説明

高分子電解質膜、その製造方法、及びこれを用いた電極−膜接合体、固体高分子型燃料電池

【課題】過酸化水素、ラジカル耐性が高く、初期の出力電圧が高く、長期に渡って高い出力電圧が得られる固体高分子型燃料電池用のプロトン伝導膜を提供する。
【解決手段】(A)スルホン酸基を有するポリアリーレン系共重合体および(B)BET法で測定した比表面積が55m2/g以下であるマンガン含有酸化物を含有してなる高分子電解質膜。前記(B)マンガン含有酸化物が、マンガン酸化物又はMn及びNi、Bi、Ceの少なくとも一つの元素を含む複合酸化物の少なくとも一つであり、さらには、(B)マンガン含有酸化物が、MnO2、Mn23、Mn及びBiを含む複合酸化物、Mn及びNiを含む複合酸化物の少なくとも一つである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過酸化水素、ラジカル耐性が高く、初期の出力電圧が高く、長期に渡って高い出力電圧が得られる固体高分子型燃料電池用のプロトン伝導膜に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池は、プ高分子電解質膜の両側にアノード電極およびカソード電極が配され、この両側がセパレータで挟まれたセルをユニットとして構成されている。
上記電極は、ガス拡散の促進および集電を行う電極基材と、実際に電気化学反応場となる触媒層とから構成されている。具体的には、アノード電極では、触媒層で燃料ガスが反応してプロトンおよび電子を生じ、電子は電極基材に伝導し外部回路に送られ、プロトンは電極電解質を介して固体高分子電解質膜へと伝導する。一方、カソード電極では、触媒層で酸化ガスと、固体高分子電解質膜から伝導してきたプロトンと、外部回路を経て電極基材から伝導してきた電子とが反応して水を生成する。
【0003】
ところでこれらの固体高分子型燃料電池においては、電池反応によって高分子電解質膜と電極の界面に形成された触媒層において過酸化物が生成し、生成した過酸化物が拡散しながら過酸化物ラジカルとなって電解質を劣化させる。これらの電極上で発生した過酸化水素は、電極から拡散等のため離れ、電解質中に移動する。この過酸化水素は酸化力の強い物質で、電解質を構成する多くの有機物を酸化する。多くの場合、過酸化水素がラジカル化し、生成した過酸化水素ラジカルが酸化反応の直接の反応物質になっていると考えられる。
【0004】
電解質としてよく用いられるデュポン社のNafionで代表される全フッ素系のパーフルオロスルホン酸ポリマーは、一般にラジカル耐性が高いが、機械的強度が低く、発電出力が向上する高温での使用ができないという問題を有している。一方、非パーフルオロスルホン酸ポリマーは、機械的強度が高く、高温での使用が可能であるが、ラジカル耐性が低いという問題を有している。
【0005】
非パーフルオロスルホン酸ポリマーにおける問題点であるラジカル耐性の低さを改善するために、スルホン化ポリスチレン−グラフトーETFE膜に二酸化マンガンなどの金属酸化物を過酸化水素分解触媒として添加する技術(特許文献1)、また、スルホン化ポリエーテルエーテルケトンに二酸化マンガンなどの金属酸化物を添加し、電解質膜のラジカル耐性を向上させる技術(特許文献2)が開示されている。
【0006】
さらに、特許文献3でスルホン酸基を有するセグメントとスルホン酸を有さないセグメントからなるスルホン基を有するポリアリーレン系共重合体にMnO2を添加させて耐久性を向上させているが、添加量が多く、且つ使用するMnO2の平均サイズが大きいため、高分子電解質膜中でのMnO2の分散状態が悪く、耐久性は十分ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−106203号公報
【特許文献2】特開2001−118591号公報
【特許文献3】特開2005−135651号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、過酸化水素、ラジカル耐性が高く、初期の出力電圧が高く、長期に渡って高い出力電圧が得られる燃料電池が得られる高分子電解質膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の構成は以下の通りである。
[1](A)スルホン酸基を有するポリアリーレン系共重合体および(B)BET法で測定した比表面積が55m2/g以下であるマンガン含有酸化物を含有してなる高分子電解質膜。
[2]前記(B)マンガン含有酸化物が、マンガン酸化物又はMn及びNi、Bi、Ceの少なくとも一つの元素を含む複合酸化物の少なくとも一つである[1]の高分子電解質膜。
[3]前記(B)マンガン含有酸化物が、MnO2、Mn23、Mn及びBiを含む複合酸化物、Mn及びNiを含む複合酸化物の少なくとも一つである[2]の高分子電解質膜。
[4](A)スルホン酸基を有するポリアリーレン系共重合体が、下記一般式(3)で表される構造単位、および下記一般式(4)で表される構造単位を含む[1]〜[3]の高分子電解質膜。
【0010】
【化1】

(式中、Yは−CO−、−SO2−、−SO−、−CONH−、−COO−、−(CF2l−(lは1〜10の整数である)、−C(CF32−からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示し、Zは直接結合または、−(CH2l−(lは1〜10の整数である)、−C(CH32−、−O−、−S−からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示し、Arは−SO3Hまたは−O(CH2pSO3Hまたは−O(CF2pSO3Hで表される置換基を有する芳香族基を示す。pは1〜12の整数を示し、mは0〜10の整数を示し、nは0〜10の整数を示し、kは1〜4の整数を示す。)
【0011】
【化2】

(式中、A、Dは独立に直接結合または、−CO−、−SO2−、−SO−、−CONH−、−COO−、−(CF2l−(lは1〜10の整数である)、−(CH2l−(lは1〜10の整数である)、−CR’2−(R’は脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基およびハロゲン化炭化水素基を示す)、シクロヘキシリデン基、フルオレニリデン基、−O−、−S−からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示し、Bは独立に酸素原子または硫黄原子であり、R1〜R16は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、フッ素原子、アルキル基、一部またはすべてがハロゲン化されたハロゲン化アルキル基、アリル基、アリール基、ニトロ基、ニトリル基からなる群より選ばれた少なくとも1種の原子または基を示す。s、tは0〜4の整数を示し、rは、0または1以上の整数を示す。)
[5](A)スルホン酸基を有するポリアリーレン系共重合体が、下記一般式(1)で表される構造を含む[4]の高分子電解質膜。
【0012】
【化3】

[式(1)中、Yは、−CO−、−SO2−、−SO−、−CONH−、−COO−、−(CF2i−(iは1〜10の整数を示す。)または−C(CF32−を示し、Zは、独立に直接結合、−(CH2j−(jは1〜10の整数を示す。)、−C(CH32−、−O−または−S−を示し、Arは、−SO3H、−O(CH2pSO3Hまたは−O(CF2pSO3H(pは1〜12の整数を示す。)で表される置換基を有する芳香族基を示し、mは0〜10の整数を示し、nは0〜10の整数を示し、kは1〜4の整数を示す。
【0013】
AおよびDは、それぞれ独立に直接結合、−CO−、−SO2−、−SO−、−CONH−、−COO−、−(CF2i−(iは1〜10の整数を示す。)、−(CH2j−(jは1〜10の整数を示す。)、−CR’2−(R’は脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基またはハロゲン化炭化水素基を示す。)、シクロヘキシリデン基、フルオレニリデン基、−O−または−S−を示し、Bは独立に酸素原子または硫黄原子であり、R1〜R16は、それぞれ独立に水素原子、フッ素原子、アルキル基、一部もしくは全部がハロゲン化されたハロゲン化アルキル基、アリル基、アリール基、ニトロ基またはニトリル基を示し、sおよびtは、それぞれ0〜4の整数を示し、rは0または1以上の整数を示す。]
Zは直接結合または、−O−、−S−からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示し、Yは、−CO−、−SO2−、−SO−、−CONH−、−COO−、−(CF2l−(lは1〜10の整数である)、−C(CF32−からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示し、R20は含窒素複素環基を示す。qは1〜5の整数を示し、pは0〜4の整数を示す。
