説明

高分子電解質膜および固体高分子電解質型燃料電池

【課題】高分子電解質膜の熱安定性と高温条件下でのスルホン酸基の安定性を改良し、発電耐久性を改良された高分子電解質を提供する。
【解決手段】スルホン酸基を有する構成単位および縮合芳香族環構造を有する構成単位を含むポリアリーレン系共重合体を含有する高分子電解質膜であって、蛍光X線解析法により測定した第15族原子(ただし、窒素原子を除く。)の含有量が150ppm以下であることを特徴とする高分子電解質膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱安定性の改良された重合体、詳しくは高温条件下でのスルホン酸基の安定性が高く、さらに燃料電池の高分子電解質膜に用いた際の高温発電耐久性が高く、しかも低湿度領域でのプロトン伝導性にも優れた重合体に係る。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、水素ガスや各種の炭化水素系燃料(天然ガス,メタンなど)を改質して得られる水素と、空気中の酸素とを電気化学的に反応させて直接電気を取り出す発電装置であり、燃料の持つ化学エネルギーを電気エネルギーに高効率で直接変換できる無公害な発電方式として注目を集めている。
【0003】
このような燃料電池は、触媒を担持した一対の電極膜(燃料極と空気極)と該電極膜に挟持されたプロトン伝導性の高分子電解質膜(プロトン伝導膜ともいう)とから構成される。燃料極の触媒によって、水素イオンと電子に分けられ、水素イオンは高分子電解質膜を通って、空気極で酸素と反応して水になる仕組みになっている。
【0004】
近年この燃料電池には、高い発電性能が求められるようになっている。発電出力を高めるためには、発電時に高温で使用されることが求められ、このため燃料電池に使用される高分子電解質膜には、幅広い環境下で、特に高温下で高いプロトン伝導性を示す膜が求められていた。
【0005】
このような高分子電解質膜として、通常、スルホン酸基を有するポリマーが使用されていた。また、本出願人も高いプロトン伝導性を有する高分子電解質膜として、スルホン酸基を有する特定の重合体を提案している(特許文献1〜4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−345997号公報
【特許文献2】特開2004−346163号公報
【特許文献3】特開2004−346164号公報
【特許文献4】国際公開WO/2007/010731号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来より使用されていたスルホン酸基を有するポリマーからなる高分子電解質膜では、高温条件下でプロトン伝導性が低下して、燃料電池の発電出力が低下する場合があり、燃料電池発電時の温度に上限を設ける必要があった。
【0008】
また、これらのポリマーのなかには、低湿度領域になるとプロトン伝導性が低下してしまうこともあった。
また、燃料電池では、発電中にセル内で燃料の酸化によって発生する過酸化水素等により高分子電解質膜の分解を引き起こし性能低下の原因となることが知られている。そのため高分子電解質膜の化学劣化に対する耐久性の向上も求められていた。
【0009】
このため、従来と同様にプロトン伝導性を具備するとともに、耐熱性や化学耐性にも優れた高分子電解質膜を提供しうることが求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本発明者らは、
スルホン酸基を有する構成単位および縮合芳香族環構造を有する構成単位を含むポリアリーレン系共重合体を含有する高分子電解質膜であって、蛍光X線解析法により測定した第15族原子(ただし、窒素原子を除く。)の含有量を150ppm以下とすることによって、高分子電解質膜の熱安定性と高温条件下でのスルホン酸基の安定性を改良し、発電耐久性を改良できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明の構成は以下の通りである。
[1]スルホン酸基を有する構成単位および縮合芳香族環構造を有する構成単位を含むポリアリーレン系共重合体を含有する高分子電解質膜であって、蛍光X線解析法により測定した第15族原子(ただし、窒素原子を除く。)の含有量が150ppm以下であることを特徴とする高分子電解質膜。
[2]前記スルホン酸基を有する構成単位が、下記式(1)で表されることを特徴とする[1]の高分子電解質膜。
【0012】
【化1】

(式中、Yは−CO−、−SO2−、−SO−、直接結合、−(CF2u−(uは1〜10の整数である)、−C(CF32−からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示し、Zは直接結合または、−(CH2l−(lは1〜10の整数である)、−C(CH32−、−O−、−S−からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示し、Arは−SO3Hまたは−O(CH2pSO3Hまたは−O(CF2pSO3Hで表される置換基を有する芳香族基を示す。pは1〜12の整数を示し、mは0〜3の整数を示し、nは0〜3の整数を示し、kは1〜4の整数を示す。)
[3]前記縮合芳香族環構造を有する構成単位が、下記式(2)で表される[1]又は[2]の高分子電解質膜。
【0013】
【化2】

(式(2)中、A、Dはそれぞれ独立に直接結合、−O−、−S−、−CO−、−SO2−、−SO−、−CONH−、−COO−、−(CF2i−(iは1〜10の整数である)、−(CH2j−(jは1〜10の整数である)、−CR’2
−(R’は脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基およびハロゲン化炭化水素基を示
す)、シクロヘキシリデン基、フルオレニリデン基からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示し、Bは独立に酸素原子または硫黄原子を示し、R1〜R16は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、フッ素原子、アルキル基、一部またはすべてがハロゲン化されたハロゲン化アルキル基、アリル基、アリール基、ニトロ基およびニトリル基からなる群より選ばれる少なくとも1種の原子または基を示し、sおよびtは0〜4の整数を示し、rは0または1以上の整数を示す。
なお、構成単位の端部における単線のうち、一方に置換基が表示されていないものは隣り合う構成単位との接続を意味する。)
【0014】
[4]前記[1]〜[3]の高分子電解質膜と、触媒層と、ガス拡散層とを備えてなる膜−電極接合体。
[5]前記[4]の膜−電極接合体を有する、固体高分子電解質型燃料電池。
[6]スルホン酸基を有する構成単位および縮合芳香族環構造を有する構成単位を含むポリアリーレン系共重合体であって、蛍光X線解析法により測定した第15族原子(ただし、窒素原子を除く。)の含有量が120ppm以下であるポリアリーレン系共重合体。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、蛍光X線解析法により測定した第15族原子(ただし、窒素原子を除く。)の含有量を150ppm以下としているので、高分子電解質膜の熱安定性と高温条件下でのスルホン酸基の安定性を改良し、発電耐久性を改良できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
<ポリアリーレン系共重合体>
本発明のポリアリーレン系共重合体は、スルホン酸基を有する構成単位および縮合芳香族環構造を有する構成単位を有しており、また、本発明のポリアリーレン系共重合体の蛍光X線解析法により測定した第15族原子(ただし、窒素原子を除く。)の含有量が120ppm以下である。第15族原子の含有量の下限値はゼロであることが最も好ましいが、70ppm、好ましくは40ppm、さらに好ましくは10ppmであれば本発明の効果を得ることができる。ここで、第15族原子の含有量とは、リン、ヒ素、アンチモンおよびビスマスのいずれか1種の原子の含有量であって、窒素原子の含有量は含まれない。本発明のポリアリーレン系共重合体は、上記の第15族原子の含有量が低いことにより、良好なプロトン伝導性に加えて、耐熱性や化学耐性にも優れる高分子電解質膜を提供することができる。
【0017】
共重合体中の第15族原子は、主に第15族原子を有する重合触媒に由来するが、ポリアリーレン系共重合体の重合反応に配合されたトリフェニルホスフィン等の少なくとも一部は、反応結果物であるポリアリーレン系共重合体に共有結合すると考えられている(Novak, B. M.; Wallow, T. I.; Goodson, F.; Loos, K. Am. Chem. Soc., Polym. Chem. Div., Polym. Prepr. 1995,. 36(1),. 693.)。このため、本発明の第15族原子の含有量が小さい高分子電解質膜は、ポリアリーレン系共重合体の溶液中に共存していた遊離の第15族原子化合物の量が低いだけでなく、ポリアリーレン系共重合体に結合した化学形で存在する第15族原子の含有量が低いことを意味するものと考えられる。
【0018】
[スルホン酸基を有する構造]
本発明のポリアリーレン系共重合体は、下記式(3)で表されるスルホン酸基を有する構造を有している。
【0019】
【化3】

