説明

高分子組成物並びに成形体及びその製造方法

【課題】加熱溶融成形の際、準安定な結晶系から最安定な結晶系への転移速度が速い高分子組成物を提供する。
【解決手段】(A)結晶性高分子と、(B)前記(A)成分がとり得る最安定な結晶系と同じ結晶系であり前記(A)成分とは異なる結晶性高分子を含む高分子型結晶化核剤と、を含有する高分子組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子組成物並びに成形体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン系高分子等の結晶性高分子は、射出成形、押出成形、フィルム成形、中空成形、圧縮成形等の加熱溶融成形により、フィルム状やパイプ状等の各種形状に成形され、例えば、自動車用部品、家電製品用部品、家庭用品、接続用部品、雑貨品、医療器具、建材、電線被覆材、農業用資材、食品包装材等、様々な用途に広く用いられている。
【0003】
一般に、結晶性高分子を加熱溶融成形する際の結晶化速度を上げるために、結晶性高分子に結晶化核剤を添加することが行われている。
結晶化核剤(造核剤ともいう)としては、リン酸エステル系、カルボン酸エステル系、ソルビトール系等の低分子有機化合物や、タルク等の無機物が使用されている。また、結晶化核剤として、ポリ(3−メチル−1―ブテン)、ポリビニルシクロヘキサン、ポリシクロブテン等の高分子型結晶化核剤を用いることも検討されている。
【0004】
例えば、結晶性ポリプロピレンに対する結晶化核剤として、環状オレフィン重合体を用いることが知られている(例えば、特許文献1参照)。
また、結晶性高分子であるポリオレフィン系高分子に対する結晶化核剤として、リン酸エステル系化合物を用いることが知られている(例えば、特許文献2参照)。
更には、結晶性高分子であるポリオレフィン系高分子に対する結晶化核剤として、1,3−シクロペンタン構造を有するポリマー型造核剤が知られている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−249753号公報
【特許文献2】特開2004−83852号公報
【特許文献3】特開2005−314622号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、結晶性高分子に上記従来の結晶化核剤を添加して加熱溶融成形を行った場合、溶融状態から準安定な結晶系への結晶化速度を速くすることはできても、準安定な結晶系から最安定な結晶系への転移速度を速くすることができないことがある。加熱溶融成形に要する時間全体を短縮するためには、溶融状態から準安定な結晶系への結晶化速度だけでなく、準安定な結晶系から最安定な結晶系への転移速度を速くする必要がある。
本発明は上記に鑑みなされたものであり、以下の目的を達成することを課題とする。
即ち、本発明の目的は、加熱溶融成形の際、準安定な結晶系から最安定な結晶系への転移速度が速い高分子組成物を提供することである。
また、本発明の目的は、該高分子組成物を用いて成形され、結晶性に優れた成形体を提供することである。
また、本発明の目的は、準安定な結晶系から最安定な結晶系の転移速度が速い成形体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は鋭意検討した結果、結晶性高分子に対し、該結晶性高分子がとり得る最安定な結晶系と同じ結晶系の結晶性高分子を含む高分子型結晶化核剤を添加することにより、加熱溶融成形の際、準安定な結晶系から最安定な結晶系への結晶転移速度を速くすることができることを見出し、本発明を完成させた。
即ち、前記課題を解決するための具体的手段は以下のとおりである。
<1> (A)結晶性高分子と、
(B)前記(A)成分がとり得る最安定な結晶系と同じ結晶系であり前記(A)成分とは異なる結晶性高分子を含む高分子型結晶化核剤と、
を含有する高分子組成物。
<2> 前記(A)成分が、ポリオレフィン系高分子であり、
前記(B)成分が、ポリオレフィン系高分子を含む高分子型結晶化核剤である<1>に記載の高分子組成物。
<3> 前記(A)成分が、ポリブテン系高分子であり、
前記(B)成分が、六方晶系のポリオレフィン系高分子を含む高分子型結晶化核剤である<1>又は<2>に記載の高分子組成物。
<4> 前記ポリブテン系高分子が、アイソタクチックポリブテン−1である<3>に記載の高分子組成物。
<5> 前記(B)成分の含有量が、前記(A)成分100質量部に対して、0.01質量部以上10質量部以下である<1>〜<4>のいずれか1項に記載の高分子組成物。
<6> <1>〜<5>のいずれか1項に記載の高分子組成物を用いて作製された成形体。
<7> <1>〜<5>のいずれか1項に記載の高分子組成物であって前記(A)成分が溶融状態である高分子組成物を準備する工程と、
前記(A)成分が溶融状態である高分子組成物を成形固化させることにより、前記(A)成分の少なくとも一部が最安定な結晶系に結晶転移した成形体を得る工程と、
を含む成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、加熱溶融成形の際、準安定な結晶系から最安定な結晶系への転移速度が速い高分子組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、該高分子組成物を用いて成形され、結晶性に優れた成形体を提供することができる。
