説明

高分子系廃棄物の熱分解装置及びそれを用いた熱分解方法

【課題】高分子系廃棄物の熱分解後に残る炭化物の黒鉛化を抑制し、該炭化物の酸化を抑えることも可能な高分子系廃棄物の熱分解装置を提供する。
【解決手段】無酸素ガスを加熱するための熱交換器1と、内部に高分子系廃棄物2を収容する熱分解炉3及び該熱分解炉3を外部から加熱する外部加熱手段4を有し、該高分子系廃棄物2を前記熱交換器1で加熱した無酸素ガスと接触させることにより熱分解させて熱分解ガスを発生させるための熱分解処理装置5と、前記熱分解処理装置5で発生した熱分解ガスを冷却して、凝縮した油分を回収するための油分回収装置6と、前記油分回収装置6で油分を回収した後の残ガスを、無酸素ガスとして前記熱交換器1に供給するための第一循環路7と、前記油分回収装置6で回収した油分を前記熱分解炉3に供給するための第二循環路8とを備えることを特徴とする高分子系廃棄物の熱分解装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子系廃棄物の熱分解装置及び該高分子系廃棄物の熱分解装置を用いた熱分解方法に関し、特には、高分子系廃棄物の熱分解後に残る炭化物の黒鉛化を抑制し、該炭化物の酸化を抑えることも可能な高分子系廃棄物の熱分解装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、機能性の材料を開発する目的で、ゴム材料や樹脂材料等、様々な高分子系材料の工業化がなされているが、他方で、高分子工業の発展は、汎用材料の大量生産、大量消費をもたらし、高分子系廃棄物の処理は早急に解決すべき重要課題となっている。そして、この課題を解決するためには、高分子系材料の再利用化、リサイクル化等の技術的進展が肝要となる。例えば、ゴム材料であるタイヤは、モータリゼーションの発展と共に自動車必需部材として大量生産、大量消費がなされ、使用済みタイヤの数が膨大になっていることから、使用済みタイヤのリサイクル化・有効利用の研究が進められ、特に有用材料の回収が大きな課題となっている。
【0003】
特開2004−277687号公報(特許文献1)では、廃タイヤを乾留処理して得た炭化物を微粉砕した後、これを密閉容器中で500℃以上に加熱して結晶化させ、これによりタイヤへの添加剤としてリサイクルできることが報告されている。しかしながら、このような高温処理により炭化物が黒鉛化することはよく知られており、また、特開2004−277687号公報に記載の電子顕微鏡画像は、カーボンブラックではなく黒鉛化した微粉末のものであると判断できる。このような黒鉛化された炭化物は熱処理により表面が改質されており、これをゴム用補強剤として使用した場合、ゴム成分への補強効果がカーボンブラックに比べて大きく低下することは、当業者によく知られていることである。
【0004】
特開2006−349224号公報(特許文献2)では、廃タイヤをマイクロ波照射により予備加熱し、これをキルン型加熱炉内で熱分解して、得られた炭化物を活性炭として利用できることが報告されている。しかしながら、該炭化物がゴム用配合剤として利用できるとの記載はなく、更に特開2006−349224号公報に記載の加熱炉の構造から、空気が比較的容易に加熱炉内に流入し、得られる炭化物の酸化度合いは大きくなり、多孔質の構造となるため、活性炭の原料としてこの炭化物を利用できると思われるが、ゴム成分への補強性は殆どないと考えられる。
【0005】
特開2007−70167号公報(特許文献3)では、回転式の乾留炉内で廃タイヤを500〜560℃にて2〜3時間加熱することで、ガラス状炭素が得られることが報告されているが、該ガラス状炭素はゴム補強用配合剤として適していない。
【0006】
国際公開第2007/121166号(特許文献4)では、使用済みタイヤからカーボンブラックをリサイクルする目的で、タイヤを350°F(177℃)〜850°F(566℃)で熱分解し、次いで得られた炭化物をスクリューにて空気が導入された管中を通して上昇させるときに900°F(482℃)〜1200°F(648℃)で加熱して揮発分の除去を行う方法と、その装置とが開示されている。しかしながら、管中に空気が導入され、かつ加熱温度が高いため、カーボンブラックが表面の酸化された炭化物として回収される可能性があり、この炭化物もまたゴム補強用配合剤として適さないと思われる。