上記式中、Ar11、Ar12、Ar13は、それぞれ独立に、フッ素原子で置換されていてもよい、ベンゼン環、縮合芳香環、含窒素複素環からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を有する2価の基を示す。
【0020】
Yは、−CO−、−SO2−、−SO−、−(CF2u−(uは1〜10の整数である)、−C(CF32−、直接結合からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示す。
Zは、−O−、−S−、直接結合、−CO−、−SO2−、−SO−、−(CH2l−(lは1〜10の整数である)、−C(CH32−からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示す。
【0021】
11は、直接結合、−O(CH2p−、−O(CF2p−、−(CH2p−、−(CF2p−からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示す(pは、1〜12の整数を示す)。
【0022】
12、R13は、それぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属原子、脂肪族炭化水素基からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示す。ただし、上記式中に含まれる全てのR12およびR13のうち少なくとも1個は水素原子である。
【0023】
1は、0〜4の整数。x2は、1〜5の整数。aは、0〜1の整数。bは、0〜3の整数を示す。
上記式(3)で表されるスルホン酸基を有する構造は、好ましくは下記式(4)で表される構造を有する。
【0024】
【化4】

(式中、Yは−CO−、−SO2−、−SO−、直接結合、−(CF2u−(uは1〜10の整数である)、−C(CF32−からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示し、Zは直接結合または、−(CH2l−(lは1〜10の整数である)、−C(CH32−、−O−、−S−からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示し、Arは−SO3Hまたは−O(CH2pSO3Hまたは−O(CF2pSO3Hで表される置換基を有する芳香族基を示す。pは1〜12の整数を示し、mは0〜3の整数を示し、nは0〜3の整数を示し、kは1〜4の整数を示す。)
式(4)において、Yは−CO−、−SO2−が好ましい。
【0025】
Zは、直接結合、−O−が好ましい。
Arの芳香族基として具体的には、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基などが挙げられる。これらの基のうち、フェニル基、ナフチル基が好ましい。
【0026】
mは0〜10、好ましくは0〜2の整数であり、nは0〜10、好ましくは0〜2の整数であり、kは1〜4の整数を示す。
m、nの値とY、Z、Arの構造についての好ましい組み合わせとして、
(1)m=0、n=0であり、Yは−CO−であり、Arが置換基として−SO3Hを有するフェニル基である構造、
(2)m=1、n=0であり、Yは−CO−であり、Zは−O−であり、Arが置換基として−SO3Hを有するフェニル基である構造、
(3)m=1、n=1、k=1であり、Yは−CO−であり、Zは−O−であり、Arが置換基として−SO3Hを有するフェニル基である構造、
(4)m=1、n=0であり、Yは−CO−であり、Zは−O−であり、Arが置換基として2個の−SO3Hを有するナフチル基である構造、
(5)m=1、n=0であり、Yは−CO−であり、Zは−O−であり、Arが置換基として−O(CH24SO3Hを有するフェニル基である構造などを挙げることができる。
【0027】
[縮合芳香族環構造を有する構成単位]
本発明のポリアリーレン系共重合体は、下記式(5)で表される縮合芳香族環構造を有する構成単位を有している。
【0028】
【化5】

上記式(5)中、Ar21、Ar22、Ar23、Ar24は、それぞれ独立に、ベンゼン環、縮合芳香環、含窒素複素環からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を有する2価の基を示す。ただし、Ar21、Ar22、Ar23、Ar24は、その水素原子の一部又はすべてが、フッ素原子、ニトロ基、ニトリル基、又は水素原子の一部またはすべてがフッ素置換されていてもよいアルキル基、アリル基若しくはアリール基からなる群より選ばれた少なくとも1種の原子または基で置換されていてもよい。
【0029】
A、Dは、それぞれ独立に、直接結合または、−CO−、−SO2−、−SO−、−(CF2l−(lは1〜10の整数である)、−(CH2l−(lは1〜10の整数である)、−CR'2−(R'は脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基およびハロゲン化炭化水素基を示す)、シクロヘキシリデン基、フルオレニリデン基、−O−、−S−からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示し、
Bは酸素原子または硫黄原子であり、
s、tは、それぞれ独立に、0〜4の整数を示し、rは、0または1以上の整数を示す。
【0030】
上記式(5)で表される縮合芳香族環構造を有する構成単位は、好ましくは下記式(6)で表される構造を有する。
【0031】
【化6】

(式(6)中、A、Dはそれぞれ独立に直接結合、−O−、−S−、−CO−、−SO2−、−SO−、−CONH−、−COO−、−(CF2i−(iは1〜10の整数である)、−(CH2j−(jは1〜10の整数である)、−CR’2−(R’は脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基およびハロゲン化炭化水素基を示す)、シクロヘキシリデン基、フルオレニリデン基からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示し、Bは独立に酸素原子または硫黄原子を示し、R1〜R16は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、フッ素原子、アルキル基、一部またはすべてがハロゲン化されたハロゲン化アルキル基、アリル基、アリール基、ニトロ基およびニトリル基からなる群より選ばれる少なくとも1種の原子または基を示し、sおよびtは0〜4の整数を示し、rは0または1以上の整数を示す。R〜R16のうち、少なくとも2個以上の基が互いに単結合ないし、基を介して結合してもよく、さらに2個以上の基が環状構造を形成してもよく、たとえばシクロヘキシリデン基やフルオレニデリン基を構成してもよい。構成単位の端部における単線のうち、一方に置換基が表示されていないものは隣り合う構成単位との接続を意味する。)
【0032】
ここで、−CR’2−で表される構造の具体的な例として、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、プロピル基、オクチル基、デシル基、オクタデシル基、フェニル基、トリフルオロメチル基などが挙げられる。
【0033】
これらのうち、直接結合または、−CO−、−SO2−、−CR’2−(R’は脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基およびハロゲン化炭化水素基を示す)、シクロヘキシリデン基、フルオレニリデン基、−O−が好ましい。
【0034】
Bは独立に酸素原子または硫黄原子であり、酸素原子が好ましい。R1〜R16は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、フッ素原子、アルキル基、一部またはすべてがハロゲン化されたハロゲン化アルキル基、アリル基、アリール基、ニトロ基、ニトリル基からなる群より選ばれた少なくとも1種の原子または基を示す。
【0035】
アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、アミル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基などが挙げられる。ハロゲン化アルキル基としては、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロペンチル基、パーフルオロヘキシル基などが挙げられる。アリル基としては、プロペニル基などが挙げられ、アリール基としては、フェニル基、ペンタフルオロフェニル基などが挙げられる。
【0036】
s、tは0〜4の整数を示す。rは0または1以上の整数を示し、上限は通常100、好ましくは1〜80である。s、tの値と、A、B、D、R1〜R16の構造についての好ましい組み合わせとしては、
(1)s=1、t=1であり、Aが−CR’2−(R’は脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基およびハロゲン化炭化水素基を示す)、シクロヘキシリデン基、フルオレニリデン基であり、Bが酸素原子であり、Dが−CO−または、−SO2−であり、R1〜R16が水素原子またはフッ素原子である構造、
(2)s=1、t=0であり、Bが酸素原子であり、Dが−CO−または、−SO2−であり、R1〜R16が水素原子またはフッ素原子である構造、
(3)s=0、t=1であり、Aが−CR’2−(R’は脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基およびハロゲン化炭化水素基を示す)、シクロヘキシリデン基、フルオレニリデン基、Bが酸素原子であり、R1〜R16が水素原子またはフッ素原子またはニトリル基である構造が挙げられる。
【0037】
[重合体の構造]
本発明のポリアリーレン系共重合体は、さらに好ましくは、下記式(7)で表される構造を有している。
【0038】
【化7】

