説明

高分子弾性体水分散液の塗布方法および銀付人工皮革の製造方法

【課題】表面へ高分子弾性体水分散液を塗布する際、内部まで沈み込むことなくコート層
を形成することが可能であり、機械的物性に優れ、柔軟かつ軽量で風合いに優れた人工皮
革基材製造方法を提供すること。
【解決手段】基材の表面に高分子弾性体水分散液を塗布するに際し、少なくとも基材表面
にゲル化剤添加水溶液を付与した後に該高分子弾性体水分散液を塗布することを特徴とす
る高分子弾性体水分散液の塗布方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材の表面に高分子弾性体水分散液を塗布する高分子弾性体水分散液の塗布
方法に関する。また、繊維絡合不織布と高分子弾性体からなる人工皮革用基材からなる銀
付人工皮革を製造するにあたって、従来の銀付人工皮革用のように工程中での有機溶剤使
用を必要とはしない製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、合成皮革や人工皮革は、天然皮革の代替品として靴、衣料、手袋、鞄、ボール、
インテリアなどのあらゆる分野に多く利用されている。これらは、より高い品質と感性、
とりわけ優美な天然皮革調の外観が強く望まれており、さらに軽量性かつ柔軟な素材が求
められている。
従来の人工皮革用基材の製造方法の多くは、概略次のようないくつかの工程からなる。
溶解性、分解性を異にする2種類の重合体から紡糸した多成分系繊維をステープル化し、
カード、クロスラッパー、ランダムウェーバー等を用いて所望の重量のウェブとし、次い
でニードルパンチ、ウォータージェット等により繊維を互いに絡ませることで絡合不織布
化した後、ポリウレタンに代表される高分子弾性体の溶液若しくはエマルジョン液を付与
して凝固させ、その後で該多成分系繊維中の一成分の除去または減量により極細繊維とす
る方法、あるいは前記において高分子弾性体を含浸・凝固させる工程と該多成分系繊維を
極細繊維とする工程を逆の順序で行う方法である。これらの方法により絡合不織布を構成
する繊維を極細化させた柔軟な人工皮革用基材を得ることができ、それら基材をベースと
する各種人工皮革素材を用いることで、製品は極細繊維特有の風合いと外観による優れた
素材感が得られることが種々の製品市場で広く認知されている。
例えば0.1デシテックス以下の極細繊維からなる絡合不織布にポリウレタン樹脂を含
浸凝固した基体に、離型紙を用いて天然皮革のシボを再現した樹脂フィルムを作製し、該
基体に貼り付ける造面法は公知であるし、また、上記基体の表面にポリウレタン溶液をコ
ーティングして湿式凝固して発泡層を形成した後に着色してエンボスロールで型押しする
方法も一般的である(例えば、特許文献1参照。)。しかしいずれものポリウレタン樹脂
も有機溶剤を使用したもので、高分子弾性体水分散液を使用した場合に、外観、風合いな
どを満足できたものは未だ得られておらず、これまで様々な手法が提案されている。
【0003】
有機溶剤の使用に対し、人体や環境への悪影響の懸念から無溶剤系でさらに軽量性を得
るための製造プロセスとして、例えば、中空繊維発生型繊維の抽出成分として水溶性高分
子成分を用いた繊維が提案されており(例えば、特許文献2参照。)、また人工皮革製造
方法においては三次元絡合体不織布の内部に含浸する樹脂として高分子弾性体水分散液が
検討されている。しかしこれらは人工皮革用基材に関するものであり、表面へコートする
、いわゆる基材表面への高分子弾性体水分散液の塗布方法に関するものではなかった。
【0004】
まず特定組成を有する熱可塑性ポリウレタンを、皮革様の凹凸模様を有する離型紙上に
溶融押し出しすると共に、該離型紙上の熱可塑性ポリウレタンフィルム層を押圧ロールな
どを用いて繊維質基体に転写及び接着させる方法が知られている(例えば、特許文献3参
照。)。この方法の場合、前記熱可塑性ポリウレタンを溶融させるために180℃以上と
高温であるため、離型紙上に塗布した時点で溶融熱可塑性ポリウレタンが急冷され、離型
紙の微細な凹部に十分にポリウレタンが進入できないため凹凸模様の再現性に劣るという
問題を有していた。
また、無溶剤型ポリウレタン樹脂を用いた製造方法として、湿気硬化性ポリウレタンホ
ットメルト樹脂組成物を用いる手法も検討されている。例えば、皮革様シートの表皮層と
して、固形状の湿分硬化ポリウレタン(湿気硬化型ポリウレタンホットメルト樹脂組成物
)を使用することができ、該表皮層と基材とを接着剤として湿分硬化ポリウレタンを使用
して貼り合わせることによりポリウレタン皮革様シートを製造する方法が開示されている
(例えば、特許文献4。)。しかしこの方法では、予め表皮層を作成し、接着剤として湿
気硬化性ポリウレタンホットメルト樹脂組成物を使用して該表皮層と基材とを貼り合わせ
る工程が必要であり、製造プロセスが煩雑となる。
【0005】
さらに、高分子弾性体水分散液を用いたものとして、例えば、繊維質基材内部へ高分子
弾性体水分散液を含浸、凝固させる工程、高分子弾性体水分散液を表面へ塗布する工程、
繊維を極細繊維化する工程の順に処理する方法も提案されている(例えば、特許文献5。
)。しかしながら、湿式凝固法で表面へ高分子弾性体水分散液を塗布する場合、液粘度が
低すぎると、塗布した高分子弾性体水分散液が繊維質基材内部へ浸透してしまい表面や表
層へとどまれず、得られる皮革様シートの外観は凹凸が目立ち、品位の劣ったものとなる
。乾式凝固法であればこのような問題は解決できるが、一度離型紙上にコートしたものを
貼り合わせる作業が必要になりプロセスが増えるばかりか、コート樹脂が存在しない隙間
が湿式凝固法より多くできるため、充実感が劣る問題があった。
【0006】
以上、銀付人工皮革の各分野で一般的に用いられている0.3〜3.0mmの厚さ範囲
の中で、優美な外観、柔軟性を兼ね備える銀付人工皮革を製造するにあたって、従来の銀
付人工皮革のように工程中での有機溶剤使用を必要とはしないことを満足した無溶剤系の
銀付人工皮革の製造方法は未だ開発されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−132851号公報
【特許文献2】特開2003−73924号公報
【特許文献3】特開平9−24590号公報
【特許文献4】特開2000−54272号公報
【特許文献5】特開2001―81678号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、優美な外観、柔軟性を兼ね備え、さらに有機溶剤を使用せず、基材の
表面に高分子弾性体水分散液を塗布する高分子弾性体水分散液の塗布方法を提供すること
にある。また、上記方法を用いて銀付人工皮革の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を達成すべく本発明者等は鋭意研究を重ねた結果、本発明に至った。すなわち
、本発明は、基材の表面に高分子弾性体水分散液を塗布するに際し、少なくとも基材表面
にゲル化剤添加水溶液を付与した後に該高分子弾性体水溶液を塗布することを特徴とする
高分子弾性体水溶液の塗布方法である。
また、本発明は、以下(1)〜(3)の工程を順次行う銀付人工皮革の製造方法である