x、y、zは、x+y+z=100mol%とした場合のモル比を示す。〕
【0014】
[6](A)スルホン酸基を有するポリアリーレン系共重合体を有機溶媒に溶解又は分散する工程と、(B)BET法で測定した比表面積が55m2/g以下であるマンガン含有酸化物を添加し、5000回/分以上の回転数で高速攪拌して(B)マンガン含有酸化物を分散する工程と、を含む高分子電解質膜の製造方法。
[7]前記[1]〜[5]の高分子電解質膜を含む電極−膜接合体。
[8]前記[7]の電極−膜接合体を含む固体高分子型燃料電池。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る高分子電解質膜について詳細に説明する。
[分子電解質膜]
本発明の高分子電解質膜は、(A)プロトン酸基含有芳香族系ポリマーとBET法で測定した比表面積が55m2/g以下であるマンガン含有酸化物とを含有している。そして、本発明の高分子電解質膜中の(A)プロトン酸基含有芳香族系ポリマーは、後述するプロトン酸基を有するポリマーセグメントからなる海状の連続相と、プロトン酸基を有さないポリマーセグメントの島状の不連続相からなるいわゆる海島構造のミクロ相分離構造を構成していることが好ましい。このような連続相の確認は、TEM観察によって行う。
【0016】
このようなミクロ相分離構造を有する高分子電解質膜は、(A)プロトン酸基含有芳香族系ポリマーがブロック共重合体であり、また、プロトン酸基含有芳香族系ポリマーのイオン交換容量が1.5〜3.5meq/gであることにより好ましく実現される。本発明の高分子電解質膜は、このようなミクロ分離構造を有することにより、(B)マンガン含有酸化物を添加しても、プロトン伝導性の低下が小さく、また、熱水による膨潤が小さく、前記マンガン含有酸化物の溶出がみられない。また、イオン伝導成分を有するポリマーセグメントが連続相であるため、プロトン伝導パスが切断される確率が低く、初期出力電圧の低下が小さい傾向にある。
【0017】
[(A)プロトン酸基含有芳香族系ポリマー]
(A)プロトン酸基含有芳香族系ポリマーは、スルホン酸基、カルボン酸基、ホスホン酸基又はリン酸基等からなるイオン性基からなるプロトン酸基を有している。この中でも、プロトン酸基がスルホン酸基であるスルホン酸基を有するポリアリーレン系共重合体が、燃料電池内でのプロトン伝導効率に優れる点で、最も好ましい。
【0018】
プロトン酸基含有芳香族系ポリマー中の主鎖骨格としては、耐熱性や機械的強度に優れた芳香族環を共有結合で結合した骨格を有するポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリベンゾオキサゾール、ポリアリーレンなどを含むものが用いられ、且つ、プロトン酸基を有するポリマーセグメントとプロトン酸基を有さないポリマーセグメントが共有結合していることが好ましい。これらの構造をとることにより、耐熱性および機械的強度が向上し、高温での作動が可能となる。
【0019】
また、プロトン酸基を有するポリマーセグメントとプロトン酸基を有さないポリマーセグメントが共有結合しているものは、熱水による膨張が抑制され、酸化物の溶出が抑制される。さらに、高分子電解質膜がミクロ相分離構造を有し、イオン伝導成分を有するポリマーセグメントが連続相であることが好ましい。このようなミクロ相分離構造はプロトン酸基含有芳香族系ポリマーのイオン交換容量が1.5〜3.5meq/gで、プロトン酸基を有するポリマーセグメントとプロトン酸基を有さないポリマーセグメントが共有結合しているブロック共重合体にすることで発現しやすい傾向にある。
【0020】
次に、スルホン酸基を有するポリアリーレン系共重合体について具体的に説明する。本発明に使用されるスルホン酸基を有するポリアリーレン系共重合体は、下記一般式(1)で表されるスルホン酸基を有する構造単位と、下記一般式(2)で表される芳香族構造を有する構造単位とを含むことが特徴であり、下記一般式(3)で表される重合体である。
【0021】
[スルホン酸基を有する構造単位]
スルホン酸基を有する構造単位は、下記式(1)で表される構造を有する。
【0022】
【化4】

一般式(1)において、Yは−CO−、−SO2−、−SO−、−CONH−、−COO−、−(CF2l−(lは1〜10の整数である)、−C(CF32−からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示す。このうち、−CO−、−SO2−が好ましい。
【0023】
Zは直接結合または、−(CH2l−(lは1〜10の整数である)、−C(CH32−、−O−、−S−からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示す。このうち直接結合、−O−が好ましい。
【0024】
Arは−SO3Hまたは−O(CH2pSO3Hまたは−O(CF2pSO3Hで表される置換基(pは1〜12の整数を示す)を有する芳香族基を示す。
芳香族基として具体的には、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基などが挙げられる。これらの基のうち、フェニル基、ナフチル基が好ましい。−SO3Hまたは−O(CH2pSO3Hまたは−O(CF2pSO3Hで表される置換基(pは1〜12の整数を示す)は、少なくとも1個置換されていることが必要であり、ナフチル基である場合には2個以上置換していることが好ましい。
【0025】
mは0〜10、好ましくは0〜2の整数であり、nは0〜10、好ましくは0〜2の整数であり、kは1〜4の整数を示す。
m、nの値とY、Z、Arの構造についての好ましい組み合わせとして、(1)m=0、n=0であり、Yは−CO−であり、Arが置換基として−SO3Hを有するフェニル基である構造、(2)m=1、n=0であり、Yは−CO−であり、Zは−O−であり、Arが置換基として−SO3Hを有するフェニル基である構造、(3)m=1、n=1、k=1であり、Yは−CO−であり、Zは−O−であり、Arが置換基として−SO3Hを有するフェニル基である構造、(4)m=1、n=0であり、Yは−CO−であり、Arが置換基として2個の−SO3Hを有するナフチル基である構造、(5)m=1、n=0であり、Yは−CO−であり、Zは−O−であり、Arが置換基として−O(CH24SO3Hを有するフェニル基である構造などを挙げることができる。
【0026】
[芳香族構造を有する構造単位]
芳香族構造を有する構造単位は、下記式(2)で表される構造を有する。
【0027】
【化5】

一般式(2)において、A、Dは独立に直接結合または、−CO−、−SO2−、−SO−、−CONH−、−COO−、−(CF2l−(lは1〜10の整数である)、−(CH2l−(lは1〜10の整数である)、−CR’2−(R’は脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基およびハロゲン化炭化水素基を示す)、シクロヘキシリデン基、フルオレニリデン基、−O−、−S−からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示す。ここで、−CR’2−で表される構造の具体的な例として、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、プロピル基、オクチル基、デシル基、オクタデシル基、フェニル基、トリフルオロメチル基、などが挙げられる。
【0028】
これらのうち、直接結合または、−CO−、−SO2−、−CR’2−(R’は脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基およびハロゲン化炭化水素基を示す)、シクロヘキシリデン基、フルオレニリデン基、−O−が好ましい。
【0029】
Bは独立に酸素原子または硫黄原子であり、酸素原子が好ましい。
1〜R16は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、フッ素原子、アルキル基、一部またはすべてがハロゲン化されたハロゲン化アルキル基、アリル基、アリール基、ニトロ基、ニトリル基からなる群より選ばれた少なくとも1種の原子または基を示す。
【0030】
アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、アミル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基などが挙げられる。ハロゲン化アルキル基としては、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロペンチル基、パーフルオロヘキシル基などが挙げられる。アリル基としては、プロペニル基などが挙げられ、アリール基としては、フェニル基、ペンタフルオロフェニル基などが挙げられる。