上記式(7)中、Ar11、Ar12、Ar13、Y、Z、R11、R12、R13、x1、x2、aおよびbは、式(3)と同様である。Ar21、Ar22、Ar23、Ar24、A、B、D、r、sおよびtは、式(5)と同様である。x、yは、x+y=100mol%とした場合のモル比を示す。
【0039】
また、本発明のポリアリーレン系共重合体は、上記式(7)に示した構造以外にも、他の構造単位に由来する構造を有していてもよい。他の構造単位に由来する構造としては、特に限定されないが、例えば、含窒素複素環構造を有する構造単位に由来する構造等が挙げられる。
【0040】
上記式(7)で表されるポリアリーレン系共重合体は、好ましくは下記式(8)で表される構造を有する。
【0041】
【化8】

[上記式(8)中、Yは、−CO−、−SO2−、−SO−、直接結合、−(CF2i−(iは1〜10の整数を示す。)または−C(CF32−を示し、Zは、直接結合、−(CH2j−(jは1〜10の整数を示す。)、−C(CH32−、−O−または−S−を示し、Arは、−SO3H、−O(CH2pSO3Hまたは−O(CF2pSO3H(pは1〜12の整数を示す。)で表される置換基を有する芳香族基を示し、mは0〜3の整数を示し、nは0〜3の整数を示し、kは1〜4の整数を示す。
【0042】
AおよびDは、それぞれ独立に、直接結合、−CO−、−SO2−、−SO−、−(CF2i−(iは1〜10の整数を示す。)、−(CH2j−(jは1〜10の整数を示す。)、−CR'2−(R'は脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基またはハロゲン化炭化水素基を示す。)、シクロヘキシリデン基、フルオレニリデン基、−O−または−S−を示し、Bは酸素原子または硫黄原子であり、R1〜R16は、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、ニトロ基、ニトリル基、または水素原子の一部若しくはすべてがフッ素置換されていてもよいアルキル基、アリル基若しくはアリール基を示す。sおよびtは、それぞれ0〜4の整数を示し、rは0または1以上の整数を示す。x、yは、x+y=100mol%とした場合のモル比を示す。]
【0043】
本発明に係る重合体のイオン交換容量は通常0.3〜5meq/g、好ましくは0.5〜3meq/g、さらに好ましくは0.8〜2.8meq/gである。イオン交換容量が、前記範囲の下限以上であれば、プロトン伝導度が高く、かつ発電性能を高くすることができる。一方、前記範囲の上限以下であれば、充分に高い耐水性を具備できる。
【0044】
上記のイオン交換容量は、スルホン酸基を有する構成単位および縮合芳香族環構造を有する構成単位の種類、使用割合、組み合わせを変えることにより、調整することができる。したがって重合時に各構成単位を誘導する前駆体(モノマー・オリゴマー)の仕込み量比、種類を変えれば調整することができる。
【0045】
概してスルホン酸基を有する構成単位が多くなるとイオン交換容量が増え、プロトン伝導性が高くなるが、耐水性が低下する。一方、スルホン酸基を有する構成単位が少なくなると、イオン交換容量が小さくなり、耐水性が高まるが、プロトン伝導性が低下する。
【0046】
本発明の重合体の分子量は、ゲルパーミエションクロマトグラフィ(GPC)によるポリスチレン換算重量平均分子量で、1万〜100万、好ましくは2万〜80万、さらに好ましくは5万〜30万である。
【0047】
<ポリアリーレン系共重合体の製造方法>
本発明のポリアリーレン系共重合体の製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば下記に示すA法、B法、C法の3通りの方法を用いることができる。
【0048】
(A法)
例えば、下記式(9)で表されるモノマー、下記式(11)で表されるモノマーおよび下記式(13)で表されるモノマーを共重合させ、スルホン酸エステル基を有する重合体を製造し、このスルホン酸エステル基を脱エステル化して、スルホン酸エステル基をスルホン酸基に変換することにより合成することができる。
【0049】
モノマー(A')
モノマー(A')は、下記式(9)で表される構造を有する化合物であり、ポリアリーレン系共重合体の中でスルホン酸基を有する構成単位となる。
【0050】
【化9】

上記式中、Ar11、Ar12、Ar13は、各々独立に、フッ素原子で置換されていてもよい、ベンゼン環、縮合芳香環、含窒素複素環からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示す。
【0051】
Xは、塩素、臭素、ヨウ素、メタンスルホニル基、トリフルオロメタンスルホニル基、ベンゼンスルホニル基、トルエンスルホニル基からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示す。
【0052】
Yは、−CO−、−SO2−、−SO−、−(CF2u−(uは1〜10の整数である)、−C(CF32−、直接結合からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示す。
Zは、−O−、−S−、直接結合、−CO−、−SO2−、−SO−、−(CH2l−(lは1〜10の整数である)、−C(CH32−からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示す。
【0053】
11は、直接結合、−O(CH2p−、−O(CF2p−、−(CH2p−、−(CF2p−からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示す(pは、1〜12の整数を示す)。
【0054】
12、R13は、それぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属原子、脂肪族炭化水素基からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示す。ただし、上記式中に含まれる全てのR12およびR13のうち少なくとも1個は水素原子である。
【0055】
1は、0〜4の整数。x2は、1〜5の整数。aは、0〜1の整数。bは、0〜3の整数を示す。
上記式(9)で表されるモノマーは、好ましくは下記式(10)で表される構造を有する。
【0056】
【化10】

(式中、Y、Z、Ar、m、nおよびkは、式(3)の場合と同様である。)
Xは塩素原子、臭素原子および−OSO2Rb(ここで、Rbはアルキル基、フッ素置換アルキル基、酸素原子複素環置換アルキル基またはアリール基、を示す)から選ばれる原子または基を示す。
【0057】
またRcは、水素原子、アルキル基(シクロアルキルも含む)、酸素原子複素環置換アルキル基、フッ素置換アルキル基またはアリール基を示す。
式(10)で表される化合物の具体的な例としては、下記式で表される化合物、特開2004−137444号公報、特開2004−345997号公報、特開2004−346163号公報に記載されているスルホン酸エステル類を挙げることができる。
【0058】
【化11】

【0059】
【化12】

式(10)で表される化合物において、スルホン酸エステル構造は、通常、芳香族環のメタ位に結合している。
【0060】
モノマー(B')
モノマー(B')は、下記式(11)で表される構造を有する化合物であり、ポリアリーレン系共重合体の中で縮合芳香族環構造を有する構成単位となる。
【0061】
【化13】

上記式中、Ar21、Ar22、Ar23、Ar24は、それぞれ独立に、ベンゼン環、縮合芳香環、含窒素複素環からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を有する2価の基を示す。
【0062】
ただし、Ar21、Ar22、Ar23、Ar24は、その水素原子の一部又はすべてが、フッ素原子、ニトロ基、ニトリル基、又は水素原子の一部またはすべてがフッ素置換されていてもよいアルキル基、アリル基若しくはアリール基からなる群より選ばれた少なくとも1種の原子または基で置換されていてもよい。
【0063】
A、Dは、それぞれ独立に、直接結合または、−CO−、−SO2−、−SO−、−(CF2l−(lは1〜10の整数である)、−(CH2l−(lは1〜10の整数である)、−CR'2−(R'は脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基およびハロゲン化炭化水素基を示す)、シクロヘキシリデン基、フルオレニリデン基、−O−、−S−からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示し、
Bは酸素原子または硫黄原子であり、
s、tは、それぞれ独立に、0〜4の整数を示し、rは、0または1以上の整数を示す。
【0064】
上記式(11)で表されるモノマーは、好ましくは下記式(12)で表される構造を有する。
【0065】
【化14】

