説明

高分子固体電解質

【課題】
従来の固体電解質と比較して、高いイオン導電性を有する新規な固体電解質を提供すること。
【解決手段】
高分子固体電解質として、下記高分子化合物と、塩類と、当該塩類を溶解する溶剤と、アクリロニトリル重合体、フッ化ビニリデン重合体およびアルキレンオキシド重合体から選ばれる少なくとも1種の重合体を含む。
下記繰り返し単位(a)および繰り返し単位(b)からなるシアノ基含有ポリビニルアルコールを含むことを特徴とする高分子固体電解質。


(式中、Rは炭素数が1〜5のアルキレン基、炭素数が5〜7のシクロアルキレン基、炭素数が5〜7のアリーレン基を示し、n及びmは、n:mが0:100〜50:50であり、且つn+mは100〜8000である整数である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な高分子固体電解質に関し、高イオン伝導度を有する新規な高分子固体電解質に関する。とくに、末端にシアノ基を有する側鎖がポリマー鎖に結合されているポリビニルアルコール、電解質塩および該電解質塩を溶解することができる溶剤を含有する、高イオン伝導度で新規な高分子固体電解質、および当該ポリビニルアルコールに他の重合体が共存する高イオン伝導度で新規な高分子固体電解質に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、高分子固体電解質が盛んに研究されている(例えば、引用文献1、引用文献2)。液体の電解質に対して、高分子固体電解質の有利な点は、液体の電解質を用いたときの漏液の危険性が無いということばかりでなく、高分子固体電解質は加工性が良く、希望する形状にしやすくなるということにもある。
しかし、液体の電解質は電極間のイオンの移動速度が速いという特徴を有するのに対して、上記高分子固体電解質はイオン伝導度が低いという問題点があり、その点を改善することが求められている。
【0003】
すなわち、高分子固体電解質 を使用すると、液漏れの問題点がなくなり、電池容器などの容器の簡素化、出来上がった製品の軽量化や薄型化などが可能となるなどの有利な点があるものの、イオン伝導度が低く、実用的な製品として利用するのに十分ではないという問題が残された。
【0004】
そのイオン伝導度を高める技術について、数多くの報告がある。例えば、連結基を介してシアノ基を有するモノマーと多官能性モノマーとのポリマーを固体電解質とする技術(特許文献3の実施例)やシアノ基を有するセルロースにイソシアネート基を反応させて得られた架橋構造を有する高分子化合物を固体電解質とする技術(特許文献4)が報告されている。前者の固体電解質は、高負荷充放電特性やサイクル特性に優れ、高容量で安全なリチウム二次電池をもたらすことができるという特徴があるうえ、高いイオン導電性を有するとされているが、それでも、10−3S/cmのオーダーのイオン伝導度でしかない。また、後者の固体電解質は多量の溶剤を含んでも取り扱い可能であるという特徴があるうえ、高いイオン導電性を有するとされているが、それでも、上記と同様に10−3S/cmのオーダーのイオン伝導度でしかない。
また、従来のゲル電解質は多量の溶剤を含む材料から調製するので、作業性に問題があるとともに、その除去した溶剤の処理や寿命が尽きた固体電解質使用製品の処理に問題があるなどの点も指摘されている。
【0005】
【特許文献1】特開2002−270235号公報
【特許文献2】特開2004−186130号公報
【特許文献3】特開2000−294284号公報
【特許文献4】特開2002−25336号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の課題は、従来の固体電解質と比較して、高いイオン導電性を有する新規な固体電解質を提供することにある。とくに、10−2S/cmのオーダー以上のイオン伝導度を有する新規な固体電解質を提供することにある。また、比較的少ない溶剤を用いて固体電解質を得る技術を提供することにもある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意研究する最中、特定の共重合体を固体電解質のマトリックスとすると、その固体電解質のイオン伝導度は極めて高いという知見を得た。その知見に基づきさらに研究を重ね、特定の共重合体と他の重合体を混合して固体電解質を調製した結果、そのイオン伝導度は10−2S/cm以上となる知見を得た。