説明

高分子複合体

【目的】外部応力を緩和することや、外部環境の変化に応じて物性を変化させることに優れた高分子複合材を提供すること。
【構成】重合性不飽和基含有水溶性有機モノマーの重合体(A)と層状剥離した水膨潤性粘土鉱物(B)により形成された三次元網目構造単位、または水および/または有機化合物(D)を含ませた該三次元網目構造単位、またはそれらからなる粒子を、有機高分子(C)中に含む高分子複合体を提供する。本発明により、外部応力を緩和したり、外部環境の変化に応じて物性を変化させる特徴を有する高分子複合材が得られた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子成形体や塗膜などとして用いられる高分子複合体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機高分子は、成形性に優れ、射出成形、押し出し成形、圧縮成形、成膜、コーティング、紡糸など多様な成形手段が用いられる。また、セラミックや金属材料に比べて、一般に柔軟性、耐衝撃性、消音性などに優れた特徴を有する。有機高分子は、現在、幅広い産業用途での要求特性を満足するために、有機高分子同士を組み合わせたり、セラミックなどの無機材料と複合化して用いられる場合が多い。しかし、製品の多様化と高性能化に伴い、従来の高分子複合体では到達し得ない物性が要求される場合が多くなっている。特に、外部からの力や環境変化を受ける所で用いられる高分子複合材では、外部応力を緩和すること、また、外部環境の変化に応じて物性を変化させるといった特性を有する高分子複合材の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−53629号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、外部応力を緩和することや、外部環境の変化に応じて物性を変化させることに優れた高分子複合材を提供すること。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究に取り組んだ結果、水溶性有機モノマーから得られる重合体と層状剥離した水膨潤性粘土鉱物とから形成された三次元網目構造単位(特許文献1参照)を有機高分子中に含む高分子複合体が上記課題を解決することを見いだし本発明に至った。具体的には、例えば、水溶性有機モノマーから得られる重合体と層状剥離した水膨潤性粘土鉱物とからなる三次元網目構造を有する粒子を微細に有機高分子中に分散し、複合化して得られる高分子複合体、または、更に該三次元網目構造を柔軟にする成分(水及び/または有機化合物)を含ませた高分子複合体は、外部から加えられる応力を緩和することや、外部環境の変化に応じて物性を変化させうることが判明し本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、重合性不飽和基含有水溶性有機モノマーの重合体(A)と層状剥離した水膨潤性粘土鉱物(B)により形成された三次元網目構造単位を有機高分子(C)中に含む高分子複合体を提供する。
【0007】
また、本発明は、重合性不飽和基含有水溶性有機モノマーの重合体(A)と層状剥離した水膨潤性粘土鉱物(B)により形成された三次元網目構造を有する粒子を有機高分子(C)中に分散してなる高分子複合体を提供する。
【0008】
更に、本発明は、重合性不飽和基含有水溶性有機モノマーの重合体(A)と層状剥離した水膨潤性粘土鉱物(B)により形成された三次元網目構造中に、重合体(A)または水膨潤性粘土鉱物(B)と親和性のある水および/または有機化合物(D)を含有させた高分子複合体を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の高分子複合体は、有機高分子と層状剥離した粘土鉱物からなる三次元網目構造単位を有機高分子中に含むことから、高分子複合体に加えられる外部応力を緩和することや、外部環境の変化に応じて、物性を変化させることができる。また、環境に応じて水分吸収の制御が可能である。かかる高分子複合体は、成形体や塗膜などの形態で、各種用途(例えば、医療器具材料、スポーツ用具材料、自動車・船舶材料、電子機器材料、建築土木用材料等)に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】水溶性有機モノマー重合体(A)と層状剥離した水膨潤性粘土鉱物(B)により形成された三次元網目構造単位の模式図
