ましいのは、一般式1で表される繰り返し単位を有するものである。
【0024】
【化1】

[一般式1において、Xは−S(=O)2−基又は−C(=O)−基を、YはH又は1価の陽イオンを、Z1はO又はS原子のいずれかを、Z2は、O原子、S原子、−C(CH3)2−基、−C(CF3)2−基、−CH2−基、シクロヘキシル基、直接結合のいずれかを、n1は1以上の整数を表す。]
【0025】
一般式1において、Xは−S(=O)2−基であると溶剤への溶解性が向上するため好ましい。Xが−C(=O)−基であると、ポリマーの軟化温度を下げて電極との接合性をさらに高めたり、電解質膜に光架橋性を付与したりすることができるため好ましい。高分子固体電解質膜として用いる場合には、YはH原子であることが好ましい。ただし、YがH原子であると、熱などによって分解しやすくなるので、電解質膜の製造などの加工時にはYをNaやKなどのアルカリ金属塩としておき、加工後に酸処理によってYをH原子に変換して高分子固体電解質膜を得ることもできる。Z1はO原子であるとポリマーの着色が少なかったり、原料が入手しやすかったりするなどの利点があり好ましい。Z1がSであると耐酸化性が向上するため好ましい。n1は1〜30の範囲にあることが好ましく、n1が3以上の場合には、n1が異なる複数の単位が含まれていてもよい。Z2は、O原子、S原子、−C(CH3)2−基、−C(CF3)2−基、−CH2−基、シクロヘキシル基、直接結合を表し、O原子、S原子であるとより接合性がより改良されるため好ましい。Z2が直接結合である場合は、得られる高分子固体電解質膜の寸法安定性が改良されるために好ましい。n1が3以上の場合はZ2がO原子であると、高分子固体電解質膜にした場合の電極触媒層との接合性が特に向上するため好ましい。
【0026】
一般式1で表される繰り返し単位を有するイオン性基含有ポリマーは、さらに一般式2で表される繰り返し単位をさらに含有していることが好ましい。
【0027】
【化2】

[一般式2において、Ar1は二価の芳香族基を、Z3はO原子又はS原子のいずれかを、Z4は、O原子、S原子、−C(CH3)2−基、−C(CF3)2−基、−CH2−基、シクロヘキシル基、直接結合のいずれかを、n2は1以上の整数を表す。]
【0028】
一般式2において、Z3はO原子であるとポリマーの着色が少なかったり、原料が入手しやすかったりするなどの利点があり好ましい。Z3がS原子であると耐酸化性が向上するため好ましい。n2は1〜30の範囲にあることが好ましく、n2が3以上の場合には、n2が異なる複数の単位が含まれていてもよい。Z4は、O原子、S原子、−C(CH3)2−基、−C(CF3)2−基、−CH2−基、シクロヘキシル基、直接結合を表し、O原子、S原子であるとより接合性がより改良されるため好ましい。Z4が直接結合である場合は、得られる高分子固体電解質膜の寸法安定性が改良されるために好ましい。n2が3以上の場合はZ4がO原子であると、高分子固体電解質膜にした場合の電極触媒層との接合性が特に向上するため好ましい。
【0029】
本発明における高分子固体電解質膜を構成するイオン性基含有ポリマーが、主として、一般式1で表される繰り返し単位と、一般式2で表される繰り返し単位で構成される場合には、それぞれのモル比は、7:93〜70:30の範囲であることが好ましい。モル比が7:93とは、一般式1で表される繰り返し単位のモル数を7としたとき、一般式2で表される繰り返し単位のモル数が93であることを表す。70:30のモル比よりも一般式1で表される繰り返し単位が多くなると、高分子固体電解質膜としたときの燃料透過性が大きくなる場合があり好ましくない。7:93のモル比よりも一般式1で表される繰り返し単位が少なくなると、高分子固体電解質膜としたときのプロトン伝導性が低下して抵抗が増大するため好ましくない。10:90〜50:50の範囲であることがより好ましい。10:90〜40:60の範囲であることがさらに好ましい。本発明におけるイオン性基含有ポリマーは、一般式1及び一般式2で表される繰り返し単位を有することによって適切な軟化温度を有し、高分子固体電解質膜としたときに良好な電極との接合性を示す。
【0030】
一般式2におけるAr1は、電子吸引性基を有する二価の芳香族基が好ましい。電子吸引性基とは、例えばスルホン基、スルホニル基、スルホン酸基、スルホン酸エステル基、スルホン酸アミド基、スルホン酸イミド基、カルボキシル基、カルボニル基、カルボン酸エステル基、シアノ基、ハロゲン基、トリフルオロメチル基、ニトロ基などを挙げることができるが、これらに限定されず、公知の任意の電子吸引性基であればよい。
【0031】
Ar1の好ましい構造は、化学式3〜6で表される構造である。化学式3の構造はポリマーの溶解性を高めることができ好ましい。化学式4の構造はポリマーの軟化温度を下げて電極との接合性を高めたり、光架橋性を付与したりするので好ましい。化学式5又は6の構造はポリマーの膨潤を少なくできるので好ましく、化学式6の構造がより好ましい。化学式3〜6の中でも化学式6の構造が最も好ましい。
【0032】
【化3】

【0033】
本発明における高分子固体電解質膜を構成するイオン性基含有ポリマーのさらに好ましい態様の一つは、高分子固体電解質膜が主として、一般式1で表される構造と、一般式2で表される構造で構成され、かつ一般式1におけるZ1及びZ2がいずれもO原子であり、かつ、n1が3以上であるイオン性基含有ポリマーである。このようなイオン性基含有ポリマーを用いると、電極との接合性が特に向上するため好ましい。
【0034】
前記のイオン性基含有ポリマーのさらに好ましい態様の一つは、一般式2における、Z3及びZ4がいずれもO原子であり、かつ、n2が3以上であるとより好ましい。このようなイオン性基含有ポリマーを用いると、電極との接合性がより一層向上するため好ましい。
【0035】
本発明における高分子固体電解質膜を構成するイオン性基含有ポリマーのさらに好ましい態様の一つは、一般式1及び一般式2に加えて、一般式7で表される繰り返し単位を有するイオン性基含有ポリマーである。一般式1及び一般式2で表される繰り返し単位に加え、一般式7で表される繰り返し単位をさらに有していることが、高分子固体電解質膜としたときの膜の形態安定性を高めることができるため好ましい。
【0036】
【化4】

[一般式7において、Xは−S(=O)2−基又は−C(=O)−基を、YはH又は1価の陽イオンを、Z5はO又はS原子のいずれかを表す。]
【0037】