【0031】
s、tは0〜4の整数を示す。rは0または1以上の整数を示し、上限は通常100、好ましくは1〜80である。
s、tの値と、A、B、D、R1〜R16の構造についての好ましい組み合わせとしては、(1)s=1、t=1であり、Aが−CR’2−(R’は脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基およびハロゲン化炭化水素基を示す)、シクロヘキシリデン基、フルオレニリデン基であり、Bが酸素原子であり、Dが−CO−または、−SO2−であり、R1〜R16が水素原子またはフッ素原子である構造、(2)s=1、t=0であり、Bが酸素原子であり、Dが−CO−または、−SO2−であり、R1〜R16が水素原子またはフッ素原子である構造、(3)s=0、t=1であり、Aが−CR’2−(R’は脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基およびハロゲン化炭化水素基を示す)、シクロヘキシリデン基、フルオレニリデン基、Bが酸素原子であり、R1〜R16が水素原子またはフッ素原子またはニトリル基である構造が挙げられる。
【0032】
[スルホン酸基を有するポリアリーレン系共重合体の構造]
(A)スルホン酸基を有するポリアリーレン系共重合体は、下記式(3)で表される構造を含む。
【0033】
【化6】

一般式(3)において、A、B、D、Y、Z、Ar、k、m、n、r、s、tおよびR1〜R16は、それぞれ上記一般式(1)および(2)中のA、B、D、Y、Z、Ar、k、m、n、r、s、tおよびR1〜R16と同義である。x、yはx+y=100モル%とした場合のモル比を示す。
【0034】
本発明で用いられるスルホン酸基を有するポリアリーレン系共重合体は、式(1)で表されるスルホン酸基を有する構造単位を0.5〜100モル%、好ましくは10〜99.999モル%の割合で、式(2)で表される芳香族構造を有する構造単位を99.5〜0モル%、好ましくは90〜0.001モル%の割合で含有している。
【0035】
(A)スルホン酸基を有するポリアリーレン系共重合体は、好ましくは、スルホン酸基を有する構造単位から構成されたプロトン酸基を有するポリマーセグメントと芳香族構造を有する構造単位から構成されたプロトン酸基を有さないポリマーセグメントが共有結合したブロック共重合体である。
【0036】
(A)スルホン酸基を有するポリアリーレン系共重合体のイオン交換容量は、1.5〜3.5meq/gであることが好ましく、より好ましくは、1.9〜3.0meq/g、さらに好ましくは、1.8〜2.7meq/gである。イオン交換容量が上記範囲内であると、プロトン酸基を有するポリマーセグメントが連続相を形成しやすく、前記マンガン含有酸化物を添加しても、プロトン伝導性の低下が小さく、また、熱水による膨潤が小さく、前記マンガン含有酸化物の溶出がみられない。
【0037】
(A)プロトン酸基含有芳香族系ポリマーの分子量は、ゲルパーミエションクロマトグラフィ(GPC)によるポリスチレン換算重量平均分子量で、1万〜100万、好ましくは2万〜80万である。
【0038】
[スルホン酸基を有するポリアリーレン系共重合体の製造方法]
スルホン酸基を有するポリアリーレン系共重合体は、例えば下記に示すA法、B法又はC法により製造することができる。
【0039】
(A法)例えば、特開2004−137444に記載の方法で、上記一般式(1)で表される構造単位となりうるスルホン酸エステル基を有するモノマーと、上記一般式(2)で表される構造単位となりうるモノマー、またはオリゴマーとを共重合させ、スルホン酸エステル基を有するポリアリーレン系共重合体を製造し、このスルホン酸エステル基を脱エステル化して、スルホン酸エステル基をスルホン酸基に変換することにより合成することができる。
【0040】
(B法)例えば、特開2001−342241に記載の方法で、上記一般式(1)で表される骨格を有しスルホン酸基、スルホン酸エステル基を有しないモノマーと、上記一般式(2)で表される構造単位となりうるモノマー、またはオリゴマーとを共重合させ、この重合体をスルホン化剤を用いて、スルホン化することにより合成することもできる。
【0041】
(C法)一般式(1)において、Arが−O(CH2pSO3Hまたは−O(CF2pSO3Hで表される置換基を有する芳香族基である場合には、例えば、特願2003−295974号(特開2005-060625号公報)に記載の方法で、上記一般式(2)で表される構造単位となりうる前駆体のモノマーと、上記一般式(2)で表される構造単位となりうるモノマー、またはオリゴマーとを共重合させ、次にアルキルスルホン酸またはフッ素置換されたアルキルスルホン酸を導入する方法で合成することもできる。
【0042】
(A法)において用いることのできる、上記一般式(1)で表される構造単位となりうるスルホン酸エステル基を有するモノマーの具体的な例として、特開2004−137444号公報、特願2003−143903号(特開2004-345997号公報)、特願2003−143904号(特開2004-346163号公報)に記載されているスルホン酸エステル類を挙げることができる。
【0043】
(B法)において用いることのできる、上記一般式(1)で表される構造単位となりうるスルホン酸基、またはスルホン酸エステル基を有しないモノマーの具体的な例として、特開2001−342241号公報、特開2002−293889号公報に記載されているジハロゲン化物を挙げることができる。
【0044】
(C法)において用いることのできる、上記一般式(1)で表される構造単位となりうる前駆体のモノマーの具体的な例として、特願2003−275409号(特開2005-36125号公報)に記載されているジハロゲン化物を挙げることができる。
【0045】
また、いずれの方法においても用いられる、上記一般式(2)で表される構造単位となりうるモノマー、またはオリゴマーの具体的な例として、
r=0の場合、例えば4,4’−ジクロロベンゾフェノン、4,4’−ジクロロベンズアニリド、2,2−ビス(4−クロロフェニル)ジフルオロメタン、2,2−ビス(4−クロロフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、4−クロロ安息香酸−4−クロロフェニルエステル、ビス(4−クロロフェニル)スルホキシド、ビス(4−クロロフェニル)スルホン、2,6−ジクロロベンゾニトリルが挙げられる。これらの化合物において塩素原子が臭素原子またはヨウ素原子に置き換わった化合物などが挙げられる。
【0046】
r=1の場合、例えば特開2003−113136に記載の化合物を挙げることができる。
r≧2の場合、例えば特開2004−137444号公報、特開2004−244517号公報、特開2004-346164号公報、特開2005-112985号公報、特開2006-028414号公報、特開2006-028415号公報、特開2005-133081号公報に記載の化合物を挙げることができる。
【0047】
スルホン酸基を有するポリアリーレン系共重合体を得るためは、まず、これらの、上記一般式(1)で表される構造単位となりうるモノマーと、上記一般式(2)で表される構造単位となりうるモノマー、またはオリゴマーとを共重合させ、前駆体のポリアリーレン系共重合体を得ることが必要である。この共重合は、触媒の存在下に行われるが、この際使用される触媒は、遷移金属化合物を含む触媒系であり、この触媒系としては、好ましくは、遷移金属塩および配位子となる化合物(以下、「配位子成分」という。)、または配位子が配位された遷移金属錯体(銅塩を含む)が用いられる。
【0048】
これらの触媒成分の具体的な例、各成分の使用割合、反応溶媒、濃度、温度、時間等の重合条件としては、特開2001−342241号公報に記載の化合物を挙げることができる。
【0049】
スルホン酸基を有するポリアリーレン系共重合体は、この前駆体のポリアリーレン系共重合体を、スルホン酸基を有するポリアリーレン系共重合体に変換して得ることができる。この方法としては、下記の3通りの方法がある。
【0050】
(A法)前駆体のスルホン酸エステル基を有するポリアリーレン系共重合体を、特開2004−137444号公報に記載の方法で脱エステル化する方法。
(B法)前駆体のポリアリーレン系共重合体を、特開2001−342241号公報に記載の方法でスルホン化する方法。
(C法)前駆体のポリアリーレン系共重合体に、特願2003−295974号(特開2005-60625号公報)に記載の方法で、アルキルスルホン酸基を導入する方法。
【0051】
(B)マンガン含有酸化物