また、本発明によれば、準安定な結晶系から最安定な結晶系への転移速度が速い成形体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
≪高分子組成物≫
本発明の高分子組成物は、(A)結晶性高分子(以下、単に「(A)成分」ともいう)と、(B)前記(A)成分がとり得る最安定な結晶系と同じ結晶系であり前記(A)成分とは異なる結晶性高分子を含む高分子型結晶化核剤(以下、単に「(B)成分」ともいう)と、を含有する。
本発明の高分子組成物によれば、上記構成により、加熱溶融成形の際、準安定な結晶系から最安定な結晶系への転移速度(前記(A)成分が準安定な結晶系から最安定な結晶系へと転移する速度)を速くすることができる。
また、本発明の高分子組成物によれば、結晶化核剤として、リン酸エステル系、カルボン酸エステル系、ソルビトール系等の低分子有機化合物を用いた場合と比較して、臭気、揮発離散、滲み出し、着色、フィッシュ・アイ等が低減される。
また、本発明の高分子組成物によれば、結晶化核剤としてタルク等の無機物を用いた場合と比較して、結晶化核剤の分散不良による成形体の外観悪化等が低減される。
【0010】
<結晶性高分子>
本発明における結晶性高分子((A)成分)としては、加熱溶融成形の際、溶融状態からまず準安定な結晶系に結晶化し、次いで準安定な結晶系から最安定の結晶系に結晶転移する性質を有する高分子を用いる。
本発明における結晶性高分子((A)成分)としては、例えば、ポリオレフィン系高分子を用いることができる。
前記ポリオレフィン系高分子としては、α−オレフィンの単独重合体、エチレンとエチレン以外のα−オレフィン1種以上との共重合体、エチレン以外のα−オレフィンの2種以上の共重合体、等を挙げることができる。共重合体は、ランダム共重合体であっても、ブロック共重合体であってもよい。
【0011】
前記ポリオレフィン系高分子として、より具体的には、ポリエチレン系高分子(例えば、低分子量ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、等)、ポリプロピレン系高分子(例えば、アイソタクチックポリプロピレン、シンジオタクチックポリプロピレン、ヘミアイソタクチックポリプロピレン、ステレオブロックポリプロピレン、等)、ポリブテン系高分子、ポリ(3−メチル−1−ブテン)系高分子、ポリ(3−メチル−1−ペンテン)系高分子、ポリ(4−メチル−1−ペンテン)系高分子、等が挙げられる。
前記ポリオレフィン系高分子としては、上記のうち、成形体としたときに、耐熱性、耐衝撃性、耐クリープ性、耐薬品性、等の諸性能に優れる点で、ポリブテン系高分子が好ましい。
ここで、ポリブテン系高分子とは、ブテン−1を主モノマーとする重合体を指し、具体的には、ポリブテン−1ホモポリマー、ブテン−1を主体としたブテン−1−エチレンコポリマー、ブテン−1−プロピレンコポリマー、等が挙げられる。
ポリブテン系高分子の立体規則性としては、アイソタクチック、シンジオタクチック、ヘミアイソタクチックが挙げられるが、成形体としたときの上記諸性能に優れる点で、アイソタクチックが好ましい。
成形体としたときの上記諸性能に特に優れる点で、前記ポリブテン系高分子はアイソタクチックポリブテン−1であることが特に好ましい。
【0012】
ポリブテン系高分子は、加熱溶融成形の際、溶融状態から、まず準安定な結晶系であるII型(正方晶系)に結晶化し、次いでII型(正方晶系)から最安定の結晶系であるI型(六方晶系)へ結晶転移する。
ポリブテン系高分子は、成形体としたときに上記諸性能に優れている反面、加熱溶融成形の際、準安定な結晶系であるII型(正方晶系)から最安定な結晶系であるI型(六方晶系)への転移速度が遅いという欠点がある。
この点に関し、本発明の高分子組成物は、後述する(B)成分の作用により、準安定な結晶系(II型(正方晶系))から最安定な結晶系(I型(六方晶系))への転移速度を速くすることができる。
従って、本発明においては、(A)結晶性高分子としてポリブテン系高分子を用いた場合(特に、アイソタクチックポリブテン−1を用いた場合)に、本発明による効果がより顕著に奏される。
【0013】
本発明の高分子組成物には、(A)結晶性高分子((A)成分)が1種単独で含まれていてもよいし、2種以上が含まれていてもよい。本発明の高分子組成物が、(A)結晶性高分子((A)成分)を2種以上含む場合には、このうちの少なくとも1種がとり得る最安定な結晶系と、後述する(B)成分中の結晶性高分子の結晶系と、が一致することが必要である。
【0014】
<高分子型結晶化核剤>
本発明における高分子型結晶化核剤((B)成分)は、前記(A)成分がとり得る最安定な結晶系と同じ結晶系であり前記(A)成分とは異なる結晶性高分子(以下、「特定結晶性高分子」ともいう)を含む高分子型結晶化核剤である。
(B)成分に含まれる特定結晶性高分子としては、例えば、ポリオレフィン系高分子を用いることができ、該ポリオレフィン系高分子としては、上記(A)成分としてのポリオレフィン系高分子と同様のものを用いることができる。但し、上記(A)成分がポリオレフィン系高分子である場合には、上記(A)成分以外のポリオレフィン系高分子を用いる。
【0015】
また、(B)成分には、前記特定結晶性高分子が1種単独で含まれていてもよいし、2種以上含まれていてもよい。
