説明

高剛性の熱可塑性成形材料

熱可塑性成形材料において、以下:A)部分芳香族ポリアミド40〜96.2質量%、B)官能基を含有する、耐衝撃性を改良するポリマー2〜30質量%、C)繊維状又は粒子状の充填剤又はその混合物1〜50質量%、D)潤滑剤0.2〜5質量%、E)導電性添加剤0.5〜15質量%、F)他の添加剤0〜30質量%を含有し、その際、成分A)〜F)の質量パーセントの合計が100%である、熱可塑性成形材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、以下:
A)部分芳香族ポリアミド40〜96.2質量%、
B)官能基を含有する、耐衝撃性を改良するポリマー2〜30質量%、
C)繊維状又は粒子状の充填剤又はその混合物1〜50質量%、
D)潤滑剤0.2〜5質量%、
E)導電性添加剤0.5〜15質量%、
F)他の添加剤0〜30質量%、
を含有し、その際、成分A)〜F)の質量パーセントの合計が100%である、熱可塑性成形材料に関する。
【0002】
更に、本発明は、各種成形体を製造するためのこの種の成形材料の使用、及びこの場合に得られる成形体、有利に各種自動車車体部材に関する。
【0003】
ポリアミド及びポリフェニレンエーテルをベースとするポリマーブレンドは、その高い熱形状安定性に基づき、車体部材のための材料として使用されている。かかる製品は、例えばGEP社からNoryl(R)GTXとして市販されている。環境条件下での剛性の比較的高度の低下は、車体材料としての使用に不利である。
【0004】
DE−A10149152には、ポリアミド、ABS型のグラフトゴム及び微粒状の充填剤をベースとする熱可塑性成形材料が車体部材のための原料として記載されている。かかる製品は、例えばBayer社からTriax(R)の商品名で市販されている。前記製品の剛性はNoryl(R)GTXの剛性よりも高いが、前記材料の靭性は多くの場合不十分である。
【0005】
WO2004/056919から、種々の導電性添加剤の混合物を含有する導電性熱可塑性成形材料が公知である。
【0006】
公知の成形材料における欠点は、公知の成形材料が、高いポリアミド割合に基づき湿分を吸収し、これがかかる製品の剛性の大幅な低下を招くことである。
【0007】
従って本発明の課題は、従来技術に対して高い熱形状安定性、良好な靭性及び湿分吸収の際の剛性のわずかな低下を示す熱可塑性成形材料を提供することであった。
【0008】
前記課題は、冒頭に定義した成形材料により解決される。有利な実施態様は、従属請求項に記載されている。
【0009】
成分A)として、本発明による成形材料は、少なくとも1の部分芳香族ポリアミド40〜96.2質量%、有利に45〜93.75質量%、特に45〜91.2質量%を含有する。
【0010】
そのような部分芳香族コポリアミド、例えばPA 6/6T及びPA 66/6Tが特に有利であり、該コポリアミドのトリアミン含量は0.5質量%未満、好ましくは0.3質量%未満である(EP−A299444参照)。
【0011】
低いトリアミン含量を有する有利な部分芳香族コポリアミドの製造は、EP−A129195及びEP−A129196に記載の方法により行なうことができる。
【0012】
成分A)として、本発明による熱可塑性成形材料は、下記の構造を有する少なくとも1の部分芳香族コポリアミドを含有する:
部分芳香族コポリアミドA)は、成分a1)として、テレフタル酸及びヘキサメチレンジアミンから誘導される単位40〜90質量%を含有する。わずかな割合、有利に、使用される全ての芳香族ジカルボン酸の10質量%以下のテレフタル酸を、イソフタル酸又は他の芳香族ジカルボン酸、有利にカルボキシル基がp位に存在する芳香族ジカルボン酸で代替することができる。
【0013】
テレフタル酸及びヘキサメチレンジアミンから誘導される単位の他に、部分芳香族コポリアミドは、ε−カプロラクタムから誘導される単位(a2)及び/又はアジピン酸及びヘキサメチレンジアミンから誘導されれる単位(a3)を含有する。
【0014】
ε−カプロラクタムから誘導される単位の割合は、最高で50質量%、有利に20〜50質量%、特に25〜40質量%であり、一方で、アジピン酸及びヘキサメチレンジアミンから誘導される単位の割合は、60質量%まで、有利に30〜60質量%、特に35〜55質量%である。
【0015】
コポリアミドは、ε−カプロラクタムの単位のみならずアジピン酸及びヘキサメチレンジアミンの単位をも含有することができ;この場合、芳香族基不含の単位の割合が少なくとも10質量%、有利に20質量%であることに留意すべきである。ここで、ε−カプロラクタムから誘導される単位と、アジピン酸及びヘキサメチレンジアミンから誘導される単位との比は、特に制限されない。
【0016】
テレフタル酸及びヘキサメチレンジアミンから誘導される単位(単位a1))50〜80、特に60〜75質量%、及び、ε−カプロラクタムから誘導される単位(単位a2))20〜50、有利に25〜40質量%を有するポリアミドが、多くの使用目的に関して特に有利であることが判明した。
【0017】
上記の単位a1)〜a3)の他に、本発明による部分芳香族コポリアミドは、更に、他のポリアミドから公知である他のポリアミド構成単位(a4)を、副次的な量で、有利に15質量%以下、特に10質量%以下含有することができる。前記構成単位は、4〜16個の炭素原子を有するジカルボン酸及び4〜16個の炭素原子を有する脂肪族又は脂環式ジアミン並びに7〜12個の炭素原子を有するアミノカルボン酸ないし相応するラクタムから誘導されてよい。前記タイプの好適なモノマーとして、ジカルボン酸の代表例として、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸又はイソフタル酸のみを、ジアミンの代表例として、1,4−ブタンジアミン、1,5−ペンタンジアミン、ピペラジン、4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン、2,2−(4,4’−ジアミノジシクロヘキシル)プロパン又は3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタンのみを、ラクタムないしアミノカルボン酸の代表物として、カプリルラクタム、エナントラクタム、ω−アミノウンデカン酸及びラウリンラクタムのみを挙げることができる。
【0018】
部分芳香族コポリアミドA)の融点は、260〜300℃を上回る範囲内であり、その際、前記の高い融点は、通常75℃を上回る、特に85℃を上回る高いガラス転移温度とも関連している。
【0019】
テレフタル酸、ヘキサメチレンジアミン及びε−カプロラクタムをベースとする二成分コポリアミドは、テレフタル酸及びヘキサメチレンジアミンから誘導される単位の約70質量%の含分において、300℃の範囲内の融点及び110℃を上回るガラス転移温度を有する。