本発明のマンガン含有酸化物としては、MnO2、Mn23、Mn34などのマンガン酸化物、マンガンと他元素からなる複合酸化物などが挙げられる。マンガンと他元素からなる複合酸化物は、金属換算のモル比(Mn:Mn以外)で、99.9:0.1〜5:95、好ましくは、99.9:0.1〜30:70.さらに好ましくは、95:5〜40:60である。この範囲内であると、過酸化水素の分解速度が単体よりも速くなる傾向にある。また、他金属元素としては、1つ、もしくは、複数であってもよく、Ni、Bi、Ceなどがあげられる。好ましくは、MnO2、Mn23、Mn及びBiを含む複合酸化物、Mn及びNiを含む複合酸化物が挙げられる。これらのマンガン含有酸化物は、1種で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。本発明の高分子電解質膜は、(B)マンガン含有酸化物を含むことにより、過酸化水素、ラジカル耐性が向上し、初期の出力電圧の低下が小さく、高分子電解質膜の劣化が抑制され、長期に渡って高い出力電圧が得られる。詳細なメカニズムは明らかでないが、前記の酸化物により電極層から高分子電解質膜へ拡散してきた過酸化水素がラジカルにある前に不活性化されたと考えられる。なお、本願発明における複合酸化物とは、2種類以上の金属原子を含む酸化物をいう。
【0052】
また、マンガン含有酸化物は含水物でもよく、結晶体でも非晶質体でもいい。また、粉体でも、繊維状であってもよい。高分子電解質膜中での分散性から粉体の方が好ましい。さらに、高分子電解質膜中での分散性の観点から、レーザー回折・散乱法で測定したマンガン含有酸化物の平均サイズ(平均凝集塊サイズ)が55μm以下、好ましくは、平均サイズが20μm以下、好ましくは、10μm以下、より好ましくは5m以下である。また、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニアなどの担体に担持された形態でもよい。
【0053】
また、マンガン含有酸化物の比表面積が、1〜55m2/gであることが好ましく、20〜50m2/gであることがさらに好ましく、25〜45m2/gであることが特に好ましい。上記範囲未満であると、高分子電解質膜の劣化を十分に抑制するには、多量に添加する必要があり、十分な初期出力電圧を確保できない。一方、上記範囲を超えると、高分子電解質膜の劣化抑制効果が飽和し、且つ、初期出力電圧が大幅に低下することがある。ここで、マンガン含有酸化物の比表面積は、BET法(JIS R 1626;ファインセラミックス粉体の気体吸着BET法による比表面積の測定方法)により測定する。
【0054】
また、マンガン含有酸化物中のマンガン酸化物の含有量は、すべてのマンガン原子がMnO2となっているとして計算したMnO2換算量として、70〜100質量%が好ましい。好ましくは、80〜100質量%、より好ましくは、90〜100質量%である。ここで、MnO2含量は、マンガン含有酸化物粉末とシュウ酸水溶液、硫酸を溶解して、過マンガン酸カリウム水溶液で滴定して求めることができる。MnO2含量が上記範囲未満であると、耐久性向上効果が十分ではない。
【0055】
マンガン含有酸化物の配合量は、高分子電解質膜の全質量を100質量%として、0.1〜5質量%の割合で含有されていることが好ましい。好ましくは、0.5〜3質量%、より好ましくは0.5〜2質量%である。上記範囲未満であると、高分子電解質膜の劣化抑制効果が小さく、長期に渡って高い出力電圧が維持することができない。一方、上記範囲を超えると、プロトン伝導パスが切断され、初期の出力電圧が低くなることがあるため、好ましくない。さらに、高分子電解質膜中に均一に分散することが困難となる。
【0056】
マンガン含有酸化物は高分子電解質膜中に均一に分散していることが好ましいが、高分子電解質の劣化の激しい部位にのみに配置したり、そのような部位により多く配置してもよい。例えば、高分子電解質膜の電極側に多く配置させてもよい。
【0057】
高分子電解質膜の製造方法
本発明の高分子電解質膜の製造方法は、特に限定されないが、たとえば、(A)プロトン酸含有芳香族系ポリマーを有機溶媒に溶解又は分散させた後、(B)マンガン含有酸化物を含む組成物を調製し、この組成物を基体上に流延してフィルム状に成形するキャスティング法などにより製造することができる。なお、前記組成物は、高分子電解質、酸化物、および有機溶媒以外に、硫酸、リン酸などの無機酸、カルボン酸を含む有機酸、適量の水などを含んでもよい。さらに、前記組成物中での酸化物の分散性を高めるため、下記分散剤を添加してもよい。
【0058】
上記組成物中のポリマー濃度は、高分子電解質の分子量にもよるが、通常、5〜40質量%、好ましくは7〜25質量%である。ポリマー濃度が前記範囲よりも低いと、厚膜化し難く、また、ピンホールが生成しやすくなる傾向にあり、一方、上記範囲を超えると、溶液粘度が高すぎてフィルム化し難く、また、表面平滑性に欠けることがある。
【0059】
上記組成物の溶液粘度は、共重合体の分子量や、ポリマー濃度にもよるが、通常、2,000〜100,000mPa・s、好ましくは3,000〜50,000mPa・sである。溶液粘度が上記範囲よりも低いと、加工中の溶液の滞留性が悪く、基体から流れてしまうことがあり、一方、上記範囲を超えると、高粘度過ぎて、ダイからの押し出しができず、流延法によるフィルム化が困難となることがある。
【0060】
上記組成物は、たとえば、上記各成分を所定の割合で混合し、従来公知の方法、例えばホモミキサー、ホモディスパー、ウエーブローター、ホモジナイザー、ディスパーサー、ペイントコンディショナー、ボールミルなどの混合機を用いて混合することにより調製することができる。回転式混合機の回転速度は、5,000回/分以上が好ましく、10,000回/分以上がさらに好ましい。回転数に特に上限値はないが、現実的には、20,000回/分又は30,000回/分が混合機の性能上の上限となる場合が多い。このような製造方法で製造した前記高分子電解質溶液は、有機溶媒中にマンガン含有酸化物が均一に分散されており、凝集が少なく、長時間放置してもマンガン含有酸化物の沈降がみられない。
【0061】
回転速度が少なすぎると、マンガン含有酸化物が均一に高分子電解質膜中に分散できず、十分な発電耐久性が得られない。また、前記高分子電解質溶液を静置後、マンガン含有酸化物の沈降がみられ、発電性能にバラツキが見られることがある。
【0062】
また、混合機による混合時間は、5秒間〜60分間、好ましくは、5秒〜5分、より好ましくは、5秒〜3分である。この範囲内であると、マンガン含有酸化物が均一の高分子電解質溶液に分散し、静置後、マンガン含有酸化物の沈降がみられない。
【0063】
上記基体としては、通常の溶液キャスティング法に用いられる基体であれば特に限定されず、たとえばプラスチック製や金属製などの基体が用いられ、好ましくは、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムなどの熱可塑性樹脂からなる基体が用いられる。また、上記電極層を基体として用いることもできる。
【0064】
上記キャスティング法による製膜後、30〜160℃、好ましくは50〜150℃の温度で、3〜180分、好ましくは5〜120分間乾燥することにより、高分子電解質膜を得ることができる。その乾燥膜厚は、通常、10〜100μm、好ましくは20〜80μmである。乾燥後、膜中に溶媒が残存する場合は、必要に応じて、水抽出により脱溶媒することもできる。なお、上記高分子電解質膜には、高分子電解質以外に、分散剤、硫酸やリン酸などの無機酸、カルボン酸を含む有機酸、適量の水などが含まれてもよい。
【0065】
有機溶媒