(B)成分中における、前記特定結晶性高分子の総含有量は、好ましくは30質量%〜100質量%であり、より好ましくは50質量%〜100質量%であり、更に好ましくは60質量%〜100質量%であり、特に好ましくは80質量%〜100質量%である。
【0016】
また、本発明の高分子組成物における高分子型結晶化核剤((B)成分)の含有量は、前記結晶性高分子((A)成分)100質量部に対して、0.01質量部以上10質量部以下であることが好ましく、0.05質量部以上5質量部以下であることがより好ましい。
上記含有量が10質量部以上であると、非相容に起因する機械物性の低下やフィッシュ・アイの多発等の不具合が発生する場合がある。
上記含有量が0.01質量部以下であると、核剤効果の程度が低く結晶化の促進の程度が低くなる場合がある。
【0017】
本発明において、前記(A)成分がとり得る最安定な結晶系がI型(六方晶系)である場合(例えば、前記(A)成分がポリブテン系高分子である場合)には、(B)成分に含まれる特定結晶性高分子としては、I型(六方晶系)の結晶性高分子を用いる。
前記(B)成分に含まれるI型(六方晶系)の結晶性高分子としては、例えば、
(B−1)1,5−ヘキサジエンの閉環重合により合成される高分子、
(B−2)シクロペンテンやノルボルネンの開環メタセシス重合により得られた高分子を水素化することにより合成される高分子、
(B−3)エチレン系共重合体
(B−4)シクロデキストリン(CD)とシクロアルカン含有系ポリマーとの包接化合物を熱処理して得られる高分子、
等を好適に用いることができる。
以下、上記(B−1)〜(B−4)に係る高分子の具体例について説明する。
【0018】
−(B−1)に係る高分子−
前記(B−1)に係る高分子は、1,5−ヘキサジエンの閉環重合により合成される高分子である。
前記(B−1)に係る高分子としては、例えば、下記一般式(1)で表される構造単位と、下記一般式(2)で表される構造単位と、下記一般式(3)で表される構造単位と、を含み、六方晶系結晶が30質量%以上を占めるポリオレフィン(以下、「ポリオレフィンB−1」ともいう)が好ましい。
ポリオレフィンB−1に含まれる六方晶系結晶の含有率は、30質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましい。
【0019】
【化1】

【0020】
一般式(1)〜一般式(3)中、R、R’、R、R、R’、R、R’、R、R、及びR’は各々独立に、水素原子または炭素数1〜9のアルキル基を示す。
炭素数1〜9のアルキル基としては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、s−ブチル、t−ブチル、イソブチル、アミル、ヘキシル、ノニルが挙げられる。
、R’、R、R、R’、R、R’、R、R、及びR’は、水素原子であることが好ましい。
【0021】
前記ポリオレフィンB−1のうち、前記一般式(1)で表される構造単位は、シス−置換又は無置換のメチレン−置換又は無置換の1,3−シクロペンタンユニットであり、前記一般式(2)で表される構造単位は、トランス−置換又は無置換のメチレン−置換又は無置換の1,3−シクロペンタンユニットであり、前記一般式(3)で表される構造単位は、置換又は無置換のメチレン−置換又は無置換の4−アルケンユニットである。
ポリオレフィンB−1は、これらの構造単位がランダムに含まれるランダム共重合体である。
前記ポリオレフィンB−1において、前記一般式(1)で表される構造単位の含有量をxモル%、前記一般式(2)で表される構造単位の含有量をyモル%、前記一般式(3)で表される構造単位の含有量をzモル%としたとき、((x+y)/(x+y+z))×100で定義される環化率は、70%〜100%であることが好ましく、80%〜100%であることがより好ましい。環化率が上記範囲であると、ポリオレフィンB−1中に含まれる六方晶系の含有率をより高めることができる。
【0022】
前記ポリオレフィンB−1は、本発明の目的を損なわない範囲(例えば10モル%以下)において、上記以外のその他の構造単位を含んでいてもよい。
その他の構造単位としては、下記一般式(4)で表される1,5−ヘキサジエン又はその誘導体に由来する構造単位、脂肪族α−オレフィン(エチレン、プロピレン、等)に由来する構造単位、芳香族含有オレフィン(スチレン等)に由来する構造単位、環状オレフィン(シクロペンテン、ノルボルネン、等)に由来する構造単位が挙げられる。
【0023】
【化2】

【0024】
一般式(4)中、R、R’、R、R、R’、R、R’、R、R、及びR’は、それぞれ、一般式(1)〜一般式(3)中の、R、R’、R、R、R’、R、R’、R、R、及びR’と同義であり、好ましい範囲も同様である。
【0025】
前記ポリオレフィンB−1の数平均分子量(Mn)、及び分子量分散度(Mw/Mn)は特に制限されるものではないが、本発明の効果をより顕著に得る観点から、Mnは通常500〜100万程度の範囲であり、1000から10万程度であることが好ましい。また、Mw/Mnは通常1.0〜20の範囲が好ましい。なお、MnおよびMw/Mnについてはゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定した値であり、検量線は標準ポリスチレンサンプルで較正されたものが用いられる。
