説明

高分子電解質組成物及びその用途

【課題】従来の高分子電解質膜は耐酸化性が低く、燃料電池を長時間動作させることができなかった。本発明の目的は、高分子電解質膜,高分子電解質複合膜の耐酸化性を向上させ、燃料電池を長時間運転させた場合に、燃料電池の出力低下を抑えることである。
【解決手段】高分子電解質と酸化防止剤とを有する高分子電解質組成物であって、前記酸化防止剤はラジカル捕捉剤及び過酸化物分解剤であり、前記ラジカル捕捉剤は融点が100℃以上のヒンダートフェノール系酸化防止剤であることを特徴とする高分子電解質組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐酸化性に優れた高分子電解質組成物及びその用途に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、CO2 の排出が少ない燃料電池は地球温暖化防止に貢献でき、クリーンな発電装置として注目されている。高分子電解質を用いた燃料電池としては、固体高分子型燃料電池(PEFC),ダイレクトメタノール型燃料電池(DMFC)が挙げられ、どちらも作動温度が低い特徴がある。PEFC,DMFCに用いられている高分子電解質は、陽イオン交換基を有しており、イオン交換基は発電に必要なプロトン(H+ )をアノード極からカソード極へ伝達する働きをしている。
【0003】
PEFCでは、発電時に反応副生成物として過酸化水素が生成することが知られている。この過酸化物は特定の金属イオン(Fe2+,Cu2+,Mn2+)により分解され、ヒドロキシラジカル(OH・)に変化することが知られている。ヒドロキシラジカルによって高分子電解質の分子鎖が切断され、高分子電解質が酸化劣化するという課題がある。同様なことはDMFCでも確認された。特に炭化水素系高分子電解質は耐酸化性に乏しい。
【0004】
高分子電解質の耐酸化性の改良方法として酸化防止剤を添加する手法がある。特許文献1ではポリアリーレン重合体組成物に酸化防止剤としてヒンダートフェノール系酸化防止剤,ヒンダートアミン系酸化防止剤,有機リン系酸化防止剤,有機イオウ系酸化防止剤を添加し、高分子電解質組成物の耐酸化性を向上させている。特許文献2ではフェノール系酸化防止剤を添加し、高分子電解質組成物の耐酸化性を向上させている。
【0005】
【特許文献1】特開2005−213325号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の高分子電解質膜は耐酸化性が低く、燃料電池を長時間動作させることができなかった。
【0007】
本発明の目的は、高分子電解質膜,高分子電解質複合膜の耐酸化性を向上させ、燃料電池を長時間運転させた場合に、燃料電池の出力低下を抑えることのできる高分子電解質組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
高分子電解質と酸化防止剤とを有する高分子電解質組成物であって、前記酸化防止剤はラジカル捕捉剤及び過酸化物分解剤を有し、前記ラジカル捕捉剤は融点が100℃以上のヒンダートフェノール系酸化防止剤であることを特徴とする高分子電解質組成物である。
【発明の効果】
【0009】
融点が100℃以上のラジカル捕捉剤を用いることで得られた高分子電解質膜,高分子電解質複合膜の耐酸化性は向上し、燃料電池の出力電位の低下を抑える効果も得られた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
発明者らは鋭意検討を重ねた結果、高分子電解質に添加する酸化防止剤はラジカル捕捉剤と過酸化物分解剤を併用し、ラジカル捕捉剤は融点が100℃以上のものを用いることで得られる高分子電解質膜,高分子電解質複合膜は耐酸化性が向上し、該高分子電解質複合膜を用いた燃料電池の出力低下が抑えられることを見出した。
【0011】
本実施形態における高分子電解質組成物は、高分子電解質,酸化防止剤としてラジカル捕捉剤及び過酸化物分解剤,溶媒から構成される。
【0012】
本実施形態における高分子電解質は、スルホン化ポリエーテルスルホン及びスルホアルキル化ポリエーテルスルホンである。
【0013】
本実施形態におけるラジカル捕捉剤は融点が100℃以上のヒンダートフェノール系酸化防止剤,過酸化物分解剤は有機リン系酸化防止剤及び有機イオウ系酸化防止剤である。
【0014】
