説明

高分子膜の切断方法

【課題】高分子膜を微細かつ高精度に切断することができるとともに、高分子膜を構成する成分を変質させたり溶出させたりするおそれのない、高分子膜の切断方法を提供する。
【解決手段】基板上に直接または他の層を介して形成された高分子膜をXY方向に切断して、辺の長さが3〜160μmの微小高分子膜に分割する高分子膜の切断方法であって、少なくとも表面がセラミックからなる刃部を備えた切断工具、または、複数の刃部を切断すべき前記辺の長さに対応する間隔で設けてなる切断工具により、高分子膜を切断する方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小な固形製剤の製造などに有用な高分子膜の切断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高い薬理活性を有する薬剤が数多く開発されているが、バンコマイシンに代表されるペプチド系抗生物質やペニシリン系抗生物質などは、通常の投与法では吸収部位である腸に到達するまでの途上で分解され、あるいはバイオアベイラビリティが低下するため、大部分が利用されずに体内から排出される。
【0003】
従来から、経口投与によるバイオアベイラビリティを向上させるため、薬剤を含有する薬剤層と難水溶性の層を積層した2層構造の製剤、あるいはさらに消化管壁(腸壁)への付着を図るための生体接着性物質の層を積層した製剤などが開発されている。そして、このような固形製剤の製造方法として、難水溶性ポリマーのフィルムに作成した窪みに、薬液、薬物粉末などを充填した後、腸溶性ポリマーのフィルムを貼り合わせてシールし、それを種々の口径(例えば約3mm)のパンチャーなどで打ち抜くことにより、微小な固形製剤を得る方法が提案されている。(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2002−338456公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された方法では、150〜160μm以下の径を有する製剤を作製しようとした場合、端面を精度良く加工することが難しく、外観の良好な製剤を得ることができないという問題があった。すなわち、従来の方法では、バイオアベイラビリティを向上させた150〜160μm以下という微小な径を有する固形製剤を製造することは、事実上不可能であった。
【0005】
一方、高分子膜を微細かつ高精度に切断する方法として、レーザ照射やダイシングなどの手法が知られており、これらの手法を上記のような微小な固形製剤の製造に適用することが考えられる。しかしながら、これらの方法は、光や熱の発生に伴って化学反応が生起され、切断端面において各層を構成する成分が変質したり、あるいは、水を用いるために水溶性の成分が溶出したりするおそれがある。
【0006】
本発明は、このような従来技術の課題に対処してなされたもので、微小な固形製剤の製造に有用な、高分子膜を微細かつ高精度に切断することができるとともに、高分子膜を構成する成分を変質させたり溶出させたりするおそれのない、高分子膜の切断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の発明は、基板上に直接または他の層を介して形成された高分子膜をXY方向に切断して、辺の長さが3〜160μmの微小高分子膜に分割する高分子膜の切断方法であって、少なくとも表面がセラミックからなる刃部を備えた切断工具により、前記高分子膜を切断することを特徴とする高分子膜の切断方法である。
【0008】
また、本発明の第2の発明は、基板上に直接または他の層を介して形成された高分子膜をXY方向に切断して、辺の長さが3〜160μmの微小高分子膜に分割する高分子膜の切断方法であって、複数の刃部を切断すべき前記辺の長さに対応する間隔で設けてなる切断工具により、前記高分子膜を切断することを特徴とする高分子膜の切断方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の高分子膜の切断方法によれば、高分子膜を、レーザ照射やダイシングなどの切断方法のように膜を構成する成分を変質させたり溶出させたりすることなく、微細かつ高精度に切断し、極めて微小な高分子膜に分割することができる。したがって、これを用いて、極めて微小でバイオアベイラビリティに優れた固形製剤を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0011】
図1は、本発明を適用して固形製剤を製造する方法の一例を示す断面図である。
【0012】
図1(a)に示すように、必要に応じて離型剤(図示を省略。)を塗布したシリコン、ガラスなどの基板1の上に、難水溶性ポリマーから成るバリヤ層2を形成した後、その上に薬剤層3を形成する。