【0020】
テレフタル酸、アジピン酸及びヘキサメチレンジアミン(HMD)をベースとする二成分コポリアミドは、テレフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからの単位の約55質量%のより低い含分で既に、300℃又はそれを上回る融点を達成し、その際、ガラス転移温度は、アジピン酸ないしアジピン酸/HMDの代わりにε−カプロラクタムを含有する二成分コポリアミドのような極めて高いガラス転移温度ではない。
【0021】
部分芳香族コポリアミドA)の製造は、例えばEP- A 1 29 195及びEP-A 129 196並びにEP-A 299 444に記載された方法により行うことができる。
【0022】
23℃で96質量%H2SO4中での0.5%溶液(0.5g/100ml)として測定された粘度数は、ISO 307により一般に100〜300、有利に110〜250ml/gである。
【0023】
上記のポリアミドの混合物を使用することもできる。
【0024】
成分B)として、本発明による成形材料は、耐衝撃性を改良するポリマー(ゴム又はエラストマーとも呼称される)2〜30、有利に3〜25、特に4〜20質量%を含有する。
【0025】
ポリアミドの靭性を高めるゴムは、一般に2つの本質的な特徴を有する:ゴムは、−10℃未満、有利に−30℃未満のガラス転移温度を有するエラストマー分を含有し、かつ、ゴムは、ポリアミドと相互作用し得る少なくとも1の官能基を含有する。好適な官能基は、例えば、カルボン酸基、無水カルボン酸基、カルボン酸エステル基、カルボン酸アミド基、カルボン酸イミド基、アミノ基、ヒドロキシル基、エポキシ基、ウレタン基及びオキサゾリン基である。
【0026】
官能基の割合は、B)100質量%に対して0.1〜5、有利に0.2〜4、特に0.3〜3.5質量%である。
【0027】
α−オレフィンをベースとする有利なゴムは、以下の成分:
1)2〜8個のC原子を有する少なくとも1のα−オレフィン40〜100質量%、
2)ジエン0〜90質量%、
3)アクリル酸又はメタクリル酸のC1〜C12−アルキルエステル又はこの種のエステルの混合物0〜45質量%、
4)エチレン性不飽和モノカルボン酸又はジカルボン酸又は前記の酸の官能性誘導体0〜40質量%、
5)エポキシ基を含有するモノマー0〜40質量%、
6)その他のラジカル重合可能なモノマー0〜5質量%、
から構成されているが、ただし、成分(B)はオレフィン単独重合体ではない、それというのもこれによって、例えばポリエチレンによって、有利な作用は同程度では達成されないためである。
【0028】
第1の有利なグループとして、いわゆるエチレン−プロピレン(EPM)ゴムもしくはエチレン−プロピレン−ジエン(EPDM)ゴムが挙げられ、これらは有利に40:60〜90:10の範囲内のエチレン単位対プロピレン単位の比を有する。
【0029】
このような有利に架橋していないEPM−もしくはEPDM−ゴム(ゲル含有量は一般に1質量%より少ない)のムーニー粘度(MLI+4/100℃)は、有利に25〜100、特に35〜90(DIN53523による100℃で4分の運転時間後で大きなローターで測定)の範囲内にある。
【0030】
EPMゴムは一般に二重結合を実質的にもはや有しておらず、その一方で、EPDMゴムは1〜20個の二重結合/100個のC原子を有することができる。
【0031】
EPDMゴム用のジエンモノマーB2)として、例えば、共役ジエン、例えばイソプレン及びブタジエン、炭素原子5〜25個を有する非共役ジエン、例えばペンタ−1,4−ジエン、ヘキサ−1,4−ジエン、ヘキサ−1,5−ジエン、2,5−ジメチルヘキサ−1,5−ジエン及びオクタ−1,4−ジエン、環状ジエン、例えばシクロペンタジエン、シクロヘキサジエン、シクロオクタジエン及びジシクロペンタジエン並びにアルケニルノルボルネン、例えば5−エチリデン−2−ノルボルネン、5−ブチリデン−2−ノルボルネン、2−メタリル−5−ノルボルネン、2−イソプロペニル−5−ノルボルネン及びトリシクロジエン、例えば3−メチル−トリシクロ(5.2.1.0.2.6)−3,8−デカジエン又はそれらの混合物を挙げることができる。好ましいのは、ヘキサ−1,5−ジエン、5−エチリデン−ノルボルネン及びジシクロペンタジエンである。EPDMゴムのジエン含有量は、オレフィン重合体の全質量に対して、有利に0.5〜50、特に2〜20、特に有利に3〜15質量%である。
【0032】
EPMゴムもしくはEPDMゴムは、有利に反応性カルボン酸又はその誘導体でグラフトされている。この場合、特にアクリル酸、メタクリル酸及びこれらの誘導体、並びに無水マレイン酸が挙げられる。
【0033】
有利なオレフィン重合体の他のグループは、2〜8個のC原子を有するα−オレフィン、特にエチレンと、アクリル酸及び/又はメタクリル酸のC1〜C18−アルキルエステルとのコポリマーである。
【0034】
基本的に、全てのアクリル酸又はメタクリル酸の1級、2級及び3級のC1〜C18−アルキルエステルが適しているが、1〜12個のC原子、特に2〜10個のC原子を有するエステルも有利である。
【0035】
これについての例は、メチル−、エチル−、プロピル−、n−、i−ブチル−及びt−ブチル−、2−エチルヘキシル−、オクチル−及びデシルアクリラート並びにメタクリル酸の相応するエステルである。この中でも、n−ブチルアクリラート及び2−エチルヘキシルアクリラートが特に有利である。
【0036】
オレフィン重合体のメタクリル酸エステル及びアクリル酸エステルB3)の割合は、0〜45、有利に20〜40、特に30〜40質量%である。
【0037】
エステルB3)の代わりに、又はそれに対して付加的に、オレフィン重合体中に、酸官能性及び/又は潜在的に酸官能性のモノマー、エチレン性不飽和モノカルボン酸又はジカルボン酸B4)又はエポキシ基含有モノマーB5)を含有することもできる。
【0038】
モノマーB4)の例として、アクリル酸、メタクリル酸、これらの酸の3級アルキルエステル、特にt−ブチルアクリラート及びジカルボン酸、例えばマレイン酸及びフマル酸又はこれらの酸の誘導体並びにこれらのモノエステルが挙げられる。
【0039】
潜在的に酸官能性のモノマーとは、重合条件下でもしくはオレフィン重合体を成形材料中に混入する際に遊離酸基を形成するような化合物であると解釈される。これについての例として、20個までのC原子を有するジカルボン酸の無水物、特に無水マレイン酸及び前記の酸の3級C1〜C12−アルキルエステル、特にt−ブチルアクリラート及びt−ブチルメタクリラートが挙げられる。
【0040】
酸官能性のもしくは潜在的に酸官能性のモノマー及びエポキシ基を含有するモノマーは、有利に一般式I〜IV
【化1】

