説明

高分子電解質型燃料電池およびその製造方法

【課題】高い出力密度と発電効率を有する燃料電池を、低コストで製造する。
【解決手段】アノードとカソードと電解質膜とを有する膜電極接合体と、アノードに燃料を供給するための燃料流路を有するアノード側セパレータと、カソードに酸化剤を供給するための酸化剤流路を有するカソード側セパレータとを具備し、アノードがアノード触媒層とアノード拡散層とを含み、カソードがカソード触媒層とカソード拡散層とを含み、燃料流路および酸化剤流路の少なくとも一方は、複数の平行な直線部分を有し、アノード触媒層またはカソード触媒層は、複数の直線部分と正対する複数の帯状の第一領域と、隣接する第一領域の間の少なくとも一つの第二領域を有し、第一領域の単位面積あたりの触媒量が、第二領域の単位面積あたりの触媒量に比べて平均的に大きい、高分子電解質型燃料電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子電解質型燃料電池の電極が具備する触媒層の構成に関し、さらに詳しくは、電極に燃料ガスまたは酸化剤ガスを供給する流路を有するセパレータの溝部および凸部に対応させて、触媒層中の単位面積あたりの触媒量が変化する燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、使用される電解質の種類によって、高分子電解質型(もしくは固体高分子型)燃料電池、リン酸型燃料電池、アルカリ型燃料電池、溶融炭酸塩型燃料電池、固体酸化物型燃料電池等に分類される。なかでも高分子電解質型燃料電池(PEFC)は、作動温度が低く、かつ出力密度が高いことから、車載用電源、家庭用コージェネレーションシステム用電源等として実用化されつつある。
【0003】
近年、燃料電池を、ノート型パーソナルコンピュータ、携帯電話、携帯情報端末(PDA)等の携帯小型電子機器の電源として用いることが検討されている。燃料電池は、燃料の補充によって連続発電が可能であることから、充電が必要な二次電池の代わりに燃料電池を用いることで、携帯小型電子機器の利便性を向上させ得るものと期待されている。また、上述したとおり、PEFCは作動温度が低い点でも、携帯小型電子機器用の電源として有利である。キャンプなどのアウトドアレジャー用途の電源として燃料電池を実用化する動きも進んでいる。
【0004】
PEFCのなかでも直接酸化型燃料電池(DOFC)は、常温で液体の燃料を使用し、この燃料を水素に改質することなく、直接的に酸化して電気エネルギーを取り出す。このため、直接酸化型燃料電池は、改質器を備える必要がなく、小型化が容易である。直接酸化型燃料電池のなかでも、燃料としてメタノールを用いる直接メタノール型燃料電池(DMFC)は、エネルギー効率および発電出力が他の直接酸化型燃料電池よりも優れており、携帯小型電子機器用の電源として、最も有望視されている。
【0005】
DMFCのアノード及びカソードでの反応を、下記反応式(11)及び(12)にそれぞれ示す。カソードに導入される酸素は、一般に、大気中から取り入れられる。
【0006】
アノード: CH3OH+H2O→CO2+6H++6e- (11)
カソード: (3/2)O2+6H++6e-→3H2O (12)
【0007】
ここで、高分子電解質型燃料電池の技術的課題について説明する。
高分子電解質型燃料電池の電極が具備する触媒層においては、反応物質が移動する相と、イオン伝導を担う相と、電子伝導を担う相との3相界面が反応活性点である。この3相界面を効率よく形成することが、出力や発電効率を向上させ、あるいは触媒の充填量を低減させて低コスト化を図る上で、非常に重要である。
【0008】
そこで、特許文献1は、3相界面を効率的に形成するために、電極基板または固体高分子電解質膜の表面に複数の凸条と該凸条の間に形成された複数の溝を形成し、凸条の上面と溝の壁面が交差して形成される稜線部分に触媒を接合配置することを提案している。
【0009】
また、特許文献2は、形成された3相界面に効率的に燃料や酸化剤を供給するために、拡散層に厚み方向に抜ける貫通孔を形成するとともに、触媒層に面方向への流路をなす溝を形成することを提案している。そして、拡散層の貫通孔に対応する位置に触媒を配置することで、貫通孔を通過した燃料や酸化剤が円滑に触媒層に供給されるという。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2001−85033号公報
【特許文献2】特開2008−41488号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
確かに、特許文献1および特許文献2に開示されている技術は、3相界面の効率的な形成と、燃料や酸化剤の円滑な供給には有効である。しかし、いずれも電解質膜の一部のみにしか触媒層が形成されないため、高分子電解質型燃料電池が有する下記のような他の技術的課題を助長し、総合的な出力や発電効率の向上を阻害するおそれがある。
【0012】
第一の課題は、単位(投影)面積あたりの出力密度の向上に関する。一般的に燃料電池は、複数セルが直列に積層された燃料電池スタックとして用いられる。従って、セルの積層方向を軸とした電極の単位(投影)面積に対する出力の大きさ、すなわち面積基準出力密度が大きいほど、燃料電池スタックの出力密度が向上する。その結果として、燃料電池システムの小型軽量化、あるいは低コスト化が実現可能となる。
【0013】
単位面積あたりの出力密度を向上させるためには、3相界面の数を増加させたり、燃料や酸化剤の供給を円滑にしたりすることも重要ではある。しかし、実際には、触媒層の中で最もプロトンが円滑に供給される活性点は、電解質膜と、電解質膜に最も近い触媒層との界面部分である。特許文献1および特許文献2に開示されるように、その界面部分の一部に触媒層が存在しないセル構成では、電解質膜を有効利用することができず、結果として出力密度を向上させることが困難となる。
【0014】
第二の課題は、DMFCなどの直接酸化型燃料電池において顕著に発生する課題であり、燃料流路から供給された液体燃料(メタノール水溶液など)が、アノードと電解質膜とを透過し、カソードに到達し、カソード触媒層で酸化される現象を抑制することである。上記現象は、燃料のクロスオーバーと呼ばれており、特にDMFCでは、メタノールクロスオーバー(MCO)と呼ばれている。このような現象が生じるのは、用いられる液体燃料が水溶性であることが多いためである。水溶性の液体燃料は、水を含みやすい性質の電解質膜に浸透しやすい。
【0015】
上記のように、燃料のクロスオーバーが生じると、燃料がアノードで消費されないため、燃料の利用効率を低下させる。さらに、カソードでの燃料の酸化反応は、カソードで通常生じる酸化剤(酸素)の還元反応と競合し、カソードの電位を低下させる。このため、発電電圧の低下、発電効率の低下などを招く。
【0016】
そこで、例えばDMFCにおいては、MCOを低減させるため、メタノールの透過量が抑制された電解質膜が盛んに開発されている。しかし、現在実用化されている電解質膜は、膜内に存在する水を介してプロトンを伝導するため、電解質膜には水の存在が不可欠である。また、メタノールは水との親和性が高い。よって、水とともにメタノールが電解質膜を透過することを十分に防止できていない。
【0017】
電解質膜中の液体燃料の移動は、主として濃度拡散に起因する。このため、燃料のクロスオーバーの程度は、電解質膜のアノード側表面とカソード側表面における燃料の濃度差に大きく依存することが知られている。そして、電解質膜のカソード側表面における燃料濃度は、透過した燃料がカソードで速やかに酸化されることから、無視できるほど小さいと考えられる。このため、結局のところ、燃料のクロスオーバー量は、電解質膜のアノード側表面における燃料濃度に大きく依存することになる。
【0018】
特許文献1および特許文献2に開示されている構成では、電解質膜の一部がアノード触媒層、あるいはアノード拡散層に接していない。このような構成においては、燃料流路に供給された燃料が、アノード触媒層で消費されることなく、直接、電解質膜の表面に到達する。結果として、電解質膜のアノード側表面における燃料濃度が大きくなり、燃料クロスオーバー量が増加する。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、従来技術の非効率的な電極構成を改良し、触媒使用量を低減しつつ、燃料電池の出力密度と発電効率を維持し、もしくは向上させることを提案するものである。
【0020】
本発明の一局面は、アノードとカソードと前記アノードとカソードとの間に配置された電解質膜とを有する膜電極接合体と、前記アノードに燃料を供給するための燃料流路を有するアノード側セパレータと、前記カソードに酸化剤を供給するための酸化剤流路を有するカソード側セパレータと、を具備する少なくとも1つのセルを有し、前記アノードが、前記電解質膜の一方の主面に配置されるアノード触媒層と、前記アノード触媒層に積層されるアノード拡散層とを含み、前記カソードが、前記電解質膜の他方の主面に配置されるカソード触媒層と、前記カソード触媒層に積層されるカソード拡散層とを含み、前記燃料流路および前記酸化剤流路の少なくとも一方は、複数の平行な直線部分を有し、前記アノード触媒層および前記カソード触媒層の少なくとも一方は、前記複数の直線部分と正対する複数の帯状の第一領域と、隣接する前記第一領域の間の少なくとも一つの第二領域とを有し、前記第一領域の単位(投影)面積あたりの触媒量が、前記第二領域の単位(投影)面積あたりの触媒量に比べて平均的に大きくなっている、高分子電解質型燃料電池に関する。
【0021】
すなわち、アノード触媒層およびカソード触媒層の少なくとも一方は、燃料流路または酸化剤流路の直線部分に平行であって、交互に形成された帯状の第一の触媒層(第一領域に対応)と第二の触媒層(第二領域に対応)を有する。
【0022】
本発明の好ましい一態様において、前記第一領域では、その幅方向において、端部から中央部に向かって前記単位面積あたりの触媒量が増加し、前記第二領域では、その幅方向において、端部から中央部に向かって前記単位面積あたりの触媒量が減少し、前記第一領域における前記単位面積あたりの触媒量の最大値は、前記第二領域における前記単位面積あたりの触媒量の最小値の1.1倍以上、2倍以下である。
【0023】
本発明のより好ましい一態様において、前記第一領域における前記単位面積あたりの触媒量が前記最大値となる部分は、前記直線部分の幅方向における中央部に正対し、前記第二領域における前記単位面積あたりの触媒量が前記最小値となる部分は、隣接する前記直線部分の間の前記セパレータの表面(直線状の凸部(Land))の幅方向における中央部に正対する。
【0024】
前記第一領域と前記第二領域からなる一対の合計幅は、例えば、1mm以上、5mm以下である。
【0025】
本発明の好ましい一態様において、前記アノード拡散層または前記カソード拡散層の少なくとも一方は、導電性の繊維で形成された基材と、導電性粒子と撥水性樹脂を含むマイクロポーラス層とを有し、前記マイクロポーラス層は、前記アノード触媒層または前記カソード触媒層に接する側に配置され、かつ、第一領域および第二領域のいずれに対しても、隙間なく接している。
【0026】
前記第一領域は、その全領域が複数の直線部分と正対している必要はなく、前記第二領域は、その全領域が前記セパレータの表面(凸部)と正対している必要はない。ただし、前記アノード触媒層または前記カソード触媒層の投影面積に対する、前記第一領域および前記第二領域の合計割合は、70〜100%であることが好ましい。
【0027】
本発明の好ましい一態様において、前記第一領域の平均厚みは、前記第二領域の平均厚みより大きくなっている。なお、第一領域の密度は、第二領域の密度以上であってもよい。
【0028】
本発明の好ましい一態様において、前記燃料流路および前記酸化剤流路の少なくとも一方は、前記複数の直線部分と、隣接する一対の前記直線部分を連結する湾曲部分とを有するサーペンタイン型の流路である。
【0029】
前記燃料は、例えば、メタノール、エタノール、エチレングリコールおよびジメチルエーテルよりなる群から選択される少なくとも一種である。
【0030】