【0026】
−ポリオレフィンB−1の製造方法−
前記ポリオレフィンB−1を製造する方法は特に制限されるものではないが、例えば、遷移金属触媒による1,5−ヘキサジエン又はその誘導体の環化付加を伴う重合、1,3−置換シクロペンタン誘導体と2置換アルキル誘導体の交互カップリング反応等によって製造することが可能である。
好ましくは、前記一般式(4)で表される1,5−ヘキサジエン又はその誘導体を、(X)シクロペンタジエニル環を有する周期律表第IV族の遷移金属化合物と、(Y)(イ)アルミノキサン(ロ)遷移金属化合物と反応して安定アニオンとなる化合物および(ハ)有機アルミニウム化合物からなる群の中から選ばれた少なくとも一種と、の組み合わせを必須成分として含有する触媒系を用いて、環化重合する方法である。
【0027】
これらの触媒系としては、特開2007−262104号公報の段落番号0021〜0032に記載されている触媒系を、本発明においても好適に用いることができる。
例えば、(X)シクロペンタジエニル環を有する周期律表第IV族の遷移金属化合物としては、シクロアルカジエニル基またはその置換体を配位子とする、チタニウム化合物、ジルコニウム化合物またはハフニウム化合物を好適に使用することができる。具体的にはシクロペンタジエニル基、置換シクロペンタジエニル基、インデニル基、置換インデニル基及びその部分水素化物からなる群から選ばれる1個又は2個を配位子とする、チタニウム化合物、ジルコニウム化合物、またはハフニウム化合物を用いることができる。また、これらの2個のシクロアルカジエニル基が低級アルキレン基を介して結合した多配位化合物を配位子とするチタニウム化合物、ジルコニウム化合物又はハフニウム化合物を用いることもできる。
また、(Y)(イ)アルミノキサンとしては、一種類のトリアルキルアルミニウムと水との縮合によって得られるもの、および二種類以上のトリアルキルアルミニウムと水との縮合によって得られるものが用いられる。具体的には、メチルアルミノキサン、エチルアルミノキサン、プロピルアルミノキサン、ブチルアルミノキサン、イソブチルアルミノキサン、メチルエチルアルミノキサン、メチルブチルアルミノキサン、メチルイソブチルアルミノキサン等が例示される。特に、メチルアルミノキサン、メチルイソブチルアルミノキサンが好適に使用される。
(Y)(イ)アルミノキサンの使用量としては、遷位金属原子1モル当たり1〜10000モルのごとく広範囲に選ぶことができる。好ましくは、遷位金属原子1モル当たり100〜3000モルの範囲である。
【0028】
各触媒成分を重合槽に供給する方法としては、例えば、窒素、アルゴン等の不活性ガス中で水分のない状態で、モノマーの存在下に供給する。触媒成分(X)及び(Y)は個別に供給してもよいし、予め接触させて供給してもよい。重合温度は、通常−20〜300℃までにわたって実施することができるが、好ましくは0〜280℃、より好ましくは20〜250℃である。重合圧力は特に制限はないが、工業的かつ経済的であるという点で常圧〜150気圧程度が好ましい。重合時間は一般的に目的とするポリマーの種類、反応装置により適宜決定されるが1分から40時間の範囲を取り得る。重合プロセスは、連続式でもバッチ式でもいずれも可能である。またプロパン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタンのような不活性炭化水素溶媒によるスラリー重合、溶媒重合、無溶媒による液相重合または気相重合もできる。また、前記ポリオレフィンB−1の分子量を調整するために、水素等の連鎖移動剤を添加することもできる。
【0029】
−(B−2)に係る高分子−
(B−2)に係る高分子は、シクロペンテンやノルボルネンのメタセシス重合により得られた高分子を水素化することにより合成される高分子である。
前記(B−2)に係る高分子としては、例えば、下記一般式(11)で表される構造単位を含み、六方晶系結晶が30質量%以上を占めるポリオレフィン(以下、「ポリオレフィンB−2」ともいう)が好ましい。
ポリオレフィンB−2に含まれる六方晶系結晶の含有率は、30質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましい。
【0030】
【化3】

【0031】
一般式(11)中、R、R’、R、R、R’、R、R’、及びRは、それぞれ、一般式(1)〜一般式(3)中の、R、R’、R、R、R’、R、R’、及びRと同義であり、好ましい範囲も同様である。
ポリオレフィンB−2は、上記一般式(11)で表されるように、シクロペンタン誘導体とメチレン連鎖が交互に結合した構造を有している。
【0032】
ポリオレフィンB−2の製造方法は、特に制限されるものではないが、例えば、ノルボルネン誘導体の開環メタセシス重合体を水素化する方法、1,5−ヘキサジエン誘導体の環化付加を伴う重合、シクロオレフィンとノルボルネン誘導体の開環メタセシス共重合体を水素化する方法、エチレンと1,5−ヘキサジエン誘導体の環化付加を伴う共重合等によって製造することが可能である。
【0033】
更に、ポリオレフィンB−2に含まれる六方晶系結晶の含有率をより高くする観点からは、以下の製造方法も好ましい。
即ち、1,3−シクロペンタン構造を多く持たせるようにすること及びRuClやGrubbs触媒などの触媒の選択を行うことにより六方晶含有率の高いポリマーを得ることができる。