【図2】高分子複合体(ポリ乳酸マトリックス)の成形物とポリ乳酸単独の成形物の動的粘弾性測定結果
【図3】高分子複合体(ポリスチレンマトリックス)の成形物とポリスチレン単独の成形物の動的粘弾性測定結果
【図4】高分子複合体(ナイロン6マトリックス)の成形物とナイロン6単独の成形物の動的粘弾性測定結果
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明における高分子複合体は、重合性不飽和基含有水溶性有機モノマーの重合体(以下、水溶性有機モノマー重合体と記載する)(A)と層状剥離した水膨潤性粘土鉱物(B)により形成された三次元網目単位を一般に用いられる各種有機高分子(C)中に含ませたものである。
【0012】
本発明における水溶性有機モノマー重合体(A)と層状剥離した水膨潤性粘土鉱物(B)により形成された三次元網目構造単位の模式図を図1に示す。本発明にいう三次元網目構造単位としては、隣接する層状剥離した水膨潤性粘土鉱物(B)が複数の水溶性有機モノマー重合体(A)鎖によりつながれた構造を有することが必須である。ここで、水溶性有機モノマー重合体(A)と層状剥離した水膨潤性粘土鉱物(B)との結合は、非共有結合を主とするものであることが好ましく、具体的には、水素結合、疎水結合、イオン結合、配位結合などの一種または複数が用いられ、より好ましくは水素結合である。更に、三次元網目構造単位としては、図1に示すように、一本の水溶性有機モノマー重合体(A)鎖が同じ層状剥離粘土鉱物表面上で多数点で結合(多点結合)していること、且つ、同一の水膨潤性粘土鉱物(B)表面に異なる多数本の重合体(A)鎖が結合しているものが特に好ましい。一枚の層状剥離粘土鉱物表面に結合した重合体(A)鎖の数は、例えば、三次元網目構造のみからなるゲルの力学試験から計算することができる(非特許文献1参照)。なお、水溶性有機モノマー重合体(A)と層状剥離した水膨潤性粘土鉱物(B)が三次元網目構造を形成していることは、これを水又は親水性有機溶剤により膨潤させ、且つ長時間(例えば、20℃で500時間以上)保持しても構成成分である層状剥離した水膨潤性粘土鉱物及び水溶性有機モノマー重合体が抽出されないことから推定される。なお、上記三次元網目構造単位の結合の一部として、非共有結合による特徴を失わない範囲で、(A)と(B)の結合として、共有結合を一部用いることは出来る。共有結合数/非共有結合数の割合は好ましくは1以下、より好ましくは0.5以下である。
【0013】
本発明における重合性不飽和基含有水溶性有機モノマー(A’)としては、水に溶解する性質を有し、その重合体(A)が層状剥離した水膨潤性粘土鉱物と相互作用を有するものが好ましく、例えば、粘土鉱物と水素結合、イオン結合、配位結合、共有結合等を形成できる官能基を有するものが好ましい。これらの官能基を有する重合性不飽和基含有水溶性有機モノマーとしては、具体的には、アミド基、アミノ基、エステル基、水酸基、テトラメチルアンモニウム基、シラノール基、エポキシ基などを有する重合性不飽和基含有水溶性有機モノマーが挙げられ、なかでもアミド基やエステル基を有する重合性不飽和基含有水溶性有機モノマーが好ましい。なお、本発明で言う水には、水単独以外に、水と混和する有機溶媒をとの混合溶媒で水を主成分とするものが含まれる。
【0014】
アミド基を有する重合性不飽和基含有水溶性有機モノマーの具体例としては、N−アルキルアクリルアミド、N,N−ジアルキルアクリルアミド、アクリルアミド等のアクリルアミド類、または、N−アルキルメタクリルアミド、N,N−ジアルキルメタクリルアミド、メタクリルアミド等のメタクリルアミド類が挙げられる。ここでアルキル基としては炭素数が1〜4のものが特に好ましく選択される。またエステル基を有する重合性不飽和基含有水溶性有機モノマーの具体例としては、メトキシエチルアクリレート、エトキシエチルアクリレート、メトキシエチルメタクリレート、エトキシエチルメタクリレートなどがあげられる。
【0015】
