説明

高分子量ポリアミドから形成された回転成形物品

本発明は、高分子量ポリアミドから形成された少なくとも1層を有する、回転成形プロセスによって成形された物品に関する。その高分子量ポリアミドは、20,000〜35,000の範囲の分子量を有し、さらに1.05〜1.60dL/gのインヘレント粘度を有するものである。高分子量ポリアミドの層を有する回転成形物品は、より低い分子量のポリアミドから成形された物品に比較して、より良好な低温耐衝撃性能を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子量ポリアミドから形成された少なくとも1層を有する、回転成形プロセスによって成形された物品に関する。その高分子量ポリアミドは、20,000〜35,000の範囲の分子量を有するか、および/または1.05〜1.60dL/gのインヘレント粘度を有するものである。高分子量ポリアミドの層を有する回転成形物品は、より低い分子量のポリアミドから成形された物品に比較して、より良好な低温耐衝撃性能を有している。
【背景技術】
【0002】
回転成形は、単純な形状から複雑な形状まで、中空のプラスチック製品を製造するために使用されている。それは、各種の材料、たとえばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリアミド、またはポリ塩化ビニル(PVC)を成形するのに使用することができる。回転成形プロセスにおいては、所望の中空製品の外側形状を有する型の内部にポリマー粉体を加える。加熱しながら、その型を、三次元的に絶えず回転させる。型の温度がポリマーの融点よりも高くなると、そのポリマー粉体がその加熱された型の内部に付着して、その型の内部表面全体の上に比較的均質なポリマー層を形成し、その型と同じ形状の中空の製品が得られる。第一の層を用いて型をコーティングした後に、第二のポリマーをその型に加えることによって、多層の製品を製造することも可能である。
【0003】
多層の回転成形物品を形成させて、2種の異なったポリマー材料の特性を組み合わせるのが望ましいことも多い。
【0004】
回転成形プロセスにおいては、中密度ポリエチレンが好適に使用されるが、架橋ポリエチレンを使用してもよい。回転成形市場において使用されるポリマーの80パーセントを超えるものが、ポリエチレンである。こうなる理由は、ポリエチレンが、加工の際の耐熱分解性が傑出して優れていること、耐アルコール性が高いこと、研削が容易であること、流動性が優れていること、および低温耐衝撃性があることなどにある。
【0005】
ポリアミドは、高い炭化水素浸透抵抗性および優れた耐薬品性を有しているために、回転成形製品において有用である。
【0006】
回転成形において使用されるポリアミドは一般的に、低分子量、かつ低インヘレント粘度である。一般的な概念としては、分子量(Mw)が20,000より高く、インヘレント粘度が1.05dL/gよりも高いような樹脂グレードでは、通常、回転成形は不可能であるとされていた。低分子量および/または低インヘレント粘度のポリアミドにおける問題点は、その低温衝撃強度が、多くの末端用途において不十分であるということである。オートバイ用のタンクの側面衝撃試験(たとえば、SAE J1241)では、80ポンド〜160ポンドの間の振り子重りを、衝撃時に450Nm±10Nm(4000インチ・ポンド±100インチ・ポンド)の運動エネルギーを発生させるに十分な高さから落下させる。30cc/分(1液量オンス/分)を超える外部洩れを起こすようなタンクの損傷は、破損したとみなされる。低分子量および/または低インヘレント粘度のポリアミドを用いて製造したタンクは通常、この試験に必ず合格するというものではない。
【0007】
ポリアミドの低温衝撃強度を改良するための一つの方法として、1種または複数の耐衝撃性改良剤を添加することも可能である。しかしながら、いくつかの用途においては(たとえば、燃料収納容器)、耐衝撃性改良剤を添加することによってある種の性能に悪影響が出る(たとえば、燃料透過抵抗性が低下するなど)可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
現在使用されているポリアミドよりも優れた低温衝撃強度を与えるような、回転成形プロセスにおいて使用可能なポリアミドが必要とされている。
【0009】