(A)プロトン酸含有芳香族系ポリマーを分散又は溶解させるために用いられる有機溶媒としては、エタノール、n−プロピルアルコール、2−プロパノール、2−メチル−2−プロパノール、2−ブタノール、n−ブチルアルコール、2−メチル−1−プロパノール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、2−メチル−1−ブタノール、3−メチル−1−ブタノール、2−メチル−2−ブタノール、3−メチル−2−ブタノール、2,2−ジメチル−1−プロパノール、シクロヘキサノール、1−ヘキサノール、2−メチル−1−ペンタノール、2−メチル−2−ペンタノール、4−メチル−2−ペンタノール、2−エチル−1−ブタノール、1−メチルシクロヘキサノール、2−メチルシクロヘキサノール、3−メチルシクロヘキサノール、4−メチルシクロヘキサノール、1−オクタノール、2−オクタノール、2−エチル−1−ヘキサノール、ジオキサン、ブチルエーテル、フェニルエーテル、イソペンチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、ビス(2−メトキシエチル)エーテル、ビス(2−エトキシエチル)エーテル、シネオール、ベンジルエチルエーテル、アニソール、フェネトール、アセタール、メチルエチルケトン、2−ペンタノン、3−ペンタノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、2−ヘキサノン、4−メチル−2−ペンタノン、2−ヘプタノン、2,4−ジメチル−3−ペンタノン、2−オクタノン、γーブチロラクトン、酢酸−n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸sec−ブチル、酢酸ペンチル、酢酸イソペンチル、3−メトキシブチルアセタート、酪酸メチル、酪酸エチル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−(メトキシメトキシ)エタノール、2−イソプロポキシエタノール、1−メトキシ−2−プロパノール、1−エトキシ−2−プロパノール、ジメチルスルホキシド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、テトラメチル尿素、トルエン、キシレン、ヘプタン、オクタンなどの炭化水素系有機溶媒、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセロールなどの多価アルコール系有機溶媒などを挙げることができる。これらの中では、窒素含有溶媒が高分子電解質のプロトン酸と酸−塩基相互作用してミクロそう分離構造を形成しやすいため好ましい。このような窒素含有溶媒としては、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド、テトラメチル尿素、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、γ―ブチロラクトンなどが挙げられる。
【0066】
上記有機溶媒は、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよいが、イオン交換樹脂の溶解性の観点から、好ましくは、水溶性の非プロトン性双極子有機溶媒を含有していること、より好ましくは、水溶性の非プロトン性双極子有機溶媒を10質量%以上含有していることが望ましい。
【0067】
分散剤
高分子電解質膜を形成するための上記組成物には、必要に応じてさらに分散剤を添加してもよい。このような分散剤としては、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン界面活性剤などを挙げることができる。
【0068】
[膜電極接合体]
本発明の膜電極接合体は、前記高分子電解質膜を含むものであり、該高分子電解質膜と、触媒層と、ガス拡散層とを備えている。
【0069】
典型的には、前記高分子電解質膜を挟んで一方にはカソード電極用の触媒層と他方にはアノード電極用の触媒層が設けられており、さらにカソード側およびアノード側の各触媒層のイオン交換樹脂膜と反対側に接して、カソード側およびアノード側にそれぞれガス拡散層が設けられている。触媒層およびガス拡散層は、公知の構成を採用することができる。以下、ガス拡散層、触媒層についてそれぞれ説明する。
【0070】
[ガス拡散層]
ガス拡散層は、多孔性基材又は多孔性基材と微多孔層の積層構造体からなる。ガス拡散層が多孔性基材と微多孔層の積層構造体からなる場合には、微多孔層が触媒層に接して設けられる。ガス拡散層は、特に限定されないが、多孔性基材と微多孔層の積層構造体からなることが好ましい。
【0071】
(1)微多孔層
微多孔層は、炭素粉末と、含フッ素樹脂などを含むことができる。微多孔層は、炭素粉末等を溶媒に分散した微多孔層形成用ペーストを用いて形成される。
【0072】
本発明で用いられる微多孔層組成は、炭素粉末及樹脂が、20〜95:80〜5の重量比に存在することが好ましく、40〜90:60〜10の重量比に存在することがさらに好ましい。前記炭素粉末の含量が20%重量より少ない場合には、微多孔層内に微細気孔を形成しにくくて反応物の拡散が容易に行われない。炭素粉末の含量が95%重量を超える場合には、炭素粉末の脱落が起こる可能性があって好ましくない。
【0073】
(1−1)炭素粉末
炭素粉末としては、カーボン粉、カーボン繊維、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、および、表面を炭素膜で被覆した炭化ケイ素ウイスカーなどが挙げられる。これらは、1種単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
【0074】
上記カーボン粉としては、電子伝導性と比表面積の大きさの観点から、オイルファーネスブラック、チャネルブラック、ランプブラック、サーマルブラック、アセチレンブラックなどのカーボンブラックが好ましい。
【0075】
(1−2)含フッ素樹脂
微多孔質は、含フッ素樹脂を含んでいてもよい。含フッ素樹脂は多孔性基材に撥水性を付与する。具体例としては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリパーフルオロアルキルビニルエーテル、ポリパーフルオロスルホニルフロライド、アルコキシビニルエーテル、シランカップリング剤、シリコーン樹脂、ワックス、ポリホスファゼン、分子内に脂肪族環構造を有するパーフルオロカーボン重合体、含フッ素オレフィオンと炭化水素系オレフィンとの共重合体、含フッ素アクリレートとアクリレートまたは/およびメタクリレートとの共重合体、ポリビニリデンフルオライド、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロパンなど、またはこれらのコポリマーがあげられる。この中で、撥水性の持続性および使用上の取り扱いやすさからフッ素樹脂が好ましく、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体がより好ましい。
【0076】
(1−3)微多孔層形成用ペースト
本発明で使用される微多孔層は、以下に示す微多孔層形成用ペーストを用いて形成される。
【0077】
本発明において、ペースト中の炭素粉末及び含フッ素樹脂の合計重量が3質量%〜50質量%、好ましくは10質量%〜40質量%であり、溶媒の使用割合は重量比で50質量%〜97質量%、好ましくは60質量%〜90質量%であり、必要に応じて用いられる分散剤の使用割合は、重量比で0質量%〜45質量%、好ましくは0質量%〜20質量%である。炭素粉末の使用割合が、上記範囲未満であると、微多孔層内に微細気孔を形成しにくくて反応物の拡散が容易に行われない。また、上記範囲より大きいと、炭素粉末の脱落が起こる可能性がある。撥水剤の使用割合が、上記範囲未満であると、炭素粉末の脱落が起こる可能性があって好ましくない。
【0078】
(1−4)微多孔層の形成方法
本発明で用いられる微多孔層の形成方法としては、多孔性基材又は触媒層上に、前記ペーストを直接塗布後乾燥することにより形成することが可能であり、他の転写基材上に微多孔層形成用ペーストを塗布後乾燥して微多孔層を形成し、多孔性基材又は触媒層上にホットプレスで転写してもよい。また上記微多孔層を数回に分けて積層することにより形成してもよい。
微多孔層形成用ペーストの塗布方法、刷毛塗り、筆塗り、バーコーター塗布、ナイフコーター塗布、ドクターブレード法、スクリーン印刷、スプレー塗布などが挙げられる。
【0079】
(2)多孔性基材
本発明で用いられる多孔性基材としては、燃料電池に一般に用いられる多孔性基材、たとえば、導電性物質を主たる構成材とする多孔質導電シートなどを、特に限定されることなく用いることができる。
【0080】
上記導電性物質としては、ポリアクリロニトリルからの焼成体、ピッチからの焼成体、黒鉛および膨張黒鉛などの炭素粉末、ステンレススチール、モリブデン、チタンなどが挙げられる。上記導電性物質の形態は、繊維状または粒子状など特に限定されないが、好ましくは繊維状導電性無機物質(無機導電性繊維)、特に好ましくは炭素繊維である。
【0081】
無機導電性繊維を用いた多孔質導電シートとしては、織布または不織布いずれの構造も使用可能である。織布としては、平織、斜文織、朱子織、紋織、綴織など特に限定されることなく用いることができる。また、不織布としては、抄紙法、ニードルパンチ法、スパンボンド法、ウォータージェットパンチ法、メルトブロー法などの方法で製造されたものが、特に限定されることなく用いることができる。また、無機導電性繊維を用いた多孔質導電シートは編物であってもよい。
【0082】
(2−1)多孔性基材の処理方法