かかる水溶性有機モノマー重合体としては、例えば、ポリ(N−メチルアクリルアミド)、ポリ(N−エチルアクリルアミド)、ポリ(N−シクロプロピルアクリルアミド)、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(アクリロイルモルフォリン)、ポリ(メタクリルアミド)、ポリ(N−メチルメタクリルアミド)、ポリ(N−シクロプロピルメタクリルアミド)、ポリ(N−イソプロピルメタクリルアミド)、ポリ(N,N−ジメチルアクリルアミド)、ポリ(N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド)、ポリ(N−メチル−N−エチルアクリルアミド)、ポリ(N−メチル−N−イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(N−メチル−N−n−プロピルアクリルアミド)、ポリ(N,N−ジエチルアクリルアミド)、ポリ(N−アクリロイルピロリディン)、ポリ(N−アクリロイルピペリディン)、ポリ(N−アクリロイルメチルホモピペラディン)、ポリ(N−アクリロイルメチルピペラディン)、ポリ(アクリルアミド)、ポリ(メトキシエチルアクリレート)、ポリ(エトキシエチルアクリレート)、ポリ(メトキシエチルメタクリレート)、ポリ(エトキシエチルメタクリレート)が例示される。また水溶性有機モノマー重合体としては、以上のような単一の重合性不飽和基含有水溶性有機モノマーからの重合体の他、これらから選ばれる複数の異なる重合性不飽和基含有水溶性有機モノマーを重合して得られる共重合体を用いることも有効である。また上記水溶性有機モノマーとそれ以外の有機溶媒可溶性重合性不飽和基含有有機モノマーとの共重合体も、本発明にいう層状剥離した水膨潤性粘土鉱物と一体化した三次元網目構造を形成出来るものであれば使用することができる。
【0016】
本発明における重合性不飽和基含有水溶性有機モノマーの重合体(A)は、上記水溶性有機モノマーを重合したものであり、水溶性または水を吸湿する性質を有する親水性(または両親媒性)を有する。さらに、熱、pHや光に応答する等といった機能性や、生体吸収性を含む生体適合性や生分解性などの特性を有しているものは用途に応じてより好ましく用いられる。例えば、水溶液中でのポリマー物性(例えば親水性と疎水性)が下限臨界共溶温度(Lower Critical Solution Temperature:LCST)前後のわずかな温度変化により大きく変化する特性を有する水溶性有機モノマー重合体などであり、具体的にはポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)やポリ(N,N−ジエチルアクリルアミド)などが挙げられる。また生体適合性に優れたものとしては、ポリ(メトキシエチルアクリレート)やポリ(メタクリルアミド)などがあげられる。
【0017】
本発明における高分子複合体に用いる層状剥離した水膨潤性粘土鉱物(B)としては、水に膨潤性を有するものであり、水によって層間が膨潤する性質を有し、少なくとも一部が水中で層状に剥離して分散したものであることが必須である。好ましくは水中で1ないし10層以内、より好ましくは1ないし5層以内、特に好ましくは1ないし3層以内の厚みの層状に剥離して均一分散した水膨潤性粘土鉱物である。例えば、水膨潤性スメクタイトや水膨潤性雲母などが用いられ、より具体的には、ナトリウムを層間イオンとして含む水膨潤性ヘクトライト、水膨潤性モンモリロナイト、水膨潤性サポナイト、水膨潤性合成雲母などが挙げられる。
【0018】
本発明における水溶性有機モノマー重合体(A)に対する水膨潤性粘土鉱物(B)の質量比(B/A)は、0.03〜2.0であることが好ましく、より好ましくは、0.05〜1.5、特に好ましくは、0.1〜0.7である。0.03以下では得られる三次元網目構造が弱い場合が多く、2.0以上では応力緩和などの効果が少なくなる。一体化が進みにくくなる。
【0019】