X’およびX''は塩素原子、臭素原子および−OSO2Rb(ここで、Rbはアルキル基、フッ素置換アルキル基またはアリール基を示す)から選ばれる原子または基を示す。
【0066】
1〜R16、A、B、D、s、tおよびrは前記式(6)と同じである。
モノマー(B')の具体例としては、式(12)におけるrが0の場合、例えば4,4’−ジクロロベンゾフェノン、4,4’−ジクロロベンズアニリド、2,2−ビス(4−クロロフェニル)ジフルオロメタン、2,2−ビス(4−クロロフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、4−クロロ安息香酸−4−クロロフェニルエステル、ビス(4−クロロフェニル)スルホキシド、ビス(4−クロロフェニル)スルホン、2,6−ジクロロベンゾニトリルが挙げられる。これらの化合物において塩素原子が臭素原子またはヨウ素原子に置き換わった化合物などが挙げられる。
【0067】
また、式(12)におけるrが1の場合、下記に挙げる化合物および特開2003−113136号公報に記載の化合物を挙げることができる。
【0068】
【化15】

式(12)におけるrがr≧2の場合、例えば下記に示す構造の化合物を挙げることができる。
【0069】
【化16】

重合反応
本発明の重合体を得るためはまず上記モノマー(A’)およびモノマー(B’)を共重合させ、前駆体を得る。
【0070】
この共重合は、触媒の存在下に行われるが、この際使用される触媒は、遷移金属化合物を含む触媒系であり、この触媒系としては、(1)遷移金属塩および配位子となる化合物(以下、「配位子成分」という。)、または配位子が配位された遷移金属錯体(銅塩を含む)、ならびに(2)還元剤を必須成分とし、さらに、重合速度を上げるために、遷移金属塩以外の塩を添加してもよい。
【0071】
これらの触媒成分の具体例、各成分の使用割合、反応溶媒、濃度、温度、時間等の重合条件としては、特開2001−342241号公報に記載の化合物および条件を採用することができる。
【0072】
たとえば、遷移金属塩としては、塩化ニッケル、臭化ニッケルなどが好適に使用され、また、配位子となる化合物としては、トリフェニルホスフィン、トリ−o−トリルホスフィン、トリ−m−トリルホスフィン、トリ−p−トリルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリ−tert−ブチルホスフィン、トリオクチルホスフィン、2,2′−ビピリジン、亜リン酸トリオルトトリルなどが好適に使用される。さらに、あらかじめ配位子が配位された遷移金属(塩)としては、塩化ニッケルビス(トリフェニルホスフィン)、塩化ニッケル(2,2′ビピリジン)が好適に使用される。還元剤としては、例えば、鉄、亜鉛、マンガン、アルミニウム、マグネシウム、ナトリウム、カルシウムなどを挙げることできるが、亜鉛、マグネシウム、マンガンが好ましい。遷移金属塩以外の塩としては、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、臭化カリウム、臭化テトラエチルアンモニウム、ヨウ化テトラエチルアンモニウム、ヨウ化テトラブチルアンモニウムが好ましい。反応には重合溶媒を使用してもよく、具体的には、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、1−メチル−2−ピロリドンなどが好適に使用される。
【0073】
触媒系における各成分の使用割合は、遷移金属塩または配位子が配位された遷移金属(塩)が、モノマーの総計1molに対し、通常、0.0001〜10mol、好ましくは0.01〜0.5molである。この範囲にあれば、触媒活性が高く、また分子量も高く重合することが可能である。触媒系に遷移金属塩以外の塩を使用する場合、その使用割合は、モノマーの総計1molに対し、通常、0.001〜100mol、好ましくは0.01〜1molである。かかる範囲であれば、重合速度を上げる効果が充分となる。重合溶媒中におけるモノマーの総計の濃度は、通常、1〜90重量%、好ましくは5〜40重量%である。また、本発明の重合体を重合する際の重合温度は、通常、0〜200℃、好ましくは50〜100℃である。また、重合時間は、通常、0.5〜100時間、好ましくは1〜40時間である。重合反応は、水またはメタノール等のプロトン性溶媒を添加して停止することができる。
【0074】
次いで、得られた重合体を加水分解して、構成単位中のスルホン酸エステル基(−SO3R)をスルホン酸基(−SO3H)に転換する。
加水分解は、(1)少量の塩酸を含む過剰量の水またはアルコールに、上記スルホン酸エステル基を有する重合体を投入し、5分間以上撹拌する方法、(2)トリフルオロ酢酸中で上記スルホン酸エステル基を有する重合体を80〜120℃程度の温度で5〜10時間程度反応させる方法、(3)重合体中のスルホン酸エステル基(−SO3R)1molに対して1〜3倍molのリチウムブロマイドを含む溶液、例えばN−メチルピロリドンなどの溶液中で上記スルホン酸エステル基を有する重合体を80〜150℃程度の温度で3〜10時間程度反応させた後、塩酸を添加する方法などにより行うことができる。
【0075】
(B法)
例えば、上記一般式(9)で表される骨格を有し、かつスルホン酸基、スルホン酸エステル基を有しないモノマーと、上記モノマー(B’)を共重合させ、この重合体を、スルホン化剤を用いて、スルホン化することにより合成することもできる。
【0076】
B法において用いることのできる、上記式(9)で表される構造単位となりうるスルホン酸基、またはスルホン酸エステル基を有しないモノマーの具体的な例として、特開2001−342241号公報、特開2002−293889号公報に記載されているジハロゲン化物を挙げることができる。
【0077】
(C法)
式(9)において、Arが−O(CH2hSO3Hまたは−O(CF2hSO3Hで表される置換基を有する芳香族基である場合には、例えば、特開2005−606254号公報に記載の方法と同様に、上記式(9)で表される構造単位となりうる前駆体のモノマーと、上記式(11)で表される構造単位となりうるモノマー、またはオリゴマーと、上記式(12)で表される構造単位となるモノマーを共重合させ、次にアルキルスルホン酸またはフッ素置換されたアルキルスルホン酸を導入する方法で合成することもできる。
【0078】
(C法)において用いることのできる、上記式(9)で表される構造単位となりうる前駆体のモノマーの具体的な例として、特開2005−36125号公報に記載されているジハロゲン化物を挙げることができる。具体的には、2,5−ジクロロ−4’−ヒドロキシベンゾフェノン、2,4−ジクロロ−4’−ヒドロキシベンゾフェノン、2,6−ジクロロ−4’−ヒドロキシベンゾフェノン、2,5−ジクロロ−2’,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,4−ジクロロ−2’,4’−ジヒドロキシベンゾフェノンをあげることができる。またこれらの化合物のヒドロキシル基をテトラヒドロピラニル基などで保護した化合物をあげることができる。またヒドロキシル基がチオール基にかわったもの、塩素原子が、臭素原子、ヨウ素原子におきかわったものもあげることができる。
【0079】
(C法)では前駆体の重合体(スルホン酸基を有さない)に、特開2005−60625号公報に記載の方法で、アルキルスルホン酸基を導入する方法。例えば、前駆体の重合体のヒドロキシル基と、プロパンスルトン、ブタンスルトンなどを反応させることで導入することができる。
【0080】
〔濾過・回収〕
以上述べた(A法)〜(C法)で合成したポリアリーレン系共重合体は、以下に述べる方法により濾過・回収することができる。
【0081】
本発明の方法によってスルホン酸エステル基を有するポリアリーレン系共重合体を脱エステル化した後、スルホン酸基を有するポリアリーレン系共重合体を含む反応溶液から、該スルホン酸基を有するポリアリーレン系共重合体を回収する前に、溶液中の残留金属を除去するために濾過を行う。本発明では、脱エステル化剤として用いたアミン塩の効果により、重合体を含む溶液の粘度がカップリング重合反応直後よりも低下するため、残留金属除去のための濾過において濾過性を向上することができる。
【0082】
濾過の際には、濾過助剤、たとえば、セライト、セルロース系の濾過助剤などを用いることができる。濾過助剤は、脱エステル化後の反応溶液中の金属(金属還元剤)100重量部に対し、50〜5000重量部、好ましくは100〜2000重量部の量で用いることが望ましい。
【0083】