一般式7において、Xは−S(=O)2−基であると溶剤への溶解性が向上するため好ましい。Xが−C(=O)−基であると、ポリマーの軟化温度を下げて電極との接合性をさらに高めたり、電解質膜に光架橋性を付与したりすることができるため好ましい。高分子固体電解質膜として用いる場合には、YはH原子であることが好ましい。ただし、YがH原子であると、熱などによって分解しやすくなるので、電解質膜の製造などの加工時にはYをNaやKなどのアルカリ金属塩としておき、加工後に酸処理によってYをH原子に変換して高分子固体電解質膜を得ることもできる。Z5はO原子であるとポリマーの着色が少なかったり、原料が入手しやすかったりするなどの利点があり好ましい。Z5がSであると耐酸化性が向上するため好ましい。
【0038】
本発明における高分子固体電解質膜を構成するイオン性基含有ポリマーが、一般式1、2、及び7で表される繰り返し単位を有している場合には、Z1及びZ2が、O原子又はS原子であり、かつ、n1が1であると、高分子固体電解質膜とした場合の電極触媒層との接合性と、膜の形態安定性がより良好になるので好ましい。また、Z3及びZ4が、O原子又はS原子であり、かつ、n2が1であると、高分子固体電解質膜とした場合の電極触媒層との接合性と、膜の形態安定性がさらに良好になるので好ましい。
【0039】
本発明における高分子固体電解質膜を構成するイオン性基含有ポリマーは、一般式1、2、及び7で表される繰り返し単位に加え、一般式8で表される繰り返し単位をさらに有していると、高分子固体電解質膜としたときに、電極触媒層との接合性と、膜の形態安定性を大きく向上することができるためよりより好ましい。
【0040】
【化5】

[一般式8において、Ar2は2価の芳香族基を、Z6はO原子又はS原子のいずれかを表す。]
【0041】
一般式8におけるZ6はO原子であるとポリマーの着色が少なかったり、原料が入手しやすかったりするなどの利点があり好ましい。Z6がS原子であると耐酸化性が向上するため好ましい。化学式8におけるAr2は、電子吸引性基を有する二価の芳香族基が好ましい。電子吸引性基とは、例えばスルホン基、スルホニル基、スルホン酸基、スルホン酸エステル基、スルホン酸アミド基、スルホン酸イミド基、カルボキシル基、カルボニル基、カルボン酸エステル基、シアノ基、ハロゲン基、トリフルオロメチル基、ニトロ基などを挙げることができるが、これらに限定されず、公知の任意の電子吸引性基であればよい。
【0042】
Ar2の好ましい構造は、化学式3〜6で表される構造である。化学式3の構造はイオン性基含有ポリマーの溶解性を高めることができ好ましい。化学式4の構造はイオン性基含有ポリマーの軟化温度を下げて電極との接合性をさらに高めたり、光架橋性を付与したりするので好ましい。化学式5又は6の構造はイオン性基含有ポリマーの膨潤を少なくできるので好ましく、化学式6の構造がより好ましい。化学式3〜6の中でも化学式6の構造が最も好ましい。
【0043】
本発明における高分子固体電解質膜を構成するイオン性基含有ポリマーが、一般式1、2、7及び8でそれぞれ表される繰り返し単位を全て有している場合は、それぞれの繰り返し単位のモル%、及びその他の繰り返し単位のモル%が下記数式1〜3を満たすことが好ましい。
【0044】
0.9≦(n3+n4+n5+n6)/(n3+n4+n5+n6+n7)≦1.0 (数式1)
0.05≦(n3+n4)/(n3+n4+n5+n6)≦0.7 (数式2)
0.01≦(n4+n6)/(n3+n4+n5+n6)≦0.95 (数式3)
(上記数式中、n3は一般式7で表される繰り返し単位のモル%を、n4は一般式1で表される繰り返し単位のモル%を、n5は一般式8で表される繰り返し単位のモル%を、n6は一般式2で表される繰り返し単位のモル%を、n7はその他の繰り返し単位のモル%を、それぞれ表す。)
【0045】
(n3+n4+n5+n6)/(n3+n4+n5+n6+n7)が0.9よりも小さいと、高分子固体電解質膜としたときに良好な特性が得られないため好ましくない。より好ましいのは0.95〜1.0の範囲である。
【0046】
(n3+n4)/(n3+n4+n5+n6)が0.05よりも小さくなると、高分子固体電解質膜としたときに十分なプロトン伝導性が得られないため好ましくない。また、0.9よりも大きいと高分子固体電解質膜としたときの膨潤性が著しく大きくなるため好ましくない。より好ましい範囲は0.1〜0.7の範囲である。
【0047】
(n3+n4)/(n3+n4+n5+n6)は0.07〜0.5の範囲であることが好ましく、0.1〜0.4の範囲であることがより好ましい。0.5よりも大きいと、燃料透過性が大きくなる場合があり好ましくない。0.07よりも小さいと、プロトン伝導性が低下して抵抗が増大するため好ましくない。
【0048】
(n4+n6)/(n3+n4+n5+n6)が0.01よりも少ないと、高分子固体電解質膜としたときに電極触媒層との接合性が低下するため好ましくない。0.95よりも大きいと、高分子固体電解質膜としたときの膨潤性が大きくなりすぎる場合があるため好ましくない。0.05〜0.8がより好ましい範囲である。0.4〜0.8の範囲であることがさらに好ましい。
【0049】
なお、本発明におけるイオン性基含有ポリマーにおいて、上記各一般式で表される各繰り返し単位の結合様式は特に限定されるものではなく、ランダム結合、交互結合、連続したブロック構造での結合など、いずれでもよい。
【0050】
本発明における上記イオン性基含有ポリマーの合成方法としては、公知の方法を採用でき、特に限定されないが、合成に用いる原料モノマーの好ましい例として、下記一般式9〜11で表される構造のモノマーを挙げることができる。さらに、一般式12で表される構造のモノマーをさらに用いると、膜の形態安定性など物理的な特性が向上するため好ましい。
【0051】
【化6】

【0052】
一般式9〜12において、Xは−S(=O)2−基又は−C(=O)−基を、YはH又は1価の陽イオンを、Z7及びZ10は、それぞれ独立してCl原子、F原子、I原子、Br原子、ニトロ基のいずれかを、Z8及びZ11は、それぞれ独立してOH基、SH基、−O−NH−C(=O)−R基、−S−NH−C(=O)−R基のいずれかを[Rは芳香族又は脂肪族の炭化水素基を表す。]、Z9は、O原子、S原子、−C(CH3)2−基、−C(CF3)2−基、−CH2−基、シクロヘキシル基のいずれかを、Ar4は分子中に、スルホン基、カルボニル基、スルホニル基、ホスフィン基、シアノ基、トリフルオロメチル基などのパーフルオロアルキル基、ニトロ基、ハロゲン基などの電子吸引性基を有する芳香族基を表す。