多孔性基材は、好ましくは多孔質基材中の導電性物質を、撥水処理して使用される。多孔性基材を撥水処理するには、含フッ素樹脂を水中に分散させたディスパージョン、または有機溶媒に溶解させた撥水剤溶解液(以下、撥水処理用樹脂ともいう。)を用いて、後述の方法で撥水剤コートして撥水剤以外の成分(溶媒、分散剤など)を乾燥、加熱分解することで作製することができる。撥水剤コート法としては、組成物の粘性によってディップコーティング法、スクリーンプリンティング法、スプレーコーティング法またはドクターブレードを利用したコーティング法、グラビアコーティング法、シルクスクリーン法、ペインティング法などが用いられるが、これに限られるものではない。この中で、ディップコーティング法が好ましい。ディップコーティング法の場合、撥水処理用樹脂のコート量は、ディスパージョン、または撥水剤溶解液の濃度により調整することができる。多孔性基材への撥水処理用樹脂のコート量は、撥水処理多孔性基材に対する撥水剤の重量比が1質量%〜50質量%であることが好ましく、より好ましくは2質量%〜30質量%で、5質量%〜20質量%が好適である。撥水処理用樹脂のコート量が上記範囲内であると、排水性が良好となり発電特性が向上するため好ましい。
【0083】
[触媒層]
膜電極接合体を構成する触媒層は、触媒、イオン交換樹脂電解質を含み、さらに必要に応じて、炭素繊維、イオン交換基を有さない樹脂、分散剤などを含む。このような触媒層は、触媒ペーストを使用して形成することができる。該触媒ペーストは、触媒、イオン交換樹脂電解質および溶媒を含有し、好ましくは、触媒、イオン交換樹脂電解質および溶媒に加えて、炭素繊維、イオン交換基を有しない樹脂、水、分散剤等を含有するものである。
【0084】
(1)触媒
触媒としては白金、パラジウム、金、ルテニウム、イリジウムなどの貴金属触媒が好ましく用いられる。また、貴金属触媒は、合金や混合物などのように、2種以上の元素が含まれるものであってもよい。
【0085】
触媒を有効利用する観点から、上記触媒を高比表面積カーボン微粒子に担持したものを用いることができる。カーボン担体としては、電子伝導性と比表面積の大きさの観点から、オイルファーネスブラック、チャネルブラック、ランプブラック、サーマルブラック、アセチレンブラックなどのカーボンブラックが好ましい。
【0086】
上記カーボンに担持される触媒の量としては、有効に触媒活性が発揮できる量であれば特に制限されるものではないが、触媒担持カーボン中の触媒含有率が10〜95質量%であることが望ましく、20〜85質量%であると更に好適である。上記範囲より触媒含有率が大きい場合は、有効に使われない触媒が増えるため、効率の悪い電極になる。また上記より小さい触媒含有率の場合は十分な触媒量のできないため電池の性能が低くなる。
【0087】
(2)イオン交換樹脂電解質
イオン交換樹脂電解質は、前記触媒を担持したカーボンを結着させるバインダー成分として働くとともに、燃料極では触媒上の反応によって発生したイオンをイオン伝導膜へ効率的に供給し、また、空気極ではイオン伝導膜から供給されたイオンを触媒へ効率的に供給する。
【0088】
本発明で用いられる触媒層のイオン交換樹脂としては、触媒層内のプロトン伝導性を向上させるためにプロトン交換基を有するポリマーが好ましい。このようなポリマーに含まれるプロトン交換基としては、スルホン酸基、カルボン酸基、リン酸基などがあるが特に限定されるものではない。また、このようなプロトン交換基を有するポリマーも、特に限定されることなく選ばれるが、フルオロアルキルエーテル側鎖とフルオロアルキル主鎖とから構成されるプロトン交換基を有するポリマーや、スルホン酸基を有するポリアリーレン系共重合体などが好ましく用いられる。また、上記し芳香族系イオン交換樹脂膜を構成するスルホン酸基を有するポリアリーレン系重合体をイオン交換性樹脂として使用してもよく、さらにプロトン交換基を有するフッ素原子を含むポリマーや、エチレンやスチレンなどから得られる他のポリマー、これらの共重合体やブレンドであっても構わない。
【0089】
このようなイオン交換樹脂電解質は、公知のものを特に制限なく使用可能であり、たとえばNafion(DuPont社、登録商標)やスルホン酸基を有するポリアリーレン系共重合体等を特に制限なく使用できる。
本発明に用いることのできるスルホン酸基を有するポリアリーレン系共重合体の具体的態様は特に限定されるものではないが、好ましい態様について後述する。
【0090】
(3)触媒層組成
本発明において、触媒層中の触媒(触媒が担持されたカーボンブラックの場合は全体)の使用割合は、重量比で25質量%〜85質量%、好ましくは重量40%〜70質量%であり、イオン交換樹脂電解質の使用割合は、重量比で10質量%〜60質量%、好ましくは15質量%〜50質量%であり、必要に応じて用いられるイオン交換基を有しない樹脂の使用割合は、重量比で0質量%〜40質量%、好ましくは0質量%〜20質量%であり、必要に応じて用いられる炭素繊維の使用割合は、重量比で0質量%〜40質量%、好ましくは0質量%〜30質量%であり、必要に応じて用いられる分散剤の使用割合は、重量比で0質量%〜10質量%、好ましくは0質量%〜5質量%である。
【0091】
(4)触媒ペースト組成
触媒ペーストは、前記触媒層の項に示した使用割合の各成分が有機溶剤に溶解又は分散されてなる。触媒ペーストに用いられる有機溶剤は、特に限定されないが、これらの有機溶剤に水を併用することがさらに好ましい。
【0092】
(5)触媒ペースト組成物の調製
触媒ペースト組成物は、たとえば、上記各成分を混合し、従来公知の方法で混練することにより調製することができる。各成分の混合順序は特に限定されないが、たとえば、全ての成分を混合して一定時間攪拌を行うか、分散剤以外の成分を混合して一定時間攪拌を行った後、必要に応じて分散剤を添加して一定時間攪拌を行うことが好ましい。また、必要に応じて、有機溶媒の量を調整して、組成物の粘度を調整してもよい。
【0093】
(6)触媒層の形成
本発明に係る膜電極接合体の触媒層は、上記電極ペースト組成物をイオン交換樹脂膜上に直接塗布し、乾燥することにより形成することができる。
【0094】
電極ペースト組成物の塗布方法、刷毛塗り、筆塗り、バーコーター塗布、ナイフコーター塗布、ドクターブレード法、スクリーン印刷、スプレー塗布などが挙げられる。
基材上に形成された塗膜の溶媒の除去は、温度30℃〜200℃、好ましくは40℃〜180℃、時間は1分〜250分、好ましくは5分〜120分、乾燥して行うことができる。
【0095】
基材上に形成される触媒層は、酸化剤が供給されるカソード側であれば、触媒層に含まれる貴金属触媒量が、0.1mg/cm2〜6.0mg/cm2であることが好ましく、さらに好ましくは0.3mg/cm2〜2.0mg/cm2である。燃料が供給されるアノード側であれば、触媒層に含まれる貴金属触媒量が、0.1mg/cm2〜4.0mg/cm2であることが好ましく、さらに好ましくは0.2mg/cm2〜1.0mg/cm2である。
【0096】
触媒層に含まれる貴金属触媒量が上記範囲未満であると、カソード側、アノード側共に燃料である水素のプロトン化反応量が少なくなり発電性能が低下する。触媒層に含まれる貴金属触媒量が上記範囲以上であると、反応に使用されない貴金属触媒が多くなりすが、アノード側であれば、燃料である水素の透過性が低下し、カソード側であれば、空気(酸素)の透過性、排水性が低下し、発電性能が低下することがある。
【0097】
膜電極接合体の製造方法
本発明の膜−電極接合体は、前記順序で各構成材料が積層されていればその製造方法に特に制限されない。
【0098】
たとえば、高分子電解質膜を予め作製しておき、該膜の両面に電極層を形成したのち、拡散層で電極層をはさみ、プレス加工するなどの方法が挙げられる。
また、高分子電解質膜を基材表面に作製したのち、電極層と高分子電解質膜とを接合したのち、基材を除去してもよい。
【0099】
[燃料電池]
本発明の燃料電池は、少なくとも一つ以上の膜−電極接合体及びその両側に位置するセパレータを含む少なくとも一つの電気発生部;燃料を前記電気発生部に供給する燃料供給部;及び酸化剤を前記電気発生部に供給する酸化剤供給部を含む燃料電池であって、膜−電極接合体が上記記載のものであることを特徴とする。
【0100】
本発明の電池に用いられるセパレータとしては、通常の燃料電池に用いられるものを用いることができる。具体的にはカーボンタイプのもの、金属タイプのものなどを用いることができる。
【0101】
また、燃料電池を構成する部材としては、公知のものを特に制限なく使用することが可能である。本発明の電池は単セルで用いることもできるし、複数の単セルを直列に繋いだスタックとして用いることもできる。スタックの方法としては公知のものを用いることができる。具体的には単セルを平面状に並べた平面スタッキング、及び燃料または酸化剤の流路がセパレータの裏表面にそれぞれ形成されているセパレータを介して単セルを積み重ねるバイポーラースタッキングを用いることができる。
【0102】
[実施例]
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。各実施例・比較例の評価結果を表1に示す。