[式中、
基R1〜R9は、水素又は1〜6個のC原子を有するアルキル基を表し、mは0〜20の整数であり、nは0〜10の整数である]の化合物をモノマー混合物に添加することによりオレフィン重合体中に組み込まれる。
【0041】
有利にR1〜R7は水素を表し、mは0又は1の値であり、nは1の値である。相応する化合物は、マレイン酸、フマル酸、無水マレイン酸、B4)もしくはアルケニルグリシジルエーテル又はビニルグリシジルエーテルB5)である。
【0042】
一般式I、II、III及びIVの有利な化合物は、成分B4)としてのマレイン酸及び無水マレイン酸、及びアクリル酸及び/又はメタクリル酸のエポキシ基含有エステルであり、その際、グリシジルアクリラート及びグリシジルメタクリラート(成分B5として)が特に有利である。
【0043】
成分B4)もしくはB5)の割合は、オレフィン重合体の全質量に対してそれぞれ、0〜40質量%、特に0.1〜20、特に有利に0.15〜15質量%である。
【0044】
特に有利に、オレフィン重合体は以下:
エチレン50〜98.9、特に55〜65質量%、
グリシジルアクリラート及び/又はグリシジルメタクリラート、アクリル酸及び/又は無水マレイン酸0.1〜20、特に0.15〜10質量%、
n−ブチルアクリラート及び/又は2−エチルヘキシルアクリラート1〜45、特に5〜40質量%、並びに
無水マレイン酸又はフマル酸又はこれらの混合物0〜10、特に0.1〜3質量%
からなる。
【0045】
アクリル酸及び/又はメタクリル酸の好ましい別のエステルは、メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル及びイソブチルエステルもしくはt−ブチルエステルである。
【0046】
その他のモノマーB6)として、例えばビニルエステル及びビニルエーテルが挙げられる。
【0047】
前記のエチレンコポリマーの製造は、自体公知の方法により、有利に高い圧力及び高められた温度でのランダム共重合によって行うことができる。
【0048】
エチレンコポリマーのメルトインデックスは、一般に1〜80g/10min(190℃で2.16kgの負荷で測定)の範囲内にある。
【0049】
ゴムとして、更に、ポリアミドと反応性の基を含有する市販のエチレン−α−オレフィン−コポリマーが該当する。ベースとなるエチレン−α−オレフィン−コポリマーの製造は、気相又は溶液中で、遷移金属触媒により行われる。コモノマーとして、以下のα−オレフィンが該当する:プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン、スチレン及び置換スチレン、ビニルエステル、酢酸ビニル、アクリルエステル、メタクリルエステル、グリシジルアクリラート及びグリシジルメタクリラート、ヒロドキシエチルアクリラート、アクリルアミド、アクリロニトリル、アリルアミン;ジエン、例えばブタジエン、イソプレン。
【0050】
成分B)として、エチレン/1−オクテン−コポリマー、エチレン/1−ブテン−コポリマー、エチレン−プロピレン−コポリマーが特に有利であり、その際、以下
11)エチレン25〜85質量%、有利に35〜80質量%、
12)1−オクテン又は1−ブテン又はプロピレン又はその混合物14.9〜72質量%、有利に19.8〜63質量%、
4)エチレン性不飽和モノ−又はジカルボン酸又は前記酸の官能性誘導体0.1〜3質量%、有利に0.2〜2質量%
からの組成が特に有利である。
【0051】
前記のエチレン−α−オレフィン−コポリマーの分子量は、10000〜500000g/モル、有利に15000〜400000g/モルである(PS校正を伴う1,2,4−トリクロロベンゼン中でGPCにより測定されたMn)。
【0052】
エチレン−α−オレフィン−コポリマー中のエチレンの割合は、5〜97質量%、有利に10〜95質量%、特に15〜93質量%である。
【0053】
特別な実施態様において、いわゆる"シングルサイト触媒"を用いて製造されたエチレン−α−オレフィン−コポリマーが使用される。更なる詳細は、US5,272,236から引用することができる。この場合、エチレン−α−オレフィン−コポリマーは、ポリオレフィンに関して4未満、有利に3.5未満の狭い分子量分布を有する。
【0054】
官能化ゴムのための出発材料として、水素化ないし部分水素化スチレン/ジエン−ブロックコポリマーを使用することもできる。
【0055】
水素化度は50〜95%、有利に60〜100%である(1H−NMRを用いて測定可能)。
【0056】
有利な耐衝撃性改良剤Bは、ビニル芳香族化合物とジエンとからなるブロックポリマーである。前記の種の耐衝撃性改良剤は公知である。DE−AS1932234、DE−AS2000118並びにDE−OS2255930には、様々に構成されたビニル芳香族及びジエンブロックを含むエラストマーブロック共重合体が記載されている。耐衝撃性改良剤としての、場合により、水素化されていない前駆体との混合物中での相応する水素化ブロックコポリマーの使用は、例えばDE−OS2750515、DE−OS2434848、DE−OS3038551、EP−A−O080666及びWO83/01254に記載されている。上記刊行物の開示を明文をもって引用する。
【0057】
特に、本発明により、硬質相を含有するブロック(ブロックタイプS)と、軟質相として、ランダム構造を有しかつジエン単位とビニル芳香族単位とからなるブロックB/Sを含有する、ビニル芳香族−ジエン−ブロックコポリマーを使用することができる。この場合、構造は、鎖に沿って統計的平均で均一か又は不均一であってよい。
【0058】
そのような本発明により好適なゴム弾性ブロックコポリマーは、軟質相をビニル芳香族化合物とジエンとのランダムコポリマーから構成し;極性補助溶剤の存在での重合によりビニル芳香族化合物とジエンとのランダムコポリマーを取得することによって得られる。
【0059】
本発明により使用可能なブロックコポリマーは、例えば、以下の一般式(1)〜(11)により表すことができる:
(1)(S−B/S)n
(2)(S−B/S)n−S;
(3)B/S−(S−B/S)n
(4)X−[(S−B/S)nm+1
(5)X−[(B/S−S)nm+1
(6)X−[(S−B/S)n−S]m+1
(7)X−[(B/S−S)n−B/S]m+1
(8)Y−[(S−B/S)nm+1
(9)Y−[(B/S−S)nm+1
(10)Y−[(S−B/S)n−S]m+1
(11)Y−[(B/S−S)n−B/S]m+1
この場合、
Sはビニル芳香族ブロックを表し、
B/Sは、ランダムに、ジエン−及びビニル芳香族単位から構成されたブロックからの軟質相を表し、
Xは、n官能性開始剤の基を表し
Yは、m官能性カップリング剤の基を表し、かつ
m、nは1〜10の自然数を表す。
【0060】