本実施形態では、ラジカル捕捉剤と過酸化物分解剤を併用することで酸化防止剤の効果が得られる。ヒンダートフェノール系酸化防止剤としては、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン(商品名:IRGANOX 1330)、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](商品名:IRGANOX 1010)、2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート(商品名:Sumilizer GM)、2−[1−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ペンチルフェニル)エチル]−4,6−ジ−t−ペンチルフェニルアクリレート(商品名:Sumilizer GS)、N,N′−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)(商品名:IRGANOX 1098)、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](商品名:IRGANOX 259)、3,9−ビス[2−[3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]1,1−ジメチルエチル]2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン(商品名:Sumilizer GA−80) 、トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート(商品名:IRGANOX 3114)、イソオクチル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(商品名:IRGANOX 1135)、4,4′−チオビス(6−t−ブチル−3−メチルフェノール)(商品名:Sumilizer WX−R)、6−[3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロポキシ]−2,4,8,10−テトラ−t−ブチルジベンズ[d,f][1,3,2]ジオキサフォスフェピン(商品名:Sumilizer GP)などが挙げられる。
【0015】
本発明における有機リン系酸化防止剤は、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)
[1,1−ビフェニル]−4,4′−ジイルビスホスファイト、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド(商品名:SANKO−
HCA)、トリエチルホスファイト(商品名:JP302)、トリ−n−ブチルホスファイト(商品名:JP304)、トリフェニルホスファイト(商品名:アデカスタブ TPP)、ジフェニルモノオクチルホスファイト(商品名:アデカスタブ C)、トリ(p−クレジル)ホスファイト(商品名:Chelex−PC)、ジフェニルモノデシルホスファイト(商品名:アデカスタブ 135A)、ジフェニルモノ(トリデシル)ホスファイト(商品名:JPM313)、トリス(2−エチルヘキシル)ホスファイト(商品名:JP308)、フェニルジデシルホスファイト(アデカスタブ 517)、トリデシルホスファイト
(商品名:アデカスタブ 3010)、テトラフェニルジプロピレングリコールジホスファイト(商品名:JPP100)、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト(商品名:アデカスタブ PEP−24G)、トリス(トリデシル)ホスファイト(商品名:JP333E)、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト(商品名:アデカスタブ PEP−4C)、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト(商品名:アデカスタブ PEP−36)、ビス[2,4−ジ(1−フェニルイソプロピル)フェニル]ペンタエリスリトールジホスファイト(商品名:アデカスタブ PEP−45)、トリラウリルトリチオホスファイト(商品名:JPS312)、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト(商品名IRGAFOS 168)、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト(商品名:アデカスタブ 1178)、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト(商品名:アデカスタブ PEP−8)、トリス(モノ,ジノニルフェニル)ホスファイト(商品名:アデカスタブ 329K)、トリオレイルホスファイト(商品名:
Chelex−OL)、トリステアリルホスファイト(商品名:JP318E)、4,4′−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェニルジトリデシル)ホスファイト(商品名:JPH1200)、テトラ(C12−C15混合アルキル)−4,4′−イソプロピリデンジフェニルジホスファイト(商品名:アデカスタブ 1500)、テトラ(トリデシル)−4,4′−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)ジホスファイト(商品名:アデカスタブ 260)、ヘキサ(トリデシル)−1,1,3−トリス(2−メチル−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)ブタン−トリホスファイト