【0034】
ポリオレフィンB−2の数平均分子量(Mn)、及び分子量分散度(Mw/Mn)は特に制限されるものではないが、本発明の効果をより顕著に得る観点から、通常Mnは500〜100万程度の範囲が好ましく、更には1000から10万程度であることが好ましい。また、通常Mw/Mnは1.5〜20の範囲が好ましい。なお、MnおよびMw/Mnについてはゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定した値であり、検量線は標準ポリスチレンサンプルで較正されたものが用いられる。
【0035】
−(B−3)に係る高分子−
(B−3)に係る高分子としては、例えば、下記一般式(A1)で表されるランダムな繰り返し単位からなる、六方晶結晶を含有するエチレン系共重合体が好ましい。
【化4】

【0036】
一般式(A1)中、nは繰返数であり、mはポリマー鎖末端からi番目(iは1〜nの整数)のメチレン鎖長で、2〜99の整数であり、全てのmの値が同一となることはなく、かつ、その平均値<m>=Σm/nは4〜18である。R,Rは各々独立に水素または炭素数1〜9のアルキル基および炭素数6〜50の芳香族化合物からなる群から選ばれる基を表し、かつ、上記一般式(A1)中のビニレンユニットのトランス構造含率が80%以上である。
【0037】
上記六方晶結晶を含有するエチレン系共重合体の数平均分子量は、500〜100万の範囲であることが好ましい。
【0038】
また、前記一般式(A1)において、R及びRの炭素数1〜9のアルキル基としては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、イソブチル、アミル、ヘキシル、オクチル、ノニルなどが挙げられ、炭素数6〜50の芳香族化合物としては、フェニル、インデニル、ナフチル、アズレニル、インダセニル、アセナフチレニル、フルオレニル、フェナレニル、フェナントレニル、アントラセニル、トリフェニレニル、ピレニル、クリセニル、ナフタセニル、ピセニル、ペリレニル、ペンタフェニル、ペンタセニルなどが挙げられる。なお、RおよびRが異なる組み合わせの構成単位であってもよく、また、同一ユニットにあるRとRは、上記のアルキル基または芳香族化合物残基を介して互いに結合していてもよい。
【0039】
また、前記一般式(A1)において、R及びRとしては、水素、メチル、エチル、ブチル、イソブチル、フェニルが好ましい。中でも、特に、水素が好ましい。
【0040】
また、前記一般式(A1)において、mで表されるメチレン鎖長は、好ましくは、各単位独立に2〜50のいずれかの整数であり、その平均値<m>は、好ましくは、6〜15である。
【0041】
上記一般式(A1)において、mの値の少なくとも1以上が他と相違して、mが分布を有する必要があり、全てのmの値が同一の場合は、斜方晶、三斜晶、もしくは単斜晶を形成するため、目的とする六方晶結晶を形成するエチレン系共重合体にはならない(例えば、Natta, Angew. Chem., Int. Ed. Engl. 3, 723(1964)、Schneider, Makromol. Chem. 189, 2823(1988)、Fagherazzi, Eur. Polym. J. 4, 151(1968)等を参照)。
【0042】
上記一般式(A1)中のビニレンユニットの立体配置については、トランス構造含率が80%以上、好ましくは90%以上である。同含率が80%未満の場合は、六方晶結晶を形成することが困難である。
トランス構造含率は、下記一般式(A2)の(x/(x+y))×100で定義される。
【0043】
【化5】

【0044】
上記一般式(A2)中、xはトランス構造ユニットのモル%、yはシス構造ユニットのモル%を示す。上記一般式(A2)中のR及びRについては、上記一般式(A1)中のR及びRと同義である。
【0045】
上記六方晶結晶を含有するエチレン系共重合体の数平均分子量(Mn)は通常500〜100万程度の範囲であるが、該六方晶結晶を含有するエチレン系共重合体の加工性を考慮すると、Mnは、1000〜10万程度であることが好ましい。また、分子量分散度(Mw/Mn)は特に制限されるものではないが、通常1.5〜20の範囲が好ましい。なお、MnおよびMw/Mnについてはゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定した値であり、検量線は標準ポリスチレンサンプルで較正されたものが用いられる。もしくは、分子量の指標である、極限粘度[η]が0.02〜3(dL/g)程度の範囲であり、0.05〜2(dL/g)程度であることが好ましい。
【0046】
上記六方晶結晶を含有するエチレン系共重合体は、主鎖にメチレン連鎖を介したビニレンユニットがランダムに結合した繰り返し構造を有しているが、他のビニルモノマー、ジビニルモノマーなどから導かれる構成単位が、それぞれ本発明の目的を損なわない範囲で共重合されていてもよい。
【0047】
上記一般式(A1)で表される繰り返し単位を有する六方晶結晶を含有するエチレン系共重合体の製造方法は、オレフィンの重合方法として知られる各種の方法を用いることができる。
例えば、特開2008−45030号公報の段落0022〜段落0035に記載されている、非環式ジエンのメタセシス重合、及び同重合で得られるポリマーの部分水素化反応によって好適に製造することができる。