(1)基材の表面にゲル化剤添加水溶液を付与する工程
(2)高分子弾性体水分散液を基材の表面に塗布しゲル化・乾燥する工程
(3)ゲル化剤添加水溶液を除去する工程
【発明の効果】
【0010】
本発明の塗布方法によれば、無溶剤で基材の表面へ高分子弾性体水分散液を塗布する際
、基材の内部まで沈み込むことなく表面層を形成することが可能であり、例えば、銀付人
工皮革を製造するに際し、水溶性高分子成分を一成分とする複合繊維からなる不織布の内
部に高分子弾性体水分散液の含浸、凝固、乾燥処理を行って基材を得た後、その後化学薬
品を用いることなく水処理により複合繊維の一成分である水溶性高分子成分とゲル化剤お
よび高分子弾性体水分散液へ添加した添加剤を同時に抽出除去でき、機械的物性に優れ、
柔軟かつ軽量で風合いに優れた銀付人工皮革製造方法を提供することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明を達成するための具体的な手段の例を以下に述べる。まず、本発明に用いる基材
は、不織布、織編物で代表される布帛等内部に空隙があり柔軟なものであれば特に限定す
るものではないが、一例として、銀付人工皮革用の基材を用いて、その具体的手段を述べ
る。
複合繊維とは、化学的または物理的性質の異なる少なくとも2種類の可紡性ポリマーか
らなる多成分系繊維を、高分子弾性体を含浸させた後の適当な段階で少なくとも1種類の
ポリマーを抽出除去して繊維形態を変えることが可能な繊維のことである。この複合繊維
は、海島型複合紡糸繊維、海島型混合紡糸繊維などで代表される海島型繊維や、花弁型や
積層型繊維等の多成分系複合繊維のいずれも使用できるが、軽量の観点からは中空繊維発
生型繊維であることが好ましく、チップブレンド(混合紡糸)方式や複合紡糸方式で代表
される方法を用いて得られる。その代表的な繊維の形態は、いわゆる海島型繊維と呼ばれ
るものである。
【0012】
海島型繊維の場合、抽出後の繊維を形成するポリマーとしては、公知の成分、例えば、
ポリアミド系、ポリエステル系およびポリオレフィン系等の成分であれば特に限定するも
のではない。特にポリマーの比重が低く軽量性が発現し易く、また高分子弾性重合体を高
分子弾性体水分散液の形態で含浸付与した際に、中空繊維との離型構造を発現し易い点で
、ポリオレフィン系の繊維形成能を有する重合体が好適であり、紡糸安定性の点からポリ
プロピレン樹脂が好適に使用され、特に紡糸安定性の点からポリプロピレンが好ましい。
一方、物性、親水性が望まれる場合だと、抽出後の繊維を形成するポリマーとしてポリア
ミド系が好ましく、中でも汎用的なナイロンが好ましく、ナイロン6、ナイロン11、ナ
イロン12など溶融紡糸可能であれば特に限定されない。
前記したポリプロピレン樹脂はプロピレン単独重合体、プロピレンとエチレンおよび/
もしくは炭素数4〜20のα−オレフィンとの結晶性ランダム共重合体もしくは結晶性ブ
ロック共重合体などが挙げられる。コモノマーとして用いられる具体的なα−オレフィン
としては、エチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オ
クテン、4−メチル−ペンテン−1、4−メチル−ヘキセン−1、4,4−ジメチルペン
テン−1等を挙げることができ、1種または2種以上の組み合わせでも良い。
これらのポリプロピレン樹脂は、単独、あるいは2種以上組み合わせて用いることもで
きる。また、ポリエチレン等の他のオレフィン樹脂を少量配合する事もできる。
本発明で用いるポリプロピレン樹脂のメルトフローレート(MFR)は、好ましくは1〜
200g/分、より好ましくは5〜100g/分である。ここで、MFRは、JIS−K
6921−2付属書に準拠して230℃、荷重21.1Nで測定する値である。
本発明で用いるプロピレン樹脂は、高立体規則性重合触媒を用いてプロピレンを重合さ
せることによって得ることができる。高立体規則性重合触媒としては、塩化チタン、アル
コキシチタン等を出発材料として調整されたチタン化合物を用いた、いわゆるチーグラー
・ナッタ触媒、あるいは、メタロセン化合物を用いたカミンスキー型触媒を使用すること
ができる。
上記のような触媒を用いたプロピレンの重合様式は、触媒成分とモノマーが効率よく接
触するならば、あらゆる様式の方法を採用する事ができる。具体的には、不活性溶媒を用
いるスラリー法、不活性溶媒を実質的に用いずプロピレンを溶媒として用いるバルク法、
溶液重合法あるいは実質的に液体溶媒を用いず各モノマーを実質的にガス状に保つ気相法
を採用する事ができる。
また、連続重合、回分式重合も適用される。スラリー重合の場合には、重合溶媒として
ヘキサン、ヘプタン、ペンタン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン等の飽和脂肪族ま
たは芳香族炭化水素の単独あるいは混合物を用いる事ができる。
これらの重合法においてポリプロピレンのMFRの調整は、水素の導入によって行われる
が、その場合、水素の導入量は重合開始から終了まで一定としてもよく、連続的に或いは
段階的に変化させてもよい。
なお、このようなポリプロピレン樹脂は、市販品の中から選択入手する事ができる。
また、中空繊維を構成する樹脂には、染料、顔料等の着色剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、
消臭剤、防かび剤、各種安定剤が添加されていてもよい。
【0013】
また海島型断面繊維の抽出成分を構成するポリマーは、水溶性高分子成分であって、抽
出後の繊維を構成する水難溶性成分と溶剤または分解剤に対する溶解性または分解性を異
にし、海成分との親和性の小さいポリマーであって、かつ紡糸条件下で海成分の溶融粘度
より大きい溶融粘度であるか、あるいは表面張力の大きいポリマーであることが好ましい
。化学薬品などを用いることなく、さらに後述する高分子弾性体水分散液へ添加した添加
剤を、さらには基材表面へコートした高分子弾性体水分散液へ添加した添加剤を同時に除
去できる人工皮革用基材の製造が可能となるため好ましい。
【0014】
本発明の不織布を構成する複合繊維に用いられる水溶性高分子成分としては、紡糸可能
であり、かつ水溶液で抽出可能な成分であれば公知のポリマーが使用できるが、熱水で溶
解除去が容易であり、抽出の際水難溶性成分や高分子弾性体成分の分解反応が実質的に起
こらず、水難溶性成分や高分子弾性体成分が限定されない点、更には環境に配慮した点等
から水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール(以下、単にPVAと称する場合がある。)が
好ましい。PVAとしては、粘度平均重合度(以下、単に重合度と略記する)が200〜
500のものが好ましく、中でも230〜470の範囲のものが好ましく、250〜45
0のものが特に好ましい。重合度が200未満の場合には溶融粘度が低すぎて、安定な複
合化が得られにくい。重合度が500を超えると溶融粘度が高すぎて、紡糸ノズルから樹
脂を吐出することが困難となる。重合度500以下のいわゆる低重合度PVAを用いるこ
とにより、熱水で溶解するときに溶解速度が速くなるという利点も有る。
【0015】
ここで言うPVAの重合度(P)は、JIS−K6726に準じて測定される。すなわ