本発明で用いる有機高分子(C)としては、一般に用いられている有機高分子、具体的には、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂、ゴム・エラストマーなどの有機高分子が用いられる。好ましくは、水溶性有機モノマー重合体(A)と親和性の高い(即ち、水溶性有機モノマー重合体(A)と相互作用して分散しやすい)ものが用いられる。水溶性有機モノマー重合体(A)との親和性が低い場合は共重合やブレンドの手法で親和性を増したものが用いられる。親和性を増すための共重合成分としては、用いる水溶性有機モノマーもしくは類似の構造を有する有機モノマーが有効である。なお、本発明における有機高分子(C)としては、該有機高分子にガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、有機高分子繊維、タルク、シリカ、チタニア、アルミナ、炭酸カルシウム、カーボンブラック、カーボンナノチューブなどの繊維および粒子状の強化材を含んだ繊維(粒子)強化有機高分子とした場合も含まれる。
【0020】
有機高分子(C)の具体例としては、ポリアミド、ポリエステル、ポリ乳酸、ポリエーテル、ポリウレタン、ポリサルフォン、ポリオレフィン、フッ素樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、シリコン樹脂、ポリイミド、感光性樹脂、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、ニトリルブタジエンゴム、ポリアミド系エラストマー、ポリエステル系エラストマーなどがあげられる。
【0021】
本発明で用いる有機化合物(D)としては、水に溶解または混和することができる有機分子または有機高分子である。具体的には、エーテル基、水酸基、カルボキシル基、アミド基、アミノ基などの親水性官能基を有する有機分子または有機高分子であり、例として、メタノール、エタノール、プロパノール、アセトン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3ブチレングリコール、グリセリン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ(ヒドロキシエチルアクリレート)、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリ(N−メチルアクリルアミド)、ポリ(N−エチルアクリルアミド)、ポリ(N−シクロプロピルアクリルアミド)、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(アクリロイルモルフォリン)、ポリ(メタクリルアミド)、ポリ(N−メチルメタクリルアミド)、ポリ(N−シクロプロピルメタクリルアミド)、ポリ(N−イソプロピルメタクリルアミド)、ポリ(N,N−ジメチルアクリルアミド)、ポリ(N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド)、ポリ(N−メチル−N−エチルアクリルアミド)、ポリ(N−メチル−N−イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(N−メチル−N−n−プロピルアクリルアミド)、ポリ(N,N−ジエチルアクリルアミド)、ポリ(N−アクリロイルピロリディン)、ポリ(N−アクリロイルピペリディン)、ポリ(N−アクリロイルメチルホモピペラディン)、ポリ(N−アクリロイルメチルピペラディン)、ポリ(アクリルアミド)、ポリアクリル酸、ヒアルロン酸、ポリエチレンイミン、ポリプロピレンイミン、アガロース、アルギン酸、カラギーナン、コラーゲン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、セルロース誘導体、キタンサンガム、ジェランガム、キトサンなどが挙げられ、好ましくは、メタノール、エタノール、プロパノール、アセトン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、1,3ブチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン、ポリ(N,N−ジメチルアクリルアミド、ポリ(N,Nジエチルアクリルアミド)、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリエチレンイミン、ポリプロピレンイミンが用いられる。また、より好ましくは、エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、ポリプロピレングリコール、ポリ(N,N−ジメチルアクリルアミド)、ポリビニルピロリドンが用いられる。また、特に好ましくはエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、低分子量ポリエチレングリコール(例:分子量1000以下)が用いられる。いずれの場合も、これらは単独または複数を組み合わせて用いられる。三次元網目構造中に含まれたこれらの有機化合物(D)は、三次元網目構造を柔軟にする働きや、有機高分子(C)との界面を強くする働きがあり、目標とする物性を向上させる効果がある。