【0007】
以上のように、表面が酸化された炭化物又は過度の熱処理を受けた黒鉛化炭化物と、高温下にある反応炉中での重質油の熱分解又は不完全燃焼反応で生成するカーボンブラックとは、それらの主要成分が炭素で構成されるという点が似通っているだけで、上記炭化物をゴム組成物に配合した場合には、ゴム組成物との相互作用において顕著な差異があり、このために引張応力や強度が顕著に低下するので、該炭化物がゴム用配合剤として不適であることは広く知られており、このことが、炭化物のゴムへの充填剤としての利用を阻害する大きな要因となっている。
【0008】
また、カーボンブラックを高温で且つ長時間の熱履歴を受けさせると、黒鉛化が進行すると同時にカーボンブラック表面の酸素含有基の生成が増大するため、このような処理を受けたカーボンブラックをゴム組成物に配合すると、同様に引張応力や強度を顕著に低下させることが、当業者によって広く知られている。
【0009】
一方、米国特許第5037628号(特許文献5)では、スクラップゴムを熱分解した炭化物を温和な粉砕条件で粉砕し、風力分級機を用いてカーボンブラックを含む凝集粒子(agglomerated particle)を分離する方法が報告されている。ここで、分離された炭化物のゴム材料への補強性充填剤としての適合性は、熱分解条件に大きく影響を受けることになるが、米国特許第5037628号には、熱分解時の分解条件に関する記載が一切なく、ゴム補強用配合剤として適当であるか否かの判断をすることができない。
【0010】
最近では、高分子系廃棄物から有用物質として利用可能な成分を回収する油化設備として、無酸素ガスを加熱するための熱交換器、内部に高分子系廃棄物を収容する熱分解炉と該熱分解炉を外部から加熱する外部加熱手段とを有する熱分解装置、該熱分解装置で発生した熱分解ガスを冷却して、凝縮した油分を回収するための油分回収装置、及び該油分回収装置で油分を回収した後の残ガスを、無酸素ガスとして上記熱交換器に循環させるための循環路とを備えた循環型の油化設備が報告されている(特開2008−285523号公報(特許文献6)参照)。しかしながら、熱分解後の炭化物を好適なゴム用配合剤として回収する観点から、熱分解条件、例えば、熱分解反応時間を短縮したり、熱ガス又は反応ガスとの接触時間を短くする等の条件を最適化する試みはなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2004−277687号公報
【特許文献2】特開2006−349224号公報
【特許文献3】特開2007−70167号公報
【特許文献4】国際公開第2007/121166号パンフレット
【特許文献5】米国特許第5037628号明細書
【特許文献6】特開2008−285523号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで、本発明の目的は、上記従来技術の問題を解決し、高分子系廃棄物の熱分解後に残る炭化物の黒鉛化を抑制し、該炭化物の酸化を抑えることも可能な高分子系廃棄物の熱分解装置を提供することにある。また、本発明の他の目的は、熱分解時での黒鉛化や酸化処理を受けないため、炭化物の品質が劣化せず、ゴム成分に配合した場合にゴムとの相互作用を十分に発現でき、ゴム補強用カーボンブラックの代替品として十分な性能を発揮することが可能な炭化物を得ることができる熱分解方法を提供することにある。
【0013】