しかも、比較的少ない溶剤の使用の下でも達成させることができるとの知見も得た。それらの知見に基づきさらに研究を重ね、遂に本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、請求項1の発明は、(1)下記繰り返し単位(a)および繰り返し単位(b)からなるシアノ基含有ポリビニルアルコール、(2)アルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩から選ばれた少なくとも一種の塩類、および(3)上記(2)を溶解することができる溶剤を含むことを特徴とする高分子固体電解質である。その、繰り返し単位は下記のとおりである。

(式中、Rは炭素数が1〜5のアルキレン基、炭素数が5〜7のシクロアルキレン基、炭素数が5〜7のアリーレン基を示し、n及びmは、n:mが0:100〜50:50であり、且つn+mは100〜8000である整数である。)
請求項1の発明の(1)を、実質的に上記繰り返し単位(a)および繰り返し単位(b)からなるシアノ基含有ポリビニルアルコール、ということもできる。ここで、実質的にとは、上記繰り返し単位(a)および(b)からなるシアノ基含有ポリビニルアルコールを調製する際に、少量の他の繰り返し単位が共存するときがあるので、そのようなポリビニルアルコールも請求項1の発明に属することを明らかにする意味である。また、請求項1の発明の(1)を、上記繰り返し単位(a)および繰り返し単位(b)からなるシアノ基含有ポリビニルアルコールを含む高分子、ということもできる。
請求項1の発明において、アクリロニトリル重合体、フッ化ビニリデン重合体およびアルキレンオキシド重合体から選ばれる少なくとも1種の重合体をさらに含む高分子固体電解質が請求項2の発明であり、アルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩から選ばれた少なくとも一種の塩類がリチウム塩である高分子固体電解質が請求項3の発明である。
【0009】
以下、本発明を詳細に記述する。
本発明の高分子固体電解質に含む上記シアノ基含有ポリビニルアルコール(以下、高分子化合物ということがある)は、上記繰り返し単位(a)および繰り返し単位(b)からなる高分子化合物であるが、上記繰り返し単位(a)は存在しないときもある。すなわち、繰り返し単位(a)および繰り返し単位(b)から実質的に構成され、それらがランダムに、又はブロック状に結合する高分子化合物である。ここで、a:bは0:100〜50:50%(モル比)程度とすることが可能であるが、0.1:99.9〜40:60%(モル比)とすることが好ましく、0.1:99,1〜30:70%(モル比)とすることがより好ましい。また重合度(a+b)は100〜8000程度が好適である。
【0010】
その繰り返し単位(b)のRにおける炭素数が1〜5のアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、メチル基置換エチレン基、ブチレン基、ジメチル基置換エチレン基、メチル基置換プロピレン基、エチル基置換エチレン基、プロピレン基、メチル基置換ブチレン基、ジメチル基置換プロピレン基、エチル基置換プロピレン基、トリメチル基置換エチレン基を例示でき、炭素数が5ないし7のシクロアルキレン基としては、シクロペンタレン基、シクロヘキサレン基、シクロヘプタレン基を例示でき、炭素数が5〜7のアリーレン基としては、フェニレン基、ベンジリデン基、ドルイレン基を例示できる。
それらの中では、炭素数が1〜4のアルキレン基及びフェニレン基が好ましく、さらには炭素数が2〜3のアルキレン基がより好ましい。
【0011】
上記高分子化合物は、公知の方法により調製することができるのであって、特に限定されない。好ましい方法としては、公知の方法によりポリビニルアルコールを調製し、ついで公知の方法によりシアノ基含有側鎖を上記ポリビニルアルコールの水酸基に結合させる方法を挙げることができる。例えば、ポリ酢酸ビニルからポリビニルアルコールを調製するときには、ポリ酢酸ビニルのケン化度は70%以上、好ましくは98%以上とするとよい。本発明では、ポリビニルアルコールの水酸基を100%シアノ炭化水素エーテル基に変換することができるが、0.1%程度以上は水酸基を残存させた方が、より好ましい固体電解質となる。
【0012】