【0022】
本発明においては、水溶性有機モノマー重合体(A)と層状剥離した水膨潤性粘土鉱物(B)により形成された三次元網目構造単位を有機高分子(C)中に含むことが必須である。三次元網目構造を有機高分子(C)中に含ませる方法は特に限定されないが、好ましい方法としては、三次元網目構造単位を有するものを予め調製した後、必要に応じて切断・粉砕し、次いで、有機高分子(C)中に溶融混合や溶液混合などの方法により導入する方法が挙げられる。溶融混合過程で剪断力により微細な単位で分散・複合化されるようにすることは有効である。また、あらかじめ、三次元網目構造を有するものを粒子状にした後、有機高分子(C)との相溶性を高める処理を行うことは有効である。その他、有機高分子(C)と水溶性有機モノマー重合体(A)を予めブレンドまたは共重合しておき、それに水膨潤性粘土鉱物(B)を加えて、溶融混合法または溶液混合法により三次元網目構造を形成する方法、水溶性有機モノマー重合体(A)と水膨潤性粘土鉱物(B)からなる三次元網目構造を形成した後、その中に有機高分子(C)を溶液法またはin−situ重合法により導入する方法などが挙げられる。導入後の三次元網目構造単位を有する部分の大きさは、0.1〜1000ミクロンの範囲から目的に応じて選択して用いられるが、好ましくは0.1〜500ミクロン、より好ましくは0.1〜100ミクロン、特に好ましくは0.1〜10ミクロンである。なお、本発明における水溶性モノマー重合体(A)と水膨潤性粘土鉱物(B)により形成された三次元網目構造単位またはその粒子を有機高分子(C)に含ませる形態としては、系全体に均一に含ませるほか、所定の物性を得るために表面部のみに含ませたり、中心部のみに含ませたりすることができる。また、本発明における水または有機化合物(D)を三次元網目構造中に含ませる方法としては、予め含ませておき、それを用いて有機高分子(C)へ導入する方法、三次元網目構造単位またはその粒子を有機高分子(C)と複合化する過程、もしくは複合化した後に水または有機化合物(D)を導入する方法のいずれもが用いられる。
【0023】
本発明において得られた高分子複合体は、優れた力学物性や機能性を示す。例えば、力学物性としては、動的粘弾性測定における損失弾性率が増加することで、外部応力を緩和し、耐擦傷性や耐衝撃性を向上させる。外部応力を緩和する機構としては、水溶性有機モノマー重合体(A)と層状剥離した水膨潤性粘土鉱物(B)が非共有結合により三次元網目構造を形成しているため、もしくは、それに更に水及び/または有機化合物(D)を含んでいるため、含有された非共有結合を主体とする三次元網目構造の分子レベルでの変形により応力が緩和されると推定される。また、本発明において得られた高分子複合体は、三次元網目構造を特に表面近傍に配置した場合、外部雰囲気が水となることにより表面滑り性が向上する機能性も示す。これに対して、水溶性有機モノマー重合体(A)を化学架橋により三次元網目化したものを有機高分子(C)に導入したものは、顕著な応力緩和や表面滑り性の変化を示さない。また、本発明において得られた高分子複合体は、水の吸収量を制御することが可能であり、また環境に応じて水分量を制御することも可能である。
【実施例】
【0024】
次いで本発明を実施例により、より具体的に説明するが、もとより本発明は、以下に示す実施例にのみ限定されるものではない。
【0025】
(実施例1)
水膨潤性粘土鉱物には、[Mg5.34Li0.66Si20(OH)]Na0.66の組成を有する水膨潤性合成ヘクトライト(商標ラポナイトXLG)を、水溶性有機モノマーには、N,N−ジメチルアクリルアミド(DMAA:興人株式会社製)を用いた。DMAAは精製により重合禁止剤を取り除いてから使用した。