一般式S−B/S−S、X−[−B/S−S]2及びY−[−B/S−S]2(略記の意味は上記通り)のブロックコポリマーは有利であり、かつ、その軟質相が以下のブロック:
(12)(B/S)1−(B/S)2
(13)(B/S)1−(B/S)2−(B/S)1
(14)(B/S)1−(B/S)2−(B/S)3
に分かれているブロックコポリマーは特に有利であり、ここで、1、2、3の添え字は、ビニル芳香族化合物/ジエンの比が個々のブロックB/Sにおいて異なっているか、又は、1つのブロックの中で、(B/S)1(B/S)2の限界内で連続的に変化するという意味で、異なる構造を表しており、その際、各部分ブロックのガラス転移温度Tgは25℃未満である。
【0061】
各分子が異なる分子量を有する複数のブロックB/S及び/又はSを有するブロックコポリマーは、同様に有利である。
【0062】
同様に、専らビニル芳香族化合物単位のみから構成されたブロックSの位置にブロックBが存在してもよく、それというのも、全体として、ゴム弾性ブロックコポリマーが形成されることのみが重要であるためである。そのようなコポリマーは、例えば構造(15)〜(18)を有することができる。
(15)B−(B/S)
(16)(B/S)−B−(B/S)
(17)(B/S)1−B−(B/S)2
(18)B−(B/S)1−(B/S)2
【0063】
有利なビニル芳香族化合物は、スチレン、o−メチルスチレン、ビニルトルエン又は前記化合物の混合物である。有利なジエンは、ブタジエン、イソプレン、ピペリレン、1−フェニルブタジエン又は前記化合物の混合物である。特に有利なモノマー組合せはブタジエン及びスチレンである。
【0064】
特に有利に、軟質ブロックはスチレン約25〜75質量%及びブタジエン約25〜75質量%から構成されている。約34〜69質量%のブタジエン割合及び約31〜66質量%のスチレン割合を含有する軟質ブロックは特に有利である。
【0065】
全ブロックコポリマーにおけるジエンの質量割合は、スチレン/ブタジエンのモノマー組合せの場合には15〜65質量%であり、全ブロックコポリマーにおけるビニル芳香族成分の質量割合は相応して85〜35質量%である。ジエン25〜60質量%とビニル芳香族化合物75〜40質量%とからなるモノマー組成を有するブタジエン−スチレン−ブロックコポリマーは、特に有利である。
【0066】
ブロックコポリマーは、極性補助溶剤の添加下での非極性溶剤中でのアニオン重合により得ることができる。この場合、補助溶剤は金属カチオンに対してルイス塩基として作用するものと考えられる。溶剤として、有利に、脂肪族炭化水素、例えばシクロヘキサン又はメチルシクロヘキサンが使用される。ルイス塩基として、極性非プロトン性化合物、例えばエーテル及び3級アミンが有利である。特に有効なエーテルの例は、テトラヒドロフラン及び脂肪族ポリエーテル、例えばジエチレングリコールジメチルエーテルである。3級アミンとして、トリブチルアミン及びピリジンが挙げられる。極性補助溶剤は、非極性溶剤に少量、例えば0.5〜5体積%で添加される。0.1〜0.3体積%の量のテトラヒドロフランが特に有利である。経験上、大抵の場合には約0.2体積%の量でよい。
【0067】
ルイス塩基の供給量及び構造により、共重合パラメーター及びジエン単位の1,2ないし1,4−結合の割合が決定される。本発明によるポリマーは、全てのジエン単位に対して、例えば15〜40%の割合の1,2−結合及び85〜60%の割合の1,4−結合を有する。
【0068】
アニオン重合は、金属有機化合物を用いて開始される。アルカリ金属、特にリチウムの化合物は有利である。開始剤の例は、メチルリチウム、エチルリチウム、プロピルリチウム、n−ブチルリチウム、s−ブチルリチウム及びt−ブチルリチウムである。金属有機化合物は、溶剤として化学的に無反応の(不活性な)炭化水素中に添加される。供給量は、所望されるポリマーの分子量に依存するが、通常はモノマーに関して0.002〜5モル%の範囲内である。
【0069】
重合温度は約0〜130℃であってよい。30〜100℃の温度範囲は有利である。
【0070】
機械的特性に関しては、固体中での軟質相の体積割合が特に重要である。本発明によれば、ジエン−及びビニル芳香族配列から構成された軟質相の体積割合は、60〜95体積%、有利に70〜90体積%、特に有利に80〜90体積%である。ビニル芳香族モノマーから生じるブロックAは硬質相を形成し、該硬質相の体積割合は、相応して1〜40、有利に10〜30、特に有利に10〜20体積%を占める。
【0071】
ビニル芳香族化合物とジエンとの上記の量比の間で、相体積の上記の限界値と、本発明によるガラス転移温度の範囲により示される組成とは、厳密には一致しないことに言及されるべきであり、それというのも、これはそれぞれ10の倍数に丸められた数値であるためである。厳密な一致は偶発的に起こり得るに過ぎない。
【0072】
双方の相の体積割合は、位相差電子顕微鏡検査法又は固体のNMR分光法により測定可能である。ビニル芳香族ブロックの割合は、ポリジエン分のオスミウム分解の後に、沈降及び秤量により測定することができる。毎回完全に重合しきる場合には、ポリマーの将来の相比を、モノマーの使用量から算出することもできる。
【0073】
本発明の範囲内で、ブロックコポリマーは、B/S−ブロックから形成された軟質相の%での体積割合と、軟質相中のジエン単位の割合との比により一義的に定義され、ここで、前記の軟質相中のジエン単位の割合は、スチレン/ブタジエンの組合せに関して25〜70質量%である。
【0074】
ビニル芳香族化合物をブロックコポリマーの軟質ブロック中にランダムに組み込み、かつ重合の間にルイス塩基を使用することによって、ガラス転移温度(Tg)が影響を受ける。全コポリマーのガラス転移温度は、有利に−50℃〜+25℃、有利に0℃未満である。
【0075】
ブロックSの分子量は、有利に1000〜200000、殊に3000〜80000[g/モル]である。1分子内で、Sブロックは異なる分子量を有する。
【0076】
ブロックB/Sの分子量は、通常2000〜250000[g/モル]であり、有利に5000〜150000[g/モル]の値である。
【0077】
ブロックB/SもブロックSと同様に、1分子内で異なる分子量値をとり得る。
【0078】
結合中心Xは、リビングアニオン鎖と少なくとも2官能性の結合剤との反応により形成される。この種の化合物の例は、US−PSen3985830、3280084、3637554及び4091053に供覧されている。有利に、例えばエポキシ化グリセリド、例えばエポキシ化亜麻種油又は大豆油が使用され、ジビニルベンゼンも好適である。特に二量体化に関して、ジクロロジアルキルシラン、ジアルデヒド、例えばテレフタルアルデヒド及びエステル、例えばエチルホルミアート又は−ベンゾアートが好適である。