【0103】
1.イオン交換容量
高分子電解質膜及び各電極触媒層を構成する高分子電解質成分からなる膜を作製し、所定量を秤量してテトラヒドロフラン(THF)/水の混合溶剤に溶解したフェノールフタレインを指示薬とし、NaOHの標準液を用いて滴定を行い、中和点からイオン交換容量を求めた。
【0104】
2.分子量
スルホン酸基を有しないポリアリーレン系共重合体の分子量は、溶剤としてテトラヒドロフラン(THF)を用い、GPCによってポリスチレン換算の分子量を求めた。スルホン酸基を有するポリアリーレン系共重合体の分子量は、臭化リチウムと燐酸を添加したN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を溶離液として用い、GPCによってポリスチレン換算の分子量を求めた。
【0105】
3.スルホン酸基を有するポリアリーレン系共重合体の合成
本発明に係る、スルホン酸基含有芳香族系ポリマーとして好ましく用いられるスルホン酸基を有するポリアリーレン系共重合体の合成例について示す。本発明は以下の合成例に特に限定されるものではないが、これらのスルホン酸基を有するポリアリーレン系共重合体を高分子電解質膜として用いた場合、良好な発電特性を示す燃料電池を得ることができる。
【0106】
4.比表面積
マンガン含有酸化物の比表面積は、BET法(JIS R 1626;ファインセラミックス粉体の気体吸着BET法による比表面積の測定方法)により測定した。
【0107】
5.過酸化水素暴露試験
2cm×3cmの高分子電解質膜3枚を85℃の5%過酸化水素水蒸気に24時間暴露させた。暴露前後の高分子電解質膜の分子量を測定し、下記式により暴露後の分子量保持率(%)を求めた。分子量保持率が高いと過酸化水素、ラジカル耐性が高いと考えられる。
(暴露後の分子量)/(暴露前の分子量)×100(%)
【0108】
6.熱水溶出試験
高分子電解質膜を125℃の熱水中に24時間浸漬し、浸漬水中の酸化物由来の金属をICP−Massにより測定し、溶出の有無を確認した。
【0109】
7.TEM観察
高分子電解質膜がミクロ相分離構造を有しているか否かの判断は、膜の超薄切片を切り出し、該切片を硝酸鉛で染色した後、日立製作所製HF−100FA透過型電子顕微鏡(以下TEM)で観察することにより行った。
【0110】
8.初期出力電圧
温度を90℃に保ち、アノード極とカソード極を湿度50%RHの条件で、水素及び空気を大気圧供給し、電流密度1.0A/cm2の端子間電圧を測定した。
【0111】
9.発電耐久評価
初期出力電圧を測定後、燃料電池の温度を120℃に保ち、湿度40%RHの条件で、耐久評価を行った。水素及び空気を大気圧供給し、電流密度を0.1A/cm2に維持した時のときの端子間電圧が0.3V以下になるまでの時間を測定した。
【0112】
[合成例1]
(1)芳香族構造を有する構造単位の合成
攪拌機、温度計、Dean−Stark管、窒素導入管、冷却管をとりつけた1Lの三口フラスコに、2,6−ジクロロベンゾニトリル48.8g(284mmol)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン89.5g(266mmol)、炭酸カリウム47.8g(346mmol)をはかりとった。窒素置換後、スルホラン346mL、トルエン173mLを加えて攪拌した。オイルバスで反応液を150℃で加熱還流させた。反応によって生成する水はDean−Stark管にトラップした。3時間後、水の生成がほとんど認められなくなったところで、トルエンをDean−Stark管から系外に除去した。徐々に反応温度を200℃に上げ、3時間攪拌を続けた後、2,6−ジクロロベンゾニトリル9.2g(53mmol)を加え、さらに5時間反応させた。
【0113】
反応液を放冷後、トルエン100mLを加えて希釈した。反応液に不溶の無機塩を濾過し、濾液をメタノール2Lに注いで生成物を沈殿させた。沈殿した生成物を濾過、乾燥後、テトラヒドロフラン250mLに溶解し、これをメタノール2Lに注いで再沈殿させた。沈殿した白色粉末を濾過、乾燥し、目的物109gを得た。GPCで測定した数平均分子量(Mn)は9,500であった。
得られた化合物は式(I)で表されるオリゴマーであることを確認した。
【0114】
【化7】

(2)スルホン酸基を有するポリアリーレン系共重合体の合成
攪拌機、温度計、窒素導入管をとりつけた1Lの三口フラスコに、3−(2,5−ジクロロベンゾイル)ベンゼンスルホン酸ネオペンチル135.2g(337mmol)、(1)で得られたMn9,500の芳香族構造を有する構造単位48.7g(5.1mmol)、ビス(トリフェニルホスフィン)ニッケルジクロリド6.71g(10.3mmol)、ヨウ化ナトリウム1.54g(10.3mmol)、トリフェニルホスフィン35.9g(137mmol)、亜鉛53.7g(821mmol)をはかりとり、乾燥窒素置換した。ここにN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)430mLを加え、反応温度を80℃に保持しながら3時間攪拌を続けた後、DMAc730mLを加えて希釈し、不溶物を濾過した。
【0115】
得られた溶液を攪拌機、温度計、窒素導入管を取り付けた2Lの三口フラスコに入れた。115℃に加熱攪拌し、臭化リチウム44g(506mmol)を加えた。7時間攪拌後、アセトン5Lに注いで生成物を沈殿させた。ついで、1N塩酸、純水の順で洗浄後、乾燥して目的の重合体122gを得た。得られた重合体の重量平均分子量(Mw)は135,000であった。得られた重合体は式(II)で表されるスルホン酸基を有するポリマーと推定される。このポリマーのイオン交換容量は2.3meq/gであった。
【0116】
【化8】

[実施例1]
[電解質膜の調製]
攪拌子を入れた50mlのスクリュー管に、合成例1で得られたスルホン酸基を有するポリアリーレン系共重合体(II)を4.5g、N―メチル−2−ピロリドン25.5gをとり、室温で4時間攪拌した。この溶液にMnO2含量90wt%、比表面積42m2/gのMnO2粉末(和光純薬製)0.046gを添加し、攪拌機で1500rpm、4時間攪拌し、透明な溶液を得た。その溶液をペットフィルム上にドクターブレードを用いてキャストし、恒温槽を用いて、60℃で1時間、140℃で1時間乾燥し、溶媒を留去した。乾燥後、ペットフィルムから剥がし、厚さ50μmの高分子電解質膜を得た。
【0117】
[電極ペーストの調製]
50mLのポリボトルに直径5mmのジルコニアボール(株式会社ニッカトー製「YTZボール」)25gを入れ、白金担持カーボン粒子(Pt:46質量%担持、田中貴金属工業株式会社製「TEC10E50E」)1.51g、蒸留水0.88g、n−プロピルアルコール12.47gおよびナフィオン(商品名、デュポン社製)の20wt%溶液4.59gを加え、ペイントシェーカーで60分間攪拌することにより、電極ペーストを得た。
【0118】
[電極の製造]
各実施例・比較例で調製した電解質膜の片面に、5cm×5cmの開口を有するマスクを用いて上記電極ペーストをドクターブレードにて塗布し、また上記電極ペーストを塗布していない面に、5cm×5cmの開口を有するマスクを用いて、ドクターブレードにて上記電極ペーストを塗布した。これを120℃で60分間乾燥後、各電極触媒層の触媒塗布量は0.50mg/cm2であった。
【0119】
[ガス拡散層の作製]
(1)多孔性基材の作製
多孔性基材としてカーボンペーパー(商品名:TGPH−060、東レ株式会社製)を5cm×5cmのサイズに切断し、これを30mLの1.2質量%ポリテトラフルオロエチレン樹脂微粒子分散水溶液に5分間浸漬させた後、75℃の乾燥炉にて15分間乾燥させた。この基材を370℃の電気炉にて1時間焼成させ、アノードおよびカソード用撥水剤コート多孔性基材を作製した。
【0120】
(2)微多孔層付き撥水剤コート多孔性基材の形成
炭素粒子(商品名:バルカンXC−72、キャボット社製)2.4g、60質量%ポリテトラフルオロエチレン樹脂微粒子分散水溶液6.2g、蒸留水104.9g、分散剤(商品名:TRITONX−100、シグマ−アルドリッチ社製)10.3gを混合させ、この混合物を均一になるまで遊星ボールミル(商品名:P−5、フリッチュ社製)を使用して攪拌し、アノード用微多孔層形成用ペーストを調製した。このペーストを微多孔層の重量が1.0mg/cm2となるようにアプリケーターを使用して均一に塗布した後、75℃の乾燥炉にて30分間乾燥させ、微多孔層付き撥水剤コート多孔性基材を作製した。
【0121】
[燃料電池の作製]
上記電極触媒層が両面に形成された電解質膜を、2枚のガス拡散層で挟み、圧力60kg/cm2下、160℃×20minの条件でホットプレス成形して、膜−電極接合体を作製した。得られた電極−膜接合体を2枚のチタン製の集電体で挟み、さらにその外側にヒーターを配置し、有効面積25cm2の評価用燃料電池を作製した。