ち、PVAを再ケン化し、精製した後、30℃の水中で測定した極限粘度[η]から次式
により求められるものである。
P=([η]10/8.29)(1/0.62)
重合度が上記範囲にある時、本発明の目的がより好適に達せられる。
【0016】
本発明に用いられるPVAのケン化度は90〜99.99モル%の範囲であることが好
ましく、93〜99.98モル%の範囲がより好ましく、94〜99.97モル%の範囲
がさらに好ましく、96〜99.96モル%の範囲が特に好ましい。ケン化度が90モル
%未満の場合には、PVAの熱安定性が悪く、熱分解やゲル化によって満足な溶融紡糸を
行うことができないのみならず、生分解性が低下し、更に後述する共重合モノマーの種類
によってはPVAの水溶性が低下し、本発明の複合繊維を得ることができない場合がある
。一方、ケン化度が99.99モル%よりも大きいPVAは安定に製造することができに
くい。
【0017】
本発明で使用されるPVAは生分解性を有しており、活性汚泥処理あるいは土壌に埋め
ておくと分解されて水と二酸化炭素になる。PVAを溶解した後のPVA含有廃液の処理
には活性汚泥法が好ましい。該PVA水溶液を活性汚泥で連続処理すると2日間から1ヶ
月の間で分解される。また、本発明に用いるPVAは燃焼熱が低く、焼却炉に対する負荷
が小さいので、PVAを溶解した排水を乾燥させてPVAを焼却処理してもよい。
【0018】
本発明に用いられるPVAの融点(Tm)は、160〜230℃が好ましく、170〜
227℃がより好ましく、175〜224℃が特に好ましく、180〜220℃がとりわ
け好ましい。融点が160℃未満の場合にはPVAの結晶性が低下し繊維強度が低くなる
と同時に、PVAの熱安定性が悪くなり、繊維化できない場合がある。一方、融点が23
0℃を超えると、溶融紡糸温度が高くなり紡糸温度とPVAの分解温度が近づくためにP
VA繊維を安定に製造することができない。
【0019】
PVAの融点は、DSCを用いて、窒素中、昇温速度10℃/分で300℃まで昇温後
、室温まで冷却し、再度昇温速度10℃/分で300℃まで昇温した場合のPVAの融点
を示す吸熱ピークのピークトップの温度を意味する。
【0020】
本発明に用いられるPVAは、ビニルエステル単位を主体として有する樹脂をケン化す
ることにより得られる。ビニルエステル単位を形成するためのビニル化合物単量体として
は、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニ
ル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニルおよび
バーサティック酸ビニル等が挙げられ、これらの中でもPVAを容易に得る点からは酢酸
ビニルが好ましい。
【0021】
本発明で使用されるPVAは、ホモポリマーであっても共重合単位を導入した変性PV
Aであってもよいが、溶融紡糸性、水溶性、繊維物性の観点からは、共重合単位を導入し
た変性PVAを用いることが好ましい。共重合単量体の種類としては、共重合性、溶融紡
糸性および繊維の水溶性の観点から、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン等
の炭素数4以下のα−オレフィン類、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n
−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル等
のビニルエーテル類が好ましい。炭素数4以下のα−オレフィン類および/またはビニル
エーテル類に由来する単位は、PVA中にPVA構成単位の1〜20モル%存在している
ことが好ましく、さらに4〜15モル%が好ましく、6〜13モル%が特に好ましい。さ
らに、α−オレフィンがエチレンである場合には、繊維物性が高くなることから、特にエ
チレン単位が4〜15モル%、より好ましくは6〜13モル%導入された変性PVAを使
用する場合である。
【0022】
本発明で使用されるPVAは、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法など
の公知の方法が挙げられる。その中でも、無溶媒あるいはアルコールなどの溶媒中で重合
する塊状重合法や溶液重合法が通常採用される。溶液重合時に溶媒として使用されるアル
コールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコールなどの低級
アルコールが挙げられる。共重合に使用される開始剤としては、a,a’−アゾビスイソ
ブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチル−バレロニトリル)、過酸化ベ
ンゾイル、n−プロピルパーオキシカーボネートなどのアゾ系開始剤または過酸化物系開
始剤などの公知の開始剤が挙げられる。重合温度については特に制限はないが、0℃〜1
50℃の範囲が適当である。
【0023】
本発明において好適な中空繊維発生型複合繊維は、機械的物性に優れることから長繊維
が好ましく、この場合短繊維と異なり繊維断面の露出が非常に少なく、後述する抽出にお
いて繊維の壁面から水溶性高分子成分の抽出を行う必要がある。このため抽出効率を上げ
るためには水膨潤した際繊維壁面へクラックを発生させることが好ましく、中空繊維発生
型繊維の島成分である水溶性高分子島成分間の距離、あるいは島成分と中空繊維発生型繊
維外周の最短距離の平均が7μm以下であることが好ましく、3μm以下がより好ましい
。ここで、各隔壁の最薄部の平均厚みは、海島型複合繊維の横断面を走査型電子顕微鏡(
SEM)にて2000倍で観察した画像において、各島成分と海島型複合繊維の輪郭とを
隔離する海成分が形成する複数の隔壁において、最薄部の厚みtを測定し、その値を数平
均して得られる厚みである。
【0024】
上述したような海島型複合繊維を形成することにより、後述する工程の海島型複合繊維
からPVAを水により抽出除去する工程において、切断面、あるいは損傷部からPVAが
水膨潤した時、海成分のポリオレフィン系樹脂で形成された隔壁にクラックが生じやすく
なる。そして、クラックから海島型複合繊維の内部に水が浸入することにより、PVAが
さらに膨潤溶解し、PVAの抽出効率が高くなる。従って、例え、繊維断面の少ない海島
型複合繊維からなるフィラメントを用いて形成された三次元絡合体であっても、PVAを
効率的に抽出することができる。
【0025】
本発明における複合繊維の繊度は5デシテックス以下が好ましく、3デシテックス以下
がより好ましい。人工皮革などの繊維質シートでは、一般的に繊度が小さいほど目付斑が
少なく柔軟な風合いが得られる。本発明においても複合繊維の繊度が5デシテックスを超
える場合には基材の風合いが硬くゴワゴワとした触感が強調され適当でない。しかしなが
ら、あまりに繊度が小さすぎると基材中の繊維が過密充填になるので、複合繊維は本発明
の軽量性を達成する上で0.5デシテックス以上、さらには1デシックス以上が好ましい

【0026】
また、繊度5デシテックス以下の繊維の横断面における島成分が1個以上存在すること