脱エステル化後の反応溶液を濾過する際の温度は、特に限定されないが、好ましくは−30〜120℃、より好ましくは10〜70℃である。また、脱エステル化後の反応溶液を濾過する際の溶液の粘度は、特に限定されないが、好ましくは50,000mPa・s以下、より好ましくは10〜10,000mPa・s、特に好ましくは10〜2,000mPa・sである。
【0084】
本発明によって濾過性は従来より向上するが、さらに濾過速度を向上させるため、濾過に先だって重合溶液を希釈してもよい。重合溶液を希釈する溶媒としては、たとえば、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトン、γ−ブチロラクタムなどが挙げられ、通常、重合に用いたものと同じ溶媒が用いられる。希釈後の反応溶液を濾過する際の溶液の粘度は、特に限定されないが、好ましくは10,000mPa・s以下、より好ましくは10〜5,000mPa・s、特に好ましくは10〜2,000mPa・sである。
【0085】
上記濾過後、スルホン酸基を有するポリアリーレン系共重合体を含む溶液(濾液)を貧溶媒に注いでポリマーを凝固させて酸水溶液や水で洗浄する方法が挙げられる。凝固を行う際に好適な凝固状態を得ることができる上記濾過後の重合体溶液の固形分濃度は、特に限定されないが、好ましくは1〜50重量%、より好ましくは2〜30重量%、特に好ましくは3〜20重量%である。他に、特開2004−137444号公報や特開2004−75930号公報、特開2004−123811号公報に記載の方法により、スルホン酸基を有するポリアリーレン系共重合体を精製、回収することができる。
【0086】
<高分子電解質膜およびその製造方法>
本発明の高分子電解質膜は、上記ポリアリーレン系共重合体を含有してなる。好ましくは、本発明の高分子電解質膜は、ポリアリーレン系共重合体を有機溶剤に溶解した溶液を基材上にキャストしてキャスト膜を調製し、このキャスト膜を水で洗浄して残存溶剤を取り除いた後、乾燥して得られる。高分子電解質膜の膜厚は、通常、5〜200μm、好ましくは10〜100μm、さらに好ましくは10〜50μmである。
【0087】
蛍光X線解析法により測定した高分子電解質膜中の第15族原子(ただし、窒素原子を除く。)の含有量が150ppm以下であり、好ましくは140ppm以下であり、さらに好ましくは120以下である。第15族原子の含有量の下限値はゼロであることが最も好ましいが、80ppm、好ましくは50ppm、さらに好ましくは10ppmであれば本発明の効果を得ることができる。ここで、第15族原子の含有量とは、リン、ヒ素、アンチモンおよびビスマスのいずれか1種の原子の含有量であって、窒素原子の含有量は含まれない。
【0088】
本発明に係る高分子電解質膜を製造する方法としては、特に限定されるものではないが、上記本発明の重合体を溶解する有機溶媒に溶解し、基体上にキャストし、溶媒を除去、乾燥させるキャスト法が主に用いられる。
【0089】
このような製膜方法において用いられる基体としては、通常の溶液キャスト法に用いられる基体であれば特に限定されず、例えば、プラスチック製または金属製などの基体が用いられ、好ましくは、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムなどの熱可塑性樹脂からなる基体が用いられる。
【0090】
これらの製膜方法で用いられる溶媒としては、具体的には、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、γ−ブチロラクトン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチル尿素、ジメチルイミダゾリジノンなどの非プロトン系極性溶剤が挙げられる。これらの中では、溶解性および溶液粘度の面から、N−メチル−2−ピロリドン(以下、「NMP」ともいう。)が特に好ましい。上記非プロトン系極性溶剤は、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0091】
また、上記溶媒として、上記非プロトン系極性溶剤とアルコールとの混合物を用いてもよい。このようなアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、iso−プロピルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコールなどが挙げられる。これらの中では、幅広い組成範囲で溶液粘度を下げる効果があることから、メタノールが特に好ましい。アルコールは、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0092】
上記非プロトン系極性溶剤とアルコールとの混合物を用いる場合には、非プロトン系極性溶剤が95〜25重量%、好ましくは90〜25重量%であり、アルコールが5〜75重量%、好ましくは10〜75重量%である(ただし、合計は100重量%)。アルコールの量が上記範囲内にあることにより、溶液粘度を下げる効果に優れる。
【0093】
また、上記アルコールの他に、硫酸、リン酸などの無機酸、カルボン酸を含む有機酸、適量の水などを併用してもよい。
製膜する際の溶液のポリマー濃度は、通常5〜40重量%、好ましくは7〜25重量%である。ポリマー濃度が5重量%未満では、厚膜化し難く、また、ピンホールが生成しやすい傾向にある。一方、ポリマー濃度が40重量%を超えると、溶液粘度が高すぎてフィルム化し難く、また、表面平滑性に欠けることがある。
【0094】
なお、溶液粘度は、通常2,000〜100,000mPa・s、好ましくは3,000〜50,000mPa・sである。溶液粘度が2,000mPa・s未満では、成膜中の溶液の滞留性が悪く、基体から流れてしまうことがある。一方、溶液粘度が100,000mPa・sを超えると、粘度が高過ぎるため、ダイからの押し出しができず、流延法によるフィルム化が困難となることがある。
【0095】
上記のようにして製膜した後、得られた未乾燥フィルムを水に浸漬すると、未乾燥フィルム中の有機溶剤を水と置換することができ、得られる高分子電解質膜の残留溶媒量を低減することができる。なお、未乾燥フィルムを水に浸漬する前に、未乾燥フィルムを予備乾燥してもよい。予備乾燥は、未乾燥フィルムを、通常50〜150℃の温度で、0.1〜10時間保持することにより行われる。
【0096】
未乾燥フィルム(予備乾燥後のフィルムも含む。以下同じ。)を水に浸漬する際は、枚葉を水に浸漬するバッチ方式でもよく、基板フィルム(たとえば、PET)上に成膜された状態の積層フィルムのまま、または基板から分離した膜を水に浸漬させて、巻き取っていく連続方式でもよい。また、バッチ方式の場合は、処理後のフィルム表面に皺が形成されるのを抑制するために、未乾燥フィルムを枠にはめるなどの方法で、水に浸漬させることが好ましい。
【0097】
未乾燥フィルムを水に浸漬する際の水の使用量は、未乾燥フィルム1重量部に対して、10重量部以上、好ましくは30重量部以上、より好ましくは50重量部以上の割合である。水の使用量が上記範囲であれば、得られる高分子電解質膜の残存溶媒量を少なくすることができる。また、浸漬に使用する水を交換したり、オーバーフローさせたりして、常に水中の有機溶媒濃度を一定濃度以下に維持しておくことも、得られる高分子電解質膜の残存溶媒量を低減することに有効である。さらに、高分子電解質膜中に残存する有機溶媒量の面内分布を小さく抑えるためには、水中の有機溶媒濃度を撹拌等によって均質化させることが効果的である。
【0098】
未乾燥フィルムを水に浸漬する際の水の温度は、置換速度および取り扱いやすさの点から、通常5〜80℃、好ましくは10〜60℃の範囲である。高温ほど、有機溶媒と水との置換速度は速くなるが、フィルムの吸水量も大きくなるので、乾燥後に得られる高分子電解質膜の表面状態が悪化することがある。また、フィルムの浸漬時間は、初期の残存溶媒量、水の使用量および処理温度にもよるが、通常10分〜240時間、好ましくは30分〜100時間の範囲である。
【0099】
上記のように未乾燥フィルムを水に浸漬した後、フィルムを30〜100℃、好ましくは50〜80℃で、10〜180分、好ましくは15〜60分乾燥し、次いで、50〜150℃で、好ましくは500mmHg〜0.1mmHgの減圧下において、0.5〜24時間真空乾燥することにより、高分子電解質膜を得ることができる。
【0100】
上記のようにして得られた高分子電解質膜の残存溶媒量は、通常5重量%以下、好ましくは1重量%以下にまで低減される。
本発明の方法により得られる高分子電解質膜は、その乾燥膜厚が、通常10〜100μm、好ましくは20〜80μmである。
【実施例】