驚くべきことには、高分子量かつ高粘度のポリアミドが、満足のいくレベルで、モノリシックもしくは多層の物品に回転成形することができ、それらの物品が優れた低温衝撃強度を有しているということが見出された。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、20,000g/molを超える重量平均分子量と、1.05dL/g以上のインヘレント粘度とを有するポリアミドを含む、高耐衝撃性ポリアミドの層を有する回転成形物品に関する。その物品は、優れた低温衝撃強度を有している。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、改良された低温耐衝撃性物品を得るための、回転成形プロセスにおける高分子量、高粘度ポリアミドの使用に関する。その成形された物品は、単層構造、あるいは多層構造であり得る。多層構造においては、その高分子量ポリアミドは、その構造の内側または外側のいずれにあることも可能である。
【0012】
本発明のポリアミドは、20,000〜35,000、好ましくは20,000〜30,000の高い重量平均分子量と、さらには1.05〜1.60dL/g、好ましくは1.10〜1.40dL/gの高いインヘレント粘度とを有している。
【0013】
本発明において有用なポリアミドとしては、次の縮合反応生成物が挙げられるが、これらに限定される訳ではない:
− 1種もしくは複数のアミノ酸たとえば、アミノカプロン酸、7−アミノヘプタン酸、11−アミノウンデカン酸、および12−アミノドデカン酸、または1種もしくは複数のラクタムたとえば、カプロラクタム、オエナントラクタム、およびラウリルラクタム、の縮合反応生成物;
− ジアミンたとえば、ヘキサメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、メタ−キシリレンジアミン、ビス(p−アミノシクロヘキシル)メタン、およびトリメチルヘキサメチレンジアミンと、二酸たとえば、イソフタル酸、テレフタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、スベリン酸、セバシン酸、およびドデカンジカルボン酸との1種もしくは複数の塩もしくは混合物の縮合反応生成物。
【0014】
コポリアミドを使用することもまた可能である。たとえば、少なくとも2種のα,ω−アミノカルボン酸もしくは2種のラクタムの縮合、または1種のラクタムと1種のα,ω−アミノカルボン酸との縮合の結果として得られるコポリアミドが挙げられる。少なくとも1種のα,ω−アミノカルボン酸(またはラクタム)と、少なくとも1種のジアミンと、少なくとも1種のジカルボン酸との縮合の結果として得られるコポリアミドもまた挙げることができる。好適なポリアミドとしては、PA−6,12およびPA−6,66が挙げられる。
【0015】
回転成形機の中インサイチューで、ポリアミド、たとえばPA−6を重合させることも可能である。好適なポリアミドとしては以下のものが挙げられる:PA−6;PA−11;PA−12;PA−6,6;ポリアミドジアミン;ならびにコポリアミド、PA−6,12;PA−6,9;PA−6,10;PA−6,11;PA−4,6;およびPA−6,611;ポリエーテルブロックアミド;PA−6,66;ならびにそれらの混合物。特に好ましいのは、PA−6;PA−11;およびPA−12である。
【0016】
その高分子量ポリアミドが、耐衝撃性改良剤処理されていてもよい。柔軟性改良剤(supple modifier)としてはたとえば、官能化ポリオレフィン、グラフト化脂肪族ポリエステル、場合によってはグラフト化されたポリエーテルブロックおよびポリアミドブロックを含むコポリマー、エチレンとアルキル(メタ)アクリレートおよび/もしくは飽和ビニルカルボン酸エステルとのコポリマー、ならびに、可塑剤たとえば、ブチルベンゼンスルホアナミド(butylbenzene sulfoanamide)が挙げられるが、これに限定される訳ではない。その改良剤が、ポリアミドグラフト物またはポリアミドオリゴマーを含むポリオレフィン鎖であって、それにより、ポリオレフィンおよびポリアミドへの親和性を有するようになっていてもよい。柔軟性改良剤が、ブロックコポリマーであってもよい。耐衝撃性改良剤は、ポリアミド固形分を基準にして、0〜50重量パーセント、好ましくは0〜25重量パーセントの量で存在していてもよい。
【0017】
その高分子量ポリアミドの層にはさらに、高分子量ポリアミドと相溶性/混和性がある他のポリマーも含み得る。高分子量ポリアミドが、高耐衝撃層の50〜100重量パーセント、好ましくは70〜100重量パーセント、より好ましくは80〜100パーセントを構成している。一つの実施態様においては、同一または異なった化学構造の低分子量(<20,000g/mol)のポリアミドを、高分子量ポリアミドとブレンドする。また別な実施態様においては、少量のポリエチレン、ならびに/またはポリエーテルブロックおよびポリアミドブロックを含むコポリマーを、高耐衝撃層の中にブレンドする。