本発明の他の一局面は、アノードとカソードと前記アノードとカソードとの間に配置された電解質膜とを有し、前記アノードが、前記電解質膜の一方の主面に配置されるアノード触媒層と、前記アノード触媒層に積層されるアノード拡散層とを含み、前記カソードが、前記電解質膜の他方の主面に配置されるカソード触媒層と、前記カソード触媒層に積層されるカソード拡散層とを含む、膜電極接合体を形成する工程を有し、前記アノード触媒層および前記カソード触媒層の少なくとも一方が、
(i)触媒、電解質およびこれらの分散媒を含む触媒インクを準備する工程と、
(ii)互いに直交するX軸およびY軸方向に移動可能であり、かつ前記X軸と前記Y軸を有するX−Y平面に前記インクを吐出可能である吐出ノズルを有するスプレー式塗布装置を準備する工程と、
(iii)電解質膜または基材を準備し、前記吐出ノズルの移動可能範囲内で前記X−Y平面と平行になるように、前記電解質膜または前記基材を設置する工程と、
(iv)直線X=X0と直線X=X0+Lとの間の領域において、前記吐出ノズルを前記X軸方向に移動させながら前記吐出ノズルから前記インクを吐出して、前記電解質膜または前記基材の表面に、複数の直線Y=Y0+nΔY、ただし、n=0、1、2、・・・mであり、mは1以上の整数、に沿う幅Wの複数の帯状触媒層を形成する工程と、を有し、
前記ΔYは、前記複数の直線Y=Y0+nΔYに沿う第一線状領域の単位面積あたりの触媒量が、直線Y=Y0+(2N−1)×ΔY/2、ただしN=1、2、・・・Mであり、Mは1以上の整数、に沿う第二線状領域の単位面積あたりの触媒量の1.1倍以上、2倍以下になるように選択される、高分子電解質型燃料電池の製造方法に関する。
【0031】
すなわち、上記製造方法は、第一の触媒層(第一領域に対応)と第二の触媒層(第二領域に対応)を、触媒粉末と電解質とこれらの分散媒を含む触媒インクを電解質膜の表面または所定の基材の表面にスプレーガンを使用して吹き付け、乾燥することによって形成することができる。
【0032】
前記複数の帯状触媒層のうち、L+1番目の帯状触媒層は、L番目の帯状触媒層を乾燥させた後に形成することが好ましい。ただしLは1以上の整数である。
【0033】
上記製造方法は、更に、前記アノードに燃料を供給するための燃料流路を有するアノード側セパレータと、前記カソードに酸化剤を供給するための酸化剤流路を有するカソード側セパレータと、を準備する工程を有してよい。ここで、前記燃料流路および前記酸化剤流路の少なくとも一方は、複数の直線部分を有し、前記直線部分の幅方向における中央部は前記触媒層の前記第一線状領域と正対するように形成される。
【0034】
上記製造方法は、更に、前記第一線状領域と前記直線部分の幅方向における中央部とが正対するように、前記膜電極接合体を前記アノード側セパレータおよび前記カソード側セパレータで挟持してセルを形成する工程を有してよい。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、高い出力密度と発電効率を有する燃料電池を、低コストで製造することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】高分子電解質型燃料電池の構成の一例を模式的に示す縦断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る燃料電池が具備するセパレータの流路を有する面を示す平面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る燃料電池の要部を拡大した断面図である。
【図4】触媒層を形成するために用いられるスプレー式塗布装置の構成の一例を示す概略図である。
【図5】本発明に係る触媒層の触媒量分布のプロファイルを示す概略斜視図である。
【図6】従来の触媒層の触媒量分布のプロファイルを示す概略斜視図である。
【図7】本発明の実施例に係るアノード触媒層を形成する際の触媒インクの塗布パターンを示す図である。
【図8】本発明の実施例に係るカソード触媒層を形成する際の触媒インクの塗布パターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明の高分子電解質型燃料電池は、アノードと、カソードと、アノードとカソードとの間に配置された電解質膜とを有する膜電極接合体と、アノードに燃料を供給するための燃料流路を有するアノード側セパレータと、カソードに酸化剤を供給するための酸化剤流路を有するカソード側セパレータと、を具備する少なくとも1つのセルを有する。アノードは、電解質膜の一方の主面に配置されるアノード触媒層と、アノード触媒層に積層されるアノード拡散層とを含み、カソードは、電解質膜の他方の主面に配置されるカソード触媒層と、カソード触媒層に積層されるカソード拡散層とを含む。
【0038】
ここで、燃料流路および酸化剤流路の少なくとも一方は、複数の平行な直線部分を有している。隣接する直線部分の間隔、すなわち前記セパレータの直線状の凸部(Land)の幅は、いずれも同じでもよく、例えば凸部の幅が次第に小さくなってもよい。流路が複数の平行な直線部分を有する場合、アノード触媒層およびカソード触媒層の少なくとも一方は、複数の平行な直線部分と正対する複数の帯状の第一領域と、隣接する第一領域の間の第二領域とを有することとなる。第二領域は、隣接する直線部分の間の前記セパレータの表面(直線状の凸部)と正対する。なお、第二領域は、凸部の頂面と接触する領域であり、溝の流路方向に垂直な断面が、底部から開口方向に向かって広がるテーパー形状である場合についても同様である。そして、第一領域の単位(投影)面積あたりの触媒量は、第二領域の単位(投影)面積あたりの触媒量に比べて、平均的に大きくなっている。よって、第一領域の全領域に含まれる触媒量を第一領域の全領域の投影面積で除した値は、第二領域の全領域に含まれる触媒量を第二領域の全領域の投影面積で除した値よりも大きくなる。なお、投影面積とは、触媒層またはその一部を電解質膜に正投影したときの触媒層またはその一部の投影像の輪郭で囲まれた面積である。
【0039】
上記構成によれば、燃料流路または酸化剤流路に正対する第一領域には、より多くの触媒を存在させることができる。つまり、燃料または酸化剤の供給と生成物の排出が円滑に行われる第一領域に、より多くの触媒が存在するため、3相界面を有効に活用できる。一方、燃料または酸化剤の供給と生成物の排出が阻害されやすいセパレータの凸部に正対する第二領域では、触媒量を低減することができる。よって、触媒の有効利用が促進されるとともに、触媒層の形成に必要な触媒の使用量を全体的に低減することができるため、低コストでありながら高性能の燃料電池を提供することができる。
【0040】
また、上記構成によれば、電解質膜の主面の全面に触媒層を接合させることができるため、触媒の使用量を全体的に低減できるにもかかわらず、燃料電池の出力密度や燃料利用率の低下を抑制できる。よって、高い出力密度と発電効率を確保することが可能となる。
【0041】
本発明は、特に、メタノールなどの燃料を使用する直接酸化型燃料電池に適用することが有効である。燃料が多く供給される燃料流路に正対する第一領域には、反応活性点が多く存在するため、未反応の燃料が電解質膜を透過するメタノールクロスオーバー現象を低減しやすいからである。すなわち、燃料利用効率を向上させる効果も得ることができる。
【0042】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しながら説明する。
[燃料電池]
DMFCなどの高分子電解質型燃料電池は、例えば、図1に示すような構成を有する。
図1の燃料電池10は、電解質膜11と、電解質膜11を挟み込むように配置されたアノード23およびカソード25を含む。アノード23は、アノード触媒層12およびアノード拡散層16を含む。アノード触媒層12は、電解質膜11に接している。アノード拡散層16は、アノードマイクロポーラス層14およびアノード多孔質基材15を含む。アノードマイクロポーラス層14およびアノード多孔質基材15は、この順番で、アノード触媒層12の電解質膜11と接している面とは反対側の面に積層されている。アノード拡散層16の外側には、アノード側セパレータ17が積層されている。
【0043】
カソード25は、カソード触媒層13およびカソード拡散層20を含む。カソード触媒層13は、電解質膜11のアノード触媒層12が接している面とは反対側の面に接している。カソード拡散層20は、カソードマイクロポーラス層18およびカソード多孔質基材19を含む。カソードマイクロポーラス層18およびカソード多孔質基材19は、この順番で、カソード触媒層13の電解質膜11と接している面とは反対側の面に積層されている。カソード拡散層20の外側には、カソード側セパレータ21が積層されている。
【0044】
このように、電解質膜11、アノード23、カソード25、アノード側セパレータ17およびカソード側セパレータ21を具備する積層体は、セルと呼ばれる基本構成を形成している。なお、電解質膜11および電解質膜11を挟み込むアノード触媒層12とカソード触媒層13を具備する積層体は、燃料電池の発電を担っており、CCM(Catalyst Coated Membrane)と呼ばれている。また、CCMと、アノード拡散層16およびカソード拡散層20とからなる積層体は、膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly;MEA)と呼ばれている。アノード拡散層16およびカソード拡散層20は、供給される燃料および酸化剤の均一な分散と、生成物である水および二酸化炭素の円滑な排出を担っている。
【0045】
アノード側セパレータ17と電解質膜11との間には、アノード23を封入するようにガスケット26が配置され、カソード側セパレータ21と電解質膜11との間には、カソード25を封入するようにガスケット27が配置されている。ガスケット26および27は、それぞれ、燃料および酸化剤が外部に漏れるのを防止している。
【0046】
MEAおよびその両側に配置されるアノード側セパレータ17とカソード側セパレータ21から構成されるセルは、1セルで用いてもよいが、複数セルが積層されてスタックを構成していてもよい。このようなスタックは、その両端部に位置する各セパレータの外側に、それぞれ端板28を配置した状態で、図示しないボルト、バネなどによって加圧締結される。複数セルが積層されているスタックにおいては、両面に流路を有するセパレータを用いてもよい。この場合、一方の面に対応する部分をアノード側セパレータ17として利用し、他方の面に対応する部分を、隣接するセルのカソード側セパレータ21として利用することができる。両面の流路のどちらか一方に冷却媒体を流通させることもできる。
【0047】
[セパレータ]
アノード側セパレータ17は、アノード多孔質基材15との接触面に、MEAに燃料を供給するための燃料流路22を有している。燃料流路22は、アノード拡散層16に向かって開口する溝部からなる。
カソード側セパレータ21は、カソード多孔質基材19との接触面に、MEAに酸化剤(空気)を供給するための酸化剤流路(空気流路)溝24を有する。酸化剤流路24は、カソード拡散層20に向かって開口する溝部からなる。
【0048】
燃料流路および酸化剤流路は、MEAの平面方向に対して、燃料および酸化剤を均一に供給するためのものであり、一方では、反応で生成した水や二酸化炭素を速やかに排出させるためのものである。一方、流路以外の部分(凸部)は拡散層との電子のやり取りを行う導電部の役割を果たす。
【0049】
このような機能を鑑みて、燃料流路および酸化剤流路は、例えばMEAが四角形であるとき、その1辺に入口を有し、それに平行な辺に出口を有する複数の平行な直線状の溝部と、その間の直線状の凸部からなる構造、格子状の溝と島状の凸部からなる構造、溝部が蛇行流を形成するサーペンタイン構造などを有する。いずれの溝部においても、入口から出口までのいずれかの部分に、直線部分を有する構成であることが多く、セパレータのMEAに対向する部分の全面積に対して、溝部の直線部分が占める割合は大きい。MEAに燃料や酸化剤を均一に分配する観点からは、燃料流路および酸化剤流路の少なくとも一方はサーペンタイン型の流路であることが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0050】