(商品名:アデカスタブ 522A)、水添ビスフェノール A ホスファイトポリマー(HBP)、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニルオキシ)4,4′−ビフェニレン−ジ−ホスフィン(商品名:IRGAFOS P−EPQ)、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチル−5−メチルフェニルオキシ)4,4′−ビフェニレン−ジ−ホスフィン(商品名:GSY−101P)、2−[[2,4,8,10−テトラキス(1,1−ジメチルエテル)ジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサフォスフェピン6−イル]オキシ]−N,N−ビス[2−[[2,4,8,10−テトラキス(1,1ジメチルエチル)ジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサフォスフェピン−6−イル]オキシ]−エチル]エタナミン(商品名:IRGAFOS 12)、2,2′−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト(商品名:アデカスアブ HP−10)などが挙げられ、特に限定はされない。
【0016】
本発明における有機イオウ系酸化防止剤は、ジラウリル−3,3′−チオジプロピオネート(商品名:Sumilizer TPL−R)、ジミリスチル−3,3′−チオジプロピオネート(商品名:Sumilizer TPM)、ジステアリル−3,3′−チオジプロピオネート(商品名:Sumilizer TPS)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)(商品名:Sumilizer TP−D)、ジトリデシル−3,3′−チオジプロピオネート(商品名:Sumilizer TL)、2−メルカプトベンズイミダゾール(商品名:
Sumilizer MB)、ジトリデシル−3,3′−チオジプロピオネート(商品名:アデカスタブAO−503A)、1,3,5−トリス−β−ステアリルチオプロピオニルオキシエチルイソシアヌレート、3,3′−チオビスプロピオン酸ジドデシルエステル(商品名:IRGANOX PS 800FL)、3,3′−チオビスプロピオン酸ジオクデシルエステル
(商品名:IRGANOX PS 802FL)などが挙げられ、特に限定はされない。
【0017】
本発明における溶媒は、1−メチル2−ピロリドン(NMP)、N−Nジメチルアセトアミド(DMAc)、N−Nジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド
(DMSO)等が挙げられ、特に限定されない。
【0018】
本発明における高分子電解質複合膜は、高分子電解質組成物と多孔質支持体により複合化されている。多孔質支持体は高分子電解質膜の寸法安定化のために用いられ、ポリオレフィンが好ましい。ポリオレフィン系多孔質支持体としてはポリエチレン,ポリプロピレンがあり、特に限定はされない。多孔質支持体の厚さは、高分子電解質複合膜の厚さに対する割合が20%から80%の範囲が好ましい。高分子電解質複合膜の厚さに対する割合が20%より小さい場合、多孔質支持体の強度が不足し寸法安定効果が得られない。高分子電解質複合膜の厚さに対する割合が80%より大きい場合、得られる高分子電解質複合膜の電気抵抗が大きくなってしまう。多孔質支持体の孔径は0.01μm から10μmの範囲が好ましい。多孔質支持体の孔径が0.01μm より小さい場合、高分子電解質組成物の含浸が困難となってしまう。多孔質支持体の孔径が10μmより大きい場合、多孔質支持体の強度が不足し寸法安定効果が得られない。多孔質支持体の空孔率は40%から
90%の範囲が好ましい。多孔質支持体の空孔率が40%より小さい場合、得られる高分子電解質複合膜の電気抵抗が大きくなってしまう。多孔質支持体の空孔率が90%より大きい場合、多孔質支持体の強度が不足し寸法安定効果が得られない。
【0019】
本発明における高分子電解質組成物の粘度は、1000cpから3000cpであり、特に1000cpから2000cpが好ましい。1000cpより粘度が低い場合、高分子電解質組成物の流動性が高いため得られる高分子電解質膜の厚さが不均一になってしまう。粘度が3000cpより高い場合、高分子電解質組成物の流動性が悪く膜化が困難となる。多孔質支持体との複合膜を作る場合、流動性が悪いため支持体の孔への高分子電解質組成物の含浸が困難となってしまう。
【0020】
本実施形態における燃料電池の膜/電極接合体は、本実施形態により得られる高分子電解質膜あるいは高分子電解質複合膜を用いている。これらの膜の両面には、触媒及び集電機能を有する導電性物質が接合されている。触媒としては、燃料の酸化反応および酸化ガスの還元反応を促進するものであればよく、例えば、白金,金,銀,パラジウム,イリジウム,ロジウム,ルテニウム,鉄,コバルト,ニッケル,クロム,タングステン,マンガン,バナジウム等の金属や合金あるいは化合物を用いることができる。この中でも、白金およびその合金が燃料の酸化反応や酸化ガスの還元反応を促進する効果に優れており好ましい。