【0026】
重合開始剤は、ペルオキソ二硫酸カリウム(KPS:関東化学株式会社製)をKPS/水=0.40/20(g/g)の割合で水溶液にして使用した。触媒は、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン(TEMED:和光純薬工業株式会社製)を使用した。
【0027】
20℃の恒温室において、平底ガラス容器に、純水38.04gと1.23gのラポナイトXLGを加え、無色透明の溶液を調製した。これにDMAA3.96gを加えて無色透明溶液を得た。次にKPS水溶液2.0gとTEMED32μlを攪拌しながら加え、この溶液を直径が3.5cm、長さが10cmの密閉したガラス容器にして移した後、20℃の恒温水槽中で20時間静置して重合を行った。これらの溶液調製から重合までの操作は、全て酸素を遮断した窒素雰囲気下で行った。重合開始から20時間後に、容器内に有機モノマー重合体と層状剥離した粘土鉱物からなる無色透明で均一なPDMAA/粘土鉱物複合ゲルが生成した。得られたPDMAA/粘土鉱物複合ゲルの乾燥物を透過型電子顕微鏡により観察することで水膨潤性粘土鉱物が1〜3層に層状剥離していることが確認された。また、示差熱量計によるガラス転移温度(Tg)測定により、未架橋のPDMAAと同じ128℃にTgが観測され、水溶性有機モノマー重合体が自由なコンフォメーションを有していることが明らかとなった。また、PDMAA/粘土鉱物複合ゲルの延伸試験および膨潤試験により、一枚のクレイ当たり約25のPDMAA鎖が結合していると計算された。以上の結果、得られたPDMAA/粘土鉱物複合ゲルは水溶性有機モノマー重合体(PDMAA)と層状剥離した粘土鉱物からなる図1に示す三次元網目構造単位からなる構造を形成していると結論された。
【0028】
得られたPDMAA/粘土鉱物複合ゲルを室温、大気中で乾燥して、平均粒径50ミクロンの粉末とした。これを、更に、グリセリン水溶液(グリセリン濃度70%)中にて浸漬させ、次いで室温で24時間乾燥させて水分を除去することにより、グリセリンを三次元網目構造中に(固体成分に対して)600質量%含有するグリセリン含有粉末を調製した。
【0029】
ポリ乳酸(三井化学製:レイシアH400)100質量部に対して、グリセリン含有粉末を30質量部加えて、二重円筒式ミニ射出成形機を用いて、210℃で5分間、溶融混合を行い、厚み2mm、幅10mm、長さ50mmの板状に成形することで、グリセリンを含む三次元網目構造を微細に含有する高分子複合体の成形物が得られた。得られた高分子複合体の成形物と、ポリ乳酸単独成形物の動的粘弾性測定(セイコーインスツルメント社製DMS6100)を3℃/分(昇温速度)、1Hz(周波数)で行った。結果を図2に示す。高分子複合体の方が−75℃付近の損失弾性率(E'')が4倍以上に大きくなり、耐衝撃性が向上し、外部から加えられる応力を緩和することができた。
【0030】
(実施例2)
ポリ乳酸のかわりにポリスチレン(DICスチレン:CR3500)を用いる以外は実施例1と同様にして、高分子複合体の成形物およびポリスチレン単独の成形物を調製し、実施例1と同様な方法で測定した動的粘弾性の結果を図3に示す。同様な損失弾性率の増加が見られ、耐衝撃性が向上し、外部から加えられる応力を緩和することができた。
【0031】
(実施例3)
水溶性有機モノマーとして、N,N−ジメチルアクリルアミド1.2gと、2−メトキシエチルアクリレート(MEA)(和光純薬工業株式会社製)3.2gを共に用いること、及び水膨潤性粘土鉱物(ラポナイトXLG)を0.61g用いる以外は、実施例1と同様にして、水溶性有機モノマー重合体(PDMAAとPMEAの共重合体)と粘土鉱物からなる複合ゲルを調製し、次いで、乾燥により複合ゲル乾燥物を調製した。該乾燥物の超薄切片による透過型電子顕微鏡観察の結果、粘土鉱物は水溶性有機モノマー重合体中で、約4割が1〜3層に剥離し、残りが水溶性有機モノマー重合体を一部層間に取り込みながら、5〜20層に凝集しているのが観測された。得られた複合ゲルを室温、大気中で乾燥した後、約10mmの体積をもつように切断した。
【0032】