図2は、サーペンタイン構造の流路を有するセパレータの一例の平面図である。図2のセパレータがアノード側セパレータ17であると仮定し、アノード触媒層12が対向する燃料流路22の輪郭を点線で示す。燃料流路22は、電解質膜11の主面と平行な面方向に燃料を分配させるため役割を果たす。燃料流路22には、少なくとも一対の燃料入口36と燃料出口37が設けられている。図2では、説明を簡略化させるために、アノード側セパレータ17は、流路入口36と流路出口37を1箇所ずつ有する。流路入口36と流路出口37は、アノード側セパレータ17に設けられているマニホルド孔36a、37aに連通している。燃料は、マニホルド孔36aから供給され、流路入口36から流路出口37に向かって一方向(矢印Aの方向)に流れ、その後、マニホルド孔37aに排出される。なお、燃料流路および酸化剤流露溝の形態は図2の形態に限定されない。
【0051】
ここで、サーペンタイン型の流路は、複数の平行な直線状の溝部(直線部分22a)を有する。直線部分22aは、セパレータに形成された直線状の凸部31により範囲が画定されている。また、隣接する一対の直線部分22aは湾曲部分(U字状部)22bにより連結されている。流路の直線部分22aは、単位面積あたりの触媒量が相対的に多いアノード触媒層12の第一領域12Aに正対し、直線部分22aで挟まれた凸部31は、第一領域12Aよりも単位面積あたりの触媒量が相対的に少ない第二領域12Bに正対する。
【0052】
アノード側またはカソード側セパレータに形成される流路の寸法は、電極面積にも依存するが、概して言えば、溝幅が0.5〜2.5mmまたは0.5〜2mmであれば、燃料および酸化剤の供給が円滑に行われる。溝幅を小さくし過ぎると、溝部の断面積が小さくなるため、流体の摩擦抵抗が増加して、流路の入口と出口との間の圧力差が増加する。結果として、燃料や酸化剤を供給するためのポンプ類の駆動に必要なエネルギーが増加し、燃料電池システム全体のエネルギー変換効率が低下する。一方、溝幅を大きくし過ぎると、隣接する拡散層に局部的なたわみ(撓み)が生じ、拡散層が溝部に入り込み易くなる。結果として、流路の断面の一部が拡散層によって塞がれ、燃料や酸化剤の通過を妨げやすくなる。
【0053】
溝深さは、0.2〜1mmであることが好ましい。同様に、溝深さが小さ過ぎると、断面積が小さくなり、溝深さが大き過ぎると、セパレータの厚みが増加して、燃料電池スタックの体積が増加する。一般的に、溝深さが小さいほど、燃料や酸化剤の流速が増加するため、燃料や酸化剤の電解質膜への拡散量が小さくなる。従って、セパレータの溝部と対向する触媒層の第一領域と、セパレータの凸部と対向する第二領域とで、燃料や酸化剤の濃度差が大きくなり、本発明による効果は増大する。
【0054】
セパレータの直線状の凸部の寸法は、溝部との関係で決定される。溝部の幅と凸部の幅には、著しい差が生じないことが好ましい。電極(具体的には拡散層)の投影面積に対し、セパレータのうち電極と対向する部分の凸部の頂面の面積は、電極の投影面積の40%〜80%を占めることが好ましい。すなわち、電極と対向する流路の面積は、電極の投影面積の20%〜60%を占めることが好ましい。
【0055】
直線状の凸部の幅は、0.5〜3mmまたは0.5〜2.5mmであると、良好な電子伝導が確保される。凸部の上端面の面積が増加すると、溝部の開口面積が低下する。そのため、燃料および酸化剤の供給速度が遅くなる部分が増加する。その結果、濃度過電圧が増加し、発電性能が低下する場合がある。一方、凸部の上端面の面積が低下すると、凸部と拡散層との接触面積が減少して、電子伝導抵抗が増加する。そのため、発電性能が低下する場合がある。以上のことを考慮すると、溝幅と凸部の幅との合計は、1〜5mmが好ましい。
【0056】
[電極]
アノード23は、電解質膜11と接するアノード触媒層12と、アノード側セパレータ17と接するアノード拡散層16とを有している。アノード拡散層16は、アノード触媒層12と接するアノードマイクロポーラス層14と、アノード側セパレータ17と接するアノード多孔質基材15とを有している。
【0057】
カソードについても、基本的な構成はアノードと同様である。カソード25は、電解質膜11に接するカソード触媒層13と、カソード側セパレータ21に接するカソード拡散層20とを有している。カソード拡散層20は、カソード触媒層13に接するカソードマイクロポーラス層18と、カソード側セパレータ21に接するカソード多孔質基材19とを有している。
【0058】
図3に、本発明の一実施形態に係る燃料電池の要部である、電極の周辺構造を模式的に示す。図3では、アノード側セパレータ17、アノード23および電解質膜11の構造を示すが、このような構造はアノード側とカソード側の少なくとも一方が具備すればよい。図3において、図1と同じ構成要素には同じ番号を付している。
【0059】
図3において、電解質膜11の表面に形成させるアノード触媒層12は、平均厚みが相対的に大きい第一領域12Aと、平均厚みが相対的に小さい第二領域12Bから構成されている。
【0060】
アノード触媒層12の第一領域12Aは、アノード拡散層16を間に介して燃料流路22の直線部分22aと正対する。一方、アノード触媒層12の第二領域12Bは、アノード拡散層16を間に介して、隣接する直線部分22a間の凸部31と正対する。
【0061】
ただし、セパレータに形成される燃料流路または酸化剤流路の形状が、図2に示すようなサーペンタイン型である場合には、湾曲部分の流路および凸部において、それぞれ第一領域および第二領域に正対しない部分が生じ得る。このような場合でも、第一領域の80%以上が流路の直線部分と正対していることが好ましい。また、触媒層の投影面積に対する、第一領域および第二領域の合計割合は、70〜100%であることが好ましい。
【0062】
アノード多孔質基材15およびカソード多孔質基材19に用いられる多孔質基材としては、導電性の繊維で形成された基材、例えば、炭素繊維からなるカーボンペーパー、カーボンクロス、カーボン不織布(カーボンフェルト)、耐腐食性を有する金属メッシュ、発泡金属などが挙げられる。アノード多孔質基材15は、撥水処理を施すことが好ましい。同様に、カソード多孔質基材19は、撥水処理を施すことが好ましい。
【0063】
アノードマイクロポーラス層14およびカソードマイクロポーラス層18は、強い撥水性を示しながら優れた電子伝導性を有し、かつ燃料や酸化剤が円滑に移動するための細孔を有することが必要である。高撥水性材料としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素系高分子、フッ化黒鉛などが用いられる。導電性材料としては、カーボンブラック(ファーネスブラック、アセチレンブラックなど)、黒鉛粉末、多孔質金属粉末などが用いられる。
【0064】
マイクロポーラス層と触媒層との間には、大きな隙間が存在しないことが好ましい。特にカソードにおいては、触媒層内で生成した水が速やかにマイクロポーラス層に到達して、拡散層を経由し、酸化剤流路まで排出されることが必要である。しかし、マイクロポーラス層と触媒層との間に大きな隙間が存在すると、隙間に液溜りが発生して、水の排出が滞り、空気の流入が妨げられる。その結果、発電性能が低下する場合がある。従って、マイクロポーラス層は、触媒層の凹凸に追従して、触媒層と(すなわち第一領域および第二領域のいずれに対しても)隙間なく接していることが好ましい。
【0065】
なお、PTFEなどの樹脂とカーボンブラックとを含む混合物からなるマイクロポーラス層の原料を、カーボンペーパー、カーボンクロス、カーボン不織布などの表面に形成することにより、触媒層に隙間なく接触したマイクロポーラス層を形成することが可能である。この場合、マイクロポーラス層の厚みは1〜40μm程度が好ましい。
【0066】
アノード触媒層12は、上述の反応式(11)に示す反応を促進するためのアノード触媒粒子と、アノード触媒層12と電解質膜11とのイオン伝導性を確保するための高分子電解質とを含む。
【0067】
アノード触媒粒子とは、金属元素を含む触媒のことを意味する。アノード触媒粒子は、例えば、触媒作用を有する金属または金属化合物を意味し、金属単体、金属酸化物、合金等が挙げられる。より具体的には、白金(Pt)とルテニウム(Ru)との合金、Ptとルテニウム酸化物との混合物、PtとRuと他の金属元素(例えば、イリジウム(Ir)など)との3元合金、白金単体などが挙げられる。PtとRuとの合金において、PtとRuとの原子比は、1:1であることが好ましいが、これに限定されない。中でも、アノード触媒粒子は、白金単体、および白金とルテニウムとの合金より選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0068】
カソード触媒層13は、上述の反応式(12)に示す反応を促進するためのカソード触媒粒子と、カソード触媒層13と電解質膜11とのイオン伝導性を確保するための高分子電解質とを含む。
【0069】
カソード触媒粒子とは、アノード触媒粒子と同様、触媒作用を有する金属または金属化合物を意味し、金属単体、金属酸化物、合金等が挙げられる。より具体的には、Pt単体およびPt合金が挙げられる。Pt合金としては、Ptと、コバルト、鉄などの遷移金属との合金が挙げられる。
【0070】
アノード触媒層12およびカソード触媒層13に含まれる高分子電解質としては、例えば、パーフルオロスルホン酸/ポリテトラフルオロエチレン共重合体(H+型)、スルホン化ポリエーテルスルホン(H+型)、アミノ化ポリエーテルスルホン(OH-型)などが挙げられる。
【0071】
触媒粒子の活性点を増加させ、反応速度を向上させる観点から、アノード触媒粒子およびカソード触媒粒子は、できる限り小さくして使用することが好ましい。触媒粒子の平均粒径は、一般に1〜20nmの範囲である。しかし、微粒子化された触媒粒子(以下、非担持触媒微粒子)は、粒子同士が凝集して、凝集体を形成する傾向がある。触媒粒子の1次粒子は小さくても、凝集体である2次粒子の大きさは、1次粒子の数十倍にもなる。よって、反応速度に影響する触媒粒子の活性表面積は十分に大きくならない。従って、十分に表面積の大きな担体、例えば導電性炭素粒子の表面に、被担持触媒微粒子を担持させて、十分な活性表面積を確保することが一般的である。
【0072】
ただし、実際の活性点は、アノード触媒粒子においては、例えば白金およびルテニウムの粒子の表面上に存在する。また、カソード触媒粒子においては、例えば白金粒子の表面上に存在する。以上より、本発明において、単位面積あたりの触媒量とは、担体を除く正味の触媒量であり、例えば単位面積あたりの白金とルテニウムの量の総和(アノード触媒層の場合)である。
【0073】
導電性炭素粒子としては、カーボンブラックなどが用いられる。導電性炭素粒子の平均粒径は、触媒粒子のサイズとの兼ね合いから、5〜50nmであることが好ましい。
【0074】
触媒粒子と導電性炭素粒子との合計質量に対する触媒粒子の質量の割合のことを担持率いう。触媒粒子の担持率は、50〜99%であることが好ましい。触媒粒子の密度は、一般的な燃料電池の触媒層に用いられている導電性炭素粒子の密度に比べて著しく大きい。従って、高い担持率の触媒担持体を使用するほど、触媒粒子の充填密度を高くすることができる。
【0075】
なお、カソード触媒粒子(例えばPt単体またはPt合金)は、カーボンブラックなどの導電性炭素粒子に担持させずに、Pt単体微粉末またはPt合金微粉末のままで用いられることも多い。
【0076】
アノード触媒層12および/またはカソード触媒層13では、第一領域における単位面積あたりの触媒量が、第二領域における単位面積あたりの触媒量に比べて大きくなっている。ただし、第一領域と第二領域とは、交互に配置され、かつ互いに隣り合う関係にある。従って、それらの境界(接合部)において急激に触媒量が変化するのではなく、第一領域から第二領域に向かって徐々に触媒量が変化することが好ましい。例えば、両者の境界における両側では、単位面積あたりの触媒量が同一であることが好ましい。