が好ましく、5〜50個存在することがより好ましい。かつ複合繊維が中空繊維発生型繊
維である場合、該中空部が下記式(1)(2)を同時に満足することが、製品として使用
時の屈曲により、中空部が潰れて扁平化、または壁が破壊されたりすることなく、中空形
状の回復性にも優れた性能を持ち、軽量性効果を安定して発揮することができる。
25≦100×sm/S≦50 (1)
100×s/S≦5 (2)
s:繊維断面中の中空部1個の面積
sm:繊維断面中の総中空部の面積
S:繊維外周に囲まれた部分の面積
上記式(1)で表される面積中空率、すなわち、繊維の横断面における該中空部の総面
積の割合は25〜50%の範囲であり、好ましくは30〜40%である。面積中空率が2
5%未満では軽量性効果が不十分で、50%を超える場合は島部除去工程以降にかかるテ
ンションやプレスによって繊維断面の中空部分の潰れが顕著になり、基材の密度が上がり
軽量な基材が得られにくい。
【0027】
さらに、中空繊維発生型繊維の断面における中空発生部1個の占める面積が5%以下で
あることが好ましく、5%を超えると島部除去工程以降にかかるテンションやプレスによ
って繊維断面の中空部分の潰れが顕著になり、また製品になってからの屈曲、圧縮による
中空部の潰れ、変形も発生しやすくなる。また中空繊維中の1個の島部分(中空部分)の
面積が少なすぎると、中空部を発生させる島部除去工程以降にかかるテンションやプレス
によって、島成分を除去したにもかかわらず、中空部のないものとなるため、好ましくは
1〜4%、さらに好ましくは2〜4%の範囲である。
【0028】
本発明で好適な中空繊維発生型複合繊維の島成分の繊度は、0.05〜0.5デシテッ
クス、さらには0.1〜0.5デシテックスの範囲をとることが島成分除去後の中空繊維
の中空形状安定性の点で好ましい。また、面積中空率は、中空繊維を形成する部分と、抽
出除去後に中空部となる島成分部分の面積比率、および島成分を除去した時の中空繊維成
分からなる外壁や隔壁の形態維持性に依存するので、適宜島成分の繊度と海島中空比率組
み合わせて中空形状を安定化するのが好ましい。
【0029】
複合繊維は、従来の銀付人工皮革用基材(以下、単に人工皮革用基材と称する場合もあ
る。)において最も一般的に実施されてきたように、目的の繊度に紡糸、延伸し、捲縮を
付与した後で任意の繊維長にカットして、ステープルとし、カード、クロスラッパー、ラ
ンダムウェーバー等を用いて複合繊維ウェブを製造してもよいが、紡糸ノズル孔から吐出
した中空繊維発生型複合繊維を冷却装置により冷却せしめた後、エアジェット・ノズルの
ような吸引装置を用いて、目的の繊度となるように、1000〜6000m/minの複
合繊維の引取り速度に該当する速度で高速気流により牽引細化させた後、開繊させながら
移動式ネットなどの捕集面上に堆積させて繊維ウェブを形成させ、次工程に搬送するため
にウェブの形態を安定化する必要がある場合は、引き続きこの繊維ウェブをプレス等によ
り部分的に圧着して形態を安定化させることにより、従来の短繊維を経由する繊維ウェブ
製造方法では必須の原綿供給装置、開繊装置、カード機などの一連の大型設備を必要とし
ないという生産上の利点がある。また、得られる長繊維不織布、あるいはそれを用いた人
工皮革用基材は、構造において連続性の高い長繊維からなるので、強度などの物性面にお
いても従来一般的であった短繊維不織布、あるいはそれを用いた人工皮革用基材に比べて
高いものを得ることができるという利点がある。
【0030】
このようにして得られた繊維ウェブを、目的とする目付の不織布を得るため、複数枚重
ね合わせ、下記のニードルパンチングを含む絡合処理によって、繊維を実質的に切断する
ことなく、厚み方向に繊維を配向させつつ繊維同士を絡合させて不織布とする。
【0031】
本発明におけるニードルパンチング工程で用いるフェルト針は、公知の物が用いられる
が、繊維ウェブの厚さ方向への複合繊維同士の交絡を確実に行うためには、針をウェブへ
突き刺す際に針1本当たりの抵抗がより低く、繊維を切断させにくい方が好ましいので、
より細い針、あるいはバーブが少ない1バーブ針が好適に用いられる。また、不織布の表
層領域の見掛け密度を中層付近より高くすることで、少ない中空繊維でも効率的に平滑で
より緻密な表面状態を得るためには、バーブが多めの3バーブ、6バーブ、9バーブ等の
針が効果的である。従って、これらの針を組み合わせて用いることで、例えば繊維同士が
融着しているなどの交絡まさせにくい状態にある繊維ウェブを用いた場合でも、効果的に
交絡まさせた上で表面層は平滑で緻密な状態にある不織布を得ることも可能である。
【0032】
ニードルパンチング工程において、繊維ウェブに突き刺すフェルト針の単位面積辺りの
本数は、使用する針の形状やウェブの目付により異なり、使用する針のスロートデプスが
深く、ウェブを貫通するバーブ数が多く、ウェブの目付が高い場合は少ない本数で効果的
に繊維同士を交絡まさせ易く、逆にスロートデプスが浅く、繊維ウェブを貫通するバーブ
数が少なく、ウェブの目付が低い場合は必要な本数が多くなるが、一般に200〜250
0本/cmの範囲で設定される。一般的に海島型繊維のニードルパンチング工程におい
て、ニードルパンチング条件が強すぎる場合には海島型複合繊維の切断や繊維の損傷がお
こり交絡まさせにくく、またニードルパンチング条件が弱すぎる場合には厚さ方向への繊
維の配列数が不足し易い傾向にある。ニードルパンチングにより得られた不織布の目付け
としては100〜3000g/mの範囲が好ましい。
【0033】
ニードルパンチされた不織布は本発明の平滑化のためには例えばプレスすることが好ま
しく、プレスによる平滑化時に同時に厚さ調節も行うことが好ましい。プレスの方法とし
ては、複数の加熱ロール間を通す方法、予熱した不織布を冷却ロール間に通す方法等、従
来公知の方法が利用できる。なおこの工程の際に、複合繊維の溶融・圧着状態の調整や、
テンションやプレス等による工程の形態変化を抑制する目的で、PVAやデンプン、樹脂
エマルジョン等の接着剤を添加することは差し支えない。プレスすることにより不織布の
厚さが好ましくは5〜30%さらに好ましくは10〜25%減少する程度の条件をとる。
【0034】
従来の有機溶剤に溶解したポリウレタン等で代表される高分子弾性体からなるバインダ
ー樹脂溶液を不織布の内部に含浸付与し、バインダー樹脂の非溶剤で湿式凝固させる方法
では、バインダー樹脂が連続した発泡状態を形成して、不織布の表面から内部に渡って緻
密なバインダー層と不織布層の混在した基材を形成することから、銀付人工皮革を製造す
るために、基材表面に高分子弾性体を付与しても高分子弾性体が基材の内部に沈み込まず
、そのため少量のバインダー樹脂で形態安定化と銀付天然皮革様の風合いを得ることが可
能であったが、溶剤を使用せずに不織布の内部に高分子弾性体水分散液を含浸して、基材
とする場合においては、高分子弾性体水分散液からなるバインダー樹脂が、連続した発泡
状体の構造にすることは難しく、銀付人工皮革とするためにさらに基材表面に高分子弾性
体を塗布すると基材の内部にその大部分が沈みこんでしまい、高分子弾性体水分散液では
、沈みこみが顕著であった、そしてバインダー樹脂を連続した構造体とするには極めて多