【0013】
バリヤ層2は、胃酸やその他の消化液にも安定な難水溶性ポリマーにより構成されている。難水溶性ポリマーとしては、エチルセルロース、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートなどの難溶性セルロース、およびヒドロキシプロピルセルロースフタレート、酢酸フタル酸セルロース、セラック、パルミチン酸、ステアリン酸などの高級脂肪酸などが挙げられる。
【0014】
薬剤層3は、水溶性高分子を主な基剤成分とし、薬剤を含有する層である。水溶性高分子としては、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースおよびその塩、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシドなどが挙げられる。これらは単独でまたは2種以上の混合物として使用される。
【0015】
薬剤としては、水溶性の難・低吸収性薬剤(アミノグリコシド系抗生物質、ペニシリン系抗生物質、セファロスポリン系抗生物質、セフェム系抗生物質、ペプチド系抗生物質、アシクロビルなどの抗ウイルス薬、エピルビシンなどの制癌剤など)、インスリン、カルシトニン、各種のインターフェロン、成長ホルモン、バソプレシンおよびその誘導体など、各種の蛋白・ペプチド薬をはじめとしてあらゆる薬剤が挙げられる。
【0016】
これらのバリヤ層2および薬剤層3を形成するには、難水溶性ポリマーを含む溶液、あるいは水溶性高分子を基剤成分とし薬物を含有する溶液を、スピンコータ、バーコータ、ダイコータなどの塗布装置を用いてそれぞれ塗布した後、加熱して乾燥する方法が採られる。薄層の形成が可能であることから、スピンコータによる塗布が特に好ましい。加熱・乾燥の条件は、50〜80℃の温度で5〜10分間加熱することが好ましい。
【0017】
次いで、図1(b)に示すように、薬剤層3の上に、生体接着性物質を含む溶液を、スピンコータ、バーコータ、ダイコータなどの塗布装置を用いて塗布した後、例えば50〜80℃の温度で5〜10分間加熱・乾燥して生体接着層4を形成する。これにより、約3〜50μmの厚さを有する3層の積層膜が得られる。
【0018】
生体接着性物質としては、アルギン酸ナトリウム、プルラン、ペクチン、トラガント、アラビアゴム、酸性多糖類またはその塩、カルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸ナトリウムなどのポリアクリル酸またはその塩、アクリル酸共重合体またはその塩、カルボキシメチルセルロースおよびナトリウム塩などのセルロース誘導体などが挙げられる。
【0019】
薬剤層3あるいは生体接着層4には、薬物の吸収効果をさらに高めるために、吸収促進剤を含有させることも可能である。吸収促進剤を併用する場合には、薬剤と吸収促進剤が常に限られた閉鎖空間内に共存するので、効果を最大限に引き出すことができる。吸収促進剤としては、ラブラゾールTMやカプリン酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0020】
なお、図1(a)および図1(b)の工程において、バリヤ層2の形成と生体接着層4の形成の工程順を逆にし、まず、基板1上に生体接着層4を形成し、その上に薬剤層2およびバリヤ層2の順で形成するようにしてもよい。
【0021】
次に、図1(c)に示すように、3層の積層膜を、少なくとも表面がセラミックからなる刃部5aを備えた切断工具5を用い、XY方向に切断する。このようにして、積層膜を辺の長さが3〜160μmの碁盤目状に分割する。少なくとも表面がセラミックからなる刃部5aを備えた切断工具5を用いることにより、レーザ照射やダイシングなどの切断方法のように膜を構成する成分を変質させたり溶出させたりすることなく切断することができる。切断工具5の刃部5aの肉厚は、1〜40μmの範囲が好ましく、3〜20μmの範囲がより好ましい。刃部5aの肉厚が1μm未満では積層膜への浸透が困難となり、また、40μmを超えると、切断代(切溝の幅)が大きくなって歩留まりが不良となる。
【0022】
切断工具5の刃部5aを構成するセラミック材料としては、アルミナ、ジルコニア、マグネシア、ベリリアなどの単純酸化物;シリカ、ホルステライト、ステアタイト、ワラステナイト、ジルコン、ムライト、コーディェライト、スポジュメンなどのケイ酸塩、チタン酸アルミニウム、スピネル、アパタイト、チタン酸バリウム、PZT、PLZT、ソフトまたはハードのフェライト、ニオブ酸リチウムなどの複酸化物;窒化ケイ素、サイアロン、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化チタンなどの窒化物;炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化チタン、炭化タングステンなどの炭化物;ホウ化ランタン、ホウ化チタン、ホウ化ジルコニウムなどのホウ化物;硫化カドミウム、硫化モリブデンなどの硫化物;ケイ化モリブデンなどのケイ化物、アモルファス炭素、黒鉛、ダイヤモンドなどの炭素類などが挙げられる。なかでも、ジルコニア、アルミナが、高い端面精度が得られることから好ましい。