【0079】
有利なポリマー構造は、S−B/S−S、X−[−B/S−S]2及びY−[−B/S−S]2であり、その際、ランダムなブロックB/S自体は再度ブロックB1/S1−B2/S2−B3/S3−・・・に分割されていてよい。有利に、ランダムなブロックは、2〜15個のランダムな部分ブロック、特に有利に3〜10個の部分ブロックからなる。ランダムなブロックB/Sを可能な限り多くの部分ブロックBn/Snに分割することによって、アニオン重合において実際の条件下では回避が困難であるような、1つの部分ブロックBn/Sn内に組成勾配が存在する場合であっても、B/Sブロック全体ではほぼ完全にランダムなポリマーのような挙動を示す、という決定的な利点がもたらされる。従って、理論量よりも少量のルイス塩基を添加することが考えられ、これにより1,4−ジエン結合の割合が高まり、ガラス転移温度Tgが低下し、かつポリマーの架橋傾向が低下する。より多いか又は少ない割合の部分ブロックに、高いジエン割合を付与することができる。これにより、ポリマーは、主要なB/Sブロックのガラス転移温度未満であっても残留靭性を保持し、完全には脆化しなくなる。
【0080】
上記の質量及び体積の表記は全て、ブタジエン/スチレンのモノマー組合せに関する。しかしながら、前記表記は、スチレン及びブタジエンと技術的に等価である他のモノマーに容易に換算することができる。
【0081】
ブロックコポリマーは、カルボアニオンをアルコール、例えばイソプロパノールでプロトン化し、反応混合物を例えばCO2と水とからなる混合物で酸性化し、かつ溶剤を除去することにより後処理することができる。ブロックコポリマーは、酸化開始剤及びブロッキング防止剤を含有することができる。
【0082】
上記の耐衝撃性改良剤の混合物を使用することもできる。
【0083】
前記出発材料をベースとして、有利に官能性モノマーのグラフトにより官能化生成物が得られる。有利に、アクリル酸、フマル酸、クエン酸又は無水マレイン酸が使用される。グラフトは溶液中か又は溶融物中で実施することができる。有利に、変性は、溶融物中で開始剤(ペルオキシド、アゾ化合物、C−ラジカル発生剤)の作用下に実施される。
【0084】
有利に使用される市販の製品Bは、Exxon社、Kraton社及びDuPont社のExxelor(R) VA 1801又は1803、Kraton(R) G 1901 FX又はFusabond(R) N NM493 Dである。
【0085】
もちろん、前記のゴムタイプの混合物を使用することもできる。
【0086】
繊維状又は粒子状の充填剤C)として、炭素繊維、ガラス繊維、ガラス球、アモルファスシリカ、ケイ酸カルシウム、メタケイ酸カルシウム、炭酸マグネシウム、カオリン、白亜、粉末状石英、雲母、硫酸バリウム及び長石が挙げられ、これらは、1〜50質量%、特に2〜40質量%、有利に3〜30質量%の量で使用される。
【0087】
有利な繊維状充填剤としては、炭素繊維、アラミド繊維及びチタン酸カリウム繊維が挙げられ、この場合E−ガラスであるガラス繊維は、特に有利である。このガラス繊維は、ロービング又は切断ガラス(Schnittglas)として市販の形で使用されてよい。
【0088】
繊維状充填剤は、熱可塑性樹脂とのより良好な相容性のためのシラン化合物で表面前処理されていてよい。
【0089】
適当なシラン化合物は、次の一般式
(X−(CH2nk−Si−(O−Cm2m+14-k
[式中、
置換基は、次の意味を有する:
Xは
【化2】

であり、
nは2〜10、有利に3〜4の整数であり、
mは1〜5、有利に1〜2の整数であり、
kは1〜3、有利に1の整数である]で示されるシラン化合物である。。
【0090】
好ましいシラン化合物は、アミノプロピルトリメトキシシラン、アミノブチルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノブチルトリエトキシシラン並びに置換基Xとしてグリシジル基を含有する相応するシランである。
【0091】
シラン化合物は、一般に表面被覆のために(Cに対して)0.01〜2質量%、有利に0.025〜1.0質量%、特に0.05〜0.5質量%の量で使用される。
【0092】
針状の鉱物質の充填剤も適当である。
【0093】
針状の鉱物質の充填剤とは、本発明の意味において、著しく顕著な針状特性を有する鉱物質の充填剤であると解釈される。例として、針状の珪灰石が挙げられる。有利には、この鉱物は、8:1〜35:1、有利には8:1〜11:1のL/D(長さ直径)比を有する。鉱物質の充填剤は、場合によっては前記のシラン化合物で前処理されていてよいが;しかし前処理は、必ずしも必要ではない。
【0094】
他の充填剤として、カオリン、焼成カオリン、珪灰石、タルク及び白亜、並びに、付加的に、有利に0.1〜10%の量の小片状又は針状のナノ充填剤が挙げられる。有利に、これに関して、ベーマイト、ベントナイト、モンモリロナイト、バーミキュライト、ヘクトライト及びラポナイトが使用される。小片状のナノ充填剤と有機バインダーとの良好な相容性を得るために、小片状のナノ充填剤は従来技術により有機変性される。小片状又は針状のナノ充填剤を本発明によるナノコンポジットに添加することにより、機械的強度の更なる向上がもたらされる。
【0095】
成分C)として、本発明による成形材料は有利にタルクを含有し、該タルクは、組成がMg3[(OH)2/Si410]又は3MgO・4SiO2・H2Oである水和ケイ酸マグネシウムである。前記のいわゆる3層のフィロケイ酸塩は、ラメラ晶癖を有する三斜晶系、単斜晶系又は斜方晶系の結晶構造を有する。存在し得る他の微量元素はMn、Ti、Cr、Ni、Na及びKであり、その際、OH基は部分的にフッ化物によって置き換えられていてもよい。
【0096】
特に有利に、粒径が99.5%まで20μm未満であるタルクが使用される。粒径分布は通常沈降分析DIN 6616−1により測定され、かつ有利に:
20μm未満 99.5質量%
10μm未満 99質量%
5μm未満 85質量%
3μm未満 60質量%
2μm未満 43質量%
である。
【0097】
この種の製品は、Micro-Talc I.T. extra (Omya)として市販されている。
【0098】
成分D)として、本発明による成形材料は、少なくとも1の潤滑剤0.2〜5、有利に0.25〜4、特に0.3〜3質量%を含有する。有利に、10〜40、有利に16〜22個のC原子を有する飽和又は不飽和脂肪族カルボン酸と、2〜40、有利に2〜6個のC原子を有する脂肪族飽和アルコール又はアミンとのエステル又はアミドが含有されている。
【0099】
カルボン酸は、1価又は2価であってもよい。例としては、ペラルゴン酸、パルミチン酸、ラウリン酸、マルガリン酸、ドデカン二酸、ベヘン酸、特に有利にステアリン酸、カプリン酸並びにモンタン酸(30〜40個のC原子を有する脂肪酸の混合物)が挙げられる。