量の樹脂が必要となり、結果として風合いの硬化や軽量性や物性の低下を引き起こすもの
であった。本発明において、高分子弾性体水分散液の不織布への含浸するに際し、繊維と
高分子弾性体との界面に空間が形成された離型構造を発生させるため、高分子弾性体水分
散液へさらに水溶性高分子成分を添加することが、柔軟性に優れ、挫掘皺の無い基材を得
る点で好ましい。また、付与するバインダー樹脂の量を低減することも可能となり軽量化
が可能となる。添加する水溶性高分子成分としては水溶液で抽出可能な成分であれば公知
のポリマーが使用できるが、熱水で溶解除去が容易であり、抽出の際水難溶性成分や高分
子弾性体成分の分解反応が実質的に起こらず、水難溶性成分や高分子弾性体成分が限定さ
れない点、更には環境に配慮した点等からPVAが好ましい。さらにPVA添加により、
水系エマルジョンの粘度が高くなり過ぎず、かつ離型効果を効果的に発現させるため、P
VA添加量は高分子弾性体に対して2.0〜40%であることが好ましく、3.0〜30
%であることがより好ましい。さらに、水難溶性成分と高分子弾性体の間に適度な滑りが
生じて引裂強力や剥離強力などの物性も向上する効果があり、本発明における好適な組み
合わせである中空繊維を長繊維とした場合に顕著な効果が得られる。ここで公知の撥水処
理剤を用いた後処理して撥水性を付与した場合は、水系の撥水処理剤は水性化する目的で
撥水処理剤自体に親水基を有していたり、界面活性剤を含有しているため、水系エマルジ
ョンバインダー樹脂を含浸、凝固、乾燥する工程中において、撥水性が低下するため、目
的とする離型構造を安定して得ることは困難である。
【0035】
本発明の好適な製造方法では、含浸する水系エマルジョンへPVAを添加することで水
難溶性繊維と適度な離型効果を発現させるが、この効果を補足するため水系エマルジョン
を含浸する前の不織布へ事前にPVAを添加していてもよい。
【0036】
付与する高分子弾性体の量としては、水難溶性繊維化後の不織布の質量に対して、固形
分換算で5〜50質量%が好ましい。5質量%未満では中空繊維と周囲の高分子弾性体の
接着している部分の比率を減少させる事が可能になる反面、水難溶性繊維の固定が不十分
となり、折れ曲げ皺、形態安定性および表面平滑性が不良となる。50%を越えると風合
いの硬化が生じるとともに高分子弾性体の弾性的な性質が強く影響し、天然皮革の持つ低
反発な柔軟性からかけ離れた物となるばかりか、軽量性が大きく損なわれてくる。
含浸する高分子弾性体水分散液を構成する樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポ
リアミド、ポリエステル、ポリエステルエーテルコポリマー、ポリアクリル酸エステルコ
ポリマー、ポリウレタン、ネオプレン、スチレンブタジエンコポリマー、シリコーン樹脂
、ポリアミノ酸、ポリアミノ酸ポリウレタンコポリマーなどの合成樹脂または天然高分子
樹脂、またはそれらの混合物等を挙げることができ、さらに必要によっては顔料、染料、
架橋剤、充填剤、可塑剤、各種安定剤などを添加してもよいが、自己乳化タイプのエマル
ジョンが好ましく用いられる。なかでも、ポリウレタンあるいはこれに他の樹脂を加えた
ものは、柔軟な風合いが得られるので、高分子弾性体として好ましく用いられる。高分子
弾性体水分散液中の樹脂濃度としては5〜60質量%が好ましい。この範囲を外れると中
空繊維化後の不織布の質量に対する、高分子弾性体の比率を固形分換算で5〜50質量%
に調整する事が困難となり、繊維と弾性重合体とのバランスが悪くなり、製品としての充
実感や柔軟性が得られなくないばかりか、軽量性の悪化や物性の低下を引き起こす。
【0037】
高分子弾性体水分散液を不織布へ含浸させる方法は特に制限されないが、例えば、浸漬
などにより不織布内部に均一に含浸する方法、表面と裏面に塗布する方法などが挙げられ
る。感熱ゲル化剤などを使用して、含浸した高分子弾性体水分散液が不織布の表面と裏面
に移行(マイグレーション)するのを防止し、高分子弾性体水分散液を不織布中で均一に
凝固させてもよい。また、含浸した高分子弾性体水分散液を不織布の表面と裏面に移行(
マイグレーション)させ、その後凝固させて、高分子弾性体の存在量を厚み方向に略連続
的に勾配させてもよい。すなわち、高分子弾性体の存在量を、厚み方向中央部よりも、両
表層部近傍で多くしてもよい。このような分布勾配を得るためには、高分子弾性体水分散
液を含浸させた後、マイグレーション防止手段を講じることなく、不織布の表面と裏面を
好ましくは110〜150℃で、好ましくは0.5〜30分間加熱する。このような加熱
により水分が表面と裏面から蒸散し、それに伴って高分子弾性体水分散液の水分が両表層
部に移行し、高分子弾性体水分散液が表面と裏面近傍で凝固する。マイグレーションのた
めの加熱は、乾燥装置中などにおいて熱風を表面および裏面に吹き付けることにより行う
のが好ましい。
【0038】
次に不織布の表面平滑性を向上させるため、高分子弾性体水分散液を含浸、凝固、乾燥
した後の不織布表面を、熱プレス、バフ、スライスなどの任意の処理を行ってもかまわな
い。バフ条件としては、表層から5/100〜20/100mm程度研削することが好ま
しい。条件としては、200〜1500rpmの回転で行うことが一度に行う研削量を高
めて生産効率を向上させられる点から好ましく、400〜180番手のペーパーを用いる
ことが表面を荒らさず平滑化できる点から好ましい。
【0039】
一般的に、表面へ銀付層(以下、コート層と称する場合もある。)を形成し最終的にエ
ンボス処理などを行って銀付人工皮革として仕上げる場合、コート層が不織布内部へ浸透
しすぎると、不織布の凹凸が表面へ浮き出る面モロと呼ばれる欠点を生じるため、表面塗
布したコートの不織布内部への沈み込みは、600μm以下へ抑制することが好ましい。
そこで本発明では、高分子弾性体水分散液を含浸、凝固、乾燥させた後の不織布内部へ、
ゲル化剤添加水溶液を付与した後、高分子弾性体水分散液を表面へ塗布することで、塗布
した瞬間ゲル化させ、大幅に液粘度を増加させることなく高分子弾性体の内部への沈み込
みを抑制し、簡便に表面へコート層を形成することを可能した。ここで用いるゲル化剤は
、後述する抽出処理で同時に抽出除去するため水溶性であることが好ましく、一価、また
は二価の無機塩類がより好ましく、例えば、炭酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、塩化カル
シウム、硫酸カルシウム、硝酸カルシウム、酸化亜鉛、塩化亜鉛、塩化マグネシウム、塩
化カリウム、炭酸カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸鉛等を挙げることができる。中でも少
量で瞬間的なゲル化を引き起こす点から、安定的に高分子弾性体水分散液からなる銀付層
を形成することが可能となるカルシウム塩が好ましく、水に対する溶解性が高い点から硝
酸カルシウムがさらに好ましい。好適に用いる硝酸カルシウム水溶液濃度としては、瞬間
的なゲル化を引き起こし、かつ後述する抽出処理で抽出除去しやすい点などから、ゲル化
剤濃度1〜50%をpick up50〜250%で不織布内部へ含ませることが好まし
く、ゲル化剤濃度は2〜10%がより好ましく、3〜7%がさらに好ましい。またpic