【0077】
第一領域は、その端部、つまり第二領域と接する部分において、触媒量が最小であることが好ましい。そして、第一領域の中央部に向かって触媒量が漸次増加し、中央部の極大点を越えると減少するような触媒量分布を有することが好ましい。逆に、第二領域は、その端部、つまり第一領域と接する部分において、触媒量が最大であり、第二領域の中央部に向かって漸次減少し、中央部の極小点を越えると増加するような触媒量分布を有することが好ましい。
【0078】
燃料流路22または酸化剤流路24に供給された燃料は、主に濃度差を駆動力とした分子拡散によって、主にMEAを貫通する軸に平行に、各流路からアノード触媒層12またはカソード触媒層13へ向かって移動する。また、燃料または酸化剤は、触媒層12に平行な面方向、すなわち流路に正対する部分から凸部に正対する電極部分にも向かって移動する。従って、触媒層内での燃料濃度分布を調べると、流路の中央部に正対する触媒層部分において、最も濃度が大きく、凸部の中央部に正対する触媒層部分において、濃度が最も濃度が小さくなる。
【0079】
本発明の効果を最大化するためには、燃料または酸化剤の濃度が最も大きくなる部分において、触媒量が最も多く、燃料または酸化剤の濃度が最も小さくなる部分において、触媒量が最も少なくなることが好ましい。すなわち、第一領域において、単位面積あたりの触媒量が極大となる部分は、流路の直線部分の幅方向における中央部に正対することが好ましい。また、第二領域において、単位面積あたりの触媒量が極小となる部分は、直線状の凸部31の幅方向における中央部に正対することが好ましい。
【0080】
なお、触媒層の作製プロセスや運転条件にもよるが、一般的には触媒層の空隙率あるいは密度は、電極面内で均一であることが好ましい。従って、触媒量と触媒層の厚みは、ほぼ比例関係にあることが好ましい。従って、触媒層の断面では、図3に示すように、第一領域12Aの平均厚みが、第二領域12Bの平均厚みより大きくなる。
【0081】
単位(投影)面積あたりの触媒量は、例えば、次のように測定することができる。
まず、触媒層の所定領域(例えば第一領域)を削り取る。削り取った部分の寸法を、光学顕微鏡などを使用して正確に測定し、計算によって投影面積を求める。次いで、得られた試料を王水に溶解させ、不溶物を濾過する。得られた濾液に水を加えて、所定量(例えば100ml)にする。得られた定量溶液に含まれる触媒粒子の量を、誘導プラズマ原子発光分光分析装置(ICP-AES:例えばThermo Fisher Scientific製のiCAP6300)により測定する。得られた値および前記所定領域の投影面積を用いて、触媒層の所定領域における単位面積あたりの触媒量を得ることができる。
【0082】
第一領域における単位面積あたりの触媒量の最大値は、第二領域における単位面積あたりの触媒量の最小値の1.1〜2倍であることが好ましく、1.1〜1.5倍であることがより好ましい。この範囲内であれば、本発明の効果が十分に得られる。
【0083】
このとき、アノード触媒層においては、第一領域における単位面積あたりの触媒量の平均値は、0.1〜10mg/cm2であることが好ましく、直接酸化型燃料電池の場合であれば、1〜10mg/cm2であることが好ましい。なお、蛍光X線を利用する非破壊検査では、数十μm2の領域における触媒量を測定可能であり、上記のように触媒層の所定領域を削り取る場合には、1mm2以上の領域があれば触媒量を測定可能である。
【0084】
また、カソード触媒層においては、第一領域における単位面積あたりの触媒量の平均値は、0.1〜1.8mg/cm2であることが好ましく、直接酸化型燃料電池の場合であれば、0.5〜1.8mg/cm2であることが好ましい。
【0085】
触媒層の第一領域の幅は、燃料流路または酸化剤流路の直線部分の幅に対応する。また、第二領域の幅は、流路の直線部分で挟まれた凸部の幅に対応する。従って、触媒層の第一領域および第二領域の幅についても、例えば0.5〜2.5mmであることが好ましい。結果として、第一領域と第二領域の一対の合計幅も1〜5mmが好ましい。
【0086】
アノード触媒層において、第一領域の平均厚みは、上述のように、第二領域の平均厚みより大きく、例えば1〜170μmであることが好ましい。特に、直接酸化型燃料電池の場合には、第一領域12Aの平均厚みは、20〜170μmであることが好ましい。
【0087】
カソード触媒層においても、第一領域の平均厚みは第二領域の平均厚みより大きく、例えば1〜50μmであることが好ましい。特に、直接酸化型燃料電池の場合には、10〜50μmであることが好ましい。
【0088】
[触媒層およびCCMの形成方法]
以下に、本発明に基づく、触媒層の作製方法について説明する。アノード触媒層12またはカノード触媒層13は、例えば、以下のようにして作製することができる。
(I)まず、触媒粉末、電解質およびこれらの分散媒を含む触媒インクを準備する。具体的には、触媒粒子またはこれを導電性炭素粒子などの担体に担持させた触媒担持体と、高分子電解質と、を適当な分散媒に分散させる。
【0089】
(II)次に、得られた触媒インクを電解質膜11に塗布し、乾燥させることにより、触媒層を得ることができる。塗布の手段としては、例えば、スプレー法、スキージ法、スクリーン印刷法、ロール転写法などなどが挙げられる。中でも、スプレー式塗布装置を用いる方法(スプレー法)で、触媒インクを、電解質膜またはその他の基材の表面に吹き付け塗布することが好ましい。
【0090】
触媒インクを吹き付ける電解質膜には、イオン伝導性を有する膜が用いられ、特に限定されない。電解質膜の構成材料としては、例えば、燃料電池の分野で公知の各種高分子電解質を用いることができる。現在、流通している電解質膜は、主として、プロトン伝導タイプである。
【0091】
高分子電解質としては、例えばフッ素系高分子が好ましく用いられる。フッ素系高分子としては、パーフルオロスルホン酸ポリマーが好ましく、パーフルオロスルホン酸とポリテトラフルオロエチレンとの共重合体(H+型)などが具体例として挙げられる。パーフルオロスルホン酸ポリマーを含有する電解質膜の具体例としては、ナフィオン膜(商品名「Nafion(登録商標)」、デュポン社製)などが挙げられる。
【0092】
電解質膜は、燃料電池に用いられるメタノールなどの燃料のクロスオーバーを低減する効果を有していることが好ましい。このような効果を有する電解質膜としては、上記フッ素系高分子を含む膜のほかに、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン(S−PEEK)などのフッ素原子を含まない炭化水素系ポリマーの膜、無機物−有機物複合膜などが挙げられる。
【0093】
上記のように、電解質膜に触媒インクを直接吹き付ける場合には、その操作により、CCMが得られる。一方、電解質膜以外の基材に触媒インクを吹き付ける場合には、基材から電解質膜に触媒層を転写したりすることにより、CCMが得られる。触媒インクを吹き付ける電解質膜以外の基材としては、樹脂シートが挙げられる。その場合、樹脂シートの表面に形成された触媒層と電解質膜とが対面するように、これらを積層し、熱プレスすることにより、電解質膜に触媒層を転写することができる。アノード触媒層は、電解質膜の一方の面に転写され、カソード触媒層は他方の面に転写される。このとき、アノード触媒層およびカソード触媒層は、同時に、電解質膜に転写してもよい。または、一方の触媒層を転写した後に、他方の触媒層を転写してもよい。また、拡散層のマイクロポーラス層に触媒インクを吹き付けて触媒層を形成し、その後、拡散層と電解質膜を貼り合わせることにより、CCMと同時に膜電極接合体を形成してもよい。
【0094】
次に、スプレー法について説明する。
(a)まず、互いに直交するX軸およびY軸方向に移動可能であり、かつX軸とY軸を有するX−Y平面にインクを吐出可能である吐出ノズルを有するスプレー式塗布装置を準備する。吐出ノズルからのインクの吐出軸は、X軸およびY軸のそれぞれに垂直になるように設定される。
【0095】
(b)次に、電解質膜または基材を準備し、スプレー式塗布装置の吐出ノズルの移動可能範囲内において、X−Y平面と平行になるように、電解質膜または基材を設置する。触媒インクを電解質膜に直接塗布して触媒層を形成する場合には、電解質膜をX−Y平面と平行になるように設置する。一方、触媒インクを電解質膜以外の基材に塗布して触媒層を形成し、その後、触媒層を電解質膜に転写する場合には、前記基材をX−Y平面と平行になるように設置する。
【0096】
(c)次に、X−Y平面において、直線X=X0と直線X=X0+Lとの間の領域において、吐出ノズルをX軸方向に移動させながら吐出ノズルからインクを吐出して、電解質膜または基材の表面に、複数の直線Y=Y0+nΔY(ただし、n=0、1、2、・・・mであり、mは1以上の整数)に沿う複数の帯状触媒層を形成する。
【0097】
ただし、ΔYは、複数の直線Y=Y0+nΔYに沿う第一線状領域の単位面積あたりの触媒量が、直線Y=Y0+(2N−1)×ΔY/2(ただし、N=1、2、・・・Mであり、Mは1以上の整数)に沿う第二線状領域の単位面積あたりの触媒量の1.1倍以上、2倍以下になるように選択される。ΔYは、吐出ノズルから単位時間あたりに吐出されるインク量や、吐出ノズルをX軸方向に移動させる速度などを考慮して決定すればよい。
【0098】
上記のように、L番目の帯状触媒層を形成した後、吐出ノズルを、例えば、Y軸方向に所定の距離だけ移動させ、次に、L番目とは逆方向に、吐出ノズルをX軸方向に移動させながら吐出ノズルからインクを吐出し、L+1番目の帯状触媒層を形成する。このような一連の工程を複数回繰り返すことにより、第一領域と第二領域とが交互かつ平行に配置されたアノード触媒層またはカソード触媒層を容易に実現することが可能である。
【0099】
図4に、スプレー式塗布装置の一例の構成を模式的に示す。
スプレー式塗布装置70は、触媒インク72を収容したタンク71と、インク72を吐出するスプレーガン73とを備える。タンク71は、内部にインク72を攪拌する撹拌機74を備えており、インク72は常時流動状態にある。インク72は、開閉バルブ75を介して、スプレーガン73に供給され、噴出ガスとともに、スプレーガン73から吐出される。噴出ガスは、ガス圧力調整器76およびガス流量調整器77を介して、スプレーガン73に供給される。噴出ガスとしては、窒素ガス、空気、アルゴンなどを用いることができる。
【0100】
帯状触媒層は、形成する毎に乾燥させることが好ましい。すなわち、L+1番目の帯状触媒層は、L番目の帯状触媒層を乾燥させた後に形成することが好ましい。スプレー式塗布装置70では、電解質膜11または基材と接するように配置されたヒータ81により、電解質膜または基材(以下、ワーク11)の表面温度が制御されている。ワーク11は、触媒層の投影像に対応する開口を有するマスク79により、ヒータ81に固定される。このようなヒーターを利用することにより、L番目の帯状触媒層を乾燥させた後にL+1番目の帯状触媒層を形成することが容易となる。その結果、インクに含まれる分散媒による電解質膜の膨潤が抑制され、電解質膜の変形や触媒粒子の凝集が起りにくくなる。
【0101】
スプレーガン73は、アクチュエータ78により、矢印Xに平行なX軸および紙面とX軸に垂直なY軸の2方向に任意の位置から任意の速度で移動することが可能である。アクチュエータ78は、図示しないコントローラによって、あらかじめ移動座標と移動スピードを設定されたプログラムに基いてスプレーガン73を移動させる。
【0102】
スプレーガン73の吐出口(吐出ノズル)は、一般的には円形または楕円形であり、吐出口の中心を軸にしてインクが吐出される。インクは、その分散媒成分を蒸発させながら、電解質膜または基材の表面に付着し、乾燥される。これにより、多孔質構造を有する触媒層が形成される。
【0103】
実際には、吐出口から吐出されたインクの多くは、吐出口の中心軸に沿ってのみ移動するのではなく、中心軸に垂直な方向に拡散しながらワーク11に向けて移動する。なぜなら、吐出口付近の圧力が最も大きく、そこから外へ向かうほど圧力が低下していくため、圧力勾配が生じるためである。従って、空間体積中のインク濃度は、吐出口の中心軸において最も大きく、外側に向かって漸次減少していくことが一般的である。その結果、ワーク11の表面に単位時間あたりに塗布される触媒量は、吐出口の中心軸において最大となり、同心円状に減少していく。