【0053】
一般式9で表される化合物の具体例としては、3,3’−ジスルホ−4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホ−4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホ−4,4’−ジクロロジフェニルケトン、3,3’−ジスルホ−4,4’−ジフルオロジフェニルケトン、3,3’−ジスルホブチル−4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホブチル−4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホブチル−4,4’−ジクロロジフェニルケトン、3,3’−ジスルホブチル−4,4’−ジフルオロジフェニルケトン、及びそれらのスルホン酸基が1価陽イオン種との塩になったもの等が挙げられる。1価陽イオン種としては、ナトリウム、カリウムや他の金属種や各種アミン類等でも良く、これらに制限されるわけではない。
【0054】
一般式9で表される化合物のうち、スルホン酸基が塩になっている化合物の例としては、3,3’−ジスルホン酸ナトリウム−4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホン酸ナトリウム−4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホン酸ナトリウム−4,4’−ジクロロジフェニルケトン、3,3’−ジスルホン酸ナトリウム−4,4’−ジフルオロジフェニルケトン、3,3’−ジスルホン酸カリウム−4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホン酸カリウム−4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホン酸カリウム−4,4’−ジクロロジフェニルケトン、3,3’−ジスルホン酸カリウム−4,4’−ジフルオロジフェニルケトンなどを挙げることができる。
【0055】
一般式10で表される化合物の具体例としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’−チオビスベンゼンチオール、4,4’−オキシビスベンゼンチオール、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホンなどを挙げることができ、4,4’−チオビスベンゼンチオール、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、末端ヒドロキシル基含有フェニレンエーテルオリゴマー(下記化学式13で表される構造のもの)が好ましい。化学式13においては、nは1以上の整数からなり、nの異なる成分が混合されたものでも良い。
【0056】
【化7】

【0057】
一般式10で表される構造のモノマーは、イオン性基含有ポリマーの柔軟性を高め、変形に対する破壊を抑制したり、ガラス転移温度を低下させ電極触媒層との接合性を向上させたりするなどの効果をもたらすことができる。
【0058】
一般式11で表される化合物としては、同一芳香環にハロゲン、ニトロ基などの求核置換反応における脱離基と、それを活性化する電子吸引性基を有する化合物を挙げることができる。具体例としては、2,6−ジクロロベンゾニトリル、2,4−ジクロロベンゾニトリル、2,6−ジフルオロベンゾニトリル、2,4−ジフルオロベンゾニトリル、4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、4,4’−ジフルオロベンゾフェノン、4,4’−ジクロロベンゾフェノン、デカフルオロビフェニル等が挙げられるがこれらに制限されることなく、芳香族求核置換反応に活性のある他の芳香族ジハロゲン化合物、芳香族ジニトロ化合物、芳香族ジシアノ化合物なども使用することができる。
【0059】
一般式12で表される化合物の例としては、4,4’−ビフェノール、4、4’−ジメルカプトビフェノールなどを挙げることができ、4,4’−ビフェノールが好ましい。
上述の芳香族求核置換反応において、一般式9〜12で表される化合物とともに他の各種活性化ジハロゲン芳香族化合物やジニトロ芳香族化合物、ビスフェノール化合物、ビスチオフェノール化合物をモノマーとして併用することもできる。
【0060】
その他のビスフェノール化合物又はビスチオフェノール化合物の例としては、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシ−2,5−ジメチルフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、ハイドロキノン、レゾルシン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン、1,4−ベンゼンジチオール、1,3−ベンゼンジチオール、フェノールフタレイン、10−(2,5−ジヒドロキシフェニル)−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−フォスファフェナンスレン−10−オキサイド等が挙げられるが、この他にも芳香族求核置換反応によるポリアリーレンエーテル系化合物の重合に用いることができる各種芳香族ジオール又は各種芳香族ジチオールを使用することもでき、上記の化合物に限定されるものではない。
【0061】
本発明で用いるイオン性基含有高分子固体電解質膜の製造方法においては、上記の活性化ジハロゲン芳香族化合物やジニトロ芳香族化合物や芳香族ジオール類又は芳香族ジチオール類を原料とし、塩基性化合物の存在下で、公知の芳香族求核置換反応により重合して得られるポリマーで、対数粘度が0.1〜5.0dL/gで、軟化温度が120℃以上のものが好ましく、さらに軟化温度が140〜300℃のものがより好ましい。
【0062】
本発明の高分子固体電解質膜積層体の形状は特に限定されず、シート、ロールでも構わないが、好ましくはロール状態に巻き取られた状態で本発明の効果がより発揮される。高分子固体電解質膜の片面にのみ、非電解質フィルムを積層する場合には、高分子固体電解質膜を内側に巻いたほうが、輸送時や保管時の湿度変化による形状への影響を受けにくくより好ましい。
【実施例】
【0063】
以下本発明を、実施例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、各種測定は次のように行った。