k upは70〜230%がより好ましく、100〜200%がさらに好ましい。
【0040】
また、高分子弾性体水分散液としては不織布へ含浸する高分子弾性体を用いてもよく、
自己乳化タイプ、強制乳化タイプなど公知のものであればいずれも使用可能であるが、ゲ
ル化剤として好適な硝酸カルシウムを使用する場合、瞬間的なゲル化を起こしやすい組み
合わせとして、自己乳化タイプが好ましい。そして、エマルジョンの種類として、ポリウ
レタンエマルジョン、アクリルエマルジョン、ポリウレタンアクリル複合エマルジョン、
スチレン系エマルジョンなどが好適に使用できる。また、高分子弾性体水分散液の粘度と
しては、液粘度が高すぎると薬調時に攪拌しにくく扱いにくくなり、液の均一な塗布性も
低下してしまい、一方液粘度が極端に低すぎると瞬間的なゲル化完了までの極わずかな時
間の沈み込みが懸念されるため、液粘度としては5〜200psが好ましく、10〜15
0psがより好ましい。また塗布した高分子弾性体水分散液がゲル化剤に接触できずにゲ
ル化せず残ったものを、後に加熱処理して感熱ゲル化することで全てをゲル化させるため
、前述した公知のゲル化剤を少量含んでいてもよい。
【0041】
不織布表面へ塗布した高分子弾性体水分散液がゲル化した後、前述したように場合に応
じて感熱ゲル化のため加熱処理しても構わないし、その前後でさらに高分子弾性体水分散
液をさらに塗布しても構わない。いずれの処理を行ったとしても、含浸していたゲル化剤
水溶液の水分を除去し、かつ不織布へ塗布した高分子弾性体の固着状態を強固にするため
、適宜設定された温度で加熱処理することが好ましい。
【0042】
次に、高分子弾性体水分散液を含浸、凝固、乾燥させ、さらに表面へ高分子弾性体分散
液を塗布した後の不織布から、同不織布を構成している複合繊維の水溶性高分子(PVA
)成分、および高分子弾性体水分散液へ添加されたPVA、あるいは表面へ塗布した高分
子弾性体水分散液中の添加剤、さらには不織布内部のゲル化剤などを同時に一度に熱水抽
出除去する。前述したように、本発明で好適な複合繊維が長繊維である場合は、短繊維と
異なり繊維断面の露出が実質的に無い、あるいは少なく、繊維の壁面からPVAの抽出を
行う必要がある。このためには海成分により形成される複数の隔壁における、各隔壁の最
薄部の平均厚みが7μm以下であることが好ましく、この範囲であれば、熱水が島成分の
PVAを膨潤させる事で繊維側面に物性を低下させず微小なクラックを発生しPVAの抽
出除去を行う事が容易となる。抽出除去する方法としては、80〜95℃の水温が好まし
く、液流染色機、ジッガー等の染色機や、オープンソーパー等の精練加工機を用いること
ができるが、抽出効率の向上のためには中空繊維に物理的な変形を与える事ができる抽出
方法が好ましく、液流染色機や、バイブロ洗浄機と搾液装置を多段に組み合わせた装置を
用いる事が好ましい。上記の抽出方法により、複合繊維のPVA成分、および高分子弾性
体水分散液へ添加されたPVA、あるいは表面へ塗布した高分子弾性体水分散液中の添加
剤、さらには不織布内部のゲル化剤などの大半ないし全部を抽出除去する。
【0043】
本発明の製造方法によって得られる銀付人工皮革の厚さは、用途に応じて任意に選択で
き、特に限定されるものではないが、好ましくは0.3mm〜3mm、特に好ましくは0
.7mm〜1.8mmの範囲である。0.3mm未満は実使用に耐え得る強度や均一性を
得るのが困難となり、3mmを越えるものは目的とする軽量性が得られない。また、本発
明における銀付人工皮革用基材の見掛け密度は0.3以下が好ましい。軽重において重要
なのは人工皮革様基材を用いた靴や鞄などの製品自体の重量であり、その評価は使用する
人の経験に基づいた相対的かつ感覚的なものである。既存製品の構成素材としての銀付人
工皮革あるいは銀付人工皮革用基材の重量は、一般的には見掛け密度が0.35〜0.5
g/cm、即ち厚さが0.8mmの素材だと280〜400g/m程度である。厚さ
0.8mmの銀付人工皮革用基材や銀付人工皮革などの素材一般に対する重量のイメージ
より少なくとも1割は軽く250g/mに満たないような場合、即ち見掛け密度でいう
と0.3g/cm未満の人工皮革用基材であれば、一般消費者にも容易に軽く感じられ
る。既存技術では現実問題として軽量、高物性、風合いの兼備が困難であったが、本発明
によれば、見掛け密度0.3g/cm未満の軽量性を有し、かつ用途において求められ
る機械物性、銀付人工皮革に求められる風合いや品位をも兼ね備えた人工皮革用基材を安
定して製造することが出来る。
【0044】
以上の製造方法にて得られる人工皮革用基材は、種々の用途における種々の外観の銀付
人工皮革の基材として用いることができる。人工皮革用基材の表面に、離型紙上に形成し
た皮革様外観の樹脂フィルムを接着剤を介して転写したり、樹脂エマルジョン、樹脂溶液
、溶融樹脂などの液化樹脂塗料をグラビアやコンマコーターなどを用いて連続的にコート
したり、それらの前後でエンボスロールや鏡面ベルトなどを用いて型押し加工や平滑化加
工を行ったり、これらの加工を組み合わせたりする表面仕上げ加工を、本来目的とする軽
量性を損なわない範囲で行った人工皮革を主要素材の全部または一部として用いることで
、本発明の効果を有する靴、鞄等の人工皮革製の製品を得ることが可能である。上記表面
仕上げ加工を行った表面の仕上げ加工部分、すなわち銀面層、を構成する樹脂としては、
ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン
樹脂等の従来公知の樹脂を使用可能であるが、人工皮革用基材の風合いや充実感とのバラ
ンスをとると共に、表面耐磨耗性、耐屈曲性、表面タッチ、耐久性などの性能バランスの
ためにポリウレタン樹脂、またはアクリル樹脂を使用するのが好ましい。また、銀面層の
構造は、前記した離形紙上に樹脂フィルムを形成する際や、基材表面にコートした液化樹
脂塗料を凝固する際に、湿式法または乾式法によって多孔質構造や非多孔質構造とするこ
とで、所望の機能や風合い等を得ることができる。銀面層の厚さは、目的とする見掛け密
度0.3未満レベルの軽量性を損なわず、用途において必要とされる表面強度などの機械
物性を有し、かつ基材との風合いバランスや基材とトータルでの厚さが所望の範囲に入れ
ば、特に限定されるものではないが、目安は20〜500μmの範囲であり、例えば平滑
でありかつ柔軟で一体感のある風合いを特徴としつつ、機能性として通気性、透湿性をも
向上させたような人工皮革を得たい場合などは、50〜300μが好ましい。
【実施例】
【0045】
以下実施例により、本発明を説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものでは
ない。また、実施例中で記載される部および%は、特にことわりのない限り質量に関する
ものである。以下の実施例および比較例において融点の測定、機械的物性その他の評価は
以下の方法に従った。
【0046】
[樹脂の融点の測定方法]
DSC(TA3000、メトラー社製)を用いて、窒素中、昇温速度10℃/分で室温
から300℃まで昇温後、直ちに室温まで冷却し、再度直ちに昇温速度10℃/分で30