【0018】
低分子量ポリアミドを用いて回転成形物品を成形する場合には、そのポリアミド粉体に鉱油および/または可塑剤を添加して、それぞれ、物品の離型性を改良したりおよび/または耐衝撃性を改良したりすることが、望ましかったり、必要となったりする場合もある。残念ながら、可塑剤が燃料によって抽出されて、時には沈殿物を形成し、それが燃料フィルターまたは燃料インジェクターを閉塞させる可能性があり、また、鉱油は、粉体の流動性を妨げる可能性がある。可塑剤または鉱油を一切添加することなく、本発明の物品を成形するのが好ましい。本発明の高分子量ポリアミドは、より良好な低温における耐衝撃性の改良をもたらし、粉体そのものの中に離型剤を必要としないので、可塑剤または鉱油は必要でない。
【0019】
多層の回転成形物品の中では、3層以上の層を有するタンクの場合には、高分子量ポリアミドが、外側層、内側層、または中間層のいずれにあることも可能である。その他の層は、回転成形プロセスにおいて使用可能ないかなる材料でもあり得、たとえば以下のものが挙げられるが、これらに限定されるわけではない:低分子量ポリアミドおよびコポリアミド、ポリエステルたとえばポリブチレンテレフタレート、フルオロポリマーたとえばポリフッ化ビニリデンポリマー、コポリマーおよびターポリマー、エチレン−テトラフルオロエチレンコポリマー、アクリル系およびメタクリル系ポリマーおよびコポリマー、ポリアセタール、ポリエーテルブロックアミド、液晶ポリマー、エチレン、プロピレンのホモポリマーもしくはコポリマー、ポリアミド、官能性ポリオレフィン、ポリエステル、官能化アクリリックス、ポリエチレンテレフタレートもしくはブチレンテレフタレート、液晶ポリマー、ポリカーボネート、アクリリックス、ポリアミド、芳香族もしくは脂肪族ポリケトン、ポリエーテルケトン、ポリエチレンビニルアルコール、ポリフェニレンスルフィド、さらにはそれらの材料のブレンド物もしくはアロイ。
【0020】
一つの好ましい実施態様においては、その回転成形物品が、本発明の高分子量ポリアミドの層と、中密度ポリエチレンおよび/または架橋ポリエチレンの層とを有する多層構造である。
【0021】
−20℃および−40℃でのDrop Dart Impact試験の結果に基づくと、高分子量(Mw=20,000〜30,000)かつ高粘度(インヘレント粘度=1.05〜1.40dL/g)のポリアミドが、それらの低分子量(Mw<20,000)および/または低粘度(インヘレント粘度<1.05dL/g)の相当品に比較して、回転成形部品における顕著に改良された低温衝撃強度を示している。中密度ポリエチレンの厚さ4mmの層と高分子量および/または高粘度ポリアミドの厚さ2mmの層とからなる2層構造で、ARM Drop Dart Impact Testing(Association of Rotational Molders International Low Temperature Impact Test,Version 4.0−July 2003)における平均破断エネルギーが、少なくとも100フィート・ポンド(−20℃)および/または少なくとも50フィート・ポンド(−40℃)であるのは、本発明における典型値である。それとは対照的に、中密度ポリエチレンの厚さ4mmの層と低分子量(Mw<20,000)および/または低粘度(インヘレント粘度<1.05dL/g)のポリアミドの厚さ2mmの層とからなる2層構造の従来技術では、典型的には、70フィート・ポンド未満(−20℃)および/または40フィート・ポンド未満(−40℃)の平均破断エネルギーしか得られない。
【0022】
本発明の回転成形物品は、多くの用途、たとえば40L〜600Lの範囲のサイズを有する乗用車およびトラックのための燃料タンクにおいて使用することが可能であるが、この用途に限定される訳ではない。本発明の回転成形物品は、構造的に複雑であっても、単純であってもよい。
【0023】
特に断らない限り、パーセントはすべて重量パーセントであり、分子量はすべて重量平均分子量である。
【実施例】
【0024】
実施例1