【0064】
<引張弾性率>
JIS−K7127に準拠し、室温が23℃で湿度が50±5RH%にコントロールされた測定室内で、試料幅10mm、試料長40mmのサンプルを引張試験機(東洋精機株式会社製)にて、ヘッド速度20mm/minで引っ張ったときの引張応力−ひずみ曲線の傾きより求めた。
【0065】
<積層体の剥離強度>
JIS−C5016に準拠して、90度剥離法で測定した。
すなわち、積層体をロールのMD方向に幅20mm、長さ100mmにカットし、粘着フィルム側に両面テープを貼り、自由に回転できる回転ドラムに貼りつけた後、電解質膜の端部を少し引き剥がし、引張試験機のつかみ具に挟んでMD方向に引き剥がしたときの荷重を測定し、安定部分の平均荷重を剥離強さとし、n=5の平均値を求めた。
【0066】
<積層体における電解質膜の品位>
電解質膜のシワ、剥離、凹凸、貼り斑、高分子固体電解質膜積層体のカールなどを肉眼で観察して3段階に評価した。
○:シワ、剥離、貼り斑、カールなどが全く認められない。
△:シワ、剥離、凹凸、貼り斑、カールなどがわずかに認められる。
×:シワ、剥離、凹凸、貼り斑、カールなどが著しく認められる。
【0067】
<剥離後の電解質膜表面の汚染の評価>
肉眼観察を実施し、肉眼観察で明確な転写物が認められない場合は、粘着フィルム剥離後の電解質膜表面をESCA分析装置により分析し、S原子のピーク(S2p)に基づいて得られるS原子%に関し、ブランク電解質膜表面の値 (S0)に対する剥離後の電解質膜表面の値(S1)の比率で評価した。
S原子%比率(%)=(S1/S0)×100
○:60%以上、 △:60%未満〜30%以上、
×:肉眼で転写物、糊残りが認められる。
【0068】
<製造例1>
(高分子固体電解質膜の作製)
3,3’−ジスルホ−4,4’−ジクロロジフェニルスルホン2ナトリウム塩778g、2,6−ジクロロベンゾニトリル553g、4,4’−ビフェノール893g、炭酸カリウム763g、N−メチル−2−ピロリドンを5631g入れて、窒素雰囲気下にて200℃で10時間反応させた。放冷の後、水中にストランド状に沈殿させ、得られたポリマーを10Lの水で5回洗浄した後、乾燥した。このポリマーのこのポリマーの対数粘度は1.25dL/gであった。
次いで、このポリマーを、N−メチル−2−ピロリドンを溶剤として用い、ポリマー濃度が25質量%となるようにポリマー溶液を調整した。調整した溶液を、支持体である幅30cmの非粘着ポリエチレンテレフタレートフィルム上に、ブレードコーターにて、幅25cm、厚み200μmになるよう温度25℃で連続的に流延し、温度130℃で30分間乾燥して、流延膜が乾燥によって自己支持性を示すようになったポリマー膜を支持体上に密着した状態で得た。引き続き、支持体からポリマー膜を剥がすことなく連続的に、30℃、20質量%硫酸水溶液に12分間浸漬し、次いで、支持体からポリマー膜を剥がすことなく30℃の純水に18分間浸漬した後、30℃純水に18分間浸漬し、さらに、支持体からポリマー膜を剥がすことなく25℃で15分間風乾させ、支持体のポリエチレンテレフタレートフィルムに接着した、厚さ30μmの高分子固体電解質膜を得た。得られた高分子固体電解質膜をポリエチレンテレフタレートフィルムから剥離して引張弾性率を測定したところ、1.4GPaであった。
【0069】
<実施例1>
25℃の環境下で、製造例1で得られた支持体付きの高分子固体電解質膜の高分子固体電解質膜面と、幅が28cmで、10μmのアクリル樹脂系粘着層を有する厚み50μmのポリエチレンテレフタレートフィルムの粘着層面とを、粘着層を有するポリエチレンテレフタレートフィルムが高分子固体電解質膜を完全に覆うようにして貼り合わせ、0.1MPaの荷重をかけたニップロールを通し、ロール状に巻取り、高分子固体電解質膜積層体を得た。得られた高分子固体電解質膜積層体は剥離やシワのない良好なものであった。また、ロールから高分子固体電解質膜積層体を巻きだして1mの長さに切り出したが、カールなどの変形は全く生じなかった。また、得られた高分子固体電解質膜積層体は任意の形状に容易に加工することができた。用いた粘着層付与ポリエチレンテレフタレートフィルムの弾性率は4GPaであり、得られた高分子固体電解質膜積層体からの粘着層付与ポリエチレンテレフタレートフィルムの剥離強度は0.1N/cmであった。
【0070】
<実施例2>
幅が28cmで、アクリル樹脂系粘着層を有する厚み50μmのポリエチレンテレフタレートフィルムの代わりに、5μmの変性ポリオレフィン樹脂系粘着層を有する厚み30μmのポリエチレンテレフタレートフィルムを用いた以外は、実施例1と同様にしてロール状高分子固体電解質膜積層体を得た。得られた高分子固体電解質膜積層体は剥離やシワのない良好なものであり、切り出した高分子固体電解質膜積層体にはカールなどの変形は全く生じず、任意の形状に容易に加工することができた。用いた粘着層付与ポリエチレンテレフタレートフィルムの弾性率は4GPaであり、得られた高分子固体電解質膜積層体からの粘着層付与ポリエチレンテレフタレートフィルムの剥離強度は0.05N/cmであった。
【0071】
<実施例3>
アクリル樹脂系粘着層を有する厚み50μmのポリエチレンテレフタレートフィルムの代わりに、大日精化社製のプロピレン系樹脂(ペリコンCAP350)からなる10μmの粘着層を有する、幅が28cm、厚み50μmのポリエチレンテレフタレートフィルムを用いた以外は、実施例1と同様にしてロール状高分子固体電解質膜積層体を得た。得られた高分子固体電解質膜積層体は剥離やシワのない良好なものであり、切り出した高分子固体電解質膜積層体にはカールなどの変形は全く生じず、任意の形状に容易に加工することができた。用いた粘着層付与ポリエチレンテレフタレートフィルムの弾性率は4GPaであり、得られた高分子固体電解質膜積層体からの粘着層付与ポリエチレンテレフタレートフィルムの剥離強度は0.08N/cmであった。用いた粘着層付与ポリエチレンテレフタレートフィルムの弾性率は4GPaであり、得られた高分子固体電解質膜積層体からの粘着層付与ポリエチレンテレフタレートフィルムの剥離強度は0.1N/cmであった。
【0072】
<実施例4>