なお、本願における「炭化物」とは、有機物を含む物質を原料とし、この原料を加熱による熱分解反応によって原料中のガス体及び液体成分を放出した後に、生成されて残った固体を指し、灰分として無機物を含むこともある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、熱交換器、熱分解処理装置及び油分回収装置を備える高分子系廃棄物の熱分解装置において、該油分回収装置で回収した油分を熱分解炉に供給することによって、該回収油分が熱分解反応の触媒として作用し、これにより、熱分解反応を促進でき、反応効率を向上させ、反応時間を短縮させるため、生成した炭化物の酸化を大幅に抑制できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0015】
即ち、本発明の高分子系廃棄物の熱分解装置は、
無酸素ガスを加熱するための熱交換器と、
内部に高分子系廃棄物を収容する熱分解炉及び該熱分解炉を外部から加熱する外部加熱手段を有し、該高分子系廃棄物を前記熱交換器で加熱した無酸素ガスと接触させることにより熱分解させて熱分解ガスを発生させるための熱分解処理装置と、
前記熱分解処理装置で発生した熱分解ガスを冷却して、凝縮した油分を回収するための油分回収装置と、
前記油分回収装置で油分を回収した後の残ガスを、無酸素ガスとして前記熱交換器に供給するための第一循環路と、
前記油分回収装置で回収した油分を前記熱分解炉に供給するための第二循環路と
を備えることを特徴とする。
【0016】
本発明の高分子系廃棄物の熱分解装置の好適例においては、
更に、前記油分回収装置で回収した油分を収容するための油分回収タンクを備えた高分子系廃棄物の熱分解装置であって、
前記第二循環路が、前記油分回収タンクを介して前記油分回収装置と前記熱分解炉とを繋いでいる。
【0017】
また、本発明の熱分解方法は、上記の高分子系廃棄物の熱分解装置を用いた熱分解方法であって、
熱交換器内で無酸素ガスを加熱する工程と、
高分子系廃棄物を収容する熱分解炉内に前記熱交換器で加熱された無酸素ガスを導入し、該高分子系廃棄物を加熱した無酸素ガスと接触させ、熱分解ガスを発生させる工程と、
前記熱分解ガスを冷却し、凝縮した油分を回収する工程と、
前記油分を回収した後の残ガスを、無酸素ガスとして前記熱交換器に循環させる工程と、
前記油分を前記熱分解炉に循環させる工程と
を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、熱交換器、熱分解処理装置及び油分回収装置を備える高分子系廃棄物の熱分解装置において、該油分回収装置で回収した油分を熱分解炉に供給させることで、高分子系廃棄物の熱分解後に残る炭化物の黒鉛化を抑制し、該炭化物の酸化を抑えることも可能な高分子系廃棄物の熱分解装置を提供することができる。また、該高分子系廃棄物の熱分解装置を用いて該高分子系廃棄物を熱分解することで、炭化物の品質が劣化せず、ゴム成分に配合した場合にゴムとの相互作用を十分に発現でき、ゴム補強用カーボンブラックの代替品として十分な性能を発揮することが可能な炭化物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の高分子系廃棄物の熱分解装置の一例の概略図である。
【図2】本発明の高分子系廃棄物の熱分解装置の他の例の部分概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、図を参照しながら、本発明を詳細に説明する。図1は、本発明の高分子系廃棄物の熱分解装置の一例の概略図である。図1に示す熱分解装置は、無酸素ガスを加熱するための熱交換器1と、内部に高分子系廃棄物2を収容する熱分解炉3及び該熱分解炉3を外部から加熱する外部加熱手段4を有し、該高分子系廃棄物2を前記熱交換器1で加熱した無酸素ガスと接触させることにより熱分解させて熱分解ガスを発生させるための熱分解処理装置5と、前記熱分解処理装置5で発生した熱分解ガスを冷却して、凝縮した油分を回収するための油分回収装置6と、前記油分回収装置6で油分を回収した後の残ガスを、無酸素ガスとして前記熱交換器1に供給するための第一循環路7と、前記油分回収装置6で回収した油分を前記熱分解炉3に供給するための第二循環路8とを備えることを特徴とする。
【0021】