単層サンプル(低分子量(Mw<20,000)かつ低粘度(インヘレント粘度<1.05dL/g)のポリアミド11、ならびに高分子量(Mw>20,000)かつ高粘度(インヘレント粘度>1.05dL/g)のポリアミド11、厚み3.1mm)について、ASTM D3763に従って、−20℃で最大荷重における平均エネルギーを測定した。それらの結果を表1に示す(それぞれ、9個のサンプルの平均値を表している)。低分子量ポリアミド11が、低い最大荷重時平均エネルギーと高い標準偏差とを示しているということは、試験をしたサンプルの90%が望ましくない脆い挙動を示したという事実がその原因となっている可能性がある。それとは対照的に、高分子量ポリアミド11が、高い最大荷重時平均エネルギーと低い標準偏差とを示しているということは、試験をしたサンプルの100%が、好ましい延性のある挙動を示したという事実がその原因となっている可能性がある。
【0025】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
20,000g/molを超える重量平均分子量と、1.05dL/g以上のインヘレント粘度とを有するポリアミドを含む、高耐衝撃性ポリアミドの層を有する回転成形物品。
【請求項2】
前記分子量が、20,000〜35,000g/molの範囲にある、請求項1に記載の回転成形物品。
【請求項3】
前記インヘレント粘度が、1.05〜1.60dL/gの範囲にある、請求項1に記載の回転成形物品。
【請求項4】
前記分子量が、20,000〜30,000g/molの範囲にあり、そして前記インヘレント粘度が、1.10〜1.40dL/gの範囲にある、請求項1に記載の回転成形物品。
【請求項5】
前記ポリアミドが、PA−6;PA−6,6;PA−6,10;PA−6,12;PA−4,6;PA−11、およびPA−12、ならびにそれらのブレンド物からなる群より選択される、請求項1に記載の回転成形物品。
【請求項6】
前記高分子量ポリアミドと化学的に同一であるかまたは異なっている低分子量(<20,000g/mol)ポリアミドをさらに含み、前記低分子量ポリアミドが前記高分子量ポリアミドとブレンドされ、そして前記高分子量ポリアミドが、前記ポリアミドを合計したものの50〜100重量パーセントを占めている、請求項1に記載の回転成形物品。
【請求項7】
前記ポリアミド固形分を基準にして、0〜50重量パーセントの1種または複数の耐衝撃性改良剤をさらに含む、請求項1に記載の回転成形物品。
【請求項8】
前記物品が、中密度ポリエチレンの4mmの厚みの層と前記高耐衝撃性ポリアミドの2mmの厚みの層とを有する2層物品とした場合に、ARM Drop Dart Impact Testにおいて−20℃で少なくとも100フィート・ポンドの平均破断エネルギーを有し、および/またはASTM D3763のHigh Speed Puncture Testingにおいて−20℃で少なくとも40Jの最大荷重時平均エネルギーを有する、請求項1に記載の回転成形物品。
【請求項9】
前記物品が、前記高耐衝撃性ポリアミドの3.1mmの厚みの層からなる単層の物品とした場合に、ASTM D3763のHigh Speed Puncture Testingにおいて−20℃で少なくとも20Jの最大荷重時平均エネルギーを有する、請求項8に記載の回転成形物品。
【請求項10】
前記物品が、多層の物品である、請求項1に記載の回転成形物品。
【請求項11】
前記高耐衝撃性ポリアミドの層が、前記物品の最内層である、請求項1に記載の回転成形物品。
【請求項12】
前記高耐衝撃性ポリアミドの層が、前記物品の最外層である、請求項1に記載の回転成形物品。
【請求項13】
前記高耐衝撃性ポリアミドの層が、3層以上の層からなる物品の中間層である、請求項1に記載の回転成形物品。
【請求項14】
前記高耐衝撃性ポリアミドが、耐衝撃性改良剤を含まない、請求項1に記載の回転成形物品。
【請求項15】
前記高耐衝撃性ポリアミドが、可塑剤および/または離型剤を含まない、請求項1に記載の回転成形物品。

【公表番号】特表2012−519223(P2012−519223A)
【公表日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−552096(P2011−552096)
【出願日】平成22年2月24日(2010.2.24)
【国際出願番号】PCT/US2010/025165
【国際公開番号】WO2010/099155
【国際公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【出願人】(500307340)アーケマ・インコーポレイテッド (119)
【住所又は居所原語表記】900 First Avenue,King of Prussia,Pennsylvania 19406 U.S.A.
【Fターム(参考)】