結合水を取り除いた3,3’−ジスルホン酸ナトリウム−4,4’−ジクロロジフェニルスルホン(略号:S−DCDPS)800.0g、2,6−ジクロロベンゾニトリル(略号:DCBN)356.5g、4,4’−ビフェノール(略号:BP) 600.5g、4,4’−チオビスフェノール(略号:BPS) 96.9g、炭酸カリウム 562.7g、N−メチル−2−ピロリドン(略号:NMP) 4624.3gを原料とする以外は、製造例1と同様にして対数粘度1.35dl/gのポリマーを得た。このポリマーを用いて製造例1と同様にして高分子固体電解質膜を得た。この電解質膜の引張弾性率は1.6GPaであった。さらに、実施例1と同様にしてロール状高分子固体電解質膜積層体を得た。得られた高分子固体電解質膜積層体は剥離やシワのない良好なものであり、切り出した高分子固体電解質膜積層体にはカールなどの変形は全く生じず、任意の形状に容易に加工することができた。用いた粘着層付与ポリエチレンテレフタレートフィルムの弾性率は4GPaであり、得られた高分子固体電解質膜積層体からの粘着層付与ポリエチレンテレフタレートフィルムの剥離強度は0.09N/cmであった。
【0073】
<実施例5>
乾燥したS−DCDPS 310.1g、DCBN 253.3g、末端ヒドロキシル基含有フェニレンエーテルオリゴマー(大日本インキ化学工業社製SPECIANOL DPE−PL;化学式13においてnが1〜8の成分を含む混合物でnの平均値は5である構造であるもの)(略号:DPE) 1156.5g、炭酸カリウム319.0g、NMP 5165.3gを用い、反応時間を8時間にした他は、製造例1と同様にして対数粘度0.83dl/gのポリマーを得た。このポリマーを用いて製造例1と同様にして高分子固体電解質膜を得た。この電解質膜の引張弾性率は1.6GPaであった。さらに、実施例1と同様にしてロール状高分子固体電解質膜積層体を得た。得られた高分子固体電解質膜積層体は剥離やシワのない良好なものであり、切り出した高分子固体電解質膜積層体にはカールなどの変形は全く生じず、任意の形状に容易に加工することができた。用いた粘着層付与ポリエチレンテレフタレートフィルムの弾性率は4GPaであり、得られた高分子固体電解質膜積層体からの粘着層付与ポリエチレンテレフタレートフィルムの剥離強度は0.1N/cmであった。
【0074】
<実施例6>
製造例1において、3,3’−ジスルホ−4,4’−ジクロロジフェニルスルホン2ナトリウム塩778gのかわりに3,3’−ジスルホ−4,4’−ジクロロジフェニルケトン2ナトリウム塩721gを用いて同様にポリマーを合成した。得られたポリマーの対数粘度は1.29dL/gであった。このポリマーを用いて製造例1と同様にして高分子固体電解質膜を得た。この電解質膜の引張弾性率は2.1GPaであった。さらに、実施例1と同様にしてロール状高分子固体電解質膜積層体を得た。得られた高分子固体電解質膜積層体は剥離やシワのない良好なものであり、切り出した高分子固体電解質膜積層体にはカールなどの変形は全く生じず、任意の形状に容易に加工することができた。用いた粘着層付与ポリエチレンテレフタレートフィルムの弾性率は4GPaであり、得られた高分子固体電解質膜積層体からの粘着層付与ポリエチレンテレフタレートフィルムの剥離強度は0.11N/cmであった。
【0075】
<実施例7>
9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン1.20g、ビスフェノールS2.00g、ジフルオロジフェニルスルホン2.90g、炭酸カリウム1.82gを100ml四つ口フラスコに計り取り、窒素気流下で40mlのNMPを入れて、反応温度を175℃付近に設定して7時間反応させた。放冷の後、約300mlのメタノール中に再沈殿させ、ミキサーを用いて5回水洗処理をしてポリマーを得た。得られたポリマーの対数粘度は、0.62dL/gであった。ポリマー試料を濃硫酸(98%)とともに室温でマグネティックスターラーにより撹拌することで、スルホン化反応を行い、反応後、硫酸溶液を過剰の氷水中に投入して反応を止め、生じた沈殿を濾取、水洗して、スルホン酸基含有ポリマーを得た。このポリマーを用いて製造例1と同様にして高分子固体電解質膜を得た。この電解質膜の引張弾性率は1.2GPaであった。さらに、実施例1と同様にしてロール状高分子固体電解質膜積層体を得た。得られた高分子固体電解質膜積層体は剥離やシワのない良好なものであり、切り出した高分子固体電解質膜積層体にはカールなどの変形は全く生じず、任意の形状に容易に加工することができた。用いた粘着層付与ポリエチレンテレフタレートフィルムの弾性率は4GPaであり、得られた高分子固体電解質膜積層体からの粘着層付与ポリエチレンテレフタレートフィルムの剥離強度は0.1N/cmであった。
【0076】
<実施例8>
3,3’,4,4‘−テトラアミノジフェニルスルホン45g、2,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸モノナトリウム42g、ポリリン酸(五酸化リン含量75%)615g、五酸化リン500gを重合容器に量り取り、窒素を流し、オイルバス中でゆっくり撹拌しながら120℃まで昇温し、1時間保持した後、200℃に昇温して6時間反応させた。その後、放冷し、水を加えて重合物を取り出し、家庭用ミキサーを用いて5回水洗を繰り返した後の水浸漬ポリマーに炭酸ナトリウムを加えて中和し、更に水洗を繰り返して洗液のpHが中性となり変化しないことを確認した。得られたポリマーは80℃で終夜減圧乾燥した。ポリマーの対数粘度は、1.73dL/gを示した。得られたポリマーとNMPを25質量%になるようにはかり取り、撹拌しながら、オイルバス上で170℃に加熱して溶解させた。得られた溶液を用いて製造例1と同様にして高分子固体電解質膜を得た。この電解質膜の引張弾性率は2.0GPaであった。さらに、実施例1と同様にしてロール状高分子固体電解質膜積層体を得た。得られた高分子固体電解質膜積層体は剥離やシワのない良好なものであり、切り出した高分子固体電解質膜積層体にはカールなどの変形は全く生じず、任意の形状に容易に加工することができた。用いた粘着層付与ポリエチレンテレフタレートフィルムの弾性率は4GPaであり、得られた高分子固体電解質膜積層体からの粘着層付与ポリエチレンテレフタレートフィルムの剥離強度は0.11N/cmであった。
【0077】
<実施例9>