【0048】
−(B−4)に係る高分子−
(B−4)に係る高分子は、シクロデキストリン(CD)とポリオレフィン系ポリマーとの包接化合物を熱処理して得られる高分子である。
(B−4)に係る高分子としては、シクロデキストリン(CD)とポリオレフィン系ポリマーとの包接化合物を熱処理して得られる高分子であって六方晶系結晶が30質量%以上を占める高分子(以下、「包接化合物B−4」ともいう)が好ましい。
包接化合物B−4に含まれる六方晶系結晶の含有率は、50質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましい。
【0049】
包接化合物(B−4)に用いられるオレフィン系ポリマーとしては、前記(B−1)から前記(B−3)のポリマー、およびポリノルボルネン等のシクロアルカン含有ポリオレフィン系ポリマーが好ましい。
ここで、シクロデキストリン(CD)はγ-シクロデキストリン(γ-CD)であることが好ましい。
CDは、数分子のD−グルコースがα(1→4)グルコシド結合によって結合し環状構造をとった環状オリゴ糖の一種であり、グルコースが5個以上結合したものが知られている。一般的なものはグルコースが6〜8個結合したものであるが、それ以上結合したものであっても良い。構造単位となるデキストリンの数によって、その単位が6個のα-CD、7個のβ-CD、8個のγ-CD等がある。また、CDは光学異性体を有し、一対の鏡像異性体に対しては、それぞれ包接しやすさが異なる。
包接化合物B−3におけるCDとしては、γ-CDが好ましい。
【0050】
CDの環状構造の内部は比較的小さな他の分子を包接できる程度の大きさの空孔となっている。空孔の内径はα体で0.45〜0.6nm、β体で0.6〜0.8nm、γ体で0.8〜0.95nm程度とされている。またCDのヒドロキシ基はこの環体の外側にあるため、親水性基と接合しやすく、空孔内部は疎水性となっており、疎水性の分子を包接しやすい。
【0051】
包接化合物B−3中におけるシクロデキストリンの含有量は、本発明の効果をより顕著に得る観点からは、0.1〜95質量%であることが好ましく、0.5〜90質量%であることがより好ましい。
【0052】
前記包接化合物B−4は、例えば、次のようにして製造できる。
即ち、ポリオレフィン系ポリマーを溶解したヘキサン、デカン、トルエン、キシレンやジクロロベンゼン等のそれぞれの溶液にシクロデキストリンの水溶液やジメチルスルホキシド溶液などをそれぞれ添加し、シクロデキストリン−ポリオレフィン系ポリマー包接化合物を合成・回収することにより製造することが一般的である。
更に、包接化合物B−4中における六方晶系結晶の含有率を高めるために、上記で合成されたシクロデキストリン−ポリオレフィン系ポリマー包接化合物を、室温(25℃)〜200℃(より好ましくは室温(25℃)〜150℃)で熱処理することが好ましい。
熱処理の時間としては、包接化合物B−4における六方晶系結晶の含有率をより高める観点から、1時間〜24時間、より好ましくは1時間〜12時間が好適である。
【0053】
<その他の成分等>
本発明の高分子組成物は、本発明の効果が阻害されない範囲において、必要に応じて、上記(A)成分及び上記(B)成分以外のその他の成分を含んでいてもよい。
その他の成分としては、(A)結晶性高分子以外の高分子(非晶性高分子)や、各種添加剤(例えば、安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、界面活性剤、滑剤、充填剤、発砲剤、発砲助剤、可塑剤、架橋剤、架橋促進剤、帯電防止剤、中和剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、難燃剤、分散剤、加工助剤、着色剤、等)が挙げられる。
【0054】
本発明の高分子組成物は、少なくとも前記(A)成分及び前記(B)成分(及び、必要に応じその他の成分)を、公知の混合装置(例えば、ヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、バンバリミキサー、等)を用いて混合することにより製造することができる。
また、上記混合後、ペレットの形態に加工されていてもよい。
また、本発明の高分子組成物の形態としては、固体状態(例えば、粉末状)の前記(A)成分と固体状態(例えば、粉末状)の前記(B)成分との混合物の形態に限定されることはなく、溶融状態の前記(A)成分と固体状態の前記(B)成分との混合物の形態であってもよい。
【0055】
≪成形体≫
本発明の成形体は、前記本発明の高分子組成物を用いて作製されたものであるため、結晶性に優れる。更に、本発明の成形体は結晶性に優れるため、耐熱性、剛性、透明性等の諸性能に優れる。
本発明の成形体は、射出成形、押出成形、フィルム成形、中空成形、圧縮成形等、公知の加熱溶融成形の手法により作製することができる。フィルム成形の場合には、一軸延伸や二軸延伸等の延伸処理を施してもよい。
本発明の成形体は、例えば、下記の本発明の成形体の製造方法により好適に作製できる。
【0056】
≪成形体の製造方法≫
本発明の成形体の製造方法は、前記本発明の高分子組成物であって前記(A)成分(結晶性高分子)が溶融状態である高分子組成物を準備する工程(以下、「準備工程」ともいう)と、前記(A)成分が溶融状態である高分子組成物を成形固化させることにより、前記(A)成分の少なくとも一部が最安定な結晶系に結晶転移した成形体を得る工程(以下、「成形固化工程」ともいう)と、を有する。