ポリアミド樹脂(ナイロン6:アルドリッチ製)100質量部に対して、該乾燥物を30質量部加え、二重円筒式ミニ射出成形機を用いて、280℃で5分間、溶融混練を行い、厚み2mm、幅10mm、長さ50mmの板状に射出成形することで、高分子複合体を得た。得られた高分子複合体の破断面を光学顕微鏡(100倍)で観測しても、明確な構造は観測されず、三次元網目構造を有する部分は10ミクロン以下に小さくなり、ポリアミド樹脂中に取り込まれていることが明らかとなった。実施例1と同様な方法で行った、高分子複合体成形物とナイロン6単独成形物に対する動的粘弾性測定結果を図4に示す。高分子複合体は、0℃付近の損失弾性率(E'')が4倍以上に大きくなり、耐衝撃性が向上し、外部から加えられる応力を緩和することができた。
【0033】
(実施例4)
実施例3で得られた、高分子複合体の成形物およびナイロン6単独の成形物を30分間水中に浸漬した後、表面を湿らせたポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上で、これらの成形物の上に荷重(22g/cm)を加えて滑り試験(5mm/秒)を行い、滑り摩擦力を測定した。その結果、ナイロン単独成形物の滑り摩擦力が0.4Nであったのに対し、高分子複合体のそれは0.24Nと低い摩擦力を示した。
【0034】
(比較例1)
粘土鉱物の代わりに、有機架橋剤(N,N‘−メチレンビスアクリルアミド)をモノマー(MEA)に対して1モル%の割合で用いる以外は、実施例3と同様な方法により、化学架橋のみからなる三次元網目構造を有するゲルを調製した。引き続き、実施例3と同様な方法で、乾燥、切断した後、ポリアミド樹脂との溶融混練を行い、高分子複合体を調製した。得られた高分子複合体の断面の光学顕微鏡写真において、約20〜500ミクロンの大きな且つ分布をもった三次元網目構造体がナイロン6中に不均一に分散しているのが観測され、耐衝撃試験でも脆い結果が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性不飽和基含有水溶性有機モノマーの重合体(A)と層状剥離した水膨潤性粘土鉱物(B)により形成された三次元網目構造単位を有機高分子(C)中に含む高分子複合体。
【請求項2】
重合性不飽和基含有水溶性有機モノマーの重合体(A)と層状剥離した水膨潤性粘土鉱物(B)により形成された三次元網目構造を有する粒子を有機高分子(C)中に分散してなる高分子複合体。
【請求項3】
前記三次元網目構造中に、水、及び/または前記重合体(A)または水膨潤性粘土鉱物(B)と親和性のある有機化合物(D)を含有する請求項1または2記載の高分子複合体。
【請求項4】
前記三次元網目構造における重合性不飽和基含有水溶性有機モノマーの重合体(A)と層状剥離した水膨潤性粘土鉱物(B)との結合が非共有結合である請求項1〜3のいずれかに記載の高分子複合体。
【請求項5】
前記重合性不飽和基含有水溶性有機モノマー(A’)が、アクリルアミド、メタクリルアミド、もしくはこれらの誘導体、または(メタ)アクリルエステルからなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項1〜4のいずれかに記載の高分子複合体。
【請求項6】
前記層状剥離した水膨潤性粘土鉱物(B)が、1〜20層に層状剥離したものである請求項1〜5のいずれかに記載の高分子複合体。
【請求項7】
層状剥離した水膨潤性粘土鉱物(B)が、水膨潤性ヘクトライト、水膨潤性モンモリロナイト、水膨潤性サポナイト、及び水膨潤性合成雲母から選ばれる少なくとも一種である請求項6記載の高分子複合体。
【請求項8】
重合性不飽和基含有水溶性有機モノマーの重合体(A)と層状剥離した水膨潤性粘土鉱物(B)との質量比(B)/(A)が、0.03〜2の範囲にある請求項1〜7のいずれかに記載の高分子複合体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−197356(P2012−197356A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−62364(P2011−62364)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(000173751)一般財団法人川村理化学研究所 (206)
【Fターム(参考)】