3,3’,4,4‘−テトラアミノジフェニルスルホン18.3g、2,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸モノナトリウム5.30g、3,5−ジカルボキシフェニルホスホン酸11.3g、ポリリン酸(五酸化リン含量5%)250g、五酸化リン200gを重合容器に量り取り、実施例8と同様にしてポリマーを得た。ポリマーの対数粘度は、1.53dL/gを示した。得られたポリマーはN−メチル−2−ピロリドン(NMP)とともに25質量%濃度となるようにオイルバス中で溶解し、得られた溶液を用いて製造例1と同様にして高分子固体電解質膜を得た。この電解質膜の引張弾性率は1.7GPaであった。さらに、実施例1と同様にてロール状高分子固体電解質膜積層体を得た。得られた高分子固体電解質膜積層体は剥離やシワのない良好なものであり、切り出した高分子固体電解質膜積層体にはカールなどの変形は全く生じず、任意の形状に容易に加工することができた。用いた粘着層付与ポリエチレンテレフタレートフィルムの弾性率は4GPaであり、得られた高分子固体電解質膜積層体からの粘着層付与ポリエチレンテレフタレートフィルムの剥離強度は0.1N/cmであった。
【0078】
<実施例10>
25℃の環境下において、製造例1で得られた支持体付きの高分子固体電解質膜より剥離した高分子固体電解質膜と、実施例2で用いた粘着層付与ポリエチレンテレフタレートフィルムであって、幅25cmである粘着層付与ポリエチレンテレフタレートフィルムの粘着層面とを、粘着層付与ポリエチレンテレフタレートフィルムと高分子固体電解質膜とを幅方向に揃えて貼り合わせ、0.1MPaの荷重をかけたニップロールを通し、高分子固体電解質膜面を内側にして、ロール状に巻取り、高分子固体電解質膜積層体を得た。得られた高分子固体電解質膜積層体は剥離やシワのない良好なものであり、切り出した高分子固体電解質膜積層体にはカールなどの変形は全く生じず、任意の形状に容易に加工することができた。用いた粘着層付与ポリエチレンテレフタレートフィルムの弾性率は4GPaであり、得られた高分子固体電解質膜積層体からの粘着層付与ポリエチレンテレフタレートフィルムの剥離強度は0.05N/cmであった。
【0079】
<実施例11>
変性ポリオレフィン樹脂系粘着層を有する厚み30μmのポリエチレンテレフタレートフィルムの代わりに、幅が28cmである、実施例1で用いた粘着層付与ポリエチレンテレフタレートフィルムを用い、粘着層付与ポリエチレンテレフタレートフィルムが高分子固体電解質膜を全て覆うようにして張り合わせた他は、実施例10と同様にして高分子固体電解質膜積層体を得た。得られた高分子固体電解質膜積層体は剥離やシワのない良好なものであり、切り出した高分子固体電解質膜積層体にはカールなどの変形は全く生じず、任意の形状に容易に加工することができた。用いた粘着層付与ポリエチレンテレフタレートフィルムの弾性率は4GPaであり、得られた高分子固体電解質膜積層体からの粘着層付与ポリエチレンテレフタレートフィルムの剥離強度は0.1N/cmであった。
【0080】
<実施例12>
25℃の環境下で、製造例1で得られた支持体付きの高分子固体電解質膜より剥離した高分子固体電解質膜の両面に、幅が25cmである、実施例2で用いた粘着層付与ポリエチレンテレフタレートフィルムを、それぞれの粘着層面と高分子電解質膜とを、幅方向に揃えて貼り合わせ、0.1MPaの荷重をかけたニップロールを通し、ロール状に巻取り、高分子固体電解質膜積層体を得た。得られた高分子固体電解質膜積層体は剥離やシワのない良好なものであり、切り出した高分子固体電解質膜積層体にはカールなどの変形は全く生じず、任意の形状に容易に加工することができた。用いた粘着層付与ポリエチレンテレフタレートフィルムの弾性率は4GPaであり、得られた高分子固体電解質膜積層体からの粘着層付与ポリエチレンテレフタレートフィルムの剥離強度は各々いずれも0.05N/cmであった。
【0081】
<実施例13>
25℃の環境下で、製造例1で得られた支持体付きの高分子固体電解質膜より剥離した高分子固体電解質膜の片面に、幅が25cmである、実施例2で用いた粘着層付与ポリエチレンテレフタレートフィルムの粘着層面を、もう一方の面に、幅が25cmである、5μmのオレフィン樹脂系粘着層を有する厚み50μmの延伸ポリプロピレンフィルムの粘着層面を、それぞれ幅方向に揃えて貼り合わせ、0.1MPaの荷重をかけたニップロールを通し、ロール状に巻取り、高分子固体電解質膜積層体を得た。得られた高分子固体電解質膜積層体は剥離やシワのない良好なものであり、切り出した高分子固体電解質膜積層体にはカールなどの変形は全く生じず、任意の形状に容易に加工することができた。用いた粘着層付与ポリエチレンテレフタレートフィルムの弾性率は4GPaであり、得られた高分子固体電解質膜積層体からの粘着層付与ポリエチレンテレフタレートフィルムの剥離強度は0.05N/cm、の粘着層付与延伸ポリプロピレンフィルムの剥離強度は0.03N/cmであった。
【0082】
<実施例14>
25℃の環境下で、製造例1で得られた支持体付きの高分子固体電解質膜より剥離した高分子固体電解質膜の片面に、幅が28cmである、実施例2で用いた粘着層付与ポリエチレンテレフタレートフィルムの粘着層面を、もう一方の面に、幅が28cmである、粘着層を有さない50μmのポリエチレンテレフタレートフィルムを、それぞれ粘着層付与ポリエチレンテレフタレートフィルムの粘着層面と粘着層を有さない50μmのポリエチレンテレフタレートフィルムのいずれもが、高分子電解質膜を完全に覆い、かつ粘着層付与ポリエチレンテレフタレートフィルムの粘着層面と粘着層を有さない50μmのポリエチレンテレフタレートフィルムとを幅方向に揃えて貼り合わせ、0.1MPaの荷重をかけたニップロールを通し、ロール状に巻取り、高分子固体電解質膜積層体を得た。得られた高分子固体電解質膜積層体は剥離やシワのない良好なものであり、切り出した高分子固体電解質膜積層体にはカールなどの変形は全く生じず、任意の形状に容易に加工することができた。用いた粘着層付与ポリエチレンテレフタレートフィルムの弾性率は4GPaであり、得られた高分子固体電解質膜積層体からの粘着層付与ポリエチレンテレフタレートフィルムの剥離強度は0.05N/cmであった。粘着層を有さない50μmのポリエチレンテレフタレートフィルムは、高分子固体電解質膜とは接着しておらず容易に剥離したが、粘着層付与ポリエチレンテレフタレートフィルムとは粘着していた。粘着層付与ポリエチレンテレフタレートフィルムの粘着層面からの、粘着層を有さない50μmのポリエチレンテレフタレートフィルムの剥離強度は0.08N/cmであった。
【0083】
<実施例15>