本発明の熱分解装置においては、まず、熱交換器1内で無酸素ガスを加熱する。熱交換器1で加熱された無酸素ガスを熱分解炉3に供給することで、熱分解炉3内の高分子系廃棄物2を熱分解させることになる。ここで、無酸素ガスとは、酸素及び酸化物以外のガス体であり、例えば、窒素、アルゴン等の不活性ガスや、メタン、エタン等の炭化水素ガス等を挙げることができ、このような無酸素ガスを使用することにより、高分子系廃棄物2の熱分解後の熱分解炉3内に残る炭化物の酸化を防止することができる。なお、本発明の熱分解装置において、熱交換器1の構成については特に限定されるものではないが、例えば、炭化珪素発熱体若しくは他の発熱体中への無酸素ガスの導入、又は高分子系廃棄物2の熱分解により生成した炭化水素若しくは他の供給源からの炭化水素燃料の燃焼熱との熱交換により、無酸素ガスを加熱する構成となっている。また、熱交換器1に無酸素ガスを供給することは、非循環型の無酸素ガス供給源9から送る他、後述する第一循環路7を介して、油分回収装置6で回収した後の残ガス(例えば、炭化水素ガス)を無酸素ガスとして熱交換器1に循環させることによって、達成されることができる。
【0022】
本発明の熱分解装置において、熱分解処理装置5は、内部に高分子系廃棄物2を収容する熱分解炉3及び該熱分解炉3を外部から加熱する外部加熱手段4を備えており、高分子系廃棄物2を収容する熱分解炉3内に熱交換器1で加熱された無酸素ガスを導入し、該高分子系廃棄物2を該無酸素ガスと接触させ、熱分解ガスを発生させる。高分子系廃棄物2を無酸素ガスと接触させることで、無酸素状態での熱分解が可能となる。熱分解炉3は、熱分解ガスを内部から排出するための導出口、無酸素ガスを導入するための導入口、及び油分回収装置6で回収した油分を導入するための導入口を有する限り、特に限定されず、例えば、釜式熱分解炉、流動床式熱分解炉、キルン式熱分解炉等が使用される。
【0023】
また、高分子系廃棄物2は、主として有機系廃棄物を指し、具体的には、タイヤ廃棄物(例えば、スピュー、バフ粉、4〜32分割されたタイヤ)等のゴム材料廃棄物や、炭化水素モノマーの(共)重合反応により得られた高分子材料、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、スチレン−ブタジエン共重合体等、炭化水素モノマーと他のモノマーとの共重合体、例えばエチレン−酢酸ビニル共重合体、炭化水素モノマーのハロゲン誘導体の(共)重合体、例えばポリ塩化ビニル等の樹脂材料廃棄物が挙げられる。
【0024】
更に、上記熱分解処理装置5は、熱分解炉3を外部から加熱する外部加熱手段4を備えることで、熱分解炉3内の高分子系廃棄物2を熱分解炉3の外側から間接的に加熱することができるため、無酸素ガスのガス流量を低減することが可能となり、これによって高分子系廃棄物2の熱分解炉3内での熱分解速度を更に大きくすることが可能となる。このように、熱分解炉3に導入する高温無酸素ガスのガス流量を低下させ、またそのガス体の温度も低下させることができるので、高温無酸素ガスの流動により舞い上げられてガス中に混入し、該ガス(熱分解ガスや無酸素ガス等)と共に装置内を循環する固形ダスト(高分子系廃棄物由来の微細浮遊物)の発生を抑え、窒素酸化物等の発生をも抑制することができる。外部加熱手段4としては、特に限定されるものではないが、例えば、熱分解炉を囲んで配設される炭化珪素発熱体もしくは他の発熱体を使用してもよいし、熱分解炉を囲んで配設した容器によって熱分解炉との間に空間を形成させて、この空間に熱媒体を導入したものを使用してもよい。なお、外部加熱手段4に使用され得る熱媒体は、高分子系廃棄物を熱分解炉の外側から間接的に加熱するため、無酸素ガスに限定されず、種々の媒体を利用することができる。また、外部加熱手段によっても十分に高分子系廃棄物を加熱することができない場合には、熱分解炉の内部から加熱する内部加熱手段を併用するのが好ましい。
【0025】