【0104】
上記のように、触媒量が吐出口の中心軸において最大となり、同心円状に減少することから、触媒層における触媒量のY軸に沿った断面プロファイル82は、図5に示すようなドーム形になる。
【0105】
そして、X軸方向に沿って直線状にスプレーガン73を移動させれば、断面プロファイルがドーム形の塗膜の連続体が形成され、帯状の触媒層となる。このときの触媒量分布は、図5に示すように、帯の中心において最大を示し、帯の両長辺において最小を示すような形状となる。1つの帯状触媒層の形成を終了する毎に、スプレーガン73またはワーク11の位置をY軸方向にシフト量Ys(ΔY)だけ移動させ、次の帯状触媒層の形成を繰り返すことにより、ワーク11の表面の全体に触媒層を形成することができる。
【0106】
ここで、触媒量は、吐出口の中心軸を中心とした正規分布を示すことが多い。このような触媒量分布のプロファイルを示すスプレーガンを使用する場合、従来は、平面状の触媒層を形成するために、スプレーガンまたはワークのいずれかを移動させて、触媒量のワーク面内における均一化を図ることが一般的である。燃料電池の触媒層は、触媒量や厚みが均一であることが好ましいと考えられてきたからである。従って、帯状で断面がドーム形の触媒層を複数積層することで、触媒量や厚みが均一な触媒層を形成することが一般的である。つまり、従来は、塗布位置のY軸方向へのシフト量Ys(ΔY)を、帯状触媒層の幅に比べて小さくし、触媒量の少ない部分同士を重ねることを繰り返し、Y軸方法における触媒量分布を均一化している。
【0107】
1つの帯状触媒層のY軸方向に沿う触媒量の分布、すなわちドーム形の断面プロファイル82の形態は、スプレーガンの方式や吐出条件、インク物性など、様々なパラメータにより変化する。従って、塗布位置のY軸方向へのシフトの回数Sは、上記条件に依存して変化する。しかし、概して、Ys(ΔY)が1mm以下であれば、単位面積あたりの触媒量のばらつきが10%未満となる均一な触媒層を得ることが可能である。そのような触媒層におけるX軸方向およびY軸方向に沿う触媒量の分布を図6に概念的に示す。なお、触媒層全体のY軸方向の長さWと、Y軸方向へのシフト回数Sは、概して下記式(A)のような関係を有する。
【0108】
S=W/Ys+1・・・(A)
【0109】
本発明においては、シフト回数Sを低減させることが可能である。つまり、図5に示すように、Y軸方向に沿う触媒量の分布に不均一が生じる場合でも、触媒量の多い帯の中央部を第一領域の幅方向にける中央部とし、触媒量の少ない帯の両長辺を第二領域の幅方向における中央部として利用すれば、帯状触媒層を複数積層して触媒量の分布を均一化することが不要となる。結果として、触媒層形成工程の作業時間が低減され、低コストでCCMやMEAを得ることが可能である。
【0110】
塗布位置のY軸方向へのシフトをS回行った時点で、触媒量が必要レベルに達していない場合には、同じ軌跡を1回以上トレースして、触媒インクを塗り重ねることが必要である。帯状触媒層の積層数をZとすれば、スプレーガンがワーク上を移動しながらX軸方向に沿ってインクを吐出する塗布回数Lは、(S+1)とZの積となる(L=(S+1)×Z)。Lが小さいほど、インクのスプレー塗布に要する時間が短縮されることから、触媒層の製造に必要なコストが低減される。
【0111】
スプレーガンからのインクの吐出量を大きくすることで、帯状触媒層1つあたりの触媒量を大きくすることができ、製造コストを低減することが可能である。ただし、インクの吐出量を大きくすると、乾燥されない状態のインクがワーク上に長時間存在することになり、電解質膜がインクに含まれる分散媒を吸収して、膨張変形したり、触媒粒子が凝集したりすることがある。このような場合、触媒層にクラックが発生したり、発電性能が低下したりすることがある。従って、積層数Zは1〜30回が好ましく、3〜10回がより好ましい。
【0112】
なお、ここではスプレーガンを用いる方法について説明したが、スプレー式塗布装置はこれに限られず、例えばエアーブラシを用いてもよい。また、ここではスプレー法について説明したが、触媒層の形成方法はこれに限られず、例えばスキージ法により形成してもよい。その場合、インクをスキージするブレードの刃を、例えば波型に加工することにより、ワークとブレードとの間の隙間を周期的に増減する形状とすることが可能である。このような隙間を利用してインクのスキージを行えば、隙間の大きな部分に第一領域が形成され、隙間の小さい部分に第二領域が形成される。
【0113】
[膜電極接合体の形成方法]
膜電極接合体は、CCMと拡散層とを貼り合わせることにより形成することができる。具体的には、アノード拡散層およびカソード拡散層により、アノード触媒層と電解質膜とカソード触媒層との積層体(CCM)を挟持し、熱プレスする。このとき、アノード拡散層は、アノード触媒層に接合され、カソード拡散層は、カソード触媒層に接合される。こうして、アノードと、電解質膜と、カソードとが、この順で積層された膜電極接合体(MEA)が得られる。
【0114】
また、アノード触媒層およびカソード触媒層を、それぞれアノード拡散層およびカソード拡散層の表面に形成する場合には、アノードとカソードの間に電解質膜を挟持し、熱プレスすることにより、膜電極接合体を得ることができる。この場合、アノード触媒層はアノードマイクロポーラス層に接するように、カソード触媒層はカソードマイクロポーラス層に接するようにアノードとカソードを構成する。
【0115】
マイクロポーラス層は、導電性粒子と撥水性樹脂を含むインクを、多孔質構造を有する基材に塗布し、乾燥することで形成することができる。導電性粒子としては、カーボンブラックなどの多孔質構造を形成し得る材料が用いられる。撥水性樹脂としては、フッ素系高分子などが用いられる。インクは、導電性粒子と撥水性樹脂を適当な分散媒と混合し、攪拌することで得られる。基材には、予め撥水処理を施しておくことが望ましい。基材の構成材料としては、導電性の繊維が好ましく、例えばカーボンクロス、カーボンペーパーなどが用いられる。インクの塗布手段としては、例えば、スクリーン印刷法、スキージ法などが挙げられる。
【0116】
触媒層の第一領域と第二領域の空隙率は、触媒層の形成時においては、ほぼ同一であると考えられる。一方、第一領域と第二領域の厚みは異なる。従って、上記のような熱プレス工程では、厚みの大きい第一領域により大きい圧力が印加され、厚みの小さい第二領域には圧力が印加されにくい。そのため、熱プレス後の触媒層の空隙率は、第二領域に比べると、第一領域で低下しやすい。空隙率が低下すると、燃料や酸化剤の拡散性が低下することが懸念されるが、本発明においては、第一領域が燃料流路および酸化剤流路に正対するため、そのような要素は無視できる。つまり、MEAにおける第一領域の密度は、第二領域の密度よりも大きくてよい。ただし、両者の空隙率に著しい差異が生じないように、熱プレスの圧力を調整することが好ましい。
【0117】
ここで、触媒層の密度は、触媒層中の単位体積あたりの固形分の質量で表され、次のように求められる。まず、触媒層を所定の大きさに切り抜き、その面積と厚みを測定して体積を算出する。次に、切り抜いた触媒層の質量を測定する。質量の測定には、電子天秤などを使用してもよく、質量測定が可能な原子吸光分析法を用いてもよい。質量は触媒層に含まれる水分を除去してから測定することが好ましい。得られた質量と体積から触媒層の密度が求められる。
【0118】
[セルの形成]
MEAを、アノード側セパレータおよびカソード側セパレータで挟持することにより、燃料電池のセルが得られる。このとき、アノード側セパレータは、MEAのアノード側に配置され、カソード側セパレータは、MEAのカソード側に配置される。
【0119】
アノード側セパレータおよびカソード側セパレータは、例えば、黒鉛などのカーボン材料からなる。アノード側セパレータには、アノードと接する面に、アノードに燃料(メタノール水溶液など)を供給する燃料流路が設けられている。カソード側セパレータには、カソードと接する面に、カソードに酸化剤(空気、酸素など)を供給するための酸化剤流路が設けられている。ただし、燃料流路および酸化剤流路の少なくとも一方には、上記の触媒層に対応させて、幅方向における中央部が、複数の直線Y=Y0+nΔYに対応する第一線状領域と正対するように、複数の直線部分が設けられる。そして、第一線状領域と直線部分の幅方向における中央部とが正対するように、膜電極接合体をアノード側セパレータおよびカソード側セパレータで挟持することによりセルを形成する。
【0120】
アノード側セパレータの燃料流路およびカソード側セパレータの酸化剤流路は、例えば、セパレータ材料の表面に溝が形成されるように切削することにより形成することができる。また、セパレータ材料を、燃料流路および酸化剤流路を有する形状になるように射出成形または圧縮成形することもできる。
【0121】
流路のピッチは、触媒層の第一領域のピッチとほぼ同一にすることが重要である。例えば、図2における流路ピッチPと、図5における帯状触媒層のシフト量Ys(ΔY)とを同一にすればよい。このような構成とすることで、第一領域と流路とが正対し、第二領域とセパレータの凸部とが正対する関係が得られる。そして、燃料電池を組み立てる際に、第一領域と流路とが正対するように、MEAと各セパレータとを配置して、相互の位置を固定する。
【0122】
図1に示すように、電解質膜11の面方向の外寸は、アノード触媒層12およびカソード触媒層13の外寸に比べて大きくなっている。従って、触媒層と接触しない電解質膜11の周辺部分には、位置合わせのための貫通孔を形成することができる。そして、セパレータの相当する位置にも位置合わせのための貫通孔を形成する。セルを組み立てる際に、貫通孔に位置決めのためのピンを貫通させるように、MEAとセパレータとを積層することで、第一領域と流路とが正対する関係を容易に形成することができる。あるいは、次に述べるようなガスケットを、予めセパレータ上に固定し、ガスケットの開口部に触媒層および拡散層が勘合して配置されるようにすることで、第一領域と流路とが正対する関係を形成することもできる。
【0123】
ガスケット26、27の構成材料としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などのフッ素系高分子、フッ素ゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)などの合成ゴム、シリコーンエラストマーなどが挙げられる。
【0124】
各ガスケットは、シート状であり、その中央部分に、膜電極接合体(MEA)を収容するための、MEAと同じ面積の開口部を備えている。ガスケット26、27は、それぞれアノード触媒層12およびカソード触媒層13の側面と接するように、MEAの電解質膜11の周縁部に配置される。ガスケット26、27は、アノード側セパレータ17、カソード側セパレータ21とともに、電解質膜11をその厚さ方向に加圧する役割を果たしている。
【0125】
MEAと、MEAの両側に配置されるアノード側セパレータ17およびカソード側セパレータ21とから構成されるセルは、2枚の端板28の間に挟まれた状態で、図示しないボルトやバネなどによって加圧締結される。2枚の端板28は、それぞれ、アノード側セパレータ17およびカソード側セパレータ21に積層されるように配置される。複数個のセルを積層して、セルスタックを形成してもよい。この場合にも、セルスタックは、端板、ボルト、バネなどにより、加圧締結される。
【0126】
MEAとセパレータとの界面は、接着性に乏しい。しかしながら、上記のようにして、セルを加圧締結することにより、MEAとセパレータとの接着性を高めることができ、その結果、MEAとセパレータとの間の接触抵抗を低減させることができる。
【0127】
上記では、燃料にメタノールを使用するDMFCに適用する場合を主に説明したが、燃料電池はDMFCに限られない。ただし、本発明は、水と親和性の高い、常温で液体の燃料を使用する直接酸化型燃料電池に適用した場合に、特に顕著な効果を奏する。