【0100】
脂肪族アルコールは、1〜4価であることができる。アルコールの例は、n−ブタノール、n−オクタノール、ステアリルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ペンタエリトリットであり、この場合には、グリセリン及びペンタエリトリットが有利である。
【0101】
脂肪族アミンは、1〜3価であってよい。このための例は、ステアリルアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジ(6−アミノヘキシル)アミンであり、この場合には、エチレンジアミン及びヘキサメチレンジアミンが特に有利である。有利なエステル又はアミドは、相応するグリセリンジステアラート、グリセリントリステアラート、エチレンジアミンジステアラート、グリセリンモノパルミタート、グリセリントリラウラート、グリセリンモノベヘナート及びペンタエリトリットテトラステアラートである。
【0102】
様々なエステル又はアミドの混合物又はエステルとアミドを組合せて使用してよく、この場合混合比は、任意である。
【0103】
本発明によれば、成分E)として少なくとも1の導電性添加剤が使用される。有利に唯一の導電性添加剤が使用されるが、場合により2以上の導電性添加剤を使用することもできる。導電性添加剤として、例えばカーボンナノチューブ、グラファイト又は導電性カーボンブラックが好適である。有利に、本発明による成形材料中の成分E)として、カーボンナノチューブが使用される。
【0104】
本発明の範囲内で、カーボンナノチューブとは、炭素が(主に)グラファイト構造を有しかつ個々のグラファイト層がチューブ状に配置されている、炭素含有マクロ分子であると解釈される。ナノチューブ並びにその合成は、刊行物においてすでに公知である(例えばJ. Hu et al., Acc. Chem. Res. 32 (1999), 435-445)。本発明の範囲内で、基本的に各種のナノチューブを使用することができる。
【0105】
有利に、個々のチューブ状のグラファイト層(グラファイトチューブ)の直径は4〜12nm、特に5〜10nmである。ナノチューブは、原則的に、いわゆる単層ナノチューブ(SWNT)と多層ナノチューブ(MWNT)とに区別することができる。従って、MWNTでは複数のグラファイトチューブが重なり合っている。
【0106】
更に、チューブの外部形状は多様であってよく、均一な直径を内側及び外側に有することができるが、結節状のチューブ及びバーミキュラーの構造を作製することもできる。
【0107】
アスペクト比(それぞれのグラファイトチューブの直径に対する長さ)は、少なくとも10を上回り、有利に5を上回る。ナノチューブは少なくとも10nmの長さを有する。本発明の範囲内で、成分E)としてMWNTが有利である。特に、MWNTは約1000:1のアスペクト比並びに約10000nmの平均長さを有する。
【0108】
BETによる比表面積は、通常50〜2000m2/g、有利に200〜1200m2/gである。触媒製造の際に生じる不純物(例えば金属酸化物)は、通常HRTEMにより0.1〜12%、有利に0.2〜10%である。
【0109】
好適なナノチューブは、"multiwall"の名称でHyperion Catalysis Int., Cambridge MA社(USA)から市販されている(EP205556、EP969128、EP270666、US6,844,061も参照のこと)。
【0110】
導電性カーボンブラックとして、全ての通常のカーボンブラックの形を使用することができ、例えばAkzo社の市販製品Ketjenblack 300が好適である。
【0111】
導電性の改良のために、導電性カーボンブラックを使用することもできる。非晶質炭素中に埋め込まれているグラファイト状の層によって、カーボンブラックは電子を伝導する(F. Camona, Ann. Chim. Fr. 13, 395 (1988))。カーボンブラック粒子からなる凝集体の内部で、及び、凝集体間の距離が十分に小さい場合には凝集体間で導電する。可能な限りわずかな供給量で導電性を達成するために、有利に異方性構造を有するカーボンブラックが使用される(G. Wehner, Advances in Plastics Technology, APT 2005, Paper 11, Katowice 2005)。そのようなカーボンブラックにおいては、一次粒子が会合して異方性構造となるため、導電性の達成に必要なカーボンブラック粒子の距離は、コンパウンド中で、比較的低い負荷ですでに達成される(C. Van Bellingen, N. Probst, E. Grivei, Advances in Plastics Technology, APT 2005, Paper 13, Katowice 2005)。
【0112】
好適なカーボンブラックタイプは、例えば、少なくとも60ml/100g、有利に90ml/100gを上回る給油性(ASTM D 2414-01により測定)を有する。好適な製品のBET表面積は、50m2/gを上回り、有利に60m2/gを上回る(ASTM D 3037-89により測定)。カーボンブラック表面上には種々の官能基が存在してよい。導電性カーボンブラックの製造は、種々の方法により行うことができる(G. Wehner, Advances in Plastics Technology, APT 2005, Paper 11, Katowice 2005)。
【0113】
更に、グラファイトを導電性添加剤として使用することもできる。グラファイトとは、例えばA. F. Hollemann, E. Wieberg, N. Wieberg, "Lehrbuch der anorganischen Chemie,", 91.-100. Aufl., S 701-702に記載されているように、炭素の一変態である。グラファイトは、重なり合って配置されている平面状の炭素層から成る。グラファイトを磨砕により微粉砕することができる。粒径は0.01μm〜1mmの範囲内、有利に1〜250μmの範囲内である。
【0114】
本発明による成形材料中の成分E)の割合は、成形材料の全質量に対して0.5〜15質量%、有利に1〜14質量%、特に有利に1.5〜13質量%である。
【0115】
成分F)として、本発明による熱可塑性成形材料は、他の添加剤、例えば安定剤、酸化遅延剤、熱分解に抗する薬剤、紫外線による分解に抗する薬剤、滑剤及び離型剤、着色剤、例えば染料及び顔料、核形成剤、可塑剤等を、30質量%まで、有利に25質量%までの量で含有することができる。
【0116】