【0023】
本発明においては、切断工具5として、例えば図2乃至図4に示すような切断工具を用いることができる。
【0024】
図2に示す切断工具は、(a)に正面図、(b)に側面図を示すように、プレート状のホルダー61に多数の刃62を着脱自在に固定した構造を有する。刃62を積層膜に挿入し、その先端(刃先)を基板1上に押し付けながらX方向あるいはY方向に移動させることにより積層膜を切断することができる。
【0025】
また、図3の斜視図で示す切断工具は、回動自在なローラ状のホルダー71の軸方向に多数の円板状の刃72を固定した構造を有する。円板状の刃72を積層膜に挿入し、その先端を基板1上に押し付け、回転させながらX方向あるいはY方向に移動させることにより積層膜を切断することができる。
【0026】
さらに、図4の側面図で示す切断工具は、回転駆動されるローラ81の外周面に、周方向に間隔をおいて板状の刃82を一体に形成した構造を有する。ローラ81を基板1に向けて進退させるとともに、基板とローラ11を同期させてそれぞれを図面矢印方向に間欠的に移動乃至回転させることにより、積層膜をX方向あるいはY方向に切断することができる。
【0027】
そして、これらの切断工具においては、いずれも、多数の刃62、72、82が切断すべき積層膜の幅に対応するピッチで設けられており、かかる切断工具を用いることにより、積層膜を所望の大きさに効率良く切断することができる。なお、各切断工具における刃62、72、82の材質は、特に限定されるものではなく、前述したような各種セラミックや鋼などの硬質の金属などが使用されるが、切断端面の精度などの観点から、少なくとも表面がセラミックで構成されていることが好ましい。また、その肉厚は、好ましくは1〜40μm、より好ましくは3〜20μmの範囲で調整される。
【0028】
このようにして積層膜を切断した後、図1(d)に示すように、切溝10aが形成された積層膜を基板1から剥離することにより、バリヤ層2上に薬剤層3および生体接着層4が順に積層された3層構造で、辺の長さが3〜160μmの極めて微小な固形製剤が得られる。
【0029】
図5は、本発明を適用して固形製剤を製造する方法の他の例を示す断面図である。
この例においては、図5(a)に示すように、基板1の上に、前記の例の場合に準じる方法で、アルカリ可溶層9および生体接着層4を順に形成し、さらにその上に、図5(b)に示すように、薬剤層3を形成して3層の積層膜とした後、この積層膜を、図5(c)に示すように、切断工具5を用いてXY方向に切断する。図5(c)において、10bは切溝を示す。
【0030】
アルカリ可溶層9は、薬物の吸収にとって最も有利なpH(小腸内のpHであるアルカリ性)部位に到達してはじめて溶解し、それまでは胃酸などによる薬物の分解を防止する。アルカリ可溶層9は、胃酸に対して安定なアルカリ可溶性のポリマーにより構成される。このアルカリ可溶性のポリマーとしては、セルロースアセテートトリメリテート、セルロースアセテートフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、カルボシキメチルエチルセルロース(CMEC)、メタクリル酸‐アクリル酸エチルエステル共重合体、メタクリル酸‐メタクリル酸メチルエステル共重合体などが挙げられる。これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて使用される。
【0031】
次に、図5(d)に示すように、切断された3層の積層膜の上に、バリヤ物質である難水溶性ポリマーを含む溶液をスピンコータ、バーコータ、ダイコータなどの塗布装置を用いて塗布した後、加熱・乾燥させ、切溝10bを含め3層の積層膜の外周全体を覆うバリア層2を形成する。
【0032】
この後、図5(e)に示すように、再度、切断工程を行う。ここでは、図5(c)の工程で用いた切断工具5より肉厚の薄い刃部11aを備え、他の構成は同一の切断工具11を用いて、バリヤ層2を3層の積層膜の切溝10bと同じ位置で切断する。
【0033】
このようにして新しい切溝10Cが形成された積層膜を、図5(f)に示すように、基板1から剥離することにより、アルカリ可溶層9上に生体接着層4および薬剤層3が順に積層され、かつ、それらの側面および上面がバリヤ層2で覆われた、辺の長さが3〜160μmの極めて微小な固形製剤が得られる。なお、この固形製剤は、生体接着層4の下面がアルカリ可溶層9で被覆され、また、薬剤層3全体が生体接着層4とバリヤ層2で覆われているため、経口投与した場合に、薬剤層3に含まれる薬効成分を腸内で有効に作用させることができる。