25℃の環境下で、製造例1で得られた支持体付きの高分子固体電解質膜より剥離した高分子固体電解質膜の片面と、幅が25cmである、実施例2で用いた粘着層付与ポリエチレンテレフタレートフィルムの粘着層面とを、幅方向に揃えて貼り合わせ、0.1MPaの荷重をかけたニップロールを通し、さらに高分子固体電解質膜の粘着層付与ポリエチレンテレフタレートフィルムを貼り付けなかった面と、幅が25cmである、実施例2で用いた粘着層付与ポリエチレンテレフタレートフィルムの粘着層面とを、幅方向に揃えて貼り合わせ、0.1MPaの荷重をかけたニップロールを通し、ロール状に巻取り、高分子固体電解質膜積層体を得た。得られた高分子固体電解質膜積層体は剥離やシワのない良好なものであり、切り出した高分子固体電解質膜積層体にはカールなどの変形は全く生じず、任意の形状に容易に加工することができた。用いた粘着層付与ポリエチレンテレフタレートフィルムの弾性率は4GPaであり、得られた高分子固体電解質膜積層体からの粘着層付与ポリエチレンテレフタレートフィルムの剥離強度は各々いずれも0.05N/cmであった。
【0084】
<実施例16>
粘着層付与ポリエチレンテレフタレートフィルムの代わりに、幅が28cmである、5μmのポリオレフィン系粘着層を有する厚み50μmのポリブチレンテレフタレートフィルムを用いた他は、実施例1と同様にして高分子固体電解質膜積層体を得た。得られた高分子固体電解質膜積層体は剥離やシワのない良好なものであり、切り出した高分子固体電解質膜積層体にはカールなどの変形は全く生じず、任意の形状に容易に加工することができた。用いた粘着層付与ポリブチレンテレフタレートフィルムの弾性率は2GPaであり、得られた高分子固体電解質膜積層体からの粘着層付与ポリブチレンテレフタレートフィルムの剥離強度は0.05N/cmであった。
【0085】
<実施例17>
粘着層付与ポリエチレンテレフタレートフィルムの代わりに、幅が28cmである、5μmのポリオレフィン系粘着層を有する厚み50μmのポリエチレナフタレートフィルムを用いた他は、実施例1と同様にして高分子固体電解質膜積層体を得た。得られた高分子固体電解質膜積層体は剥離やシワのない良好なものであり、切り出した高分子固体電解質膜積層体にはカールなどの変形は全く生じず、任意の形状に容易に加工することができた。用いた粘着層付与ポリエチレナフタレートフィルムの弾性率は5GPaであり、得られた高分子固体電解質膜積層体からの粘着層付与ポリエチレナフタレートフィルムの剥離強度は0.05N/cmであった。
【0086】
<製造例2:疎水性オリゴマー>
2,6−ジクロロベンゾニトリル(略号:DCBN)49.97g(290.5mmol)、4,4’−ビフェノール(略号:BP)54.99g(295.3mmol)、炭酸カリウム46.94g(339.6mmol)、NMP750mL、トルエン150mLを、窒素導入管、攪拌翼、ディーンスタークトラップ、温度計を取り付けた1000mL枝付きフラスコに入れ、オイルバス中で攪拌しつつ窒素気流下で加熱した。トルエンとの共沸による脱水を140℃で行なった後、トルエンをすべて留去した。その後、200℃に昇温し、15時間加熱した。窒素導入管、攪拌翼、冷却還流管、温度計を取り付けた別の1000mL枝付きフラスコに、NMP200mLとパーフルオロビフェニル4.85gを入れ、窒素気流下、攪拌しながら、オイルバス中で110℃に加熱した。そこに、DCBNとBPの反応溶液を、滴下漏斗を用いて2時間かけて攪拌しながら投入し、投入完了後、さらに2時間攪拌した。反応溶液を室温まで冷却した後、3000mLの純水に注ぎオリゴマーを固化させ、さらに純水で3回洗浄して、NMP及び無機塩を除去した。水洗したオリゴマーは、濾別した後、100℃で2時間乾燥させた後、室温まで冷却し、3000mLのアセトンで2回洗浄し、過剰のパーフルオロビフェニルを除去した。再びオリゴマーを濾別し、120℃で16時間減圧乾燥して疎水性オリゴマーAを得た。1H−NMR測定による数平均分子量は13880だった。疎水性オリゴマーの化学構造を以下に示す。
【0087】
【化8】

【0088】
<製造例3:親水性オリゴマー>
4,4’−ジクロロジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸ソーダ(略号:S−DCDPS)250.0g(508.9mmol)、BP97.04g(520.7mmol)、炭酸ナトリウム66.23g(624.9mmol)、NMP650mL、トルエン150mLを、窒素導入管、攪拌翼、ディーンスタークトラップ、温度計を取り付けた2000mL枝付きフラスコに入れ、オイルバス中で攪拌しつつ窒素気流下で加熱した。トルエンとの共沸による脱水を140℃で行なった後、トルエンをすべて留去した。その後、200℃に昇温し、16時間加熱した。続いて、NMP500mLを投入し、攪拌しながら室温まで冷却した。得られた溶液を、25G2ガラスフィルターで吸引濾過したところ、黄色の透明な溶液が得られた。得られた溶液を3Lのアセトンに滴下してオリゴマーを固化させた。オリゴマーはさらにアセトンで3回洗浄した後、濾別して減圧乾燥し親水性オリゴマーを得た。1H−NMR測定による数平均分子量は25560であった。親水性オリゴマーの化学構造を以下に示す。
【0089】
【化9】

【0090】
<製造例4:セグメント化ブロックポリマー高分子固体電解質膜>
親水性オリゴマー 45.00g、疎水性オリゴマー 24.61g、炭酸ナトリウム0.28g、NMP400mLを、窒素導入管、攪拌翼、ディーンスタークトラップ、温度計を取り付けた1000mL枝付きフラスコに入れ、窒素気流下50℃のオイルバス中で攪拌し溶解させた。その後、110℃まで加熱し、10時間反応させた。その後、室温まで冷却し、3Lの純水中に滴下してポリマーを固化させた。純水で3回洗浄した後、純水に浸漬したまま80℃で16時間処理し、その後で純水を除いて熱水洗浄を行った。その後、熱水洗浄をもう一度繰り返した。さらに水を除去したポリマーを、1000mLのイソプロパノールと500mLの水との混合溶媒に室温で16時間浸漬し、ポリマーを取り出し洗浄を行った。同じ操作をもう一度行った。その後、濾過でポリマーを濾別し、120℃で12時間減圧乾燥してスルホン酸基含有セグメント化ブロックポリマーを得た。得られたポリマーの対数粘度は、2.1dL/gだった。得られたポリマーから製造例1と同様にして高分子固体電解質膜を得た。ポリマーAの化学構造を以下に示す。得られた30μmの高分子固体電解質膜をポリエチレンテレフタレートフィルムから剥離して引張弾性率を測定したところ、1.8GPaであった。また、得られた高分子固体電解質膜を透過型電子顕微鏡観察したところ、親水性ドメインと疎水性ドメインがそれぞれラメラ状に共連続している相分離構造が観察された。
【0091】