【0101】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、実施例における各種の測定項目は、下記のようにして求めた。
【0102】
[ポリアリーレン系共重合体の評価]
(分子量)
以下本発明の実施例中で得られるポリマーの数平均分子量および重量平均分子量は、ゲル・パーミエ−ションクロマトグラフィー(GPC)法によって、ポリスチレン換算の分子量を求めた。
【0103】
(イオン交換容量)
得られたポリアリーレン系共重合体の水洗水がpH4〜6になるまで洗浄して、フリーの残存している酸を除去後、十分に洗浄し、乾燥後、所定量を秤量し、THF/水の混合溶剤に溶解し、フェノールフタレインを指示薬とし、NaOHの標準液にて滴定し、中和点からイオン交換容量を求めた。
【0104】
(ポリマー中の第15族原子の含有量)
得られたポリアリーレン系共重合体中の第15族原子の含有量は、ポリマー粉末を厚さ2mm、直径25mmのディスク状にプレス成型したものを用い、蛍光X線解析(スペクトリス株式会社;MagiX PRO PW2440)で分析した。
【0105】
[電解質膜の評価]
(高分子電解質膜中の第15族原子の含有量)
得られた高分子電解質膜中の第15族原子の含有量は、各実施例・比較例で得られたポリアリーレン系共重合体を用いて製造された高分子電解質膜(厚さ30μm)を直径25mmの円形に切り出し得た測定試料について蛍光X線解析(スペクトリス株式会社;MagiX PRO PW2440)で分析した。
【0106】
[膜−電極接合体の作製]
(ガス拡散層の作製)
カーボンペーパー(商品名:TGPH−060、東レ株式会社製)を5cm×5cmのサイズに切断し、これを30mLの1.2重量%ポリテトラフルオロエチレン樹脂微粒子分散水溶液に5分間浸漬させた後、75℃の乾燥炉にて15分間乾燥させた。この基材を370℃の電気炉にて1時間焼成させ基材層を作製した。
【0107】
炭素粒子(商品名:ケッチェンブラックEC、ライオン社製)2.4g、60重量%ポリテトラフルオロエチレン樹脂微粒子分散水溶液6.2g、蒸留水104.9g、分散剤(商品名:TRITONX−100、シグマ−アルドリッチ社製)10.3gを混合させ、この混合物を均一になるまで遊星ボールミル(商品名:P−5、フリッチュ社製)を使用して攪拌し微多孔層ペーストを調製した。
【0108】
前記微多孔層ペーストを微多孔層の重量が4mg/cm2となるように前記基材層上にアプリケーターを使用して均一に塗布した後、75℃の乾燥炉にて30分間乾燥させ、さらに370℃の電気炉にて1時間焼成しガス拡散層を作製した。
【0109】
(電極用ペーストの調製)
市販の46重量%白金担持カーボン(商品名:TEC10E50E、田中貴金属社製)1.5g、実施例1−4および比較例1ので合成したスルホン化重合体を水:1、2−ジメトキシエタン:ノルマルプロパノール=1:8:1の混合溶媒に15重量%溶かしたワニス4g、蒸留水0.85g、1、2−ジメトキシエタン6.8gおよびノルマルプロパノール0.85gを混合し、この混合物を均一になるまで遊星ボールミル(商品名:P−5、フリッチュ社製)を使用して攪拌し、カソード触媒ペーストを調製した。
【0110】
触媒に市販の53重量%白金ルテニウム担持カーボン(商品名:TEC61E54、田中貴金属社製)を1.3g用いた他はカソード触媒ペーストと同様の方法でアノード触媒ペーストを調整した。
【0111】
(ガス拡散電極の作製)
前記ガス拡散層上に、前記カソード触媒ペーストを白金塗布量が0.5mg/cm2になるようにドクターブレードを用いて塗布した。これを80℃で10分間加熱乾燥し、カソードガス拡散電極を作製した。
【0112】
前記ガス拡散層上に、前記アノード触媒ペーストを白金ルテニウム塗布量が0.5mg/cm2になるようにドクターブレードを用いて塗布した。これを80℃で10分間加熱乾燥し、アノードガス拡散電極を作製した。
【0113】
(膜−電極接合体の作製)
各実施例および比較例で得られたポリアリーレン系共重合体からなる電解質膜(膜厚30μm)を、それぞれの電解質膜に用いたポリアリーレン系共重合体を電極電解質に用いて作製した前記カソードガス拡散電極とアノードガス拡散電極で挟み、圧力30kg/cm2下で、170℃、15minの条件でホットプレス成形して、膜−電極接合体を作製した。
【0114】
[膜−電極接合体の評価]
(発電試験)
上記で得た膜―電極接合体をElectrochem社製の評価用燃料電池セルに組み込み、トルクレンチで300cNmで締め付け燃料電池を作製した。酸素利用率が40%になるように空気をカソードに供給し、水素利用率が70%になるように水素ガスをアノードに供給した。セル温度85℃とし、前記空気及び水素ガスは相対湿度40%になるように加湿した。前記条件下でのI−V測定で初期特性を評価した。その後水素利用率、酸素利用率、相対湿度を変えずにセル温度を100℃にし0.3 A/cm2で2000時間連続発電を実施した。最後に初期特性と同条件でI−V測定行い連続発電後の発電性能の保持率を調べた。
【0115】
(電解質膜の発電耐久性評価)
上記一連の発電評価を終えた燃料電池を分解し、膜−電極接合体を取り出した。この膜−電極接合体から、ガス拡散電極を剥離して電解質膜を回収した。こ電解質膜の発電試験後の分子量保持率を測定し、発電耐久性の指標とした。
発電耐久試験前後の特性評価における、電流密度0.3/cm2時の電圧の比較および、電解質膜の分析結果を表2にまとめた。
【0116】
[合成例1] 3−(2,5−ジクロロベンゾイル)ベンゼンスルホン酸ネオペンチルの調製
攪拌機、冷却管を備えた3Lの三口フラスコに、クロロスルホン酸(233.0g、2mol)を加え、続いて2,5−ジクロロベンゾフェノン(100.4g、400mmol)を加え、100℃のオイルバスで8時間反応させた。所定時間後、反応液を砕氷(1000g)にゆっくりと注ぎ、酢酸エチルで抽出した。有機層を食塩水で洗浄、硫酸マグネシウムで乾燥後、酢酸エチルを留去し、淡黄色の粗結晶(3−(2,5−ジクロロベンゾイル)ベンゼンスルホン酸クロリド)を得た。粗結晶は精製せず次工程に用いた。
【0117】
2,2−ジメチル−1−プロパノール(ネオペンチルアルコール)(38.8g、440mmol)をピリジン 300mLに加え、約10℃に冷却した。ここに上記粗結晶を約30分かけて徐々に加えた。全量添加後、さらに30分撹拌し反応させた。反応後、反応液を塩酸水1000ml中に注ぎ、析出した固体を回収した。得られた固体を酢酸エチルに溶解させ、炭酸水素ナトリウム水溶液、食塩水で洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥後、酢酸エチルを留去し、粗結晶を得た。これをメタノールで再結晶し、目的物である3−(2,5−ジクロロベンゾイル)ベンゼンスルホン酸ネオペンチルの白色結晶を得た。
【0118】
[合成例2]
撹拌機、温度計、冷却管、Dean−Stark管、窒素導入の三方コックを取り付けた1Lの三つ口のフラスコに、2,6−ジクロロベンゾニトリル49.4g(0.29mol)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン88.4g(0.26mol)、炭酸カリウム47.3g(0.34mol)をはかりとった。窒素置換後、スルホラン346ml、トルエン173mlを加えて攪拌した。フラスコをオイルバスにつけ、150℃に加熱還流させた。反応により生成する水をトルエンと共沸させ、Dean−Stark管で系外に除去しながら反応させると、約3時間で水の生成がほとんど認められなくなった。反応温度を徐々に上げながら大部分のトルエンを除去した後、200℃で3時間反応を続けた。次に、2,6−ジクロロベンゾニトリル12.3g(0.072mol)を加え、さらに5時間反応した。
【0119】
得られた反応液を放冷後、トルエン100mlを加えて希釈した。副生した無機化合物の沈殿物を濾過除去し、濾液を2Lのメタノール中に投入した。沈殿した生成物を濾別、回収し乾燥後、テトラヒドロフラン250mlに溶解した。これをメタノール2Lに再沈殿し、目的の化合物107gを得た。
得られた目的の化合物のGPC(THF溶媒)で求めたポリスチレン換算の数平均分子量は7300であった。
【0120】
[実施例1]
撹拌機、温度計、窒素導入管を接続した1L3つ口フラスコに、合成例1で得られた3−(2,5−ジクロロベンゾイル)ベンゼンスルホン酸ネオペンチル 39.4g(98.2mmol)と、合成例2で合成した化合物 15.2g(1.9mmol)、ニッケルジクロリド0.65g(5.0mmol)、亜リン酸トリオルトトリル17.6g(50.0mmol)、ヨウ化テトラブチルアンモニウム1.9g(5.0mmol)、亜鉛19.6g(300mmol)を加え、十分に窒素置換した後、乾燥したN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)175mLを加えた。