本発明では、さらにアクリロニトリル重合体、フッ化ビニリデン重合体およびポリアルキレンオキシドから選ばれる少なくとも1種の重合体を上記高分子化合物と共存させると、イオン導電性を高めることができるのでより好ましい。
上記アクリロニトリル重合体は公知のものであり、重合体を構成するアクリロニトリルモノマーを含有する混合物から調製される重合体をいう。とくに、アクリロニトリルモノマーと、そのモノマーと共重合可能なモノマーとを100:0〜51:49(モル比)の割合で含むモノマー混合物に重合開始剤、溶剤などを含む混合物から調製される重合体が好ましい。さらには、モノマー比が100:0〜75:25(モル比)であるモノマー混合物から調製された重合体が好ましい。アクリロニトリルモノマーと共重合可能なモノマーとしては、とくに制限されないのであるが、たとえば、各種(メタ)アクリレートモノマー、アリルグリシジルエーテル等が挙げられる。それらモノマーは、1種類のモノマーでもよいし、2種以上のモノマー混合物でもよい。アクリロニトリル重合体の分子量は、本発明の所期の目的を達成できる程度のものであれば、特に制限されない。
上記、フッ化ビニリデン重合体も公知のものであり、重合体を構成するフッ化ビニリデンモノマーを含有する混合物から調製される重合体をいう。とくに、フッ化ビニリデンモノマーと、そのモノマーと共重合可能なモノマーとを100:0〜51:49(モル比)の割合で含むモノマー混合物に重合開始剤、溶剤などを含む混合物から調製される重合体が好ましい。さらには、モノマー比が100:0〜75:25(モル比)であるモノマー混合物から調製された重合体が好ましい。フッ化ビニリデンモノマーと共重合可能なモノマーとしては、とくに制限されないのであり、例えばヘキサフルオロプロピレン、塩化3フッ化エチレン、テトラフルオロエチレン、パーフルオロアルキルビニルエーテルなどが挙げられる。これらは1種類のモノマーでもよいし、2種以上のモノマー混合物でもよい。その分子量は、本発明の所期の目的を達成できる程度のものであれば、特に制限されない。
上記ポリアルキレンオキシド重合体も公知のものであり、アルキレンオキシドを繰り返し単位とする重合体であればとくに制限されない。具体的には、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、それらの変性体などがある。フッ化ビニリデン重合体の分子量は、本発明の所期の目的を達成できる程度のものであれば、特に制限されない。
【0013】
アクリロニトリル重合体、フッ化ビニリデン重合体およびアルキレンオキシド重合体から選ばれる少なくとも1種の重合体を共存させる量は、所期の目的を達成することができる限りとくに制限されないのであるが、例えば、用いる高分子化合物の繰り返し単位数を基準として、当該高分子化合物と共存させる重合体の繰り返し単位数が120%(繰り返し単位数)以下とすることが好ましく、80〜110%(繰り返し単位数)とすることがより好ましく、95〜105%(繰り返し単位数)とすることがさらに好ましい。
【0014】
本発明の固体電解質には、塩類としてアルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩から選ばれた少なくとも一種の塩類を含ませる。ここでいうアルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩は特に制限されない。アルカリ金属塩としてはLiClO、LiAlCl4 、LiBF、LiAsF6 、LiSbF6 、LiPF、LiCFSO、LiN(CFSOなどのリチウム塩、NaClOなどのナトリウム塩、KClOなどのカリウム塩、Mg(ClO、Mg(PF、Mg(BF等のアルカリ土類金属塩が挙げられる。その中でもリチウム塩が好ましい。
アルカリ金属塩の添加量は、用いる高分子化合物、重合体やアルカリ金属塩の種類により最適な値が異なるため限定することは困難であるが、例えば、用いる高分子化合物に対して、1重量%、さらには5重量%以上が好ましい。上限は所期の目的を達成できるかぎり特に限定されないが、例えば用いる高分子化合物に対して、100重量%以下が好ましい。
【0015】