本発明の熱分解装置においては、上記熱分解炉3内に導入される無酸素ガスのガス流量を制御するため、ガス流量を測定するための流量計10、その開度でガス流量を調整するためのダンパ11、ガス流量を一定に保つための送風機12等を設置することができる。例えば、図1に示すように、無酸素ガス供給源9から無酸素ガスを供給するために無酸素ガス供給源9と熱交換器1とを接続する配管中に、流量計10、ダンパ11及び送風機12を設けてもよいし、油分回収装置5で回収した後の残ガスを無酸素ガスとして熱交換器1に循環させるための循環路7中に、流量計10、ダンパ11及び送風機12を設けてもよい。
【0026】
本発明の熱分解装置において、油分回収装置6は、熱分解処理装置5で発生した熱分解ガスを冷却して、凝縮した油分を回収するため、精留塔13を利用するのが好ましい。詳細には、精留塔13は、高さ方向の途中の位置に熱分解炉3からの熱分解ガスの供給口と、その上端に、熱分解ガスを冷却して油分に凝縮させるための冷却器と、第一循環路7を介して熱交換器1に熱分解ガスを送るための排出口と、その下端に、第二循環路8を介して熱分解炉3に回収された油分を送るための排出口とを備える。また、精留塔13は、例えば、その下部で第二循環路8を通して油分回収タンク14に接続され、回収した油分を収容することができる。また、油分回収装置6においては、図2に示すように、複数の精留塔21,22を利用してもよい。複数の精留塔21,22を利用すれば、熱分解処理装置5内で発生した熱分解ガスから、回収される油分をその沸点に応じて分けることができる。図2は、本発明の高分子系廃棄物の熱分解装置の他の例の部分概略図である。具体的には、ガス流路の上流側にある第一の精留塔21は、高さ方向の途中の位置に熱分解炉3からの熱分解ガスの供給口と、その上端に、熱分解ガスを冷却して油分(重質油)に凝縮させるための冷却器と、配管を介して下流側にある精留塔22に熱分解ガスを送るための排出口と、その下端に、第二循環路8を介して熱分解炉3に回収された油分を送るための排出口とを備える。ガス流路の下流側にある第二の精留塔22は、第一精留塔21と同様な構成をとるが、第一の精留塔21が対象とする油分の沸点と比べて低い領域の沸点を有する油分(軽質油)を回収する。このように、複数の精留塔21,22を設置することで、組成が一定で品質の安定した油分を高い回収率で回収することができる。
【0027】
本発明の熱分解装置において、第一循環路7は、油分回収装置6で油分を回収した後の残ガスを、無酸素ガスとして熱交換器1に供給するため、例えば、油分回収装置6と熱交換器1とを配管で接続してなる。第一循環路7を備えることで、組成が一定で品質の安定した油分をより高い回収率で回収することができる。第一循環路7を通して熱交換器1に供給される残ガスは、熱交換器1へ直接供給することもできるが、熱風炉(図示せず)で加熱してから熱交換器1に供給してもよい。なお、図2では、第二の精留塔22のみに第一循環路7が接続されているが、本発明においては、これに限定されず、第一の精留塔21に第一循環路7を接続してもよい。また、本発明の熱分解装置において、余剰のガスは、排風機15を介して排ガス処理装置16で処理された後、大気中に放出することができる。なお、図1及び2においては、油分回収装置6と熱交換器1とを接続する配管のみを第一循環路7として表すが、本発明の熱分解装置は循環型であるため、熱交換器1と熱分解処理装置5とを接続する配管や熱交換器1を介して熱分解処理装置5と油分回収装置6とを接続する配管等の配管も第一循環路7の一部として含めることができる。
【0028】
また、本発明の熱分解装置において、第二循環路8は、油分回収装置6で回収した油分を熱分解炉3に供給するため、例えば、油分回収装置6と熱分解炉3とを配管で接続してなる。驚くべきことに、油分回収装置6で回収した油分を熱分解炉3へ導入した場合、導入された油分が高分子系廃棄物2の熱分解反応における触媒として作用することが分かった。従って、第二循環路8を備えることで、油分回収装置6で回収した油分を熱分解炉3へ導入することができ、これにより、熱分解反応の反応効率が向上し、反応時間を短縮させるため、生成した炭化物の酸化を大幅に抑制することができる。また、本発明の熱分解装置が、油分回収装置6で回収した油分を収容するための油分回収タンク14を備える場合は、図1に示すように、第二循環路8は、油分回収タンク14を介して油分回収装置6と熱分解炉3とを繋いでいる。