酸化遅延剤及び熱安定剤のための例としては、熱可塑性成形材料の質量に対して1質量%までの濃度での立体障害フェノール及び/又はホスフィット、ヒドロキノン、芳香族2級アミン、例えばジフェニルアミン、前記グループの種々の置換された代表例及びこれらの混合物が挙げられる。
【0117】
一般に成形材料に対して2質量%までの量で使用されるUV安定剤としては、種々の置換されたレゾルシン、サリチラート、ベンゾトリアゾール及びベンゾフェノンが挙げられる。
【0118】
無機顔料、例えば二酸化チタン、ウルトラマリンブルー、酸化鉄及びカーボンブラック、更に有機顔料、例えばフタロシアニン、キナクリドン、ペリレン並びに染料、例えばニグロシン及びアントラキノンは、着色剤として添加されてよい。
【0119】
核形成剤としては、ナトリウムフェニルホスフィナート、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素並びに有利にタルクが使用されてよい。
【0120】
有利な安定剤は、2質量%まで、有利に0.5〜1.5質量%まで、特に0.7〜1質量%までの量の、一般式I:
【化3】

[式中、
m、nは0又は1であり、
A及びBは、C1〜C4−アルキル又はフェニルで置換された3級C原子であり、
1、R2は、オルト位又はパラ位の水素又はC1〜C6−アルキル基であり、該基は場合により1〜3個のフェニル基、ハロゲン、カルボキシル基又は前記カルボキシル基の遷移金属塩により置換されていてよく、かつ
1、R2は、m+nが1を表す場合にはオルト位又はパラ位の水素又はメチル基を表し、m+nが0又は1を表す場合には、オルト位又はパラ位の3級C3〜C9−アルキル基であり、該基は場合により1〜3個のフェニル基により置換されていてよい]による芳香族2級アミンである。
【0121】
有利な基A又はBは、対称的に置換された3級炭素原子であり、その際、ジメチル置換された3級炭素原子が特に有利である。1〜3個のフェニル基を置換基として有する3級炭素原子も同様に有利である。
【0122】
有利な基R1又はR2は、パラt−ブチル又はテトラメチル置換されたn−ブチルであり、その際、メチル基は有利に1〜3個のフェニル基により置換されていてよい。有利なハロゲンは塩素又は臭素である。遷移金属は、例えばR1又はR2がカルボキシルである遷移金属塩を形成し得る遷移金属である。
【0123】
有利な基R3又はR4は、m+nが2である場合には水素であり、m+nが0又は1である場合には、オルト位又はパラ位のt−ブチル基であり、該基は特に1〜3個のフェニル基で置換されていてよい。
【0124】
2級芳香族アミンD)の例は、以下の通りである:
4,4’−ビス(α,α’−t−オクチル)ジフェニルアミン
4,4’−ビス(α,α’−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン
4,4’−ビス(α−メチルベンズヒドリル)ジフェニルアミン
4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)4’−トリフェニルメチルジフェニルアミン
4,4’−ビス(α,α−p−トリメチルベンジル)ジフェニルアミン
2,4,4’−トリス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン
2,2’−ジブロモ−4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン
4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)−2−カルボキシジフェニルアミニ−ニッケル−4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)−ジフェニルアミン
2−s−ブチル−4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン
4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)−2−(α−メチルヘプチル)ジフェニルアミン
2−(α−メチルペンチル)4,4’−ジトリチルジフェニルアミン
4−α,α−ジメチルベンジル−4’−イソプロポキシジフェニルアミン
2−(α−メチルヘプチル)−4’−(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン
2−(α−メチルペンチル)−4’−トリチルジフェニルアミン
4,4’−ビス(t−ブチル)ジフェニルアミン、並びに
【化4】

【0125】
【化5】

【0126】
【化6】

【0127】
製造は、BE−A67/0500120及びCA−A963594に記載された方法により行われる。有利な2級芳香族アミンは、ジフェニルアミン及びその誘導体であり、これはNaugard(R)(Uniroyal社)として市販されている。
【0128】
これは、少なくとも1のリン含有無機酸又はその誘導体2000ppmまで、有利に100〜2000ppm、有利に200〜500ppm、特に200〜400ppmとの組合せにおいて有利である。
【0129】
有利な酸は、次亜リン酸、亜リン酸又はリン酸、並びに、該酸と、アルカリ金属との塩であり、その際、ナトリウム及びカリウムが特に有利である。有利な混合物は、特に3:1〜1:3の比の次亜リン酸及び亜リン酸ないしそのアルカリ金属塩である。前記酸の有機誘導体は、有利に上記の酸のエステル誘導体であると解釈されるべきである。
【0130】
本発明による熱可塑性成形材料は、自体公知の方法により製造されてよく、前記方法においては、出発成分は通常の混合装置、例えばスクリュー押出機、ブラベンダーミル又はバンバリーミル中で混合され、引き続き押出される。この押出後、この押出物は冷却され、かつ破砕されてよい。また、個々の成分は前混合されてもよく、次に残りの出発材料は、個々に及び/又は同様に混合されて添加されてよい。混合温度は通常230〜320℃である。
【0131】
更なる有利な作業形式により、成分B)〜E)並びに場合によってはF)はプレポリマーと混合され、調製(konfektionieren)され、かつ造粒されてよい。得られた顆粒は、引き続き、固相で不活性ガス下で連続的又は非連続的に成分A)の融点未満の温度で所望の粘度になるまで縮合される。
【0132】
本発明による熱可塑性成形材料は、良好な靭性及び良好な破壊エネルギー、それと同時に良好な剛性(湿分吸収の際のわずかな低下)並びに明らかに改善された熱形状安定性及び低い線形熱膨張の点で優れている。
【0133】
本発明による熱可塑性成形材料は、各種の繊維、シート及び成形体の製造に好適である。以下に若干の例を挙げる:シリンダヘッドカバー、オートバイカバー、吸気マニホルド、給気冷却器キャップ、プラグコネクタ、ギヤーホイール、冷却ファンホイール、冷却水タンク。
【0134】