本発明の成形体の製造方法では、成形固化工程において、溶融状態である前記(A)成分が、まず準安定な結晶系に結晶化し、次いで最安定な結晶系へと結晶転移する。
本発明の成形体の製造方法によれば、成形固化の対象である高分子組成物に含まれる前記(B)成分(高分子型結晶化核剤)の作用により、前記(A)成分が準安定な結晶系から最安定な結晶系へ結晶転移する速度を速くすることができる。
【0057】
<準備工程>
前記準備工程は、前記本発明の高分子組成物であって前記(A)成分が溶融状態である高分子組成物を準備する工程である。
前記準備工程の一形態としては、固体状態(例えば、粉末状)の前記(A)成分と固体状態(例えば、粉末状)の前記(B)成分との混合物である高分子組成物を加熱溶融することにより、少なくとも前記(A)成分を溶融状態とする形態が挙げられる。
また、準備工程の別の形態としては、加熱溶融により溶融状態とされた前記(A)成分に、固体状態である前記(B)を添加して高分子組成物とする形態が挙げられる。
また、準備工程の別の形態としては、固体状態である前記(B)に、加熱溶融により溶融状態とされた前記(A)成分を添加して高分子組成物とする形態が挙げられる。
【0058】
前記準備工程において、前記(A)成分を溶融状態とする方法は、高分子組成物(又は(A)成分)を、(A)成分の融点以上に加熱する公知の方法を用いることができる。この際、(A)成分の融点に対し、10℃〜100℃(より好ましくは10℃〜60℃)高い温度で加熱することが好ましい。
【0059】
<成形固化工程>
前記成形固化工程は、前記(A)成分が溶融状態である高分子組成物を成形固化させることにより、前記(A)成分の少なくとも一部が最安定な結晶系に結晶転移した成形体を得る工程である。
本工程では、前記(A)成分の少なくとも一部を最安定な結晶系に結晶転移させればよいが、成形体としての諸性能をより向上させる観点からは、前記(A)成分の60質量%以上(より好ましくは70質量%以上、特に好ましくは80質量%以上)を最安定な結晶系に結晶転移させることが好ましい。
【0060】
成形固化の方法には特に限定はなく、射出成形、押し出し成形(例えば、インフレーション法やキャスト法等によるフィルム成形)、中空成形、圧縮成形等、公知の方法を用いることができる。
具体的には、前記(A)成分が溶融状態である前記高分子組成物を所望の形状に成形しつつ、前記(A)成分の結晶化温度よりも低い温度(好ましくは前記(A)成分の結晶化温度に対し5℃〜50℃低い温度、より好ましくは前記(A)成分の結晶化温度に対し10℃〜30℃低い温度)に冷却して固化させる。
【0061】
本発明の成形体の製造方法は、必要に応じ、成形体を延伸処理する工程等、その他の工程を有していてもよい。
【0062】
以上で説明した本発明の高分子組成物並びに成形体及びその製造方法は、加熱溶融成形の際、準安定な結晶系から最安定な結晶系への転移速度を速くすることができるため、例えば、自動車用部品、家電製品用部品、家庭用品、接続用部品、雑貨品、医療器具、建材、電線被覆材、農業用資材、食品包装材等、様々な用途に広く用いることができる。
【実施例】
【0063】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。以下の実施例において、「室温」は25℃を指す。
【0064】
〔実施例1〕
<高分子型結晶化核剤(ポリオレフィンb−1)の作製>
窒素置換した100ml二口フラスコにトルエン43.0ml、1,5−ヘキサジエン10.0mmolと、メチルアルミノキサンのトルエン溶液3.3mL(3.01M)を入れた。別途用意した50ml二口フラスコを窒素置換し、触媒ビス(ペンタメチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド5.0μmolとトルエン2.5mlを入れ撹拌し、触媒溶液を調製した。触媒溶液を100ml二口フラスコに加え、室温(23〜24℃)で重合を開始した。重合は6時間行った。反応後、重合溶液を多量のメタノール中に注ぎ触媒を失活させた後、ポリマーを濾別した。得られたポリマーをオルトジクロロベンゼンを溶媒としてソックスレー型抽出器で抽出し、触媒残渣を取り除いた。更にエバポレーターで溶媒を留去した。メタノールを注ぎ生成ポリマーを濾別した後、60℃で6時間減圧乾燥を行い0.69gのポリ(メチレン−1.3−シクロペンタン)(PMCP)を得た。ヘキサジエン単位の環化率は99.0%、シクロペンタン環のシス構造含率は86%、Mw=10,000、Tm=171℃であった。
以上により、ポリオレフィンb−1を得た。
得られたポリオレフィンb−1の構造をX線構造解析により解析したところ、六方晶系が70質量%を占めるポリオレフィンであることが確認された。
得られたポリオレフィンb−1を、以下において高分子型結晶化核剤として用いた。
【0065】
<高分子組成物の調製>
まず、結晶性高分子として、市販のアイソタクチックポリブテン−1(MFR:0.2g/10分)を準備した。アイソタクチックポリブテン−1の最安定な結晶系は六方晶である。