【化10】

【0092】
<実施例18>
製造例4で得られた高分子固体電解質膜を用い、実施例1と同様にしてロール状高分子固体電解質膜積層体を得た。得られた高分子固体電解質膜積層体は剥離やシワのない良好なものであり、切り出した高分子固体電解質膜積層体にはカールなどの変形は全く生じず、任意の形状に容易に加工することができた。用いた粘着層付与ポリエチレンテレフタレートフィルムの弾性率は4GPaであり、得られた高分子固体電解質膜積層体からの粘着層付与ポリエチレンテレフタレートフィルムの剥離強度は0.11N/cmであった。
【0093】
<比較例1>
10μmのアクリル樹脂系粘着層を有する厚み50μmのポリエチレンテレフタレートフィルムの代わりに、10μmのアクリル樹脂系粘着層を有する、幅が28cmで、厚み50μmの結晶性ポリプロピレンフィルムを用いた他は、実施例1と同様にして、高分子固体電解質膜と積層体を得た。得られた高分子固体電解質膜積層体には剥離やシワが生じ、切り出した高分子固体電解質膜積層体にはカールが発生し、所定の形状に容易に加工することが困難であった。
【0094】
<比較例2>
10μmのアクリル樹脂系粘着層を有する厚み50μmのポリエチレンテレフタレートフィルムの代わりに、10μmのシリコーン樹脂系粘着層を有する、幅が28cmで、厚み30μmのフッ素樹脂フィルムを用いた他は、実施例1と同様にして、高分子固体電解質膜と積層体を得た。得られた高分子固体電解質膜積層体には剥離やシワが生じ、切り出した高分子固体電解質膜積層体にはカールが発生し、所定の形状に容易に加工することが困難であった。
【0095】
<比較例3>
Nafion112(デュポン社登録商標)(引張弾性率0.23GPa)を用いて、実施例1と同様にして、高分子固体電解質膜積層体を得た。得られた積層体は、部分的なシワが認められるとともに、粘着フィルムを剥離した際に電解質膜の寸法変化が認められた。
【0096】
<比較例4>
製造例1において作製した高分子固体電解質膜を支持体から剥離して、単独で巻取り機にてプラスチック管に巻き取ったところ、高分子固体電解質膜が滑り性を有しないためにシワが発生し、きれいに巻き取ることができなかった。
【0097】
<比較例5>
10μmのアクリル樹脂系粘着層を有する厚み50μmのポリエチレンテレフタレートフィルムの代わりに、30μmのアクリル樹脂系粘着層を有する、幅が28cmで、厚み50μmのポリエチレンテレフタレートフィルムを用いた他は、実施例1と同様にして、高分子固体電解質膜と積層体を得た。得られた高分子固体電解質膜積層体の高分子電解質膜からの剥離強度は3N/cmであり、剥離する際に高分子固体電解質膜の前面にシワが生じた。また、剥離した高分子固体電解質膜の粘着フィルムと接合していた面には明らかに粘着剤が転写していた。
以上の評価結果を表1にまとめた。
【0098】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明の高分子固体電解質膜積層体は、輸送時や保存時における、高分子固体電解質膜のシワ、凹凸、キズ、及び剥離などの発生を防ぐことができ形態安定性に優れている。また、高分子固体電解質膜の加工時における、高分子固体電解質膜の変形や損壊を防ぐことができ、取り扱い性にも優れている。特に高分子固体電解質膜と積層する非電解質フィルムが、粘着層を有するポリエステル系樹脂フィルムであると、さらに効果が増大する。また、本発明の高分子固体電解質膜積層体は、上記の問題が発生しやすい、主として芳香族基から構成されている主鎖骨格を有する芳香族系高分子電解質からなる高分子固体電解質膜に対して特に有効である。よって、耐熱性や耐メタノール透過性、価格において優れる芳香族系高分子電解質からなる高分子固体電解質膜であっても、輸送、保管、加工時の形態安定性や取扱い性に関わる問題の発生を抑制することができ、固体高分子形燃料電池の発展に大いに寄与するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子固体電解質膜と、高分子固体電解質膜の少なくとも一方の面に粘着層を付与されたポリエステル系高分子フィルムが積層された高分子固体電解質膜積層体において、(a)該高分子固体電解質膜と該粘着層付与ポリエステル系高分子フィルムの剥離強度が1N/cm以下であり、かつ(b)該粘着層付与ポリエステル系高分子フィルムの引張弾性率が1GPa以上であることを特徴とする高分子固体電解質膜積層体。
【請求項2】
非電解質フィルムの粘着層が、アクリル樹脂系粘着剤からなることを特徴とする請求項1に記載の高分子固体電解質膜積層体。
【請求項3】
非電解質フィルムの粘着層が、ポリオレフィン系粘着剤からなることを特徴とする請求項1に記載の高分子固体電解質膜積層体。
【請求項4】
粘着層を付与されたポリエステル系高分子フィルムが高分子固体電解質膜の一方の面のみに積層されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の高分子固体電解質膜積層体。
【請求項5】
高分子固体電解質膜の一方の面に、粘着層を付与されたポリエステル系高分子フィルムが積層されており、かつ、もう一方の面に粘着剤を有さない高分子フィルムが積層されていることを特徴とする請求項4に記載の高分子固体電解質膜積層体。
【請求項6】
高分子固体電解質膜の、粘着剤を有さない高分子フィルムが積層された面とは反対の面には、何も積層されていないことを特徴とする請求項4に記載の高分子固体電解質膜積層体。
【請求項7】
高分子固体電解質膜が、主として芳香族基から構成されている主鎖骨格を有する芳香族系高分子電解質からなることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の高分子固体電解質膜積層体。
【請求項8】
前記高分子固体電解質膜が1GPa以上の引張弾性率(JIS−K7127に準拠)を有する非フッ素系高分子固体電解質膜である請求項8に記載の高分子固体電解質膜積層体。
【請求項9】
ロール状に巻き取られていることを特徴とする請求項1〜8に記載の高分子固体電解質膜積層体。

【公開番号】特開2010−170935(P2010−170935A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−14118(P2009−14118)
【出願日】平成21年1月26日(2009.1.26)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】