【0021】
前記触媒は、粒子状で単独あるいはカーボン材料に代表される担体上に分散された状態で用いることが好ましい。前記カーボン材料としては、例えばファーネスブラック,チャンネルブラック,アセチレンブラック等のカーボンブラックやカーボンナノチューブ等の繊維状炭素あるいは活性炭,黒鉛等を用いることができ、これらは単独あるいは混合して使用することができる。
【0022】
(高分子電解質組成物の作製)
高分子電解質組成物の固形分量は、高分子電解質がスルホン化ポリエーテルスルホンでは30wt%、スルホアルキル化ポリエーテルスルホンでは25wt%とした。固形分量は下記の数式より算出した。
【0023】
高分子電解質組成物の固形分量(wt%)=高分子電解質の重量/(高分子電解質の 重量+溶媒の重量)×100
高分子電解質,酸化防止剤にDMAcを加え、室温で24時間混合することで高分子電解質組成物を得た。
【0024】
(高分子電解質膜の作製)
基材となるPETフィルムに高分子電解質組成物を塗布。アプリケータを用い高分子電解質組成物を延ばし膜状にした。70℃/20分+100℃/20分の温風乾燥により溶媒を除去。PETフィルムから高分子電解質膜をはがし40℃の純水に30分間浸漬した。水滴を除去し得られた高分子電解質膜を室温で24時間乾燥した。
【0025】
(高分子電解質複合膜の作製)
基材となるPETフィルムに厚さ20μm,孔径5μm,空孔率90%のポリエチレン製多孔質支持体を置き高分子電解質組成物を塗布。アプリケータを用いて高分子電解質組成物を延ばし膜状にした。70℃/20分+100℃/20分の温風乾燥により溶媒を除去。PETフィルムから高分子電解質膜をはがし40℃の純水に30分間浸漬した。水滴を除去し得られた高分子電解質膜を室温で24時間乾燥した。
【0026】
(膜/電極接合体:MEAの作製)
炭素担体上に白金とルテニウムの原子比が1/1の白金/ルテニウム合金微粒子を30wt%担持した触媒粉末と純水、5wt%ナフィオン溶液(アルドリッチ社製)を重量比1/1/15の割合で混合し、24時間攪拌することで触媒スラリーが得られた。得られた触媒スラリーをスクリーン印刷法でポリイミドフィルム上に厚さ約125μm,幅30mm,長さ30mmのアノ−ド電極を作製した。次に、炭素担体上に30wt%の白金微粒子を担持した触媒粉末と純水、5wt%ナフィオン溶液(アルドリッチ社製)を重量比1/1/15の割合で混合し、24時間攪拌することで触媒スラリーが得られた。得られた触媒スラリーをスクリーン印刷法でポリイミドフィルム上に厚さ約125μm,幅30mm,長さ30mmのカソード電極を作製した。アノ−ド電極表面に触媒スラリーに用いた5wt%ナフィオン溶液を約0.5ml 浸透させた後に高分子電解質膜または高分子電解質複合膜に接合し、約1kgの荷重をかけて80℃で3時間乾燥した。次に、触媒スラリーに用いた5wt%ナフィオン溶液をカソ−ド電極表面に約0.5ml 浸透させた後にアノード層と反対側の面に、先に接合したアノ−ド層と重なるような位置に接合して約1kgの荷重をかけて80℃で3時間乾燥することによってMEAを作製した。MEAの構造を図1に示す。
【0027】
(耐酸化性の評価)
高分子電解質膜を3cm×3cmの大きさに切断、50℃で3時間減圧乾燥し重量を測定した。3重量%の過酸化水素に硫酸鉄・七水和物を添加し、鉄イオンの濃度が20ppm になるようにフェントン試験薬を調合した。300mlのポリエチレン製容器に250gのフェントン試験薬を採取し、大きさが3cm×3cmの高分子電解質膜を5枚投入,密栓後、
40℃の恒温槽に入れ24時間のフェントン試験を行った。フェントン試験後、高分子電解質膜を取り出しイオン交換水で水洗後、50℃で3時間減圧乾燥し重量を測定した。フェントン試験における重量保持率は、下記の数式により算出した。
【0028】
フェントン試験における重量保持率(%)=フェントン試験後の高分子電解質膜の重 量/フェントン試験前の高分子電解質膜の重量×100
高分子電解質複合膜についても高分子電解質膜と同じ手順で耐酸化性の評価を行い、同じ計算方法で重量保持率を算出した。
【0029】
(燃料電池の作製,発電特性の評価)
図2に示す固体高分子形燃料電池発電装置単セルを用いて前記拡散層付MEAを組み込んで燃料電池を作製し電池性能を測定した。図2において、1は高分子電解質複合膜、2はアノード電極、3はカソード電極、4はアノード拡散層、5はカソード拡散層、6はアノード集電体、7はカソード集電体、8は燃料、9は空気、10はアノード端子、11はカソード端子、12はアノード端板、13はカソード端板、14はガスケット、15はO−リング、16はボルト/ナットである。燃料としてアノードに20wt%のメタノール水溶液を循環させ、カソードに空気を供給した。50mA/cm2 の負荷をかけながら30℃で連続運転した。
【実施例1】
【0030】