次に、このアイソタクチックポリブテン−1(100質量部)と、上記ポリオレフィンb−1(0.5質量部)と、を混合したサンプル 1.0gを、QM-2-A miniature injection moulding machine で、160℃で5分間溶融混練して高分子組成物とした。
【0066】
<成形体の作製>
上記で得られた高分子組成物を160℃のホットプレートで5分間溶融後、フィルム状に成形し、さらに別途用意した90℃のホットプレートで10分間結晶化させ試料(成形体)を得た。
【0067】
<II型(正方晶)結晶の残存率(%)の測定>
上記で得られた試料について、成形直後、成形後6時間経過時、成形後24時間経過時、及び成形後170時間経過時に、それぞれ、準安定な結晶系であるII型(正方晶系)結晶の残存率(%)を測定した。本実施例では成形直後のII型(正方晶系)結晶の残存率(%)を100%とし、各時間経過時の残存率(%)は、成形直後の残存率(%)を100%としたときの相対値とした。
ここで、「成形直後」とは、試料作製後から室温で15分間保管した時を指し、「成形後○時間経過時」(例えば、成形後6時間経過時)とは、試料作製後から室温で○時間(例えば6時間)保管した時を指す。
また、II型(正方晶)結晶の残存率(%)は、以下のようにして測定した。
まず、試料から広角X線回折サンプルを作製し、得られた試料を広角X線回折(XRD)(Rigaku RAD-2C)の試料ホルダーにセットし測定を行った。II型のピークである2θ=12°のピークの強度比を求めた。
得られた結果を下記表1に示す。
【0068】
〔比較例1〕
実施例1において、高分子型結晶化核剤を用いなかったこと以外は実施例1と同様にして高分子組成物及び試料を作製し、得られた試料について実施例1と同様にしてII型(正方晶)結晶の残存率(%)を求めた。
得られた結果を下記表1に示す。
【0069】
〔比較例2〕
実施例1において、高分子型結晶化核剤として用いたポリオレフィンb−1を、同質量の下記比較用ポリオレフィンに変更したこと以外は実施例1と同様にして高分子組成物及び試料を作製し、得られた試料について実施例1と同様にしてII型(正方晶)結晶の残存率(%)を求めた。
得られた結果を下記表1に示す。
ここで、比較用ポリオレフィンとしては、ポリ(4−メチル−1−ペンテン)を用いた。このポリオレフィンの構造をX線構造解析により解析したところ、六方晶系を含まず、かつ、正方晶系が30質量%を占めるポリオレフィンであることが確認された。
【0070】
【表1】

【0071】
表1に示すように、最安定な結晶系がI型(六方晶)であるアイソタクチックポリブテン−1と、I型(六方晶)結晶を含むポリオレフィンb−1と、を用いた実施例1では、成形後6時間経過時におけるII型(正方晶)結晶の残存率(%)が小さく、II型(正方晶)からI型(六方晶)への転移速度が速かった。
上記実施例では、結晶性高分子としてポリブテンを用い、高分子型結晶化核剤として六方晶を含むポリオレフィンを用いた例について説明したが、本発明は上記実施例に限定されることはない。結晶性高分子と、この結晶性高分子がとり得る最安定な結晶系と同じ結晶系の結晶性高分子を含む高分子型結晶化核剤と、を用いる限り、上記実施例と同様に、準安定な結晶系から最安定な結晶系への転移速度を向上させることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)結晶性高分子と、
(B)前記(A)成分がとり得る最安定な結晶系と同じ結晶系であり前記(A)成分とは異なる結晶性高分子を含む高分子型結晶化核剤と、
を含有する高分子組成物。
【請求項2】
前記(A)成分が、ポリオレフィン系高分子であり、
前記(B)成分が、ポリオレフィン系高分子を含む高分子型結晶化核剤である請求項1に記載の高分子組成物。
【請求項3】
前記(A)成分が、ポリブテン系高分子であり、
前記(B)成分が、六方晶系のポリオレフィン系高分子を含む高分子型結晶化核剤である請求項1又は請求項2に記載の高分子組成物。
【請求項4】
前記ポリブテン系高分子が、アイソタクチックポリブテン−1である請求項3に記載の高分子組成物。
【請求項5】
前記(B)成分の含有量が、前記(A)成分100質量部に対して、0.01質量部以上10質量部以下である請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の高分子組成物。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の高分子組成物を用いて作製された成形体。
【請求項7】
請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の高分子組成物であって前記(A)成分が溶融状態である高分子組成物を準備する工程と、
前記(A)成分が溶融状態である高分子組成物を成形固化させることにより、前記(A)成分の少なくとも一部が最安定な結晶系に結晶転移した成形体を得る工程と、
を含む成形体の製造方法。

【公開番号】特開2012−12444(P2012−12444A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−148283(P2010−148283)
【出願日】平成22年6月29日(2010.6.29)
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【Fターム(参考)】