【0034】
なお、本発明において切断の対象とすることができる高分子膜は、以上説明したような固形製剤用の高分子膜に限定されるものではなく、ガラスやシリコンなどからなる基板上に、光学的あるいは電気的な機能を有するように形成された各種の高分子材料からなる膜をはじめ、様々な高分子膜を広く対象とすることができる。また、固形製剤用の膜についても、特に上記構成のものに限定されるものではない。
【0035】
本発明においては、レーザ照射やダイシングなどの切断方法のように膜を構成する成分を変質させたり溶出させたりすることがないため、特にこのような特性が要求される高分子膜に適用した場合に、特に顕著な効果を得ることができる。
【実施例】
【0036】
以下、本発明の実施例を記載する。なお、これらの実施例は本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【0037】
実施例1
表面にシリコーン系離型剤(ジメチルポリシロキサン)を塗布したシリコン基板上に、スピンコータを用いて、アルカリ可溶性ポリマーであるヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートのトルエン−エタノール(80:20)混合溶液(濃度11重量%)を塗布し、加熱乾燥(80℃×5分)させて、アルカリ可溶層を形成した。
【0038】
次いで、このアルカリ可溶層上に、3重量%のアルギン酸ナトリウム水溶液をスピンコータを用いて塗布した後、2晩低温下で空気を送り込みながら放置することにより、溶媒を留去して生体接着層を形成した。さらに、この生体接着層上に、吸収促進剤としてカプリン酸ナトリウムを配合したインスリンのポリビニルアルコール液をスピンコータを用いて塗布し、冷凍庫内で1時間放置してインスリン液を凍らせ、薬剤層を形成した。
【0039】
このようにして得られた厚さ14μmの3層積層膜を、図2に示す切断工具(刃角40°の両刃形状の刃先を有し、肉厚が20μmのジルコニア製の刃を30μmピッチで装着)を用いてXY方向に切断した。次いで、その上に、難溶性ポリマーであるエチルセルロースのトルエン−エタノール(80:20)溶液(濃度14重量%)を塗布し、加熱乾燥(80℃×5分)させてバリヤ層を形成した。バリヤ層形成後の膜厚は21μmであった。
【0040】
続いて、バリヤ層の上から、先の切溝と同じ位置を、刃を刃角40°の両刃形状の刃先を有し、肉厚が5μmのジルコニア製の刃に交換した上記切断工具を用いて切断した。切断後、シリコン基板から積層膜を剥離したところ、約30μm角の固形製剤が得られた。得られた固形製剤は、端面精度が高く良好な外観を有していた。
【0041】
実施例2
表面にシリコーン系離型剤(ジメチルポリシロキサン)を塗布したシリコン基板上に、スピンコータを用いて、アルカリ可溶性ポリマーであるヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートのトルエン−エタノール(80:20)混合溶液(濃度11重量%)を塗布し、加熱乾燥(80℃×5分)させて、アルカリ可溶層を形成した。
【0042】
次いで、このアルカリ可溶層上に、3重量%のアルギン酸ナトリウム水溶液をスピンコータを用いて塗布した後、2晩低温下で空気を送り込みながら放置することにより、溶媒を留去して生体接着層を形成した。さらに、この生体接着層上に、吸収促進剤としてカプリン酸ナトリウムを配合したインスリンのポリビニルアルコール液をスピンコータを用いて塗布し、冷凍庫内で1時間放置してインスリン液を凍らせ、薬剤層を形成した。
【0043】
このようにして得られた厚さ14μmの3層積層膜を、図3に示す切断工具(外周に刃角40°の両刃形状の刃先を有し、肉厚が20μmのジルコニア製の円筒状の刃を30μmピッチで装着)を用いてXY方向に切断した。次いで、その上に、難溶性ポリマーであるエチルセルロースのトルエン−エタノール(80:20)溶液(濃度14重量%)を塗布し、加熱乾燥(80℃×5分)させてバリヤ層を形成した。バリヤ層形成後の膜厚は21μmであった。
【0044】
続いて、バリヤ層の上から、先の切溝と同じ位置を、刃を刃角40°の両刃形状の刃先を有し、肉厚が5μmのジルコニア製の刃に交換した上記切断工具を用いて切断した。切断後、シリコン基板から積層膜を剥離したところ、約30μm角の固形製剤が得られた。得られた固形製剤は、端面精度が高く良好な外観を有していた。
【0045】
実施例3
表面にシリコーン系離型剤(ジメチルポリシロキサン)を塗布したシリコン基板上に、スピンコータを用いて、アルカリ可溶性ポリマーであるヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートのトルエン−エタノール(80:20)混合溶液(濃度11重量%)を塗布し、加熱乾燥(80℃×5分)させて、アルカリ可溶層を形成した。