本発明の固体電解質には、上記塩類を溶解する溶剤を含む。なお、上記高分子化合物、重合体及び電解質塩を溶解する溶剤を使用してもよい。本発明で用いる溶剤は上記塩類を溶解させるものであれば特に限定されないが、高いイオン導電性を得るために、1-ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、メチルエチルカーボネートなどのカーボネート類;γ- ブチロラクトン、ギ酸メチルなどのエステル類; 1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、1,2−ジエトキシエタン、エトキシメトキシエタン、ジエチレングリコール、ジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテルなどのエーテル類;スルホラン、3−メチルスルホラン、ジメチルスルホキシドなどの含硫黄溶剤;アセトニトリル、ジメチルアセトアミドなどの含窒素溶剤;などから選ばれた少なくとも一種であり、特に好ましくはエチレンカーボネート及び/又はプロピレンカーボネートである。
上記溶剤の量は用いる高分子化合物、重合体や塩類の種類により最適な値が異なるのであるが、通常は高分子固体電解質を構成する成分の全量に対して50重量%以下、好ましくは20重量%以下、さらに好ましくは15重量%以下であり、また、5重量%以上、好ましくは10重量%以上である。本発明では、この溶剤の使用量が比較的少なくても、高分子固定電解質を提供できる点に一つの特徴がある。
【0016】
本発明では上記高分子固体電解質を構成する成分の他に、必要に応じて他の成分を含有させることができる。その他の成分として、例えば、イオン伝導度を増加させるための公知の添加剤や、物性を向上させるためのジイソシアネートやジアクリレートなどの多官能性化合物や、他の公知の固体電解質や、電池としての安定性や性能、寿命を高めるために、トリフルオロプロピレンカーボネート、カテコールカーボネート、スピロジラクトン、クラウンエーテル等の添加剤等を挙げることができる。
それら他の成分の添加量は、本発明の所期の目的を達成できる範囲であるかぎり、特に制限されない。
【0017】
本発明における好ましい高分子固体電解質は、前記の高分子化合物、重合体、電解質塩、溶剤を含有する。とくに、これらの成分が均一に混合され、一体化した状態の高分子固体電解質が好ましい。
この高分子固体電解質中の溶剤は、高分子固体電解質中に保持されて、全体として流動性が著しく低下しており、イオン伝導性以外の特性は従来から多用されている通常の電解液に近い特性を示すが、流動性や揮発性などは著しく抑制されて安全性が高められている。
【0018】
本発明では、高分子固体電解質を調製するには、公知の方法を採用すればよい。例えば塩類の存在下に上記溶剤中でモノマーを重合させて高分子化合物を形成させる方法と、塩類の非存在下で予めモノマーを重合させて高分子化合物や重合体を形成し、次いでそれら高分子化合物や重合体に塩類および溶剤を含有せしめる方法との二つの方法が挙げられる。
前者の塩類の存在下で重合させる方法では、塩類及び溶剤を含有する組成物にモノマーを含有させ、次いで重合させることによって高分子固体電解質を調製することができる。この際、重合終了後の反応液を精製処理した後、あるいは特に処理を施すことなく、担体上に流延させ、次いで溶剤を適度に除去すると高分子固体電解質膜を得ることができる。
後者の高分子化合物や重合体に塩類を含有せしめる方法では、高分子化合物や重合体に塩類及び溶剤を加えて加熱溶解させ、均一に混合した後、冷却して高分子固体電解質を得ることができる。この際、加熱溶解させた物を担体上に流延させた後、冷却すると高分子固体電解質膜を得ることができる。
【0019】
モノマーを重合させ高分子化合物や重合体を得る方法も公知の方法を採用すればよい。例えば、光増感剤を添加して紫外線を照射する方法、有機過酸化物などの熱重合開始剤を添加して加熱する方法、酸化還元系の開始剤を用いたレドックス系重合法、重合開始剤を加えることなく直接電子線やγ線などを照射する方法などが挙げられる。とくに紫外線を照射する方法は低温にて重合が可能であり、重合に要する時間が短い点で好ましい。また、熱重合開始剤を用いる方法は簡便である点で好ましい。ここで、紫外線開始剤となる光増感剤としては、アセトフェノン、ベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ビアセチル等が挙げられる。熱重合開始剤としては、ベンゾイルパーオキサイド、2、2−アゾビスイソブチロニトリル、1,1−ジ(ターシャルブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,2−ビス−[4,4−ジ(ターシャルブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン]、ターシャリブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノネート等が挙げられる。