自動車室内では、ダッシュボード、ステアリングコラムスイッチ、シート部、ヘッドレスト、センタコンソール、ギヤコンポーネント及びドアモジュールのために使用することができ、自動車室外では、ドアグリップ、サイドミラーコンポーネント、ワイパーコンポーネント、ワイパー保護ケーシング、グリル、ルーフレール、サンルーフフレーム、エンジンカバー、シリンダヘッドカバー、吸気マニホルド、ワイパー並びにボディ外側部、例えばホール周囲、ドア外装、テールゲート、スポイラ、サイドコンポーネント、ルーフモジュール及びエンジンフードのために使用することができる。
【実施例】
【0135】
成形材料の製造及び試験
試験体の熱形状安定性をISO 306(ビカーB)により測定した(負荷50N、温度上昇50K/h、ISO試験体に関して)。生成物のノッチ付き衝撃強さをISO 179 1eAにより測定した。
【0136】
材料の剛性をISO 527による引張試験で測定された弾性率により特性決定した。湿分吸収の促進のために、試験体を70℃/相対湿度70%で14日間貯蔵し、次いで平衡のために貯蔵し(24時間)、その後、引張試験を実施した。
【0137】
表面抵抗率をIEC 60093により導電性銀塗装電極(長さ50mm/距離5mm)及び対電極を用いて標準条件(23℃/相対湿度50%)で測定した。測定の前に、試験体を標準条件(23℃/相対湿度50%)で7日間貯蔵した。
【0138】
成分A1
成分A1として、ISO 307によるVZが130ml/gである、部分芳香族コポリアミド6/6T(比30:70)を使用した。
【0139】
成分AV
ポリアミド6,6、例えば、粘度数150ml/g(1質量%硫酸中で測定)により特徴付けられるUltramid(R) A3。
【0140】
成分B1
DuPont社のFusabond(R) N NM493D、無水マレイン酸で官能化されたエチレン−オクテン−コポリマー、MFR 1.6g/10’(D1238、190℃/2.16kg)。
【0141】
成分B2
3g/10分のMFI値(2.16kg/230℃で測定)により特徴付けられる、マレイン酸/無水マレイン酸0.7質量%で変性されたエチレン−プロピレン−ゴム。
【0142】
成分C
タルク、例えばOmya社のTalkum IT-Extra。X10=1.7μm。X90=10.8μm(レーザー回折により測定、その際、鉱物を、懸濁セル中で、脱塩水/1% CV K8界面活性剤混合物(販売者:CV-Chemievertrieb、ハノーバー在)中に均質化させた(電磁撹拌機、60rpm)。
【0143】
成分D1
Caesit(R) AV 40、Baerlocher社:ステアリン酸Ca
【0144】
成分D2
ペンタエリトリットテトラステアラート
【0145】
成分E1
ASTM D1539−99により測定された170kg/m3の多孔率により特徴付けられる、Timcal社の導電性カーボンブラックEnsaco 250
【0146】
成分E2
ISO 1133、300℃/21.6kgで170ml/10’のMVR(ISO 1133により測定)により特徴付けられる、成分A1中のHyperion Catalysis社のナノチューブ20質量%からなるコンパウンド
【0147】
成分E2V
38ml/10’のMVR(ISO 1133、275℃/5kg)により特徴付けられる、成分AV中のHyperion Catalysis社のナノチューブ20質量%からなるコンパウンド
【0148】
比較製品として以下のものを使用した:
VP1:PA/PPE−ブレンド、例えばGEP社のNoryl(R) GTX 974
【0149】
製品の製造
成分を二軸押出機中で材料温度300〜320℃で混合した。溶融物を水浴に導通し、造粒した。
【0150】
試験体を材料温度330℃(Noryl GTX 979、及び、Ultramid(R)A3をベースとする比較例:295℃)及び工具温度100℃で製造した。
【0151】
試験の結果及び成形材料の組成を第1表に挙げる。
【0152】
【表1】

【0153】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性成形材料において、以下:
A)部分芳香族ポリアミド40〜96.2質量%、
B)官能基を含有する、耐衝撃性を改良するポリマー2〜30質量%、
C)繊維状又は粒子状の充填剤又はその混合物1〜50質量%、
D)潤滑剤0.2〜5質量%、
E)導電性添加剤0.5〜15質量%、
F)他の添加剤0〜30質量%、
を含有し、その際、成分A)〜F)の質量パーセントの合計が100%である、熱可塑性成形材料。
【請求項2】
B)において、官能基をB)100%に対して0.1〜5質量%の量で含有する、請求項1記載の熱可塑性成形材料。
【請求項3】
成分B)の官能基が、カルボン酸基、無水カルボン酸基、カルボン酸エステル基、カルボン酸アミド基、カルボン酸イミド基、アミノ基、ヒドロキシル基、エポキシ基、ウレタン基又はオキサゾリン基又はその混合物から構成されている、請求項1又は2記載の熱可塑性成形材料。
【請求項4】
成分B)として、以下
11)エチレン35〜80質量%、
12)1−オクテン又は1−ブテン又はプロピレン又はその混合物19.8〜63質量%
4)エチレン性不飽和モノ−又はジカルボン酸又は前記酸の官能性誘導体0.2〜2質量%
からなるコポリマーを含有する、請求項1から3までのいずれか1項記載の熱可塑性成形材料。
【請求項5】
潤滑剤D)として、10〜40個のC原子を有する飽和又は不飽和脂肪族カルボン酸と、2〜40個のC原子を有する脂肪族飽和アルコール又はアミンとのエステル又はアミドを含有する、請求項1から4までのいずれか1項記載の熱可塑性成形材料。
【請求項6】
成分E)として、カーボンナノチューブ又はカーボンブラック又はグラファイト又はその混合物を含有する、請求項1から5までのいずれか1項記載の熱可塑性成形材料。
【請求項7】
各種の繊維、シート及び成形体を製造するための、請求項1から6までのいずれか1項記載の熱可塑性成形材料の使用。
【請求項8】
請求項1から6までのいずれか1項に記載の熱可塑性成形材料から得ることができる繊維、シート、成形品。
【請求項9】
請求項1から6までのいずれか1項記載の熱可塑性成形材料から得ることができる自動車車体部材。

【公表番号】特表2009−544780(P2009−544780A)
【公表日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−521214(P2009−521214)
【出願日】平成19年7月17日(2007.7.17)
【国際出願番号】PCT/EP2007/057352
【国際公開番号】WO2008/012233
【国際公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】