0℃まで昇温したとき、樹脂の融点を示す吸熱ピークのピークトップの温度を採用した。
【0047】
[人工皮革用基材の見掛け密度の測定]
人工皮革用基材の単位面積あたりの重量(g/cm)を厚さ(cm)で除した値を見
掛け密度(g/cm)とし、人工皮革用基材の任意の10箇所について測定した見掛け
密度を算術平均した値を、その人工皮革用基材の見掛け密度とする。なお、厚さは、JI
SL1096に準じて荷重240gf/cmで測定される。
【0048】
[銀付人工皮革の剥離強力測定方法]
長さ15cm、巾2.5cm、厚さ5mmのポリウレタン製ゴム板の表面をサンドペー
パーにて軽く削り取って二液架橋タイプのポリウレタン接着剤をいずれかの端部から長さ
10cm程度の範囲に均一に塗布し、一方、人工皮革用基材を長さ25cm、巾2.5c
mに切り出した試験片にも同様にいずれかの端部から長さ10cm程度の範囲に接着剤を
均一塗布したものを、接着剤を塗布した端部同士が重なるように貼り合わせる。貼り合わ
せた試験片とゴム板を2〜4kg/cm程度の圧力でプレスした後、25℃にて1昼夜
放置する。試験片およびゴム板それぞれの接着剤を塗布していない端部を、初期間隔5c
mにセットした引張試験機の上下それぞれのチャックに挟んで、引張速度10cm/分で
の引張時間に対応した、ゴム板と試験片との接着部分の剥離強力を測定し、チャートに記
録する。チャート上に得られた引張時間−剥離強力曲線の剥離強力がほぼ一定している箇
所についての平均値を読み取り、その試験片の剥離強力値とした。1種類の人工皮革用基
材について、任意の3箇所から切り出した試験片3個の剥離強力測定値を算術平均した値
を、その人工皮革用基材の剥離強力値とした。
【0049】
[銀付人工皮革の引裂強力測定方法]
長さ10cm×巾4cmに切り出した試験片の短辺の中央(巾方向両端から2cmの箇
所)に短辺と直角(長さ方向に平行)に5cmの切れ込みをいれ、各舌片を剥離強力測定
方法と同様にセットした引張試験機の上下チャックにそれぞれ挟んで、引張速度10cm
/minで引裂いたときの引裂応力を測定し、チャートに記録する。チャートから引裂応
力の最大値を読み取り、その試験片の引裂強力値とした。1種類の人工皮革用基材につい
て、任意の3箇所から切り出した試験片3個の引裂強力測定値を算術平均した値を、その
人工皮革用基材の引裂強力値とした。
【0050】
[銀付人工皮革の折り曲げシワ測定方法]
200×200mmの正方形に切断した試料を上端と下端を合わせるように谷折りした
ときに発生する折り曲げ形状を目視により観察した。そして、以下の基準により判定した

良好:牛皮革を折りこんだときと同様の、表面に緻密且つ均質な折れシワが発生した。
不良:折りこんだ表面にダンボールを折り込んだような荒い折れシワが発生した。
【0051】
[高分子弾性体表面沈み込み深さ測定方法]
高分子弾性体水分散液を塗布、乾燥した後の断面を100倍で電子顕微鏡観察し、任意
の5点の沈み込み深さの平均で求めた。
【0052】
実施例1
ナイロン6(宇部興産製1015BK)を海成分に用い、水溶性熱可塑性PVA(クラ
レ社製エクセバールCP−4104MI、融点209℃、JIS K7210のM法で測
定したMFR:80g/分、粘度平均重合度330、ケン化度98.4モル%)を島成分
とし、海島型多成分系繊維1本あたりの島数が12個(島)となるような溶融複合紡糸用
口金を用い、海成分/島成分の質量比50/50となるように255℃で口金より吐出し
た。単位時間辺りの吐出量と得られる長繊維の繊度の比率から間接的に求められる紡糸速
度が3050m/minとなるように口金直下に設置したエアジェット吸引装置のエアー
を調整して、口金から吐出させたポリマーを索引細化させつつ冷却することで平均繊度2
.29デシテックスのナイロン中空繊維発生型複合繊維を紡糸した。得られたナイロン中
空繊維発生型複合繊維のPVAを隔てる壁の厚みは1.10μmであった。その複合繊維
を吸引装置直下に設置した移動式ネット上に連続的に捕集したのち、表面温度常温の金属
ロールを用いて線圧17kg/cmでプレスすることにより目付け38.5g/mの複
合繊維ウェブを得た。
【0053】
複合繊維ウェブをクロスラッパーを用いてウェブ8枚分に相当する目付けになるように
重ね合わせながら、針折れ防止油剤をスプレーを用いてウェブ表面に均一に付与した。次
いで、針先端からバーブまでの距離が5mmの9バーブ、および6バーブのフェルト針を
用い、複合繊維ウェブに突き刺した針の先端が反対側から最大で10mm突き出すような
設定にてウェブ両面へ交互にニードルパンチング処理を行った。突き刺した針本数が合計
で1450本/cmとなるようにニードルパンチング処理をおこなって複合繊維同士を
絡合させることで、目付333g/mの不織布を得た。
【0054】
上記不織布に自己乳化型水系ポリウレタンエマルジョンへエマルジョン固形分の9.5%のPVAを添加し、エマルジョン固形分濃度8.0質量%へ調整した後、pick up188%の条件で、その後の抽出でナイロン中空繊維/ポリウレタン=23.1/76.9となるよう含浸付与した後、乾燥機中で100℃の熱風にて乾燥処理を施し高分子弾性体を含有させた。次いで、240番手のペーパーを用い両面を10/100mmずつ研削した。
【0055】
次に、前記不織布へ硝酸カルシウム1%水溶液をpick up185%で付与した後
、カルボキシル基含有自己乳化型水系ポリウレタンエマルジョン(100%モジュラス:3.0MPa)、へ硫酸アンモニウムを硫酸アンモニウム/水系ポリウレタンエマルジョン固形分=1.5/40となるよう添加し、粘度調整としてケルザン(三昌社製)を添加し、最終的に粘度125ps、濃度32.5%液の調整後の高分子弾性体水分散液を、前記不織布表面へ1.5m/min条件で塗布した後、90℃×70%条件で10min処理した。得られたもののポリウレタン固形分付与量は62.1g/mだった。
【0056】
次に、カルボキシル基含有自己乳化型水系ポリウレタンエマルジョン(100%モジュラス:3.0MPa)へ硫酸アンモニウムを硫酸アンモニウム/水系ポリウレタンエマルジョン固形分=1.25/40となるよう添加し、粘度調整としてケルザン(三昌社製)を添加し、最終的に粘度120ps、濃度29.9%液を調整した。次に、前記調整後のポリウレタンエマルジョン液を、前記不織布表面へ1.5m/min条件で塗布した後、90℃×70%条件で10min処理した。その後乾燥機中で100℃の熱風にて30分間乾燥処理を施し高分子弾性体を固化させた。得られたもののポリウレタン固形分付与量は192.7g/mだった。最初に付与したポリウレタンの沈み込み深さは、311μmだった。
【0057】
次いで95℃の熱水中で、熱水浸漬時間20分となるようdip×nip方式で不織布
中の複合繊維から島成分PVAを、また水系ポリウレタンエマルジョンへ添加したPVAを、さらには不織布へ付与した硝酸カルシウム、および不織布表面へ塗布した水系ポリウレタンエマルジョンへ添加したケルザンなどを抽出除去した。
【0058】
得られた人工皮革用基材を鏡面ロールであるエンボスロールで、温度175℃、圧力2
kgf/cm、速度3.0m/min、基材厚みの半分のクリアランスでプレス処理し
、表面を平滑化させた。次に色付けのためのグラビア処理として、タイペークR−820