【0020】
なお、上記高分子固体電解質の調製に際しては、水分、酸素、二酸化炭素を極力排除した雰囲気で行うのが望ましい。特に酸素及び二酸化炭素が組成物中に多量存在すると、モノマーを重合する際に、これらの分子がポリマー鎖中に取り込まれ電気化学的に不安定なマトリックスが形成される可能性がある。
【0021】
高分子固体電解質の各原料は、予め脱水しておくのが好ましい。水分量は50ppm以下好ましくは30ppm以下がよい。水が多量に存在すると、水の電気分解及びアルカリ金属との反応、アルカリ金属の加水分解などが起こる可能性があり、不適当な場合がある。脱水の手段としては特に制限はないが、モノマー、溶剤などの液体の場合はモレキュラーシーブ4A等を用いればよい。またアルカリ金属塩などの固体の場合は分解が起きる温度以下で乾燥すればよい。
【0022】
かくして得られた高分子固体電解質は、従来の高分子固体電解質と比較して高いイオン導電度を有する。本発明のイオン導電度が高い理由は、完全に解明されたとはいえないが、たとえば高分子化合物と重合体が共存する場合、高分子化合物中に存在するアルカリ金属イオンやアルカリ土類金属イオン、とくにリチウムイオンの移動速度が高いうえに、高分子化合物と、それと共存する重合体とが相分離しており、その界面は溶剤リッチとなり、それらがチャンネル状態を形成し、その中でのアルカリ金属イオンやアルカリ土類金属イオン、とくにリチウムイオン(Li)の移動速度が高くなる。これら全ての影響が統合され、高いイオン伝導性が発現されると推測される。
本発明では、高分子固体電解質に、必要に応じて多官能性成分を含有させておくと、機械的強度などの物性が改善された高分子固体電解質が得られる。この高分子固体電解質は高負荷充放電特性やサイクル特性に優れ、高容量で安全な、しかも小型化が可能なリチウム二次電池やキャパシタをもたらすことができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、従来から知られている高分子固体電解質と比較して、1桁以上高い高イオン伝導度を有する高分子固体電解質を提供できる。そのうえ、使用する溶剤の量も比較的少ないうえに、高分子固体電解質中の溶剤は、高分子固体電解質中に保持されて、全体として流動性が著しく低下しており、流動性や揮発性などは著しく抑制されて安全性が高められており、また、本発明の高分子固体電解質は経時変化に対しても安定性が高く、それらの点でも実用的である。さらに、本発明では、溶剤を除去する量が少ないので、作業性が良く、しかも環境にやさしい技術である。
本発明における高分子固体電解質はリチウム電池用電解質、キャパシタ用電解質など、従来から液体電解質を用いる素子の電解質の代替材料として有効である。とくに、本発明における高分子固体電解質はリチウム二次電池に使用される。具体的には、電池の電解質層の構成材料として有用である。また、電極の構成成分に添加して使用することも有効である。
その他固体電解質膜として種々の用途に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下に、本発明を実施例、参考例および比較例に基づいて詳細に説明する。本発明はこれらになんら限定されない。
参考例1(高分子化合物の調製)
シアノ基含有ポリビニルアルコール(CN-PVA)の調製は文献[X. Li, S. H. Goh, Y. H. Lai, Shu-mei Deng, Journal of Applied Polymer Science, 73巻, 2771-2777, 1999]に従って行った。その合成例を以下に示す。
ポリビニルアルコール (PVA) 1.13 g 、水酸化ナトリウム3.301 g をそれぞれ100 mlの別々の三角フラスコ中に加え、それぞれのフラスコにイオン交換水26.0 mlを加えて十分に撹拌して均一溶液とした。それぞれの均一溶液を300 ml三ツ口フラスコに注ぎ、アセトン52.0 ml、臭化テトラ−n−ブチルアンモニウム (TBAB) 0.124 g 、アクリロニトリル13.67 g を加え、25℃で6時間撹拌した。