【0121】
反応系を撹拌下に加熱し(最終的には82℃まで加温)、3時間反応させた。反応途中で系中の粘度上昇が観察された。反応停止剤として水0.15mlを重合溶液に添加した後、重合反応溶液をDMAc 195mLで希釈し、セライトを濾過助剤に用い濾過した。この濾液を撹拌機、温度計、窒素導入管を接続した別の1L3つ口フラスコに移し、臭化リチウム25.6g(294mmol)を加え、内温120℃〜130℃で5時間、窒素雰囲気下で反応させた。反応後、室温まで冷却し、アセトン4Lに注ぎ、凝固した。凝固物を濾集、風乾後、ミキサーで粉砕し、1N硫酸1500mLで攪拌しながら洗浄を行った。濾過後、生成物は洗浄液のpHが5以上となるまで、イオン交換水で洗浄後、80℃で一晩乾燥し、目的のポリアリーレン系共重合体38.0gを得た。この脱保護後のポリアリーレン系共重合体の分子量は、Mn=56000、Mw=179000であった。このポリマーのイオン交換容量は2.30meq/gであった。また、このポリマー中の残留金属量を蛍光X線解析により分析したところ、Na、Mg、K、Ca等アルカリ金属類、Fe、Ni、Cr、Zn、Cu等重金属類のいずれも20ppm未満、その他としてPが90ppm、Clが120ppmであった。
【0122】
得られたポリアリーレン系共重合体をN−メチルピロリドンに18%の濃度で溶解し、ガラス基盤上に塗布した後、140℃のオーブンで1時間加熱乾燥した。乾燥し得られた膜をガラス基盤からはがし、イオン交換水に1昼夜、数回水を交換しながら浸漬した後、60℃で1時間乾燥し、30μmの電解質膜を得た。
【0123】
[実施例2]
撹拌機、温度計、窒素導入管を接続した1L3つ口フラスコに、合成例1で得られた3−(2,5−ジクロロベンゾイル)ベンゼンスルホン酸ネオペンチル 39.4g(98.2mmol)と、合成例2で合成した化合物 15.2g(1.9mmol)、ビス(トリフェニルホスフィン)ニッケルジクロリド2.62g(4.0mmol)、トリフェニルホスフィン2.62g(10.0mmol)、ヨウ化ナトリウム0.45g(3.0mmol)、亜鉛15.7g(240.5mmol)を加え、十分に窒素置換した後、乾燥したN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)175mLを加えた。
【0124】
反応系を撹拌下に加熱し(最終的には82℃まで加温)、2時間反応させた。反応途中で系中の粘度上昇が観察された。反応停止剤として水0.15mlを重合溶液に添加し80℃で2時間攪拌した後、重合反応溶液をDMAc 195mLで希釈し、セライトを濾過助剤に用い濾過した。この濾液を撹拌機、温度計、窒素導入管を接続した別の1L3つ口フラスコに移し、臭化リチウム25.6g(294mmol)を加え、内温120℃〜130℃で5時間、窒素雰囲気下で反応させた。反応後、室温まで冷却し、アセトン4Lに注ぎ、凝固した。凝固物を濾集、風乾後、ミキサーで粉砕し、1N硫酸1500mLで攪拌しながら洗浄を行った。濾過後、生成物は洗浄液のpHが5以上となるまで、イオン交換水で洗浄後、80℃で一晩乾燥し、目的のポリアリーレン系共重合体38.0gを得た。この脱保護後のポリアリーレン系共重合体の分子量は、Mn=65000、Mw=200000であった。このポリマーのイオン交換容量は2.30meq/gであった。また、このポリマー中の残留金属量を蛍光X線解析により分析したところ、Na、Mg、K、Ca等アルカリ金属類、Fe、Ni、Cr、Zn、Cu等重金属類のいずれも20ppm未満、その他としてPが100ppm、Clが120ppmであった。
【0125】
得られたポリアリーレン系共重合体をN−メチルピロリドンに18%の濃度で溶解し、ガラス基盤上に塗布した後、140℃のオーブンで1時間加熱乾燥した。乾燥し得られた膜をガラス基盤からはがし、イオン交換水に1昼夜、数回水を交換しながら浸漬した後、60℃で1時間乾燥し、30μmの電解質膜を得た。
【0126】
[実施例3]
実施例2と同様に反応を行った後、イオン交換水4Lに攪拌しながらポリマーが微粒子状に凝固するように注いだ。凝固ポリマーを濾集し、圧搾して水分を除いた後、アセトン2L中で30分攪拌洗浄した。このアセトンでの洗浄を3回繰り返した。濾過回収したポリマーを1N硫酸2Lで攪拌しながら洗浄し、次いで洗浄液のpHが5以上となるまで、イオン交換水で繰り返し洗浄を行った。濾過回収したポリマーを80℃で一晩乾燥し、目的のポリアリーレン系共重合体39.5gを得た。この脱保護後のポリアリーレン系共重合体の分子量は、Mn=72000、Mw=210000であった。このポリマーのイオン交換容量は2.30meq/gであった。また、このポリマー中の残留金属量を蛍光X線解析により分析したところ、Na、Mg、K、Ca等アルカリ金属類、Fe、Ni、Cr、Zn、Cu等重金属類のいずれも20ppm未満、その他としてPが80ppm、Clが80ppmであった。
【0127】
得られたポリアリーレン系共重合体をN−メチルピロリドンに18%の濃度で溶解し、ガラス基盤上に塗布した後、140℃のオーブンで1時間加熱乾燥した。乾燥し得られた膜をガラス基盤からはがし、イオン交換水に1昼夜、数回水を交換しながら浸漬した後、60℃で1時間乾燥し、30μmの電解質膜を得た。
【0128】
[実施例4]
実施例2と同様な条件で重合反応を行い、反応停止剤としてメタノール15mlを重合溶液に添加した後、重合反応溶液をDMAc 195mLで希釈し、セライトを濾過助剤に用い濾過した。この濾液を撹拌機、温度計、ジムロート、窒素導入管を接続した別の1L3つ口フラスコに移し、臭化リチウム25.6g(294mmol)を加え、内温120℃〜130℃で5時間、窒素雰囲気下で反応させた。反応後、実施例2と同様に精製を行い、目的のポリアリーレン系共重合体38.0gを得た。この脱保護後のポリアリーレン系共重合体の分子量は、Mn=56000、Mw=180000であった。このポリマーのイオン交換容量は2.30meq/gであった。また、このポリマー中の残留金属量を蛍光X線解析により分析したところ、Na、Mg、K、Ca等アルカリ金属類、Fe、Ni、Cr、Zn、Cu等重金属類のいずれも20ppm未満、その他としてPが82ppm、Clが94ppmであった。
【0129】
得られたポリアリーレン系共重合体をN−メチルピロリドンに18%の濃度で溶解し、ガラス基盤上に塗布した後、140℃のオーブンで1時間加熱乾燥した。乾燥し得られた膜をガラス基盤からはがし、イオン交換水に1昼夜、数回水を交換しながら浸漬した後、60℃で1時間乾燥し、30μmの電解質膜を得た。
【0130】
[比較例1]
撹拌機、温度計、窒素導入管を接続した1L3つ口フラスコに、合成例1で得られた3−(2,5−ジクロロベンゾイル)ベンゼンスルホン酸ネオペンチル 39.4g(98.2mmol)と、合成例2で合成した化合物 15.2g(1.9mmol)、ビス(トリフェニルホスフィン)ニッケルジクロリド2.62g(4.0mmol)、トリフェニルホスフィン10.5g(40.1mmol)、ヨウ化ナトリウム0.45g(3.0mmol)、亜鉛15.7g(240.5mmol)を加え、十分に窒素置換した後、乾燥したN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)175mLを加えた。以下、実施例1と同様に反応、処理を行い、目的のポリアリーレン系共重合体38.8gを得た。この脱保護後のポリアリーレン系共重合体の分子量は、Mn=65000、Mw=197000であった。このポリマーのイオン交換容量は2.30meq/gであった。また、このポリマー中の残留金属量を蛍光X線解析により分析したところ、Na、Mg、K、Ca等アルカリ金属類、Fe、Ni、Cr、Zn、Cu等重金属類のいずれも20ppm未満、その他としてPが150ppm、Clが160ppmであった。
【0131】
得られたポリアリーレン系共重合体をN−メチルピロリドンに18%の濃度で溶解し、ガラス基盤上に塗布した後、140℃のオーブンで加熱乾燥し、30μmの電解質膜を得た。
【0132】
実施例1〜4および比較例1で得られたポリアリーレン系共重合体および高分子電解質膜中の第15族元素の合計量及び塩素の含有量を表1に示す。実施例1〜4における第15族元素の合計量は、いずれも比較例1における第15族元素の合計量よりも明らかに低かった。
【0133】
【表1】