【0128】
本発明を直接酸化型燃料電池に適用する場合、燃料としては、メタノールの他に、エタノール、ジメチルエーテル、蟻酸、エチレングリコールなどの炭化水素系液体を用いることができる。これらの燃料は、1mol/L〜8mol/Lの濃度を有する水溶液として用いることが好ましい。メタノール水溶液のメタノール濃度は、3mol/L〜5mol/Lであることがより好ましい。燃料の濃度が高いほど燃料電池システム全体としての小型軽量化につながるが、MCOが多くなるおそれがある。本発明によれば、MCOを低減することができるため、通常よりもメタノール濃度が高いメタノール水溶液を用いることができる。メタノール濃度が1mol/Lより小さいと、燃料電池システムの小型軽量化が困難となる場合がある。メタノール濃度が8mol/Lを超えると、MCOを十分に低減できない場合がある。
【0129】
酸化剤となる空気は、常温常湿の空気をそのまま利用することが可能である。アノードに供給される水の一部は、電気浸透によってプロトンの移動に伴って、アノードからカソードへ移動する。カソードにおいては、水が生成する。従って、加湿器等を使用して、供給空気を加湿する必要はなく、電解質膜および触媒層に含まれる電解質は、十分な水分で湿潤されて、良好なプロトン伝導性を示す。
【0130】
次に、実施例および比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0131】
《実施例1》
アノード触媒粒子と、それを担持する担体と、を含むアノード触媒担持体を調製した。アノード触媒粒子としては、白金−ルテニウム合金(原子比1:1)(平均粒径:5nm)を用いた。担体としては、平均一次粒子径が30nmの導電性炭素粒子を用いた。白金−ルテニウム合金と導電性炭素粒子との合計重量に占める白金−ルテニウム合金の重量は80重量%とした。
【0132】
カソード触媒粒子と、それを担持する担体と、を含むカソード触媒担持体を調製した。カソード触媒粒子としては、白金(平均粒径:3nm)を用いた。担体としては、平均一次粒子径が30nmの導電性炭素粒子を用いた。白金と導電性炭素粒子との合計重量に占める白金の重量は80重量%とした。
【0133】
高分子電解質膜には、厚さ50μmのフッ素系高分子(パーフルオロスルホン酸とポリテトラフルオロエチレンとの共重合体(H+型)をベースとする膜、商品名「Nafion(登録商標)112」、デュポン社製)を使用した。
【0134】
(a)CCMの作製
(i)アノードの形成
アノード触媒担持体の10gと、パーフルオロスルホン酸とポリテトラフルオロエチレンとの共重合体(H+型)を含有する分散液(商品名:「Nafion(登録商標)5重量%溶液」、米国デュポン社製)の70gとを、適量の水とともに攪拌機により攪拌して混合した。得られた混合物を脱泡して、アノード触媒層形成用インクを得た。
【0135】
得られたアノード触媒層形成用インクを、エアーブラシを使用したスプレー法により、高分子電解質膜の一方の表面に吹き付けて塗布し、一辺10cmの正方形のアノード触媒層を形成した。アノード触媒層の寸法は、マスキングにより調整した。
【0136】
具体的には、一辺12cmの正方形の電解質膜を、表面温度をヒータにより70℃に調整した多孔質金属板に、減圧により吸着させて固定した。その上に、外寸が一辺15cmの正方形であり、中心に一辺10cmの正方形の開口を有する窓枠状のポリエチレンテレフタレート(PET)製のマスクを配置し、同様に減圧により吸着させて固定した。
【0137】
エアーブラシは、互いに直交するX軸およびY軸の方向に移動可能な直交ロボットに固定した。直交ロボットは、所定のプログラムを格納するパソコンに接続し、プログラムされた軌道に従って移動できるようにした。インクの吐出量は、エアーブラシのノズル開度を調整することで調整した。ここでは、塗布幅が約6mmとなるように開度を設定した。
【0138】
エアーブラシの軌道は、次のように設定した。
エアーブラシのノズルが移動可能なX−Y平面において、座標の原点を一辺12cmの正方形の電解質膜の左下頂点に設定した。以下、座標を(X、Y)のようにmm単位で示す。
【0139】
まず、図7に示すように、ノズルを座標(4,9)から(116,9)までX軸方向に移動させながらインクを吐出し続け、1番目の帯状触媒層を形成した。吐出の開始時と吐出の終了時で吐出量が変化する場合があるため、マスク上で吐出を開始し、マスク上で吐出を終了するようにした。帯状触媒層は、ヒータにより加熱された多孔質金属板の熱により即座に乾燥させた。
【0140】
次に、図7に示すように、ノズルを座標(116,12)から(4,12)までX軸方向に移動させながらインクを吐出し続け、2番目の帯状触媒層を形成した。つまり、シフト量Ysは3mmに設定した。2番目の帯状触媒層は、帯の長辺部分(裾野部分)が1番目の帯状触媒層と重なるように塗布した。同様に、3回目の塗布は、座標(4,15)から(116,15)までの領域に塗布した。
【0141】
1〜3番目の帯状触媒層の中央部、すなわち直線Y=9、Y=12、Y=15に沿う第一線状領域は、第一領域において単位面積あたりの触媒量が最大値を示す部分となる。一方、隣接する帯状触媒層の第一線状領域の間の中央部、すなわちY=10.5、Y=13.5に沿う第二線状領域は、第二領域において単位面積あたりの触媒量が最小値を示す部分となる。
【0142】
その後、4回目以降の塗布を、同様のシフト量Ysでノズルを移動しながら繰り返し、35回目の座標(4,111)から(116,111)までの領域への塗布で、第1層の触媒層の塗布を終了した。つまり、シフト回数Sは34回とした。
【0143】
次に、同じ位置への1回目から35回目までのインク塗布を更に9回繰り返し、触媒層の形成を完了した。つまり、積層数Zは10層、塗布回数Lは350回とした。
以下、エアーブラシの軌道とシフト量Ysおよび積層数Zを塗布パターンと称する。
【0144】
単位面積あたりの触媒量、すなわちPt−Ru合金の量は、第一領域における最大値が4.1mg/cm2であり、第二領域における最小値が2.6mg/cm2であった。最大値は最小値の1.55倍であった。
【0145】
第一領域において触媒量が最大値を示す第一線状領域の触媒層の厚みは98μmであり、第二領域において触媒量が最小値を示す第二線状領域での触媒層の厚みは65μmであり、第一線状領域での厚みは第二線状領域での厚みの1.5倍であった。従って、第一領域と第二領域における触媒層の密度は、ほとんど変化していないと考えてよい。
【0146】
(ii)カソードの形成
カソード触媒担持体の10gと、パーフルオロスルホン酸とポリテトラフルオロエチレンとの共重合体(H+型)を含有する分散液(前出の商品名:「Nafion(登録商標)5重量%溶液」)の100gとを、適量の水とともに攪拌機により攪拌して混合した。得られた混合物を脱泡して、カソード触媒層形成用インクを得た。
【0147】
得られたカソード触媒層形成用インクを、アノード触媒層を形成したのと同様の方法で、高分子電解質膜のアノード触媒層が形成された面とは反対側の面に塗布した。これにより、一辺10cmの正方形のカソード触媒層を、高分子電解質膜に形成した。
【0148】
具体的には、アノード触媒層が形成された面とは反対側の面において、座標の原点を一辺12cmの正方形の電解質膜の左下頂点に設定し、図8に示すように、ノズルを座標(4,10)から(116,10)までX軸方向に移動させながら1回目のインク塗布を行った。
【0149】
その後、シフト量をYs=1.0に設定し、座標(4,110)から(116,110)までの領域への塗布で、第1層の触媒層の塗布を終了した。つまり、シフト回数Sは100回とし、第1層を形成するのに101回の塗布を行った。
【0150】
次に、同じ位置への1回目から101回目までのインク塗布を更に4回繰り返し、触媒層の形成を完了した。つまり、積層数Zは5層、塗布回数Lは505回とした。
【0151】
カソード触媒層に含まれる単位面積あたりのPtの量(平均値)は、1mg/cm2であり、触媒層における触媒量の分布は均一であった。具体的には、単位面積あたりの触媒量のばらつきは10%未満(平均値と、最大値または最小値との差が、平均値の10%未満)であった。カソード触媒層の厚みは、28μmであった。
【0152】
なお、アノード触媒層と、カソード触媒層とは、それぞれの中心が高分子電解質膜の厚さ方向において重なるように配置した。
以上のようにして、CCMを作製した。
【0153】
(b)MEAの作製
(i)アノード多孔質基材の作製
撥水処理が施されたカーボンペーパー(商品名:「TGP−H−090」、厚さ約300μm、東レ(株)製)を、希釈されたポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のディスパージョン(商品名:「D−1」、ダイキン工業(株)製)に1分間浸漬した。次いで、そのカーボンペーパーを、100℃に温度設定された熱風乾燥機中で乾燥させた。次いで、乾燥後のカーボンペーパーを、電気炉中において、270℃で2時間焼成した。そのようにして、PTFEの含有量が10重量%であるアノード多孔質基材を得た。
【0154】
(ii)カソード多孔質基材の作製
撥水処理が施されたカーボンペーパーに代えて、カーボンクロス(商品名:「AvCarb(商標)1071HCB」、バラードマテリアルプロダクツ社製)を使用したこと以外は、アノード多孔質基材と同様にして、PTFEの含有量が10重量%であるカソード多孔質基材を得た。
【0155】
(iii)アノードマイクロポーラス層の形成
アセチレンブラックの粉末と、PTFEのディスパージョン(商品名:「D−1」、ダイキン工業(株)製)と、を攪拌機により攪拌して混合することにより、全固形分に占めるPTFEの含有量が10重量%であり、全固形分に占めるアセチレンブラックの含有量が90重量%であるマイクロポーラス層形成用インクを得た。得られたマイクロポーラス層形成用インクを、エアーブラシを使用したスプレー法により、アノード多孔質基材の一方の表面に吹き付けて塗布した。その後、塗布されたインクを、100℃に温度設定された恒温槽内で乾燥させた。次いで、マイクロポーラス層形成用インクを塗布したアノード多孔質基材を、電気炉により、270℃で2時間焼成して、界面活性剤を除去した。こうして、アノード多孔質基材上にアノードマイクロポーラス層を形成し、アノード多孔質基材とアノードマイクロポーラス層とを含むアノード拡散層を作製した。アノードマイクロポーラス層の厚みは、23μmであった。
【0156】
(iv)カソードマイクロポーラス層の形成
カソード多孔質基材の一方の表面に、アノードマイクロポーラス層と同様にして、カソードマイクロポーラス層を形成し、カソード多孔質基材とカソードマイクロポーラス層とを含むカソード拡散層を作製した。カソードマイクロポーラス層の厚みは18μmであった。
【0157】
アノード拡散層およびカソード拡散層は、いずれも、抜き型を使用して、一辺10cmの正方形に成形した。
【0158】
次に、アノードマイクロポーラス層とアノード触媒層とが接するように、アノード拡散層とCCMとを積層した。また、カソードマイクロポーラス層とカソード触媒層とが接するように、カソード拡散層とCCMとを積層した。
【0159】
得られた積層体を、温度を125℃に設定した熱プレス装置により、5MPaの圧力で1分間加圧した。これにより、アノード触媒層とアノード拡散層とを接合するとともに、カソード触媒層とカソード拡散層とを接合した。
【0160】
以上のようにして、アノードと、高分子電解質膜と、カソードとを具備する膜電極接合体(MEA)を得た。
【0161】
(c)ガスケットの配置
厚み0.25mmのエチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)のシートを、一辺12cmの正方形に裁断した。さらに、そのシートの中央部分を、一辺10.2cmの正方形に開口するようにくり抜いた。このようにして、2枚のガスケットを得た。一方のガスケットの開口部にアノードが、他方のガスケットの開口部にカソードが嵌め込まれるように、各ガスケットをMEAに配置した。