反応終了後しばらく静置して二層に分かれた後、上層をとり、この上層の溶液を激しく撹拌したイオン交換水に滴下し白色のCN-PVAを得た。得られたCN-PVAをアセトンに溶解し再びイオン交換水に滴下沈殿させるという操作を4回行い、水酸化ナトリウムや臭化テトラ-n-ブチルアンモニウムなどを除去し、CN-PVAを1.941 g得た。精製したデシケーター中で十分に減圧乾燥させ、サンプル管に保管した。
シアノエチル基の導入率は71.2 mol%であった。なお、シアノエチル基の導入率は、調製されたCN-PVAのNMR測定値から求めた。すなわち、シアノエチル基に起因するH積分値が同積分値とアルコールまたはエーテルに起因するH積分値との和に対して占める割合から算出した。
得られたCN-PVAおよび出発物質のPVAのFT-IRスペクトルを図1に示した。図1において、a)がCN-PVAのFT-IRスペクトルであり、b)が出発物質のPVAのFT-IRスペクトルである。また、得られたCN-PVAのH-NMRスペクトルを図2に示した。
なお、使用機器は次のとおりである。
FT-IRスペクトル:IRPrestige−21(島津製作所製)
H-NMRスペクトル:GSX−270(日本電子株式会社製)
【0025】
実施例1(高分子固体電解質膜の調製)
サンプル管に参考例1で調製したCN-PVAを0.079 g 加えた後、プロピレンカーボネート(PC)を5 ml加え、撹拌し均一溶液とした。これにポリマー電解質の主要マトリックスとなるポリアクリロニトリル(PAN)を0.0513 g 、過塩素酸リチウム(LiClO4)を0.0802 g 加えて一晩撹拌した。その後、加熱しながらこれら混合物が透明になるまで撹拌した。この混合溶液をアルミシャーレに等分し真空下70 ℃で所定量のPCを留去した後、直径13 mm、厚さ0.2~0.4 mmの円形に製膜した。調製した高分子固体電解質膜はサンプル管に保管した。
上記PANはAldrich社の181315-100G(融点317℃、ガラス転移点85℃、n20D1.514)を用いた。
なお、調製した高分子固体電解質膜の各成分の組成を、PANの繰り返し単位数を基準として算出し、表1に示した。この表から、当該高分子固体電解質膜は、ポリマーマトリックスであるPANの繰り返し単位数が10であるとき、CN-PVAの繰り返し単位数が10であり、実施例1のLiClO4が8モルであり、実施例1のPCは4モルである組成を取ることが分かる。なお、ここでCN-PVAの繰り返し単位は請求項1の記載の繰り返し単位(a)および(b)であり、しかもmもnも1であるとして計算した。
また、得られた高分子固体電解質膜のX線回折測定結果を図3に示した。図3のb)が得られた高分子電解質膜のX線回折測定結果である。
なお、使用機器は次のとおりである。
X線回折測定:XD−D1(島津製作所製)
【0026】
表1


表中、Aは参考例1で調製したCN-PVA、Bはアクリロニトリル重合体、Cはプロピレンカーボネート溶剤、DはLiClOを示す。
【0027】
(導電率の測定)
実施例1で得たフィルムの導電率を測定した。その測定は、以下の手順により行った。
調製したフィルムのイオン伝導度を20~60 ℃の温度範囲で測定した。調製したフィルムを直径13 mmの円形に切り抜き、このフィルムを2枚のステンレス板で挟み、ステンレス板間のインピーダンスを測定した。測定は印加電圧10mVにて、100kHz〜10Hzまで行った。なお、使用機器はHIOKI 3522 LCR Hi tester[日置電機(株)]である。
その測定結果を表2に示した。
【0028】
なお、導電率(σ)は、次の式(1)により求めた。
σ= L/(R×S) (1)
但し、式中、σ は導電率(S/cm)、Rは抵抗(Ω)、S は高分子固体電解質膜の測定時の断面積(cm)、Lは電極間距離(cm)を示す。
【0029】

表2

表中、実施例1の数字は ×10−2Scm−1であり、比較例1の数字は ×10−4Scm−1である。
【0030】
(Li核の縦緩和時間測定(T)の温度依存性の測定)
実施例1で得た高分子固体電解質のLi核の縦緩和時間(T)を次の手順に従い、測定した。
調製したフィルムについて7Li CP/MAS NMR測定法を行った。測定サンプルは微細に切断し、4 mm CP/MASプローブ用サンプル管に詰めて使用した。7Li NMRの測定温度は-30~60℃とし、測定中は測定サンプルを約8000 Hzで高速回転させた。