高分子電解質はスルホン化ポリエーテルスルホン、ラジカル捕捉剤は1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン(商品名:IRGANOX 1330)、過酸化物分解剤はテトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニルオキシ)4,4′−ビフェニレン−ジ−ホスフィン(商品名:IRGAFOSP−EPQ)をそれぞれ1.0 重量部添加し、高分子電解質組成物及び高分子電解質膜を作製した。
【実施例2】
【0031】
高分子電解質はスルホン化ポリエーテルスルホン、ラジカル捕捉剤は1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン(商品名:IRGANOX 1330)、過酸化物分解剤は3,3′−チオビスプロピオン酸ジオクデシルエステル(商品名:IRGANOX PS 802FL)をそれぞれ1.0重量部添加し、高分子電解質組成物及び高分子電解質膜を作製した。
【実施例3】
【0032】
高分子電解質はスルホアルキル化ポリエーテルスルホン、ラジカル捕捉剤は1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン(商品名:IRGANOX 1330)、過酸化物分解剤はテトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニルオキシ)4,4′−ビフェニレン−ジ−ホスフィン(商品名:IRGAFOS P−EPQ)をそれぞれ1.0 重量部添加し、高分子電解質組成物及び高分子電解質膜を作製した。
【実施例4】
【0033】
高分子電解質はスルホアルキル化ポリエーテルスルホン、ラジカル捕捉剤は1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン(商品名:IRGANOX 1330)、過酸化物分解剤は3,3′−チオビスプロピオン酸ジオクデシルエステル(商品名:IRGANOX PS 802FL)をそれぞれ1.0 重量部添加し、高分子電解質組成物及び高分子電解質膜を作製した。
【実施例5】
【0034】
実施例1の高分子電解質組成物を用いて得た高分子電解質複合膜である。
【実施例6】
【0035】
実施例2の高分子電解質組成物を用いて得た高分子電解質複合膜である。
【実施例7】
【0036】
実施例3の高分子電解質組成物を用いて得た高分子電解質複合膜である。
【実施例8】
【0037】
実施例4の高分子電解質組成物を用いて得た高分子電解質複合膜である。
【実施例9】
【0038】
実施例5の高分子電解質複合膜を用いて作製した膜/電極接合体を図1に示す。図2に示す単セルを用いて燃料電池を作製し発電試験を行った。アノード拡散層はカーボンペーパー,カソード拡散層はカーボンクロスを用いた。
【実施例10】
【0039】
実施例6の高分子電解質複合膜を用いて作製した膜/電極接合体を図1に示す。図2に示す単セルを用いて燃料電池を作製し発電試験を行った。アノード拡散層はカーボンペーパー,カソード拡散層はカーボンクロスを用いた。
【実施例11】
【0040】
実施例7の高分子電解質複合膜を用いて作製した膜/電極接合体を図1に示す。図2に示す単セルを用いて燃料電池を作製し発電試験を行った。アノード拡散層はカーボンペーパー,カソード拡散層はカーボンクロスを用いた。
【実施例12】
【0041】
実施例8の高分子電解質複合膜を用いて作製した膜/電極接合体を図1に示す。図2に示す単セルを用いて燃料電池を作製し発電試験を行った。アノード拡散層はカーボンペーパー,カソード拡散層はカーボンクロスを用いた。
〔比較例1〕
高分子電解質はスルホン化ポリエーテルスルホン,ラジカル捕捉剤は2,4−ビス−
(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン(商品名:IRGANOX 565)、過酸化物分解剤はトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト(商品名IRGAFOS P−EPQ)をそれぞれ1.0重量部添加し、高分子電解質組成物及び高分子電解質膜を作製した。
〔比較例2〕
高分子電解質はスルホン化ポリエーテルスルホン、ラジカル捕捉剤は2,4−ビス−
(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン(商品名:IRGANOX 565)、過酸化物分解剤は3,3′−チオビスプロピオン酸ジオクデシルエステル(商品名:IRGANOX PS 802FL)をそれぞれ1.0重量部添加し、高分子電解質組成物及び高分子電解質膜を作製した。
〔比較例3〕
高分子電解質はスルホアルキル化ポリエーテルスルホン、ラジカル捕捉剤は2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン(商品名:IRGANOX 565)、過酸化物分解剤はトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト(商品名IRGAFOS P−EPQ)をそれぞれ