【0122】
[実施例2]
撹拌条件を、20000rpm、60秒に変更した以外は実施例1と同様にして電解質膜を作製した。
【0123】
[実施例3]
攪拌子を入れた50mlのスクリュー管に、合成例1で得られたスルホン酸基を有するポリアリーレン系共重合体(II)を4.5g、N−メチル−2−ピロリドン25.5gをとり、室温で4時間攪拌した。この溶液にMnO2含量90wt%、比表面積42m2/gのMnO2粉末(和光純薬製)0.092gを添加し、攪拌機で10000rpm、120秒攪拌し、透明な溶液を得た。その溶液をペットフィルム上にドクターブレードを用いてキャストし、恒温槽を用いて、60℃で1時間、140℃で1時間乾燥し、溶媒を留去した。乾燥後、ペットフィルムから剥がし、厚さ50μmの高分子電解質膜を得た。
【0124】
[実施例4]
攪拌子を入れた50mlのスクリュー管に、合成例1で得られたスルホン酸基を有するポリアリーレン系共重合体(II)を4.5g、N−メチル−2−ピロリドン25.5gをとり、室温で4時間攪拌した。この溶液にMnO2含量90wt%、比表面積42m2/gのMnO2粉末0.138gを添加し、攪拌機で10000rpm、120秒攪拌し、透明な溶液を得た。その溶液をペットフィルム上にドクターブレードを用いてキャストし、恒温槽を用いて、60℃で1時間、140℃で1時間乾燥し、溶媒を留去した。乾燥後、ペットフィルムから剥がし、厚さ50μmの高分子電解質膜を得た。
【0125】
[実施例5]
MnO2をMn23(高純度化学製)にした以外は実施例1と同様にして作製した。
[実施例6]
MnO2をBi2Mn410にした以外は実施例1と同様にして作製した。
【0126】
[比較例1]
MnO2を添加しない以外は実施例1と同様にして作製した。
[比較例2]
合成例1のポリマー50gと比表面積約60m2/gの二酸化マンガン5gをポリ瓶に添加し、ディスパーサーにより20分攪拌し、均一分散させた。
【0127】
[比較例3]
よく砕いたポリエーテルエーテルケトンを濃硫酸中に溶解し、窒素雰囲気下で攪拌し、スルホン酸基を有するポリエーテルエーテルケトンを得た。回収は、過剰の水に再沈することによって行った。このポリマーのイオン交換容量は2.2meq/gであった。このポリマーを用いた以外は比較例1と同様にして作製した。
【0128】
[比較例4]
合成例1のポリマーを、スルホン酸基を有するポリエーテルエーテルケトンにした以外は実施例1と同様にして作製した。
【0129】
以上にして得られた高分子電解質膜について、過酸化水素暴露試験(分子量保持率(%)、熱水溶出試験、および初期出力電圧測定、発電耐久性試験(電圧保持時間(h))を行い、さらにドメイン観察をTEM写真によって行なった。
【0130】
結果を併せて表1に示す。
【0131】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)スルホン酸基を有するポリアリーレン系共重合体および(B)BET法で測定した比表面積が55m2/g以下であるマンガン含有酸化物を含有してなる高分子電解質膜。
【請求項2】
前記(B)マンガン含有酸化物が、マンガン酸化物又はMn及びNi、Bi、Ceの少なくとも一つの元素を含む複合酸化物の少なくとも一つであることを特徴とする請求項1に記載の高分子電解質膜。
【請求項3】
前記(B)マンガン含有酸化物が、MnO2、Mn23、Mn及びBiを含む複合酸化物、Mn及びNiを含む複合酸化物の少なくとも一つである、請求項2に記載の高分子電解質膜。
【請求項4】
(A)スルホン酸基を有するポリアリーレン系共重合体が、下記一般式(3)で表される構造単位、および下記一般式(4)で表される構造単位を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の高分子電解質膜。
【化1】

(式中、Yは−CO−、−SO2−、−SO−、−CONH−、−COO−、−(CF2l−(lは1〜10の整数である)、−C(CF32−からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示し、Zは直接結合または、−(CH2l−(lは1〜10の整数である)、−C(CH32−、−O−、−S−からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示し、Arは−SO3Hまたは−O(CH2pSO3Hまたは−O(CF2pSO3Hで表される置換基を有する芳香族基を示す。pは1〜12の整数を示し、mは0〜10の整数を示し、nは0〜10の整数を示し、kは1〜4の整数を示す。)
【化2】

(式中、A、Dは独立に直接結合または、−CO−、−SO2−、−SO−、−CONH−、−COO−、−(CF2l−(lは1〜10の整数である)、−(CH2l−(lは1〜10の整数である)、−CR’2−(R’は脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基およびハロゲン化炭化水素基を示す)、シクロヘキシリデン基、フルオレニリデン基、−O−、−S−からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示し、Bは独立に酸素原子または硫黄原子であり、R1〜R16は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、フッ素原子、アルキル基、一部またはすべてがハロゲン化されたハロゲン化アルキル基、アリル基、アリール基、ニトロ基、ニトリル基からなる群より選ばれた少なくとも1種の原子または基を示す。s、tは0〜4の整数を示し、rは、0または1以上の整数を示す。)
【請求項5】
(A)スルホン酸基を有するポリアリーレン系共重合体が、下記一般式(1)で表される構造を含むことを特徴とする請求項4に記載の高分子電解質膜。
【化3】

[式(1)中、Yは、−CO−、−SO2−、−SO−、−CONH−、−COO−、−(CF2i−(iは1〜10の整数を示す。)または−C(CF32−を示し、Zは、独立に直接結合、−(CH2j−(jは1〜10の整数を示す。)、−C(CH32−、−O−または−S−を示し、Arは、−SO3H、−O(CH2pSO3Hまたは−O(CF2pSO3H(pは1〜12の整数を示す。)で表される置換基を有する芳香族基を示し、mは0〜10の整数を示し、nは0〜10の整数を示し、kは1〜4の整数を示す。
AおよびDは、それぞれ独立に直接結合、−CO−、−SO2−、−SO−、−CONH−、−COO−、−(CF2i−(iは1〜10の整数を示す。)、−(CH2j−(jは1〜10の整数を示す。)、−CR’2−(R’は脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基またはハロゲン化炭化水素基を示す。)、シクロヘキシリデン基、フルオレニリデン基、−O−または−S−を示し、Bは独立に酸素原子または硫黄原子であり、R1〜R16は、それぞれ独立に水素原子、フッ素原子、アルキル基、一部もしくは全部がハロゲン化されたハロゲン化アルキル基、アリル基、アリール基、ニトロ基またはニトリル基を示し、sおよびtは、それぞれ0〜4の整数を示し、rは0または1以上の整数を示す。]
Zは直接結合または、−O−、−S−からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示し、Yは、−CO−、−SO2−、−SO−、−CONH−、−COO−、−(CF2l−(lは1〜10の整数である)、−C(CF32−からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示し、R20は含窒素複素環基を示す。qは1〜5の整数を示し、pは0〜4の整数を示す。
x、y、zは、x+y+z=100mol%とした場合のモル比を示す。〕
【請求項6】
(A)スルホン酸基を有するポリアリーレン系共重合体を有機溶媒に溶解又は分散する工程と、(B)BET法で測定した比表面積が55m2/g以下であるマンガン含有酸化物を添加し、5000回/分以上の回転数で高速攪拌して(B)マンガン含有酸化物を分散する工程と、を含む高分子電解質膜の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載の高分子電解質膜を含む電極−膜接合体。
【請求項8】
請求項7記載の電極−膜接合体を含む固体高分子型燃料電池。

【公開番号】特開2010−238373(P2010−238373A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−81813(P2009−81813)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】