【0046】
次いで、このアルカリ可溶層上に、3重量%のアルギン酸ナトリウム水溶液をスピンコータを用いて塗布した後、2晩低温下で空気を送り込みながら放置することにより、溶媒を留去して生体接着層を形成した。さらに、この生体接着層上に、吸収促進剤としてカプリン酸ナトリウムを配合したインスリンのポリビニルアルコール液をスピンコータを用いて塗布し、冷凍庫内で1時間放置してインスリン液を凍らせ、薬剤層を形成した。
【0047】
このようにして得られた厚さ14μmの3層積層膜を、図4に示す切断工具(刃角40°の両刃形状の刃先を有し、肉厚が20μmのジルコニア製の板状の刃を、周方向に35μmピッチで一体に形成)を用いてXY方向に切断した。次いで、その上に、難溶性ポリマーであるエチルセルロースのトルエン−エタノール(80:20)溶液(濃度14重量%)を塗布し、加熱乾燥(80℃×5分)させてバリヤ層を形成した。バリヤ層形成後の膜厚は21μmであった。
【0048】
続いて、バリヤ層の上から、先の切溝と同じ位置を、刃の肉厚が5μmである以外は上記切断工具と同様に構成した切断工具を用いて切断した。切断後、シリコン基板から積層膜を剥離し、約30μm角の固形製剤が得られた。得られた固形製剤は、端面精度が高く良好な外観を有していた。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明を適用した固形製剤の製造方法の一例を示す断面図である。
【図2】(a)は本発明に使用される切断工具の一例の要部構成を概略的に示す正面図、(b)はその側面図である。
【図3】本発明に使用される切断工具の他の例の要部構成を概略的に斜視図である。
【図4】本発明に使用される切断工具のさらに他の例の要部構成を概略的に示す側面図である。
【図5】本発明を適用した固形製剤の製造方法の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0050】
1…基板、2…バリヤ層、3…薬剤層、4…生体接着層、5,11…切断工具、5a,11a…刃部、9…アルカリ可溶層、10a、10b、10c…切溝、61、71…ホルダー、62、72、82…刃、81…ローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に直接または他の層を介して形成された高分子膜をXY方向に切断して、辺の長さが3〜160μmの微小高分子膜に分割する高分子膜の切断方法であって、
少なくとも表面がセラミックからなる刃部を備えた切断工具により、前記高分子膜を切断することを特徴とする高分子膜の切断方法。
【請求項2】
前記刃部は、肉厚が1〜40μmであることを特徴とする請求項1記載の高分子膜の切断方法。
【請求項3】
基板上に直接または他の層を介して形成された高分子膜をXY方向に切断して、辺の長さが3〜160μmの微小高分子膜に分割する高分子膜の切断方法であって、
複数の刃部を切断すべき前記辺の長さに対応する間隔で設けてなる切断工具により、前記高分子膜を切断することを特徴とする高分子膜の切断方法。
【請求項4】
前記刃部は、少なくとも表面がセラミックからなり、かつ、肉厚が1〜40μmであることを特徴とする請求項2記載の高分子膜の切断方法。
【請求項5】
前記高分子膜は、厚さが3〜50μmであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の高分子膜の切断方法。
【請求項6】
前記高分子膜は、複数の層を有する高分子膜であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載の高分子膜の切断方法。
【請求項7】
前記高分子膜は、薬剤を含有していることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項記載の高分子膜の切断方法。
【請求項8】
前記高分子膜は、薬剤を含有する第1の層と、生体接着層、アルカリ可溶層および難水溶性ポリマー層から選ばれる第2の層を有することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項記載の高分子膜の切断方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−82190(P2006−82190A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−270441(P2004−270441)
【出願日】平成16年9月16日(2004.9.16)
【出願人】(390022415)京セラケミカル株式会社 (424)
【Fターム(参考)】