【0029】
次に、図を参照しながら、本発明の熱分解方法を詳細に説明する。本発明の熱分解方法は、上述の熱分解装置を用いることを特徴とする。本発明の熱分解方法においては、まず、熱交換器1内で無酸素ガスを加熱する。次に、高分子系廃棄物2を収容する熱分解炉3内に熱交換器1で加熱された無酸素ガスを導入し、該高分子系廃棄物2を加熱した無酸素ガスと接触させ、熱分解ガスを発生させる。この高分子系廃棄物2と無酸素ガスとから熱分解ガスを発生させる工程においては、熱分解時の温度を300〜600℃に制御するのが好ましい。熱分解時の温度が上記特定した範囲内にあれば、高分子系廃棄物が溶融工程を経ずに、安定で且つ連続的な熱分解を行うことができる。もし、高分子系廃棄物を溶融した場合には、無酸素ガスとの接触機会が溶融物表面に限定されるため、熱分解速度が低下する。該熱分解時の温度が300℃未満では、熱分解反応が十分に進行せず、これによって、分解されるべき成分が完全に除去されない炭化物を生成するおそれがあるので好ましくなく、一方、600℃を超えると、上述の溶融現象の発生の可能性があり、また、生成した炭化物とガス中に含まれ得る成分(例えば、酸化物)との間で望ましくない改質反応や賦活反応が起こり、炭化物中の全酸性度を上昇させたり、又は多孔性でゴムへの補強効果に悪影響を及ぼし得る炭化物を生成するおそれがある。ここで、熱分解時の温度を制御するには、上述した、熱交換器1内で加熱される無酸素ガスや、熱分解炉3を外部から加熱する外部加熱手段4等を利用すればよい。
【0030】
次に、本発明の熱分解方法においては、上記熱分解ガスを冷却し、凝縮した油分を回収する。ここで、本発明の熱分解方法においては、上記油分を回収した後の残ガスを無酸素ガスとして熱交換器1に循環させ、また、上記油分を熱分解炉3に循環させる。
【0031】
なお、本発明においては、高分子系廃棄物2の熱分解後の熱分解炉3内に残る炭化物を回収することになる。例えば、熱分解ガスを発生させ、該熱分解ガスを凝縮した油分を回収すると、熱分解炉3内には、熱分解後の炭化物が残るため、該炭化物を回収することができる。なお、上述の回収方法により炭化物が得られるが、一般的には塊状物として回収されるので、例えば、粉砕機等を用いた粉砕工程によって回収された炭化物を微細に壊砕し、更に分級機等を用いた分級工程によって特定の粒度を持つ炭化物として回収・抽出することができる。このようにして得た炭化物は、カーボンブラック又はその一部に代えて、ゴム補強用充填剤として利用可能である。
【0032】
本発明の熱分解装置は、装置内の酸素濃度を1容量%以下に制御することが好ましい。該熱分解装置内の酸素濃度が1容量%以下であれば、熱分解後の熱分解炉内に残る炭化物の酸化をより確実に抑制でき、品質が劣化せず、ゴム成分に配合してもゴム特性を十分に維持できる炭化物をより確実に得ることができる。なお、熱分解装置内の酸素濃度は、例えば、固体電解質ジルコニアベースの酸素濃淡セルを用いるジルコニア式酸素センサー等により測定できる。
【実施例】
【0033】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0034】
(実施例)
図1に示す熱分解装置を用いて、廃トラック用タイヤから炭化物を回収した。
詳細には、熱分解炉3(分解釜内容量:0.5m3)内に高分子系廃棄物2として廃トラック用タイヤの十六分割裁断品約100kgを投入し、熱分解炉3内を無酸素ガス供給源9で発生させた窒素ガスにより30分かけて置換した後、外部加熱手段4としてのヒーターの電源を入れ、加熱を開始した。同時に、窒素ガスを熱交換器1で加熱し、熱分解炉3内に導入した。