(石原産業(株)製)をP/R 2.5で混合したポリエステル系ウレタンインクをグラ
ビアロール♯150メッシュで3段、MA−8B(三菱化学製)をP/R 2.5で混合
したポリエステル系ウレタンインクをグラビアロール♯150メッシュで4段、ポリエス
テル系ウレタン10%液をグラビアロール♯150メッシュ4段で処理し、再びシボのあ
るエンボスロールで、ロール温度180℃、圧力2kgf/cm、速度3.5m/mi
n、基材厚みの半分のクリアランスでプレス処理し、表面へシボを転写させた。
【0059】
厚さ1.28mm、目付489g/mで、横断面に12個の中空部を有するナイロン
中空繊維の不織布とポリウレタンからなる銀付人工皮革を得た。この銀付人工皮革は、剥
離強力測定時に基布切断するほど剥離強力が高く、タテ引裂強力5.0kg、ヨコ引裂強
力4.6kg、見掛け密度が0.382g/cm3であり、機械的物性に優れていながら
、軽いだけでなく、風合いは腰がある上に柔軟であって、かつ屈曲時は細かな皺が均一に
発現し、さらには表面にモロが無く優美な外観であり、紳士靴、スポーツシューズ用の人
工皮革として極めて優れた素材であった。
【0060】
実施例2(海成分をポリプロピレンへ変更)
海島繊維の海成分としてポリプロピレン(プライムポリマー社製プライムポリプロY−
2005GP、融点162℃、JIS K7210のM法で測定したMFR:20g/分
)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、厚さ1.10mm、目付473g/m
で、横断面に12個の中空部を有するポリプロピレン中空繊維の不織布とポリウレタン
からなる銀付人工皮革用基材を得た。最初に塗布したポリウレタンの沈み込み深さは、3
32μmだった。この銀付人工皮革は、剥離強力測定時に基布切断するほど剥離強力が高
く、見掛け密度が0.430g/cm3であり、機械的物性に優れていながら、軽いだけ
でなく、風合いは腰がある上に柔軟であって、かつ屈曲時は細かな皺が均一に発現し、さ
らには表面にモロが無く優美な外観であり、紳士靴、スポーツシューズ用の人工皮革とし
て極めて優れた素材であった。
【0061】
実施例3(コート樹脂種類変更)
1回目に塗布する高分子弾性体水分散液としてカルボキシル基含有自己乳化型水系ポリウレタンエマルジョン(100%モジュラス:27MPa)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、厚さ1.29mm、目付478g/mで、横断面に12個の中空部を有するナイロン中空繊維の不織布とポリウレタンからなる銀付人工皮革を得た。最初に塗布したポリウレタンの沈み込み深さは、377μmだった。この人工皮革用基材は、剥離強力測定時に基布切断するほど剥離強力が高く、タテ引裂強力4.1kg、ヨコ引裂強力4.0kg、見掛け密度が0.371g/cm3であり、機械的物性に優れていながら、軽いだけでなく、風合いは腰がある上に柔軟であって、かつ屈曲時は細かな皺が均一に発現し、さらには表面にモロが無く優美な外観であり、紳士靴、スポーツシューズ用の人工皮革として極めて優れた素材であった。
【0062】
実施例4(ゲル化剤水溶液濃度up)
1回目に塗布する高分子弾性体水分散液を塗布する前に付与するゲル化剤水溶液として
、硫酸アンモニウム30%水溶液を使用した以外は実施例1と同様の操作を行い、横断面
に12個の中空部を有するナイロン中空繊維の不織布とポリウレタンからなる銀付人工皮
革を得た。最初に塗布したポリウレタンの沈み込み深さは、133μmだった。この銀付
人工皮革は、風合いは腰がある上に柔軟であって、かつ屈曲時は細かな皺が均一に発現し
、さらには表面にモロが無く優美な外観であり、紳士靴、スポーツシューズ用の人工皮革
として極めて優れた素材であった。
【0063】
比較例1(水付与)
1回目に高分子弾性体水分散液を塗布する前に不織布へ水を付与したこと以外は、実施
例1と同様の操作を行い、横断面に12個の中空部を有するナイロン中空繊維の不織布と
ポリウレタンからなる銀付人工皮革を得た。最初に塗布したポリウレタンは反対面まで浸
透してしまい、表層のみへとどまることができていなかった。この銀付人工皮革は、表面
にモロがあるため外観が損なわれ、人工皮革として劣ったものであった。
【0064】
比較例2(1回目塗布する高分子弾性体水分散液高粘度)
1回目に塗布する高分子弾性体水分散液を塗布する前に不織布へ硝酸カルシウム水溶液
付与を行わず、該高分子弾性体水分散液の粘度を400psに高めた以外は、実施例1と
同様の操作を行い、横断面に12個の中空部を有するナイロン中空繊維の三次元絡合不織
布とポリウレタンからなる人工皮革用基材を得た。最初に塗布した高分子弾性体水分散液
の粘度が高すぎるため薬調しにくく、さらに取り扱い性が難しく塗布しにくいため、処理
できなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面に高分子弾性体水分散液を塗布するに際し、少なくとも基材表面にゲル化剤
添加水溶液を付与した後に該高分子弾性体水分散液を塗布することを特徴とする高分子弾
性体水分散液の塗布方法。
【請求項2】
ゲル化剤添加水溶液が一価または二価の無機塩類の水溶液である請求項1に記載の高分
子弾性体水分散液の塗布方法。
【請求項3】
ゲル化剤添加水溶液がカルシウム塩類の水溶液である請求項1または2に記載の高分子
弾性体水分散液の塗布方法。
【請求項4】
高分子弾性体水分散液の粘度が5〜200cpsである請求項1〜3のいずれか1項に
記載の高分子弾性体水分散液の塗布方法。
【請求項5】
ゲル化剤添加水溶液の濃度が1%〜50%である請求項1〜4のいずれか1項に記載の
高分子弾性体水分散液の塗布方法。
【請求項6】
高分子弾性体水分散液が自己乳化タイプの高分子弾性体水分散液からなる請求項1〜5
のいずれか1項に記載の高分子弾性体水分散液の塗布方法。
【請求項7】
以下(1)〜(3)の工程を順次行う銀付人工皮革の製造方法。
(1)基材の表面にゲル化剤添加水溶液を付与する工程
(2)高分子弾性体水分散液を基材の表面に塗布しゲル化・乾燥する工程
(3)ゲル化剤添加水溶液を除去する工程
【請求項8】
ゲル化剤添加水溶液が一価または二価の無機塩類の水溶液である請求項7に記載の高分
子弾性体水分散液の塗布方法。
【請求項9】
基材を形成する繊維が、水溶性高分子成分と水難溶性高分子成分からなる複合長繊維で
あって、工程(3)によって、水溶性高分子成分をゲル化剤と同時に除去する請求項7ま
たは8に記載の銀付人工皮革の製造方法。
【請求項10】
基材を形成する繊維が、水溶性高分子成分と水難溶性高分子成分からなる複合長繊維か
ら水溶性高分子成分を除去した繊維である請求項7または8に記載の銀付人工皮革の製造
方法。

【公開番号】特開2013−81928(P2013−81928A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−285249(P2011−285249)
【出願日】平成23年12月27日(2011.12.27)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】