[実施例5−8、比較例2]
実施例1−4および比較例1で得られたポリアリーレン系共重合体を用いて膜−電極接合体を作製し、発電試験および電解質膜の発電耐久性試験を行った。結果を表2にまとめる。
【0134】
【表2】

表1および表2により、本発明のポリアリーレン系共重合体、ポリアリーレン系共重合体を含有する高分子電解質膜のいずれも第15族原子の含有量が低く、本発明の高分子電解質膜を用いて製造された膜−電極接合体は、優れた発電耐久性を有していた。これに対して、比較例1のポリアリーレン系共重合体は第15族原子の含有量が各実施例よりも高く、比較例1の共重合体を用いて製造された比較例2の高分子電解質膜も第15族原子の含有量も各実施例よりも高い。そして、比較例2の高分子電解質膜を用いて製造された膜−電極接合体は、発電耐久性において劣っていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スルホン酸基を有する構成単位および縮合芳香族環構造を有する構成単位を含むポリアリーレン系共重合体を含有する高分子電解質膜であって、蛍光X線解析法により測定した第15族原子(ただし、窒素原子を除く。)の含有量が150ppm以下であることを特徴とする高分子電解質膜。
【請求項2】
前記スルホン酸基を有する構成単位が、下記式(1)で表されることを特徴とする、請求項1に記載の高分子電解質膜。
【化1】

(式中、Yは−CO−、−SO2−、−SO−、直接結合、−(CF2u−(uは1〜10の整数である)、−C(CF32−からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示し、Zは直接結合または、−(CH2l−(lは1〜10の整数である)、−C(CH32−、−O−、−S−からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示し、Arは−SO3Hまたは−O(CH2pSO3Hまたは−O(CF2pSO3Hで表される置換基を有する芳香族基を示す。pは1〜12の整数を示し、mは0〜3の整数を示し、nは0〜3の整数を示し、kは1〜4の整数を示す。)
【請求項3】
前記縮合芳香族環構造を有する構成単位が、下記式(2)で表されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の高分子電解質膜。
【化2】

(式(2)中、A、Dはそれぞれ独立に直接結合、−O−、−S−、−CO−、−SO2−、−SO−、−CONH−、−COO−、−(CF2i−(iは1〜10の整数である)、−(CH2j−(jは1〜10の整数である)、−CR’2−(R’は脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基およびハロゲン化炭化水素基を示す)、シクロヘキシリデン基、フルオレニリデン基からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示し、Bは独立に酸素原子または硫黄原子を示し、R1〜R16は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、フッ素原子、アルキル基、一部またはすべてがハロゲン化されたハロゲン化アルキル基、アリル基、アリール基、ニトロ基およびニトリル基からなる群より選ばれる少なくとも1種の原子または基を示し、sおよびtは0〜4の整数を示し、rは0または1以上の整数を示す。
なお、構成単位の端部における単線のうち、一方に置換基が表示されていないものは隣り合う構成単位との接続を意味する。)
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の高分子電解質膜と、触媒層と、ガス拡散層とを備えてなる膜−電極接合体。
【請求項5】
請求項4に記載の膜−電極接合体を有する、固体高分子電解質型燃料電池。
【請求項6】
スルホン酸基を有する構成単位および縮合芳香族環構造を有する構成単位を含むポリアリーレン系共重合体であって、蛍光X線解析法により測定した第15族原子(ただし、窒素原子を除く。)の含有量が120ppm以下であることを特徴とするポリアリーレン系共重合体。

【公開番号】特開2010−238374(P2010−238374A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−81814(P2009−81814)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】