【0162】
(d)セパレータの作製
セパレータの素材として、厚み2mm、一辺12cmの正方形の樹脂含浸黒鉛板を準備した。黒鉛板の表面を切削して、片側にメタノール水溶液をアノードに供給する燃料流路を形成した。セパレータの一端部には、燃料流路の入口部を配置し、別の一端部には、出口部を配置した。
【0163】
別の黒鉛板の表面には、酸化剤としての空気をカソードに供給する空気流路を形成した。セパレータの一端部には、空気流路の入口部を配置し、別の一端部には、出口部を配置した。このようにして、燃料電池スタックのセパレータを作製した。
【0164】
燃料流路および空気流路を構成する溝の断面形状は、それぞれ、幅1mm、深さ0.5mmとした。また、燃料流路および空気流路は、それぞれ、アノード拡散層およびカソード拡散層の各部に満遍なく燃料および空気を供給し得るように、一辺が10cmの正方形の範囲内で、長さ9.5cmの複数の直線部分を有するサーペンタイン型とした。流路の直線部分のピッチは、アノード触媒層の帯状触媒層のシフト量Ysと同じく3mmとした。すなわち、燃料流路の直線部分は、アノード触媒層の第一領域に対応させて、幅方向における中央部が、複数の直線Y=9+3n(ただしn=0、1、・・・34)に対応する第一線状領域と正対するように設計した。
【0165】
(e)DMFCのセルの作製
セパレータの燃料流路がアノード拡散層と接し、空気流路がカソード拡散層と接するように、MEAとセパレータとを積層した。このとき、燃料流路の入口部から最も近い燃料流路の直線部分は、アノード拡散層の一辺からの距離が1.5mmの位置から2.5mmの領域(アノード触媒層のY=11.5〜12.5の領域に対応)に配置した。また、アノード触媒層の第一領域と、燃料流路の直線部分とが、実質上正対し、アノード触媒層の第二領域と、流路の直線部分の間のセパレータの凸部とが、実質上正対するように各層を配置した。
【0166】
上記のセル積層体に対し、積層方向の両端に、厚さ1cmのステンレス鋼板からなる一対の端板を配置した。各端板と各セパレータとの間には、表面に金メッキが施された厚さ2mmの銅板からなる集電板と、絶縁板とを配置した。集電板はセパレータ側に配置し、絶縁板は端板側に配置した。この状態で、一対の端板を、ボルト、ナットおよびばねを用いて互いに締結し、MEAと各セパレータとを加圧した。
【0167】
以上のようにして、サイズが12×12cmであるDMFCのセルを得た。このセルをセルAとする。
【0168】
《実施例2》
アノード触媒層を形成する際の塗布パターンと、燃料流路の形状のみを変更し、他は実施例1と同様の燃料電池セルを構成した。
【0169】
具体的には、実施例1と同様の原点を基準にして、ノズルを座標(4,8)から(116,8)までX軸方向に移動させながら1回目のインク塗布を行い、シフト量をYs=2.6に設定し、座標(4,112)から(116,112)までの領域への塗布で、第1層の触媒層の塗布を終了した。つまり、シフト回数Sは40回とし、第1層を形成するのに41回の塗布を行った。
【0170】
次に、同じ位置への1回目から41回目までのインク塗布を更に8回繰り返し、触媒層の形成を完了した。つまり、積層数Zは9層、塗布回数Lは369回とした。
【0171】
単位面積あたりの触媒量、すなわちPt−Ru合金の量は、第一領域における最大値が3.5mg/cm2であり、第二領域における最小値が3.1mg/cm2であった。最大値は最小値の1.1倍であった。
【0172】
第一領域において触媒量が最大値を示す第一線状領域の触媒層の厚みは85μmであり、第二領域において触媒量が最小値を示す第二線状領域での触媒層の厚みは76μmであった。
【0173】
燃料流路が幅1mm、深さ0.5mmである点は、実施例1と同様であるが、流路の直線部分のピッチは2.6mmに変更した。セルを組み立てる際には、燃料流路の入口部から最も近い直線部分は、アノード拡散層の一辺からの距離が2.7mmの位置から3.7mmの領域に配置し、アノード触媒層の第一領域と、燃料流路の直線部分とを正対させた。
【0174】
《実施例3》
アノード触媒層を形成する際の塗布パターンと、燃料流路の形状のみを変更し、他は実施例1と同様の燃料電池セルを構成した。
【0175】
具体的には、実施例1と同様の原点を基準にして、ノズルを座標(4,8.9)から(116,8.9)までX軸方向に移動させながら1回目のインク塗布を行い、シフト量をYs=3.3に設定し、座標(4,111.2)から(116,111.2)までの領域への塗布で、第1層の触媒層の塗布を終了した。つまり、シフト回数Sは31回とし、第1層を形成するのに32回の塗布を行った。
【0176】
次に、同じ位置への1回目から32回目までのインク塗布を更に9回繰り返し、触媒層の形成を完了した。つまり、積層数Zは10層、塗布回数Lは320回とした。
【0177】
単位面積あたりの触媒量、すなわちPt−Ru合金の量は、第一領域における最大値が4.4mg/cm2であり、第二領域における最小値が2.2mg/cm2であった。最大値は最小値の2倍であった。
【0178】
第一領域において触媒量が最大値を示す第一線状領域の触媒層の厚みは107μmであり、第二領域において触媒量が最小値を示す第二線状領域での触媒層の厚みは54μmであった。
【0179】
燃料流路が幅1mm、深さ0.5mmである点は、実施例1と同様であるが、流路の直線部分のピッチは3.3mmに変更した。セルを組み立てる際には、燃料流路の入口部から最も近い直線部分は、アノード拡散層の一辺からの距離が1.7mmの位置から2.7mmの領域に配置し、アノード触媒層の第一領域と、燃料流路の直線部分とを正対させた。
【0180】
《実施例4》
カソード触媒層を形成する際の塗布パターンと、酸化剤流路の形状のみを変更し、他は実施例1と同様の燃料電池セルを構成した。
【0181】
具体的には、実施例1と同様の原点を基準にして、ノズルを座標(4,9)から(116,9)までX軸方向に移動させながら1回目のインク塗布を行い、シフト量をYs=3.0に設定し、座標(4,111)から(116,111)までの領域への塗布で、第1層の触媒層の塗布を終了した。つまり、シフト回数Sは34回とし、第1層を形成するのに35回の塗布を行った。
【0182】
次に、同じ位置への1回目から35回目までのインク塗布を更に7回繰り返し、触媒層の形成を完了した。つまり、積層数Zは8層、塗布回数Lは280回とした。
【0183】
単位面積あたりの触媒量、すなわちPtの量は、第一領域における最大値が1.2mg/cm2であり、第二領域における最小値が0.8mg/cm2であった。最大値は最小値の1.5倍であった。
【0184】
第一領域において触媒量が最大値を示す第一線状領域の触媒層の厚みは34μmであり、第二領域において触媒量が最小値を示す第二線状領域での触媒層の厚みは23μmであった。
【0185】
酸化剤流路が幅1mm、深さ0.5mmである点は、実施例1と同様であるが、流路の直線部分のピッチは3.0mmに変更した。セルを組み立てる際には、酸化剤流路の入口部から最も近い直線部分は、カソード拡散層の一辺からの距離が1.5mmの位置から2.5mmの領域(カソード触媒層のY=11.5〜12.5の領域に対応)に配置し、カソード触媒層の第一領域と、酸化剤流路の直線部分とを正対させた。
【0186】
《実施例5》
カソード触媒層を形成する際の塗布パターンと、酸化剤流路の形状のみを変更し、他は実施例1と同様の燃料電池セルを構成した。
【0187】
具体的には、実施例1と同様の原点を基準にして、ノズルを座標(4,8)から(116,8)までX軸方向に移動させながら1回目のインク塗布を行い、シフト量をYs=2.6に設定し、座標(4,112)から(116,112)までの領域への塗布で、第1層の触媒層の塗布を終了した。つまり、シフト回数Sは40回とし、第1層を形成するのに41回の塗布を行った。
【0188】
次に、同じ位置への1回目から41回目までのインク塗布を更に6回繰り返し、触媒層の形成を完了した。つまり、積層数Zは7層、塗布回数Lは287回とした。
【0189】
単位面積あたりの触媒量、すなわちPtの量は、第一領域における最大値が1.0mg/cm2であり、第二領域における最小値が0.9mg/cm2であった。最大値は最小値の1.1倍であった。
【0190】
第一領域において触媒量が最大値を示す第一線状領域の触媒層の厚みは28μmであり、第二領域において触媒量が最小値を示す第二線状領域での触媒層の厚みは26μmであった。
【0191】
酸化剤流路が幅1mm、深さ0.5mmである点は、実施例1と同様であるが、流路の直線部分のピッチは2.6mmに変更した。セルを組み立てる際には、酸化剤流路の入口部から最も近い直線部分は、カソード拡散層の一辺からの距離が2.7mmの位置から3.7mmの領域に配置し、カソード触媒層の第一領域と、酸化剤流路の直線部分とを正対させた。
【0192】
《実施例6》
カソード触媒層を形成する際の塗布パターンと、酸化剤流路の形状のみを変更し、他は実施例1と同様の燃料電池セルを構成した。
【0193】
具体的には、実施例1と同様の原点を基準にして、ノズルを座標(4,8.9)から(116,8.9)までX軸方向に移動させながら1回目のインク塗布を行い、シフト量をYs=3.3に設定し、座標(4,111.2)から(116,111.2)までの領域への塗布で、第1層の触媒層の塗布を終了した。つまり、シフト回数Sは31回とし、第1層を形成するのに32回の塗布を行った。
【0194】
次に、同じ位置への1回目から32回目までのインク塗布を更に7回繰り返し、触媒層の形成を完了した。つまり、積層数Zは8層、塗布回数Lは256回とした。
【0195】
単位面積あたりの触媒量、すなわちPtの量は、第一領域における最大値が1.5mg/cm2であり、第二領域における最小値が0.75mg/cm2であった。最大値は最小値の2.0倍であった。
【0196】
第一領域において触媒量が最大値を示す第一線状領域の触媒層の厚みは41μmであり、第二領域において触媒量が最小値を示す第二線状領域での触媒層の厚みは22μmであった。
【0197】
酸化剤流路が幅1mm、深さ0.5mmである点は、実施例1と同様であるが、流路の直線部分のピッチは3.3mmに変更した。セルを組み立てる際には、酸化剤流路の入口部から最も近い直線部分は、カソード拡散層の一辺からの距離が1.7mmの位置から2.7mmの領域に配置し、カソード触媒層の第一領域と、酸化剤流路の直線部分とを正対させた。
【0198】
《比較例1》
アノード触媒層を形成する際の塗布パターンのみを変更し、他は実施例1と同様の燃料電池セルを構成した。
【0199】
具体的には、実施例1と同様の原点を基準にして、ノズルを座標(4,10)から(116,10)までX軸方向に移動させながら1回目のインク塗布を行い、シフト量をYs=1.0に設定し、座標(4,110)から(116,110)までの領域への塗布で、第1層の触媒層の塗布を終了した。つまり、シフト回数Sは100回とし、第1層を形成するのに101回の塗布を行った。
【0200】
次に、同じ位置への1回目から101回目までのインク塗布を更に6回繰り返し、触媒層の形成を完了した。つまり、積層数Zは7層、塗布回数Lは707回とした。
【0201】
アノード触媒層に含まれる単位面積あたりのPt−Ru合金の量(平均値)は、3.5mg/cm2であり、触媒層における触媒量の分布は均一であった。具体的には、単位面積あたりの触媒量のばらつきは10%未満(平均値と、最大値または最小値との差が、平均値の10%未満)であった。アノード触媒層の厚みは、85μmであった。
【0202】
[評価試験]
実施例1〜6の燃料電池および比較例1の燃料電池について、発電性能と発電中のメタノールクロスオーバー量の評価を行い、得られた結果から燃料利用率を計算した。
【0203】
燃料電池セルへの空気および燃料の供給量は、精密に調節し、実験の精度を高めるように配慮した。空気の供給については、一般的な空気ポンプではなく、高圧空気ボンベから供給される圧縮空気を、堀場製作所(株)製のマスフローコントローラーにより流量を調節して、セルに供給した。燃料の供給には、日本精密科学(株)製の精密ポンプ(パーソナルポンプNP−KX−100(製品名))を使用した。