標準サンプルとして1 M LiCl/D2O溶液を使用し、リチウムイオン由来のピークを0 ppmに補正した。なお、測定装置は固体NMRスペクトロメータ CMX-300分光計[Chemagnetics Co.]を使用した。
得られたLi核の縦緩和時間(T)の温度依存性を検討した結果、温度変化によるTの変化は、約60℃に極小点を持つものと、約-30℃に極小点をもつものがあることが明らかとなった。このことは、Tの温度依存性の異なるLi核が少なくとも2種類存在していることを意味している。
【0031】
(ガラス転移点の測定)
実施例1で得た高分子固体電解質のガラス転移点を、DSC法により測定した。
測定装置としては熱分析装置DSC3100S[マックサイエンス(株)]を使用した。測定セルにはアルミパン(Al, 直径6.7 mm、高さ1.5 mm)を、また基準サンプルにはアルミナを使用した。昇温速度、降温速度ともに10℃min-1とし、-150~200℃の範囲で行った。
その結果、実施例1で得た高分子固体電解質のガラス転移点は−26.5℃と−91.1℃とであった。
【0032】
(比較例1)
比較例1(アクリロニトリル重合体の高分子固体電解質の調製)
サンプル管にPANを0.0990 g 、LiClO4を0.0800 g 、PCを5 ml加え、室温下一晩撹拌して均一溶液とした。その後、加熱しながらこれら混合物が透明になるまで撹拌した。この混合溶液をアルミシャーレに等分し、減圧下70℃で所定量のPCを留去した後、直径13 mm、厚さ0.2~0.4 mmの円形に製膜した。調製した高分子固体電解質膜はサンプル管中に保管した。
なお、この高分子固体電解質膜の組成を実施例1と同様な方法で算出し、表1に示した。
また、得られた高分子固体電解質膜のX線回折測定結果を図3に示した。図3のa)が得られた高分子電解質膜のX線回折測定結果である。
実施例1と同様な方法でこの高分子固体電解質膜の導電率を測定した。
測定結果を表2に示した。
【0033】
実施例2(高分子固体電解質の安定性)
実施例1で得た高分子固体電解質膜をサンプル管に20℃にて1週間、1月間、2月間保管した。その高分子固体電解質膜の導電率を実施例1と同様の方法で測定した。
その結果を図4に示す。
その図から、実施例1の高分子固体電解質膜は長時間保存しても安定した導電性を示すことが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】図1は参考例1で得られたCN-PVAおよび参考例1で用いた出発物質のPVAのFT-IRスペクトルを示す。
【図2】図2は参考例1で得られたCN-PVAのH-NMRスペクトルを示す。
【図3】図3は実施例1で得られた高分子固体電解質のX線回折測定結果を示す。
【図4】図4は高分子固体電解質膜の安定性の測定結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)下記繰り返し単位(a)および繰り返し単位(b)からなるシアノ基含有ポリビニルアルコール、(2)アルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩から選ばれた少なくとも一種の塩類、および(3)上記(2)を溶解することができる溶剤を含むことを特徴とする高分子固体電解質。

(式中、Rは炭素数が1〜5のアルキレン基、炭素数が5〜7のシクロアルキレン基、炭素数が5〜7のアリーレン基を示し、n及びmは、n:mが0:100〜50:50であり、且つn+mは100〜8000である整数である。)
【請求項2】
アクリロニトリル重合体、フッ化ビニリデン重合体およびアルキレンオキシド重合体から選ばれる少なくとも1種の重合体をさらに含むことを特徴とする請求項1記載の高分子固体電解質。
【請求項3】
アルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩から選ばれた少なくとも一種の塩類がリチウム塩である請求項1記載の高分子固体電解質。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−307012(P2006−307012A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−131475(P2005−131475)
【出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(304020177)国立大学法人山口大学 (579)
【Fターム(参考)】