熱分解炉3内の温度を約500℃まで上昇させて、この温度を保持した。外部加熱手段4及び熱交換器1による加熱を開始してから、約1時間で熱分解ガスから凝縮された熱分解油が精留塔13に溜出し始めた。油分回収タンク14に回収された熱分解油を第二循環路8を介して熱分解炉3に供給しながら、熱分解反応を継続した。上記加熱を開始してから約3時間で精留塔13への溜出が停止したので、第二循環路8からの熱分解油の供給を停止し、熱分解炉3内に無酸素ガス供給源9で発生させた窒素ガスを1L/分の速度で導入しながら冷却した。熱分解炉3内の温度を約100℃以下に冷却した後、該熱分解炉3を開放し、炭化物を回収した。
回収された炭化物中には、タイヤの補強材料であるスチールコード等の鉄製品が含まれているので、これをマグネットセパレーターで除去した。また、該炭化物をステンレス製の金網上で粉砕し、該金網を通過した炭化物をジェット気流式粉砕機で粉砕した。
加えて、この粉砕物を、回転羽を有する風力分級機により分級することにより、粒径が50μm以上の粗粉と砂等の異物を除去し、炭化物の微粉砕製品を回収した。
【0035】
(比較例)
実施例と同様に、図1に示す製造装置を用いて、廃トラック用タイヤから炭化物を回収した。但し、比較例では、油分回収タンク14に回収された熱分解油を第二循環路8を介して熱分解炉3に供給する工程を行わなかった。
外部加熱手段4及び熱交換器1による加熱を開始してから、約4時間で精留塔13への溜出が停止した。
【0036】
以上のことから、油分回収タンク14に回収される熱分解油を第二循環路8を介して熱分解炉3に供給する工程が、高分子系廃棄物2の熱分解反応の促進効果を有していることは明らかであり、該工程が熱分解反応の時間短縮化に有効であることが分かる。
【符号の説明】
【0037】
1 熱交換器
2 高分子系廃棄物
3 熱分解炉
4 外部加熱手段
5 熱分解処理装置
6 油分回収装置
7 第一循環路
8 第二循環路
9 無酸素ガス供給源
10 流量計
11 ダンパ
12 送風機
13 精留塔
14 油分回収タンク
15 排風機
16 排ガス処理装置
21 精留塔
22 精留塔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無酸素ガスを加熱するための熱交換器と、
内部に高分子系廃棄物を収容する熱分解炉及び該熱分解炉を外部から加熱する外部加熱手段を有し、該高分子系廃棄物を前記熱交換器で加熱した無酸素ガスと接触させることにより熱分解させて熱分解ガスを発生させるための熱分解処理装置と、
前記熱分解処理装置で発生した熱分解ガスを冷却して、凝縮した油分を回収するための油分回収装置と、
前記油分回収装置で油分を回収した後の残ガスを、無酸素ガスとして前記熱交換器に供給するための第一循環路と、
前記油分回収装置で回収した油分を前記熱分解炉に供給するための第二循環路と
を備えることを特徴とする高分子系廃棄物の熱分解装置。
【請求項2】
更に、前記油分回収装置で回収した油分を収容するための油分回収タンクを備えた高分子系廃棄物の熱分解装置であって、
前記第二循環路が、前記油分回収タンクを介して前記油分回収装置と前記熱分解炉とを繋いでいることを特徴とする請求項1に記載の高分子系廃棄物の熱分解装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の高分子系廃棄物の熱分解装置を用いた熱分解方法であって、
熱交換器内で無酸素ガスを加熱する工程と、
高分子系廃棄物を収容する熱分解炉内に前記熱交換器で加熱された無酸素ガスを導入し、該高分子系廃棄物を加熱した無酸素ガスと接触させ、熱分解ガスを発生させる工程と、
前記熱分解ガスを冷却し、凝縮した油分を回収する工程と、
前記油分を回収した後の残ガスを、無酸素ガスとして前記熱交換器に循環させる工程と、
前記油分を前記熱分解炉に循環させる工程と
を含むことを特徴とする熱分解方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−144331(P2011−144331A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−8458(P2010−8458)
【出願日】平成22年1月18日(2010.1.18)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】