【0204】
燃料電池の発電条件は以下の通りである。
4mol/Lのメタノール水溶液を燃料として0.3cm3/minの流量でチューブ式ポンプを用いてアノードに供給した。無加湿の空気を、マスフローコントローラーによって、300cm3/minの流量に制御しながらカソードに供給した。電熱線ヒータと温度コントローラを用いて、セルの温度を60℃となるように制御した。この後、燃料電池を、電子負荷装置「PLZ164WA」(菊水電子工業株式会社製)に接続し、200mA/cm2の一定の電流密度になるように制御しながら、連続発電を行った。
【0205】
アノード側から排出される、未使用の燃料が残存したメタノール水溶液と二酸化炭素からなる気液混合流体を、純水を満たした気体捕集容器に流入させた。こうして、気体と液体のメタノールを、1時間にわたって捕集した。このとき、気体捕集容器は、氷水浴で冷却しておいた。
【0206】
その後、気体捕集容器中のメタノール量をガスクロマトグラフ法によって測定し、アノードの物質収支を計算することで、メタノールクロスオーバー量(MCO量)を求めた。すなわち、アノードに供給したメタノール量から、排出され捕集されたメタノール量と発電電流量から求められるアノードでのメタノール消費量を差し引いて、MCO量を求めた。ここでは、MCO量に相当する量のメタノールが電極酸化された場合に発生し得る電流値を使用した。燃料利用率は下記の計算式(B)によって求めた。
【0207】
燃料利用率=(発電電流)/(発電電流+MCO量の電流換算値)・・・(B)
【0208】
以上の結果を表1に示す。
また、実施例および比較例のそれぞれについて、アノード触媒層およびカソード触媒層を作製するのに要したインク塗布回数L(下記の計算式(C)で求められる値)を表1に示す。
【0209】
塗布回数L=(シフト数S+1)×(積層数Z)・・・(C)
【0210】
【表1】

【0211】
表1から明らかなように、本発明の実施例に係る燃料電池セルは、触媒層を作製する際の工数が大幅に削減されるにも関わらず、発電性能および燃料利用率がともに優れている。特に、発電性能の面では、アノード触媒層およびカソード触媒層ともに、第一領域における触媒量の最大値と第二領域における触媒量の最小値との比が、およそ1.5付近(例えば1.4〜1.6)であるものが最も優れた性能を示す(実施例1、実施例4)。
【0212】
第一領域における触媒量の最大値と第二領域における触媒量の最小値との比が、2.0まで大きくなると、発電性能は多少低下する。これは、第一領域と第二領域の厚みの差が大きくなるため、隣接するマイクロポーラス層が、触媒層の凹凸に十分に追従せず、第二領域とマイクロポーラス層との間に隙間が生じ、両層間の接触抵抗が増加したり、特にカソードにおいては、生成水が隙間に滞留して空気拡散を阻害したりすることに基づくと考えられる。よって、第一領域における触媒量の最大値と第二領域における触媒量の最小値との比が1.5程度である場合に比べて、本発明の効果はやや低下する。
【0213】
しかし、燃料利用率に関しては、第一領域における触媒量の最大値と第二領域における触媒量の最小値との比が2.0のものが最も高い値を示している。これは、燃料が円滑に供給される第一領域において、触媒が多く存在するため、反応が円滑に進んで、多くの燃料が消費されることと関連する。また、触媒層の厚みが大きくなることで、触媒層内での燃料の拡散距離が増加するため、電解質膜とアノード触媒層との界面に到達する燃料の濃度が低下し、メタノールクロスオーバーが低減される効果が顕著に現れるためである。
【0214】
以上のように、本発明によれば、触媒層の作製にかかる工数を削減することで、燃料電池の製造コストを低減しながら、燃料および酸化剤が円滑に供給される部分に、集中的に触媒を存在させることが可能となり、発電性能に優れた燃料電池を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0215】
本発明は、例えば、ノート型パーソナルコンピュータ、携帯電話、携帯情報端末(PDA)等の携帯小型電子機器における電源、キャンプなどのアウトドアレジャー用途のポータブル電源、あるいは電動スクータ用電源などに適用される燃料電池の分野において有用である。
【符号の説明】
【0216】
10:燃料電池、11:電解質膜、12:アノード触媒層、12A:第一領域(アノード)、12B:第二領域(アノード)、13:カソード触媒層、14:アノードマイクロポーラス層、15:アノード多孔質基材、16:アノード拡散層、17:アノード側セパレータ、18:カソードマイクロポーラス層、19:カソード多孔質基材、20:カソード拡散層、21:カソード側セパレータ、22:燃料流路、22A:流路の直線部分、23:アノード、24:酸化剤流路、25:カソード、26、27:ガスケット、28:端板、31:直線状の凸部、36:流路入口、37:流路出口、70:スプレー式塗布装置、71:タンク、72:インク、73:スプレーガン、74:撹拌機、75:開閉バルブ、76:ガス圧力調整器、77:ガス流量調整器、78:アクチュエータ、81:ヒータ、82:触媒量のY軸に沿った断面プロファイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノードとカソードと前記アノードとカソードとの間に配置された電解質膜とを有する膜電極接合体と、
前記アノードに燃料を供給するための燃料流路を有するアノード側セパレータと、
前記カソードに酸化剤を供給するための酸化剤流路を有するカソード側セパレータと、を具備する少なくとも1つのセルを有し、
前記アノードが、前記電解質膜の一方の主面に配置されるアノード触媒層と、前記アノード触媒層に積層されるアノード拡散層とを含み、
前記カソードが、前記電解質膜の他方の主面に配置されるカソード触媒層と、前記カソード触媒層に積層されるカソード拡散層とを含み、
前記燃料流路および前記酸化剤流路の少なくとも一方は、複数の平行な直線部分を有し、
前記アノード触媒層および前記カソード触媒層の少なくとも一方は、前記複数の直線部分と正対する複数の帯状の第一領域と、隣接する前記第一領域の間の、少なくとも一つの第二領域とを有し、
前記第一領域の単位面積あたりの触媒量が、前記第二領域の単位面積あたりの触媒量に比べて平均的に大きくなっている、高分子電解質型燃料電池。
【請求項2】
前記第一領域では、その幅方向において、端部から中央部に向かって前記単位面積あたりの触媒量が増加し、
前記第二領域では、その幅方向において、端部から中央部に向かって前記単位面積あたりの触媒量が減少し、
前記第一領域における前記単位面積あたりの触媒量の最大値は、前記第二領域における前記単位面積あたりの触媒量の最小値の1.1倍以上、2倍以下である、請求項1記載の高分子電解質型燃料電池。
【請求項3】
前記第一領域における前記単位面積あたりの触媒量が前記最大値となる部分は、前記直線部分の幅方向における中央部に正対し、
前記第二領域における前記単位面積あたりの触媒量が前記最小値となる部分は、隣接する前記直線部分の間の前記セパレータの表面(Land)の幅方向における中央部に正対する、請求項2記載の高分子電解質型燃料電池。
【請求項4】
前記第一領域と前記第二領域からなる一対の合計幅が、1mm以上、5mm以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の高分子電解質型燃料電池。
【請求項5】
前記アノード拡散層および前記カソード拡散層の少なくとも一方は、導電性の繊維で形成された基材と、導電性粒子と撥水性樹脂を含むマイクロポーラス層とを有し、
前記マイクロポーラス層は、前記アノード触媒層または前記カソード触媒層に接する側に配置され、かつ、第一領域および第二領域のいずれに対しても、隙間なく接している、請求項1〜4のいずれか1項に記載の高分子電解質型燃料電池。
【請求項6】
前記アノード触媒層または前記カソード触媒層の投影面積に対する、前記第一領域および前記第二領域の合計の割合は、70〜100%である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の高分子電解質型燃料電池。
【請求項7】
前記第一領域の平均厚みは、前記第二領域の平均厚みより大きい、請求項1〜6のいずれか1項に記載の高分子電解質型燃料電池。
【請求項8】
前記燃料流路および前記酸化剤流路の少なくとも一方は、前記複数の直線部分と、隣接する一対の前記直線部分を連結する湾曲部分と、を有するサーペンタイン型の流路である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の高分子電解質型燃料電池。
【請求項9】
前記燃料が、メタノール、エタノール、エチレングリコールおよびジメチルエーテルよりなる群から選択される少なくとも一種である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の高分子電解質型燃料電池。
【請求項10】
アノードとカソードと前記アノードとカソードとの間に配置された電解質膜とを有し、前記アノードが、前記電解質膜の一方の主面に配置されるアノード触媒層と、前記アノード触媒層に積層されるアノード拡散層とを含み、前記カソードが、前記電解質膜の他方の主面に配置されるカソード触媒層と、前記カソード触媒層に積層されるカソード拡散層とを含む、膜電極接合体を形成する工程を有し、
前記アノード触媒層および前記カソード触媒層の少なくとも一方が、
(i)触媒、電解質およびこれらの分散媒を含む触媒インクを準備する工程と、
(ii)互いに直交するX軸およびY軸の方向に移動可能であり、かつ前記X軸と前記Y軸を有するX−Y平面に前記インクを吐出可能である吐出ノズルを有するスプレー式塗布装置を準備する工程と、
(iii)電解質膜または基材を準備し、前記吐出ノズルの移動可能範囲内で前記X−Y平面と平行になるように、前記電解質膜または前記基材を設置する工程と、
(iv)直線X=X0と直線X=X0+Lとの間の領域において、前記吐出ノズルを前記X軸方向に移動させながら前記吐出ノズルから前記インクを吐出して、前記電解質膜または前記基材の表面に、複数の直線Y=Y0+nΔY、ただしn=0、1、2、・・・mであり、mは1以上の整数、に沿う複数の帯状触媒層を形成する工程と、を有し、
前記ΔYは、前記複数の直線Y=Y0+nΔYに沿う第一線状領域の単位面積あたりの触媒量が、直線Y=Y0+(2N−1)×ΔY/2、ただしN=1、2、・・・Mであり、Mは1以上の整数、に沿う第二線状領域の単位面積あたりの触媒量の1.1倍以上、2倍以下になるように選択される、高分子電解質型燃料電池の製造方法。
【請求項11】
前記複数の帯状触媒層のうちL+1番目の帯状触媒層は、L番目の帯状触媒層、ただしLは1以上の整数、を乾燥させた後に形成する、請求項10記載の高分子電解質型燃料電池の製造方法。
【請求項12】
更に、前記アノードに燃料を供給するための燃料流路を有するアノード側セパレータと、前記カソードに酸化剤を供給するための酸化剤流路を有するカソード側セパレータと、を準備する工程を有し、
前記燃料流路および前記酸化剤流路の少なくとも一方は、複数の平行な直線部分を有し、前記直線部分の幅方向における中央部が、前記第一線状領域と正対する、請求項10または11記載の高分子電解質型燃料電池の製造方法。
【請求項13】
更に、前記第一線状領域と前記直線部分の幅方向における中央部とが正対するように、前記膜電極接合体を前記アノード側セパレータおよび前記カソード側セパレータで挟持してセルを形成する工程を有する、請求項12記載の高分子電解質型燃料電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−48080(P2013−48080A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−110238(P2012−110238)
【出願日】平成24年5月14日(2012.5.14)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】