1.0重量部添加し、高分子電解質組成物及び高分子電解質膜を作製した。
〔比較例4〕
高分子電解質はスルホアルキル化ポリエーテルスルホン、ラジカル捕捉剤は2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン(商品名:IRGANOX 565)、過酸化物分解剤は3,3′−チオビスプロピオン酸ジオクデシルエステル(商品名:IRGANOX PS 802FL)をそれぞれ1.0重量部添加し、高分子電解質組成物及び高分子電解質膜を作製した。
〔比較例5〕
比較例1の高分子電解質組成物を用いて得た高分子電解質複合膜である。
〔比較例6〕
比較例2の高分子電解質組成物を用いて得た高分子電解質複合膜である。
〔比較例7〕
比較例3の高分子電解質組成物を用いて得た高分子電解質複合膜である。
〔比較例8〕
比較例4の高分子電解質組成物を用いて得た高分子電解質複合膜である。
〔比較例9〕
比較例5の高分子電解質複合膜を用いて膜/電極接合体を作製し、図2に示す単セルを用いて発電試験を行った。
〔比較例10〕
比較例6の高分子電解質複合膜を用いて膜/電極接合体を作製し、図2に示す単セルを用いて発電試験を行った。
〔比較例11〕
比較例7の高分子電解質複合膜を用いて膜/電極接合体を作製し、図2に示す単セルを用いて発電試験を行った。
〔比較例12〕
比較例8の高分子電解質複合膜を用いて膜/電極接合体を作製し、図2に示す単セルを用いて発電試験を行った。
【0042】
表1と表2に上記実施例と比較例とをまとめる。比較例1〜4で使用したラジカル捕捉剤の融点は100℃未満のものであり、高分子電解質膜作製時に100℃の熱が加えられたことによりラジカル捕捉剤が酸化し、ラジカル捕捉機能が失われフェントン試験後の重量保持率は0wt%となったと思われる。比較例5〜8は比較例1〜4の高分子電解質組成物を用いたことにより、フェントン試験後はポリエチレン製多孔質支持体のみとなり、そのため重量保持率は20wt%となった。比較例9〜12は比較例5〜8の高分子電解質複合膜を用いた燃料電池であり、1000時間後の出力電位が0Vとなった。
【0043】
実施例1〜4で使用したラジカル捕捉剤の融点は100℃以上であり、高分子電解質膜作製時に100℃の熱が加えられても酸化せず、ラジカル捕捉機能が働きフェントン試験後の重量保持率は100wt%となったと思われる。実施例5〜8は実施例1〜4の高分子電解質組成物を用いたことにより、フェントン試験後の重量保持率は100wt%となった。実施例9〜12の燃料電池は4000時間後の出力電位が0.3Vから0.35Vであった。
【0044】
【表1】

【0045】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本実施形態に関わる膜電極接合体を示す図。
【図2】本実施形態に関わる固体高分子形燃料電池発電装置単電池セルを示す図。
【符号の説明】
【0047】
1…高分子電解質複合膜、2…アノ−ド電極、3…カソード電極、4…アノード拡散層、5…カソ−ド拡散層、6…アノード集電体、7…カソード集電体、8…燃料、9…空気、10…アノード端子、11…カソード端子、12…アノード端板、13…カソード端板、14…ガスケット、15…O−リング、16…ボルト/ナット。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子電解質と酸化防止剤とを有する高分子電解質組成物であって、前記酸化防止剤はラジカル捕捉剤及び過酸化物分解剤であり、前記ラジカル捕捉剤は融点が100℃以上のヒンダートフェノール系酸化防止剤であることを特徴とする高分子電解質組成物。
【請求項2】
前記高分子電解質がスルホン化ポリエーテルスルホン又はスルホアルキル化ポリエーテルスルホンである高分子電解質組成物。
【請求項3】
請求項1〜2に記載の高分子電解質組成物を膜化,溶媒を除去することで得られる高分子電解質膜。
【請求項4】
請求項1〜2に記載の高分子電解質組成物を多孔質の支持体に含浸し、溶媒を除去することで得られる高分子電解質複合膜。
【請求項5】
請求項4に記載の高分子電解質複合膜の両面に一対の電極を形成させた膜/電極接合体。
【請求項6】
請求項4に記載の膜/電極接合体を用いた燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−27586(P2008−27586A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−195060(P2006−195060)
【出願日】平成18年7月18日(2006.7.18)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 固体高分子形燃料電池実用化戦略的技術開発 要素技術開発 高出力高耐久性炭化水素系膜/電極接合体(MEA)の研究開発委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】